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  • 特表-充電式固体電池用正極活物質 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】充電式固体電池用正極活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20241219BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20241219BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241219BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241219BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535984
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-06-14
(86)【国際出願番号】 EP2022086032
(87)【国際公開番号】W WO2023111126
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】21215008.0
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 真一
(72)【発明者】
【氏名】ジフン・カン
(72)【発明者】
【氏名】ギョンソ・パク
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AK03
5H029AL12
5H029AM12
5H029DJ16
5H029HJ02
5H029HJ05
5H050AA08
5H050BA15
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050FA17
5H050HA02
5H050HA05
(57)【要約】
本発明は、固体充電式電池のための正極活物質の使用であって、正極活物質が、Li、M’、及び酸素を含み、M’が、M’に対して50.0≦x≦95.0mol%の含有量xのNi、M’に対して0≦y≦40.0mol%の含有量yのCo、M’に対して0≦z≦70.0mol%の含有量zのMn、M’に対して0≦a<2.0mol%の含有量aの、Li、O、Ni、Co、Mn、Al、B、及びW以外の元素、M’に対して0.01≦b≦1.6mol%の含有量bのB、M’に対して0.00≦c≦1.5mol%の含有量cのAl、M’に対して0.00≦d≦1.5mol%の含有量dのWを含み、x、y、z、a、b、c、及びdは、ICP-OESによって測定され、x+y+z+a+b+c+dは100.0mol%であり、正極活物質が、式(i)として定義されるB含有量BAを有し、正極活物質が、B含有量Bを有し、Bは、XPS分析によって決定され、Bは、XPS分析によって測定されたNi、Mn、Co、B、Al、及びWのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、比B/B>10.0であり、当該物質が単結晶粉末である、使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体充電式電池における正極活物質の使用であって、前記正極活物質は、Li、M’、及び酸素を含み、M’は、
M’に対して50.0≦x≦95.0mol%の含有量xのNi、
M’に対して0≦y≦40.0mol%の含有量yのCo、
M’に対して0≦z≦70.0mol%の含有量zのMn、
M’に対して0≦a≦2.0mol%の含有量aの、Li、O、Ni、Co、Mn、Al、B、及びW以外の元素、及び
M’に対して0.01≦b≦1.6mol%の含有量bのB、
M’に対して0.00≦c≦1.5mol%の含有量cのAl、
M’に対して0.00≦d≦1.5mol%の含有量dのW、を含み、
x、y、z、a、b、c、及びdは、ICP-OESによって測定され、
x+y+z+a+b+c+dは、100.0mol%であり、
前記正極活物質は、
【数1】
として定義されるB含有量Bを有し、
前記正極活物質は、B含有量Bを有し、Bは、XPS分析によって決定され、Bは、XPS分析によって測定されたNi、Mn、Co、B、Al、及びWのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比B/B>10.0であり、
前記物質が単結晶粉末である、使用。
【請求項2】
50.0≦x≦70.0である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
70.0<x≦95.0である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記比B/B>30.0である、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記B含有量bが、ICP-OESによって測定したときに、M’に対して、b≧0.05mol%であり、より好ましくはb≧0.10mol%である、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記Al含有量が、ICP-OESによって測定したときに、M’に対して0.01mol%≦c≦1.5mol%である、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記正極活物質が、
【数2】
として定義されるAl含有量Alを有し、
前記正極活物質が、XPS分析によって決定されたAl含有量Alを有し、Alは、XPS分析によって測定されたCo、Mn、Ni、B、Al、及びWのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比Al/Al>10.0である、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
前記比Al/Al≧30である、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記比B/B<300である、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
前記比Al/Al<300である、請求項1に記載の使用。
【請求項11】
前記W含有量が、ICP-OESによって測定したときに、M’に対して0.01mol%≦d≦2.0mol%である、請求項1に記載の使用。
【請求項12】
前記正極活物質が、
【数3】
として定義されるW含有量Wを有し、
前記正極活物質が、XPS分析によって決定されたW含有量Wを有し、Wは、XPS分析によって測定されたCo、Mn、Ni、B、Al、及びWのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比W/W>10.0である、請求項1に記載の使用。
【請求項13】
前記比W/W>20である、請求項1に記載の使用。
【請求項14】
前記比W/W<300である、請求項1に記載の使用。
【請求項15】
前記正極活物質が、レーザー回折粒径分析によって決定された2.0μm~10.0μmのメジアン粒径D50を有する、請求項1に記載の使用。
【請求項16】
前記固体充電式電池が、硫化物系固体電池である、請求項1に記載の使用。
【請求項17】
前記固体電池が固体電解質を含み、前記固体電解質が硫黄含有化合物である、請求項1に記載の使用。
【請求項18】
正極活物質と固体電解質とを含む固体充電式電池用のカソライトであって、前記正極活物質は、Li、M’、及び酸素を含み、M’は、
M’に対して50≦y≦95.0mol%の含有量xのNi、
M’に対して0≦y≦40.0mol%の含有量yのCo、
M’に対して0≦z≦70.0mol%の含有量zのMn、
M’に対して0≦a≦2.0mol%の含有量aの、Li、O、Ni、Co、Mn、Al、B、及びW以外の元素、及び
M’に対して0.01≦b≦1.6mol%の含有量bのB、
M’に対して0.00≦c≦1.5mol%の含有量cのAl、
