(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-17
(54)【発明の名称】酸化鉄の精錬方法、該方法から得られた酸化鉄、及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C01G 49/06 20060101AFI20241210BHJP
C23G 1/36 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C01G49/06 A
C23G1/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024534527
(86)(22)【出願日】2022-12-09
(85)【翻訳文提出日】2024-07-25
(86)【国際出願番号】 EP2022085142
(87)【国際公開番号】W WO2023105037
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】パトカス,フロリナ コリナ
(72)【発明者】
【氏名】ヘンスラー,ティモ
(72)【発明者】
【氏名】マイアー,マッティアス ヴィルヘルム
【テーマコード(参考)】
4G002
4K053
【Fターム(参考)】
4G002AA03
4G002AB02
4G002AC02
4G002AE05
4K053PA02
4K053QA04
4K053YA05
(57)【要約】
本発明は、酸化鉄と、ハロゲン及び硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの汚染物質とを含む材料を、該少なくとも1つの汚染物質の含有量を低減することにより精錬する方法であって、水蒸気を含有するガスの存在下で該材料を焼成することを特徴とする方法に関する。本発明はまた、このような方法から得ることができる精錬された材料及び触媒製造のためのその使用方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄と、ハロゲン及び硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの汚染物質とを含む材料を、該少なくとも1つの汚染物質の含有量を低減することにより精錬する方法であって、水蒸気を含有するガスの存在下で該材料を焼成することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記材料が少なくとも90質量%の量の酸化鉄を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記材料が塩素をハロゲン汚染物質として、好ましくは少なくとも800ppmの量で含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記材料が硫黄汚染物質を、好ましくは少なくとも800ppmの量で含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
焼成を700℃~1200℃の範囲の温度で行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
焼成を850℃~1000℃の範囲の温度で行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記ガスが、空気、窒素、燃焼ガス又はそれらの混合物、好ましくは空気を含有する混合物、特に空気である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記ガスが空気と燃料の混合物であり、該混合物が好ましくは1.0を超える空燃当量比を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記水蒸気が前記ガス中に少なくとも0.5体積%の量で含有される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
前記水蒸気が前記ガス中に1体積%~50体積%、好ましくは1.5体積%~40体積%、より好ましくは2.0体積%~30体積%、さらにより好ましくは2.5体積%~20体積%、さらにより好ましくは2.5体積%~15体積%の量で含有される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの汚染物質の含有量が少なくとも85%低減される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
前記材料のBET法による比表面積が1m
2/g~10m
2/gである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項13】
ガスの前記材料に対する比率が0.01Nm
3/kg~100Nm
3/kgの範囲である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項14】
