(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】固体充電式電池用の正極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20241226BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241226BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241226BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20241226BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M10/052
H01M10/0565
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538189
(86)(22)【出願日】2022-12-21
(85)【翻訳文提出日】2024-06-21
(86)【国際出願番号】 EP2022087166
(87)【国際公開番号】W WO2023118257
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 真一
(72)【発明者】
【氏名】ジフン・カン
(72)【発明者】
【氏名】ジェレミー・オーヴェルニヨ
(72)【発明者】
【氏名】ギョンソ・パク
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL12
5H029AM16
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ28
5H029DJ16
5H029DJ17
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ14
5H050AA07
5H050AA19
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050FA17
5H050FA19
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
本発明は、リチウムと、酸素と、ニッケルと、マンガン及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種の金属と、を含む固体充電式電池用の正極活物質であって、フッ素であって、XPS分析によって決定されたときに、Fと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量との原子比が0.05以上3.0以下である、フッ素と、炭素であって、炭素含有量が、炭素分析器によって決定されたときに上記正極活物質の総重量に対して370ppm以上5000ppm以下である、炭素と、を更に含むことを特徴とする、正極活物質に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムと、酸素と、ニッケルと、マンガン及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種の金属と、を含む固体充電式電池用の正極活物質であって、
フッ素であって、XPS分析によって決定されたときに、Fと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量との原子比が0.05以上3.0以下である、フッ素と、
炭素であって、前記炭素含有量が、炭素分析器によって決定されたときに前記正極活物質の総重量に対して370ppm以上5000ppm以下である、炭素と、を更に含むことを特徴とする、正極活物質。
【請求項2】
前記正極活物質が、XPS分析によって決定されたときに、Fと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量との原子比が0.1以上2.5以下である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記正極活物質が、炭素分析器によって決定されたときに、炭素含有量が500ppm超過3000ppm未満である炭素を含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
アルミニウムを含み、XPS分析によって決定されたときに、Alと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量との原子比が0.2以上4.0以下である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項5】
ICP-OESによって決定されたときに、前記物質中のNi、Mn、Coの総原子含有量に対して、0.01mol%以上2.0mol%以下、好ましくは0.05mol%以上1.5mol%以下の量のアルミニウムを含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記正極活物質が、ICP-OESによって決定されたときに、前記物質中のNi、Mn、Coの総原子含有量に対して、55.0mol%以上95.0mol%以下、好ましくは58.0mol%以上90.0mol%以下のニッケルの原子含有量を有する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記正極活物質が、ICP-OESによって決定されたときに、前記物質中のNi、Mn、Coの総原子含有量に対して、0mol%以上40.0mol%以下、好ましくは2.0mol%以上20.0mol%以下のコバルトの原子含有量を有する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記正極活物質が、ICP-OESによって決定されたときに、前記物質中のNi、Mn、Coの総原子含有量に対して、0mol%以上40.0mol%以下、好ましくは2.0mol%以上30.0mol%以下のマンガンの原子含有量を有する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項9】
前記正極活物質が、単結晶粒子を含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項10】
前記粒子が、レーザー回折粒径分析よって決定されたときに、2.0μm以上10.0μm以下のメジアン粒径D50
Aを有する、請求項9に記載の正極活物質。
【請求項11】
前記正極活物質が、多結晶粒子を含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項12】
前記粒子が、レーザー回折粒径分析よって決定されたときに、2.0μm以上10.0μm以下のメジアン粒径D50
Aを有する、請求項11に記載の正極活物質。
【請求項13】
正極活物質の製造方法であって、
リチウム遷移金属系酸化物化合物とF含有ポリマーとを混合するステップと、
1時間以上20時間以下の時間、前記混合物を炉内の酸化雰囲気中で350℃未満の温度で加熱し、前記正極活物質を得るステップと、を逐次的に含む、方法。
【請求項14】
前記F含有ポリマーが、ポリフッ化ビニリデン又はポリテトラフルオロエチレンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
加熱温度が200℃以上350℃以下、好ましくは250℃以上300℃以下である、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記正極活物質が、請求項1~9のいずれか一項によるものである、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか一項に記載の正極活物質を含む、固体電池。
【請求項18】