M’に対して0.00≦d≦1.5mol%の含有量dのW、を含み、
x、y、z、a、b、c、及びdは、ICP-OESによって測定され、
x+y+z+a+b+c+dが、100.0mol%であり、
前記正極活物質は、
【数4】
として定義されるB含有量Bを有し、
前記正極活物質は、B含有量Bを有し、Bは、XPS分析によって決定され、Bは、XPS分析によって測定されたNi、Mn、Co、B、Al、及びWのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比B/B>10.0であり、
前記物質が単結晶粉末である、カソライト。
【請求項19】
前記固体電解質が硫化物系電解質である、請求項18に記載のカソライト。
【請求項20】
請求項18に記載のカソライトを含む、固体充電式電池用の正極。
【請求項21】
請求項20に記載の正極を含む、固体充電式電池。
【請求項22】
請求項18に記載の正極活物質を含む、固体充電式電池。
【請求項23】
硫化物系電解質を含む、請求項22に記載の固体充電式電池。
【請求項24】
ポータブルコンピュータ、タブレット、携帯電話、電動ビークル、及びエネルギー貯蔵システムのうちのいずれか1つにおける、請求項21~23のいずれか一項に記載の固体充電式電池の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体充電式電池用の正極活物質に関する。より具体的には、本発明は、固体電池のためのB元素を含む単結晶正極活物質の使用に関し、好ましくは、固体電池は硫化物系固体電池である。
【背景技術】
【0002】
本発明は、固体充電式電池のための、B元素を含有する単結晶正極活物質の使用に関する。
【0003】
硫化物系固体充電式電池におけるBを含む正極活物質の使用は、例えば、J.Electrochem.Soc.,167,130516から既知である。この論文は、多結晶性リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)とリチウムホウ素系コーティングとを含む正極活物質粉末の使用を開示しており、NMCはNi含有量が約80mol%であった。この論文は、当該物質が、HBO粉末とNMCとを乾式混合し、続いて300℃で加熱することによって調製されたと記載している。しかしながら、この科学論文は、硫化物系固体充電式電池におけるこの正極活物質の使用が、低い放電容量(DQ5)をもたらすことを開示している。
【0004】
したがって、本発明の目的は、固体充電式電池、好ましくは硫化物系固体電池において使用するための、高い放電容量(DQ5)によって示される良好な電気化学特性を有する正極活物質を提供することである。
【発明の概要】
【0005】
この目的は、固体充電式電池用の正極活物質の使用を提供することで達成され、ここで正極活物質は、Li、M’及び酸素を含み、M’は、
M’に対して50≦x≦95.0mol%の含有量xのNi、
M’に対して0≦y≦40.0mol%の含有量yのCo、
M’に対して0≦z≦70.0mol%の含有量zのMn、
M’に対して0≦a≦2.0mol%の含有量aの、Li、O、Ni、Co、Mn、Al、B、及びW以外の元素、及び
M’に対して0.01≦b≦1.6mol%の含有量bのB、
M’に対して0.00≦c≦1.5mol%の含有量cのAl、
M’に対して0.00≦d≦1.5mol%の含有量dのW、を含み、
x、y、z、a、b、c、及びdは、ICP-OESによって測定され、
x+y+z+a+b+c+dは、100.0mol%であり、
正極活物質は、
【0006】
【数1】
として定義されるB含有量Bを有し、
正極活物質は、B含有量Bを有し、Bは、XPS分析によって決定され、Bは、XPS分析によって測定されたNi、Mn、Co、B、Al、及びWのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、比B/B>10.0であり、
上記物質は、単結晶粉末である。
【0007】
本明細書で上述したように、正極活物質を使用することによって、実施例によって例示され、表3に提供される結果によって支持されるように、改善されたDQ5が達成されることが実際に観察される。
【0008】
更に、本発明は、上記正極活物質を含む固体充電式電池用正極、及び上記正極活物質を含む固体充電式電池を提供する。
【0009】
本発明は、以下の実施形態に関する。
【0010】
実施形態1
第1の実施形態において、本発明は、固体充電式電池用の正極活物質の使用を提供し、正極活物質は、Li、M’、及び酸素を含み、M’は、
M’に対して50.0mol%~95.0mol%の含有量xのNi、
M’に対して0≦y≦40.0mol%の含有量yのCo、
M’に対して0≦z≦70.0mol%の含有量zのMn、
M’に対して0≦a≦2.0mol%の含有量aの、Li、O、Ni、Co、Mn、Al、及びB以外の元素、及び
M’に対して0.01≦b≦1.6mol%の含有量bのB、
M’に対して0.00≦c≦2.0mol%の含有量cのAl、
M’に対して0.00≦d≦2.0mol%の含有量dのW、を含み、
x、y、z、a、b、c、及びdは、ICP-OESによって測定され、
x+y+z+a+b+c+dは、100.0mol%であり、
正極活物質は、
【0011】
【数2】
として定義されるB含有量Bを有し、
正極活物質は、B含有量Bを有し、Bは、XPS分析によって決定され、Bは、XPS分析によって測定されたNi、Mn、Co、B、Al、及びWのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比B/B>10.0であり、
上記物質は、単結晶粉末である。
【0012】
実施形態2
第2の実施形態では、好ましくは実施形態1に従い、上記正極活物質は、ICP-OESによって測定したときにM’に対して0.01mol%≦c≦1.5mol%の含有量cのAlを含む。
【0013】
好ましくは、正極活物質は、
【0014】
【数3】
として定義されるAl含有量Alを有し、
正極活物質は、XPS分析によって決定されたAl含有量Alを有し、Alは、XPS分析によって測定されたCo、Mn、Ni、Al、B、及びWのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比Al/Al>10.0である。
【0015】
好ましくは、Al/Al>20.0である。
【0016】
より好ましくは、Al/Al>25.0、最も好ましくはAl/Al≧30.0である。
【0017】
好ましくは、Al/Al<300.0、より好ましくはAl/Al≦200.0である。
【0018】
実施形態3
第3の実施形態では、好ましくは実施形態1又は2に従い、上記正極活物質は、ICP-OESによって測定したときにM’に対して0.01mol%≦d≦2.0mol%の含有量dのWを含む。
【0019】
好ましくは、正極活物質は、
【0020】
【数4】
として定義されるW含有量Wを有し、正極活物質は、XPS分析によって決定されたW含有量Wを有し、Wは、XPS分析によって測定されたCo、Mn、Ni、Al、B、及びWのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比W/W>10.0である。
【0021】
好ましくは、W/W>20.0である。
【0022】
より好ましくは、W/W>25.0であり、最も好ましくは、W/W≧30.0である。
【0023】
好ましくは、W/W<300.0、より好ましくはW/W≦200.0である。
【0024】
実施形態4
第4の実施形態では、好ましくは実施形態1~3に従い、本発明は、本明細書で上述した正極活物質を含む固体充電式電池用のカソライト電極(catholyte electrode)を提供する。
【0025】
実施形態5
第5の実施形態では、好ましくは実施形態1~4に従い、本発明は、本明細書で上述した正極活物質を含む固体充電式電池用の正極を提供する。
【0026】
実施形態6
第6の実施形態では、好ましくは実施形態1~5に従い、本発明は、本明細書で上述した正極活物質を含む固体充電式電池を提供する。
【0027】
実施形態7
