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特表2025-503094正極活物質、その製造方法、およびそれを含む正極
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-30
(54)【発明の名称】正極活物質、その製造方法、およびそれを含む正極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20250123BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20250123BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20250123BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/131
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024543358
(86)(22)【出願日】2023-05-22
(85)【翻訳文提出日】2024-07-22
(86)【国際出願番号】 KR2023006937
(87)【国際公開番号】W WO2023224442
(87)【国際公開日】2023-11-23
(31)【優先権主張番号】10-2022-0062284
(32)【優先日】2022-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・シグ・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン・ア・パク
(72)【発明者】
【氏名】カン・ヒョン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ファン・ヨン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ピル・キム
(72)【発明者】
【氏名】ウン・ジュ・イ
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA12
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050EA10
5H050EA24
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA26
5H050GA27
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA13
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、初期抵抗特性および寿命特性が改善された電池を実現することができる単粒子状の正極活物質、その製造方法、およびそれを含む正極に関する発明であり、電子後方散乱回折(Electron BackScatter Diffraction、EBSD)分析により得られた結晶粒の長軸とリチウム移動経路がなす角度をαとするとき、(cosα)値が0.5以上である単粒子状の正極活物質、その製造方法、およびそれを含む正極に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子後方散乱回折(Electron BackScatter Diffraction、EBSD)分析により得られた結晶粒の長軸とリチウム移動経路がなす角度をαとするとき、(cosα)値が0.5以上である、単粒子状の正極活物質。
【請求項2】
1個~50個の単結晶粒子からなる、請求項1に記載の単粒子状の正極活物質。
【請求項3】
前記単結晶粒子は、平均粒径(DEBSD)が0.1μm~10μmである、請求項2に記載の単粒子状の正極活物質。
【請求項4】
(A)正極活物質前駆体とリチウム原料物質を混合し、800℃~1000℃の温度で一次焼成して可塑性品を製造した後、前記可塑性品を一次焼成温度よりも低い温度で二次焼成して単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物を製造するステップと、
(B)前記単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物とコバルト原料物質を混合して混合物を準備するステップと、
(C)前記混合物を650℃~800℃の温度で熱処理するステップと、
を含む、単粒子状の正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記(A)ステップの一次焼成は、酸素雰囲気下で行われる、請求項4に記載の単粒子状の正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記(A)ステップの二次焼成は、700℃~900℃の温度で行われる、請求項4に記載の単粒子状の正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記(A)ステップの二次焼成は、酸素雰囲気下で行われる、請求項4に記載の単粒子状の正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記(B)ステップにおいて、単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物とコバルト原料物質が1:0.0001~0.05のモル比で混合される、請求項4に記載の単粒子状の正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記(B)ステップの混合は、乾式混合である、請求項4に記載の単粒子状の正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記(C)ステップの熱処理は、酸素雰囲気下で行われる、請求項4に記載の単粒子状の正極活物質の製造方法。
【請求項11】
集電体と、
前記集電体上に位置する正極活物質層と、を含む正極であって、
前記正極活物質層は、請求項1~3のいずれか一項に記載の単粒子状の正極活物質を含む、正極。
【請求項12】
前記単粒子状の正極活物質のリチウム移動経路と前記集電体の上部面に対する平行軸がなす角度をθとするとき、(cosθ)値が0.6以上である、請求項11に記載の正極。
【請求項13】
前記(cosθ)値と(cosα)値の差が0.2以下である、請求項12に記載の正極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2022年05月20日付けの韓国特許出願第10-2022-0062284号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願が文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、単粒子状の正極活物質、その製造方法、およびそれを含む正極に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、モバイル機器および電気自動車に関する技術開発および需要が増加するにつれ、エネルギー源として二次電池の需要が急激に増加している。
一般的に、リチウム二次電池は、正極、負極、セパレータ、および電解質からなり、前記正極および負極は、リチウムイオンの挿入(intercalation)および脱離(deintercalation)が可能な活物質を含む。
【0004】
一方、リチウム二次電池に用いられる正極活物質は、一般的に、サブミクロンサイズの数百個の微細な一次粒子が凝集して形成される球状の二次粒子状を有する。しかし、二次粒子状の正極活物質は、繰り返しの充放電時に凝集していた一次粒子が分離されることで二次粒子が割れ、電池特性が低下するという問題がある。
【0005】
このような問題を解決するために、単粒子状の正極活物質に関する開発が活発に行われているが、単粒子状の正極活物質を用いて電極を製造する場合、単粒子状の正極活物質の主な膨張方向であるc-軸方向を所望のように整列するか、またはその整列の程度を数値化することが困難である。一方、単粒子状の正極活物質の主な膨張方向であるc-軸方向が整列せずにランダムに存在する場合、電池の寿命特性の低下、容量低下、出力低下などの問題が発生する。そこで、これを克服するための技術が必要な状況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、初期抵抗特性および寿命特性が改善された電池を実現することができる単粒子状の正極活物質、その製造方法、およびそれを含む正極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、単粒子状の正極活物質、その製造方法、およびそれを含む正極を提供する。
