(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】金属基材と保護層とを含む負極
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20241128BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20241128BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20241128BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20241128BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20241128BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20241128BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241128BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20241128BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20241128BHJP
H01M 4/46 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/1395
H01M50/46
H01M50/414
H01M50/426
H01M50/403 D
H01M50/403 E
H01M50/403 A
H01M4/525
H01M4/58
H01M4/38 Z
H01M4/46
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535284
(86)(22)【出願日】2022-12-13
(85)【翻訳文提出日】2024-06-12
(86)【国際出願番号】 EP2022085535
(87)【国際公開番号】W WO2023110823
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】トラヴィス・トンプソン
【テーマコード(参考)】
5H021
5H050
【Fターム(参考)】
5H021AA06
5H021BB01
5H021BB15
5H021EE02
5H021EE10
5H021EE15
5H021EE17
5H021HH01
5H050AA07
5H050BA16
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA11
5H050CA17
5H050CB12
5H050DA03
5H050EA11
5H050EA23
5H050EA24
5H050EA28
5H050FA04
5H050GA02
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
(57)【要約】
本発明は、金属基材と、金属基材の少なくとも一部の上に直接配置された保護層とを含む電池のための負極に関し、保護層は、2つ以上のモノマー間の反応によって得ることができるコポリマー、フルオロポリマー添加剤、及びリチウム塩を含む。本発明者らは、保護層が負極上で自己修復膜として機能することを実証した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池のための負極であって、
a.金属基材と、
b.前記金属基材の少なくとも一部の上に直接配置された保護層であって、
前記保護層は、
式(I)
【化1】
(式中、R
1=H又はCH
3であり、R
2は、C
2~6アルカンジイルであり、前記アルカンジイルは、ハロゲン化物、C
1~4アルキル、CF
3又はOR
3から選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換されており、R
3は、水素又はC
1~4アルキルから選択され、X
1=NH又はOであり、nは、5~150、好ましくは8~100、より好ましくは10~50から選択される整数である)によって表される第1のモノマーと、
式(II)
【化2】
(式中、R
4=H又はCH
3であり、R
5は、C
2~6アルカンジイルであり、前記アルカンジイルは、ハロゲン化物、C
1~4アルキル、CF
3又はOR
6から選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換されており、R
6は、水素又はC
1~4アルキルから選択され、X
2=NH又はOであり、X
3=SH、NH
2又はOHであり、mは、1~10、好ましくは1~5から選択される整数であり、より好ましくはm=1である)によって表される第2のモノマーと、
の間の反応によって得ることができるコポリマーであって、
前記第1のモノマー対前記第2のモノマーの重量比が1対5~8対1(w/w)である、コポリマーと、
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ペンタフルオロプロピレンコポリマー、プロピレンテトラフルオロエチレンコポリマー、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマー、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ化ビニリデン-ペルフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレンコポリマー及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるフルオロポリマー添加剤と、
リチウム塩と、
を含み、
前記コポリマー対前記フルオロポリマー添加剤の重量比が1対5~8対1(w/w)である、保護層と、
を含む、電池のための負極。
【請求項2】
前記フルオロポリマー添加剤が、ポリフッ化ビニリデン又はポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)、好ましくはポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)である、請求項1に記載の負極。
【請求項3】
前記リチウム塩が、Li
2CO
3、Li
2O、Li
2C
2O
4、LiOH、LiX、R
13OCO
2Li、HCOLi、R
13OLi、Li
2O、Li
2C
2O
4、(R
13OCO
2Li)
2、(CH
2OCO
2Li)
2、Li
2S、LiSCN、LiN(CN)
2、LiClO
4、LiBF
4、LiAsF
6、LiPF
6、LiCF
3SO
3、LiC(CF
3SO
2)
3、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2F)
2、LiSbF
6、LiPF
3(CF
2CF
3)
3、LiPF
3(CF
3)
3、LiB(C
2O
4)
2(式中、R
13=炭化水素及びX=F、Cl、I又はBr)及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくは、LiSCN、LiN(CN)
2、LiClO
4、LiI、LiBF
4、LiAsF
6、LiCF
3SO
3、LiCF
3(SO
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2F)
2、LiSbF
6、LiPF
3(CF
2CF
3)
3、LiPF
3(CF
3)
3、LiB(C
2O
4)
2及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、より好ましくは、前記リチウム塩が、LiN(SO
2CF
3)
2又はLiN(SO
2F)
2であり、最も好ましくは、リチウム塩が、LiN(SO
2F)
2である、請求項1又は2に記載の負極。
【請求項4】
前記コポリマー対前記フルオロポリマー添加剤の重量比が、1対2~5対1(w/w)、より好ましくは1対2~4対1(w/w)、最も好ましくは2対1~4対1(w/w)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の負極。
【請求項5】
前記第1のモノマーが、式(III):
【化3】
(式中、oは、5~150、好ましくは8~100、より好ましくは10~50から選択される整数である)によって表される、請求項1~4のいずれか一項に記載の負極。
【請求項6】
前記第2のモノマーが、式(IV):
【化4】
によって表される、請求項1~5のいずれか一項に記載の負極。
【請求項7】
前記第1のモノマー対前記第2のモノマーの重量比が、1対3~7対1(w/w)、好ましくは1対2~5対1(w/w)、最も好ましくは1対2~2対1(w/w)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の負極。
【請求項8】
前記コポリマーが、光開始剤の使用による前記第1のモノマーと前記第2のモノマーとの反応によって得られる、請求項1~7のいずれか一項に記載の負極。
【請求項9】
前記リチウム塩の量が、前記保護層の総重量に基づいて5~70重量%、好ましくは前記保護層の総重量に基づいて、10~65重量%、より好ましくは40~60重量%である、請求項1~8のいずれか一項に記載の負極。
【請求項10】
前記保護層が、1~10μmの厚さを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の負極。
【請求項11】
前記コポリマーが、熱アニーリング工程に供される、請求項1~10のいずれか一項に記載の負極。
【請求項12】
電池のための負極を調製するための方法であって、以下の工程:
