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特表2024-545043金属試薬を用いた溶液からの鉄及び銅の除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】金属試薬を用いた溶液からの鉄及び銅の除去方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/44 20060101AFI20241128BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20241128BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20241128BHJP
   C22B 15/00 20060101ALI20241128BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241128BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20241128BHJP
【FI】
C22B3/44 101A
C22B7/00 C
C22B3/06
C22B15/00 107
B22F1/00 M
B22F1/05
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024532518
(86)(22)【出願日】2022-11-29
(85)【翻訳文提出日】2024-07-30
(86)【国際出願番号】 EP2022083560
(87)【国際公開番号】W WO2023099424
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】21211405.2
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】バルト・クラーセン
【テーマコード(参考)】
4K001
4K018
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA19
4K001BA22
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB23
4K018BA20
4K018BB04
4K018BD10
(57)【要約】
本開示は、Ni及びCoのうちの1つ以上をさらに含む酸性水溶液からCu及びFeを除去するためのプロセスに関し、以下の工程を含む:
- 酸化条件下で、Ni及びCoのうちの1種以上を含む金属試薬を酸性溶液に添加し、それによって酸性溶液を中和し、Cu及びFeを含む沈殿物を形成する工程であって、Cu及びFeの少なくとも一部が水酸化物の形態である、工程;及び
- Cu及びFeの沈殿物を溶液から分離し、それによりCu及びFeが枯渇した溶液を得る工程。このプロセスは、外来の中和剤の必要性を劇的に減少させ、それによりプロセスへの付加的な不純物の導入を制限し、又は完全に回避さえする。このプロセスは、金属試薬と同じ組成を有する材料を浸出することによって得られる酸性水溶液に有利に適用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni及びCoの1種以上をさらに含む酸性水溶液からCu及びFeを除去するためのプロセスであって、以下の工程を含む、プロセス:
- 酸化条件下で、Ni及びCoの1種又は2種以上を含む金属試薬を酸性溶液に添加し、それによって酸性溶液を中和し、Cu及びFeを含む沈殿物を形成する工程であって、Cu及びFeの少なくとも一部が水酸化物の形態である、工程;及び
- Cu及びFeの沈殿物を溶液から分離し、それによりCu及びFeが枯渇した溶液を得る工程。
【請求項2】
酸性水溶液がHCl又はHSOを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記金属試薬が金属合金である、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記金属試薬が硫黄を含まない、請求項1から3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記金属試薬が金属粉末の形態である、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
粒子が500μm未満の等価粒径d90を有するか、又は粒子が200μm未満の平均等価粒径d50を有する粒径分布を前記金属粉末が有する、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
酸化条件が、H及び/又はO含有ガスの添加によって得られる、請求項1から6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
プロセスが大気圧で実施される、請求項1から7のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
金属試薬を添加する工程において、中和後に溶液が、酸性水溶液がHClを含むという条件下で、2.0を超えるpHを有するか、又は酸性水溶液がHSOを含むという条件下で、3.5を超えるpHを有する、請求項1から8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記金属試薬が、前記溶液中の遊離酸及び沈殿反応で生成された酸の総量に対して化学量論的過剰で酸性溶液に添加される、請求項1から9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
Cu及びFeを含む前記沈殿物が未反応の金属試薬も含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
酸性水溶液が、Cu、Fe、並びにNi及びCoの少なくとも1つを含む固体出発物質を酸性浸出する工程を実施することによって得られる、請求項1から11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
Cu及びFeを含む沈殿物を、固体出発物質を酸性浸出する工程に少なくとも部分的に再利用する、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
固体出発物質及び金属試薬が同じ組成を有する、請求項1から13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
固体出発物質又は金属試薬が、電池、廃電池、電池スクラップ及び/又は電池の製造からの廃棄物を含む、請求項1から14のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式冶金の分野に関するものであり、金属試薬を用いた酸化的加水分解により、異なる金属を含む酸性溶液を精製するプロセスについて説明する。
【背景技術】
【0002】
