(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】多層窒化ケイ素膜
(51)【国際特許分類】
H01L 21/318 20060101AFI20241210BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20241210BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H01L21/318 B
C23C16/455
C23C16/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024528502
(86)(22)【出願日】2022-11-10
(85)【翻訳文提出日】2024-07-11
(86)【国際出願番号】 US2022079666
(87)【国際公開番号】W WO2023086905
(87)【国際公開日】2023-05-19
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517114182
【氏名又は名称】バーサム マテリアルズ ユーエス,リミティド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】セ-ウォン リー
(72)【発明者】
【氏名】ムー-スン キム
(72)【発明者】
【氏名】チャン-ウォン リー
(72)【発明者】
【氏名】シンチエン レイ
【テーマコード(参考)】
4K030
5F058
【Fターム(参考)】
4K030AA09
4K030AA13
4K030AA18
4K030BA40
4K030CA04
4K030FA01
4K030FA10
4K030HA01
4K030JA01
4K030JA10
4K030JA16
4K030LA15
4K030LA18
5F058BA07
5F058BA20
5F058BC08
5F058BD02
5F058BD10
5F058BF07
5F058BF22
5F058BF30
5F058BF37
(57)【要約】
多層窒化ケイ素膜を堆積する方法であって、基材を第1の反応器中に配置する工程、ならびにここに記載されたように(i)プラズマ促進原子層堆積(PEALD)もしくはプラズマ促進サイクリック化学気相堆積(PECCVD)のいずれか、および(ii)PECVDの間で交互に行うことによる一連の堆積方法で、そしてここに記載された式A~Cによって表される、少なくとも3つのSi-N結合および少なくとも3つのSiH3基を有する少なくとも1種のケイ素前駆体化合物を用いて、基材の表面の少なくとも一部に第1の窒化ケイ素膜、第2の窒化ケイ素膜、および第3の窒化ケイ素膜を堆積する工程であって、それらが共に多層窒化ケイ素膜を形成する工程を含む堆積方法の組み合わせを含んでいる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
堆積方法の組み合わせを用いた多層窒化ケイ素膜の堆積方法であって、
a.基材を第1の反応器内に配置する工程、
b.(1)プラズマ促進原子層堆積(PEALD)もしくはプラズマ促進サイクリック化学気相堆積(PECCVD)のいずれか、および(2)PECVDの間で交互に行うことによる一連の堆積方法で、基材の表面の少なくとも一部に第1の窒化ケイ素膜、第2の窒化ケイ素膜、および第3の窒化ケイ素膜を堆積させる工程、それらは共に多層窒化ケイ素膜を形成する、
前記PEALDまたはPECCVD堆積法は、(1)以下の工程i~ivを含んでおり、それらは所望の厚さの窒化ケイ素層が得られるまで繰り返される、
i.前記反応器中に、表面の少なくとも一部で反応して化学吸着層を与えるのに十分な条件下で、式A~Cによって表される、少なくとも3つのSi-N結合および少なくとも3つのSiH
3基を有する少なくとも1種のケイ素前駆体化合物を導入する工程、
【化1】
式中、Rは、独立して水素、直鎖C
1~C
10アルキル基、分岐C
3~C
10アルキル基、直鎖もしくは分岐C
3~C
12アルケニル基、直鎖もしくは分岐C
3~C
12アルケニル基、直鎖もしくは分岐C
3~C
12アルキニル基、C
4~C
10環状アルキル基、およびC
6~C
10アリール基から選択される、
ii.前記反応器をパージガスでパージする工程、
iii.第1のプラズマ含有源を前記反応器中に導入して、前記化学吸着層の少なくとも一部と反応して、そして少なくとも1つの反応サイトを与える工程、前記プラズマは約0.01~約1.5W/cm
2の範囲の出力密度で発生される、
iv.随意選択的に前記反応器を不活性ガスでパージする工程、
を含んでなり、そして前記PECVD堆積法(2)は、以下の工程vを含んでいる、
v.前記反応器中に、構造A~Cによって表される少なくとも1種のケイ素前駆体および第2のプラズマ含有源を導入して窒化ケイ素を形成する工程、前記プラズマは約0.01~約1.5W/cm
2の範囲の出力密度で発生される、
方法。
【請求項2】
前記第1のプラズマ含有源が、アンモニア、ヒドラジン、モノアルキルヒドラジン、ジアルキルヒドラジン、窒素、窒素/水素、窒素/ヘリウム、窒素/アルゴン、窒素/アンモニア、アンモニア/ヘリウム、アンモニア/アルゴン、アンモニア/窒素、NF
3、有機アミン、水素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、水素/ヘリウム、水素/アルゴン、およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種のガスを含んでいる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第2のプラズマ含有源が、アンモニア、ヒドラジン、モノアルキルヒドラジン、ジアルキルヒドラジン、窒素/水素、窒素/ヘリウム、およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種のガスを含んでいる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
PEALDまたはPECCVDによって形成されたそれぞれの窒化ケイ素膜が、約10~約200Åの範囲の厚さを有している、請求項1記載の方法。
【請求項5】
PECVDによって形成されたそれぞれの窒化ケイ素膜が、約200~約1000Åの範囲の厚さを有している、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種のケイ素前駆体化合物が、トリシリルアミンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種のケイ素前駆体化合物が、ビス(ジシリルアミノ)シラン(別名、N,N’-ジシリルトリシラザン)を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種のケイ素前駆体化合物が、トリス(エチルシリル)アミンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記基材が、前記多層窒化ケイ素膜の堆積の間に、約20℃~約500℃の範囲の温度で保持される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記基材が、前記多層窒化ケイ素膜の堆積の間に、約20℃~約100℃の範囲の温度で保持される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記多層窒化ケイ素膜が、5.0×10
-5g/m
2日以下の水蒸気透過度(WVTR)値を有する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記多層窒化ケイ素膜が、5.0×10
-3g/m
2日以下のWVTR値を有する、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記多層窒化ケイ素膜が、2500Å以下の全厚さを有する、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記多層窒化ケイ素膜が、1000Å以下の全厚さを有する、請求項1記載の方法。