i)請求項1~11に記載の第1のモノマー、請求項1~11に記載の第2のモノマー、光開始剤、請求項1~11に記載のリチウム塩、請求項1~11に記載のフルオロポリマー添加剤を、有機液体に添加する工程と、
ii)工程i)の混合物を、金属基材の少なくとも一部の上にコーティングする工程と、
iii)工程ii)のコーティングされた金属基材を、架橋工程に供する工程と、
iv)任意選択的に、工程iii)の架橋されたコーティングされた金属基材を、熱アニーリング工程に供する工程と、
を含む、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法によって得ることができる負極。
【請求項14】
a.請求項1~11又は13のいずれか一項に記載の負極と、
b.正極と、
c.電解質組成物と、
を含む、電池。
【請求項15】
前記正極が、リチウムニッケル-マンガン-コバルト酸化物、リチウムニッケル-マンガン酸化物、リチウムニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物、リチウムコバルト酸化物、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウム、リン酸コバルト鉄リチウム、硫化リチウム、硫黄及びアルミニウムからなる群から選択される正極材料を含み、好ましくは、前記正極材料が、リチウムニッケル-マンガン-コバルト酸化物又はリチウムニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物である、請求項14に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基材と、金属基材の少なくとも一部の上に直接配置された保護層とを含む電池のための負極、負極を調製するための方法、負極を含む電池、及び負極上における保護層の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
小型軽量の電子製品、電子デバイス、通信デバイスなどの開発が急速に進行し、環境問題に対する電気自動車の必要性が大きく台頭するにつれて、これらの製品のための電源として使用される二次電池の性能向上が求められている。中でも、リチウム金属二次電池は、エネルギー密度が高く、参照電極電位が高いため、高性能電池として脚光を浴びている。
【0003】
リチウム金属の高い反応性のために、リチウムと液体電解質との間の副反応が、電池の充放電中に起こり、それによって電解質の分解が促進される。加えて、様々な理由により、電池作動中にリチウム金属表面上で電子密度の不均一化が発生し得る。その結果、電極表面上に樹枝状のリチウムデンドライトが生成され、電極表面が非常に粗くなり、セパレータの損傷を引き起こす可能性がある。これらの副反応は、リチウム金属電池のクーロン効率及び/又は電気化学的安定性を低下させ、リチウム電池の寿命の減少を引き起こす。
【0004】
したがって、リチウム金属を安定化させ、電解質とリチウム金属との副反応を防止又は減少させるための様々な試みが行われている。
【0005】
韓国特許出願公開第20030042288(A)号には、リチウム金属の表面上に形成された架橋ポリマー保護膜によってリチウム金属負極の表面上のデンドライト成長を抑制することができるリチウム二次電池が記載されており、そのポリマーは、架橋1,6-ヘキサンジオールジアクリレート又は1,6-ヘキサンジオールジアクリレートと、オリゴ(エチレングリコール)ジアクリレートとのコポリマーである。
【0006】
米国特許出願公開第2016/0372743(A1)号は、リチウム金属と揮発性液体電解質との直接接触を防止するための、リチウム金属アノード上のコーティングに関する。コーティングは、PVDFホモポリマー、イオン液体及びLiFSIからなる単層ポリマー、又はPVDF、イオン液体及びLiFSIの第1の外層と、ポリ(スチレン-アクリロニトリル)及びLiFSIの第2の内層とを有する二重層ポリマーコーティングのいずれかからなる。
【0007】
しかしながら、既知の保護層の欠点は、依然としてデンドライトの貫通である。デンドライトの貫通は、充電時、リチウムがアノードにめっきされるに従って発生し、デンドライトが形成され、ポリマー膜を突き破り、それによってポリマー膜が引き裂かれることがある。ポリマー膜中の切れ目による抵抗の減少は、より低い抵抗の局在化領域及び影響を受けた領域におけるより大きな程度のめっきをもたらし、これは、デンドライト形成を悪化させる。デンドライトの形成は、これらの系ではほとんど避けられず、ポリマー膜の厚さは薄い(約5~10μm)ため、ポリマー保護層でのデンドライトの形成は非常に起こりやすくなる。その結果、リチウム金属電池のクーロン効率、電気化学的安定性及び/又は寿命が低下する。
【0008】
したがって、負極の周囲に、デンドライト形成によって作られたいずれの穴又は切れ目の周囲においても再形成可能である保護層を実現する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国特許出願公開第20030042288(A)号
【特許文献2】米国特許出願公開第2016/0372743(A1)号
【特許文献3】中国特許出願公開第111162314(A)号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】I.Gadwal,Macromol2021,1,18-36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、金属基材と、金属基材の少なくとも一部の上に直接配置された保護層とを含む電池のための負極を提供することである。
【0012】
本発明の更なる目的は、金属基材と、金属基材の少なくとも一部の上に直接配置された保護層とを含む電池のための負極を調製するための方法を提供することである。
【0013】
本発明の更なる目的は、本発明による電池のための負極を調製するための方法によって得ることができる負極を提供することである。
【0014】
本発明の更なる目的は、本発明による負極と、正極と、電解質組成物とを含む電池を提供することである。
【0015】
本発明の更なる目的は、負極上のデンドライトの成長を低減し、かつ/又は電池のサイクル効率を改善するための、自己修復膜としての負極上での保護層の使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の目的は、
a.金属基材と、
b.金属基材の少なくとも一部の上に直接配置された保護層であって、
保護層は、
2つ以上のモノマーの間の反応によって得ることができるコポリマーと、
フルオロポリマー添加剤と、
リチウム塩と、
を含む、保護層と、
を含む、電池のための負極を提供することによって達成される。
【0017】
本発明者らは、驚くべきことに、添付の実施例において実証されるように、コポリマーと、フルオロポリマー添加剤と、リチウム塩とを含む保護層が、自己修復ポリマー膜として機能することを見出した。本発明による保護層は、自己修復特性も有する機械的に強固なポリマーであり、ポリマー鎖移動度と、水素結合モチーフの量と、架橋度との間の注意深いバランスの結果である。
【0018】
いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、本発明によるコポリマーが、周囲温度で破壊及び再形成されて保護層の自己修復特性をもたらし得る十分な水素結合を含むと考えている。
【0019】
自己修復ポリマーは当技術分野で公知であり(例えば、I.Gadwal,Macromol2021,1,18-36を参照されたい)、動的化学結合に基づく自己修復ポリマー電解質及び二次リチウム電池におけるその適用が報告されている(中国特許出願公開第111162314(A)号)が、本発明者らは、自己修復特性を示す本発明による保護膜が、効果的なアノード保護ももたらして、リチウムのデンドライト成長を低減し、電解質枯渇を最小限に抑えることを初めて実証している。更に、本発明による保護層は、添付の実施例において実証されるように、改善された膜伝導性、並びに向上した機械的特性及び化学的特性を有する。最後に、得られた保護負極はまた、以下の実施例に示されるように、保護されていないリチウム金属系参照セルと比較してセルのサイクル寿命を有意に延ばす。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】3つのポリマー配合物1-a、1-b及び1-c(表1も参照されたい)の各々のSEM(走査型電子顕微鏡)画像。
【
図2】DME中4.5MのLiFSI電解質における、保護されていないリチウムアノード及びポリマー配合物1-a、1-b及び1-cを使用している保護されたアノードのセル構築後20時間にわたる各Li-Li対称コインセルについて測定された未補償抵抗(R
u)。(表1も参照されたい)。
【
図3】DME中4.5MのLiFSI電解質において、保護されていないリチウムアノード及びポリマー配合物2-a、2-b、2-c及び2-dを使用している保護されたアノードに関して、セル構築後20時間にわたって各Li-Li対称コインセルについて測定された未補償抵抗(R
u)(表2も参照されたい)。
【
図4】様々な量のHEAAを含有するポリマー膜のSEM顕微鏡写真であり、各ポリマー膜をメスで切断し、撮像し、次いで、DME中4.5MのLiFSIに一晩(16時間)浸漬した後、純粋なDMEですすぎ、再び撮像した。
【
図5】様々なPEG対HEAA比を有する保護されたアノードを含有するLi-NMCパウチセルの総比放電容量(サイクル方式(cycling regime)はC/3~D/1であり、電位は充電の最上部及び最下部にて保持した)。
【
図6】様々なPEG対HEAA比を有する保護されたアノードを含有するLi-NMCパウチセルのクーロン効率(サイクル方式はC/3~D/1であり、電位は充電の最上部及び最下部にて保持した)。
