(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体及び4-1BB(CD137)アゴニストを使用したがんの治療
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20241219BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241219BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241219BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241219BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529706
(86)(22)【出願日】2022-12-13
(85)【翻訳文提出日】2024-05-27
(86)【国際出願番号】 EP2022085479
(87)【国際公開番号】W WO2023110788
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514099673
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】カイザー, サイモン パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ヴァインツィアル, ティナ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC41
4C084ZC751
4C085AA13
4C085BB31
4C085CC22
4C085DD61
4C085EE03
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、がんの治療に関し、特にHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体及び4-1BB(CD137)アゴニストを使用したがんの治療に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体のがんの治療における使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体であって、治療が、4-1BB(CD137)アゴニストとの組み合わせでのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体の投与を含む、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体。
【請求項2】
個体のがんの治療における使用のための4-1BB(CD137)アゴニストであって、治療が、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体との組み合わせでの4-1BB(CD137)アゴニストの投与を含む、使用のための4-1BB(CD137)アゴニスト。
【請求項3】
個体のがんの治療のための医薬の製造におけるHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体の使用であって、治療が、4-1BB(CD137)アゴニストとの組み合わせでのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体の投与を含む、使用。
【請求項4】
個体のがんの治療のための医薬の製造における4-1BB(CD137)アゴニストの使用であって、治療が、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体との組み合わせでの4-1BB(CD137)アゴニストの投与を含む、使用。
【請求項5】
HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体及び4-1BB(CD137)アゴニストを個体に投与することを含む、個体のがんを治療するための方法。
【請求項6】
HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体を含む第1の医薬と、4-1BB(CD137)アゴニストを含む第2の医薬とを含み、任意選択的に、個体のがんを治療するための第2の医薬との組み合わせでの第1の医薬の投与のための説明を含む添付文書をさらに含むキット。
【請求項7】
HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体が、
(i)CD3に特異的に結合する第1の抗原結合部分であって、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域を含む第1の抗原結合部分と;
(ii)HLA-A2/MAGE-A4に特異的に結合する第2の抗原結合部分であって、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域を含む第2の抗原結合部分と
を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、使用のための4-1BBL(CD137)アゴニスト、使用、方法又はキット。
【請求項8】
HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体が、HLA-A2/MAGE-A4に特異的に結合する第3の抗原結合部分並びに/又は第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、使用、使用のための4-1BBL(CD137)アゴニスト、使用、方法又はキット。
【請求項9】
HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体が、
(i)CD3に特異的に結合する第1の抗原結合部分であって、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域を含み、Fab軽鎖とFab重鎖の可変領域又は定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である第1の抗原結合部分と;
(ii)HLA-A2/MAGE-A4に特異的に結合する第2及び第3の抗原結合部分であって、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域を含み、第2及び第3の抗原結合部分の各々がFab分子、特に従来のFab分子である、第2及び第3の抗原結合部分と;
(iii)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインであって、
第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している、Fcドメインと
を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、使用のための4-1BBL(CD137)アゴニスト、使用、使用、方法又はキット。
【請求項10】
HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体の第1の抗原結合部分が、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含み、並びに/又はHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体の第2の抗原結合部分及び(存在する場合は)第3の抗原結合部分が、配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、使用、使用のための4-1BBL(CD137)アゴニスト、使用、方法又はキット。
【請求項11】
HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体の第1の抗原結合部分が、Fab軽鎖とFab重鎖の可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子であり、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体の第2の抗原結合部分及び(存在する場合は)第3の抗原結合部分が、定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)により独立して置換されており(カバットによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)により独立して置換されており(カバットによる番号付け)、定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)により独立して置換されており(カバットEUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)により独立して置換されている(カバットEUインデックスによる番号付け)従来のFab分子である、請求項1から10のいずれか一項に記載の、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、使用のための4-1BBL(CD137)アゴニスト、使用、使用、方法又はキット。
【請求項12】
HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体のFcドメインが、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットとの会合を促進する修飾を含み、並びに/又はFcドメインが、Fc受容体への結合を低減する及び/若しくはエフェクター機能を低下させる1つ又は複数のアミノ酸置換を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、使用のための4-1BBL(CD137)アゴニスト、使用、使用、方法又はキット。
【請求項13】
4-1BB(CD137)アゴニストが、4-1BBLの外部ドメイン又はその断片、特に4-1BBLの3つの外部ドメイン又はそれらの断片を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、使用のための4-1BBL(CD137)アゴニスト、使用、使用、方法又はキット。
【請求項14】
4-1BBLの外部ドメイン又はその断片が、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34及び配列番号35からなる群から選択されるアミノ酸配列、特に配列番号32のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、使用のための4-1BBL(CD137)アゴニスト、使用、使用、方法又はキット。
【請求項15】
4-1BB(CD137)アゴニストが、腫瘍関連抗原、特に線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)に特異的に結合する抗原結合部分を含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、使用のための4-1BBL(CD137)アゴニスト、使用、使用、方法又はキット。
【請求項16】
FAPに特異的に結合する抗原結合部分が、配列番号36の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号37のHCDR2、及び配列番号38のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と;配列番号39の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号40のLCDR2、及び配列番号41のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、請求項15に記載の、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、使用のための4-1BBL(CD137)アゴニスト、使用、使用、方法又はキット。
【請求項17】
FAPに特異的に結合する抗原結合部分が、配列番号42のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号43のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、請求項15又は16に記載の、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、使用のための4-1BBL(CD137)アゴニスト、使用、使用、方法又はキット。
【請求項18】
4-1BB(CD137)アゴニストが、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインを含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、使用のための4-1BBL(CD137)アゴニスト、使用、使用、方法又はキット。
【請求項19】
4-1BB(CD137)アゴニストのFcドメインが、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットとの会合を促進する修飾を含み、並びに/又はFcドメインが、Fc受容体への結合を低減する及び/若しくはエフェクター機能を低下させる1つ又は複数のアミノ酸置換を含む、請求項18に記載の、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、使用のための4-1BBL(CD137)アゴニスト、使用、使用、方法又はキット。
【請求項20】
4-1BBL(CD137)アゴニストが、
(i)4-1BBLの第1、第2及び第3の外部ドメイン又はそれらの断片;
(ii)FAPに特異的に結合する抗原結合部分であって、Fab分子である抗原結合部分;
(iii)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるFcドメイン;
(iv)CLドメイン及びCH1ドメイン
を含む抗原結合分子であり、
抗原結合分子が、
(a)(a1)そのC末端において4-1BBLの第2の外部ドメイン又はその断片のN末端に融合している4-1BBLの第1の外部ドメイン又はその断片、(a2)そのC末端においてCLドメインのN末端に融合している4-1BBLの第2の外部ドメイン又はその断片、(a3)そのC末端においてFcドメインのサブユニットのうちの一方(例えば第1のサブユニット)のN末端に融合しているCLドメイン、及び(a4)Fcドメインのサブユニットのうちの一方(例えば第1のサブユニット)を含む第1のポリペプチドと;
(b)(b1)そのC末端においてCH1ドメインのN末端に融合している4-1BBLの第3の外部ドメイン又はその断片、及び(b2)CH1ドメインを含む第2のポリペプチドと;
(c)(c1)そのC末端においてFcドメインのサブユニットのうちの他方(例えば第2のサブユニット)のN末端に融合しているFab分子の重鎖、及び(c2)Fcドメインのサブユニットのうちの他方(例えば第2のサブユニット)を含む第3のポリペプチドと;
(d)Fab分子の軽鎖を含む第4のポリペプチドと
から構成される、請求項1から19のいずれか一項に記載の、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、使用のための4-1BBL(CD137)アゴニスト、使用、使用、方法又はキット。
【請求項21】
第1のポリペプチドのCLドメインにおいて、124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)により独立して置換されており(カバットによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)により独立して置換されており(カバットによる番号付け)、第2のポリペプチドのCH1ドメインにおいて、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)により独立して置換されており(カバットEUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)により独立して置換されている(カバットEUインデックスによる番号付け)、請求項20に記載の、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、使用のための4-1BBL(CD137)アゴニスト、使用、使用、方法又はキット。
【請求項22】
