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特表2025-503999分子ジボランを貯蔵するためのシステム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-06
(54)【発明の名称】分子ジボランを貯蔵するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 11/00 20060101AFI20250130BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
F17C11/00 A
B01J20/20 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024544743
(86)(22)【出願日】2023-01-27
(85)【翻訳文提出日】2024-09-19
(86)【国際出願番号】 US2023011707
(87)【国際公開番号】W WO2023147027
(87)【国際公開日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】63/303,955
(32)【優先日】2022-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505307471
【氏名又は名称】インテグリス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】バイル、オレグ
(72)【発明者】
【氏名】モリス、ジョン ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ、ネイサン バラード
(72)【発明者】
【氏名】トロヤ、ディエゴ
【テーマコード(参考)】
3E172
4G066
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB16
3E172BA01
3E172BB04
3E172BB12
3E172BB17
3E172BC01
3E172BC03
3E172BC06
3E172BC07
3E172BC08
3E172EA02
3E172EB02
3E172FA02
3E172FA08
4G066AA04B
4G066BA22
4G066BA38
4G066CA21
4G066DA05
(57)【要約】
ミクロ多孔性炭素吸着剤上にジボランを吸着することでジボランを貯蔵する方法及びシステムを記載する。ミクロ多孔性炭素吸着剤は、グラファイト層間隔でグラファイト層間に、吸着されていないガス状ジボランの分解の活性化エネルギーに対してジボラン分解に必要な活性化エネルギーを増加させるスリット細孔を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジボランを貯蔵するための容器であって、
容器内部と、
容器内部にミクロ多孔性炭素吸着剤と、
ミクロ多孔性吸着剤上に少なくとも部分的に吸着されている容器内部のジボランと、を備え、
ミクロ多孔性吸着剤は、グラファイト層間隔でグラファイト層間に、周囲圧力で吸着されていないガス状ジボランの分解の活性化エネルギーに対してジボラン分解に必要な活性化エネルギーを増加させるスリット細孔を含む、容器。
【請求項2】
前記容器内部での吸着された化学種及びガス状化学種の総量に基づいて、少なくとも50パーセント(原子)の濃度のジボランを含む、請求項1に記載の容器。
【請求項3】
前記活性化エネルギーが、反応(i)の活性化エネルギーの半分に、反応(ii)の活性化エネルギーを加えた合計であって、
(i)B→2BH
(ii)B+BH→B
である、請求項1に記載の容器。
【請求項4】
グラファイトシートが、0.8ナノメートル以下のグラファイト層間隔を有する、請求項1に記載の容器。
【請求項5】
吸着剤の細孔の少なくとも50パーセントが、0.4~0.8ナノメートルの範囲のグラファイト層間隔を有する、請求項1に記載の容器。
【請求項6】
吸着剤の細孔の少なくとも80パーセントが、0.4~0.8ナノメートルの範囲のグラファイト層間隔を有する、請求項1に記載の容器。
【請求項7】
吸着剤の細孔の少なくとも80パーセントが、0.4~0.7ナノメートルの範囲のグラファイト層間隔を有する、請求項1に記載の容器。
【請求項8】
貯蔵されたガス状分子ジボランが、0.4~0.8ナノメートルの範囲のグラファイト層間隔を有する細孔の割合がより低いミクロ多孔性炭素吸着剤上に貯蔵されたジボランと比較して、22℃での貯蔵中に低減された分解速度を示す、請求項5に記載の容器。