(1)本発明は、電子後方散乱回折(Electron BackScatter Diffraction、EBSD)分析により得られた結晶粒の長軸とリチウム移動経路がなす角度をαとするとき、(cosα)値が0.5以上である、単粒子状の正極活物質を提供する。
【0008】
(2)本発明において、前記単粒子状の正極活物質は、1個~50個の単結晶粒子からなる、前記(1)に記載の単粒子状の正極活物質を提供する。
(3)本発明において、前記単結晶粒子は、平均粒径(DEBSD)が0.1μm~10μmである、前記(1)または(2)に記載の単粒子状の正極活物質を提供する。
【0009】
(4)本発明は、(A)正極活物質前駆体とリチウム原料物質を混合し、800℃~1000℃の温度で一次焼成して可塑性品を製造した後、前記可塑性品を一次焼成温度よりも低い温度で二次焼成して単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物を製造するステップと、(B)前記単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物とコバルト原料物質を混合して混合物を準備するステップと、(C)前記混合物を650℃~800℃の温度で熱処理するステップと、を含む、単粒子状の正極活物質の製造方法を提供する。
【0010】
(5)本発明において、前記(A)ステップの一次焼成は、酸素雰囲気下で行われる、前記(4)に記載の単粒子状の正極活物質の製造方法を提供する。
(6)本発明において、前記(A)ステップの二次焼成は、700℃~900℃の温度で行われる、前記(4)または(5)に記載の単粒子状の正極活物質の製造方法を提供する。
【0011】
(7)本発明において、前記(A)ステップの二次焼成は、酸素雰囲気下で行われる、前記(4)~(6)のいずれか1項に記載の単粒子状の正極活物質の製造方法を提供する。
【0012】
(8)本発明は、前記(B)ステップにおいて、単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物とコバルト原料物質が1:0.0001~0.05のモル比で混合される、前記(4)~(7)のいずれか1項に記載の単粒子状の正極活物質の製造方法を提供する。
【0013】
(9)本発明において、前記(B)ステップの混合は、乾式混合である、前記(4)~(8)のいずれか1項に記載の単粒子状の正極活物質の製造方法を提供する。
【0014】
(10)本発明において、前記(C)ステップの熱処理は、酸素雰囲気下で行われる、前記(4)~(9)のいずれか1項に記載の単粒子状の正極活物質の製造方法を提供する。
【0015】
(11)本発明は、集電体と、前記集電体上に位置する正極活物質層と、を含む正極であって、前記正極活物質層は、本発明に係る単粒子状の正極活物質を含む、正極を提供する。
【0016】
(12)本発明は、前記単粒子状の正極活物質のリチウム移動経路と前記集電体の上部面に対する平行軸がなす角度をθとするとき、(cosθ)値が0.6以上である、前記(11)に記載の正極を提供する。
(13)本発明は、前記(cosθ)値と(cosα)値の差が0.2以下である、前記(11)または(12)に記載の正極を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る正極活物質は、結晶粒の長軸とリチウム移動経路が平行に整列した単粒子状を有しており、それを含む電池の初期抵抗特性および寿命特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1の正極活物質を含む正極の断面のEBSD Band Contrast(BC)イメージである。
図2図2(a)は、比較例1の正極活物質を含む正極の断面のSEMイメージであり、図2(b)は、比較例1の正極活物質を含む正極の断面のEBSD Band Contrast(BC)イメージである。
図3】結晶粒のc-軸方向ベクトル(Euler angle)と電極に垂直な方向ベクトルとの間の角度(=リチウム移動経路(Li path)と電極に平行な方向ベクトルとの間の角度)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書および特許請求の範囲で用いられている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0020】
本明細書において、「含む」、「備える」、または「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、ステップ、構成要素、またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、1つまたはそれ以上の他の特徴、数字、ステップ、構成要素、またはこれらを組み合わせたものの存在または付加可能性を予め排除するものではないことを理解しなければならない。
【0021】
本明細書において、「上に」という用語は、ある構成が他の構成の真上に形成される場合だけでなく、これらの構成の間に第3の構成が介在する場合まで含むことを意味する。
【0022】
本明細書において、「単粒子状の正極活物質」とは、従来の方法により製造された数百個の一次粒子が凝集して形成される球状の二次粒子状の正極活物質と対比される概念であり、50個以下の単結晶粒子からなる正極活物質を意味する。具体的には、本発明における単粒子状の正極活物質は、1個の単結晶粒子であってもよく、2個~50個、2個~40個、2個~30個、2個~20個、2個~15個、2個~10個、又は2個~5個の単結晶粒子が凝集した形態であってもよい。この際、「単結晶粒子」とは、走査型電子顕微鏡により正極活物質を観測したときに認識される粒子の最小単位を意味する。
【0023】
本明細書において、平均粒径(D50)とは、正極活物質前駆体、正極活物質、またはリチウム遷移金属酸化物粉末の体積累積粒度分布の50%基準での粒子サイズを意味する。前記平均粒径(D50)は、レーザ回折法(laser diffraction method)を用いて測定することができる。例えば、正極活物質粉末を分散媒中に分散させた後、市販中のレーザ回折粒度測定装置(例えば、Microtrac MT 3000)に導入して約28kHzの超音波を60Wの出力で照射した後、体積累積粒度分布のグラフを得た後、体積累積量の50%に該当する粒子サイズを求めることで測定することができる。
【0024】
本明細書において、単結晶粒子の平均粒径(DEBSD)とは、SEMを用いたEBSD分析により得られた単結晶粒子の体積累積粒度分布の50%基準での粒子サイズを意味する。前記EBSD分析は、SEM-EBSD装置(例えば、FEI社 Quanta200-EDAX社 Velocity super OIM 8)を介してイメージを得、それをイメージ分析ソフトウェア(EDAX OIM Analysis)により分析することができる。
以下、本発明について詳しく説明する。
【0025】
正極活物質
本発明は、電子後方散乱回折(Electron BackScatter Diffraction、EBSD)分析により得られた結晶粒の長軸とリチウム移動経路がなす角度をαとするとき、(cosα)値が0.5以上である、単粒子状の正極活物質を提供する。
【0026】
前記結晶粒の長軸とは、結晶粒の重心を通る直線が結晶粒により切断される線分のうち最も長い線分を意味し、前記リチウム移動経路とは、リチウムイオンが移動する経路であり、前記結晶粒のc-軸方向ベクトルに垂直な方向を意味する。
【0027】
前記結晶粒の長軸とリチウム移動経路がなす角度は、正極活物質粉末、正極活物質を含む正極の断面などの試料をEBSD分析により得ることができる。例えば、JEOL社のJSM-7900Fを用いて(加速電圧:20kV)、正極活物質を含む正極の断面を測定および分析して得ることができる。この際、イメージ処理-EBSD定量化(quantification)分析ソフトウェアとしては、OXFORD Instruments社のAztecCrystalを用いることができる。一方、前記結晶粒の長軸とリチウム移動経路がなす角度は相対的な値であるため、使用する装置、測定条件などの影響を受けないと考えられる。
