(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-09
(54)【発明の名称】ジメチルエーテル調製のための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
C07C 41/01 20060101AFI20241202BHJP
C07C 43/04 20060101ALI20241202BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241202BHJP
【FI】
C07C41/01
C07C43/04 D
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533957
(86)(22)【出願日】2022-12-06
(85)【翻訳文提出日】2024-07-31
(86)【国際出願番号】 EP2022025553
(87)【国際公開番号】W WO2023104332
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンクラー,フローリアン
(72)【発明者】
【氏名】ランヴァー,ヴァージニー
(72)【発明者】
【氏名】ボトケ,ニルス
(72)【発明者】
【氏名】ゲンツェン,マヌエル フレデリク
(72)【発明者】
【氏名】タウロ,シルヴィア
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC43
4H006BA05
4H006BA30
4H006BA71
4H006BA82
4H006BC10
4H006BC11
4H006BC18
4H006BC32
4H006BD81
4H006BE20
4H006BE40
4H006BE41
4H006GN01
4H006GP01
4H039CA61
4H039CF30
4H039CL25
(57)【要約】
本発明は、ジメチルエーテルの合成方法に関する:二酸化炭素及び/又は一酸化炭素及び水素を含む供給ガス混合物(E)を、冷却された管束反応器(10)の、第1の触媒及び第2の触媒が装填された反応チューブ(1)を通して導き;供給ガス混合物(E)中に含まれる二酸化炭素及び/又は供給ガス混合物中に含まれる一酸化炭素が、第1の触媒で、供給ガス混合物中に含まれる水素と少なくとも部分的に反応してメタノールを形成し;同一管束反応器(10)中でメタノールが、第2の触媒で、少なくとも部分的に反応してジメチルエーテルを形成する。反応チューブ(1)は、構造化充填物の形態で第1の触媒及び第2の触媒が装填され、構造化充填物は、第1の触媒及び第2の触媒が異なる物理的混合物で提供される2~4つの領域(11、12、13)を有し、領域(11、12、13)は、第1の触媒の濃度が反応チューブ(1)を通る流れ方向で増加するように配置される。本発明は、このような方法を実施するためのシステム(100)にも関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の触媒及び第2の触媒を備えた冷却シェル及びチューブ反応器(10)の反応チューブ(1)を通して、二酸化炭素及び/又は一酸化炭素及び水素を含有する供給ガス混合物(E)を導き、前記供給ガス混合物(E)中に存在する前記二酸化炭素及び/又は前記供給ガス混合物中に存在する前記一酸化炭素を、前記供給ガス混合物中に存在する前記水素と前記第1の触媒上で少なくとも部分的に反応させてメタノールを生じさせ、同一シェル及びチューブ反応器(10)中で、前記メタノールを前記第2の触媒上で少なくとも部分的にジメチルエーテルに変換し、前記反応チューブ(1)は、構造化ベッドの形態で前記第1の触媒及び第2の触媒を備え、前記構造化ベッドは、前記第1の触媒及び第2の触媒が異なる物理的混合物で提供される2~4つの領域11、12、14を有し、前記領域(11、12、13)は、前記反応チューブ(1)を通る流れ方向において前記第1の触媒の濃度が増加するように配置される、ジメチルエーテルの合成方法。
【請求項2】
前記構造化ベッドが、前記第1及び第2の触媒の割合がそれぞれ異なる一連の触媒領域の形態をとり、それぞれの領域内の前記第1及び第2の触媒の割合が本質的に同一である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の触媒が銅ベースの触媒であり、及び/又は前記第2の触媒が酸性触媒であり、特に1種若しくは複数種のゼオライト、γ-ジアルミニウムトリオキシド、及び/又はアルミノシリケートをベースとする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応器が、30~80barの圧力範囲内及び/又は200~290℃の温度範囲内及び/又は1500~4000h
