(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-04
(54)【発明の名称】CD3及びPLAPに結合する抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20250128BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20250128BHJP
C07K 16/40 20060101ALI20250128BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20250128BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20250128BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20250128BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20250128BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250128BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20250128BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20250128BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250128BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20250128BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250128BHJP
C12P 21/02 20060101ALN20250128BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C07K16/40
C12N15/13
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P37/02
C12N15/63 Z
C12P21/02 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534160
(86)(22)【出願日】2022-12-08
(85)【翻訳文提出日】2024-06-19
(86)【国際出願番号】 EP2022084898
(87)【国際公開番号】W WO2023104938
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】514099673
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ブランシ, アリ
(72)【発明者】
【氏名】カーピー グティエレス チルロス, アレハンドロ
(72)【発明者】
【氏名】フライモサー-グルントショーバー, アン
(72)【発明者】
【氏名】ホーファー, ケルスティン
(72)【発明者】
【氏名】ホーファー, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】キューンル, トミー
(72)【発明者】
【氏名】メスナー, エッケハルト
(72)【発明者】
【氏名】ノイマン, クリスティアーヌ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA05
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、概して、例えばT細胞を活性化するための、CD3及びPLAPに結合する抗体に関する。さらに、本発明は、そのような抗体をコードするポリヌクレオチド、並びにそのようなポリヌクレオチドを含むベクター及び宿主細胞に関する。本発明はさらに、抗体を産生する方法、及び疾患の治療においてそれらを使用する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD3及びPLAPに結合する抗体であって、ここで該抗体は、
(a)配列番号2の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号3のHCDR2、及び配列番号6のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2、及び配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む、CD3に結合する第1の抗原結合ドメイン;並びに
(b)PLAPに結合する第2の抗原結合ドメイン、及び任意選択的に第3の抗原結合ドメイン
を含む、CD3及びPLAPに結合する抗体。
【請求項2】
第1の抗原結合ドメインのVHが、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含み、且つ/又は第1の抗原結合ドメインのVLが、配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
CD3及びPLAPに結合する抗体であって、ここで該抗体は、
(a)配列番号9のVH配列及び配列番号13のVL配列を含む、CD3に結合する第1の抗原結合ドメイン;並びに
(b)PLAPに結合する第2の抗原結合ドメイン、及び任意選択的に第3の抗原結合ドメイン
を含む、CD3及びPLAPに結合する抗体。
【請求項4】
第1の抗原結合ドメイン、第2の抗原結合ドメイン、及び/又は、存在する場合、第3の抗原結合ドメインがFab分子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項5】
第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項6】
第1の抗原結合ドメインが、Fab軽鎖及びFab重鎖の、可変ドメインVLとVH又は定常ドメインCLとCH1、特に可変ドメインVLとVHが互いに置き換えられているFab分子である、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項7】
第2の抗原結合ドメイン及び、存在する場合、第3の抗原結合ドメインが従来のFab分子である、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項8】
第2の抗原結合ドメイン及び、存在する場合、第3の抗原結合ドメインが、Fab分子であり、定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸が、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって独立して置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸が、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって独立して置換されており(Kabatによる番号付け)、定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸が、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって独立して置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸が、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって独立して置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項9】
第1及び第2の抗原結合ドメインが、任意選択的にペプチドリンカーを介して互いに融合されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項10】
第1及び第2の抗原結合ドメインがそれぞれFab分子であり、(i)第2の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端で、第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合されているか、又は(ii)第1の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端で、第2の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合されているかのいずれかである、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体であって、第1の抗原結合ドメイン、第2の抗原結合ドメイン、及び、存在する場合、第3の抗原結合ドメインがそれぞれFab分子であり、該抗体が、第1及び第2のサブユニットで構成されるFcドメインを含み、(i)第2の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端で、第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合され、第1の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端で、Fcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合されているか、又は(ii)第1の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端で、第2の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合され、第2の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端で、Fcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合されているかのいずれであり、且つ、存在する場合、第3の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端で、Fcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項12】
FcドメインがIgG Fcドメイン、特にIgG
1 Fcドメインである、請求項5~11のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項13】
Fcドメインが、ヒトFcドメインである、請求項5~12のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項14】
Fcが、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾を含む、請求項5~13のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項15】
Fcドメインが、Fc受容体への結合及び/又はエフェクター機能を低下させる1つ又は複数のアミノ酸置換を含む、請求項5~14のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項16】
第2の抗原結合ドメイン及び、存在する場合、第3の抗原結合ドメインが、(i)配列番号28のHCDR1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号30のHCDR3、(ii)配列番号32のHCDR1、配列番号33のHCDR2、及び配列番号34のHCDR3、(iii)配列番号36のHCDR1、配列番号37のHCDR2、及び配列番号38のHCDR3、(iv)配列番号40のHCDR1、配列番号41のHCDR2、及び配列番号42のHCDR3、又は(v)配列番号44のHCDR1、配列番号45のHCDR2、及び配列番号46のHCDR3を含むVH、並びに配列番号48のLCDR1、配列番号49のLCDR2、及び配列番号50のLCDR3を含むVLを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項17】
第2の抗原結合ドメイン及び、存在する場合、第3の抗原結合ドメインが、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43若しくは配列番号47のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含むVH及び/又は配列番号51のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含むVLを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の抗体をコードする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項19】
請求項18に記載の単離されたポリヌクレオチドを含む宿主細胞。
【請求項20】
(a)抗体の発現に適した条件下で請求項19に記載の宿主細胞を培養する工程と、任意選択的に、(b)抗体を回収する工程とを含む、CD3及びPLAPに結合する抗体を産生する方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法によって産生される、CD3及びPLAPに結合する抗体。
【請求項22】
請求項1~17又は21のいずれか一項に記載の抗体及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項23】
医薬としての使用のための、請求項1~17若しくは21のいずれか一項に記載の抗体、又は請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
疾患の治療における使用のための、請求項1~17若しくは21のいずれか一項に記載の抗体、又は請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項25】
疾患が、がん又は自己免疫疾患である、請求項24に記載の抗体。
【請求項26】
医薬の製造における、請求項1~17若しくは21のいずれか一項に記載の抗体、又は請求項22に記載の医薬組成物の使用。
【請求項27】
疾患の治療のための医薬の製造における、請求項1~17若しくは21のいずれか一項に記載の抗体、又は請求項22に記載の医薬組成物の使用。
【請求項28】
疾患が、がん又は自己免疫疾患である、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
個体における疾患を治療する方法であって、請求項1~17若しくは21のいずれか一項に記載の抗体又は請求項22に記載の医薬組成物の有効量を前記個体に投与することを含む方法。
【請求項30】
疾患が、がんである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
上記に記載されるとおりの発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、例えばT細胞を活性化するための、CD3及びPLAPに結合する抗体に関する。さらに、本発明は、そのような抗体をコードするポリヌクレオチド、並びにそのようなポリヌクレオチドを含むベクター及び宿主細胞に関する。本発明はさらに、抗体を産生する方法、及び疾患の治療においてそれらを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CD3(分化抗原群3)は、4つのサブユニット、CD3γ鎖、CD3δ鎖、及び2つのCD3ε鎖から構成されるタンパク質複合体である。CD3は、T細胞受容体及びζ鎖と会合し、Tリンパ球において活性化シグナルを生成する。
【0003】
CD3は、創薬標的として広く研究されている。CD3を標的とするモノクローナル抗体は、I型糖尿病などの自己免疫疾患又は移植拒絶反応の治療における免疫抑制療法として使用されてきた。CD3抗体ムロモナブ-CD3(OKT3)は、1985年にヒトでの臨床使用が認可された最初のモノクローナル抗体であった。
【0004】
CD3抗体のより最近の応用は、一方ではCD3に結合し、他方ではPLAPなどの標的細胞抗原に結合する二重特異性抗体の形態である。PLAP(胎盤アルカリホスファターゼ)は、グリコシルホスファチジルイノシトールによって細胞膜に固定された二量体酵素であり、胎盤では高度に発現しているが、健常組織では発現が限られているか、あるいは発現していない。PLAPの異所性発現は、卵巣、精巣、肺、及び消化管のがんと関連していることが判明しており(Fishman and Singer,Cancer Res 36(1976)4256-4261)、CD3二重特異性抗体を使用した腫瘍標的免疫療法の興味深い標的となっている。PLAPに対するバインダーは、例えば国際公開第2019/240934号に記載されている。
【0005】
そのような抗体が両方の標的に同時に結合することで、標的細胞とT細胞の間に一時的な相互作用が生じ、細胞傷害性T細胞の活性化とそれに続く標的細胞の溶解が引き起こされる。CD3及びPLAPに結合する二重特異性抗体は、例えば国際公開第2021/154534号に記載されている。
【0006】
治療目的のために抗体が満たさなければならない重要な要件は、in vitro(薬物の貯蔵のため)及びin vivo(患者への投与後)の両方での十分な安定性である。
【0007】
アスパラギンの脱アミド化などの修飾は、組換え抗体の典型的な分解であり、in vitroの安定性とin vivoの生物学的機能の両方に影響を与える可能性がある。
【0008】
抗体、特にT細胞の活性化のための二重特異性抗体の多大な治療可能性を考慮すると、最適化された特性を持つ多重特異性抗体を含むCD3抗体が必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、CD3に結合し、例えばアスパラギン脱アミド化による分解に耐性があり、したがって治療目的に必要とされる場合に特に安定な抗体、特に多重特異性(例えば二重特異性)抗体を提供する。また、この抗体は優れた熱安定性と結合親和性を備えている。提供される(多重特異性)抗体は、優れた有効性と生産性を、低い毒性と好ましい薬物動態特性とさらに組み合わせている。
【0010】
明細書に示すように、多重特異性抗体を含む、本発明によって提供されるCD3に結合する抗体は、表面プラズモン共鳴(SPR)によって決定されるように、pH6、-80℃で2週間後の結合活性と比較して、pH7.4、37℃で2週間後にCD3に対する約90%以上の結合活性を保持する。本明細書でさらに示すように、本発明によって提供されるCD3に結合する多重特異性抗体を含む抗体は、動的光散乱(DLS)によって決定されるように55℃以上の凝集温度を有し、SPRによって決定されるようにヒト及びカニクイザルCD3への一価の結合のKD値はピコモル範囲である。
【0011】
一態様では、本発明は、CD3及び胎盤アルカリホスファターゼ(PLAP)に結合する抗体を提供し、ここで該抗体は、(a)配列番号2の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号3のHCDR2、及び配列番号6のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2、及び配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む、CD3に結合する第1の抗原結合ドメイン;並びに(b)PLAPに結合する第2の抗原結合ドメイン、及び任意選択的に第3の抗原結合ドメインを含む。一態様では、第1の抗原結合ドメインのVHは、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含み、且つ/又は第1の抗原結合ドメインのVLは、配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0012】
さらなる態様では、本発明は、CD3及びPLAPに結合する抗体を提供し、ここで該抗体は、(a)配列番号9のVH配列及び配列番号13のVL配列を含む、CD3に結合する第1の抗原結合ドメイン;並びに(b)PLAPに結合する第2の抗原結合ドメイン、及び任意選択的に第3の抗原結合ドメインを含む。
【0013】
一態様では、第1の抗原結合ドメイン、第2の抗原結合ドメイン、及び/又は、存在する場合、第3の抗原結合ドメインはFab分子である。
【0014】
一態様では、抗体は、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインを含む。
【0015】
一態様では、第1の抗原結合ドメインは、Fab軽鎖及びFab重鎖の、可変ドメインVLとVH又は定常ドメインCLとCH1、特に可変ドメインVLとVHが互いに置き換えられているFab分子である。
【0016】
一態様では、第2の抗原結合ドメイン及び、存在する場合、第3の抗原結合ドメインは、従来のFab分子である。
【0017】
一態様では、第2の抗原結合ドメイン及び、存在する場合、第3の抗原結合ドメインは、Fab分子であり、定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸は、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって独立して置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸は、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって独立して置換されており(Kabatによる番号付け)、定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって独立して置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって独立して置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0018】
一態様では、第1及び第2の抗原結合ドメインは、任意選択的にペプチドリンカーを介して互いに融合されている。
【0019】
一態様では、第1及び第2の抗原結合ドメインはそれぞれFab分子であり、(i)第2の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端で、第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合されているか、又は(ii)第1の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端で、第2の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合されているかのいずれかである。
【0020】
一態様では、第1の抗原結合ドメイン、第2の抗原結合ドメイン、及び、存在する場合、第3の抗原結合ドメインはそれぞれFab分子であり、本抗体は、第1及び第2のサブユニットで構成されるFcドメインを含み、(i)第2の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端で、第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合され、第1の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端で、Fcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合されているか、又は(ii)第1の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端で、第2の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合され、第2の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端で、Fcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合されているかのいずれであり、且つ、存在する場合、第3の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端で、Fcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合されている。
【0021】
一態様では、FcドメインはIgG Fcドメイン、特にIgG1 Fcドメインである。一態様では、FcドメインはヒトFcドメインである。一態様では、Fcは、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾を含む。一態様では、Fcドメインは、Fc受容体への結合及び/又はエフェクター機能を低下させる1つ又は複数のアミノ酸置換を含む。
【0022】
一態様では、第2の抗原結合ドメイン及び、存在する場合、第3の抗原結合ドメインは、(i)配列番号28のHCDR1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号30のHCDR3、(ii)配列番号32のHCDR1、配列番号33のHCDR2、及び配列番号34のHCDR3、(iii)配列番号36のHCDR1、配列番号37のHCDR2、及び配列番号38のHCDR3、(iv)配列番号40のHCDR1、配列番号41のHCDR2、及び配列番号42のHCDR3、又は(v)配列番号44のHCDR1、配列番号45のHCDR2、及び配列番号46のHCDR3を含むVH、並びに配列番号48のLCDR1、配列番号49のLCDR2、及び配列番号50のLCDR3を含むVLを含む。一態様では、第2の抗原結合ドメイン及び、存在する場合、第3の抗原結合ドメインは、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43若しくは配列番号47のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含むVH及び/又は配列番号51のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含むVLを含む。
【0023】
特定の態様では、第2の抗原結合ドメイン及び、存在する場合、第3の抗原結合ドメインは、配列番号36のHCDR1、配列番号37のHCDR2、及び配列番号38のHCDR3を含むVHと、配列番号48のLCDR1、配列番号49のLCDR2、及び配列番号50のLCDR3を含むVLとを含む。一態様では、第2の抗原結合ドメイン及び、存在する場合、第3の抗原結合ドメインは、配列番号39のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含むVH及び/又は配列番号51のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含むVLを含む。
【0024】
さらなる態様では、第2の抗原結合ドメイン及び、存在する場合、第3の抗原結合ドメインは、配列番号44のHCDR1、配列番号45のHCDR2、及び配列番号46のHCDR3を含むVHと、配列番号48のLCDR1、配列番号49のLCDR2、及び配列番号50のLCDR3を含むVLとを含む。一態様では、第2の抗原結合ドメイン及び、存在する場合、第3の抗原結合ドメインは、配列番号47のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含むVH及び/又は配列番号51のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一であるアミノ酸配列を含むVLを含む。
【0025】
本発明のさらなる態様によれば、本発明の抗体をコードする単離されたポリヌクレオチド、及び本発明の単離されたポリヌクレオチドを含む宿主細胞が提供される。
【0026】
別の態様では、(a)抗体の発現に適した条件下で本発明の宿主細胞を培養する工程と、任意選択的に、(b)抗体を回収する工程とを含む、CD3及びPLAPに結合する抗体を産生する方法が提供される。本発明はまた、本発明の方法によって産生される、CD3及びPLAPに結合する抗体を包含する。
【0027】
本発明は、本発明の抗体及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物をさらに提供する。
【0028】
本発明には、本発明の抗体及び医薬組成物の使用方法も包含される。一態様では、本発明は、医薬としての使用のための、本発明による抗体又は医薬組成物を提供する。一態様では、疾患の治療における使用のための、本発明による抗体又は医薬組成物が提供される。また、医薬の製造における本発明による抗体又は医薬組成物の使用、疾患の治療のための医薬の製造における本発明による抗体又は医薬組成物の使用も提供される。本発明はまた、本発明による抗体又は医薬組成物の有効量を個体に投与することを含む、個体における疾患を治療する方法を提供する。特定の態様では、疾患はがんである。他の態様では、疾患は、自己免疫疾患である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1A-F】本発明の(多重特異性)抗体の例示的な構造である。(A、D)「1+1 CrossMab」分子の図。(B、E)別の順序でCrossfab及びFab構成要素を有する(「反転型」)「2+1 IgG Crossfab」分子の図。(C、F)「2+1 IgG Crossfab」分子の図。黒丸:ヘテロ二量体化を促進するFcドメインにおける任意選択の修飾。++、--:CH1ドメイン及びCLドメインにおいて任意選択で導入された反対電荷のアミノ酸。Crossfab分子は、VH領域とVL領域の交換を含むように描かれているが、CH1ドメイン及びCLドメインに電荷修飾が導入されていない態様では、代替的に、CH1ドメインとCLドメインの交換を含む場合がある。
【
図1G-N】本発明の(多重特異性)抗体の例示的な構造である。(G、K)別の順序でCrossfab及びFab構成要素を有する(「反転型」)「1+1 IgG Crossfab」分子の図。(H、L)「1+1 IgG Crossfab」分子の図。(I、M)2つのCrossFabを有する「2+1 IgG Crossfab」分子の図。(J、N)2つのCrossFabと別の順序でCrossfab及びFab構成要素とを有する(「反転型」)「2+1 IgG Crossfab」分子の図。黒丸:ヘテロ二量体化を促進するFcドメインにおける任意選択の修飾。++、--:CH1ドメイン及びCLドメインにおいて任意選択で導入された反対電荷のアミノ酸。Crossfab分子は、VH領域とVL領域の交換を含むように描かれているが、CH1ドメイン及びCLドメインに電荷修飾が導入されていない態様では、代替的に、CH1ドメインとCLドメインの交換を含む場合がある。
【
図1O-V】本発明の(多重特異性)抗体の例示的な構造である。(O、S)「Fab-Crossfab」分子の図。(P、T)「Crossfab-Fab」分子の図。(Q、U)「(Fab)
2-Crossfab」分子の図。(R、V)「Crossfab-(Fab)
2」分子の図。黒丸:ヘテロ二量体化を促進するFcドメインにおける任意選択の修飾。++、--:CH1ドメイン及びCLドメインにおいて任意選択で導入された反対電荷のアミノ酸。Crossfab分子は、VH領域とVL領域の交換を含むように描かれているが、CH1ドメイン及びCLドメインに電荷修飾が導入されていない態様では、代替的に、CH1ドメインとCLドメインの交換を含む場合がある。
【
図1W-Z】本発明の(多重特異性)抗体の例示的な構造である。(W、Y)「Fab-(Crossfab)
2」分子の図。(X、Z)「(Crossfab)
2-Fab」分子の図。黒丸:ヘテロ二量体化を促進するFcドメインにおける任意選択の修飾。++、--:CH1ドメイン及びCLドメインにおいて任意選択で導入された反対電荷のアミノ酸。Crossfab分子は、VH領域とVL領域の交換を含むように描かれているが、CH1ドメイン及びCLドメインに電荷修飾が導入されていない態様では、代替的に、CH1ドメインとCLドメインの交換を含む場合がある。
【
図2】(A)実施例で使用されるT細胞二重特異性抗体(TCB)分子の概略図。試験したTCB抗体分子は全て、電荷修飾(CD3バインダーにおけるVH/VL交換、標的細胞抗原バインダーにおける電荷修飾、EE=147E、213E;RK=123R、124K)を有する「2+1 IgG CrossFab、反転型」として製造された。(B-E)TCBのアセンブリのための構成要素:CH1及びCLに電荷修飾を有する抗TYRP1 Fab分子の軽鎖(B)、抗CD3クロスオーバーFab分子の軽鎖(C)、Fc領域にノブ及びPG LALA変異を有する重鎖(D)、Fc領域にホール及びPG LALA変異を有する重鎖(E)。
【
図3】実施例3で使用した表面プラズモン共鳴(SPR)設定の概略図。C1センサーチップに結合させた抗PG抗体。その表面にヒト及びカニクイザルのCD3(Fc領域に融合)を通過させ、TCB内での抗CD3抗体とCD3との相互作用を分析する。
【
図4A-B】異なるCD3バインダーを含むTCBによる腫瘍細胞の死滅及びT細胞の活性化。P035.093、CD3
orig又はCD3
opt CD3バインダーを含むTYRP1 TCBで処理したときの健常ドナーのPBMCによる黒色腫細胞株M150543の死滅は、24時間後(A)及び48時間後(B)のLDH放出によって決定された。並行して、48時間後のT細胞活性化のマーカーとして、PBMC内のCD8及びCD4 T細胞におけるCD25及びCD69の上方制御をフローサイトメトリーによって測定した。CD4 CD25(C)、CD4 CD69(D)、CD8 CD25(E)、CD8 CD69(F)。
【
図4C-F】異なるCD3バインダーを含むTCBによる腫瘍細胞の死滅及びT細胞の活性化。P035.093、CD3
orig又はCD3
opt CD3バインダーを含むTYRP1 TCBで処理したときの健常ドナーのPBMCによる黒色腫細胞株M150543の死滅は、24時間後(A)及び48時間後(B)のLDH放出によって決定された。並行して、48時間後のT細胞活性化のマーカーとして、PBMC内のCD8及びCD4 T細胞におけるCD25及びCD69の上方制御をフローサイトメトリーによって測定した。CD4 CD25(C)、CD4 CD69(D)、CD8 CD25(E)、CD8 CD69(F)。
【
図5】(A)実施例6で生成された一価IgG分子の概略図。この一価IgG分子は、CD3バインダーにVH/VL交換を有するヒトIgG
1として製造された。(B-E)一価IgGのアセンブリのための構成要素:抗CD3クロスオーバーFab分子の軽鎖(B)、Fc領域にノブ及びPG LALA変異を有する重鎖(C)、Fc領域にホール及びPG LALA変異を有する重鎖(D)。
【
図6A-F】最適化された抗CD3バインダーP035.093を含むPLAPTCBを、標的細胞として操作されたCHO-K1プールを用いたJurkat-NFATレポーターアッセイで試験した。Jurkat NFATレポーター細胞の活性化は、処理後6時間後の発光を測定することにより決定された。各パネルは以下のように異なる標的細胞株を表している:(A)標的細胞なし、(B)CHO-K1親、(C)CHO-K1ヒトALPP、(D)CHO-K1ヒトALPG、(E)CHO-K1ヒトALPI、(F)CHO-K1ヒトALPL。
【
図6G-I】最適化された抗CD3バインダーP035.093を含むPLAPTCBを、標的細胞として操作されたCHO-K1プールを用いたJurkat-NFATレポーターアッセイで試験した。Jurkat NFATレポーター細胞の活性化は、処理後6時間後の発光を測定することにより決定された。各パネルは以下のように異なる標的細胞株を表している:(G)CHO-K1マウスALPG、(H)CHO-K1マウスALPI、(I)LoVo。
【
図7】最適化された抗CD3バインダーP035.093を含むPLAP TCBを、標的細胞として操作されたCHO-K1プールを用いたJurkat-NFATレポーターアッセイで試験した。Jurkat NFATレポーター細胞の活性化は、処理後6時間後の発光を測定することにより決定された。各パネルは以下のように異なる標的細胞株を表している:(A)CHO-K1ヒトALPP、(B)CHO-K1カニクイザルALPP。
【
図8】健常ドナーからのPBMCによる結腸直腸腺癌細胞株LoVoの腫瘍細胞死滅を、PLAP TCBで処理した場合に評価した。腫瘍細胞死滅は、標的細胞の非存在下(A、B)又は存在下(C、D)で、48時間後(A、C)及び72時間後(B、D)にCytotoxGloキット(Promega)を使用して細胞死を定量化することによって測定した。
【
図9】CD4 T細胞(A、C)及びCD8 T細胞(B、D)におけるCD25の上方制御を、PLAP TCBで処理した健常ドナーからのPBMCについて、標的細胞としてLoVo細胞株の存在下(C、D)又は非存在下(A、B)で分析した。72時間後にフローサイトメトリーにより分析を行った。
【発明を実施するための形態】
【0030】
I.定義
以下で別途定義されない限り、用語は当技術分野で一般的に使用されるように本明細書で使用される。
【0031】
本明細書で使用される場合、抗原結合ドメインなどに関して「第1」、「第2」又は「第3」という語は、各タイプの部分が2つ以上ある場合に区別する便宜のために使用される。これらの用語の使用は、明示的に述べられていない限り、部分の特定の順序又は向きを付与することを意図していない。
【0032】
「抗CD3抗体」及び「CD3に結合する抗体」という用語は、抗体がCD3を標的とする診断剤及び/又は治療薬として有用であるように、十分な親和性でCD3に結合することができる抗体を指す。一態様では、抗CD3抗体の無関係の非CD3タンパク質への結合の程度は、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定される場合、抗体のCD3への結合の約10%未満である。特定の態様では、CD3に結合する抗体は、≦1μM、≦500nM、≦200nM又は≦100nMの解離定数(KD)を有する。抗体は、例えばSPRによって測定して、抗体が1μM以下のKDを有する場合、CD3に「特異的に結合する」と言われる。特定の態様では、抗CD3抗体は、異なる種由来のCD3の間で保存されているCD3のエピトープに結合する。
【0033】
同様に、「抗PLAP抗体」及び「PLAPに結合する抗体」という用語は、抗体がPLAPを標的とする診断剤及び/又は治療薬として有用であるように、十分な親和性でPLAPに結合することができる抗体を指す。一態様では、抗PLAP抗体の無関係の非PLAPタンパク質への結合の程度は、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定される場合、抗体のPLAPへの結合の約10%未満である。特定の態様では、PLAPに結合する抗体は、≦1μM、≦500nM、≦200nM又は≦100nMの解離定数(KD)を有する。抗体は、例えばSPRによって測定して、抗体が1μM以下のKDを有する場合、PLAPに「特異的に結合する」と言われる。特定の態様では、抗PLAP抗体は、異なる種由来のPLAPの間で保存されたPLAPのエピトープに結合する。
【0034】
本明細書における「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、様々な抗体構造を包含し、限定されないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び所望の抗原結合活性を示す限り、抗体断片を含む。
【0035】
「抗体断片」は、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部分を含む、インタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例として、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、ダイアボディ、線状抗体、一本鎖抗体分子(例えばscFv及びscFab)、単一ドメイン抗体、及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。特定の抗体断片の概説については、Hollinger and Hudson, Nature Biotechnology 23:1126-1136(2005)を参照されたい。
【0036】
「完全長抗体」、「インタクトな抗体」、及び「全抗体」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、天然抗体構造と実質的に類似した構造を有する抗体を指す。
【0037】
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味する。すなわち、少量で通常存在しているバリアント、例えば天然に生じる変異を含んでいるか又はモノクローナル抗体調製物の製造時に生じるような、可能性のあるバリアント抗体を除き、集団を構成する個々の抗体は同一であり、且つ/又は同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。したがって、「モノクローナル」という修飾語は、抗体の実質的に均一な集団から得られるという抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきではない。例えば、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含むトランスジェニック動物を利用する方法を含むがこれらに限定されない様々な技術によって作製することができ、そのような方法及びモノクローナル抗体を作製するための他の例示的な方法は、本明細書に記載されている。
【0038】
「単離された」抗体は、その自然環境の成分から分離されたものである。いくつかの態様では、抗体は、例えば電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)法又はクロマトグラフィー(例えば、イオン交換又は逆相HPLC、アフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー)法によって決定して、95%又は99%を超える純度まで精製される。抗体純度の評価方法のレビューについては、例えば、Flatman et al.,J.Chromatogr.B 848:79-87(2007)を参照されたい。いくつかの態様では、本発明により提供される抗体は、単離された抗体である。
【0039】
「キメラ」抗体という用語は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の供給源又は種に由来し、重鎖及び/又は軽鎖の残りの部分が異なる供給源又は種に由来する抗体を指す。
【0040】
「ヒト化」抗体とは、非ヒトCDR由来のアミノ酸残基と、ヒトFR由来のアミノ酸残基とを含むキメラ抗体を指す。特定の態様では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、CDRの全て又は実質的に全てが非ヒト抗体のものに対応し、FRの全て又は実質的に全てがヒト抗体のものに対応する。そのような可変ドメインは、本明細書では「ヒト化可変領域」と呼ばれる。ヒト化抗体は、任意選択的に、ヒト抗体由来の抗体定常領域の少なくとも一部を含み得る。いくつかの態様では、ヒト化抗体のいくつかのFR残基は、例えば、抗体の特異性又は親和性を回復又は改善するために、非ヒト抗体(例えば、CDR残基が由来する抗体)からの対応する残基で置換される。抗体、例えば、非ヒト抗体の「ヒト化形態」は、ヒト化を受けた抗体を指す。
【0041】
「ヒト抗体」は、ヒト若しくはヒト細胞によって産生されるか、又はヒト抗体レパートリー若しくは他のヒト抗体コード化配列を利用する非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に相当するアミノ酸配列を有するものである。このヒト抗体の定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を明確に除外する。特定の態様では、ヒト抗体は、非ヒトトランスジェニック哺乳動物、例えばマウス、ラット又はウサギに由来する。特定の態様では、ヒト抗体は、ハイブリドーマ細胞株に由来する。ヒト抗体ライブラリーから単離された抗体又は抗体断片も、本明細書においてヒト抗体又はヒト抗体断片とみなされる。
【0042】
「抗原結合ドメイン」という用語は、抗原の一部又は全部に結合し、それに相補的である領域を含む抗体の部分を指す。抗原結合ドメインは、例えば、1つ以上の抗体可変ドメイン(抗体可変領域とも呼ばれる)によって提供されてもよい。好ましい態様では、抗原結合ドメインは、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)及び抗体重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0043】
「可変領域」又は「可変ドメイン」という用語は、抗体の抗原への結合に関与する抗体の重鎖又は軽鎖のドメインを指す。天然抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH、VL)は通常、類似の構造を有し、各ドメインは、4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と相補性決定領域(CDR)とを含む。例えば、Kindt et al.,Kuby Immunology,6th ed.,W.H.Freeman&Co.,page 91(2007)を参照。単一のVH又はVLドメインは、抗原結合特異性を付与するために十分であり得る。さらに、特定の抗原に結合する抗体を、その抗原に結合する抗体由来のVHドメイン又はVLドメインを使用して単離して、それぞれ相補的なVLドメイン又はVHドメインのライブラリーをスクリーニングしてもよい。例えば、Portolano et al.,J.Immunol.150:880-887(1993);Clarkson et al.,Nature 352:624-628(1991)を参照。可変領域配列に関して本明細書で使用される「Kabat番号付け」は、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)によって規定された番号付けシステムを指す。
【0044】
本明細書で使用される場合、重鎖及び軽鎖の全ての定常領域及びドメインのアミノ酸位置は、Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)に記載される、本明細書では「Kabatによる番号付け」又は「Kabat番号付け」と呼ばれるKabat番号付けシステムに従って番号付けされる。具体的には、Kabat番号付けシステム(Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)の647-660頁を参照)はカッパ及びラムダアイソタイプの軽鎖定常ドメインCLに使用され、Kabat EUインデックス番号付けシステム(661-723頁を参照)は重鎖定常ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2及びCH3)に使用される。Kabat EUインデックス番号付けシステムは、本明細書では、「Kabat EUインデックスによる番号付け」又は「Kabat EUインデックス番号付け」と称することによってさらに明確化されている。
【0045】
本明細書で使用される「超可変領域」又は「HVR」という用語は、配列が超可変であり、抗原結合特異性を決定する抗体可変ドメインの各領域、例えば「相補性決定領域」(「CDR」)を指す。通常、抗体は、6つのCDR;VHに3つ(HCDR1、HCDR2、HCDR3)、及びVLに3つ(LCDR1、LCDR2、LCDR3)を含む。本明細書の例示的なCDRには、以下が含まれる:
(a)アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)、及び96~101(H3)に存在する超可変ループ(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987));
(b)アミノ酸残基24~34(L1)、50~56(L2)、89~97(L3)、31~35b(H1)、50~65(H2)及び95~102(H3)に存在するCDR(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991));並びに