【請求項15】
請求項1記載の方法によって形成された多層窒化ケイ素膜。
【請求項16】
5.0×10
-3g/m
2日以下のWVTR値を有する多層窒化ケイ素膜。
【請求項17】
5.0×10
-5g/m
2日以下のWVTR値を有する請求項16記載の多層窒化ケイ素膜。
【請求項18】
10,500Å以下の厚さを有する、請求項16記載の多層窒化ケイ素膜。
【請求項19】
ディスプレイ装置のガスバリア層として用いられる、請求項15記載の多層窒化ケイ素膜。
【請求項20】
1.90以上のRI値を更に有する、請求項15記載の多層窒化ケイ素膜。
【請求項21】
前記1)PEALDまたはPECCVDならびに2)PECVD法が、同じ堆積チャンバ中で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項22】
前記1)PEALDまたはPECCVDならびに2)PECVD法が、異なる堆積チャンバ中で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項23】
前記第1のプラズマが、インサイチュで発生される、請求項1記載の方法。
【請求項24】
前記第1のプラズマが、遠隔で発生される、請求項1記載の方法。
【請求項25】
前記第1のプラズマが、インサイチュと遠隔で発生されるプラズマの組み合わせである、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、2021年11月15日提出の米国仮出願第63/279,623号に対する優先権を主張し、これを参照することによってその全体を本明細書の内容とする。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素は、集積回路やディスプレイ装置の製造において、絶縁体、および不動態/ガスバリアとして、異なる構造を電気的に絶縁するために、あるいはバルクのマイクロマシニングにおいてエッチングのマスクとして、しばしば用いられる。マイクロチップのための不動態層としては、窒化ケイ素は、二酸化ケイ素よりも優れており、何故ならば、それは、マイクロエレクトロニクスにおける腐食と不安定性の2つの主要な原因である、水分子およびナトリウムイオンに対する、有意により良好な拡散バリアであるからである。窒化ケイ素はまた、アナログチップにおけるコンデンサのポリシリコン層の間の誘電体として用いられる。
【0003】
高品質膜であると考えられるのための1つもしくは2つ以上の基準に合致する低温、例えば約500℃以下、または約400℃以下での、共形性、化学量論的、および非化学量論的窒化ケイ素膜の堆積は、長年の業界の課題であった。半導体分野、例えば進歩的なパターン化やスペーサーにおいては、高品質膜を必要とする、幾つかの用途がある。窒化ケイ素膜は、それが2.0グラム/立方センチメートル(g/cc)の密度および/または低い湿式エッチング速度(希フッ化水素酸(HF)中で測定された)を有する場合には、他の窒化ケイ素膜と比較して「高品質」膜であると考えられる。それらの態様または他の態様では、窒化ケイ素膜の屈折率は、1.8以上でなければならない。
【0004】
Bang.S.Hら、「誘導結合プラズマ化学気相堆積によって堆積されたSiOxNy膜のバリア特性への無線周波数出力とガス比との効果」、Thin Solid Films 669、p.108-113 (2019)には、誘導結合プラズマ化学気相堆積(ICP-CVD)を用いて、-23℃の低温で堆積されたSiOxNyバリア膜が開示されており、そしてその中では、凝集することなくそれぞれが分離された、ほとんど球形のナノ粒子が観察された。そのような凝集がなく、球形に近いナノ粒子は、向上したバリア特性を備えた高密度の膜を生成させた。しかしながら、激しく凝集されたナノ粒子は、低下したバリア特性を備えた非常に多孔質の膜を生成させた。
【0005】
Cho,S.K.らの「ロールツーロールマイクロ波プラズマ促進化学気相堆積によって調製された水素化窒化ケイ素の構造とガスバリア特性」、Vacuum 188、p.110167 (2021)には、水素化無定形窒化ケイ素膜(a-SiNx:H)がバリア層として、水蒸気および他のガスの電子デバイス中への拡散を防止することが開示されている。SiH4富化の条件(R<2.75)の下で製造されたこの膜は、空気中での貯蔵の間に酸化されて酸窒化ケイ素(SiOxNy)を生成し、その特性は窒化ケイ素(SiNx)の特性とは異なっていた。ガスバリア特性は、この膜とSi-H結合の密度の両方によって影響を受けたことが見出された。SiNx:H膜の圧縮応力および引張応力は、Rの値に依存し、R=2.75~3.00では、優れた機械的安定性と水分バリア特性が得られている。
【0006】
米国特許第8592328号明細書には、窒化ケイ素(SiN)膜の製造方法が開示されている。1つの態様は、塩素(Cl)を含まない共形性のSiN膜の堆積に関している。幾つかの態様では、このSiN膜は、Clを含まず、そして炭素(C)を含まない。他の態様は、共形性SiN膜の応力および/または湿式エッチング速度を調整する方法に関している。他の態様は、高品質の共形性SiN膜の低温の堆積方法に関している。幾つかの態様では、この方法は、ケイ素含有前駆体として、トリシリルアミン(TSA)を用いることを含んでいる。
【0007】
Jang,W.らの「遠隔プラズマ原子層堆積によって堆積された窒化ケイ素の温度依存性」、Physica Status Solidi (A) Applications and Materials Science 211、p.2166 (2014)には、トリシリルアミン(TSA)とアンモニア(NH3)プラズマを用いた低温での遠隔プラズマ原子層堆積(RPALD)によって堆積された窒化ケイ素薄膜の特徴が開示されている。250~350℃で堆積されたSiNx薄膜に、分析のために焦点が当てられている。SiNx膜の全てが、堆積温度にかかわらず、ほぼ化学量論的であった。堆積温度が高くなるにつれて、RIは増加し、一方で水素含有量は減少した。欠陥密度もまたより高い堆積温度で変化し、堆積温度が増加するにつれて、SiNx薄膜中の低い水素含有量のために全てのトラップ密度が増加した。RPALDによって堆積されたSiNx薄膜の特徴は、堆積温度を変化させることによって電荷トラップフラッシュメモリー用途のために、欠陥密度を調整するように制御されることができた。
【0008】
米国特許第8129291号明細書、米国特許第8173554号明細書および米国特許第8415259号明細書には、半導体基材上に、プラズマ促進原子層堆積(PEALD)によってSi-N結合を有する誘電体膜を形成するための方法が開示されている。この方法は、窒素含有反応性ガスおよび水素含有反応性ガス、および希ガスを、その中に半導体基材が配置された反応空間中に導入すること、水素含有ケイ素前駆体を、1.0秒間未満の継続時間のパルスで、反応空間中に導入し、そこに反応性ガスと希ガスが導入される、ケイ素前駆体が停止された直後に、1.0秒間未満の継続時間のパルスでプラズマから出ること、および反応性ガスと希ガスを、2.0秒間未満の継続時間のパージとして、維持すること、を含んでいる。
【0009】
Lee,W.Jらの「高度に共形性のSiN膜の新規なプラズマ促進化学気相堆積およびそのバリア特性」、Journal of Vacuum Science & Technology B、「ナノテクノロジーおよびマイクロエレクトロニクス:材料、加工、測定、および現象」、36(2)、p.022201(2018)には、高度に共形性の窒化ケイ素(SiN)膜を製造するためのプラズマ促進化学気相堆積技術およびそれらのバリア特性の研究が開示されている。TSAは主要な前駆体として用いられ、そして反応チャンバ中に、プラズマが励起されている間に、0.3秒間のパルスで導入されている。堆積されたSiN膜は、良好な共形性(91%)および約4.2(70nmの幅と300nmの深さ)のアスペクト比を示している。この膜の成長速度は、2.0Å/サイクルであった。k値と漏れ電流は、200~400℃の温度範囲において、1MVの荷電で、それぞれ7.1~6.66および1.0×10-8A/cm2であった。SiN堆積物の200℃と400℃での湿式エッチング速度は、それぞれ32.1と11.1nm/分であった。この膜の湿式エッチング速度は、希釈フッ化水素(HF)溶液(H2O:HF=100:1)中で評価された。200℃と400℃で堆積された5.0nm厚さのSiN膜は、水分が侵入するのを防ぐ優れた能力を示した。Si前駆体の供給方法を変更することによって、この工程の適用範囲は、プラズマ促進原子層堆積の水準まで向上され、そして水分バリア特性は、10nm未満の厚さにおいてさえも維持された。