-1のガス空間速度で運転される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ベッドを有する領域(11、12、13)の数が2であり、第1の前記領域(11、12、13)が前記反応チューブ(1)の長さの0%~30%の上流領域であり、第2の前記領域(11、12、13)が前記反応チューブ(1)の長さの25%~100%の下流領域である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の領域(11、12、13)において、前記第1の触媒の割合が1であり、前記第2の触媒の割合がXであり、前記第2の領域(11、12、13)において、前記第1の触媒の割合が1.5~4であり、前記第2の触媒の割合がXである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ベッドを有する領域(11、12、13)の数が3であり、第1の前記領域(11、12、13)が前記反応チューブ(1)の長さの0%~30%の上流領域であり、第2の前記領域(11、12、13)が前記反応チューブ(1)の長さの20%~70%の中央領域であり、第3の前記領域(11、12、13)が前記反応チューブ(1)の長さの50%~100%の下流領域である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の領域(11、12、13)において、前記第1の触媒の割合が1であり、前記第2の触媒の割合がXであり、前記第2の領域(11、12、13)において、前記第1の触媒の割合が1.5~2であり、前記第2の触媒の割合がXであり、前記第3の領域(11、12、13)において、前記第1の触媒の割合が3~4であり、前記第2の触媒の割合がXである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ベッドを有する領域(11、12、13)の数が4であり、第1の前記領域(11、12、13)が前記反応チューブ(1)の長さの0%~25%の上流領域であり、第2の前記領域(11、12、13)が前記反応チューブ(1)の長さの20%~50%の上流中央領域であり、第3の前記領域(11、12、13)が前記反応チューブ(1)の長さの50%~75%の下流中央領域であり、第4の前記領域(11、12、13)が前記反応チューブ(1)の長さの75%~100%の下流領域である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の領域(11、12、13)において、前記第1の触媒の割合が1であり、前記第2の触媒の割合がXであり、前記第2の領域(11、12、13)において、前記第1の触媒の割合が1.5~2であり、前記第2の触媒の割合がXであり、前記第3の領域(11、12、13)において、前記第1の触媒の割合が2.5~3であり、第2の触媒の割合がXであり、領域(11、12、13)の領域において、前記第1の触媒の割合が4であり、前記第2の触媒の割合がXである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
Xが0.3~1である、請求項6、8又は10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ジメチルエーテル合成のためのプラント(100)であって、第1の触媒及び第2の触媒を備えた反応チューブ(1)を有する冷却されたシェル及びチューブ反応器(10)を有し、二酸化炭素及び/又は一酸化炭素及び水素を含む供給ガス混合物(E)を前記シェル&チューブ反応器(10)の前記反応チューブ(1)を通して導くように設置され、前記供給ガス混合物(E)中に存在する前記二酸化炭素及び/又は前記供給ガス混合物(E)中に存在する前記一酸化炭素を、前記第1の触媒上で前記供給ガス混合物中に存在する前記水素と少なくとも部分的に反応させてメタノールを与え、同一シェル及びチューブ反応器(10)において、前記第2の触媒上で前記メタノールを少なくとも部分的にジメチルエーテルに変換し、前記反応チューブ(1)は、構造化ベッドの形態で前記第1の触媒及び第2の触媒を備え、前記構造化ベッドは、前記第1の触媒及び第2の触媒が異なる物理的混合物で提供される2~4つの領域11、12、14を有し、前記領域(11、12、13)は、前記反応チューブ(1)を通る流れ方向において前記第1の触媒の濃度が増加するように配置される、プラント(100)。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法を実施するように設定される、請求項12に記載のプラント(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項の前文による、合成ガスからジメチルエーテルを調製するためのプロセス及びプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