【
図7A】(a)熱アニーリングが施されていない場合の(DME中4.5MのLiFSI)対TTE(3対1、v/v)中のポリマー膜伝導率;(b)熱アニーリングが施されている場合の(DME中4.5MのLiFSI)対TTE(3対1、v/v)中のポリマー膜伝導率。
【
図7B】(a)熱アニーリングが施されていない場合の(DME中4.5MのLiFSI)対TTE(3対1、v/v)中のポリマー膜伝導率;(b)熱アニーリングが施されている場合の(DME中4.5MのLiFSI)対TTE(3対1、v/v)中のポリマー膜伝導率。
【
図8】熱アニーリングを施した、様々なPEG対HEAA比を有する保護されたアノードを含有するLi-NMCパウチセルの総比放電容量(サイクル方式はC/3~D/1であり、電位は充電の最上部及び最下部において保持した)。
【
図9】熱アニーリングを施した、様々なPEG対HEAA比を有する保護されたアノードを含有するLi-NMCパウチセルのクーロン効率(サイクル方式はC/3~D/1であり、電位は充電の最上部及び最下部において保持した)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実行を可能にするために、図面及び以下の発明を実施するための形態において、好ましい実施形態を詳細に記載する。本発明は、これらの特定の好ましい実施形態を参照して記載されているが、本発明は、これらの好ましい実施形態に限定されないことが理解されよう。反対に、本発明は、以下の詳細な記載及び添付の図面を考慮することで明らかになるように、多数の代替物、改変及び均等物を含む。
【0022】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される「含む(comprising)」という用語は、その後に列挙される手段に限定されると解釈されるべきではなく、他の要素又は工程を排除するものではない。それは、言及された通りの記載された特徴、整数、工程、又は成分の存在を明記するものとして解釈される必要があるが、1つ以上の他の特徴、整数、工程若しくは成分、又はこれらの群の存在若しくは追加を排除するものではない。したがって、「成分A及びBを含む組成物」という表現の範囲は、成分A及びBのみからなる組成物に限定されるべきではない。それは、本発明に関して、組成物の唯一の関連成分がA及びBであることを意味する。したがって、「含む(comprising)」及び「含む(including)」という用語は、より限定的な用語「から本質的になる(consisting essentially of)」及び「からなる(consisting of)」を包含する。
【0023】
本明細書で使用される場合、「任意選択の」又は「任意選択的に」は、その後に記載される事象又は状況が、起こってもよく、又は起こらなくてもよいことを意味し、その記載は、当該事象又は状況が起こる場合、及び当該事象又は状況が起こらない場合を含む。
【0024】
本明細書で使用される場合、「アルキル」という用語は、当技術分野で概ね理解されている最も広い意味を有し、直鎖若しくは分岐鎖、又はこれらの組み合わせである部分を含み得る。特に、「アルキル」という用語は、単独で又は組み合わせて、直鎖又は分岐鎖アルカン誘導基を意味し、例えば、CF~Gアルキルは、F~G個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖アルキル基を定義し、例えば、C1~4アルキルは、例えば、メチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル(イソプロピル)、1 5-ブチル、2-ブチル、2-メチル-2-プロピル(tert-ブチル)、2-メチル-1-プロピル(イソブチル)などの1~4個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖アルキル基を定義する。
【0025】
「アルカンジイル」という用語は、単独で又は組み合わせて、直鎖又は分岐鎖アルキル由来の二価の基を意味する。
【0026】
本明細書で使用される場合、「未補償抵抗(Ru)」という用語は、セル抵抗及び任意のわずかな追加の抵抗を含む抵抗値として定義される。セル抵抗への主な寄与は、例えば、液体電解質のイオン伝導性及び/又はポリマー保護層のイオン伝導性に由来する。小さな抵抗寄与は、例えば、ケーブル/接点などの金属部品である。
【0027】
負極
上記のように、本発明の第1の態様は、
a.金属基材と、
b.金属基材の少なくとも一部の上に直接配置された保護層であって、
保護層は、
式(I)
【0028】
【化1】
(式中、R
1=H又はCH
3であり、R
2は、C
2~6アルカンジイルであり、アルカンジイルは、ハロゲン化物、C
1~4アルキル、CF
3又はOR
3から選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換されており、R
3は、水素又はC
1~4アルキルから選択され、X
1=NH又はOであり、nは、5~150、好ましくは8~100、より好ましくは10~50から選択される整数である)によって表される第1のモノマーと、
式(II)
【0029】
【化2】
(式中、R
4=H又はCH
3であり、R
5は、C
2~6アルカンジイルであり、アルカンジイルは、ハロゲン化物、C
1~4アルキル、CF
3又はOR
6から選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換されており、R
6は、水素又はC
1~4アルキルから選択され、X
2=NH又はOであり、X
3=SH、NH
2又はOHであり、mは、1~10、好ましくは1~5から選択される整数であり、より好ましくはm=1である)によって表される第2のモノマーと、
の間の反応によって得ることができるコポリマーであって、
第1のモノマー対第2のモノマーの重量比が1対5~8対1(w/w)である、コポリマーと、
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ペンタフルオロプロピレンコポリマー、プロピレンテトラフルオロエチレンコポリマー、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマー、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ化ビニリデン-ペルフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレンコポリマー及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるフルオロポリマー添加剤と、
リチウム塩と、
を含み、
コポリマー対フルオロポリマー添加剤の重量比が1対5~8対1(w/w)である、保護層と、
を含む、電池のための負極(すなわち、アノード)を提供することである。
【0030】
金属基材
本発明の一実施形態は、金属基材を含む本発明による負極である。好ましい実施形態では、金属基材は、導電性金属、好ましくはステンレス鋼、銅、ニッケル、鉄、コバルト、リチウム、リチウム合金又はこれらの組み合わせ、より好ましくはステンレス鋼、銅、ニッケル、リチウム、リチウム合金又はこれらの組み合わせを含む。より好ましい実施形態では、金属基材は、リチウム金属基材又はリチウム金属合金基材、好ましくはリチウム金属基材である。当業者によって理解されるように、金属基材は、ステンレス鋼、銅、ニッケル、鉄、コバルトなどの支持箔上に堆積された金属、又は、箔として若しくは表面上に堆積された層として作製されたリチウム層若しくはリチウム合金層であり得る。
【0031】
コポリマー
本発明の一実施形態は、
式(I)
【0032】
【化3】
(式中、R
1=H又はCH
3であり、R
2は、C
2~6アルカンジイルであり、アルカンジイルは、ハロゲン化物、C
1~4アルキル、CF
3又はOR
3から選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換されており、R
3は、水素又はC
1~4アルキルから選択され、X
1=NH又はOであり、nは、5~150、好ましくは8~100、より好ましくは10~50から選択される整数である)によって表される第1のモノマーと、
式(II)
【0033】
【化4】
(式中、R
4=H又はCH
3であり、R
5は、C
2~6アルカンジイルであり、アルカンジイルは、ハロゲン化物、C
1~4アルキル、CF
3又はOR
6から選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換されており、R
6は、水素又はC
1~4アルキルから選択され、X
2=NH又はOであり、X
3=SH、NH
2又はOHであり、mは、1~10、好ましくは1~5から選択される整数であり、より好ましくはm=1である)によって表される第2のモノマーと、
の間の反応によって得ることができるコポリマーである。
【0034】
本発明の一実施形態は、式(I)(式中、R1は、H又はCH3であり、好ましくはHであり、R2は、C2~6アルカンジイル、好ましくはC2~4アルカンジイル、より好ましくはC2アルカンジイルであり、アルカンジイルは、ハロゲン化物、C1~4アルキル、CF3又はOR3から選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換されており、R3は、水素又はC1~4アルキルから選択され、X1=NH又はO、好ましくはOであり、nは、5~150、好ましくは8~100、より好ましくは10~50から選択される整数である)によって表される第1のモノマーである。
【0035】
本発明の好ましい実施形態は、本発明による第1のモノマーであり、第1のモノマーは、式(III)