【0028】
本発明者らは、正極活物質が単粒子状であり、かつ、前記(cosα)値が0.5以上である場合、電極の製造(圧延など)過程で正極活物質の収縮/膨張方向が集電体の上部面(または、電極面)に垂直に配列され、リチウムの移動経路が電極面に平行に配列されており、それを含む電池の性能、特に初期抵抗特性および寿命特性が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。前記(cosα)値は0.5、0.55、又は0.6以上、0.8、0.9、又は1以下であってもよい。
【0029】
一方、前記(cosα)値が0.5未満である場合には、電極の製造(圧延など)過程で正極活物質の収縮/膨張方向が電極面に平行に配列されており、電池の初期抵抗特性および寿命特性が低下するという問題がある。
【0030】
前記単粒子状の正極活物質は、平均粒径(D50)が0.1μm~10μmであってもよい。具体的に、前記単粒子状の正極活物質の平均粒径(D50)は0.1μm、1.0μm、又は2.0μm以上、5.0μm、6.0μm、7.0μm、8.0μm、9.0μm、又は10.0μm以下であってもよい。この場合、前記単粒子状の正極活物質を含む電池の圧延率を高めることができ、電池の性能をさらに改善することができる。
【0031】
本発明によると、前記単粒子状の正極活物質は、前述した正極活物質の収縮/膨張方向とリチウム移動経路の配列のために1個~50個の単結晶粒子からなってもよい。具体的に、前記単粒子状の正極活物質は、1個以上、5個、10個、20個、30個、40個、又は50個以下の単結晶粒子からなってもよい。
【0032】
本発明によると、前記単結晶粒子は、平均粒径(DEBSD)が0.1μm~10μm、具体的には0.1μm、又は0.2μm以上、5μm、8μm、又は10μm以下であってもよい。この場合、電極の製造時にスラリー(正極活物質層形成用組成物)が凝集またはゲル化するなどを防止することができ、充放電を繰り返す過程で粒子内にクラックが発生することを減らすことができる。
【0033】
本発明によると、単粒子状の正極活物質は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、およびマンガン(Mn)を含むリチウム複合遷移金属酸化物であってもよい。この際、前記リチウム複合遷移金属酸化物は、リチウムを除く全金属のうちニッケル(Ni)が60モル%、又は65モル%以上で含まれてもよい。
【0034】
本発明によると、前記リチウム複合遷移金属酸化物は、具体的に、下記化学式1で表される組成を有してもよい。
【0035】
[化学式1]
LiNiCoMn
【0036】
前記化学式1中、
は、Al、Zr、B、W、Mo、Cr、Nb、Mg、Hf、Ta、La、Ti、Sr、Ba、Ce、Sn、Y、Zn、F、P、およびSから選択される1種以上であり、
0.90≦a≦1.1、0.60≦b<1.0、0<c<0.40、0<d<0.40、0≦e≦0.10、b+c+d+e=1である。
【0037】
前記bは、リチウム複合遷移金属酸化物中のリチウムを除く金属元素のうちニッケルの原子分率を意味し、0.60、0.65、0.8、又は0.85以上、0.95、又は0.98以下であってもよい。
【0038】
前記cは、リチウム複合遷移金属酸化物中のリチウムを除く金属元素のうちコバルトの原子分率を意味し、0.01以上、0.10、0.20、0.30、又は0.40以下であってもよい。
【0039】
前記dは、リチウム複合遷移金属酸化物中のリチウムを除く金属元素のうちマンガンの原子分率を意味し、0.01以上、0.10、0.20、0.30、又は0.40以下であってもよい。
【0040】
前記eは、リチウム複合遷移金属酸化物中のリチウムを除く金属元素のうちM元素の元素分率を意味し、0以上、0.02、0.05、又は0.10以下であってもよい。
【0041】
正極活物質の製造方法
本発明は、(A)正極活物質前駆体とリチウム原料物質を混合し、800℃~1000℃の温度で一次焼成して可塑性品を製造した後、前記可塑性品を一次焼成温度よりも低い温度で二次焼成して単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物を製造するステップと、(B)前記単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物とコバルト原料物質を混合して混合物を準備するステップと、(C)前記混合物を650℃~800℃の温度で熱処理するステップと、を含む、単粒子状の正極活物質の製造方法を提供する。
【0042】
前記正極活物質の製造方法は、電子後方散乱回折(Electron BackScatter Diffraction、EBSD)分析により得られた結晶粒の長軸とリチウム移動経路がなす角度をαとするとき、(cosα)値が0.5以上である、単粒子状の正極活物質の製造方法である。すなわち、前記正極活物質の製造方法は、前述した本発明に係る正極活物質の製造方法である。本発明に係る正極活物質は、前述した製造方法の構成だけでなく、リチウム原料物質の混合量、焼成時間、焼成雰囲気などを適宜調節することで製造することができる。
以下、正極活物質の製造方法についてより詳細に説明する。
【0043】
(A)ステップ
前記(A)ステップは、正極活物質前駆体とリチウム原料物質を混合し、800℃~1000℃の温度で一次焼成して可塑性品を製造した後、前記可塑性品を一次焼成温度よりも低い温度で二次焼成して単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物を製造するステップである。一方、前記可塑性品は、焼成均一度のために二次焼成前に解砕してもよい。正極活物質前駆体とリチウム原料物質を混合し、1段階の焼成ではなく2段階の焼成を行う場合、一次焼成後の解砕過程により製造されるリチウム複合遷移金属酸化物間の偏差を減らすことができ、特に前記一次焼成を800℃~1000℃の温度で行い、前記二次焼成を一次焼成温度よりも低い温度で行う場合、アニーリングと同様の効果により粒子の構造を均一にすることができる。
【0044】
その結果、(A)ステップによりリチウム複合酸化物が製造されると、単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物が製造されるだけでなく、焼成時の偏差を減らして生産性を向上させることができ、アニーリングと同様の効果により粒子の構造を均一にできるという利点がある。
【0045】
前記単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物は、圧延時に電極内の正極活物質の収縮/膨張方向とリチウム移動経路の配列のために1個~50個の単結晶粒子からなってもよい。具体的に、前記単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物は、1個以上、5個、10個、20個、30個、40個、又は50個以下の単結晶粒子からなってもよい。前記単結晶粒子は、平均粒径(DEBSD)が0.1μm~10μm、具体的には0.1μm、又は0.2μm以上、5μm、8μm、又は10μm以下であってもよい。この場合、電極の製造時にスラリー(正極活物質層形成用組成物)が凝集またはゲル化するなどを防止することができ、充放電を繰り返す過程で粒子内にクラックが発生することを減らすことができる。
【0046】
前記単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物は、カチオン混合(cation mixing)が5%以下であってもよい。カチオン混合値は、構造内でリチウムと他の金属イオンの位置が置換されることを測定した値であり、5%以下の場合、粒子の構造内に不純物が少なく、構造が安定するだけでなく、充放電を繰り返す過程で粒子の構造崩壊およびそれによる抵抗の増加を防止することができる。
【0047】
