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特表2024-547127シーリング溶液キット、それを用いた二工程シーリング法、および物品
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  • 特表-シーリング溶液キット、それを用いた二工程シーリング法、および物品 図1
  • 特表-シーリング溶液キット、それを用いた二工程シーリング法、および物品 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】シーリング溶液キット、それを用いた二工程シーリング法、および物品
(51)【国際特許分類】
   C11D 17/08 20060101AFI20241219BHJP
   C11D 1/00 20060101ALI20241219BHJP
   C11D 3/37 20060101ALI20241219BHJP
   C11D 3/20 20060101ALI20241219BHJP
   C11D 3/32 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C11D17/08
C11D1/00
C11D3/37
C11D3/20
C11D3/32
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538172
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-06-21
(86)【国際出願番号】 CN2021140318
(87)【国際公開番号】W WO2023115366
(87)【国際公開日】2023-06-29
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391008825
【氏名又は名称】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D-40589 Duesseldorf,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,シン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,イー
(72)【発明者】
【氏名】リィ,ヤン
【テーマコード(参考)】
4H003
【Fターム(参考)】
4H003AB19
4H003AB27
4H003AC08
4H003BA12
4H003DA11
4H003DB01
4H003DC02
4H003EA05
4H003EA21
4H003EB28
4H003EB30
4H003EB34
4H003EB36
4H003FA04
4H003FA28
(57)【要約】
本発明は、中温シーリング溶液および高温シーリング溶液を含むシーリング溶液キットに関する。本発明はまた、シーリング溶液キットを用いることにより、陽極酸化アルミニウム合金表面をシーリングする方法、シーリング溶液キットにより処理され、向上した耐食性を示す表面を含む少なくとも1つの部分を有する物品、前記表面処理された物品を自動車部材として含む車両を提供する。前記表面処理された物品を含む車両は、厳しい環境条件に耐えることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)中温シーリング溶液;および
b)高温シーリング溶液
を含むシーリング溶液キットであって、
中温シーリング溶液は、中温シーリング溶液の総体積に基づいて、水;0.6~2.6g/Lのフッ化物イオン;2.0~5.0g/Lの、ニッケルイオン、コバルトイオン、クロムイオン、カドミウムイオンおよびそれらの混合物からなる群から選択される第一イオン;0.03~1.3g/Lの、ジルコニウムイオン、チタンイオン、ケイ素含有イオンおよびそれらの混合物からなる群から選択される第二イオン;有効量の界面活性剤を含み;
高温シーリング溶液は、高温シーリング溶液の総体積に基づいて、水および0.1g/L~100g/Lの水溶性ポリマーを含み、
水溶性ポリマーは、5,000g/mol~400,000g/molの重量平均分子量を有し、水溶性ポリマーは、ポリ(メタ)アクリル酸およびその誘導体、ポリエーテルおよびその誘導体、ポリアミドおよびその誘導体、ポリ(スルホン酸)およびその誘導体、並びにそれらの混合物からなる群から選択される、シーリング溶液キット。
【請求項2】
ポリ(メタ)アクリル酸誘導体は、ポリ((メチル)アクリル酸)、ポリ(アクリル酸)ナトリウム塩、ポリ(メタクリル酸)アンモニウム塩、ポリ(酢酸ビニル)、アクリル酸-2-アクリルアミノ-2-メチルプロパンスルホン酸コポリマーおよび他のアクリルポリマーを含む、請求項1に記載のシーリング溶液キット。
【請求項3】
ポリ(メタ)アクリル酸およびその誘導体は、5,000g/mol~100,000g/molの重量平均分子量を有する、請求項2に記載のシーリング溶液キット。
【請求項4】
ポリエーテル誘導体は、ポリ(エチレンオキシド)、ポリエチレングリコールを含む、請求項1に記載のシーリング溶液キット。
【請求項5】
ポリエーテルおよびその誘導体は、80,000g/mol~400,000g/molの重量平均分子量を有する、請求項4に記載のシーリング溶液キット。
【請求項6】
ポリアミド誘導体は、ポリアクリルアミド、ポリ(N-ビニルアセトアミド)および他のアミドポリマーを含む、請求項1に記載のシーリング溶液キット。
【請求項7】
ポリアミドおよびその誘導体は、8,000g/mol~100,000g/molの重量平均分子量を有する、請求項6に記載のシーリング溶液キット。
【請求項8】
ポリ(スルホン酸)誘導体は、ポリ((ビニル)スルホン酸)ナトリウム塩、ポリアクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウム塩、および他のスルホン酸ポリマーを含む、請求項1に記載のシーリング溶液キット。
【請求項9】
ポリ(スルホン酸)およびその誘導体は、100,000g/mol~300,000g/molの重量平均分子量を有する、請求項8に記載のシーリング溶液キット。
【請求項10】
高温シーリング溶液のpH値は7~12である、請求項1に記載のシーリング溶液キット。
【請求項11】
高温シーリング溶液のpH値は7.1~12である、請求項1に記載のシーリング溶液キット。
【請求項12】
水溶性ポリマーの濃度は0.1g/L~20g/Lである、請求項1に記載のシーリング溶液キット。
【請求項13】
界面活性剤は、中温シーリング溶液の総量に基づいて0.1重量%~1.75重量%の濃度で、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤およびそれらの混合物を含む、請求項1に記載のシーリング溶液キット。
【請求項14】
第一イオンは、2.1~5.0g/Lの濃度を有する二価ニッケルイオンである、請求項1に記載のシーリング溶液キット。
【請求項15】
第二イオンは、0.05~1.2g/Lの濃度を有するジルコニウムイオンである、請求項1に記載のシーリング溶液キット。
【請求項16】
中温シーリング溶液中のフッ化物イオンの濃度は0.7~2.4g/Lである、請求項1に記載のシーリング溶液キット。
【請求項17】
中温シーリング溶液のpH値は4.5~7である、請求項1に記載のシーリング溶液キット。
【請求項18】
請求項1~17のいずれかに記載のシーリング溶液キットを用いることにより、陽極酸化アルミニウム合金表面をシーリングする方法であって、
a)50~95℃の温度および4.5~7のpH値で中温シーリング溶液を前記表面に接触させる工程;
b)80℃超~100℃以上の温度および7~12のpH値で高温シーリング溶液を前記表面に接触させる工程;
c)工程(a)および(b)で形成された液層を乾燥し、処理された表面を形成する工程
を含む、方法。
【請求項19】
請求項18に記載の処理された表面を含む少なくとも1つの部分を有する物品。
【請求項20】
処理された表面は、20~23℃でのpH1およびpH13.5試験(TL 182 2012)にそれぞれ10分間別個に付した際に外観変化が起こらないことにより特徴付けられる耐食性を有する、請求項19に記載の物品。
【請求項21】
