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特表2024-545285高純度硫酸ニッケル溶液を調製するための方法
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  • 特表-高純度硫酸ニッケル溶液を調製するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-05
(54)【発明の名称】高純度硫酸ニッケル溶液を調製するための方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/10 20060101AFI20241128BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20241128BHJP
   C22B 3/38 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C01G53/10
C22B23/00 102
C22B3/38
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024537145
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-08-15
(86)【国際出願番号】 EP2022086839
(87)【国際公開番号】W WO2023118037
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】21216032.9
(32)【優先日】2021-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フランシス・ロンダス
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・ルイテン
(72)【発明者】
【氏名】ヨリス・ローゼン
(72)【発明者】
【氏名】ワンネス・デ・ムーア
(72)【発明者】
【氏名】マールテン・シュルマンズ
【テーマコード(参考)】
4G048
4K001
【Fターム(参考)】
4G048AA07
4G048AB02
4G048AB08
4G048AE02
4K001AA19
4K001BA19
4K001DB31
4K001DB34
(57)【要約】
本発明は、i.ニッケル、コバルト、カルシウム及びマグネシウムを含む供給水溶液を準備する工程と、ii.第1のアルキルリン系酸性抽出剤を含む第1の溶媒を使用して、前記供給水溶液からコバルト、カルシウム、及び部分的にマグネシウムを抽出し、それにより、ニッケル及びマグネシウムを含む水性ラフィネートを得る工程と、iii.第2のアルキルリン系酸性抽出剤を含む第2の溶媒を使用して、前記ニッケル及びマグネシウムを含むラフィネート水溶液からマグネシウムを抽出し、それにより、ニッケル及びマグネシウムを含む高純度硫酸ニッケル水溶液を得る工程と、iv.コバルト、カルシウム及びマグネシウムを含む第1の添加溶媒を、鉱酸を含む水溶液でストリッピングする工程とを含む、高純度硫酸ニッケル溶液を調製するための方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高純度硫酸ニッケル溶液を調製するための方法であって、
i.ニッケル、コバルト、カルシウム及びマグネシウムを含む供給水溶液を準備する工程と、
ii.第1の溶媒抽出回路において、第1のアルキルリン系の抽出剤(I)及び第1の希釈剤を含む第1の有機相を使用して、前記供給水溶液からコバルト、カルシウム、及び少なくともある程度のマグネシウム、並びに存在する場合は亜鉛、銅、カドミウム及びマンガンを抽出し、それによりニッケル及び残留マグネシウム分を含むラフィネート水溶液、並びにコバルトリッチなカルシウム含有有機相を得る工程と、
iii.第2の溶媒抽出回路において、第2のアルキルリン系の抽出剤(II)及び第2の希釈剤を含む第2の有機相を使用して、前記ラフィネート水溶液からマグネシウムを抽出し、それにより、マグネシウム枯渇高純度硫酸ニッケル水溶液及びマグネシウム濃縮有機相を得る工程と、
iv.工程iiで得られた前記コバルトリッチな有機相を、鉱酸を含む水溶液でストリッピングする工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1の溶媒抽出回路及び前記第2の溶媒抽出回路が、異なる温度にて、及び/又は異なる抽出剤で操作する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記鉱酸が塩酸である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記供給水溶液が、亜鉛、銅、カドミウム、及び/又はマンガンを更に含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記コバルトリッチな有機相から、及び/又は前記マグネシウム濃縮有機相からニッケルがスクラビングされる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ニッケル、コバルト、カルシウム、マグネシウム、並びに存在する場合は亜鉛、銅、カドミウム及び/又はマンガンを含み、鉄及び/又はアルミニウムを更に含む供給水溶液から、それぞれ鉄及び/又はアルミニウムを除去する工程により前記供給水溶液が得られる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記鉄及び/又はアルミニウムが沈殿剤を使用する沈殿によって除去され、前記沈殿剤がカルシウム塩基を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記鉄及び/又はアルミニウムが沈殿剤を使用する沈殿によって除去され、前記沈殿剤がマグネシウム塩基を含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記鉄及び/又はアルミニウムが沈殿剤を使用する沈殿によって除去され、前記沈殿剤がニッケル塩基を含む、請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記鉄及び/又はアルミニウムが2つ以上の沈殿工程における沈殿によって除去され、異なる沈殿剤又は沈殿剤の組み合わせがそれぞれの沈殿工程において使用し得る、請求項6から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1及び第2のアルキルリン系抽出剤が、アルキルリン系の酸及び/又はそのニッケル塩を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の抽出剤(II)が、前記第1の抽出剤(I)よりも高いマグネシウムの選択性を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記第1のアルキルリン系抽出剤(I)が、アルキルホスホン酸及び/又はそのニッケル塩を含み、前記第2のアルキルリン系抽出剤(II)が、アルキルホスフィン酸及び/又はそのニッケル塩を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1及び前記第2の抽出剤がそれらのニッケル塩に変換され、少なくとも20%の濃度の利用可能な抽出剤容量を有するニッケルを含有する、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記第1及び前記第2の抽出剤がニッケル塩に変換され、前記第1及び前記第2の有機相が2g/L未満のナトリウムを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程ii及びiiiで準備される前記第1及び前記第2の有機相が、それぞれ、前記第1及び前記第2の抽出剤を、前記溶媒の全体積に対して5~50vol.%の量で、及び前記希釈剤を、前記溶媒の全体積に対して50~95vol.%の量で含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
工程iiにおける前記抽出が25~55℃の温度にて実施される、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程iiiにおける前記抽出が40~70℃の温度にて実施される、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ストリッピング工程ivが、40℃~50℃の温度にて実施される、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記マグネシウム枯渇高純度硫酸ニッケル水溶液が、ニッケルを40~180g/Lの濃度で、及びマグネシウムを最大で5mg/Lの濃度で含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
工程iで準備される前記供給水溶液が、前記供給水溶液の全金属含有量に対して、ニッケルを少なくとも60at.%の量で含み、工程iで準備される前記供給水溶液が、前記供給水溶液の全金属含有量に対して、コバルト、カルシウム、マグネシウム、並びに必要に応じて、亜鉛、銅、カドミウム及びマンガンを最大で40at.%の量で含む、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
