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特表2025-504513組成物、硬化膜、それを含むデバイス及び硬化膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-12
(54)【発明の名称】組成物、硬化膜、それを含むデバイス及び硬化膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20250204BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20250204BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20250204BHJP
   C08K 5/37 20060101ALI20250204BHJP
   H10K 50/858 20230101ALI20250204BHJP
   H10K 50/854 20230101ALI20250204BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20250204BHJP
   H10K 71/40 20230101ALI20250204BHJP
   H10K 50/84 20230101ALI20250204BHJP
   G03F 7/004 20060101ALN20250204BHJP
   G03F 7/031 20060101ALN20250204BHJP
   G03F 7/027 20060101ALN20250204BHJP
【FI】
C08F290/06
C08L33/14
C08K3/22
C08K5/37
H10K50/858
H10K50/854
H10K59/10
H10K71/40
H10K50/84
G03F7/004 501
G03F7/031
G03F7/027 515
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024543512
(86)(22)【出願日】2023-01-30
(85)【翻訳文提出日】2024-07-23
(86)【国際出願番号】 EP2023052145
(87)【国際公開番号】W WO2023148123
(87)【国際公開日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2022014207
(32)【優先日】2022-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】山崎 章
(72)【発明者】
【氏名】能谷 敦子
【テーマコード(参考)】
2H225
3K107
4J002
4J127
【Fターム(参考)】
2H225AC38
2H225AC54
2H225AC58
2H225AD06
2H225AN39P
2H225AN72P
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2H225BA20P
2H225CA24
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3K107GG26
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4J127BB111
4J127BB221
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4J127DA06
4J127DA26
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4J127EA13
4J127FA21
(57)【要約】
多環芳香族炭化水素含有ポリマーと、散乱剤と、チオール含有モノマーと、を少なくとも含む組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)多環芳香族炭化水素含有ポリマーと、
(II)散乱剤と、
(III)チオール含有モノマーと、
を少なくとも含む組成物。
【請求項2】
(I)多環芳香族炭化水素含有ポリマーは、フルオレン構造を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(II)散乱剤が有機若しくは無機の微粒子である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
(II)散乱剤の含有量が、(I)多環芳香族炭化水素含有ポリマーの総質量を基準として、50~400質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
(III)チオール含有モノマーの含有量が、(I)多環芳香族炭化水素含有ポリマーの総質量を基準として、0.1~20質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