請求項19または20に記載の物品を自動車部材として含む車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中温シーリング溶液および高温シーリング溶液を含むシーリング溶液キット、並びに前記シーリング溶液キットを用いた二工程シーリング法に関する。前記シーリング溶液キットにより処理された陽極酸化アルミニウム合金表面を含む物品は、向上した耐食性を示す。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金の陽極酸化処理は一般に、アルミニウム合金の耐食性および機械的特性を向上させるために用いられている。硫酸ベースの電解液で陽極酸化処理すると、アルミニウム合金の表面上に均一で透明かつ高多孔性の酸化アルミニウムフィルムが形成される。しかし、フィルム上の細孔はアルミニウム合金の表面までほぼ広がっており、アルミニウム合金を化学腐食から保護するには不十分である。その結果、酸化アルミニウムフィルムを更にシールする必要がある。
【0003】
最も一般的に使用されているシーリング方法は、操作温度の違いに応じて、高温、中温および低温の処理に分類される。蒸気および温水を用いた高温処理は、80℃超から水の沸点以下の温度で行われ、高温処理された酸化アルミニウムフィルムは水和されて水酸化アルミニウムゲル、擬ベーマイト、および膨潤して効果的に細孔をシールする結晶性ベーマイトを形成する。中温処理は50~80℃の温度で行われ、シールには、酢酸ニッケルおよび酢酸コバルト等の加水分解性金属塩の溶液が利用される。酸化物層から温水に溶解した物質が、金属イオンと反応して固体物質を生成し、細孔をシールする。低温処理は室温から50℃未満の温度で行われ、シールには、フッ化ニッケル等の金属フッ化物が利用される。フッ化物イオンは酸化アルミニウムフィルムを溶解し、ニッケルアルミニウムフッ化物複合体として再堆積して細孔をシールする。
【0004】
幾つかの従来技術では、異なるシーリング溶液を用いた処理を組み合わせて、酸化アルミニウムフィルムのシーリングを改善する多段階シーリング法も採用されている。
【0005】
自動車の装飾部材等の外装用途のための陽極酸化アルミニウム合金は、湿気、塩および汚れ等の厳しい環境腐食に頻繁に曝される。また、広く用いられている自動車洗浄装置は、通常、高アルカリ性の媒体で車両を洗浄する。シールされたアルミニウム表面の高アルカリ性媒体との接触は、例えばアルミニウム材料で製造された自動車の窓枠トリムおよび荷物棚について、11.5~13.5のpH値を有するアルカリ性洗浄剤を車に適用する洗車時に発生する。既存のシーリング溶液および方法により処理された自動車部材の陽極酸化アルミニウム合金は、自動車産業が要求する耐食性の高い基準を満たすことができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、耐食性、特に耐酸性および耐アルカリ性に優れた高品質のシールされた陽極酸化アルミニウムフィルムを提供できると同時に、シーリング方法が完成物品の外観に影響を与えず、アルミニウム表面の望ましくない変色を防ぎ、アルミニウム基材の光沢を維持する、シーリング溶液およびシーリング方法を開発する必要がある。また、シーリング溶液は、より優れた貯蔵安定性を有することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、中温シーリング溶液および高温シーリング溶液を含むシーリング溶液キットであって、
中温シーリング溶液は、中温シーリング溶液の総体積に基づいて、水;0.6~2.6g/Lのフッ化物イオン;2.0~5.0g/Lの、ニッケルイオン、コバルトイオン、クロムイオン、カドミウムイオンおよびそれらの混合物からなる群から選択される第一イオン;0.03~1.3g/Lの、ジルコニウムイオン、チタンイオン、ケイ素含有イオンおよびそれらの混合物からなる群から選択される第二イオン;有効量の界面活性剤を含み;
高温シーリング溶液は、高温シーリング溶液の総体積に基づいて、水および0.1g/L~100g/Lの水溶性ポリマーを含み、
水溶性ポリマーは、5,000g/mol~400,000g/molの重量平均分子量を有し、水溶性ポリマーは、ポリ(メタ)アクリル酸およびその誘導体、ポリエーテルおよびその誘導体、ポリアミドおよびその誘導体、ポリ(スルホン酸)およびその誘導体、並びにそれらの混合物からなる群から選択される、シーリング溶液キットに関する。
【0008】
本発明はまた、本発明のシーリング溶液キットを用いることにより、陽極酸化アルミニウム合金表面をシーリングする方法であって、
a)50~80℃または50~95℃の温度および4.5~7のpH値で中温シーリング溶液を前記表面に接触させる工程;
b)80℃超~100℃以上の温度および7~12のpH値または7超~12のpH値で高温シーリング溶液を前記表面に接触させる工程;並びに
c)工程(a)および(b)で形成された液層を乾燥し、処理された表面を形成する工程
を含む、方法に関する。
【0009】
本発明はまた、本発明における前記処理された表面を含む少なくとも1つの部分を有する物品に関する。本発明の前記シーリング溶液キットにより、または本発明のシーリング方法により処理された表面である物品。表面処理された物品は、染色スポット試験(等級0および等級1が許容可能)および耐食試験(pH1+13.5試験後の僅かな外観変化はない、等級2~等級5は許容不可)によって実証される、優れた耐食性を有する。
【0010】
本発明はまた、前記表面処理物品を自動車部材として含む車両に関する。前記表面処理物品を備える車両は、厳しい環境条件に耐えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、染色スポット試験結果の等級区分を示す図である。
図2図2は、等級ランク付けと対応する腐食レベルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について更に詳しく説明する。記載の各実施形態は、明確に反対のことが示されていない限り、他の実施形態と組み合わせることができる。特に、好ましいまたは有利であると示された特徴は、好ましいまたは有利であると示された他の特徴と組み合わせることができる。
【0013】
本明細書において、使用される用語は、別途規定されていない限り、下記定義に従って解釈されるものとする。
【0014】
本明細書で使用されている単数形「a」、「an」および「the」は、明らかに別段の規定がない限り、単数と複数の両方の指示対象を包含する。例えば、「イオン」という言及は、1、2、またはそれ以上のイオンを有する実施形態を包含する。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される「または」という用語は、明確に別の意味を規定していない限り、一般に「および/または」を包含する意味で用いている。
【0015】
本明細書で使用される「含んでなる」、「含む」および「で構成される」という用語は、「包含してなる」、「包含する」または「含有してなる」、「含有する」と同義であり、包括的またはオープンエンドであり、追加の、記載されていない成分、要素、またはプロセスステップを除外するものではない。
【0016】
数値の終点の記載には、記載された終点だけでなく、それぞれの範囲に含まれる全ての数値と分数も含まれる。
【0017】
別途定義されていない限り、本明細書において使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。更なる指針として、本発明の教示をよりよく理解するための用語の定義が含まれる。
【0018】
本明細書では、多くの用語が使用される。
【0019】
本明細書の「中温シーリング溶液」における「中温」という用語は、50℃~95℃の温度を指す。本明細書の中温シーリングは、50~95℃の温度範囲で実施され、50~80℃よりも広い範囲で実施できる。
【0020】
「高温シーリング溶液」における「高温」という用語は、80℃超~100℃以下の温度を指す。
【0021】
「水溶性」という用語は、組成物の関連成分または材料が分子レベルで水相に溶解できることを意味し、「溶液」、「可溶性」、「均一」等の用語は、真の平衡溶液または均一性だけでなく、分散体も包含すると理解される。
【0022】
ここで使用される「ポリマー」という用語は、化学における一般的な用法と一致している。ポリマーは多くの繰り返しサブユニットで構成されている。「ポリマー」という用語は、重合反応から生成される結果物質を表すために使用されている。
【0023】
イオン形態の材料の特定は、組成物全体に電気的中性をもたらすのに十分な対イオンが存在することも意味する(このように暗黙的に特定される対イオンは、可能な限り、イオン形態で明示的に特定される他の成分の中から選択されることが好ましい;そうでなければ、本発明の目的に反する対イオンを回避する場合を除き、そのような対イオンは自由に選択され得る)。
【0024】
本明細書で使用されるアルミニウムという用語には、純金属と合金の両方が含まれ、文脈上特に必要とされていない限り、以下では単に「アルミニウム」と表記する。
【0025】
シーリング溶液キット
本発明は、中温シーリング溶液および高温シーリング溶液を含むシーリング溶液キットに関する。
【0026】