コバルトやニッケルを含む原料や中間体の多くは、多量の鉄や銅も含み、これらの原料を溶解した後の浸出液に最終的に含まれる。リチウムイオン電池やニッケル水素電池の生成中又は使用中に発生する廃棄物やくずばかりでなく、例えば、とりわけ、鉱石の一次製錬から出るマット、Cu、Co、Niの採掘からの水酸化物及び硫化物の中間生成物、Co、Ni、Mnを含む特定の金属深海団塊、Co及びNi製品の製錬中に生成される白色合金などである。
【0003】
そのため、コバルト、ニッケル、その他の金属を含む水溶液から鉄と銅を除去することは、ありがちな湿式冶金操作である。精製は、溶液から銅の大部分を除去することに焦点を当てた操作と、溶液から鉄を除去するための操作の、2つの別々の単位操作でしばしば行われる。
【0004】
多くの湿式冶金計画では、Ni及びCo含有溶液からのCu抽出は電解採取に基づいている。C. G. Anderson (本の章: Optimization of Industrial Copper Electrowinning Solutions. In: Prime Archives in Chemical Engineering. ハイデラバード、インド: Vide Leaf. 2019)は、溶液に浸漬されたカソードを用いて、Cu及びNiを含む工業用溶液上で直接Cuを電解採取すること(「直接電解採取」)について述べている。電流を流すことにより、Cuはカソード上に析出し、Co、Ni、Fe、又はMnなどの溶液中の他の元素からCuが分離される。大量のCuは、1つのセルで溶液をリサイクルしながら、複数回のパス(pass)を必要としてもよい。この段取りの代替案は、連続する一連の電解採取セルであり、それぞれが作動してCu濃度を減らす。電解採取用のセルは、さまざまな設計をし得る。平坦な平行電極を持つセルが最も広く使用されている。国際公開第2020/078779号は、Co、Ni、及びMnを含む溶液からCuを直接電解採取するための粒子カソードの使用を提案しており、その一方で、Siegmundら(Replacement of liberator cells - pilot test study at Aurubis Hamburg using the EMEW technology: Proceedings of Copper 2013: サンティアゴ、チリ、2013年12月1~4日:5巻, p. 275-283)は、Ni を含む溶液から Cu を選択的に除去するための円筒形セルの使用について述べている。
【0005】
他の場合では、電解採取は溶媒抽出と組み合わせられる場合もある(「SX-電解採取」)。Chengら(The recovery of nickel and cobalt from leach solutions by solvent extraction: Process overview, recent research and development; Proceedings of ISEC 2005)において具体例が見つかる。そのような計画では、溶媒抽出(SX)によって純粋でない供給溶液からCuが第一に抽出され、それは典型的には高いCu選択性がある。抽出されたCuイオンは別のCu溶液に移され、そこから一次溶液におけるようにCo、Ni、Fe、又はMnのような元素の存在によって制限されない後続の電解採取操作でそれらは収穫される。
【0006】
どちらの場合も、電解採取操作は典型的には大半のCuの除去を構成するが、全てではなく、より低いCu濃度で効率が低下することはこのようなプロセスの欠点であるためである。従って、残りのCuの損失を回避するために、この操作は追加操作と組み合わされる必要がある。
【0007】
国際公開第2019/121086号は、Cu及びより多くの貴金属を除去するための代替アプローチを説明しており、これは還元剤によるセメンテーション(cementation)による選択的沈殿に基づいている。このようなプロセスにおけるCuは、その金属形態で沈殿させられる。これは通常、Cu生成物の品質や価値の重要性がより低い場合、又はCu濃度が低く、より費用のかかる電解採取に基づいた計画の使用を正当化しない場合に適用される。
【0008】
このようなセメンテーションに基づく操作では、Cuを含む溶液が、例えばNi、Co、Fe、Zn、Mnのような、より電気陰性度の高い金属化合物のような還元剤と接触させられるか、又は、代替的に、水素ガスと接触させられる。後者の場合、この操作はしばしば水素還元と呼ばれる。このことは、例えば、富樫と永井(Hydrogen reduction of spent copper electrolyte、Hydrometallurgy, 11: p. 149-163, 1983)によって説明されている。その効果は、可溶性Cu2+イオン又はCu1+イオンの不溶性元素である銅への還元であり、例えば次式に従う:
【0009】
【化1】
【0010】
金属化合物が還元剤として使用される場合、この化合物は溶液中で終わり、例えば次式に従う:
【0011】
【化2】
【0012】
【化3】
【0013】
元素の銅は、固体の金属の形態で沈殿する。金属試薬を過剰に使用すると、沈殿した銅と未反応の金属還元試薬の混合物を含む不純物の多いセメントに結果としてなる可能性がある。
【0014】
セメンテーションに基づく操作は通常、例えば空気、酸素、又は過酸化水素のような酸化性化合物を処理される溶液に導入することは避ける。酸化性化合物は、還元試薬と直接反応して溶液中のCuイオンと反応せずに還元試薬を酸化させるか、又は、すでに沈殿しているCu元素と反応してCuを再溶解させ得るからである。いずれの場合も、酸化性化合物の存在は、セメンテーション操作の性能に悪影響を与える。そのため、このようなセメンテーションプロセスは、ときどき不活性雰囲気下で行われる必要がある。
【0015】
一般に、セメンテーションに基づくプロセスでは、Cu及びより多くの貴金属が金属セメントとして除去されるという共通点がある。Feは貴金属性が低いため、通常は分離された別の操作で除去される。
【0016】
欧州特許出願公開第0262964号明細書は、還元条件下で硫化物試薬を用いてCuを硫化化合物として沈殿させる別の選択肢を開示している。一般的な試薬は、H2S、Na2S、及びNaHSである。セメンテーションと同様に、この技術はCuを低濃度まで下げるのに適している。
【0017】
上記のいずれの操作も、しばしば存在する鉄の処理には適していない。したがって、このようなNi及び/又はCo含有溶液の精製には、別の鉄除去工程が必要とされる。これはイオン交換プロセスを通して行われることもときどきあるが、ほとんどの鉄除去操作は、低い遊離酸濃度での不溶性Fe3+化合物の沈殿に依存している。このことは、例えばMonhemiusら(The iron elephant: A brief history of hydrometallurgists‘ struggles with element no. 26, CIM Journal 8(4): p. 197-206, 2017)により説明されている。このようなプロセスでは、鉄から第二鉄化合物への転換を促進する酸化試薬と、遊離酸を中和する塩基性試薬と、の組み合わせを使用し、遊離酸濃度が低い場合での第二鉄化合物の沈殿を促進する。一般的な酸化試薬は、空気、O、H、及びClである。さらに強力な酸化剤、例えば次亜塩素酸塩、過硫酸塩、又は過マンガン酸塩が適用されることもできる。中和される酸は供給溶液中に存在するか、又は鉄の沈殿反応中に生成され得る。水酸化物又は炭酸塩が中和試薬として一般的に使用され、特にNaOH、NaCO、Mg(OH)、Ca(OH)、CaCO、NHOH又は(NHCOが挙げられる。