工程iiiにおいて残留マグネシウムの除去後に得られた前記高純度硫酸ニッケル水溶液が、結晶化又は造粒に供される、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記第1の有機相が、前記鉱酸でストリッピングする工程の後に硫酸で洗浄される、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記第1の及び/又は第2の有機相が、硫酸で洗浄又はストリッピングする工程の後、水酸化アルカリ及び硫酸ニッケル溶液又は塩化ニッケル溶液等のニッケル塩含有溶液を使用してニッケルが添加され、引き続き、工程ii及び/又は工程iiiにおいてリサイクルされ、本手段により本方法のループを終了させる、請求項1から23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度硫酸ニッケル水溶液を生成するための新規の方法に関し、その水溶液は、ニッケル金属層の無電解メッキ又は電池材料の生成での使用に十分な純度を有する、高純度硫酸ニッケル結晶を生成するために結晶化ユニットで更に処理加工することができる。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の開発、特にニッケル-マンガン-コバルト及びニッケル-コバルト-アルミニウムのカソード材料の使用により、固体として又は溶液のいずれかの、高純度硫酸ニッケルの需要が増加している。実際、カソード材料中の不純物は、電池の性能に強く影響を及ぼす。そのため、高純度硫酸ニッケルの工業的に妥当な方法での生成に多大な努力が捧げられてきた。
【0003】
これに関して、US2014/322109は、選択的硫化ニッケル沈殿工程及び硫化ニッケルの硫酸ニッケル溶液への再溶解の採用によって、低い水準の不純物、具体的には、低い水準のマグネシウム及び塩化物を有する高純度硫酸ニッケルを得るための方法を提供する。この溶液は、溶媒抽出によって更に純化されてコバルト及びマグネシウム不純物が除去され、処置時に、酸性有機抽出剤の濃度及びpH又は酸濃度が調整される。ニッケルバルクの中間沈殿及び再溶解に続いて、不純物コバルト及びマグネシウムを除去するための溶媒抽出を必要とするので、濃縮硫酸ニッケル溶液にとって、記載される処理戦略は煩雑である。特に、硫化ニッケル工程は、硫化水素発生のリスクのために危険を伴う。加えて、未精製のニッケル粗原料は、典型的には、はるかに多くの不純物を含有するが、溶媒抽出は、コバルト及びマグネシウムを除去するためだけに使用される。
【0004】
CN107162067は、固形廃棄物のリサイクルの分野に関し、具体的には、ニッケル含有廃棄電池から高純度硫酸ニッケルをリサイクルするための方法を開示する。本方法は、ニッケル含有廃棄電池を電池粉末に解体する工程、電池粉末を酸で溶解して金属含有溶液を得る工程、アルカリ金属硫酸塩を加える工程、鉄を酸化沈殿方法によって除去する工程、溶媒抽出法により不純物を更に除去してマグネシウム含有ニッケル液体を得る工程、マグネシウム含有ニッケル液体をキレート樹脂交換カラムに通過させてニッケルイオンを選択的に吸着し、マグネシウムリッチな溶液を処置のために流出させる工程、ニッケルイオンを脱着させて硫酸ニッケル溶液を得る工程、硫酸ニッケル溶液を蒸発させる工程、冷却する工程、結晶化する工程、濾過する工程、及び最終的に乾燥させて精製された硫酸ニッケル生成物を得る工程を含む。この長時間で複雑な方法によって、リサイクルされた硫酸ニッケルは、最大で99.5%以上のニッケル含有量を有する高純度生成物である一方、不純物、すなわち、マグネシウムは、含有量が0.005%未満であることが保証される。しかしながら、3つの異なる溶媒抽出ユニットが、銅、マンガン及びコバルトを個別の工程で除去することが提案される。高額な投資コストとは別に、カルシウム及びマグネシウム等の他の不純物が、除去される様子すらない。最終的に、ニッケルは樹脂への吸着によって回収され、第4の分離工程及び吸着される金属イオンの量と同等の中和剤の消費が必要とされる。全体としては、記載される方法は、簡易でもなく、効率的でもないと考えられる。
【0005】
EP1252345は、精製された硫酸ニッケル流を得るために、ニッケルが添加された溶媒で、コバルト-ニッケル溶液からコバルトを抽出するための方法について記載する。しかしながら、カルシウム及びマグネシウム等の不純物を非常に低い水準にまで除去し、それにより無電解ニッケル又は電池適用のための精製された硫酸ニッケル溶液を生成するための手立てを教授していない。不溶性のアンモニウム/ニッケルの硫酸複塩の形成が回避できる溶媒抽出法を開発することが、多いようである。
【0006】
EP2784166は、硫化工程、再溶解工程、沈殿による精製工程及び溶媒抽出工程を含む多数の方法工程において、純粋な硫酸ニッケル溶液を生成するための方法を説明する。特に、硫化及び再溶解の工程は、硫化剤を使用し、ニッケルの硫化物中間体を生成する費用の高い操作であり、両方の生成物は有毒性であり、鉱酸との接触と反応により、高い有毒性及び気体状硫化水素の発生をもたらし得る。最終段階で、精製された硫酸ニッケル溶液は、電池レベルの硫酸ニッケルには過多である50mg/Lのマグネシウム不純物を依然含有し、提案された方法の選択性の欠如を示している。
【0007】
EP3733884は、硫酸の酸性水溶液からマグネシウムの選択的分離ができる溶媒抽出法について記載する。溶媒抽出法は、かなり低いpH=1.5~2にて、すなわち、抽出剤として40~60%のアルキルホスホン酸を含有する濃縮溶媒を用いて、又はより高いpH=2.0~2.5にて、より低い抽出剤濃度、すなわち、20~50%のアルキルホスホン酸を含有する溶媒を用いてのいずれかでマグネシウムを抽出する、非常に特殊な抽出条件下で、ニッケル、コバルト及びマグネシウムを含有する硫酸の酸性水溶液を有機溶媒と接触させて、その有機溶媒へマグネシウムを選択的に抽出する工程を含む。本方法は、マグネシウムの除去のみを目指し、ニッケル溶液からコバルトを分離しない。意外なことに、同一の抽出条件下で、既に約9%の共抽出されたニッケルで、最大で46%のマグネシウムが硫酸ニッケル溶液から除去された。かかる条件下、たった8~23のMg/Ni分離係数が得られる。使用される溶媒における抽出剤濃度が40vol.%未満に低下する場合、最大で35のより高いMg/Ni分離係数が得られたが、大幅に低い、すなわち、28%未満のマグネシウムの除去であった。
【0008】
EP3222735は、液体-液体抽出によって、ニッケル含有供給溶液からコバルト及びマグネシウムを分離する方法であって、使用される有機溶媒が、アルキルホスフィン酸を抽出用剤として含有する方法を開示する。コバルト及びマグネシウムの両方は、いくらかのニッケルと一緒に抽出される。最初に、ニッケルが、添加溶媒から酸性溶液で洗い流される。得られるニッケル溶液はいくらかのコバルトを含有してよいので、供給溶液に戻される。この後、マグネシウムは溶媒から酸性溶液で洗い落とされる。得られるマグネシウム溶液はいくらかのコバルトを含有してよく、別の所で処置される。コバルトは、酸の希釈された水溶液で溶媒からストリッピングされて、コバルトストリップ溶液を形成する。コバルト及びマグネシウムの他には、本特許は、硫酸ニッケル溶液中の、カルシウム、亜鉛、カドミウム、銅、マンガン及び鉄等の他の金属夾雑物の除去を扱わない。酸性抽出剤での抽出中の酸性プロトンの放出について考察される、硫酸ニッケル溶液からのコバルト及びマグネシウムの抽出のために所望のpHに到達させる手立てについても、本特許は詳述していない。
【0009】
PC88Aとしても公知のEHEHPAが抽出剤として使用される場合、マグネシウム又はカルシウムに対する抽出挙動は、ニッケルに対する挙動と類似である。JP10-310437は、PC88Aを抽出剤として使用する溶媒抽出による、カルシウム、銅、亜鉛、鉄及びマグネシウム等の他の不純物と一緒のコバルトの抽出によって、ニッケル及びコバルトを分離する例を開示する。ニッケルを高濃度で含有する溶液が溶媒抽出にかけられる場合、マグネシウム又はカルシウムの抽出効率が低下するという問題が生じる。マグネシウムを硫酸ニッケル溶液から除去するための難点が言及されている。精製された硫酸ニッケル溶液中の最終の不純物出力濃度は、90~117g/Lのニッケルを含有する場合、依然3~26mg/Lのコバルト、2~7mg/Lのカルシウム及び10~27mg/Lのマグネシウムであった。本発明は、カルシウム抽出に好都合であるが、同時に、マグネシウム抽出を低減させる操作条件の選択によって、不十分なカルシウム抽出の問題を解決する。これは、より好ましい抽出用剤及びより好ましい操作条件を用いる、マグネシウムの追加の別の溶媒抽出の実施によって相殺される。
【0010】