中温シーリング溶液は、中温シーリング溶液の総体積に基づいて、水;0.6~2.6g/Lのフッ化物イオン;2.0~5.0g/Lの、ニッケルイオン、コバルトイオン、クロムイオン、カドミウムイオンおよびそれらの混合物からなる群から選択される第一イオン;0.03~1.3g/Lの、ジルコニウムイオン、チタンイオン、ケイ素含有イオンおよびそれらの混合物からなる群から選択される第二イオン;有効量の界面活性剤を含む。
【0027】
高温シーリング溶液は、高温シーリング溶液の総体積に基づいて、水、および0.1g/L~100g/Lの水溶性ポリマーを含む。水溶性ポリマーは、5,000g/mol~400,000g/molの重量平均分子量を有し、水溶性ポリマーは、ポリ(メタ)アクリル酸およびその誘導体、ポリエーテルおよびその誘導体、ポリアミドおよびその誘導体、ポリ(スルホン酸)およびその誘導体、並びにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0028】
水溶性ポリマー
本発明における高温シーリング溶液は、5,000g/mol~400,000g/molの重量平均分子量を有する水溶性ポリマーを少なくとも1つ含む。水溶性ポリマーは、ポリ(メタ)アクリル酸およびその誘導体、ポリエーテルおよびその誘導体、ポリアミドおよびその誘導体、ポリ(スルホン酸)およびその誘導体、並びにそれらの混合物からなる群から選択される。本発明における水溶性ポリマーは、単独でまたは任意に組み合わせて使用され得る。
【0029】
本発明の幾つかの実施形態では、高温シーリング溶液における水溶性ポリマーの濃度は、好ましくは0.1g/L~100g/L、または0.1g/L~50g/L、または0.1g/L~20g/Lである。高温シーリング溶液における水溶性ポリマーの濃度の下限は、0.1g/L、または0.15g/L、または0.2g/L、または0.5g/L、または1.0g/L、または1.2g/L、または2.0g/L、または5.0g/L、または10.0g/Lである。フッ化物イオンの濃度の上限は、100.0g/L、または80.0g/L、または50.0g/L、または30.0g/L、または20.0g/L、または18.0g/L、または15.0g/Lである。
【0030】
本発明における「ポリ(メタ)アクリル酸」という用語は、ポリアクリル酸および/またはポリメタクリル酸を意味する。ポリ(メタ)アクリル酸誘導体は、ポリ((メチル)アクリル酸)、ポリ(アクリル酸)ナトリウム塩、ポリ(メタクリル酸)アンモニウム塩、ポリ(酢酸ビニル)、アクリル酸-2-アクリルアミノ-2-メチルプロパンスルホン酸コポリマーおよび他のアクリルポリマー等を意味する。ポリ(メタ)アクリル酸およびその誘導体は、5,000g/mol~100,000g/mol、または5,000g/mol~80,000g/molの重量平均分子量を有する。
【0031】
本発明における「ポリエーテル」という用語は、1超のエーテル基を有する炭化水素の群を指し、任意に、ヒドロキシル基またはアミノ基等の他の官能基を含み得る。ポリエーテル誘導体は、ポリ(エチレンオキシド)、ポリエチレングリコール等を包含する。ポリエーテルおよびその誘導体は、80,000g/mol~400,000g/mol、または100,000g/mol~300,000g/molの重量平均分子量を有する。
【0032】
本発明における「ポリアミド」という用語は、アミド基によって結合された分子結合中の連続単位から構成されるポリマーの群を指す。ポリアミド誘導体は、ポリアクリルアミド、ポリ(N-ビニルアセトアミド)および他のアミドポリマーを含む。ポリアミドおよびその誘導体は、8,000g/mol~100,000g/mol、または10,000g/mol~80,000g/mol、または10,000g/mol~70,000g/molの重量平均分子量を有する。
【0033】
本発明における1以上の「ポリスルホン酸」には、メタンジスルホン酸、エタンジスルホン酸、プロパンジスルホン酸、1,3,6-ナフタレントリスルホン酸等のアルキルおよび/またはアリールポリスルホン酸が包含されるが、これらに限定されない。ポリスルホン酸は、ポリ((ビニル)スルホン酸)ナトリウム塩、ポリアクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウム塩、および他のスルホン酸ポリマーを含む。ポリ(スルホン酸)およびその誘導体は、80,000g/mol~400,000g/mol、または100,000g/mol~300,000g/molの重量平均分子量を有する。
【0034】
上記水溶性ポリマーは、単独でまたは任意に組み合わせて使用できる。
【0035】
市販の水溶性ポリマーの例は、例えば、Shanghai Zhaode社製のポリアクリル酸、Dow社製のPOLYOX WSR N-10、およびDupont社製のPA 610である。
【0036】

本発明における高温シーリング溶液は、全成分を溶解してシーリング溶液を生成するための溶媒として水を含む。本発明の幾つかの実施形態では、溶媒として脱イオン水を用いることが好ましい。
【0037】
高温シーリング溶液のpH値
高温シーリング溶液のpH値は、7~12、または7超~12、または7.1~12、または8~11.5である。pH値の下限は、7.0、7.1、または7.2、または7.5、または7.8、または8.0、または8.2、または8.5、または9.0g/Lであり;pH値の上限は、12、または11.8、または11.6、または11.5、または11.2、または11である。必要に応じて、少量の鉱酸、アルカリ成分および有機酸を包含する1以上の任意のpH調整剤を使用して、pH値を所望の実施pH値に調整してよい。中性、より好ましくは塩基性の実施pH値を有する高温シーリング溶液は、優れた耐食性の結果をもたらす。
【0038】
第一イオン
一実施形態における中温溶液は、1種以上の第一イオンを含む。第一イオンは、ニッケルイオン、コバルトイオン、クロムイオンおよびカドミウムイオンから選択される。第一イオンは、二価ニッケルイオン、二価コバルトイオン、四価ジルコニウムイオンおよび二価カドミウムイオンから選択される。中温シーリング溶液中の第一イオンの濃度は、2.0~5.0g/L、または2.1~5.0g/L、または2.2~5.0g/L、または2.4~5.0g/Lである。第一イオンの濃度の下限は、2.0g/L、または2.1g/L、または2.2g/L、または2.4g/L、または2.5g/L、または2.6g/L、または3.0g/Lであり;第一イオンの濃度の上限は、5.0g/L、または4.9g/L、または4.5g/L、または4.2g/L、または3.5g/Lである。
【0039】
本発明の幾つかの実施形態では、第一イオンは、好ましくはニッケルイオン、特に二価ニッケルイオンである。中温シーリング溶液中のニッケルイオンの濃度は、2.0~5.0g/L、または2.1~5.0g/L、または2.2~5.0g/L、または2.4~5.0g/Lである。ニッケルイオンの濃度の下限は、2.0g/L、または2.1g/L、または2.2g/L、または2.3g/L、または2.4g/L、または2.5g/Lである。ニッケルイオンの濃度の上限は、5.0g/L、または4.9g/L、または4.5g/L、または4.2g/L、または3.5g/Lである。
【0040】
同じ第一イオン源を、10g/L~25g/Lの第一イオンイオンの濃厚物として供給してよい。
【0041】
最終の2g/L~5g/Lまたは上記した好ましい濃度を有する中温シーリング溶液を供給するために、濃厚第一イオンを脱イオン水で希釈してよい。
【0042】
第一イオンの濃度は、ICP-AES測定を用いて測定した。テフロン(登録商標)注入システムを備えたICP-AES(VARIAN 710-ES)機器。ICP-AES標準:EPA3052。標準較正曲線を作成するために、0.1、1、5および10ppmの濃度を有する標準溶液をICP-AESシステムに注入し、その後、サンプルを注入および分析した。サンプルは、ICPシステムへの注入前に、0.22μmのフィルターで濾過した。
【0043】
第一イオン源の典型的な例には、ニッケル塩(ニッケル塩水和物)、例えば、フッ化ニッケル、酢酸ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル、炭酸ニッケル等;コバルト塩(コバルト塩水和物)、例えば、フッ化コバルト、酢酸コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト、スルファミン酸コバルト、炭酸コバルト等;クロム塩(クロム塩水和物)、例えば、フッ化クロム、酢酸クロム、硝酸クロム、硫酸クロム、炭酸クロム等;カドミウム塩(カドミウム塩水和物)、例えば、酢酸カドミウム、硝酸カドミウム、硫酸カドミウム等が包含されるが、これらに限定されない。好ましくは、第一イオン源は、フッ化ニッケル、酢酸ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル、炭酸ニッケル、およびそれらの組み合わせから選択される。第一イオン源は、単独でまたは任意に組み合わせて使用できる。