【請求項9】
貯蔵されたガス状分子ジボランが、0.4~0.8ナノメートルの範囲のグラファイト層間隔を有する細孔の割合がより低いミクロ多孔性炭素吸着剤上に貯蔵されたジボランと比較して、22℃での貯蔵中に低減された分解速度を示す、請求項6に記載の容器。
【請求項10】
貯蔵されたガス状分子ジボランが、0.4~0.7ナノメートルの範囲のグラファイト層間隔を有する細孔の割合がより低いミクロ多孔性炭素吸着剤上に貯蔵されたジボランと比較して、22℃での貯蔵中に低減された分解速度を示す、請求項7に記載の容器。
【請求項11】
容器内でジボランを可逆的に貯蔵する方法であって、
グラファイト層間隔を有するグラファイト層間に、吸着されていないガス状ジボランの分解の活性化エネルギーに対してジボランの分解に必要な活性化エネルギーを増加させるスリット細孔を含むミクロ多孔性炭素吸着剤を備える貯蔵容器に、
容器内ジボランガスを追加して、ジボランがミクロ多孔性炭素吸着剤上に吸着されることと、
吸着されたジボランを容器内に貯蔵することと
を備える、方法。
【請求項12】
前記容器が、容器内部での吸着された化学種及びガス状化学種の総量に基づいて、少なくとも50パーセント(原子)の濃度のジボランを含有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記活性化エネルギーが、反応(i)の活性化エネルギーの半分に、反応(ii)の活性化エネルギーを加えた合計であって、
(i)B→2BH
(ii)B+BH→B
である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
貯蔵されたジボランが、0.4~0.8ナノメートルの範囲のグラファイト層間隔を有する細孔の割合がより低いミクロ多孔性炭素吸着剤上に貯蔵されたガス状分子ジボランの分解量と比較して、貯蔵中に低減された分解を受ける、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の説明は、吸着媒体と、吸着貯蔵のために吸着媒体上にジボランを吸着する方法との分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジボラン(B)は、工業プロセスにおいて、例えば、半導体デバイス及びマイクロ電子デバイスの製造において、ソースガス(又は「試薬ガス」)として一般に使用されている。1つの具体例では、ジボランは、ドープシリコン薄層又はコンフォーマル窒化ホウ素コーティングの成長などの、化学蒸着(chemical vapor deposition、CVD)プロセスにおける原材料として使用される。ジボランはイオン注入用途でも使用される。
【0003】
ジボランは、有用なガス形態で試薬ガスとしてプロセスに供給され、含有する汚染物質は非常に低レベルでなければならない。典型的には、ジボランは貯蔵容器から分配され、貯蔵容器は、ジボランを、貯蔵容器から確実に分配することができる化学形態で含有する。
【0004】
ジボランを貯蔵する1つの方法は、加圧シリンダなどの加圧容器内での貯蔵である。ジボランは、100パーセントジボランに近い濃度などの非常に高い濃度において、純粋な形態で貯蔵され得、その純粋な形態で送達され得る。しかし、これらシステムの課題は、濃縮ジボランが室温で非常に不安定であり、化学的に分解して反応性BH化合物になり、これが更に反応して、水素(H)と、より安定な高次ボラン化合物、例えばB10、B、又はB1014とを形成することである。加圧下で保持された純粋ジボランは、数日又は数週間以内に急速に分解して、実質的により低い濃度になる。
【0005】
安定性を改善するため、ジボランは、ガス状の水素(H)、窒素(N)、又はアルゴンなどの不活性ガスと混合されて、最大30パーセントのジボラン濃度で貯蔵されるが、典型的には、1~10パーセントの範囲のジボラン濃度に希釈された濃度で貯蔵され得る。不活性ガスとの混合物中でジボランを貯蔵することによりジボランの分解速度は低下し、ジボランは、混合物中のジボランの濃度に反比例する速度で分解する。混合物中のジボランの濃度が低いことが、ジボランの分解速度を低下させる。それでも、これら混合物は、6か月又は12か月という短い保存寿命を有する可能性があり、それが混合物の価値を制限する。
【0006】