JP2021/031729では、全てのコバルト、マグネシウム及びカルシウムを硫酸ニッケル溶液から同時に除去することが試みられる、1つの溶媒抽出法における粗製硫酸ニッケル溶液の処置が示される。溶媒に添加されたニッケルの量の硫酸ニッケル溶液中のコバルトの濃度に対する比は、不純物の所望の除去に応じて変動しなければならない。しかしながら、実施例からは、精製された硫酸ニッケル溶液は、依然として、1~60mg/Lのコバルト、1~20mg/Lのマグネシウム及び1~15mg/Lのカルシウムを含有するので、全ての夾雑物を除去することは不可能であることが分かる。更には、粗製硫酸ニッケル溶液中のマグネシウムの入力濃度が、8~12g/Lのコバルトの非常に高いコバルト濃度と比較して、非常に低く、19~31mg/Lのマグネシウムに過ぎないので、マグネシウムの除去がわずかと思われる。多量のコバルトと一緒に、不完全でも微量のマグネシウムを共抽出するこの原理は、溶媒に多量のニッケルが必然的に使用されているという証拠である。溶媒へのニッケルの添加量を増加させると、粗製硫酸ニッケル溶液中のコバルトの濃度と比較して増加させると、マグネシウムをより良好に除去できると主張しているに過ぎない。類似特許であるJP2021/031730では、溶媒への共抽出によるコバルト溶出液に対して報告されたマグネシウムの量は、粗製硫酸ニッケル溶液に存在するコバルトの濃度と比較して、溶媒へのニッケルの選択量によって影響を受け得ると主張している。JP2021/031729と同一の実施例である。精製された硫酸ニッケル溶液は、1~60mg/Lのコバルト、1~20mg/Lのマグネシウム及び1~15mg/Lのカルシウムと同程度に高い不純物を依然として含有し得る。なお、コバルト溶出液へ共抽出された報告されたマグネシウムの量は、明白に変動し得る。
【0011】
US6,149,885では、コバルト、カルシウム、銅及び亜鉛等の不純物が、溶媒抽出によって粗製硫酸ニッケル溶液から除去される方法が、説明されている。ニッケルを溶媒に添加し、粗製硫酸ニッケル溶液から不純物を除去するために、後に使用できるニッケルを溶媒に添加する仕方について、方法が開示されている。しかしながら、マグネシウムは控え目にのみ除去される。一例では、依然として34mg/Lのマグネシウムが精製された硫酸ニッケル溶液中に残留し、通常は、電池レベルの硫酸ニッケルの品質としては不純過ぎると考察される。別の例では、100%のニッケルに対して354ppmものマグネシウムが、精製された硫酸ニッケル溶液中に残留する。粗製硫酸ニッケル溶液からのカドミウム及びマンガン等の他の金属の除去は、考察すらされない。
【0012】
JP2021/105206は、ニッケル回収段階におけるニッケルとコバルトの間の分離可能性を改良し得る溶媒抽出法を開示する。提示される溶媒抽出法はニッケル回収段階を含み、その段階では、ニッケルの逆抽出のために、ニッケル及びコバルトを担持する酸性抽出薬剤並びに酸を接触させて、ニッケル回収液を得る。ニッケル回収段階における抽出温度は、47~60℃に設定される。ニッケル回収段階における抽出温度は47℃以上に設定されるので、有機溶媒へのコバルトの分配比が増加し得る一方、有機溶媒へのニッケルの低い分配比が保たれ、そのため、ニッケルとコバルトの間の分離可能性は改良され得る。JP2021/105206は、ニッケル溶液中のマグネシウム及びカルシウムの量は、コバルトからニッケルを分離するための抽出法によって影響を及ぼされることを示す一方、前記ニッケル溶液中のマグネシウム及びカルシウム不純物の量を最適に低減する手立てを教示しない。
【0013】
US2008/0003154は、亜鉛及びコバルトの金属不純物を有価金属のニッケルから選択的に除去するための、2段階溶媒抽出回路について記載する。亜鉛を選択的に抽出するために、シアネックス272系において、亜鉛とコバルトの間の十分な分離が存在しなければならない。コバルト及びニッケルに関して同様に、分離係数は、純粋なニッケル生成物を得るために十分な大きさのものでなければならない。金属不純物の溶媒抽出のための方法は、80℃~100℃の温度にて操作される。それにより、コバルトはニッケルから選択的に抽出され得ること、及び任意の鉄、銅、亜鉛、マンガン及びマグネシウムが、コバルトで完全に共抽出されることが認識される。ニッケルからの不純物の更なる除去は助言されず、したがって、不純物は非常に低水準で提示されると考察される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】US2014/322109
【特許文献2】CN107162067
【特許文献3】EP1252345
【特許文献4】EP2784166
【特許文献5】EP3733884
【特許文献6】EP3222735
【特許文献7】JP10-310437
【特許文献8】JP2021/031729
【特許文献9】JP2021/031730
【特許文献10】US6,149,885
【特許文献11】JP2021/105206
【特許文献12】US2008/0003154
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
結論として、簡易で実用的な方法のニーズがあり、その方法によって、低い水準のコバルト、カルシウム、マグネシウム及び他の不純物を有する高純度硫酸ニッケルが達成され、それにより、ニッケル金属層の無電解メッキ又は電池カソード材料のための前駆体等の高純度が要求される適用において使用され得る硫酸ニッケルがもたらされる。本発明の目的は、コバルト、マグネシウム及びカルシウム、並びに必要に応じて、鉄、亜鉛、銅、カドミウム及びマンガン等の不純物を含むニッケル水溶液から高純度硫酸ニッケル溶液を生成するための新規の方法を提供することである。その上、安定性がある品質を有する硫酸ニッケルが簡易に生成され得ることが本発明の目的である。最終的に、本発明の目的は、ニッケル粗原料から更なる処理に好適な、コバルトリッチな水溶液を生成することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
現時点での発明は、請求項1に記載されるとおり高純度硫酸ニッケル溶液を調製するための方法を提供することによって、前述の問題のうちの少なくとも1つの解決法を提供する。
【0017】
本発明は、コバルト、亜鉛、マンガン、カドミウム、アルミニウム、銅、カルシウム、並びにマグネシウムの元素は、存在する場合は全て、ニッケルから完全に分離されるという利点を有する。本発明は、言及された不純物は、第1の工程でマグネシウムを除く全てが完全に除去され、第2の工程で残留マグネシウムが除去される、2段階溶媒抽出法からなる。
【0018】
本発明に記載の全体的な方法は、高純度のニッケル溶液、すなわち、前記溶液の金属含有量に対して少なくとも99.8at.%のニッケルを提供する一方、母材元素であるニッケルの最小限の共抽出により材料の損失を回避し、この手段により、複雑なニッケル含有混合物の形成を回避する、という意味で効率がよい。したがって、本発明に記載の方法は環境に配慮されている。処理戦略は、硫酸ニッケル最終溶液におけるニッケル純化処理中に使用される試薬を発生源とする、カルシウム塩基由来のカルシウム、ナトリウム塩基由来のナトリウム及び塩酸由来の塩化物等の望まれないイオンの最終溶液中の存在を回避するというものである。このように、提示される方法から得られる硫酸ニッケル溶液は、結晶化又は噴霧乾燥によって簡易に更に処理されて、硫酸ニッケル結晶又は顆粒をそれぞれ形成し、それにより、簡易に運搬される。有利には、本発明はまた、コバルトリッチな溶出液を生成することができ、例えば、コバルト塩化物、コバルト硫酸塩又は他のものとして高純度コバルト塩を生成するために、別個に更に処理され得る。本発明の方法は、簡易で、環境に配慮されており、高純度の硫酸ニッケルを提供する。
【0019】
更なるガイドとして、本発明の教示を良好に理解するために図が含まれる。前記図は、本発明の説明を補助することを意図し、ここに開示される発明を限定することを意図するものではない。本明細書に含有される図及び記号は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の態様に記載の方法を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
別段に定義されない限り、技術的及び科学的用語を含む本発明の開示に使用される全ての用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。更なるガイドとして、本発明の教示を良好に理解するために用語の定義が含まれる。
【0022】
本明細書で使用される場合、次の用語は次の意味を有する。
【0023】
本明細書で使用される「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈が別段に明示しない限り、単数及び複数の両方の指示対象物を指す。例として、「1つの区画(a compartment)」は、1つ又は2つ以上の区画を指す。
【0024】
本明細書で使用される「約」は、パラメータ、量、時間的長さ、及び同類のもの等の測定可能な値に言及し、かかる変動が、開示される発明において役割を果たすために適切である限りにおいて、+/-20%以下、好ましくは+/-10%以下、より好ましくは+/-5%以下、更にいっそう好ましくは+/-1%以下、及びなおより好ましくは+/-0.1%以下の特定の値の変動、及び特定の値からの変動を包含することを意味する。しかしながら、修飾語「約」が言及する値はまた、それ自体、具体的に開示されると理解されるべきである。
【0025】