【0036】
【化5】
(式中、oは、5~150、好ましくは8~130、より好ましくは10~100から選択される整数である)によって表される。特に、式(III)によって表される第1のモノマーは、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)である。
【0037】
本発明の好ましい実施形態は、本発明による第1のモノマーであり、第1のモノマーは、50g/molを超える、好ましくは100g/molを超える、より好ましくは200g/molを超える、更により好ましくは550g/molを超える、最も好ましくは700g/molを超える数平均分子量Mnを有する。本発明の好ましい実施形態は、本発明による第1のモノマーであり、第1のモノマーは、20,000g/mol未満、好ましくは7,000g/mol未満、より好ましくは4,000g/mol未満、更により好ましくは2,000g/mol未満、最も好ましくは1,000g/mol未満の数平均分子量Mnを有する。本発明の好ましい実施形態は、本発明による第1のモノマーであり、第1のモノマーは、50~20,000g/mol、好ましくは100~7,000g/mol、より好ましくは200~4,000g/mol、更により好ましくは550~2,000g/mol、最も好ましくは700~1,000g/molの数平均分子量Mnを有する。特定の例は、250g/mol、575g/mol、700g/mol、4,000g/mol又は6,000g/molの数平均分子量Mnを有するPEGDAである。本発明による第1のモノマーの好ましい例は、250g/mol、575g/mol又は700g/mol、好ましくは700g/molの数平均分子量Mnを有するPEGDAである。上記のような様々な数平均分子量を有するPEGDAは、Sigma-Aldrichなどの供給業者から商業的に購入することができる。
【0038】
以下の実施例で実証されるように、本発明による第1のモノマー、特にPEGDAは、本発明によるコポリマー及び/又は本発明による保護層のリチウムイオン伝導性を改善する。
【0039】
本発明の一実施形態は、式(II)によって表される第2のモノマーであり、式中、R4=H又はCH3、好ましくはHであり、R5は、C2~6アルカンジイル、好ましくはC2~4アルカンジイル、より好ましくはC2アルカンジイルであり、アルカンジイルは、ハロゲン化物、C1~4アルキル、CF3又はOR6から選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換されており、R6は、水素又はC1~4アルキルから選択され、X2=NH又はO、好ましくはNHであり、X3=SH、NH2又はOH、好ましくはOHであり、mは、1~10、好ましくは1~5から選択される整数であり、最も好ましくはm=1である。
【0040】
本発明の好ましい実施形態は、本発明による第2のモノマーであり、第2のモノマーは、式(IV)
【0041】
【化6】
によって表され、特に式(IV)によって表される第2のモノマーは、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)である。HEAAは、Sigma-Aldrich及びTCI Chemicalsなどの供給業者から商業的に購入することができる。
【0042】
以下の実施例で実証されるように、本発明による第2のモノマー、特にN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)を、コポリマーに導入すると、コポリマーの自己修復特性が得られる。本発明による第1のモノマーは、水素結合受容体、例えば、式(I)によって表される第1のモノマーのカルボニル官能基、好ましくは式(III)によって表される第1のモノマーのエステル官能基を含む。本発明による第2のモノマーは、水素結合受容体、例えば、式(II)によって表される第2のモノマーのカルボニル官能基、好ましくは式(IV)によって表される第2のモノマーのアミド官能基を含む。本発明による第2のモノマーは、水素結合供与体、例えば、式(II)によって表される第2のモノマーの置換基X3に存在する水素、例えば、チオール、アミノ又はヒドロキシル官能基、好ましくは式(IV)によって表される第2のモノマーのヒドロキシル基の水素を含む。本発明者らは、第2のモノマー中に存在する水素結合供与体が、本発明による更なる第2のモノマー中に存在する水素結合受容体及び/又は本発明による第1のモノマー中に存在する水素結合受容体と水素結合を形成することができると考えている。本発明者らは、コポリマーの水素結合特性が、コポリマー及び/又は保護層の自己修復特性をもたらすと考えている。本発明によるコポリマー中に存在する水素結合は、比較的弱い結合強度(1.9~6.9kcal.mol-1)を有し、これは、それらの水素結合が、周囲温度で、破壊され、かつ再形成され得ることを意味している。
【0043】
当業者によって理解されるように、本発明によるコポリマーは、対応するビニルモノマー、例えば、本発明による第1のモノマー及び本発明による第2のモノマーの架橋工程(すなわち、ラジカル重合)によって得ることができる。本発明の実施形態では、ラジカル重合のために使用され得る開始剤は、架橋反応に応じて異なり、周知の光開始剤又は熱開始剤は、全て使用することができ、好ましくは光開始剤が使用される。光開始剤の例としては、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アルファメチルベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテルアセトフェノン、ジメトキシフェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、ベンゾフェノン、p-クロロベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、ベンゾイルベンゾエート、アントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-クロロアントラキノン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-モルホリノプロパノン-1,2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(Darocure 1173)、2-メチル-4’-(メチルチオ)-2-モルホリノプロピオフェノン(Irgacure 907)、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド(Irgacure 819)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1,1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Irgacure 184)、ミヒラーケトン、ベンジルジメチルケタル、チオキサントン、イソプロピルチオキサントン、クロロチオキサントン、ベンジルジスルフィド、ブタンジオール、カルバゾール、フルオレノン、アルファアシルオキシムエステル及びこれらの組み合わせを挙げることができ、熱開始剤の例としては、ペルオキシド(-O-O-)系列、ベンゾイルペルオキシド、クミルヒドロペルオキシドなどを挙げることができ、アゾ系化合物(-N=N-)系列、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスオバレロニトリルなどが使用されてもよい。本発明の好ましい実施形態では、光開始剤は、フェニルビス-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド(Irgacure 819)又は2-メチル-4’-(メチルチオ)-2-モルホリノプロピオフェノン(Irgacure 907)であり、好ましくはIrgacure 819である。
【0044】
開始剤の含有量は、本発明において特に限定されないが、好ましくは、本発明によるコポリマーの特性、負極又は正極などの電極の特性、及び電池に存在する液体電解質の特性に影響を及ぼさない範囲である。本発明の一実施形態では、開始剤は、コポリマーの総重量に基づいて1~15重量%の範囲で、好ましくはコポリマーの総重量に基づいて1~5重量%の範囲で、より好ましくは2~4重量%の範囲で使用される。
【0045】
本発明の実施形態では、本発明によるコポリマーを与える架橋工程は、本発明による第1のモノマー、本発明による第2のモノマー及び/又は本発明によるコポリマーを溶解することができる有機液体中で行われる。好ましくは、有機液体は非水性有機液体である。本発明では、非水系有機液体としては、カーボネート系、エステル系、エーテル系、ケトン系、アルコール系又は非プロトン性液体などの公知の液体が使用され得る。例えば、非プロトン性有機液体は、N-メチル-2-ピロリドン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキセン、ジエチルエーテル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エーテル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。有機液体の好ましい例は、アセトニトリル又はテトラヒドロフランである。
【0046】
本発明の実施形態では、架橋工程は、熱を適用すること又は活性エネルギー線を照射することを含み、熱による架橋は、加熱のための方法を使用してもよく、活性エネルギー線は、遠赤外線、紫外線又は電子ビームを照射することによるものであってもよい。
【0047】