第7の実施形態では、好ましくは実施形態1~6に従い、本発明は、ポータブルコンピュータ、タブレット、携帯電話、電動ビークル、及びエネルギー貯蔵システムのいずれか1つの上記固体充電式電池の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】EX2.1、EX2.2、EX2.3、EX2.4、CEX2.1、CEX2.2、及びCEX3について、正極活物質中のBの量(mol%、x軸)によるDQ5(mAh/g、y軸)の比較である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
特に定義されていない限り、技術用語及び科学用語を含む、本発明の開示に使用される全ての用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。更なるガイダンスによって、本発明の教示をよりよく理解するために、用語の定義が含まれる。本明細書で使用される場合、以下の用語は以下の意味を有する:
用語「ppm」は、本明細書で使用される場合、質量基準で100万分の1部を意味する。
【0030】
本明細書で定義される「メジアン(中央)粒径D50」という用語は、「D50」又は「d50」又は「メジアン粒径」又は「メジアン粒径(d50又はD50)」という用語と互換的に使用することができる。D50は、本明細書において、累積体積%分布の50%における粒径として定義される。D50は、典型的には、レーザー回折粒径分析によって測定される。
【0031】
正極活物質は、正極において電気化学的に活性である物質として定義される。活物質とは、所定の期間にわたって電圧変化にさらされると、Liイオンを捕捉及び放出することができる物質であると理解されたい。
【0032】
以下の詳細な記述では、本発明の実施を可能にするために、好ましい実施形態を記載している。本発明は、これらの特定の好ましい実施形態を参照して記載されるが、以下の実施例は、本発明を更に明確にすることを意図するものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことは理解されるであろう。本発明は、以下の詳細な記述及び付随する図面の考察から明らかである多くの代替、改変、及び均等物を含む。
【0033】
正極活物質及びその使用
第1の態様において、本発明は、固体充電式電池用正極活物質の使用を提供する。
【0034】
典型的には、上記正極活物質は、固体充電式電池への使用に好適な正極活物質であって、正極活物質は、Li、M’、及び酸素を含み、M’は、
M’に対して50.0mol%~95.0mol%の含有量xのNi、
M’に対して0≦y≦40.0mol%の含有量yのCo、
M’に対して0≦z≦70.0mol%の含有量zのMn、好ましくは0≦z≦40.0mol%の含有量zのMn、
M’に対して0≦a≦2.0mol%の含有量aの、Li、O、Ni、Co、Mn、Al、及びB以外の元素、及び
M’に対して0.01≦b≦1.6mol%の含有量bのB、
M’に対して0.00≦c≦2.0mol%の含有量cのAl、
M’に対して0.00≦d≦2.0mol%の含有量dのW、を含み、
x、y、z、a、b、c、及びdは、ICP-OESによって測定され、
x+y+z+a+b+c+dは、100.0mol%であり、
正極活物質は、
【0035】
【数5】
として定義されるB含有量Bを有し、
正極活物質は、B含有量Bを有し、Bは、XPS分析によって決定され、Bは、XPS分析によって測定されたNi、Mn、Co、B、Al、及びWのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比B/B>10.0であり、かつ、
上記物質は、単結晶粉末である。
【0036】
単結晶粉末の概念は正極活物質の技術分野においてよく知られている。これは、主に単結晶性粒子を有する粉末に関する。このような粉末は、主に多結晶である粒子から作られる多結晶粉末と比較すると、別個の種類の粉末である。当業者は、顕微鏡画像に基づいて、そのようなこれら2つのクラスの粉末を容易に区別することができる。
【0037】
単結晶粒子はまた、当該技術分野において、モノリシック粒子、一体粒子又は及びモノ結晶粒子としても知られている。
【0038】
当業者はSEMを用いてそのような粉末を容易に認識することができることから、単結晶粉末の技術的な定義は不要であるが、本発明の文脈において、単結晶粉末はその中の粒子数の80%以上が単結晶粒子である粉末として定義されると考えてもよい。これは、少なくとも45μm×少なくとも60μm(すなわち、少なくとも2700μm)、好ましくは少なくとも100μm×100μm(すなわち、少なくとも10,000μm)の視野を有するSEM画像で決定することができる。
【0039】
単結晶粒子とは、個々の結晶であるか、又は5個未満、好ましくは最大3個のそれ自体が個々の結晶である一次粒子から形成された粒子である。これは、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)(SEM)のような適切な顕微鏡技術で粒界を観察することによって観察することができる。
【0040】
粒子が単結晶粒子であるかどうかの決定において、レーザー回折によって決定される粉末のメジアン径D50の20%よりも小さい、SEMによって観察される最大直線寸法を有する粒は無視される。これによって、本質的には単結晶であるが、いくつかの非常に小さい他の粒、例えば多結晶のコーティングがそれらの上に堆積し得る粒子が単結晶粒子ではないと不注意に見なされることを回避する。
【0041】
XPS分析は、粒子の外周から約10nmの侵入深さで粒子の最上層における元素の原子含有量を提供する。粒子の外周は、「表面」とも呼ばれる。
【0042】
正極活物質粒子の組成は、ICP-OES(誘導結合プラズマ発光分析、以下ICPとも呼ぶ)及びIC(イオンクロマトグラフィー)などの既知の分析方法によって決定される元素の化学量論に従って、一般式Li1+b(NiMnCo1-bにおける添え字a、x、y、z、a、及びdとして表すことができる。ICP分析は、正極活物質粒子中の元素の重量分率を提供する。
【0043】
本発明の枠組みにおいて、原子%は、原子百分率を意味する。所与の元素の濃度表現としての原子%又は「原子パーセント」は、当該化合物中の全ての原子のうち何パーセントが上記元素の原子であるかを意味する。更に、本発明の枠組みにおいて、原子%での表示はmol%又は「モルパーセント」に等しい。
【0044】
好ましくは、正極活物質は、ICP-OESで測定したときに、M’に対して、少なくとも50.0mol%、少なくとも55.0mol%、又は更に少なくとも60.0mol%のニッケル含有量xを有する。
【0045】
好ましくは、正極活物質は、ICP-OESで測定したときに、M’に対して、多くとも95.0mol%、多くとも92.0mol%、又は更に多くとも91.0mol%のニッケル含有量xを有する。
【0046】
好ましくは、正極活物質は、M’に対して、50.0≦x≦70.0、好ましくは55.0≦x≦70.0、より好ましくは58.0≦x≦68.0のニッケル含有量xを有する。
【0047】
好ましくは、正極活物質は、M’に対して、70.0<x≦95.0、好ましくは75.0≦x≦90.0、より好ましくは78.0≦x≦88.0のニッケル含有量xを有する。
【0048】
好ましくは、正極活物質は、ICP-OESで測定したときに、M’に対して、少なくとも0.0mol%、少なくとも1.0mol%、又は更に少なくとも3.0mol%のコバルト含有量yを有する。
【0049】
好ましくは、正極活物質は、ICP-OESで測定したときに、M’に対して、多くとも40.0mol%、多くとも30.0mol%、又は更に多くとも20.0mol%のコバルト含有量yを有する。
【0050】
特定の好ましい実施形態では、正極活物質は、ICP-OESで測定したときに、M’に対して、多くとも20.0mol%、多くとも15.0mol%、又は更に多くとも15.0mol%のコバルト含有量yを有する。
【0051】
特定の好ましい実施形態では、正極活物質は、コバルト含有量yを有し、ICP-OESによって測定したときに、M’に対して、0.0mol%≦y≦20.0mol%、好ましくは1.0mol%≦y≦15.0mol%、より好ましくは3.0mol%≦y≦10.0mol%である。