ジボランの安定性を更に改善させるため、ジボランと不活性ガスとの貯蔵混合物の温度を低下させることができる。しかしながら、冷蔵は、貯蔵されたジボランを輸送、貯蔵、及び分配する工程に極めて大きな複雑さ及び費用を追加する。安定性を最も良く改善するため、ジボラン及び不活性ガスは、全て冷蔵された状態で加圧シリンダ内に充填され、次いで輸送され、貯蔵され、最終的には処理ツールに接続されなければならない。シリンダは、ジボランを処理ツールに供給するためにシリンダが処理ツールに接続されている間を含む、製造から使用までの全期間にわたって冷蔵されていなければならない。
【0007】
試薬ガスを貯蔵及び送達するための代替手段として、特定の試薬ガスが貯蔵容器内に保持された固体吸着媒体上に任意選択で圧力下で吸着される場合があり、容器からの送達のために選択的に脱着される場合がある。試薬ガスの脱着及び貯蔵容器からの送達は、減圧の適用、熱エネルギーの適用、又はその両方を伴い得る。
【0008】
固体吸着剤を使用してジボランを貯蔵する方法が検討されており(例えば、特許文献1~4参照)、これは通常、ルイス塩基部位へのBH種の反応性吸着に基づいている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第3928293号明細書
【特許文献2】米国特許第4223173号明細書
【特許文献3】米国特許第5993776号明細書
【特許文献4】米国特許第10940426号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
吸着剤タイプの100%ジボランガス貯蔵及び送達製品に対する強い商業的関心があるものの、成功した商品は開発されていない。ジボランの低温貯蔵が、恐らく最も実行可能な解決策であるが、低温貯蔵は、非常に低い温度での長期にわたる貯蔵に関連付けられた複雑さ及びコストに起因して、ユーザによって商業的に十分に採用されていない。
【0011】
ジボランを、化学的に安定な状態で、好ましくは貯蔵中のジボランの良好な安定性を伴って貯蔵するために、可逆的な(脱着可能な)方法でジボランを吸着するのに効果的な吸着媒体を特定することが非常に望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下の説明は、吸着剤上にジボランを可逆的に貯蔵するためのシステム及び方法に関する。
一態様では、本明細書は、ジボランを貯蔵するための容器に関する。容器は、容器内部と、容器内部のミクロ多孔性炭素吸着剤と、を含み、容器内部のジボランは、ミクロ多孔性吸着剤上に少なくとも部分的に吸着されている。ミクロ多孔性吸着剤は、グラファイト層間隔においてグラファイト層間にスリット細孔を含み、スリット細孔は、ジボラン分解に必要な活性化エネルギーを、周囲圧力及び同じ温度での吸着されていないガス状ジボランの分解の活性化エネルギーに対して増加させる。
【0013】
別の態様では、本発明は、容器内でジボランを吸着剤上に可逆的に貯蔵する方法に関する。本方法は、ジボランの分解に必要な活性化エネルギーを、吸着されていないガス状ジボランの分解の活性化エネルギーに対して増加させる、グラファイト層間隔を有するグラファイト層間にスリット細孔を含むミクロ多孔性炭素吸着剤を含む貯蔵容器に、ジボランガスを追加して、ジボランがミクロ多孔性炭素吸着剤上に吸着されることと、吸着されたジボランを容器内に貯蔵することと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】貯蔵状態のジボラン分子を示す。
図1B】貯蔵状態のジボラン分子を示す。
図1C】貯蔵状態のジボラン分子を示す。
図2A】ジボランの化学分解に伴う反応の活性化エネルギーを示す。
図2B】ジボランの化学分解に伴う反応の活性化エネルギーを示す。
図2C】ジボランの化学分解に伴う反応の活性化エネルギーを示す。
図3】記載される例示的な貯蔵及び送達容器を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、炭素吸着剤を使用して吸着されたジボランを可逆的に貯蔵するのに有用なシステム、製品、及び方法を記載する。
ジボランは、化学式Bを有する、2個のホウ素原子及び6個の水素原子から構成される化合物である。ジボランは、例えば、半導体産業における試薬ガスとして、ホウ素ドーピング用途における供給材料として、及びタングステン堆積における還元剤として使用される。
【0016】