前記材料が、鋼鉄の酸洗から発生する塩酸廃液を噴霧焙焼することによって、又はペンニマンプロセスによって製造される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の方法であって、酸又は塩基による先行処理なしで行われる方法。
【請求項16】
請求項1又は2に記載の方法であって、好ましくは内側セラミックコーティングを有する回転キルンで行われる方法。
【請求項17】
前記キルンが、水平に対して0.3°~5°、好ましくは0.4°~3°の傾斜及び/又は0.4rpm~8rpm、好ましくは0.4rpm~5rpmの回転速度を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記材料中に含まれる前記酸化鉄が本質的にヘマタイトからなる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項19】
請求項1又は2に記載の方法により得ることができる精錬された材料。
【請求項20】
触媒製造のための、好ましくはスチレン製造触媒の製造のための、請求項19に記載の精錬された材料の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化鉄と、ハロゲン及び硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの汚染物質とを含む材料を、該少なくとも1つの汚染物質の含有量を低減することにより精錬する方法であって、水蒸気を含有するガスの存在下で該材料を焼成することを特徴とする方法に関する。本発明はまた、このような方法から得ることができる精錬された材料及び触媒製造におけるその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化鉄は多くの産業用途に使用されている。その中には、触媒、電池及び電気部品の製造のように、純度に関する要求が極めて厳しいものもある。例えば、ハロゲン又は硫黄の存在は、触媒反応器のケーシング及び下流部の材料性能の低下又は腐食を引き起こすことがある。
【0003】
工業的に使用されている酸化鉄の製造ルートは、低コスト及び高効率のために最適化されているが、プロセスの性質上、ハロゲン又は硫黄のような不純物の存在を誘発する。例えば、ルスナー(Ruthner)プロセスによる鋼鉄酸洗の酸廃棄物からの再生酸化鉄における塩化物含有量の低減は、有用な原材料源としての再生酸化鉄の開発にとって重要な課題の一つである。このルートにより、塩酸を用いた鋼鉄板の洗浄から生じる塩化鉄溶液は、空気の存在下で噴霧焙焼される。得られた酸化鉄は不純物として塩素を含有する。
【0004】
ペンニマン(Penniman)プロセスでは、硫酸鉄溶液から酸化鉄を製造する。得られた酸化鉄は、硫黄で汚染されている。
【0005】
特許文献は、酸化鉄原材料からこのような汚染物質を除去するために、様々な触媒製造者が過去に行った多くの努力を反映している。
【0006】
例えば、WO95/25069A1では、鋼鉄酸洗液の再生からの塩素を含有する酸化鉄を硫酸溶液で処理し、次いで濾過し、乾燥し、そして任意選択で焼成して塩素含有量を低減している。この方法の欠点は、明らかに化学品(H2SO4)の消費と廃液の発生である。
【0007】
EP1178012B1では、塩素を含有する酸化鉄を硝酸(HNO3)の希釈溶液で処理し、次いでろ過し、乾燥し、そして焼成して、塩素含有量が低減された酸化物を得ている。前の文献の引用と同様に、ここでも、化学品の消費及びその結果生じる廃酸溶液は、プロセスコスト及び環境フットプリントにとって不利である。
【0008】
EP1379470B1では、塩素含有量を低減するために、任意の化学品を添加せずに高温の乾燥空気中で酸化鉄を処理している。化学品及び廃水が出ないことを考慮すると、この方法は先に引用したものよりも経済的及び環境的に有利である。しかし、残留塩素含有量を低くするためには、酸化鉄を1150℃までの範囲の極めて高い温度で焼成しなければならない。その結果、処理された材料の比表面積が非常に低くなり、それにより酸化鉄の反応性が低下し、そして触媒前駆体として使用する際の欠点となる。さらに、管壁への酸化鉄粉末の付着を防止するため、焼成炉管にタッパー又はハンマーを備えなければならない。
【0009】
GB1203967Aは、非鉄金属不純物を揮発性の非鉄金属塩化物に変換して酸化鉄から除去する目的で、塩化水素のようなハロゲン化水素成分を含有するガスと水蒸気との存在下で酸化鉄を焼成することを教示している。この反応系における水の役割は、酸化鉄が塩化物として揮発するのを防ぐことである。本文献は金属不純物に焦点を当てているので、生成した酸化鉄がハロゲンによって汚染される可能性についての情報はない。逆に、金属不純物の含有量を低減するという目標を達成するために、ハロゲンは意図的に反応系に導入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO95/25069A1