(I)多環芳香族炭化水素含有ポリマーが2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する繰り返し単位を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
(IV)(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上含む化合物をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
(V)溶媒をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
(VI)重合開始剤をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物を基板に塗布して塗膜を形成させる工程と、
前記塗膜を加熱する工程と
を含む硬化膜の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法で製造された、又は製造され得る硬化膜。
【請求項12】
多環芳香族炭化水素含有ポリマーとチオール含有モノマーに由来するポリマー(A)と、
散乱剤と、
を含む硬化膜。
【請求項13】
波長550nmにおける屈折率が1.6以上である、請求項11又は12に記載の硬化膜。
【請求項14】
波長550nmにおける透過率が60%以上である、請求項11~13のいずれか一項に記載の硬化膜。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか一項に記載の硬化膜を備える、表示デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、アルカリ可溶性を有する組成物に関する。または、本発明の一実施形態は、高屈折率を有する硬化膜に用いる組成物に関する。または、本発明の一実施形態は、高屈折率を有する硬化膜に関する。または、本発明の一実施形態は、高屈折率を有する硬化膜の製造方法に関する。または、本発明の一実施形態は、高屈折率を有する硬化膜を含むデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光素子のような有機材料を用いたデバイスにおいては、高屈折率を有する有機膜の形成が要求される。高屈折率を有する有機膜を形成するために、例えば、特許文献1~4には、フルオレン構造を有する樹脂と、金属酸化物粒子とを含む組成物が記載されている。
【0003】
一方、有機材料を用いたデバイスの製造においては、有機材料を塗布して固化させる工程が含まるが、有機材料を固化させる際の加熱により、デバイスを構成する有機機能層の特性が損なわれるのを防ぐ必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-196721号公報
【特許文献2】特開2018-111777号公報
【特許文献3】特開2019-210310号公報
【特許文献4】国際公開第2016/181422号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一実施形態は、従来よりも低温で膜形成可能な組成物を提供することを目的の一つとする。または、一実施形態において、従来よりも低温で形成された高屈折率を有する硬化膜を提供することを目的の一つとする。または、一実施形態において、従来よりも低温で形成可能な高屈折率を有する硬化膜の製造方法を提供することを目的の一つとする。または、一実施形態において、従来よりも低温で形成された高屈折率を有する硬化膜を含むデバイスを提供することを目的の一つとする。上記に加えて、HAZE、膜厚及び/又は膜の密着性に優れる硬化膜を作成できる組成物、硬化膜及び/又は硬化膜を含むデバイスを提供することも目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態によると、
(I)多環芳香族炭化水素含有ポリマーと、
(II)散乱剤と、
(III)チオール含有モノマーと、を少なくとも含む組成物が提供される。
【0007】
また、本発明の一実施形態によると、
本組成物を基板に塗布して塗膜を形成させる工程と、
前記塗膜を加熱する工程と
を含む硬化膜の製造方法が提供される。
【0008】
また、本発明の一実施形態によると、
多環芳香族炭化水素含有ポリマーとチオール含有モノマーに由来するポリマー(A)と、
散乱剤と、
を含む硬化膜が提供される。
【0009】