第1のポリペプチドが、配列番号45のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含み、第2のポリペプチドが、配列番号46のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含み、第3のポリペプチドが、配列番号47のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含み、第4のポリペプチドが、配列番号48のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項20又は21に記載の、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、使用のための4-1BBL(CD137)アゴニスト、使用、使用、方法又はキット。
【請求項23】
4-1BB(CD137)アゴニストが、抗4-1BB抗体、特に抗FAP/抗4-1BB二重特異性抗体である、請求項1から12のいずれか一項に記載の、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、使用のための4-1BBL(CD137)アゴニスト、使用、使用、方法又はキット。
【請求項24】
がんが、MAGE-A4陽性がんである、請求項1から23のいずれか一項に記載の、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、使用のための4-1BBL(CD137)アゴニスト、使用、使用、方法又はキット。
【請求項25】
がんが、肺がん、頭頸部がん、膀胱がん、食道がん、皮膚がん、軟組織がん、胃がん、子宮頸がん及び卵巣がんからなる群から選択されるがんである、請求項1から24のいずれか一項に記載の、使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、使用のための4-1BBL(CD137)アゴニスト、使用、使用、方法又はキット。
【請求項26】
先に記載されるとおりの発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの治療に関し、特にHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体及び4-1BB(CD137)アゴニストを使用したがんの治療に関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞活性化二重特異性抗体は、腫瘍細胞に対して細胞傷害性T細胞を用いるように設計された有望ながん治療法である。このような抗体がT細胞上のCD3と腫瘍細胞上に発現される抗原とに同時結合すると、腫瘍細胞とT細胞とを一時的に強制的に相互作用させ、T細胞の活性化と、その後の腫瘍細胞の溶解とを引き起こす。
【0003】
MAGE-A4(黒色腫関連抗原4)は、がん精巣抗原(CTA)のMAGEファミリーのメンバーである。タンパク質のMAGE-Aファミリーは、Xq26-28でクラスター化された、保存ドメイン(MAGE相同性ドメイン、MHD)の存在を特徴とする12の高度に相同性の遺伝子を包含する。20年以上前に発見されたにも関わらず、MAGEタンパク質の生物的機能は依然としてよく分かっていない。その発現パターンに基づいて、MAGEファミリーは2つのサブファミリー、即ちタイプ-Iとタイプ-IIに分けることができ、MAGE-Aグループは、発現が生殖系列及びがん細胞に制限されるタイプ-Iのサブファミリーに属する。タイプ-IのMAGEの過剰発現とがんの悪性度、腫瘍増殖、及び患者の予後不良の間の相関が、多くの報告によって示唆された。MAGE-A4などの細胞内タンパク質は、プロテアソーム内で分解され、処理され、T細胞エピトープとしての主要組織適合複合体(MHC)Iにより細胞表面に提示されうる。したがって、MAGE-A4p230-239(GVYDGREHTV)などのMAGE-A4誘導ペプチドは、HLA-A2の関連で細胞表面に提示され、T細胞認識をトリガーすることができる。その発現パターンを考慮すると、MAGE-A4はがん治療法の有望な標的でありうる。
【0004】
HLA-A2/MAGE-A4を標的とするT細胞活性化二重特異性抗体は、国際公開第2021/122875号に記載されている。このようなT細胞活性化二重特異性抗体は、例えば、MAGE-A4発現がんの治療において、有用でありうる。HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体(「MAGE-A4-TCB」)は現在、HLA-A*02:01対立遺伝子を担持する、MAGE-A4発現固形腫瘍を有する患者の第I相臨床治験において研究中である(NCT05129280)。
【0005】
残念なことに、T細胞に基づく免疫療法による固形腫瘍の治療は、依然として多くの課題に直面しており、そのうち最も顕著なものは、好ましくない腫瘍微小環境(TME)を克服することである。線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)は、がん関連線維芽細胞(CAF)により高度に発現され、細胞外マトリックス(ECM)を再モデル化することにより腫瘍微小環境(TME)を調節する能力を有する。CAF上でのFAP過剰発現は、種々のがんにおける予後不良に関連付けられる。
【0006】
したがって、特に固形腫瘍がんにおける、HLA-A2/MAGE-A4標的化T細胞活性化抗体の治療効果を最大化するために、それら抗体の効果を、TMEの存在にも関わらず、TME中で強化することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、HLA-A2/MAGE-A4標的化T細胞活性化二重特異性抗体と、T細胞に正の共刺激性シグナルを提供する4-1BB(CD137)アゴニスト(4-1BBL)、特に線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)等の間質抗原を標的とする4-1BB(CD137)アゴニストとの併用治療により、T細胞の応答を、TME(例えば固形腫瘍がん)の存在にも関わらず、TME中で強化する。上述のように、FAPは、腫瘍中のがん関連線維芽細胞上で上方制御され、したがって4-1BB(CD137)アゴニストのFAP特異性は、腫瘍に厳密に限定されたT細胞共刺激を提供する。
【0008】
本発明者らは、HLA-A2/MAGE-A4標的化T細胞活性化二重特異性抗体と4-1BB(CD137)アゴニストとの組み合わせが、HLA-A2/MAGE-A4標的化T細胞によって活性化された二重特異性抗体のみと比較して、MAGE-A4発現がんにおける活性の強化を導くことを発見した。
【0009】
ヒトがん細胞株を使用して、本発明者らは、驚くべきことに、FAP発現線維芽細胞の存在下でHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体により誘導された腫瘍細胞溶解が、4-1BBアゴニストFAP-4-1BBLの付加により、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体のみでは活性を示さなかった細胞株中で及び/又は用量においてさえ、強化されることを発見した。
【0010】
したがって、第1の態様では、本発明は、個体のがんの治療における使用のためのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体を提供し、この治療は、4-1BB(CD137)アゴニストとの組み合わせでのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体の投与を含む。
【0011】
さらなる態様では、本発明は、個体のがんの治療における使用のための4-1BB(CD137)アゴニストを提供し、この治療は、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体との組み合わせでの4-1BB(CD137)アゴニストの投与を含む。
【0012】
一態様において、本発明は、個体のがんの治療のための医薬の製造におけるHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体の使用を提供し、この治療は、4-1BB(CD137)アゴニストとの組み合わせでのHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体の投与を含む。
【0013】
さらなる態様では、本発明は、個体のがんの治療のための医薬の製造における4-1BB(CD137)アゴニストの使用を提供し、この治療は、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体との組み合わせでの4-1BB(CD137)アゴニストの投与を含む。
【0014】
またさらなる態様では、本発明は、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体及び4-1BB(CD137)アゴニストを個体に投与することを含む、個体のがんを治療するための方法を提供する。
【0015】
一態様において、本発明はまた、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体を含む第1の医薬及び4-1BB(CD137)アゴニストを含む第2の医薬を含み、任意選択的に、個体のがんを治療するための第2の医薬との組み合わせでの第1の医薬の投与のための説明を含む添付文書をさらに含むキットを提供する。
【0016】
上述の及び本明細書におけるHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、4-1BB(CD137)アゴニスト、方法、使用又はキットには、以下に記載される特徴のいずれかを、単独で又は組み合わせて組み込むことができる(文脈が別段の指示をしない限り)。
【0017】
本明細書のHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体は、CD3及びHLA-A2/MAGE-A4、特にHLA-A2/MAGE-A4p230-239に特異的に結合する二重特異性抗体である。本発明における使用のために特に有用なHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体は、例えば国際公開第2021/122875号に記載されている(参照によりその全体を本明細書に援用する)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
「二重特異性」という用語は、抗体が、少なくとも2つの別個の抗原決定基に特異的に結合することができることを意味する。典型的には、二重特異性抗体は2つの抗原結合部位を含み、それらの各々は異なる抗原決定基に特異性である。一部の態様では、二重特異性抗体は、2つの抗原決定基、
【0019】
特に2つの別個の細胞に発現される2つの抗原決定基に一緒に結合することができる。
【0020】
本明細書で使用される用語「抗原決定基」は、「抗原」及び「エピトープ」と同義であり、抗原結合部分が結合して抗原結合部分-抗原複合体を形成する、ポリペプチド巨大分子上の部位(例えば、アミノ酸の近接ストレッチ又は非近接アミノ酸の異なる領域から構成される立体構造)を指す。有用な抗原決定基は、例えば、腫瘍細胞の表面上に、ウイルス-感染細胞の表面上に、その他の病気の細胞の表面上に、免疫細胞の表面上に、血清中に遊離して、及び/又は細胞外マトリックス(ECM)中に、見出すことができる。
【0021】
本明細書で使用される用語「抗原結合部分」は、抗原決定基に特異的に結合するポリペプチド分子を指す。一態様において、抗原結合部分は、それが結合する部分(例えば第2の抗原結合部分)を、標的部位、例えば抗原決定基を持つ特定の種類の腫瘍細胞に向けることができる。別の態様では、抗原結合部分は、その標的抗原、例えばT細胞受容体複合抗原を通してシグナル伝達を活性化することができる。抗原結合部分は、本明細書にさらに定義される抗体及びその断片を含む。特定の抗原結合部分は、抗体重鎖可変領域と抗体軽鎖可変領域とを含む、抗体の抗原結合ドメインを含む。一部の態様では、抗原結合部分は、後述でさらに定義される、当技術分野で既知の抗体定常領域を含みうる。有用な重鎖定常領域には、5つのアイソタイプ:α、δ、ε、γ又はμのいずれかが含まれる。有用な軽鎖定常領域には、2つのアイソタイプ:κ及びλのいずれかが含まれる。
【0022】
「特異的に結合する」とは、その結合が抗原選択性であり、望ましくない相互作用又は非特異的な相互作用から区別することができることを意味する。特定の抗原決定基に対する抗原結合部分の結合能は、酵素結合免疫吸着法(ELISA)又は当業者によく知られた他の技術、例えば、表面プラズモン共鳴法(SPR)技術(BIAcore機器で分析)(Liljeblad et al.,Glyco J 17,323-329(2000)),and traditional binding assays(Heeley,Endocr Res 28,217-229(2002))により測定することができる。一態様において、無関係なタンパク質に対する抗原結合部分の結合の程度は、例えば、SPRによって測定した場合に、抗原に対する抗原結合部分の結合の約10%未満である。一部の態様では、抗原に結合する抗原結合部分、又は抗原結合部分を含む抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM(例えば10-8M以下、例えば10-8Mから10-13M、例えば10-9Mから10-13M)の解離定数(KD)を有する。
【0023】
「親和性」は、分子の単一の結合部位(例えば、受容体)とその結合パートナー(例えば、リガンド)との間の非共有的相互作用の合計の強度を指す。別途指示がない限り、本明細書で使用される「結合親和性」は、結合対(例えば、抗原結合部分と抗原、又は受容体とそのリガンド)のメンバー間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、概して、解離定数(KD)によって表すことができ、この定数は解離速度定数と会合速度定数(それぞれkoff及びkon)の比である。したがって、速度定数の比が同じである限り、同等の親和性は異なる速度定数を含みうる。親和性は、本明細書に記載されるものを含む、当技術分野で既知の十分に確立された方法によって測定することができる。親和性を測定するための特定の方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)である。
【0024】
「CD3」は、別途指示がない限り、霊長類(例えば、ヒト)、非ヒト霊長類(例えば、カニクイザル)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)などの哺乳動物を含む、任意の脊椎動物源由来の任意の天然CD3を指す。この用語は、「完全長」の、未処理のCD3、並びに細胞内でのプロセシングから生じる任意の形態のCD3を包含する。この用語は、CD3の天然に存在するバリアント、例えば、スプライスバリアント又は対立遺伝子バリアントも包含する。一態様において、CD3は、ヒトCD3、特にヒトCD3のエプシロンサブユニット(CD3ε)である。ヒトCD3εのアミノ酸配列は、UniProt(www.uniprot.org)のアクセッション番号P07766(登録バージョン217)、又はNCBI(www.ncbi.nlm.nih.gov/)RefSeq NP_000724.1に示されている。配列番号24も参照されたい。カニクイザル[Macaca fascicularis]CD3εのアミノ酸配列は、NCBI GenBank番号BAB71849.1に示されている。配列番号25も参照されたい。
【0025】
「MAGE-A4」は、がん精巣抗原(CTA)のMAGEファミリーのメンバーである「黒色腫関連抗原4」を表す。タンパク質のMAGE-Aファミリーは、Xq26-28にクラスター化され、保存されたドメイン(MAGEホモロジードメイン、MHD)の存在によって特徴づけられる12の高度に相同な遺伝子を包含する。ヒトMAGE-A4は、UniProt(www.uniprot.org)アクセッション番号 P43358(登録バージョン174)に記載されており、ヒトMAGE-A4のアミノ酸配列はまた、本明細書の配列番号21に示されている。本明細書で使用される「MAGE-A4」は、別途指示がない限り、霊長類(例えば、ヒト)、非ヒト霊長類(例えば、カニクイザル)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)などの哺乳動物を含む、任意の脊椎動物源由来の任意の天然MAGE-A4を指す。この用語は、「完全長」、未処理のMAGE-A4だけでなく、細胞内でのプロセシングから生じる任意の形態のMAGE-A4を包含する。この用語は、MAGE-A4の天然に存在するバリアント、例えば、スプライスバリアント又は対立遺伝子バリアントも包含する。一態様において、MAGE-A4は、ヒトMAGE-A4、特に配列番号21のタンパク質である。