【特許文献2】EP1178012B1
【特許文献3】EP1379470B1
【特許文献4】GB1203967A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
よって、ハロゲン又は硫黄の形態の汚染物質量を低減し、必要な焼成温度及び/又は比表面積の損失を低下させるために、酸化鉄を精錬するための最適化された方法が依然として必要とされている。
【0012】
よって本発明の目的は、このような方法及び該方法の結果得られる酸化鉄を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、酸化鉄と、ハロゲン及び硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの汚染物質とを含む材料を、該少なくとも1つの汚染物質の含有量を低減することにより精錬する方法であって、水蒸気を含有するガスの存在下で該材料を焼成することを特徴とする方法によって達成される。
【0014】
驚くべきことに、酸化鉄を、湿った空気などの水蒸気を含有するガスの存在下で焼成することにより、乾燥した空気などの乾燥ガス中で焼成する場合と比べて、ハロゲン及び硫黄の汚染物質の含有量をより劇的に低減させることができ、且つ比表面積の損失が減少することが見出された。
【0015】
さらに、セラミック材料でライニングされた焼成炉管内で酸化鉄材料を焼成することにより、焼成炉管への酸化鉄の付着を回避することができ、そしてこれにより、むき出しの金属焼成炉管で焼成する場合に必要なタッピング装置を使用する必要がないことが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、起源が鉱物か合成かに関わらず、ハロゲン又は硫黄を含有する任意の種類の酸化鉄材料の精製に使用することができる。例えば、酸化鉄はルスナー又は再生型、ペンニマン、硫酸塩からの沈殿などである。好ましくは、精錬のための方法で使用される材料は、鋼鉄の酸洗から発生する塩酸廃液を噴霧焙焼することによって、又はペンニマンプロセスによって製造される。好ましくは、精製に供される酸化鉄及び精製された生成物は、本質的にヘマタイト(Fe2O3)相からなる。「本質的に・・・からなる」という用語は、好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも99%、さらにより好ましくは少なくとも99.9%のヘマタイト相の含有量を指す。本発明の方法で使用される材料は、粉末の形態で焼成に供される。
【0017】
初期材料中のハロゲン又は硫黄の不純物の含有量は、数質量パーセント(数万ppm、百万分の一質量部と理解される)までの量とすることができる。よって本発明の方法に使用される材料は、好ましくは、材料の総量に対して少なくとも90質量パーセント(wt-%)の量の酸化鉄を含む。しかしながら、典型的には、本発明の精錬方法に使用される材料は、少なくとも95質量%、さらにより好ましくは、少なくとも97質量%、さらにより好ましくは、少なくとも99質量%を含む。よって、好ましい実施形態において、本発明の精錬方法に使用される材料は、10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%(=10,000ppm)以下の不純物を有する酸化鉄である。
【0018】
本発明の精錬方法に使用される材料は、酸化鉄と、ハロゲン及び硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの汚染物質とを含む。
【0019】
よって、酸化鉄に含有される少なくとも1つの不純物は、ハロゲン、好ましくはコリン、又は硫黄である。よって、本発明の好ましい実施形態では、材料はハロゲン汚染物質として塩素を、好ましくは少なくとも800ppm(ハロゲンが塩素である場合、Clとして計算される百万分の一質量部)の量で含む。典型的には、その量は800ppm~5000ppmの範囲である。このようにハロゲンは、典型的には、ハロゲン化物、塩化物として材料中に存在する(ハロゲン=塩素の場合)。よって、本発明の別の好ましい実施形態では、材料は汚染物質として硫黄を、好ましくは少なくとも800ppm(Sとして計算される百万分の一質量部)の量で含む。典型的には、その量は800ppm~5000ppmの範囲である。硫黄は、典型的には、硫酸塩、亜硫酸塩又は硫化物として材料中に存在する。本発明のさらなる実施形態では、酸化鉄は、少なくとも両方の必須不純物、すなわちハロゲン及び硫黄を含有する。
【0020】
処理後、ハロゲン又は硫黄の残留含有量は、数千ppmまで、好ましくは数百ppmまで、最も好ましくは数十ppmまで、又はさらには10ppm未満の量となる。よって、残留含有量は好ましくは100ppm未満である。好ましくは、少なくとも1つの汚染物質の含有量は少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%低減される。
【0021】
