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特表2024-5450230.5重量%未満の2-ピロリドンを含有する、N-ビニルピロリドンポリマーの調製
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】0.5重量%未満の2-ピロリドンを含有する、N-ビニルピロリドンポリマーの調製
(51)【国際特許分類】
   C08F 26/10 20060101AFI20241128BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20241128BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20241128BHJP
   C09J 139/06 20060101ALI20241128BHJP
   A23K 20/132 20160101ALI20241128BHJP
【FI】
C08F26/10
A61K8/81
A61K47/32
A23L29/00
C09J139/06
A23K20/132
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531593
(86)(22)【出願日】2022-11-17
(85)【翻訳文提出日】2024-05-28
(86)【国際出願番号】 EP2022082271
(87)【国際公開番号】W WO2023099232
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】21211423.5
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,テオ
(72)【発明者】
【氏名】フィルゲス,ウルリヒ
(72)【発明者】
【氏名】メラー,モニカ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルツ,オリバー
(72)【発明者】
【氏名】ベルゲラー,マイケ
(72)【発明者】
【氏名】グート,フェリシタス
(72)【発明者】
【氏名】ストルーベ,カール-ハーマン
【テーマコード(参考)】
2B150
4B035
4C076
4C083
4J040
4J100
【Fターム(参考)】
2B150AB20
2B150DB10
2B150DC21
4B035LC16
4B035LE01
4B035LE03
4B035LG04
4C076EE16
4C083AD071
4C083AD072
4C083CC01
4C083FF01
4J040DH031
4J100AQ08P
4J100CA01
4J100DA62
4J100FA00
4J100FA03
4J100FA04
4J100HB53
4J100HC36
4J100JA03
4J100JA15
4J100JA50
4J100JA59
4J100JA61
4J100JA64
(57)【要約】
本発明の目的は、水性媒体中での溶液重合による、0.5重量%未満の2-ピロリドンを含有する、N-ビニルピロリドンポリマーの調製プロセスを提供することである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液系でのN-ビニルピロリドンの重合は、
a.R1=CnH2n+1(n=1~3)、及びR2=CmH2m+1(m=3~5)の、一般式(1)で表される、30g/l未満の25℃での算出水溶解度を有する、1種以上のペルオキシエステルAと、
b.前記ペルオキシエステルAの溶解のために使用される、1種以上の有機溶媒Bと、
c.1種以上の還元剤Cと
からなる開始系によって開始される、フリーラジカル重合プロセス。
【請求項2】
前記ペルオキシエステルAと前記還元剤Cとの間のモル比は、1:0.5~1:20である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記ペルオキシエステルAと前記有機溶媒Bとの間の重量比は、1:0.2~1:200である、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記有機溶媒Bは、炭化水素又は炭化水素の混合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記有機溶媒Bは、1種以上の炭化水素とアルコールとの混合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記有機溶媒Bは、炭化水素とイソプロパノールとの混合物である、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記重合プロセスに使用される有機溶媒Bと水との合計中の有機溶媒Bの重量百分率は、20未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