本明細書で使用される「含む(comprise)」、「含む(comprising)」、及び「含む(comprises)」並びに「~で構成される(comprised of)」は、「含む(include)」、「含む(including)」、「含む(includes)」又は「含有する(contain)」、「含有する(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、後に続くものの存在を少なくとも特定する包括的又は無制約の用語であり、当該技術分野において公知の又は本明細書に開示される、追加の引用されない構成成分、特性、要素、部材又は工程の存在を排除又は除外しない。
【0026】
端点による数値範囲の引用は、その範囲内に包含される全ての数及び分数、並びに引用される端点を含む。別段に定義されない限り、又は異なる意味が、その使用から及びそれが使用される文脈において当業者に明白でない限り、全てのパーセンテージは「wt.%」と略される質量パーセンテージ、又は「vol.%」と略される体積百分率、又は「at.%」と略される原子百分率であると理解されるべきである。
【0027】
有機相に関して、その構成成分又は全体を特定するために次の用語が使用される。
i.「抽出剤」又は抽出用剤は、活性構成成分に化学的に結び付くことにより、及び水性相中よりも有機相中で良好な可溶性である金属-抽出剤錯体を形成することにより、金属種を有機相へ抽出する有機相中の活性構成成分である。
ii.「希釈剤」は、有機分子又は通常、抽出剤を希釈するため、及び金属錯体の溶解を可能にするために有機相に加えられる異なる有機分子の混合物であり、有機相の物理的特性(特に、相分離現象)を改良し、通常、希釈剤が抽出剤よりも安価であることを考慮すると、そのコストを低減させる。希釈剤は、しばしばケロシン画分であり、脂肪族又は芳香族炭化水素、ナフテン等、又はこれらの混合物であり得る。
iii.有機相は、「修飾剤」を含有してもよい。有機相中への金属錯体の溶解性を改良するために、溶媒の物理的特性を変化させるために、及びクラッド形成又は第3の相の形成は溶媒抽出中で望まれないので、これらの現象を回避するために、修飾剤が時には加えられる。抽出剤又は希釈剤の化学分解を妨げるために、修飾剤を加えることができる。しかしながら、修飾剤が、抽出剤と共に金属の錯体形成に関与する場合があるので、有機相の選択性を損なうことがある。
iv.「有機相」は、「溶媒」又は「溶媒混合物」を特定するために使用される別の用語であり、抽出剤、希釈剤及び必要に応じて修飾剤の混合物を含む。
【0028】
別の金属に対する1つの金属の抽出剤の「選択性」Sは、両方の金属に対する分配係数Dの比として表すことができる。
SMg/Ni=DMg/DNi
【0029】
金属の「分配係数」は、有機相中の当該金属及び水性相中の同一の金属のそれぞれの平衡濃度の比であると理解され、
DM=[M]O/[M]A
式中、Mはニッケル又はマグネシウム等の金属であり、Oは有機相を指し、Aは水性相を指す。
【0030】
本発明の文脈では、「溶媒抽出回路」は、用語「溶媒抽出」、「溶媒抽出法」、「溶媒回路」、「溶媒ループ」、又は「溶媒抽出ループ」の同義語として理解されるべきであり、一連の1つ又は複数の溶媒抽出区分を指し、各々は、1つ又は複数の溶媒抽出段階からなる。各々の抽出区分は、異なる一組の温度、pHプロファイル及び溶媒-水比等のプロセスパラメータで進行することができるが、溶媒抽出回路は、たった一つの有機相を利用する。溶媒抽出回路の有機相組成は、抽出剤の種類、希釈剤の種類、及び抽出剤-希釈剤比のような単一の組のパラメータによって特徴づけられるので、固定されている。
【0031】
第1の態様では、本発明は、高純度硫酸ニッケル溶液を調製するための方法であって、
i.ニッケル、コバルト、カルシウム及びマグネシウム、並びに存在する場合は亜鉛、マンガン、カドミウム、及び/又は銅を含む、供給水溶液を準備する工程と、
ii.第1のアルキルリン系の抽出剤(I)及び第1の希釈剤を含む第1の有機相を使用して、前記供給水溶液からコバルト、カルシウム、及び少なくともある程度のマグネシウムを抽出し、それによりニッケル及び残留マグネシウム分を含むラフィネート水溶液(A1)、並びにコバルトリッチな有機相(O1)を得る工程であって、有機相が、典型的には、カルシウム、マグネシウム及びニッケル、並びに存在する場合は亜鉛、銅、カドミウム及びマンガンを含む工程と、
iii.第2のアルキルリン系の抽出剤(II)及び第2の希釈剤を含む第2の有機相(O2)を使用して、前記ラフィネート水溶液(A1)からマグネシウムを抽出し、それによりマグネシウム枯渇高純度硫酸ニッケル水溶液(A2)及びマグネシウム濃縮有機相を得る工程と
を含む、方法を提供する。
【0032】
本発明は、コバルト、マグネシウム、カルシウム、並びに存在する場合は更に亜鉛、マンガン、カドミウム、鉄、アルミニウム、及び銅の元素が、単一方法において完全にニッケルから分離されるという利点を有する。この方法により、40~200g/Lの濃度を有するニッケル及び最大で10mg/Lの濃度を有するマグネシウムを含む高純度硫酸ニッケル水溶液(A2)、2つの添加された有機相、すなわちカルシウム、マグネシウム及びニッケル、並びに存在する場合は亜鉛、銅、カドミウム及びマンガンを含むコバルトリッチな有機相(O1)、並びにニッケル及びマグネシウムを含むマグネシウム濃縮有機相(O2)を入手する。好ましくは、前記高純度硫酸ニッケル水溶液は最大で5mg/Lのマグネシウム、及び更にいっそう好ましくは最大で1mg/Lを含む。前記第1及び前記第2の有機相は修飾剤を含んでもよい。
【0033】
前記ラフィネート水溶液A1は、硫酸ニッケルと一緒に、20mg/L~20g/L、好ましくは20mg/L~2g/L、より好ましくは20mg/L~500mg/Lの濃度でマグネシウムを含む。
【0034】
全体的に、得られるラフィネート水溶液(A1)中の残留マグネシウム分は、高純度適用には高濃度過ぎるため、第2の溶媒抽出工程に供される。
【0035】
溶媒抽出工程ii及びiiiは、任意の好適な装置において実施され得、特に限定されるものではない。溶媒抽出機器は、一般に、ミキサセトラ、カラム接触器、遠心接触器又は任意の他の種類の接触器からなる少なくとも1つ又は複数の装置を含む。好ましくは、抽出は向流構造において実施される。
【0036】
好ましくは、本発明は、カルシウム、マグネシウム及びニッケル、並びに存在する場合は亜鉛、銅、カドミウム及びマンガンを含む前記コバルトリッチな有機相(O1)が、鉱酸を含む水溶液でストリッピングされる工程ivを更に含む、本発明の第1の態様に記載の方法を更に提供する。これにより、コバルト、カルシウム、マグネシウム、並びに存在する場合は亜鉛、銅、カドミウム及びマンガンの溶出を、前記第1の溶媒から効果的にもたらす。好ましくは、前記鉱酸は、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸及び過塩素酸を含む群から選択される1つ又は複数のものである。より好ましくは、前記鉱酸は、塩酸、臭化水素酸、硝酸、リン酸及び過塩素酸を含む群から選択される1つ又は複数のものである。別の実施形態では、前記鉱酸は硫酸である。最も好ましくは、前記鉱酸は塩酸である。これにより、コバルト、カルシウム、マグネシウム、並びに存在する場合は亜鉛、銅、カドミウム及びマンガンを含む濃縮溶出液を、前記第1の溶媒から得ることができる。
【0037】
ストリッピング工程は、任意の好適な装置において実施することができ、特に限定されない。ストリッピング機器は一般に、ミキサセトラ、カラム接触器、遠心接触器、又は任意の他の種類の接触器からなる少なくとも1つ又は複数の装置を含む。好ましくは、ストリッピング工程は向流構造において実施される。
【0038】
好ましい実施形態では、本発明は、ニッケル、コバルト、マグネシウム並びに鉄及び/又はアルミニウム、並びに必要に応じてカルシウム、亜鉛、銅、カドミウム及びマンガンを含む浸出貴液から、鉄及び/若しくはアルミニウムを除去する工程によって、ニッケル、コバルト、カルシウム、マグネシウム、並びに必要に応じて亜鉛、銅、カドミウム及びマンガンを含む前記供給水溶液が得られる、本発明の第1の態様に記載の方法を提供する。前記鉄及び/又はアルミニウムは、有利には、水酸化物又は他のもの等の塩基性試薬を前記水溶液に加え、それにより鉄及び/又はアルミニウム水酸化物沈殿物を形成することによって除去され得る。潜在的に、例えば、酸素又は過酸化水素のような酸化剤を加えることは、鉄及び/又はアルミニウム除去工程に含まれる場合がある。
【0039】
好ましい実施形態では、前記鉄及び/又はアルミニウムは、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム等のカルシウム塩基又は任意の他のカルシウム含有塩基性試薬を使用する沈殿によって除去される。カルシウムは、本方法の本工程において低い水溶性を有する、ジプサムとも称される硫酸カルシウムを形成するので、カルシウム塩基の使用は有利である。したがって、過剰量のカルシウム塩基の使用は、得られる硫酸ニッケル溶液の純度にとって有害ではない。限られた量のカルシウムのみが、溶媒抽出工程iiに送られるニッケル溶液中に残留することとなる。後半のプロセスは、ニッケル溶液からのカルシウムの完全な除去ができるように設計されている。鉄及び/又はアルミニウムの沈殿中の硫酸カルシウムの形成が、鉄及び/又はアルミニウム沈殿物の濾過性を強化する。したがって、ニッケル、コバルト、マグネシウム、並びに鉄及び/又はアルミニウムを含む前記供給水溶液中に存在する鉄及び/又はアルミニウム不純物の量に対して、カルシウム塩基が、化学量論的過剰量で使用されることが好ましい場合がある。