(c)アミノ酸残基27c~36(L1)、46~55(L2)、89~96(L3)、30~35b(H1)、47~58(H2)、及び93~101(H3)に存在する抗原接触部位(MacCallum et al.J.Mol.Biol.262:732-745(1996))。
【0046】
別途指示がない限り、CDRは、上掲のKabatらに従い決定される。当業者は、CDRの表記は、上掲のChothia、上掲のMcCallum、又は任意の他の科学的に認められた命名システムに従い決定することもできることを理解するであろう。
【0047】
「フレームワーク」又は「FR」は、相補性決定領域(CDR)以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般に、4つのFRドメイン:FR1ドメイン、FR2ドメイン、FR3ドメイン及びFR4ドメインの4つのFRドメインからなる。したがって、HVR及びFR配列は、概して、VH(又はVL)で次の順序で表示される:FR1-HCDR1(LCDR1)-FR2-HCDR2(LCDR2)-FR3-HCDR3(LCDR3)-FR4。
【0048】
別途指示がない限り、CDR残基及び可変ドメイン内の他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書において、上記のKabatらに従って番号付けされている。
【0049】
本明細書の目的において「アクセプターヒトフレームワーク」とは、以下に定義するように、ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークに由来する軽鎖可変ドメイン(VL)フレームワーク又は重鎖可変ドメイン(VH)フレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワーク「由来の」アクセプターヒトフレームワークは、その同じアミノ酸配列を含んでいてもよく、又はアミノ酸配列の変更を含んでいてもよい。いくつかの態様では、アミノ酸変化の数は、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、又は2以下である。いくつかの態様では、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列又はヒトコンセンサスフレームワーク配列と配列が同一である。
【0050】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVL又はVHフレームワーク配列の選択において、最も一般的に生じるアミノ酸残基を表すフレームワークである。一般に、ヒト免疫グロブリンVL又はVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからである。一般に、配列のサブグループは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,NIH Publication 91-3242,Bethesda MD(1991),vols.1-3にあるようなサブグループである。
【0051】
本明細書における「免疫グロブリン分子」という用語は、天然に存在する抗体の構造を有するタンパク質を指す。例えば、IgGクラスの免疫グロブリンは、ジスルフィド結合している2つの軽鎖及び2つの重鎖から構成される約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端まで、各重鎖は可変重鎖ドメイン又は重鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VH)を有し、それに続いて重鎖定常領域とも呼ばれる3つの定常ドメイン(CH1、CH2、及びCH3)を有する。同様に、N末端からC末端まで、各軽鎖は可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VL)を有し、それに続いて軽鎖定常領域とも呼ばれる定常軽鎖(CL)ドメインを有する。免疫グロブリンの重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)又はμ(IgM)と呼ばれる5種類のうちの1つに割り当てることができ、そのうちのいくつかはサブタイプ、例えばγ1(IgG1)、γ2(IgG2)、γ3(IgG3)、γ4(IgG4)、α1(IgA1)及びα2(IgA2)にさらに分類することできる。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2種類の1つに割り当てられてもよい。免疫グロブリンは、本質的に、免疫グロブリンのヒンジ領域を介して結合された2つのFab分子とFcドメインからなる。
【0052】
抗体又は免疫グロブリンの「クラス」は、抗体又は免疫グロブリンの重鎖が保有する定常ドメイン又は定常領域の種類を指す。抗体の5つの主なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2にさらに分け得る。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ及びμと呼ばれる。
【0053】
「Fab分子」は、免疫グロブリンの重鎖のVH及びCH1ドメイン(「Fab重鎖」)と、軽鎖のVL及びCLドメイン(「Fab軽鎖」)とからなるタンパク質を指す。
【0054】
「クロスオーバー」Fab分子(「Crossfab」ともいう)とは、Fab重鎖と軽鎖の可変ドメイン又は定常ドメインが交換されている(すなわち、互いに置き換えられている)Fab分子を意味し、すなわちクロスオーバーFab分子は、軽鎖可変ドメインVL及び重鎖定常ドメイン1 CH1から構成されるペプチド鎖(N末端からC末端の方向にVL-CH1)と、重鎖可変ドメインVH及び軽鎖定常ドメインCLから構成されるペプチド鎖(N末端からC末端の方向にVH-CL)とを含む。明確にするために、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子では、重鎖定常ドメイン1 CH1を含むペプチド鎖は、本明細書では(クロスオーバー)Fab分子の「重鎖」と呼ばれる。逆に、Fab軽鎖とFab重鎖の定常ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子では、重鎖可変ドメインVHを含むペプチド鎖は、本明細書では(クロスオーバー)Fab分子の「重鎖」と呼ばれる。
【0055】
これに対して、「従来の」Fab分子とは、その天然フォーマットのFab分子、すなわち重鎖可変ドメイン及び定常ドメインから構成される重鎖(NからC末端の方向にVH-CH1)と、軽鎖可変ドメイン及び定常ドメインから構成される軽鎖(NからC末端の方向にVL-CL)とを含むFab分子を意味する。
【0056】
本明細書の「Fcドメイン」又は「Fc領域」という用語は、定常領域の少なくとも一部を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語は、天然配列Fc領域及びバリアントFc領域を含む。一態様では、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226又はPro230から重鎖のカルボキシル末端まで延びている。しかし、宿主細胞によって産生される抗体は、重鎖のC末端から1つ又は複数、特に1つ又は2つのアミノ酸の翻訳後切断を受ける可能性がある。したがって、完全長重鎖をコードする特定の核酸分子の発現によって宿主細胞によって産生される抗体は、完全長重鎖を含み得るか、又は完全長重鎖の切断されたバリアントを含み得る。これは、重鎖の最後の2つのC末端アミノ酸がグリシン(G446)及びリジン(K447、Kabat EUインデックスによる番号付け)である場合に当てはまる。したがって、Fc領域のC末端リジン(Lys447)又はC末端グリシン(Gly446)及びリジン(Lys447)は、存在してもよいし、存在しなくてもよい。Fc領域(又は本明細書で定義されるFcドメインのサブユニット)を含む重鎖のアミノ酸配列は、他に示されない限り、本明細書ではC末端グリシン-リジンジペプチドなしで示される。一態様では、本発明による抗体に含まれる、本明細書で特定されるFc領域(サブユニット)を含む重鎖は、追加のC末端グリシン-リジンジペプチド(G446及びK447、Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。一態様では、本発明による抗体に含まれる、本明細書で特定されるFc領域(サブユニット)を含む重鎖は、追加のC末端グリシン残基(G446、Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。本明細書で特に明記しない限り、Fc領域又は定常領域におけるアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991(上記も参照)で説明されているようなEUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムに従う。本明細書で使用される場合、Fcドメインの「サブユニット」)は、二量体Fcドメインを形成する2つのポリペプチドのうちの1つ、すなわち、安定な自己会合が可能な免疫グロブリン重鎖のC末端定常領域を含むポリペプチドを指す。例えば、IgG Fcドメインのサブユニットは、IgG CH2及びIgG CH3定常ドメインを含む。
【0057】
「融合した」とは、構成成分(例えばFab分子及びFcドメインサブユニット)がペプチド結合によって、直接又は1つ又は複数のペプチドリンカーを介して連結されることを意味する。
【0058】
「多重特異性」という用語は、抗体が少なくとも2つの異なる抗原決定基に特異的に結合できることを意味する。多重特異性抗体は、例えば、二重特異性抗体であり得る。典型的には、二重特異性抗体は2つの抗原結合部位を含み、それぞれの抗原結合部位は異なる抗原決定基に対して特異的である。特定の態様では、多重特異性(例えば二重特異性)抗体は、2つの抗原決定基、特に2つの異なる細胞上に発現する2つの抗原決定基に同時に結合することができる。
【0059】
本明細書で使用される用語「価」は、特定数の抗原結合部位が抗原結合分子内に存在することを示すものである。したがって、「抗原への一価の結合」という用語は、その抗原に特異的な1つの(且つ1つを超えない)抗原結合部位が抗原結合分子内に存在することを示すものである。
【0060】
「抗原結合部位」とは、抗原との相互作用を提供する抗原結合分子の部位、すなわち1つ又は複数のアミノ酸残基を指す。例えば、抗体の抗原結合部位は、相補性決定領域(CDR)のアミノ酸残基を含む。天然の免疫グロブリン分子は、典型的には2つの抗原結合部位を有し、Fab分子は、典型的には単一の抗原結合部位を有する。
【0061】
本明細書で使用される場合、「抗原決定基」又は「抗原」という用語は、抗原結合ドメインが結合し、抗原結合ドメイン-抗原複合体を形成する、ポリペプチド高分子上の部位(例えばアミノ酸の連続ストレッチ又は非連続アミノ酸の異なる領域から構成される立体構造(conformational configuration)を指す。有用な抗原決定基は、例えば、腫瘍細胞表面に、ウイルス感染した細胞表面に、他の疾患細胞表面に、免疫細胞表面に、血清中に遊離状態で、及び/又は細胞外マトリックス(ECM)内に見出すことができる。好ましい態様では、抗原はヒトタンパク質である。
【0062】
「CD3」は、特に断らない限り、霊長類(例えば、ヒト)、非ヒト霊長類(例えば、カニクイザル)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)などの哺乳動物を含む、任意の脊椎動物源由来の任意の天然CD3を指す。この用語は、「完全長」の、未処理のCD3、並びに細胞内でのプロセシングから生じた任意の形態のCD3を包含する。この用語は、CD3の天然に存在するバリアント、例えば、スプライスバリアント又は対立遺伝子バリアントも包含する。一態様では、CD3は、ヒトCD3、特にヒトCD3のイプシロンサブユニット(CD3ε)である。ヒトCD3εのアミノ酸配列を配列番号63(シグナルペプチドなし)に示す。(www.uniprot.org)アクセッション番号P07766(バージョン209)、又はNCBI(www.ncbi.nlm.nih.gov/)RefSeq NP_000724.1も参照されたい。別の態様では、CD3は、カニクイザル(Macaca fascicularis)CD3、特にカニクイザルCD3εである。カニクイザルCD3εのアミノ酸配列を配列番号64(シグナルペプチドなし)に示す。NCBI GenBank no.BAB71849.1も参照されたい。特定の態様では、本発明の抗体は、異なる種、特にヒト及びカニクイザルCD3由来のCD3抗原の間で保存されているCD3のエピトープに結合する。好ましい態様では、抗体はヒトCD3に結合する。
【0063】
本明細書で使用される「標的細胞抗原」とは、標的細胞、例えばがん細胞の表面に提示される抗原決定基を指す。好ましくは、標的細胞抗原はCD3ではなく、且つ/又はCD3とは異なる細胞上に発現する。本発明によれば、標的細胞抗原はPLAP、特にヒトPLAPである。
【0064】
「PLAP」は胎盤アルカリホスファターゼ(酵素委員会(EC)番号3.1.3.1)を表す。ヒトPLAPは、ALPP遺伝子によってコードされる535アミノ酸のグリコシル化タンパク質である(したがって、「ALPP」と呼ばれることもる)。4つの異なるヒトアルカリホスファターゼが存在する:(1)胎盤型ALP(PLAP、ALPP遺伝子)及び(2)生殖細胞型ALP(PLAP様、ALPG遺伝子)。これらは98%の相同性を有する;(3)腸型ALP(ALPI遺伝子)及び(4)非特異的組織ALP又は肝臓/骨/腎臓ALP(ALPL遺伝子)。これらはPLAPとそれぞれ88%及び56%の相同性を有する(Moss,Clinical Chemistry 38(1992)2486-2492;Harris,Clin Chim Acta 186(1990)133-150)。本明細書で使用される場合、「PLAP」は、特に明記しない限り、霊長類(例えばヒト)、非ヒト霊長類(例えばカニクイザル)及び齧歯類(例えば、マウス及びラット)などの哺乳動物を含む任意の脊椎動物供給源由来の任意の天然PLAPを指す。この用語は、「完全長」の、未処理のPLAP、並びに細胞内でのプロセシングから生じた任意の形態のPLAPを包含する。この用語は、PLAPの天然に存在するバリアント、例えば、スプライスバリアント又は対立遺伝子バリアントも包含する。一態様では、PLAPはヒトPLAPである。ヒトタンパク質のUniProt(www.uniprot.org)アクセッション番号P05187(エントリーバージョン224)を参照。ヒトPLAPのアミノ酸配列も配列番号73(シグナルペプチドなし)に示す。カニクイザルPLAPのアミノ酸配列を配列番号74(シグナルペプチドを含む)に示す。特定の態様では、本発明の抗体は、異なる種のPLAP抗原(特にヒト及びカニクイザルPLAP)の間で保存されているPLAPのエピトープに結合する。好ましい態様では、抗体はヒトPLAPに結合する。
【0065】
「親和性」とは、分子(例えば、抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との間の非共有相互作用の合計の強度を指す。別途指示がない限り、本明細書で使用される「結合親和性」は、結合対のメンバー(例えば、抗体と抗原)の間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、通常、解離定数(KD)によって表すことができる。親和性は、本明細書に記載されるものを含む、当技術分野で知られている十分に確立された方法によって測定することができる。親和性を測定するための好ましい方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)である。
【0066】
「親和性成熟」抗体とは、1つ以上の相補性決定領域(CDR)において1つ以上の改変を有する抗体を指し、そのような改変を有しない親抗体と比較して、そのような改変は、抗原に対する抗体の親和性の改善をもたらす。
【0067】
「結合の低下」、例えばFc受容体への結合の低下は、例えばSPRによって測定される、それぞれの相互作用に対する親和性の低下を指す。明確にするために、この用語には、親和性をゼロ(又は分析方法の検出限界未満)に減少させること、すなわち相互作用の完全な消失も含まれる。逆に、「結合の増加」とは、それぞれの相互作用に対する結合親和性の増加を指す。
【0068】
本明細書で使用する「T細胞活性化」は、Tリンパ球、特に細胞傷害性Tリンパ球の、増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子の放出、細胞傷害性活性、及び活性化マーカーの発現から選択される1つ又は複数の細胞応答を指す。T細胞活性化を測定するための適切なアッセイは、当技術分野で知られており、本明細書に記載されている。
【0069】
「Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾」は、Fcドメインサブユニットを含むポリペプチドと同一のポリペプチドとの会合によるホモ二量体の形成を低下させるか又は防止する、ペプチド骨格の操作又はFcドメインサブユニットの翻訳後修飾である。本明細書で使用される、会合を促進する修飾は、好ましくは、会合することが望ましい2つのFcドメインサブユニット(すなわち、Fcドメインの第1及び第2のサブユニット)のそれぞれに対して行われる別個の修飾を含み、これらの修飾は、2つのFcドメインサブユニットの会合を促進するように互いに相補的である。例えば、会合を促進する修飾は、Fcドメインサブユニットの一方又は両方の構造又は電荷を変化させて、それらの会合をそれぞれ立体的又は静電的に有利にすることができる。したがって、(ヘテロ)二量体化は、第1のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドと第2のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドとの間で起こり、これは、サブユニットのそれぞれに融合されたさらなる構成要素(例えば、抗原結合ドメイン)が同じではないという意味で、同一ではない可能性がある。いくつかの態様では、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾は、Fcドメイン内のアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。好ましい態様では、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾は、Fcドメインの2つのサブユニットのそれぞれに、別個のアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。
【0070】
「エフェクター機能」という用語は、抗体のアイソタイプによって異なる、抗体のFc領域に起因する生物活性を指す。抗体エフェクター機能の例としては:C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);抗体依存性細胞貪食(ADCP);サイトカイン分泌;抗原提示細胞による免疫複合体媒介抗原取り込み;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御;及びB細胞の活性化が含まれる。
【0071】
「活性化Fc受容体」は、抗体のFcドメインの結合に続いて、受容体保有細胞を刺激してエフェクター機能を実行するシグナル伝達事象を誘発するFc受容体である。ヒト活性化Fc受容体には、FcγRIIIa(CD16a)、FcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)及びFcαRI(CD89)が含まれる。
【0072】
抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)は、免疫エフェクター細胞による、抗体で覆われた標的細胞の溶解を引き起こす免疫機構である。標的細胞は、Fc領域を含む抗体又はその誘導体が、一般的にFc領域に対してN末端であるタンパク質部分を介して、特異的に結合する細胞である。本明細書で使用される場合、「ADCCの低下」という用語は、上で定義したADCCの機構により、標的細胞を取り囲む培地中の所定の抗体濃度で、所定の時間内に溶解される標的細胞の数の減少、及び/又はADCCの機構により、所定の時間内に所定の数の標的細胞の溶解を達成するために必要な、標的細胞を取り囲む培地中の抗体濃度の上昇のいずれかとして定義される。ADCCの低下は、同じ標準的な生産、精製、製剤化及び保存方法(これらは当業者には既知である)を用いて、同じタイプの宿主細胞によって生産された同じ抗体であるが操作されていない抗体によって媒介されるADCCと比較している。例えば、ADCCを低下させるアミノ酸置換をそのFcドメインに含む抗体によって媒介されるADCCの低下は、Fcドメインにおいてこのアミノ酸置換を伴わない同じ抗体によって媒介されるADCCと比較される。ADCCを測定するための適切なアッセイは、当技術分野で周知である(例えば、PCT公開番号WO2006/082515又はPCT公開番号WO2012/130831を参照)。
【0073】
本明細書で使用される場合、「操作する(engineer)、操作される(engineered)、操作すること(engineering)」という用語は、ペプチド骨格の任意の操作、又は天然に存在するポリペプチド若しくは組換えポリペプチド又はその断片の翻訳後修飾を含むと考えられる。操作には、アミノ酸配列の修飾、グリコシル化パターンの修飾又は個々のアミノ酸の側鎖基の修飾、及びこれらの手法の組み合わせを含む。
【0074】
本明細書で使用される用語「アミノ酸変異」は、アミノ酸の置換、欠失、挿入、及び修飾を包含することを意味する。最終構築物が所望の特徴(例えば、Fc受容体への結合の低下又は別のペプチドとの会合の増加)を有することを条件として、置換、欠失、挿入及び修飾の任意の組み合わせを行って最終構築物に到達することができる。アミノ酸配列の欠失及び挿入には、アミノ酸のアミノ末端及び/又はカルボキシ末端の欠失及び挿入が含まれる。好ましいアミノ酸変異はアミノ酸置換である。例えばFc領域の結合特性を変化させるためには、非保存的アミノ酸置換、すなわち1つのアミノ酸を異なる構造的及び/又は化学的特性を有する別のアミノ酸で置き換えることが特に好ましい。アミノ酸置換には、天然に存在しないアミノ酸による、又は20種類の標準アミノ酸(例えば、4-ヒドロキシプロリン、3-メチルヒスチジン、オルニチン、ホモセリン、5-ヒドロキシリジン)の天然に存在するアミノ酸誘導体による置き換えが含まれる。アミノ酸変異は、当技術分野で周知の遺伝学的方法又は化学的方法を用いて生成することができる。遺伝学的方法は、部位特異的変異誘発、PCR、遺伝子合成等を含み得る。化学修飾などの遺伝子工学以外の方法によってアミノ酸の側鎖基を改変する方法も有用であり得ることが考えられる。本明細書では、同じアミノ酸変異を示すために様々な名称が使用され得る。例えば、Fcドメインの329位におけるプロリンからグリシンへの置換は、329G、G329、G329、P329G又はPro329Glyと示され得る。
【0075】
参照ポリペプチド配列に関する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、最大の配列同一性パーセントを達成するために、配列をアラインメントし、必要に応じてギャップを導入した後に、いかなる保存的置換も配列同一性の一部として考慮せずに、参照ポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同一である、候補配列におけるアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するためのアラインメントは、当技術分野の技術の範囲内にある種々の方法で、例えば、公的に入手可能なコンピュータソフトウェア、例えば、BLAST、BLAST-2、Clustal W、Megalign(DNASTAR)ソフトウェア又はFASTAプログラムパッケージを使用して達成することができる。当業者は、比較される配列の完全長に対して最大のアライメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列アライメントを行うための適切なパラメーターを決定し得る。あるいは、同一性パーセント値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用して生成することができる。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムはジェネンテック社によって作成されたもので、そのソースコードは、利用者向け文書と共に米国著作権庁(ワシントンD.C.,20559)に提出されており、そこで米国著作権登録番号TXU510087として登録され、国際公開第2001/007611号に記載されている。
【0076】
別途指示がない限り、本明細書の目的のために、アミノ酸配列同一性%値は、FASTAパッケージバージョン36.3.8c以降のggsearchプログラムをBLOSUM50比較マトリックスと共に使用して生成される。FASTAプログラムパッケージは、W.R.Pearson and D.J.Lipman(“Improved Tools for Biological Sequence Analysis”,PNAS 85(1988)2444-2448),W.R.Pearson(“Effective protein sequence comparison”Meth.Enzymol.266(1996)227-258)及びPearson et.al.(Genomics 46(1997)24-36)により作成され、www.fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/fasta_down.shtml又はwww.ebi.ac.uk/Tools/sss/fastaから公開されて利用可能である。代替的に、fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/index.cgiでアクセス可能な公的なサーバーを使用して、ggsearch(global protein:protein)プログラム及びデフォルトオプション(BLOSUM50;オープン:-10;ext:-2;Ktup=2)を用い、ローカルではなくグローバルのアラインメントを確実に行い、配列を比較することができる。アミノ酸同一性パーセントは、出力アラインメントヘッダ中に与えられる。
【0077】
「ポリヌクレオチド」又は「核酸分子」という用語は、ヌクレオチドのポリマーを含む任意の化合物及び/又は物質を含む。各ヌクレオチドは、塩基、具体的には、プリン塩基又はピリミジン塩基(すなわち、シトシン(C)、グアニン(G)、アデニン(A)、チミン(T)又はウラシル(U))、糖(すなわち、デオキシリボース又はリボース)、及びリン酸基から構成されている。多くの場合、核酸分子は塩基の配列によって記述され、前記塩基は核酸分子の一次構造(線状構造)を表す。塩基の配列は、典型的には、5’から3’に向かって表される。本明細書において、核酸分子という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)、例えば、相補性DNA(cDNA)及びゲノムDNA、リボ核酸(RNA)、特に、メッセンジャーRNA(mRNA)、DNA又はRNAの合成形態、及びこれらの分子の2つ以上を含む混合ポリマーを包含する。核酸分子は線状又は環状であり得る。さらに、核酸分子という用語は、センス鎖及びアンチセンス鎖、並びに一本鎖形態及び二本鎖形態の両方を含む。さらに、本明細書で記載される核酸分子は、天然に存在するヌクレオチド又は天然に存在しないヌクレオチドを含むことができる。天然に存在しないヌクレオチドの例としては、誘導体化された糖又はリン酸骨格結合又は化学的に修飾された残基を有する修飾ヌクレオチド塩基が挙げられる。核酸分子は、in vitro、及び/又は例えば宿主若しくは患者におけるin vivoにおいて、本発明の抗体の直接的な発現のためのベクターとして適したDNA分子及びRNA分子も包含する。そのようなDNA(例えば、cDNA)又はRNA(例えば、mRNA)ベクターは、修飾されていなくてもよく、又は修飾されていてもよい。例えば、mRNAを化学修飾して、RNAベクターの安定性及び/又はコードされた分子の発現を向上させ、mRNAを対象に注入してin vivoで抗体を生成できるようにすることができる(例えば、Stadler et al.(2017)Nature Medicine 23:815-817、又はEP2101823号B1を参照)。
【0078】
「単離された」核酸分子は、その自然環境の構成要素から分離された核酸分子を指す。単離された核酸分子には、核酸分子を通常含有する細胞内に含まれる核酸分子が含まれるが、この核酸分子は染色体外に存在するか、又はその本来の染色体上の位置とは異なる染色体上の位置に存在する。
【0079】
「抗体をコードする単離されたポリヌクレオチド(又は核酸)」は、抗体の重鎖及び軽鎖(又はそれらの断片)をコードする1つ又は複数のポリヌクレオチド分子を指し、これには単一のベクター又別々のベクター中のそのようなポリヌクレオチド分子が含まれ、宿主細胞中の1つ又は複数の箇所にそのようなポリヌクレオチド分子が存在している。
【0080】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、それが結合している別の核酸を増殖させることができる核酸分子を指す。この用語は、自己複製する核酸構造としてのベクター、及びベクターが導入された宿主細胞のゲノム内へと組み込まれたベクターを含む。特定のベクターは、それらが機能的に連結されている核酸の発現を指示することができる。そのようなベクターは、本明細書では、「発現ベクター」と呼ばれる。
【0081】
「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養物」という用語は互換的に使用され、外因性核酸が導入された細胞を指し、そのような細胞の子孫を含む。宿主細胞には、「形質転換体」及び「形質転換細胞」が含まれ、これらには、初代形質転換細胞及び、継代の数に関係なく、それに由来する子孫が含まれる。子孫は、核酸含量が親細胞と完全に同じでなくてもよく、変異を含んでもよい。元の形質転換細胞においてスクリーニング又は選択されたのと同じ機能又は生物活性を有する変異体子孫が、本明細書に含まれる。宿主細胞は、本発明の抗体を生成するために使用できる任意の種類の細胞系である。宿主細胞は、培養細胞、例えばいくつか例を挙げると、HEK細胞、CHO細胞、BHK細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、YO骨髄腫細胞、P3X63マウス骨髄腫細胞、PER細胞、PER.C6細胞又はハイブリドーマ細胞といった哺乳動物の培養細胞、酵母細胞、昆虫細胞、及び植物細胞を含み、さらには、トランスジェニック動物、トランスジェニック植物又は培養された植物若しくは動物組織内部に含まれる細胞を含む。一態様では、本発明の宿主細胞は真核細胞、特に哺乳動物細胞である。一態様では、宿主細胞はヒト体内の細胞ではない。
【0082】
「医薬組成物」又は「医薬製剤」という用語は、中に含まれる活性成分の生物学的活性を有効にするような形態であり、該組成物が投与されるであろう対象にとって許容できないほど毒性である追加の成分を含まない調製物を指す。
【0083】
「薬学的に許容される担体」は、対象にとって非毒性である、有効成分以外の医薬組成物又は製剤中の成分を指す。薬学的に許容される担体には、バッファー、添加物、安定剤、又は防腐剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0084】
本明細書で使用される場合、「治療」(treatment)(及びその文法上の変化形、「治療する」(treat)又は「治療すること」(treating))は、治療される対象における疾患の自然経過を変えるための臨床的介入を指し、予防のために又は臨床病理の経過中に実施することができる。治療の望ましい効果には、限定するものではないが、疾患の発生又は再発を予防すること、症状の緩和、疾患の直接的又は間接的な病理学的帰結の縮小、転移の予防、疾患の進行速度を遅らせること、病状の改善又は緩和、及び寛解又は予後の改善が含まれる。いくつかの態様では、本発明の抗体は、疾患の発症を遅延させるために、又は疾患の進行を遅らせるために使用される。
【0085】
「個体」又は「対象」は、哺乳動物である。哺乳動物としては、限定されないが、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ及びウマ)、霊長類(例えば、ヒト及びサル等の非ヒト霊長類)、ウサギ、齧歯類(例えば、マウス及びラット)が挙げられる。特定の態様では、個体又は対象は、ヒトである。
【0086】
薬剤、例えば、医薬組成物の「有効量」は、所望の治療結果又は予防結果を達成するために必要な投薬量及び所要期間で有効な量を指す。
【0087】
「添付文書」という用語は、そのような治療用製品の使用に関する適応症、使用法、投薬量、投与、併用療法、禁忌及び/又は警告に関する情報を含む、治療用製品の市販のパッケージに慣習的に含まれている説明書を指すために使用される。
【0088】
II.組成物及び方法
本発明は、CD3及びPLAPに結合する抗体を提供する。抗体は、例えば、有効性と安全性、薬物動態、及び生産性に関して、治療への応用に有利な他の特性と相まって、優れた安定性を示す。本発明の抗体は、例えば、がん又は自己免疫疾患などの疾患の治療に有用である。
【0089】
A.抗CD3/PLAP抗体
一態様では、本発明は、CD3及びPLAPに結合する抗体を提供する。一態様では、CD3及びPLAPに結合する単離された抗体が提供される。一態様では、本発明は、CD3及びPLAPに特異的に結合する抗体を提供する。特定の態様では、抗CD3抗PLAP抗体は、表面プラズモン共鳴(SPR)によって決定されるように、pH6、-80℃で2週間後の結合活性に対して、pH7.4、37℃で2週間後にCD3に対する約90%を超える結合活性を保持している。
【0090】
一態様では、本発明は、CD3及びFolR1に結合する二重特異性抗体を提供し、ここで該抗体は、(a)配列番号2の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号3のHCDR2、及び配列番号6のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)と、配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2及び配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)とを含む、CD3に結合する第1の抗原結合ドメインを含む。
【0091】
一態様では、抗体はヒト化抗体である。一態様では、第1の抗原結合ドメインはヒト化抗原結合ドメイン(すなわち、ヒト化抗体の抗原結合ドメイン)である。一態様では、第1の抗原結合ドメインのVH及び/又はVLは、ヒト化可変領域である。
【0092】
一態様では、第1の抗原結合ドメインのVH及び/又はVLは、アクセプターヒトフレームワーク、例えば、ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークを含む。
【0093】
一態様では、第1の抗原結合ドメインのVHは、配列番号9の重鎖可変領域配列の1つ又は複数の重鎖フレームワーク配列(すなわち、FR1、FR2、FR3、及び/又はFR4配列)を含む。一態様では、第1の抗原結合ドメインのVHは、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む。一態様では、第1の抗原結合ドメインのVHは、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%同一であるアミノ酸配列を含む。一態様では、第1の抗原結合ドメインのVHは、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約98%同一であるアミノ酸配列を含む。特定の態様では、少なくとも95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有するVH配列は、参照配列と比較して置換(例えば、保存的置換)、挿入、又は欠失を含むが、その配列を含む抗体はCD3に結合する能力を保持する。特定の態様では、配列番号9のアミノ酸配列において、合計1~10個のアミノ酸が置換、挿入及び/又は欠失されている。特定の態様では、置換、挿入、又は欠失は、CDRの外側の領域(すなわち、FR)で起こる。一態様では、第1の抗原結合ドメインのVHは、配列番号9のアミノ酸配列を含む。任意選択的に、第1の抗原結合ドメインのVHは、その配列の翻訳後修飾を含む、配列番号9のアミノ酸配列を含む。
【0094】
一態様では、第1の抗原結合ドメインのVLは、配列番号13の軽鎖可変領域配列の1つ又は複数の軽鎖フレームワーク配列(すなわち、FR1、FR2、FR3及び/又はFR4配列)を含む。一態様では、第1の抗原結合ドメインのVLは、配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む。一態様では、第1の抗原結合ドメインのVLは、配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%同一であるアミノ酸配列を含む。一態様では、第1の抗原結合ドメインのVLは、配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約98%同一であるアミノ酸配列を含む。特定の態様では、少なくとも95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有するVL配列は、参照配列と比較して置換(例えば、保存的置換)、挿入、又は欠失を含むが、その配列を含む抗体はCD3に結合する能力を保持する。特定の態様では、配列番号13のアミノ酸配列において、合計1~10個のアミノ酸が置換、挿入及び/又は欠失されている。特定の態様では、置換、挿入、又は欠失は、CDRの外側の領域(すなわち、FR)で起こる。一態様では、第1の抗原結合ドメインのVLは、配列番号13のアミノ酸配列を含む。任意選択的に、第1の抗原結合ドメインのVLは、その配列の翻訳後修飾を含む、配列番号13のアミノ酸配列を含む。
【0095】
一態様では、第1の抗原結合ドメインのVHは、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含み、第1の抗原結合ドメインのVLは、配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む。一態様では、第1の抗原結合ドメインのVHは配列番号9のアミノ酸配列を含み、第1の抗原結合ドメインのVLは配列番号13のアミノ酸配列を含む。
【0096】
さらなる態様では、本発明は、CD3及びPLAPに結合する抗体を提供し、ここで該抗体は、配列番号9のアミノ酸配列を含むVHと、配列番号13のアミノ酸配列を含むVLとを含む、CD3に結合する第1の抗原結合ドメインを含む。
【0097】
さらなる態様では、本発明は、CD3及びPLAPに結合する抗体を提供し、ここで該抗体は、配列番号9のVH配列と、配列番号13のVL配列とを含む、CD3に結合する第1の抗原結合ドメインを含む。
【0098】
別の態様では、本発明は、CD3及びPLAPに結合する抗体を提供し、ここで該抗体は、配列番号9のVHの重鎖CDR配列を含むVHと、配列番号13のVLの軽鎖CDR配列を含むVLとを含む、CD3に結合する第1の抗原結合ドメインを含む。
【0099】
さらなる態様では、第1の抗原結合ドメインは、配列番号9のVHのHCDR1、HCDR2及びHCDR3アミノ酸配列と、配列番号13のVLのLCDR1、LCDR2及びLCDR3アミノ酸配列とを含む。
【0100】
一態様では、第1の抗原結合ドメインのVHは、配列番号9のVHの重鎖CDR配列と、配列番号9のVHのフレームワーク配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性のフレームワークとを含む。一態様では、第1の抗原結合ドメインのVHは、配列番号9のVHの重鎖CDR配列と、配列番号9のVHのフレームワーク配列と少なくとも95%の配列同一性のフレームワークとを含む。別の態様では、第1の抗原結合ドメインのVHは、配列番号9のVHの重鎖CDR配列と、配列番号9のVHのフレームワーク配列と少なくとも98%の配列同一性のフレームワークとを含む。
【0101】
一態様では、第1の抗原結合ドメインのVLは、配列番号13のVLの軽鎖CDR配列と、配列番号13のVLのフレームワーク配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性のフレームワークとを含む。一態様では、第1の抗原結合ドメインのVLは、配列番号13のVLの軽鎖CDR配列と、配列番号13のVLのフレームワーク配列と少なくとも95%の配列同一性のフレームワークとを含む。別の態様では、第1の抗原結合ドメインのVLは、配列番号13のVLの軽鎖CDR配列と、配列番号13のVLのフレームワーク配列と少なくとも98%の配列同一性のフレームワークとを含む。
【0102】
一態様では、本発明は、CD3及びPLAPに結合する抗体を提供し、ここで該抗体は、上で提供される態様のいずれかにおけるようなVH配列と、上で提供される態様のいずれかにおけるようなVL配列とを含む、CD3に結合する第1の抗原結合ドメインを含む。
【0103】
一態様では、抗体は、ヒト定常領域を含む。一態様では、抗体は、ヒト定常領域を含む免疫グロブリン分子、特にヒトCH1、CH2、CH3及び/又はCLドメインを含むIgGクラスの免疫グロブリン分子である。ヒト定常ドメインの例示的な配列は、配列番号70及び71(それぞれ、ヒトカッパ及びラムダCLドメイン)、並びに配列番号72(ヒトIgG1重鎖定常ドメインCH1-CH2-CH3)で与えられる。一態様では、抗体は、配列番号70又は配列番号71のアミノ酸配列、特に配列番号70のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域を含む。一態様では、抗体は、配列番号72のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖定常領域を含む。特に、重鎖定常領域は、本明細書に記載のFcドメインにアミノ酸変異を含み得る。
【0104】
一態様では、第1の抗原結合ドメインは、ヒト定常領域を含む。一態様では、第1の抗原結合部分は、ヒト定常領域、特にヒトCH1及び/又はCLドメインを含むFab分子である。一態様では、第1の抗原結合ドメインは、配列番号70又は配列番号71のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域、特に配列番号70のアミノ酸配列を含む。特に、軽鎖定常領域は、本明細書で「電荷修飾」の下に記載されるアミノ酸変異を含んでもよく、且つ/又はクロスオーバーFab分子の場合、1つ又は複数(特に2つ)のN末端アミノ酸の欠失又は置換を含んでもよい。いくつかの態様では、第1の抗原結合ドメインは、配列番号72のアミノ酸配列に含まれるCH1ドメイン配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖定常領域を含む。特に、重鎖定常領域(具体的にはCH1ドメイン)は、本明細書の「電荷修飾」の下に記載されるアミノ酸変異を含み得る。
【0105】
一態様では、抗体は、モノクローナル抗体である。
【0106】
一態様では、抗体は、IgG抗体、特にIgG1抗体である。一態様では、抗体は、完全長抗体である。
【0107】
別の態様では、抗体は、Fv分子、scFv分子、Fab分子、及びF(ab’)2分子の群から選択される抗体断片であり、特にFab分子である。別の態様では、抗体断片は、二重特異性抗体、三重特異性抗体又は四重特異性抗体である。
【0108】
一態様では、第1の抗原結合ドメインは、Fab分子である。好ましい態様では、第1の抗原結合ドメインは、Fab軽鎖及びFab重鎖の、可変ドメインVLとVH又は定常ドメインCLとCH1、特に可変ドメインVLとVHが互いに置き換えられているFab分子である(すなわち、第1の抗原結合ドメインはクロスオーバーFab分子である)。
【0109】
さらなる態様では、上記態様のうちのいずれかによる抗体は、以下のセクションII.A.1.~8.に記載される特徴のうちのいずれかを単独で、又は組み合わせて、組み込んでもよい。
【0110】
好ましい態様では、抗体は、Fcドメイン、特にIgG Fcドメイン、より具体的にはIgG1 Fcドメインを含む。一態様では、Fcドメインは、ヒトFcドメインである。一態様では、Fcドメインは、ヒトIgG1 Fcドメインである。Fcドメインは、第1及び第2のサブユニットからなり、Fcドメインバリアントに関連して本明細書の以下に記載される特徴のうちのいずれかを単独で、又は組み合わせて組み込んでもよい(セクションII.A.8.)。
【0111】
本発明によれば、抗体は、PLAPに結合する第2の抗原結合ドメイン、及び任意選択的に第3の抗原結合ドメインを含む(すなわち、抗体は、本明細書の以下(セクションII.A.7.)でさらに説明するように、多重特異性抗体である)。
【0112】
1.抗体断片
特定の態様では、本明細書に提供される抗体は、抗体断片である。
【0113】
一態様では、抗体断片は、Fab、Fab’、Fab’-SH、又はF(ab’)2分子、特に本明細書に記載のFab分子である。「Fab’分子」は、抗体ヒンジ領域からの1つ又は複数のシステインを含む、CH1ドメインのカルボキシ末端での残基の付加によってFab分子とは異なる。Fab’-SHは、定常ドメインのシステイン残基(1つ又は複数)が遊離チオール基を持つFab’分子である。ペプシン処理により、2つの抗原結合部位(2つのFab分子)とFc領域の一部を有するF(ab’)2分子が得られる。
【0114】
別の態様では、抗体断片は、二重特異性抗体、三重特異性抗体又は四重特異性抗体である。ダイアボディは、二価又は二重特異性であり得る2つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、EP404,097、国際公開第1993/01161号、Hudson et al.,Nat.Med.9:129-134(2003)、及びHollinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448(1993)を参照のこと。トリアボディ及びテトラボディはまた、Hudson et al.,Nat.Med.9:129-134(2003)にも記載がある。
【0115】
さらなる態様では、抗体断片は一本鎖Fab分子である。「一本鎖Fab分子」又は「scFab」は、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体重鎖定常ドメイン1(CH1)、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、抗体軽鎖定常ドメイン(CL)、及びリンカーから成るポリペプチドであり、前記抗体ドメイン及び前記リンカーは、N末端からC末端方向へ以下の順序:a)VH-CH1-リンカー-VL-CL、b)VL-CL-リンカー-VH-CH1、c)VH-CL-リンカー-VL-CH1、又はd)VL-CH1-リンカー-VH-CLのうちの1つを有する。特に、前記リンカーは、少なくとも30個のアミノ酸、好ましくは32~50個のアミノ酸のポリペプチドである。前記一本鎖Fab分子は、CLドメインとCH1ドメインとの間の天然のジスルフィド結合によって安定化されている。さらに、これらの一本鎖Fab分子は、システイン残基の挿入による鎖間ジスルフィド結合の生成によってさらに安定化される可能性がある(例えば、Kabat番号付けによる可変重鎖の44位及び可変軽鎖の100位)。
【0116】
別の態様では、抗体断片は一本鎖可変断片(scFv)である。「一本鎖可変断片」又は「scFv」は、リンカーにより連結された、抗体の重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変ドメインの融合タンパク質である。特に、リンカーは10~25個のアミノ酸の短いポリペプチドであり、通常、柔軟性のためにグリシンが豊富であり、溶解性のためにセリン又はスレオニンが豊富であり、VHのN末端をVLのC末端に連結することも、その逆も可能である。このタンパク質は、定常領域の除去及びリンカーの導入にも関わらず、元の抗体の特異性を保持している。scFv断片の総説としては、例えば、Pluckthun,The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,(Springer-Verlag,New York),pp.269-315(1994)を参照されたい。また、国際公開第93/16185号及び米国特許第5,571,894号及び同第5,587,458号を参照。