また、本発明の一実施形態によると、本硬化膜を備える、表示デバイスが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によると、従来よりも低温で膜形成可能な組成物が提供される。または、本発明の一実施形態によると、従来よりも低温で形成された高屈折率を有する硬化膜が提供される。または、本発明の一実施形態によると、従来よりも低温で形成可能な高屈折率を有する硬化膜の製造方法が提供される。または、本発明の一実施形態によると、従来よりも低温で形成された高屈折率を有する硬化膜を含むデバイスが提供される。好ましくは、上記に加えて、HAZE、膜厚及び/又は膜の密着性に優れる硬化膜、硬化膜を含むデバイスが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る組成物、硬化膜、硬化膜を含むデバイス、及び硬化膜の製造方法を説明する。なお、本発明に係る組成物、硬化膜、硬化膜を含むデバイス、及び硬化膜の製造方法は、以下に示す実施形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0012】
[定義]
本明細書において、特に限定されない限り、記号、単位、略号、用語は以下の意味を有するものとする。
本明細書において、特に限定されて言及されない限り、単数形は複数形を含み、「1つの」や「その」は「少なくとも1つ」を意味する。本明細書において、特に言及されない限り、ある概念の要素は複数種によって発現されることが可能であり、その量(例えば質量%やモル%)が記載された場合、その量はそれら複数種の和を意味する。「及び/又は」は、要素の全ての組み合わせを含み、また単体での使用も含む。
【0013】
本明細書において、「~」又は「-」を用いて数値範囲を示した場合、これらは両方の端点を含み、単位は共通する。例えば、5~25モル%は、5モル%以上25モル%以下を意味する。
【0014】
本明細書において、(メタ)アクリレートとは、技術常識に従い、アクリレート、メタクリレート、又はアクリレートとメタクリレートの混合物を意味する。
本明細書において、モノマーとは単量体のことを意味し、他のモノマーと反応することによりポリマー(オリゴマーを含む)を形成できるものを指す。
本明細書において、ポリマーはオリゴマーの形態であってもよく、ポリマーの質量平均分子量は、特に限定されないが、1,000~100,000であることが好ましく、2,000~30,000であることがより好ましい。ここで、質量平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィーによるスチレン換算質量平均分子量である。
【0015】
本明細書において、アルキル基とは直鎖状又は分岐鎖状飽和炭化水素から任意の水素を1つ除去した基を意味し、直鎖状アルキル基及び分岐鎖状アルキル基を包含し、シクロアルキル基とは環状構造を含む飽和炭化水素から水素を1つ除外した基を意味し、必要に応じて環状構造に直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を側鎖として含む。
【0016】
本明細書において、アリール基とは、芳香族炭化水素から任意の水素を1つ除去した基を意味する。アルキレン基とは、直鎖状又は分岐鎖状飽和炭化水素から任意の水素を2つ除去した基を意味する。アリーレン基とは、芳香族炭化水素から任意の水素を二つ除去した炭化水素基を意味する。
【0017】
本明細書において、「Cx~y」、「C~C」及び「C」などの記載は、分子又は置換基中の炭素の数を意味する。例えば、C1~6アルキル基は、1以上6以下の炭素を有するアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等)を意味する。また、本明細書でいうフルオロアルキル基とは、アルキル基中の1つ以上の水素がフッ素に置き換えられたものをいい、フルオロアリール基とは、アリール基中の1つ以上の水素がフッ素に置き換えられたものをいう。
【0018】
本明細書において、ポリマーが複数種類の繰り返し単位を有する場合、これらの繰り返し単位は共重合する。これら共重合は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合、又はこれらの混在のいずれかである。
本明細書において、%は質量%、比は質量比を表す。
【0019】
本明細書において、温度の単位は摂氏(Celsius)を使用する。例えば、20度とは摂氏20度を意味する。
添加剤は、その機能を有する化合物そのものをいう(例えば、塩基発生剤であれば、塩基を発生させる化合物そのもの)。その化合物が、溶媒に溶解又は分散されて、組成物に添加される形態もあり得る。本発明の一形態として、このような溶媒は溶媒(VI)又はその他の成分として本発明に係る組成物に含有されることが好ましい。
【0020】
[組成物]
本発明の一実施形態に係る組成物は、
(I)多環芳香族炭化水素含有ポリマーと、
(II)散乱剤と、
(III)チオール含有モノマーと、
を少なくとも含む組成物。
【0021】
一実施形態において、組成物に含まれる多環芳香族炭化水素含有ポリマーは、好ましくは、アルカリ可溶性ポリマーである。また、組成物は硬化膜の作製に用いることができる。
【0022】
一実施形態において、組成物は、
(IV)(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上含む化合物
を含むことができる。
【0023】
一実施形態において、組成物は、
(V)溶媒
をさらに含むことができる。
【0024】
一実施形態において、組成物は、