ペルオキシエステルAは、t-ブチルペルオキシアセテートである、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記ペルオキシエステルAは、t-ブチルペルオキシ-イソブチレートである、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記還元剤Cは、亜硫酸アンモニウムである、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記還元剤Cは、還元糖である、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
Cは、水溶液として添加される、請求項1~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
さらに重合調節剤が添加される、請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記製造されるポリビニルピロリドンの前記K値は、10~70である、請求項1~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記製造されるポリビニルピロリドンの前記K値は、15~50である、請求項1~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載のプロセスによって得られたポリビニルピロリドンであって、前記ポリマーは、50ppm以下のビニルピロリドンの残留モノマー含有量及び0.5重量パーセント以下の2-ピロリドン含有量を有する、ポリビニルピロリドン。
【請求項17】
化粧品又は医薬品の調製、アグロアクティブの調製、食品、飼料、栄養補助食品又は栄養補助飼料の部門での調製、液体精製用の膜の調製、接着剤用途及びまた生物医学エンジニアリングなどの技術用途向けにおける、請求項16に記載のポリビニルピロリドンの使用。
【請求項18】
請求項16に記載のビニルピロリドンポリマーを含む、液体の精製用の膜、とりわけ透析膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
水性媒体中での溶液重合による、0.5重量%未満の2-ピロリドンを含有する、N-ビニルピロリドンポリマーの調製プロセスを提供することが本発明の目的である。
【背景技術】
【0002】
独国特許第1645642号明細書は、ハロゲン化溶媒によるポリビニルピロリドン水溶液からの2-ピロリドンの抽出を記載している。この方法の不利点は、溶媒の毒性であり、且つ使用溶媒が廃棄処分されるか、又は蒸留により精製されるかのどちらかでなければならないという事実である。
【0003】
改質活性炭によるポリビニルピロリドン溶液からの2-ピロリドンの除去は、中国特許第101633706号明細書に特許請求されている。過酸化水素及び硝酸などの強酸化剤で改質された活性炭のみがピロリドン含有量を低減できることが分かったし、比較的高い活性炭使用量が必須であった。
【0004】
フリーラジカル重合によるN-ビニルピロリドンポリマーの調製は公知である。様々な条件下での重合のメカニズムは、例えば、F.Haaf,A.Sanner,F.Straub,Polymer J.1985,17,1,143-152に記載されている。
【0005】
アルコール溶液中での重合による2-ピロリドンの含有量が低いポリビニルピロリドンの調製は、例えば、米国特許第4053696号明細書に開示されている。しかしながら、このプロセスは、使用されたイソプロパノールが廃棄処分されるか、又は蒸留により精製されるかのどちらかでなければならないという不利点を有する。有機溶媒中でのポリビニルピロリドンの製造は、ポリマーを水系プロセスで製造するよりも費用がかかり、且つ、環境上持続可能ではない。
【0006】