【0117】
別の態様では、抗体断片は単一ドメイン抗体である。「単一ドメイン抗体」は、抗体の重鎖可変ドメインの全部若しくは一部、又は軽鎖可変ドメインの全部若しくは一部を含む抗体断片である。特定の態様では、単一ドメイン抗体はヒト単一ドメイン抗体である(Domantis,Inc.,Waltham,MA;例えば、米国特許第6,248,516 B1号を参照)。
【0118】
抗体断片は、本明細書に記載されているように、インタクトな抗体のタンパク質消化及び組換え宿主細胞(例えば大腸菌)による組換え産生を含むがこれらに限定されない様々な技術によって作製することができる。
【0119】
2.ヒト化抗体
特定の態様では、本明細書で提供される抗体は、ヒト化抗体である。通常、非ヒト抗体は、親となる非ヒト抗体の特異性と親和性を保持したまま、ヒトに対する免疫原性を低下させるためにヒト化される。一般に、ヒト化抗体は、CDR(又はその一部)が非ヒト抗体に由来し、FR(又はその一部)がヒト抗体配列に由来する1つ又は複数の可変ドメインを含む。ヒト化抗体は、任意でヒト定常領域の少なくとも一部を含む。いくつかの態様では、ヒト化抗体のいくつかのFR残基は、例えば、抗体の特異性又は親和性を回復又は改善するために、非ヒト抗体(例えば、CDR残基が由来する抗体)からの対応する残基で置換される。
【0120】
ヒト化抗体及びその作製方法については、Almagro and Fransson,Front.Biosci.13:1619-1633(2008)で総説されており、さらに、例えばRiechmann et al.,Nature 332:323-329(1988)、Queen et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 86:10029-10033(1989)、米国特許第5821337号、同第7527791号、同第6982321号及び同第7087409号、Kashmiri et al.,Methods 36:25-34(2005)(特異性決定領域(SDR)移植法を記載)、Padlan,Mol.Immunol.28:489-498(1991)(リサーフェシングを記載)、Dall’Acqua et al.,Methods 36:43-60(2005)(「FRシャッフリング」を記載)、並びにOsbourn et al.,Methods 36:61-68(2005)及びKlimka et al.,Br.J.Cancer,83:252-260(2000)(FRシャッフリングの「ガイド付き選択」手法を記載)で説明されている。
【0121】
ヒト化に使用できるヒトフレームワーク領域には、以下が含まれるが、これらに限定されない:「ベストフィット」法を使用して選択されたフレームワーク領域(例えば、Sims et al.J.Immunol.151:2296(1993)参照。);軽鎖又は重鎖可変領域の特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列に由来するフレームワーク領域(例えば、Carter et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:4285(1992)参照;及びPresta et al.J.Immunol.,151:2623(1993));ヒト成熟(体細胞変異)フレームワーク領域又はヒト生殖細胞系フレームワーク領域(例えば、Almagro and Fransson,Front.Biosci.13:1619-1633(2008)参照。);及びFRライブラリーのスクリーニングに由来するフレームワーク領域(例えば、Baca et al.,J.Biol.Chem.272:10678-10684(1997)及びRosok et al.,J.Biol.Chem.271:22611-22618(1996)参照。)。
【0122】
3.グリコシル化バリアント
特定の態様では、本明細書で提供される抗体は、抗体がグリコシル化される程度を増加又は減少させるために改変される。抗体へのグリコシル化部位の付加又は欠失は、1つ以上のグリコシル化部位が作り出されるか、又は除去されるようにアミノ酸配列を改変させることにより好都合に達成され得る。
【0123】
抗体がFc領域を含む場合、それに結合するオリゴ糖を改変してもよい。哺乳類細胞によって産生される天然抗体は、通常、Fc領域のCH2ドメインのAsn297にN結合によって結合している分岐状の二分岐オリゴ糖を含んでいる。例えばWright et al.TIBTECH 15:26-32(1997)を参照。オリゴ糖には、様々な炭水化物、例えば、マンノース、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース及びシアル酸、並びに二分岐オリゴ糖構造の「幹」のGlcNAcに結合したフコースが含まれ得る。いくつかの態様では、本発明の抗体におけるオリゴ糖の修飾は、特定の改善された特性を有する抗体バリアントを作成するために行われ得る。
【0124】
一態様では、非フコシル化オリゴ糖、すなわちFc領域に(直接的又は間接的に)結合したフコースを欠くオリゴ糖構造を有する抗体バリアントが提供される。そのような非フコシル化オリゴ糖(「アフコシル化」オリゴ糖とも呼ばれる)は特に、二分岐オリゴ糖構造の幹に第1のGlcNAcが結合したフコース残基を欠く、N結合オリゴ糖である。一態様では、天然抗体又は親抗体と比較して、Fc領域における非フコシル化オリゴ糖の割合が増加した抗体バリアントが提供される。例えば、非フコシル化オリゴ糖の割合は、少なくとも約20%、少なくとも約40%、少なくとも約60%、少なくとも約80%又はさらには約100%(すなわち、フコシル化オリゴ糖が存在しない)であってもよい。非フコシル化オリゴ糖の割合は、例えば、国際公開第2006/082515号に記載のMALDI-TOF質量分析法により測定した、Asn297に結合した全てのオリゴ糖の合計(例えば、複合体、ハイブリッド、及びハイマンノース構造)に対する、フコース残基を欠くオリゴ糖の(平均)量である。Asn297は、Fc領域のおよそ297位に位置するアスパラギン残基を指す(Fc領域残基のEU番号付け)。ただし、抗体のわずかな配列の変化により、Asn297は、297位の約±3アミノ酸上流又は下流、すなわち294位と300位の間に位置することもある。Fc領域において非フコシル化オリゴ糖の割合が増加したそのような抗体は、改善されたFcγRIIIa受容体結合及び/又は改善されたエフェクター機能、特に改善されたADCC機能を有し得る。例えば、米国特許出願公開第2003/0157108号、同第2004/0093621号を参照されたい。
【0125】
フコシル化が低下した抗体を産生可能な細胞株の例としては、タンパク質フコシル化が欠損しているLec13CHO細胞(Ripka et al.Arch.Biochem.Biophys.249:533-545(1986);米国特許出願公開第2003/0157108号;及び国際公開第2004/056312号、特に実施例11)、及びノックアウト細胞株、例えばアルファ-1,6-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子のFUT8ノックアウトCHO細胞(例えば、Yamane-Ohnuki et al.Biotech.Bioeng.87:614-622(2004);Kanda,Y.et al.,Biotechnol.Bioeng.,94(4):680-688(2006);及び国際公開第2003/085107号を参照)、又はGDP-フコース合成若しくはトランスポータータンパク質の活性が低下若しくは消滅した細胞(例えば、米国特許出願公開第2004259150号、同第2005031613号、同第2004132140号、同第2004110282号を参照)が挙げられる。
【0126】
さらなる態様では、二分されたオリゴ糖を有する抗体バリアント、例えば、抗体のFc領域に結合した二分岐オリゴ糖がGlcNAcによって二分されている、抗体バリアントが提供される。そのような抗体バリアントは、上に記載されたように、フコシル化の減少及び/又はADCC機能の改善を有し得る。そのような抗体バリアントの例は、例えば、Umana et al.,Nat Biotechnol 17,176-180(1999);Ferrara et al.,Biotechn Bioeng 93,851-861(2006);国際公開第99/54342号;国際公開第2004/065540号、国際公開第2003/011878号に記載されている。
【0127】
Fc領域に結合したオリゴ糖内に少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体バリアントも提供される。そのような抗体バリアントは、改善されたCDC機能を有し得る。そのような抗体バリアントは、例えば、国際公開第1997/30087号、国際公開第1998/58964号及び国際公開第1999/22764号に記載されている。
【0128】
4.システイン操作抗体バリアント
特定の態様では、抗体の1つ又は複数の残基がシステイン残基で置換されている、システイン操作抗体、例えばTHIOMAB(商標)抗体を作製することが望ましい場合がある。好ましい態様では、置換された残基は、抗体のアクセス可能な部位で生じる。これらの残基をシステインで置換することにより、反応性チオール基は、それによって抗体のアクセス可能な部位に配置され、本明細書にさらに記載されるように、抗体を薬物部位又はリンカー薬物部位等のような他の部位にコンジュゲートさせてイムノコンジュゲートを作製するために使用され得る。システイン操作抗体は、例えば、米国特許第7,521,541号、米国特許第8,30,930号、米国特許第7,855,275号、米国特許第9,000,130号又は国際公開第2016040856号に記載されているように生成され得る。
【0129】
5.抗体誘導体
特定の態様では、本明細書で提供される抗体は、当技術分野で知られ、容易に入手可能な追加の非タンパク質部分を含むようにさらに修飾され得る。抗体の誘導体化に好適な部分には、限定するものではないが、水溶性ポリマーが含まれる。水溶性ポリマーの非限定的な例としては、限定されるものではないが、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマー又はランダムコポリマーのいずれか)、及びデキストラン又はポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)、ポリビニルアルコール、並びにこれらの混合物が挙げられる。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、水中でのその安定性のため、製造時に有利であり得る。ポリマーは、任意の分子量であってもよく、分岐していても、分岐していなくてもよい。抗体に結合するポリマーの数は変化してもよく、複数のポリマーが結合する場合、それらは同じ分子でも異なる分子でもよい。一般に、誘導体化のために使用されるポリマーの数及び/又はタイプは、限定するものではないが、改善される抗体の特定の特性又は機能、抗体誘導体が定義された条件下で治療に使用されるかどうかなどの考慮事項に基づいて決定され得る。
【0130】
6.イムノコンジュゲート
本発明はまた、細胞傷害性薬剤、化学療法剤、薬物、成長阻害剤、毒素(例えば、タンパク質毒、細菌、真菌、植物若しくは動物起源の酵素活性毒素、又はこれらの断片)又は放射性同位体などの1つ又は複数の治療薬剤とコンジュゲートした本明細書における抗CD3/PLAP抗体を含む、イムノコンジュゲートを提供する。
【0131】
一態様では、イムノコンジュゲートは、抗体が上述の治療剤の1つ又は複数にコンジュゲートしている抗体-薬物コンジュゲート(ADC)である。抗体は典型的には、リンカーを使用して、1つ又は複数の治療剤に連結される。治療剤及び治療薬及びリンカーの例を含む、ADC技術の概説は、Pharmacol Review 68:3-19(2016)に記載されている。
【0132】
別の態様では、イムノコンジュゲートは、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、(緑膿菌からの)外毒素A鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファ-サルシン、シナアブラギリタンパク質、ジアンチンタンパク質(dianthin protein)、ヨウシュヤマゴボウタンパク質(PAPI、PAPII、及びPAP-S)、ニガウリ阻害剤、クルシン、クロチン、サポンソウ阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)、及びトリコテセン(tricothecenes)を含むがこれらに限定されない酵素的に活性な毒素又はこれらの断片にコンジュゲートしている、本明細書に記載の抗体を含む。
【0133】
別の態様では、イムノコンジュゲートは、放射性原子にコンジュゲートして放射性コンジュゲートを形成する、本発明の抗体を含む。放射性コンジュゲートの生成には、様々な放射性同位体が利用可能である。例には、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212、及びLuの放射性同位体が含まれる。放射性コンジュゲートは、検出用に使用される場合、シンチグラフィ検査のための放射性原子、例えばTc99m若しくはI123、又は核磁気共鳴(NMR)画像法(磁気共鳴画像法、MRIとしても知られる)のためのスピン標識、例えばI23、I131、In111、F19、C13、N15、O17、ガドリニウム、マンガン又は鉄を含み得る。
【0134】
抗体と細胞傷害剤とのコンジュゲートは、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えばジメチルアジピミダートHCl)、活性エステル(例えばジスクシンイミジルスベレート)、アルデヒド(例えばグルタルアルデヒド)、ビスアジド化合物(例えばビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えばビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えばトルエン2,6-ジイソシアネート)、及び二活性フッ素化合物(例えば1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)を使用して作製することができる。例えば、リシンイムノトキシンは、Vitetta et al.,Science 238:1098(1987)に記載されるように調製することができる。炭素14標識1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX-DTPA)は、抗体への放射性ヌクレオチドのコンジュゲーションのための例示的なキレート剤である。国際公開第94/11026号を参照のこと。リンカーは、細胞内での細胞傷害性薬物の放出を促進する「開裂性リンカー」であってもよい。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカー又はジスルフィド含有リンカー(Chari et al.,Cancer Res.52:127-131(1992);米国特許第5208020号)が使用され得る。
【0135】
本明細書における免疫コンジュゲート又はADCは、限定されないが、市販(例:米国イリノイ州ロックフォードのPierce Biotechnology社から)されている、BMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC-SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホ-EMCS、スルホ-GMBS、スルホ-KMUS、スルホ-MBS、スルホ-SIAB、スルホ-SMCC及びスルホ-SMPB、並びにSVSB(スクシンイミジル-(4-ビニルスルホン)ベンゾエート)を含むがこれらに限定されない架橋試薬を用いて調製されたコンジュゲートを明確に意図している。
【0136】
7.多重特異性抗体
本明細書で提供される抗体は、多重特異性抗体、特に二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原決定基(例えば、2つの異なるタンパク質、又は同じタンパク質上の2つの異なるエピトープ)に対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。特定の態様では、多重特異性抗体は3つ以上の結合特異性を有する。本発明によれば、結合特異性のうちの1つはCD3に対するものであり、もう1つはPLAPに対するものである。
【0137】
多重特異性抗体は、完全長抗体又は抗体断片として調製され得る。多重特異性抗体を作製するための手法としては、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え同時発現(Milstein and Cuello,Nature 305:537(1983)を参照)及び「ノブ・イン・ホール」操作(例えば、米国特許第5,731,168号、及びAtwell et al.,J.Mol.Biol.270:26(1997)を参照)が挙げられるが、これらに限定されない。多重特異性抗体はまた、抗体Fc-ヘテロ二量体分子を作製するための静電ステアリング効果の操作(例えば、国際公開第2009/089004号を参照);2種以上の抗体又は断片の架橋(例えば、米国特許第4,676,980号及びBrennan et al.,Science,229:81(1985)を参照);ロイシンジッパーを使用した二重特異性抗体の産生(例えば、Kostelny et al.,J.Immunol.,148(5):1547-1553(1992)及び国際公開第2011/034605号を参照);軽鎖の誤対合問題を回避するための一般的な軽鎖技術の使用(例えば、国際公開第98/50431号を参照);二重特異性抗体断片を作製するための「ダイアボディ」技術の使用(例えば、Hollinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444-6448(1993)を参照)、及び一本鎖Fv(sFv)二量体の使用(例えば、Gruber et al.,J.Immunol.,152:5368(1994)を参照);並びに例えばTutt et al.J.Immunol.147:60(1991)に記載されているような三重特異性抗体の調製によっても作製され得る。
【0138】
例えば、「オクトパス(Octopus)抗体」を含む3つ以上の抗原結合部位を有する操作された抗体、又はDVD-Igも本明細書に含まれる(例えば、国際公開第2001/77342号及び国際公開第2008/024715号を参照)。3つ以上の抗原結合部位を有する多重特異性抗体の他の例は、国際公開第2010/115589号、国際公開第2010/112193号、国際公開第2010/136172号、国際公開第2010/145792号、及び国際公開第2013/026831号に見出すことができる。多重特異性抗体又はその抗原結合断片はまた、CD3及び別の異なる抗原、又はCD3の2つの異なるエピトープに結合する抗原結合部位を含む「二重作用性FAb」又は「DAF」を含む(例えば、米国特許出願公開第2008/0069820号及び国際公開第2015/095539号を参照)。
【0139】
多重特異性抗体は、同じ抗原特異性を有する1つ又は複数の結合アームにドメイン交差を含む非対称形態(いわゆる「クロスマブ(“CrossMab”)」技術)で、すなわちVH/VLドメイン(例えば、国際公開第2009/080252号及び同第2015/150447号参照)、CH1/CLドメイン(例えば、国際公開第2009/080253号参照)又は完全なFabアーム(例えば、国際公開第2009/080251号、同第2016/016299号参照、Schaefer et al,PNAS,108(2011)1187-1191,及びKlein at al.,MAbs 8(2016)1010-20)も参照)を交換することによっても提供され得る。非対称Fabアームは、ドメイン界面に荷電又は非荷電アミノ酸変異を導入して正しいFab対合を誘導することによって操作することもできる。例えば、国際公開第2016/172485号を参照。
【0140】
多重特異性抗体のさらなる様々な分子フォーマットが当技術分野で知られており、本明細書に含まれる(例えば、Spiess et al.,Mol Immunol 67(2015)95-106を参照)。
【0141】
多特異性抗体の特定のタイプは、標的細胞、例えばがん細胞上の表面抗原と、標的細胞を死滅させるためにT細胞を再標的化するための、T細胞受容体(TCR)複合体の活性化不変成分、例えばCD3に同時に結合するように設計された二重特異性抗体である。したがって、本明細書で提供される抗体は、多重特異性抗体、特に、結合特異性の一方がCD3に対するものであり、他方が標的細胞抗原としてのPLAPに対するものである二重特異性抗体である。
【0142】
この目的のために有用であり得る二重特異性抗体フォーマットの例には、2つのscFv分子が柔軟なリンカーによって融合されている、いわゆる「BiTE」(二重特異性T細胞エンゲージャー(engager))分子(例えば、国際公開第2004/106381号、同第2005/061547号、同第2007/042261号及び同第2008/119567号、Nagorsen and Baeuerle,Exp Cell Res 317,1255-1260(2011)参照);ダイアボディ(Holliger et al.,Prot Eng 9,299-305(1996))及びその誘導体、例えばタンデムダイアボディ(「TandAb」;Kipriyanov et al.,J Mol Biol 293,41-56(1999));ダイアボディフォーマットに基づくが、安定化付加のためのC末端ジスルフィド架橋を特徴とする「DART」(二重親和性再標的化)分子(Johnson et al.,J Mol Biol 399,436-449(2010))、並びに全ハイブリッドマウス/ラットIgG分子であるいわゆるトリオマブ(triomab)(Seimetz et al.,Cancer Treat Rev 36,458-467(2010)に概説)が含まれるが、これらに限定されない。本明細書に含まれる、特定のT細胞二重特異性抗体フォーマットは、国際公開第2013/026833号、国際公開第2013/026839号、国際公開第2016/020309号;Bacac et al.,Oncoimmunology 5(8)(2016)e1203498に記載されている。
【0143】
本発明の抗体の好ましい態様を以下に記載する。
【0144】
一態様では、本発明は、本明細書に記載のように、CD3に結合する第1の抗原結合ドメインを含み、PLAPに結合する第2の抗原結合ドメイン、及び任意選択的に第3の抗原結合ドメインを含む、CD3及びPLAPに結合する抗体を提供する。
【0145】
本発明の好ましい態様によれば、抗体に含まれる抗原結合ドメインはFab分子である(すなわち、それぞれが可変ドメイン及び定常ドメインを含む重鎖及び軽鎖から構成される抗原結合ドメインである)。一態様では、第1の抗原結合ドメイン、第2の抗原結合ドメイン、及び/又は、存在する場合、第3の抗原結合ドメインはFab分子である。一態様では、前記Fab分子はヒトのものである。好ましい態様では、前記Fab分子はヒト化されている。さらに別の態様では、前記Fab分子は、ヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインを含む。
【0146】
好ましくは、抗原結合ドメインの少なくとも1つはクロスオーバーFab分子である。そのような修飾は、異なるFab分子の重鎖と軽鎖の誤対合を減少させ、それにより組換え産生における本発明の(多重特異性)抗体の収率及び純度を向上させる。本発明の(多重特異性)抗体に有用な好ましいクロスオーバーFab分子では、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメイン(それぞれVL、VH)が交換されている。しかしながら、このドメイン交換を用いても、(多重特異性)抗体の調製は、誤対合した重鎖と軽鎖の間のいわゆるベンス・ジョーンズ型相互作用により、ある種の副産物を含むことがある(Schaefer et al,PNAS,108(2011)11187-11191を参照)。異なるFab分子の重鎖と軽鎖の誤対合をさらに減少させることにより所望の(多特異性)抗体の純度及び収率を向上させるために、反対の電荷を持つ荷電アミノ酸を、CD3に結合するFab分子、又はPLAPに結合するFab分子(1つ又は複数)のいずれかのCH1ドメイン及びCLドメインの特定のアミノ酸位置に導入することができる。これについては後述する。電荷修飾は、(多重特異性)抗体に含まれる従来のFab分子(1つ又は複数)(例えば
図1A~C、G~Jに示すような)又は多重特異性抗体に含まれるVH/VLクロスオーバーFab分子(1つ又は複数)(例えば
図1D~F、K~Nに示すような)のいずれかにおいて行われる(但し、両方で行われることはない)。好ましい態様では、電荷修飾は、(多重特異性)抗体(好ましい態様ではPLAPに結合する)に含まれる従来のFab分子内で行われる。
【0147】
本発明による好ましい態様では、(多重特異性)抗体は、CD3及びPLAPに同時に結合することができる。一態様では、(多重特異性)抗体は、CD3とPLAPに同時結合することにより、T細胞と標的細胞を架橋することができる。さらにより好ましい態様では、そのような同時結合は、標的細胞、特にPLAP発現標的細胞の溶解をもたらす。一態様では、そのような同時結合は、T細胞の活性化を引き起こす。他の態様では、そのような同時結合は、増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子の放出、細胞傷害活性、及び活性化マーカーの発現の群から選択されるTリンパ球、特に細胞傷害性Tリンパ球の細胞応答をもたらす。一態様では、PLAPへの同時結合を伴わない(多重特異性)抗体のCD3への結合は、T細胞活性化をもたらさない。
【0148】
一態様では、(多重特異性)抗体は、T細胞の細胞傷害活性を標的細胞に再指向することができる。好ましい態様では、前記再指向は、標的細胞によるMHC媒介性ペプチド抗原提示及び/又はT細胞の特異性とは無関係である。
【0149】
好ましくは、本発明の態様のいずれかによるT細胞は細胞傷害性T細胞である。いくつかの態様では、T細胞は、CD4+又はCD8+ T細胞、特にCD8+ T細胞である。
【0150】
a)第1の抗原結合ドメイン
本発明の(多重特異性)抗体は、CD3に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメイン(第1の抗原結合ドメイン)を含む。好ましい態様では、CD3はヒトCD3(配列番号63)又はカニクイザルCD3(配列番号64)、最も具体的にはヒトCD3である。一態様では、第1の抗原結合ドメインは、ヒト及びカニクイザルCD3に対して交差反応性である(すなわち、特異的に結合する)。いくつかの態様では、CD3は、CD3のイプシロンサブユニット(CD3イプシロン)である。
【0151】
好ましい態様では、(多重特異性)抗体は、CD3に結合する1つを超えない抗原結合ドメインを含む。一態様では、(多重特異性)抗体は、CD3への一価の結合を提供する。
【0152】
一態様では、CD3に結合する抗原結合ドメインは、Fv分子、scFv分子、Fab分子、及びF(ab’)2分子の群から選択される抗体断片である。好ましい態様では、CD3に結合する抗原結合ドメインはFab分子である。
【0153】
好ましい態様では、CD3に結合する抗原結合ドメインは、本明細書に記載されるクロスオーバーFab分子、すなわち、Fab重鎖及びFab軽鎖の、可変ドメインVHとVL、又は定常ドメインCH1とCLが交換されている/互いに置き換えられているFab分子である。そのような態様では、PLAPに結合する抗原結合ドメインは、好ましくは従来のFab分子である。多重特異性抗体に含まれる、PLAPに結合する1つより多い抗原結合ドメイン、特にFab分子が存在する態様では、CD3に結合する抗原結合ドメインは、好ましくはクロスオーバーFab分子であり、PLAPに結合する抗原結合ドメインは従来のFab分子である。
【0154】
代替的な態様では、CD3に結合する抗原結合ドメインは、従来のFab分子である。そのような態様では、PLAPに結合する抗原結合ドメイン(1つ又は複数)は、本明細書に記載されるクロスオーバーFab分子、すなわち、Fab重鎖及びFab軽鎖の、可変ドメインVHとVL、又は定常ドメインCH1とCLが交換されている/互いに置き換えられているFab分子である。(多重特異性)抗体に含まれる、CD3に結合する1つより多い抗原結合ドメイン、特にFab分子が存在する態様では、PLAPに結合する抗原結合ドメインは、好ましくはクロスオーバーFab分子であり、CD3に結合する抗原結合ドメインは従来のFab分子である。
【0155】
好ましい態様では、第1の抗原結合ドメインは、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインVLとVH又は定常ドメインCLとCH1、特に可変ドメインVLとVHが互いに置き換えられているFab分子である(すなわち、そのような態様によると、第1の抗原結合ドメインは、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメイン又は定常ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子である)。そのような態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインは、従来のFab分子である。
【0156】
一態様では、CD3に結合する1つを超えない抗原結合ドメインは、(多重特異性)抗体に存在する(すなわち、この抗体はCD3に対する一価の結合を提供する)。
【0157】
b)第2の(及び第3の)抗原結合ドメイン
本発明の(多重特異性)抗体は、PLAPに結合する少なくとも1つの抗原結合ドメイン(第2の抗原結合ドメイン、及び任意選択的に第3の抗原結合ドメイン)、特にFab分子を含む。第2の抗原結合ドメインは、(多重特異性)抗体を標的部位、例えばPLAPを発現する特定のタイプの腫瘍細胞に指向させることができる。
【0158】
一態様では、PLAPに結合する抗原結合ドメインは、Fv分子、scFv分子、Fab分子、及びF(ab’)2分子の群から選択される抗体断片である。好ましい態様では、PLAPに結合する抗原結合ドメインはFab分子である。
【0159】
特定の態様では、(多重特異性)抗体は、PLAPに結合する2つの抗原結合ドメイン、特にFab分子を含む。好ましい態様では、これらの抗原結合ドメインは全て同一であり、すなわち、同じ分子フォーマット(例えば、従来の又はクロスオーバーFab分子)を有し、且つ、(存在する場合)本明細書に記載されるCH1及びCLドメインに同じアミノ酸置換を含む同じアミノ酸配列を含む。一態様では、(多重特異性)抗体は、PLAPに結合する2つを超えない抗原結合ドメイン、特にFab分子を含む。
【0160】
好ましい態様では、PLAPに結合する抗原結合ドメイン(1つ又は複数)は、従来のFab分子である。そのような態様では、CD3に結合する抗原結合ドメイン(1つ又は複数)は、本明細書に記載されるクロスオーバーFab分子、すなわち、Fab重鎖及びFab軽鎖の、可変ドメインVHとVL、又は定常ドメインCH1とCLが交換されている/互いに置き換えられているFab分子である。
【0161】
代替的な態様では、PLAPに結合する抗原結合ドメイン(1つ又は複数)は、本明細書に記載されるクロスオーバーFab分子、すなわち、Fab重鎖及びFab軽鎖の、可変ドメインVHとVL、又は定常ドメインCH1とCLが交換されている/互いに置き換えられているFab分子である。そのような態様では、CD3に結合する抗原結合ドメイン(1つ又は複数)は、従来のFab分子である。
【0162】
一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインは、ヒト定常領域を含む。一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインは、ヒト定常領域、特にヒトCH1及び/又はCLドメインを含むFab分子である。ヒト定常ドメインの例示的な配列は、配列番号70及び71(それぞれ、ヒトカッパ及びラムダCLドメイン)、並びに配列番号72(ヒトIgG1重鎖定常ドメインCH1-CH2-CH3)で与えられる。一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインは、配列番号70又は配列番号71のアミノ酸配列、特に配列番号70のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域を含む。特に、軽鎖定常領域は、本明細書で「電荷修飾」の下に記載されるアミノ酸変異を含んでもよく、且つ/又はクロスオーバーFab分子の場合、1つ又は複数(特に2つ)のN末端アミノ酸の欠失又は置換を含んでもよい。いくつかの態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインは、配列番号72のアミノ酸配列に含まれるCH1ドメイン配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖定常領域を含む。特に、重鎖定常領域(具体的にはCH1ドメイン)は、本明細書の「電荷修飾」の下に記載されるアミノ酸変異を含み得る。
【0163】
一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインは、(i)配列番号28の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号30のHCDR3、(ii)配列番号32のHCDR1、配列番号33のHCDR2、及び配列番号34のHCDR3、(iii)配列番号36のHCDR1、配列番号37のHCDR2、及び配列番号38のHCDR3、(iv)配列番号40のHCDR1、配列番号41のHCDR2、及び配列番号42のHCDR3、又は(v)配列番号44のHCDR1、配列番号45のHCDR2、及び配列番号46のHCDR3を含むVH、並びに配列番号48の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号49のLCDR2、及び配列番号50のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0164】
一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインは、ヒト化抗体(由来)である。一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインは、ヒト化抗原結合ドメイン(すなわち、ヒト化抗体の抗原結合ドメイン)である。一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVH及び/又はVLは、ヒト化可変領域である。
【0165】
一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVH及び/又はVLは、アクセプターヒトフレームワーク、例えばヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークを含む。
【0166】
一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVHは、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43、又は配列番号47のうちの1つ又は複数の重鎖フレームワーク配列(すなわち、FR1、FR2、FR3及び/又はFR4配列)を含む。一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVHは、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43、又は配列番号47のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む。一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVHは、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43、又は配列番号47のアミノ酸配列と少なくとも約95%同一であるアミノ酸配列を含む。一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVHは、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43、又は配列番号47のアミノ酸配列と少なくとも約98パーセント同一であるアミノ酸配列を含む。特定の態様では、少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するVH配列は、参照配列と比較して置換(例えば、保存的置換)、挿入、又は欠失を含むが、その配列を含む抗体はPLAPに結合する能力を保持する。特定の態様では、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43又は配列番号47のアミノ酸配列において、合計1から10個のアミノ酸が置換、挿入及び/又は欠失されている。特定の態様では、置換、挿入、又は欠失は、CDRの外側の領域(すなわち、FR)で起こる。一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVHは、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43、又は配列番号47のアミノ酸配列を含む。任意選択的に、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVHは、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43、又は配列番号47のアミノ酸配列を、その配列の翻訳後修飾も含め、含む。
【0167】
一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVLは、配列番号51の1つ又は複数の軽鎖フレームワーク配列(すなわち、FR1、FR2、FR3及び/又はFR4配列)を含む。一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVLは、配列番号51のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む。一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVLは、配列番号51のアミノ酸配列と少なくとも約95%同一であるアミノ酸配列を含む。一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVLは、配列番号51のアミノ酸配列と少なくとも約98パーセント同一であるアミノ酸配列を含む。特定の態様では、少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するVL配列は、参照配列と比較して置換(例えば、保存的置換)、挿入、又は欠失を含むが、その配列を含む抗体はPLAPに結合する能力を保持する。特定の態様では、配列番号51のアミノ酸配列において、合計1~10個のアミノ酸が置換、挿入及び/又は欠失されている。特定の態様では、置換、挿入、又は欠失は、CDRの外側の領域(すなわち、FR)で起こる。一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVLは、配列番号51のアミノ酸配列を含む。任意選択的に、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVLは、その配列の翻訳後修飾を含む、配列番号51のアミノ酸配列を含む。
【0168】
一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVHは、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43又は配列番号47のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含み、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVLは、配列番号51のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む。一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVHは、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43又は配列番号47のアミノ酸配列を含み、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVLは、配列番号51のアミノ酸配列を含む。
【0169】
さらなる態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインは、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43又は配列番号47の配列を含むVHと、配列番号51の配列を含むVLとを含む。
【0170】
さらなる態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインは、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43又は配列番号47のVH配列と、配列番号51のVL配列とを含む。
【0171】
別の態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインは、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43又は配列番号47のVHの重鎖CDR配列を含むVHと、配列番号51のVLの軽鎖CDR配列を含むVLとを含む。
【0172】
さらなる態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインは、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43又は配列番号47のVHのHCDR1、HCDR2及びHCDR3アミノ酸配列と、配列番号51のVLのLCDR1、LCDR2及びLCDR3アミノ酸配列とを含む。
【0173】
一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVHは、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43又は配列番号47のVHの重鎖CDR配列と、それぞれ、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43又は配列番号47のVHのフレームワーク配列に対して少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性のフレームワークとを含む。一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVHは、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43又は配列番号47のVHの重鎖CDR配列と、それぞれ、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43又は配列番号47のVHのフレームワーク配列に対して少なくとも95%の配列同一性のフレームワークとを含む。別の態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVHは、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43又は配列番号47のVHの重鎖CDR配列と、それぞれ、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43又は配列番号47のVHのフレームワーク配列に対して少なくとも98%の配列同一性を有するフレームワークとを含む。
【0174】
一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVLは、配列番号51のVLの軽鎖CDR配列と、配列番号51のVLのフレームワーク配列に対して少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性のフレームワークとを含む。一態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVLは、配列番号51のVLの軽鎖CDR配列と、配列番号51のVLのフレームワーク配列に対して少なくとも95%の配列同一性のフレームワークとを含む。別の態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインのVLは、配列番号51のVLの軽鎖CDR配列と、配列番号51のVLのフレームワーク配列に対して少なくとも98%の配列同一性のフレームワークとを含む。
【0175】
c)電荷修飾
本発明の(多重特異性)抗体は、それに含まれるFab分子に、1つ(又は、2つより多い抗原結合Fab分子を含む分子の場合には、複数)の結合アームにVH/VL交換を有するFabベースの多重特異性抗体の製造の際に生じ得る、軽鎖と一致しない重鎖との誤対合(ベンス・ジョーンズ型の副産物)を減らすのに特に有効なアミノ酸置換を含み得る(参照により全体が本明細書に援用される国際公開第2015/150447号、特にその中の実施例も参照されたい)。望ましくない副産物、特に、1つの結合アームにVH/VLドメイン交換を有する多重特異性抗体に生じるベンス・ジョーンズ型の副産物に対する望ましい(多重特異性)抗体の比率は、CH1ドメイン及びCLドメインの特定のアミノ酸位置に反対の電荷を持つ荷電アミノ酸を導入することによって改善することができる(本明細書で「電荷修飾」と呼ぶことがある)。
【0176】
したがって、(多重特異性)抗体の第1及び第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインがいずれもFab分子であり、抗原結合ドメインのうちの1つ(特に第1の抗原結合ドメイン)において、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いに置き換えられるいくつかの態様では、
i)第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸は、正に帯電したアミノ酸で置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸若しくは213位のアミノ酸は、負に帯電したアミノ酸で置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け);又は
ii)第1の抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸は、正に帯電したアミノ酸で置換されており(Kabatによる番号付け)、第1の抗原結合ドメインの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸又は213位のアミノ酸は、負に帯電したアミノ酸で置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0177】
(多重特異性)抗体は、i)及びii)に記述されている修飾を両方とも含むことはない。VH/VL交換を有する抗原結合ドメインの定常ドメインCL及びCH1は、互いによって置き換えられていない(すなわち交換されていない)。
【0178】
より具体的な態様では、