本明細書によれば、ジボランは、貯蔵容器内に含有されている炭素吸着剤の表面(具体的には表面の細孔)において吸着されることによって貯蔵され得る。貯蔵容器は、活性炭、吸着されたジボラン、及び通常は、吸着されたジボランと平衡状態にある、ある量のガス状ジボランを含有する。すなわち、容器は、ジボランの気相と平衡状態にあるジボランの吸着相を含有する。吸着されたジボランは、吸着剤表面に可逆的に吸着されており、この吸着された状態にて容器内にある期間にわたって貯蔵することができ、貯蔵容器から分配するために制御された方法で表面から選択的に脱着させることができる。脱着されたジボランは、工業プロセスのために、例えば半導体デバイス又はマイクロエレクトロニクスデバイスの製造のために、ガス状原材料として使用するために、好ましくは低レベルの汚染物質を伴って、貯蔵容器から送達され得る。
【0017】
ジボランは濃縮形態で貯蔵することができ、これは、貯蔵容器が、活性炭吸着剤、吸着相ジボラン及び気相ジボラン、並びに、ジボランを安定化させるための少量以下の任意の他のガス状化学物質又は吸着された化学物質、例えば不活性ガスを含有することを意味する。ジボランは、任意選択で、アルゴン、窒素、又は水素などの不活性ガスと組み合わせて貯蔵されてもよいが、不活性ガスは、貯蔵されたジボランを安定化させるために必要というわけではなく、容器から除外されてもよい。有用な又は好ましいシステムでは、容器は、ガス状種及び吸着された種の総含有量に基づいて、少なくとも60パーセント、70、80、90、95、99、又は99.9パーセント(原子)のジボランを含有する。容器は、40、30、20、5、1、又は0.1パーセント(原子)未満の非ボラン化学種を気相又は吸着相で含有し得る(炭素吸着剤を除く)。
【0018】
ジボランは、容器内で、活性炭吸着剤を含む炭素吸着剤の表面に吸着される。「炭素吸着剤」という用語は、炭素含有ポリマー材料から又は天然に由来する炭素系材料から合成的に導出される様々な炭素系材料を指す。例として、ポリアクリロニトリル、スルホン化ポリスチレン-ジビニルベンゼン、ポリ塩化ビニリデンなどの合成炭化水素樹脂の熱分解によって形成される炭素;セルロース系チャー;木炭、並びにヤシ殻、ピッチ、木材、石油、石炭などの天然に由来する材料から形成された活性炭;ナノポーラスカーボンなどが挙げられる。
【0019】
記載される方法又は貯蔵システムにおいて特に有用であり得る炭素吸着剤は、高純度を有し、吸着剤のグラファイト層上に少量の化学欠陥を含有するものであり得る。これら炭素吸着剤は、グラファイトシートに付着した低濃度の化学官能基、少量の欠落炭素原子及び不飽和炭素原子、少量の金属不純物、少量の閉細孔、並びに楔形細孔を生成する少量の平行でないグラファイト層を有する。
【0020】
炭素吸着剤は、主炭素原子の複雑な化学構造を有する高度に高多孔性の吸着材料であることが知られている。活性炭吸着剤は、炭素原子の層、すなわち「グラファイト」の層の剛性マトリックス中に存在する細孔のネットワークを含む固体材料の形態であることができ、これら層は、積層され、化学結合によって一緒に連結されて、グラファイト層間に「細孔」と呼ばれる相互接続された開口部又はチャネルの高度に多孔性の構造を作り出す。
【0021】
有用な炭素吸着剤の非限定的な例としては、炭化水素、ハロカーボン(例えば、クロロカーボン)、又はヒドロハロカーボン樹脂、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、スルホン化ポリスチレン-ジビニルベンゼン、ポリ塩化ビニリデン(polyvinylidene chloride、PVDC)などの合成ポリマーの熱分解によって形成される炭素系吸着剤;ポリマーフレームワーク(polymer framework、PF)材料;多孔性有機ポリマー(porous organic polymer、POP);セルロース系チャー;木炭;並びにヤシ殻、ピッチ、木材、石油、石炭などの天然に由来する材料から形成される活性炭、が挙げられる。
【0022】
炭素吸着剤は、任意の好適な形態、例えば顆粒(「粒子」とも呼ばれる)の形態を有し得る。顆粒は、活性炭吸着剤の個々の断片であり、各断片は、比較的小さいサイズ、例えば2センチメートル未満、又は1若しくは0.5センチメートル未満のサイズを有する。粒子は、任意の有用な粒径、形状、及び粒径範囲を有し得る。例示的な形状としては、ビーズ、顆粒、ペレット、タブレット、シェル、サドル、粉末、不規則形状粒子、任意の形状及びサイズの押出物、布又はウェブ形態材料、ハニカムマトリックスモノリス、及び(吸着剤と他の構成要素との)複合物、並びに前述したタイプの吸着剤材料の粉砕された又は砕かれた形態が挙げられる。
【0023】