【0052】
好ましくは、正極活物質は、ICP-OESで測定したときに、M’に対して、少なくとも0.0mol%、少なくとも3.0mol%、又は更に少なくとも5.0mol%のマンガン含有量zを有する。
【0053】
好ましくは、正極活物質は、ICP-OESで測定したときに、M’に対して、多くとも70.0mol%、多くとも50.0mol%、又は更に多くとも30.0mol%のマンガン含有量zを有する。
【0054】
特定の好ましい実施形態では、正極活物質は、ICP-OESで測定したときに、M’に対して、多くとも20.0mol%、多くとも15.0mol%、又は更に多くとも10.0mol%のマンガン含有量zを有する。
【0055】
特定の好ましい実施形態では、正極活物質は、ICP-OESによって測定したときに、M’に対して、0.0mol%≦z≦20.0mol%、好ましくは1.0mol%≦z≦15.0mol%、より好ましくは3.0mol%≦z≦10.0mol%であるマンガン含有量zを有する。
【0056】
好ましくは、正極活物質は、ICP-OESで測定したときに、M’に対して、少なくとも0.01mol%、少なくとも0.05mol%、又は更に少なくとも0.1mol%のホウ素含有量bを有する。
【0057】
好ましくは、正極活物質は、M’に対して、多くとも1.6mol%、より好ましくは多くとも1.5mol%、更により好ましくは多くとも1.4mol%、最も好ましくは多くとも1.3mol%、又は特に好ましくは多くとも1.2mol%のホウ素含有量bを有する。
【0058】
好ましくは、リチウムと、ニッケル、マンガン、及び/又はコバルトの総モル量とのモル比が、0.95≦Li:Me≦1.10であって、Meは、Ni、Mn、及び/又はCoの総モル分率である、正極活物質。
【0059】
好ましくは、正極活物質は、B/B>30.0、より好ましくはB/B>35.0、更により好ましくはB/B≧40.0、最も好ましくはB/B>60.0を有する。
【0060】
好ましくは、B/B<300.0、より好ましくはB/B≦200.0である。
【0061】
好ましくは、上記正極活物質は、ICP-OESによって測定したときにM’に対して0.01mol%≦c≦1.5mol%の含有量cのAlを含む。
【0062】
好ましくは、正極活物質は、
【0063】
【数6】
として定義されるAl含有量Alを有し、
正極活物質は、XPS分析によって決定されたAl含有量Alを有し、Alは、XPS分析によって測定されたCo、Mn、Ni、Al、B、及びWのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比Al/Al>10.0である。
【0064】
好ましくは、Al/Al>20.0である。
【0065】
より好ましくは、Al/Al>25.0、最も好ましくはAl/Al≧30.0である。
【0066】
好ましくは、Al/Al<300.0、より好ましくはAl/Al≦200.0である。
【0067】
好ましくは、上記正極活物質は、ICP-OESによって測定したときに、M’に対して0.01mol%≦d≦2.0mol%の含有量dのWを含む。
【0068】
好ましくは、正極活物質は、
【0069】
【数7】
として定義されるW含有量Wを有し、正極活物質は、XPS分析によって決定されたW含有量Wを有し、Wは、XPS分析によって測定されたCo、Mn、Ni、Al、B、及びWのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比W/W>10.0である。
【0070】
好ましくは、W/W>20.0である。
【0071】
より好ましくは、W/W>25.0、最も好ましくは、W/W≧30.0である。
【0072】
好ましくは、W/W<300.0、より好ましくはW/W≦200.0である。
【0073】
好ましい実施形態では、Li、O、Ni、Co、Mn、Al、及びB以外の元素は、Ba、Ca、Cr、Fe、Mg、Mo、Nb、S、Si、Sr、Ti、Y、V、Zn、及びZr、好ましくはCr、Nb、S、Si、Y、及びZr、より好ましくはNb及びZrからなる群から選択される1つ以上の元素である。
【0074】
特定の好ましい実施形態は、Li、O、Ni、Co、Mn、Al、及びB以外の元素が、a>0.0mol%、好ましくはa≧0.25mol%、より好ましくはa≧0.5mol%の含有量aである、本発明の正極活物質である。好ましい実施形態では、含有量は、a<2.0mol%、好ましくはa≦1.75mol%、より好ましくはa≦1.5mol%である。好ましい実施形態では、含有量は、0.0mol%<a<2.0mol%、好ましくは0.25mol%≦a≦1.75mol%、より好ましくは0.5mol%≦a≦1.5mol%である。
【0075】
特定の好ましい実施形態では、正極活物質は、Li、M’、及び酸素を含み、M’は、
M’に対して50.0mol%~95.0mol%の含有量xのNi、
M’に対して0≦y≦40.0mol%の含有量yのCo、
M’に対して0≦z≦70.0mol%の含有量zのMn、好ましくは0≦z≦40.0mol%の含有量zのMn、
M’に対して0≦a≦2.0mol%の含有量aの、Li、O、Ni、Co、Mn、Al、及びB以外の元素、及び
M’に対して0.01≦b≦1.6mol%の含有量bのB、
M’に対して0.00≦c≦2.0mol%の含有量cのAl、
M’に対して0.00≦d≦2.0mol%の含有量dのW、を含み、
x、y、z、a、b、c、及びdは、ICP-OESによって測定され、
x+y+z+a+b+c+dは、100.0mol%であり、
正極活物質は、
【0076】
【数8】
として定義されるB含有量Bを有し、
正極活物質は、B含有量Bを有し、Bは、XPS分析によって決定され、Bは、XPS分析によって測定されたNi、Mn、Co、B、Al、及びWのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比B/B>10.0であり、
上記物質は、単結晶粉末である。
【0077】
特定の好ましい実施形態では、Li、O、Ni、Co、Mn、Al、W及びB以外の元素は、Ba、Ca、Cr、Fe、Mg、Mo、Nb、S、Si、Sr、Ti、Y、V、Zn、及びZr、好ましくはCr、Nb、S、Si、Y及びZr、より好ましくはNb及びZrからなる群から選択される1つ以上の元素である。
【0078】
特定の好ましい実施形態は、Li、O、Ni、Co、Mn、Al、W及びB以外の元素が、a>0.0mol%、好ましくはa≧0.25mol%、より好ましくはa≧0.5mol%の含有量aである、本発明による正極活物質である。好ましい実施形態では、含有量は、a<2.0mol%、好ましくはa≦1.75mol%、より好ましくはa≦1.5mol%である。好ましい実施形態では、含有量は、0.0mol%<a<2.0mol%、好ましくは0.25mol%≦a≦1.75mol%、より好ましくは0.5mol%≦a≦1.5mol%である。
【0079】
当業者に理解されるように、定義された比Al/Al、B/B及びW/Wは、正極活物質の表面層中に増量されたAl、B及び/又はWを有する正極活物質を表す。言い換えれば、本発明の正極活物質は、Al、B及び/又はWのコーティング層を含む。
【0080】
本発明の文脈において、正極活物質は、Li、O、Ni、Co、Mn、Al、W及びB以外の元素を含む更なるコーティング層を含んでもよく、ここで、Li、O、Ni、Co、Mn、Al、W及びB以外の元素は、Ba、Ca、Cr、Fe、Mg、Mo、Nb、S、Si、Sr、Ti、Y、V、Zn、及びZr、好ましくはCr、Nb、S、Si、Y及びZr、より好ましくはNb及びZrからなる群から選択される少なくとも1つの元素であり、Al、B及び/又はWのコーティング層が上記更なるコーティング層上に配置されてもよく、及び/又は更なるコーティング層がAl、B及び/又はWのコーティング層上に配置されてもよく、及び/又は正極活性層がAl、B及び/又はWのコーティング層と更なるコーティング層とを含む混合コーティング層を含んでもよい。
【0081】