i)第2の(存在する場合、第3の)抗原結合ドメインの定数ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸は、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって独立して置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインの定数ドメインCH1において、147位のアミノ酸又は213位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって独立して置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け);又は
ii)第1の抗原結合ドメインの定数ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸は、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって独立して置換されており(Kabatによる番号付け)、第1の抗原結合ドメインの定数ドメインCH1において、147位のアミノ酸又は213位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって独立して置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0179】
そのような態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸は、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって独立して置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸又は213位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって独立して置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0180】
さらなる態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸は、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって独立に置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって独立して置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0181】
好ましい態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸は、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって独立して置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸は、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって独立して置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって独立して置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって独立して置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0182】
より好ましい態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸は、リジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸は、リジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)によって置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0183】
さらにより好ましい態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸は、リジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸は、アルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)によって置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0184】
好ましい態様では、上記の態様によるアミノ酸置換が、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインの定常ドメインCL及び定常ドメインCH1に行われる場合、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインの定常ドメインCLは、カッパアイソタイプのものである。
【0185】
代替的に、上記の態様によるアミノ酸置換は、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインの定常ドメインCL及び定常ドメインCH1の代わりに、第1の抗原結合ドメインの定常ドメインCL及び定常ドメインCH1で行われてもよい。好ましいそのような態様では、第1の抗原結合ドメインの定常ドメインCLはカッパアイソタイプのものである。
【0186】
したがって、一態様では、第1の抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸は、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって独立して置換されており(Kabatによる番号付け)、第1の抗原結合ドメインの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸又は213位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって独立して置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0187】
さらなる態様では、第1の抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸は、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって独立して置換されており(Kabatによる番号付け)、第1の抗原結合ドメインの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって独立して置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0188】
さらに別の態様では、第1の抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸は、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって独立して置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸は、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって独立して置換されており(Kabatによる番号付け)、第1の抗原結合ドメインの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって独立して置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって独立して置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0189】
一態様では、第1の抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸は、リジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸は、リジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、第1の抗原結合ドメインの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)によって置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0190】
別の態様では、第1の抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸は、リジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸は、アルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、第1の抗原結合ドメインの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)によって置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0191】
好ましい態様では、本発明の(多重特異性)抗体は、
(a)CD3に結合する第1の抗原結合ドメインであって、該第1の抗原結合ドメインは、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインVL及びVHが互いに置き換えられているFab分子であり、配列番号2の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号3のHCDR2及び配列番号6のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、並びに配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2及び配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、第1の抗原結合ドメインと、
(b)PLAPに結合する第2の抗原結合ドメイン、及び任意選択的に第3の抗原結合ドメインであって、
第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸が、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって独立して置換されており(Kabatによる番号付け)(好ましい態様では、独立して、リジン(K)又はアルギニン(R)によって)、123位のアミノ酸が、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって独立して置換されており(Kabatによる番号付け)(好ましい態様では、独立して、リジン(K)又はアルギニン(R)によって)、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメインの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸が、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって独立して置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸が、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって独立して置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)、PLAPに結合する第2の抗原結合ドメイン、及び任意選択的に第3の抗原結合ドメインと、を含む。
【0192】
d)多重特異性抗体フォーマット
本発明による(多重特異性)抗体は、様々な構造を有することができる。例示的な構造を
図1に示す。
【0193】
好ましい態様では、(多重特異性)抗体に含まれる抗原結合ドメインはFab分子である。そのような態様では、第1、第2、第3などの抗原結合ドメインは、本明細書ではそれぞれ第1、第2、第3などのFab分子と呼ぶことができる。
【0194】
一態様では、(多重特異性)抗体の第1及び第2の抗原結合ドメインは、任意選択的にペプチドリンカーを介して互いに融合されている。好ましい態様では、第1及び第2の抗原結合ドメインはそれぞれFab分子である。そのような態様では、第1の抗原結合ドメインは、Fab重鎖のC末端において第2の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合されている。別のそのような態様では、第2の抗原結合ドメインは、Fab重鎖のC末端において第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合されている。(i)第1の抗原結合ドメインがFab重鎖のC末端で第2の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合されているか、又は(ii)第2の抗原結合ドメインがFab重鎖のC末端で第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合されている態様では、追加的に、第1の抗原結合ドメインのFab軽鎖及び第2の抗原結合ドメインのFab軽鎖は、任意選択的にペプチドリンカーを介して、互いに融合され得る。
【0195】
第2の抗原、例えば、標的細胞抗原、例えばPLAPに特異的に結合することができる単一の抗原結合ドメイン(例えば、Fab分子)を有する(多重特異性)抗体(例えば、
図1A、D、G、H、K、Lに示されている)は、高親和性抗原結合ドメインの結合後に第2の抗原の内部移行が予測される場合に有用である。そのような場合、第2の抗原に特異的な1つより多い抗原結合ドメインの存在は、第2の抗原の内部移行を促進し、それによってその利用可能性を低下させ得る。
【0196】
しかし他の場合には、例えば標的部位への標的化を最適化するため又は標的細胞抗原の架橋を可能にするために、第2の抗原、例えばPLAPなどの標的細胞抗原に特異的な2つ以上の抗原結合ドメイン(Fab分子など)を含む(多重特異性)抗体(例えば
図1B、1C、1E、1F、1I、1J,1M又は1Nに示されているものを参照されたい)を有することが有利であろう。
【0197】
したがって、好ましい態様では、本発明による(多重特異性)抗体は、第3の抗原結合ドメインを含む。
【0198】
一態様では、第3の抗原結合ドメインは、PLAPに結合する。一態様では、第3の抗原結合ドメインは、Fab分子である。
【0199】
一態様では、第3の抗原ドメインは第2の抗原結合ドメインと同一である。
【0200】
いくつかの態様では、第3及び第2の抗原結合ドメインはそれぞれFab分子であり、第3の抗原結合ドメインは、第2の抗原結合ドメインと同一である。したがって、これらの態様では、第2及び第3の抗原結合ドメインは、同じ重鎖及び軽鎖アミノ酸配列を含み、同じドメイン配置(すなわち、従来型又はクロスオーバー)を有する。さらに、これらの態様では、第3の抗原結合ドメインは、もしあれば、第2の抗原結合ドメインと同じアミノ酸置換を含む。例えば、本明細書において「電荷修飾」と記載されるアミノ酸置換は、第2の抗原結合ドメイン及び第3の抗原結合ドメインのそれぞれの定常ドメインCL及び定常ドメインCH1において行われる。あるいは、前記アミノ酸置換は、第1の抗原結合ドメイン(好ましい態様ではこれもFab分子である)の定常ドメインCL及び定常ドメインCH1において行われ得るが、第2の抗原結合ドメイン及び第3の抗原結合ドメインの定常ドメインCL及び定常ドメインCH1では行われない。
【0201】
第2の抗原結合ドメインと同様に、第3の抗原結合ドメインは、好ましくは従来のFab分子である。しかし、第2及び第3の抗原結合ドメインがクロスオーバーFab分子である(且つ第1の抗原結合ドメインが従来のFab分子である)態様も企図されている。ゆえに、好ましい態様では、第2及び第3の抗原結合ドメインはそれぞれ従来のFab分子であり、第1の抗原結合ドメインは、本明細書に記載のクロスオーバーFab分子、すなわち、Fab重鎖及び軽鎖の、可変ドメインVHとVL又は定常ドメインCLとCH1が交換されている/互いに置き換えられているFab分子である。他の態様では、第2及び第3の抗原結合ドメインはそれぞれクロスオーバーFab分子であり、第1の抗原結合ドメインは従来のFab分子である。
【0202】
第3の抗原結合ドメインが存在する場合、好ましい態様では、第1の抗原結合ドメインはCD3に結合し、第2及び第3の抗原結合ドメインは、PLAPに結合する。
【0203】
好ましい態様では、本発明の(多重特異性)抗体は、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインを含む。Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットは、安定した会合が可能である。
【0204】
本発明による(多重特異性)抗体は、異なる構造を有することができ、すなわち、第1の、第2の(及び任意選択的に第3の)抗原結合ドメインは、異なる方法で互いに、及びFcドメインに融合され得る。構成要素は、直接、又は好ましくは1つ若しくは複数の適切なペプチドリンカーを介して互いに融合され得る。Fab分子の融合が、FcドメインのサブユニットのN末端へのものである場合、それは典型的には免疫グロブリンヒンジ領域を介するものである。
【0205】
いくつかの態様では、第1及び第2の抗原結合ドメインはそれぞれFab分子であり、第1の抗原結合ドメインは、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合されている。そのような態様では、第2の抗原結合ドメインは、Fab重鎖のC末端で第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合され得るか、又はFcドメインのもう一方のサブユニットのN末端に融合され得る。好ましいそのような態様では、第2の抗原結合ドメインは従来のFab分子であり、第1の抗原結合ドメインは本明細書に記載のクロスオーバーFab分子、すなわち、Fab重鎖及び軽鎖の、可変ドメインVHとVL又は定常ドメインCLとCH1が交換されている/互いに置き換えられているFab分子である。他のそのような態様では、第2の抗原結合ドメインはクロスオーバーFab分子であり、第1の抗原結合ドメインは従来のFab分子である。
【0206】
一態様では、第1及び第2の抗原結合ドメインはそれぞれFab分子であり、第1の抗原結合ドメインはFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合され、第2の抗原結合ドメインはFab重鎖のC末端において第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合されている。具体的な態様では、(多重特異性)抗体は、第1及び第2のFab分子と、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意選択的に1つ又は複数のペプチドリンカーとから本質的になり、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第1のFab分子のFab重鎖のN末端に融合され、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合されている。そのような構造は、
図1G及び1Kに模式的に示されている(これらの例における第1の抗原結合ドメインはVH/VLクロスオーバーFab分子である)。任意選択的に、第1のFab分子のFab軽鎖及び第2のFab分子のFab軽鎖は、さらに互いに融合され得る。
【0207】
別の態様では、第1及び第2の抗原結合ドメインはそれぞれFab分子であり、第1及び第2の抗原結合ドメインはそれぞれFab重鎖のC末端でFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合されている。具体的な態様では、(多重特異性)抗体は、第1及び第2のFab分子と、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意選択的に1つ又は複数のペプチドリンカーとから本質的になり、第1及び第2のFab分子はそれぞれFab重鎖のC末端でFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合されている。そのような構造は、
図1A及び1Dに模式的に示されている(これらの例において、第1の抗原結合ドメインはVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第2の抗原結合ドメインは従来のFab分子である)。第1及び第2のFab分子は、直接又はペプチドリンカーを介してFcドメインに融合され得る。好ましい態様では、第1及び第2のFab分子はそれぞれ免疫グロブリンヒンジ領域を介してFcドメインに融合されている。特定の態様では、免疫グロブリンヒンジ領域は、特にFcドメインがIgG
1Fcドメインである場合、ヒトIgG
1ヒンジ領域である。
【0208】
いくつかの態様では、第1及び第2の抗原結合ドメインはそれぞれFab分子であり、第2の抗原結合ドメインは、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合されている。そのような態様では、第1の抗原結合ドメインは、Fab重鎖のC末端で第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合され得るか、又は(上に記載したように)Fcドメインのもう一方のサブユニットのN末端に融合され得る。好ましいそのような態様では、前記第2の抗原結合ドメインは従来のFab分子であり、第1の抗原結合ドメインは本明細書に記載のクロスオーバーFab分子、すなわち、Fab重鎖及び軽鎖の、可変ドメインVHとVL又は定常ドメインCLとCH1が交換されている/互いに置き換えられているFab分子である。他のそのような態様では、前記第2の抗原結合ドメインはクロスオーバーFab分子であり、第1の抗原結合ドメインは従来のFab分子である。
【0209】
一態様では、第1及び第2の抗原結合ドメインはそれぞれFab分子であり、第2の抗原結合ドメインはFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合され、第1の抗原結合ドメインはFab重鎖のC末端において第2の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合されている。具体的な態様では、(多重特異性)抗体は、第1及び第2のFab分子と、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意選択的に1つ又は複数のペプチドリンカーとから本質的になり、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合され、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合されている。そのような構造は、
図1H及び1Lに模式的に示されている(これらの例において、第1の抗原結合ドメインはVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第2の抗原結合ドメインは従来のFab分子である)。任意選択的に、第1のFab分子のFab軽鎖及び第2のFab分子のFab軽鎖は、さらに互いに融合され得る。
【0210】
いくつかの態様では、第3の抗原結合ドメイン、特に第3のFab分子は、Fab重鎖のC末端において、Fcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合されている。好ましいそのような態様では、前記第2及び第3の抗原結合ドメインはそれぞれ従来のFab分子であり、第1の抗原結合ドメインは本明細書に記載のクロスオーバーFab分子、すなわち、Fab重鎖及び軽鎖の、可変ドメインVHとVL又は定常ドメインCLとCH1が交換されている/互いに置き換えられているFab分子である。他のそのような態様では、前記第2及び第3の抗原結合ドメインはそれぞれクロスオーバーFab分子であり、第1の抗原結合ドメインは従来のFab分子である。
【0211】
好ましいそのような態様では、第1及び第3の抗原結合ドメインはそれぞれFab重鎖のC末端でFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合され、第2の抗原結合ドメインは、Fab重鎖のC末端で第1のFab分子のFab重鎖のN末端に融合されている。具体的な態様では、(多重特異性)抗体は、第1のFab分子、第2のFab分子、及び第3のFab分子と、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意選択的に1つ又は複数のペプチドリンカーとから本質的になり、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第1のFab分子のFab重鎖のN末端に融合され、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合され、第3のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合されている。そのような構造は、
図1B及び1E(これらの例において、第1の抗原結合ドメインはVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第2及び第3の抗原結合ドメインは従来のFab分子である)並びに
図1J及び1N(これらの例において、第1の抗原結合ドメインは従来のFab分子であり、第2及び第3の抗原結合ドメインはVH/VLクロスオーバーFab分子である)に模式的に示されている。第1及び第3のFab分子は、直接又はペプチドリンカーを介してFcドメインに融合され得る。好ましい態様では、第1及び第3のFab分子はそれぞれ、免疫グロブリンヒンジ領域を介してFcドメインに融合されている。特定の態様では、免疫グロブリンヒンジ領域は、特にFcドメインがIgG
1Fcドメインである場合、ヒトIgG
1ヒンジ領域である。任意選択的に、第1のFab分子のFab軽鎖及び第2のFab分子のFab軽鎖は、さらに互いに融合され得る。
【0212】
別のそのような態様では、第2及び第3の抗原結合ドメインはそれぞれFab重鎖のC末端でFcドメインの一方のサブユニットのN末端に融合され、第1の抗原結合ドメインは、Fab重鎖のC末端で第2の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合されている。具体的な態様では、(多重特異性)抗体は、第1のFab分子、第2のFab分子、及び第3のFab分子と、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意選択的に1つ又は複数のペプチドリンカーとから本質的になり、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合され、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合され、第3のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合されている。そのような構造は、
図1C及び1F(これらの例において、第1の抗原結合ドメインはVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第2及び第3の抗原結合ドメインは従来のFab分子である)並びに
図1I及び1M(これらの例において、第1の抗原結合ドメインは従来のFab分子であり、第2及び第3の抗原結合ドメインはVH/VLクロスオーバーFab分子である)に模式的に示されている。第2及び第3のFab分子は、直接又はペプチドリンカーを介してFcドメインに融合され得る。好ましい態様では、第2及び第3のFab分子はそれぞれ、免疫グロブリンヒンジ領域を介してFcドメインに融合されている。特定の態様では、免疫グロブリンヒンジ領域は、特にFcドメインがIgG
1Fcドメインである場合、ヒトIgG
1ヒンジ領域である。任意選択的に、第1のFab分子のFab軽鎖及び第2のFab分子のFab軽鎖は、さらに互いに融合され得る。
【0213】
Fab分子がFab重鎖のC末端で免疫グロブリンヒンジ領域を介してFcドメインの各サブユニットのN末端に融合されている(多重特異性)抗体の構造では、2つのFab分子、ヒンジ領域及びFcドメインは本質的に免疫グロブリン分子を形成する。好ましい態様では、免疫グロブリン分子は、IgGクラスの免疫グロブリンである。さらにより好ましい態様では、免疫グロブリンは、IgG1サブクラスの免疫グロブリンである。別の態様では、免疫グロブリンは、IgG4サブクラスの免疫グロブリンである。さらに好ましい態様では、免疫グロブリンは、ヒト免疫グロブリンである。他の態様では、免疫グロブリンは、キメラ免疫グロブリン又はヒト化免疫グロブリンである。一態様では、免疫グロブリンは、ヒト定常領域、特にヒトFc領域を含む。
【0214】
本発明の(多重特異性)抗体のいくつかにおいて、第1のFab分子のFab軽鎖と第2のFab分子のFab軽鎖は互いに融合され、任意選択的にペプチドリンカーを介して融合されている。第1及び第2のFab分子の構造に応じて、第1のFab分子のFab軽鎖は、そのC末端で第2のFab分子のFab軽鎖のN末端に融合され得るか、又は第2のFab分子のFab軽鎖は、そのC末端で第1のFab分子のFab軽鎖のN末端に融合され得る。第1及び第2のFab分子のFab軽鎖の融合は、一致しないFab重鎖及び軽鎖の誤対合をさらに減らし、また、本発明の(多重特異性)抗体のいくつかの発現に必要なプラスミドの数を減少させる。
【0215】
抗原結合ドメインは、Fcドメインに又は互いに、直接的に又は1個又は複数個のアミノ酸、典型的には約2~20個のアミノ酸を含むペプチドリンカーを介して融合していてもよい。ペプチドリンカーは当技術分野において公知であり、本明細書に記載される。適切な非免疫原性ペプチドリンカーには、例えば、(G4S)n、(SG4)n、(G4S)n、G4(SG4)n又は(G4S)nG5ペプチドリンカーが含まれる。「n」は通常1から10、典型的には2から4の整数である。一態様では、前記ペプチドリンカーは、少なくとも5個のアミノ酸長、一態様では5~100個のアミノ酸長、さらなる態様では10~50個のアミノ酸長を有する。一態様では、前記ペプチドリンカーは、(GxS)n又は(GxS)nGmであり、ここでG=グリシン、S=セリン、且つ(x=3、n=3、4、5又は6、m=0、1、2又は3)又は(x=4、n=1、2、3、4又は5、m=0、1、2、3、4又は5)であり、一態様では、x=4且つn=2、又は3であり、さらなる態様では、x=4、n=1、且つm=5である。一態様では、前記ペプチドリンカーは(G4S)2である。別の態様では、前記ペプチドリンカーはG4SG5である。第1及び第2のFab分子のFab軽鎖を互いに融合させるのに特に適したペプチドリンカーは、(G4S)2である。第1及び第2のFab断片のFab重鎖を連結するのに適した例示的なペプチドリンカーは、配列(D)-(G4S)2(配列番号66及び67)を含む。別の適切な当該リンカーは、配列(D)-G4SG5(配列番号68及び69)を含む。特定の態様では、リンカーは配列番号67の配列を含む。さらに、リンカーは、免疫グロブリンヒンジ領域(の一部)を含み得る。特にFab分子がFcドメインサブユニットのN末端に融合している場合、追加のペプチドリンカーの有無にかかわらず、免疫グロブリンヒンジ領域又はその一部を介して融合され得る。
【0216】
特定の態様では、本発明の(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第1のFab分子は、重鎖可変領域が軽鎖可変領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VL(1)-CH1(1)-CH2-CH3(-CH4))と、第2のFab分子のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(2)-CH1(2)-CH2-CH3(-CH4))とを含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VH(1)-CL(1))と、第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))とをさらに含む。特定の態様では、これらのポリペプチドは、例えばジスルフィド結合によって、共有結合的に連結している。
【0217】
特定の態様では、本発明の(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第1のFab分子は、重鎖定常領域が軽鎖定常領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(1)-CL(1)-CH2-CH3(-CH4))と、第2のFab分子のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(2)-CH1(2)-CH2-CH3(-CH4))とを含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(1)-CH1(1))と、第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))とをさらに含む。特定の態様では、これらのポリペプチドは、例えばジスルフィド結合によって、共有結合的に連結している。
【0218】
いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第1のFab分子は、重鎖可変領域が軽鎖可変領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VL(1)-CH1(1)-VH(2)-CH1(2)-CH2-CH3(-CH4))を含む。他の態様では、(多重特異性)抗体は、第2のFab分子のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖可変領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第1のFab分子は、重鎖可変領域が軽鎖可変領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(2)-CH1(2)-VL(1)-CH1(1)-CH2-CH3(-CH4))を含む。これらの態様のいくつかにおいて、(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有する第1のFab分子のクロスオーバーFab軽鎖ポリペプチド(VH(1)-CL(1))と、第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))とをさらに含む。これらの態様の他の態様では、(多重特異性)抗体は、必要に応じて、第1のFab分子のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチドと共有するポリペプチド(VH(1)-CL(1)-VL(2)-CL(2))、又は第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチドがカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖可変領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(2)-CL(2)-VH(1)-CL(1))をさらに含む。これらの態様による(多重特異性)抗体は、(i)Fcドメインサブユニットポリペプチド(CH2-CH3(-CH4))、又は(ii)第3のFab分子のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(3)-CH1(3)-CH2-CH3(-CH4))及び第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))をさらに含むことができる。特定の態様では、これらのポリペプチドは、例えばジスルフィド結合によって、共有結合的に連結している。
【0219】
いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第1のFab分子は、重鎖定常領域が軽鎖定常領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(1)-CL(1)-VH(2)-CH1(2)-CH2-CH3(-CH4))を含む。他の態様では、(多重特異性)抗体は、第2のFab分子のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖可変領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第1のFab分子は、重鎖定常領域が軽鎖定常領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(2)-CH1(2)-VH(1)-CL(1)-CH2-CH3(-CH4))を含む。これらの態様のいくつかにおいて、(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有する第1のFab分子のクロスオーバーFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CH1(1))と、第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))とをさらに含む。その他のこれらの態様では、(多重特異性)抗体は、必要に応じて、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチドと共有するポリペプチド(VL(1)-CH1(1)-VL(2)-CL(2))、又は第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチドがカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖可変領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(2)-CL(2)-VH(1)-CL(1))をさらに含む。これらの態様による(多重特異性)抗体は、(i)Fcドメインサブユニットポリペプチド(CH2-CH3(-CH4))、又は(ii)第3のFab分子のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(3)-CH1(3)-CH2-CH3(-CH4))及び第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))をさらに含むことができる。特定の態様では、これらのポリペプチドは、例えばジスルフィド結合によって、共有結合的に連結している。
【0220】
特定の態様では、(多重特異性)抗体はFcドメインを含まない。好ましいそのような態様では、前記第2及び、存在する場合、第3の抗原結合ドメインはそれぞれ従来のFab分子であり、第1の抗原結合ドメインは本明細書に記載のクロスオーバーFab分子、すなわち、Fab重鎖及び軽鎖の、可変ドメインVHとVL又は定常ドメインCLとCH1が交換されている/互いに置き換えられているFab分子である。他のそのような態様では、前記第2及び、存在する場合、第3の抗原結合ドメインはそれぞれクロスオーバーFab分子であり、第1の抗原結合ドメインは従来のFab分子である。
【0221】
そのような態様では、(多重特異性)抗体は、第1及び第2の抗原結合ドメイン、並びに任意選択で1つ又は複数のペプチドリンカーから本質的になり、第1及び第2の抗原結合ドメインは、両方ともFab分子であり、第2の抗原結合ドメインは、Fab重鎖のC末端で第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合されている。そのような構造は、
図1O及び1Sに模式的に示されている(これらの例では、第1の抗原結合ドメインはVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第2の抗原結合ドメインは従来のFab分子である)。
【0222】
別のそのような態様では、(多重特異性)抗体は、第1及び第2の抗原結合ドメイン並びに任意選択で1つ又は複数のペプチドリンカーから本質的になり、第1及び第2の抗原結合ドメインは両方ともFab分子であり、第1の抗原結合ドメインは、Fab重鎖のC末端で第2の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合されている。そのような構造は、
図1P及び1Tに模式的に示されている(これらの例では、第1の抗原結合ドメインはVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第2の抗原結合ドメインは従来のFab分子である)。
【0223】
いくつかの態様では、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第1のFab分子のFab重鎖のN末端に融合され、(多重特異性)抗体は、第3の抗原結合ドメイン、特に第3のFab分子をさらに含み、前記第3のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合されている。特定のそのような態様では、(多重特異性)抗体は、第1のFab分子、第2のFab分子、及び第3のFab分子、並びに任意選択で1つ又は複数のペプチドリンカーから本質的になり、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第1のFab分子のFab重鎖のN末端に融合され、第3のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合されている。そのような構造は、
図1Q及び1U(これらの例において、第1の抗原結合ドメインはVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第2及び第3の抗原結合ドメインはそれぞれ従来のFab分子である)、又は
図1X及び1Z(これらの例において、第1の抗原結合ドメインは従来のFab分子であり、第2及び第3の抗原結合ドメインはそれぞれVH/VLクロスオーバーFab分子である)に模式的に示されている。
【0224】
いくつかの態様では、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合され、(多重特異性)抗体は、第3の抗原結合ドメイン、特に第3のFab分子をさらに含み、前記第3のFab分子は、Fab重鎖のN末端で第2のFab分子のFab重鎖のC末端に融合されている。特定のそのような態様では、(多重特異性)抗体は、第1のFab分子、第2のFab分子、及び第3のFab分子並びに場合により1つ又は複数のペプチドリンカーから本質的になり、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合され、第3のFab分子は、Fab重鎖のN末端で第2のFab分子のFab重鎖のC末端に融合されている。そのような構造は、
図1R及び1V(これらの例において、第1の抗原結合ドメインはVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第2及び第3の抗原結合ドメインはそれぞれ従来のFab分子である)、又は
図1W及び1Y(これらの例において、第1の抗原結合ドメインは従来のFab分子であり、第2及び第3の抗原結合ドメインはそれぞれVH/VLクロスオーバーFab分子である)に模式的に示されている。
【0225】
特定の態様では、本発明による(多重特異性)抗体は、第2のFab分子のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖可変領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有する(すなわち、第1のFab分子は、重鎖可変領域が軽鎖可変領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)ポリペプチド(VH(2)-CH1(2)-VL(1)-CH1(1))を含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VH(1)-CL(1))と、第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))とをさらに含む。
【0226】
特定の態様では、本発明による(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第1のFab分子は、重鎖可変領域が軽鎖可変領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖と共有するポリペプチド(VL(1)-CH1(1)-VH(2)-CH1(2))を含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VH(1)-CL(1))と、第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))とをさらに含む。
【0227】
特定の態様では、本発明による(多重特異性)抗体は、第2のFab分子のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖可変領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有する(すなわち、第1のFab分子は、重鎖定常領域が軽鎖定常領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)ポリペプチド(VH(2)-CH1(2)-VH(1)-CL(1))を含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(1)-CH1(1))と、第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))とをさらに含む。
【0228】
特定の態様では、本発明による(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第1のFab分子は、重鎖定常領域が軽鎖定常領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖と共有するポリペプチド(VH(1)-CL(1)-VH(2)-CH1(2))を含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(1)-CH1(1))と、第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))とをさらに含む。
【0229】
特定の態様では、本発明による(多重特異性)抗体は、第3のFab分子のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖可変領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有する(すなわち、第1のFab分子は、重鎖可変領域が軽鎖可変領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)ポリペプチド(VH(3)-CH1(3)-VH(2)-CH1(2)-VL(1)-CH1(1))を含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VH(1)-CL(1))と、第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))とをさらに含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))をさらに含む。
【0230】