有用な又は好ましい炭素吸着剤粒子は、0.5~20ミリメートル、例えば1~15又は1~10ミリメートル(mm)の範囲の平均サイズを有することができる。吸着剤粒子の集合体の平均粒径は、粒子の集合体からの粒子の無作為選択と、マイクロメータの使用によるサイズ(例えば、直径)の測定とを含む、標準的な技術によって測定できる。
【0024】
(例えば、粒子の形態の又はモノリスとしての)炭素吸着剤は、吸着剤の表面積によって特徴付けることができる。表面積測定は、既知の方法によって、例えば窒素吸着等温線のBET分析を適用することによって実施できる。有用な又は好ましい例によれば、活性炭吸着材料は、比較的広い表面積、例えば、少なくともグラム当たり500、600、又は700平方メートルの表面積、例えば、グラム当たり700~1000平方メートルの範囲の表面積、又はこれより広い表面積を示し得る。
【0025】
炭素吸着剤の別の特性は、多孔性(「細孔体積」と呼ばれることもある)であり、これは、吸着剤の質量当たりの、細孔によって占められる活性炭吸着剤中の体積である。例示的な活性炭吸着剤粒子は、少なくともグラム当たり0.2ミリリットルの間隙率、例えば、少なくともグラム当たり0.5ミリリットル、好ましくは少なくともグラム当たり0.8ミリリットルの間隙率を有し得る。
【0026】
炭素吸着剤は多孔性であり、吸着剤粒子の表面から内部まで延びる細孔の相互接続されたネットワークを含有する。吸着材料の細孔サイズは、吸着粒子の集合体の平均細孔サイズに基づいて一般的な範囲に分類される。50ナノメートル(nm)を超える平均細孔サイズを有する活性炭吸着剤は、典型的にはマクロ多孔性と呼ばれる。2~50ナノメートル(nm)の範囲の平均細孔サイズを有する活性炭吸着剤は、典型的にはメソ多孔性粒子と呼ばれる。2ナノメートル未満の平均細孔サイズを有する炭素吸着剤は、典型的にはミクロ多孔性と呼ばれる。これらの用語は、IUPAC用語によって定義されている。
【0027】
炭素吸着剤は、マクロ多孔性範囲の細孔、メソ多孔性範囲の細孔、及びミクロ多孔性範囲の細孔を有し得る。望ましくは、記載されるようなジボランの有用な吸着のために、吸着剤は、有用な量のミクロ多孔性範囲の細孔を有し得る。具体的には、説明される貯蔵方法及びシステムは、細孔を含有する炭素系吸着剤を使用することが効果的であることが見出されており、細孔は、「スリット細孔」と呼ばれ、更に、特定のサイズ範囲のスリット細孔中に含有されるジボラン分子のエネルギーレベルに関連付けられる、出願人が特定したジボランの改善された化学的安定性をもたらすサイズを有する。
【0028】
炭素吸着剤は、「スリット細孔」と呼ばれる形態の細孔を有すると考えられる。活性炭吸着剤では、分子スケールでの固体吸着剤材料は、グラファイトの平行なシートを含む。隣接するグラファイトシート間に存在する空間又は開口部は、吸着剤の「細孔」であり、化学分子を「吸着された」状態で貯蔵する空間として機能する。これらの細孔は、吸着剤の三次元細孔の3つのサイズ寸法のうちの1つである、隣接するグラファイト層の距離又は「間隔」によって特徴付けることができる。
【0029】
本出願人によって決定されたように、炭素吸着剤のスリット細孔中に吸着された状態で貯蔵されているジボランの化学的安定性は、細孔を形成するグラファイトの層の間隔によって影響を受け、その間隔の値は、スリット細孔の「グラファイト層間隔」と呼ばれる。貯蔵されたジボラン分子の安定性及び化学分解速度は、スリット細孔を形成する隣接するグラファイト層間の距離によって測定されたスリット細孔のサイズに基づいて、より大きくなるか又は減少することになる。本出願人によって決定されたように、0.8ナノメートル未満、好ましくは0.7ナノメートル未満のグラファイト層間隔を有するスリット細孔中に貯蔵されたジボラン分子は、0.8ナノメートルを超えるグラファイト層間隔を有するスリット細孔中に貯蔵されたジボラン分子と比較して、改善された安定性を有する、すなわち、低減された化学分解を受ける。
【0030】
より詳細には、ジボランの化学的分解は、ジボラン分子が反応してB、B10、B、又はB1014などの様々なボラン化合物を形成する一連の多重反応によって生じる。初期反応により、ジボラン(B)は、2つの反応性ボラン(BH)分子に解離する。ボラン分子は、別のジボラン(B)分子と反応して、B及びBなどの他の反応性中間体を形成し、その結果、B10などの比較的より安定なボランと、Hとがもたらされる。例えば、
【0031】
【数1】
【0032】
Computational Study of the Initial Stage of Diborane Pyrolysis Baili Sun and Michael L.McKe.Inorg.Chem.52,5962(2013).