ジメチルエーテル(DME)は、構造的に最も単純なエーテルである。それは、有機基として2つのメチル基を含有し、極性であり、工業的に様々な目的に使用される。
【0003】
ジメチルエーテルは、例えば、DME Handbook,Japan DME Forum,Tokyo 2007,ISBN 978-4-9903839-0-9の第4章に記載されているように、中間体メタノールを経由して合成ガスから2段階合成によって調製することができる。メタノールが最初に合成ガスから調製され、メタノールが未変換の合成ガスから分離され、次いでメタノールが別個に脱水され、さらなるステップでジメチルエーテル及び水になることが「2段階」合成の特徴である。
【0004】
対照的に、ジメチルエーテルの1段階合成では、全ての反応が1つの同一の反応器で、及び1つの同一触媒層で進行する。以下、ジメチルエーテルの一段合成について「直接合成」という用語も使用する。進行する反応は、水素と一酸化炭素及び/又は二酸化炭素を反応させてメタノールを与え、メタノールを(さらに)反応させてジメチルエーテル及び水を与える。ジメチルエーテルの1段階合成は、例えば、米国特許第4,536,485A号明細書及び米国特許第5,189,203A号明細書から知られている。ハイブリッド触媒を使用するのが一般的である。反応は発熱性であり、通常200~300℃の温度及び20~100barの圧力で進行する。
【0005】
特に以下で使用する用語に関してのみならず、合成ガスからのジメチルエーテルの合成に関する基本的な考察に関しても、I.Kiendlらによる論文、Chem.Ing.Tech.2020,92,No.6,736-745を参照されたい。本明細書中の用語はこれに対応する。
【0006】
ジメチルエーテルの調製に必要な合成ガスは、例えば、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、オンライン版、2006年12月15日、doi 10.1002/14356007.a12_169.pub2の論文「Gas Production」でHilleret alに記載されているように、多数の適切な技術によって、多数の出発原料から供給することができる。
【0007】
ジメチルエーテルの2段階合成では、メタノールへの変換のために銅触媒(以下、「メタノール触媒」とも記載する)を使用することが可能であり、その後の脱水のために、特に酸性触媒、例えば、ゼオライト触媒、γ-ジアルミニウムトリオキシドをベースとする触媒、及びアルミノシリケート触媒(以下、「脱水触媒」とも記載する)を使用することが可能である。メタノール生成のための合成ガスは、化学量論値(定義については、Kiendlらの文献を参照されたい)が2よりもいくらか大きいことが注目される。
【0008】
2段階のジメチルエーテル合成により、高純度のジメチルエーテルが得られる。第1段階からのメタノールは高級アルコールから解放され、次いで高選択的に脱水される。一段プロセスでは、メタノール合成及びジメチルエーテル合成が並行して進行し、生成した高級アルコールがオレフィンに変換され、沸騰状況に応じて製品中に発生するため、副生成物がさらなる課題となる。
【0009】
ジメチルエーテルの1段階合成は、工業的にはまだ達成されていない。これは特に、2つの触媒を1つの反応器に統合することが難しいためである。一体化された反応器では、反応物及び生成物に対して、個々の反応器とは異なる温度及び分圧条件が存在するため、反応温度の制御が著しく困難になり、例えば、副生成物の濃度又は分圧が上昇する結果、触媒の老化が促進される。ジメチルエーテルの直接合成における温度制御の手段は、国際公開第2019/122078A1号パンフレットに記載されている。
【0010】
従来のメタノール合成と比較して、温度が高く、水素分圧が高いため、銅触媒はこれらの条件下でシンタリングを起こしやすい。さらに、文献では、ヒドロキシル化反応の発生のため、移動度の上昇は、銅触媒中の二次相に起因するとされている(A.Prasnikar et al.,Ind.Eng.Chem.Res.,2019,58,13021)。これは、銅粒子の移動度をさらに増加させる可能性がある。さらに、これは銅粒子の被覆をもたらし、同様に活性表面積を減少させる。したがって、温度及び濃度/部分圧のパラメーターの制御は、直接ジメチルエーテル合成の実施における重要な課題である。
【0011】
ジメチルエーテル合成では、水素及び一酸化炭素が以下の反応によって反応する:
2H2+CO⇔MeOH
2MeOH⇔DME+H2O
CO+H2O⇔CO2+H2
【0012】
これらは平衡反応であり、圧力、温度、供給物組成によって異なる生成物組成となる。
【0013】
供給ガスに二酸化炭素が含まれず、一酸化炭素に対する水素の比率が1の場合、以下の正味反応が観察される:
3H2+3CO→DME+CO2
【0014】
化学量論値が2の場合、以下の正味反応が支配的である:
2H2+CO→DME+H2O
【0015】
一酸化炭素の挿入による鎖延長によって、高級アルコールを生成することができる。この反応は、銅触媒(cat.)上で生じる。挿入は、すでに形成されたメチル種上で、吸着した一酸化炭素の水素化、又はメタノールの再吸着、及び炭素-酸素結合の先行切断を介して進行する。吸着されたC2種のさらなる水素化は、アセトアルデヒドの形成、又は急速な水素化の後にエタノールの形成をもたらす。
2CH3OH+cat-OH→CH3O-cat+H2O
CH3O-cat+CO→CH3COO-cat
CH3COO-cat+H2→C2H5OH
【0016】
高級アルコールは脱水されて対応するオレフィンになり、これは水素化されてパラフィンになり得る。
【0017】
また、DFT計算によって、例えば吸着した一酸化炭素の水素化によって形成される吸着メチル種への一酸化炭素の挿入による炭素-炭素結合の形成を支持する研究もある。炭素-酸素結合が切断された後にメタノールが吸着すると、やはり一酸化炭素の挿入によってエタノールが生成する。したがって、メタノールの分圧が高くなると、副生成物の生成も増加する可能性がある(例えば、Z.-J.Zuo et al.,J.Phys.Chem.C 2014,118,12890参照のこと)。変性銅触媒のさらなる研究では、さらに、2つのメタノール分子のカップリングによるエタノールの生成も実証されている(J.J.Spifey&A.Egbebi,Chem.Soc.Rev.,2007,36,1514)。
【0018】
ゼオライトの場合に起こるさらなる副反応は、メタノール及び/又はジメチルエーテルからのオレフィンの生成である。これは300℃をはるかに下回る温度ですでに起こり、温度だけでなく滞留時間及び使用する触媒によっても導かれる。この副反応には、文献から知られているメタノール-オレフィン(MTO)及びメタノール-プロピレン(MTP)機構が続く。
【0019】
ジメチルエーテルの直接合成では、反応器において特に以下の問題を解決しなければならない:
・ 一般的な反応条件の結果としての触媒の高老化による、触媒の比較的短い寿命。
・ メタノール及びジメチルエーテルの並行合成、したがって、中間体の精製ができないことによる、ジメチルエーテル生成物中の副生成物。
・ 動力学的に制御された条件及び低温の結果としての下流ベッドの比較的低い生産性。
・ 制御された老化のための反応の温度制御。
・ 触媒交換及び/又は反応器の過剰設計の結果としてのコスト高。
【0020】
ジメチルエーテルの直接合成の利点の一つは、平衡が変化することからもたらされる。国際公開第2019/122078A1号パンフレットによる反応器の上流部分における別個のメタノール合成の結果として、この利点は反応器の下流部分においてのみ利用される。したがって、この場合、より低い収量が予想される。これは、反応器の上流部分における生産性の低下に相当する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、ジメチルエーテルの直接合成のための既知のプロセスにおいて言及された欠点を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この目的は、それぞれの独立請求項に従う、合成ガスからジメチルエーテルを調製するためのプロセス及びプラントによって達成される。有利な構成及び開発は、従属請求項及び以下の説明の主題である。
【0023】
本発明は、第1の触媒及び第2の触媒を(特に、前述のメタノール触媒及び同様に言及された脱水触媒の形態で)備えた冷却シェル及びチューブ反応器の反応チューブを通して、二酸化炭素及び/又は一酸化炭素及び水素を含有する供給ガス混合物を導き、供給ガス混合物中に存在する二酸化炭素及び/又は供給ガス混合物中に存在する一酸化炭素を、供給ガス混合物中に存在する水素と第1の触媒上で少なくとも部分的に反応させてメタノールを生じさせ、同一シェル及びチューブ反応器中で、メタノールを第2の触媒上で少なくとも部分的にジメチルエーテルに変換する、ジメチルエーテルの合成プロセスを提案する。
【0024】
本発明に関連して、当該技術分野で慣用的な設計のシェル及びチューブ反応器を使用することが可能である。対応する反応器に関するさらなる詳細については、関連する技術文献、例えば、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,Volume B4,1992,199~238頁のG.Eigenbergerによる論文「Fixed-Bed Reactors」を参照されたい。そこで