ポータブルコンピュータ、タブレット、携帯電話、エネルギー貯蔵システム、電気自動車、又はハイブリッド車のいずれか1つにおける、請求項17に記載の固体充電式電池の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体充電式電池用の正極活物質に関する。より具体的には、本発明は、固体電池用のF原子を含む正極活物質に関し、好ましくは、固体電池はポリマー系固体電池である。また、本発明は、当該正極活物質の製造方法に関する。更に、本発明は、当該正極活物質を含む固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、Fを含む、固体充電式電池用の単結晶正極活物質粉末の使用に関する。
【0003】
表面層上に元素アルミニウム及びフッ素を含むそのような正極活物質は、例えば、国際公開第2016/116862(Al)号から既に知られている。この文献には、Fを含む正極活物質であって、リチウム遷移金属酸化物とポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを混合した後、375℃で加熱することにより正極活物質にFを導入した正極活物質が開示されている。この方法に従って調製された正極活物質は、電気化学セルに適用された場合に低いリテンションを示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、良好な電気化学的特性を有する正極活物質を提供することである。
【0006】
本発明の更なる目的は、当該正極活物質の製造方法を提供することである。
【0007】
本発明の更なる目的は、当該方法によって得られる正極活物質を提供することである。
【0008】
本発明の更なる目的は、当該正極活物質を含む固体電池を提供することである。
【0009】
本発明の更なる目的は、固体電池における、当該正極活物質の使用を提供することである。
【0010】
本発明の更なる目的は、当該固体電池の使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
目的は、リチウムと、酸素と、ニッケルと、マンガン及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種の金属と、を含む固体電池用の正極活物質であって、フッ素であって、XPS分析によって決定されたときに、Fと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量との原子比が0.05以上3.0以下である、フッ素と、炭素であって、炭素含有量が、炭素分析器によって決定されたときに、当該正極活物質の総重量に対して370ppm以上5000ppm以下である、炭素と、を更に含むことを特徴とする、正極活物質を提供することによって、達成される。
【0012】
実施例によって示され、表2に示す結果によって裏付けられるように、本発明による正極活物質粉末を使用して、より低い総漏れ容量(Qtotal)及び高いリテンションが実際に観察される。
【0013】
本発明の更なる態様は、正極活物質の製造方法であって、リチウム遷移金属系酸化物化合物とF含有ポリマーとを混合するステップと、1時間以上20時間以下の時間、混合物を炉内の酸化雰囲気下で、350℃未満の温度で加熱し、正極活物質を得るステップと、を逐次的に含む、方法である。
【0014】
本発明の更なる態様は、当該方法によって得られる正極活物質である。
【0015】
本発明の更なる態様は、正極活物質を含む固体充電式電池である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
特に定義されていない限り、技術用語及び科学用語を含む、本発明の開示に使用される全ての用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。更なるガイダンスによって、本発明の教示をよりよく理解するために、用語の定義が含まれる。本明細書で使用される場合、以下の用語は以下の意味を有する:用語「ppm」は、本明細書で使用される場合、質量基準で100万分の1部を意味する。
【0017】
本明細書で使用される場合、パラメータ、量、時間長などの測定可能な値を指す「約」は、指定された値から±20%以下、好ましくは±10%以下、より好ましくは±5%以下、更により好ましくは±1%以下、なおより好ましくは±0.1%以下の変動を、開示された発明でそのような変動が実行に適切である限り、包含することを意味する。但し、「約」という修飾語が指す値自体も具体的に開示されていることを理解されたい。
【0018】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される「含む(comprising)」という用語は、その後に列挙される手段に限定されると解釈されるべきではなく、他の要素又はステップを排除するものではない。それは、言及された特徴、整数、ステップ、又は言及したような成分の存在を明記するものとして解釈される必要があるが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ若しくは成分、又はこれらの群の存在若しくは追加を排除するものではない。したがって、「成分A及びBを含む組成物」という表現の範囲は、成分A及びBのみからなる組成物に限定されるべきではない。それは、本発明に関して、組成物の唯一の関連成分がA及びBであることを意味する。したがって、「含む(comprising)」及び「含む(including)」という用語は、より限定的な用語「から本質的になる(consisting essentially of)」及び「からなる(consisting of)」を包含する。
【0019】
「正極活物質」は、正極において電気化学的に活性である物質として定義される。活物質とは、所定の期間にわたって電圧変化にさらされると、Liイオンを捕捉及び放出することができる材料であると理解されたい。
【0020】
以下の発明を実施するための形態では、本発明の実施を可能にするために、好ましい実施形態を記載している。本発明は、これらの特定の好ましい実施形態を参照して記載されるが、以下の実施例は、本発明を更に明確にすることを意図するものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことが理解される。本発明は、以下の発明を実施するための形態の考察から明らかである多くの代替、改変、及び同等物を含む。
【0021】
正極活物質
第1の態様では、本発明は、リチウムと、酸素と、ニッケルと、マンガン及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種の金属と、を含む固体充電式電池用の正極活物質であって、フッ素であって、XPS分析によって決定されたときに、Fと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量との原子比が0.05以上3.0以下である、フッ素と、炭素であって、炭素含有量が、炭素分析器によって決定されたときに、当該正極活物質の総重量に対して370ppm以上5000ppm以下である、炭素と、を更に含むことを特徴とする、正極活物質を提供することによって、達成される。
【0022】
特定の好ましい実施形態では、リチウムと、酸素と、ニッケルと、マンガン及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種の金属と、を含む当該固体充電式電池用の正極活物質であって、フッ素であって、XPS分析によって決定されたときに、Fと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量との原子比が0.05以上3.0以下である、フッ素と、炭素であって、炭素含有量が、炭素分析器によって決定されたときに、当該正極活物質の総重量に対して370ppm以上5000ppm以下である、炭素と、を更に含むことを特徴とする、正極活物質を提供することによって、達成される。
【0023】