【0026】
「MAGE-A4p230-239」又は「p230-239ペプチド」が意味するのは、アミノ酸配列GVYDGREHTV(配列番号22;配列番号21のMAGE-A4タンパク質の位置230-239)を有するペプチド由来のMAGE-A4である。
【0027】
「HLA-A2」、「HLA-A*02」、「HLA-A02」、又は「HLA-A*2」(交換可能に使用される)は、HLA-A血清型群におけるヒト白血球抗原血清型を指す。HLA-A2タンパク質(それぞれのHLA遺伝子によりコードされた)は、それぞれのクラスI MHC(主要組織適合複合体)タンパク質のα鎖を構成し、これはβ2ミクログロブリンサブユニットをさらに含む。特定のHLA-A2タンパク質は、HLA-A201(HLA-A0201、HLA-A02.01、又はHLA-A*02:01とも呼ばれる)である。特定の態様では、本明細書に記載されるHLA-A2タンパク質はHLA-A201である。ヒトHLA-A2の例示的な配列は、配列番号23で与えられる。
【0028】
「HLA-A2/MAGE-A4」は、HLA-A2分子と、MAGE-A4から得られるペプチド(本明細書では「MAGE-A4ペプチド」とも呼ぶ)、具体的にはp230-239ペプチド(「HLA-A2/MAGE-A4p230-239」)との複合体を指す。
【0029】
本明細書で使用される場合、Fab分子等に関する「第1」、「第2」又は「第3」という用語は、各タイプの部分が2つ以上存在するとき、区別を簡便にするために使用されている。これら用語の使用は、特に断らない限り、二重特異性抗体の特定の順序又は配向を付与することを意図していない。
【0030】
本明細書で使用される「価」という用語は、抗体中の特定数の抗原結合部位の存在を意味する。したがって、「抗原への一価結合」という用語は、抗体中の抗原に特異的な1つ(及び1つ以下)の抗原結合部位の存在を意味する。
【0031】
本明細書の用語「抗体」は、最も広い意味で用いられ、種々の抗体構造を包含し、限定しないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び所望の抗原結合活性を呈する限りにおいて抗体断片を含む。
【0032】
用語「完全長抗体」、「インタクトな抗体」及び「全抗体」は、本明細書中で交換可能に使用され、天然型抗体構造と実質的に類似の構造を有する抗体を指す。
【0033】
「抗体断片」は、インタクトな抗体が結合する抗原に結合し、インタクトな抗体の一部分を含むインタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例には、限定されないが、Fv、Fab、Fab‘、Fab’-SHは、F(ab’)2、ダイアボディ、直鎖状抗体、単鎖抗体分子(例えば、scFv)、及び単一ドメイン抗体が含まれる。一部の抗体断片の総説として、Hudson et al.,Nat Med 9,129-134(2003)を参照されたい。scFv断片の総説としては、例えば、Pluckthun,in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,Springer-Verlag,New York,pp.269-315(1994)を参照されたい。また、国際公開第93/16185号及び米国特許第5,571,894号及び同第5,587,458号を参照されたい。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、in vivo半減期が長くなったFab及びF(ab’)2断片の説明については、米国特許第5,869,046号を参照されたい。ダイアボディは、二価又は二重特異性でありうる2つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、EP404,097、国際公開第1993/01161号、Hudson et al.,Nat Med 9,129-134(2003);及びHollinger et al.,Proc Natl Acad Sci USA 90,6444-6448(1993)を参照されたい。トリアボディ及びテトラボディも、Hudson et al.,Nat Med 9,129-134(2003)に記載されている。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全部若しくは一部又は軽鎖可変ドメインの全部若しくは一部を含む抗体断片である。一部の態様では、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis,Inc.,Waltham,MA;例えば、米国特許第6,248,516B1号を参照のこと)。抗体断片は、本明細書に記載されるように、インタクトな抗体のタンパク質消化、及び組み換え宿主細胞(例えば、大腸菌又はファージ)による生成を含むがこれらに限定されない種々の技術により作製することができる。
【0034】
「可変領域」又は「可変ドメイン」という用語は、抗体の抗原への結合に関与する抗体の重鎖又は軽鎖のドメインを指す。天然の抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH及びVL)は、一般に、類似の構造を有し、各ドメインは、4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と、3つの超可変領域(HVR)とを含む。例えば、Kindt et al.,Kuby Immunology,6th ed.,W.H.Freeman and Co.,page 91(2007)を参照されたい。単一のVH又はVLドメインは、抗原結合特異性を付与するために十分でありうる。可変領域配列に関して本明細書で使用される「カバット番号付け」は、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)によって規定された番号付けシステムを指す。
【0035】
本明細書で使用される場合、重鎖及び軽鎖のすべての定常領域及びドメインのアミノ酸位置は、本明細書では、「カバットによる番号付け」又は「カバット番号付け」と呼ばれる、Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)に記載されるカバット番号付けシステムに従って番号付けされる。具体的には、カバット番号付けシステム(Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)の647-660頁参照)がカッパ及びラムダアイソタイプの軽鎖定常ドメインCLに使用され、カバットEUインデックス番号付けシステム(661-723頁参照)が、重鎖定常ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2及びCH3)に使用され、これは「カバットEUインデックスによる番号付け」と呼ぶことによってさらに明示される。
【0036】
本明細書で使用される用語「超可変領域」又は「HVR」は、配列内で超可変であり、抗原結合特異性を決定する抗体可変ドメインの領域、例えば「相補性決定領域」(CDR)の各々を指す。通常、抗体は、6つのCDR;VHに3つ(HCDR1、HCDR2、HCDR3)、及びVLに3つ(LCDR1、LCDR2、LCDR3)を含む。本明細書の例示的なCDRには、以下が含まれる:
(a)アミノ酸残基26-32(L1)、50-52(L2)、91-96(L3)、26-32(H1)、53-55(H2)、及び96-101(H3)に生じる超可変ループ(Chothia and Lesk、J.Mol.Biol.196:901-917(1987));
(b)アミノ酸残基24-34(L1)、50-56(L2)、89-97(L3)、31-35b(H1)、50-65(H2)、及び95-102(H3)に生じるCDR(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991));並びに
(c)アミノ酸残基27c-36(L1)、46-55(L2)、89-96(L3)、30-35b(H1)、47-58(H2)、及び93-101(H3)に生じる抗原接触(MacCallum et al.J.Mol.Biol.262:732-745(1996))。
【0037】
別途指示がない限り、CDRは、上掲のKabat et al.に従って決定される。当業者であれば、CDRの表記は、上掲のChothia、上掲のMcCallum、又は他の任意の科学的に認められた命名システムに従って決定することもできることを理解するであろう。
【0038】
「フレームワーク」又は「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、通常、FR1、FR2、FR3、及びFR4からなる。したがって、HVR配列及びFR配列は、通常VH(又はVL)中で以下の順序で現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0039】
抗体又は免疫グロブリンの「クラス」は、その重鎖が保有する定常ドメイン又は定常領域の種類を指す。抗体には5つの主要なクラス、即ち:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2にさらに分けられる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。
【0040】
「Fab分子」は、免疫グロブリンの重鎖(「Fab重鎖」)のVHドメイン及びCH1ドメインと、免疫グロブリンの軽鎖(「Fab軽鎖」)のVLドメイン及びCLドメインとからなるタンパク質を指す。
【0041】
「クロスオーバー」Fab分子(「Crossfab」とも呼ばれる)は、Fab重鎖と軽鎖の可変ドメイン又は定常ドメインが交換された(即ち、互いにより置き換えられた)Fab分子を意味し、即ち、クロスオーバーFab分子は、軽鎖可変ドメインVL及び重鎖定常ドメイン1 CH1(VL-CH1、N末端からC末端方向に)で構成されるペプチド鎖と、重鎖可変ドメインVH及び軽鎖定常ドメインCL(VH-CL、N末端からC末端方向に)で構成されるペプチド鎖とを含む。明確性のために、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子では、重鎖定常ドメイン1 CH1を含むペプチド鎖は、本明細書では(クロスオーバー)Fab分子の「重鎖」と呼ばれる。逆に、Fab軽鎖とFab重鎖の定常ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子では、重鎖可変ドメインVHを含むペプチド鎖は、本明細書では(クロスオーバー)Fab分子の「重鎖」と呼ばれる。
【0042】
それと対照的に、「一般的な」Fab分子は、その天然形式の、即ち重鎖可変ドメイン及び定常ドメイン(VH-CH1、N末端からC末端の方向に)から構成される重鎖と、軽鎖可変ドメイン及び定常ドメイン(VL-CL、N末端からC末端の方向に)を含む軽鎖とを含むFab分子である。
【0043】
「免疫グロブリン分子」という用語は、天然に存在する抗体の構造を有するタンパク質を指す。例えば、IgGクラスの免疫グロブリンは、ジスルフィド結合している2つの軽鎖及び2つの重鎖から構成される約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端まで、各重鎖は可変重鎖ドメイン又は重鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VH)を有し、それに続いて重鎖定常領域とも呼ばれる3つの定常ドメイン(CH1、CH2、及びCH3)を有する。同様に、N末端からC末端まで、各軽鎖は可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VL)を有し、それに続いて軽鎖定常領域とも呼ばれる定常軽鎖(CL)ドメインを有する。免疫グロブリンの重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)又はμ(IgM)と呼ばれる5種類のうちの1つに割り当てられ、このうちのいくつかは、例えばγ1(IgG1)、γ2(IgG2)、γ3(IgG3)、γ4(IgG4)、α1(IgA1)及びα2(IgA2)などのサブタイプにさらに分けられる。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2種類のうちの1つに割り当てることができる。免疫グロブリンは、本質的に、免疫グロブリンヒンジ領域を介して連結される2つのFab分子と1つのFcドメインからなる。
【0044】
「Fcドメイン」又は「Fc領域」という用語は、本明細書では、定常領域の少なくとも一部分を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域を規定するために使用される。この用語は、天然配列Fc領域と変異Fc領域とを含む。IgG重鎖のFc領域の境界は、わずかに変動してもよいが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常、Cys226から、又はPro230から、重鎖のカルボキシ末端まで延びると定義される。しかしながら、宿主細胞によって生成された抗体は、重鎖のC末端から1つ又は複数、特に1つ又は2つのアミノ酸の翻訳後切断を受けることがある。したがって、完全長重鎖をコードする特定の核酸分子の発現により宿主細胞によって生成された抗体は、完全長重鎖を含んでいても、完全長重鎖の切断されたバリアントを含んでいてもよい。これは、重鎖の最後の2つのC末端アミノ酸がグリシン(G446)とリジン(K447、カバットEUインデックスによる番号付け)である場合に当てはまりうる。したがって、Fc領域のC末端リジン(Lys447)又はC末端グリシン(Gly446)及びリジン(Lys447)は、存在してもしなくてもよい。本明細書に別途明記されていない限り、Fc領域又は定常領域内のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD、1991に記載されるように、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムに従う(上記も参照のこと)。本明細書において使用されるFcドメインの「サブユニット」は、二量体Fcドメインを形成する2つのポリペプチドの一方、即ち、免疫グロブリン重鎖のC末端定常領域を含み、安定な自己会合能を有するポリペプチドを指す。例えば、IgG Fcドメインのサブユニットは、IgG CH2及びIgG CH3定常ドメインを含む。
【0045】
「Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットとの会合を促進する修飾」は、Fcドメインサブユニットを含むポリペプチドと同一のポリペプチドとの会合によるホモダイマーの形成を低減又は防止する、ペプチド骨格の操作又はFcドメインサブユニットの翻訳後修飾である。本明細書で使用される会合を促進する修飾は、会合することが望ましい2つのFcドメインサブユニットの各々(即ちFcドメインの第1及び第2のサブユニット)に対して行われる別々の修飾を特に含み、この修飾は2つのFcドメインサブユニットの会合を促進するために互いに対して相補的である。例えば、会合を促進する修飾は、Fcドメインサブユニットの一方又は両方の構造又は電荷を変化させて、それらの会合をそれぞれ立体的又は静電的に有利にすることができる。したがって、(ヘテロ)二量体化は、第1のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドと第2のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドとの間に起こり、これらは、サブユニットの各々に融合しているさらなる成分(例えば抗原結合部分)が同じでないという意味で同一ではない場合がある。いくつかの態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメイン内のアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。特定の態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメインの2つのサブユニットの各々に、別々のアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。
【0046】
「エフェクター機能」という用語は、抗体のアイソタイプによって異なる、抗体のFc領域に起因する生物活性を指す。抗体エフェクター機能の例には:C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);抗体依存性細胞貪食(ADCP);サイトカイン分泌;抗原提示細胞による免疫複合体媒介性抗原取り込み;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御;及びB細胞の活性化が含まれる。