(VI)重合開始剤
をさらに含むことができる。
【0025】
[多環芳香族炭化水素含有ポリマー]
本明細書において、「多環芳香族炭化水素含有ポリマー」は、芳香環が縮合した炭化水素を繰り返し単位に含むポリマーを意味する。本実施形態に係る多環芳香族炭化水素含有ポリマーは、高屈折率を有する膜を形成する観点から、フルオレン構造(フルオレン骨格とも称する)を有するポリマーであることが好ましい。本実施形態に係る多環芳香族炭化水素含有ポリマーは、より好ましくは、下記化学式(1)で示されるカルド構造を有するポリマーである。
【化1】
【0026】
上記の構造を有するポリマーを含む本組成物により形成される硬化膜は、高い屈折率を有する膜を形成する材料として好適である。なお、上述したように、本明細書においては、「ポリマー」は、「オリゴマー」を包含する概念である。したがって、多環芳香族炭化水素含有ポリマーは、多環芳香族炭化水素含有オリゴマーであってもよく、フルオレン構造を有するポリマーは、フルオレン構造を有するオリゴマーであってもよい。また、カルド構造を有するポリマーは、カルド構造を有するオリゴマーであってもよい。
【0027】
一実施形態において、多環芳香族炭化水素含有ポリマーは、アルカリ可溶性ポリマーであるため、好ましくは酸基を有する部分構造を有する。酸基は、酸解離指数(pKa)が7以下である酸基が好ましく、より好ましくは-OH、-COOH、-SOH、-OSOH、-PO、-CONHSO、-SONHSO-であり、特に好ましくは-COOHである。それらの酸基、好ましくはカルボキシ基を有することで、低濃度の現像液に対するアルカリ可溶性ポリマーの溶解性を効果的に向上させることができる。
【0028】
一実施形態において、多環芳香族炭化水素含有ポリマーは、2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する繰り返し単位を含んでもよい。また、一実施形態において、多環芳香族炭化水素含有ポリマーが1つ以上の酸基を有する繰り返し単位を含む。好ましくは、多環芳香族炭化水素含有ポリマーは、多環芳香族炭化水素基、2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基、1つ以上の酸基を有する繰り返し単位を含む。
本組成物に含み得る多環芳香族炭化水素含有ポリマーとしては、特開2007-223904号公報に記載された下記一般式(2)で表されるカルド構造を含むポリマーを例示することができる。
【化2】

(式中、環Z及びZは同一又は互いに異なった芳香族炭化水素環を示し、R1a、R1b、R2a及びR2bは同一又は少なくとも1つが異なった置換基を示し、R3a及びR3bは同一又は互いに異なったアルキレン基を示す。k1及びk2は同一又は互いに異なった0~4の整数を示し、m1及びm2はそれぞれ0以上の整数を示し、n1及びn2は0以上の整数、q1及びq2は同一又は互いに異なった0以上の整数である。ただし、n1+n2≧2である。)
【0029】
本組成物に含み得る多環芳香族炭化水素含有ポリマーとしては、特開2007-223904号公報に記載された下記一般式(3)で表されるカルド構造を含むポリマーを例示することができる。
【化3】

(式中、R~Rは各々独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~18の直鎖、分岐若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基若しくはフェノキシ基、又はハロゲン原子を表し、Arは各々独立して下記一般式(4)又は(5)で表される基を表す。Arは各々独立して置換基(但し、アミノ基を除く)を有していてもよい炭素数6~24のアリール基又は炭素数3~24のヘテロアリール基を表す。)
【化4】

(式中、R~Rは各々独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~18の直鎖、分岐若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、置換基(但し、アミノ基を除く)を有していてもよい炭素数6~24のアリール基若しくはアリールオキシ基、炭素数3~24のヘテロアリール基、又はハロゲン原子を表す。l、mは0~3の整数、nは0~2の整数を表す。)
【0030】
本組成物に含み得る多環芳香族炭化水素含有ポリマーとしては、下記化学式(6)~(11)で表されるカルド構造を含むポリマーを例示することができる。
【化5】
【0031】
[散乱剤]
一実施形態において、散乱剤は、有機若しくは無機の微粒子である。好ましくは、有機微粒子はポリマー微粒子であり、無機の微粒子は酸化金属微粒子である。より好ましくは、散乱剤が無機の微粒子である。さらに好ましくは、散乱剤がSiO、SnO、CuO、CoO、Al、TiO、Fe、Y、ZnO、ZnS、MgO、中空シリカ粒子、及びそれらの1つ又は2つ以上の混合物からなる群から選ばれてなる無機の微粒子である。
【0032】