特定の態様では、本発明による(多重特異性)抗体は、第3のFab分子のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖可変領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有する(すなわち、第1のFab分子は、重鎖定常領域が軽鎖定常領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)ポリペプチド(VH(3)-CH1(3)-VH(2)-CH1(2)-VH(1)-CL(1))を含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(1)-CH1(1))と、第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))とをさらに含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))をさらに含む。
【0231】
特定の態様では、本発明による(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第1のFab分子は、重鎖可変領域が軽鎖可変領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第3のFab分子のFab重鎖と共有するポリペプチド(VL(1)-CH1(1)-VH(2)-CH1(2)-VH(3)-CH1(3))を含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VH(1)-CL(1))と、第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))とをさらに含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))をさらに含む。
【0232】
特定の態様では、本発明による(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第1のFab分子は、重鎖定常領域が軽鎖定常領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第3のFab分子のFab重鎖と共有するポリペプチド(VH(1)-CL(1)-VH(2)-CH1(2)-VH(3)-CH1(3))を含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(1)-CH1(1))と、第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))とをさらに含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))をさらに含む。
【0233】
特定の態様では、本発明による(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖可変領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第2のFab分子は、重鎖可変領域が軽鎖可変領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第3のFab分子のFab軽鎖可変領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第3のFab分子のFab重鎖定常領域と共有する(すなわち、第3のFab分子は、重鎖可変領域が軽鎖可変領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)ポリペプチド(VH(1)-CH1(1)-VL(2)-CH1(2)-VL(3)-CH1(3))を含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2))と、第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))とをさらに含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第3のFab分子のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第3のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VH(3)-CL(3))をさらに含む。
【0234】
特定の態様では、本発明による(多重特異性)抗体は、第1のFab分子のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖可変領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第2のFab分子は、重鎖定常領域が軽鎖定常領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第3のFab分子のFab重鎖可変領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第3のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有する(すなわち、第3のFab分子は、重鎖定常領域が軽鎖定常領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)ポリペプチド(VH(1)-CH1(1)-VH(2)-CL(2)-VH(3)-CL(3))を含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2))と、第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))とをさらに含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第3のFab分子のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第3のFab分子のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(3)-CH1(3))をさらに含む。
【0235】
特定の態様では、本発明による(多重特異性)抗体は、第3のFab分子のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第3のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第3のFab分子は、重鎖可変領域が軽鎖可変領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖可変領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第2のFab分子は、重鎖可変領域が軽鎖可変領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖と共有するポリペプチド(VL(3)-CH1(3)-VL(2)-CH1(2)-VH(1)-CH1(1))を含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2))と、第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))とをさらに含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第3のFab分子のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第3のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VH(3)-CL(3))をさらに含む。
【0236】
特定の態様では、本発明による(多重特異性)抗体は、第3のFab分子のFab重鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第3のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第3のFab分子は、重鎖定常領域が軽鎖定常領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重可変領域と共有し、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第2のFab分子は、重鎖定常領域が軽鎖定常領域で置き換えられているクロスオーバーFab重鎖を含む)、これが次に、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖と共有するポリペプチド(VH(3)-CL(3)-VH(2)-CL(2)-VH(1)-CH1(1))を含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2))と、第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))とをさらに含む。いくつかの態様では、(多重特異性)抗体は、第3のFab分子のFab軽鎖可変領域がカルボキシ末端ペプチド結合を第3のFab分子のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(3)-CH1(3))をさらに含む。
【0237】
一態様では、本発明は、
a)CD3に結合する第1の抗原結合ドメインであって、該第1の抗原結合ドメインは、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインVL及びVH、又は定常ドメインCL及びCH1が互いに置き換えられているFab分子であり、配列番号2の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号3のHCDR2及び配列番号6のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、並びに配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2及び配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、第1の抗原結合ドメインと;
b)PLAPに結合する第2の抗原結合ドメインであって、(従来の)Fab分子である第2の抗原結合ドメインと;
c)第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと;を含む(多重特異性)抗体であって、
(i)a)の第1の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端でb)の第2の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合し、b)の第2の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端でc)のFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合している、又は
(ii)b)の第2の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端でa)の第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合し、a)の第1の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端でc)のFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合している、(多重特異性)抗体を提供する。
【0238】
好ましい態様では、本発明は、
a)CD3に結合する第1の抗原結合ドメインであって、該第1の抗原結合ドメインは、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインVL及びVH、又は定常ドメインCL及びCH1が互いに置き換えられているFab分子であり、配列番号2の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号3のHCDR2及び配列番号6のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、並びに配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2及び配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、第1の抗原結合ドメインと;
b)PLAPに結合する第2及び第3の抗原結合ドメインであって、第2及び第3の抗原結合ドメインがそれぞれ(従来の)Fab分子である、第2及び第3の抗原結合ドメインと;
c)第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと;を含む(多重特異性)抗体であって、
(i)a)の第1の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端でb)の第2の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合し、b)の第2の抗原結合ドメイン及びb)の第3の抗原結合ドメインが、それぞれFab重鎖のC末端でc)のFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合している、又は
(ii)b)の第2の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端でa)の第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合し、a)の第1の抗原結合ドメイン及びb)の第3の抗原結合ドメインが、それぞれFab重鎖のC末端でc)のFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合している、(多重特異性)抗体を提供する。
【0239】
好ましい態様では、本発明は、
a)CD3に結合する第1の抗原結合ドメインであって、該第1の抗原結合ドメインは、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインVL及びVH、又は定常ドメインCL及びCH1が互いに置き換えられているFab分子であり、配列番号2の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号3のHCDR2及び配列番号6のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、並びに配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2及び配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、第1の抗原結合ドメインと;
b)PLAPに結合する第2の抗原結合ドメインであって、(従来の)Fab分子である第2の抗原結合ドメインと;
c)第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと;を含む(多重特異性)抗体であって、
(i)a)の第1の抗原結合ドメイン及びb)の第2の抗原結合ドメインが、それぞれFab重鎖のC末端でc)のFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合している、(多重特異性)抗体を提供する。
【0240】
本発明による(多重特異性)抗体の異なる構造の全てにおいて、本明細書に記載されるアミノ酸置換(「電荷修飾」)は、存在する場合、第2及び(存在する場合)第3の抗原結合ドメイン/Fab分子のCH1及びCLドメイン又は第1の抗原結合ドメイン/Fab分子のCH1及びCLドメインのいずれかにおけるものであってもよい。好ましくは、これらは第2及び(存在する場合)第3の抗原結合ドメイン/Fab分子のCH1ドメイン及びCLドメインにおけるものである。本発明の概念によると、本明細書に記載されるアミノ酸置換が第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメイン/Fab分子において行われる場合、そのようなアミノ酸置換は、第1の抗原結合ドメイン/Fab分子においては行われない。逆に、本明細書に記載されるアミノ酸置換が第1の抗原結合ドメイン/Fab分子において行われる場合、そのようなアミノ酸置換は、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメイン/Fab分子においては行われない。アミノ酸置換は、好ましくは、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVH1が互いによって置き換えらえているFab分子を含む(多重特異性)抗体において行われる。
【0241】
本発明による(多重特異性)抗体の好ましい態様では、特に、本明細書に記載されるアミノ酸置換が第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメイン/Fab分子において行われる場合、第2の(及び、存在する場合、第3の)Fab分子の定常ドメインCLは、カッパアイソタイプのものである。本発明による(多重特異性)抗体の他の態様では、特に、本明細書に記載されるアミノ酸置換が第1の抗原結合ドメイン/Fab分子において行われる場合、第1の抗原結合ドメイン/Fab分子の定常ドメインCLは、カッパアイソタイプのものである。いくつかの態様では、第2の(及び、存在する場合、第3の)抗原結合ドメイン/Fab分子の定常ドメインCL、並びに第1の抗原結合ドメイン/Fab分子の定常ドメインCLは、カッパアイソタイプのものである。
【0242】
一態様では、本発明は、
a)CD3に結合する第1の抗原結合ドメインであって、該第1の抗原結合ドメインは、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインVL及びVHが互いに置き換えられているFab分子であり、配列番号2の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号3のHCDR2及び配列番号6のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、並びに配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2及び配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、第1の抗原結合ドメインと;
b)PLAPに結合する第2の抗原結合ドメインであって、(従来の)Fab分子である第2の抗原結合ドメインと;
c)第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと;を含む(多重特異性)抗体であって、
ここで、b)の第2の抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸が、リジン(K)又はアルギニン(R)によって(最も好ましくはアルギニン(R)によって)置換されており(Kabatによる番号付け)、b)の第2の抗原結合ドメインの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
(i)a)の第1の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端でb)の第2の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合し、b)の第2の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端でc)のFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合している、又は
(ii)b)の第2の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端でa)の第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合し、a)の第1の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端でc)のFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合している、(多重特異性)抗体を提供する。
【0243】
好ましい態様では、本発明は、
a)CD3に結合する第1の抗原結合ドメインであって、該第1の抗原結合ドメインは、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインVL及びVHが互いに置き換えられているFab分子であり、配列番号2の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号3のHCDR2及び配列番号6のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、並びに配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2及び配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、第1の抗原結合ドメインと;
b)PLAPに結合する第2及び第3の抗原結合ドメインであって、第2及び第3の抗原結合ドメインがそれぞれ(従来の)Fab分子である、第2及び第3の抗原結合ドメインと;
c)第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと;を含む(多重特異性)抗体であって、
ここで、b)の第2の抗原結合ドメイン及びb)の第3の抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸が、リジン(K)又はアルギニン(R)によって(最も好ましくはアルギニン(R)によって)置換されており(Kabatによる番号付け)、b)の第2の抗原結合ドメインの定常ドメインCH1及びb)の第3の抗原結合ドメインにおいて、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
(i)a)の第1の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端でb)の第2の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合し、b)の第2の抗原結合ドメイン及びb)の第3の抗原結合ドメインが、それぞれFab重鎖のC末端でc)のFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合している、又は
(ii)b)の第2の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端でa)の第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合し、a)の第1の抗原結合ドメイン及びb)の第3の抗原結合ドメインが、それぞれFab重鎖のC末端でc)のFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合している、(多重特異性)抗体を提供する。
【0244】
別の態様では、本発明は、
a)CD3に結合する第1の抗原結合ドメインであって、該第1の抗原結合ドメインは、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインVL及びVHが互いに置き換えられているFab分子であり、配列番号2の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号3のHCDR2及び配列番号6のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、並びに配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2及び配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、第1の抗原結合ドメインと;
b)PLAPに結合する第2の抗原結合ドメインであって、(従来の)Fab分子である第2の抗原結合ドメインと;
c)第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと;を含む(多重特異性)抗体であって、
ここで、b)の第2の抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸が、リジン(K)又はアルギニン(R)によって(最も好ましくはアルギニン(R)によって)置換されており(Kabatによる番号付け)、b)の第2の抗原結合ドメインの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
a)の第1の抗原結合ドメイン及びb)の第2の抗原結合ドメインが、それぞれFab重鎖のC末端でc)のFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合している、(多重特異性)抗体を提供する。
【0245】
上記の態様のいずれかによれば、(多重特異性)抗体の構成要素(例えば、Fab分子、Fcドメイン)は、直接又は様々なリンカー、特に、本明細書に記載されているか、又は当技術分野で知られている、1つ又は複数のアミノ酸、典型的には約2~20個のアミノ酸を含むペプチドリンカーを介して融合され得る。適切な非免疫原性ペプチドリンカーには、例えば、(G4S)n、(SG4)n、(G4S)n、G4(SG4)n又は(G4S)nG5ペプチドリンカーが含まれ、ここでnは通常1から10、典型的には2から4の整数である。
【0246】
好ましい態様では、本発明は、
a)CD3に結合する第1の抗原結合ドメインであって、該第1の抗原結合ドメインは、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインVL及びVHが互いに置き換えられているFab分子であり、配列番号2の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号3のHCDR2及び配列番号6のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、並びに配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2及び配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、第1の抗原結合ドメインと;
b)PLAPに結合する第2及び第3の抗原結合ドメインであって、第2及び第3の抗原結合ドメインがそれぞれ(従来の)Fab分子であり、(i)配列番号28の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号30のHCDR3、(ii)配列番号32のHCDR1、配列番号33のHCDR2、及び配列番号34のHCDR3、(iii)配列番号36のHCDR1、配列番号37のHCDR2、及び配列番号38のHCDR3、(iv)配列番号40のHCDR1、配列番号41のHCDR2、及び配列番号42のHCDR3、又は(v)配列番号44のHCDR1、配列番号45のHCDR2、及び配列番号46のHCDR3を含むVH、並びに配列番号48の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号49のLCDR2、及び配列番号50のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、第2及び第3の抗原結合ドメインと;
c)第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと;を含む(多重特異性)抗体であって、
ここで、b)の第2及び第3の抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸が、リジン(K)又はアルギニン(R)によって(最も好ましくはアルギニン(R)によって)置換されており(Kabatによる番号付け)、b)の第2及び第3の抗原結合ドメインの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
さらに、b)の第2の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端でa)の第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合し、a)の第1の抗原結合ドメイン及びb)の第3の抗原結合ドメインが、それぞれFab重鎖のC末端でc)のFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合している、(多重特異性)抗体を提供する。
【0247】
好ましい態様では、本発明は、
a)CD3に結合する第1の抗原結合ドメインであって、該第1の抗原結合ドメインは、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインVL及びVHが互いに置き換えられているFab分子であり、配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、第1の抗原結合ドメインと;
b)PLAPに結合する第2及び第3の抗原結合ドメインであって、該第2及び第3の抗原結合ドメインはそれぞれ(従来の)Fab分子であり、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43又は配列番号47のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号51のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、第2及び第3の抗原結合ドメインと;
c)第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと;を含む(多重特異性)抗体であって、
ここで、b)の第2及び第3の抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸が、リジン(K)又はアルギニン(R)によって(最も好ましくはアルギニン(R)によって)置換されており(Kabatによる番号付け)、b)の第2及び第3の抗原結合ドメインの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
さらに、b)の第2の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端でa)の第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合し、a)の第1の抗原結合ドメイン及びb)の第3の抗原結合ドメインが、それぞれFab重鎖のC末端でc)のFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合している、(多重特異性)抗体を提供する。
【0248】
さらに好ましい態様では、本発明は、
a)CD3に結合する第1の抗原結合ドメインであって、該第1の抗原結合ドメインは、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインVL及びVHが互いに置き換えられているFab分子であり、配列番号2の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号3のHCDR2及び配列番号6のHCDR3を含む重鎖可変領域(VH)、並びに配列番号10の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号11のLCDR2及び配列番号12のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、第1の抗原結合ドメインと;
b)PLAPに結合する第2及び第3の抗原結合ドメインであって、第2及び第3の抗原結合ドメインがそれぞれ(従来の)Fab分子であり、(i)配列番号28の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号29のHCDR2、及び配列番号30のHCDR3、(ii)配列番号32のHCDR1、配列番号33のHCDR2、及び配列番号34のHCDR3、(iii)配列番号36のHCDR1、配列番号37のHCDR2、及び配列番号38のHCDR3、(iv)配列番号40のHCDR1、配列番号41のHCDR2、及び配列番号42のHCDR3、又は(v)配列番号44のHCDR1、配列番号45のHCDR2、及び配列番号46のHCDR3を含むVH、並びに配列番号48の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号49のLCDR2、及び配列番号50のLCDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含む、第2及び第3の抗原結合ドメインと;
c)第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと;を含む(多重特異性)抗体であって、
ここで、b)の第2及び第3の抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸が、リジン(K)又はアルギニン(R)によって(最も好ましくはアルギニン(R)によって)置換されており(Kabatによる番号付け)、b)の第2及び第3の抗原結合ドメインの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
さらに、b)の第2の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端でa)の第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合し、a)の第1の抗原結合ドメイン及びb)の第3の抗原結合ドメインが、それぞれFab重鎖のC末端でc)のFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合している、(多重特異性)抗体を提供する。
【0249】
さらに好ましい態様では、本発明は、
a)CD3に結合する第1の抗原結合ドメインであって、該第1の抗原結合ドメインは、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインVL及びVHが互いに置き換えられているFab分子であり、配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、第1の抗原結合ドメインと;
b)PLAPに結合する第2及び第3の抗原結合ドメインであって、該第2及び第3の抗原結合ドメインはそれぞれ(従来の)Fab分子であり、配列番号31、配列番号35、配列番号39、配列番号43又は配列番号47のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号51のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、第2及び第3の抗原結合ドメインと;
c)第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと;を含む(多重特異性)抗体であって、
ここで、b)の第2及び第3の抗原結合ドメインの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸が、リジン(K)又はアルギニン(R)によって(最も好ましくはアルギニン(R)によって)置換されており(Kabatによる番号付け)、b)の第2及び第3の抗原結合ドメインの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け);
さらに、b)の第2の抗原結合ドメインが、Fab重鎖のC末端でa)の第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合し、a)の第1の抗原結合ドメイン及びb)の第3の抗原結合ドメインが、それぞれFab重鎖のC末端でc)のFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合している、(多重特異性)抗体を提供する。
【0250】
本発明のこれらの態様による一態様では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいて、366位のスレオニン残基がトリプトファン残基に置き換えられ(T366W)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、407位のチロシン残基がバリン残基に置き換えられ(Y407V)、任意選択的に366位のスレオニン残基がセリン残基に置き換えられ(T366S)、368位のロイシン残基がアラニン残基に置き換えられる(L368A)(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0251】
本発明のこれらの態様によるさらなる態様では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいて、追加的に354位のセリン残基がシステイン残基に置き換えられ(S354C)又は356位のグルタミン酸残基がシステイン残基に置き換えられ(E356C)(特に、354位のセリン残基がシステイン残基に置き換えられる)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、追加的に、349位のチロシン残基がシステイン残基で置き換えられる(Y349C)(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0252】
本発明のこれらの態様によるさらなる態様では、Fcドメインの第1及び第2のサブユニットのそれぞれにおいて、234位のロイシン残基がアラニン残基(L234A)に置き換えられ、235位のロイシン残基がアラニン残基に置き換えられ(L235A)、329位のプロリン残基がグリシン残基で置き換えられる(P329G)(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0253】
本発明のこれらの態様によるさらなる態様では、Fcドメインは、ヒトIgG1 Fcドメインである。
【0254】
具体的な態様では、(多重特異性)抗体は、配列番号16の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号52の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号53の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む。さらなる具体的な態様では、(多重特異性)抗体は、配列番号16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号52のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号53のアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62のアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む。
【0255】
一態様では、本発明は、配列番号16の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号52の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号53の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む、CD3及びPLAPに結合する(多重特異性)抗体を提供する。一態様では、本発明は、配列番号16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号52のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号53のアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62のアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む、CD3及びPLAPに結合する(多重特異性)抗体を提供する。
【0256】
別の特定の態様では、(多重特異性)抗体は、配列番号16の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号54の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号55の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む。さらなる具体的な態様では、(多重特異性)抗体は、配列番号16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号54のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号55のアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62のアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む。
【0257】
一態様では、本発明は、配列番号16の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号54の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号55の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む、CD3及びPLAPに結合する(多重特異性)抗体を提供する。一態様では、本発明は、配列番号16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号54のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号55のアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62のアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む、CD3及びPLAPに結合する(多重特異性)抗体を提供する。
【0258】
特に具体的な態様では、(多重特異性)抗体は、配列番号16の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号56の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号57の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む。さらなる具体的な態様では、(多重特異性)抗体は、配列番号16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号56のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号57のアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62のアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む。
【0259】
一態様では、本発明は、配列番号16の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号56の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号57の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む、CD3及びPLAPに結合する(多重特異性)抗体を提供する。一態様では、本発明は、配列番号16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号56のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号57のアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62のアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む、CD3及びPLAPに結合する(多重特異性)抗体を提供する。
【0260】
別の特定の態様では、(多重特異性)抗体は、配列番号16の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号58の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号59の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む。さらなる具体的な態様では、(多重特異性)抗体は、配列番号16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号58のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号59のアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62のアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む。
【0261】
一態様では、本発明は、配列番号16の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号58の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号59の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む、CD3及びPLAPに結合する(多重特異性)抗体を提供する。一態様では、本発明は、配列番号16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号58のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号59のアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62のアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む、CD3及びPLAPに結合する(多重特異性)抗体を提供する。
【0262】
別の特定の態様では、(多重特異性)抗体は、配列番号16の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号60の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号61の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む。さらなる具体的な態様では、(多重特異性)抗体は、配列番号16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号60のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号61のアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62のアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む。
【0263】