前記単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物は、リチウム副生成物が20,000ppm以下で含まれてもよい。この場合、その結果、製造される正極活物質中に存在する不純物の量が少なく、正極を製造するときにスラリー(正極活物質形成用組成物)の凝集現象が減少し、工程が改善され、その結果、電池の性能が改善されることができる。
【0048】
前記正極活物質前駆体は、複合遷移金属水酸化物、複合遷移金属オキシ水酸化物、またはこれらの組み合わせであってもよい。また、前記正極活物質前駆体は、ニッケル原料物質、コバルト原料物質、マンガン原料物質、および/またはドーピング原料物質などを乾式混合した混合物であってもよい。
【0049】
前記正極活物質前駆体が複合遷移金属水酸化物、複合遷移金属オキシ水酸化物である場合、前記正極活物質前駆体は、例えば、下記化学式2または化学式3で表される組成を有してもよい。
【0050】
[化学式2]
Nib’Coc’Mnd’ e’(OH)
【0051】
[化学式3]
Nib’Coc’Mnd’ e’O・OH
【0052】
前記化学式2または化学式3中、
は、Al、Zr、B、W、Mo、Cr、Nb、Mg、Hf、Ta、La、Ti、Sr、Ba、Ce、Sn、Y、Zn、F、P、およびSから選択される1種以上であり、
0.60≦b’<1.0、0<c’<0.40、0<d’<0.40、0≦e′≦0.10、b’+c’+d’+e’=1である。
【0053】
前記b’は、金属元素のうちニッケルの原子分率を意味し、0.60、0.65、0.8、又は0.85以上、0.95、又は0.98以下であってもよい。
前記c’は、金属元素のうちコバルトの原子分率を意味し、0.01以上、0.10、0.20、0.30、又は0.40以下であってもよい。
【0054】
前記d’は、金属元素のうちマンガンの原子分率を意味し、0.01以上、0.10、0.20、0.30、又は0.40以下であってもよい。
前記e’は、金属元素のうちM元素の元素分率を意味し、0以上、0.02、0.05、又は0.10以下であってもよい。
【0055】
前記ニッケル原料物質、コバルト原料物質、マンガン原料物質、および/またはドーピング原料物質は、ニッケル、コバルト、マンガン、またはドーピング元素をそれぞれ含有する水酸化物、酸化物、炭酸塩、水和物、硝酸塩、塩化物などであってもよく、これらのうち1種単独または2種以上を混合して用いてもよく、具体的に、Ni(OH)、NiO、Co(OH)、Co、Mn、MnOなどであってもよいが、これに限定されない。
【0056】
前記リチウム原料物質は、例えば、リチウム含有炭酸塩、水和物、水酸化物、硝酸塩、塩化物などであってもよく、これらのうち1種単独または2種以上を混合して用いてもよく、具体的に、LiCO、LiOH・HO、LiOH、LiNO、LiClなどであってもよいが、これに限定されない。
前記リチウム原料物質は、一次焼成前に全て混合されてもよく、一次焼成前と二次焼成前に分けて混合されてもよい。
【0057】
一方、前記(A)ステップにおいて、正極活物質前駆体およびリチウム原料物質の他にドーピング元素含有原料物質がさらに混合されてもよく、前記ドーピング元素含有原料物質は、Al、Zr、B、W、Mo、Cr、Nb、Mg、Hf、Ta、La、Ti、Sr、Ba、Sn、Y、Zn、Ce、F、P、およびSから選択される1種以上の金属元素を含んでもよい。
【0058】
本発明によると、前記一次焼成は、800℃、又は850℃以上、900℃、950℃、又は1000℃以下の温度で行われてもよい。この場合、粒子が大きく成長し、単粒子状の正極活物質を得ることができる。一方、前記一次焼成温度が800℃未満である場合には、50個以上の粒子で構成された多粒子状になるという問題があり、1000℃超過である場合には、正極活物質構造内に不純物が増加するという問題がある。
【0059】
本発明によると、粒子成長を促進させるために、前記一次焼成は、酸素雰囲気下で行われてもよい。
前記一次焼成は、2時間~12時間、具体的には2時間、又は3時間以上、9時間、10時間、又は12時間以下で行われてもよい。一次焼成時間が上記範囲内である場合、焼成均一度を確保するとともに、焼成時間を最小化し、生産性を向上させることができる。
【0060】
本発明によると、前記二次焼成は、前記一次焼成温度よりも低い温度で行われてもよく、前記二次焼成は、700℃~900℃の温度で行われてもよい。具体的に、前記二次焼成は、700℃、又は750℃以上、800℃、850℃、又は900℃以下の温度で行われてもよい。この場合、アニーリングと同様の効果により構造内の不純物を最小化することができる。
【0061】
本発明によると、アニーリングと類似の効果を最大限に実現するために、前記二次焼成は、酸素雰囲気下で行われてもよい。
前記二次焼成は、2時間~12時間、具体的には2時間、又は3時間以上、9時間、10時間、又は12時間以下で行われてもよい。二次焼成時間が上記範囲内である場合、製造される正極活物質の均一性を確保するとともに、焼成時間を最小化し、生産性を向上させることができる。
【0062】
(B)ステップ
前記(B)ステップは、(A)ステップで製造された単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物とコバルト原料物質を混合して混合物を準備するステップである。
【0063】
本発明によると、前記(B)ステップにおいて、単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物とコバルト原料物質が1:0.0001~0.05のモル比で混合されてもよい。具体的に、単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物とコバルト原料物質のモル比は、1:0.0001、又は1:0.01以上、1:0.03、又は1:0.05以下であってもよい。この場合、製造過程中に単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物の表面に形成される副生成物を最大限に減らすことができるため、製造される正極活物質の性能が改善されるという利点がある。
【0064】
前記コバルト原料物質は、コバルトを含む酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハライド、硫化物、水酸化物、酸化物、またはオキシ水酸化物などであってもよい。例えば、Co(OH)、Coなどであってもよく、好ましくは、Co(OH)であってもよい。一方、コバルト原料物質として反応性の高い物質、例えば、Co(OH)、コバルトアセテートなどを用いる場合には、Coが内部に過剰に浸透し、コバルトを含むコーティング部がほとんど存在しない問題があり得る。
【0065】
本発明によると、前記(B)ステップの混合は、乾式混合であってもよい。すなわち、溶媒を用いることなく、単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物に粉末状のコバルト原料物質を単純に混合してもよい。この場合、工程の便宜性が増加し、生産性が向上することができる。
【0066】
一方、前記(B)ステップにおいて、単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物およびコバルト原料物質の他にコーティング元素含有原料物質がさらに混合されてもよく、前記コーティング元素含有原料物質に含まれる金属元素は、Al、Zr、B、W、Mo、Cr、Nb、Mg、Hf、Ta、La、Ti、Sr、Ba、Sn、Y、Zn、Ce、F、P、およびSなどであってもよい。前記コーティング元素含有原料物質は、前記金属元素を含む酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハライド、硫化物、水酸化物、酸化物、またはオキシ水酸化物などであってもよい。例えば、前記金属元素がBである場合、ホウ酸(HBO)などが用いられてもよい。
【0067】
(C)ステップ
前記(C)ステップは、前記混合物を650℃~800℃の温度で熱処理するステップである。
【0068】
前記(C)ステップの熱処理は、650℃~800℃の温度で行われてもよい。具体的に、前記熱処理温度は、650℃以上、750℃、又は800℃以下であってもよい。熱処理温度が上記範囲内である場合、コバルトイオンが正極活物質の表面にのみ増加し、表面に存在する副生成物(例えば、NiOなど)を減らすことができる。一方、熱処理温度が650℃未満である場合には、コバルトイオンが正極活物質の表面に十分に浸透できないという問題があり、800℃以上である場合には、コバルトイオンが正極活物質の内部まで浸透し、表面に存在する副生成物を減らす効果が減少するという問題がある。