【0040】
別の好ましい実施形態では、用いられる塩基は、ニッケルの水酸化物若しくは炭酸塩又は任意の他のニッケル含有塩基性試薬であってよく、それにより有益なニッケルイオンを硫酸ニッケル溶液に導入する。他の好ましいニッケル塩基は、重炭酸ニッケル及びニッケルヒドロキシサルフェートである。
【0041】
更に別の好ましい実施形態では、マグネシウムは、本発明の方法の後続の工程において効率的かつ効果的に除去されるので、用いられる塩基は、マグネシウムの水酸化物又は炭酸塩又は任意の他のマグネシウム含有塩基性試薬であってよい。他の好ましいマグネシウム塩基は、重炭酸マグネシウム及びマグネシウムヒドロキシサルフェートである。
【0042】
更に別の好ましい実施形態では、鉄及び/又はアルミニウム等の不純物は、カルシウム塩基、マグネシウム塩基及びニッケル塩基から選択される2つ以上の沈殿作用剤の組み合わせを使用する沈殿によって分離され得る。
【0043】
その上、鉄及び/又はアルミニウム等の不純物は、異なる沈殿剤を各々の沈殿工程において使用することができる、2つ以上の沈殿工程における沈殿によって除去され得る。好ましい実施形態では、ニッケル塩基は第1の沈殿工程において使用され、カルシウム塩基は後続の沈殿工程において使用される。
【0044】
或いは、鉄及び/又はアルミニウム等の不純物は、中和等の他の方法によって分離され得る。しかしながら、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等のアルカリ塩基の使用により、金属不純物を後続の溶媒抽出法によって抽出できない供給水溶液中へ導入することとなり、そのため、フローシートの最終段階で、潜在的な結晶化又は造粒のプロセスが複雑になり得る。
【0045】
別の実施形態では、原材料によって先行して、又はカルシウム塩基、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム等のカルシウム含有試薬、若しくは別のCa含有塩基性試薬を使用することによって溶媒抽出工程iiに関与する前に導入されたため、溶媒抽出工程iiに関与するニッケル供給溶液中に、カルシウムは既に存在する。
【0046】
好ましい実施形態では、本発明は、工程iで準備される前記供給水溶液が、前記供給水溶液の全金属含有量に対してニッケルを少なくとも60at.%の量で、及び前記供給水溶液の全金属含有量に対してコバルトを最大で40at.%の量で含む、本発明の第1の態様に記載の方法を提供する。好ましくは、前記供給水溶液は、ニッケルを少なくとも70at.%の量で、及びコバルトを最大で30at.%の量で含み、より好ましくは、前記供給水溶液は、ニッケルを少なくとも80at.%の量で、及びコバルトを最大で20at.%の量で含み、最も好ましくは前記供給水溶液は、ニッケルを少なくとも90at.%の量で、及びコバルトを最大で10at.%の量で含む。
【0047】
好ましい実施形態では、本発明は、工程iで準備される前記供給水溶液が、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、銅、カドミウム及びマンガンを、前記供給水溶液の全金属含有量に対して最大で25at.%の合計量で更に含む、本発明の第1の態様に記載の方法を提供する。好ましくは、前記供給水溶液は、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、銅、カドミウム及びマンガンを、最大で10at.%の合計量で、更にいっそう好ましくは最大で5at.%の量で更に含む。
【0048】
それによって、供給水溶液は、混合された水酸化物沈殿物、粗製硫酸ニッケル又は任意の他の種類の好適な資源のような全ての種類の資源に由来することができ、それ自体が好適であるか、又は必要に応じて、好適な供給溶液へと処理されている。本処理は、濾過、選択的な濾過、溶解、沈殿工程及び/又は任意の他の種類の前処理工程を含むことができる。これらの組み合わせも可能である。例えば、少なくとも濾過及び最終的には先行のリチウム除去が、前処理に含まれる場合、ニッケル、コバルト、マンガン及びリチウムを含有する前処理された電池リサイクル材料は、本フローシートにおいて処置されて純粋な硫酸ニッケル溶液を生成し得る。或いは、リチウムは、例えば、リチウムイオン交換カラムを用いて工程iiiの最終段階で除去される。
【0049】
好ましい実施形態では、本発明は、工程ii及びiiiにおいて使用される前記抽出剤がアルキルリン系の酸を含む、本発明の第1の態様に記載の方法を提供する。好適なアルキルリン系の酸は、ビス(2-エチルヘキシル)リン酸(D2EHPA)、(2-エチルヘキシル)ホスホン酸モノ(2-エチルヘキシル)エステル(EHEHPA、PC88A)、ビス-(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(シアネックス272又はIONQUEST 290)、及びジイソオクチルホスフィン酸(DOPA)を含む。アルキルリン系の酸は、これらの分子中の配位リン及び酸素原子の存在のために、キレート抽出剤として機能する。水溶液中の元素のうち、キレート化合物を形成する可能性が低い元素と比較して、より高い安定性を有する対応するキレート化合物を形成する元素は、抽出効率をより促進させる。
【0050】
EHEHPA(PC88A)が抽出剤として使用される場合、マグネシウム及びカルシウムの抽出挙動はニッケルの抽出挙動に類似する。したがって、高濃度でニッケルを含有する溶液が溶媒抽出にかけられる場合、マグネシウム及びカルシウムの抽出効率が低下するという問題が生じる。本発明は、カルシウム抽出に好都合であるが、同時に、マグネシウム抽出を低減させる操作条件の選択によって、不十分なカルシウム抽出の問題を解決する。より好ましい第2の抽出剤及びマグネシウムの抽出のためにより好ましい操作条件で、マグネシウムの追加の別の溶媒抽出を実施することによって、後者は相殺される。
【0051】
好ましい実施形態では、本発明は、前記第2の抽出剤(II)が前記第1の抽出剤(I)よりも高いマグネシウムの選択性を有する、本発明の第1の態様に記載の方法を提供する。言い換えると、前記第2の抽出剤(II)は、前記第1の抽出剤(I)の親和性よりも高いマグネシウムの親和性を有する。加えて、前記第2の抽出剤(II)は、ニッケルよりも高いマグネシウムの選択性を有する。最も好ましくは、第2の抽出剤(II)は、IONQUEST 290等のアルキルホスフィン酸を含む。
【0052】
好ましい実施形態では、本発明は、前記第1の抽出剤(I)が、前記第2の抽出剤(II)よりも高いニッケルに対するカルシウムの選択性を有する、本発明の第1の態様に記載の方法を提供する。言い換えると、前記第1の抽出剤(I)は、前記第2の抽出剤(II)のニッケルに対するカルシウムの親和性よりも高い、ニッケルに対するカルシウムの親和性を有する。加えて、前記第1の抽出剤(I)は、ニッケルよりも高いカルシウムの選択性を有する。最も好ましくは、第1の抽出剤(I)は、PC88A等のアルキルホスホン酸を含む。好ましくは、前記第1のアルキルリン系抽出剤(I)はアルキルホスホン酸及び/又はそのニッケル塩を含み、前記第2のアルキルリン系抽出剤(II)はアルキルホスフィン酸及び/又はそのニッケル塩を含む。
【0053】
好ましい実施形態では、本発明は、前記第1及び前記第2の希釈剤が炭化水素である、本発明の第1の態様に記載の方法を提供する。より一般的には、抽出剤を溶解することができる、任意の非水混和性有機溶媒が使用され得る。したがって、希釈剤は特に限定されない。希釈剤の例として、ケロシン系化合物類を使用することができ、それらは、脂肪族、ナフテン系、芳香族又は更にはこれらの混合物であり得る。
【0054】
好ましい実施形態では、本発明は、工程iiにおいて使用される前記第1の有機相が、前記第1の有機相の全体積に対して前記第1の抽出剤(I)を5~50vol.%の量で、及び前記第1の有機相の全体積に対して前記第1の希釈剤を50~95vol.%の量で含む、本発明の第1の態様に記載の方法を提供する。より好ましくは、前記第1の有機相は、前記第1の抽出剤(I)を30~40vol.%の量で、及び前記第1の希釈剤を60~70vol.%の量で含む。
【0055】
好ましい実施形態では、本発明は、工程iiiにおいて使用される前記第2の有機相が、前記第2の有機相の全体積に対して前記第2の抽出剤(II)を5~50vol.%の量で、及び前記第2の有機相の全体積に対して前記第2の希釈剤を50~95vol.%の量で含む、本発明の第1の態様に記載の方法を提供する。より好ましくは、前記第2の有機相は、前記第2の抽出剤(II)を10~25vol.%の量で、及び前記希釈剤を75~90vol.%の量で含む。有機相における抽出剤濃度により、溶媒の処理適性を失うことなくマグネシウムの最適な抽出ができることが見出された。
【0056】