【0010】
米国特許出願公開第2017/0088684号明細書には、優れたガスバリア特性および耐屈曲性を備えたガスバリア積層体が開示されている。このガスバリア積層体は、基材と改質促進層を有する基体、およびその基体の改質促進層側の上に形成されたガスバリア層を含んでいる。このガスバリア積層体は、改質促進層の<30GPaの弾性率、ならびに40℃の基体温度および90%の相対湿度において、≦1.0g/(m2・日)の水蒸気透過度を有している。このガスバリア層は、その基体の改質促進層側の上に形成されたポリシラザン化合物を含む層の表面上で、改質プロセスを行うことによって形成される。
【0011】
Yun,S.J.らの「Water vapor transmission rate property of SiNx thin films prepared by low temperature (<100°C) linear plasma enhanced chemical vapor deposition.」、Vacuum 148、p.33-40 (2018)には、可撓性有機発光ダイオードディスプレイの薄膜カプセル化のために低温で利用できる線形PECVD供給源を備えたインラインシステムが開示されている。このインラインシステムは、動いている基材にコーティングするために用いられることができ、典型的なPEALD供給源を備えたクラスタシステムよりもより良好に生産性を向上させることができ、そして優れた水蒸気バリア特性を有するSiNx膜を生成させることができる。
【0012】
米国特許第10316407号明細書には、単一の堆積プロセス、例えばプラズマ促進原子層堆積(PEALD)またはプラズマ促進サイクリック化学気相堆積(PECCVD)を用いた、ケイ素含有膜もしくは材料、例えば、限定するものではなく、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、炭素ドープ窒化ケイ素、または炭素ドープ酸化ケイ素膜を形成するための組成物およびそれを用いる方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
当技術分野では、薄い、ガスバリア窒化ケイ素材料を提供することの必要性がある。特には、共形性の、高品質の、窒化ケイ素膜を堆積させるための、低温(例えば、約500℃以下、好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下、最も好ましくは100℃以下の処理温度)の方法のための必要性があり、この膜は、他の堆積方法もしくは前駆体を用いた他の窒化ケイ素膜と比較して、以下の特徴の1つもしくは2つ以上を有している:1.8以上の屈折率、1Å/秒以下の低い湿式エッチング速度(希釈フッ化水素(HF)中で測定された)、5.0×10-5g/m2・日以下、5.0×10-4g/m2・日以下、または5.0×10-3g/m2・日の水蒸気透過度(WVTR)、およびそれらの組み合わせ。
【課題を解決するための手段】
【0014】
ここに記載されているのは、化学量論的または非化学量論的な多層窒化ケイ素膜、例えば多層の窒化ケイ素を、半導体デバイスにおけるガスバリアとして形成するための方法である。例示的な態様によれば、多層窒化ケイ素膜を堆積させる方法は、堆積方法の組み合わせを用いており、そして(1)プラズマ促進原子層堆積(PEALD)もしくはプラズマ促進サイクリック化学気相堆積(PECCVD)のいずれか、および(2)プラズマ促進化学気相堆積(PECVD)の間の交互の堆積方法の順序での、基材表面の少なくとも一部に、少なくとも第1の窒化ケイ素膜、第2の窒化ケイ素膜、および第3の窒化ケイ素膜を堆積させることを含んでおり、それらが一緒に多層窒化ケイ素膜を形成し、PEALDもしくはPECCVD堆積方法(1)は、以下の工程a~eを含んでおり、それらは窒化ケイ素の所望の厚さが得られるまで繰り返される。
a.基材を第1の反応器内に配置する工程。
b.反応器中に、表面の少なくとも一部で反応して化学吸着層を与えるのに十分な条件下で、少なくとも3つのSiN結合および少なくとも3つのSiH
3基を有する、式A~Cによって表される少なくとも1種のケイ素前駆体を導入する工程。
【化1】
式中、Rは、独立して水素、直鎖C
1~C
10アルキル基、分岐C
3~C
10アルキル基、直鎖もしくは分岐C
3~C
12アルケニル基、直鎖もしくは分岐C
3~C
12アルケニル基、直鎖もしくは分岐C
3~C
12アルキニル基、C
4~C
10環状アルキル基、およびC
6~C
10アリール基から選択される。
c.反応器をパージガスでパージする工程。
d.第1のプラズマ含有供給源を反応器中に導入して、化学吸着層の少なくとも一部と反応させて、そして少なくとも1つの反応サイトを与え、そこでプラズマが約0.01~約1.5W/cm
2の範囲の出力密度で発生される工程。
e.随意選択的に反応器を不活性ガスでパージする工程、そしてPECVD堆積法(2)は以下の工程f~gを含んでいる。
f.基材を第2の反応器中に配置する工程。
g.その反応器中に、構造A~Cによって表される少なくとも1種のケイ素前駆体、および第2のプラズマ含有供給源を導入して、窒化ケイ素を形成する工程、ここでプラズマは、約0.01~約1.5W/cm
2の範囲の出力密度で発生される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
高品質の膜とみなされる1つもしくは2つ以上の基準に合致する低温(例えば、500℃以下、または400℃以下、または200℃以下、または100℃以下)での共形性の、化学量論的、および非化学量論的な窒化ケイ素膜の堆積は、長年にわたる業界の課題あった。本説明をとおして、ここで用いられる用語「窒化ケイ素」は、化学量論的または非化学量論的窒化ケイ素およびそれらの混合物からなる群から選択されたケイ素と窒素を含む膜を表している。窒化ケイ素膜は、それば以下の特徴:2.0グラム/立方センチメートル(g/cc)以上の密度、1Å/秒以下の低い湿式エッチング速度(希釈フッ化水素酸(HF)中で測定された)、およびそれらの組み合わせ、の1つもしくは2つ以上を有する場合に、「高品質」と考えられる。それらのまたは他の態様において、窒化ケイ素膜の屈折率は、1.8以上でなければならない。
【0016】
本説明をとおして、用語「アルキル」は、1~10個の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐官能基を表す。例示的なアルキル基としては、限定するものではないが、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、およびn-ヘキシル基が挙げられる。例示的な分岐アルキル基としては、限定するものではないが、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、イソペンチル、sec-ペンチル、tert-ペンチル、イソヘキシル、sec-ヘキシル、tert-ヘキシル、およびネオヘキシルが挙げられる。特定の態様では、アルキル基は、それらに結合された1つもしくは2つ以上の官能基、例えば、限定するものではないが、それらに結合されたアルコキシ基、ジアルキルアミノ基またはそれらの組み合わせを有することができる。他の態様では、アルキル基は、それらに結合された1つもしくは2つ以上の官能基を有さない。これらのアルキル基は、飽和でも、あるいは不飽和でもあることができる。