図4.1D及びEに関連して記載されているように、シェル及びチューブ反応器における温度制御のための複数の冷却ゾーン及び反応ゾーンの使用もそれ自体公知である。本発明は、以下に説明するように、特に有利なゾーニングを提案する。
【0025】
本発明によれば、反応チューブが構造化ベッドの形態で第1の触媒及び第2の触媒を備えることが想定され、構造化ベッドは、第1の触媒及び第2の触媒が異なる混合比の物理的混合物状態で提供される2~4つの領域(ここでは同義にゾーンとも呼ばれる)を有し、領域は、第1の触媒(すなわちメタノール触媒)の濃度が反応チューブを通る流れ方向で増加するように配置される。
【0026】
本発明に関連して、「構造化ベッド」という用語は、特に、1つの反応器における第1及び第2の触媒(メタノール触媒及び脱水触媒)の割合又は含有量が異なる一連の触媒領域又はゾーンを意味するものとして理解される。領域又はゾーン内では、これらの割合は同一であるか、又は生産に関連する変動によってのみ互いに異なる。下流方向では、第1の触媒(メタノール触媒)の割合又は含有量は、領域から領域へ、又はゾーンからゾーンへと増加する。構造化ベッドの領域又はゾーン内に存在するのは、主として第1の触媒及び第2の触媒(メタノール触媒及び脱水触媒)の物理的混合物である。特殊な形態として、二官能性触媒と呼ばれるものがある。ここでは、2つの触媒は共通の担体に適用され、物理的に混合されていない。触媒は、ペレット、リング、不定形体などのランダムな充填物に適用されてもよい。
【0027】
本発明は、従来技術から既知であり、メタノール触媒が不活性物質で希釈され、メタノール触媒及び脱水触媒の物理的混合物の形態の混合ベッドが下流に続く、いわゆるプレ-ベッドとは特に異なる。均一ベッド又は個別ベッド、すなわち、メタノール触媒及び脱水触媒の反応器全体(又はプレ-ベッドが使用される場合、プレ-ベッドの下流領域)に均一な物理的混合物とは異なり、構造化ベッドは、メタノール触媒及び脱水触媒の異なる比率による反応レジームによって可能である。
【0028】
第1の触媒は、本発明に関連して、特に、冒頭で説明したタイプの銅ベースの触媒であってよく、そのため、引用した技術文献が参照されてよい。第2の触媒も同様に、当該技術分野で慣用されている種類のものであってよい。これは特に、ゼオライト、γ-ジアルミニウムトリオキシド及びアルミノシリケート上の酸性触媒であってもよい。
【0029】
本発明に関連して、プロセスは、特に、30~80barの圧力範囲内及び/又は200~290℃の温度範囲内及び/又は1500~4000h-1のガス時空間速度(GHSV)で反応器を運転することを含み得る。
【0030】
本発明の第1の構成において、ベッドを有する領域の数は、特に2つであってよく(以下の表1及び表2の表列2に示す)、第1の領域は、反応チューブの長さの0%~30%の上流領域(表1及び表2においてMIX1と識別される)であり、第2の領域は、反応チューブの長さの25%~100%の下流領域(MIX2)である。(空の表セルはベッドのない領域に対応する)。
【0031】
ここで表に示されたパーセンテージは、それぞれの反応チューブの長さ範囲に対応している。言い換えると、A~B%と呼ばれる反応チューブの長さXcmを有する部分は、A×X/100cmの開始位置からB×X/100cmの終了位置まで延在する。再び言い換えると、この後に続く範囲の第1及び第2の値は、パーセンテージで表した反応チューブの第1の長さ位置と、パーセンテージで表した反応チューブの第2の長さ位置である。重なり合う範囲の数値は、重なり合う範囲が一方又は他方のセクションによって形成され得るように理解されるべきである。
【0032】
本発明の第1の構成において、第1の領域において、第1の触媒の割合は1であり得、第2の触媒の割合はXであり得、第2の領域において、第1の触媒の割合は1.5~4であり得、第2の触媒の割合はXであり得る。
【0033】
本発明の第2の構成において、ベッドを有する領域の数は、特に3つであってよく(表列3)、第1の領域(MIX1)は、反応チューブの長さの0%~30%の上流領域であり、第2の領域(MIX2)は、反応チューブの長さの20%~70%の中央領域であり、第3の領域(MIX3)は、反応チューブの長さの50%~100%の下流領域である。
【0034】
本発明の第2の構成において、第1の領域において、第1の触媒の割合は1であり得、第2の触媒の割合はXであり得、第2の領域において、第1の触媒の割合は1.5~2であり得、第2の触媒の割合はXであり得、第3の領域において、第1の触媒の割合は3~4であり得、第2の触媒の割合はXであり得る。
【0035】
本発明の第3の構成において、ベッドを有する領域の数は特に4つであってよく(表列4)、第1の領域(MIX1)は、反応チューブの長さの0%~25%の上流領域であり、第2の領域(MIX2)は、反応チューブの長さの20%~50%の上流中央領域であり、第3の領域(MIX3)は、反応チューブの長さの50%~75%の下流中央領域であり、第4の領域(MIX4)は、反応チューブの長さの75%~100%の下流領域である。