好ましい実施形態では、工程ii及びiiiにおいて使用される前記抽出剤がアルカリ金属水酸化物で中和され、高いpHでニッケルが事前添加された後、工程ii及びiiiにおける抽出のために使用され、ニッケルが事前添加された有機相を不純物を含有する供給水溶液と接触させる。かかる場合、一方では、ニッケルよりも抽出される可能性が高い元素が溶媒へ移される交換反応が生じ、他方では、有機相中のニッケルは水性相へ移される。結果として、不純物が供給水溶液から除去される一方、得られるラフィネート溶液中のニッケル濃度を増加させ、したがって、中和剤から主要な処理(ラフィネート)流へのアルカリ金属の導入を大いに回避する。アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム又は同種のものが使用されてよい。更に、好ましくは、水酸化ナトリウムが、アルカリ金属水酸化物として使用される。
【0057】
工程ii及びiiiにおいて使用される前記抽出剤のニッケルでの事前添加により、抽出剤の処理適性を失うことなく、最適で改良された抽出ができることが見出された。この事前添加工程中、部分的に中和された抽出剤は、すなわち、アルカリ金属が変換された形態であり、抽出剤のアルカリ金属、典型的には、ナトリウムを、硫酸ニッケル水溶液由来のニッケルと交換する。好ましくは、この溶液から不純物を抽出する場合、事前添加溶媒から供給水溶液への残留アルカリ金属の移動を制限するために、事前添加溶媒のアルカリ金属の残留量はできる限り低いものである。
【0058】
ニッケルの一部分は、精製対象硫酸ニッケル水溶液からの抽出対象不純物と交換することとなる別の無害な金属によって置き換えることができる。これは、ナトリウム又はカリウム等のアルカリ金属、アンモニウムのような類似種であってよい。しかしながら、これらの他の金属は、精製対象硫酸ニッケル水溶液中に存在するかかる金属の抽出を行うことができ、又は更には抽出対象不純物との交換によって硫酸ニッケル溶液を汚染する場合がある。
【0059】
好ましい実施形態では、本発明は、抽出に先行して前記抽出剤が、抽出剤の適切な変換に対応するそれらのニッケル塩に変換される、したがってニッケルを利用可能な抽出剤容量の20~70%の量で、及び2g/Lを最大で、好ましくは最大で0.5g/L、より好ましくは最大で0.1g/Lの濃度までを占める残留ナトリウムを含む、本発明の第1の態様に記載の方法を提供する。好ましくは、ニッケルは、利用可能な抽出剤容量の25~60%、好ましくは、利用可能な抽出剤容量の30%より多く、0.5g/Lの濃度までを最大で占める残留ナトリウムの量に事前添加される。より好ましくは、ニッケルは、利用可能な抽出剤容量の30~50%及び0.1g/Lの濃度までを最大で占める残留ナトリウムの量に事前添加される。
【0060】
事前添加溶媒の好ましいニッケル濃度は、そのため、抽出剤濃度及び変換度に基づく。両者は供給水溶液の目標pHによって決定されるので、除去対象不純物の合計量の関数である。一方では、抽出剤の変換度が高いほど、抽出中に高いpHをもたらし、ニッケル含有供給溶液からの不純物(及びニッケル)のより多い抽出ができ、他方では、抽出剤の変換度が低いほど、抽出中に低いpHをもたらし、ニッケルに対する不純物の良好な選択性を実現することができる。
【0061】
好ましい実施形態では、ニッケル及び場合によってはナトリウム、カリウム若しくは他の金属等のいくつかの他の金属、若しくはアンモニウム等の他のカチオンを含有する事前添加溶媒を、硫酸ニッケル又は塩化ニッケル溶液等の純粋なニッケル含有溶液と再度接触させてもよく、それにより、溶媒の金属ナトリウム、カリウム、アンモニウム又は他の金属を純粋なニッケル含有溶液由来のニッケルと更に交換する。ニッケルの事前添加操作は、溶媒由来の使用された塩基から共抽出されたアルカリ金属を場合によってはスクラビングするように、好ましくは向流操作で、少なくとも純粋な硫酸ニッケル溶液を用いて、2つ以上の段階で実施することができる。結果として、有意に少ない他の金属を含有するニッケル事前添加溶媒が得られ、この溶媒は抽出工程ii及びiiiにおいて使用することができ、この手段により、ニッケル水溶液の望まれない金属での汚染を最大限に回避する。
【0062】
好ましい実施形態では、本発明は、工程iiに関与する前記供給水溶液が、抽出剤Iを含む前記溶媒と接触させる前に1.0~6.0のpHを有し、より好ましくは、2.0~5.5のpHで、最も好ましくは、3.0~5.0のpHでニッケル水溶液と溶媒との間の化学平衡を発生させる、本発明の第1の態様に記載の方法を提供する。
【0063】
好ましい実施形態では、本発明は、工程iiにおける前記抽出が、25~70℃、好ましくは30~60℃、より好ましくは30~55℃、又は更には30~50℃の温度にて実施される、本発明の第1の態様に記載の方法を提供する。より好ましくは、工程iiにおける前記抽出は、35~45℃の温度にて実施される。発明者らは、ニッケル溶液からのカルシウムの抽出がより低い温度で改良されることを見出した。したがって、工程iiの抽出温度は、50℃未満、好ましくは45℃未満が好ましい。しかしながら、より低い温度では、コバルト抽出の効率が低減される。したがって、25℃を上回る、好ましくは30℃を上回る、より好ましくは35℃を上回る抽出温度が使用されることが好ましい。そのため、最も好ましくは、工程iiにおける抽出温度は、25℃より高く45℃未満、好ましくは30℃より高く45℃未満、より好ましくは35℃より高く45℃未満である。具体的には、前記抽出温度は、36℃、38℃、40℃、42℃又は44℃、又はその間の任意の温度である。
【0064】
好ましい実施形態では、本発明は、工程iiから得る、工程iiiに関与する前記ラフィネート水溶液が、前記抽出剤IIを含む第2の溶媒と接触させる前に2.0~7.0のpHを有し、より好ましくは3.0~6.5のpHで、最も好ましくは4.0~6.0のpHで、ニッケル水溶液と第2の溶媒との間の化学平衡を発生させる、本発明の第1の態様に記載の方法を提供する。
【0065】
好ましい実施形態では、本発明は、工程iiiにおける前記抽出が、少なくとも25℃、少なくとも30℃、好ましくは、少なくとも35℃、最大で80℃の温度にて実施される、本発明の第1の態様に記載の方法を提供する。好ましくは、工程iiiにおける前記抽出は、40~70℃、又は更には45℃~65℃の温度にて実施される。より好ましくは、工程iiiにおける前記抽出は50~60℃の温度にて実施される。発明者らは、ニッケル溶液からのマグネシウムの抽出は、より高い抽出温度によって改良されることを見出した。それにもかかわらず、抽出温度は、有機溶媒の処理適性及び有機溶媒の安全面のために、80℃未満、70℃未満又は65℃未満に制限されることが好ましい。
【0066】
好ましい実施形態では、本発明は、工程iiiにおける前記抽出が、工程iiにおける前記抽出の温度よりも高い温度にて実施される、本発明の第1の態様に記載の方法を提供する。好ましくは、工程iiiにおける温度は少なくとも工程iiにおける温度よりも5℃高く、より好ましくは少なくとも10℃高く、より好ましくは10℃~20℃高く、最も好ましくは約15℃高い。
【0067】
好ましい実施形態では、本発明は、工程iiiの後得られた前記高純度硫酸ニッケル水溶液が結晶化又は造粒に供される、本発明の第1の態様に記載の方法を提供する。好ましくは、前記硫酸ニッケル溶液中の硫酸ニッケルが結晶化され、それにより追加の精製工程を行うことができる。造粒の場合には、例えば、噴霧乾燥等の当業者に公知の任意の造粒技術が好適である。
【0068】
好ましい実施形態では、本発明は、ニッケルが、前記コバルトリッチな有機相から、及び/又は前記マグネシウム濃縮有機相からスクラビングされる、本発明の第1の態様に記載の方法を提供する。不純物をストリッピング工程へ進む前に、添加された有機相からこの共抽出されたニッケルを回収するために、硫酸水溶液等の酸性溶液で洗浄することによって、ニッケルは、これらの溶媒から最初に選択的にスクラビングされる。pHの最適な条件、特に最終スクラビング溶液の酸性度を適用することによって、ニッケルは選択的にスクラビングされ、加えられる酸の量が必要とされるpHに到達するように適合される。
【0069】
好ましい実施形態では、本発明は、工程ivにおける前記ストリッピング工程が塩酸で実施される、本発明の第1の態様に記載の方法を提供する。前記ストリッピング工程により、前記第1の添加溶媒(O1)からニッケルを、コバルト、カルシウム、マグネシウム並びに存在する場合は亜鉛、銅、カドミウム、及びマンガンと一緒に溶出できる。そのため、抽出剤が再生されて、抽出又は事前添加に再利用され得る金属を含まない溶媒を生産する。得られたストリッピング溶液中のカルシウムの存在を考慮すると、塩酸の使用が好ましい。塩酸でストリッピングする工程によって、水易溶性である塩化カルシウムが形成される。このように、金属含有量は溶媒から水溶液に濃縮され得る。硫酸カルシウムの低い溶解性を考慮すると、硫酸の使用は、溶媒抽出処理を妨害する固体沈殿物の形成を誘導する場合がある。
【0070】
好ましい実施形態では、前記塩酸溶液は、少なくとも50g/Lの濃度、より好ましくは100g/L~300g/Lの濃度を有する。
【0071】
好ましい実施形態では、工程ivにおける前記ストリッピング工程は、40℃~55℃、好ましくは40℃~50℃の温度にて、より好ましくは約45℃の温度にて実施される。
【0072】