一実施形態において、散乱剤は、ミー散乱を生じるように構成されている。例えば、散乱剤の平均粒子径は、350nm~5μmである。350nmより大きい平均粒径を有する散乱剤は、ミー散乱によって引き起こされる強い前方散乱を導き得る。また、良好な膜形成のために、散乱剤の最大平均粒径は、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは500nm~2μmである。散乱剤の取り扱いの容易性の観点や、他の組成物原料と混合する際の相溶性等の観点から、有機溶媒に分散されていることが好ましいが、粉体物の状態であってもよい。そのような散乱剤としては、公知の材料、例えば、石原産業株式会社カタログ品、などから好適に選定できる。
【0033】
本実施形態に係る組成物における散乱剤の含有量は、多環芳香族炭化水素含有ポリマーの総質量を基準として、50~400質量%である。散乱剤の含有量は、好ましくは100~300質量%であり、より好ましくは150~250質量%であり、より好ましくは200質量%である。散乱剤をこれらの範囲で含有することにより、作製される硬化膜の屈折率を高めることできる。
【0034】
[チオール含有モノマー]
本実施形態に係る組成物は、チオール含有モノマーを含むことにより、組成物が固化する温度を低温化することができる。チオール含有モノマーは、光重合開始剤としても機能する添加剤である。チオール含有モノマーが雰囲気中の酸素を阻害することから、紫外線照射による、不飽和化合物を用いたラジカル重合反応の反応性及び感受性を改善することができる。その結果、本組成物がチオール含有モノマーを含むことにより、紫外線照射後のポストベーク時の温度の低温化することができる。また、本実施形態に係る組成物は、チオール含有モノマーを含むことにより、架橋性が向上し、下地層との密着性が向上する。
【0035】
本実施形態に係る組成物に含み得るチオール含有モノマーとして、例えば、下記化合物(3-1)~(3-16)を挙げることができる。
【化6】
【化7】
【0036】
一実施形態において、チオール含有モノマーは、第2級チオールであることが好ましい。本実施形態に係る組成物に含み得る第2級チオール含有モノマーとして、例えば、下記化合物(3-17)~(3-20)を挙げることができる。
【化8】
【0037】
本実施形態に係る組成物において、チオール含有モノマーの含有量は、多環芳香族炭化水素含有ポリマーの総質量を基準として、0.1~20質量%である。チオール含有モノマーの含有量は、好ましくは1~10質量%であり、より好ましくは3~7質量%である。
【0038】
[(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上含む化合物]
(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上含む化合物は、以下、簡単のために(メタ)アクリロイルオキシ基含有化合物ということがある。ここで、(メタ)アクリロイルオキシ基とは、アクリロイルオキシ基及びメタクリロイルオキシ基の総称である。この化合物は、アクリロイル基含有化合物やアルカリ可溶性ポリマー等と反応して架橋構造を形成することができる化合物である。ここで架橋構造を形成するために、反応性基であるアクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を2つ以上含む化合物が必要であり、より高次の架橋構造を形成するために3つ以上のアクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を含むことが好ましい。
【0039】
このような(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上含む化合物としては、(α)2つ以上の水酸基を有するポリオール化合物と、(β)2つ以上の(メタ)アクリル酸と、が反応したエステル類が好ましく用いられる。
この(α)ポリオール化合物としては、飽和又は不飽和脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ヘテロ環炭化水素、1級、2級、又は3級アミン、又はエーテル等を基本骨格とし、置換基として2つ以上の水酸基を有する化合物が挙げられる。このポリオール化合物は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の置換基、例えばカルボキシ基、カルボニル基、アミノ基、エーテル結合、チオール基、又はチオエーテル結合等を含んでいてもよい。
【0040】