【0017】
本説明をとおして、用語「環状アルキル」は、3~10個の炭素原子を有する環状の官能基を表している。例示的な環状アルキル基としては、限定するものではないが、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、およびシクロオクチル基が挙げられる。
【0018】
本説明をとおして、用語「アケニル基」は、1つもしくは2つ以上の炭素-炭素二重結合および2~10もしくは2~6個の炭素原子を有する基を表している。
【0019】
本説明をとおして、用語「ジアルキルアミノ」基、「アルキルアミノ」基または「オルガノアミノ」基は、窒素原子に結合された2つのアルキル基または窒素原子に結合された1つのアルキルを有し、そして1~10、もしくは2~6,もしくは2~4個の炭素原子を有する基を表している。例としては、限定するものではないが、HNMe、HNBut、NMe2、NMeEt、NEt2、およびNPri
2が挙げられる。
【0020】
本説明をとおして、用語「アリール」は、4~10個の炭素原子、5~10個の炭素原子、もしくは6~10個の炭素原子を有する芳香族の環状官能基を表している。例示的なアリール基としては、フェニル、1-フェニルエチル(Ph(Me)CH-)、1-フェニル-1-メチル-エチル(Ph(Me)2C-)、ベンジル、クロロベンジル、トリル、o-キシリル、1,2,3-トリアゾリル、ピロリル、およびフラニルが挙げられる。
【0021】
本説明をとおして、用語「ヘテロ原子官能基」は、酸素、窒素、フッ素、塩素、および硫黄からなる群から選択された少なくとも1つのヘテロ原子を有する、直鎖もしくは分岐C1~C20炭化水素、環状C6~C20炭化水素を表している。例示的なヘテロ原子官能基としては、限定するものではないが、アルコキシ、オルガノアミノ、シアノ、チオ、シリル、エーテル、ケト、エステル、またはハロゲン化基またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0022】
本説明をとおして、用語「水蒸気透過度(WVTR)」は、水分子がバリア層を透過する速度を表し、単位はg/m2/日(g/m2・日)である。
【0023】
本説明をとおして、用語「多層窒化ケイ素膜」は、(1)プラズマ促進原子層堆積(PEALD)またはプラズマ促進サイクリック化学気相堆積(PECCVD)、ならびに(2)PECVDの間を交互に行うことによって堆積された、3つもしくは4つ以上の層の窒化ケイ素を表している。
【0024】
ここに開示され、そして特許請求された主題の1つの態様では、以下のケイ素前駆体の1種もしくは2種以上を用いた、プラズマ促進原子層堆積(PEALD)もしくはプラズマ促進サイクリック化学気相堆積(PECCVD)およびプラズマ促進化学気相堆積(PECVD)の組み合わせによって、多層窒化ケイ素を堆積させるための方法に関する。
【化2】
式中、Rは、水素、直鎖C
1~C
10アルキル基、分岐C
3~C
10アルキル基、C
3~C
10環状アルキル基、C
3~C
10複素環式基、C
3~C
10アルケニル基、C
3~C
10アルキニル基、およびC
4~C
10アリール基から選択される。
【0025】
1つの態様では、(1)プラズマ促進原子層堆積(PEALD)もしくはプラズマ促進サイクリック化学気相堆積(PECCVD)および(2)プラズマ促進化学気相堆積(PECVD)の組み合わせによって、多層窒化ケイ素膜を形成させるための方法が提供される。この態様によれば、多層窒化ケイ素は、PEALDもしくはPECCVD窒化ケイ素/PECVD窒化ケイ素/PEALDもしくはPECCVD窒化ケイ素膜を含んでいる。この方法の工程が、次に説明される。
【0026】
(1):このPEALDもしくはPECCVD法は以下の工程a~eを含んでいる。
a.基材を反応器中に準備する工程。
b.反応器中に、下記の構造によって表される、少なくとも3つのSi-N結合および少なくとも3つのSiH
3基を有する、少なくとも1種のケイ素前駆体を導入する工程。
【化3】
式中、Rは、水素、直鎖C
1~C
10アルキル基、分岐C
3~C
10アルキル基、C
3~C
10環状アルキル基、C
3~C
10複素環式基、C
3~C
10アルケニル基、C
3~C
10アルキニル基、およびC
4~C
10アリール基から選択され、そして少なくとも1種のケイ素原躯体が、基材の表面の少なくとも一部で反応して化学吸着された層を与える。
c.反応器をパージガスでパージする工程。
d.プラズマ含有供給源を反応器中に導入して、化学吸着層の少なくとも一部と反応させて、そして少なくとも1つの反応サイトを与え、そこでプラズマが約0.01~約1.5W/cm
2の範囲の出力密度で発生される工程。
e.随意選択的に、反応器を不活性ガスでパージする工程。
ここで、工程b~eは、窒化ケイ素膜の所望の厚さが得られるまで繰り返される。前駆体のパルスの間に、少なくとも1種のケイ素前駆体の上記の反応チャンバへの供給を援けるために、アルゴン、希ガスおよび/または他の不活性ガスの流れが、キャリアガスとして用いられることができる。特定の態様では、反応チャンバのプロセス圧力は、約2トール以下である。他の態様では、反応チャンバのプロセス圧力は、約10トール以下である。本方法の特定の態様では水素を含むプラズマが、工程dの前に、ケイ素と表面との間の反応から発生された炭化水素を除去するのを援けるように、挿入されることができる。水素を含むプラズマは、水素プラズマ、水素/ヘリウム、水素/アルゴンプラズマ、水素/ネオンプラズマおよびそれらの混合物からなる群から選択される。幾つかの態様では、プラズマ含有供給源は、反応器中に少なくとも1種の窒素源の形態で導入されることができ、および/または堆積プロセスにおいて用いられる他の前駆体中に付随的に存在することができる。好適な窒素含有供給源ガスとしては、例えば、アンモニア、ヒドラジン、モノアルキルヒドラジン、ジアルキルヒドラジン、窒素プラズマ、窒素/水素、窒素/ヘリウム、窒素/アルゴンプラズマ、アンモニアプラズマ、窒素/アンモニアプラズマ、アンモニア/ヘリウムプラズマ、アンモニア/アルゴンプラズマ、アンモニア/窒素プラズマ、NF
3プラズマ、オルガノアミンプラズマ、およびそれらの混合物を挙げることができる。他の態様では、プラズマは、水素プラズマ、ヘリウムプラズマ、ネオンプラズマ、アルゴンプラズマ、キセノンプラズマ、水素/ヘリウムプラズマ、水素/アルゴンプラズマおよびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0027】
(2):PECVD法は、以下のa~bの工程を含んでいる。
a.工程(1)からのPEALDによって調製された窒化ケイ素を有する基材を反応器内に提供する工程、
b.下記の構造によって表される、少なくとも3つのSi-N結合および少なくとも3つのSiH
3基を有する少なくとも1種のケイ素前駆体と、
【化4】
式中、Rは、水素、直鎖C
1~C
10アルキル基、分岐C
3~C
10アルキル基、C
3~C
10環状アルキル基、C
3~C
10複素環式基、C
3~C
10アルケニル基、C
3~C
10アルキニル基、およびC
4~C
10アリール基から選択される、
窒素源とを、直接プラズマの下で、同時に反応器中に導入して、窒化ケイ素を形成させ、ここでプラズマは、約0.01~約1.5W/cm
2の範囲の出力密度で発生される工程。好適な窒素含有源ガスとしては、例えば、アンモニア、ヒドラジン、モノアルキルヒドラジン、ジアルキルヒドラジン、窒素/水素、窒素/ヘリウム、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0028】
工程(3):PEALDまたはPECCVD法は、以下の工程を含んでいる。
a.工程(2)からのPECVDによって調製された窒化ケイ素を有する基材を反応器中に提供する工程、
b.下記の構造によって表される少なくとも3つのSi-N結合および少なくとも3つのSiH
3基を有する少なくとも1種のケイ素前駆体を導入し、
【化5】
式中、Rは、水素、直鎖C
1~C
10アルキル基、分岐C