【0069】
本発明によると、反応性を高めるために、前記熱処理は、酸素雰囲気下で行われてもよい。
前記(C)ステップの熱処理は、2時間~12時間、具体的には2時間、又は3時間以上、9時間、10時間、又は12時間以下で行われてもよい。熱処理時間が上記範囲内である場合、製造される正極活物質の均一性を確保するとともに、焼成時間を最小化し、生産性を向上させることができる。
【0070】
正極
また、本発明は、集電体と、前記集電体上に位置する正極活物質層と、を含む正極であって、前記正極活物質層は、本発明に係る単粒子状の正極活物質を含む、正極を提供する。
【0071】
本発明によると、前記単粒子状の正極活物質のリチウム移動経路と前記集電体の上部面に対する平行軸がなす角度をθとするとき、(cosθ)値が0.6以上であってもよい。
【0072】
具体的に、前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも片面に位置し、前述した本発明に係る単粒子状の正極活物質を含む正極活物質層と、を含む。そして、前記正極において、前記単粒子状の正極活物質のリチウム移動経路と前記集電体の上部面に対する平行軸がなす角度をθとするとき、(cosθ)値が0.6以上である。前記(cosθ)値は0.6以上、0.7、0.8、0.9、又は1以下であってもよい。
【0073】
リチウムが移動する方向は、(003)面であり、(003)面の法線方向は、正極活物質の結晶の収縮/膨張方向である結晶構造のc-軸方向(以下、c-軸方向)である。したがって、上記の条件において、正極活物質層に含まれる正極活物質の結晶の収縮/膨張方向であるc-軸方向が集電体の上部面(または、電極面)に対して垂直な方向に整列する。ほとんどの電池は、集電体の上部面に対して垂直な方向への膨張が外部ケースなどにより抑制されているため、すなわち、電極が面状に形成され、面に垂直な方向の変形に強いため、正極活物質層に含まれる正極活物質の結晶の収縮/膨張方向であるc-軸方向が集電体の上部面(または、電極面)に対して垂直な方向に整列する場合、本発明に係る正極を電池に適用したとき、外部ケースなどにより正極活物質の結晶のc-軸方向への膨張が抑制されるため、寿命性能が改善されることができる。一方、(cosθ)値が0.6未満である場合には、正極活物質の結晶の収縮/膨張方向であるc-軸方向が集電体の上部面に平行になり、寿命性能の改善効果を期待することができない。
【0074】
本発明によると、前記(cosθ)値と(cosα)値の差が0.2以下であってもよく、具体的には0.2以下、又は0.1以下であってもよい。この場合、本発明に係る正極に含まれる正極活物質が正極内の配向形成にさらに適した形状および構造を有していると考えられる。これにより、電池の性能がさらに改善されることができる。
【0075】
前記正極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさず、かつ、導電性を有するものであれば特に限定されず、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、またはアルミニウムやステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものが用いられてもよい。また、前記正極集電体は、通常、3μm~500μmの厚さを有してもよく、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めてもよい。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体などの様々な形態で用いられてもよい。
【0076】
前記正極活物質層は、正極活物質とともに、導電材およびバインダーを含んでもよい。
この際、前記正極活物質は、正極活物質層の総重量に対して80重量%~99重量%、より具体的には85重量%~98重量%の含量で含まれてもよい。上記含量範囲で含まれる場合、優れた容量特性を示すことができる。
【0077】
この際、前記導電材は、電極に導電性を付与するために用いられるものであり、構成される電池において、化学変化を引き起こすことなく電子伝導性を有するものであれば特に限定なく使用可能である。具体例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの導電性高分子などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記導電材は、正極活物質層の総重量に対して1重量%~30重量%で含まれてもよい。
【0078】
前記バインダーは、正極活物質粒子間の付着および正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割をする。具体例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの様々な共重合体などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記バインダーは、正極活物質層の総重量に対して1重量%~30重量%で含まれてもよい。
【0079】
前記正極は、前記正極活物質を用いることを除いては、通常の正極の製造方法により製造されてもよい。具体的に、前記正極活物質、および選択的にバインダーおよび導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した正極活物質層形成用組成物(スラリー)を正極集電体上に塗布した後、乾燥および圧延することで製造することができる。この際、前記正極活物質、バインダー、導電材の種類および含量は前述したとおりである。また、他の方法として、前記正極は、前記正極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャスティングした後、該支持体から剥離して得たフィルムを正極集電体上にラミネートすることで製造してもよい。
【0080】
前記溶媒は、当該技術分野で一般的に用いられる溶媒であってもよく、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)、または水などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さ、製造収率を考慮して、前記正極活物質、導電材、およびバインダーを溶解または分散させ、その後、正極製造のための塗布時に優れた厚さ均一度を示すことができる粘度を有するようにする程度であれば十分である。
【0081】
リチウム二次電池
また、本発明は、前記正極を含む電気化学素子を製造することができる。前記電気化学素子は、具体的には電池、キャパシタなどであってもよく、より具体的にはリチウム二次電池であってもよい。
【0082】
前記リチウム二次電池は、具体的に、正極、前記正極と対向して位置する負極、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータ、および電解質を含み、前記正極は前述したものと同様であるため、具体的な説明は省略し、以下では残りの構成についてのみ具体的に説明する。
【0083】
また、前記リチウム二次電池は、前記正極、負極、セパレータの電極組立体を収納する電池容器、および前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含んでもよい。
【0084】
前記リチウム二次電池において、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に位置する負極活物質層と、を含む。
前記負極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさず、かつ、高い導電性を有するものであれば特に限定されず、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金などが用いられてもよい。また、前記負極集電体は、通常、3μm~500μmの厚さを有してもよく、正極集電体と同様に、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して負極活物質の結合力を強化させてもよい。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体などの様々な形態で用いられてもよい。