好ましくは、上記正極活物質は、典型的には、レーザー回折によって決定された2.0μm~10.0μmのメジアン粒径(d50又はD50)を有する。メジアン粒径(d50又はD50)は、Malvern Mastersizer 3000を用いて測定することができる。好ましくは、上記メジアン粒径は、2.0μm~9.0μm、より好ましくは3.0μm~8.0μmである。
【0082】
好ましくは、固体充電式電池は硫化物系固体電池である。
【0083】
カソライト
第2の態様において、本発明は、正極活物質と固体電解質とを含む固体充電式電池のためのカソライト又は複合正極活物質を提供し、正極活物質は、本発明の第1の態様に記載の正極活物質に従う。
【0084】
本発明の文脈において、カソライト又は複合正極活物質は互換可能な用語であり、両方とも正極活物質と固体電解質とを含む複合材を指す。
【0085】
好ましくは、固体電解質は硫黄系電解質である。好適な硫黄系電解質としては、リチウム電池分野で使用される任意のものを挙げることができる。市販されている任意の硫黄系電解質、又は好適な硫黄系電解質は、非晶質硫化物含有化合物を結晶化することによって製造されてもよく、好適に使用できる。典型的には、LiPSCl(LPSCL)、チオ-LISICON(Li3.25Ge0.250.75)、LiS-P-LiCl、LiCS-SiS、LiI-LiS-SiS、Li-P-LiCl、LiCS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-Li SP、LiI-LiPO-P、LiS-P、LiPS、Li11、LiI-LiS-B、LiPO-LiS-SiS、LiPOLiS-SiS、LiPO-LiS-SiS、Li10GeP12、Li9.54Si1.741.4411.7Cl0.3、及び/又はLi11の硫黄含有化合物を好適に使用できる。あるいは、LiPSX[XはF、Br、Cl又はI、好ましくはBr又はClである];チオ-LISICON(Li3.25Ge0.250.75)、LiS-P-LiCl、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiS-P-LiCl、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P、LiPS、Li11、LiI-LiS-B、LiPO-LiS-SiS、LiPO-LiS-SiS、LiPO-LiS-SiS、Li10GeP12、Li9.54Si1.741.4411.7Cl0.3、及び/又はLi11の硫黄含有化合物を好適に使用できる。
【0086】
好ましくは、固体充電式電池は硫化物系固体電池である。
【0087】
正極
第3の態様において、本発明は、本発明の第1の態様に記載の正極活物質を含む、固体充電式電池用正極を提供する。
【0088】
好ましくは、固体充電式電池は硫化物系固体電池である。
【0089】
電気化学セル
第4の態様では、本発明は、本発明の第1の態様に記載の正極活物質を含む、固体充電式電池を提供する。
【0090】
好ましくは、固体充電式電池は硫化物系固体電池である。
【0091】
好ましい実施形態では、固体電池は、硫化物系電解質を含む。好ましくは、上記電解質は硫化物系固体電解質であり、より好ましくは、電解質はLi、P、及びSを含む。典型的には、LiPS[XはF、Br、Cl又はI、好ましくはBr又はClである];チオ-LISICON(Li3.25Ge0.250.75)、LiS-P2S-LiCl、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiS-P-LiCl、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P、LiPS、Li11、LiI-LiS-B、LiPO-LiS-SiS、LiPO-LiS-SiS、LiPO-LiS-SiS、Li10GeP12、Li9.54Si1.741.4411.7Cl0.3、及び/又はLi11の硫黄含有化合物を好適に使用できる。非常に好ましい実施形態では、電池は硫化物固体電池である。
【0092】
好ましくは、固体電池は、アノード活物質を含むアノードを更に含む。好適な電気化学的に活性なアノード物質は、当該技術分野で既知のものである。例えば、アノードは、グラファイトカーボン、金属リチウム、又はLi-In合金などのリチウムを含む金属合金を、アノード活物質として含み得る。
【0093】
第5の態様では、本発明は、ポータブルコンピュータ、タブレット、携帯電話、電動ビークル、及びエネルギー貯蔵システムのうちのいずれか1つの、本発明の第4の態様による電池の使用を提供する。
【0094】
1.分析方法の記述
1.1.誘導結合プラズマ
正極活物質粉末の組成は、Agilent 720 ICP-OESを使用して誘導結合プラズマ(ICP)法によって測定される。1グラムの粉末サンプルを、三角フラスコ(Erlenmeyer flask)内の50mLの高純度塩酸(溶液の総重量に対して少なくとも37重量%のHCl)に溶解する。粉末が完全に溶解するまで、フラスコを時計皿で覆い、380℃で、ホットプレート上で加熱する。室温まで冷却した後、三角フラスコからの溶液を第1の250mLのメスフラスコに注ぐ。その後、第1のメスフラスコの250mLを標線まで脱イオン水で充填し、続いて、完全な均質化法(1回目の希釈)を実施する。第1のメスフラスコからピペットで適切な量の溶液を取り出し、2回目の希釈のために第2の250mLメスフラスコに移し、第2のメスフラスコを250mLの標線まで内部標準要素及び10%塩酸で充填した後、均質化させる。最後に、この溶液をICP測定に使用する。
【0095】
1.2.粒径分布
正極活物質粉末の粒径分布(PSD)は、各々の粉末サンプルを水性媒体中に分散させた後、Hydro MV湿式分散付属品を備えたMalvern Mastersizer 3000を使用して、レーザー回折粒径分析により測定される。粉末の分散を改善するために、十分な超音波照射及び撹拌を適用し、適切な界面活性剤を導入する。D50は、Hydro MV測定値によるMalvern Mastersizer 3000から得られた累積体積%分布の50%における粒径として定義される。
【0096】
1.3.硫化物固体充電式電池試験
1.3.1.硫化物固体充電式電池の調製
正極の調製:
正極の調製のために、酢酸ブチル溶媒中に、正極活物質粉末、Li-P-S系固体電解質、カーボン(Super-P,Timcal)、及び結合剤(RC-10,Arkema)を重量で64.0:30.0:3.0:3.0の配合で含有するスラリーを、Ar充填グローブボックス内で混合する。スラリーをアルミニウム箔の片面にキャストし、続いてスラリーがコーティングされた箔を真空オーブンで乾燥して正極を得る。得られた正極を直径10nmに打ち抜き、ここで、活物質の担持量はおよそ4mg/cmである。
【0097】
負極の調製:
負極の調製のために、In箔(直径10nm、厚さ100μm)の上の中心にLi箔(直径3mm、厚さ100μm)を置き、プレスして、Li-In合金負極を形成する。
【0098】
セパレータ
電池における固体電解質の機能も有するセパレータの調製のために、Li-P-S系固体電解質を250MPaの圧力でペレット化し、100μmのペレット厚さを得る。
【0099】
セルの組み立て
硫化物固体充電式電池を、アルゴン充填グローブボックス内で、下から上に、上部にコーティングされた部分を有するAl集電体を備える正極-セパレータ-Li側を上にした負極-Cu集電体の順序で組み立てる。積み重ねた構成要素を、250MPaの圧力で一緒にプレスし、空気曝露を防ぐために外部ケージ内に配置する。
【0100】
1.3.2.試験方法
試験方法は、従来の「定カットオフ電圧」試験である。本発明の従来のセル試験は表1に示したスケジュールに従う。各セルを、Toscat-3100コンピュータ制御ガルバノスタットサイクリングステーション(galvanostatic cycling station)(Toyo製)を使用して、60℃でサイクルする。このスケジュールでは、1Cの電流を160mA/gと定めて使用する。初期充電容量(CQ1)及び初期放電容量(DQ1)を、4.3V~2.5V(Li/Li)又は3.7V~1.9V(InLi/Li)の電圧範囲において、0.1CのCレートで、定電流モード(CC)で測定する。DQ5は、第5サイクルの放電容量である。
【0101】
【表1】