【0047】
参照ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならば間隙を導入した後、いかなる保存的置換も配列同一性の一部と考慮しない場合の、参照ポリペプチド配列のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するためのアライメントは、当分野の技術範囲内にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST-2、Clustal W、Megalign(DNASTAR)ソフトウェア又はFASTAプログラムパッケージ等の公的に入受可能なコンピュータソフトウェアを使用して達成することができる。当業者であれば、比較される配列の完全長に対して最大の整列を達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列を整列させるための適切なパラメータを決定することができる。しかしながら、ここでの目的のために、%アミノ酸配列同一性の値は、FASTAパッケージバージョン36.3.8cのggsearchプログラムを使用して又はその後BLOSUM50比較行列を用いて生成される。FASTAプログラムパッケージは、W.R.Pearson and D.J.Lipman(1988),“Improved Tools for Biological Sequence Analysis”,PNAS 85:24442448;W.R.Pearson(1996)“Effective protein sequence comparison” Meth.Enzymol.266:227-258;and Pearson et.al.(1997)Genomics 46:2436により作製されたものであり、http://fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/fasta_down.shtml.から公的に入手可能である。代替的に、http://fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/index.cgiからアクセスできるパブリックサーバーを使用し、ggsearch(globalprotein:protein)プログラム及びデフォルトオプション(BLOSUM50;open:-10;ext:-2;Ktup=2)を使用して、ローカルではなくグローバルアライメントを実行することで、これら配列を比較することができる。パーセントアミノ酸同一性は、出力アラインメントヘッダ中に与えられる。
【0048】
「活性化Fc受容体」は、抗体のFcドメインによる係合に続いて、受容体が担持する細胞を刺激してエフェクター機能を実行するシグナル伝達事象を誘発するFc受容体である。ヒト活性化Fc受容体には、FcγRIIIa(CD16a)、FcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)及びFcαRI(CD89)が含まれる。
【0049】
「結合の低減」、例えばFc受容体への結合の減少は、例えばSPRによって測定される、それぞれの相互作用に対する親和性の減少を指す。明確性のために、この用語は、親和性がゼロ(又は分析方法の検出限界を下回る)まで低減すること、即ち、相互作用の完全な消失も含む。逆に、「結合の増加」は、それぞれの相互作用に対する結合親和性の増加を指す。
【0050】
「融合している」とは、成分(例えばFab分子及びFcドメインサブユニット)がペプチド結合によって、直接又は1つ若しくは複数のペプチドリンカーを介して連結されることを意味する。
【0051】
HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体は、CD3に特異的に結合する第1の抗原結合部分と、HLA-A2/MAGE-A4、特にHLA-A2/MAGE-A4p230-239に特異的に結合する第2の抗原結合部分とを含む。
【0052】
一態様において、第1の抗原結合部分は、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0053】
一態様において、第2の抗原結合部分は、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2、及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0054】
特定の態様では、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体は、
(i)CD3に特異的に結合する第1の抗原結合部分であって、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域を含む第1の抗原結合部分と;
(ii)HLA-A2/MAGE-A4に特異的に結合する第2の抗原結合部分であって、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域を含む第2の抗原結合部分と
を含む。
【0055】
一態様において、第1の抗原結合部分は、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。
【0056】
一態様において、第1の抗原結合部分は、配列番号7の重鎖可変領域配列と、配列番号8の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0057】
一態様において、第2の抗原結合部分は、配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。
【0058】
一態様において、第2の抗原結合部分は、配列番号15の重鎖可変領域配列と、配列番号16の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0059】
いくつかの態様では、第1及び/又は第2の抗原結合部分はFab分子である。いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、Fab軽鎖とFab重鎖の可変領域又は定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である。そのような態様では、第2の抗原結合部分は、好ましくは従来のFab分子である。
【0060】
二重特異性抗体の第1及び第2の抗原結合部分が両方ともFab分子であり、抗原結合部分の1つ(特に、第1の抗原結合部分)において、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVL及びVHが互いにより置き換えられているいくつかの態様では、
i)第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸が正に帯電したアミノ酸により置換されており(カバットによる番号付け)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸又は213位のアミノ酸が負に帯電したアミノ酸により置換されているか(カバットEUインデックスによる番号付け);或いは
ii)第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸が正に帯電したアミノ酸により置換されており(カバットによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸又は213位のアミノ酸が負に帯電したアミノ酸により置換されている(カバットEUインデックスによる番号付け)。
【0061】
二重特異性抗体は、i)及びii)に記述されている修飾を両方とも含むことはない。VH/VL交換を有する抗原結合部分の定常ドメインCLとCH1とは、互いによって置き換えられない(即ち交換されないままである)。
【0062】
さらに具体的な態様では、
i)第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)により独立して置換されており(カバットによる番号付け)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸又は213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)により独立して置換されているか(カバットEUインデックスによる番号付け);或いは
ii)第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)により独立して置換されており(カバットによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸又は213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)により独立して置換されている(カバットEUインデックスによる番号付け)。
【0063】
そのような一態様では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)により独立して置換されており(カバットによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸又は213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)により独立して置換されている(カバットEUインデックスによる番号付け)。
【0064】
さらなる態様では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)により独立して置換されており(カバットによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)により独立して置換されている(カバットEUインデックスによる番号付け)。
【0065】
好ましい態様では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)により独立して置換されており(カバットによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)により独立して置換されており(カバットによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)により独立して置換されており(カバットEUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)により独立して置換されている(カバットEUインデックスによる番号付け)。
【0066】
一態様において、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸がリジン(K)により置換されており(カバットによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)により置換されており(カバットによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されており(カバットEUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されている(カバットEUインデックスによる番号付け)。
【0067】
一態様において、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸がリジン(K)により置換されており(カバットによる番号付け)、123位のアミノ酸がアルギニン(R)により置換されており(カバットによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されており(カバットEUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されている(カバットEUインデックスによる番号付け)。
【0068】
特定の態様では、上記態様によるアミノ酸置換が第2の抗原結合部分の定常ドメインCL及び定常ドメインCH1において行われる場合、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLはカッパアイソタイプである。
【0069】
いくつかの態様では、第1の抗原結合部分と第2の抗原結合部分が、任意選択的にペプチドリンカーを介して、互いに融合している。
【0070】
いくつかの態様では、第1及び第2の抗原結合部分の各々はFab分子であり、(i)第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しているか、又は(ii)第1の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合している。
【0071】
いくつかの態様では、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体は、CD3への一価の結合を提供する。
【0072】
特定の態様では、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体は、CD3に特異的に結合する単一の抗原結合部分と、HLA-A2/MAGE-A4に特異的に結合する2つの抗原結合部分とを含む。よって、いくつかの態様では、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体は、HLA-A2/MAGE-A4に特異的に結合する第3の抗原結合部分、特にFab分子、具体的には従来のFab分子を含む。第3の抗原結合部分には、第2の抗原結合部分に関して上に記載される特徴のすべて(例えば、CDR配列、可変領域配列、及び/又は定常領域内のアミノ酸置換)を、単独で又は組み合わせて組み込むことができる。いくつかの態様では、第3の抗原部分は第1の抗原結合部分と同一である(例えば、従来のFab分子でもあり、同じアミノ酸配列を含む)。
【0073】
特定の態様では、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体は、第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインをさらに含む。一態様において、Fcドメインは、IgG Fcドメインである。特定の形態では、Fcドメインは、IgG1のFcドメインである。別の形態では、Fcドメインは、IgG4のFcドメインである。より具体的な態様では、Fcドメインは、位置S228にアミノ酸置換、特にアミノ酸置換S228Pを含むIgG4 Fcドメインである(カバットEUインデックス番号付け)。このアミノ酸置換は、IgG4抗体のin vivoでのFabアーム交換を低減する(Stubenrauch et al.,Drug Metabolism and Disposition 38,84-91(2010)を参照)。さらに詳細な態様では、Fcドメインは、ヒトFcドメインである。特定の好ましい態様では、Fcドメインは、ヒトIgG1 Fcドメインである。ヒトIgG1 Fc領域の例示的配列は、配列番号26に提示されている。
【0074】
第1、第2、及び存在する場合は第3の抗原結合部分の各々がFab分子であるいくつかの態様では、(a)(i)第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合ししており、かつ第1の抗原結合部分がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しているか、又は(ii)第1の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、かつ第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており;(b)存在する場合は、第3の抗原結合部分がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している。
【0075】
特定の態様では、Fcドメインは、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットとの会合を促進する修飾を含む。ヒトIgG Fcドメインの2つのサブユニット間のタンパク質間相互作用が最も広範囲に及ぶ部位は、CH3ドメインにある。したがって、一態様において、前記修飾は、FcドメインのCH3ドメインにある。
【0076】