【0085】
前記負極活物質層は、負極活物質とともに、選択的にバインダーおよび導電材を含む。
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーションおよびデインターカレーションが可能な化合物が用いられてもよい。具体例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金、またはAl合金などのリチウムと合金化が可能な金属質化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のようにリチウムをドープおよび脱ドープが可能な金属酸化物;またはSi-C複合体またはSn-C複合体のように前記金属質化合物と炭素質材料とを含む複合物などが挙げられ、これらのいずれか1つまたは2つ以上の混合物が用いられてもよい。また、前記負極活物質として金属リチウム薄膜が用いられてもよい。また、炭素材料としては、低結晶性炭素および高結晶性炭素などのいずれが用いられてもよい。低結晶性炭素としては、ソフトカーボン(soft carbon)およびハードカーボン(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、鱗片状、球状、または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、メソフェーズピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、メソカーボンマイクロビーズ(meso-carbon microbeads)、メソフェーズピッチ(Mesophase pitches)、および石油または石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
前記負極活物質は、負極活物質層の総重量に対して80重量%~99重量%で含まれてもよい。
【0086】
前記バインダーは、導電材、活物質、および集電体間の結合に助力する成分であり、通常、負極活物質層の総重量に対して0.1重量%~10重量%で添加されてもよい。このようなバインダーの例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、フッ素ゴム、これらの様々な共重合体などが挙げられる。
【0087】
前記導電材は、負極活物質の導電性をさらに向上させるための成分であり、負極活物質層の総重量に対して10重量%以下、好ましくは5重量%以下で添加されてもよい。このような導電材は、当該電池に化学的変化を引き起こさず、かつ、導電性を有するものであれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性材料などが用いられてもよい。
【0088】
前記負極活物質層は、負極集電体上に負極活物質、および選択的にバインダーおよび導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した負極活物質層形成用組成物を塗布し乾燥することで製造されるか、または前記負極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャスティングした後、該支持体から剥離して得たフィルムを負極集電体上にラミネートすることで製造してもよい。
【0089】
一方、前記リチウム二次電池において、セパレータは、負極と正極を分離し、リチウムイオンの移動通路を提供するものであり、通常、リチウム二次電池においてセパレータとして用いられるものであれば特に限定なく使用可能であり、特に電解質のイオン移動に対して低抵抗であり、かつ、電解液含湿能力に優れることが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体、およびエチレン/メタクリレート共重合体などのポリオレフィン系高分子から製造された多孔性高分子フィルム、またはこれらの2層以上の積層構造体が用いられてもよい。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が用いられてもよい。また、耐熱性または機械的強度を確保するために、セラミック成分または高分子物質が含まれたコーティングされたセパレータが用いられてもよく、選択的に単層または多層構造として用いられてもよい。
【0090】
また、本発明で用いられる電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル型高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これに限定されない。
【0091】
具体的に、前記電解質は、有機溶媒およびリチウム塩を含んでもよい。
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動可能な媒質の役割ができるものであれば特に限定なく使用可能である。具体的に、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、ε-カプロラクトン(ε-caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R-CN(Rは炭素数2~20の直鎖状、分岐状、または環状構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含んでもよい。)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3-ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが用いられてもよい。中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能の向上が可能な高いイオン伝導度および高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の直鎖状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、またはジエチルカーボネートなど)との混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートは、約1:1~約1:9の体積比で混合して用いることが、優れた電解液性能を示すことができる。
【0092】
前記リチウム塩としては、リチウム二次電池で用いられるリチウムイオンを提供可能な化合物であれば特に限定なく使用可能である。具体的に、前記リチウム塩としては、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlO、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiN(CFSO、LiCl、LiI、またはLiB(Cなどが用いられてもよい。前記リチウム塩の濃度は、0.1M~2.0Mの範囲内で用いることが好ましい。リチウム塩の濃度が上記範囲に含まれる場合、電解質が適した伝導度および粘度を有するため優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0093】
前記電解質には、前記電解質の構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池容量の減少抑制、電池の放電容量の向上などのために、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グリム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノール、または三塩化アルミニウムなどの添加剤が1種以上さらに含まれてもよい。この際、前記添加剤は、電解質の総重量に対して0.1重量%~5重量%で含まれてもよい。
【0094】
上記のように、本発明に係る正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性、および寿命特性を安定的に示すため、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラなどの携帯用機器、およびハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車の分野などに有用である。