3~C
10アルキル基、C
3~C
10環状アルキル基、C
3~C
10複素環式基、C
3~C
10アルケニル基、C
3~C
10アルキニル基、およびC
4~C
10アリール基から選択される、
そして少なくとも1種のケイ素前駆体が、基材の表面の少なくとも一部で反応して化学的吸着層を提供する工程、
c.反応器をパージガスでパージする工程、
d.プラズマ含有源を反応器中に導入して、化学吸着された層の少なくとも一部と反応して、そして少なくとも1つの反応サイトを提供し、プラズマは約0.01~約1.5W/cm
2の出力密度で発生される工程、ならびに、
e.随意選択的に、反応器を不活性ガスでパージする工程、
ここで、工程b~eは、窒化ケイ素膜の所望の厚さが得られるまで繰り返される。
【0029】
他の態様では、プラズマ促進原子層堆積およびプラズマ促進サイクリック化学気相堆積の組み合わせによる、多層の窒化ケイ素膜の形成方法が提供される。この多層の窒化ケイ素は、PECVD窒化ケイ素/PEALDもしくはPECCVD窒化ケイ素/PECVD窒化ケイ素膜を含んでいる。この方法は、下記のように、工程(1)~(3)を含んでいる。
【0030】
工程(1):PECVD法は、以下の工程を含んでいる。
a.基材を反応器中に提供する工程、ならびに、
b.下記の構造によって表される、少なくとも3つのSi-N結合および少なくとも3つのSiH
3基を有する少なくとも1種のケイ素前駆体と、
【化6】
式中、Rは、水素、直鎖C
1~C
10アルキル基、分岐C
3~C
10アルキル基、C
3~C
10環状アルキル基、C
3~C
10複素環式基、C
3~C
10アルケニル基、C
3~C
10アルキニル基、およびC
4~C
10アリール基から選択される、
そして窒素源とを、直接プラズマの下で、同時に反応器中に導入して、窒化ケイ素を形成し、このプラズマは、約0.01~約1.5W/cm
2の出力密度で発生される、工程。好適な窒素含有源ガスとしては、例えば、アンモニア、ヒドラジン、モノアルキルヒドラジン、ジアルキルヒドラジン、窒素/水素、窒素/ヘリウム、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0031】
工程(2):PEALDまたはPECCVDは、以下の工程を含んでいる。
a.工程(1)からのPECVDによって調製された窒化ケイ素を有する基材を反応器中に提供する工程、
b.下記の構造によって表される、少なくとも3つのSi-N結合および少なくとも3つのSiH
3基を有する少なくとも1種のケイ素前駆体を反応器中に導入し、
【化7】
式中、Rは、水素、直鎖C
1~C
10アルキル基、分岐C
3~C
10アルキル基、C
3~C
10環状アルキル基、C
3~C
10複素環式基、C
3~C
10アルケニル基、C
3~C
10アルキニル基、およびC
4~C
10アリール基から選択される、
そして少なくとも1種のケイ素前駆体は、基材の表面の少なくとも一部で反応して化学吸着された層を提供する工程、
c.反応器をパージガスでパージする工程、
d.プラズマ含有源を反応器中に導入して、化学吸着された層の少なくとも一部と反応して少なくとも1つの反応サイトを提供し、プラズマは、約0.01~約1.5W/cm
2の出力密度で発生される、工程、ならびに、
e.随意選択的に、反応基を不活性ガスでパージする工程、
ここで、工程b~eは、窒化ケイ素膜の所望の厚さが得られるまで繰り返される。アルゴンガス、希ガスおよび/または他の不活性ガスの流れが、前駆体のパルスの間に、少なくとも1種のケイ素前駆体の蒸気の反応チャンバへの供給を援けるように、キャリアガスとして用いられることができる。特定の態様では、反応チャンバのプロセス圧力は、約2トール以下である。他の態様では、反応チャンバのプロセス圧力は、約10トール以下である。本方法の特定の態様では、水素を含むプラズマが、工程dの前に、ケイ素と表面との間の反応から生成される炭化水素を除去するのを援けるために、挿入されることができる。水素を含むプラズマは、水素プラズマ、水素/ヘリウム、水素/アルゴンプラズマ、水素/ネオンプラズマおよびそれらの混合物からなる群から選択される。幾つかの態様では、プラズマ含有源は、反応器中に、少なくとも1種の窒素源の形態で導入されることができ、および/または堆積プロセスで用いられる他の前駆体中に付随的に存在していることができる。好適な窒素含有源ガスとしては、例えば、アンモニア、ヒドラジン、モノアルキルヒドラジン、ジアルキルヒドラジン、窒素プラズマ、窒素/水素、窒素/ヘリウム、窒素/アルゴンプラズマ、アンモニアプラズマ、窒素/アンモニアプラズマ、アンモニア/ヘリウムプラズマ、アンモニア/アルゴンプラズマ、アンモニア/窒素プラズマ、NF
3プラズマ、有機アミンプラズマ、およびそれらの混合物が挙げられる。他の態様では、プラズマは、水素プラズマ、ヘリウムプラズマ、ネオンプラズマ、アルゴンプラズマ、キセノンプラズマ、水素/ヘリウムプラズマ、水素/アルゴンプラズマおよびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0032】
工程(3):PECVD法は、以下の工程を含んでいる。
a.工程(2)からのPEALDまたはPECCVDによって調製された窒化ケイ素を有する基材を反応器中に提供する工程、
b.下記の構造によって表される、少なくとも3つのSi-N結合および少なくとも3つのSiH
3基を有する少なくとも1種のケイ素前駆体を、
【化8】
式中、Rは、水素、直鎖C
1~C
10アルキル基、分岐C
3~C
10アルキル基、C
3~C
10環状アルキル基、C
3~C
10複素環式基、C
3~C
10アルケニル基、C
3~C
10アルキニル基、およびC
4~C
10アリール基から選択される、
そして、直接プラズマの下で、窒素源を同時に反応器中に導入して、窒化ケイ素を形成させ、ここでプラズマは、約0.01~約1.5W/cm
2の出力密度で発生される、工程。好適な窒素含有源ガスとしては、例えば、アンモニア、ヒドラジン、モノアルキルヒドラジン、ジアルキルヒドラジン、窒素/水素、窒素/ヘリウム、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0033】
本発明におけるPEALD窒化ケイ素の厚さは、約20~400Å、約20~200Å、または約40~200Å、または約50~200Å、または約50~150Å、または約80~200Å、または約100~200Åである。本発明におけるPECVD窒化ケイ素の厚さは、約200~10000Å、約200~1000Å、または約300~1000Å、または約400~1000Å、または約500~1000Å、または約600~1000Åである。多層窒化ケイ素の全厚さは、約400~30000Å、約400~10000Å、約400~8000Å、約400~約7000Å、約400~約6000Å、約400~約5000Å、約400~2500Å、または約400~2400Å、または約400~2200Å、または約400~2000Å、約400~1000Å、または約400~900Å、または約400~700Åである。
【0034】
PEALDとPECVDプロセスの組み合わせは、PEALDまたはPECCVDは、PECVD窒化ケイ素から生成されるいずれかの微小な孔またはクラックを封止することができるので、より良好なガスバリアを与えることができることが信じられる。
【0035】
特定の態様では、ここに開示された方法は、反応器への導入の前および/または間に前駆体を分離するALDまたはCCVD法を用いることによって、前駆体の予備反応を回避させる。これに関連して、堆積技術、例えばALDまたはCCVDプロセスがケイ素含有膜を堆積させるために用いられる。1つの態様では、膜が、典型的な単一ウエハALD反応器、半バッチ式ALD反応器、またはバッチ式ファーネスALD反応器中で、PEALDプロセスおよびPECVDの組み合わせによって、堆積される。他の態様では、膜が、PEALD反応器とPECVD反応器を含む典型的な群構成の装置中でPEALDプロセスとPECVDの組み合わせによって、堆積される。他の態様では、ケイ素線躯体と反応性ガスを含むそれぞれの反応物は、基材を反応器の異なる区分に動かすか、または回転させることによって、基材に暴露され、そしてそれぞれの区分は、不活性ガスのカーテンによって分離される、すなわち、空間的ALD反応器、またはロールツーロールALD反応器。