具体的な態様では、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾は、いわゆる「ノブ・イントゥ・ホール」修飾であり、Fcドメインの2つのサブユニットの一方に「ノブ」修飾を、Fcドメインの2つのサブユニットの他方に「ホール」修飾を含む。ノブ・イントゥ・ホール技術は、例えば、米国特許第5,731,168号、米国特許第7,695,936号、Ridgway et al.,Prot Eng 9,617-621(1996)and Carter,J Immunol Meth 248,7-15(2001)に記載されている。一般に、この方法は、隆起が空洞内に位置することによりヘテロ二量体形成を促進してホモ二量体形成を妨害することができるように、第1のポリペプチドの接触面にある隆起(「ノブ」)と、第2のポリペプチドの接触面にある対応する空洞(「ホール」)とを導入することを含む。隆起は、第1のポリペプチドの接触面からの小さなアミノ酸側鎖をそれよりも大きな側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)で置き換えることによって構築される。隆起と同じ又は類似のサイズの相補的空洞は、大きなアミノ酸側鎖をそれよりも小さなアミノ酸側鎖(例えばアラニン又はスレオニン)で置き換えることによって、第2のポリペプチドの接触面に作り出される。
【0077】
したがって、いくつかの態様では、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸残基が、より大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第1のサブユニットのCH3ドメイン内部に、第2のサブユニットのCH3ドメイン内部の空洞内に配置可能な隆起が生成されており、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸残基が、より小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第2のサブユニットのCH3ドメイン内部に、第1のサブユニットのCH3ドメイン内部の隆起を配置可能な空洞が生成されている。好ましくは、より大きな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、及びトリプトファン(W)からなる群から選択される。好ましくは、より小さな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T)、及びバリン(V)からなる群から選択される。隆起及び空洞は、ポリペプチドをコードする核酸を、例えば部位特異的突然変異誘発により、又はペプチド合成により変化させることにより、作製することができる。
【0078】
このような特定の態様では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいて、366位のスレオニン残基がトリプトファン残基で置き換えられており(T366W)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、407位のチロシン残基がバリン残基で置き換えられており(Y407V)、任意選択的に366位のスレオニン残基がセリン残基で置き換えられており(T366S)、368位のロイシン残基がアラニン残基で置き換えられている(L368A)(カバットEUインデックスによる番号付け)。さらなる態様では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいて、追加的に354位のセリン残基がシステイン残基で置き換えられている(S354C)か又は356位のグルタミン酸残基がシステイン残基で置き換えられており(E356C)(特に、354位のセリン残基がシステイン残基で置き換えられており)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、追加的に349位のチロシン残基がシステイン残基により置き換えられている(Y349C)(カバットEUインデックスによる番号付け)。好ましい態様では、Fcドメインの第1のサブユニットは、アミノ酸置換S354C及びT366Wを含み、Fcドメインの第2のサブユニットは、アミノ酸置換Y349C、T366S、L368A及びY407Vを含む(カバットEUインデックスによる番号付け)。
【0079】
いくつかの態様では、Fcドメインは、Fc受容体への結合を低減する及び/又はエフェクター機能を低下させる1つ又は複数のアミノ酸置換を含む。
【0080】
特定の態様では、Fc受容体は、Fcγ受容体である。一態様において、Fc受容体は、ヒトFc受容体である。一態様において、Fc受容体は、活性化Fc受容体である。具体的な態様では、Fc受容体は、活性化ヒトFcγ受容体であり、さらに具体的にはヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIa、最も具体的にはヒトFcγRIIIaである。一態様において、エフェクター機能は、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、及びサイトカイン分泌の群から選択される1つ又は複数である。特定の態様では、エフェクター機能は、ADCCである。
【0081】
典型的には、同じ1つ又は複数のアミノ酸置換が、Fcドメインの2つのサブユニットの各々に存在する。一態様において、1つ又は複数のアミノ酸置換は、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を低減する。一態様において、1つ又は複数のアミノ酸置換は、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を、少なくとも2分の1、少なくとも5分の1又は少なくとも10分の1に低減する。
【0082】
一態様において、Fcドメインは、E233、L234、L235、N297、P331及びP329の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む(カバットEUインデックスによる番号付け)。より具体的な態様では、Fcドメインは、L234、L235及びP329の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む(カバットEUインデックスによる番号付け)。いくつかの態様において、Fcドメインは、アミノ酸置換L234A及びL235Aを含む(カバットEUインデックスによる番号付け)。1つのこのような態様において、Fcドメインは、IgG1 Fcドメイン、特にヒトIgG1 Fcドメインである。一態様において、Fcドメインは、P329位にアミノ酸置換を含む。より具体的な態様において、アミノ酸置換は、P329A又はP329G、特にP329Gである(カバットEUインデックスによる番号付け)。一態様において、Fcドメインは、P329位にアミノ酸置換を含み、E233、L234、L235、N297及びP331から選択される位置にさらなるアミノ酸置換を含む(カバットEUインデックスによる番号付け)。より具体的な態様では、さらなるアミノ酸置換は、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297D又はP331Sである。特定の態様では、Fcドメインは、P329位、L234位及びL235位にアミノ酸置換を含む(カバットEUインデックスによる番号付け)。より具体的な態様では、Fcドメインは、アミノ酸変異L234A、L235A及びP329G(「P329G LALA」、「PGLALA」又は「LALAPG」)を含む。具体的には、好ましい態様では、Fcドメインの各サブユニットは、アミノ酸置換L234A、L235A及びP329Gを含み(カバットEUインデックス番号付け)、即ち、Fcドメインの第1のサブユニット及び第2のサブユニットの各々において、234位のロイシン残基がアラニン残基で置き換えられており(L234A)、235位のロイシン残基がアラニン残基で置き換えられており(L235A)、329位のプロリン残基がグリシン残基で置き換えられている(P329G)(カバットEUインデックスによる番号付け)。1つのこのような態様では、Fcドメインは、IgG1 Fcドメイン、特にヒトIgG1 Fcドメインである。
【0083】
好ましい態様では、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体は、
(i)CD3に特異的に結合する第1の抗原結合部分であって、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域を含み、Fab軽鎖とFab重鎖の可変領域又は定常領域、特に可変領域が交換されている第1の抗原結合部分と;
(ii)HLA-A2/MAGE-A4に特異的に結合する第2及び第3の抗原結合部分であって、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域を含み、第2及び第3の抗原結合部分の各々がFab分子、特に従来のFab分子である、第2及び第3の抗原結合部分と;
(iii)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインであって、
第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合しており、第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している、Fcドメインと
を含む。
【0084】
一態様において、第1の抗原結合部分は、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。
【0085】
一態様において、第1の抗原結合部分は、配列番号7の重鎖可変領域配列と、配列番号8の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0086】
一態様において、第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。
【0087】
一態様において、第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号15の重鎖可変領域と、配列番号16の軽鎖可変領域とを含む。
【0088】
上記態様によるFcドメインは、単独で又は組み合わせで、Fcドメインに関連して上述した特徴のすべてを含みうる。
【0089】
一態様において、抗原結合部分及びFc領域は、ペプチドリンカー、特に、配列番号18及び配列番号20にあるペプチドリンカーによって互いに融合している。
【0090】
一態様において、(ii)の第2及び第3のFab分子の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)により置換されており(カバットによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)又はアルギニン(R)により、特にアルギニン(R)により置換されており(カバットによる番号付け)、(ii)の第2及び第3のFab分子の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されており(カバットEUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されている(カバットEUインデックスによる番号付け)。
【0091】
一態様において、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体は、配列番17の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である配列を含むポリペプチド(特に2つのポリペプチド)と、配列番号18の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である配列を含むポリペプチドと、配列番号19の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である配列を含むポリペプチドと、配列番号20の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である配列を含むポリペプチドとを含む。
【0092】
一態様において、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体は、配列番号17の配列を含むポリペプチド(特に2つのポリペプチド)と、配列番号18の配列を含むポリペプチドと、配列番号19の配列を含むポリペプチドと、配列番号20の配列を含むポリペプチドとを含む。
【0093】
本明細書のHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体は、4-1BB(CD137)アゴニストと組み合わせて使用される。
【0094】
別途指示がない限り、本明細書で使用される用語「4-1BB」又は「CD137」は、霊長類(例えばヒト)及びげっ歯類(例えば、マウス、ラット)などの哺乳動物を含むあらゆる脊椎動物源由来のいずれかの天然型4-1BBを指す。この用語は、「完全長」の、未処理の4-1BBだけでなく、細胞内でのプロセシングから生じる任意の形態の4-1BBを包含する。この用語は、4-1BBの天然に存在するバリアント、例えば、スプライスバリアント又は対立遺伝子バリアントも包含する。ヒト4-1BBのアミノ酸配列は、UniProtアクセッション番号Q07011(登録バージョン185)に示されている。
【0095】
「4-1BBL」又は「4-1BBリガンド」又は「CD137L」は、T細胞の増殖とサイトカイン生成とを同時刺激することのできる同時刺激性TNFリガンドのファミリーメンバーである。同時刺激性TNFファミリーリガンドは、対応するTNF受容体と相互作用すると、TCRシグナルを同時刺激することができ、その受容体との相互作用はTNFR関連因子(TRAF)の動員をもたらし、それによりシグナル伝達カスケードが開始されてT細胞活性化を招く。4-1BBLは、II型膜貫通タンパク質である。UniProtアクセッション番号P41273(登録バージョン153)に示されるアミノ酸配列を有する完全又は完全長4-1BBLは、細胞の表面上に三量体を形成することが記載されている。三量体の形成は、4-1BBLの外部ドメインの特定のモチーフにより可能になる。前記モチーフは、本明細書では「三量体化領域」と命名される。ヒト4-1BBL配列(配列番号27)のアミノ酸50~254は、4-1BBLの外部ドメインを形成するが、その断片でさえも三量体を形成することができる。
【0096】
「外部ドメイン」は、細胞外空間(即ち細胞の外側の空間)中に延びる膜タンパク質のドメインであり、「細胞外ドメイン」とも呼ばれる。本明細書に定義される4-1BBLの外部ドメインは、細胞外空間(細胞外ドメイン)中に延びる4-1BBLタンパク質、特にヒト4-1BBLタンパク質(UniProtアクセッション番号P41273(登録バージョン153))の一部を指すだけでなく、三量体化及び対応する受容体4-1BBへの結合を担うそれよりも短い部分又は断片も含む。
【0097】
したがって、用語「4-1BBLの外部ドメイン又はその断片」は、4-1BBLの細胞外ドメイン、又は4-1BBに結合することができ、かつ三量体化能を有するその一部を指す。本発明の特定の態様では、用語「4-1BBLの外部ドメイン又はその断片」は、配列番号31(ヒト4-1BBLのアミノ酸52-254)、配列番号28(ヒト4-1BBLのアミノ酸71-254)、配列番号30(ヒト4-1BBLのアミノ酸80-254)、配列番号29(ヒト4-1BBLのアミノ酸85-254)、配列番号32(ヒト4-1BBLのアミノ酸71-248)、配列番号33(ヒト4-1BBLのアミノ酸85-248)、配列番号34(ヒト4-1BBLのアミノ酸80-248)及び配列番号35(ヒト4-1BBLのアミノ酸52-248)から選択されるアミノ酸を有するポリペプチドを指す。
【0098】
本明細書で使用される「抗原結合分子」という用語は、その最も広い意味において、抗原決定基に特異的に結合する分子を指す。抗原結合分子の例は、抗体、抗体断片及び骨格抗原結合タンパク質である。
【0099】
プロリルエンドペプチダーゼFAP又はセプラーゼ(EC3.4.21)としても知られる「線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)」は、別途指示がない限り、霊長類(例えばヒト)、非ヒト霊長類(例えばカニクイザル)及びげっ歯類(例えばマウス及びラット)などの哺乳動物を含むあらゆる脊椎動物源由来のあらゆるネイティブFAPを指す。この用語は、「完全長」の、未処理のFAPだけでなく、細胞内でのプロセシングから生じた任意の形態のFAPを包含する。この用語は、FAPの天然に存在するバリアント、例えば、スプライスバリアント又は対立遺伝子バリアントも包含する。ヒトFAPのアミノ酸配列は、UniProt(www.uniprot.org)アクセッション番号Q12884(登録バージョン197)に示されている。ヒトFAPの細胞外ドメイン(ECD)は、アミノ酸の位置26から760まで延びる。本明細書で使用されるFAPに結合する抗原結合部分は、好ましくはFAPの細胞外ドメインに結合する。例示的抗FAP結合分子は、例えば国際公開第2012/020006号に記載されている。