ポリビニルピロリドンの製造のための広く用いられる水性プロセスは、過酸化水素の使用を伴う(例えば、米国特許第2335454号明細書に記載されている)。このシステムにおいて、過酸化水素は、開始剤及び重合調節剤の両方として機能する。ポリマーを調製するために使用される過酸化水素の量を変えることによって異なる分子量を得ることができる。しかしながら、F.Haaf,A.Sanner,F.Straub,Polymer J.1985,17,1,143-152に記載されているように、H2O2による停止は、ポリマー-CH(ピロリドン)-OH末端基の形成をもたらす。この末端基の加水分解は、2-ピロリドン形成をもたらす。過酸化水素の量を増やすと、連鎖移動事象の数が増加し、より低い分子量の生成物及び大量の2-ピロリドン汚染物質をもたらす。
【0007】
高い重合温度、高い開始剤使用量及び連鎖移動剤の使用などの高い重合停止速度をもたらす条件も、不純物レベルの増加をもたらす傾向がある。それ故に、不純物レベルの低いポリマー生成物の合成は、標的ポリマー分子量が下げられる場合にさらに難しくなる。特開2016-188268号公報は、低分子のポリビニルピロリドンの合成のための異なるアプローチを特許請求している。第1の工程において、不純物含有量が低い高分子量ポリビニルピロリドンが合成される。第2の工程において、この高分子量生成物が、ポリマー鎖を開裂させるために過酸化水素で処理される。この方法の不利点は、第2の工程のために必要とされる過酸化水素の非常に高い量である。これは、このプロセスを大規模ポリマー製造に不適切なものにする。
【0008】
日本特許第5483793号公報、欧州特許第1219647号明細書及び中国特許102603949号明細書は、水中でのN-ビニルピロリドンの重合を開始するための、水溶性過酸化物の過酸化水素及びt-ブチルヒドロペルオキシドと組み合わせた亜硫酸塩の使用を記載している。ラジカルは、還元剤(亜硫酸塩)から酸化剤(過酸化物)への電子移動によって形成される。これが起こる温度は、使用される過酸化物の有効な均等結合開裂のために必要とされる温度よりも低い。これは、不純物形成につながる副反応の速度を最小限にする比較的低い温度でこれらのレドックス開始重合を行うことができることを意味する。亜硫酸塩は、過酸化物のための還元剤として及び連鎖移動剤としての両方で機能する。後者は、合成プロセスにおいて使用される亜硫酸塩の量を変化させることによってポリマー分子量を変えることを可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
水溶性過酸化物の過酸化水素及びt-ブチルヒドロペルオキシドの使用は、それらが水性重合系へ容易に導入することができるので実用的であり得る。しかしながら、両方のこれらの過酸化物は、OH基を有する。重合反応中に、このOH基は、ポリマー鎖に移行し、加水分解して2-ピロリドンを与える記載の不安定なポリマー-CH(ピロリドン)-OH末端基の形成をもたらすことができると推論された。本明細書に記載される本発明は、非常に低い2-ピロリドン含有量のポリビニルピロリドンを製造するための、30g/l未満の25℃での算出水溶解度及び以下に示される構造を持った、OHを含まないペルオキシエステルの使用である。
【0010】
R1:CnH2n+1(n=1~3)、R2:CmH2m+1(m=3~5)。
【課題を解決するための手段】
【0011】
日本特許第5483793号公報にリストアップされた合成例は、全て、50g/l超の25℃での算出水溶解度を有する過酸化物(t-ブチルヒドロペルオキシド)の使用を伴う。この特許はまた、ポリビニルピロリドンの合成のために水溶性ヒドロペルオキシドを特許請求しているにすぎない。開始剤t-ブチルペルオキシピバレートが、同記載に述べられている。しかしながら、ポリビニルピロリドンの合成のためのこの開始剤と還元剤との組合せの適用性は、これが望ましくない副生成物としてピバリン酸を与えるので、限定される(C.A.Stanley,Ann.N.Y.Acad.Sci.2004,1033,42-51及びE.P.Brass,Pharm.Rev.2002,54,4,589-598)。それ故に、ペルオキシエステルのt-ブチルペルオキシピバレートは、ここで記載される本発明から排除される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のプロセスに使用することができるペルオキシエステルの例は、tert-ブチルペルオキシ-n-ブチレート、tert-ブチルペルオキシ-イソブチレート、tert-ブチルペルオキシプロピエート、tert-ブチルペルオキシアセテート、tert-アミルペルオキシ-n-ブチレート、tert-アミルペルオキシ-イソブチレート、tert-アミルペルオキシプロピエート及びtert-アミルペルオキシアセテートである。tert-ブチルペルオキシ-イソブチレート、tert-ブチルペルオキシアセテート、tert-アミルペルオキシ-イソブチレート及びtert-アミルペルオキシアセテートが好ましい。tert-ブチルペルオキシアセテート及びtert-ブチルペルオキシ-イソブチレートが最も好ましい。本発明のプロセスにおいて、0.0002~0.1モルのペルオキシエステルが、N-ビニルピロリドンの1モル当たり使用される。ペルオキシエステルの好ましい量は、N-ビニルピロリドンの1モル当たり0.0004~0.05モルである。