本発明の実施形態では、架橋工程は、熱架橋又は光架橋、好ましくは光架橋によって行われる。本発明の実施形態では、熱架橋は、50℃~200℃の温度で、好ましくは80℃~110℃の温度で行うことができ、架橋のための加熱時間は、30分~48時間、より好ましくは8時間~24時間である。加熱温度及び時間が上記範囲未満であると、架橋が十分に形成され難く、加熱温度及び時間が上記範囲を超えると、副反応が起こる可能性があり、又は材料安定性が低下する可能性がある。本発明の好ましい実施形態では、活性エネルギー線照射を含む光架橋は、10秒~5時間、好ましくは1分~1時間、最も好ましくは2分~10分間行われる。本発明の好ましい実施形態では、光架橋は、5℃~60℃、好ましくは10℃~50℃、最も好ましくは20℃~40℃の温度で行われる。活性線照射の時間が上記範囲未満であると、架橋が十分に形成され難く、上記範囲を超えると、副反応が起こる可能性があり、又は材料安定性が低下する可能性がある。
【0048】
当業者によって理解されるように、コポリマーは、式(I)によって表される第1のモノマー及び式(II)によって表される第2のモノマーである少なくとも2つのモノマーの反応によって得ることができるが、2つの異なるモノマーのみの間の反応によって得られることに限定されず、例えば、3つのモノマー、特に本発明による第1のモノマー、本発明による第2のモノマー、及び式(V)又は式(VI)によって表される第3のモノマーの間の反応によって得ることができる場合もあり、第3のモノマーは、第1のモノマー及び第2のモノマーとは異なる:
【0049】
【化7】
(式中、R
7は、H又はCH
3であり、R
8は、C
2~6アルカンジイルであり、アルカンジイルは、ハロゲン化物、C
1~4アルキル、CF
3又はOR
9から選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換されており、R
9は、水素又はC
1~4アルキルから選択され、X
4=NH又はOであり、pは、5~150、好ましくは8~100、より好ましくは10~50から選択される整数である)又は
【0050】
【化8】
(式中、R
10は、H又はCH
3であり、R
11は、C
2~6アルカンジイルであり、アルカンジイルは、ハロゲン化物、C
1~4アルキル、CF
3又はOR
12から選択される1つ以上の置換基で任意選択的に置換されており、R
12は、水素又はC
1~4アルキルから選択され、X
5=NH又はOであり、X
6=SH、NH
2又はOHであり、qは、1~10、好ましくは1~5から選択される整数であり、より好ましくはq=1である)。
【0051】
本発明の好ましい実施形態は、最大2つのモノマー間の反応によって得ることができるコポリマーであり、2つのモノマーは、式(I)によって表される第1のモノマー及び式(II)によって表される第2のモノマーである。
【0052】
本発明の非常に好ましい実施形態は、最大2つのモノマー間の反応によって得ることができるコポリマーであり、2つのモノマーは、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートである第1のモノマー及び2-ヒドロキシエチルアクリルアミドである第2のモノマーである。
【0053】
好ましい実施形態では、第1のモノマー対第2のモノマーの重量比は、1対5~8対1(w/w)、好ましくは1対3~7対1(w/w)、より好ましくは1対2~5対1(w/w)、最も好ましくは1対2~2対1(w/w)である。
【0054】
好ましい実施形態では、コポリマーは、保護層の総重量に基づいて20重量%を超える、好ましくは保護層の総重量に基づいて30重量%を超える、最も好ましくは35重量%を超える量で存在する。好ましい実施形態では、コポリマーは、保護層の総重量に基づいて80重量%未満、好ましくは保護層の総重量に基づいて70重量%未満、最も好ましくは60重量%未満の量で存在する。好ましい実施形態では、コポリマーは、保護層の総量に基づいて20~80重量%の範囲、好ましくは保護層の総重量に基づいて30~70重量%の範囲、より好ましくは35~60重量%の範囲の量で存在する。
【0055】
本発明によるコポリマーの特定の例は、式(VII)
【0056】
【化9】
(式中、oは、5~150、好ましくは8~100、より好ましくは10~50から選択される整数であり、r、s及びtは、1~10、好ましくは2~8、最も好ましくは3~6から独立して選択される整数である)によって表される。しかしながら、当業者によって理解されるように、本発明によるコポリマーは、式(VII)に限定されず、例示的な実施形態として示される。
【0057】
本発明の非常に好ましい実施形態では、本発明によるコポリマー、したがって本発明による保護層は、添付の実施例で実証されるように、自己修復特性を有する。
【0058】
本発明の好ましい実施形態では、本発明によるコポリマー及び/又は保護層は、熱アニーリング工程に供される。当業者によって理解されるように、熱アニーリングは、応力を緩和し、均一性を改善し、基材との接触を向上させるために材料化学において使用される一般的なプロセスである。特に、熱アニーリングは、コーティングによってコーティングされた部品の温度Tを、最初に室温から最大(操作)温度Tmaxまで、好ましくは本発明によるコポリマー及び/又は本発明による保護層の再結晶化温度を超える温度Tに上昇させ、その後、操作(例えば、切断)終了後に、温度を下げて室温に戻すプロセスである。非常に好ましい実施形態では、熱アニーリング工程は、コポリマーのUV硬化後に、40~100℃の範囲、好ましくは50~90℃の範囲、より好ましくは60~80℃の範囲の温度で行い、及び/又は熱アニーリングの持続時間は、5分~10時間、好ましくは15分~5時間、最も好ましくは30分~90分である。非常に好ましい実施形態では、本発明による熱アニーリング工程は、乾燥空気中で行う。本発明者らは、驚くべきことに、熱アニーリング工程がコポリマーの伝導性を改善することを見出した。加えて、熱アニーリング工程に供された各コポリマーは、より均質に見え、リチウム金属表面とのより良好な接触を有する。更に、本発明者らは、熱アニーリング工程後に、本発明による負極の電荷移動抵抗(Rct)が低下することを見出した。
【0059】
フルオロポリマー添加剤
上記のように、本発明による保護層は、フルオロポリマー添加剤を含み、フルオロポリマー添加剤は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ペンタフルオロプロピレンコポリマー、プロピレンテトラフルオロエチレンコポリマー、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマー、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ化ビニリデン-ペルフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレンコポリマー及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくは、フルオロポリマー添加剤は、ポリフッ化ビニリデン又はポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)であり、最も好ましくはポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)である。
【0060】
好ましい実施形態では、フルオロポリマー添加剤は、保護層の総重量に基づいて75重量%未満、好ましくは保護層の総重量に基づいて50重量%未満、最も好ましくは20重量%未満の量で存在する。好ましい実施形態では、フルオロポリマー添加剤は、保護層の総重量に基づいて0.05重量%を超える、好ましくは保護層の総重量に基づいて5重量%を超える、最も好ましくは10重量%を超える量で存在する。好ましい実施形態では、フルオロポリマー添加剤は、保護層の総重量に基づいて0.05~75重量%、好ましくは保護層の総重量に基づいて5~50重量%、より好ましくは、10~20重量%の量で存在する。
【0061】
本発明の好ましい実施形態では、コポリマー対フルオロポリマー添加剤の重量比は、1対5~8対1(w/w)、好ましくは1対2~5対1(w/w)、より好ましくは1対2~4対1(w/w)、最も好ましくは2対1~4対1(w/w)である。
【0062】
本発明の一実施形態では、フルオロポリマー添加剤は、1,000g/molを超える、好ましくは10,000g/molを超える、より好ましくは100,000g/molを超える、最も好ましくは300,000g/molを超える重量平均分子量Mwを有する。本発明の一実施形態では、フルオロポリマー添加剤は、1,000,000g/mol未満、好ましくは800,000g/mol未満、より好ましくは750,000g/mol未満、最も好ましくは600,000g/mol未満の重量平均分子量Mwを有する。本発明の一実施形態では、フルオロポリマー添加剤は、1,000~1,000,000g/mol、好ましくは10,000~800,000g/mol、より好ましくは100,000~750,000g/mol、最も好ましくは300,000~600,000g/molの重量平均分子量Mwを有する。フルオロポリマー添加剤の好ましい例、特にポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)は、約400,000g/molの重量平均分子量Mw又は約455,000g/molの重量平均分子量Mwを有する。ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)などのフルオロポリマー添加剤は、Sigma-Aldrichなどの供給業者から商業的に購入することができる。
【0063】