【0036】
理論によって拘束はされないが、式A~Cにおいて、3つ以上のSi-N結合、および随意選択的に、3つ以上のSi-H3基を有するケイ素前駆体化合物は、基材表面の少なくとも一部に対してより反応性であり、従って、堆積プロセスの間に、表面上にケイ素の断片をより多く固定させることが信じられる。このことが次いで、膜の成長速度を向上させ、ならびに表面フィーチャ、例えば限定するものではないが、孔、トレンチ、および/又はビア、を含む基材のより良好な表面被覆率を与え、それによって、表面上での共形性の窒化ケイ素または他のケイ素含有膜の堆積を可能にさせる。式A~Cの化合物の例としては、ビス(ジシリルアミノ)シラン(別名、N,N‘-ジシリルトリシラザン)がある。式IICの化合物の例としては、トリス(エチルシリル)アミンがある。ケイ素前駆体化合物がトリス(エチルシリル)アミンである態様では、エチレンが堆積プロセスにおいて脱離基として作用し、それによって付加的なSi反応サイトを生成させ、一方で同時に前駆体中のSi-H含有量を低減させることが信じられる。
【0037】
前述のように、ケイ素含有材料およびここに記載された膜を形成するのに用いられる方法は、堆積プロセスの組み合わせを用いる。ここに開示された方法のための好適な堆積プロセスの例としては、限定されるものではないが、プラズマ促進ALD(PEALD)またはプラズマ促進サイクリックCVD(PECCVD)プロセスが挙げられる。ここで用いられる用語「化学気相堆積プロセス」は、基材が、1種もしくは2種以上の揮発性の前駆体に暴露され、それが基材表面上で反応および/または分解して所望の堆積物を生成するいずれかのプロセスを表している。ここで用いられる用語「原子層堆積プロセス」は、基材上に種々の組成の材料のケイ素含有膜を堆積させる、自己制限性の(例えば、それぞれの反応サイクルで堆積される膜材料の量が一定である)、逐次的な表面化学を表している。ここで用いられる前駆体、薬品および供給源はしばしば「気体状」と記載される場合があるが、前駆体は、直接の蒸発、バブリングまたは昇華によって、不活性ガスとともに、もしくは不活性ガスなしで、反応器中に移送される液体または固体のいずれかであることができることが理解される。幾つかの場合には、蒸発された前駆体は、プラズマ発生器を通過することができる。1つの態様では、窒化ケイ素膜はプラズマ促進ALDプロセスを用いて堆積される。他の態様では、窒化ケイ素膜はプラズマ促進CCVDプロセスを用いて堆積される。ここで用いられる用語「反応器」としては、限定するものではないが、反応チャンバまたは堆積チャンバが挙げられる。ALD様の、またはPECCVDプロセスは、ここでは、サイクリックCVDプロセスと規定され、以下の少なくとも1つ:エリプソメータによって測定された約5%以下の非共形性のパーセンテージ、サイクル当たりに1Å以上の堆積速度、またはそれらの組み合わせを有することによって示されるように、高い共形性の窒化ケイ素膜、例えば窒化ケイ素または炭窒化ケイ素を基材上に与える。
【0038】
式A~Cを有するケイ素前駆体化合物は、反応チャンバ、例えばPEALDまたはPECVD反応器へと、種々の方法で供給されることができる。1つの態様では、液体供給システムが用いられることができる。他の態様では、組み合わされた液体供給およびフラッシュ蒸発プロセス装置、例えば、ミネソタ州、ショアヴューのMSP Corporationによって製造されたターボ蒸発器が、低揮発性の材料が定量共給されることを可能にするように用いられることができ、それが、前駆体の熱分解なしの、再現性のある移送および堆積をもたらす。液体供給方式では、ここに記載された前駆体は、単味の液体の形態で供給されることができ、あるいは溶媒を含む溶媒配合物または組成物で用いられることができる。従って、特定の態様では、前駆体配合物は、基材上に膜を形成する所定の最終用途において望ましく、そして有利であるように、好適な特徴の溶媒成分を含むことができる。
【0039】
ここに開示された方法の1つの態様では、表面上の少なくとも一部にケイ素含有膜または材料が堆積された表面を有する基材が、反応器の堆積チャンバ中に配置される。基材の温度は反応器の壁よりも低いように制御されることができる。基材温度は、ほぼ室温(例えば、20℃)~約500℃の温度に保持される。基材温度のその他の範囲は以下の端点の1つもしくは2つ以上を有している:20、50、75、80、90、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、および500℃。例示的な温度範囲としては、20~475℃、100~400℃または175~350℃が挙げられる。例示的なより低い温度範囲としては、20~200℃、20~100℃、20~90℃、および20~80℃が挙げられる。幾つかの態様では、PEALDまたはPECVDの基材温度は同じである。幾つかの態様では、PEALDまたはPECVDの基材温度は異なっていることができる。幾つかの態様では、PEALDまたはPECVDプロセスは、同じ堆積チャンバ中で実施される。他の態様では、PEALDまたはPECVDプロセスは、異なる堆積チャンバ中で行われることができる。
【0040】
堆積方法に応じて、特定の態様では、1種もしくは2種以上のケイ素含有前駆体化合物は、反応器中に、所定のモル体積で、または約0.1~約1000マイクロモルで、導入されることができる。この、もしくは他の態様では、ケイ素前駆体または式A~Cを含むケイ素前駆体と溶媒は、反応器中に、所定の時間間隔に亘って導入されることができる。特定の態様では、PEALD/PECCVDまたはPECVD堆積のいずれかでは、時間間隔は約0.001~約500秒間の範囲であるが、しかしながらそれらは同じもしくは異なる温度で実施されることができる。
【0041】
ここに記載された方法を用いて堆積された多層ケイ素含有膜は、窒素含有源の存在で形成される。窒素含有源は、反応器中に、少なくとも1種の窒素含有源の形態で導入されることができ、および/または堆積プロセスで用いられる他の前駆体に付随的に存在していることができる。好適な窒素含有源ガスとしては、例えば、アンモニア、ヒドラジン、モノアルキルヒドラジン、ジアルキルヒドラジン、窒素を含むプラズマ、窒素と水素を含むプラズマ、窒素とヘリウムを含むプラズマ、窒素とアルゴンを含むプラズマ、アンモニアプラズマ、窒素とアンモニアを含むプラズマ、アンモニアとヘリウムを含むプラズマ、アンモニアとアルゴンプラズマを含むプラズマ、NF3プラズマ、有機アミンプラズマ、およびそれらの混合物を挙げることができる。他の態様では、プラズマは、水素プラズマ、ヘリウムプラズマ、ネオンプラズマ、アルゴンプラズマ、キセノンプラズマ、水素/ヘリウムプラズマ、水素/アルゴンプラズマ、およびそれらの混合物からなる群から選択される。1つの特定の態様では、窒素含有源は、最終的な窒化ケイ素膜中に付加的な水素が導入されることを回避するように、水素を実質的に含まず(例えば、2質量%(wt。%)未満しか含まない)、そして窒素プラズマ、窒素/ヘリウム、窒素/アルゴンプラズマからなる群から選択される。他の態様では、窒素含有源はモノアルキルヒドラジン、ジアルキルヒドラジンから選択される。炭窒化ケイ素の堆積のためには、窒素含有源は、有機アミンプラズマ、例えばメチルアミンプラズマ、ジメチルアミンプラズマ、トリメチルアミンプラズマ、エチルアミンプラズマ、ジエチルアミンプラズマ、トリメチルアミンプラズマ、エチレンジアミンプラズマからなる群から選択されることができる。本明細書をとおして、ここで用いられる用語「有機アミン」は、少なくとも1つの窒素原子を有する有機化合物を表している。有機アミンの例としては、限定するものではないが、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、tert-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-アミルアミン、エチレンジアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、ピロール、2,6-ジメチルピペリジン、ジ-n-プロピルアミン、ジ-イソプロピルアミン、エチルメチルアミン、N-メチルアニリン、ピリジン、トリエチルアミン。同様に、本明細書をとおして、ここで用いられる用語「オルガノアミノ基」は、上記のような第2級または第1級有機アミンから誘導される、少なくとも1つの窒素原子からなる有機基を表している。「オルガノアミノ基」は、-NH2基を含まない。幾つかの態様では、プラズマは、インサイチュで発生され、一方で他の態様では、プラズマは、プラズマ発生器によって遠隔的に提供されることができる。