【0044】
市販の第一イオン源の例は、例えば、Sinopharm Chemical Reagent Co., Ltd.社製のNiF2・4H2OおよびSinopharm Chemical Reagent Co., Ltd.社製のNi(CH3COO)2・4H2Oである。
【0045】
一般的な室温シーリングの場合、Ni含有量が2g/Lを超えるとシールされた部材の表面が若干緑色になる。意外なことに、中温シーリング溶液において、第一イオン、特にNiイオンの濃度が2.5g/Lを超えると、中温シーリング溶液は優れた耐食性を有し、シールされた部材の表面は若干緑色に変色することはない。
【0046】
フッ化物イオン
一実施形態における中温シーリング溶液は、遊離フッ化物アニオンとフルオロメタレートアニオンを含む。遊離フッ化物アニオンは、フッ化ニッケル、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、重フッ化ナトリウム、重フッ化アンモニウム等から選択され得る。最も好ましくは、フッ化ニッケルおよびフッ化カリウム、フッ化ナトリウムまたは重フッ化アンモニウム。フルオロメタレートアニオンは、好ましくはフルオロシリケート(即ち、SiF6 2-)、フルオロチタネート(即ち、TiF6 2-)またはフルオロジルコネート(即ち、ZrF6 2-)、より好ましくはフルオロチタネートまたはフルオロジルコネート、最も好ましくはフルオロジルコネートである。フルオロメタレートアニオンのカチオンは、IA族元素のイオンまたはアンモニウムイオンから選択することができる。カチオンは、好ましくはKまたはHであり、最も好ましくはHである。
【0047】
中温シーリング溶液中の溶解フッ化物イオンの濃度は、0.6~2.6g/L、または0.7~2.4g/L、または1.2~2.4g/Lである。フッ化物イオンの濃度の下限は、0.6g/L、または0.7g/L、または0.8g/L、または1.0g/L、または1.1g/L、または1.2g/L、または1.4g/Lである。フッ化物イオンの濃度の上限は、2.7g/L、または2.6g/L、または2.4g/L、または2.3g/L、または2.1g/L、または2.0g/L、または1.8g/Lである。
【0048】
イオン濃度は、イオンクロマトグラフィー(IC)測定により測定した。Dionex 1500 ICを用いて実験した。移動相:KOH水溶液;カラムセット:Dionex AG11+ASHC-11;カラム温度:35℃;検出器:導電率セル;流量:1mL/分;注入体積:25μL;EGC濃度:30mmol;標準:マルチアニオン:0.1~10.0ppm;ラン時間:1注入当たり20分。サンプルを中和し、固相抽出(SPE)カラム(IC-RP)と0.22μmフィルターで濾過し、サンプルに含まれるほぼ全ての有機物および不溶性灰を除去した。次いで、標準検量線を作成するために溶液をICシステムに注入し、その後、希釈したサンプルの複製をICシステムに注入し、分析した。
【0049】
フッ化物イオン源の典型的な例は、フッ化ニッケル、フッ化カリウム、重フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、重フッ化ナトリウム、重フッ化アンモニウム等を包含するが、これらに限定されない。最も好ましくは、フッ化ニッケル、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、重フッ化アンモニウムおよびそれらの組み合わせ。フッ化物イオン源は、単独でまたは任意に組み合わせて使用できる。所望の濃度を提供するために、フッ化物イオンを、2g/L~14g/Lの濃度を有する濃厚物として供給し、次いで、脱イオン水で希釈してよい。
【0050】
従来の室温シーリング溶液においてフッ化物イオン濃度が1.2g/Lより高いと、ダスト問題が起こる。意外なことに、本発明における中温シーリング溶液において、溶解フッ化物イオンの濃度が1.2g/Lより高い場合に、ダスト問題は生じないことが見出された。
【0051】
市販のフッ化物イオン源の例は、例えば、Sinopharm chemical Reagent Co., Ltd.社製のNiF2・4H2O(≧98重量%)、Shanghai Aladdin Bio-chemical Technology Co., Ltd.社製のフッ化カリウム(99重量%)である。
【0052】
第二イオン
本発明における中温シーリング溶液は、四価ジルコニウムイオン、四価チタンイオン、およびケイ素含有イオンから選択される第二イオンを少なくとも1つ含む。中温シーリング溶液中の第二イオンの濃度は、0.03~1.3g/L、好ましくは0.05~1.2g/L、例えば0.1g/L、または0.4g/L、0.6g/L、1.0g/Lである。腐食抑制剤であるジルコニウムイオンおよび/またはチタンイオンおよび/またはケイ素含有イオンは、最終的な耐食性能を大幅に向上させる。
【0053】
第二イオン源の典型的な例には、炭酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム等のジルコニウム塩;炭酸チタン、硝酸チタン等のチタン塩;ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸塩が包含されるが、これらに限定されない。ヘキサフルオロジルコン酸、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオケイ酸等のジルコニウム/チタン/ケイ素ベース酸。第二イオン源は、単独でまたは任意に組み合わせて使用できる。
【0054】
市販の第二イオン源の例は、例えば、Sinopharm Chemical Reagent Co., Ltd.社製のZr(NO3)4・5H2O(99.5重量%、AR)、およびBeijing Wokai Biotechnology Co., Ltd.社製のH2ZrF6(45重量%)である。
【0055】
本発明の幾つかの実施形態では、第二イオンは、好ましくはジルコニウムイオン、特に二価ジルコニウムイオンである。中温シーリング溶液中のジルコニウムイオンの濃度は、0.03~1.3g/L、または0.05~1.2g/L、または0.1~1.2g/Lである。ジルコニウムイオンの濃度の下限は、0.03g/L、または0.04g/L、または0.05g/L、または0.08g/L、または0.1g/L、または0.2g/L、または0.3g/L、または0.4g/L、または0.5g/L、または0.6g/Lである。ニッケルイオンの濃度の上限は、1.3g/L、または1.2g/L、または1.1g/L、または1.0g/Lである。
【0056】
第二イオンの濃度は、ICP-AES測定を用いて測定した。テフロン(登録商標)注入システムを備えたICP-AES(VARIAN 710-ES)機器で試験する。ICP-AES標準はEPA3052である。標準較正曲線を作成するために、0.1、1、5および10ppmの濃度を有する標準溶液をICP-AESシステムに注入し、その後、サンプルを注入および分析した。サンプルは、ICPシステムへの注入前に、0.22μmのフィルターで濾過した。
【0057】
界面活性剤
本発明における中温シーリング溶液は、少なくとも1つの界面活性剤を含み、これにより、酸化アルミニウムフィルムの表面張力が低減され、シーリング溶液が細孔内に進入して酸化アルミニウムフィルムを更にシールすることができる。本発明における界面活性剤とは、一般的に使用されている界面活性剤を指し、スルホネート、スルフェート、ホスフェートエーテル、カルボキシレート等のアニオン性界面活性剤;アルコールエトキシレート、アルコールアルコキシレート、アルキルアミンオキシド等の非イオン性界面活性剤;ラウリルアミドプロピルアセテートベタイン、ドデシルスルホベタイン等の両性界面活性剤を包含するが、これらに限定されない。界面活性剤は、単独でまたは任意に組み合わせて使用できる。本発明の幾つかの実施形態では、界面活性剤の濃度は、中温シーリング溶液の総量に基づいて、0.1重量%~1.75重量%、または0.25重量%~1.5重量%である。
【0058】