好ましいポリオール化合物としては、アルキルポリオール、アリールポリオール、ポリアルカノールアミン、シアヌル酸、又はジペンタエリスリトールなどが挙げられる。ここで、(α)ポリオール化合物が3個以上の水酸基を有する場合、全ての水酸基がメタ(アクリル酸)と反応している必要はなく、部分的にエステル化されていてもよい。すなわち、このエステル類は未反応の水酸基を有していてもよい。このようなエステル類としては、トリス(2-アクリルオキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、及び1,10-デカンジオールジアクリレート等が挙げられる。これらのうち、反応性及び架橋可能基の数の観点から、トリス(2-アクリルオキシエチル)イソシアヌレート、及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが好ましい。また、形成されるパターンの形状を調整するために、これらの化合物を2種類以上組み合わせることもできる。具体的には、(メタ)アクリロイルオキシ基を3つ含む化合物と(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ含む化合物を組み合わせることが好ましい。
【0041】
このような化合物は、反応性の観点から相対的にアルカリ可溶性ポリマーよりも小さい分子であることが好ましい。このために、分子量が2,000以下であることが好ましく、1,500以下であることが好ましい。
【0042】
この(メタ)アクリロイルオキシ基含有化合物の含有量は、用いられるポリマーやアクリロイルオキシ基含有化合物の種類などに応じて調整されるが、組成物の溶媒を除く総質量を基準として、好ましくは5~99.9質量%、より好ましくは30~70質量%である。アルカリ可溶性ポリマーと組み合わせる場合は、アルカリ可溶性ポリマーとの相溶性の観点から、アルカリ可溶性ポリマーの総質量を基準として、5~1000質量%、より好ましくは10~800質量%であることが好ましい。低濃度の現像液を用いる場合には、30~800質量%であることが好ましい。また、これらの(メタ)アクリロイルオキシ基含有化合物は、単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
[溶媒]
本実施形態に係る組成物が含む溶媒は、上述した多環芳香族炭化水素含有ポリマー、散乱剤、チオール含有モノマー、及び必要に応じて添加される成分を均一に溶解又は分散させるものであれば特に限定されない。本発明に用いることができる溶媒の例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、及びエチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、及びジエチレングリコールジブチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル類、メチルセロソルブアセテート、及びエチルセロソルブアセテートなどのエチレングリコールアルキルエーテルアセテート類、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、及びポリエチレングリコールモノエチルエーテル等のポリエチレングリコールモノアルキルエーテル類、PGMEA、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、及びプロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート等のプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類、ベンゼン、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、アセトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン、及びシクロヘキサノン等のケトン類、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、及びグリセリン等のアルコール類、乳酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、及び3-メトキシプロピオン酸メチル等のエステル類、並びにγ-ブチロラクトン等の環状エステル類などが挙げられる。これらのうち、入手容易性、取り扱い容易性、及びアルカリ可溶性材料の溶解性などの観点から、プロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類又はエステル類と、アルキル基の炭素数4若しくは5の直鎖又は分岐鎖を有するアルコール類とを用いることが好ましい。
【0044】
本実施形態に係る組成物において、好ましくは溶媒の含有量が、多環芳香族炭化水素含有ポリマーの総質量を基準として、1000質量%以下である。溶媒の含有量は、より好ましくは10~1000質量%であり、より好ましくは300~900質量%であり、さらに好ましくは500~800質量%である。組成物に含まれる溶媒の含有量を調整することにより、組成物の粘度を調整することができる。一実施形態において、組成物により形成する硬化膜の膜厚を厚くするために、組成物に含まれる溶媒の含有量を減らして、粘度を高めることが好ましい。
【0045】
[重合開始剤]