本発明の一実施形態では、フルオロポリマー添加剤は、250g/molを超える、好ましくは2,500g/molを超える、より好ましくは25,000g/molを超える、最も好ましくは75,000g/molを超える数平均分子量Mnを有する。本発明の一実施形態では、フルオロポリマー添加剤は、250,000g/mol未満、好ましくは200,000g/mol未満、より好ましくは190,000g/mol未満、最も好ましくは150,000g/mol未満の数平均分子量Mnを有する。本発明の一実施形態では、フルオロポリマー添加剤は、250~250,000g/mol、好ましくは2,500~400,000g/mol、より好ましくは25,000~190,000g/mol、最も好ましくは75,000~150,000g/molの数平均分子量Mnを有する。フルオロポリマー添加剤の好ましい例、特にポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)は、約130,000g/molの数平均分子量Mn又は約110,000g/molの数平均分子量Mnを有する。ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)などのフルオロポリマー添加剤は、Sigma-Aldrichなどの供給業者から商業的に購入することができる。
【0064】
本発明者らは、添付の実施例において実証されるように、フルオロポリマー添加剤を添加すると、保護層の伝導性が向上し、保護層の濡れ性が改善され、保護層の均質な膜の印刷が可能になることを見出した。
【0065】
リチウム塩
上記したように、本発明による保護層は、リチウム塩を含む。
【0066】
本発明の一実施形態では、リチウム塩は、Li2CO3、Li2O、Li2C2C4、LiOH、LiX7、ROCO2Li、HCOLi、R13OLi、Li2O、Li2C2C4、(R13OCO2Li)2、(CH2OCO2Li)2、Li2S、LiSCN、LiN(CN)2、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LiCF3SO3、LiC(CF3SO2)3、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2F)2、LiSbF6、LiPF3(CF2CF3)3、LiPF3(CF3)3、LiB(C2O4)2(式中、R13=炭化水素及びX7=F、Cl、I又はBr)及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくは、LiSCN、LiN(CN)2、LiClO4、LiI、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiCF3(SO3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2F)2、LiSbF6、LiPF3(CF2CF3)3、LiPF3(CF3)3、LiB(C2O4)2及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、より好ましくは、前記リチウム塩は、LiN(SO2CF3)2又はLiN(SO2F)2であり、最も好ましくは、リチウム塩は、LiN(SO2F)2である。
【0067】
本発明の好ましい実施形態では、リチウム塩の量は、保護層の総重量に基づいて5重量%を超える、好ましくは保護層の総重量に基づいて10重量%を超える、最も好ましくは保護層の総重量に基づいて40重量%を超える。本発明の好ましい実施形態では、リチウム塩の量は、保護層の総重量に基づいて70重量%未満、好ましくは保護層の総重量に基づいて65重量%未満、最も好ましくは60重量%未満である。本発明の好ましい実施形態では、リチウム塩の量は、保護層の総重量に基づいて5~70重量%、好ましくは保護層の総重量に基づいて10~65重量%、より好ましくは40~60重量%である。
【0068】
本発明者らは、リチウム塩を添加すると、保護層のリチウムイオン伝導性が改善され、保護層が電解質中に存在するリチウムイオンを枯渇させることを防止することを見出した。更に、より高いリチウム塩含有量を保護層に添加すると、未補償抵抗Ruが低下する。
【0069】
保護層
本発明の一実施形態では、保護層は、1~10μm、好ましくは2~7μm、より好ましくは3~6μmの厚さを有する。
【0070】
本発明の一実施形態では、保護層は、金属基材の少なくとも一部の上に直接配置され、好ましくは、保護層は、金属基材の表面全体の上に直接配置される。当業者によって理解されるように、本発明による負極は、本発明による保護層を含み、保護層は、金属基材上に外層を形成する。言い換えれば、保護層は、金属基材の表面の一部にコーティングされる、すなわち、保護層は、金属基材の表面の一部に、好ましくは金属基材の表面全体に、コーティングを形成する。
【0071】
本発明の好ましい実施形態では、本発明による保護層は、0.01mS/cmを超える、好ましくは0.015mS/cmを超える、より好ましくは0.05mS/cmを超えるイオン伝導率を有する。本発明の好ましい実施形態では、保護層は、0.5mS/cm未満、好ましくは0.2mS/cm未満、より好ましくは0.1mS/cm未満のイオン伝導率を有する。本発明の好ましい実施形態では、本発明による保護層は、0.01~0.5mS/cmの範囲、好ましくは0.015~0.2mS/cmの範囲、最も好ましくは0.05~0.1.mS/cmの範囲のイオン伝導率を有する。保護層のイオン伝導率は、対称Li-Liセルにおける電子インピーダンス分光法(electronic impedance spectroscopy、EIS)による未補償抵抗Ruの定量化によって測定され、イオン伝導率は、セル構築後に(例えば、本発明による負極及び電解質組成物を含む電池においてを意味している)測定される。
【0072】
本発明の更なる態様は、本発明による保護層を調製するための方法であって、以下の工程:
i)上で定義した第1のモノマー、上で定義した第2のモノマー、上で定義した開始剤、上で定義したリチウム塩及び上で定義したフルオロポリマー添加剤を、上で定義した有機液体に添加する工程と、
ii)工程i)で得られた混合物を、上で定義した架橋工程に供する工程と、
iii)任意選択的に、工程ii)の架橋混合物を、上で定義した熱アニーリング工程に供する工程と、
を含む。
【0073】
本発明の更なる態様は、本発明に従う保護層を調製するための方法によって得ることができる保護層である。
【0074】
その他
本発明の更なる態様は、本発明による負極であり、
a.上で定義した金属基材と、
b.金属基材の少なくとも一部の上に直接配置された本発明による保護層を調製するための方法によって得ることができる保護層と、
を含む。
【0075】
本発明の更なる態様は、以下の工程:
i)上で定義した第1のモノマー、上で定義した第2のモノマー、上で定義した開始剤、上で定義したリチウム塩及び上で定義したフルオロポリマー添加剤を、上で定義した有機液体に添加する工程と、
ii)工程i)で得られた混合物を、金属基材の少なくとも一部、好ましくは金属基材の表面全体にコーティングする工程と、
iii)工程ii)のコーティングされた金属基材を、上で定義した架橋工程に供する工程と、
iv)任意選択的に、工程iii)の架橋されたコーティングされた金属基材を、上で定義した熱アニーリング工程に供する工程と、
を含む、電池のための負極を調製するための方法である。
【0076】
本発明の一実施形態では、上で定義したように、工程i)で得られた混合物中に存在する固体の量(すなわち、第1のモノマー、第2のモノマー、開始剤、リチウム塩及びフルオロポリマーの合計)は、固体と有機液体との総重量に基づいて1重量%を超える、好ましくは固体と有機液体との総重量に基づいて2重量%を超える、最も好ましくは3重量%を超える。本発明の一実施形態では、固体の量(すなわち、第1のモノマー、第2のモノマー、開始剤、リチウム塩及びフルオロポリマーの合計)は、固体と有機液体との総重量に基づいて10重量%未満、好ましくは固体と有機液体との総重量に基づいて8重量%未満、最も好ましくは5重量%未満である。本発明の一実施形態では、固体の量(すなわち、第1のモノマー、第2のモノマー、開始剤、リチウム塩及びフルオロポリマーの合計)は、固体と有機液体との総重量に基づいて1~10重量%、好ましくは固体と有機液体との総重量に基づいて2~8重量%、最も好ましくは3~5重量%である。
【0077】
コーティング工程は、当業者によって理解される従来の湿式プロセスにおいて使用される方法を使用して、例えば、スピンコーティング、スプレーコーティング、ドクターブレードコーティング、ディップコーティングで行われ得る。
【0078】
任意選択的に、コーティング工程の後及び/又は熱アニーリング工程の後に乾燥工程が行われる。乾燥工程は、有機液体の沸点以上の温度で、かつ、本発明によるコポリマー及び/又は本発明による保護層のガラス転移温度Tg以下の温度で、適切に行われ得る。乾燥工程はまた、金属基材の表面上に残っている液体を除去し、同時に本発明によるコポリマー及び/又は本発明による保護層の接着性を改善するためにも行われ得る。
【0079】
本発明の更なる態様は、本発明による電池のための負極を調製するための方法によって得ることができる負極である。
【0080】
電池
本発明の更なる態様は、
a.本発明による負極、又は本発明による電池のための負極を調製する方法によって得ることができる負極と、
b.正極と、
c.電解質組成物、好ましくは正極と負極との間に配置されている電解質組成物と、
d.任意選択的に、セパレータと、
を含む電池である。
【0081】
本発明の好ましい実施形態では、電池は、リチウム金属電池、好ましくはリチウム金属二次電池である。
【0082】
正極