【0102】
1.4.X線光電子分光法(XPS)
本発明では、X線光電子分光法(X-ray photoelectron spectroscopy)(XPS)を使用して、正極活物質粉末粒子の表面を分析する。XPS測定では、シグナルは、サンプルの最上部の最初の数ナノメートル(例えば、1nm~10nm)、すなわち表面層から取得される。したがって、XPSによって測定される全ての元素は、表面層に含有されている。
【0103】
正極活物質粉末粒子の表面分析では、XPS測定は、ThermoK-α+分光計を使用して行われる。単色Al Kα放射線(hυ=1486.6eV)は、400μmのスポットサイズ及び45°の測定角度で使用される。表面に存在する元素を同定するための広範な調査スキャンを、200eVのパスエネルギーで実施する。284.8eVの結合エネルギーに最大強度(又は中心)を有するC1sピークは、データ収集後のキャリブレーションピーク位置として使用される。その後、同定された各元素に対して、50eVにて正確なナロースキャンが少なくとも10回スキャンされ、正確な表面組成が決定される。
【0104】
曲線フィッティングは、CasaXPSバージョン2.3.19PR1.0で、シャーリー型バックグラウンド処理及びScofield感度係数を使用して行われる。フィッティングパラメータは表2aに従う。線形状GL(30)は、70%ガウス線及び30%ローレンツ線におけるガウス/ローレンツ積公式である。LA(α、β、m)は非対称な線形状であり、式中、α及びβはピークのテール広がりを定義し、mは幅を定義する。
【0105】
【表2】
【0106】
Al、Co及びWピークについては、表2bに従って各々定義されたピークに関する制約が、設定される。Ni3p及びW5p3は、定量されていない。
【0107】
【表3】
【0108】
XPSによって決定されたAl、B、及びWの表面含有量は、粒子の表面層中のAl、B、及びWのそれぞれの、上記表面層中のNi、Mn、Co、Al、B、及びWの合計含有量で割られたモル分率として表される。これは以下のように計算される。
Al=Al(原子%)/(Ni(原子%)+Mn(原子%)+Co(原子%)+B(原子%)+Al(原子%)+W(原子%))100
=B(原子%)/(Ni(原子%)+Mn(原子%)+Co(原子%)+B(原子%)+Al(原子%)+W(原子%))100
=W(原子%)/(Ni(原子%)+Mn(原子%)+Co(原子%)+B(原子%)+Al(原子%)+W(原子%))100
【実施例
【0109】
1.分析方法の説明
1.1.誘導結合プラズマ
正極活物質粉末の組成は、Agilent 720 ICP-OESを使用して誘導結合プラズマ(ICP)法によって測定される。1グラムの粉末サンプルを、三角フラスコ(Erlenmeyer flask)内の50mLの高純度塩酸(溶液の総重量に対して少なくとも37重量%のHCl)に溶解する。粉末が完全に溶解するまで、フラスコを時計皿で覆い、380℃で、ホットプレート上で加熱する。室温まで冷却した後、三角フラスコからの溶液を第1の250mLのメスフラスコに注ぐ。その後、第1のメスフラスコの250mLを標線まで脱イオン水で充填し、続いて、完全な均質化法(1回目の希釈)を行った。第1のメスフラスコからピペットで適切な量の溶液を取り出し、2回目の希釈のために第2の250mLメスフラスコに移し、第2のメスフラスコを250mLの標線まで内部標準要素及び10%塩酸で充填した後、均質化させる。最後に、この溶液をICP測定に使用する。
【0110】
1.2.粒径分布
正極活物質粉末の粒径分布(PSD)は、各々の粉末サンプルを水性媒体中に分散させた後、Hydro MV湿式分散付属品を備えたMalvern Mastersizer 3000を使用してレーザー回折粒径分析により測定される。粉末の分散を改善するために、十分な超音波照射及び撹拌を適用し、適切な界面活性剤を導入する。D50は、Hydro MV測定値によるMalvern Mastersizer 3000から得られた累積体積%分布の50%における粒径として定義される。
【0111】
1.3.硫化物固体充電式電池試験
1.3.1.硫化物固体充電式電池の調製
正極の調製:
正極の調製のために、酢酸ブチル溶媒中に、正極活物質粉末、Li-P-S系固体電解質、カーボン(Super-P,Timcal)、及び結合剤(RC-10,Arkema)を重量で64.0:30.0:3.0:3.0の配合で含有するスラリーを、Ar充填グローブボックス内で混合する。スラリーをアルミニウム箔の片面にキャストし、続いてスラリーがコーティングされた箔を真空オーブンで乾燥して正極を得る。得られた正極を直径10nmに打ち抜き、ここで、活物質の担持量はおよそ4mg/cmである。
【0112】
負極の調製:
負極の調製のために、In箔(直径10nm、厚さ100μm)の上の中心にLi箔(直径3mm、厚さ100μm)を置き、プレスして、Li-In合金負極を形成する。
【0113】
セパレータ
電池における固体電解質の機能も有するセパレータの調製のために、Li-P-S系固体電解質を250MPaの圧力でペレット化し、100μmのペレット厚さを得る。
【0114】
セルの組み立て
硫化物固体充電式電池を、アルゴン充填グローブボックス内で、下から上に、上部にコーティングされた部分を有するAl集電体を備える正極-セパレータ-Li側を上にした負極-Cu集電体の順序で組み立てる。積み重ねた構成要素を、250MPaの圧力で一緒にプレスし、空気曝露を防ぐために外部ケージ内に配置する。
【0115】
1.3.2.試験方法
試験方法は、従来の「定カットオフ電圧」試験である。本発明の従来のセル試験は表1に示したスケジュールに従う。各セルを、Toscat-3100コンピュータ制御ガルバノスタットサイクリングステーション(galvanostatic cycling station)(Toyo製)を使用して、60℃でサイクルする。このスケジュールでは、1Cの電流を160mA/gと定めて使用する。初期充電容量(CQ1)及び放電容量(DQ1)を、4.3V~2.5V(Li/Li)又は3.7V~1.9V(InLi/Li)の電圧範囲において、0.1CのCレートで、定電流モード(CC)で測定する。DQ5は、第5サイクルの放電容量である。
【0116】
【表4】
【0117】
1.4.X線光電子分光法(XPS)
本発明では、X線光電子分光法(X-ray photoelectron spectroscopy)(XPS)を使用して、正極活物質粉末粒子の表面を分析する。XPS測定では、シグナルは、サンプルの最上部、すなわち、表面層の最初の数ナノメートル(例えば、1nm~10nm)から取得される。したがって、XPSによって測定される全ての元素は、表面層に含有されている。
【0118】
正極活物質粉末粒子の表面分析では、XPS測定は、Thermo K-α+分光計を使用して行われる。単色Al Kα放射線(hυ=1486.6eV)は、400μmのスポットサイズ及び45°の測定角度で使用される。表面に存在する元素を同定するための広範な調査スキャンを、200eVのパスエネルギーで実施する。284.8eVの結合エネルギーに最大強度(又は中心)を有するC1sピークは、データ収集後のキャリブレーションピーク位置として使用される。その後、同定された各元素に対して、50eVにて正確なナロースキャンが少なくとも10回スキャンされ、正確な表面組成が決定される。
【0119】
曲線フィッティングは、CasaXPSバージョン2.3.19PR1.0で、シャーリー型バックグラウンド処理及びScofield感度係数を使用して行われる。フィッティングパラメータは表2aに従う。線形状GL(30)は、70%ガウス線及び30%ローレンツ線におけるガウス/ローレンツ積公式である。LA(α、β、m)は非対称な線形状であり、式中、α及びβはピークのテールの広がりを定義し、mは幅を定義する。
【0120】
【表5】
【0121】
Al、Co及びWピークについては、表2bに従って各々定義されたピークに関する制約が、設定される。Ni3p及びW5p3は、定量されていない。
【0122】
【表6】
【0123】
XPSによって測定されたAl、B、及びWの表面含有量は、粒子の表面層中のAl、B、及びWのそれぞれのモル分率を、上記表面層中のNi、Mn、Co、Al、B、及びWの合計含有量で割ったものとして表される。これは以下のように計算される。