【0095】
これにより、本発明の他の一実施形態によると、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュールおよびそれを含む電池パックが提供される。
前記電池モジュールまたは電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムのいずれか1つ以上の中大型デバイスの電源として用いることができる。
【0096】
本発明に係るリチウム二次電池の外形は特に限定されないが、缶を用いた円筒型、角型、パウチ(pouch)型、またはコイン(coin)型などであってもよい。
【0097】
本発明に係るリチウム二次電池は、小型デバイスの電源として用いられる電池セルに用いられるだけでなく、複数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池として好ましく用いられることができる。
【実施例
【0098】
以下、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように本発明の実施例について詳しく説明する。ただし、本発明は、種々の異なる形態で実現されてもよく、ここで説明する実施例に限定されるものではない。
【0099】
実施例および比較例
実施例1
Ni0.95Co0.03Mn0.02(OH)で表される組成を有し、平均粒径(D50)が3.5μmである正極活物質前駆体とLiOHを1:1.05のモル比で混合し、酸素雰囲気下で850℃の温度で9時間一次焼成して可塑性品を製造し、前記可塑性品を粉砕した後、酸素雰囲気下で750℃の温度で9時間二次焼成し、LiNi0.95Co0.03Mn0.02で表される組成を有する単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物を製造した。
【0100】
製造された単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物に粉末状のCo(OH)(Huayou Cobalt社)を1:0.02のモル比で混合して混合物を準備した。前記混合物を酸素雰囲気下で700℃の温度で5時間熱処理して単粒子状の正極活物質を製造した。
【0101】
実施例2
Ni0.88Co0.03Mn0.09(OH)で表される組成を有し、平均粒径(D50)が3.5μmである正極活物質前駆体とLiOHを1:1.05のモル比で混合し、酸素雰囲気下で880℃の温度で9時間一次焼成して可塑性品を製造し、前記可塑性品を粉砕した後、酸素雰囲気下で780℃の温度で9時間二次焼成し、LiNi0.88Co0.03Mn0.09で表される組成を有する単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物を製造した。
【0102】
製造された単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物に粉末状のCo(OH)(Huayou Cobalt社)を1:0.02のモル比で混合して混合物を準備した。前記混合物を酸素雰囲気下で700℃の温度で5時間熱処理して単粒子状の正極活物質を製造した。
【0103】
実施例3
Ni(OH)、Co、およびMnOをNi:Co:Mn=95:2:3のモル比になるように混合した混合物に、LiOHを(Ni+Co+Mn):Li=1:1.05のモル比になるように混合し、酸素雰囲気下で890℃の温度で9時間一次焼成して可塑性品を製造し、前記可塑性品を粉砕した後、酸素雰囲気下で780℃の温度で9時間二次焼成し、LiNi0.95Co0.03Mn0.02で表される組成を有する単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物を製造した。
【0104】
製造された単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物に粉末状のCo(OH)(Huayou Cobalt社)を1:0.02のモル比で混合して混合物を準備した。前記混合物を酸素雰囲気下で700℃の温度で5時間熱処理して単粒子状の正極活物質を製造した。
【0105】
実施例4
Ni(OH)、Co、およびMnOをNi:Co:Mn=95:2:3のモル比になるように混合した混合物に、LiOHを(Ni+Co+Mn):Li=1:1.05のモル比になるように混合し、酸素雰囲気下で860℃の温度で9時間一次焼成して可塑性品を製造し、前記可塑性品を粉砕した後、酸素雰囲気下で760℃の温度で9時間二次焼成し、LiNi0.95Co0.03Mn0.02で表される組成を有する単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物を製造した。
【0106】
製造された単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物に粉末状のCo(OH)(Huayou Cobalt社)を1:0.02のモル比で混合して混合物を準備した。前記混合物を酸素雰囲気下で700℃の温度で5時間熱処理して単粒子状の正極活物質を製造した。
【0107】
実施例5
Ni0.88Co0.03Mn0.09(OH)で表される組成を有し、平均粒径(D50)が3.5μmである正極活物質前駆体とLiOHを1:1.05のモル比で混合し、酸素雰囲気下で880℃の温度で9時間一次焼成して可塑性品を製造し、前記可塑性品を粉砕した後、酸素雰囲気下で800℃の温度で9時間二次焼成し、LiNi0.95Co0.03Mn0.02で表される組成を有する単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物を製造した。
【0108】
製造された単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物に粉末状のCo(OH)(Huayou Cobalt社)を1:0.02のモル比で混合して混合物を準備した。前記混合物を酸素雰囲気下で700℃の温度で5時間熱処理して単粒子状の正極活物質を製造した。
【0109】
実施例6
Ni0.88Co0.03Mn0.09(OH)で表される組成を有し、平均粒径(D50)が3.5μmである正極活物質前駆体とLiOHを1:1.05のモル比で混合し、酸素雰囲気下で850℃の温度で9時間一次焼成して可塑性品を製造し、前記可塑性品を粉砕した後、酸素雰囲気下で780℃の温度で9時間二次焼成し、LiNi0.88Co0.03Mn0.09で表される組成を有する単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物を製造した。
【0110】
製造された単粒子状のリチウム複合遷移金属酸化物に粉末状のCo(OH)(Huayou Cobalt社)を1:0.02のモル比で混合して混合物を準備した。前記混合物を酸素雰囲気下で700℃の温度で5時間熱処理して単粒子状の正極活物質を製造した。
【0111】
比較例1
Ni0.95Co0.03Mn0.02(OH)で表される組成を有し、平均粒径(D50)が3.5μmである正極活物質前駆体とLiOHを1:1.05のモル比で混合し、酸素雰囲気下で750℃の温度で9時間焼成し、LiNi0.95Co0.03Mn0.02で表される組成を有するリチウム複合遷移金属酸化物を製造した。
【0112】
製造されたリチウム複合遷移金属酸化物に粉末状のCo(OH)(Huayou Cobalt社)を1:0.02のモル比で混合して混合物を準備した。前記混合物を酸素雰囲気下で700℃の温度で5時間熱処理して二次粒子状の正極活物質を製造した。
【0113】
比較例2
Ni0.88Co0.03Mn0.09(OH)で表される組成を有し、平均粒径(D50)が3.5μmである正極活物質前駆体とLiOHを1:1.05のモル比で混合し、酸素雰囲気下で800℃の温度で9時間焼成し、LiNi0.88Co0.03Mn0.09で表される組成を有するリチウム複合遷移金属酸化物を製造した。
【0114】
製造されたリチウム複合遷移金属酸化物に粉末状のCo(OH)(Huayou Cobalt社)を1:0.02のモル比で混合して混合物を準備した。前記混合物を酸素雰囲気下で700℃の温度で5時間熱処理して二次粒子状の正極活物質を製造した。