好ましい実施形態では、本発明は、前記マグネシウム枯渇高純度硫酸ニッケル水溶液が、ニッケルを40~180g/Lの濃度で、マグネシウムを最大で5mg/L、好ましくは最大で1mg/Lの濃度で含む、本発明の第1の態様に記載の後処理工程を提供する。好ましくは、前記高純度硫酸ニッケル水溶液は、カルシウム、コバルト、鉄、アルミニウム、亜鉛、マンガン及び/又はカドミウムの含有量を、各々個々に最大で15mg/Lの量で、好ましくは最大で10mg/L、又は更には最大で5mg/Lの量で有する。
【0073】
好ましい実施形態では、本発明は、前記コバルト濃縮有機相を工程ivにおける塩酸でストリッピングする工程の後、追加的に硫酸で洗浄される、本発明の第1の態様に記載の後処理工程を提供する。好ましくは、前記溶媒は、10~200g/Lの濃度を有する水溶液に含まれる硫酸で洗浄される。硫酸での洗浄により、塩化物イオン及び場合によっては、鉄又はアルミニウム等の残留金属を溶媒から除去できる。そのため、溶媒は事前添加された後再生され、抽出のために再利用され得る。
【0074】
好ましい実施形態では、本発明は、マグネシウム及びニッケルを含有する第2の溶媒を硫酸でストリッピングする工程を提供する。好ましくは、前記溶媒は、10~200g/Lの濃度を有する水溶液に含まれる硫酸で洗浄される。硫酸での洗浄により、場合によっては、鉄又はアルミニウム等の残留金属も溶媒から除去できる。そのため、溶媒は事前添加された後再生され、抽出のために再利用され得る。
【実施例
【0075】
各々の処理工程について、本発明を更に明確にするために実施例を示す。これらの実施例は実験上導き出されたデータに基づき、本発明の範囲を制限することを意図するものではない。
【0076】
供給水溶液の調製
浸出水溶液をNiSO4粗原料の濾過から得る。この浸出溶液を、後続の工程におけるNi(OH)2に続くCa(OH)2を用いる中和による脱鉄操作に供する。濾過され、水溶液から分離された固体鉄ケーキを形成する。この2段階脱鉄操作前後の硫酸ニッケル水溶液の組成は、下の表に提示される。ニッケル、コバルト、カルシウム、マグネシウム、銅、亜鉛及びマンガンを含む、得られる供給水溶液は、鉄及びアルミニウムを含まず、溶媒抽出装置へと進行する。
【0077】
【表1】
【0078】
ニッケルが事前添加された抽出剤Iの調製
(2-エチルヘキシル)ホスホン酸モノ(2-エチルヘキシル)エステル(PC88A)及び炭化水素希釈剤、Escaid 110(ExxonMobil社)を合わせることによって、第1の溶媒を調製する。第1の溶媒は、36vol%のPC88A及び64vol%の炭化水素希釈剤で構成される。2つの連続した工程において、125g/Lのニッケル及び1.0g/Lのナトリウムを含有する高純度硫酸ニッケル水溶液と、溶媒を接触させる。11g/Lのニッケルを含有する事前添加溶媒を目標とするような体積で、125g/LのNaOH溶液をミキサセトラ中に加える。これは、全抽出剤容量の36%の変換度に相当する。1つの事前添加工程の後、溶媒は、10.4g/Lのニッケル及び0.82g/Lのナトリウムを含有する。第2の事前添加工程の後、10.8g/Lのニッケル及び0.12g/Lの残留ナトリウム濃度を含有する溶媒を得る。
【0079】
コバルト、カルシウム及び他の不純物の抽出
供給水溶液を、PC88Aを含む第1の溶媒と複数の段階において混合し、9.1g/Lのニッケルに事前添加して、コバルト、カルシウム、亜鉛、銅、マンガン及び一部のマグネシウムを40℃の温度にて抽出する。抽出区分は、4つの連続したミキサセトラからなる。ニッケル、コバルト、カルシウム、マグネシウム、銅、亜鉛、マンガン及びカドミウムを含有する第1の添加溶媒(O1)並びに硫酸ニッケルと一緒に有意な残留量のマグネシウムを含むラフィネート水溶液(A1)を、1g/L未満の濃度を有するナトリウムに加えて得る。供給溶液及びラフィネートの組成は、下の表に提示される。水性ラフィネート中のニッケル濃度が、供給水溶液中のニッケル濃度と比較して増加するのは、事前添加溶媒のニッケルが、抽出中に、供給溶液由来の不純物と化学量論的に交換されたためである。
【0080】
【表2】
【0081】
抽出剤Iの塩酸でのストリッピング
抽出後、ナトリウム、ニッケル、コバルト、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、カドミウム及びマンガンを含有する第1の添加溶媒を、200g/Lの濃度を有する塩酸で構成される水溶液で、43℃の温度にて処置する。溶出区分は、多段階のミキサセトラ設定からなる。溶媒を再生し、35g/Lの残留塩酸を有する水性溶出液を生成する。添加及びストリッピングされた溶媒の組成は、下の表に提示される。
【0082】
【表3】
【0083】
第1の溶媒の硫酸での洗浄
溶出区分の後、第1の溶媒を、硫酸で構成される水溶液で洗浄してよい。ストリッピングされた溶媒の本後処置の最も重要な目標は、前の溶出区分から同伴された塩酸を、除去することである。そのために、ストリッピングされた溶媒を硫酸(33g/L)溶液と接触させる。結果として、全ての残留夾雑物をストリッピングされた溶媒から除去し、Ni、Co、Ca、Mg、Zn、Mn、Cd、Na及びClは全て<1mg/Lである。したがって、この溶媒を、次のサイクルのために再生することができる。
【0084】
抽出剤Iの硫酸でのスクラビング
抽出の後、ストリッピング工程に先行して、追加のスクラビング工程が、溶出液へのニッケルの損失の回避を決定する場合がある。ナトリウム、ニッケル、コバルト、カルシウム、マグネシウム、亜鉛及びマンガンを含有する第1の添加溶媒を、500g/Lの濃度を有する硫酸で構成される水溶液と合わせる。実験を40℃の温度にて実施する。スクラビング区分は、3つの連続したミキサセトラからなる。スクラビング前後の溶媒の組成は、下の表に提示される。高い選択性を得、一方では、ニッケルを91%の収率でスクラビングし、Mgを13%でスクラビングし、他方では、全ての他の不純物が溶媒に残存する。
【0085】
【表4】
【0086】
ニッケルが事前添加された抽出剤IIの調製
ビス-(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(IONQUEST 290)及び炭化水素希釈剤であるEscaid 110(ExxonMobil社)を合わせることによって第2の溶媒を調製する。第2の溶媒は、15vol%のIONQUEST 290及び85vol%のEscaid 110で構成される。向流構造における2つの連続した工程では、溶媒を130g/Lのニッケル及び0.90g/Lのナトリウムを含有する高純度硫酸ニッケル水溶液と接触させる。125g/LのNaOH溶液を使用し、それにより、およそ5.0g/Lのニッケルを含有する事前添加溶媒を得る。これは、全抽出剤容量の38%の変換度に相当する。1つの事前添加工程の後、溶媒は、2.2g/Lのニッケル及び79mg/Lのナトリウムを含有する。第2の事前添加工程の後、4.6g/Lのニッケル及び67mg/Lの残留ナトリウム濃度を含有する溶媒を得る。事実上、事前添加溶媒のニッケル又は残留ナトリウムは、正確な条件に依存する可能性がある。
【0087】
別の例では、より高い抽出剤濃度を適用した。IONQUEST 290及びEscaid 110を含む第2の溶媒を、97g/Lのニッケル、40mg/Lのマグネシウム及び27mg/Lのナトリウムを含有する高純度硫酸ニッケル水溶液と、1つの工程において55℃の温度にて接触させる。pHを、125g/LのNaOH溶液で6.0の値にて一定に保つ。溶媒に添加されたニッケルの量は、抽出剤濃度の関数として下の表に表示される。
【0088】
【表5】
【0089】
高純度硫酸ニッケル溶液を形成するためのマグネシウムの抽出
第1の溶媒抽出の後に得られる水性ラフィネート(A1)は、127g/Lのニッケル及び690mg/Lのマグネシウム含有し、IONQUEST 290を含む第2の溶媒と混合し、6.0g/Lのニッケルに事前添加して、残留部分のマグネシウムを55℃の温度にて抽出する。抽出区分は、向流構造において5つのミキサセトラからなる。溶媒抽出装置に残るのは、(i)ニッケル及びマグネシウムを含有する第2の添加溶媒(O2)、及び(II)1.0mg/Lのマグネシウムのみを含有する高純度硫酸ニッケル水溶液(A2)であり、したがって、結晶化又は造粒操作に進行して、高純度硫酸ニッケル生成物を得ることができる。水性ラフィネート中のニッケル濃度が138g/Lまで増加したのは、事前添加溶媒のニッケルが、抽出中に、供給溶液由来の不純物と化学量論的に交換されたためである。
【0090】
抽出剤IIの硫酸でのスクラビング
抽出の後、溶出に先行して、追加のスクラビング工程が、溶出液へのニッケルの損失の回避を決定する場合がある。1.10g/Lのニッケル及び1.30g/Lのマグネシウムを含有する第2の添加溶媒を、70g/Lの濃度を有する硫酸で構成される水溶液と合わせる。実験を40℃の温度にて実施する。スクラビング区分は、3つの連続したミキサセトラからなる。スクラビング後の溶媒の0.003g/Lのニッケルへのニッケル濃度減少を伴い、99.7%のスクラビング収率を得る。このスクラビング操作中、マグネシウムを共スクラビングせず、1.30g/Lのマグネシウムを有するスクラビング後の溶媒を生産する。
【0091】
異なる不純物の抽出率への温度の影響