本実施形態に係る組成物が含む重合開始剤は、光重合開始剤である。光重合開始剤は、パターンの形状を強固にしたり、現像のコントラストを上げたりすることにより解像度を改良することができる。本発明に用いられる光重合開始剤は、光(放射線)を照射するとラジカルを放出する光ラジカル発生剤である。さらに好ましくは、重合開始剤はG線(436nm)又はH線(405nm)に反応するように構成されている。
【0046】
光重合開始剤の添加量は、光重合開始剤が分解して発生する活性物質の種類、発生量、要求される感度・露光部と未露光部との溶解コントラストにより最適量は異なるが、アルカリ可溶性ポリマーの総質量を基準として、好ましくは0.001~50質量%であり、さらに好ましくは0.01~30質量%である。露光部と未露光部との溶解コントラストが低すぎて、添加効果を有さない状況を防止する観点から、添加量は0.001質量%より多いことが好ましく、形成される被膜にクラックが発生したり、光重合開始剤の分解による着色が顕著になったりすることにより、被膜の無色透明性が低下すること、また、光重合開始剤の熱分解により硬化物の電気絶縁性の劣化やガス放出の原因となって、後工程の問題になること、さらに、被膜の、モノエタノールアミン等を主剤とするようなフォトレジスト剥離液に対する耐性が低下すること等を防止するため、光重合開始剤の添加量は50質量%より少ないことが望ましい。
【0047】
光重合開始剤の例として、アゾ系、過酸化物系、アシルホスフィンオキサイド系、アルキルフェノン系、オキシムエステル系、及びチタノセン系開始剤が挙げられる。その中でもアルキルフェノン系、アシルホスフィンオキサイド系、及びオキシムエステル系開始剤が好ましく、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルフォリニル)フェニル]-1-ブタノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,及び1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)等が挙げられる。
【0048】
[硬化膜]
上述した組成物を用いて硬化膜を形成することができる。硬化膜は、多環芳香族炭化水素含有ポリマーとチオール含有モノマーに由来するポリマーと、散乱剤と、を含み、多環芳香族炭化水素含有ポリマーとチオール含有モノマーとは、重合反応により、重合する。また、組成物が上述した(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上含む化合物を含む場合、芳香族炭化水素含有ポリマーとチオール含有モノマーと(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上含む化合物とが重合して硬化膜を構成する。
【0049】
硬化膜は、平均膜厚が1~20μmである。好ましくは、硬化膜の平均膜厚が1.5~15μmであり、より好ましくは2~10μmである。上述しように、本実施形態に係る組成物の粘度を調整することにより、膜厚が厚い硬化膜を得ることができる。
【0050】
硬化膜は、波長550nmにおける屈折率が1.6以上である。硬化膜の屈折率は、好ましくは1.6~2.3である。硬化膜の屈折率は、より好ましくは1.7~2.2であり、さらに好ましくは1.8~2.1である。このような高い屈折率を有する硬化膜は、有機電界発光素子の光取り出し側に配置する膜として好適である。
【0051】
波長550nmにおける硬化膜の透過率は、60%以上である。硬化膜の透過率は、好ましくは60%~99%であり、より好ましくは70%~98%であり、より好ましくは80%~95%であり、さらに好ましくは85%~95%である。このような高い透過率を有する硬化膜は、有機電界発光素子の光取り出し側に配置する膜として好適である。
【0052】
[硬化膜の製造方法]
硬化膜の製造方法は、組成物を基板に塗布して塗膜を形成させる工程と、塗膜を加熱する工程とを含む。
好ましくは、硬化膜の製造方法は、塗膜を露光する工程と、塗膜を現像する工程をさらに含む。より好ましくは、硬化膜の製造方法は、本実施形態に係る組成物を基板に塗布して塗膜を形成させる工程と、塗膜を露光する工程と、塗膜を現像する工程と、塗膜を加熱する工程とをこの順に含み、さらに好ましくは塗布工程後かつ露光工程前に、プリベーク工程を含む。
本発明の硬化膜の形成方法を工程順に説明すると以下の通りである。
【0053】
(1)塗布工程
まず、本実施形態に係る組成物を基板に塗布する。本実施形態に係る組成物の塗膜の形成は、感光性組成物の塗布方法として従来知られた任意の方法により行うことができる。具体的には、浸漬塗布、ロールコート、バーコート、刷毛塗り、スプレーコート、ドクターコート、フローコート、スピンコート、及びスリット塗布等から任意に選択することができる。
【0054】
また、組成物を塗布する基材としては、シリコン基板、ガラス基板、及び樹脂フィルム等の適当な基材を用いることができる。これらの基材には、必要に応じて各種の半導体素子などが形成されていてもよい。基材がフィルムである場合には、グラビア塗布も利用可能である。所望により塗膜後に乾燥工程を別に設けることもできる。また、必要に応じて塗布工程を1回又は2回以上繰り返して、形成される塗膜の膜厚を所望のものとすることができる。