好ましくは、当該正極活物質は、誘導結合プラズマ発光分光法(Inductively Coupled Plasma-Optical Emission Spectroscopy)(ICP-OES)によって決定されたときに、当該物質中のNi、Mn、Coの総原子含有量に対して、少なくとも0.05mol%、好ましくは少なくとも0.2mol%、より好ましくは少なくとも0.5mol%、最も好ましくは少なくとも0.7mol%の量のフッ素を含む。好ましくは、当該正極活物質は、ICP-OESによって決定されたときに、当該物質中のNi、Mn、Coの総原子含有量に対して、最大3.0mol%、好ましくは最大2.5mol%、より好ましくは最大2.0mol%、最も好ましくは最大1.8mol%の量のフッ素を含む。好ましくは、当該正極活物質は、ICP-OESによって決定されたときに、0.05mol%以上3.0mol%以下、好ましくは0.2mol%以上2.5mol%以下、より好ましくは0.5mol%以上2.0mol%以下、最も好ましくは0.7mol%以上1.8mol%以下の量のフッ素を含む。
【0024】
好ましくは、当該正極活物質は、ICP-OESによって決定されたときに、当該物質中のNi、Mn、Coの総原子含有量に対して、少なくとも0.01mol%、好ましくは少なくとも0.05mol%、より好ましくは少なくとも0.1mol%、最も好ましくは少なくとも0.2mol%の量のアルミニウムを含む。好ましくは、当該正極活物質は、ICP-OESによって決定されたときに、当該粒子中のNi、Mn、Coの総原子含有量に対して、最大2.0mol%、好ましくは最大1.5mol%、より好ましくは最大1.0mol%、最も好ましくは最大0.8mol%の量のアルミニウムを含む。好ましくは、当該正極活物質は、ICP-OESによって決定されたときに、0.01mol%以上2.0mol%以下、好ましくは0.05mol%以上1.5mol%以下、より好ましくは0.1mol%以上1.0mol%以下、最も好ましくは0.2mol%以上0.8mol%以下の量のアルミニウムを含む。
【0025】
好ましい実施形態では、当該正極活物質は、ICP-OESによって決定されたときに、当該物質中のNi、Mn、Coの総原子含有量に対して、55.0mol%以上95.0mol%以下、好ましくは58.0mol%以上90.0mol%以下、より好ましくは60.0mol%以上88.0mol%以下のニッケルの原子含有量を有する。
【0026】
非常に好ましい実施形態では、当該正極活物質は、当該物質中のNi、Mn、Coの総原子含有量に対して、55.0mol%以上75.0mol%以下、好ましくは60.0mol%以上70.0mol%以下、より好ましくは61.0mol%以上68.0mol%以下のニッケルの原子含有量を有する。
【0027】
非常に好ましい実施形態では、当該正極活物質は、当該物質中のNi、Mn、Coの総原子含有量に対して、75.0mol%以上95.0mol%以下、好ましくは78.0mol%以上90.0mol%以下、より好ましくは80.0mol%以上88.0mol%以下のニッケルの原子含有量を有する。
【0028】
好ましい実施形態では、当該正極活物質は、ICP-OESによって決定されたときに、当該物質中のNi、Mn、Coの総原子含有量に対して、0mol%以上40.0mol%以下、好ましくは2.0mol%以上20.0mol%以下、より好ましくは3.0mol%以上18.0mol%以下、最も好ましくは4.0mol%以上10.0mol%以下のコバルトの原子含有量を有する。
【0029】
好ましい実施形態では、当該物質は、ICP-OESによって決定されたときに、当該物質中のNi、Mn、Coの総原子含有量に対して、0mol%以上40.0mol%以下、好ましくは2.0mol%以上30.0mol%以下、より好ましくは3.0mol%以上25.0mol%以下、最も好ましくは4.0mol%以上10.0mol%以下のマンガンの原子含有量を有する。
【0030】
当業者であれば理解するように、Li、Ni、Mn、Co、F、Alの量は、ICP-OESによって測定される。例えば、本発明を限定するものではないが、Agilent ICP 720-ESがICP-OES分析において使用される。本発明の枠組みでは、濃度を表す所与の元素の「原子含有量」とは、当該化合物中の全原子の何パーセントが当該元素の原子であるかということを意味する。mol%という表記は、「モルパーセント」又は「原子%」と等価である。例えば、本発明を限定するものではないが、XPS分析はThermo K-α+分光計(Thermo Scientific)を用いて行われる。
【0031】
好ましい実施形態では、当該正極活物質は、XPS分析によって決定されたときに、Fと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量と、の原子比が少なくとも0.1、より好ましくは少なくとも0.15、最も好ましくは少なくとも0.2である。好ましくは、当該正極活物質は、XPS分析によって決定されたときに、Fと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量と、の原子比が最大2.5、より好ましくは最大2.0、最も好ましくは最大1.8である。好ましくは、当該正極活物質は、XPS分析によって決定されたときに、Fと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量と、の原子比が0.1以上2.5以下、好ましくは0.15以上2.0以下、最も好ましくは0.2以上1.8以下である。
【0032】
非常に好ましい実施形態では、当該正極活物質は、XPS分析によって決定されたときに、Fと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量と、の原子比が少なくとも0.1、より好ましくは少なくとも0.15、最も好ましくは少なくとも0.2である。好ましくは、当該正極活物質は、XPS分析によって決定されたときに、Fと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量と、の原子比が最大0.8、より好ましくは最大0.7、最も好ましくは最大0.6である。好ましくは、当該正極活物質は、XPS分析によって決定されたときに、Fと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量と、の原子比が0.1以上0.8以下、好ましくは0.15以上0.7以下、最も好ましくは0.15以上0.6以下である。
【0033】
好ましい実施形態では、当該正極活物質は、アルミニウムを含み、XPS分析によって決定されたときに、Alと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量と、の原子比が少なくとも0.2、好ましくは少なくとも0.4、より好ましくは少なくとも0.5、最も好ましくは少なくとも0.6である。好ましくは、当該正極活物質は、XPS分析によって決定されたときに、Alと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量と、の原子比が最大4.0、好ましくは最大3.0、より好ましくは最大2.0、最も好ましくは最大1.5である。好ましくは、当該正極活物質は、Alと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量と、の原子比が0.2以上4.0以下、好ましくは0.4以上3.0以下、より好ましくは0.5以上2.0以下、最も好ましくは0.6以上1.5以下である。
【0034】
非常に好ましい実施形態では、当該正極活物質は、アルミニウムを含み、XPS分析によって決定されたときに、Alと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量と、の原子比が少なくとも0.2、好ましくは少なくとも0.5、より好ましくは少なくとも0.7、最も好ましくは少なくとも0.9である。好ましくは、当該正極活物質は、XPS分析によって決定されたときに、Alと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量と、の原子比が最大1.35、好ましくは最大1.30、より好ましくは最大1.25、最も好ましくは最大1.20である。好ましくは、当該正極活物質は、XPS分析によって決定されたときに、Alと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量と、の原子比が0.2以上1.35以下、好ましくは0.5以上1.30以下、より最も好ましくは0.7以上1.25以下、最も好ましくは0.9以上1.20以下である。