好ましい実施形態では、酸化鉄及び不純物を含む材料を、定置キルン、ローラーハースキルン、プッシャースラブキルン、ロータリーオーブン、流動床又はフラッシュ焼成炉などの焼成用機器で焼成する。焼成用機器の装置は、水蒸気を含有するガスの存在下で材料を焼成できるように設計されている。例えば、装置には、ガスの安定した流れを提供するためのファンが含まれる。ガスは、好ましくは空気、窒素、燃焼ガス又はそれらの混合物であり、好ましくは空気を含有する混合物、特に空気である。水蒸気を含有する空気は、本明細書では湿った空気としても言及される。空気流に水蒸気を導入するために、様々な方法が考案される。例えば、低圧蒸気を焼成炉の入口空気管に直接導入できる。又は、水を投与ポンプで計量し、好ましくはノズルを介してスプレーとして又は液滴の形態で、焼成炉の入口でガスの流れに噴射することもできる。又は、表面積を増大させるために接触材料で満たされた飽和カラムに空気を通過させることもでき、この場合、水は対応するポンプによって導入される。蒸発を促進するために、カラムを加熱してもよい。水蒸気をガス流に導入する前述の手段は、蒸気又はスプレーをオーブンチャンバーに直接導入することによって適用することもできる。
【0022】
「空気」という用語は、主成分としての任意の比率の窒素と酸素の混合物を意味し、特に、標準的な条件下でガスの総量に対して少なくとも95体積%、典型的には少なくとも99体積%の含有量を有し、そして好ましい含有量は、78体積%のN2及び21体積%のO2(「天然」の含有量)である。
【0023】
好ましくは、湿った空気などの水蒸気を含有するガスは、ガスの総体積に対して少なくとも0.5体積%の水蒸気を含有する。含有量は100体積%以下とすることができ、すなわち気相は水蒸気のみからなる。典型的には、含有量は1体積%~50体積%の水蒸気、好ましくは1.5体積%~40体積%、より好ましくは2.0体積%~30体積%、さらにより好ましくは2.5体積%~20体積%、さらにより好ましくは2.5体積%~15体積%の範囲の水蒸気である。所定の水蒸気含有量のガスは、乾燥ガスを計算量の純水蒸気と混合することによって調製することができる。
【0024】
ガスは、典型的には、ハロゲン、特にコリンを含まない。
【0025】
本発明の精錬方法に使用される材料に対するガスの比率は、好ましくは材料1kgあたりガス0.01Nm3(Nm3/kg)~100Nm3/kgの範囲、より好ましくは0.1~10Nm3/kgの範囲、及びさらにより好ましくは0.1Nm3/kg~5Nm3/kgの範囲である。ガスは、固体材料の変位に対して、共流モード又は向流モードで供給することができる。
【0026】
使用する焼成温度は、好ましくは700℃~1200℃、より好ましくは800℃~1150℃、さらにより好ましくは850℃~1120℃、さらにより好ましくは850℃~1000℃である。焼成時間は様々とすることができ、0.1秒~24時間である。典型的な焼成時間は5分~120分、例えば30分~60分である。この時間を使用して材料を一定の温度で処理する。この温度に達するには、室温から加熱する段階が必要である。加熱速度は、1K/分~5000K/秒の範囲で様々とすることができる。典型的な加熱勾配は、1K/分~50K/分、好ましくは5K/分~40K/分、より好ましくは10K/分~30K/分、例えば20K/分である。
【0027】
焼成用機器は、その壁を通して電気的に加熱してよく、又はマイクロ波加熱により、又は燃料ガスの間接的な(ガスを固体酸化鉄に直接接触させずに)燃焼により、又は高温の燃焼ガスと酸化鉄との直接接触により燃焼させてもよい。最後の場合、本発明後のプロセスを実行するために必要な水分の一部又は全部は、燃焼プロセスによって供給される。例えば、メタンを燃料として使用する場合、例示的な反応は以下の通りである:
CH4+2O2=CO2+2H2O
【0028】
上記のメタンの例以外にも、例えばガス状又は液体状の炭化水素又は水素など、他の材料も燃焼用燃料として使用できる。
【0029】
よって水蒸気を含有するガスは、空気と燃料の混合物とすることができ、この混合物は、好ましくは1.0を超える、より好ましくは1.1~30の範囲、より好ましくは1.2~5.0の範囲の空燃当量比を有する。
【0030】
焼成用機器は、高温の鋼鉄で作られ、セラミック材料でコーティング又はライニングされた回転キルンの形態であってよい。驚くべきことに、セラミックコーティングを使用することにより、焼成炉管から酸化鉄粉末を剥離するための任意の装置なしで回転キルンを酸化鉄の焼成に使用できることが見出された。セラミックコートは、アルミナ、アルミノ-シリカ、ジルコニア、マグネシウムアルミネート、シリコンカーバイドなど、様々な耐火性材料からなる。管は、このようなライニングなしでも使用できる。この場合、酸化鉄粉末が管に付着することが観察され、管壁から酸化鉄ケーキを定期的に剥離するためにタッピング装置を使用しなければならなかった。
【0031】
よって好ましい実施形態では、本発明の方法は、好ましくは内側セラミックコーティングを有する回転キルンで実施される。