貯蔵されていない(拘束されていない)ガス状ジボランの化学分解速度と比較して、貯蔵されたジボラン、例えば吸着剤の細孔中に含有されるジボランの低減された化学分解速度として、貯蔵されたジボランの改善されたレベルの化学的安定性が測定される。これらの速度は、例えば摂氏21又は23度の、摂氏18~25度の周囲温度を含む、任意の温度での貯蔵及び分解に関するものであり得る。
【0033】
化学分解速度の低下は、正反応U1(ジボラン解離)、又はU2(BのBH攻撃)、又はその両方の速度定数を低下させる方法でボラン分子に影響を及ぼすことによって実現され得る。反応の速度定数kは、活性化エネルギーE及び温度の関数であり、アレニウス式によって記述される。したがって、活性化エネルギーの増加は、反応速度の減少又は安定性の増加につながる。
【0034】
【数2】
【0035】
以下に基づいて、0.7又は0.8ナノメートル未満のグラファイト層間隔分離を有するスリット細孔を有する吸着剤中にジボラン分子を貯蔵することによって、ジボランを安定化させ得ること、すなわちジボランの化学分解を低減させ得ることが示される。
【0036】
図1A図1B、及び図1Cを参照すると、これらの図は、吸着剤、例えば活性炭吸着剤のスリット細孔中に保持されたジボラン分子を示す。図1A図1B、及び図1Cはそれぞれ、1.0ナノメートル、0.8ナノメートル、及び0.6ナノメートルのグラファイト層間隔を有するスリット細孔に含有されるジボラン分子を示す。図1Aは、1.0ナノメートルのグラファイト層間隔を示し、これは、吸着剤のいかなる細孔空間によっても制約されないガス状ジボランの条件の近似でもある。
【0037】
スリット細孔のサイズが減少するにつれて、例えば、吸着剤のグラファイト層の間隔がより狭くなるにつれて、ジボランがボラン(BH)に分解するのに必要な活性化エネルギーは急激に低下する。図2Aを参照のこと。しかし、スリット細孔サイズが減少し、ジボランからボランへの分解時の活性化エネルギーが減少するにつれて、ボラン(BH)のジボラン(B)との反応時の活性化エネルギーは、より大幅に更により実質的に増加する。図2Bを参照のこと。図2Cに示すように、ジボランからボランへの分解時の活性化エネルギーの減少と、ボラン(BH)のジボラン(B)との反応時の活性化エネルギーの増加とを組み合わせた効果は、ジボランが化学的に分解してBになり、その後、B10、B、B1014などの任意の高次ボラン化合物になるときの、約0.7及び0.8ナノメートルのグラファイト層間隔における正味活性化エネルギーの著しい増加である。
【0038】
ジボランの化学分解は、複数の反応経路を含み、様々な高次ジボランを含む反応生成物を含む。反応経路の一例が、Bを生成する。説明される方法及びシステムによれば、吸着されたジボランを貯蔵するために使用される炭素吸着剤は、所与の温度においてスリット細孔中に吸着されたジボランの化学分解に必要な活性化エネルギーを、同じ温度における吸着されていないガス状ジボランの分解の活性化エネルギーと比較して増加させるグラファイト層間隔を有するスリット細孔を有するように選択され得る。Bを生成するための活性化エネルギーは、反応(i)の活性化エネルギーの半分に、反応(ii)の活性化エネルギーを加えた合計であり、
(i)B→2BH
(ii)B+BH→B
である。
【0039】
図2A図2B、及び図2Cは、1.0ナノメートルのグラファイト層間隔での、及び「1シート」指定でのデータを示し、「1シート」での測定値は、吸着されていないガス状ジボランの分解の活性化エネルギーを表す。図2A図2B、及び図2Cのグラフは、オバレンシート間の特定の分離におけるオバレンシミュレーション細孔を示す。このシミュレーションでは、フローズンサーフェス理論レベル(frozen surfaces level of theory)を有するB97D/def2-TZVP/w06を使用した。
【0040】