Al=Al(原子%)/(Ni(原子%)+Mn(原子%)+Co(原子%)+B(原子%)+Al(原子%)+W(原子%))100
=B(原子%)/(Ni(原子%)+Mn(原子%)+Co(原子%)+B(原子%)+Al(原子%)+W(原子%))100
=W(原子%)/(Ni(原子%)+Mn(原子%)+Co(原子%)+B(原子%)+Al(原子%)+W(原子%))100
【0124】
2.実施例及び比較例
比較例1
CEX1と標識される多結晶正極活物質を以下のステップに従って調製する。
ステップ1)遷移金属酸化水酸化物前駆体の調製:金属組成Ni0.63Mn0.17Co0.20を有するニッケル系遷移金属酸化水酸化物粉末(TMH1)を、混合したニッケルマンガンコバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを入れた大規模連続撹拌槽反応器(CSTR)内での共沈法によって調製した。
ステップ2)第1の混合:ステップ1)で調製されたTMH1と、リチウム源としてのLiOHとを、1.03のリチウム対金属(Ni、Mn及びCo)比で工業用ブレンド装置内において均質に混合し、第1の混合物を得た。
ステップ3)第1の加熱:ステップ2)からの第1の混合物を、酸素雰囲気下、860℃にて10時間加熱した。加熱生成物を粉砕し、分級し、篩分けすることにより、第1の加熱生成物を得た。
ステップ4)第2の混合:ステップ3)からの第2の加熱生成物を、B源としてのHBOと混合して、500ppmのBを含む第2の混合物を得た。
ステップ5)第2の加熱:ステップ4)からの第2の混合物を、酸素雰囲気下、350℃で7時間加熱して、ICP-OESによって得られるNi:Mn:Coの比が0.636:0.162:0.197であるNi、Mn及びCoを含むCEX1を得た。CEX1は10μmのD50を有する。
【0125】
実施例1
EX1と標識される単結晶正極活物質を以下のステップに従って調製する。
ステップ1)遷移金属酸化水酸化物前駆体の調製:金属組成Ni0.63Mn0.22Co0.15を有するニッケル系遷移金属酸化水酸化物粉末(TMH2)を、混合したニッケルマンガンコバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを入れた大規模連続撹拌槽反応器(CSTR)内での共沈法によって調製した。
ステップ2)第1の混合:ステップ1)で調製されたTMH2と、LiCOとを工業用ブレンダー内で混合して、リチウム対金属(Ni、Mn、及びCo)の比が0.85である第1の混合物を得た。
ステップ3)第1の加熱:ステップ2)からの第1の混合物を、乾燥空気雰囲気中、900℃で10時間加熱して、第1の加熱ケーキを得た。
ステップ4)第2の混合:ステップ3)からの第1の加熱ケーキと、LiOHとを工業用ブレンダー内で混合して、リチウム対金属(Ni、Mn、及びCo)の比が1.05である第2の混合物を得た。
ステップ5)第2の加熱:ステップ4)からの第2の混合物を、乾燥空気中で、950℃で10時間加熱し、続いて、湿式ミリング、乾燥、及び篩分けプロセスによって、第2の加熱生成物を得た。
ステップ6)第3の混合:ステップ5)からの第2の加熱生成物を、それぞれNi、Mn、及びCoの総モル含有量に対して2mol%のCo及び5mol%のLiOHと混合して、第3の混合物を得た。
ステップ7)第3の加熱:ステップ6)からの第3の混合物を、乾燥空気中で、775℃で12時間加熱して、第3の加熱生成物を製造した。
ステップ8)第4の混合:ステップ7)からの第3の加熱生成物を、B源としてのHBOと混合して、500ppmのBを含む第4の混合物を得た。
ステップ9)第4の加熱:ステップ8)からの第4の混合物を、酸素雰囲気下、350℃で7時間加熱して、ICP-OESによって得られるNi:Mn:Coの比が0.61:0.22:0.17であるNi、Mn、及びCoを含むEX1を得た。EX1は7μmのD50を有する。
【0126】
ステップ5)における湿式ミリングにより、EX1は、単結晶粉末である。
【0127】
比較例2
CEX2.1と標識される多結晶正極活物質を以下のステップに従って調製する。
ステップ1)遷移金属酸化水酸化物前駆体の調製:金属組成Ni0.83Mn0.12Co0.05を有するニッケル系遷移金属酸化水酸化物粉末(TMH3)を、混合したニッケルマンガンコバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを入れた大規模連続撹拌槽反応器(CSTR)内での共沈法によって調製した。
ステップ2)第1の混合:ステップ1)で調製されたTMH3と、LiOHとを工業用ブレンダー内で混合して、リチウム対金属(Ni、Mn、及びCo)の比が0.975である第1の混合物を得た。
ステップ3)第1の加熱:ステップ2)からの第1の混合物を、酸化雰囲気中、765℃で10時間加熱して、第1の加熱生成物を得、続いて、ミリング及び篩分けを実施した。
ステップ4)第2の混合:ステップ3)からの第1の加熱生成物と、リチウム源としてのLiOHとを、1.03のリチウム対金属(Ni、Mn、及びCo)比で工業用ブレンド装置内において均質に混合して、第2の混合物を得た。
ステップ5)第2の加熱:ステップ4)からの第2の混合物を、酸素雰囲気下、770℃で12時間加熱して、第2の加熱生成物を得た。
ステップ6)第3の混合:ステップ5)からの第2の加熱生成物を、B源としてのHBOと混合して、500ppmのBを含む第3の混合物を得た。
ステップ7)第3の加熱:ステップ6)からの第3の混合物を、酸素雰囲気下、350℃で7時間加熱して、ICP-OESによって得られるNi:Mn:Coの比が0.826:0.120:0.050であるNi、Mn、及びCoを含むCEX2.1を得た。CEX2.1は6μmのD50を有する。
【0128】
CEX2.2は、ステップ6)においてより多くのHBO粉末を添加して1000ppmのBを含む第3の混合物を得ることを除いて、CEX2.1と同じ方法に従って調製する。
【0129】
実施例2
EX2.1と標識される単結晶正極活物質を以下のステップに従って調製する。
ステップ1)遷移金属酸化水酸化物前駆体の調製:金属組成Ni0.86Mn0.07Co0.07を有するニッケル系遷移金属酸化水酸化物粉末(TMH4)を、混合したニッケルマンガンコバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを入れた大規模連続撹拌槽反応器(CSTR)内での共沈法によって調製した。
ステップ2)前駆体酸化:ステップ1)で調製されたTMH4を、酸化雰囲気中、400℃で7時間加熱して、加熱生成物を得た。
ステップ3)第1の混合:ステップ2)で調製された加熱生成物と、LiOHとを工業用ブレンダー内で混合して、リチウム対金属(Ni、Mn、及びCo)の比が0.96である第1の混合物を得た。
ステップ4)第1の加熱:ステップ3)からの第1の混合物を、酸化雰囲気中、890℃で11時間加熱して、第1の加熱生成物を得た。
ステップ5)湿式ビーズミリング:ステップ4)からの第1の加熱生成物を、第1の加熱生成物中のNi、Mn、及びCoの総モル含有量に対して0.5mol%のCoを含有する溶液中でビーズミリングし、続いて、乾燥及び篩分け処理してミリング生成物を得た。ビーズミリングの固体対溶液の重量比は6:4であり、20分間実施した。
ステップ6)第2の混合:ステップ5)で得られたミリング生成物を、工業用ブレンダー内で、それぞれがミリング生成物中のNi、Mn及びCoの総モル含有量に対して1.5mol%のCo由来Co及び7.5mol%のLiOH由来Liと混合して、第2の混合物を得た。
ステップ7)第2の加熱:ステップ6)からの第2の混合物を、酸化雰囲気中、760℃で10時間加熱し、続いて、250ppmのアルミナ粉末と共に粉砕及び篩分けして、第2の加熱生成物を得た。
ステップ8)第3の混合:ステップ7)からの第2の加熱生成物を、B源としてのHBOと混合して、500ppmのBを含む第3の混合物を得た。
ステップ9)第3の加熱:ステップ8)からの第3の混合物を、酸素雰囲気下、350℃で7時間加熱して、ICP-OESによって得られるNi:Mn:Coの比が0.84:0.07:0.09であるNi、Mn、及びCoを含むEX2.1を得た。EX2.1は4μmのD50を有する。