【0032】
回転キルンは、水平に対して0.3~5°、好ましくは0.4~3°の勾配で運転される。キルン管の回転速度は、0.4~8rpm(毎分回転)、好ましくは0.5~5rpmである。
【0033】
焼成は、大気圧、又は大気圧よりわずかに低い圧力(換気装置によるオフガスの吸引)、又はコンプレッサーを利用して湿った空気を固体材料を通して又は固体材料上に強制的に送り込むような、大気圧よりわずかに高い圧力で行ってよい。
【0034】
本発明の方法は、好ましくは、酸又は塩基による先行処理なしで実施される。特に、酸処理はWO95/25069A1及びEP1178012B1に記載されている。
【0035】
本発明による精錬方法に使用される材料のBET法(DIN ISO9277:2014-01)による比表面積は、典型的には1m2/g~10m2/g、好ましくは3~5m2/gである。汚染物質の含有量が低減された焼成後の得られた材料(精錬された材料)は、好ましくは、少なくとも1m2/gの比表面積BETを有する。
【0036】
よって本発明の別の態様は、本発明の精錬方法によって得ることができる精錬された材料である。
【0037】
本発明による汚染物質含有量が低減された酸化鉄は、一般に400ppm未満、好ましくは300ppm未満、及び特に好ましくは250ppm未満、特に200ppm未満の残留塩化物含有量を有する。レーザー回折によって決定される平均粒径は、一般に0.5μm超、すなわち1μm~200μm、好ましくは1.5μm~100μm、特に好ましくは2μm~80μm、及び非常に特に好ましくは2μm~30μmであり、そして1μm未満の粒径を有する微粉画分は、一般に15質量%未満、好ましくは10質量%未満、特に好ましくは5質量%未満である。本発明により処理された酸化鉄のBET比表面積は、一般に0.4~5m2/gの範囲、好ましくは0.4~3.5m2/gの範囲、特に好ましくは0.5~3m2/gの範囲、及び特に0.6~2.5m2/gの範囲、非常に特に好ましくは0.7~2m2/gの範囲である。好ましくは、BET比表面積は少なくとも1m2/gである。本発明により処理された酸化鉄は、一般にヘマタイト構造を有する。これらは、一連の工業的用途、例えば医薬品、化粧品、磁気テープコーティング、電池材料、化学反応、触媒、又は触媒の調製、特にエチルベンゼンのスチレンへの脱水素のための触媒の調製に有用である。
【0038】
このように、本発明の方法により得ることができる精錬された材料は、触媒の一部として有用である。よって本発明の別の態様は、前記材料を含有する触媒である。このような触媒は、スチレン製造のためのプロセスにおいて使用することができる。
【0039】
エチルベンゼンの脱水素によるスチレンの工業的製造は、等温プロセス又は断熱プロセスによって行うことができる。等温プロセスは一般に、450℃~700℃、好ましくは520℃~650℃の温度で、気相中、水蒸気を添加して0.1バール~5バール、好ましくは0.2バール~2バール、特に好ましくは0.25バール~1バール、特に0.3バール~0.9バールの圧力で運転される。断熱プロセスは一般に、450℃~700℃、好ましくは520℃~650℃で、気相中、水蒸気を添加して0.1バール~2バール、好ましくは0.2バール~1バール、特に好ましくは0.25バール~0.9バール、特に0.3バール~0.8バールの圧力で運転される。エチルベンゼンのスチレンへの脱水素用触媒は、水蒸気によって再生することができる。
【0040】
エチルベンゼンのスチレンへの脱水素用触媒は、一般に酸化鉄及びアルカリ金属化合物、例えば酸化カリウムを含有する。このような触媒は一般に、多数の促進剤をさらに含有する。記載する促進剤には、例えばカルシウム、マグネシウム、セリウム、モリブデン、タングステン、クロム及びチタンの化合物が含まれる。触媒は、既製触媒中に存在するであろう促進剤の化合物、又は製造の際に既製触媒中に存在する化合物に変換する化合物を使用して調製してよい。使用される触媒には、処理性、機械的強度又は細孔構造を改善するための助剤が含まれてもよい。このような助剤の例には、ポテトスターチ、セルロース、ステアリン酸、グラファイト又はポルトランドセメントが含まれる。使用される材料は、ミキサー、ニーダー、又は好ましくはマラーで直接混合することができる。また、スラリー化して噴霧可能な混合物とし、そして噴霧乾燥させて粉末の形態にすることもできる。
【実施例】
【0041】
以下の例示的な実施形態は、乾燥空気雰囲気による処理と比較して、湿った空気を使用することによって生じる違いを示している。
【0042】
実施例1(比較例)
出発材料として、935ppmの塩素を含有し、4.15m2/gの表面積を有する原料酸化鉄を使用した。500gの量の酸化物粉末を回転式石英ガラス焼成炉に入れた。焼成炉に乾燥空気を470Nl/hの速度で供給した。焼成炉を室温から目標の焼成温度まで20K/分の速度で加熱した。加熱段階後、目標温度を30分の滞留時間一定に保った。その後、反応器を室温まで冷却した。滞留時間終了直後の初期冷却速度は約15K/分であった。冷却後、処理された酸化物のサンプルを採取して分析した結果、表1に示す特性が得られた。