【0035】
好ましい実施形態では、当該正極活物質は、AlとFとの比が少なくとも1.9、好ましくは少なくとも3、より好ましくは少なくとも4であり、Alは、XPS分析によって決定されたときに、Ni、Mn、及び/又はCの総量に対する原子比を有し、Fは、XPS分析によって決定されたときに、Ni、Mn、及び/又はCoの総量に対する原子比を有する。好ましい実施形態では、当該正極活物質は、AlとFとの比が最大10、好ましくは最大8、より好ましくは最大6であり、Alは、XPS分析によって決定されたときに、Ni、Mn、及び/又はCの総量に対する原子比を有し、Fは、XPS分析によって決定されたときに、Ni、Mn、及び/又はCoの総量に対する原子比を有する。好ましい実施形態では、当該正極活物質は、AlとFとの比が1.9以上10以下、好ましくは3以上8以下、より好ましくは4以上6以下であり、Alは、XPS分析によって決定されたときに、Ni、Mn、及び/又はCの総量に対する原子比を有し、Fは、XPS分析によって決定されたときに、Ni、Mn、及び/又はCoの総量に対する原子比を有する。
【0036】
XPS分析は、粒子の外周から約10nmの侵入深さで粒子の最上層における元素の原子含有量を提供する。粒子の外周は、「表面」とも呼ばれる。本発明の枠組みにおいて、原子%は、原子百分率を意味する。所与の元素の濃度表現としての原子%又は「アトミックパーセント」は、当該化合物中の全ての原子のうち何パーセントが当該元素の原子であるかを意味する。原子%という用語は、mol%又は「モルパーセント」と同義である。例えば、本発明を限定するものではないが、XPS分析はThermo K-α+分光計(Thermo Scientific)を用いて行われる。
【0037】
好ましい実施形態では、当該正極活物質は、炭素分析器によって決定されたときに、当該正極活物質の総重量の少なくとも500ppm、より好ましくは少なくとも600ppm、最も好ましくは当該正極活物質の総重量の少なくとも700ppmの含有量を有する炭素を含む。好ましくは、当該正極活物質は、炭素分析器によって決定されたときに、当該正極活物質の総重量の最大3000ppm、より好ましくは最大2000ppm、最も好ましくは当該正極活物質の総重量の最大1500ppmの含有量を有する炭素を含む。好ましくは、当該正極活物質は、当該正極活物質の総重量の500ppm以上3000ppm以下、好ましくは600ppm以上2000ppm以下、より好ましくは当該正極活物質の総重量の700ppm以上1500ppm以下の含有量を有する炭素を含む。当業者であれば理解するように、本発明の正極活物質の炭素含有量は、炭素分析器で測定される。例えば、本発明を限定するものではないが、Horiba Emia-Expert炭素/硫黄分析装置を使用して、炭素含有量を測定することができる。
【0038】
好ましい実施形態では、当該正極物質(positive electrode material)は、レーザー回折によって決定されたときに、2.0μm以上10.0μm以下のメジアン粒径(d50又はD50)を有する。例えば、本発明を限定するものではないが、メジアン粒径(d50又はD50)は、Malvern Mastersizer 3000を用いて測定することができる。好ましくは、当該メジアン粒径は、2.0μm以上9.0μm以下、より好ましくは3.0μm以上8.0μm以下である。
【0039】
好ましい実施形態では、正極活物質は単結晶粉末である。あるいは、同様に好ましい実施形態では、正極活物質は多結晶粉末である。
【0040】
単結晶粉末の概念は正極活物質の技術分野においてよく知られている。これは、主に単結晶性粒子を有する粉末に関する。このような粉末は、主に多結晶である粒子から作られる多結晶粉末と比較すると、別個の種類の粉末である。当業者は、顕微鏡画像に基づいて、そのような2つのクラスの粉末を容易に区別することができる。
【0041】
単結晶粒子はまた、当該技術分野において、モノリシック粒子、一体粒子又は/及びモノ結晶粒子としても知られている。
【0042】
当業者はSEMを用いてそのような粉末を容易に認識することができることから、単結晶粉末の技術的な定義は不要であるが、本発明の文脈において、単結晶粉末はその中の粒子数の80%以上が単結晶粒子である粉末として定義されると考えてもよい。これは、少なくとも45μm×少なくとも60μm(すなわち、少なくとも2700μm2)、好ましくは少なくとも100μm×100μm(すなわち、少なくとも10,000μm2)の視野を有するSEM画像上で決定することができる。
【0043】
単結晶粒子とは、個々の結晶であるか、又は5個未満、好ましくは最大3個のそれ自体が個々の結晶である一次粒子から形成された粒子である。これは、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)(SEM)のような適切な顕微鏡技術で粒界を観察することによって観察することができる。したがって、当業者であれば理解するように、二次粒子メジアン径D50の決定は、単結晶粉末にも適用可能である。
【0044】
粒子が単結晶粒子であるかどうかの測定において、レーザー回折によって決定されたときに粉末のメジアン径D50の20%よりも小さい、SEMによって観察される最大直線寸法を有する粒は無視される。これによって、本質的には単結晶であるが、いくつかの非常に小さい他の粒、例えば多結晶のコーティングがそれらの上に堆積し得る粒子が単結晶粒子ではないと不注意に見なされることを回避する。
【0045】
当業者であれば理解するように、多結晶粉末は、複数の一次粒子、好ましくは20個を超える一次粒子、好ましくは10個を超える一次粒子、最も好ましくは5個を超える一次粒子を含む二次粒子からなる。
【0046】
特定の好ましい実施形態では、単結晶粒子を含み、レーザー回折によって決定されたときに、2.0μm以上10.0μm以下、好ましくは2.0μm以上9.0μm以下、より好ましくは3.0μm以上8.0μm以下の粒子メジアン径D50を有する、正極活物質は、本発明によるものである。
【0047】
特定の好ましい実施形態では、多結晶粒子を含み、レーザー回折によって決定されたときに、2.0μm以上10.0μm以下、好ましくは2.0μm以上9.0μm以下、より好ましくは3.0μm以上8.0μm以下の粒子メジアン径D50を有する、正極活物質は、本発明によるものである。
【0048】
好ましい実施形態では、フッ素源は、F含有ポリマー、好ましくはF含有有機ポリマー、好ましくはポリフッ化ビニリデン、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。
【0049】
好ましい実施形態では、フッ素含有有機ポリマーは、正極活物質を得るために、200℃以上350℃以下、好ましくは250℃以上300℃以下の温度で1時間以上20時間以下の期間加熱されている。
【0050】
好ましい実施形態では、正極活物質は低リーク正極活物質である。
【0051】
更なる態様では、本発明は、リチウムと、酸素と、ニッケルと、マンガン及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種の金属と、を含む固体充電式電池用二次粒子系正極活物質であって、フッ素であって、XPS分析によって決定されたときに、Fと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量と、の原子比が0.05以上3.0以下である、フッ素と、炭素であって、炭素含有量が、炭素分析器によって決定されたときに、当該正極活物質の総重量に対して370ppm以上5000ppm以下である、炭素と、を更に含むことを特徴とする、正極活物質を提供する。
【0052】