【0036】
本発明の第3の構成において、第1の領域において、第1の触媒の割合を1、第2の触媒の割合をXとし、第2の領域において、第1の触媒の割合を1.5~2とし、第2の触媒の割合をXとし、第3の領域において、第1の触媒の割合を2.5~3とし、第2の触媒の割合をXとし、第4の領域において、第1の触媒の割合を4、第2の触媒の割合をXとしてもよい。
【0037】
全ての構成において、Xは特に同じであってもよく、0.3~1であってもよい。
【0038】
上記で解明された構成は、既述の表を参照して、以下、再び例示される。
【0039】
【0040】
【0041】
ジメチルエーテルの直接合成の利点の一つは、平衡変換率の増加に起因する。従来技術によれば、反応器の上流部での別個のメタノール合成の結果、この利点は反応器の下流部でのみ利用される。この組み合わせは温度制御に役立つ。
【0042】
反応器の上流部では生産性が低い。現在、このような温度制御の利点は、2つの異なる触媒の適切な混合物によっても同様に得られることが見出されている。温度制御の利点だけでなく、これは空時収量を増加させるという付加的な効果も有する。このことは、特に以下に説明される実施例1~3によって示される。
【0043】
最前又は上流部では、混合物中の第1の触媒の割合が低い結果、生成するメタノールの量が少なく、したがって発熱性が低いため温度制御が可能になる。同時に、脱水触媒の含有率が高いことから、確実にメタノールからジメチルエーテルを得る反応が促進され、高いメタノール分圧の蓄積が防がれる。高いメタノール分圧の蓄積があると、特に反応器の上流部では、高い一酸化炭素の分圧とともに、副生成物の生成が導かれる。仮にメタノール反応の平衡が達成されたとしても、ここでの第1の触媒の割合は他の実施形態と比較して低く、したがって、副反応は同程度に発展するであろう。
【0044】
少なくとも1つ且つ3つ以下のさらなる下流ベッドは、それぞれ、より高い割合の第1の触媒を用いて実行されるべきである。これにより、制御された反応温度領域が可能となる。したがって、ピーク温度が280℃を超えることを避けることができる。理想的には、温度は200℃~280℃の範囲内、特に220℃~270℃の範囲内に保持される。これにより、例えば第1の触媒の銅成分における焼結効果による早期老化が防止される。温度ピークのより良好な制御は、さらに、副反応として第2の触媒により触媒されるオレフィン生成、又はさらなる反応の回避を可能にする。反応器の下流部分における第1の触媒の割合が高いほど、一酸化炭素の分圧が低くなるため、副生成物の生成に対する致命的な影響は少なくなる。この事実は、特に以下に説明される実施例4で実証される。
【0045】
ジメチルエーテルの直接合成は、第1の触媒の銅成分の触媒老化が進むにつれて、次第に速度論的に制御されるようになる。第1の触媒の割合は、直接合成の全体的な変換率に重要な程度まで関与する。したがって、銅の活性低下は直接合成の効率に最も大きな影響を与える。したがって、ベッドの端部に向かって第1の触媒の割合が高くなると、一般的にチューブ端部に向かって反応器の利用が良好になり、低温並びに水素及び一酸化炭素の分圧によって制御される合成ガス変換率が低くなる。このことは、特に以下に説明される実施例2及び実施例3の比較によって示される。
【0046】
本発明に関連して使用される第1の触媒が、短時間でそれらの活性の20%~30%を失い、使用期間中に初期の活性の25%~40%しか有さないことは珍しいことではない。したがって、下流ベッドは、有利には、第1のベッドを基準として、この第1の触媒の割合の約1.5~4倍を備える。老化にもかかわらず、工業プロセス用の構造化ベッドによって、下流ベッドが上流ベッドの変換の損失を補うか、又は軽減するため、より長い期間にわたって高い変換率を達成することができる。これにより、ベッドの長期間利用が可能になる。
【0047】
メタノール反応は、ジメチルエーテル反応と比較して、反応器の末端に向かって促進される。メタノールは、多くの場合、ジメチルエーテル平衡反応によってジメチルエーテル合成プロセスにリサイクルされるため、メタノールに対する選択率が高くても本発明の解決法では問題にはならない。したがって、ベッド開始時の高い脱水触媒含有量は、リサイクルされたメタノールの変換の機会を構成すると同時に、リサイクルされた量のメタノールとメタノール合成の平衡反応との競合を防止する。このことは、特に以下に説明される実施例5で実証されている。
【0048】
したがって、温度制御は、混合物中のメタノール触媒の量を少なくする、すなわち、混合比を調整するか、又は混合物中のメタノール含有量が同一で、低活性脱水触媒を使用することによって可能となる。
【0049】