一態様では、本発明は、配列番号16の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号60の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号61の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む、CD3及びPLAPに結合する(多重特異性)抗体を提供する。一態様では、本発明は、配列番号16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号60のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号61のアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号62のアミノ酸配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)を含む、CD3及びPLAPに結合する(多重特異性)抗体を提供する。
【0264】
8.Fcドメインバリアント
好ましい態様では、本発明の(多重特異性)抗体は、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインを含む。
【0265】
(多重特異性)抗体のFcドメインは、免疫グロブリン分子の重鎖ドメインを含む一対のポリペプチド鎖からなる。例えば、免疫グロブリンG(IgG)分子のFcドメインは二量体であり、その各サブユニットはCH2及びCH3 IgG重鎖定常ドメインを含む。Fcドメインの2つのサブユニットは、互いに安定な会合が可能である。一態様では、本発明の(多重特異性)抗体は、1つ以下のFcドメインを含む。
【0266】
一態様では、(多重特異性)抗体のFcドメインは、IgG Fcドメインである。好ましい態様では、Fcドメインは、IgG1 Fcドメインである。別の態様では、Fcドメインは、IgG4 Fcドメインである。より具体的な態様では、Fcドメインは、S228位(Kabat EUインデックス番号付け)にアミノ酸置換、特にアミノ酸置換S228Pを含むIgG4 Fcドメインである。このアミノ酸置換は、IgG4抗体のin vivoでのFabアーム交換を減少させる(Stubenrauch et al.,Drug Metabolism and Disposition 38,84-91(2010)を参照)。さらなる好ましい態様では、Fcドメインは、ヒトFcドメインである。より好ましい態様では、Fcドメインは、ヒトIgG1 Fcドメインである。ヒトIgG1 Fc領域の例示的な配列は、配列番号65に示されている。
【0267】
a)ヘテロ二量体化を促進するFcドメイン修飾
本発明による(多重特異性)抗体は、Fcドメインの2つのサブユニットの一方又は他方に融合させることができる異なる抗原結合ドメインを含み、したがってFcドメインの2つのサブユニットは、典型的には2つの非同一ポリペプチド鎖に含まれる。これらのポリペプチドの組換え共発現及びその後の二量体化により、2つのポリペプチドのいくつかの可能な組み合わせが生じる。このように、組換え産生における(多重特異性)抗体の収率及び純度を改善するためには、(多重特異性)抗体のFcドメインに、所望のポリペプチドの会合を促進する修飾を導入することが有利であろう。
【0268】
したがって、好ましい態様では、本発明による(多重特異性)抗体のFcドメインは、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾を含む。ヒトIgG Fcドメインの2つのサブユニット間でタンパク質間相互作用が最大である部位は、FcドメインのCH3ドメインである。したがって、一態様では、前記修飾はFcドメインのCH3ドメイン内にある。
【0269】
ヘテロ二量体化を強制するために、FcドメインのCH3ドメインを修飾するためのいくつかの手法が存在し、例えば、国際公開第96/27011号、国際公開第98/050431号、EP1870459号、国際公開第2007/110205号、国際公開第2007/147901号、国際公開第2009/089004号、国際公開第2010/129304号、国際公開第2011/90754号、国際公開第2011/143545号、国際公開第2012058768号、国際公開第2013157954号、国際公開第2013096291号に十分説明されている。典型的には、そのような全ての手法において、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインとFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインは両方とも相補的に設計され、それにより、各CH3ドメイン(又はそれを構成する重鎖)は、それ自体でホモ二量体化できなくなるが、(第1及び第2のCH3ドメインがヘテロ二量体化し、2つの第1又は2つの第2のCH3ドメイン間にホモ二量体が形成されないように)相補的に操作された他のCH3ドメインと強制的にヘテロ二量体化される。重鎖ヘテロ二量体化の改善のためのこれらの異なる手法は、(多重特異性)抗体における重鎖-軽鎖修飾(例えば、1つの結合アームにおけるVHとVLの交換/置換や、CH1/CL境界面における反対の電荷を持つ荷電アミノ酸の置換の導入)と組み合わせた、重/軽鎖の誤対合やベンス・ジョーンズ型の副産物を減らす異なる選択肢として企図されたものである。
【0270】
具体的な態様では、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾は、いわゆる「ノブ・イントゥ・ホール」修飾であり、Fcドメインの2つのサブユニットの一方に「ノブ(knob)」修飾及びFcドメインの2つのサブユニットの他方に「ホール(hole)」修飾を含む。
【0271】
ノブ・イントゥ・ホール技術は、例えば、米国特許第5,731,168号、米国特許第7,695,936号、Ridgway et al.,Prot Eng 9,617-621(1996)及びCarter,J Immunol Meth 248,7-15(2001)に記載される。一般に、この方法は、突起(「ノブ」)を第1のポリペプチドの界面に導入し、対応する空洞「ホール」)を第2のポリペプチドの界面に導入し、これによって、突起が空洞内に位置付けられ、それによりヘテロ二量体形成を促進し、ホモ二量体形成を妨げることを伴う。突起は、最初のポリペプチドの界面にある小さなアミノ酸側鎖をより大きな側鎖(例えば、チロシン又はトリプトファン)と置き換えることによって構築される。突起に対して同一又は同様のサイズの代償空洞は、大きなアミノ酸側鎖を小さなアミノ酸側鎖(例えば、アラニン又はスレオニン)に置き換えることによって、第2のポリペプチドの界面に作り出される。
【0272】
したがって、好ましい態様では、(多重特異性)抗体のFcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基は、より大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それによって、第2のサブユニットのCH3ドメイン内の空洞内に収容可能な突起が第1のサブユニットのCH3ドメイン内に生成され、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基は、より小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それによって、第1のサブユニットのCH3ドメイン内の突起を収容可能な空洞が第2のサブユニットのCH3ドメイン内に生成される。
【0273】
好ましくは、より大きな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、及びトリプトファン(W)からなる群から選択される。
【0274】
好ましくは、より小さな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T)、及びバリン(V)からなる群から選択される。
【0275】
突起及び空洞は、ポリペプチドをコードする核酸を改変することによって、例えば、部位特異的突然変異誘発によって、又はペプチド合成によって作製することができる。
【0276】
特定の態様では、Fcドメインの第1のサブユニット(「ノブ」サブユニット)のCH3ドメインにおいて、366位のスレオニン残基がトリプトファン残基で置き換えられ(T366W)、Fcドメインの第2のサブユニット(「ホール」サブユニット)のCH3ドメインにおいて、407位のチロシン残基がバリン残基で置き換えられる(Y407V)。一態様では、Fcドメインの第2のサブユニットにおいてさらに、366位のスレオニン残基がセリン残基で置き換えられ(T366S)、368位のロイシン残基がアラニン残基で置き換えられる(L368A)(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0277】
またさらなる態様では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいてさらに、354位のセリン残基がシステイン残基で置き換えられる(S354C)か、又は356位のグルタミン酸残基がシステイン残基で置き換えられ(E356C)(特に354位のセリン残基がシステイン残基で置き換えられる)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいてさらに、349位のチロシン残基がシステイン残基によって置き換えられる(Y349C)(Kabat EUインデックスによる番号付け)。これら2つのシステイン残基の導入によって、Fcドメインの2つのサブユニットの間にジスルフィド架橋が生成し、二量体をさらに安定化する(Carter,J Immunol Methods 248,7-15(2001))。
【0278】
好ましい態様では、Fcドメインの第1のサブユニットは、アミノ酸置換S354C及びT366Wを含み、Fcドメインの第2のサブユニットは、アミノ酸置換Y349C、T366S、L368A及びY407Vを含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0279】
好ましい態様では、CD3に結合する抗原結合ドメインは、(任意選択的に、PLAPに結合する第2の抗原結合ドメイン及び/又はペプチドリンカーを介して)Fcドメインの(「ノブ」修飾を含む)第1のサブユニットに融合されている。理論に縛られることを望むものではないが、CD3に結合する抗原結合ドメインをFcドメインのノブ含有サブユニットに融合させると、CD3に結合する2つの抗原結合ドメインを含む抗体の生成が(さらに)最小限に抑えられる(2つのノブ含有ポリペプチドの立体衝突)。
【0280】
ヘテロ二量体化を実施するためのCH3修飾の他の技術が、本発明による代替法として考慮されており、例えば国際公開第96/27011号、国際公開第98/050431号、EP1870459,国際公開第2007/110205号、国際公開第2007/147901号、国際公開第2009/089004号、国際公開第2010/129304号、国際公開第2011/90754号、国際公開第2011/143545号、国際公開第2012/058768号、国際公開第2013/157954号、国際公開第2013/096291号に記載されている。
【0281】
一態様では、EP1870459に記載されているヘテロ二量体化手法が代わりに使用される。この手法は、Fcドメインの2つのサブユニット間のCH3/CH3ドメイン界面の特定のアミノ酸位置に反対の電荷を有する荷電アミノ酸を導入することに基づいている。本発明の(多重特異性)抗体の特定の態様は、(Fcドメインの)2つのCH3ドメインのうちの1つにアミノ酸変異R409D;K370E、並びにFcドメインのCH3ドメインのもう一方におけるアミノ酸変異D399K;E357Kである(KabatEUインデックスによる番号付け)。
【0282】
別の態様では、本発明の(多重特異性)抗体は、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異T366W及びFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異T366S、L368A、Y407Vを含み、追加的に、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異R409D、K370E及びFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異D399K、E357K(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。
【0283】
別の態様では、本発明の(多重特異性)抗体は、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異S354C、T366W及びFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異Y349C、T366S、L368A、Y407Vを含むか、又は前記(多重特異性)抗体は、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸変異Y349C、T366W及びFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸変異S354C、T366S、L368A、Y407Vを含み、追加的に、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸変異R409D、K370E及びFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸変異D399K、E357K(全てKabat EUインデックスによる番号付け)を含む。
【0284】
一態様では、国際公開第2013/157953号に記載されているヘテロ二量体化手法が代わりに使用される。一態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異T366Kを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異L351Dを含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。さらなる態様では、第1のCH3ドメインはさらなるアミノ酸変異L351Kを含む。さらなる態様では、第2のCH3ドメインは、Y349E、Y349D及びL368E(特にL368E)から選択されるアミノ酸変異をさらに含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0285】
一態様では、国際公開第2012/058768号に記載されているヘテロ二量体化手法が代わりに使用される。一態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異L351Y、Y407Aを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異T366A、K409Fを含む。さらなる態様では、第2のCH3ドメインは、位置T411、D399、S400、F405、N390、又はK392にさらなるアミノ酸変異を含み、例えばa)T411N、T411R、T411Q、T411K、T411D、T411E又はT411W、b)D399R、D399W、D399Y又はD399K、c)S400E、S400D、S400R、又はS400K、d)F405I、F405M、F405T、F405S、F405V又はF405W、e)N390R、N390K又はN390D、f)K392V、K392M、K392R、K392L、K392F、又はK392E(Kabat EUインデックスによる番号付け)から選択される。さらなる態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異L351Y、Y407Aを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異T366V、K409Fを含む。さらなる態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異Y407Aを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異T366A、K409Fを含む。さらなる態様では、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異K392E、T411E、D399R及びS400R(Kabat EUインデックスによる番号付け)をさらに含む。
【0286】
一態様では、国際公開第2011/143545号に記載されているヘテロ二量体化手法が、例えば368及び409(Kabat EUインデックスに基づく番号付け)からなる群から選択される位置でのアミノ酸修飾を用いて代替的に使用される。
【0287】
一態様では、上述のノブ・イントゥ・ホール技術も使用する国際公開第2011/090762号に記載のヘテロ二量体化手法が代替的に使用される。一態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異T366Wを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異Y407Aを含む。一態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異T366Yを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異Y407Tを含む(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0288】
一態様では、(多重特異性)抗体又はそのFcドメインは、IgG2サブクラスのものであり、国際公開第2010/129304号に記載されているヘテロ二量体化手法が代替的に使用される。
【0289】
代替的な態様では、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾は、例えば、国際公開第2009/089004号に記載されているような静電ステアリング効果(electrostatic steering effect)を媒介する修飾を含む。通常、この方法は、ホモ二量体形成が静電的に望ましくなくなり、ヘテロ二量体化が静電的に望ましくなるような、荷電アミノ酸残基による2つのFcドメインサブユニットの接触面における1つ又は複数のアミノ酸残基の置き換えを伴う。そのような一態様では、第1のCH3ドメインは、負に荷電したアミノ酸(例えば、グルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D)、特にK392D又はN392D)によるK392又はN392のアミノ酸置換を含み、第2のCH3ドメインは、正に荷電したアミノ酸(例えば、リジン(K)又はアルギニン(R)、特にD399K、E356K、D356K、又はE357K、より具体的にはD399K及びE356K)によるD399、E356、D356、又はE357のアミノ酸置換を含む。さらなる態様では、第1のCH3ドメインは、K409又はR409の負に荷電したアミノ酸(例えば、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)、特にK409D又はR409D)によるアミノ酸置換をさらに含む。さらなる態様では、第1のCH3ドメインは、負に荷電したアミノ酸(例えば、グルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D))によるK439及び/又はK370のアミノ酸置換をさらに、又は代替的に含む(全ての番号付けはKabat EUインデックスによる)。
【0290】
さらなる態様では、国際公開第2007/147901号に記載されているヘテロ二量体化手法が代わりに使用される。一態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異K253E、D282K、及びK322Dを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異D239K、E240K、及びK292D(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。
【0291】
さらに別の態様では、国際公開第2007/110205号に記載されたヘテロ二量体化手法を代替的に使用することができる。
【0292】
一態様では、Fcドメインの第1のサブユニットはアミノ酸置換K392D及びK409Dを含み、Fcドメインの第2のサブユニットはアミノ酸置換D356K及びD399K(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。
【0293】
b)Fc受容体の結合及び/又はエフェクター機能を低下させるFcドメイン修飾
Fcドメインは、(多重特異性)抗体に、標的組織における良好な蓄積及び好ましい組織血液分布比に寄与する長い血清半減期を含む、好ましい薬物動態特性を付与する。しかしながら、それは同時に、好ましい抗原保有細胞ではなく、Fc受容体を発現する細胞への(多重特異性)抗体の望ましくない標的化をもたらすことがある。さらに、Fc受容体シグナル伝達経路の共活性化はサイトカイン放出をもたらすことがあり、これは、(多重特異性)抗体のT細胞活性化特性及び長い半減期と組み合わせて、全身投与時にサイトカイン受容体の過剰な活性化や重篤な副作用を生じさせる。T細胞以外の(Fc受容体保有)免疫細胞の活性化は、例えばNK細胞によるT細胞の破壊の可能性のために、(多重特異性)抗体の効力を低下させることさえある。
【0294】
したがって、好ましい態様では、本発明による(多重特異性)抗体のFcドメインは、天然IgG1 Fcドメインと比較して、Fc受容体に対する結合親和性の低下及び/又はエフェクター機能の低下を示す。1つのそのような態様では、Fcドメイン(又は前記Fcドメインを含む(多重特異性)抗体)は、天然のIgG1 Fcドメイン(又は天然のIgG1 Fcドメインを含む(多重特異性)抗体)と比較して50%未満、特に20%未満、さらに詳細には10%未満、最も詳細には5%未満の、Fc受容体に対する結合親和性及び/又は天然のIgG1 Fcドメイン(又は天然のIgG1 Fcドメインを含む(多重特異性)抗体)と比較して50%未満、特に20%未満、さらに詳細には10%未満、最も詳細には5%未満のエフェクター機能を示す。一態様では、Fcドメイン(又は前記Fcドメインを含む(多重特異性)抗体)は、Fc受容体に実質的に結合せず、且つ/又はエフェクター機能を誘導しない。好ましい態様では、Fc受容体は、Fcγ受容体である。一態様では、Fc受容体は、ヒトFc受容体である。一態様では、Fc受容体は、活性化Fc受容体である。具体的な態様では、Fc受容体は、活性化ヒトFcγ受容体であり、さらに具体的にはヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIa、最も具体的にはヒトFcγRIIIaである。一態様では、エフェクター機能は、CDC、ADCC、ADCP及びサイトカイン分泌の群から選択される1つ又は複数である。好ましい態様では、エフェクター機能はADCCである。一態様では、Fcドメインドメインは、天然IgG1 Fcドメインドメインと比較して、新生児Fc受容体(FcRn)に対して実質的に同様の結合親和性を示す。FcRnへの実質的に同様の結合は、Fcドメイン(又は前記Fcドメインを含む(多重特異性)抗体)が天然のIgG1 Fcドメイン(又は天然のIgG1 Fcドメインを含む(多重特異性)抗体)の約70%超、特に約80%超、さらに詳細には約90%超の、FcRnに対する結合親和性を示す場合に達成される。
【0295】
特定の態様では、Fcドメインは、Fc受容体への結合親和性及び/又はエフェクター機能が非操作型Fcドメインと比較して低下するように操作される。好ましい態様では、(多重特異性)抗体のFcドメインは、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性及び/又はエフェクター機能を低下させる1つ又は複数のアミノ酸変異を含む。典型的には、同じ1つ以上のアミノ酸突然変異が、Fcドメインの2つのサブユニットのそれぞれに存在する。一態様では、アミノ酸変異は、FcドメインのFc受容体への結合親和性を低下させる。一態様では、アミノ酸変異は、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を、少なくとも2分の1、少なくとも5分の1又は少なくとも10分の1低下させる。Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を低下させる、1つより多いアミノ酸変異が存在する態様では、これらのアミノ酸変異の組み合わせは、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を少なくとも10分の1、少なくとも20分の1又はさらには少なくとも50分の1低下させ得る。一態様では、操作型Fcドメインを含む(多重特異性)抗体は、非操作型Fcドメインを含む(多重特異性)抗体と比較して20%未満、特に10%未満、さらに詳細には5%未満の、Fc受容体に対する結合親和性を呈する。好ましい態様では、Fc受容体はFcγ受容体である。いくつかの態様では、Fc受容体はヒトFc受容体である。いくつかの態様では、Fc受容体は、活性化Fc受容体である。特定の態様では、Fc受容体は、活性化ヒトFcγ受容体、より具体的にはヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIa、最も具体的にはヒトFcγRIIIaである。好ましくは、これらの受容体のそれぞれへの結合が低下する。いくつかの態様では、補体成分に対する結合親和性(具体的には、C1qに対する結合親和性)も低下する。一態様では、新生児Fc受容体(FcRn)への結合親和性は低下しない。FcRnへの実質的に同様の結合、すなわち前記受容体に対するFcドメインの結合親和性の保存は、Fcドメイン(又は前記Fcドメインを含む(多重特異性)抗体)が、非操作型のFcドメイン(又は前記非操作型のFcドメインを含む(多重特異性)抗体)のFcRn対する結合親和性の約70%超を示す場合に達成される。Fcドメイン又は前記Fcドメインを含む本発明の(多重特異性)抗体は、そのような親和性の約80%超、さらには約90%超を示し得る。特定の態様では、(多重特異性)抗体のFcドメインは、非操作型Fcドメインと比較してエフェクター機能が低下するように操作される。エフェクター機能の低下には、補体依存性細胞傷害(CDC)の低下、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)の低下、抗体依存性細胞食作用(ADCP)の低下、サイトカイン分泌の低下、抗原提示細胞による免疫複合体媒介性抗原取り込みの低下、NK細胞への結合の低下、マクロファージへの結合の低下、単球への結合の低下、多形核細胞への結合の低下、直接的なシグナル伝達誘導性アポトーシスの低下、標的結合抗体との架橋の低下、樹状細胞成熟の低下、又はT細胞プライミングの低下のうちの1つ又は複数が挙げられ得るが、これらに限定されない。一態様では、エフェクター機能の低下は、CDCの低下、ADCCの低下、ADCPの低下及びサイトカイン分泌の低下の群から選択される1つ又は複数である。好ましい態様では、エフェクター機能の低下はADCCの低下である。一態様では、ADCCの低下は、非操作型Fcドメイン(又は非操作型Fcドメインを含む(多重特異性)抗体)により誘導されるADCCの20%未満である。
【0296】
一態様では、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性及び/又はエフェクター機能を低下させるアミノ酸変異は、アミノ酸置換である。一態様では、Fcドメインは、E233、L234、L235、N297、P331及びP329(Kabat EUインデックスによる番号付け)の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む。より具体的な態様では、Fcドメインは、L234、L235及びP329(Kabat EUインデックスによる番号付け)の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む。いくつかの態様では、Fcドメインは、アミノ酸置換L234A及びL235A(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。そのような態様では、Fcドメインは、IgG1 Fcドメイン、特にヒトIgG1 Fcドメインである。一態様では、Fcドメインは、P329位にアミノ酸置換を含む。より具体的な態様では、アミノ酸置換は、P329A又はP329G、特にP329G(Kabat EUインデックスによる番号付け)である。一態様では、Fcドメインは、P329位にアミノ酸置換を含み、E233、L234、L235、N297、及びP331(Kabat EUインデックスによる番号付け)から選択される位置にさらなるアミノ酸置換を含む。より具体的な態様では、さらなるアミノ酸置換は、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297D又はP331Sである。好ましい態様では、Fcドメインは、P329位、L234位、及びL235位(Kabat EUインデックスによる番号付け)にアミノ酸置換を含む。より好ましい態様では、Fcドメインは、アミノ酸変異L234A、L235A及びP329G(「P329G LALA」、「PGLALA」又は「LALAPG」)を含む。具体的には、好ましい態様では、Fcドメインの各サブユニットは、アミノ酸置換L234A、L235A及びP329Gを含み(KabatEUインデックス番号付け)、すなわち、Fcドメインの第1のサブユニット及び第2のサブユニットのそれぞれにおいて、234位のロイシン残基がアラニン残基で置き換えられており(L234A)、235位のロイシン残基がアラニン残基で置き換えられており(L235A)、329位のプロリン残基がグリシン残基で置き換えられている(P329G)(KabatEUインデックスによる番号付け)。
【0297】
そのような態様では、Fcドメインは、IgG1 Fcドメイン、特にヒトIgG1 Fcドメインである。アミノ酸置換の「P329G LALA」の組み合わせは、参照により全体が本明細書に援用される国際公開第2012/130831号に記載のように、ヒトIgG1 FcドメインのFcγ受容体(並びに補体)結合をほぼ完全に消失させる。国際公開第2012/130831号には、そのような変異体Fcドメインを調製する方法及びその特性(Fc受容体結合又はエフェクター機能など)を決定する方法も記載されている。
【0298】
IgG4抗体は、IgG1抗体と比較して、Fc受容体への結合親和性の低下及びエフェクター機能の低下を示す。したがって、いくつかの態様では、本発明の(多重特異性)抗体のFcドメインは、IgG4 Fcドメイン、特にヒトIgG4 Fcドメインである。一態様では、IgG4 Fcドメインは、S228位にアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換S228P(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。Fc受容体に対するその結合親和性及び/又はそのエフェクター機能をさらに低下させるために、一態様では、IgG4 Fcドメインは、L235位にアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換L235E(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。別の態様では、IgG4 Fcドメインは、P329位にアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換P329G(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。好ましい態様では、IgG4 Fcドメインは、S228位、L235位及びP329位にアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換S228P、L235E及びP329G(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。そのようなIgG4 Fcドメイン変異体及びそのFcγ受容体結合特性は、国際公開第2012/130831号(参照により全体が本明細書に援用される)に記載されている。
【0299】
好ましい態様では、天然のIgG1 Fcドメインと比較してFc受容体への結合親和性の低下及び/又はエフェクター機能の低下を示すFcドメインは、アミノ酸置換L234Aと、L235Aと、任意選択でP329Gとを含むヒトIgG1 Fcドメイン、又はアミノ酸置換S228Pと、L235Eと、任意選択でP329G(Kabat EUインデックスによる番号付け)とを含むヒトIgG4 Fcドメインである。
【0300】
特定の態様では、FcドメインのN-グリコシル化は排除されている。そのような態様の1つでは、FcドメインはN297位のアミノ酸変異、特にアスパラギンをアラニン(N297A)又はアスパラギン酸(N297D)に置き換えたアミノ酸置換(Kabat EUインデックスによる番号付け)を含む。
【0301】
本明細書上記及び国際公開第2012/130831号に記載のFcドメインに加えて、Fc受容体結合及び/又はエフェクター機能の低下を伴うFcドメインは、Fcドメイン残基238、265、269、270、297、327、及び329の1つ又は複数の置換を有するものも含む(米国特許第6737056号)(Kabat EUインデックスによる番号付け)。そのようなFc変異体には、アラニンへの残基265及び297の置換を有するいわゆる「DANA」Fc変異体(米国特許第7,332,581号)を含む、アミノ酸位置265位、269位、270位、297位及び327位のうちの2つ以上に置換を有するFc変異体が含まれる。
【0302】
変異体Fcドメインは、当技術分野で周知の遺伝学的又は化学的方法を使用して、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は修飾によって調製することができる。遺伝的方法には、コード化DNA配列の部位特異的突然変異誘発、PCR、遺伝子合成等が含まれ得る。正確なヌクレオチド変化は、例えば配列決定によって確認することができる。
【0303】
Fc受容体への結合は、例えば、ELISAによって又は標準的な機器、例えばBIAcore機器(GE Healthcare)及び例えば組換え発現により得られ得るFc受容体を使用する表面プラズモン共鳴(SPR)によって、容易に決定することができる。あるいはまた、Fcドメイン又はFcドメインを含む(多重特異性)抗体のFc受容体に対する結合親和性は、FcγIIIa受容体を発現するヒトNK細胞など、特定のFc受容体を発現することが知られている細胞株を使用して評価することができる。
【0304】
Fcドメイン又はFcドメインを含む(多重特異性)抗体のエフェクター機能は、当技術分野で既知の方法で測定することができる。目的の分子のADCC活性を評価するためのin vitroアッセイの例は、米国特許第5500362号;Hellstrom et al.Proc Natl Acad Sci USA 83,7059-7063(1986)、及びHellstrom et al.,Proc Natl Acad Sci USA 82,1499-1502(1985);米国特許第5821337号;Bruggemann et al.,J Exp Med 166,1351-1361(1987)に記載されている。あるいはまた、非放射性アッセイを使用してもよい(例えば、フローサイトメトリー用のACTI(商標)非放射性細胞毒性アッセイ(CellTechnology,Inc.Mountain View,CA);及びCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞毒性アッセイ(Promega、Madison、WI))。そのようなアッセイに有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。代替的に、あるいは追加的に、目的の分子のADCC活性は、in vivoで、例えば、Clynesら、Proc Natl Acad Sci USA 95、652-656(1998)に開示されるような動物モデルにおいて評価され得る。
【0305】
いくつかの態様では、補体成分に対するFcドメインの結合、具体的にはC1qに対する結合が低下する。したがって、Fcドメインが低下したエフェクター機能を有するように設計されているいくつかの態様では、前述のエフェクター機能の低下はCDCの低下を含む。C1q結合アッセイが、Fcドメイン又はFcドメインを含む(多重特異性)抗体がC1qに結合でき、ゆえにCDC活性を有するかどうかを決定するために実行され得る。例えば、国際公開第2006/029879号及び国際公開第2005/100402号のC1q及びC3c結合ELISAを参照。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを行うことができる(例えば、Gazzano-Santoro et al.,J.Immunol.Methods 202:163(1996);Cragg,et al.,Blood 101:1045-1052(2003);及びCragg,and Glennie,Blood 103:2738-2743(2004)を参照)。
【0306】
FcRn結合及びin vivoクリアランス/半減期の決定も、当技術分野で知られている方法を使用して行うことができる(例えば、Petkova,S.B.et al.,Int’l.Immunol.18(12):1759-1769(2006);国際公開第2013/120929号を参照されたい)。
【0307】
B.ポリヌクレオチド
本発明はさらに、本発明の抗体をコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。前記単離されたポリヌクレオチドは、単一のポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチドであり得る。
【0308】
本発明の(多重特異性)抗体をコードするポリヌクレオチドは、抗体全体をコードする単一のポリヌクレオチドとして発現されてもよく、又は共発現される複数の(例えば2つ以上の)ポリヌクレオチドとして発現されてもよい。共発現されるポリヌクレオチドによりコードされたポリペプチドは、例えばジスルフィド結合又は他の手段により会合し、機能的抗体を形成することができる。例えば、抗体の軽鎖部分は、抗体の重鎖を含む抗体の部分とは別のポリヌクレオチドによってコードされ得る。共発現されると、重鎖ポリペプチドは軽鎖ポリペプチドと会合して抗体を形成する。別の例では、2つのFcドメインサブユニットの1つと、任意選択的に1つ又は複数のFab分子(の一部)を含む抗体の部分は、2つのFcドメインサブユニットの他方及び任意選択的にFab分子(の一部)を含む抗体の部分からの別個のポリヌクレオチドによってコード化できる。共発現されると、Fcドメインサブユニットは会合して、Fcドメインを形成する。
【0309】
いくつかの態様では、単離されたポリヌクレオチドは、本明細書に記載の本発明による抗体分子全体をコードする。他の態様では、単離されたポリヌクレオチドは、本明細書に記載の本発明による抗体に含まれるポリペプチドをコードする。
【0310】
特定の態様では、ポリヌクレオチド又は核酸はDNAである。他の態様では、本発明のポリヌクレオチドは、例えばメッセンジャーRNA(mRNA)の形態のRNAである。本発明のRNAは、一本鎖であっても二本鎖であってもよい。
【0311】
C.組換え法
本発明の抗体は、例えば、固体状態ペプチド合成(例えば、Merrifield固相合成)又は組換え産生によって得ることができる。組換え産生の場合、例えば上述したように、抗体をコードする1つ又は複数のポリヌクレオチドが単離され、宿主細胞内でのさらなるクローニング及び/又は発現のために1つ又は複数のベクターに挿入される。そのようなポリヌクレオチドは、従来の手順を使用して容易に単離及び配列決定され得る。一態様では、本発明のポリヌクレオチド(すなわち、単一のポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチド)を含むベクター、特に発現ベクターが提供される。当業者に周知の方法を使用し、適切な転写/翻訳制御シグナルと共に、抗体のコード配列を含む発現ベクターを構築することができる。これら方法には、in vitro組換えDNA技術、合成技術及びin vivo組換え/遺伝子組換えが含まれる。例えば、Maniatis et al.,Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,N.Y.(1989);及びAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates and Wiley Interscience,N.Y(1989)に記載される技術を参照されたい。発現ベクターは、プラスミド、ウイルスの一部とすることができるか、又は核酸断片であり得る。発現ベクターは、抗体をコードするポリヌクレオチド(すなわちコード領域)がプロモーター及び/又は他の転写又は翻訳制御要素と作動可能に会合してクローニングされる発現カセットを含む。ここで使用される「コード領域」は、アミノ酸中に翻訳されたコドンからなる核酸の一部分である。「停止コドン」(TAG、TGA又はTAA)は、アミノ酸中に翻訳されないが、存在する場合はコード領域の一部であると考えられる。但し、あらゆる隣接配列、例えばプロモーター、リボソーム結合部位、転写ターミネーター、イントロン、5’及び3’未翻訳領域等は、コード領域の一部ではない。2つ以上のコード領域が、単一のポリヌクレオチド構築物中(例えば単一のベクター上)に、又は別々のポリヌクレオチド構築物中(例えば別々の(異なる)ベクター上)に存在し得る。さらに、任意のベクターは、単一のコード領域を含んでいてもよく、又は2つ以上のコード領域を含んでいてもよく、例えば本発明のベクターは、タンパク質分解性切断によって翻訳後又は翻訳と同時に最終タンパク質に分離される1つ又は複数のポリペプチドをコードしてもよい。さらに、本発明のベクター、ポリヌクレオチド、又は核酸は、本発明の抗体又はそのバリアント若しくは誘導体をコードするポリヌクレオチドに融合した、又は融合していない異種コード領域をコードすることができる。異種コード領域には、限定されないが、分泌シグナルペプチド又は異種機能性ドメイン等の特殊な要素又はモチーフが含まれる。作動可能な会合とは、ポリペプチドなどの遺伝子産物のコード領域が、遺伝子産物の発現を制御配列の影響下又は制御下に置くように、1つ又は複数の制御配列と会合している場合である。2つのDNA断片(ポリペプチドコード領域とそれに関連付けられたプロモーター等)は、プロモーター機能の誘導により、所望の遺伝子生成物をコードするmRNAが転写される場合、及び2つのDNA断片間の結合の性質が、遺伝子生成物の発現を指示する発現調節配列の能力を妨げないか、又はDNAテンプレートの転写能力を妨げない場合、「作動可能に会合」している。したがって、プロモーターが、ポリペプチドをコードする核酸の転写を行うことができた場合、プロモーター領域は、ポリペプチドをコードする核酸と作用可能に会合していると思われる。プロモーターは、所定の細胞においてのみDNAの実質的な転写を指示する細胞特異的プロモーターであり得る。プロモーター以外の他の転写調節要素、例えばエンハンサー、オペレーター、リプレッサー、及び転写終結シグナルをポリヌクレオチドと作動可能に会合させて、細胞特異的転写を指示することができる。適切なプロモーター及び他の転写調節領域が本明細書に開示されている。様々な転写調節領域が当業者に知られている。これらには、限定されないが、脊椎動物細胞において機能する転写調節領域、例えば、限定されないが、サイトメガロウイルス由来のプロモーター及びエンハンサーセグメント(例えば、最初期プロモーターとイントロンA)、シミアンウイルス40(例えば最初期プロモーター)、及びレトロウイルス(例えばラウス肉腫ウイルスなど)が含まれる。他の転写制御領域としては、脊椎動物遺伝子から誘導されるもの、例えば、アクチン、ヒートショックタンパク質、ウシ成長ホルモン及びウサギβ-グロビン、及び真核細胞において遺伝子発現を制御することが可能な他の配列が挙げられる。さらなる適切な転写制調節域としては、組織特異的なプロモーター及びエンハンサー、並びに誘導性プロモーター(例えば、テトラサイクリンによって誘導可能なプロモーター)が挙げられる。同様に、種々の翻訳制御要素は当業者に知られている。これらには、限定されないが、リボソーム結合部位、翻訳開始及び終結コドン、及びウイルス系由来の要素(特に、CITE配列とも呼ばれる内部リボソーム侵入部位又はIRES)が含まれる。発現カセットはまた、複製起点、及び/又はレトロウイルスの長い末端反復(LTR)又はアデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)等の染色体組み込み要素等の他の特徴を含み得る。
【0312】
本発明のポリヌクレオチド及び核酸コード領域は、本発明のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの分泌を指示する分泌ペプチド又はシグナルペプチドをコードする追加のコード領域と関連し得る。例えば、抗体の分泌が望ましい場合、シグナル配列をコードするDNAは、本発明の抗体又はその断片をコードする核酸の上流に置かれていてもよい。シグナル仮説によれば、哺乳動物細胞によって分泌されるタンパク質は、粗い小胞体を横切る成長中のタンパク質鎖の輸送が開始されると成熟タンパク質から切断される、シグナルペプチド又は分泌リーダー配列を有する。当業者は、脊椎動物細胞によって分泌されるポリペプチドが、通常、ポリペプチドのN末端に融合されたシグナルペプチドを有し、これが、翻訳されたポリペプチドから切断されて、ポリペプチドの分泌形態又は「成熟」形態を生成することを承知している。特定の態様では、天然のシグナルペプチド、例えば免疫グロブリン重鎖若しくは軽鎖シグナルペプチド、又はそれと作動可能に会合しているポリペプチドの分泌を指示する能力を保持する、その配列の機能的誘導体が使用される。代替的に、異種哺乳動物シグナルペプチド又はその機能的誘導体が使用されてもよい。例えば、野生型リーダー配列は、ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)又はマウスβ-グルクロニダーゼのリーダー配列で置換され得る。
【0313】
後の精製を容易にするため又は抗体を標識するのに役立てるために使用可能な短いタンパク質配列(例えば、ヒスチジンタグ)をコードするDNAが、ポリヌクレオチドをコードする抗体(断片)の中に、又はその末端に含まれていてもよい。
【0314】