【0013】
本発明の重合は、水性環境中で行われる。30g/l未満の25℃での算出水溶解度を有するペルオキシエステルが、1種以上の有機溶媒中の溶液の形態で重合反応器に添加される。重合媒体は、20重量%以下の有機溶媒を含有することができる。重合媒体は、ペルオキシエステルを溶解させる及び添加するのに必要である量の有機溶媒だけを含有するべきである。好適な有機溶媒は、フリーラジカル重合プロセスと相性が良い及び重合後の蒸留プロセスにおいてポリマー水溶液から除去することができる、の両方である溶媒である。例は、メタノール、エタノール、n-プロパノール及びイソプロパノールなどの、アルコール、トルエン、キシレン、クメン及びエチルベンゼンなどの、芳香族炭化水素、1,4-ジオキサン及びテトラヒドロフランなどの、エーテル、ヘキサン、ヘプタン及びイソドデカンなどのアルカン、及び酢酸エチルなどのエステル並びに互いに完全に混ざる前記溶媒の混合物である。好ましい溶媒は、炭化水素、メタノール、エタノール及びイソプロパノール並びにそれらの混合物である。炭化水素及びイソプロパノール並びにそれらの混合物が最も好ましい。ペルオキシエステルと有機溶媒の総量との間の重量比は、1:0.2~1:200、好ましくは1:1~1:50である。
【0014】
本発明のプロセスにおいて、ペルオキシエステルは、重合プロセスを開始するために必要とされるラジカルを発生させるために還元剤と組み合わせられる。好適な還元剤は、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウム及び重亜硫酸アンモニウムなどのアルカリ金属及びアンモニウム亜硫酸塩及び重亜硫酸塩、亜硫酸アンモニウム一水和物及び亜硫酸ナトリウム七水和物、亜ジチオン酸ナトリウムなどのアルカリ金属及びアンモニウム亜ジチオン酸塩、メタ重亜硫酸ナトリウムなどのアルカリ金属及びアンモニウムメタ重硫酸塩並びに還元糖である。還元糖は、溶液においてアルデヒド又はケトン基を含有する糖である。これらの糖が還元剤として機能する場合、アルデヒド基は、カルボン酸へと転化される。例は、グルコース、フルクトース及びキシロースである。還元剤は、また、二酸化硫黄を、アルカリ金属又はアンモニウム水酸化物溶液の水溶液中へ導入することによってその場で調製することができる。本発明のプロセスでは、0.0005~0.2モルの還元剤がN-ビニルピロリドンの1モル当たり使用される。還元剤の好ましい量は、N-ビニルピロリドンの1モル当たり0.001~0.1モルである。
【0015】
ペルオキシエステルと還元剤との間のモル比は、1:0.5~1:20、好ましくは1:1~1:10である。
【0016】
ポリマー水溶液は、普通、それらが10~70重量%の固形分を有するように調製される。15~60重量%の固形分が好ましく、20~55重量%が最も好ましい。
【0017】
重合は、製造されるポリマーの分子量を制御するために、連鎖移動剤とも言われる、重合調節剤の存在下で任意選択的に実施することができる(The Chemistry of Radical Polymerization,2nd Edition,2005,Graeme Moad and David H.Solomon,Chapter 6:chain transfer,p279-331)。好適な重合調節剤は、2-メルカプトエタノール、メルカプト酢酸、アルカリ金属及びアンモニウム亜硫酸塩、システイン、メルカプトコハク酸、イソプロパノール並びにアルカリ金属及びアンモニウム次亜リン酸塩である。いくつかの場合には、ラジカル重合を開始するためのペルオキシエステルと組み合わせられる還元剤は、重合調節剤としても機能することができる。そのような化合物の例は、アンモニウム及びアルカリ金属亜硫酸塩及び重亜硫酸塩である。他の場合には、ペルオキシエステルを重合反応器に添加するために使用される溶媒も、連鎖移動剤として機能することができる。例は、イソプロパノールである。2種以上の調節剤を使用することも可能である。
【0018】
ポリマーK-値を測定するための方法は、“H.Fikentscher,systematics of celluloses based on their viscosity”,Cellulose-Chemie 13(1932),58-64及び71-74に記載されている。本発明のプロセスによって製造されたポリビニルピロリドンのK-値は、10~100(1重量%の水溶液)、好ましくは10~70、より好ましくは15~50である。