特に高いメタノール生成速度又は空時収量を達成するために、第1の触媒の含有量を増加させるだけでなく、リサイクルメタノールを非常に実質的に最小化するために特に高い活性を有する第2の触媒を使用することが特に可能である。この場合、オレフィンを得るためのDMEのさらなる反応は避けるべきである。構造化ベッドを使用することで、反応温度を制御することにより、このような副反応を回避することができる。このような副生成物生成の増加は、例えばメタノールからオレフィンへのプロセスで知られているように、脱水触媒のコーキングを引き起こし、その活性を急速に低下させる。
【0050】
ジメチルエーテル合成のために本発明に従って提案されたプラントは、第1の触媒及び第2の触媒を備えた反応チューブを有する冷却されたシェル及びチューブ反応器を有し、二酸化炭素及び/又は一酸化炭素及び水素を含む供給ガス混合物をシェル及びチューブ反応器の反応チューブを通して導くように設置され、供給ガス混合物中に存在する二酸化炭素及び/又は供給ガス混合物中に存在する一酸化炭素を、第1の触媒上で供給ガス混合物中に存在する水素と少なくとも部分的に反応させてメタノールを与え、同一シェル及びチューブ反応器において、第2の触媒上でメタノールを少なくとも部分的にジメチルエーテルに変換する。
【0051】
本発明によれば、反応チューブは、構造化ベッドの形態で第1の触媒及び第2の触媒を備え、構造化ベッドは、第1の触媒及び第2の触媒が異なる物理的混合物で提供される2~4つの領域を有し、領域は、反応チューブを通る流れ方向において第1の触媒の濃度が増加するように配置される。
【0052】
ジメチルエーテルを調製するための本発明のプラントは、上記のようなプロセスを実施するためにプラントを仕込む手段を備える。本発明のプラント又はその有利な開発及び構成は、それに応じて、類似の方法でそれぞれの対応するプロセスの利点から利益を得、逆もまた同様である。
【0053】
以下、添付の図面を参照し、実施例を参照しながら、本発明のさらなる特徴及び利点、並びに実施例から進行する実施形態の詳細な説明を行う。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】本発明の一構成のプラントを簡略化された概略図に示す。
【
図2】一実施例における平均反応器温度の関数としての炭化水素選択率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0055】
図において、同一又は相互に機能的に対応する要素は、同一の参照数字で参照される。プロセスステップに関する説明は、装置の構成要素にも対応して適用可能であり、その逆も同様である。
【0056】
図1は、100と総称される、大幅に簡略化された形態のジメチルエーテルのプラントを示す。このプラントは、多数の反応チューブ1を有する、冷却剤Cで冷却されるシェル及びチューブ反応器10を含む。冷却剤Cは、シェル及びチューブ反応器10のシェル空間を通って、反応チューブ1を通って導かれる供給ガス混合物Eに対して向流で導かれ、任意選択的に複数の冷却剤回路の形態でもある。生成物混合物Pはシェル及びチューブ反応器10から取り出される。
【0057】
反応チューブ1は、構造化ベッドの形態の第1の触媒及び第2の触媒を備え、ここで説明される実施例における構造化ベッドは、第1の触媒及び第2の触媒が異なる物理的混合物中に提供される3つの領域11、12、13を有し、領域11、12、13は、第1の触媒の濃度が反応チューブ1を通る流れ方向で増加するように配置される。
【実施例】
【0058】
実施例1~3
実施例1~3に関連して、国際公開第2019/122078A1号パンフレットの従来技術による触媒ベッドによって、直接合成が実施された。比較として、直接合成を、同様の条件下で本発明による構造化ベッドによって実施した。構造化ベッドは、第1の触媒及び第2の触媒の混合物を有する2つの異なる領域から構成された。上流ゾーンは反応チューブのチューブ長さの0%~30%の範囲であった。最初の0~30%は、残りの25~100%とは常に異なる。パラメーターを表3にまとめる。表の2列目は第1の触媒の総含有量(重量%)、表の3列目はガス時空間速度(GHSV)、表の5列目は一酸化炭素の変換率(%)、表の6列目は1時間当たりの触媒1キログラム当たりのジメチルエーテルグラムのグラムでのジメチルエーテル当量としてのメタノール及びジメチルエーテルの空時収量(STY)、表の7列目は炭化水素に対する選択率である。
【0059】
ジメチルエーテル当量が空時収量の決定に使用されることにより、メタノールも実質的にジメチルエーテルとみなされ、収量に含まれる。この目的のために、以下の式が使用され得る:
【数1】
【0060】
【0061】