グラファイト層間隔についての実用上の下限は、約3.4オングストロームであり得る。したがって、ジボランを貯蔵し安定化させるための吸着剤の好ましいグラファイト層間隔は、0.34~8.0オングストローム、例えば4.0、5.0、又は6.0オングストロームから、7.0、7.5、又は8.0オングストロームの範囲であってよい。有用な又は好ましい吸着剤、例えば炭素吸着剤は、この範囲内のグラファイト層間隔を有する有用な又は高い相対量の細孔を有することができ、例えば、0.34~8.0オングストロームの範囲、例えば4.0~8.0オングストローム、又は5.0~8.0オングストローム、又は5.0、5.5若しくは6.0オングストロームから7.0、7.5若しくは8.0オングストロームの範囲のグラファイト層間隔を有するスリット細孔である細孔を少なくとも50、60、70、又は80パーセント含む細孔の総量を含有し得る。
【0041】
本明細書で使用する場合、グラファイト層間隔は、窒素、アルゴン、二酸化炭素、キセノンなどのプローブ分子を用いて吸着等温線を測定することにより決定できる。
記載されたようなサイズ特性を有する吸着剤への可逆的吸着によるジボランの記載される貯蔵は、吸着剤ベースの貯蔵システム及び方法における使用が知られているタイプの貯蔵容器内で実施できる。容器は、剛性の側壁、剛性の頂部及び底部、並びにバルブ又は他の分配デバイスを取り付けることができる頂部における開口部を有する剛性の容器であってもよい。底部は、略平坦であってもよく、頂部は、平坦、湾曲、丸形、ドーム形、又は細長い形状であってもよい。側壁、底部、及び頂部は、金属(炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウム)、ガラス繊維、又は剛性ポリマーなどの剛性材料で作製される。吸着されたジボランを容器内で低圧で貯蔵するためには、容器は、内容物を高圧で含有するように適合されている必要はない。
【0042】
シリンダ側壁、頂部、及び底部の内面は、平坦ではない表面形態から生じる真の表面積を顕微鏡レベルで低減させるために、任意の適切な方法で仕上げられ得、貯蔵期間後に容器から分配されるときにジボランが高純度であることを確実にするために、内面を清浄かつ非反応性にするように処理され得る。そのような仕上げ及び処理の例としては、研磨材ブラスト、研磨、研削、サンディング、電解研磨、電気めっき、無電解めっき、コーティング、亜鉛めっき、陽極処理などが挙げられる。
【0043】
「バルブ」は、容器内部と容器外部との間でのガス状ジボランの流れを可能にするために選択的に開閉できる任意の分配デバイスであり得る。バルブは、ダイヤフラムバルブなどの任意のタイプのものであり得る。フィルタ、圧力調整器、圧力計、流量調整器などの様々な流量制御デバイスが、容器の内部又は外部のいずれかでバルブに関連付けられてもよい。
【0044】
図1A図1Cは、記載されるような流体供給システム(「流体供給パッケージ」)の一例を示し、ジボランを吸着、貯蔵、及び(脱着時に)分配するための使用のために、吸着剤(例えば、炭素吸着剤を活性化させる)が配置されている。
【0045】
図示するように、流体供給パッケージ10は容器12を備え、容器12は、内部に吸着剤18が配置される容器12の内部容積16を包囲する円筒壁14及び床を含む。容器12は、その上端部分においてキャップ20に接合されており、キャップ20は、その上面において上方に延びるボス28の周囲を取り囲んでいる、その外周部分が平坦な特徴を有していてもよい。キャップ20は、中央のねじ切りされた開口部を有し、これが流体分配アセンブリの、対応してねじ切りされた下側部分26を受け入れる。
【0046】
バルブヘッド22は、手動操作式のハンドホイール、又はそれと結合された空気圧操作式の活性剤30などの任意の好適な操作によって、開位置と閉位置との間で移動可能である。流体分配システムは、ハンドホイール30の操作によってバルブが開かれたときに流体供給システムからガス状ジボランを分配するための出口ポート24を含む。
【0047】