【0019】
重合は、N-ビニルピロリドンの加水分解を回避するために、好ましくは、6~10の範囲内のpHで実施される。それ故に、好適な塩基、例えばアンモニア水溶液で出発原料の溶液を好適なpH範囲に調整することが推奨される。
【0020】
ビニルピロリドンは、N-ビニルピロリドン、ペルオキシエステル、還元剤、任意選択的に重合調節剤、任意選択的に塩基、及び水などの重合成分が重合温度に加熱される回分重合によってなどの、従来の技法によって重合させることができる。反応混合物は、転化率が99.9%超であるまで重合温度で撹拌される。このプロセスでは、適切な場合、重合温度に達して初めて開始剤を添加することも可能である。重合プロセスの更なる変形は、好ましくは用いられる、供給方法を含む。本プロセスのこれらの変形において、いくつかの、又は全ての重合成分は、一定の時間にわたって重合温度で重合反応器に添加される。重合成分はまた、供給前仕込みに部分的に含まれ得る、及び部分的に経時的に添加され得る。成分は、一定の供給速度で又は変化する供給速度で添加され得る。成分を分割して添加することも可能である。別の方法は、標的重合温度に達するために重合反応によって発生した熱を用いることを含む。残留モノマーは、適切な温度での重合開始剤の添加によって転化することができる。酸の添加により水溶液のpH値を5未満に下げることによって残留モノマーを2-ピロリドンに加水分解することも可能である(例えば国際公開第93/16114A1号パンフレットに記載されているように)。後者の不利点は、それがポリマー生成物中の2-ピロリドンの量を増加させ得ることである。
【0021】
重合反応は、大気圧下に開放容器中で、又は圧力が大気圧超若しくは大気圧未満であることができる、密閉容器中で行うことができる。重合の温度は、20~120℃、好ましくは40~100℃、最も好ましくは50~90℃であることができる。
【0022】
ポリビニルピロリドン水溶液は、適切な場合、先行技術の乾燥プロセスによって固体粉末へと変換することができる。それらの場合に、ペルオキシエステルを重合容器中へ導入するために使用された有機溶媒を、乾燥プロセスの前に、例えば水蒸気蒸留によって、除去することが好ましい。粉末のポリマーを製造するのに好適である乾燥プロセスは、全て、水溶液から乾燥するのに好適なものである。好ましいプロセスは、噴霧乾燥、流動床乾燥、ドラム乾燥及びベルト乾燥であり、一方、あまり好ましくないがまた用いることができるプロセスは、凍結乾燥及び凍結濃縮である。
【0023】
本発明のプロセスによって得られるN-ビニルピロリドンポリマーは、2-ピロリドン及びN-ビニルピロリドンなどの不純物の低い含有量を有する。N-ビニルピロリドンの含有量及び2-ピロリドン含有量は、ポリマーの量を基準として、それぞれ、50ppm及び0.5重量%以下である。
【0024】
本発明のプロセスによって調製されるポリビニルピロリドンポリマーは、医薬品、化粧品、農業、食品及び飼料、洗剤、電気並びに接着剤調合物に使用することができる。これらのポリマーは、液体精製プロセス用の膜を調製するためにも使用することができる。
【0025】
略語:
tBPA=t-ブチルペルオキシアセテート
tBPiB=t-ブチルペルオキシイソブチレート
tBPPv=t-ブチルペルオキシピバレート
tBHP=t-ブチルヒドロペルオキシド
tBPEH=t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート
NVP=N-ビニル-2-ピロリドン
2-P=2-ピロリドン
【実施例
【0026】
過酸化エステルの溶解度
25℃でのH2Oへの液体過酸化物化学種の溶解度は、COSMOtherm 2018プログラム3において実施されるようにCOSMO-RS溶媒和法1-2を用いてコンピュータ計算した。プログラムパッケージTURBOMOLE(バージョン7.5.2)4-5を所要の量子化学的計算のために用いた。全ての化学種のジオメトリーを、無限大の誘電率で特徴付けられる理想導体においてBecke-Johnson減衰9-10及びCOSMO溶媒和モデル11でGrimmeのD3分散補正8を用いるトリプル-ゼータdef2-TZVP基底系7で理論6のTPSSレベルでコンピュータ計算した。
【0027】