【0043】
実施例2(本発明の実施例)
出発材料として比較例1と同じ原料酸化鉄、同じ設定及び加熱温度を使用したが、供給される空気が1.5体積%の量の水蒸気を含有していたことのみが異なっていた。蒸発ユニットに乾燥空気流を送ることによって水蒸気濃度を調製した。蒸発ユニットには高精度ポンプによって規定流量で水が供給された。凝縮効果とそれに伴うガス流中の水分含有量の変化を避けるために、蒸発ユニットと焼成炉の間のパイプシステムは、180℃の温度で外部加熱した。処理された酸化物の分析データを表1に示す。
【0044】
実施例3(本発明の実施例)
出発材料として比較例1と同じ原料酸化鉄、同じ設定及び加熱温度を使用したが、供給される空気が2.5体積%の量の水蒸気を含有していたことのみが異なっていた。処理された酸化物の分析データを表1に示す。
【0045】
実施例4(本発明の実施例)
出発材料として比較例1と同じ原料酸化鉄、同じ設定及び加熱温度を使用したが、供給される空気が5体積%の量の水蒸気を含有していたことのみが異なっていた。処理された酸化物の分析データを表1に示す。
【0046】
実施例5(本発明の実施例)
出発材料として比較例1と同じ原料酸化鉄、同じ設定及び加熱温度を使用したが、供給される空気が10体積%の量の水蒸気を含有していたことのみが異なっていた。処理された酸化物の分析データを表1に示す。
【0047】
実施例6(本発明の実施例)
出発材料として比較例1と同じ原料酸化鉄、同じ設定及び加熱温度を使用したが、供給される空気が15体積%の量の水蒸気を含有していたことのみが異なっていた。処理された酸化物の分析データを表1に示す。
【0048】
実施例7(本発明の実施例)
出発材料として比較例1と同じ原料酸化鉄、同じ設定及び加熱温度を使用したが、供給される空気が30体積%の量の水蒸気を含有していたことのみが異なっていた。処理された酸化物の分析データを表1に示す。
【0049】
実施例8(比較例)
比較例1と同じ原料酸化鉄、同じ設定及び乾燥空気を使用したが、加熱温度が850℃であったことを除く。処理された酸化物の分析データを表1に示す。
【0050】
実施例9(本発明の実施例)
比較例8と同じ原料酸化鉄、同じ設定及び加熱温度を使用したが、供給される空気が2.5体積%の量の水蒸気を含有していたことを除く。処理された酸化物の分析データを表1に示す。
【0051】
実施例10(比較例)
比較例1と同じ原料酸化鉄、同じ設定及び乾燥空気を使用したが、加熱温度が975℃であったことを除く。処理された酸化物の分析データを表1に示す。
【0052】
実施例11(本発明の実施例)
比較例10と同じ原料酸化鉄、同じ設定及び加熱温度を使用したが、供給される空気が2.5体積%の量の水蒸気を含有していたことを除く。処理された酸化物の分析データを表1に示す。
【0053】
実施例12(比較例)
出発材料として、2200ppmの硫黄を含有し、7.4m2/gの表面積を有する原料酸化鉄を使用した。焼成条件は比較例1のものと同一であり、そして乾燥空気を使用した。分析結果を表2に示す。
【0054】
実施例13(本発明の実施例)
比較例12と同じ原料酸化鉄、同じ設定及び加熱温度を使用したが、供給される空気が10体積%の量の水蒸気を含有していたことを除く。処理された酸化物の分析データを表2に示す。
【0055】
実施例14(本発明の実施形態)
1000±200ppmの塩素を含有し、4.0±0.5m2/gの表面積を有する酸化鉄を使用した。焼成は、直火式回転焼成炉で行った。粉末材料の供給速度は45.5kg/hであり、空気の供給速度は86Nm3/h、及びメタン燃料ガスの供給速度は7.1Nm3/hであり、バーナーでの空燃当量比1.3、及びバーナーオフガス中の理論水分含有量15体積%を得た。バーナーオフガスは酸化鉄粉末と直接接触させた。焼成炉の回転数は4rpmであった。焼成炉内の材料の温度は1085℃であった(パイロメーター読取値)。この条件下で、10ppmの塩素を含有し、1.1m2/gのBET比表面積を有する処理された酸化鉄が得られた。
【0056】
実施例15(本発明の実施例)
実施例14と同じ酸化鉄、同じ焼成炉及び焼成条件を使用したが、空気の供給速度が100Nm3/h、及びメタン燃料ガスの供給速度が7.6Nm3/hであり、バーナーでの空燃当量比1.4、焼成温度(パイロメーター読取値)1120℃、及びバーナーオフガス中の理論水分含有量14体積%を得たことを除く。この条件下で、7ppmの塩素を含有し、0.8m2/gの表面積を有する処理された酸化鉄が得られた。
【0057】
【0058】
【0059】