【0042】
特定の態様では、窒素含有源は、反応器中に、約2000平方立方センチメートル(sccm)または約1~約1000sccmの範囲の流量で導入される。窒素含有源は、約0.1~約100秒間の範囲の時間に亘って導入されることができる。膜がALDまたはサイクリックCVDプロセスによって堆積される態様では、前駆体のパルスは、0.01秒間超のパルス継続時間を有することができ、そして窒素含有源は、0.01秒間未満のパルス継続時間を有することができる。更に他の態様では、パルスの間のパージ継続時間は、0秒間と短いことができ、またはそれらの間にパージなしで、連続的にパルスされる。
【0043】
特定の態様では、導入工程における反応器の温度は、ほぼ室温(例えば、20℃)~約500℃の範囲の1つもしくは2つ以上の温度である。基材温度の他の範囲は、以下の端点:20、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、および500℃の1つもしくは2つ以上を有している。例示的な好ましい温度範囲としては、以下の:20~200℃、20~100℃、20~90℃、および20~80℃が挙げられる。
【0044】
エネルギーが、少なくとも1種の前駆体化合物、窒素含有源、酸素含有源、他の薬品またはそれらの組み合わせに加えられて、反応を誘発し、そして基材の少なくとも一部に、ケイ素含有膜またはコーティングまたは化学吸着層を形成する。そのようなエネルギーは、限定するものではないが、熱的、プラズマ、パルスプラズマ、ヘリコンプラズマ、高密度プラズマ、誘導結合プラズマ、X線、e-ビーム、フォトン、遠隔プラズマ法、およびそれらの組み合わせによって与えられることができる。特定の態様では、第2のRF振動数源が、基材表面でのプラズマ特性を修正するのに用いられることができる。堆積がプラズマを含む態様では、プラズマが発生されるプロセスは、プラズマが、反応器中で直接に発生される直接プラズマ発生プロセスか、あるいは、プラズマが、反応器の外で発生され、そして反応器中に供給される、遠隔プラズマ発生プロセスを含むことができる。ここに記載された方法の特定の態様では、プラズマは、インサイチュで、約0.01~約1.5W/cm2の範囲の出力密度で発生される。
【0045】
ここに開示された堆積方法では、1種もしくは2種以上のパージガスを含むことができる。消費されなかった反応物および/または反応副生成物をパージするのに用いられるパージガスとしては、前駆体と反応しない不活性ガスがある。例示的なパージガスとしては、限定するものではないが、アルゴン(Ar)、窒素(N2)、ヘリウム(He)、ネオン、水素(H2)およびそれらの混合物が挙げられる。特定の態様では、パージガスは、反応器中に、約10~約2000sccmの範囲の流量で、約0.1~1000秒間に亘って供給され、それによって反応器中に残る可能性がある未反応の材料およびいずれかの副生成物をパージする。
【0046】
前駆体、酸素含有源、窒素含有源、および/または他の前駆体、供給源ガス、および/または薬品を供給するそれぞれの工程は、結果として得られる膜または材料の化学量論的組成を変更するように、それらを供給する時間を変更することによって実施することができる。アルゴンおよび/または他のガスの流れは、前駆体をパルスする間に、少なくとも1種の前駆体化合物の蒸気の反応チャンバへの供給を援けるように、キャリアガスとして用いられることができる。特定の態様では、反応チャンバのプロセス圧力は、約10トール以下、5トール以下、2トール以下、1トール以下である。
【0047】
ここに記載されたPEALDまたはPECCVDとPECVD法を組み合わせた1つの形態では、基材は、反応チャンバ内のヒータステージ上で加熱され、最初に前駆体化合物にさらされて、化合物が基材の表面に化学的に吸着されることを可能にする。パージガス、例えば窒素、アルゴン、または他の不活性ガスで、吸収されなかった過剰の前駆体化合物がプロセスチャンバからパージされる。十分なパージの後に、窒素含有源が、反応チャンバ中に導入されることができ、吸収された表面と反応して、次いで他のガスパージが続き、チャンバから反応副生成物を除去する。プロセスサイクルは、所望の膜厚が得られるまで繰り返されることができる。他の態様では、真空下でパージすることが、吸収されなかった過剰の前駆体をプロセスチャンバから除去するのに用いられることができ、ポンプ排出の下での十分な排出の後に、窒素含有源が反応チャンバ中に導入されることができ、吸収された表面と反応し、次いで他のポンプ排出でのパージが続いて、チャンバから反応副生成物を除去する。更に他の態様では、前駆体化合物および窒素含有源が、反応チャンバ中に平行して流されることができ、基材表面上で反応して窒化ケイ素を堆積させる。サイクリックCVDの特定の態様では、パージ工程は用いられない。
【0048】
この態様または他の態様では、ここに記載された方法の工程は、種々の順序で行われることができ、逐次的にもしくは同時に(例えば、他の工程の少なくとも一部の間に)行われることができ、そしてそのいずれかの組み合わせであることができることが理解される。前駆体および窒素含有源ガスを供給するそれぞれの工程は、結果として得られるケイ素含有膜の化学量論的組成を変更するように、それらを供給するための時間の継続時間を変えることによって行われることができる。
【0049】
本発明による、式A~Cによって表される3つもしくは4つ以上のSi-N結合、および随意選択的に3つもしくは4つ以上のSi-H3基を有するここに記載された前駆体ならびにそのケイ素前駆体を含む組成物は、好ましくはハライドイオン、例えばクロリドまたは金属イオン、例えばAlを実質的に含まない。ここで用いられる用語「実質的に含まない」は、それが、ハライドイオン(またはハライド)、例えばクロリドおよびフルオリド、ブロミド、ヨージド、Al3+イオン、Fe2+、Fe3+、Ni2+、Cr3+に関する場合には、5ppm(質量基準)未満、好ましくは3ppm未満、そしてより好ましくは1ppm未満、そして最も好ましくは0ppmを表している。クロリドまたは金属イオンは、ケイ素前駆体の分解触媒として作用することが知られている。最終的に製品中のクロリドの有意な水準は、ケイ素前駆体が分解することを引き起こす可能性がある。ケイ素前駆体の漸次の分解は、膜の堆積プロセスに直接に影響を与える可能性があり、半導体製造業者が、膜の仕様に適合させ得るのを困難にさせる。更に、貯蔵寿命または安定性は、ケイ素前駆体のより早い分解速度によって悪影響を受け、それによって1~2年間の貯蔵寿命を保証するのを困難とさせる。
【0050】