2018 BP86/def-TZVPパラメーター化を、def-TZVP基底系14を用いて理論12-13のデフォルトBP86レベルで、2つの一点計算(1つは、理想導体において及び1つは気相において)に基づくCOSMO-RS計算に用いた。tert-ブチルヒドロペルオキシドを除いて、「反復」オプションをCOSMO-RS溶解度計算で用いた。後者の化合物については、H2Oへのその溶解度は、「slesol」オプションを用いてコンピュータ計算し、二相をもたらした。表1に示されるtert-ブチルヒドロペルオキシド溶解度は、より少ないtert-ブチルヒドロペルオキシド含有量の相組成を指す。表1は、研究された全ての化学種の算出溶解度を示し、表2は、過酸化物化学種の及び溶媒H2Oの計算された分子構造をまとめる。
【0028】
表1:25℃でのH2Oへの算出溶解度
化学種 溶解度(1kg溶液当たりのg溶質)
Tert-ブチルペルオキシアセテート 21
Tert-ブチルペルオキシイソブチレート 2.1
Tert-ブチルペルオキシピバレート 3.7
Tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート 0.07
Tert-ブチルヒドロペルオキシド 64
H2O2 完全に混ざる
【0029】
表2:過酸化エステル化学種の及び溶媒H2Oの最適構造。座標は、オングストロ-ム(Å、10-10m)単位で示される。
化学種 座標
【0030】
H2O
【0031】
【表1】
【0032】
Tert-ブチルペルオキシアセテート
【0033】
【表2】
【0034】
Tert-ブチルペルオキシイソブチレート
【0035】
【表3】
【0036】
Tert-ブチルペルオキシピバレート
【0037】
【表4】
【0038】
Tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート
【0039】
【表5】
【0040】
Tert-ブチルヒドロペルオキシド
【0041】
【表6】
【0042】
H2O2
【0043】
【表7】
【0044】
参考文献
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8.Grimme,S.;Antony,J.;Ehrlich,S.;Krieg,H.,A consistent and accurate ab initio parametrization of density functional dispersion correction (DFT-D) for the 94 elements H-Pu.The Journal of Chemical Physics 2010,132 (15),154104.
9.Johnson,E.R.;Becke,A.D.,A post-Hartree-Fock model of intermolecular interactions.The Journal of Chemical Physics 2005,123(2),024101.
10.Becke,A.D.;Johnson,E.R.,A density-functional model of the dispersion interaction.The Journal of Chemical Physics 2005,123(15),154101.
11.Klamt,A.;Schueuermann,G.,COSMO:a new approach to dielectric screening in solvents with explicit expressions for the screening energy and its gradient.Journal of the Chemical Society,Perkin Transactions 2 1993,(5),799-805.
12.Perdew,J.P.,Density-functional approximation for the correlation energy of the inhomogeneous electron gas.Physical Review B 1986,33(12),8822-8824.
13.Becke,A.D.,Density-functional exchange-energy approximation with correct asymptotic behavior.Physical Review A 1988,38(6),3098-3100.
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【0045】
分析方法:
K値は、1重量%水溶液を使用して25℃で測定した。本方法は、“H.Fikentscher,systematics of celluloses based on their viscosity”,Cellulose-Chemie 13(1932),58-64及び71-74に記載されている。NVP及び2-Pの濃度は、Povidone下でEuropean Pharmacopoeia 10.0に記載されている液体クロマトグラフィー法によって測定した。ポリマー溶液の濁りは、23℃でHach TL2360 Turbidimeterを用いて測定した。ピバリン酸濃度は、溶離液としての0.5mMのH2SO4及び電導度検出器を使用して40℃で高圧液体クロマトグラフィーによって測定した。
【0046】
発明ポリマーP1の調製:
機械撹拌機、コンデンサー、窒素掃引、温度計並びにモノマー及び開始剤の漸次添加のための入口を備えた、2リットルのガラス反応器に、450.0グラムの脱塩水及び2.0グラムの25%アンモニア水溶液を仕込んだ。以下の溶液:i)500.0グラムのN-ビニルピロリドン及び170.0グラムの脱塩水からなる、モノマー供給物、ii)炭化水素中の10.0グラムのt-ブチルペルオキシアセテートの50%溶液及び50.0グラムのイソプロパノールからなる、過酸化物供給物、並びにiii)14.7グラムの34%亜硫酸アンモニウム水溶液、50.0グラムの脱塩水及び0.7グラムの25%アンモニア水溶液からなる、還元剤供給物を調製した。反応器仕込みを、窒素掃引下に120rpmで撹拌し、70℃に加熱した。70℃に達してときに、モノマー溶液を3時間で添加し、過酸化物及び還元剤供給物を3.5時間で添加した。全ての供給物を一定の供給測度で添加した。過酸化物及び還元剤供給物の完了後に、反応器温度を85℃に上げ、この温度で2時間撹拌した。その後、水蒸気を1000グラムの得られたポリマー溶液中へ導き入れ、凝縮揮発性物質を別個のフラスコに集めた。275mlの留出物を集めたときに、0.75グラムのギ酸をポリマー溶液に添加した。350mlの留出物を集めたときに、水蒸気蒸留を止めた。
【0047】
ポリマーP2は、10.0グラムのt-ブチルペルオキシアセテートの50%溶液の代わりに炭化水素中の12.1gのt-ブチルペルオキシアセテートの50%溶液を過酸化物供給物に使用したことを除いてはP1について記載されたものと同じ重合手順を用いることによって調製した。
【0048】
ポリマーP3は、過酸化物供給物中にイソプロパノールが含まれなかったこと及び10.0グラムのt-ブチルペルオキシアセテート炭化水素溶液が、21分毎に、1グラム部分で添加されたことを除いてはP1について記載されたものと同じ重合手順を用いることによって調製した。最初のグラムは、モノマー及び還元剤供給物の開始21分後に添加し、最後のグラムは、モノマー及び還元剤供給物の開始189分後に添加した。
【0049】
比較ポリマーC1~C3の調製:
ポリマーC1は、8.8グラムのtBPPv(炭化水素中75%)を10.0グラムのtBPA溶液の代わりに使用したことを除いてはP1について記載されたものと同じ重合手順を用いることによって調製した。
【0050】
ポリマーC2は、過酸化物供給物が、50.0グラムのイソプロパノールに溶解された、10.0グラムのtBPA溶液の代わりに50.0グラムの水に溶解された4.9グラムのtBHP(水中70%)からなったことを除いてはP1について記載されたものと同じ重合手順を用いることによって調製した。
【0051】
ポリマーC3は、10グラムのtBPA溶液の代わりに8.4グラムのtBPEH(98%)を使用したことを除いてはP1について記載されたものと同じ重合手順を用いることによって調製した。
【0052】
【表8】
【0053】
比較ポリマーC1は、還元剤と組み合わせたtBPPvの使用が、かなりの量のピバリン酸/ピバリン酸アンモニウム(固形分で560ppm)の形成につながることを不利点として有する。比較ポリマーC2は、OH官能化tBHPの使用が、OHを含まない過酸化物と比較してより高い量の2-Pの形成をもたらすことを不利点として有する。C3の場合の不利点は、tBPEH過酸化物の大きい疎水性基が、濁りの原因となる水不溶性生成物分画の形成につながることである。発明ポリマーP1、P2及びP3は、相当により低い量の不純物を含有し、無色透明の水溶液を提供する。
【0054】
【表9】
【0055】
ポリマーC4は、反応器に、450.0グラムの脱塩水の代わりに400.0グラムの脱塩水及び、tBHP及び亜硫酸アンモニウム供給物の両方について、2倍量の全ての原材料を使用したことを除いてはC2について記載されたものと同じ重合手順を用いることによって調製した。
【0056】