本発明の幾つかの実施形態では、界面活性剤は、好ましくは、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。別の実施形態では、界面活性剤は、より好ましくは、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸メチル、アルキルエーテルスルホン酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルスルホン酸二ナトリウム塩、アルキルナフタレンスルホネート、ポリナフタレンスルホネート、アルキルエーテル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルエトキシスルフェート、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸アンモニウム、炭素原子8~12個のアルキル鎖と6~9個のエチレンオキシド単位(EO)とを有するか、または炭素原子10~12個のアルキル鎖と5~10個のエチレンオキシド単位(EO)と5~10個のプロピレンオキシド単位(PO)とを有するアルコールアルコキシレート、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0059】
市販の界面活性剤源の例は、例えば、BASF China社製の非イオン性アルコールエトキシレート、C8-12、6-9 EO(Fluidol W 100 MO)、Shell China.社製の非イオン性アルコールエトキシレート、C12-15、12-14 EO(Neodol 25-12)、Nantong Chenrun Chemical Co., Ltd.社製のドデシルジフェニルエーテルスルホン酸二ナトリウム塩(PARETH-8)、Shanghai Aladdin Bio-chemical Technology Co., Ltd.社製のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(98重量%)である。
【0060】

本発明における中温シーリング溶液は、全成分を溶解してシーリング溶液を生成するための溶媒として水を含む。本発明の幾つかの実施形態では、溶媒として、脱イオン水を用いることが好ましい。
【0061】
中温シーリング溶液のpH値
中温シーリング溶液の操作pH値は、4.5~7.0、または5.0~7.0、または5.0~6.0である。中温シーリング溶液のpH値範囲は、アルミニウム合金の良好な外観および良好な耐食性能に役立ち得る。pH値の上限は、7.0、または6.8、または6.5、または6.0であり;pH値の下限は、4.5、または4.7、または4.8、または5.0である。中温シーリング溶液のpH値を上記値に調整するために、少量の鉱酸、塩基性組成物および有機酸を包含するpH調整剤の1以上を使用してよい。
【0062】
任意の添加剤
本発明における中温シーリング溶液は、任意の添加剤を更に含んでよい。中温シーリング溶液に適した添加剤の選択は、中温シーリング溶液の具体的な用途に依存し、個々のケースにおいて当業者により決定され得る。
【0063】
<第一pH調整剤>
本発明における中温シーリング溶液は、任意に、少なくとも1つの第一pH調整剤を含んでよい。本発明における第一pH調整剤は、通常使用されている任意のpH調整剤であってよく、ホウ酸、酢酸、グアニジノ酢酸、硝酸グアニジン、硫酸、硝酸、アンモニア水、テトラメチルアンモニウム水酸化物、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、ジエチレントリアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等を包含するが、これらに限定されない。第一pH調整剤は、単独でまたは任意に組み合わせて使用できる。
【0064】
<第二pH調整剤>
本発明における高温シーリング溶液は、任意に、少なくとも1つの第二pH調整剤を含んでよい。本発明における第二pH調整剤は、通常使用されている任意のpH調整剤であってよく、ホウ酸、酢酸、グアニジノ酢酸、硝酸グアニジン、硫酸、硝酸、アンモニア水、テトラメチルアンモニウム水酸化物、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、ジエチレントリアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等を包含するが、これらに限定されない。第二pH調整剤は、単独でまたは任意に組み合わせて使用できる。第二pH調整剤は、中温シーリング溶液において使用される第一pH調整剤と同じでも同じでなくてもよい。
【0065】
中温シーリング溶液の調製方法
中温シーリング溶液は、水に、第一イオン源、フッ化物イオン源、第二イオン源、界面活性剤、および(存在する場合は)任意の添加剤を溶解することにより調製され得る。
【0066】
本発明の幾つかの実施形態では、中温シーリング溶液は、好ましくは、
a)溶液が得られるように、撹拌により水に第一イオン源、フッ化物イオン源、第二イオン源および界面活性剤を溶解する工程;および
b)工程a)で得た溶液にpH調整剤を加え、溶液について適当なpHを達成する工程
により調製される。
【0067】
本発明の幾つかの実施形態では、中温シーリング溶液は、好ましくは4.5~7、より好ましくは5~6のpHを有する。
【0068】
高温シーリング溶液の調製方法
高温シーリング溶液は、5,000~400,000の重量平均分子量(Mw)を有し、ポリアクリル酸、ポリ(アクリル酸)ナトリウム塩、アクリル酸-2-アクリルアミノ-2-メチルプロパンスルホン酸コポリマー、ポリ(スルホン酸)、ポリアクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、ポリエチレンイミン、ポリエーテル、およびポリアミド;ポリアクリルアミドから選択される少なくとも1つの水溶性ポリマーを溶解することにより調製され得る。
【0069】
本明細書において、「Mw」は、重量平均分子量を指し、1.1M~580Daの直鎖ポリスチレン標準に対するゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定され、Waters 2414示差屈折計(RI検出器)を備えたWaters 2695分離モジュールを用いて実施され得る、理論値を意味する。
【0070】
本発明の幾つかの実施形態では、高温シーリング溶液は、好ましくは、
a)溶液が得られるように、撹拌により水に、5,000~400,000の重量平均分子量(Mw)を有し、水溶性のポリアクリル酸、ポリ(アクリル酸)ナトリウム塩、アクリル酸-2-アクリルアミノ-2-メチルプロパンスルホン酸コポリマー、ポリ(スルホン酸)、ポリアクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、ポリエチレンイミン、ポリエーテル、およびポリアミド;ポリアクリルアミドから選択される少なくとも1つの水溶性ポリマーを溶解する工程;および
b)必要な場合、工程a)で得た溶液を調整し、溶液について適当なpHを達成する工程
により調製される。
【0071】
本発明の幾つかの実施形態では、高温シーリング溶液は、好ましくは7~12、好ましくは7超~12、または好ましくは7.1~12、より好ましくは8~11.5のpHを有する。
【0072】
本発明の幾つかの実施形態では、高温シーリング溶液は、剥離のない澄明で均一な溶液である。
【0073】
陽極酸化アルミニウム合金表面のシーリング方法
実施形態のいずれかに従ったシーリング溶液キットを用いた陽極酸化アルミニウム合金表面のシーリング方法は、
a)50~95℃の温度および4.5~7のpH値で中温シーリング溶液を前記表面に接触させる工程;
b)80℃超~100℃以上の温度および7~12のpH値で高温シーリング溶液を前記表面に接触させる工程;
c)工程(a)および(b)で形成された液層を乾燥し、処理された表面を形成する工程
を含む。
【0074】
本発明の幾つかの実施形態では、工程a)の直後に、脱イオン水による効果的な濯ぎを実施し、第1工程の化学物質の残留物を除去する。本発明の別の実施形態では、工程b)の後に、アルミニウム部材を十分な脱イオン水で濯ぎ、清浄な表面を得る。2つの水性シーリング浴による陽極酸化アルミニウム表面のシーリング処理時間はほぼ同じで、どちらも部材表面上の陽極酸化アルミニウム層の厚さに依存する。一般に、シーリング処理時間は、好ましくは、1μm当たり約1~3分である。この範囲のシーリング時間により、十分なシーリング性能が確保されると同時に、アルミナ水和物の過剰堆積が抑制されるため、ダスト問題が生じず、良好な外観が維持される。
【0075】
本発明の幾つかの実施形態では、中温シーリング溶液は、好ましくは、50℃超~95℃以下、または65℃~85℃、またはより好ましくは70℃~85℃の温度でシーリングに用いる。
【0076】
本発明の幾つかの実施形態では、高温シーリング溶液は、好ましくは、80℃超~100℃以下、より好ましくは85℃~100℃の温度でシーリングに用いる。
【0077】