さらなる態様では、本発明のポリヌクレオチド(すなわち単一のポリヌクレオチド又は複数のポリヌクレオチド)を含む宿主細胞が提供される。特定の態様では、本発明のベクターを含む宿主細胞が提供される。ポリヌクレオチド及びベクターには、ポリヌクレオチド及びベクターのそれぞれに関連して本明細書に記載される特徴のいずれかを、単独で又は組み合わせて組み込むことができる。そのような一態様では、宿主細胞は、本発明の抗体(の一部)をコードする1つ又は複数のポリヌクレオチドを含む1つ又は複数のベクターを含む(例えば、形質転換又はトランスフェクトされている)。本明細書で使用される場合、「宿主細胞」という用語は、本発明の抗体又はその断片を生成するように操作することが可能な任意の種類の細胞系を指す。抗体の複製及び発現補助に適した宿主細胞は、当技術分野で周知である。このような細胞は、特定の発現ベクターで適宜トランスフェクション又は形質導入し、大量のベクター含有細胞を増殖させて大規模な発酵槽に播種し、臨床応用に十分な量の抗体を得ることができる。適切な宿主細胞には、大腸菌などの原核微生物、又はチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、昆虫細胞などの様々な真核細胞が含まれる。例えば、ポリペプチドは、特にグリコシル化が必要でないとき、細菌中で生成され得る。発現の後、ポリペプチドは可溶性画分において細菌細胞のペーストから単離することができ、さらに精製することができる。原核生物に加えて、糸状菌又は酵母菌のような真核微生物は、菌類や酵母菌株を含むポリペプチドをコードするベクターのための適切なクローニング宿主又は発現宿主であり、そのグリコシル化経路は「ヒト化」されており、部分的に又は完全にヒトのグリコシル化パターンを有するポリペプチドの生成をもたらす。Gerngross,Nat Biotech 22,1409-1414(2004)、及びLi et al.,Nat Biotech 24,210-215(2006)を参照。(グリコシル化)ポリペプチドの発現に適した宿主細胞はまた、多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)に由来する。無脊椎動物細胞の例には、植物細胞及び昆虫細胞が挙げられる。多数のバキュロウイルス株が同定されており、昆虫細胞と組み合わせて使用し得、特にスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションに使用し得る。植物細胞培養物も、宿主として利用し得る。例えば、米国特許第5,959,177号、第6,040,498号、第6,420,548号、第7,125,978号、及び第6,417,429号(トランスジェニック植物において抗体を生成するためのPLANTIBODIES(商標)技術を記載)を参照されたい。脊椎動物細胞も宿主として使用され得る。例えば、懸濁液中で増殖するように適合されている哺乳動物細胞株は、有用であり得る。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40(COS-7)によって形質転換されたサル腎臓CV1株;ヒト胚腎臓株(例えば、Graham et al.,J Gen Virol 36,59(1977)に記載される293細胞又は293T細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、マウスセルトリ細胞(例えばMather,Biol Reprod 23,243-251(1980)に記載されるTM4細胞)、サル腎臓細胞(CV1)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76)、ヒト子宮頸癌細胞(HELA)、イヌ腎臓細胞(MDCK)、バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝臓細胞(Hep G2)、マウス乳房腫瘍細胞(MMT 060562)、TRI細胞(例えば、Mather et al.,Annals N.Y.Acad Sci 383,44-68(1982)に記載される)、MRC 5細胞、及びFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株は、dhfr- CHO細胞(Urlaub et al.,Proc Natl Acad Sci USA 77,4216(1980))を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞;並びにYO、NS0、P3X63、及びSp2/0等の骨髄腫細胞株を含む。タンパク質産生に適した特定の哺乳動物宿主細胞株の総説については、例えば、Yazaki and Wu,Methods in Molecular Biology,Vol.248(B.K.C.Lo,ed.,Humana Press,Totowa,NJ),p.255-268(2003)を参照のこと。宿主細胞には、培養細胞、例えばいくつか挙げると、哺乳動物の培養細胞、酵母細胞、昆虫細胞、細菌細胞及び植物細胞が含まれ、さらにはトランスジェニック動物、トランスジェニック植物又は培養植物若しくは動物組織内部に含まれる細胞も含まれる。一態様では、宿主細胞は、真核細胞、特に、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胚腎臓(HEK)細胞又はリンパ球細胞(例えばY0、NS0、Sp20細胞)などの哺乳動物細胞である。一態様では、宿主細胞はヒト体内の細胞ではない。
【0315】
これら系で外来遺伝子を発現させるための標準的な技術は、当技術分野で既知である。抗体等の抗原結合ドメインの重鎖又は軽鎖のいずれか一方を含むポリペプチドを発現する細胞を、もう一方の抗体鎖も発現するように操作して、発現産物が重鎖と軽鎖の両方を有する抗体であるようにしてもよい。
【0316】
一態様では、本発明による抗体を製造する方法が提供され、この方法は、抗体の発現に適した条件下で、本明細書で提供される抗体をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を培養することと、任意選択で、宿主細胞(又は宿主細胞培地)から該抗体を回収することとを含む。
【0317】
本発明の(多重特異性)抗体の構成要素は、互いに遺伝的に融合することができる。(多重特異性)抗体は、その構成要素が互いに直接的に又はリンカー配列を介して間接的に融合されているように設計することができる。リンカーの組成及び長さは、当技術分野で周知の方法に従って決定することができ、有効性について試験することができる。(多重特異性)抗体の異なる構成要素間のリンカー配列の例を本明細書で提供する。融合の個々の構成成分を分離するための切断部位を組み込むために、追加の配列、例えばエンドペプチダーゼ認識配列を必要に応じて含めることもできる。
【0318】
本明細書で記載するように調製される抗体は、例えば、高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー等の当技術分野で既知の技術によって精製され得る。特定のタンパク質を精製するのに使用される実際の条件は、部分的には、正味電荷、疎水性、親水性などの要因に依拠し、当業者には明らかであろう。アフィニティークロマトグラフィー精製の場合、抗体が結合する抗体、リガンド、受容体又は抗原を使用することができる。例えば、本発明の抗体のアフィニティークロマトグラフィー精製の場合、プロテインA又はプロテインGを含むマトリックスを使用することができる。連続的なプロテインA又はGアフィニティークロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーを使用して、本質的に実施例に記載されているように抗体を単離することができる。抗体の純度は、ゲル電気泳動、高圧液体クロマトグラフィーなどを含む様々な周知の分析方法のいずれかによって決定することができる。
【0319】
D.アッセイ
本明細書で提供される抗体は、当技術分野で知られている様々なアッセイによって、それらの物理的/化学的特性及び/又は生物学的活性について同定、スクリーニング、又は特徴づけすることができる。
【0320】
1.結合アッセイ
Fc受容体又は標的抗原に対する抗体の結合(親和性)は、例えば、BIAcore機器(GE Healthcare)などの標準的な器具類と、組換え発現によって得ることができる受容体又は標的タンパク質とを使用する表面プラズモン共鳴(SPR)によって決定することができる。あるいはまた、異なる受容体又は標的抗原への抗体の結合は、特定の受容体又は標的抗原を発現する細胞株を使用して、例えばフローサイトメトリー(FACS)によって評価することができる。CD3への結合活性を測定するための特定の例証的及び例示的な態様を以下に記載する。
【0321】
一態様では、CD3への結合活性は、以下のようにSPRによって決定される:
SPRは、Biacore T200機器(GE Healthcare)で実行される。抗Fab捕捉抗体(GE Healthcare、#28958325)は、標準的なアミンカップリング化学を使用して、4000~6000共鳴単位(RU)の表面密度でシリーズ S センサーチップCM5(GE Healthcare)に固定化されている。ランニング及び希釈バッファーとして、HBS-P+(10mM HEPES、150mM NaCl pH7.4、0.05% Surfactant P20)を使用する。2μg/mlの濃度のCD3抗体(20mM His、140mM NaCl、pH6.0中)を5μl/分の流量で約60秒間注入する。使用されるCD3抗原は、ノブ・イントゥ・ホール修飾及びC末端Aviタグを有するヒトFcドメインに融合されたCD3デルタ及びCD3イプシロンエクトドメインのヘテロ二量体である(配列番号24及び25を参照)。CD3抗原を10μg/mlの濃度で120秒間注入し、解離を5μl/分の流量で約120秒間モニターする。チップ表面は、10mMグリシン pH2.1をそれぞれ約60秒間2回連続して注入することによって再生される。バルク屈折率の差は、ブランク注入を差し引くことによって、及びブランク対照フローセルから得られた応答を差し引くことによって補正される。評価のために、注入終了から5秒後に結合応答が取得される。結合シグナルを正規化するために、CD3結合を抗Fab応答(固定化抗Fab抗体上のCD3抗体の捕捉時に得られるシグナル(RU))で割る。異なる処理後の抗体のCD3に対する結合活性に対する、ある処理後の抗体のCD3に対する結合活性(相対活性濃度(RAC)ともいう)は、ある処理後の抗体試料の結合活性を、別の処理後の対応する抗体試料の結合活性に参照することによって計算される。
【0322】
2.活性アッセイ
本発明の(多重特異性)抗体の生物学的活性は、実施例に記載されている様々なアッセイにより測定することができる。生物活性には、例えば、T細胞の増殖の誘導、T細胞中のシグナル伝達の誘導、T細胞中の活性化マーカーの発現の誘導、T細胞によるサイトカイン分泌の誘導、がん細胞などの標的細胞の溶解の誘導、並びに腫瘍後退の誘導及び/又は生存率の改善が含まれ得る。
【0323】
E.組成物、製剤、及び投与経路
さらなる態様では、本発明は、本明細書で提供される抗体のいずれかを含む医薬組成物、例えば、下記の治療方法のいずれかに使用するための医薬組成物を提供する。一態様では、医薬組成物は、本発明による抗体と、薬学的に許容される担体とを含む。別の態様では、医薬組成物は、本発明による抗体と、例えば以下に記載するような、少なくとも1つの追加の治療剤とを含む。
【0324】
さらに、本発明の抗体をin vivoでの投与に適した形態で産生する方法が提供され、該方法は、(a)本発明による抗体を得ること、及び(b)抗体を少なくとも1つの薬学的に許容される担体とともに製剤化することを含み、これにより、抗体の調製物がin vivo投与用に製剤化される。
【0325】
本発明の医薬組成物は、薬学的に許容される担体に溶解又は分散された有効量の抗体を含む。「薬学的に許容される」という語句は、用いられる投薬量及び濃度でレシピエントに対して一般に無毒である、すなわち、例えばヒトなどの動物に必要に応じて投与されたとき、副作用、アレルギー反応又は他の有害反応を生じない分子実体及び組成物を指す。抗体及び任意選択的に追加の活性成分を含む医薬組成物の調製は、参照により本明細書に援用されるRemington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.Mack Printing Company,1990に示されているように、本開示に照らして当業者には公知であろう。さらに、動物(例えば、ヒト)への投与について、製剤は、FDA Office of Biological Standards又は他の国の対応する機関によって要求される無菌状態、発熱性、一般的な安全性及び純度基準を満たすべきであることが理解されよう。好ましい組成物は、凍結乾燥製剤又は水溶液である。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、あらゆる溶媒、バッファー、分散媒体、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、防腐剤(例えば抗菌剤、抗真菌剤)、等張化剤、吸収遅延剤、塩、保存剤、酸化防止剤、タンパク質、薬物、薬物安定化剤、ポリマー、ゲル、バインダー、賦形剤、崩壊剤、滑剤、甘味剤、香味剤、染料など、当業者には知られているような材料及びそれらの組み合わせを含む(例えば、参照により本明細書に援用されるRemington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.Mack Printing Company,1990,1289-1329頁を参照)。従来の担体が有効成分と不適合である場合を除いて、医薬組成物におけるその使用が企図される。
【0326】
本発明の抗体(及び任意の追加の治療剤)は、非経口、肺内、及び鼻腔内、並びに局所治療のために望まれる場合、病変内投与を含む、任意の適切な手段によって投与することができる。非経口注入には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内又は皮下投与が含まれる。投薬は、その投与が短期か又は長期かに部分的に依存して、任意の好適な経路、例えば、静脈内又は皮下注射等の注射により行うことができる。
【0327】
非経口組成物には、注射による投与、例えば、皮下、皮内、病巣内、静脈内、動脈内、筋肉内、髄腔内又は腹腔内注射用に設計されたものが含まれる。注射の場合、本発明の抗体は、水溶液、特にハンクス液、リンゲル液、又は生理食塩水バッファーなどの生理学的に適合するバッファー中で製剤化され得る。溶液は、懸濁剤、安定化剤及び/又は分散剤などの製剤化剤を含有していてもよい。あるいはまた、抗体は、使用前に、適切なビヒクル、例えば発熱物質を含まない無菌水で構成するための粉末形態であってもよい。滅菌注射用溶液は、必要に応じて、以下に列挙する様々な他の成分とともに、適切な溶媒中に必要な量の本発明の抗体を組み込むことによって調製される。滅菌は、例えば、滅菌濾過膜を通した濾過によって容易に達成され得る。一般的に、分散物は、種々の滅菌した有効成分を、塩基性分散媒体及び/又は他の成分を含む滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。滅菌注射可能溶液、懸濁液又は乳化物を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、既に滅菌濾過した液体媒体から有効成分と任意の追加の所望な成分の粉末が得られる減圧乾燥又は凍結乾燥技術である。液体媒体は、必要な場合には適切に緩衝されているべきであり、注射する前に、十分な食塩水又はグルコースで液体希釈剤をまず等張性にする。組成物は、製造及び貯蔵条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌といった微生物の汚染作用から保護されなければならない。エンドトキシンの混入は、最小限安全なレベル、例えば、0.5ng/mgタンパク質未満に保たれるべきであることが理解されよう。薬学的に許容される適切な担体には、限定されないが、リン酸、クエン酸、及びその他の有機酸などのバッファー;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(オクタデシルジメチオルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド、フェノール、ブチル若しくはベンジルアルコール;メチル若しくはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;タンパク質(血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリンなど);親水性ポリマー(ポリビニルピロリドン;アミノ酸(グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジンなど);グルコース、マンノース若しくはデキストリンを含む、単糖類、二糖類その他の糖質;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース若しくはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例:Zn-タンパク質錯体);及び/又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が含まれる。水性注射懸濁液は、懸濁液の粘度を上げる化合物(例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトール、デキストラン等)を含んでいてもよい。任意に、懸濁液は、好適な安定化剤、又は高度に濃縮した溶液の調製を可能にするために、化合物の溶解度を高める薬剤も含んでいてもよい。さらに、活性化合物の懸濁液は、適切な油注射懸濁液として調製されてもよい。好適な親油性溶媒又はビヒクルには、ゴマ油等の脂肪油、又はオレイン酸エチル(ethyl cleat)若しくはトリグリセリド等の合成脂肪酸エステル、又はリポソームが挙げられる。
【0328】
活性成分はまた、例えば、コアセルベーション技術によって、又は界面重合によって調製されたマイクロカプセル、例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロース若しくはゼラチンマイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルにより、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロ乳濁液、ナノ粒子、及びナノカプセル)内、又はマクロ乳濁液中にも取り込まれ得る。そのような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(18th Ed.Mack Printing Company,1990)に開示される。徐放性調製物を調製してもよい。徐放性製剤の好適な例としては、ポリペプチドを含有する固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックスが挙げられ、このマトリックスは、例えば、フィルム又はマイクロカプセル等の成型物品の形態である。特定の態様では、注射可能な組成物の持続性吸収は、吸収を遅らせる薬剤(例えばアルミニウムモノステアレート、ゼラチン又はこれらの組み合わせ)の組成物における使用によってもたらすことができる。
【0329】
前述の組成物に加えて、抗体はデポー製剤として製剤化することもできる。そのような徐放性調製物は、移植(例えば、皮下又は筋肉内)又は筋肉内注射によって投与することができる。したがって、例えば、抗体は、適切なポリマー材料又は疎水性材料(例えば、許容される油中のエマルジョンとして)又はイオン交換樹脂を用いて、又は難溶性誘導体として、例えば難溶性塩として製剤化され得る。
【0330】
本発明の抗体を含む医薬組成物は、従来の混合、溶解、乳化、カプセル化、封入又は凍結乾燥工程により製造することができる。医薬組成物は、1つ又は複数の生理学的に許容される担体、希釈剤、添加物又はタンパク質を医薬として使用可能な製剤へと加工するのを容易にする補助剤を用い、従来の方法で製剤化することができる。適切な製剤は、選択した投与経路に依存する。
【0331】
抗体は、遊離酸又は遊離塩基、中性又は塩形態の組成物に製剤化され得る。薬学的に許容される塩は、遊離酸又は塩基の生物学的活性を実質的に保持する塩である。これらには、酸付加塩、例えば、タンパク質性組成物の遊離アミノ基で形成されるもの、又は有機酸で形成されるもの、例えば、塩酸若しくはリン酸、又は酢酸、シュウ酸、酒石酸、又はマンデル酸等の有機酸が含まれる。また、遊離カルボキシル基と形成される塩は、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム若しくは水酸化第二鉄等の無機塩基;又はイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン若しくはプロカイン等の有機塩基に由来し得る。医薬塩は、対応する遊離塩基形態よりも、水性及び他のプロトン性溶媒に溶けやすい傾向がある。
【0332】
F.治療方法及び組成物
本明細書で提供される抗体のいずれも、治療方法において使用することができる。本発明の抗体は、例えばがん又は自己免疫疾患の治療における免疫療法剤として使用することができる。
【0333】
治療法で使用するために、本発明の抗体は、良好な医療行為と一致する様式で製剤化され、投薬され、投与されるであろう。これに関連して考慮すべき因子には、治療される特定の障害、治療される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール、及び医療施術者に知られている他の因子が含まれる。
【0334】
一態様では、医薬としての使用のための本発明の抗体が提供される。さらなる態様では、疾患の治療における使用のための本発明の抗体が提供される。特定の態様では、治療法における使用のための本発明の抗体が提供される。一態様では、本発明は、疾患の治療を必要とする個体における疾患の治療における使用のための、本発明の抗体を提供する。特定の態様では、本発明は、個体に有効量の抗体を投与することを含む、疾患を有する個体を治療する方法における使用のための抗体を提供する。特定の態様では、疾患は増殖性疾患である。特定の態様では、疾患はがん、特にPLAP発現がんである。特定の態様では、がんは卵巣のがん、肺のがん、又は消化管のがん(例えば胃、結腸、膵臓、又は食道のがん)である。さらに特定の態様では、がんは、卵巣がん、肺がん、胃がん、結腸直腸がん、膵臓がん及び食道がんからなる群から選択されるがんである。特定の態様では、本方法は、少なくとも1種の追加の治療剤(例えば、治療される疾患ががんである場合は抗がん剤、又は治療される疾患が自己免疫疾患の場合は免疫抑制剤)の有効量を個体に投与することをさらに含む。さらなる態様では、本発明は、標的細胞、特にがん細胞の溶解を誘導する際に使用するための本発明の抗体を提供する。特定の態様では、本発明は、標的細胞の溶解を誘導するために個体に有効量の抗体を投与することを含む、個体において、標的細胞、特にがん細胞の溶解を誘導する方法における使用のための本発明の抗体を提供する。上記の態様のいずれかによる「個体」は、哺乳動物、好ましくはヒトである。
【0335】
さらなる態様では、本発明は、医薬の製造又は調製における本発明の抗体の使用を提供する。一態様では、医薬は、疾患の治療を必要とする個体における、疾患の治療のためのものである。さらなる態様では、医薬は、疾患を有する個体に有効量の医薬を投与することを含む、疾患を治療する方法における使用のためのものである。特定の態様では、疾患は増殖性疾患である。特定の態様では、疾患はがん、特にPLAP発現がんである。特定の態様では、がんは卵巣のがん、肺のがん、又は消化管のがん(例えば胃、結腸、膵臓、又は食道のがん)である。さらに特定の態様では、がんは、卵巣がん、肺がん、胃がん、結腸直腸がん、膵臓がん及び食道がんからなる群から選択されるがんである。一態様では、本方法は、少なくとも1種の追加の治療剤(例えば、治療される疾患ががんである場合は抗がん剤、又は治療される疾患が自己免疫疾患の場合は免疫抑制剤)の有効量を個体に投与することをさらに含む。さらなる態様では、医薬は、標的細胞、特にがん細胞の溶解を誘導するためのものである。なおさらなる態様では、医薬は、標的細胞の溶解を誘導するために個体に有効量の医薬を投与することを含む、個体において、標的細胞、特にがん細胞の溶解を誘導する方法における使用のためのものである。上記の態様のいずれかによる「個体」は、哺乳動物、好ましくはヒトであり得る。
【0336】
さらなる態様では、本発明は、疾患を治療するための方法を提供する。一態様では、本方法は、そのような疾患を有する個体に、有効量の本発明の抗体を投与することを含む。一態様では、本発明の抗体を薬学的に許容される形態で含む組成物が前記個体に投与される。特定の態様では、疾患は増殖性疾患である。特定の態様では、疾患はがん、特にPLAP発現がんである。特定の態様では、がんは卵巣のがん、肺のがん、又は消化管のがん(例えば胃、結腸、膵臓、又は食道のがん)である。さらに特定の態様では、がんは、卵巣がん、肺がん、胃がん、結腸直腸がん、膵臓がん及び食道がんからなる群から選択されるがんである。特定の態様では、本方法は、少なくとも1種の追加の治療剤(例えば、治療される疾患ががんである場合は抗がん剤、又は治療される疾患が自己免疫疾患の場合は免疫抑制剤)の有効量を個体に投与することをさらに含む。上記の態様のいずれかによる「個体」は、哺乳動物、好ましくはヒトであり得る。
【0337】
さらなる態様では、本発明は、標的細胞、特にPLAP発現細胞の溶解を誘導する方法を提供する。一態様では、この方法は、T細胞、特に細胞傷害性T細胞の存在下で標的細胞を本発明の抗体と接触させることを含む。さらなる態様では、個体において標的細胞、特にPLAP発現細胞の溶解を誘導するための方法が提供される。そのような一態様では、本方法は、標的細胞の溶解を誘導するために有効量の本発明の抗体を個体に投与することを含む。一態様では、「個体」はヒトである。
【0338】
当業者であれば、多くの場合、抗体は治癒をもたらすものではなく、部分的な利益しかもたらさない可能性があることを容易に認識できる。いくつかの態様では、何らかの利益をもたらす生理学的変化も、治療上有益であると考えられる。したがって、いくつかの態様では、生理学的変化をもたらす抗体の量は「有効量」とみなされる。治療を必要とする対象、患者、又は個体は、典型的には哺乳動物であり、具体的にはヒトである。
【0339】
いくつかの態様では、本発明の抗体の有効量が、疾患の治療のために個体に投与される。
【0340】
疾患の予防又は治療の場合、本発明の抗体の適切な投薬量(単独で又は1種以上の他の追加の治療剤と組み合わせて使用される場合)は、治療される疾患の種類、投与経路、患者の体重、抗体の種類、疾患の重篤度及び経過、抗体が予防目的で投与されるか又は治療目的で投与されるか、以前又は現在の治療介入、患者の病歴及び抗体に対する反応、並びに主治医の裁量に依存するであろう。投与を担当する医師は、いずれにせよ、組成物中の活性成分の濃度及び個々の対象に対する適切な用量を決定するであろう。本明細書では、単回投与又は様々な時点にわたる複数回投与、ボーラス投与、及びパルス注入を含むがこれらに限定されない種々の投薬スケジュールが企図される。
【0341】
抗体は、患者に一度に又は一連の治療にわたって適切に投与される。疾患の種類及び重症度に応じて、例えば単回又は複数回の個別投与によるか、持続注入によるかに関わらず、約1μg/kg-15mg/kg(例えば、0.1mg/kg~10mg/kg)の抗体が上記患者への投与のための初期候補用量となり得る。上記の要因に応じて、典型的な1日あたりの投薬量は、約1μg/kg~100mg/kg又はそれ以上の範囲である可能性がある。数日間又はそれ以上にわたる反復投与の場合、治療は通常、状態に応じて、疾患症状の所望の抑制が生じるまで続けられる。抗体の1つの例示的投薬量は、約0.005mg/kg~約10mg/kgの範囲であろう。他の非限定的な例では、用量は、1回の投与につき、約1マイクログラム/kg体重、約5マイクログラム/kg体重、約10マイクログラム/kg体重、約50マイクログラム/kg体重、約100マイクログラム/kg体重、約200マイクログラム/kg体重、約350マイクログラム/kg体重、約500マイクログラム/kg体重、約1ミリグラム/kg体重、約5ミリグラム/kg体重、約10ミリグラム/kg体重、約50ミリグラム/kg体重、約100ミリグラム/kg体重、約200ミリグラム/kg体重、約350ミリグラム/kg体重、約500ミリグラム/kg体重、約1000mg/kg体重又はそれ以上、及びその中で導出可能な任意の範囲も含む。本明細書に列挙される数字から導き出される範囲の非限定的な例では、上記の数字に基づいて、約5mg/kg体重~約100mg/kg体重、約5マイクログラム/kg体重~約500ミリグラム/kg体重などの範囲が投与され得る。したがって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、5.0mg/kg又は10mg/kg(又はそれらの任意の組み合わせ)の1つ又は複数の用量を患者に投与することができる。かかる用量は、断続的に、例えば毎週又は3週間毎(例えば、患者が約2~約20回、又は例えば約6回の用量の抗体を受容するように)投与されてもよい。最初のより高い負荷用量、続いて1回又は複数回のより低い用量を投与することができる。しかしながら、他の投薬レジメンが有用な場合もある。この治療法の進行は、従来の技術及びアッセイによって容易にモニターされる。
【0342】
本発明の抗体は、通常、意図した目的を達成するのに有効な量で使用される。疾患状態を治療又は予防するために使用するために、本発明の抗体又はその医薬組成物は、有効量で投与又は適用される。
【0343】
全身投与の場合、有効用量は、細胞培養アッセイなどのin vitroアッセイから最初に推定することができる。次いで、細胞培養で決定されたIC50を含む血中濃度範囲を達成するために、動物モデルにおいて用量を策定してもよい。そのような情報を使用し、ヒトにおける有用な用量をさらに正確に決定することができる。
【0344】
また、初期投薬量を、in vivoデータから、例えば、動物モデルから、当技術分野で周知の技術を使用して概算することができる。
【0345】
投薬量及び投与間隔は、治療効果を維持するのに十分な本抗体の血漿濃度が得られるように個別に調節することができる。注射による投与のための通常の患者投薬量は、約0.1~50mg/kg/日、典型的には約0.5~1mg/kg/日の範囲である。治療に有効な血漿レベルは、各日に複数回用量を投与することによって達成されてもよい。血漿中のレベルは、例えば、HPLCによって測定されてもよい。
【0346】
本発明の抗体の有効用量は、一般に、実質的な毒性を引き起こすことなく、治療上の利益を提供する。抗体の毒性及び治療有効性は、細胞培養又は実験動物で、標準的な薬学的手順によって決定することができる。細胞培養アッセイ及び動物研究を使用して、LD50(集団の50%に対する致死量)及びED50(集団の50%で治療的に有効な用量)を決定することができる。毒性効果と治療効果の用量比が治療指数であり、LD50/ED50比として表すことができる。大きな治療指数を示す抗体が好ましい。一態様では、本発明による抗体は、高い治療指数を示す。細胞培養アッセイ及び動物研究から得られたデータは、ヒトでの使用に適した投薬量の範囲を製剤化するために使用できる。投薬量は、好ましくは、毒性がほとんど又はまったくないED50を含む血中濃度の範囲内にある。投薬量は、種々の要因、例えば、用いられる剤形、利用される投与経路、対象の状態等に応じて、この範囲内で変動し得る。正確な製剤、投与経路及び投薬量は、患者の状態という観点から個々の医師により選択され得る(例えば、その全体が参考により本明細書に援用される、The Pharmacological Basis of Therapeutics,Ch.1,p.1のFingl et al.,1975を参照されたい)。
【0347】
本発明の抗体で治療される患者の主治医は、毒性、臓器不全などのために投与を終了、中断又は調整する方法と時期を知っているであろう。逆に、主治医は、臨床反応が適切でない場合、治療をより高いレベルに調整することも知っている(毒性を除いて)。対象となる障害の管理における投与用量の大きさは、治療される状態の重症度、及び投与経路等によって変わる。状態の重症度は、例えば、標準的な予後評価方法によって部分的に評価することができる。さらに、用量及びおそらく投与頻度も、個々の患者の年齢、体重、及び応答に応じて変化するであろう。
【0348】
本発明の抗体は、治療において、1種以上の他の薬剤と組み合わせて投与されてもよい。例えば、本発明の抗体は、少なくとも1つの追加の治療剤と同時投与され得る。「治療剤」という用語は、そのような治療を必要とする個体の症状又は疾患を治療するために投与される任意の薬剤を包含する。そのような追加の治療剤は、治療される特定の疾患に適した任意の活性成分、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない補完的な活性を有する活性成分を含み得る。特定の態様では、追加の治療剤は、免疫調節剤、細胞増殖抑制剤、細胞接着の阻害剤、細胞毒性剤、細胞アポトーシスの活性化剤、又はアポトーシス誘導因子に対する細胞の感受性を増加させる薬剤である。特定の態様では、追加の治療剤は、抗がん剤、例えば微小管破壊剤、抗代謝剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNAインターカレーター、アルキル化剤、ホルモン療法、キナーゼ阻害剤、受容体アンタゴニスト、腫瘍細胞アポトーシスの活性化剤、又は抗血管新生剤である。他の態様では、追加の治療剤は免疫抑制剤である。特定の態様では、追加の治療剤は、コルチコステロイド、ヒドロキシクロロキン、ミコフェノール酸モフェチル、ミコフェノール酸、メトトレキセート、アザチオプリン、シクロホスファミド、カルシニューリン阻害剤、ベリムマブ、リツキシマブ及びオビヌツズマブの群から選択される1つ又は複数である。
【0349】
そのような他の薬剤は、意図する目的に有効な量で組み合わせて適切に存在する。そのような他の薬剤の有効量は、使用される抗体の量、障害又は治療の種類、及び上記で論じた他の要因に依存する。抗体は、一般に、本明細書に記載されるのと同じ投薬量及び投与経路で、又は本明細書に記載される投薬量の約1~99%で、又は経験的/臨床的に適切であると決定される任意の投薬量及び任意の経路で使用される。
【0350】
上記のそのような併用療法には、併用投与(2つ以上の治療剤が同じ又は別個の組成物に含まれる)及び個別の投与が含まれ、この場合、本発明の抗体の投与は、追加の治療剤及び/又はアジュバントの投与前、投与と同時に、及び/又は投与後に行うことができる。本発明の抗体は、放射線療法と組み合わせて使用することもできる。
【0351】
G.製造品
本発明の別の態様では、上述の障害の治療、予防及び/又は診断に有用な材料を含む製造品が提供される。製造品は、容器と、容器に貼られているか又は付随しているラベル又は添付文書とを備える。適切な容器には、例えば、ボトル、バイアル、注射器、IV溶液バッグ等が含まれる。容器は、ガラス又はプラスチック等の様々な材料から形成され得る。容器は、組成物をそれ自体で、又は状態を治療し、予防し、且つ/若しくは診断するのに有効な別の組成物と組み合わせて保持しており、滅菌アクセスポートを有し得る(例えば、容器は、皮下注射針によって穿孔可能なストッパーを有する静脈用溶液袋又はバイアルであってもよい)。組成物中の少なくとも1つの活性剤は、本発明の抗体である。ラベル又は添付文書は、組成物が、選択される症状を治療するために使用されることを示す。さらに、製造品は、(a)本発明の抗体を含む組成物が中に収容されている第1の容器;及び(b)さらなる細胞傷害性剤又はその他の治療剤を含む組成物が中に収容されている第2の容器を備えてもよい。本発明のこの態様における製造品は、組成物が特定の状態を治療するために使用できることを示す添付文書をさらに備えてもよい。これに代えて、又はこれに加えて、製造品は、薬学的に許容されるバッファー、例えば、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝化生理食塩水、リンゲル液及びデキストロース溶液を含む第2の(又は第3の)容器をさらに備えていてもよい。本製造品は、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針及びシリンジを含む、商業的及びユーザーの観点から望ましい他の材料をさらに備えてもよい。
【0352】
H.診断及び検出のための方法及び組成物
特定の態様では、本明細書において提供される抗体のいずれもが、生物学的試料中の、その標的(例えばCD3又はPLAP)の存在を検出するのに有用である。本明細書で使用される場合、「検出する」という用語は、定量的又は定性的な検出を包含する。特定の態様では、生物学的試料は、細胞又は組織、例えば前立腺組織を含む。
【0353】
一態様では、診断又は検出の方法における使用のための、本発明による抗体が提供される。さらなる態様では、生物学的試料中のCD3及びPLAPの存在を検出する方法が提供される。特定の態様では、本方法は、本発明の抗体のCD3又はPLAPへの結合を許容する条件下で、生物学的試料を本発明の抗体と接触させることと、該抗体とCD3又はPLAPとの間で複合体が形成されるかどうかを検出することとを含む。そのような方法は、in vitro法又はin vivo法であってもよい。一態様では、本発明の抗体は、CD3又はPLAPに結合する抗体を用いた治療に適格な対象を選択するために使用され、例えば、CD3又はPLAPは、患者の選択のためのバイオマーカーとなる。
【0354】
本発明の抗体を使用して診断され得る例示的な障害には、がん、特にPLAP発現がんが含まれる。
【0355】
特定の態様では、抗体が標識されている、本発明による抗体が提供される。標識には、直接検出される標識又は部分(蛍光、発色団、高電子密度、化学発光、放射性標識など)、並びに、例えば酵素反応や分子相互作用を通じて間接的に検出される酵素又はリガンドなどの部分が含まれるが、これらに限定されない。例示的な標識には、放射性同位元素32P、14C、125I、3H、及び131I、希土類キレート又はフルオレセイン及びその誘導体などのフルオロフォア、ローダミン及びその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、ルセリフェラーゼ、例えば、ホタルルシフェラーゼ及び細菌ルシフェラーゼ(米国特許第4,737,456号)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、糖オキシダーゼ、例えばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、ウリカーゼやキサンチンオキシダーゼなどの複素環式オキシダーゼを、HRP、ラクトペルオキシダーゼ、又はミクロペルオキシダーゼ、ビオチン/アビジン、スピン標識、バクテリオファージ標識、安定したフリーラジカルなどの色素前駆体を酸化するために過酸化水素を使用する酵素と結合したものなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0356】
【実施例】
【0357】
IV.実施例
以下は、本発明の方法及び組成物の実施例である。上に提供された一般的な説明が与えられると、様々な他の態様が実施され得ることが理解される。
【0358】
実施例1 - 最適化抗CD3(多重特異性)抗体の調製
最適化された抗CD3抗体「P035.093」は、既述の(例えば、参照により本明細書に援用される国際公開第2014/131712号参照)CD3バインダー(ここでは「CD3orig」ともいう)から得られたライブラリーを用いたファージディスプレイ選択操作(selection campaign)により生成したものであり、それぞれ配列番号7、13のVHとVLを含む。これらのライブラリーでは、重鎖のCDR3領域にある位置N97とN100(Kabat番号付け)は、サイレンシングされたか又は除去された。
図2Aに示すように、例示的な標的細胞抗原結合部分(配列番号14及び15)として抗TYRP1抗体を使用して、P035.093をT細胞二重特異性抗体(TCB)フォーマットに変換した。CD3バインダーとしてCD3
orig又はさらに以前に記載されたCD3バインダー(「CD
3opt」、例えば国際公開第2020/127619号を参照)を含む対応する分子も調製した。
【0359】
図2B~Eに示すように、重鎖DNA配列及び軽鎖DNA配列の可変領域を、それぞれのレシピエント哺乳動物発現ベクターに予め挿入された定常重鎖又は定常軽鎖とインフレームでサブクローニングした。
【0360】
試験された抗CD3抗体の配列は、表1に示す配列番号に示されている。
【0361】
表1.本実施例で使用した最適化抗CD3抗体(P035.093)及び比較抗CD3抗体(CD3
orig、CD3
opt)の配列。
【0362】
軽鎖の対応する重鎖との正確な対合をさらに改善するために、TYRP1結合Fab分子のヒトCL(E123R、Q124K)及びヒトCH1(K147E、K213E)に変異が導入された。
【0363】
重鎖の正確な対合(ヘテロ二量体分子の形成)のために、各抗体重鎖の定常領域にノブ・イントゥ・ホール変異を導入した(それぞれ、T366W/S354C、T366S/L368A/Y407V/Y349C)。
【0364】
さらに、抗体重鎖の定常領域にP329G、L234A及びL235A変異を導入し、Fcγ受容体との結合を無効にした。
【0365】
調製したTCB分子の完全な配列は、配列番号16、19、20及び21(P035.093)、配列番号18、19、20及び21(CD3opt)、配列番号17、19、20及び21(CD3orig)に示される。
【0366】
TCBは、Evitria社(スイス)により、独自のベクター系と従来の(非PCRベースの)クローニング技術を使用し、懸濁適応CHO K1細胞(もともとATCCから譲り受け、Evitria社で懸濁培養液中での無血清培養に適応させたもの)を用いて調製された。製造のために、Evitria社は、独自の動物成分非含有無血清培地(eviGrow及びeviMake2)と独自のトランスフェクション試薬(eviFect)を使用した。これらの細胞は、1:1:2:1(「ベクターノブ重鎖」:「ベクターホール重鎖」:「ベクターTYRP-1軽鎖」:「ベクターCD3軽鎖」)の対応する発現ベクターでトランスフェクトされた。遠心分離及びその後の濾過(0.2μmフィルター)により、上清を回収した。
【0367】
Evitria社での調製に代わるものとして、TCB分子を、HEK293 EBNA細胞の一過性トランスフェクションにより、自家で調製した。細胞を遠心分離し、予め温めたCD CHO培地(Thermo Fisher,#10743029)により培地を置き換えた。CD CHO培地中で発現ベクターを混合し、ポリエチレンイミン(PEI;Polysciences社、#23966-1)を加え、その溶液をボルテックスして室温で10分間インキュベートした。その後、細胞(2mio/mL)をベクター/PEI溶液と混合して、フラスコに移し、5%CO2雰囲気の振盪インキュベーター内で、3時間37℃でインキュベートした。インキュベーションの後、補充物(総容積の80%)を含むExcell培地を付加した(W.Zhou and A.Kantardjieff,Mammalian Cell Cultures for Biologics Manufacturing,DOI:10.1007/978-3-642-54050-9;2014)。トランスフェクションの1日後に、補充物(Feed、全体積の12%)を加えた。遠心分離及びその後の濾過(0.2μmフィルター)により、7日後に細胞上清を回収した。
【0368】
タンパク質は、標準的な方法によって、回収した上清から精製した。簡単に説明すると、Fc含有タンパク質を、濾過した細胞培養上清からプロテインAアフィニティークロマトグラフィー(平衡化バッファー:20mMクエン酸ナトリウム、20mMリン酸ナトリウム、pH7.5;溶出バッファー:20mMクエン酸ナトリウム、pH3.0)によって精製した。溶出はpH3.0で達成され、続いて直ちに試料のpHが中和された。タンパク質を、遠心分離(Millipore Amicon(登録商標)ULTRA-15、#UFC903096)によって濃縮し、凝集タンパク質を、20mMヒスチジン、140mM塩化ナトリウム、pH6.0のサイズ排除クロマトグラフィーによって単量体タンパク質から分離した。
【0369】
精製タンパク質の濃度は、Pace,et al.,Protein Science,1995,4,2411-1423に従ってアミノ酸配列に基づいて計算された質量吸光係数を使用して280nmでの吸収を測定することによって決定した。LabChipGXII(Perkin Elmer)を使用して、還元剤の存在下及び非存在下にて、CE-SDSにより、タンパク質の純度及び分子量を分析した。凝集体含量の測定は、分析用サイズ排除カラム(TSKgel G3000 SW XL又はUP-SW3000)をランニングバッファーで平衡化して(それぞれ、25mM K2HPO4、125mM NaCl、200mM Lアルギニンモノヒドロクロリド、pH6.7又は200mM KH2PO4、250mM KCl、pH6.2)使用して、25℃でのHPLCクロマトグラフィーによって行われた。
【0370】
調製したTCB分子の生化学的及び生物物理学的解析の結果を表2に示す。
【0371】
全てのTCB分子を良好な品質で生産することができた。
【0372】
表2.TCBフォーマットの抗CD3抗体の生化学的及び生物物理学的解析。
【0373】
実施例2 - 最適化抗CD3(多重特異性)抗体の熱安定性の測定
実施例1で調製した抗CD3抗体(TCBフォーマット)の熱安定性を、Optim2装置(Avacta Analytical社、英国)を使用して、動的光散乱法(DLS)により、及び温度傾斜を適用することによる温度依存性固有タンパク質蛍光のモニタリングにより、モニターした。
【0374】
タンパク質濃度1mg/mlの10μgの濾過したタンパク質試料をOptim2に2回かけた。温度を0.1℃/分で25℃から85℃まで上昇させ、350nm/330nmでの蛍光強度と266nmでの散乱強度の比を収集した。
【0375】
結果を表3に示す。実施例1で製造された最適化されたCD3バインダーの凝集温度(Tagg)及び観察された温度誘導アンフォールディング転移の中点(Tm)は、既述のCD3バインダーCD3orig及びCD3optよりも高い。
【0376】
表3.動的光散乱及び温度依存性固有タンパク質蛍光の変化により測定した、TCBフォーマットの抗CD3抗体の熱安定性。
【0377】
実施例3 - 表面プラズモン共鳴(SPR)による最適化抗CD3(多重特異性)抗体の機能特性評価
全ての表面プラズモン共鳴(SPR)実験を、ランニングバッファーとしてHBS-EP+(0.01M HEPES pH7.4,0.15M NaCl,3mM EDTA,0.005%界面活性剤P20,Biacore,Freiburg/Germany)を用いて、Biacore T200で25℃にて実施した。
【0378】
親和性測定では、抗Fc(P329G)IgG(ヒトIgG
1 Fc(P329G)に特異的に結合する抗体;「抗PG抗体」-参照により本明細書に援用される国際公開第2017/072210号を参照)を固定化したC1センサーチップ(GE Healthcare)表面で、TCB分子を捕捉した。実験設定を
図3に模式的に示す。捕捉IgGを、標準的なアミンカップリングキット(GE Healthcare Life Sciences)を用いて、約400レゾナンスユニット(RU)の直接固定化によりセンサーチップ表面にカップリングした。
【0379】
CD3との相互作用を分析するために、TCB分子を80秒間、25nMで、10μl/分の流量で捕捉した。ヒト及びカニクイザルCD3εストーク-Fc(ノブ)-Avi/CD3δストーク-Fc(ホール)(CD3ε/δ、配列番号24及び25(ヒト)並びに配列番号26及び27(カニクイザル)参照)を0.122~125nMの濃度で、30μl/分の流量で、300秒間フローセルを通過させた。解離は800秒間モニターされた。
【0380】
バルク屈折率差を、参照フローセルで得られた応答を差し引くことによって補正した。ここでは、抗原を、TCB分子の代わりにHBS-EPが注入された表面であって抗PG抗体が固定化された表面上を飛行させた。
【0381】
Biacore T200 Evaluation Software(GE Healthcare Life Sciences)を用いて反応速度定数を導出し、数値積分によって反応速度式を1:1ラングミュア結合に当てはめた。相互作用の半減期(t1/2)を、式t1/2=ln2/koffを用いて計算した。
【0382】
表4には、既述のバインダーであるCD3orig及びCD3optと比較した、最適化された抗CD3抗体の結合の全ての反応速度パラメーターが列挙されている。最適化された抗CD3抗体P035.093(TCBフォーマット)は、高いpM範囲のKD値でCD3ε/δに結合し、ここでKD値はヒトCD3ε/δで410pM、カニクイザルCD3ε/δで210pMである。CD3orig及びCD3optと比較して、最適化抗CD3抗体のヒトCD3ε/δへの結合の親和性は、SPRによって同一条件下で測定した場合、最大10倍まで増加する。
【0383】
ヒトCD3α/δへの一価結合の半減期は、抗CD3抗体P035.093の場合7.55分で、CD3orig及びCD3optの結合半減期よりも最大4倍長い。
【0384】
表4.抗CD3抗体(TCBフォーマット)のヒトCD3ε/δ及びカニクイザルCD3ε/δに対する親和性
【0385】
実施例4 - ストレス後の最適化抗CD3(多重特異性)抗体の表面プラズモン共鳴(SPR)による特性評価
脱アミド化部位の除去とその抗体の安定性への影響を評価するため、抗CD3抗体(TCBフォーマット)を37℃、pH7.4及び40℃、pH6で14日間インキュべートし、さらにそれらのヒトCD3ε/δへの結合能をSPRで分析した。-80℃、pH6で保存した試料を基準として使用した。参照試料及び40℃でストレスを与えた試料は20mM His、140mM NaCl、pH6.0に、37℃でストレスを与えた試料は、PBS、pH7.4に、全て濃度1.0mg/mlで存在させた。ストレス期間(14日間)の後、さらなる分析のために、PBS中の試料を20mM His、140mM NaCl、pH6.0に透析して戻した。
【0386】