正極(すなわち、カソード)の材料は、特に限定されず、その例としては、リチウムイオンを拡散することができる構造を有する遷移金属化合物、又はその特化した金属化合物、及びリチウムの酸化物が挙げられる。特に、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO4、LiFePO4などを挙げることができる。好ましい正極材料は、リチウム、ニッケル、並びに任意選択的にマンガン、コバルト及び/又はアルミニウムを含む混合金属酸化物である。
【0083】
本発明の好ましい実施形態では、正極は、リチウムニッケル-マンガン-コバルト酸化物、リチウムニッケル-マンガン酸化物、リチウムニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物、リチウムコバルト酸化物、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウム、リン酸コバルト鉄リチウム、硫化リチウム、硫黄及びアルミニウムからなる群から選択される正極材料を含み、好ましくは、正極材料は、リチウムニッケル-マンガン-コバルト酸化物又はリチウムニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物である。
【0084】
正極は、既知の伝導性補助剤若しくはバインダーと共に上で定義した正極材料を、又は既知の伝導性補助剤若しくはバインダーと共に正極活物質を、ピロリドンなどの有機液体中にプレス成形することによって形成することができる。これは、混合物を適用し、それをアルミニウム箔などの集電体に塗布し、続いて乾燥させることによって得ることができる。
【0085】
電解質組成物
本発明の一実施形態では、電解質組成物は、液体電解質組成物である。
【0086】
本発明の一実施形態では、電解質組成物は、更なるリチウム塩及び更なる有機液体、好ましくは更なる非水性有機液体、より好ましくは更なる非プロトン性非水性有機液体を含む。
【0087】
本発明の好ましい実施形態では、更なるリチウム塩は、Li2CO3、Li2O、Li2C2O4、LiOH、LiX8、ROCO2Li、HCOLi、R14OLi、Li2O、Li2C2O4、(ROCO2Li)2、(CH2OCO2Li)2、Li2S、LiSCN、LiN(CN)2、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LiCF3SO3、LiC(CF3SO2)3、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2F)2、LiSbF6、LiPF3(CF2CF3)3、LiPF3(CF3)3、LiB(C2O4)2(式中、R14=炭化水素及びX8=F、Cl、I又はBr)、好ましくは、LiSCN、LiN(CN)2、LiClO4、LiI、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiCF3(SO3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2F)2、LiSbF6、LiPF3(CF2CF3)3、LiPF3(CF3)3、LiB(C2O4)2及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、より好ましくは、前記リチウム塩は、LiN(SO2CF3)2又はLiN(SO2F)2であり、最も好ましくは、リチウム塩は、LiN(SO2F)2である。
【0088】
非常に好ましい実施形態において、更なるリチウム塩及び上記のリチウム塩は、同じリチウム化合物である。
【0089】
当業者によって理解されるように、本発明によるリチウム塩は、本発明による保護層中に存在し、一方、本発明による更なるリチウム塩は、本発明による電解質組成物中に存在する。
【0090】
本発明の好ましい実施形態では、更なる有機液体は、N-メチル-2-ピロリドン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキセン、ジエチルエーテル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン(tirmethoxymethane)、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エーテル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される非フッ素化液体を含み、好ましくは、更なる有機液体は、1,2-ジメトキシエタン又は1,2-ジエトキシエタンであり、最も好ましくは1,2-ジメトキシエタンである。
【0091】
好ましい実施形態では、更なる有機液体は、フッ素化液体を更に含み、フッ素化液体は、フッ素化エーテル、フッ素化カーボネート又はフッ素化芳香族化合物である。好ましい実施形態では、フッ素化液体は、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE)、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル(BTFE)、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(TFTFE)、トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)オルトホルメート(TFEO)、メトキシノナフルオロブタン(MOFB)、エトキシノナフルオロブタン(EOFB)、ジ(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート(DTFEC)、トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)オルトホルメート(TFEO)、トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)オルトホルメート(THFiPO)、トリス(2,2-ジフルオロエチル)オルトホルメート(TDFEO)、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチルオルトホルメート(BTFEMO)、トリス(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)オルトホルメート(TPFPO)、トリス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)オルトホルメート(TTPO)及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくは、フッ素化液体は、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE)、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル(BTFE)又は1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(TFTFE)であり、最も好ましくは、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE)である。
【0092】
本発明の好ましい実施形態では、非フッ素化液体対フッ素化液体の体積比は、6対1~1対2(vol/vol)、好ましくは5対1~1対1(vol/vol)、最も好ましくは4対1~2対1(vol/vol)である。
【0093】
当業者によって理解されるように、本発明による有機液体は、本発明によるコポリマーを与える架橋工程において使用される液体であり、一方、本発明による更なる有機液体は、本発明による電解質組成物中に存在する液体である。
【0094】
本発明の一実施形態では、更なる有機液体中の更なるリチウム塩の濃度は、0.2Mを超え、好ましくは2Mを超え、最も好ましくは4Mを超える。本発明の一実施形態では、更なる有機液体中の更なるリチウム塩の濃度は、10M未満、好ましくは8M未満、最も好ましくは6M未満である。本発明の一実施形態では、更なる有機液体中の更なるリチウム塩の濃度は、0.2~10Mの範囲、好ましくは2~8Mの範囲、最も好ましくは4~6Mの範囲である。
【0095】
セパレータ
正極と負極との間の短絡を防止するために、通常は、カソードとアノードとの間にセパレータが挿入される。セパレータの材料及び形状は特に限定されないが、電解質組成物を容易に通過させ得ること、及びセパレータが絶縁体であり化学的に安定な材料であることが好ましい。その例としては、様々なポリマー材料で作製された微多孔質フィルム及びシートが挙げられる。ポリマー材料の具体例としては、ポリオレフィンポリマー、ニトロセルロース、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、及びポリプロピレンが挙げられる。電気化学的安定性及び化学的安定性の観点から、ポリオレフィンポリマーが好ましい。
【0096】
その他
本発明の好ましい実施形態では、本発明の電池は、少なくとも93%、好ましくは少なくとも94%、より好ましくは少なくとも95%、更により好ましくは少なくとも96%、更により好ましくは少なくとも97%、最も好ましくは少なくとも98%のクーロン効率を有する。クーロン効率は、以下の一般式を用いて評価される:
【0097】
【0098】
使用
本発明の更なる態様は、金属基材を含む負極上の自己修復膜としての保護層の使用を提供することであり、保護層は本発明によるものであり、金属基材は本発明によるものである。
【0099】
本発明の更なる態様は、金属基材を含む負極上のデンドライトの成長を低減するための保護層の使用を提供することであり、保護層は本発明によるものであり、金属基材は本発明によるものである。
【0100】
本発明の更なる態様は、負極を含む電池のサイクル効率を改善するための、金属基材を含む負極上の保護層の使用を提供することであり、好ましくはサイクル効率は20%改善され、保護層は、本発明によるものであり、好ましくは、保護層は、上で定義した熱アニーリング工程に供され、金属基材は、本発明によるものである。