限定されない例として、最も一般的に陽極酸化される基材はアルミニウム合金であるが、チタン、亜鉛、マグネシウム、ニオブ、ジルコニウム、ハフニウムおよびタンタルのための方法も存在する。アルミニウムのための典型的な合金元素は、銅、マグネシウム、マンガン、ケイ素、スズおよび亜鉛である。自動車部材の一般的な陽極酸化は、例えば5657および5505等のマグネシウムと合金化された5000シリーズのアルミニウム、並びに例えば6063および6401等のマグネシウムおよびケイ素と合金化された6000シリーズのアルミニウム(アルミニウム合金-Wikipedia)に基づく。
【0078】
本発明における中温シーリング溶液は、一工程シーリング溶液として単独で使用できる。好ましくは、中温シーリング溶液は、本発明における高温シーリング溶液と一緒に使用する。中温シーリング溶液は、先行技術で通常使用されている高温シーリング溶液と一緒に使用することもできる。
【0079】
幾つかの実施形態では、本発明における中温シーリング溶液は、一工程シーリング法において単独で使用でき、陽極酸化アルミニウム合金は、陽極酸化アルミニウム合金表面に、50~95℃の温度および4.5~7のpHで本発明における中温シーリング溶液を接触させることによりシールされ得る。好ましくは、陽極酸化アルミニウム合金は、陽極酸化アルミニウム合金表面に、70~85℃の温度および5~6のpHで、陽極酸化層の厚さ1μm当たり1~3分間、本発明における中温シーリング溶液を接触させることによりシールされ得る。
【0080】
中温シーリングと高温シーリングの間の時間スロットは24時間以下でなければならず、24、12、6.0、5.0、4.0、3.0、2.0、1.0、0.50、0.33、0.25、または0.1時間の順に好ましい。中温シーリングと高温シーリングの間の好ましい時間スロットは20分以下である。
【0081】
中温シーリング工程に従ってシールされた陽極酸化アルミニウム合金の表面は、優れた耐食性および染色スポットを有する。
【0082】
幾つかの実施形態では、本発明における中温シーリング溶液は、上述の通り、ポリ(メタ)アクリル酸およびその誘導体、ポリエーテルおよびその誘導体、ポリアミドおよびその誘導体、ポリ(スルホン酸)およびその誘導体、並びにそれらの混合物から選択される水溶性ポリマーの少なくとも1種および水を含む高温シーリング溶液と一緒に用いる。陽極酸化アルミニウム合金は、下記工程:
a)50~95℃の温度および4.5~7のpHで本発明における中温シーリング溶液を陽極酸化アルミニウム合金表面に接触させる工程;および
b)80℃超~100℃未満の温度および7~12のpHで本発明における高温シーリング溶液を陽極酸化アルミニウム合金表面に接触させる工程
を含む、二工程シーリング溶液キットを用いた二工程シーリング法によってシールされ得る。
【0083】
好ましくは、中温シーリング工程および/または高温シーリング工程後に、陽極酸化アルミニウム合金の表面を、十分な量の水で濯いで、シーリング溶液残留物を除去する。この工程の後、上記操作により形成された液層を乾燥し、処理された表面を形成する。
【0084】
本発明におけるシーリング溶液は、ワークピースの陽極酸化アルミニウム合金表面に適用され得、その幾つかは当業者にとって容易に明らかである常套法により、その上で乾燥され得る。
【0085】
二工程シーリング法によりシールされた陽極酸化アルミニウム合金の表面は、より優れた耐食性および染色スポットを有し、20~23℃で別々に10分間、pH1およびpH13.5試験(TL 182 2012、40℃で1時間の熱老化なし)に付しても外観変化は生じない。
【0086】
実施形態のリスト
1.a)中温シーリング溶液;および
b)高温シーリング溶液
を含むシーリング溶液キットであって、
中温シーリング溶液は、中温シーリング溶液の総体積に基づいて、水;0.6~2.6g/Lのフッ化物イオン;2.0~5.0g/Lの、ニッケルイオン、コバルトイオン、クロムイオン、カドミウムイオンおよびそれらの混合物からなる群から選択される第一イオン;0.03~1.3g/Lの、ジルコニウムイオン、チタンイオン、ケイ素含有イオンおよびそれらの混合物からなる群から選択される第二イオン;有効量の界面活性剤を含み;
高温シーリング溶液は、高温シーリング溶液の総体積に基づいて、水および0.1g/L~100g/Lの水溶性ポリマーを含み、
水溶性ポリマーは、5,000g/mol~400,000g/molの重量平均分子量を有し、水溶性ポリマーは、ポリ(メタ)アクリル酸およびその誘導体、ポリエーテルおよびその誘導体、ポリアミドおよびその誘導体、ポリ(スルホン酸)およびその誘導体、並びにそれらの混合物からなる群から選択される、シーリング溶液キット。
2.ポリ(メタ)アクリル酸誘導体は、ポリ((メチル)アクリル酸)、ポリ(アクリル酸)ナトリウム塩、ポリ(メタクリル酸)アンモニウム塩、ポリ(酢酸ビニル)、アクリル酸-2-アクリルアミノ-2-メチルプロパンスルホン酸コポリマーおよび他のアクリルポリマーを含む、実施形態1に記載のシーリング溶液キット。
3.ポリ(メタ)アクリル酸およびその誘導体は、5,000g/mol~100,000g/molの重量平均分子量を有する、実施形態1または2に記載のシーリング溶液キット。
4.ポリエーテル誘導体は、ポリ(エチレンオキシド)、ポリエチレングリコールを含む、実施形態1~3のいずれかに記載のシーリング溶液キット。
5.ポリエーテルおよびその誘導体は、80,000g/mol~400,000g/molの重量平均分子量を有する、実施形態1~4のいずれかに記載のシーリング溶液キット。
【0087】
6.ポリアミド誘導体は、ポリアクリルアミド、ポリ(N-ビニルアセトアミド)および他のアミドポリマーを含む、実施形態1~5のいずれかに記載のシーリング溶液キット。
7.ポリアミドおよびその誘導体は、8,000g/mol~100,000g/molの重量平均分子量を有する、実施形態1~6のいずれかに記載のシーリング溶液キット。
8.ポリ(スルホン酸)誘導体は、ポリ((ビニル)スルホン酸)ナトリウム塩、ポリアクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(スチレンスルホン酸)ナトリウム塩、および他のスルホン酸ポリマーを含む、実施形態1~7のいずれかに記載のシーリング溶液キット。
9.ポリ(スルホン酸)およびその誘導体は、100,000g/mol~300,000g/molの重量平均分子量を有する、実施形態1~8のいずれかに記載のシーリング溶液キット。
10.高温シーリング溶液のpH値は7~12である、実施形態1~9のいずれかに記載のシーリング溶液キット。
【0088】
11.高温シーリング溶液のpH値は7超~12である、実施形態1~10のいずれかに記載のシーリング溶液キット。
12.高温シーリング溶液のpH値は7.1~12である、実施形態1~11のいずれかに記載のシーリング溶液キット。
13.高温シーリング溶液のpH値は8~11.5である、実施形態1~12のいずれかに記載のシーリング溶液キット。
14.水溶性ポリマーの濃度は0.1g/L~20g/Lである、実施形態1~13のいずれかに記載のシーリング溶液キット。
15.界面活性剤は、中温シーリング溶液の総量に基づいて0.1%~1.75%の濃度で、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤およびそれらの混合物を含む、実施形態1~14のいずれかに記載のシーリング溶液キット。
【0089】
16.界面活性剤は、中温シーリング溶液の総量に基づいて0.25%~1.5%の濃度で、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤およびそれらの混合物を含む、実施形態1~15のいずれかに記載のシーリング溶液キット。
17.第一イオンは、2.1~5.0g/Lの濃度を有する二価ニッケルイオンである、実施形態1~16のいずれかに記載のシーリング溶液キット。
18.第二イオンは、0.05~1.2g/Lの濃度を有するジルコニウムイオンである、実施形態1~17のいずれかに記載のシーリング溶液キット。
19.中温シーリング溶液中のフッ化物イオンの濃度は0.7~2.4g/Lである、実施形態1~18のいずれかに記載のシーリング溶液キット。
20.中温シーリング溶液のpH値は4.5~7である、実施形態1~19のいずれかに記載のシーリング溶液キット。
【0090】
21.実施形態1~20のいずれかに記載のシーリング溶液キットを用いることにより、陽極酸化アルミニウム合金表面をシーリングする方法であって、
a)50~95℃の温度および4.5~7のpH値で中温シーリング溶液を前記表面に接触させる工程;
b)80℃超~100℃以上の温度および7~12のpH値で高温シーリング溶液を前記表面に接触させる工程;
c)工程(a)および(b)で形成された液層を乾燥し、処理された表面を形成する工程
を含む、方法。
22.前記実施形態のいずれかに記載の処理された表面を含む少なくとも1つの部分を有する物品。