容器12の内部容積16内の吸着剤18は、本明細書で開示される任意の好適なタイプであってもよく、吸着剤を、例えば、粉末、微粒子、ペレット、ビーズ、モノリス、タブレットの形態で、又は活性炭の他の適切な形態で含んでもよい。吸着剤は、ジボランに対する吸着親和性を有しており、容器内部に対してジボランの吸着貯蔵及び選択的分配を可能にしている。分配は、バルブヘッド22を開いて、吸着剤上に吸着された形態で貯蔵されたジボランの脱着と、容器から流体分配アセンブリを通って出口ポート24及び関連付けられた流れ回路(図示せず)へのガス状ジボランの排出とに対処することにより実施されてもよく、出口ポート24における圧力が、流体供給パッケージ内部からのジボランの圧力媒介脱着及び排出を引き起こす。例えば、分配アセンブリは、そのような圧力媒介脱着及び分配のために、容器内部の圧力と比較してより低圧力にある流動回路に結合されてもよく、この低圧力は、例えば、この流動回路によって流体供給パッケージに結合される下流ツールに適切な準大気圧である。任意選択で、分配は、吸着剤18の加熱に関連して、バルブヘッド22を開いて、流体供給パッケージからの排出のためにジボランの熱媒介脱着を引き起こすことを含んでもよい。
【0048】
流体供給パッケージ10は、容器12の内部容積16からの流体を初期的に排出させ、それに続いて、出口ポート24を通して容器内にジボランを流すことにより、吸着剤上に貯蔵するためにジボランを充填することができ、それにより、流体供給パッケージからのガス状ジボランの充填及び分配という二重の役割を担う。代わりに、バルブヘッド22は、導入された流体で容器を充填し、吸着剤にロードするための別個の流体導入ポートを備え得る。
【0049】
容器内のジボランは、任意の好適な圧力条件で、好ましくは準大気圧(760トル未満)又は低準大気圧(100トル未満又は50若しくは30トル未満)で貯蔵されてもよく、それにより、高圧ガスシリンダなどの流体供給パッケージに対して流体供給パッケージの安全性が高められる。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3
【手続補正書】
【提出日】2024-09-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジボランを貯蔵するための容器であって、
容器内部と、
容器内部にミクロ多孔性炭素吸着剤と、
ミクロ多孔性吸着剤上に少なくとも部分的に吸着されている容器内部のジボランと、を備え、
ミクロ多孔性吸着剤は、グラファイト層間隔でグラファイト層間に、周囲圧力で吸着されていないガス状ジボランの分解の活性化エネルギーに対してジボラン分解に必要な活性化エネルギーを増加させるスリット細孔を含む、容器。
【請求項2】
前記容器内部での吸着された化学種及びガス状化学種の総量に基づいて、少なくとも50パーセント(原子)の濃度のジボランを含む、請求項1に記載の容器。
【請求項3】
前記活性化エネルギーが、反応(i)の活性化エネルギーの半分に、反応(ii)の活性化エネルギーを加えた合計であって、
(i)B→2BH
(ii)B+BH→B
である、請求項1に記載の容器。
【請求項4】
グラファイトシートが、0.8ナノメートル以下のグラファイト層間隔を有する、請求項1に記載の容器。
【請求項5】
吸着剤の細孔の少なくとも50パーセントが、0.4~0.8ナノメートルの範囲のグラファイト層間隔を有する、請求項1に記載の容器。
【請求項6】
容器内でジボランを可逆的に貯蔵する方法であって、
グラファイト層間隔を有するグラファイト層間に、吸着されていないガス状ジボランの分解の活性化エネルギーに対してジボランの分解に必要な活性化エネルギーを増加させるスリット細孔を含むミクロ多孔性炭素吸着剤を備える貯蔵容器に、
容器内ジボランガスを追加して、ジボランがミクロ多孔性炭素吸着剤上に吸着されることと、
吸着されたジボランを容器内に貯蔵することと
を備える、方法。
【請求項7】
前記容器が、容器内部での吸着された化学種及びガス状化学種の総量に基づいて、少なくとも50パーセント(原子)の濃度のジボランを含有する、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記活性化エネルギーが、反応(i)の活性化エネルギーの半分に、反応(ii)の活性化エネルギーを加えた合計であって、
(i)B→2BH
(ii)B+BH→B
である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
貯蔵されたジボランが、0.4~0.8ナノメートルの範囲のグラファイト層間隔を有する細孔の割合がより低いミクロ多孔性炭素吸着剤上に貯蔵されたガス状分子ジボランの分解量と比較して、貯蔵中に低減された分解を受ける、請求項に記載の方法。
【国際調査報告】