全てのSPR実験は、Biacore T200機器(GE Healthcare)で、25℃で、HBS-P+(10mM HEPES、150mM NaCl pH7.4、0.05% Surfactant P20)をランニング及び希釈バッファーとして用いて実施された。ビオチン化ヒトCD3ε/δ(実施例3、配列番号24及び25参照)及びビオチン化抗huIgG(Capture Select、Thermo Scientific,#7103262100)を、Series S Sensor Chip SA(GE Healthcare、#29104992)上に固定化し、少なくとも1000レゾナンスユニット(RU)の表面密度を得た。濃度2μg/mlの抗CD3抗体を5μl/分の流量で30秒間注入し、解離を120秒間モニターした。10mMグリシンpH1.5を60秒間注入することによって表面を再生した。バルク屈折率の差は、ブランク注入を減算し、ブランク対照フローセルから得られた応答を減算することによって補正した。評価のために、注入終了5秒後の結合応答を取得した。結合シグナルを正規化するために、CD3結合を、抗huIgG応答(固定化された抗huIgG抗体上でのCD3抗体の捕捉時に得られるシグナル(RU))で割った。相対結合活性は、各温度ストレスをかけた試料と、それに対応するストレスをかけていない試料を参照することにより算出した。
【0387】
表5に示すように、実施例1で調製した抗CD3抗体(及びCD3opt)は、CD3origと比較して、ストレス時のCD3α/δへの結合の改善を示している。
【0388】
表5.pH6/40℃又はpH7.4/37℃で2週間インキュベートした後の抗CD3抗体(TCBフォーマット)のヒトCD3ε/δに対する結合活性。
【0389】
実施例5 - 最適化抗CD3(多重特異性)抗体による原発性黒色腫細胞の腫瘍細胞死滅
(TYRP1標的)TCBフォーマットの最適化抗CD3抗体を、ヒト黒色腫細胞株M150543(チューリッヒ大学の皮膚科細胞バンクから入手した原発性黒色腫細胞株)と共インキュベートした新鮮な単離されたヒトPBMCを用いて、腫瘍細胞死滅アッセイで試験した。腫瘍細胞の溶解を、24時間後と48時間後にアポトーシス細胞又はネクローシス細胞によって細胞上清に放出されたLDHの定量化により決定した。CD4及びCD8 T細胞の活性化は、48時間後の両方の細胞サブセットでのCD69及びCD25の上方制御によって分析された。
【0390】
簡単に言えば、標的細胞をトリプシン/EDTAで回収し、洗浄し、平底96ウェルプレートを使用して30000細胞/ウェルの密度でプレーティングした。細胞を一晩接着させた。末梢血単核細胞(PBMC)は、健康なヒトドナーから得られた新鮮な血液のHistopaque密度遠心分離によって調製された。新鮮な血液を滅菌PBSで希釈し、Histopaque勾配(Sigma、#H8889)に積層した。遠心分離(450×g、30分間、室温)後、PBMCを含む中間層(interphase)より上の血漿を捨て、PBMCを新しいファルコンチューブに移し、続いて50mlのPBSで満たした。混合物を遠心分離し(400×g、10分間、室温)、上清を捨て、PBMCペレットを滅菌PBSで2回洗浄した(遠心分離工程:350×g、10分間)。結果として得られたPBMC集団を、自動的にカウントし(ViCell)、10%FCS及び1%L-アラニル-L-グルタミン(Biochrom#K0302)を含有するRPMI1640培地に37℃、5%CO2で、さらなる使用まで細胞インキュベーター内に保存した(24時間以内)。死滅アッセイのために、抗体を指示された濃度で三重に添加した。PBMCを、最終エフェクター対標的(E:T)比10:1で標的細胞に添加した。標的細胞死滅は、37℃、5%CO2で24時間のインキュベーション後、アポトーシス/壊死細胞によって細胞上清に放出されたLDHを定量することによって評価した(LDH検出キット、Roche Applied Science、#11644793001)。標的細胞の最大溶解(=100%)は、標的細胞を1%Triton X-100とインキュベートすることで達成された。最小溶解(=0%)は、二重特異性構築物を含まずにエフェクター細胞と共インキュベートされた標的細胞を指す。
【0391】
TCBによって媒介される標的細胞のT細胞死滅によるCD8及びCD4 T細胞の活性化は、T細胞活性化マーカーCD25(後期活性化マーカー)及びCD69(早期活性化マーカー)を認識する抗体を使用したフローサイトメトリーによって評価された。48時間のインキュベーション後、PBMCを丸底96ウェルプレートに移し、350xgで5分間遠心分離し、FACSバッファーで2回洗浄した。CD4 APC(#300514、BioLegend)、CD8 FITC(#344704、BioLegend)、CD25 BV421(#302630、BioLegend)、及びCD69 PE(#310906、BioLegend)の表面染色は、供給者の表示に従って行った。細胞を150μl/ウェルのFACSバッファーで2回洗浄し、100μl/ウェルの固定バッファー(BD #554655)を使用して4℃で15分間固定した。遠心分離後、試料を200μl/ウェルのFACSバッファーに再懸濁した。試料はBD FACS Fortessaで分析された。
【0392】
抗CD3抗体P035.093を含むTCBで処理すると、親バインダーCD3
orig又はバインダーCD3
optを含むTCBと比較して、最も高い腫瘍細胞死滅とT細胞活性化をもたらした(
図4)。
【0393】
実施例6 - 一価IgGフォーマットの最適化抗CD3抗体の調製
最適化された抗CD3抗体P035.093及び抗体CD3
origを、
図5Aに示すように、CD3結合部分に交差VH及びVLドメインを有する一価ヒトIgG
1フォーマットに変換した。
【0394】
図5B~Dに示すように、重鎖DNA配列及び軽鎖DNA配列の可変領域を、それぞれのレシピエント哺乳動物発現ベクターに予め挿入された定常重鎖又は定常軽鎖とインフレームでサブクローニングした。
【0395】
重鎖の正確な対合(ヘテロ二量体分子の形成)のために、各抗体重鎖の定常領域にノブ・イントゥ・ホール変異を導入した(それぞれ、T366W/S354C、T366S/L368A/Y407V/Y349C)。
【0396】
さらに、抗体重鎖の定常領域にP329G、L234A及びL235A変異を導入し、Fcγ受容体との結合を無効にした。
【0397】
調製した一価IgG分子の完全な配列は、配列番号16、22及び23(P035.093)、配列番号17、22及び23(CD3orig)、配列番号18、22及び23(CD3opt)に示されている。
【0398】
一価IgG分子は、Evitria社(スイス)で調製され、実施例1のTCB分子について記載したように精製され、分析された。これらの細胞のトランスフェクションのために、対応する発現ベクターを1:1:1の比率(「ベクターノブ重鎖」:「ベクターホール重鎖」:「ベクター軽鎖」)で用いた。
【0399】
調製した一価IgG分子の生化学的及び生物物理学的解析の結果を表6に示す。
【0400】
一価IgG分子を両方とも良好な品質で生産することができた。
【0401】
表6.一価IgGフォーマットの抗CD3抗体の生化学的及び生物物理学的解析
【0402】
実施例7 - 最適化抗CD3抗体の熱安定性の測定
(実施例6で調製した)一価IgGフォーマットの抗CD3抗体の熱安定性を、実施例2に記載されるように、動的光散乱法(DLS)により、及び温度依存性固有タンパク質蛍光のモニタリングにより、モニターした。
【0403】
結果を表7に示す。一価IgGフォーマットの最適化CD3バインダーの凝集温度(Tagg)と観察された温度誘導アンフォールディング転移の中点(Tm)は、既述のCD3バインダーCD3origよりも高い。
【0404】
表7.動的光散乱及び温度依存性固有タンパク質蛍光の変化により測定した、一価IgGフォーマットの抗CD3抗体の熱安定性。
【0405】
実施例8 - 表面プラズモン共鳴(SPR)による最適化抗CD3抗体の機能特性評価
SPR実験は、実施例6で調製した一価IgG分子を用いて、実施例3に記載のとおりに実施された。
【0406】
CD3との相互作用を分析するために、一価IgG分子を240秒間、50nMで、5μl/分の流量で捕捉した。ヒト及びカニクイザルCD3εストーク-Fc(ノブ)-Avi/CD3δストーク-Fc(ホール)を0.061~250nMの濃度で、30μl/分の流量で、300秒間フローセルを通過させた。解離は800秒間モニターされた。
【0407】
表8には、前述のバインダーCD3origと比較した、最適化された抗CD3抗体P035.093の結合の全ての反応速度パラメーターが列挙されている。最適化された抗CD3抗体(一価IgGフォーマット)は、高いpM範囲のKD値でCD3ε/δに結合し、ここでKD値はヒトCD3ε/δで450pM、カニクイザルCD3ε/δで220pMである。CD3origと比較して、最適化抗CD3抗体のヒトCD3ε/δへの結合の親和性は、SPRによって同一条件下で測定した場合、最大10倍増加する。
【0408】
ヒトCD3ε/δに対する一価結合の半減期は、抗CD3抗体クローンP033.078の場合8.69分で、CD3origの結合半減期の2倍以上長い。
【0409】
表8.抗CD3抗体(一価IgGフォーマット)のヒトCD3ε/δ及びカニクイザルCD3ε/δに対する親和性3回の測定から得られたデータ。
【0410】
実施例9 - ストレス後の最適化抗CD3抗体の表面プラズモン共鳴(SPR)による特性評価
この実験は、実施例6で調製した一価IgG分子を用いて、実施例4に記載のとおりに実施された。
【0411】
表9に示すように、最適化された抗CD3抗体は、CD3origと比較して、ストレスによるCD3α/δへの結合の改善を示している。
【0412】
表9.pH6/40℃又はpH7.4/37℃で2週間インキュベートした後の(一価IgGフォーマットの)抗CD3抗体のヒトCD3ε/δに対する結合活性。
【0413】
実施例10 - 抗PLAP T細胞二重特異性抗体(PLAP TCB)として最適化された抗CD3抗体の調製
抗CD3抗体P035.093を、標的細胞抗原結合部分として5つの異なる抗PLAP抗体H1~H5(ProMab Biotechnologiesより提供)を使用し(配列番号28~31、48~51(H1)、配列番号32~35、48~51(H2)、配列番号36~39、48~51(H3)、配列番号40~43、配列番号48~51(H4)、配列番号44~51(H5))、実施例1に記載され、
図2Aに示されているフォーマットで、さらなるTCBに変換した。
【0414】
調製されたTCB分子の完全な配列は、配列番号16、52、53及び62(PLAP H1 CD3 P035.093)、配列番号16、54、55及び62(PLAP H2 CD3 P035.093)、配列番号16、52、53及び62(PLAP H1 CD3 P035.093)、配列番号16、56、57及び62(PLAP H3 CD3 P035.093)、配列番号16、58、59及び62(PLAP H4 CD3 P035.093)、並びに配列番号16、60、61及び62(PLAP H5 CD3 P035.093)に示されている。
【0415】
TCBは、HEK Expi293F細胞の一過性トランスフェクションによって産生された。細胞を、Expi293(商標)発現培地(Life Technologies(商標)カタログ番号A1435101)で細胞密度2.5x106細胞/mlまで増殖させ、生命力は>95%であった。
【0416】
発現ベクター(TwistBioscience、1mg DNA/1L細胞培養物)をOpti-MEM(登録商標)(Gibco(登録商標)カタログ番号31985070、50mL/1L細胞培養物)中で混合し、ExpiFectamine293(Life Technologies(商標)カタログ番号A14524、2.7mL/1L細胞培養物)を加え、溶液を室温で20分間インキュベートした。細胞培養物をベクター/ExpiFectamine293溶液(100mL/1L細胞培養物)と混合し、8%CO2雰囲気の振盪インキュベーター内で37℃で7日間インキュベートした。トランスフェクションの18~23時間後、ExpiFectamine293トランスフェクションエンハンサー1(Life Technologie(商標)カタログ番号A14524、5mL/1L細胞培養物)及びエンハンサー2(Life Technologies(商標)カタログ番号A14524、50mL/1L細胞培養物)を加えた。7日後、遠心分離及びその後の濾過(0.2μmフィルター)により細胞上清を回収し、以下に示す標準的な方法により、回収した上清からタンパク質を精製した。
【0417】
標準的なプロトコールを参照して、濾過された細胞培養上清からタンパク質を精製した。簡単に説明すると、Fc含有タンパク質を、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー(Atoll MabSelect SuRe、Ge Healthcare、平衡化バッファー:PBS、pH7.4;溶出バッファー:100mM酢酸ナトリウム、pH3.0)によって細胞培養上清から精製した。溶出はpH3.0で達成され、続いて直ちに試料のpHが中和された。タンパク質を、遠心分離(Millipore Amicon(登録商標)ULTRA-15,Art.Nr.:UFC903096)によって濃縮し、凝集タンパク質を、20mMヒスチジン、140mM塩化ナトリウム、pH6.0中でサイズ排除クロマトグラフィー(HiLoad 26/60 Superdex 200 prep grade、GE Healthcare)によって単量体タンパク質から分離した。さらに、イオン交換クロマトグラフィー(Poros XS カラム、ThermoFischer、平衡化バッファー:40mM酢酸ナトリウム、pH5.5;溶出バッファー:1M酢酸ナトリウム、pH5.5)による精製を、PLAP(H1)、PLAP(H2)及びPLAP(H5)TCBを用いて行い、タンパク質を20mMヒスチジン、140mM塩化ナトリウム、pH6.0にバッファー交換した。
【0418】
精製タンパク質の濃度は、Pace,et al.,Protein Science,4,1995,2411-1423に従ってアミノ酸配列に基づいて計算された質量吸光係数を使用して280nmでの吸収を測定することによって決定した。LabChipGXII(Perkin Elmer)を使用して、還元剤の存在下及び非存在下にて、CE-SDSにより、タンパク質の純度及び分子量を分析した。凝集体含有量の決定は、分析用サイズ排除クロマトグラフィー(Biosuite高分解能SECカラム、250Å、5μm、200mM KH2PO4、250mM KCl pH6.2で平衡化)を使用して、25℃でHPLCクロマトグラフィーによって行った。
【0419】
表10.PLAP TCB分子の生化学的及び生物物理学的分析。
【0420】
実施例11 - 疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)によるPLAP TCB分子の疎水性決定
PLAP TCB分子(実施例10で調製)の疎水性は、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を使用して決定した。このために、試料を20mM His、140mM NaCl、pH6.0で1mg/mlの濃度に希釈した。測定は、HPLCシステム(Thermo Fisher、Ultimate 3000 RS、11μlフローセル、オートサンプラー温度10℃)において、TSKgel Ether-5PW(Tosoh Bioscience、10μm、7.5x75mm)カラムを40℃、移動相A(25mM NaH2PO4/Na2HPO4、1.5M NH4SO4、pH7)及び移動相B(25mM NaH2PO4/Na2HPO4、pH7)を使用し、流量0.8ml/分、勾配:溶離液B 0%/0~2分、13%/3~5分、100%/57~62分、0%/63~65分で実行された。試料量は1回の注入につき20μg、試料量は10μlで、214nm、220nm、及び280nmの吸光度を検出した。分子の相対的な保持時間を決定するため、保持時間の異なる2つの参照分子(REFlow及びREFhigh、20mM His、140mM NaCl、pH6中に1mg/ml、20μg量)の1:1比で構成されるHIC標準混合物を使用した。分子の相対保持時間(RT)は次のように定義される:
相対RT[分]=(主ピーク試料RT[分]-REFlow RT[分])/(REFhigh RT[分]-REFlow RT[分])
結果を表11に示す。0.35より小さい相対保持時間は、疎水性が許容される抗体様タンパク質の特徴である。したがって、PLAP H1 TCB、PLAP H3 TCB、PLAP H4 TCB及びPLAP H5 TCBの疎水性は許容範囲内であるが、PLAP H2 TCBは疎水性基準を超えることがわかった。
【0421】
表11.疎水性相互作用クロマトグラフィーによって決定されたPLAP TCB分子の相対保持時間。
【0422】
実施例12 - PLAP TCB分子の熱安定性の決定
PLAP-TCB(実施例10で調製)の熱安定性は、UNCLE装置(Unchained Labs、USA)を使用して温度勾配を適用することによる静的光散乱(SLS)によってモニターした。測定のために、タンパク質濃度1mg/mlの各試料(20mM His、140mM NaCl、pH6.0中)10μgを二重にUNCLEに適用した。温度を0.1℃/分で30℃から90℃まで上昇させ、266nmでの散乱強度を収集した。
【0423】
結果を表12に示す。凝集温度(Tagg)が64℃より高いタンパク質は、熱的に安定していると考えられる。結果として、全てのPLAP TCB分子はこの基準を満たしている。
【0424】
表12.静的光散乱によって測定されたPLAP TCB分子の熱安定性。
【0425】
実施例13 - ストレス後のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によるPLAP TCB分子の特性評価
抗体の安定性を評価するために、PLAP TCB分子(実施例10で調製)を37℃、pH7.4及び40℃、pH6で14日間インキュベートし、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によりさらに分析し、単量体、高分子種(凝集体、二量体、不純物など)及び低分子種(分解生成物、不純物など)の相対的な含有量を決定した。-80℃、pH6で保存した試料を参照として使用した。参照試料及び40℃でストレスを与えた試料は20mM His、140mM NaCl、pH6.0に、37℃でストレスを与えた試料は、PBS、pH7.4に、全て濃度1.0mg/mlで存在させた。ストレス期間(14日間)の後、さらなる分析のために、PBS中の試料を20mM His、140mM NaCl、pH6.0に透析して戻した。
【0426】
分析のために、5つのPLAP TCB分子を移動相(200mM KH2PO4、250mM KCl pH6.2)で5mg/mlの濃度に希釈した。測定は、TSKgel UP-SW3000(Tosoh Bioscience、2μm、4.6x300mm)カラムを使用したUHPLCシステム(Thermo Fisher、Ultimate 3000 RS、2.5μlフローセル、オートサンプラー温度10℃)で、25℃、流量0.3ml/分、定組成勾配で18分間行った。試料量は1回の注入につき50μg、試料量は10μlであり、280nmの吸光度を検出した。
【0427】
結果を表13に示す。5つのPLAP TCB分子は全て95%を超える単量体含有量を示しており、分子の純度は高い。非ストレス試料(「非ストレス」)の主ピーク含有量とストレス試料(20mM His、pH6.0、140mM中40℃で2週間(「ストレスA」)又は1xPBS、pH7.4中37℃で2週間(「ストレスB」))の主ピーク含有量との差は「デルタ」値と定義され、安定性の指標として機能する。これらのデルタ値は1.0~3.4%の範囲にあり、これは2つの異なるストレス条件下で分子が安定していることを示している。全体として、SECによる分析で、5つのPLAP TCBの純度と安定性が確認された。
【0428】
表13.SEC分析の結果。非ストレス条件(20mM His、pH6.0、140mM NaCl中、-80℃で2週間)と、ストレスA(20mM His、pH6.0、140mM NaCl中、40℃で2週間)とストレスB(1xPBS、pH7.4中、37℃で2週間)の2つのストレス条件におけるPLAP TCB分子の分析SECデータ。高分子量種(HMW)、低分子量種(LMW)。デルタ値の計算:デルタ=Rel.面積[%](主ピーク、非ストレス)-Rel.面積[%](主ピーク、ストレスA又はB)。
*非ストレス試料の主ピーク含有量がストレス試料より小さいため、決定できなかった。
【0429】
実施例14 - ストレス後の表面プラズモン共鳴(SPR)によるPLAP TCB分子の特性評価
PLAP TCB分子(実施例10で調製)の安定性をさらに評価するために、試料に実施例13に記載のようにストレスをかけ、ヒトCD3ε/δに対する結合能力についてSPRによってさらに分析した。
【0430】
SPR実験は、Biacore T200機器(GE Healthcare)で、25℃で、HBS-P+(10mM HEPES、150mM NaCl pH7.4、0.05% Surfactant P20)をランニング及び希釈バッファーとして用いて実施された。抗PG抗体(実施例3を参照)を、アミンカップリング(アミンカップリングキット、Cytiva #BR100050を使用)によって、CM5チップ(センサーチップCM5、Cytiva #29104988)上に、>6000RUの密度で固定化した。HBS-P+中のTCB分子試料の10nM溶液を、流量10μl/分で30秒間捕捉した。次いで、ヒトCD3ε/δ(実施例3、配列番号24及び25を参照)の300nM溶液を、10μl/分の流量で、150秒の会合時間及び120秒の解離時間にわたって注入した。表面の再生に続いて、20mM NaOH溶液を用いた35秒の再生工程が続いた。データは、Biacore T200 Evaluation及びExcelソフトウェアで分析された。相対活性濃度(RAC)の計算には、結合報告点(BRP)を使用した(BRPはSPRにおける標準的な読み出し点であり、抗原と抗体間の相互作用の最大応答(単位/値)である)。
【0431】
この結果から、最適化されたCD3バインダーP035.093のPLAP TCB分子における安定性が確認された。
【0432】
表14.非ストレス条件(20mM His、pH6.0、140mM NaCl中、-80℃で2週間)と、ストレスA(20mM His、pH6.0、140mM NaCl中、40℃で2週間)とストレスB(1xPBS、pH7.4中、37℃で2週間)の2つのストレス条件におけるPLAP TCB分子のSPRデータ。
【0433】
実施例15 - PLAP TCB分子の機能活性
PLAP TCB分子(実施例10で調製)の機能活性を、Jurkatレポーター細胞アッセイで試験した。
【0434】
CHO-K1 ALPP、ALPG、ALPL又はALPI細胞株の生成
PLAP(ALPP)、ALPG(ALPPL2)、ALPL、又はALPIを安定的に発現するCHO-K1細胞を生成するために、同時トランスフェクションされた2つのプラスミドからなるトランスポゾンベクターシステムをトランスフェクションに使用した:目的の遺伝子が2つの逆方向/直接反復IR/DRに隣接しているトランスポゾンベクターと、Sleeping BeautyトランスポザーゼSB100xをコードするベクター。CHO-K1細胞に、ヒトPLAP(ALPP)、ALPPL2、ALPI又はALPL、並びにマウスALPI、ALPPL2又はカニクイザルPLAP(ALPP)をコードするピューロマイシン耐性遺伝子保有トランスポゾンベクターを、製造者の指示に従ってLipofectamine 2000(ThermoFisher,#11668-019)を用いてトランスフェクトした。ピューロマイシン(Gibco、#A11138-03)を用いた抗生物質選択段階を経て、トランスフェクトされた細胞集団を濃縮した後、ヒト、カニクイザル、又はマウスのALPP若しくはホモログを安定して発現するCHO-K1細胞をセルソーティングによって単離した。そこで、ピューロマイシンで選択された細胞プールをヒツジ抗ALPP/ALPI抗体(RnD Systems、#AF5905)又はマウス抗ALPL抗体クローンB4-78(RnD Systems、#MAB1448)で染色し、続いて、それぞれR-PEをコンジュゲートさせた二次抗マウス抗体又は抗ヒツジ抗体で染色した。選別された細胞プールを、2mM L-グルタミン(PAN #P04-80100)、10%FCS(PAN #P30-2006)、及び10μg/mlピューロマイシン(Gibco #A11138-03)を添加したDMEM F12(PAN #P04-41450)において増殖させ、5x106個の細胞アリコートをクライオパン(PAN #P07-92500)で凍結した。生成されたCHO-K1細胞株は、以下のタンパク質を発現する:ヒトPLAP(ALPP)(UniProtKBアクセッション #P05187)、ヒトALPLL2(UniProtKBアクセッション #P10696)、ヒトALPL(UniProtKBアクセッション #P05186)、ヒトALPI(UniProtKBアクセッション #P09923)、マウスALPLL2(UniProtKBアクセッション #P24823)、マウスALPI(UniProtKBアクセッション #P09242)又はカニクイザルPLAP(ALPP)(配列番号74)。
【0435】
標的細胞として操作されたCHO細胞を使用したJurkat NFAT活性化アッセイ
Jurkat NFATレポーター細胞株は、NFATプロモーターを有するCD3発現ヒト急性リンパ性白血病レポーター細胞株である(GloResponse Jurkat NFAT-RE-luc2P、Promega #CS176501)。TCBが腫瘍標的とCD3抗原(Jurkat-NFATレポーター細胞上で発現)に同時に結合すると、NFATプロモーターが活性化され、活性なホタルルシフェラーゼの発現をもたらす。発光シグナル(ルシフェラーゼ基質の添加により得られる)の強度は、CD3の活性化とシグナル伝達の強度に比例する。
【0436】
アッセイのために、CHO細胞のプールは、本明細書で上述したように、ヒトALPP、ALPG、ALPI、ALPL、マウスALPG、ALPI、及びカニクイザルALPPを発現するように操作されている。LoVo、CHOプール及び親CHO細胞をカウントし、Countess Cell Counter(Invitrogen)を用いて生存率をチェックした。350×gで5分間の遠心分離により、所望の量の標的細胞を回収した。細胞を、RPMI-1640(Gibco)+10%FBS(Sigma)+1%Glutamax(Gibco)からなるアッセイ培地に再懸濁し、0.03x106細胞/ウェルを白色平底96ウェルプレート(Greiner)にプレーティングした。続いて、Jurkat-NFATレポーター細胞を収集し、カウントし、Countess Cell Counter(Invitrogen)を使用して生存率を評価した。細胞を0.09x106細胞/ウェルでプレーティングし、最終的なエフェクター対標的(E:T)細胞比3:1を得た。TCBの段階希釈をアッセイ培地で調製した。TCB滴定を96ウェルプレートのそれぞれのウェルに加えた。最終アッセイ容量は90μlであった。
【0437】
6時間のインキュベーション時間後、90μlのONE-Glo(商標)ルシフェラーゼアッセイ基質(Promega#E6120)を加え、Perkin Elmer EnVision(登録商標)2104マルチモードプレートリーダーを使用して読み取りを直ちに行い、相対発光単位(RLU)を測定した。
【0438】
図6に示すように、最適化された抗CD3バインダーP035.093を含むPLAP TCBは、Jurkat NFATレポーター細胞に対して同様の機能活性を示した。試験したTCBは、表15に示すEC50値で濃度依存的にCD3活性化を誘導したが、同じCD3バインダーを有する非標的対照TCB(DP47)はT細胞活性化を誘導しなかった。PLAPバインダーH1からH5は全て、ヒトALPP又はALPGを操作したCHO-K1細胞の存在下でCD3の活性化を誘導したが、ヒトALPI、ALPL又はマウスALPG、ALPIの存在下では誘導しなかった。これらのTCBはまた、LoVo大腸腺癌細胞株の存在下でJurkatレポーターの活性化を誘導した。
【0439】
【0440】
図7に示すように、最適化された抗CD3バインダーP035.093を含むPLAP TCBは、ヒト又はカニクイザルALPPを発現する標的細胞と共インキュベートした場合、Jurkat NFATレポーター細胞に対して同様の機能活性を示した。TCBは濃度依存的にCD3活性化を誘導し、そのEC50値を表16に示した。PLAPバインダーH1、H3、及びH5は全て、ヒト及びカニクイザルALPPを操作したCHO-K1細胞の存在下でCD3の活性化を誘導し、カニクイザルALPPに対する交差反応性を確認した。
【0441】
表16.カニクイザルの交差反応性を示すためにレポーターアッセイで測定されたEC50値。
【0442】
実施例16 - PLAP TCB分子によって誘導される腫瘍細胞の死滅
PLAP TCB分子(実施例10で調製)を、新鮮な単離ヒトPBMCを用い、ヒト上皮細胞株LoVoと共インキュベートした腫瘍細胞死滅アッセイで試験した。腫瘍細胞の溶解は、48時間後と72時間後にアポトーシス細胞又はネクローシス細胞によって細胞上清中に放出された、細胞内プロテアーゼ活性の細胞外活性を定量することによって決定された。CD4及びCD8 T細胞の活性化をフローサイトメトリーで分析し、72時間後の両サブセットの活性化マーカーの上方制御を評価した。
【0443】
標的細胞(LoVo)をトリプシン(Gibco)を使用して剥離し、PBSで1回洗浄し、増殖培地(10%FBS、1%GlutaMax(Gibco)及び1%ピルビン酸ナトリウム(Sigma)を含有するRPMI 1640(Gibco))中に0.3mio細胞/mlの密度で再懸濁した。100μlのこの細胞懸濁液(30000細胞を含有)を、96ウェルのU底プレートに播種した。
【0444】
健常ドナーの血液からPBMCを単離し、生存率を確認した。抗体をアッセイ用培地で表示濃度に希釈し、1ウェルあたり50μlを標的細胞に添加した。対照ウェルに、アッセイ培地を添加した。単離したPBMCを6mio細胞/mlの密度で再懸濁させ、1ウェルあたり50μlを添加し、300000細胞/ウェルとした(E:T 10:1)。自然死細胞プロテアーゼ放出の測定には、陰性対照としてPBMCと標的細胞のみを共インキュベートした。標的細胞の非存在下でPBMCとTCBを含む対照ウェルを使用して、TCBの特異性を試験した。
【0445】
アッセイは、インキュベーター内で37℃で合計72時間インキュベートされた。死細胞プロテアーゼ活性の測定は、アッセイ開始から48時間及び72時間後に実施された。このために、CytoTox-Glo(商標)細胞傷害性アッセイ(Promega、#G9291)を測定前に室温に調整した。分析のために、ウェルあたり30μlの上清を96ウェル平底プレートに移した。続いて、30μlの発光ペプチド基質を各ウェルに添加し、室温で15分間インキュベートした後、Perkin Elmer EnVision(登録商標)2104機器を使用して発光を測定した。
【0446】
その後、PBMCを回収し、CD25とCD69の活性化の上方制御を測定して分析した。詳細には、プレートを600xgで3分間遠心分離し、上清を除去し、細胞をウェルあたり150μlのFACSバッファーで洗浄した。プレートを再び600×gで3分間遠心分離し、上清を除去した。続いて、CD4 Alexa 700(クローンOKT4、BioLegend)、CD8 BV421(クローンRPA-T8、BioLegend)、CD25 PE(クローンBC96、BioLegend)及びCD69 FITC(クローンFN50、BioLegend)を含む抗体ミックスをウェルあたり50μl、細胞に加えた。細胞を冷蔵庫内で30分間インキュベートした。その後、細胞をFACSバッファーで2回洗浄し、ウェルあたり1%PFAを含有するFACSバッファー100μlに再懸濁させた。測定前に細胞を洗浄し、150μlのFACSバッファーに再懸濁した。分析はBD Symphony A3装置を使用して行った。
【0447】
抗CD3抗体クローンP035.093を含むPLAP TCBによる処理は、
図8及び試験した2人の健康なドナーのうちの1人からの代表的なEC50値を示す表17に示すように、強力なLoVo腫瘍細胞死滅をもたらした。抗CD3抗体クローンP035.093を含むTCBでPBMCを処理し、LoVo標的細胞の存在下で共インキュベートすると、T細胞の活性化が観察される。
図9に示すように、試験したTCBは、腫瘍標的細胞の非存在下でCD8及びCD4 T細胞上の有意なCD25上方制御を誘導しなかった。この結果は、試験したCD3バインダーは、例えば腫瘍細胞との結合を介した架橋に依存してT細胞活性化を誘導し、一価フォーマットではT細胞活性化を誘導することができないことを示すものである。これと一致して、標的細胞存在下でのT細胞の活性化マーカーの発現増加が、CD25のフローサイトメトリー分析で観察された(
図9)。CD69の発現も同様の結果を示したが、シグナルはかなり弱く、これはおそらく分析の時点が遅く、このマーカーが初期の活性化マーカーであり、遅い時点では下方制御されるためであると考えられる(データは示さず)。
【0448】
表17.T細胞媒介性腫瘍細胞死滅アッセイで測定されたEC50値。
【0449】
実施例17 - さらなる抗PLAP T細胞二重特異性抗体(PLAP TCB)の調製
実施例10で調製したPLAP TCB(抗CD3抗体P035.093及び抗PLAP抗体H1~H5を含む)に加えて、さらなるPLAP TCBを、(i)抗PLAP抗体H3(ProMab Biotechnologiesにより提供;配列番号36~39、48~51)及び抗CD3抗体P035.093、CD3orig又はCD3opt(上記の実施例1、表1の配列を参照))、又は(ii)抗PLAP抗体H2又はH4(ProMab Biotechnologiesにより提供;それぞれ配列番号32~35、48~51又は配列番号40~43、48~51)及び抗CD3抗体CD3origを使用して調製した。
【0450】
調製されたTCB分子の完全な配列は、配列番号16、56、57及び62(PLAP H3 CD3 P035.093)、配列番号17、56、57及び62(PLAP H3 CD3
orig)、配列番号18、75、57及び62(PLAP H3 CD3
opt)、配列番号17、54、55及び62(PLAP H2 CD3
orig)、並びに配列番号18、58、59及び62(PLAP H4 CD3
orig)に示されており、それらのフォーマットは実施例1に記述され、
図2Aに示されているとおりである。
【0451】
TCBは、GeneArt(ThermoFisher Scientific社)の発現ベクターを用いて、Proteros Biostructuresによって調製された。Expi293細胞に、1:1:2:1(「ベクターノブ重鎖」:「ベクターホール重鎖」:「ベクターPLAP軽鎖」:「ベクターCD3軽鎖」)の比でプラスミドを一時的にトランスフェクトした。上清を遠心分離とその後の濾過によって回収した。タンパク質を、回収した上清から、アフィニティークロマトグラフィー(MabSelect SuRe.GE Healthcare、平衡化バッファー:PBS、pH7.4;溶出バッファー:50mM酢酸、pH3.2)、イオン交換クロマトグラフィー(POROS XS、Applied Biosystems、平衡化バッファー:40mM酢酸ナトリウム、pH5.5;溶出バッファー:1M酢酸ナトリウム、pH5.5)、及びサイズ排除クロマトグラフィー(HiLoad 26/60 Superdex 200プレップグレード、GE Healthcare、20mMヒスチジン、140mM塩化ナトリウム、pH6.0)によって精製した。
【0452】
精製タンパク質の濃度は、Pace,et al.,Protein Science,4,1995,2411-1423に従ってアミノ酸配列に基づいて計算された質量吸光係数を使用して280nmでの吸収を測定することによって決定した。LabChipGXII(Perkin Elmer)を使用して、還元剤の存在下及び非存在下にて、CE-SDSにより、タンパク質の純度及び分子量を分析した。凝集体含有量の決定は、分析用サイズ排除クロマトグラフィー(Biosuite高分解能SECカラム、250Å、5μm、200mM KH2PO4、250mM KCl pH7.0で平衡化)を使用して、25℃でHPLCクロマトグラフィーによって行った。
【0453】
表18.PLAP TCB分子の生化学的及び生物物理学的分析。
【0454】
実施例18 - PLAP TCB分子の熱安定性の決定
実施例17で生成したPLAP TCBの熱安定性を、UNCLE装置(Unchained Labs、USA)を使用して温度勾配を適用することによる静的光散乱(SLS)によってモニターした。測定のために、タンパク質濃度1mg/mlの各試料(20mM His、140mM NaCl、pH6.0中)10μgを二重にUNCLEに適用した。温度を0.1℃/分で30℃から90℃まで上昇させ、266nmでの散乱強度を収集した。
【0455】
結果を表19に示す。凝集温度(Tagg)が64℃より高いタンパク質は、熱的に安定していると考えられる。全てのPLAP TCB分子はこの基準を満たしている。PLAP-H3-P035.093-TCB構築物は最も高い熱安定性を示した。
【0456】
表19.静的光散乱(SLS)によって測定された異なるPLAP TCBの熱安定性。
【0457】
実施例19 - 疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)による PLAP TCB分子の疎水性決定
実施例17で生成したPLAP TCB分子の疎水性を、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を使用して決定した。このために、試料を20mM His、140mM NaCl、pH6.0で1mg/mlの濃度に希釈した。測定は、HPLCシステム(Thermo Fisher)において、TSKgel Ether-5PW(Tosoh Bioscience、7.5x75mm)カラムを40℃、移動相A(25mM NaH2PO4/Na2HPO4、1.5M NH4SO4、pH7)及び移動相B(25mM NaH2PO4/Na2HPO4、pH7)を使用し、流量0.8ml/分で実行され、280nmの吸光度を検出した。分子の相対的な保持時間(rel.RT)を決定するため、保持時間の異なる2つの参照分子(REFlow及びREFhigh)の1:1比で構成されるHIC標準混合物を使用した。分子の相対保持時間は次のように定義される:
rel.RT[分]=(主ピーク(試料)RT[分]-REFlow RT[分])/(REFhigh RT[分]-REFlow RT[分])
主ピーク(試料)RT:分析分子の主ピークの保持時間、REFlow RT:保持時間が短い参照分子の保持時間、REFhigh RT:保持時間が長い参照分子の保持時間。
【0458】
結果を表20に示す。0.35分より短い相対保持時間は、疎水性が許容される抗体様タンパク質の特徴である。したがって、PLAP-H3-CD3orig-TCB、PLAP-H4-CD3orig-TCB及びPLAP-H3-P035.093-TCBの疎水性は許容範囲内であったが、PLAP-H3-CD3opt-TCB及びPLAP-H2-CD3orig-TCBは疎水性基準を超えるがわかった。
【0459】
表20.疎水性相互作用クロマトグラフィーによって決定された異なるPLAP TCBの相対保持時間。
【0460】
実施例20 - ストレス後のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)による PLAP TCB分子の特性評価
安定性を評価するために、実施例17で生成したPLAP TCB分子を37℃、pH7.4又は40℃、pH6で14日間インキュベートし、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によりさらに分析し、単量体、高分子種(凝集体、二量体、不純物など)及び低分子種(分解生成物、不純物など)の相対的な含有量を決定した。-80℃、pH6で保存した試料を参照として使用した。参照試料及び40℃でストレスを与えた試料は20mM His、140mM NaCl、pH6.0に、37℃でストレスを与えた試料は、PBS、pH7.4に、全て濃度10.0mg/mlで存在させた。ストレス期間(14日間)の後、さらなる分析のために、PBS中の試料を20mM His、140mM NaCl、pH6.0に透析して戻した。
【0461】
分析のために、5つのPLAP TCB分子を移動相(200mM KH2PO4、250mM KCl pH6.2)で5mg/mlの濃度に希釈した。測定は、TSKgel UP-SW3000(Tosoh Bioscience、2μm、4.6x300mm)カラムを使用したUHPLCシステム(Thermo Fisher)で、25℃、流量0.3ml/分、定組成勾配で18分間行った。試料量は1回の注入につき50μgで、280nmの吸光度を検出した。
【0462】
結果を表21に示す。5つのPLAP TCB分子は全て95%を超える単量体(主ピーク)含有量を示しており、分子の純度は高い。非ストレス試料(「非ストレス」)の主ピーク含有量とストレス試料(20mM His、pH6.0、140mM中40℃で2週間(「ストレスA」)又は1xPBS、pH7.4中37℃で2週間(「ストレスB」))の主ピーク含有量との差は「デルタ」値と定義され、安定性の指標として機能する。これらのデルタ値は1.5~3.3パーセントの範囲にあり、これは2つの異なるストレス条件下で分子が安定していることを示している。全体として、SECによる分析で、PLAP TCBの純度と安定性が確認された。
【0463】
表21.非ストレス条件(20mM His、pH6.0、140mM中、-80℃で2週間)と、ストレスA(20mM His、pH6.0、140mM中、40℃で2週間)とストレスB(1xPBS、pH7.4中、37℃で2週間)の2つのストレス条件における異なるPLAP TCBのSECデータ。高分子量種(HMW)、低分子量種(LMW)。デルタ値の計算:デルタ=Rel.面積[%](主ピーク、非ストレス)-Rel.面積[%](主ピーク、ストレスA又はB)。
【0464】
実施例21 - ストレス後の表面プラズモン共鳴(SPR)による PLAP TCB 分子の特性評価(RACアッセイ)
PLAP TCB分子(実施例17で調製)の安定性をさらに評価するために、試料に実施例20に記載のようにストレスをかけ、ヒトCD3ε/δに対する結合能力についてSPRによってさらに分析した。
【0465】
SPR実験は、Biacore T200機器(GE Healthcare)で実行された。固定化には、HBS-N pH7.4をランニングバッファーとして使用した(Cytiva #BR100670)。抗PG抗体(実施例3を参照)を、アミンカップリング(アミンカップリングキット、Cytiva #BR100050を使用)によって、CM3チップ(Cytiva #29104990)上に、>6000RUの密度で固定化した。抗PG抗体ストック溶液を、pH5.0の10mM酢酸ナトリウムバッファー(Cytiva #BR100351)中で25μg/mLの濃度に希釈した。固定化後、分析を25℃で、ランニングバッファー及び希釈バッファーとしてPBS-P+(Cytiva #28995084)を使用して行った。PBS-P+中のTCB分子試料の5nM溶液を、流量5μl/分で30秒間捕捉した。次いで、ヒトPLAPの100nM溶液を、8μl/分の流量で90秒の会合時間及び30秒の解離時間にわたって注入した。その後、ヒトCD3ε/δ(実施例3、配列番号24及び25を参照)の200nM溶液を、8μl/分の流量で、90秒の会合時間及び30秒の解離時間にわたって注入した。表面の再生に続いて、10mM NaOH溶液を用いた60秒の再生工程が2回行われた。データは、Biacore T200 Evaluation及びExcelソフトウェアで分析された。相対活性濃度(RAC)の計算には、結合報告点(BRP)を使用した。RACを計算するために、標的濃度と抗体濃度は、非ストレス試料(-80℃)を100%比較として参照した。タンパク質濃度の正規化には、抗PG抗体捕捉(RAC値)を参照した。
【0466】
CD3結合安定性の結果を表22に、PLAP結合安定性の結果を表23に示す。P035.093 CD3バインダーを含むTCB分子は最も高い結合安定性を示し、CD3バインダーCD3optを含む分子がそれに続く。CD3origを含むTCB分子は、最も低い結合安定性を示す(表22)。PLAPの結合安定性は全ての分子で同じ範囲にある(表23)。
【0467】
表22.RACアッセイによるストレス後のCD3結合データ。非ストレス条件(20mM His、pH6.0、140mM中、-80℃で2週間)と、ストレスA(20mM His、pH6.0、140mM中、40℃で2週間)とストレスB(1xPBS、pH7.4中、37℃で2週間)の2つのストレス条件におけるPLAP TCB分子のRACデータ。
【0468】
表23.RACアッセイによるストレス後のPLAP結合データ。非ストレス条件(20mM His、pH6.0、140mM中、-80℃で2週間)と、ストレスA(20mM His、pH6.0、140mM中、40℃で2週間)とストレスB(1xPBS、pH7.4中、37℃で2週間)の2つのストレス条件におけるPLAP TCBのRACデータ。
【0469】
実施例22 - 単一サイクル反応速度アッセイ:表面プラズモン共鳴(SPR)によるPLAP TCB分子の結合反応速度の特性評価
実施例17で生成されたPLAP TCB分子の結合反応速度は、単一サイクル反応速度(SSK)アッセイによって特徴づけられた。このアッセイでは、再びSPR Biacore T200を使用した。固定化は、ランニングバッファーとしてHBS-N pH7.4(Cytiva #BR100670)を用いて25℃で行った。抗PG抗体(実施例3を参照)を、アミンカップリング(アミンカップリングキット、Cytiva #BR100050を使用)によって、CM3チップ(Cytiva #29104990)上に、>5000RUの密度で固定化した。抗PG抗体ストック溶液を、pH5.0の10mM酢酸ナトリウムバッファー(Cytiva #BR100351)中で25μg/mLの濃度に希釈した。固定化後、分析は25℃で行い、PBS-P+(Cytiva #28995084)をランニングバッファー及び希釈バッファーとして使用した。PBS-P+中のTCB分子試料の3nM溶液を、CM3センサーチップ上で抗PG抗体で捕捉した。
【0470】
試料分析の測定サイクルは、表24と表25に示すように、3つの異なる工程からなる。導出された反応速度定数及び対応する親和性値(平衡解離定数KD)は、CD3バインダーについては表26に、PLAPバインダーについては表27にまとめられている。データは、Biacore T200 Evaluation及びExcelソフトウェアで分析された。
【0471】
CD3バインダーの反応速度論の結果を表26に示し、PLAPバインダーの反応速度論の結果を表27に示す。P035.093 CD3バインダーは、CD3バインダーCD3opt及びCD3origと比較してCD3標的に対して最も高い親和性を示し(表26を参照)、PLAP H3バインダーは、PLAPバインダーH2及びH4と比較してPLAP標的に対して最も高い親和性を示す(表27を参照)。
【0472】
表24.ヒトCD3に結合する試料の測定サイクル。
第3工程では、5倍希釈系列(0.781nM-3.13nM-1.5nM-50.0nM-200nM)から1濃度ずつ注入した。全サイクルをブランク(0nM)でも繰り返した。
【0473】
表25.ヒトPLAPに結合する試料の測定サイクル。
第3工程では、5倍希釈系列(0.195nM-0.781nM-3.12nM-12.5nM-50.0nM)から1濃度ずつ注入した。全サイクルをブランク(0nM)でも繰り返した。
【0474】
表26.CD3結合反応速度。ヒトCD3相互作用の25℃における反応速度定数と平衡解離定数。
【0475】
表27.PLAP結合反応速度。ヒトPLAP相互作用の25℃における反応速度定数と平衡解離定数。
【0476】
前述の発明は、理解を明確にするために例示及び例としてある程度詳細に説明されているが、説明及び例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書に引用される全ての特許及び科学文献の開示内容は、その全体が出典明示により本明細書に援用される。
【配列表】
【国際調査報告】