23.処理された表面は、20~23℃でのpH1およびpH13.5試験(40℃で1時間の熱老化を伴わないTL 182 2012)にそれぞれ10分間別個に付した際に外観変化が起こらないことにより特徴付けられる耐食性を有する、実施形態22に記載の物品。40℃で1時間の熱老化は、本開示における最終的な試験結果に影響を与えないため、以下の耐酸性・耐アルカリ性試験において熱老化を省いた。
24.実施形態22または23に記載の物品を自動車部材として含む車両。
【実施例
【0091】
以下の実施例を参照して、本発明を更に詳細に説明し、例示する。実施例は、当業者が本発明をよりよく理解して実施するのを助けることを意図しているが、本発明の範囲を限定することを意図していない。実施例中の数は全て、特に記載のない限り重量に基づく。
【0092】
代替的に、記載されている成分は必ずしも全て別個の化学物質によって供給される必要はないことを理解されたい。例えば、HFは、遊離フッ化物イオンと同様にpH調整をもたらし得る。
【0093】
実施例1
<陽極酸化アルミニウム合金の調製>
アルミニウム合金(マグネシウムおよびケイ素で合金化された6000シリーズ、6061)を、下記工程:
a)アルミニウム合金の表面を脱脂および研磨で清浄化することで、表面のグリース、汚れおよび酸化物層を除去し、清浄で新しい表面を得る工程;
b)アルミニウム合金を20℃の温度で濃度200g/Lの硫酸に浸漬する工程;
c)アルミニウム合金を12~15Vの電圧下、20分間陽極酸化処理して、厚さ5~15μmの酸化アルミニウム層を得る工程;および
d)陽極酸化アルミニウム合金を脱イオン水で濯ぐ工程
により陽極酸化した。
【0094】
<中温シーリング溶液の調製>
中温シーリング溶液を、下記工程:
a)全ての原料を特別な処理を伴わずに直接用いる;1Lの脱イオン水に、0.336gのフッ化カリウム(粉末、Shanghai Aladdin Bio-chemical Technology Co., Ltd.から市販)、2.82gのZr(NO3)4・5H2O(粉末、Sinopharm chemical Reagent Co., Ltd.から市販)、5gのNiF2・4H2O(粉末、Sinopharm chemical Reagent Co., Ltd.から市販)、13gのNi(CH3COO)2・4H2O(粉末、Sinopharm chemical Reagent Co., Ltd.から市販)、1.5gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(液体、Shanghai Aladdin Bio-chemical Technology Co., Ltd.から市販、製造業者によれば98重量%)を溶解する工程;および
b)工程a)からの溶液のpHを、NaOHで5.5のpH値に調整する工程
により調製した。
【0095】
<高温シーリング溶液の調製>
高温シーリング溶液を、下記工程:
a)1Lの脱イオン水に、15gのポリエーテル(100000g/molのMwを有するDow POLYOX WSR N-10)を溶解する工程;および
b)工程a)からの溶液のpHを、NaOHで11のpH値に調整する工程
により調製した。
【0096】
<陽極酸化アルミニウム合金のシーリング>
陽極酸化アルミニウム合金を、下記工程:
a)75℃の温度で中温シーリング溶液に陽極酸化アルミニウム合金を浸漬する工程(シーリング時間は陽極酸化層1μm当たり1~3分である);
b)陽極酸化アルミニウム合金の表面を脱イオン水で濯ぐ工程;
c)95℃の温度で高温シーリング溶液に、工程b)からの陽極酸化アルミニウム合金を浸漬する工程(シーリング時間は陽極酸化層1μm当たり1~3分である);および
d)陽極酸化アルミニウム合金の表面を脱イオン水で濯ぐ工程;
e)前記工程で形成された液層を乾燥し、処理された表面を形成する工程
によりシーリングした。
【0097】
シールされた陽極酸化アルミニウム合金のサンプルを、各種試験に付した。
【0098】
実施例2~36および比較例1~22
実施例2~36(E2~E36)および比較例1~22(CE1~CE22)のシーリング溶液を、実施例1を参照して調製した。実施例2~36および比較例1~22の陽極酸化アルミニウム合金を、実施例1を参照してシーリングした。更なる詳細は、後述の結果の段落に記載する。
【0099】
試験方法
<染色スポット試験>
酸化アルミニウム層のシーリングまたは緻密度は、DIN EN 12373-4に準拠した染色スポット試験で測定できる。ここで、本発明の方法によるシーリング後の陽極酸化表面の染色性または染料吸収能は、UV-vis反射分光法を用いて測光的に測定され、新しい陽極酸化表面の染色性と比較される。染色スポット試験では、陽極酸化アルミニウム表面を、DIN EN 12373-4に準拠した染料を用いた規定の前処理後に染色する。試験領域を酸性溶液(25mL/Lの硫酸、10g/LのKF)で濡らし、正確に1分後、試験領域上の酸性溶液を洗い流し、その後、試験領域を乾燥させる。次いで、試験領域を、染料溶液(5g/LのSanodal(登録商標)Blue)で濡らし、1分間放置する。流水で濯いだ後、マイルドなパウダークリーナーを用いて擦ることにより、緩く付着した染料を、着色された試験領域から除去する。表面を乾燥させた後、表面を目視で確認する。表面の染色は、酸化アルミニウム層のシーリング度と直接相関する。シールされた酸化物層は最も低い染料吸収能を有する一方で、孔の開いたシーリングされていない酸化物層は染料をよく吸収できる。酸化アルミニウムが染料を吸収する能力は、多孔質酸化アルミニウム層の自由表面に直接依存する。
【0100】
以下の図1には、染色スポット試験結果の等級区分を示す。等級0(吸収力の全喪失)および等級1(強い吸収力低下)を、表面変化なしとして扱う。等級0または等級1が達成されたとき、シールされた陽極酸化アルミニウム合金のサンプルを、染色スポット試験「合格」としてランク付けした。等級0が好ましい結果である。それ以外のサンプルは「不合格」としてランク付けした。
【0101】
<外観>
シールされた陽極酸化アルミニウム合金のサンプルの外観を、目視検査により評価した。光沢低減なしを包含する外観変化なし、および表面の曇りなしまたは汚れなしが達成された場合、シールされた陽極酸化アルミニウム合金のサンプルを、外観試験「合格」としてランク付けした。それ以外のサンプルは「不合格」としてランク付けした。
【0102】
<耐食性>
シールされた陽極酸化アルミニウム合金のサンプルの耐食性を、耐酸性・耐アルカリ性試験により試験した。
【0103】
耐酸性・耐アルカリ性試験は、TL 182 2017の耐酸性/耐熱性/耐アルカリ性を参考に実施した。40℃で1時間の熱老化は、本開示における最終的な試験結果に影響を与えないため、以下の耐酸性・耐アルカリ性試験において熱老化を省いた。耐酸性・耐アルカリ性試験は、23~25℃の温度範囲で実施しなければならない。
【0104】
詳細な工程は下記を含む:
a)pH1を有するHCl溶液に10分間、シールされた陽極酸化アルミニウム合金のサンプルを浸漬する工程;
b)シールされた陽極酸化アルミニウム合金のサンプルを脱イオン水で濯ぎ、サンプルを空気中に放置して乾燥させる工程;
c)pH13.0または13.5を有する溶液に10分間、シールされた陽極酸化アルミニウム合金のサンプルを浸漬する工程(pH13.5試験溶液:1Lの脱イオン水中、12.7gの水酸化ナトリウム(NaOH)、4.64gのリン酸ナトリウム十二水和物(Na3PO4・12H2O)、0.33gの塩化ナトリウム(NaCl)。pH13.0試験溶液:1Lの脱イオン水中、4gの水酸化ナトリウム(NaOH)、4.64gのリン酸ナトリウム十二水和物(Na3PO4・12H2O)、0.33gの塩化ナトリウム(NaCl)。標準GMW14665の3.8耐アルカリ性のための仕様に記載の溶液調製);および
d)シールされた陽極酸化アルミニウム合金のサンプルを脱イオン水で濯ぎ、サンプルを空気中に放置して乾燥させる工程。
【0105】
外観変化が起こらなかった場合を「等級1」と記載し、僅かに外観変化が起こった場合を「等級2」と記載する。シールされた陽極酸化アルミニウム合金のサンプルが等級2またはそれより悪い(等級3~等級5)を示した場合、耐酸性・耐アルカリ性試験に「不合格」とランク付けした。シールされた陽極酸化アルミニウム合金のサンプルが等級1または等級2より良い結果を示した場合、耐酸性・耐アルカリ性試験に「合格」とランク付けした。等級1は好ましい結果である。詳細な等級ランク付けと対応する腐食レベルについては、図2を参照されたい。
【0106】
結果
表1に、第一イオンおよびフッ化物イオンの濃度が異なる中温シーリング溶液によりシールされた実施例1~5(E1~E5)および比較例1~3(CE1~CE3)の陽極酸化アルミニウム合金の染色スポットおよび耐食性(pH1+13.5)を示す。