【0018】
Feの他にも、Cr、Al、As、Sb、Sn、W、又はCuのような、多くの他の不純物が供給溶液中に存在する可能性がある。これらの元素は加水分解され、Feとともに沈殿し得る。このことは、例えば上記の引用文献である国際公開第2019/121086号に記載されており、最初にセメンテーションによって大部分のCuが除去され、次いで加水分解操作によってFe及び微量不純物を除去する計画が記載されている。示唆されている加水分解操作では、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、アンモニア、水酸化カリウム又は水酸化カルシウムを使用する。国際公開第2020/212546号も同様の操作を開示している。しかし、これらのいずれの場合も、中和試薬によってK、Ca、Na、Li、又はNHなどの追加元素が溶液中に導入され、高純度操作を目指す場合には明らかに不利である。
【0019】
国際公開第2019/090389号は、中和のための化合物を通じて追加的な汚染物質の導入を回避するアプローチを提示している。Ni金属粉末供給を硫酸ニッケル溶液に変換するフローシートの一部として、中和を通してFeを含む不純物を一括除去するための加水分解が記載されている。中和のための試薬として、より従来型のアルカリ塩基の代わりに水酸化ニッケルが使用される。特に水酸化ナトリウム塩基や水酸化カリウム塩基は、一般的にアルカリ汚染につながるので避けられることが言及されている。このNi水酸化物は、水酸化ナトリウムを用いて精製溶液の一部からNiを沈殿させることにより、別の操作で作製される。この方法では、ナトリウムが主要な流れに混入することは防止されるが、水酸化ナトリウムは消耗したままである。主要な流れでNi含有供給を使用するにもかかわらず、水酸化ニッケル作製のための追加設備により、これは本質的に2工程プロセスとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】国際公開第2020/078779号
【特許文献2】国際公開第2019/121086号
【特許文献3】欧州特許出願公開第0262964号明細書
【特許文献4】国際公開第2020/212546号
【特許文献5】国際公開第2019/090389号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
要約すると、Cu除去のための既知の沈殿プロセスは、通常、セメンテーション又は苛性試薬を用いた加水分解に依存している。Feの沈殿プロセスは、一般的に加水分解に依存している。
【0022】
銅除去のためのセメンテーションを行う場合、第二銅イオン又は第一銅イオンを金属銅に変換するために還元剤が添加される。酸化剤の使用は、セメント化合物の酸化及び再溶解を防ぐために避けられる。Fe及び/又はCu除去のための加水分解を行うとき、一般に酸化剤は、Fe、特に第二鉄酸化物又は水酸化物の還元及び再溶解を避けるために添加される。これらの要求の相違は、結果として、Cu及びFeの大部分を除去するための、2つの別々の工程を必要とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記とは対照的に、本発明は、Ni及び/又はCoを含有する溶液からCu及びFeを沈殿させるための単一単位の操作を伴う代替法を開示する。このプロセスの鍵は、還元性を有するNi及び/又はCoを含む金属試薬を中和のために使用することと、第一鉄から第二鉄への酸化を促進するために必要な酸化試薬を使用することを組み合わせて、複合されたCu及びFeの加水分解と沈殿を、すべて1回の操作で行うことである。このように、提示されたプロセスは、通常使用されない、又は併用されない材料及び反応条件を有利に組み合わせている。プロセスへの付加的な不純物の導入は制限されるか、あるいは完全に回避されさえする。
【0024】
酸化条件下で加水分解により沈殿させられたCu化合物は、還元条件下で古典的なセメンテーションに基づくプロセスで沈殿した化合物とは実質的に異なる。セメンテーションに基づくプロセスではCuは金属セメント生成物として除去される一方、本発明ではCuはCu2+化合物の形態で沈殿する。このような化合物は、例えば、酸化物、水酸化物、塩基性硫酸塩又は塩基性塩化物とすることができる。これは溶液中の陰イオンにも依存する。これらのCu化合物の沈殿は、通常、Fe化合物の沈殿に比べて低い酸濃度で起こる。
【0025】
本プロセスでは、出発溶液は、酸を使用する浸出操作から供給されるときのように、酸性であると仮定する。金属試薬は、セメンテーションの目的ではなく、酸を消費する目的と効果で添加される。この目的のために、金属試薬の添加は酸化剤の添加と組み合わされる:このような状況では、金属セメントは形成されない。pHが上昇すると、特定の金属の、特にFe及びCuの不溶性水酸化物が沈殿する;Ni及び/又はCoのような他の金属は、少なくとも部分的に溶液中に残る。
【0026】
これは、Na、K、Mg、Ca、Liの水酸化物又はアンモニアなどの苛性化合物が使用される従来の中和及び加水分解操作とは異なり、溶液中にさらなる不純物を導入することになる。
【0027】
本プロセスは、少なくとも部分的に溶解し、それによって溶液の価値を向上させる、Ni及び/又はCo元素を含む金属試薬を選択することによって最適化するのに役立つ。
【0028】
最適化されたプロセスは、浸出後に残った酸及びCu及びFeの沈殿反応によって生成した酸の可能な限り最良の利用を達成する。酸は、金属試薬中に存在する追加のNi及び/又はCoの溶解に実際に効率的に使用される。中和試薬は必要なく、そのような試薬を添加することによっては希釈は起こらない。
【0029】
浸出液からFe及びCuを除去するために、酸中和のための試薬としてNi及び/又はCoを含む金属試薬又は金属合金を使用して、酸化条件下で提案された加水分解操作を適用することは、加水分解に基づくFe及び/又はCu除去のための従来のプロセスと比較して、いくつかの利点がある。
【0030】
鉄除去のための従来の加水分解プロセスには、浸出液中にまだ存在しない追加元素を導入するという欠点もある。しばしば、これらの元素は中和のために苛性化合物として導入される。しかし、このような望ましくない、又は邪魔にさえなる化合物が、適用される酸化試薬によって導入される可能性もある。例えば、硫酸塩溶液中で酸化試薬として塩素を使用する場合には塩化物が、又は、塩化物溶液中で酸化試薬として過硫酸塩を使用する場合には硫酸塩が挙げられる。このようないかなる元素でも、その混入は、それらが最終製品へ混入するのを防ぐために、下流での追加の精製操作をしばしば必要とするだろう。そうでなければ、例えば非常に高い純度を要求する電池の適用などでは、特に不利になる可能性がある。このような操作は、精製計画全体の費用及び複雑さを増大させる。他の欠点は、これらの元素が溶液中のイオンの総濃度を増加させるであろうことである。