二次粒子系正極活物質の非常に好ましい実施形態では、本発明の第1の態様による正極活物質に関する全ての実施形態は、二次粒子系正極活物質に必要な変更を加えて適用される。例えば、正極活物質の文脈において本明細書で説明されるLi、M’、F、及びAlの同一性及び量に関する様々な実施形態は、二次粒子系正極活物質に等しく適用可能である。
【0053】
更なる態様では、本発明は、リチウムと、酸素と、ニッケルと、マンガン及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種の金属と、を含む固体充電式電池用単結晶粒子系正極活物質であって、フッ素であって、XPS分析によって決定されたときに、Fと、Ni、Mn、及び/又はCoの総量と、の原子比が0.05以上3.0以下である、フッ素と、炭素であって、炭素含有量が、炭素分析器によって決定されたときに、当該正極活物質の総重量に対して370ppm以上5000ppm以下である、炭素と、を更に含むことを特徴とする、正極活物質を提供する。
【0054】
単結晶粒子系正極活物質の非常に好ましい実施形態では、本発明の第1の態様による正極活物質に関する全ての実施形態は、単結晶粒子系正極活物質に必要な変更を加えて適用される。例えば、正極活物質の文脈において本明細書で説明されるLi、M’、F、及びAlの同一性及び量に関する様々な実施形態は、二次粒子系正極活物質に等しく適用可能である。
【0055】
製造方法
第2の態様では、本発明にはまた、正極活物質の製造方法であって、リチウム遷移金属系酸化物化合物とF含有ポリマーと、任意選択でアルミニウム含有粉末と、を混合するステップと、1時間以上20時間以下の時間、混合物を炉内の酸化雰囲気下で、350℃未満の温度で加熱し、正極活物質を得るステップと、を含む、方法も含まれる。
【0056】
非常に好ましい実施形態は、正極活物質の製造方法であり、正極活物質は、本発明の第1の態様によるものである。
【0057】
本方法の好ましい実施形態では、リチウム遷移金属系酸化物化合物は、Li、M’及び酸素を含み、M’は、Ni、Mn、及びCoを含む。
【0058】
特定の好ましい実施形態では、使用されるリチウム遷移金属系酸化物はまた、典型的には、リチオ化プロセス、すなわち遷移金属酸化物前駆体とリチウム源との混合物を好ましくは少なくとも500℃及び最大1000℃の温度で加熱するプロセスに従って調製される。典型的には、遷移金属前駆体は、アルカリ化合物、例えばアルカリ水酸化物、例えば水酸化ナトリウム及び/又はアンモニアの存在下で、塩、好ましくは硫酸塩又は硝酸塩、より好ましくは硫酸塩などの1つ以上の遷移金属源と、元素Ni、Mn、及び/又はCoとの共沈によって調製される。好ましくは、リチウム源は、金属リチウム又はリチウム塩、好ましくはLiOHなどのリチウム塩である。
【0059】
好ましい実施形態では、アルミニウム含有粉末は、AI2O3を含む。
【0060】
好ましくは、F含有ポリマーは、F含有有機ポリマー、好ましくはポリフッ化ビニリデン又はポリテトラフルオロエチレンである。
【0061】
好ましくは、混合物の加熱の温度は、200℃以上350℃以下、好ましくは250℃以上300℃以下である。
【0062】
特定の好ましい実施形態では、混合物の加熱は、2時間超、好ましくは3時間超、より好ましくは4時間超の時間である。好ましい実施形態では、混合物の加熱は、15時間未満、好ましくは12時間未満、好ましくは10時間未満の時間である。好ましい実施形態では、混合物の加熱は、2時間以上15時間以下、好ましくは3時間以上12時間以下、より好ましくは4時間以上10時間以下の時間である。
【0063】
本方法の好ましい実施形態は、混合物を加熱することであり、酸化雰囲気は、空気などの酸素を含むか、又は酸素からなる。
【0064】
本方法により得られる正極活物質
第3の態様では、本発明は、本発明の第2の態様による方法によって得ることができる正極活物質を提供する。
【0065】
当業者であれば理解するように、本発明の第1の態様による正極活物質及び/又は本発明の第2の態様による方法に関する全ての実施形態は、本発明による方法によって得ることができる正極活物質(positive electrode active)に必要な変更を加えて適用される。例えば、正極活物質の文脈において本明細書で説明されるF、Al、Ni、Mn、及びCoの同一性及び量に関する様々な実施形態は、正極活物質の調製のための方法によって得ることができる正極活物質に等しく適用可能である。
【0066】
電池
第4の態様では、本発明は、本発明の第1の態様及び/又は本発明の第3の態様による正極活物質を含む電池に関する。
【0067】
好ましい実施形態では、電池は、固体電池である。好ましくは、固体電池は、ポリマー系電解質を含む。好ましくは、当該電解質はポリエチレンオキシド系固体電解質であり、より好ましくは、電解質はポリエチレンオキシドを含む。
【0068】
好ましくは、固体電池は、アノード活物質を含むアノードを更に備える。好適な電気化学的に活性なアノード物質は、当該技術分野で既知のものである。例えば、アノードは、グラファイトカーボン、金属リチウム、例えばリチウム箔、又はアノード活物質としてLi-In合金などのリチウムを含む金属合金を含み得る。
【0069】
好ましい実施形態では、本発明による電池は、少なくとも87%、好ましくは少なくとも88%、最も好ましくは少なくとも89%のリテンションを有する多結晶物質である正極活物質を含む。あるいは、同様に好ましい実施形態では、本発明による電池は、少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは少なくとも100%のリテンションを有する単結晶物質である正極活物質を含む。当業者であれば理解するように、電池のリテンションは、実施例の項目1.3.2の下で説明されるように測定される。
【0070】
特定の好ましい実施形態では、リテンションは、
【数1】
のように定義される。特定のより好ましい実施形態では、リテンションは、以下のスケジュールに従って、3.0V/Li以上4.4V/Li以下の金属窓範囲において160mA/gの1C電流定義を使用するToscat-3100コンピュータ制御定電流サイクリングステーション(東洋システム)を使用して80℃でサイクルされたコイン型ポリマーセルにおけるコインセル試験手順によって定義される。
【0071】
ステップ1)4.4Vの終了条件で、0.05のCレートにより定電流モードで充電し、続いて10分間休止する。
【0072】
ステップ2)3.0Vの終了条件で、0.05のCレートにより定電流モードで放電し、続いて10分間休止する。このステップの放電容量は、DQ1である。
【0073】
ステップ3)4.4Vの終了条件で、0.05のCレートにより定電流モードで充電する。
【0074】
ステップ4)定電圧モードに切り替え、4.4Vを60時間維持する。
【0075】
ステップ5)3.0Vの終了条件で、0.05のCレートにより定電流モードで放電する。このステップの放電容量は、DQ2である。
【0076】
好ましい実施形態では、本発明による電池は、78mAh/g未満、好ましくは75mAh/g未満、より好ましくは70mAh/g未満のQtotalを有する多結晶物質である正極活物質を含む。あるいは、同様に好ましい実施形態では、本発明による電池は、70mAh/g未満、好ましくは45mAh/g未満、より好ましくは40mAh/g未満、更により好ましくは32mAh/g未満、最も好ましくは32mAh/g未満のQtotalを有する単結晶物質である正極活物質を含む。当業者であれば理解するように、電池のQtotalは、実施例の項目1.3.2の下で説明されるように測定される。
【0077】
特定の好ましい実施形態では、Qtotalは、好ましくは高電圧及び高温での総漏れ容量として定義される。特定のより好ましい実施形態では、Qtotalは、以下に記載の試験方法のステップ4)における高電圧及び高温での総漏れ容量として定義され、好ましくは、Qtotalは、以下のスケジュールに従って、3.0V/Li以上4.4V/Li以下の金属窓範囲において160mA/gの1C電流定義を使用するToscat-3100コンピュータ制御定電流サイクリングステーション(東洋システム)を使用して80℃でサイクルされたコイン型ポリマーセルにおけるコインセル試験手順によって定義される。