【0100】
本発明における使用のために特に有用な4-1BB(CD137)アゴニストは、例えば国際公開第2016/075278号又は同第2016/156291号(参照によりこれらの全体を本明細書に援用する)に記載されている。
【0101】
一態様において、4-1BB(CD137)アゴニストは、4-1BBL(特にヒト4-1BBL)又はその断片、特に4-1BBLの外部ドメイン又はその断片を含む。一態様において、4-1BB(CD137)アゴニストは、4-1BBLの3つの外部ドメイン又はそれらの断片(即ち4-1BBLの第1、第2及び第3の外部ドメイン又はそれらの断片)を含む。一態様において、4-1BBLの外部ドメイン又はその片断は、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34及び配列番号35からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。一態様において、4-1BBLの外部ドメイン又はその断片は、配列番号32のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。一態様において、4-1BBLの外部ドメイン又はその断片は、配列番号32のアミノ酸配列を含む。一態様において、4-1BBLの外部ドメイン又はその断片は、配列番号32のアミノ酸配列からなる。
【0102】
特定の態様では、4-1BB(CD137)アゴニストは、4-1BBLの3つの外部ドメイン又はそれらの断片を含む分子であり、4-1BBLの外部ドメイン又はその断片は、配列番号32のアミノ酸配列を含む(又は同配列からなる)。
【0103】
一態様において、4-1BB(CD137)アゴニストは、4-1BBLの3つの外部ドメイン又はそれらの断片(即ち4-1BBLの第1、第2及び第3の外部ドメイン又はそれらの断片)を含み、4-1BBLの第1の外部ドメイン又はその断片と4-1BBLの第2の外部ドメイン又はその断片とは、任意選択的にペプチドリンカーを介して、互いに融合しており(即ち4-1BBLの第1及び第2の外部ドメイン又はそれらの断片は同じポリペプチド上にある)、4-1BBLの第3の外部ドメイン又はその断片は、4-1BBLの第1又は第2の外部ドメイン又はその断片に融合していない(即ち4-1BBLの第3の外部ドメイン又はその断片は、4-1BBLの第1及び第2の外部ドメイン又はそれらの断片とは別々のポリペプチド上にある)。
【0104】
一態様において、4-1BB(CD137)アゴニストは、4-1BBLの第1及び第2の外部ドメイン又はそれらの断片を含む第1のポリペプチドと、4-1BBLの第3の外部ドメイン又はその断片を含む第2のポリペプチドとを含む分子である。一態様において、4-1BBLの第1及び第2の外部ドメイン又はそれらの断片は、ペプチドリンカー、特に(G4S)2ペプチドリンカーを介して融合している。一態様において、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとは、ジスルフィド結合により結合している。一態様において、第1のポリペプチドは、配列番号44のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。一態様において、第1のポリペプチドは、配列番号44のアミノ酸配列を含む。一態様において、第2のポリペプチドは、配列番号32のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。一態様において、第2のポリペプチドは、配列番号32のアミノ酸配列を含む。
【0105】
さらなる態様では、4-1BB(CD137)アゴニストは、腫瘍関連抗原、特に腫瘍間質抗原(即ち腫瘍間質関連抗原)、さらに詳細には腫瘍線維芽細胞抗原(即ちがん関連線維芽細胞上に発現される抗原)に特異的に結合する抗原結合部分を含む。
【0106】
好ましい態様では、抗原結合部分は、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、特にヒトFAPに特異的に結合する。
【0107】
一態様において、抗原結合部分は、Fab分子、特に従来のFab分子である。
【0108】
したがって、特定の態様では、4-1BB(CD137)アゴニストは、4-1BBLの3つの外部ドメイン又はそれらの断片と、腫瘍関連抗原に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合部分、特にFAPに特異的に結合する抗原結合部分とを含む抗原結合分子である。
【0109】
一態様において、FAPに特異的に結合する抗原結合部分は、配列番号36の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号37のHCDR2、及び配列番号38のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号39の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号40のLCDR2、及び配列番号41のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0110】
一態様において、FAPに特異的に結合する抗原結合部分は、配列番号42のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号43のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。
【0111】
一態様において、FAPに特異的に結合する抗原結合部分は、配列番号42の重鎖可変領域配列と、配列番号43の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0112】
さらなる態様では、4-1BB(CD137)アゴニストは、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインを含む。
【0113】
4-1BB(CD137)アゴニストに含まれるFcドメインには、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体に含まれるFcドメインに関連して本明細書で上述した特徴のすべてを、単独で又は組み合わせで、組み込むことができる。
【0114】
特に、一態様において、4-1BB(CD137)アゴニストに含まれるFcドメインは、IgG Fcドメインである。特定の形態では、Fcドメインは、IgG1のFcドメインである。さらなる好ましい態様では、Fcドメインは、ヒトFcドメインである。特定の好ましい態様では、Fcドメインは、ヒトIgG1 Fcドメインである。
【0115】
特定の態様では、Fcドメインは、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体に関連して本明細書で上述した、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットとの会合を促進する修飾(例えば「ノブ・イントゥー・ホール」修飾)を含む。
【0116】
さらに詳細な態様では、Fcドメインは、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体に関連して本明細書で上述した、Fc受容体への結合を低減する及び/又はエフェクター機能を低下させる1つ又は複数のアミノ酸置換(例えば「P329G LALA」,「PGLALA」又は「LALAPG」アミノ酸置換)を含む。
【0117】
特に好ましい態様では、4-1BB(CD137)アゴニストに含まれるFcドメインは、ヒトIgG1 Fcドメインであり、Fcドメインの各サブユニットは、アミノ酸置換L234A、L235A及びP329G(カバットEUインデックス番号付け)を含む。
【0118】
一態様において、4-1BBL(CD137)アゴニストは、
(i)4-1BBLの3つの外部ドメイン又はそれらの断片;
(ii)FAPに特異的に結合する抗原結合部分であって、特にFab分子である抗原結合部分;及び
(iii)第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインであって、特にFcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットとの会合を促進する修飾並びに/又はFc受容体への結合を低減する及び/若しくはエフェクター機能を低下させる1つ又は複数のアミノ酸置換を含むFcドメイン
を含む抗原結合分子である。
【0119】
特定の態様では、4-1BBL(CD137)アゴニストは、
(i)4-1BBLの第1、第2及び第3の外部ドメイン又はそれらの断片;
(ii)FAPに特異的に結合する抗原結合部分であって、Fab分子である抗原結合部分;
(iii)第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインであって、特にFcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットとの会合を促進する修飾並びに/又はFc受容体への結合を低減する及び/若しくはエフェクター機能を低下させる1つ又は複数のアミノ酸置換を含むFcドメイン;
(iv)CLドメイン及びCH1ドメイン
を含む抗原結合分子であり、
この抗原結合分子は、
(a)(a1)そのC末端において4-1BBLの第1の外部ドメイン又はその断片のN末端に融合している、4-1BBLの第1の外部ドメイン又はその断片、(a2)そのC末端においてCLドメインのN末端に融合している、4-1BBLの第2の外部ドメイン又はその断片、(a3)そのC末端においてFcドメインのサブユニットのうちの一方(例えば第1のサブユニット)のN末端に融合しているCLドメイン、及び(a4)Fcドメインのサブユニットのうちの一方(例えば第1のサブユニット)を含む第1のポリペプチドと;
(b)(b1)そのC末端においてCH1ドメインのN末端に融合している4-1BBLの第3の外部ドメイン又はその断片、及び(b2)CH1ドメインを含む第2のポリペプチドと;
(c)(c1)そのC末端においてFcドメインのサブユニットのうちの他方(例えば第2のサブユニット)のN末端に融合しているFab分子の重鎖、及び(c2)Fcドメインのサブユニットのうちの他方(例えば第2のサブユニット)を含む第3のポリペプチドと;
(d)Fab分子の軽鎖を含む第4のポリペプチドと
から構成される。
【0120】
抗原結合分子の種々のドメイン間の融合は、好ましくはペプチドリンカーを介しており、ペプチドリンカーは、免疫グロブリンヒンジ領域(の一部)も含みうる又は同領域からなりうる。特に、4-1BBLの第1の外部ドメイン又はその断片と4-1BBLの第2の外部ドメイン又はその断片との融合は、ペプチドリンカー、特にa(G4S)2リンカーを介している。
【0121】
一態様において、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとは、ジスルフィド結合、特にCLドメインとCH1ドメインとの間のジスルフィド結合により互いに結合される。
【0122】
一態様では、第1のポリペプチドのCLドメインにおいて、124位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)により独立して置換されており(カバットによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)により独立して置換されており(カバットによる番号付け)、第2のポリペプチドのCH1ドメインにおいて、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)により独立して置換されており(カバットEUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)により独立して置換されている(カバットEUインデックスによる番号付け)。
【0123】
一態様では、第1のポリペプチドのCLドメインにおいて、124位のアミノ酸がリジン(K)により置換されており(カバットによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)により置換されており(カバットによる番号付け)、第2のポリペプチドのCH1ドメインにおいて、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されており(カバットEUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されている(カバットEUインデックスによる番号付け)。
【0124】
特定の態様では、第1のポリペプチドのCLドメインにおいて、124位のアミノ酸がリジン(K)により置換されており(カバットによる番号付け)、123位のアミノ酸がアルギニン(R)により置換されており(カバットによる番号付け)、第2のポリペプチドのCH1ドメインにおいて、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されており(カバットEUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されている(カバットEUインデックスによる番号付け)。
【0125】
特定の態様では、上記態様によるアミノ酸置換が第1及び第2のポリペプチドのCL及びCH1ドメインにおいて行われる場合、第1のポリペプチドのCLドメインは、カッパアイソタイプである。
【0126】
一態様において、CLドメインは、ヒトCLドメイン、特にカッパアイソタイプのヒトCLドメインである。さらなる態様では、CH1ドメインは、ヒトCH1ドメイン、特にγアイソタイプのヒトCH1ドメイン、最も詳細にはγ1アイソタイプのヒトCH1ドメインである。
【0127】
一態様において、第1のポリペプチドは、配列番号45のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0128】
一態様において、第2のポリペプチドは、配列番号46のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0129】
一態様において、第3のポリペプチドは、配列番号47のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0130】
一態様において、第4のポリペプチドは、配列番号48のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0131】
一態様において、4-1BBL(CD137)アゴニストは、配列番号45のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む第1のポリペプチド、配列番号46のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む第2のポリペプチド、配列番号47のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む第3のポリペプチド、及び配列番号48のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む第4のポリペプチドを含む抗原結合分子である。
【0132】
代替的な態様では、4-1BBアゴニストは、抗4-1BB抗体、特に抗FAP/抗4-1BB二重特異性抗体でもよい。
【0133】
「がん」という用語は、制御されていない細胞増殖を典型的に特徴とする哺乳動物における生理学的状態を指す。がんの例には、限定されないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫及び白血病が含まれる。がんの非限定的な例には、白血病などの血液がん、膀胱がん、脳がん、頭頸部がん、膵臓がん、胆管がん、甲状腺がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、食道がん、結腸がん、結腸直腸がん、直腸がん、胃がん、前立腺がん、皮膚がん、扁平上皮癌、肉腫、骨がん、及び腎臓がんが含まれる。他の細胞増殖性障害には、限定されないが、腹部、骨、乳房、消化器系、肝臓、膵臓、腹膜、内分泌腺(副腎、副甲状腺、下垂体、睾丸、卵巣、胸腺、甲状腺)、眼、頭頸部、(中枢及び末梢)神経系 、リンパ系、骨盤、皮膚、軟組織、脾臓、胸部、及び泌尿生殖器系に位置する新生物が含まれる。前がん状態又は病変及びがん転移も含まれる。
【0134】