本実施例では、カルシウム、コバルト及びマグネシウムの抽出率への温度の影響が示される。17g/Lのニッケルが事前添加された、35vol%のPC88A及び65vol%のEscaid 110を含む第1の溶媒を、118g/Lのニッケル、9mg/Lのカルシウム、68mg/Lのコバルト及び124mg/Lのマグネシウムを含有する供給水溶液と、2つの連続した工程において接触させる。異なる不純物に関して、25℃及び65℃における抽出率パーセンテージを下の表に示す。一方では、低い温度はカルシウムの抽出に好都合であり、他方では、高い温度はコバルト及びマグネシウムの抽出に好都合である。
【0092】
【表6】
【0093】
そのため、ニッケル溶液からのカルシウムの抽出率はより低い抽出温度にて改良されることを、実験結果は示す。そのために、本工程における抽出温度は、50℃未満、好ましくは45℃未満であることが好ましい。しかしながら、より低い抽出温度では、コバルト抽出の効率もまた低減する。したがって、25℃を上回る、好ましくは30℃を上回る、より好ましくは35℃を上回る抽出温度が使用されることが好ましい。最も好ましくは、抽出温度は、25℃より高く45℃未満、好ましくは30℃より高く45℃未満、より好ましくは35℃より高く45℃未満である。
【0094】
別の例では、マグネシウムの抽出率への温度の影響が示される。15vol%のIONQUEST 290及び85vol%のEscaid 110を含む第2の溶媒を、127g/Lのニッケル及び180mg/Lのマグネシウムを含有する供給水溶液と、1つの工程において接触させる。pHをpH=5.0に制御する。下の表では、一方では、マグネシウムの抽出率パーセンテージは、25℃から44℃を超えて65℃まで増加し、他方では、ニッケルの抽出率が低いままであることが示される。結果として、ニッケルに対するマグネシウムの選択性はより高い温度で増加する。
【0095】
【表7】
【0096】
上記の表における実験結果より、ニッケル溶液からのマグネシウムの抽出は、より高い抽出温度、すなわち、少なくとも25℃、好ましくは少なくとも30℃、又は更には少なくとも35℃の抽出温度によって改良されることが明確である。より好ましくは、前記抽出温度は、40℃より高く、50℃より高く、55℃より高く、又は更には60℃より高い。それにもかかわらず、有機溶媒の処理適性、有機溶媒の安全面及び高エネルギー投入の必要性を回避することのために、抽出温度は、80℃未満、70℃未満又は65℃未満に制限されることが好ましい。
図1
【手続補正書】
【提出日】2024-08-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高純度硫酸ニッケル溶液を調製するための方法であって、
i.ニッケル、コバルト、カルシウム及びマグネシウムを含む供給水溶液を準備する工程と、
ii.第1の溶媒抽出回路において、第1のアルキルリン系の抽出剤(I)及び第1の希釈剤を含む第1の有機相を使用して、前記供給水溶液からコバルト、カルシウム、及び少なくともある程度のマグネシウム、並びに存在する場合は亜鉛、銅、カドミウム及びマンガンを抽出し、それによりニッケル及び残留マグネシウム分を含むラフィネート水溶液、並びにコバルトリッチなカルシウム含有有機相を得る工程と、
iii.第2の溶媒抽出回路において、第2のアルキルリン系の抽出剤(II)及び第2の希釈剤を含む第2の有機相を使用して、前記ラフィネート水溶液からマグネシウムを抽出し、それにより、マグネシウム枯渇高純度硫酸ニッケル水溶液及びマグネシウム濃縮有機相を得る工程と、
iv.工程iiで得られた前記コバルトリッチな有機相を、鉱酸を含む水溶液でストリッピングする工程と
を含み、
前記第1の溶媒抽出回路及び前記第2の溶媒抽出回路が、異なる温度にて、及び/又は異なる抽出剤で操作される、方法
【請求項2】
前記鉱酸が塩酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記供給水溶液が、亜鉛、銅、カドミウム、及び/又はマンガンを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記コバルトリッチな有機相から、及び/又は前記マグネシウム濃縮有機相からニッケルがスクラビングされる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ニッケル、コバルト、カルシウム、マグネシウム、並びに存在する場合は亜鉛、銅、カドミウム及び/又はマンガンを含み、鉄及び/又はアルミニウムを更に含む供給水溶液から、それぞれ鉄及び/又はアルミニウムを除去する工程により前記供給水溶液が得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記鉄及び/又はアルミニウムが沈殿剤を使用する沈殿によって除去され、前記沈殿剤がカルシウム塩基を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記鉄及び/又はアルミニウムが沈殿剤を使用する沈殿によって除去され、前記沈殿剤がマグネシウム塩基を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記鉄及び/又はアルミニウムが沈殿剤を使用する沈殿によって除去され、前記沈殿剤がニッケル塩基を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記鉄及び/又はアルミニウムが2つ以上の沈殿工程における沈殿によって除去され、異なる沈殿剤又は沈殿剤の組み合わせがそれぞれの沈殿工程において使用し得る、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記第1及び第2のアルキルリン系抽出剤が、アルキルリン系の酸及び/又はそのニッケル塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の抽出剤(II)が、前記第1の抽出剤(I)よりも高いマグネシウムの選択性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のアルキルリン系抽出剤(I)が、アルキルホスホン酸及び/又はそのニッケル塩を含み、前記第2のアルキルリン系抽出剤(II)が、アルキルホスフィン酸及び/又はそのニッケル塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第1及び前記第2の抽出剤がそれらのニッケル塩に変換され、少なくとも20%の濃度の利用可能な抽出剤容量を有するニッケルを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記第1及び前記第2の抽出剤がニッケル塩に変換され、前記第1及び前記第2の有機相が2g/L未満のナトリウムを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
工程ii及びiiiで準備される前記第1及び前記第2の有機相が、それぞれ、前記第1及び前記第2の抽出剤を、前記溶媒の全体積に対して5~50vol.%の量で、及び前記希釈剤を、前記溶媒の全体積に対して50~95vol.%の量で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
工程iiにおける前記抽出が25~55℃の温度にて実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
工程iiiにおける前記抽出が40~70℃の温度にて実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記ストリッピング工程ivが、40℃~50℃の温度にて実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記マグネシウム枯渇高純度硫酸ニッケル水溶液が、ニッケルを40~180g/Lの濃度で、及びマグネシウムを最大で5mg/Lの濃度で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
工程iで準備される前記供給水溶液が、前記供給水溶液の全金属含有量に対して、ニッケルを少なくとも60at.%の量で含み、工程iで準備される前記供給水溶液が、前記供給水溶液の全金属含有量に対して、コバルト、カルシウム、マグネシウム、並びに必要に応じて、亜鉛、銅、カドミウム及びマンガンを最大で40at.%の量で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
工程iiiにおいて残留マグネシウムの除去後に得られた前記高純度硫酸ニッケル水溶液が、結晶化又は造粒に供される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記第1の有機相が、前記鉱酸でストリッピングする工程の後に硫酸で洗浄される、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記第1の及び/又は第2の有機相が、硫酸で洗浄又はストリッピングする工程の後、水酸化アルカリ及び硫酸ニッケル溶液又は塩化ニッケル溶液等のニッケル塩含有溶液を使用してニッケルが添加され、引き続き、工程ii及び/又は工程iiiにおいてリサイクルされ、本手段により本方法のループを終了させる、請求項1に記載の方法。
【国際調査報告】