【0130】
ステップ5)における湿式ミリングにより、EX2.1は、単結晶粉末である。
【0131】
EX2.2は、ステップ8)においてより多くのHBO粉末を添加して900ppmのBを含む第3の混合物を得ることを除いて、EX2.1と同じ方法に従って調製する。
【0132】
EX2.3は、ステップ7)において篩分け中により多くのアルミナを添加し、及びステップ8)においてより多くのHBO粉末を添加して500ppmのAl及び1100ppmのBを含む第3の混合物を得ることを除いて、EX2.1と同じ方法に従って調製する。
【0133】
EX2.4は、ステップ7)において篩分け中により多くのアルミナを添加し、及びステップ8においてより多くのHBO粉末を添加して500ppmのAl及び1300ppmのBを含む第3の混合物を得ることを除いて、EX2.1と同じ方法に従って調製する。
【0134】
比較例3
CEX3は、ステップ7)において篩分け中により多くのアルミナを添加し、及びステップ8)においてより多くのHBO粉末を添加して500ppmのAl及び2000ppmのBを含む第3の混合物を得ることを除いて、EX2.1と同じ方法に従って調製する。
【0135】
実施例3
EX3と標識される単結晶正極活物質を以下のステップに従って調製する。
ステップ1)遷移金属酸化水酸化物前駆体の調製:金属組成Ni0.90Mn0.05Co0.05を有するニッケル系遷移金属酸化水酸化物粉末(TMH5)を、混合したニッケルマンガンコバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを入れた大規模連続撹拌槽反応器(CSTR)内での共沈法によって調製した。
ステップ2)第1の混合:ステップ1)で調製されたTMH5を、工業用ブレンダー内で、LiOH及びZrOと混合して、リチウムの金属(Ni、Mn、及びCo)に対する比が0.99であり、1000ppmのZrを有する第1の混合物を得る。
ステップ3)第1の加熱:ステップ2)からの第1の混合物を、酸化雰囲気中、890℃で11時間加熱して、第1の加熱生成物を得た。
ステップ4)湿式ビーズミリング:ステップ3)からの第1の加熱生成物を、第1の加熱生成物中のNi、Mn、及びCoの総モル含有量に対して0.5mol%のCoを含有する溶液中でビーズミリングし、続いて、乾燥及び篩分け処理してミリング生成物を得た。ビーズミリングの固体対溶液の重量比は6:4であり、20分間実施した。
ステップ5)第2の混合:ステップ4)で得られたミリング生成物を、工業用ブレンダー中で、ミリング生成物中のNi、Mn及びCoの総モル含有量に対して1.5mol%のCo由来Co及び1000ppmのZrO由来Zrと混合して、第2の混合物を得た。
ステップ6)第2の加熱:ステップ5)からの第2の混合物を、酸化雰囲気中、760℃で12時間加熱し、続いて、アルミナ(Al)粉末と共に粉砕及び篩分け処理を実施した。篩分けした粉末は500ppmのAlを含んでいた。
ステップ7)第3の混合:ステップ6)からの篩分け生成物を、B源としてのHBOと混合して、1000ppmのBを含む第3の混合物を得た。
ステップ8)第3の加熱:ステップ7)からの第3の混合物を、酸素雰囲気下、350℃で7時間加熱して、ICP-OESによって得られるNi:Mn:Coの比が0.87:0.05:0.07であるNi、Mn、及びCoを含むEX3を得た。EX3は4μmのD50を有する。
【0136】
実施例4
EX4と標識される単結晶正極活物質を以下のステップに従って調製する。
ステップ1)遷移金属酸化水酸化物前駆体の調製:金属組成Ni0.86Mn0.07Co0.07を有するニッケル系遷移金属酸化水酸化物粉末(TMH6)を、混合したニッケルマンガンコバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを入れた大規模連続撹拌槽反応器(CSTR)内での共沈法によって調製した。
ステップ2)加熱:ステップ1)で調製されたTMH6を、酸化雰囲気中、400℃で7時間加熱して、加熱生成物を得た。
ステップ3)第1の混合:ステップ2)で調製した加熱生成物と、LiOHとを工業用ブレンダー内で混合して、リチウム対金属(Ni、Mn、及びCo)の比が0.96である第1の混合物を得た。
ステップ4)第1の加熱:ステップ3)からの第1の混合物を、酸化雰囲気中、890℃で11時間加熱して、第1の加熱生成物を得た。
ステップ5)湿式ビーズミリング:ステップ4)の第1の加熱生成物を、第1の加熱生成物中のNi、Mn、及びCoの総モル含有量に対して0.5mol%のCoを含有する溶液中でビーズミリングし、続いて、乾燥及び篩分け処理してミリング生成物を得た。ビーズミリングの固体対溶液の重量比は6:4であり、20分間行う。
ステップ6)第2の混合:ステップ5)で得られたミリング生成物を、工業用ブレンダー内で、それぞれミリング生成物中のNi、Mn、及びCoの総モル含有量に対して3.0mol%のCo由来Co、4000ppmのZrO由来Zr、及び7.5mol%のLiOH由来Liと混合して、第2の混合物を得た。
ステップ7)第2の加熱:ステップ6)からの第2の混合物を、酸化雰囲気中、760℃で10時間加熱し、続いて、アルミナ(Al)粉末と共に粉砕及び篩分け処理を実施した。篩分けした粉末は500ppmのAlを含んでいた。
ステップ8)第3の混合:ステップ7)からの篩分け生成物を、B源としてのHBO及びW源としてのWOと混合して、500ppmのB及び4500ppmのWを含む第3の混合物を得た。
ステップ9)第3の加熱:ステップ8)からの第3の混合物を、酸素雰囲気下、350℃で7時間加熱して、ICP-OESによって得られるNi:Mn:Coの比が0.82:0.07:0.10であるNi、Mn、及びCoを含むEX4を得た。EX2.1は4μmのD50を有する。
【0137】
【表7】
ICP-OESで分析されたNi、Mn、Co、Al、B、及びWの総モル分率に対して算出
**XPSで分析されたNi、Mn、Co、Al、B、及びWの総モル分率に対して算出
n.a:該当なし
【0138】
表3に実施例及び比較例の組成並びに対応する電気化学的特性をまとめる。多結晶形態を有するCEX1と単結晶形態を有するEX1とは両方とも、ほぼ同量のNiとBとを含む。CEX1とEX1との間の比較は、B添加が、単結晶形態を有する正極活物質の場合に、固体充電式電池性能の改善により有益であることを示す。
【0139】
同様に、同じNi含有量を有する単結晶のEX2.1及びEX2.2は、多結晶のCEX2.1及びCEX2.2と比較して、固体充電式電池試験において高いDQ5を示す。CEX2.1と比較して、CEX2.2のDQ5が減少していることも観察される。多結晶物質への更なるBの添加は有益ではないことが示されている。
【0140】
AlとBとを含む単結晶EX2.3及びEX2.4は、全体として、CEX2.1よりも高い良好なDQ1性能を維持する。その後のAl及びBの存在も、固体充電式電池における正極活物質の電気化学的特性を改善するのに有利であることが示されている。他方で、0.18mol%のAl及び1.8mol%のBを含むCEX3は、固体充電式電池への適用に適していない。約83%のNi含有量を有する正極活物質についてのDQ5とBの量との関係を図1に示す。
【0141】
EX4は、0.18mol%のWを更に含んでおり、Ni及びB含有量がほぼ同量のCEX2.1と比較して改善されたDQ5を有する。
【0142】
表3は、Ni、Mn及びCoの総モル分率に対するAl及びBの分率を示しているEX2のXPS分析結果もまとめている。表3はまた、結果をICPの結果とも比較している。1より高い原子比は、サンプルの最上部の最初の数ナノメートル(例えば1nm~10nm)、すなわち表面層からシグナルが取得されるXPS測定に関連して、上記Al、B、及びWが正極活物質の表面に豊富であることを示唆している。一方、ICP測定から得られたAl、B、及びWの原子比は、粒子全体から得られたものである。したがって、XPSのICPに対する比が1より大きいということは、元素Al、B又はWが主に正極活物質の表面上に存在することを示している。
図1
【国際調査報告】