【0107】
上記手順に従って調製された試験パネルを、第1工程として、6つの異なるシーリング溶液に浸漬した。組成物は、0.336gLのKF、2.82g/LのZr(NO3)4・5H2O、1.5g/Lのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、並びに浴中のNiおよびF含有量を調整するための異なる量のNiF2・4H2Oおよび酢酸ニッケル・4H2Oを含んでいた。全ての工程1のシーリング溶液を80℃に維持し、シーリング時間を20分とする。次いで、15g/Lのポリエーテル(Dow POLYOX WSR N-10)を含み、95℃で20分間操作する、同じ第2工程に進む。
染色スポットおよびpH1+13.5を試験する。結果を、以下の表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
表2に、第二イオンの濃度が異なる中温シーリング溶液によりシールされたCE4~CE6およびE6~E10の陽極酸化アルミニウム合金の特性を示す。
【0110】
上記手順に従って調製された試験パネルを、第1工程として、0.336gLのKF、5g/LのNiF2・4H2O、13g/Lの酢酸ニッケル・4H2O、1.5g/Lのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、並びに浴中のZr含有量を調整するための異なる量のZr(NO3)4・5H2OまたはH2ZrF6を含む、6つの異なるシーリング溶液に浸漬した。全てのシーリング溶液を80℃に維持し、シーリング時間を20分とする。次いで、15g/Lのポリエーテル(Dow POLYOX WSR N-10)を含み、95℃で20分間操作する、同じ第2工程に進む。
【0111】
【表2】
【0112】
表3に、水溶性ポリマーが異なるシーリング溶液キットによりシールされた陽極酸化アルミニウム合金の特性を示す。
【0113】
完成部材のシール品質に対するポリマーの影響を評価した。上記手順に従って調製された陽極酸化アルミニウムパネルを、まず、0.336g/LのKF、2.82g/LのZr(NO3)4・5H2O、5g/LのNiF2・4H2Oおよび13g/Lの酢酸ニッケル・4H2O(Niは4.9g/L、Fは1.2g/L、Zrは0.6/L)、および1.5g/Lのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを含み、80℃に維持された、本発明に従った同じ第1工程の中温シーリング溶液に浸漬することによりシーリングした。シーリング時間は20分間である。次いで、異なるタイプのポリマーにより調製された異なる第2工程のシーリング溶液に浸漬した;全ての第2工程はアルカリ性であり、pH値は酢酸および水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムによって8~11.5に調整される。シーリング温度は95℃で20分間である。
【0114】
pH1+13.5を試験する。E11~E16およびCE7~CE14の結果を以下に示す。
【0115】
【表3】
【0116】
ポリアクリル酸、ポリエーテルおよびポリアミドタイプを含む水溶性ポリマーの幾つかの特定のタイプが、他の水溶性ポリマーと比べて、良好なpH1+13.5性能に有利である。また、分子量もシール品質に大きく影響する。pH1+13.5結果に関し、適当な分子量範囲は、ポリアクリル酸について5,000~100,000を含む5,000~400,000、ポリエーテルについて80,000~400,000、ポリアミドについて10,000~100,000である。適当なポリマーおよび適当な分子寸法により十分なシーリングが確保され、耐食性能が向上する。
【0117】
表4に、水溶性ポリマーの濃度が異なるシーリング溶液キットによりシールされた陽極酸化アルミニウム合金の特性を示す。
【0118】
完成部材のシール品質に対するポリマー濃度の影響を評価した。上記手順に従って調製された陽極酸化アルミニウムパネルを、まず、0.336g/LのKF、2.82g/LのZr(NO3)4・5H2O、5g/LのNiF2・4H2Oおよび13g/Lの酢酸ニッケル・4H2O(Niイオンは4.9g/L、Fイオンは1.2g/L、Zrイオンは0.6/Lである)、および1.5g/Lのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを含み、80℃に維持された、本発明に従った同じ第1工程の中温シーリング溶液に浸漬することによりシーリングした。シーリング時間は20分間である。次いで、異なる濃度の水溶性ポリマーにより調製された第2工程の高温シーリング溶液に浸漬した;全ての第2工程はアルカリ性であり、pH値は酢酸および水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムによって8~11.5に調整される。シーリング温度は95℃で20分間である。
【0119】
pH1+13.5を試験する。E17~E24およびCE15~CE16の結果を以下に示す。水溶性ポリマー濃度は0.1g/Lより高い必要があることが分かり得る。100g/Lを超えると、細流痕による外観上の問題が発生するため、ポリマー濃度は0.1g/L~100g/L、または0.1g/L~20g/L、または0.2g/L~20g/Lの間に最適化される。
【0120】
【表4】
【0121】
表5に、第2の高温シーリング工程のpH値が未着色部材のシール品質に与える影響の評価を示す。上記手順に従って調製された試験パネルを、まず、0.336g/LのKF、2.82g/LのZr(NO3)4・5H2O、5g/LのNiF2・4H2Oおよび13g/Lの酢酸ニッケル・4H2O(Niイオンの濃度は4.9g/L、Fイオンの濃度は1.2g/L、Zrイオンの濃度は0.6/Lである)、および1.5g/Lのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを含み、80℃に維持された、本発明における典型的な第1工程のシーリング溶液に浸漬した。シーリング時間は20分間である。次いで、7つの異なるpHの第2工程のシーリング溶液に浸漬;それらは全て、15g/Lのポリアクリル酸により調製され、酢酸および水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムにより異なるpH値に調整される。第2工程は95℃で20分間操作した。
【0122】
E25~E29およびCE17~CE18の未着色部材の外観、染色スポット、pH1+13.5を試験する。適当なシール品質および耐食性品質は、7~12のpH値で達成され、より優れたシール品質および耐食性品質は8~12のpH値で達成される。第2工程がアルカリ環境である場合、全ての方法がより優れた耐酸性・耐アルカリ性(pH1+13.5)およびシール品質の両方を有することが分かり得る。CE19では、腐食痕跡は極めて僅かであって、耐アルカリ性の結果は等級2よりも顕著に優れており、等級1に近い。これは「合格」とする。
【0123】
【表5】
【0124】
表6に、第1工程の界面活性剤が完成部材の性能に与える影響を示す。上記したように調製された試験パネルを、二工程のシーリング浴に浸漬した。第1工程は全体的に、0.336g/LのKF、2.82g/LのZr(NO3)4・5H2O、5g/LのNiF2・4H2Oおよび13g/Lの酢酸ニッケル・4H2O、および異なった界面活性剤を含む、本発明に関連する。次いで、本発明における同じ第2工程に進む。全ての第1工程のシーリング溶液は80℃に維持し、シーリング時間は20分間である。15g/Lのポリエーテル(Dow POLYOX WSR N-10)を含む第2工程を、95℃で20分間操作した。
【0125】
未着色部材の染色スポットおよびpH1+13.5を評価した。
【0126】
【表6】
【0127】
適当な界面活性剤は、pH1+13.5での良好な性能に有益であることが観察され得る。0.1重量%~1.75重量%で使用する場合のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムまたはドデシルジフェニルエーテルスルホン酸二ナトリウム塩を含む芳香族スルホン酸ベースのアニオン性、0.5~1%で使用する場合の非イオン性界面活性剤アルコールエトキシレート、C8-12、6-9EOが、pH1+13.5試験の合格に有益である。或いは、上記のアニオン性および非イオン性界面活性剤の混合物も、良好なpH1+13.5試験結果を確保するのに適している。また、界面活性剤は、シーリング処理後に光沢低減およびダストを伴わない良好な外観を保証する。シーリング後、CE19の部材表面では、大量の白色ダストが観察された。0.1重量%~1.75重量%の範囲内の界面活性剤の適当な量により、耐食性は向上する。
図1
図2
【国際調査報告】