実施例1では、従来技術による希釈メタノールプレ-ベッドと、それに続く混合触媒ベッドを使用した。実施例1は、48重量%の第1の触媒の割合、65bar(abs.)の圧力、2000h-1のGHSV、1.5の一酸化炭素に対する水素の比率、及び1.2の化学量論値で実施した。一酸化炭素の変換率は77.1%、ジメチルエーテルに対する選択率は62.3%、メタノールに対する選択率は6.8%、二酸化炭素に対する選択率は29.2%、炭化水素に対する選択率は2.4%であり、1時間当たりの触媒1キログラム当たりのグラムでのジメチルエーテル当量としてのメタノール及びジメチルエーテルの空時収量は320g/(kg×h)であった。
【0062】
実施例2では、第1の触媒の含有量が上昇する2つの領域からなる構造化ベッドを使用した。実施例2は、46重量%の第1の触媒の割合、65bar(abs.)の圧力、3000h-1のGHSV、1.5の一酸化炭素に対する水素の比率、及び1.2の化学量論値で実施した。一酸化炭素の変換率は77.1%、ジメチルエーテルに対する選択率は62.2%、メタノールに対する選択率は6.6%、二酸化炭素に対する選択率は29.3%、炭化水素に対する選択率は0.7%であり、上記で定義したメタノール及びジメチルエーテルの空時収量は480g/(kg×h)であった。
【0063】
実施例3では、同様に、第1の触媒の含有量が上昇した2つの領域からなる構造化ベッドを使用した。実施例3は、68重量%の第1の触媒の割合、55bar(abs.)の圧力、3000h-1のGHSV、1.5の一酸化炭素に対する水素の比率、及び1.2の化学量論値で実施した。一酸化炭素の変換率は79.1%、ジメチルエーテルに対する選択率は60.7%、メタノールに対する選択率は9.7%、二酸化炭素に対する選択率は28.9%、炭化水素に対する選択率は1.5%、上記で定義したメタノール及びジメチルエーテルの空時収量は480g/(kg×h)であった。
【0064】
実施例1及び実施例3の比較によって、構造化ベッドを使用することにより、空時収量がかなり向上することが示される。実施例2及び実施例3の比較によって、銅の含有量がシステムの効率にとって重要であることが示される。
【0065】
表3は、実施例1~3の温度プロファイルを示し、従来技術と比較して、構造化ベッドが温度制御を可能にし、空時収量を高めることができることを示している。また、チューブの約40%での温度ピーク後、チューブ長さの50%~100%の範囲で第3のゾーンを収容できる可能性も示している。
【0066】
【0067】
実施例4
図2は、様々な反応条件、すなわち、1.5~2の一酸化炭素に対する水素の比率、2000~4000h
-1のGHSV、1~3の化学量論値、及び50~65bar(abs.)の圧力の条件下で、種々のベッド構造及びその結果得られる第1の触媒の含有量について、横軸の平均反応器温度℃の関数として、縦軸の炭化水素選択率(%)を異なる記号で示している。2つの構造化ベッド(三角形は第1の触媒の担持量が多く、四角形は担持量が少ないことを示す)の間の比較を、従来技術によるメタノールプレ-ベッドとそれに続く混合触媒ベッドからなるベッド(丸印)と比較する。
【0068】
ベッドを2つの異なる触媒ゾーンに分割した。上流ゾーンは、使用した冷却チューブ状反応器の活性チューブの長さの約30%から構成されていた。全てのベッドで、副生成物に対する選択率は温度の上昇とともに増加することが判明した。さらに、構造化ベッドでは、副生成物の生成は、第1の触媒の含有量の増加とともに増加することが判明した。
【0069】
さらに、従来技術による配置は、その第1の触媒の含有量が、最も低い第1の触媒の含有量を有する構造化ベッドの場合と同様であっても、その銅総含有量の含有量が、最も高い第1の触媒の含有量を有する構造化ベッドの場合よりも相対的に30%低くても、副生成物の生成が最も高いことが判明した。
【0070】
以上のことは、適切な構造化によって、副生成物の生成を増加させることなく収量を増加させるために、又は同収量で副生成物の生成を抑制するために、より高い含有量の第1の触媒をベッドに導入することができることを意味する。
【0071】
実施例5
実施例5は、ベッドの性能を著しく損なうことなく、メタノールを触媒ベッドインレットに添加することの可能性を示す。触媒ベッドは、第1の触媒と第2の触媒との1:1混合物からなった。結果を表4に示すが、xはそれぞれのモル割合を示す。
【0072】
同一条件下で、2つの異なる時間(タイムオンストリーム(time on stream)、TOS)、すなわち、193時間及び599時間で2つの参照実験(表1列及び3列、「標準」)を実施した。これらの参照実験の間(269時間)に、供給ガスにメタノールを添加した実験(「メタノール添加1」)を実施した。これらの実験を比較すると、一酸化炭素変換率はほとんど影響を受けないことが示される。このことは、混合触媒システムを使用した場合、メタノールリサイクルの影響が小さいことを意味する。
【0073】
【国際調査報告】