【実施例】
【0101】
本発明を以下の実施例において更に例示する。
【0102】
セル調製物及び試験方法の説明
試験したコインセルは、全てCR2032型であった。正極ケーシング、正極(電解質中に予浸漬)、Cellguardセパレータ、50μLの電解質液滴、負極、スペーサ、波形バネ、及び負極ケーシングをその順序で上に積み重ねて、セルを調製した。MTI社製の手動圧接機を用いて、80kg/cm2の圧力で圧接を行った。
【0103】
Li-Liパウチセルを、以下の事項に従って調製した:フォーマット=1Li(58×58mm)/1Sep(62×62mm)/1Li(50×50mm)、「公称容量」=0.1Ah、セパレータ=アルミナコーティングされたTargray SH220W22、リチウム=100μm厚(コーティング又は非コーティング)、電解質添加量(electrolyte loading)=3.00μL mAh-1(すなわち、0.3mL)、Cレート=C/5 D/5(標準レジーム)又はC/3 D/1、電位保持あり(新しいレジーム)、サイクル温度=25℃。
【0104】
Li-NMCパウチセルは以下の事項に従って調製した:フォーマット=3Li(58x58mm)/4Sep(62x62mm)/2NMC(56x54mm)、公称容量=0.48Ah(カソード表面容量を4mAh cm-2であると仮定)、セパレータ=アルミナでコーティングされたTargray SH220W22、リチウム=100μm厚、電解質添加量=2.00μL mAh-1(すなわち、0.97mL)又は1.75μL mAh-1すなわち、0.85mL)、Cレート=C/5 D/5(標準レジーム)又はC/3 D/1、電位保持あり(新しいレジーム)、サイクル温度=25℃。NMCカソードは、正極活物質としてLiNi0.6Mn0.2Co0.2O2、カーボンブラック及びPVDFを92対4対4の重量比で含む。
【0105】
未補償抵抗Ruは、保護層でコーティングされていない又はコーティングされているリチウム金属アノードを含有しているLi-Li対称コインセルの電気化学インピーダンス分光法(ナイキスト線図)によって測定する。試験では、1MHz~1Hzの周波数を印加した。
【0106】
保護層のイオン伝導率は、対称Li-Liセルにおける電子インピーダンス分光法(EIS)による未補償抵抗Ruの定量化によって測定し、イオン伝導率は、セル構築後に測定する。
【0107】
保護層の断面は、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して分析した。JEOL製ベンチトップSEMを使用した(試料はSEM内で真空下で画像化した、二次電子画像化、プローブ電流は標準に設定、SEMカラムの加速電圧)。
【0108】
ポリマーで保護されたアノードは、モノマー、リチウム塩、開始剤及びフルオロポリマー添加剤を、以下の表において明らかにした量で有機溶媒中に添加することによって、調製する。これらの混合物をアノード上にコーティングし、光開始剤としてIrgacure 819を用いて5分のUV硬化時間でUV硬化に供する。任意選択的に、ポリマーの熱アニーリングは、ポリマーで保護されたアノードを70℃で1時間UV硬化させた後に行う。
【実施例1】
【0109】
フルオロポリマー添加剤の量の影響を評価するために、以下のポリマー配合物1-a、1-b及び1-cを調製した(表1を参照されたい、PEGDA=700g/molのMnを有するポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、LiTFSI=LiN(SO2CF3)2、PVDF-HFP=ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)、THF=テトラヒドロフラン)。
【0110】
【0111】
図1は、ポリマー配合物中のフルオロポリマー添加剤の重量%の減少が膜の連続性に対して及ぼす影響を示しており、配合物1-a及び1-bのコーティングがリチウム基材上に均質な膜を形成するのに対して、PVDF-HFPの量を過度に減少させると(9対1、配合物1-c)、はるかに低い未補償抵抗(R
u)を示す不連続かつ斑状の膜が生じることを例示している。
図2は、伝導率への影響を実証しており、最適なPEG対PVDF-HFP比は、3対1で、連続ポリマー膜を提供し、配合物1-aと比較した場合にRuが低下している。
【実施例2】
【0112】
リチウム塩の効果を評価するために、以下のポリマー配合物2-a、2-b、2-c及び2-dを調製した(表2を参照されたい、PEGDA=700g/molのMnを有するポリ(エチレングコール)ジアクリレート、LiTFSI=LiN(SO2CF3)2、LiFSI=LiN(SO2F)2、PVDF-HFP=ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)、THF=テトラヒドロフラン)。
【0113】
【0114】
表2のポリマー配合物の各々からの伝導率データを
図3に示す。ポリマー配合物中の低い膜塩含有量(10重量%)の問題は明らかであり、なぜなら、最初の20時間にわたり、抵抗性ポリマー配合物が電解質から塩を吸収するにつれてLi-LiコインセルのR
uが低下しているからであり、このプロセスは阻止されるべきものである。ポリマー配合物の塩含有量を、配合物の総重量の10重量%から50重量%に増加させると、各例におけるポリマー膜の改善された伝導性に起因するセルの各々のR
uの低下がもたらされる(配合物2-b及び2-dは、約45~47Ωの同様の未補償抵抗を示す)。50重量%の塩を含有する膜の0~60時間のR
uの安定性は、ポリマー膜と電解質との間のイオンの移動がセル構築から平衡状態にあり、電解質塩の枯渇が回避されることを示している。
【実施例3】
【0115】
N-ヒドロエチルアクリルアミドモノマーの効果を評価するために、以下のポリマー配合物3-a、3-b、3-c及び3-dを調製した(表2を参照されたい、PEGDA=700g/molのMnを有するポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、HEAA=N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、PVDF-HFP=ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)、THF=テトラヒドロフラン)。
【0116】
【0117】
各配合物の保護層をリチウム基材上にコーティングし、硬化させ、そのコーティングされた表面を横切るようにメスを引くことによって切断した。切断した試料をSEMによって撮像し、次いで、試料を1,2-ジメトキシエタン(DME)中4.5MのLiFSIに一晩(16時間)浸漬した。膜を純粋なDMEですすぎ、過剰のLiFSI塩を除去して、より明確なSEM顕微鏡写真を可能にしてから、乾燥させ、SEM下で観察した。表3のポリマー配合物の各々に関する結果を
図4に示す。
【0118】
予想通りに、配合物4-a(0重量%のHEAA)(1対0)は、水素結合供与体がないため、自己修復特性を示さない。最低量のHEAAを含有する保護層(配合物4-b)もまた、これらの条件下で自己修復の証拠を示していない。HEAA含有量をPEGDA対HEAAの重量比3対1まで増加させると、作られた切開部位でポリマー膜が再シールされる結果となる。最後に、配合物4-d(PEGDA対HEAAの重量比1対1w/w)もまた、実質的な自己修復特性を示している(
図4を参照されたい)。加えて、配合物4-dは、他の配合物と比較して、SEM下で観察すると、Li金属表面へのより良好な接着性を有するように見えることは注目に値する。
【0119】
次いで、各ポリマー配合物を、Li-NMCセルにおいて、参照セル(ポリマーなし)に対して試験した。1.75μL mAh
-1の添加量の(DME中4.5MのLiFSI)対TTE(3対1、vol/vol、TTE=1,1,2,2-テトラ-フルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル)を有するセルを、C/3~D/1のサイクル方式で、発泡体(80×80mm)を使用して、0.06MPaの固定体積圧力下でサイクルした。各ポリマー保護アノードセルは、参照セルと同様に機能した(
図5及び
図6を参照されたい)。
【0120】
次の工程において、熱アニーリング(乾燥空気中70℃で1時間)の前後に各ポリマー配合物の伝導率を評価した。その結果をそれぞれ
図7(a)及び
図7(b)に示す。明らかに、熱アニーリングは、ポリマー配合物の伝導性を改善する。約0.1mS.cm
-1の最小閾値まで膜伝導率を増加させることは、アノード保護の成功に不可欠であると考えられる。より高い伝導性は、ポリマー膜の下のめっきに対するより低いエネルギー障壁をもたらし、これは、デンドライト浸透を低下させ、デッドリチウムの量を低減し、電解質及びリチウムアノードの機能性を延長するのに役立つ。また、各ポリマー配合物がより均質に見え、リチウム表面とより良好に接触していることも観察された。
【0121】
次いで、アニーリング後の各ポリマー配合物を、参照セル(ポリマーなし)に対してLi-NMCセルにおいて試験した。1.75μL mAh
-1の添加量の(DME中4.5MのLiFSI)対TTE(3対1、vol/vol、TTE=1,1,2,2-テトラ-フルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル)を有するセルを、C/3~D/1のサイクル方式で、発泡体(80×80mm)を使用して、0.06MPaの固定体積圧力下でサイクルした。各熱アニールされたポリマー保護セルは、同様に機能し、参照セルと比較して最大20%良好であった(
図8及び
図9を参照されたい)。
【国際調査報告】