ポリマーP4は、過酸化物供給物が、100.0グラムの水に溶解された9.7グラムのtBHP(水中70%)の代わりに炭化水素中の20.0グラムのt-ブチルペルオキシアセテートの50%溶液及び100.0グラムのイソプロパノールからなったことを除いてはC4について記載されたものと同じ重合手順を用いることによって調製した。
【0057】
ポリマーP5は、450.0グラムの脱塩水の代わりに490.0グラムの脱塩水及びゼロのアンモニア水溶液が、供給前反応器仕込みに含まれ、過酸化物供給物が、炭化水素中の10.0グラムのt-ブチルペルオキシアセテートの50%溶液及び50.0グラムのイソプロパノールの代わりに、炭化水素中の5.0グラムのt-ブチルペルオキシアセテートの50%溶液及び25.0グラムのイソプロパノールからなり、還元剤供給物が、14.7グラムの34%亜硫酸アンモニウム水溶液、50グラムの脱塩水及び0.7グラムの25%アンモニア水溶液の代わりに22.1グラムの34%亜硫酸アンモニウム水溶液、50.0グラムの脱塩水及び1.0グラムの25%アンモニア水溶液からなったことを除いてはP1について記載されたものと同じ重合手順を用いることによって調製した。
【0058】
ポリマーP6は、還元剤供給物が、22.1グラムの34%亜硫酸アンモニウム水溶液、50.0グラムの脱塩水及び1.0グラムの25%アンモニア水溶液の代わりに7.4グラムの34%亜硫酸アンモニウム水溶液、50.0グラムの脱塩水及び0.3グラムの25%アンモニア水溶液からなったことを除いてはP5について記載されたものと同じ重合手順を用いることによって調製した。
【0059】
ポリマーP7は、還元剤供給物が、22.1グラムの34%亜硫酸アンモニウム水溶液、50.0グラムの脱塩水及び1.0グラムの25%アンモニア水溶液の代わりに36.8グラムの34%亜硫酸アンモニウム水溶液、50.0グラムの脱塩水及び1.3グラムの25%アンモニア水溶液からなったことを除いてはP5について記載されたものと同じ重合手順を用いることによって調製した。
【0060】
ポリマーP8は、還元剤供給物が、22.1グラムの34%亜硫酸アンモニウム水溶液、50.0グラムの脱塩水及び1.0グラムの25%アンモニア水溶液の代わりに51.5グラムの34%亜硫酸アンモニウム水溶液、50.0グラムの脱塩水及び1.8グラムの25%アンモニア水溶液からなったことを除いてはP5について記載されたものと同じ重合手順を用いることによって調製した。
【0061】
ポリマーP9は、炭化水素中の20グラムのt-ブチルペルオキシアセテートの50%溶液の代わりに10グラムを過酸化物供給物中に使用した、並びに29.4グラムの34%亜硫酸アンモニウム水溶液の代わりに32.9グラム及び1.2グラムの25%アンモニア水溶液の代わりに1.4グラムを還元剤供給物中に使用したことを除いてはP4について記載されたものと同じ重合手順を用いることによって調製した。
【0062】
ポリマーP10は、供給前仕込み中の800.0グラムの脱塩水、400.0グラムのNVP及び1.6グラムのアンモニア、過酸化物供給物としての炭化水素中の8.0グラムのt-ブチルペルオキシアセテートの50%溶液及び100.0グラムのイソプロパノール並びに26.3グラムの34%亜硫酸アンモニウム水溶液、1.2グラムの25%アンモニア水溶液及び19.4グラムの脱塩水からなる還元剤供給物を使用して調製した。重合は、70℃の代わりに60℃で行った。過酸化物及び還元剤供給物を2時間で添加した。
【0063】
ポリマーP11は、供給前仕込み中の400.0グラムの脱塩水及び2.0グラムのアンモニア、500.0グラムのNVP及び170グラムの脱塩水からなるモノマー供給物、過酸化物供給物としての炭化水素中の18.4グラムのt-ブチルペルオキシアセテートの50%溶液及び100.0グラムのイソプロパノール並びに34.6グラムの34%亜硫酸アンモニウム水溶液、1.4グラムの25%アンモニア水溶液及び100.0グラムの脱塩水からなる還元剤供給物を使用して調製した。
【0064】
ポリマーP12は、供給前仕込み中の800.0グラムの脱塩水、400.0グラムのNVP及び1.6グラムのアンモニア、過酸化物供給物としての炭化水素中の14.7グラムのt-ブチルペルオキシアセテートの50%溶液及び100.0グラムのイソプロパノール並びに27.7グラムの34%亜硫酸アンモニウム水溶液、1.2グラムの25%アンモニア水溶液及び19.4グラムの脱塩水からなる還元剤供給物を使用して調製した。重合は、70℃の代わりに60℃で行った。過酸化物及び還元剤供給物を2時間で添加した。
【0065】
【表10】
【国際調査報告】