本発明のHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、4-1BB(CD137)アゴニスト、方法、使用及びキットのいくつかの態様では、がんは、固形腫瘍がんである。「固形腫瘍がん」が意味するのは、患者の体内の特定の位置に分離した腫瘍塊(腫瘍転移も含む)を形成する悪性腫瘍、例えば肉腫又は癌腫(例えば通常固形腫瘍を形成しない白血病といった血液のがんとは対照的な)である。固形腫瘍がんの非限定的な例には、膀胱がん、脳がん、頭頸部がん、膵臓がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、食道がん、結腸がん、結腸直腸がん、直腸がん、胃がん、前立腺がん、皮膚がん、扁平細胞癌腫、骨がん、肝臓がん及び腎臓がんが含まれる。本発明の文脈で企図される他の固形腫瘍がんには、限定されないが、腹部、骨、乳房、消化器系、肝臓、膵臓、腹膜、内分泌腺(副腎、副甲状腺、脳下垂体、睾丸、卵巣、胸腺、甲状腺)、眼、頭頸部、神経系(中枢及び末梢)、リンパ系、骨盤、皮膚、軟組織、筋肉、脾臓、胸部領域及び泌尿生殖器系に位置する新生物が含まれる。前がん状態又は病変及びがん転移も含まれる。
【0135】
一態様において、がんは、肺がん、頭頸部がん、膀胱がん、食道がん、皮膚がん、軟組織がん、胃がん、子宮頸がん及び卵巣がんからなる群から選択されるがんである。一態様において、がんは、肺がん、頭頸部がん、膀胱がん、食道がん、軟組織がん及び卵巣がんからなる群から選択されるがんである。一態様において、がんは、膀胱がんである。別の態様では、がんは、子宮頸がんである。
【0136】
いくつかの態様では、がんは、MAGE-A4陽性がんである。「MAGE-A4陽性がん」又は「MAGE-A4発現がん」は、がん細胞におけるMAGE-A4の発現又は過剰発現を特徴とするがんを意味する。MAGE-A4の発現は、例えば、定量的リアルタイムPCR(MAGE-A4 mRNAレベルを測定する)、免疫組織化学(IHC)、又はウエスタンブロットアッセイによって決定されうる。一態様において、がんは、MAGE-A4を発現する。一態様において、がんは、MAGE-A4に特異的な抗体を使用する免疫組織化学(IHC)によって決定した場合、腫瘍細胞の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、又は少なくとも80%にMAGE-A4を発現する。
【0137】
いくつかの態様では、がんは、FAPを発現する細胞(例えば線維芽細胞)を含む。いくつかの態様では、がんは、特に腫瘍間質に、FAPを発現する。
【0138】
本明細書の「患者」、「対象」、又は「個体」は、がんの1つ又は複数の徴候、症状、又は他の指標を経験しているか又は経験したことのある、治療に適格な任意の単一のヒト対象である。いくつかの態様では、患者は、がんを有するか、又はがんを有すると診断されている。患者は、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体又は別の薬物で以前に治療されていても、治療されていなくてもよい。特定の態様では、患者は、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体で以前に治療されていない。患者は、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体療法が開始される前に、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体以外の1つ又は複数の薬物を含む治療法で治療されたことがあってもよい。特定の態様では、患者は、HLA-A2対立遺伝子、特にHLA-A*02:01対立遺伝子を担持する。
【0139】
本明細書で使用される「治療(treatment)」(及び「治療する(treat)」又は「治療すること(treating)」等のその文法的変化形)は、治療される個体の疾患の自然な経過を変える試みにおける臨床的介入を指し、予防のために又は臨床病理の過程で実施することができる。治療の望ましい効果には、限定されないが、疾患の発生又は再発を防止すること、症候の緩和、疾患の直接的又は間接的な病理学的帰結の縮小、転移を防止すること、疾患の進行速度を低下させること、病状の改善又は緩和、及び寛解又は予後の改善が含まれる。
【0140】
HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体及び4-1BB(CD137)アゴニストは、有効量で投与される。
【0141】
薬剤、例えば、薬学的組成物の「有効量」は、所望の治療結果又は予防結果を達成するために必要な投薬量及び期間において有効な量を指す。
【0142】
一態様において、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体の投与は、特にがんの部位に、T細胞、特の細胞傷害性T細胞の活性化をもたらす。前記活性化は、T細胞の増殖、T細胞の分化、T細胞によるサイトカイン分泌、T細胞からの細胞傷害性エフェクター分子の放出、T細胞の細胞傷害活性、及びT細胞による活性化マーカーの発現を含みうる。一態様において、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体の投与は、がんの部位に、T細胞、特に細胞傷害性T細胞の数の増加をもたらす。
【0143】
上記及び本明細書に記載されるHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、4-1BB(CD137)アゴニスト、方法、使用又はキットのいくつかの態様では、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体及び4-1BB(CD137)アゴニストによる治療又はそれらの投与は、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体のみによる治療又はその投与と比較して、特にがんの部位に、T細胞、特に細胞傷害性T細胞の活性化の増大をもたらす。特定の態様では、活性化は、T細胞の細胞傷害活性(具体的にはがん細胞の溶解)及び/又はT細胞によるサイトカイン(具体的にはIL-2、TNF-α、及び/又はインターフェロン-γ)の分泌を含む。
【0144】
上記及び本明細書に記載されるHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、4-1BB(CD137)アゴニスト、方法、使用又はキットのいくつかの態様では、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体及び4-1BB(CD137)アゴニストによる治療又はそれらの投与は、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体のみによる治療又はその投与と比較して、特にがんの部位に、ナイーブT細胞の記憶T細胞への分化の増加をもたらす。一態様において、分化は、例えばフローサイトメトリーを使用して、CD45RA発現の測定によって検出される。
【0145】
上記及び本明細書に記載されるHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、4-1BB(CD137)アゴニスト、方法、使用又はキットのいくつかの態様では、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体及び4-1BB(CD137)アゴニストによる治療又はそれらの投与は、個体に応答をもたらしうる。いくつかの態様では、応答は、完全寛解でありうる。いくつかの態様では、応答は、治療の中止後の持続的応答でありうる。いくつかの態様では、応答は、治療の中止後に持続される完全寛解でありうる。他の態様では、応答は、部分寛解でありうる。いくつかの態様では、応答は、治療の中止後に持続される部分寛解でありうる。いくつかの態様では、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体及び4-1BB(CD137)アゴニストによる治療又はそれらの投与は、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体のみ(即ち4-1BB(CD137)アゴニストを含まない)による治療又はその投与と比較して、応答を改善しうる。
【0146】
いくつかの態様では、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体及び4-1BB(CD137)アゴニストによる治療又はそれの投与は、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体のみ(即ち4-1BB(CD137)アゴニストを含まない)で治療された対応する患者集団と比較して、患者集団の応答率を上昇させうる。
【0147】
本発明の併用療法は、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体及び4-1BB(CD137)アゴニストの投与を含む。
【0148】
本明細書で使用される「組み合わせ(及び「組み合わせる(combine)又は「組み合わせること「combining」等のその文法的変化形)は、本発明によるHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体と4- 1BB(CD137)アゴニストとの組み合わせを包含し、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体と4-1BB(CD137)アゴニストとは、同じ又は異なる容器内にあり、同じ又は異なる薬学的製剤中で、一緒に又は別々に投与され、一緒に又は連続して(任意の順序で)投与され、同じ又は異なる経路により投与されるが、ただし、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体及び4-1BB(CD137)アゴニストが身体中でそれらの生物学的効果を一緒に発揮することができることを条件とする。例えば本発明によるHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体と4-1BB(CD137)アゴニストとを「組み合わせること」は、まず特定の薬学的製剤中のHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体を投与し、続いて別の薬学的製剤中の4-1BB(CD137)アゴニストを投与すること、又はその逆を意味する。
【0149】
HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体と4-1BB(CD137)アゴニストは、当技術分野で既知の任意の適切な方式で投与されうる。一態様において、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体と4-1BB(CD137)アゴニストは、連続して投与される(異なる時間に)。別の態様では、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体と4-1BB(CD137)アゴニストは、同時に投与される(同じ時間に)。理論に拘束されることを願うものではないが、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体に先立って及び/又は同二重特異性抗体と同時に、4-1BB(CD137)アゴニストを投与することが有利でありうる。いくつかの態様では、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体は、4-1BB(CD137)アゴニストとは別の組成物中にある。いくつかの態様では、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体は、4-1BB(CD137)アゴニストと同じ組成物中にある。
【0150】
HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体及び4-1BB(CD137)アゴニストは、任意の適切な経路により投与することができ、同じ投与経路により又は異なる投与経路により投与されうる。いくつかの態様では、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体は、静脈内に、筋肉内に、皮下に、局所に、経口で、経皮的に、腹腔内に、眼窩内に、移植により、吸入により、髄腔内に、脳室内に、又は鼻腔内に投与される。特定の態様では、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体は、静脈内投与される。いくつかの態様では、4-1BB(CD137)アゴニストは、静脈内に、筋肉内に、皮下に、局所に、経口で、経皮的に、腹腔内に、眼窩内に、移植により、吸入により、髄腔内に、脳室内に、又は鼻腔内に投与される。特定の態様では、4-1BB(CD137)アゴニストは、静脈内投与される。有効量のHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体及び4-1BB(CD137)アゴニストは、疾患の予防又は治療のために投与されうる。HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体及び/又は4-1BB(CD137)アゴニストの適切な投与経路及び投薬量は、治療される疾患の種類、HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体の種類、4-1BB(CD137)アゴニストの種類、疾患の重症度及び経過、個体の臨床状態、個体の病歴及び治療への応答、並びに主治医の裁量に基づいて決定されうる。投薬は、その投与が短期か又は長期かに部分的に依存して、任意の適切な経路、例えば静脈内又は皮下注射などの注射により行うことができる。限定されないが、単回又は様々な時点にわたる複数回の投与、ボーラス投与、及びパルス注入を含む種々の投薬スケジュールが、本明細書で企図される。HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体及び4-1BB(CD137)アゴニストは、単回で又は一連の治療にわたって患者に適切に投与される。
【0151】
本発明の組み合わせは、単独で又は他の薬剤との組み合わせで治療法に使用することができる。例えば、本発明の組み合わせは、少なくとも1つの追加の治療剤と共投与されうる。一部の態様では、追加の治療剤は、抗がん剤、例えば化学療法剤、腫瘍細胞増殖の阻害剤、又は腫瘍細胞アポトーシスのアクチベーターである。本発明の組み合わせは、放射線療法と組み合わせることもできる。
【0152】
本明細書で提供されるキットは、典型的には、1つ又は複数の容器と、容器上の若しくは容器に不随するラベル又は添付文書とを含む。適切な容器は、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、IV輸液バッグ等を含む。容器は、ガラス又はプラスチック等の様々な材料から形成されうる。容器は、病気の治療、予防、及び/又は診断に効果的な、それ自体であるか又は別の組成物と組み合わせられた組成物を収容し、滅菌アクセスポートを有しうる(例えば容器は、皮下注射針で穿刺可能なストッパーを有する静脈内溶液バッグ又はバイアルであってもよい)。組成物中の少なくとも1つの活性剤は、本発明の組み合わせに使用されるHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体である。別の活性剤は、本発明の組み合わせに使用される4-1BB(CD137)アゴニストであり、これは、二重特異性抗体のように、同じ組成物及び容器内にあってよいか、又は異なる組成物及び容器内に提供されうる。ラベル又は添付文書は、1つ以上の組成物ががんなどの選択された状態を治療するために使用されることを表示する。
【0153】
一態様において、本発明は、がんの治療のために意図されたキットを提供し、このキットは、同じ又は別々の容器内に、(a)HLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体、及び(b)4-1BB(CD137)アゴニストを含み、任意選択的に(c)がんを治療するための方法としての併用治療の使用を指示する印刷された説明文を含む添付文書をさらに含む。さらに、キットは、(a)中に組成物を含む第1の容器であって、組成物がHLA-A2/MAGE-A4×CD3二重特異性抗体を含む第1の容器;(b)中に組成物を含む第2の容器であって、組成物が4-1BB(CD137)アゴニストを含む第2の容器;及び任意選択的に(c)中に組成物を含む第3の容器であって、組成物がさらなる細胞傷害性の又はそれ以外の治療剤を含む第3の容器を含む。本発明のこれら態様のキットは、組成物ががんを治療するために使用することができることを示す添付文書をさらに含みうる。代替的に又は追加的に、キットは、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝食塩水、リンゲル液、及びデキストロース溶液等の薬学的に許容されるバッファーを含む第3(又は第4)の容器をさらに含んでもよい。キットは、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針及びシリンジを含む、商業的観点及びユーザの観点から望ましい他の材料をさらに含みうる。