【0031】
したがって、このような操作で過飽和及び望ましくない固体塩生成物の沈殿を避けるために、浸出液中の金属の総濃度が制限されるか、又は、このような溶液が希釈されなければならず、これは体積流量を増加させ、所定の設備の容量を減少させる。さらなる欠点は、中和のための試薬の正味消費量が、除去されるべきCu及びFeの量に相当することである。したがって、Fe除去のための従来の加水分解プロセスにおける試薬消費には、常に費用がかかる。
【0032】
対照的に、Ni及び/又はCoを含有する不純物原料を高純度の最終生成物に変換することを目的とするフローシート構成では、Ni及び/又はCo、及び任意にMnも含有する金属試薬を使用すると、最終生成物に最終的に含まれる追加のCo、Ni、及び/又はMnを導入することによって、正味の容量に有利に寄与する。したがって、本発明による典型的なCo及びNi精製構成では、中和のための試薬としてCo又はNiを使用することは、追加の不純物の導入を回避するだけでなく、高度に精製された有価金属の全体的な生産量を増加させるので、特に興味深い。このような構成では、先行浸出操作に供給する原料も、加水分解操作で中和に使用される金属又は合金も、類似しているか、同じでさえあり得る。
【0033】
従って、本発明の目的は、Ni及び/又はCoを含有する溶液からCu及びFeを選択的に沈殿させるためのプロセスを提供することであり、これによって合金などの金属試薬は酸化条件下で使用される。
【0034】
第1の実施形態によれば、Ni及びCoのうちの1つ以上をさらに含む酸性水溶液からCu及びFeを除去するためのプロセスは、以下の工程を含む:
- 酸化条件下で、Ni及びCoのうちの1つ以上を含む金属試薬を酸性溶液に添加し、それによって酸性水溶液を中和し、Cu及びFeを含む沈殿物を形成し、Cu及びFeの少なくとも一部が水酸化物の形態である;及び
- Cu及びFeの沈殿物を溶液から分離し、それによりCu及びFeが枯渇した溶液を得る。
【0035】
「酸性水溶液」とは、例えば滴定によって測定されるように、少なくともいくらかの遊離酸が存在する溶液を意味する。
【0036】
一般に、流入溶液は2未満のpHを有し、一方処理中和溶液は好ましくは2より高いpHを有するべきである。特にHSO媒体では、流入溶液は通常3.5未満、より好ましくは3未満のpHを有する。処理された中和溶液は、好ましくは3.5より高く、より好ましくは4.0より高く、さらに好ましくは4.5より高いpHを有するべきである。特にHCl媒体では、流入溶液は典型的には2.0未満、より好ましくは1.5未満のpHを有する。処理された中和溶液は、好ましくは2.0より高く、より好ましくは2.2より高く、さらに好ましくは2.5より高く、最も好ましくは3.0より高くのpHを有するべきである。流出液のpHが高いほど、FeとCuの残留濃度は低くなる。しかしながら、7未満のpHが好ましい。
【0037】
酸化条件は、第二鉄イオンの形成と、遊離酸を消費しながら金属試薬の溶解を促進し、溶液を効果的に中和するために必要である。中和は、pHが高くなるにつれて溶解度の低下を示す第二鉄化合物及び第二銅化合物又は第一銅化合物の沈殿を確実にするために重要である。
【0038】
「金属試薬」とは、元素の大部分が酸化状態ゼロで存在する物質を意味する。金属Ni、Co及びMnの他に、他の金属元素、特にCu及びFeも存在し得る。金属試薬は、好ましくは少なくとも25重量%のCo及びNiの総量を含む。
【0039】
一方、金属の大部分が酸化された状態で存在し、例えば硫黄又は酸素と化学的に結合されているマット又はスラグは、本発明による「金属試薬」には適さないとみなされる。
【0040】
Co及びNiとは別に、Mnも酸性水溶液中に有利に存在し得る。Mnは実際、特に電池のリサイクルに関連する材料(「NMC-電池」)を扱う場合、しばしばNiやCoとともに存在する。
【0041】
古典的なセメンテーションとは異なり、このプロセスでは、酸化した金属化合物、特に、例えばCu2+やFe3+を含む水酸化物を含む残渣を生成する。「水酸化物」とは、1つ以上のOH基を含む化合物を意味する。したがって、これらは純粋な水酸化物、オキシ水酸化物、又は塩基性硫酸塩や塩基性塩化物のようなより複雑な化合物である可能性がある。
【0042】
「Cu及びFeが枯渇した」とは、酸性水溶液と比較してCu及びFeの含有量が減少した溶液、すなわち、好ましくは酸性水溶液中に存在するCuの50%未満及びFeの50%未満を含む溶液を意味する。あるいは、Cu及びFeのいずれか一方が10g/L未満、好ましくは6g/L未満、より好ましくは1g/L未満、さらに好ましくは500mg/L未満、最も好ましくは100mg/L未満の溶液を意味し得る。より高濃度の溶液は、純粋なCu製品が採取されるプロセスにより良く適しており、より好ましい、又は最も好ましい比較的低濃度の溶液は、溶媒抽出などの後処理にますます適している。
Cu及びFe沈殿物の溶液からの分離は、デカンテーション、濾過、遠心分離などを用いて行うことができる。
【0043】
さらなる実施形態では、酸性水溶液はHCl又はHSOを含む。
【0044】
しかしながらHNO3又は他の無機酸も適しているだろう。
【0045】
先のもののいずれかによるさらなる実施形態では、金属試薬は金属合金である。
【0046】
「合金」とは、金属の特性を保持する金属の混合物を意味する。マット又はスラグのような金属カルコゲニドは合金とはみなされない。
【0047】
先のもののいずれかによるさらなる実施形態では、Ni及びCoのうちの1つ以上を含む金属試薬は、本質的に硫黄を含まない。
【0048】
硫黄を含有する供給物、例えば、精錬操作から得られる「マット」として知られる化合物や、湿式冶金手段によって沈殿した硫化物などは、固体出発物質や酸性浸出を介して、あるいは加水分解操作で使用される金属試薬を介してプロセスに入るとしても、一般に好ましくない。
【0049】
このような供給物における硫黄は、特許請求の範囲に記載されたプロセスに不可欠な酸化条件下で硫酸塩に酸化する可能性があるため、記載されたプロセスの効率と適用性を制限する。このような硫黄の酸化は、鉄の酸化のために導入される酸化試薬を消費する一方で、溶液のpHを上げるための遊離酸を消費しない。これを補うためには、例えばさらなる中和剤を添加する必要があるだろうが、特許請求の範囲に記載されたプロセスではそのことは要求されない。
【0050】
もう一つの潜在的な欠点は、例えば塩化物溶液を精製する場合など、望ましくない溶液中に硫黄酸化が硫酸塩を導入することである。
【0051】
先のもののいずれかによる更なる実施形態において、前記金属試薬は金属粉末の形態である。粉末を使用することにより、試薬の反応性が高まり、それが反応の速度論を向上させるので有利である。
【0052】
先のもののいずれかによるさらなる実施形態において、前記金属粉末は、粒子が500μm未満の等価粒子直径d90を有するか、又は粒子が200μm未満の平均等価粒子直径d50を有する粒径分布を有する。これにより、粉末の懸濁性が向上し、一般的な攪拌反応器でのプロセスの実施が可能になる。
【0053】