実施例及び比較例1~15は、水蒸気を含有する空気の存在下で焼成により酸化鉄を処理することで、元の材料又は乾燥空気で同じ温度で処理した材料よりも残留ハロゲン又は硫黄の含有量が著しく低くなるという事実を示している。同時に、湿った空気の存在下での酸化鉄の焼結は、乾燥空気中での焼成に比べて低減され、得られた生成物は高い表面積を有し、従って表面積がより高い活性に有利な触媒の製造に、より好適である。さらに、湿った空気中での焼成は、焼成温度を下げることができ、これによって電気エネルギー又は燃料ガスの節約につながる。例えば、塩素含有酸化鉄を湿った空気中で焼成すると、乾燥空気中930℃で焼成した材料(塩素147ppm、及び表面積1.19m2/g)と比較して、850℃で残留塩素がより低く(128ppm)、そして表面積がより高く(2.04m2/g)なる。
【0060】
このように、本発明による方法は、ハロゲン又は硫黄に汚染された酸化鉄材料をより経済的且つ効率的な処理を可能とし、触媒、電池、電気技術部品などの様々な用途に好適な高純度の材料をもたらす。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄と、ハロゲン及び硫黄からなる群から選択される少なくとも1つの汚染物質とを含む材料を、該少なくとも1つの汚染物質の含有量を低減することにより精錬する方法であって、水蒸気を含有するガスの存在下で該材料を焼成することを特徴と
し、前記ガスが空気、窒素、燃焼ガス又はこれらの混合物、又は空気と燃料との混合物であり、ここで前記ガスがハロゲンを含まず、そして前記材料に含まれる前記酸化鉄が本質的にヘマタイトからなり、前記酸化鉄が少なくとも90%のヘマタイト相の含有量を有する、方法。
【請求項2】
前記材料が少なくとも90質量%の量の酸化鉄を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記材料が塩素をハロゲン汚染物質として、好ましくは少なくとも800ppmの量で含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記材料が硫黄汚染物質を、好ましくは少なくとも800ppmの量で含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
焼成を700℃~1200℃の範囲の温度で行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
焼成を850℃~1000℃の範囲の温度で行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記ガスが
、空気を含有する混合物、特に空気である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記ガスが空気と燃料の混合物であり、該混合物
が1.0を超える空燃当量比を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記水蒸気が前記ガス中に少なくとも0.5体積%の量で含有される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
前記水蒸気が前記ガス中に1体積%~50体積%、好ましくは1.5体積%~40体積%、より好ましくは2.0体積%~30体積%、さらにより好ましくは2.5体積%~20体積%、さらにより好ましくは2.5体積%~15体積%の量で含有される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの汚染物質の含有量が少なくとも85%低減される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
前記材料のBET法による比表面積が1m
2/g~10m
2/gである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項13】
ガスの前記材料に対する比率が0.01Nm
3/kg~100Nm
3/kgの範囲である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項14】
前記材料が、鋼鉄の酸洗から発生する塩酸廃液を噴霧焙焼することによって、又はペンニマンプロセスによって製造される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の方法であって、酸又は塩基による先行処理なしで行われる方法。
【請求項16】
請求項1又は2に記載の方法であって、好ましくは内側セラミックコーティングを有する回転キルンで行われる方法。
【請求項17】
前記キルンが、水平に対して0.3°~5°、好ましくは0.4°~3°の傾斜及び/又は0.4rpm~8rpm、好ましくは0.4rpm~5rpmの回転速度を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記材料中に含まれる前記酸化鉄が本質的にヘマタイトからな
り、前記酸化鉄が少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.9%のヘマタイト相の含有量を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【国際調査報告】