ハライドを実質的に含まない本発明による組成物は、(1)化学合成の間にクロリド源を低減させることまたは排除することによって、および/または(2)最終的な精製された製品がクロリドを実質的に含まないように、未精製の製品からクロリドを除去する効果的な精製プロセスを実施することによって、得ることができる。クロリド源は、ハライド、例えばクロロジシラン、ブロモジシラン、またはヨードシランを含まない薬品を使用することで、それによってハライドイオンを含む副生成物の生成を回避することによって合成の間に低減されることができる。更に、前述の薬品は、ハライド不純物を実質的に含んではならず、それによって結果として得られる未精製の製品が、クロリド不純物を実質的に含まない。同様にして、合成では、ハライド系の溶媒、触媒、または容認できない高水準のハライド不純物を含む溶媒は使用してはならない。未精製の製品はまた、種々の精製プロセスによって処理されることができ、最終的な製品をハライド、例えばクロリドを実質的に含まないようにさせる。そのような方法は、当技術分野でよく説明されており、限定するものではないが、精製プロセス、例えば、蒸留または吸着を挙げることができる。蒸留は、沸点の違いを利用することによって、不純物を所望の製品から分離するのに通常用いられる。吸着はまた、成分の特質的な吸着特性を利用して分離をもたらして、それによって最終的な製品がハライドを実質的に含まないようにさせるように用いられることができる。吸着材、例えば、商業的に入手可能なMgO-Al2O3混合物が、ハライド、例えばクロリドを除去するのに用いられることができる。
【0051】
ここに記載された溶媒および式A~Cを有する前駆体を含む組成物に関するそれらの態様では、選択された溶媒またはそれらの混合物は、ケイ素前駆体と反応しない。組成物中の質量パーセントによる溶媒の量は、0.5質量%~99.5質量%、または10質量%~75質量%の範囲である。この態様または他の態様では、溶媒は、式A~Cのケイ素前駆体のb.p.と同様の沸点(b.p.)を有するか、または溶媒のb.p.と式A~Cのケイ素前駆体のb.p.の間の差異は、40℃以下、30℃以下、または20℃以下、10℃以下、または5℃以下である。あるいは、沸点の間の差異は、以下の端点、0、10、20、30、または40℃のいずれか1つもしくは2つ以上の範囲である。b.p.dの差異の好適な範囲の例としては、限定するものではないが、0~40℃、20℃~30℃、または10℃~30℃が挙げられる。組成物中の好適な溶媒の例としては、限定するものではないが、エーテル(例えば、1,4-ジオキサン、ジブチルエーテル)、第三級アミン(例えば、ピリジン、1-メチルピペリジン、1-エチルピペリジン、N,N‘-ジメチルピペラジン、N,N,N‘,N‘-テトラメチルエチレンジアミン)、ニトリル(例えば、ベンゾニトリル)、アルキル炭化水素(例えば、オクタン、ノナン、ドデカン、エチルシクロヘキサン)、芳香族炭化水素(例えば、トルエン、メシチレン)、第三級アミノエーテル(例えば、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル)、またはそれらの混合物が挙げられる。幾つかの限定するものではない例としは、限定するものではないが、ビス(ジシリルアミノ)シラン(b.p.約135℃)およびオクタン(b.p.125~126℃)を含む組成物、ビス(ジシリルアミノ)シラン(b.p.約135℃)およびエチルシクロヘキサン(b.p.130~132℃)を含む組成物、ビス(ジシリルアミノ)シラン(b.p.約135℃)およびシクロオクタン(b.p.149℃)を含む組成物、ビス(ジシリルアミノ)シラン(b.p.約135℃)およびトルエン(b.p.115℃)を含む組成物が挙げられる。
【0052】
前述のように、ここに記載された方法は、基材の少なくとも一部に窒化ケイ素膜を堆積させるのに用いられることができる。好適な基材の例としては、限定するものではないが、シリコン、SiO2、Si3N4、OSG、FSGd、炭化ケイ素、水素化炭化ケイ素、窒化ケイ素、水素化窒化ケイ素、炭窒化ケイ素、水素化炭窒化ケイ素、窒化ホウ素、反射防止コーティング、フォトレジスト、可撓性基材、例えばIGZO、有機ポリマー、多孔性有機および無機材料、金属、例えば銅およびアルミニウム、ならびに拡散バリア層、例えば、限定するものではないが、TiN、Ti(C)N、TaN、Ta(C)N、Ta、W、またはWNが挙げられる。これらの膜は、種々の続いて起こる処理工程、例えば、化学機械平坦化(CMP)および異方性のエッチングプロセスに適合可能である。
【0053】
堆積された膜は、限定するものではないが、コンピュータチップ、光学装置、磁気情報記憶装置、支持材料または基材上のコーティング、微小電子機械システム(MEMS)、ナノエレクトロメカニカルシステム、薄膜トランジスタ(TFT)、発光ダイオード(LED)、有機発光ダイオード(OLED)、IGZO,および液晶ディスプレイ(LCD)が挙げられる用途を有している。
【0054】
以下の例は、ここに記載されたケイ素含有材料もしくは膜を堆積させるための方法を示しており、そして決して限定することを意図したものではない。
【実施例1】
【0055】
下記の例において、特に断りのない限り、特性は、中位の抵抗率(1~10Ω-cm、p-タイプ)の単結晶シリコンウエハ基材上に堆積された試料膜から得られた。全ての膜の堆積は、13.56MHzの直接プラズマを備えた、シャワーヘッドデザインを有したCN-1反応器または、プラズマを有しないクロスフロー型のCN-1反応器を用いて実施された。典型的なプロセス条件では、特に断りのない限り、チャンバ圧力は、約1~約5トールの範囲の圧力に固定された。付加的な不活性ガスが、チャンバ圧力を維持するように用いられた。ケイ素前駆体は、蒸気吸引を用いて供給された(すなわち、アルゴンは全く用いられていない)。用いられた典型的なRF出力は、200mmのウエハの電極領域に亘って125Wであり、0.7W/cm
2の出力密度を与えた。膜堆積は、PEALDおよびPECVDについて、それぞれ表1および2に列挙された工程を含んでいた。表1中の工程1~4は、1つのPEALDサイクルを構成し、そして特に断りのない限り、合計で300回繰り返されて、所望の膜厚を得た。
【表1】
【表2】
【0056】
堆積された膜の反応性インデックス(reactive index)(RI)は、エリプソメータを用いて測定された。膜の不均一性は、標準方程式:%不均一性=((最大厚さ-最小厚さ)(2×平均(avg)厚さ))を用いて計算された。膜構造および組成は、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法およびX線光電子分光法(XPS)を用いて解析された。膜の密度は、X線反射光測定(XRR)で測定された。
【0057】
水蒸気透過度(WVTR)は、ルタパーム装置を用いて測定された。ルタパームは、浸透率を測定するために全圧法を使用する。試験試料の両面の間に圧力差が生み出される。この圧力差は、浸透の推進力である。ガスまたは蒸気は、圧力勾配に沿って浸透する。この浸透プロセスは、2つの基本的工程からなっている:試料中への溶解および試料を通しての拡散。より低い圧力の側(下流側)の圧力増加が、圧力センサによって検出される。単位時間当たりの測定された圧力増加から、コンピュータプログラムによって、浸透速度が計算され、これは、水蒸気の場合には、しばしばWVTRと称される。WVTRの単位は、通常はg/m2日で表される。オーブン温度および相対湿度は、通常は固定された値で用いられる。
【0058】
PEALD条件
基材温度 85℃、チャンバ圧力 1トール、50~300W(主出力=150W)、N2=1000sccm、Ar[CAN]=前駆体Aについての蒸気吸引、Ar[MO]=100sccm
【0059】
PECVD条件
基材温度 85~100℃、チャンバ圧力 1~5トール(主圧力=2.5トール)、50~300W(主出力=250W)、H2=1000sccm、NH3=10sccm、Ar[CAN]=前駆体Aについての蒸気吸引、Ar[MO]=100sccm
【0060】
【0061】
表3に示されているように、結果として得られる窒化ケイ素は、従来技術に対して以下の利点を潜在的に有している:(a)全厚さが2500Å以下、2000Å以下、または1000Å以下である、(b)WVTR値が5.0×10-5g/m2日以下、5.0×10-4g/m2日以下、または5.0×10-3g/m2日以下のより良好な水透過度、(c)より薄い窒化ケイ素を、ガス、例えば酸素および水分が、ガスバリアを浸透することを防ぐのに用いられることができるので、現存の単層または2層バスバリアよりもより可撓性である、(d)PEALDは、潜在的に、PECVDプロセスから発生されるピンホールのほとんどを封止することができるのでピンホールがより少ない。
【国際調査報告】