先のもののいずれかによるさらなる実施形態において、酸化条件は、H及び/又はO含有ガスの添加によって得られる。O含有ガスは、例えば、空気、濃縮空気又は純粋なO2-ガスであり得る。空気は電位が比較的低いため、より多くの量が必要となる。この空気量は、冷却をもたらすため、場合によっては不利になることさえあるかもしれない。純酸素は酸化力が比較的強いため、必要な量は比較的少なくて済む。過酸化物は非常に強力なので、1モルあたりの効率は比較的高いが、上記の代替手段よりも高価である。特に酸性水溶液がHClを主成分とする場合、例えばClガスの形態での塩素注入を利用することもできる。
【0054】
先のもののいずれかによるさらなる実施形態において、プロセスは大気圧/常圧で実行される。これは、効率的に実行するために(例えば、いくつかのオートクレーブセットアップで見られるような)高い圧力又は非常に高い温度をプロセスが必要としないので、一般的な利点である。しかしながら、例えば15気圧、180℃のオートクレーブを使用することも可能な代替案のままである。
【0055】
先のもののいずれかによるさらなる実施形態において、金属試薬を添加する工程において、溶液は、中和後に、酸性水溶液がHClを含むという但し書きの下で、2.0を超えるpHを有するか、又は酸性水溶液がHSOを含むという但し書きの下で、3.5を超えるpHを有する。HCl媒体又はHSO媒体での操作の選択は、例えば、プロセスで使用される金属試薬及び/又は酸化剤の種類に有利に適合させられることができる。
【0056】
先のもののいずれかによるさらなる実施形態において、金属試薬は、前記溶液中の遊離酸及び沈殿反応で生成した酸の総量と比較して化学量論的過剰で酸性溶液に添加される。
【0057】
中和金属試薬の化学量論的量は、溶液及び金属試薬の組成から、以下の反応計画を考慮して推定され得る。酸の平衡は、以下を考慮することにより推定され得る:
1. 出発溶液は通常、遊離酸を含む。
2. 析出反応は一般に、硫酸媒体中に溶解したCu2+及びFe3+が存在すると仮定して、以下の式例に従って酸を生成する:
【0058】
【化4】
【0059】
【化5】
【0060】
Alのような他の元素の加水分解は、Cu及びFeの反応と同様の反応により、さらに酸を生成する可能性がある。この補助的な酸は、金属試薬によって中和されなければならない。
【0061】
3. 溶解反応は一般に酸を消費する。
Mを主成分とする金属試薬(MはNiやCoのような1種又は2種以上の2価金属)を、酸化剤としてのOと硫酸媒体中で合わせると仮定する:
【0062】
【化6】
【0063】
HCl媒体において2より高く、HSO媒体において3.5より高い、それぞれ意図したpHに達するには、本質的にすべての遊離酸が中和される必要がある。すなわち、出発溶液(1)に存在する酸、及び沈殿反応(2)からの酸は、溶解反応(3)に必要な酸によって消費される。
【0064】
組成物がかなりの精度で知られているとき、酸平衡を予測することができる。他の状況では、当業者は金属試薬の化学量論的量を決定するためにpHの測定に素直に頼るだろう。
【0065】
化学量論を超える金属試薬の添加は過剰とみなされる。このような試薬の過剰は、地球規模のプロセスにとって有益になり得る。過剰な試薬は、Fe及びCuとともに残渣に報告される。過剰の上限は重要ではない:未反応の金属試薬は溶解せずに残り、これはCu及びFeに枯渇した溶液の純度に影響を与えない。
【0066】
先のもののいずれかによるさらなる実施形態において、Cu及びFeを含む沈殿物は、未反応の金属試薬も含む。
【0067】
金属試薬を過剰に導入した場合、沈殿した水酸化物分画とともに、工程終了時に未反応の金属試薬の残留分画が残存することがある。未反応の金属試薬は溶液から分離することができる。これは、水酸化物沈殿物とともに、例えば濾過又はデカンテーションによる単一操作で行うことができる。あるいは、別の固液分離操作で行うこともできる。この場合、未反応金属分画及び水酸化物分画は、例えば選択的デカンテーション又は遠心分離によって、それらの比重の差に基づいて分離することができる。あるいは、異なる磁気特性に基づいて選択的に分離することもできる。未反応の金属試薬及び沈殿した水酸化物の組成や性質は異なる可能性があるため、両方の画分を分離することで、有利なことに、それぞれの画分に対して異なる後処理の選択肢さえ可能になる。
【0068】
先のもののいずれかによるさらなる実施形態において、酸性水溶液は、Cu、Fe、及びNi及びCoの少なくとも1つを含む固体出発物質を酸性浸出する工程を実施することによって得られる。任意には、これに続いて、Cu及び/又はFeを部分的に除去する工程を行うことができる。
【0069】
浸出工程は50℃以上の温度で行うことができる。加圧浸出も適している。HSOで浸出する場合、酸性浸出の工程は、好ましくは3.5未満のpHを有する酸性溶液を提供する。HClで浸出する場合、酸性浸出の工程は、好ましくは2未満のpHを有する酸性溶液を提供する。
【0070】
浸出工程は、例えばH及び/又はO含有ガスを用いて酸化することができる。第二鉄イオンも使用できる。これにより、金属種をそれらの可溶性イオン形態への酸化が促進される。固体出発物質中の金属がすでに酸化形態にある場合には、酸化条件は必要ない。任意のCuの部分的な除去は、例えば硫化物の沈殿、セメンテーション、電解採取、イオン交換、又は溶媒抽出などによって行うことができ、それによってCuの大部分を除去する。その後、残存/残留Cuの除去は、上述したように、第1の実施形態に従って行われる。
【0071】
任意の部分的な鉄除去は、例えばイオン交換、溶媒抽出、又は別の加水分解操作によって行うことができる。この操作は、溶液中に追加の不純物を導入しない中和試薬を用いて、酸化条件下で行うのが好ましい。そのような試薬の例は、NiCO及びCo(OH)である。
【0072】
あるいは、供給物中の鉄の一部のみを溶解し、別の一部を浸出残渣に残すことで、浸出中にすでに部分的な鉄除去を行うこともできる。これは、浸出のための酸の供給を制御することによって行うことができる:供給原料に比べて化学量論的に過小な量の酸のみを添加することによって、他の元素がまず酸と反応できる。これらの元素はその後、Feよりも優先的に溶液に報告する。これはNi、Co、Mn、及びCuの場合である。これは、第一鉄化合物に比べて溶解度の低い第二鉄化合物の形成を補助するため、浸出中に酸化条件を適用することで促進される。
【0073】
酸の供給を制御する一つ目の方法は、その他の要素によって消費される酸を前もって計算することである。これには、供給物の組成に関する十分な知識が必要である。いくらかの不確実性が残り、このことが酸の過剰投与につながり、望ましくない鉄の溶解が生じたり、酸の過小投与により他の元素の溶解収率が低下したりする可能性がある。
【0074】
酸供給を制御する二つ目の方法は、pH制御である。これは、酸度が非常に低くても供給物の溶解が速い場合、及び/又は、酸の供給速度が遅いために、酸の消費量に対して酸の供給が遅れている場合に可能である。このようにして、システムは常に平衡に近く、酸が過剰に供給されることはない。HSOで浸出する場合、鉄に対する選択性を確保するために1.5~3のpHが観察されている。HClで作業する場合は、鉄に対する選択性を確保するために0.5~2のpHが観察されている。この着手方法の欠点は、低酸度では一般的に浸出速度が低いため、浸出の全体的な期間が長くなる可能性があることである。