【0115】
比較例3
Ni0.88Co0.03Mn0.09(OH)で表される組成を有し、平均粒径(D50)が3.5μmである正極活物質前駆体とLiOHを1:1.05のモル比で混合し、酸素雰囲気下で840℃の温度で9時間焼成し、LiNi0.88Co0.03Mn0.09で表される組成を有するリチウム複合遷移金属酸化物を製造した。
【0116】
製造されたリチウム複合遷移金属酸化物に粉末状のCo(OH)(Huayou Cobalt社)を1:0.02のモル比で混合して混合物を準備した。前記混合物を酸素雰囲気下で700℃の温度で5時間熱処理して二次粒子状の正極活物質を製造した。
【0117】
実験例
実験例1:EBSD分析
(正極の製造)
実施例1~6、比較例1~3で製造されたそれぞれの正極活物質、カーボンブラック(Denka社、DenkaBlack)導電材、およびPVdF(Kureha社、KF1300)バインダーを95:3:2の重量比でN-メチルピロリドン(NMP)(Daejung Chemicals & Metals社)溶媒に添加し、正極活物質層形成用組成物を製造した。
【0118】
厚さ20μmのアルミニウム箔集電体の片面に前記正極活物質層形成用組成物を塗布し、135℃の温度で3時間乾燥して正極活物質層を形成した。次に、圧延後の正極活物質層の密度が2.7g/cmになるようにロールプレス(Roll Perssing)方式で圧延し、正極を製造した。
【0119】
参考までに、電極密度は、電極の単位面積当たりの正極活物質の質量(導電材、バインダー、集電体の重量を除く)を電極の単位体積(集電体を除く厚さ×単位面積)で割った値である。
【0120】
(EBSD分析)
HITACHI社のIM5000を用いて(加速電圧:6kV)、前記正極にアルゴン(Ar)イオンビームを照射してイオンミリング方法で切断して正極の断面を得、JEOL社のJSM-7900Fを用いて(加速電圧:20kV)、前記正極の断面を測定および分析した。イメージ処理-EBSD定量化(quantification)分析ソフトウェアとしては、OXFORD Instruments社のAztecCrystalを用いた。
【0121】
図1は、実施例1の正極活物質を含む正極の断面のEBSD Band Contrast(BC)イメージであり、結晶方位による結晶粒モデルを六角柱状に表示した。EBSD BCイメージにおいて、垂直方向(Y1)は、電極に垂直な方向であり、水平方向(X1)は、電極に平行な方向である。
【0122】
図1を参照すると、単粒子状の正極活物質が単結晶粒子からなることを確認し、単粒子状の正極活物質粒子の長軸方向が電極に平行な方向に整列したことを確認することができる。
【0123】
図2(a)は、比較例1の正極活物質を含む正極の断面のSEMイメージであり、図2(b)は、比較例1の正極活物質を含む正極の断面のEBSD Band Contrast(BC)イメージである。
【0124】
図2を参照すると、比較例1の正極活物質は、数百個の一次粒子が凝集した二次粒子状であり、二次粒子内にランダムに配列された一次粒子が存在することを確認することができる。
【0125】
EBSD分析により得られたイメージ内の全ての結晶粒(約50個~100個)の長軸とリチウム移動経路がなす角度をαとし、各結晶粒の(cosα)値を計算し、平均値を下記表1に示した。(cosθ)値が1に近いほど、結晶粒の長軸とリチウム移動経路が平行であると考えられる。
【0126】
EBSD分析により得られたイメージ内の全ての結晶粒(約50個~100個)のc-軸方向ベクトル(Euler angle)と電極に垂直な方向ベクトルとの間の角度(=リチウム移動経路(Li path)と電極に平行な方向ベクトルとの間の角度)をθとし、各結晶粒の(cosθ)値を計算し、平均値を下記表1に示し、正極活物質のリチウム移動経路と電極が整列した程度を確認した。
【0127】
図3に結晶粒のc-軸方向ベクトル(Euler angle)と電極に垂直な方向ベクトルとの間の角度(=リチウム移動経路(Li path)と電極に平行な方向ベクトルとの間の角度)を示し、(cosθ)値が1に近いほど、リチウム移動経路と電極面方向が平行であると考えられる。
【0128】
[表1]
【表1】
【0129】
実験例2:電池特性の評価
(ハーフセルの製造)
実施例1および2、比較例1および2で製造されたそれぞれの正極活物質、カーボンブラック(Denka社、DenkaBlack)導電材、およびPVdF(Kureha社、KF1300)バインダーを95:3:2の重量比でN-メチルピロリドン(NMP)(Daejung Chemicals & Metals社)溶媒に添加し、正極活物質層形成用組成物を製造した。
【0130】
厚さ20μmのアルミニウム箔集電体の片面に前記正極活物質層形成用組成物を塗布し、135℃の温度で3時間乾燥して正極活物質層を形成した。次に、圧延後の正極活物質層の空隙率が20体積%になるようにロールプレス(Roll Perssing)方式で圧延し、正極を製造した。
前記正極とともにリチウム金属を負極として用いてハーフセル(half-cell)を製造した。
【0131】
(1)初期抵抗(DCIR)の評価
上記で製造されたハーフセルをそれぞれ25℃で0.2Cの定電流(CC)で4.25Vになるまで充電し、その後、4.25Vの定電圧(CV)で充電して充電電流が0.05mAh(cut-off current)になるまで充電した後、0.2Cの定電流で10秒間放電して得た、満充電状態のときと、放電開始後10秒経過したときの電圧差を電流で割って初期抵抗を求め、その結果を下記表2に示した。
【0132】
(2)容量維持率および抵抗増加率の評価
上記で製造されたハーフセルをそれぞれ25℃で0.2Cの定電流(CC)で4.25Vになるまで充電し、その後、4.25Vの定電圧(CV)で充電して充電電流が0.05mAh(cut-off current)になるまで充電した後、20分間放置後、0.2Cの定電流で2.5Vになるまで放電した。
【0133】
その後、セルを45℃のチャンバに移し、0.33Cの定電流で4.25Vになるまで充電し、その後、4.25Vの定電圧(CV)で充電して充電電流が0.05mAh(cut-off current)になるまで充電した後、0.33Cの定電流で2.5Vになるまで放電することを1サイクルとし、充放電を30サイクル行った。この際、最初のサイクルの放電容量に対する30回目のサイクルの放電容量の百分率を容量維持率とし、下記表2に示した。また、最初のサイクルのDCIR値に対する30回目のサイクルのDCIR値の百分率を抵抗増加率とし、下記表2に示した。参考までに、n回目のサイクルのDCIR値は、n回目のサイクルで0.33Cの定電流で2.5Vになるまで放電して得た、満充電状態のときと、放電開始後10秒経過したときの電圧差を電流で割って計算した値である。
【0134】
[表2]
【表2】
【0135】
表1および2を参照すると、実施例1~6の正極活物質は、結晶粒の長軸とリチウム移動経路が平行に整列した単粒子状を有しており、その結果、それを含む電池でのリチウム移動経路と電極面方向が平行であり、これにより、電池の初期抵抗特性および寿命特性を改善できることが分かる。これに対し、比較例1、2の正極活物質は、数百個の一次粒子が凝集した二次粒子状であり、二次粒子内にランダムに配列された一次粒子が存在しており、電池の初期抵抗特性および寿命特性が実施例1~6に比べて著しく良くないことを確認することができる。また、比較例3の正極活物質は、数百個の一次粒子が凝集した二次粒子状と単粒子状が混合された状態で存在しており、電池の初期抵抗特性および寿命特性が実施例1~6に比べて著しく良くないことを確認することができる。
図1
図2(a)】
図2(b)】
図3
【手続補正書】
【提出日】2024-07-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0125
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0125】
EBSD分析により得られたイメージ内の全ての結晶粒(約50個~100個)の長軸とリチウム移動経路がなす角度をαとし、各結晶粒の(cosα)値を計算し、平均値を下記表1に示した。(cosα値が1に近いほど、結晶粒の長軸とリチウム移動経路が平行であると考えられる。
【国際調査報告】