アミノ酸配列
【図面の簡単な説明】
【0154】
【
図1】(A)実施例で使用されるHLA-A2/MAGE-A4標的化T細胞二重特異性(TCB)抗体分子(「MAGE-A4 TCB」)を概略的に示している。分子は、CD3に対する単一の抗原結合部分、HLA-A2/MAGE-A4に対する2つの抗原結合部分、及びFcドメインを含んでいる。(B)実施例で使用されるFAP標的化4-1BB(CD137)アゴニスト(「FAP-4-1-BBL」)を概略的に示している。分子は、4-1BBL外部ドメイン三量体、FAPに対する抗原結合部分、及びFcドメインを含んでいる。黒点:ヘテロ二量体化を促進するFcドメイン中の修飾。*:CH及びCLドメインに導入された反対の電荷のアミノ酸。
【
図2】MAGE-A4 TCB+FAP-4-1-BBLの組み合わせで治療されたHLA-A*02+/MAGE-A4+腫瘍細胞株SCaBERの連続的正細胞イメージングである。SCaBER細胞は、照射されたNIH/3T3-huFAP細胞の存在下で、5:1のE:T比でヒトPBMCと共にインキュベートされ、2nMのFAP-4-1-BBLと種々の濃度((A)50nM、(B)8.33nM、(C)1.39nM、(D)0.23nM、(E)0.039nM)のMAGE-A4 TCBとの組み合わせで治療された。腫瘍細胞増殖曲線(イメージ当たりの赤色の数として測定された)は、120時間にわたる連続的生細胞イメージングによりモニタリングされた。コントロールとして、SCaBER細胞が、治療の非存在下で(治療なし)、2nMのFAP-4-1-BBLのみを用いて(FAP-4-1-BBL)又はFAP-4-1-BBLなしで種々の濃度のMAGE-A4 TCBを用いて(MAGE-A4 TCB)、PBMCと共に(照射されたNIH/3T3-huFAP細胞の存在下で)インキュベートされた。
【
図3】MAGE-A4 TCB+FAP-4-1-BBLの組み合わせで治療されたHLA-A*02+/MAGE-A4+腫瘍細胞株C-33aの連続的生細胞イメージングである。C-33a細胞は、照射されたNIH/3T3-huFAP細胞の存在下で、5:1のE:T比でヒトPBMCと共にインキュベートされ、2nMのFAP-4-1-BBLと種々の濃度((A)50nM、(B)8.33nM、(C)1.39nM、(D)0.23nM、(E)0.039nM)のMAGE-A4 TCBとの組み合わせで治療された。腫瘍細胞増殖曲線(イメージ当たりの赤色の数として測定された)は、120時間にわたる連続的生細胞イメージングによりモニタリングされた。コントロールとして、C-33a細胞が、治療の非存在下で(治療なし)、2nMのFAP-4-1-BBLのみを用いて(FAP-4-1-BBL)又はFAP-4-1-BBLなしで種々の濃度のMAGE-A4 TCBを用いて(MAGE-A4 TCB)、PBMCと共に(照射されたNIH/3T3-huFAP細胞の存在下で)インキュベートされた。
【
図4A-F】MAGE-A4 TCB活性化T細胞により放出されたサイトカイン及びグランザイムBの定量化である。SCaBER細胞は、照射されたNIH/3T3-huFAP細胞の存在下で、5:1のE:T比でヒトPBMCと共にインキュベートされ、2nMのFAP-4-1-BBLと種々の濃度(50nM~1pM)のMAGE-A4 TCBとの組み合わせで治療された。コントロールとして、SCaBER細胞が、治療の非存在下で(治療なし)、2nMのFAP-4-1-BBLのみを用いて(FAP-4-1-BBL)又はFAP-4-1-BBLなしで種々の濃度のMAGE-A4 TCBを用いて(MAGE-A4 TCB)、PBMCと共に(照射されたNIH/3T3-huFAP細胞の存在下で)インキュベートされた。示されているのは、Luminexイムノアッセイにより決定された、48時間のインキュベーション後の上清中へのサイトカイン放出の用量応答曲線(pg/mL)である。(A)インターフェロン(IFN)-γ、(B)インターロイキン(IL)-2、(C)腫瘍壊死因子(TNF)-α、(D)IL-6、(E)IL-8、(F)IL-10。
【
図4G】MAGE-A4 TCB活性化T細胞により放出されたサイトカイン及びグランザイムBの定量化である。SCaBER細胞は、照射されたNIH/3T3-huFAP細胞の存在下で、5:1のE:T比でヒトPBMCと共にインキュベートされ、2nMのFAP-4-1-BBLと種々の濃度(50nM~1pM)のMAGE-A4 TCBとの組み合わせで治療された。コントロールとして、SCaBER細胞が、治療の非存在下で(治療なし)、2nMのFAP-4-1-BBLのみを用いて(FAP-4-1-BBL)又はFAP-4-1-BBLなしで種々の濃度のMAGE-A4 TCBを用いて(MAGE-A4 TCB)、PBMCと共に(照射されたNIH/3T3-huFAP細胞の存在下で)インキュベートされた。示されているのは、Luminexイムノアッセイにより決定された、48時間のインキュベーション後の上清中へのサイトカイン放出の用量応答曲線(pg/mL)である。(G)グランザイムB。
【
図5A-F】MAGE-A4 TCB活性化T細胞により放出されたサイトカイン及びグランザイムBの定量化である。C33-a細胞は、照射されたNIH/3T3-huFAP細胞の存在下で、5:1のE:T比でヒトPBMCと共にインキュベートされ、2nMのFAP-4-1-BBLと種々の濃度(50nM~1pM)のMAGE-A4 TCBとの組み合わせで治療された。コントロールとして、C-33a細胞が、治療の非存在下で(治療なし)、2nMのFAP-4-1-BBLのみを用いて(FAP-4-1-BBL)又はFAP-4-1-BBLなしで種々の濃度のMAGE-A4 TCBを用いて(MAGE-A4 TCB)、PBMCと共に(照射されたNIH/3T3-huFAP細胞の存在下で)インキュベートされた。示されているのは、Luminexイムノアッセイにより決定された、48時間のインキュベーション後の上清中へのサイトカイン放出の用量応答曲線(pg/mL)である。(A)インターフェロン(IFN)-γ、(B)インターロイキン(IL)-2、(C)腫瘍壊死因子(TNF)-α、(D)IL-6、(E)IL-8、(F)IL-10、(G)グランザイムB。
【
図5G】MAGE-A4 TCB活性化T細胞により放出されたサイトカイン及びグランザイムBの定量化である。C33-a細胞は、照射されたNIH/3T3-huFAP細胞の存在下で、5:1のE:T比でヒトPBMCと共にインキュベートされ、2nMのFAP-4-1-BBLと種々の濃度(50nM~1pM)のMAGE-A4 TCBとの組み合わせで治療された。コントロールとして、C-33a細胞が、治療の非存在下で(治療なし)、2nMのFAP-4-1-BBLのみを用いて(FAP-4-1-BBL)又はFAP-4-1-BBLなしで種々の濃度のMAGE-A4 TCBを用いて(MAGE-A4 TCB)、PBMCと共に(照射されたNIH/3T3-huFAP細胞の存在下で)インキュベートされた。示されているのは、Luminexイムノアッセイにより決定された、48時間のインキュベーション後の上清中へのサイトカイン放出の用量応答曲線(pg/mL)である。(G)グランザイムB。
【実施例】
【0155】
以下は、本発明の方法及び組成物の実施例である。上述の一般的な説明を考慮すると、種々の他の態様が実施されうることが理解される。
【0156】
実施例1-MAGE-A4 TCB+FAP-4-1-BBL媒介性腫瘍細胞溶解をモニタリングするための連続的生細胞イメージング
MAGE-A4 TCB+FAP-4-1-BBLの組み合わせにより数日間にわたり動的に誘導される腫瘍細胞溶解をモニタリングするために、連続的生細胞イメージングが、2つの異なるMAGE-A4+/HLA-A*02:01+ 細胞株(SCaBER、ヒト膀胱の扁平上皮癌由来の細胞株(O’Toole et al.,Int.J.Cancer 17:707-714(1976))及びC-33a、ヒト子宮頸癌由来の細胞株(Auersperg,J.Natl.Cancer Inst.32,135-163(1964))を用いて実施された。細胞は、照射されたNIH/3T3-huFAP線維芽細胞細胞(増殖を防止するために照射された、ヒトFAPを安定的に発現するNIH/3T3細胞)の存在下で、ヒトPBMCと共にインキュベートし、2nMのFAP-4-1-BBLと種々の濃度(50nM~1pM)のMAGE-A4 TCBとの組み合わせで治療した。コントロールとして、腫瘍細胞を、治療の非存在下で(治療なし)、2nMのFAP-4-1-BBLのみを用いて、又は種々の濃度のMAGE-A4 TCBのみを用いて、PBMCと共にインキュベートした。
【0157】
アッセイ設定の1日前に、健常なドナーPBMC(Lonza)を解凍し、10%のFCS、及び1%のGlutaMAXを含有するRPMI1640培地に再懸濁した。細胞を、37℃及び5%のCO2のインキュベーター内で一晩維持した。
【0158】
それと並行して、標的腫瘍細胞株を収集し、それらの生存率及び細胞数を、ViCell XR細胞カウンター(Beckman Coulter)を使用して評価した。遠心分離(350×g、4℃、5分)後、10%のFCS、及び1%のGlutaMAXを含有するRPMI1640中において、細胞数を、8×104細胞/mL(SCaBER H2BRFP、即ちnuclear red蛍光性タンパク質を安定的に発現するレンチウイルス(Essen Bioscience、#4476)を形質導入)、24×104細胞/mL(C-33a H2BRFP)、又は16×104細胞/mL(NIH/3T3-huFAPクローン19照射)に調整した。62.5μLの細胞懸濁液を蒔いて、5000、15,000、又は10,000細胞/ウェルの最終細胞密度を得た。すべてのエッジウェルを、アッセイウェル中での液体のエバポレーションを避けるためにアッセイ培地で満たした。標的細胞を含有するアッセイプレートを、37℃及び5%のCO2で一晩インキュベートした。
【0159】
アッセイ日に、62.5μLのMAGE-A4 TCBを標的細胞に加え、ウェル当たり50nM~1pMの最終濃度を得た。2nMのFAP-4-1BBL又はMAGE-A4 TCB用のアッセイ培地のみでの治療を加えた。「抗体なし」コントロールには、アッセイ培地を加えた。
【0160】
以前に解凍したPBMC(上記参照)をインキュベーターから採取し、ViCell XR細胞カウンター(Beckman Coulter)を用いてカウントし、遠心分離した(350×g、5分)。PBMCを、アッセイ培地に4×105細胞/mL(SCaBER H2BRFPについて)又は1.2×106細胞/mL(C33a H2BRFPについて)で再懸濁した。それぞれのPBMC溶液をウェル毎に蒔き、最終容積250μLにおいて5:1のエフェクター対標的(E:T)比を得た。
【0161】
200×gで1分間の遠心分離後、プレートを37℃及び5% CO2のIncucyte S3 Live-Cell Analysis System(Essen Bioscience、Ltd.)のインキュベーター内に置き、スキャンを1時間後(タイム0時間)にスタートした。プレートは、ウェル当たり4つの写真を撮ることにより、3時間毎に合計120時間スキャンした(位相差、赤色チャネル[即ち、標的細胞])。タイム0時間における平均シグナルを、各条件の3つの複製物から計算した。この値を、その後の時点の同じ条件の各値から減算し、平均化した値を得た。
【0162】
48時間後、各ウェルから25μLの上清を新鮮なプレートに移し、Luminexサイトカイン分析のために-80℃で凍結した(実施例0参照)。
【0163】
結果を
図2及び
図3に示す。イメージ当たりの腫瘍細胞(即ち、イメージ当たりの赤色シグナル)の数の正規化された値をグラフ化した。
【0164】
図2及び
図3に示されるように、MAGE-A4 TCBと標的化共刺激分子FAP-4-1-BBLとの組み合わせは、連続的生細胞イメージングによりモニタリングした場合に、腫瘍細胞増殖に強い阻害を導く。対照的に、MAGE-A4 TCBは、単剤治療として使用したとき、腫瘍増殖の阻害を誘導しないか、又は極めて弱い誘導しかしない(高濃度で)。このことは、SCaBER及びC-33a細胞のMAGE-A4 TCB単剤療法への非応答性が、FAP-4-1-BBLとの併用療法により克服できることを示すものである。
【0165】
実施例2-MAGE-A4 TCB+FAP-4-1-BBLの組み合わせによって誘導されるサイトカイン放出を定量化するためのLuminexイムノアッセイ
連続的生細胞イメージングに加えて、MAGE-A4 TCB+FAP-4-1-BBLの組み合わせの薬理的活性を、活性化T細胞により細胞上清中に放出されたサイトカイン及び細胞傷害性顆粒(グランザイムB)のレベルを定量化することによって、さらに評価した。細胞培養上清中に放出されたサイトカインは、Human Custom ProcartaPlex 7-plexキット(Thermo Fisher Scientific # PPX-07-MXFVK4Y)を使用することにより、Luminexイムノアッセイを介して定量化された。
【0166】
アッセイ日に、腫瘍細胞溶解実験からの凍結細胞上清を、氷上で解凍した。3つの複製物を、ボルテックスすることによりよく混合し、1つのウェルにプールした。試料は、アッセイ培地(RPMI1640、10% FBS、1% GlutaMAX)中で1:3に希釈して使用した。
【0167】
標準バイアル(キット中に提供される)を、2000×gで10秒間遠心分離し、製造者の説明(ThermoFisher Scientific)に従ってアッセイ培地を加えることにより再構成した。アッセイ培地及び空(培地のみの)試料中の3倍の標準希釈系列を、プレートレイアウトに従って懸濁プレート中に加えた。
【0168】
磁気ビーズを、30秒間ボルテックスし、アッセイ培地中で1:2に希釈し、光から保護した(アルミ箔により)。
【0169】
フィルタープレートを、100μL/ウェルのPBSを加えることにより5分間事前に湿らせ、真空マニホールドで乾燥させた。
【0170】
ビーズ溶液を30秒間ボルテックスし、50μL/ウェルをフィルターアッセイプレートに加えた。100μL/ウェルの洗浄バッファーで2回洗浄した後、50μL/ウェルの試料、標準物質、又は空試料を加え、プレートを、暗所において室温でプレートシェーカー(500rpm)上で>60分間インキュベートした。
【0171】
フィルタープレートを、100μL/ウェルの洗浄バッファーで2回洗浄した。次いで、1×の検出抗体混合物を、PBS又はUniversal Assay Buffer中で1:2に希釈し、各ウェルに25μLを加え、暗所において室温でプレートシェーカー(500rpm)上で30分間インキュベートした。
【0172】
100μL/ウェルの洗浄バッファーで2回洗浄した後、50μL/ウェルのSA-RPE溶液(PBS又はUniversal Assay Buffer中で1:2に希釈)を、各ウェルに加えた。プレートを、暗所において室温でプレートシェーカー(500rpm)上で30分間インキュベートした。100μL/ウェルの洗浄バッファーで2回洗浄した後、100μL/ウェルの読み取りバッファーを各ウェルに加え、プレートを、さらに5分間同じ条件でインキュベートした。
【0173】
プレートをBioPlex(登録商標)(BioRad)プレートリーダーで読み取り、得られたシグナルを、Bio-Plex Manager 6.1.1ソフトウェアにより自動的に定量化した。
【0174】
結果を
図4及び
図5に示す。サイトカイン濃度の値をGraphPad Prismに移し、グラフ化した。各サイトカイン濃度の値は、ベースライン減算により補正された。ベースラインは、一切の治療分子なしで標的細胞及びPBMCで共培養したウェルの上清中に蓄積されたサイトカイン濃度を指す。S字状用量応答、4パラメーターロジスティック方程式、及び最小二乗法(通常の)フィッティング分析をベースライン減算値に適用し、用量応答曲線のフィッティングを行った。
【0175】
連続的生細胞イメージングについて得られた結果と一致して、用量依存性サイトカイン分泌は、MAGE-A4 TCB+FAP-4-1BBL活性化T細胞について観察することができた(
図4及び
図5)が、MAGE-A4 TCB単剤療法については、サイトカイン放出を観察することができなかったか、又は観察されたサイトカイン放出は極めて小さかった。
【0176】
先述の発明は、理解を明瞭にする目的で説明及び例示によりある程度詳細に記載されたが、それら記載及び例示は本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に引用されるすべての特許及び科学文献の開示は、参照によりそれらの全体が援用される。
【配列表】
【国際調査報告】