【0075】
酸の供給を制御する三つ目の方法は、異なる工程での操作である。第一工程では、第一の量の酸が供給され、前記第一の量は、前記固体出発物質中に含まれる金属(Feを除く)の総量に対して化学量論的に過小である。第二工程では、反応を平衡に到達させられる。この工程の最後に、本質的に全てのFeは第二鉄イオンに酸化され、他の元素の一部とともに固体画分に報告する。この部分は、第一工程で供給されなかった酸の不足分に依存する。HSOで作業する場合、第2工程の最後に、pHは通常2.5より高く、好ましくは3より高い。HClで作業する場合、第二工程の最後に、pHは通常1より高く、好ましくは2より高い。第3工程では、pH制御によって追加量の酸が供給される。この供給は、酸の過剰供給を避けるため、十分に遅い速度で行われる。第3工程は、酸の追加供給なしに目標pHが維持された時点で完了する。HSOで浸出する場合、目標pHは1から3の間である。HClで作業する場合、目標pHは0.5~2の間である。pHが高いほど、溶液中の残留Feが少ないことに対応する。
【0076】
このような“3工程浸出”-第一の量の酸添加、平衡、第二の量の酸添加-には明確な利点がある:
- プロセス全体の必要な時間を減らす;
- 100%正確に組成がわかっているわけではない金属試薬を使用できる柔軟性;及び
- プロセスの効率を低下させるであろう酸の過剰供給を避ける、
二番目の酸添加だけを正確に制御することで、一方、最初の(バルク)酸添加は比較的速く行うことができ、プロセスの高い選択性と効率にとって比較的重要でないとみなされる。
【0077】
さらなる実施形態では、固体出発物質は本質的に硫黄を含まない。これは、不純物としての硫黄の混入を避けるためにHClで浸出する場合に特にそうである。
【0078】
さらなる実施形態では、Cu及びFe沈殿物は、固体出発物質の酸性浸出の工程に少なくとも部分的にリサイクルされる。この実施形態は、上述の未溶解の過剰な中和剤の回収を実現する。また、共沈した可能性のあるNi及び/又はCoも回収される。この「リサイクル・ループ」の追加により、潜在的に価値のある金属の損失が最小限に抑えられる。
【0079】
酸性浸出の代替として、沈殿物は高温冶金製錬プロセスで処理することができ、貴重な供給物質として役立つ。
【0080】
更なる実施形態では、金属試薬と固体出発物質は本質的に同じ組成を有する。酸性浸出工程及び加水分解操作で同じ物質を使用することは、例えば、別個の購入、貯蔵又は前処理がもはや不要になるため、物流的観点から特に興味深い。さらに、この組み合わせは、プロセス中の付加的な不純物の導入を制限し、又は回避さえし、提示されたプロセスからの高純度金属の生産に有利に寄与する。
【0081】
更なる実施形態では、固体出発物質は、電池、電池スクラップ及び/又はそれらの派生製品を含む。このプロセスは、電池、特に使用済みリチウムイオン電池、及びそれらの電池の製造に由来するあらゆる種類の製造廃棄物からの金属の回収に適している。
【発明を実施するための形態】
【0082】
以下の実施例は、本発明の実施形態をさらに説明するために提供される。
【0083】
[実施例1]
一次Co採掘からの中間体である混合水酸化物製品を処理する。この製品は62%の水分を含み、乾式基準で以下の組成を持つことが測定された。
【0084】
【表1】
【0085】
湿った製品600gを水1Lとともにビーカーに入れ、混合してパルプにする。このパルプを70℃に加熱する。パルプのpHが7より高いと記録される。固形物が溶解する間、pHの値が2前後になり、維持されるように希硫酸(500g/l HSO)をビーカーに注入する。目標のpHを維持するためにこれ以上酸が消費されなくなったら、パルプを40℃まで冷却し、ろ過によって固体画分と液体画分を分離する。以下に示される測定組成とともに、1.9Lの浸出液が得られた。滴定により、遊離HSOの濃度は14.7g/Lであると明らかになった。固体画分はまだいくらかのNi、Co、Mnを含み、出発物質が現在の浸出条件の下では完全に溶解していないことを示している。
【0086】
【表2】
【0087】
浸出溶液はビーカー内で80℃に加熱される。十分な酸素分散と固形物の完全懸濁を確実にするため、激しい攪拌を行いながら、酸素ガスをディップパイプを通して溶液中に100l/hで注入する。次に、乾燥微粒化されたNiCoMnCuFe合金を85g加える。この合金は以下の組成を有する:
【0088】
【表3】
【0089】
合金の粒径分布は、110μmであるd50、及び280μmであるd90によって特徴づけられる。ビーカー内の条件は、Fe及びCuを沈殿させるために13時間維持される。蒸発による体積損失を補うための脱塩水を除き、試薬は添加されない。この13時間の間で、pHが監視され、初期値2から5.1への上昇が観察された。その後、パルプを40℃まで冷却し、ろ過によって固体画分と液体画分を分離する。1.8Lの溶液が得られ、組成は以下に示す通りである。
【0090】
【表4】
【0091】
固形画分を2Lの脱塩水で洗浄した後、287gのウェットケーキ(wet cake)を得た。含水率を測定すると53%であり、乾燥画分の組成を測定すると以下のようになる。
【0092】
【表5】
【0093】
この例は、一次Co供給物を浸出した後に得られた溶液から、NiCoMnCuFe合金を用いた加水分解により、本質的に全ての鉄と、銅の大部分を除去する方法を示している。これにより、例えばニッケルからコバルトを分離するための溶媒抽出など、溶液のさらなる下流処理が可能になる。加水分解操作で得られた固体画分は、Cu及びFeに富んでいるが、NiとCoをまだ相当量含んでいる。この残留Ni、Co、及び/又はCuを回収するために、さらなる工程を適用することができる。
【0094】
この例は、出発溶液中に存在するFeの99.97%、Cuの98%が除去されることを示している。
【0095】
[実施例2]
CoNiMnFeCu含有合金を処理する。この合金は、使用済み電池を製錬し、その後、測定された粒径分布が162μm未満のD50、及び361μm未満のD90を有する粉末画分に微粒化することによって得られる。この乾式合金の組成を以下に示す。
【0096】
【表6】
【0097】
この材料6110gを36Lの脱塩水とともに50Lの反応器に導入する。合金を懸濁させ、600L/hの速度でディップパイプ(dip pipe)を使って反応器内に吹き込まれる酸素ガスを分配するために、激しい混合が適用される。反応器は60℃に加熱される。その後4時間の間、8300gの78wt% HSO溶液を2075g/hの一定流速で反応器に送り込む。これは、合金中のCo、Ni、Mn、Cuを溶解するのに必要な化学量論量の約90%である。添加中、pHは5.6から1.2に低下する。
【0098】