【0078】
ステップ1)4.4Vの終了条件で、0.05のCレートにより定電流モードで充電し、続いて10分間休止する。
【0079】
ステップ2)3.0Vの終了条件で、0.05のCレートにより定電流モードで放電し、続いて10分間休止する。このステップの放電容量は、DQ1である。
【0080】
ステップ3)4.4Vの終了条件で、0.05のCレートにより定電流モードで充電する。
【0081】
ステップ4)定電圧モードに切り替え、4.4Vを60時間維持する。
【0082】
使用
第4の態様では、本発明は、電池における、本発明の第1の態様及び/又は本発明の第3の態様による正極活物質の使用を提供する。
【0083】
好ましい実施形態は、電池のリテンションを増加させるための、電池、好ましくは固体電池、より好ましくはポリマー固体電池における正極活物質の使用である。
【0084】
好ましい実施形態は、電池の漏れを低減させるための、電池、好ましくは固体電池、より好ましくは硫化物固体電池における正極活物質の使用である。
【0085】
第5の態様では、本発明は、ポータブルコンピュータ、タブレット、携帯電話、エネルギー貯蔵システム、電気自動車又はハイブリッド電気自動車のいずれか1つにおける、好ましくはエレクトリック・ビークル又はハイブリッド・エレクトリック・ビークルにおける、本発明による電池の使用に関する。
[実施例]
【0086】
1.分析方法の説明
1.1.誘導結合プラズマ
正極活物質粉末の組成は、Agilent 720 ICP-OESを使用する誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma、ICP)法によって測定する。1グラムの粉末サンプルを、三角フラスコ中で50mLの高純度塩酸(溶液の総重量に対して少なくとも37重量%のHCl)に溶解する。粉末が完全に溶解するまで、フラスコを時計皿で覆い、380℃で、ホットプレート上で加熱する。室温まで冷却した後、三角フラスコからの溶液を第1の250mLのメスフラスコに注ぐ。その後、第1のメスフラスコの250mLを標線まで脱イオン水で充填し、続いて、完全な均質化法(1回目の希釈)を行った。第1のメスフラスコからピペットで適切な量の溶液を取り出し、2回目の希釈のために第2の250mLメスフラスコに移し、第2のメスフラスコを250mLの標線まで内部標準要素及び10%塩酸で充填した後、均質化させる。最後に、この溶液をICP測定に使用する。
【0087】
1.2.粒子径分布
正極活物質粉末の粒子径分布(particle size distribution、PSD)は、各々の粉末サンプルを水性媒体中に分散させた後、Hydro MV湿式分散付属品を備えたMalvern Mastersizer3000を使用してレーザー回折粒子径分析により測定される。粉末の分散を改善するために、十分な超音波照射及び撹拌を適用し、適切な界面活性剤を導入する。D50は、Hydro MV測定値によるMalvern Mastersizer 3000から得られた累積体積%分布の50%における粒子径として定義される。
【0088】
1.3.ポリマーセル試験
1.3.1.ポリマーセルの調製
1.3.1.1.固体ポリマー電解質(SPE)の調製
固体ポリマー電解質(solid polymer electrolyte、SPE)を、以下の方法に従って調製する。
【0089】
ステップ1)99.8重量%無水アセトニトリル(Aldrich)中でポリエチレンオキシド(PEO、1,000,000g/mol、Alfa Aesar)と、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(LiTFSI、98.0%超、TCI)と、を2000回転/分(rpm)でミキサーを使用して30分間混合する。ポリエチレンオキシドのLiTFSIに対する質量比は、3.0である。
【0090】
ステップ2)ステップ1)からの混合物をテフロン(登録商標)皿に注ぎ入れて、25℃で12時間乾燥させる。
【0091】
ステップ3)乾燥したSPEを皿から取り外し、乾燥したSPEを打ち抜いて、厚さ300μm及び直径19mmを有するSPEディスクを得る。
【0092】
1.3.1.2.正極の調製
正極を、以下のプロセスに従って調製する。
【0093】
ステップ1)99.7重量%無水アニソール(Sigma-Aldrich)中のポリエチレンオキシド(PEO、100,000g/mol、Alfa Aesar)溶液と、アセトニトリル中のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(LiTFSI、98.0%超、TCI)と、を含むポリマー電解質混合物を調製する。混合物は、PEO:LiTFSIの重量比が74:26である。
【0094】
ステップ2)ステップ1)で調製したポリマー電解質混合物と、正極活物質と、導電材粉末(Super P,Timcal)と、をアセトニトリル溶液中で、重量比21:75:4で混合し、スラリー混合物を調製する。混合は、ホモジナイザーによって5000rpmで45分間行われる。
【0095】
ステップ3)ステップ2)からのスラリー混合物を、厚さ20μmのアルミニウム箔の片面上に、100μmのコーターギャップでキャストする。
【0096】
ステップ4)スラリーがキャストされた箔を30℃で12時間乾燥させ、続いて打ち抜いて、直径14mmのカソード液(catholyte)電極を得る。
【0097】
1.3.1.3.負極の調製
Li箔(直径16mm、厚さ500μm)を、負極として調製する。
【0098】
1.3.1.4.ポリマーセルの組み立て
コイン型ポリマーセルを、アルゴンを充填したグローブボックス内で、下から上に、2032コインセル缶、セクション1.3.1.2から調製した正極、セクション1.3.1.1から調製したSPE、ガスケット、セクション1.3.1.3から調製した負極、スペーサ、波形ばね、及びセルキャップの順で組み立てる。次いで、コインセルを完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
【0099】
1.3.2.試験方法
各コイン型ポリマーセルを、Toscat-3100コンピュータ制御定電流サイクリングステーション(東洋システム)を使用して80℃でサイクルする。コインセル試験手順は、以下のスケジュールに従って、3.0V/Li以上4.4V/Li以下の金属窓範囲において160mA/gの1C電流定義を使用する。
【0100】
ステップ1)4.4Vの終了条件で、0.05のCレートにより定電流モードで充電し、続いて10分間休止する。
【0101】
ステップ2)3.0Vの終了条件で、0.05のCレートにより定電流モードで放電し、続いて10分間休止する。このステップの放電容量は、DQ1である。
【0102】
ステップ3)4.4Vの終了条件で、0.05のCレートにより定電流モードで充電する。
【0103】
ステップ4)定電圧モードに切り替え、4.4Vを60時間維持する。
【0104】
ステップ5)3.0Vの終了条件で、0.05のCレートにより定電流モードで放電する。このステップの放電容量は、DQ2である。
【0105】
Qtotalは、記載された試験方法のステップ4)における高電圧及び高温での総漏れ容量として定義される。Qtotalの値が小さいことは、高温動作時における正極活物質粉末の安定性が高いことを示す。
【0106】
【0107】
1.4.X線光電子分光法(XPS)
本発明では、X線光電子分光法(X-ray photoelectron spectroscopy)(XPS)を使用して、正極活物質粉末粒子の表面を分析する。XPS測定では、シグナルは、サンプルの最上部、すなわち、表面層の最初の数ナノメートル(例えば、1nm以上10nm以下)から取得される。したがって、XPSによって測定される全ての元素は、表面層に含有されている。
【0108】