その後、酸素流量は300L/hに減少し、反応器温度は80℃に上昇する。これらの条件はさらに8時間維持され、その後pHは3.6まで上昇した。その後再び、78wt%のHSO溶液が、pH基準のコントローラーと500ml/hの容量制限速度を用いて供給される。目標pHは2.7に設定されている。3時間後、このpH値に達し、もはや酸は本質的に消費されなくなった。この工程では、さらに877gの78wt% HSO溶液が添加される。この時点で、ほとんどのNi、Co、Mn、Cuは溶解し、一方でFeの大部分は沈殿している。蒸発による体積損失を補うため、全工程中、水を加え、全体積を約40Lに維持する。反応器を40℃に冷却し、反応混合物を真空フィルターでろ過する。37Lの浸出液が濾過後に得られ、測定組成は以下の通りである。
【0099】
【表7】
【0100】
乾燥後の固体残渣の組成を測定し、以下のようになる。
【0101】
【表8】
【0102】
次の工程では、浸出溶液は銅電解採取(EW)操作を受け、溶液のCu濃度を5.4g/Lまで低下させる。つまり、23.6g/LのCuがカソードに堆積し、溶液から抽出されることを意味する。この操作では、溶液中に化学量論的な量の遊離酸も生成される。EW操作後、遊離HSO濃度は滴定により38g/Lと測定される。EW後の全組成を以下に示す。Cu以外の他の元素の濃度におけるわずかな偏差は、分析技術の正確性が制限され、EW操作中の蒸発によるわずかな体積損失、及びEW操作中の沈殿の可能性によって説明できることに留意されたい。
【0103】
【表9】
【0104】
酸素ガスが600L/hの速度でディップパイプを使って反応器に吹き込まれながら、EW後に得られた溶液30Lを50Lの反応器に導入し、80℃に加熱する。激しく攪拌される。5726gの同じCoNiMnFeCu合金を導入し、これは以前に本実施例の浸出工程の出発材料としても使用したものである。蒸発による体積損失を補うために水を加えながら、反応器をこの状態に16時間維持する。この時間後、ほぼすべての遊離酸が消費され、pHは結果として5.0まで上昇する。その後、パルプは室温まで冷却される。攪拌と酸素注入を止め、デカンテーションで液体画分と固体画分を分離する。24時間後、溢れた液20Lが反応器から除去され、濾過して微量の残留固形分を除去する。液体の組成を以下に示す。ほとんどの固形分と残りの浸出液を含む約10Lのアンダーフロー(underflow)が反応器に残る。
【0105】
【表10】
【0106】
この実施例は、電池の製錬により得られたCoが豊富なCoNiMnFeCu合金を、精製されたCo、Ni、Mn含有硫酸塩溶液でどのように変質させることができるかを証明している。これは、FeとCuの両方の一括除去操作と、本発明による残留Cu及びFeの除去のための加水分解操作の組み合わせの使用と、を使用して行われる。
【0107】
Feの一括除去は、導入する酸の量を制限することによって浸出操作で行われ、その結果、浸出操作の終了時に遊離酸濃度が低くなる。これらの条件下では、Ni、Co、Mn、CuはFeよりも優先的に溶解する傾向があり、供給物中のFeの大部分を浸出残渣に分離することができる。浸出後、溶液中にいくらかの残留Feを許容することで、良好な選択性が達成され、浸出ケーキのNi及びCo汚染が制限される。
【0108】
Cuの一括除去は電解採取(EW)によって行われ、NiとCoの損失を実質的に伴わない高純度カソードが製造される。Cuカソードの電流効率及び品質は、比較的低いCu濃度において強く低下するため、EWはCuの完全除去には適さない。
【0109】
CoNiMnFeCu合金供給物そのものを試薬として用い、酸素ガスを酸化剤として組み合わせる、提案された加水分解操作により、Cu及びFeの残留量が除去される。この計画では、供給材料以外に硫酸と酸素のみが試薬として使用され、不純物の導入が本質的に回避される。
【0110】
[実施例3]
以前の加水分解操作からの残留画分を処理する。これは、加水分解操作の後に反応器に残る、実施例2からのアンダーフロー画分について証明される。これは溶液と固体の組み合わせである。実施例2で提供された分析に基づき、この画分の金属含有量は以下に示すように推定される。
【0111】
【表11】
【0112】
この画分は新たな操作の出発物質であり、同じ反応器で浸出される。そうするために、25Lの脱塩水を加え、合金を懸濁させ、600L/hの速度でディップパイプを使って反応器に吹き込まれる酸素ガスを分配するために混合する。反応器は80℃に加熱される。その後16時間かけて、78wt%のHSO溶液を反応器に送り込むことにより、パルプのpHを2.7まで低下させる。これは最大0.5L/hの速度で行われる。蒸発による体積損失を補うために脱塩水を加えて、全体積を約40Lに保つ。16時間後、Ni、Co、Mn、Cuの大部分及びFeのごく一部が溶解した。反応器を40℃に冷却し、反応混合物を真空フィルターを用いてろ過する。濾過後、約38Lの浸出液が得られ、測定された組成を以下に示す。
【0113】
【表12】
【0114】
次の工程では、銅の一部がセメンテーションによって除去される。そうするために、浸出液は反応器内で90℃に加熱され、よく撹拌される。反応器のヘッドスペースに窒素を流し、浴中への酸素の混入を防ぐ。金属ニッケル粉末を少しずつ添加し、中間標本抽出と銅濃度の測定を行う。78wt%のHSO水溶液を投入することにより、pHを2.0に安定させる。Ni粉末の表面に金属Cuの層が固着しているのが視覚的に観察される。14g/Lの残留Cu濃度が得られるまでNi粉末を添加する。これは、Ni濃度の増加によって平衡をとられる。溶液の組成を再度測定すると以下のようになる。
【0115】
【表13】
【0116】
セメンテーション操作後に得られた溶液2Lをビーカーに導入する。十分な酸素分散と固形物の完全懸濁を確実にするため、激しい攪拌を行いながら、酸素ガスをディップパイプを通して溶液中に100L/hで注入する。乾燥微粒化したNiが豊富なNiCoCuFe合金を200g加える。この合金は以下に示す組成を有する。
【0117】
【表14】
【0118】
合金の粒径分布は、143μmのd50及び296μmのd90によって特徴づけられる。ビーカー内の条件は、FeとCuを沈殿させるために8時間維持される。蒸発による体積損失を補うための脱塩水を除き、試薬は添加しない。この8時間の間に、ビーカー内のpHが監視され、初期値2.0から5.2への上昇が観察される。その後、パルプを40℃まで冷却し、ろ過によって固体画分と液体画分を分離する。1.7Lの溶液が得られる。組成を測定し以下に示す。
【0119】
【表15】
【0120】
この実施例は、先の実施例からの残留固形分及び溶液を処理し、Feを含まず、残留Cu濃度が非常に低い混合硫酸溶液としてNi、Co、Mnを回収する方法を示している。この場合、出発物質中のCuの大部分は、Ni粉末を用いたセメンテーションによって選択的に除去される。残りのCu及びすべてのFeは、その後、Niが豊富なNiCoCuFe合金を用いた提案された加水分解操作で除去される。
【0121】
[実施例4]
湿潤不純物混合FeCuNi水酸化物ケーキを処理する。含水率は63%と決定され、乾式基準のケーキの金属含有量を以下に示す。
【0122】
【表16】
【0123】
400gのウェットケーキを、1.5Lの水と250mlの36wt%塩酸溶液とともにビーカーに入れる。攪拌しながら、このパルプを70℃に3時間加熱し、蒸発による体積損失を補うために脱塩水を加え、総体積を2Lに保つ。ここでは、視覚的に全ての固形物が溶解し、浸出が完了している。試料を採取し、液体の組成を測定する。組成を以下に示す。