正極活物質粉末粒子の表面分析では、XPS測定は、ThermoK-α+分光計を使用して行われる。単色Al Kα放射線(hυ=1486.6eV)を、400μmのスポットサイズ及び45°の測定角度で使用する。表面に存在する元素を同定するための広範な調査スキャンを、200eVのパスエネルギーで実施する。284.8eVの結合エネルギーに最大強度(又は中心)を有するC1sピークは、データ収集後のキャリブレーションピーク位置として使用される。その後、同定された各元素に対して、50eVにて正確なナロースキャンが少なくとも10回スキャンされ、正確な表面組成が決定される。
【0109】
曲線当てはめは、CasaXPS バージョン2.3.19PR1.0で、シャーリー型バックグラウンド処理及びScofield感度係数を使用して行われる。当てはめパラメータは表2aに従う。
【0110】
線形状GL(30)は、70%ガウス線及び30%ローレンツ線におけるガウス/ローレンツ積公式である。LA(α、β、m)は非対称な線形状であり、式中、α及びβはピークのテール広がりを定義し、mは幅を定義する。
【0111】
【0112】
Al及びCoピークについては、表2bに従ってそれぞれ定義されたピークに関する制限が設定される。関連する全てのNi3pピークは定量されない。
【0113】
【0114】
XPSによって決定されたときのAl及びFの表面含有量は、粒子の表面層中のAl及びFのそれぞれの原子分率を、当該表面層中のNi、Mn、及びCoの合計含有量で割ったものとして表される。これは以下のように計算される。
【0115】
【0116】
【0117】
1.5.炭素分析
正極活物質粉末の炭素含有量は、株式会社堀場製作所製Emia-Expert炭素/硫黄分析装置によって測定する。1gの正極活物質粉末を、高周波誘導電気炉内のセラミック坩堝に入れる。促進剤としての1.5gのタングステン及び0.2gのスズを坩堝の中へ加える。粉末を、燃焼中に生成されたガスが赤外線検出器によって次いで分析されるプログラム可能な温度で加熱する。CO2及びCOの分析により、炭素濃度を決定する。
【0118】
2.実施例及び比較例
比較例1
CEX(比較例)1と表記される単結晶正極活物質を、以下のステップに従って調製した。
【0119】
ステップ1)遷移金属酸化水酸化物前駆体の調製:金属組成Ni0.63Mn0.22Co0.15を有するニッケル系遷移金属酸化水酸化物粉末(TMH1)を、混合したニッケルマンガンコバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを入れた大規模連続撹拌槽反応器(CSTR)内での共沈プロセスによって調製した。
【0120】
ステップ2)1回目の混合:ステップ1)で調製したTMH1を、Li2CO3と工業用ブレンダー中で混合して、リチウムと金属(Ni、Mn、及びCo)との比が0.85である第1の混合物を得た。
【0121】
ステップ3)1回目の加熱:ステップ2)からの第1の混合物を、乾燥空気雰囲気下、900℃で10時間加熱して、第1の加熱ケーキを得た。
【0122】
ステップ4)2回目の混合:ステップ3)からの第1の加熱ケーキを、LiOHと工業用ブレンダー中で混合して、リチウムと金属(Ni、Mn、及びCo)との比が1.05である第2の混合物を得た。
【0123】
ステップ5)2回目の加熱:ステップ4)からの第2の混合物を、乾燥空気雰囲気下で、950℃で10時間加熱し、続いて、湿式ミル粉砕、乾燥、及び篩分け処理して、第2の加熱生成物を得た。
【0124】
ステップ6)3回目の混合:ステップ5)からの第2の加熱生成物を、それぞれNi、Mn、及びCoの総原子含有量に対して、CO3O4からの2mol%のCo及びLiOHからの5mol%のLiと混合して、第3の混合物を得た。
【0125】
ステップ7)3回目の加熱:ステップ6)からの第3の混合物を、乾燥空気雰囲気下で、775℃で12時間加熱して、ICP-OESによって得られるNi:Mn:Coの比が0.61:0.22:0.17であるNi、Mn、及びCoを含むCEX1を得た。CEX1は7μmのD50を有する。
【0126】
ステップ5)における湿式ミル粉砕により、CEX1は、単結晶粉末である。
【0127】
実施例1
EX(実施例)1と表記される単結晶正極活物質を、以下のステップに従って調製した。
【0128】
ステップ1)混合:CEX1を、ミキサー中で3000ppmのPTFE及び2000ppmのアルミナナノ粉末と混合した。
【0129】
ステップ2)加熱:ステップ1)から得られた混合物を、酸素雰囲気下で、250℃で6時間加熱し、続いて、ミル粉砕することにより、EX1を得た。
【0130】
比較例2
CEX2.1と表記される単結晶正極活物質を、以下のステップに従って調製した。
【0131】
ステップ1)遷移金属酸化水酸化物前駆体の調製:金属組成Ni0.86Mn0.07Co0.07を有するニッケル系遷移金属酸化水酸化物粉末(TMH2)を、混合したニッケルマンガンコバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを入れた大規模連続撹拌槽反応器(CSTR)内での共沈プロセスによって調製した。
【0132】
ステップ2)前駆体の酸化:ステップ1)で調製されたTMH2を、酸化雰囲気下で、400℃で7時間加熱して、加熱生成物を得た。
【0133】
ステップ3)1回目の混合:ステップ2)で調製された加熱生成物を、LiOHと工業用ブレンダー中で混合して、リチウムと金属(Ni、Mn、及びCo)との比が0.96である第1の混合物を得た。
【0134】
ステップ4)1回目の加熱:ステップ3)からの第1の混合物を、酸化雰囲気下で、890℃で11時間加熱して、第1の加熱生成物を得た。
【0135】
ステップ5)湿式ビーズミル粉砕:ステップ4)からの第1の加熱生成物を、第1の加熱生成物中のNi、Mn、及びCoの総原子含有量に対して0.5mol%のCoを含有する溶液中でビーズミル粉砕し、続いて、乾燥及び篩分け処理してミル粉砕生成物を得た。ビーズミル粉砕の固体対溶液の重量比は6:4であり、20分間実施した。
【0136】
ステップ6)2回目の混合:ステップ5)から得られたミル粉砕生成物を、工業用ブレンダー内で、各々ミル粉砕生成物中のNi、Mn、及びCoの総原子含有量に対して、CO3O4からの1.5mol%のCo、ZrO2からの0.25mol%のZr、及びLiOHからの7.5mol%のLiと混合して、第2の混合物を得た。
【0137】
ステップ7)2回目の加熱:ステップ6)からの第2の混合物を、酸化雰囲気下で、760℃で10時間加熱し、続いて粉砕し、及びアルミナ(AI2O3)粉末からの500ppmのAlを加えて篩分け処理した。最終生成物は、ICP-OESによって得られるNi:Mn:Coの比が0.84:0.07:0.09であるNi、Mn、及びCoを含むCEX2.1を有する。CEX2.1は4μmのD50を有する。
【0138】
CEX2.2と表記される単結晶正極活物質を、以下のステップに従って調製した。
【0139】
ステップ1)混合:CEX2.1を、ミキサー中で3000ppmのPVDF及び2000ppmのアルミナナノ粉末と混合した。
【0140】
ステップ2)加熱:ステップ1)から得られた混合物を、酸素雰囲気下で、350℃で6時間加熱し、続いて、ミル粉砕することにより、CEX2.2を得た。
【0141】
ステップ1)でPVDFの代わりにPTFEを使用することを除いて、CEX2.2と同じ方法に従ってCEX2.3を調製した。
【0142】
ステップ1)でPVDFの代わりにPTFEを使用し、ステップ2)で450℃で加熱することを除いて、CEX2.2と同じ方法に従ってCEX2.4を調製した。
【0143】
実施例2
EX2.1と表記される単結晶正極活物質を、以下のステップに従って調製した。
【0144】
ステップ1)混合:CEX2.1を、ミキサー中で3000ppmのPVDF及び2000ppmのアルミナナノ粉末と混合した。
【0145】
ステップ2)加熱:ステップ1)から得られた混合物を、酸素雰囲気下で、200℃で6時間加熱し、続いて、ミル粉砕することにより、EX2.1を得た。
【0146】
ステップ2)での加熱温度が250℃であることを除いて、EX2.1と同じ方法に従ってEX2.2を調製した。
【0147】
ステップ2)での加熱温度が300℃であることを除いて、EX2.1と同じ方法に従ってEX2.3を調製した。
【0148】
ステップ1)でアルミナを加えず、PVDFの代わりにPTFEを使用することを除いて、EX2.1と同じ方法に従ってEX2.4を調製した。また、ステップ2)で加熱しなかった。
【0149】
ステップ1)でアルミナを加えず、PVDFの代わりにPTFEを使用することを除いて、EX2.1と同じ方法に従ってEX2.5を調製した。また、ステップ2)で250℃で加熱した。
【0150】
ステップ1)でPVDFの代わりにPTFEを使用し、ステップ2)で加熱しないことを除いて、EX2.1と同じ方法に従ってEX2.6を調製した。
【0151】
ステップ1)でPVDFの代わりにPTFEを使用することを除いて、EX2.1と同じ方法に従ってEX2.7を調製した。
【0152】
ステップ1)でPVDFの代わりにPTFEを使用し、ステップ2)で250℃で加熱することを除いて、EX2.1と同じ方法に従ってEX2.8を調製した。
【0153】
ステップ1)でPVDFの代わりにPTFEを使用し、ステップ2)で300℃で加熱することを除いて、EX2.1と同じ方法に従ってEX2.9を調製した。
【0154】
比較例3
CEX3と表記される単結晶正極活物質を、以下のステップに従って調製した。
【0155】
ステップ1)遷移金属酸化水酸化物前駆体の調製:金属組成Ni0.90Mn0.05Co0.05を有するニッケル系遷移金属酸化水酸化物粉末(TMH3)を、混合したニッケルマンガンコバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを入れた大規模連続撹拌槽反応器(CSTR)内での共沈プロセスによって調製した。
【0156】
ステップ2)1回目の混合:ステップ1)で調製したTMH3を、工業用ブレンダー内で、LiOHとZrO2と混合して、リチウムと金属(Ni、Mn、及びCo)との比が0.99であり、かつ1000ppmのZrを有する第1の混合物を得た。
【0157】
ステップ3)1回目の加熱:ステップ2)からの第1の混合物を、酸化雰囲気下、890℃で11時間加熱して、第1の加熱生成物を得た。
【0158】
ステップ4)湿式ビーズミル粉砕:ステップ3)からの第1の加熱生成物を、第1の加熱生成物中のNi、Mn、及びCoの総原子含有量に対して0.5mol%のCoを含有する溶液中でビーズミル粉砕し、続いて、乾燥及び篩分け処理してミル粉砕生成物を得た。ビーズミル粉砕の固体対溶液の重量比は6:4であり、20分間実施した。
【0159】
ステップ5)2回目の混合:ステップ4)から得られたミル粉砕生成物を、工業用ブレンダー内で、ミル粉砕生成物中のNi、Mn、及びCoの総原子含有量に対して、CO3O4からの1.5mol%のCo及びZrO2からの1000ppmのZrと混合して、第2の混合物を得た。
【0160】
ステップ6)2回目の加熱:ステップ5)からの第2の混合物を、酸化雰囲気下で、760℃で12時間加熱し、続いて粉砕し、及びアルミナ(AI2O3)粉末からの500ppmのAlを加えて篩分け処理した。生成物は、ICP-OESによって得られるNi:Mn:Coの比が0.88:0.05:0.07であるNi、Mn、及びCoを含むCEX3を有する。CEX3は4μmのD50を有する。
【0161】
実施例3
EX3と表記される単結晶正極活物質を、以下のステップに従って調製した。
【0162】
ステップ1)混合:CEX3を、ミキサー中で3000ppmのPTFE及び2000ppmのアルミナナノ粉末と混合した。
【0163】
ステップ2)加熱:ステップ1)から得られた混合物を、酸素雰囲気下で、250℃で6時間加熱し、続いて、ミル粉砕することにより、EX3を得た。
【0164】
比較例4
CEX4と表記される多結晶正極活物質を、以下のステップに従って調製した。
【0165】
ステップ1)遷移金属酸化水酸化物前駆体の調製:金属組成Ni0.83Mn0.12Co0.05を有するニッケル系遷移金属酸化水酸化物粉末(TMH4)を、混合したニッケルマンガンコバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを入れた大規模連続撹拌槽反応器(CSTR)内での共沈プロセスによって調製した。
【0166】
ステップ2)1回目の混合:ステップ1)で調製されたTMH4を、LiOHと工業用ブレンダー中で混合して、リチウムと金属(Ni、Mn、及びCo)との比が0.975である第1の混合物を得た。
【0167】
ステップ3)1回目の加熱:ステップ2)からの第1の混合物を、酸化雰囲気下で、765℃で10時間加熱して、第1の加熱生成物を得た後、粉砕及び篩分けした。
【0168】
ステップ4)2回目の混合:ステップ3)からの第1の加熱生成物と、リチウム源としてのLiOHと、を、工業用ブレンド装置においてリチウムと金属(Ni、Mn、及びCo)との比を1.03として均質に混合し、第2の混合物を得た。
【0169】
ステップ5)2回目の加熱:ステップ4)からの第2の混合物を、酸素雰囲気下で、770℃で12時間加熱して、ICP-OESによって得られるNi:Mn:Coの比が0.83:0.12:0.05であるNi、Mn、及びCoを含むCEX4を得た。CEX4は6μmのD50を有する。
【0170】
実施例4
EX4.1と表記される多結晶正極活物質を、以下のステップに従って調製した。
【0171】
ステップ1)混合:CEX4を、ミキサー中で2000ppmのPTFE及び2000ppmのアルミナナノ粉末と混合した。
【0172】
ステップ2)加熱:ステップ1)から得られた混合物を、酸素雰囲気下で、250℃で6時間加熱し、続いて、ミル粉砕することにより、EX4.1を得た。
【0173】
ステップ1)で3000ppmのPTFEを使用したことを除いて、EX4.1に従ってEX4.2を調製した。
【0174】
ステップ1)で4000ppmのPTFEを使用したことを除いて、EX4.1に従ってEX4.3を調製した。
【0175】
【0176】
表2に実施例及び比較例の組成及びそれらの対応する電気化学的特性をまとめる。
【0177】
CEX1及びEX1は、約61mol%のNiを含む単結晶正極活物質である。F及びAlを更に含むEX1は、CEX1と比較して、Qtotalの低下及びリテンションの改善をもたらす。
【0178】
CEX2.1~CEX2.5及びEX2.1~EX2.9は、約84mol%のNiを含む単結晶正極活物質である。CEX2.1は、Fを含まない正極活物質である。CEX2.2~CEX2.4は、CEX2.1と、PVDF又はPTFEのいずれかであるF含有ポリマーとの混合物であり、温度≧350℃に加熱される。このような加熱処理により、Qtotalが高く、リテンションが低い正極活物質が得られることがわかる。350ppm未満の低い炭素含有量であることから、F含有ポリマーは、温度≧350℃で分解される可能性が高い。一方、EX2.1~EX2.9は、温度≦300℃で熱処理される。全ての当該実施例は、CEX2.1~CEX2.4と比較して改善された電気化学的特性を示す。
【0179】
CEX3及びEX3は、約88mol%のNiを含む単結晶正極活物質である。F及びAlを含むEX3は、CEX3と比較して改善された電気化学的特性を有する。
【0180】
CEX4及びEX4.1~EX4.3は、約88mol%のNiを含む多結晶正極活物質である。EX4.1~EX4.3は、アルミナ、様々な量のPTFEと混合され、250℃で加熱されたCEX4から得られる。EX4は、CEX4と比較して、より低いQtotal及びより高いリテンションを示すことが示される。
【0181】
表2はまた、Ni、Mn、及びCoの総原子分率に対するAl及びF分率を示すCEX2.3、CEX2.4、EX2.6、EX2.7、EX2.8、EX2.9のXPS分析結果を要約する。0より大きい値は、試料の最上部、すなわち表面層の最初の数ナノメートル(例えば1nm以上10nm以下)からシグナルを取得するXPS測定に関連して、正極活物質の表面にAl又はFが存在することを示す。
【0182】
F及びCを含む正極活物質は、本発明の目的を満たすのに好適であると結論付けられる。すなわち、固体充電式電池において、低い総漏れ容量(Qtotal)及び高いリテンションであることから、良好な電気化学的特性を有する正極活物質を提供する。
【国際調査報告】