【0124】
【表17】
【0125】
次の工程では、造粒したフェロニッケル合金を用いた加水分解により、この溶液からFe及びCuの大部分を除去する。この乾燥顆粒は略球形で、1~4mmの直径を有する。組成を以下に示す。
【0126】
【表18】
【0127】
308gのフェロニッケル顆粒を浸出液を含むガラスビーカーに加える。酸素を75L/hの速度で注入する。混合は、タービンの形をしたインペラー(impeller)を500rpmで使用してなされ、顆粒の懸濁を避けながら、液体の良好な均質化と酸素の良好な分布を確保する。溶液の温度は85℃まで上昇させる。蒸発による体積損失を補うために脱塩水を加えながら、これらの条件を12時間維持する。この期間の後に、溶液のpHは0未満から2.9まで上昇した。ほとんどの顆粒は溶解し、懸濁した固形微粉末がビーカー内に形成される。その後、パルプを40℃まで冷却し、固体画分と液体画分をろ過により分離する。1.2Lの溶液が回収され、その組成は以下の通りである。
【0128】
【表19】
【0129】
この実施例では、提示した加水分解操作を塩化物を主成分とする溶液でどのように適用できるかを示す。この場合、混合水酸化物供給が処理される。出発物質の浸出後、Cuの大部分及びFeのほぼ全てが、フェロニッケル合金による中和によって浸出液から除去される。この操作では、フェロニッケル金属中のCoとNiの一部が溶解し、浸出液中のCu及びFeが本質的に置換される。このようにして、溶液中の金属の総量が維持され、希釈が回避される。
【0130】
[実施例5]
181gのCoSO・7HO結晶、311gのNiSO・6HO結晶、16gのMnSO・HO結晶、58gのCuSO・5HO結晶、及び10gのFeSO・7HO結晶を、3Lのビーカー中の1.60Lの脱塩水に加える。ビーカーには、蒸発による体積減少を避けるために還流冷却器が取り付けられている。さらに10gの濃HSO(98%溶液)を加える。混合物をタービンミキサーで700rpmで撹拌しながら80℃に加熱する。1時間後、材料は溶解し、以下の組成の浸出液が得られる。
【0131】
【表20】
【0132】
この溶液のpHを測定したところ、2.6であった。次の工程では、この溶液に市販の金属Ni粉末を用いた加水分解操作を受けさせる。この粉末はNi純度が99.9%より高く、107μmのD50粒径を有する。この粉末114gをビーカーに加え、80℃に保ち、700rpmで合計50時間撹拌する。酸化は過酸化水素(市販の35%溶液)を添加することで行われる。過酸化水素の添加は、Ag/AgCl参照電極に対して400mVより高く維持される溶液の酸化還元電位によって制御される。合計356gの過酸化水素溶液を添加した。
【0133】
4時間後、溶液の組成を測定する。Fe濃度は10mg/l未満に低下し、Cuは4.0g/lに減少している。25時間後、Feは10mg/l未満を維持し、Cuは3.4g/lに減少した。50時間後、Feは3mg/lと測定され、Cuは1.8g/lに減少した。溶液のpHは4.1と測定された。ビーカーの内容物をろ過し、残渣を105℃で16時間乾燥させる。乾燥後、128gの固形物が回収され、組成は以下の通りである。
【0134】
【表21】
【0135】
この場合、加水分解中に、Niのみからなる金属試薬によってCu及びFeが導入されることはない。したがって、溶液からCu及びFeを除去する効率は、流入する不純物溶液中のCu及びFeの量に対する、残留物中のCu及びFeの量の比として計算できる。Cuの場合、この比率は80%に等しく、Feの場合、この比率は99.8%に等しい。
【手続補正書】
【提出日】2023-09-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni及びCoの1種以上をさらに含む酸性水溶液からCu及びFeを除去するためのプロセスであって、以下の工程を含む、プロセス:
- 酸化条件下で、Ni及びCoの1種又は2種以上を含む金属試薬を酸性溶液に添加し、それによって酸性溶液を中和し、Cu及びFeを含む沈殿物を形成する工程であって、Cu及びFeの少なくとも一部が水酸化物の形態であり、前記金属試薬は金属粉末の形態である、工程;及び
- Cu及びFeの沈殿物を溶液から分離し、それによりCu及びFeが枯渇した溶液を得る工程。
【請求項2】
酸性水溶液がHCl又はHSOを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記金属試薬が金属合金である、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記金属試薬が硫黄を含まない、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
粒子が500μm未満の等価粒径d90を有するか、又は粒子が200μm未満の平均等価粒径d50を有する粒径分布を前記金属粉末が有する、請求項に記載のプロセス。
【請求項6】
酸化条件が、H及び/又はO含有ガスの添加によって得られる、請求項1~のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
プロセスが大気圧で実施される、請求項1~のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
金属試薬を添加する工程において、中和後に溶液が、酸性水溶液がHClを含むという条件下で、2.0を超えるpHを有するか、又は酸性水溶液がHSOを含むという条件下で、3.5を超えるpHを有する、請求項1~いずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記金属試薬が、前記溶液中の遊離酸及び沈殿反応で生成された酸の総量に対して化学量論的過剰で酸性溶液に添加される、請求項1~のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
Cu及びFeを含む前記沈殿物が未反応の金属試薬も含む、請求項1~のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
酸性水溶液が、Cu、Fe、並びにNi及びCoの少なくとも1つを含む固体出発物質を酸性浸出する工程を実施することによって得られる、請求項1~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
Cu及びFeを含む前記沈殿物を、固体出発物質を酸性浸出する工程に少なくとも部分的に再利用する、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
固体出発物質及び金属試薬が同じ組成を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
固体出発物質又は金属試薬が、電池、廃電池、電池スクラップ及び/又は電池の製造からの廃棄物を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載のプロセス。
【国際調査報告】