【0055】
(2)プリベーク工程
組成物を塗布することにより、塗膜を形成させた後、その塗膜を乾燥させ、かつ塗膜中の溶媒残存量を減少させるため、その塗膜をプリベーク(前加熱処理)することが好ましい。プリベーク工程は、一般に40~150℃、好ましくは50~100℃の温度で、ホットプレートによる場合には10~300秒間、好ましくは30~120秒間、クリーンオーブンによる場合には1~30分間実施することができる。
【0056】
(3)露光工程
塗膜を形成させた後、所望によりその塗膜表面に光照射を行う。光照射に用いる光源は、パターン形成方法に従来使用されている任意のものを用いることができる。このような光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライド、及びキセノン等のランプやレーザーダイオード、並びにLED等を挙げることができる。照射光としてはg線、h線、及びi線等の紫外線が通常用いられる。半導体のような超微細加工を除き、数μmから数十μmのパターニングでは360~430nmの光(高圧水銀灯)を使用することが一般的である。照射光のエネルギーは、光源や塗膜の膜厚にもよるが、一般に5~2000nJ/cm、好ましくは10~1000mJ/cmとする。十分な解像度を得る観点から、照射光エネルギーが10mJ/cmよりも高いことが好ましく、露光や、ハレーションの発生を防止する観点から、照射光エネルギーは2000mJ/cm以下とすることが好ましい。
【0057】
光をパターン状に照射するためには一般的なフォトマスクを使用することができる。そのようなフォトマスクは周知のものから任意に選択することができる。照射の際の環境は、特に限定されないが、一般に周囲雰囲気(大気中)や窒素雰囲気とすればよい。また、基板表面全面に膜を形成する場合には、基板表面全面に光照射すればよい。本発明においては、パターン膜とは、このような基板表面全面に膜が形成された場合をも含むものである。
【0058】
(4)露光後加熱工程
露光後、露光個所に発生した反応開始剤により膜内のポリマー間反応を促進させるため、必要に応じて露光後加熱(Post Exposure Baking)を行うことができる。この加熱処理は、後述する加熱工程(6)とは異なり、塗膜を完全に硬化させるために行うものではなく、現像後に所望のパターンだけが基板上に残し、それ以外の部分が現像により除去することが可能となるように行うものである。したがって、本願発明において必須ではない。
【0059】
露光後加熱を行う場合、ホットプレート、オーブン、又はファーネス等を使用することができる。加熱温度は光照射によって発生した露光領域の酸が未露光領域まで拡散することは好ましくないため、過度に高くするべきではない。このような観点から露光後の加熱温度の範囲としては、40℃~150℃が好ましく、60℃~120℃がさらに好ましい。組成物の硬化速度を制御するため、必要に応じて、段階的加熱を適用することもできる。また、加熱の際の雰囲気は特に限定されないが、組成物の硬化速度を制御することを目的として、窒素などの不活性ガス中、真空下、減圧下、酸素ガス中などから選択することができる。また、加熱時間は、ウエハ面内の温度履歴の均一性がより高く維持するために一定以上であることが好ましく、また発生した酸の拡散を抑制するためには過度に長くないことが好ましい。このような観点から、加熱時間は20秒~500秒が好ましく、40秒~300秒がさらに好ましい。
【0060】
(5)現像工程
露光後、必要に応じて露光後加熱を行った後、塗膜を現像処理する。現像の際に用いられる現像液としては、従来、感光性組成物の現像に用いられている任意の現像液を用いることができる。好ましい現像液としては、水酸化テトラアルキルアンモニウム、コリン、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属メタ珪酸塩(水和物)、アルカリ金属燐酸塩(水和物)、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア、アルキルアミン、アルカノールアミン、及び複素環式アミン等のアルカリ性化合物の水溶液であるアルカリ現像液が挙げられ、特に好ましいアルカリ現像液は、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、及び炭酸ナトリウム水溶液である。これらアルカリ現像液には、必要に応じさらにメタノール、エタノールなどの水溶性有機溶剤、あるいは界面活性剤が含まれていてもよい。本発明においては、通常現像液として用いられる2.38質量%TMAH現像液よりも低濃度の現像液を用いて現像することができる。そのような現像液としては、例えば、0.05~1.5質量%TMAH水溶液、0.1~2.5質量%炭酸ナトリウム水溶液、0.01~1.5質量%水酸化カリウム水溶液などが挙げられる。現像時間は、通常10~300秒であり、好ましくは30~180秒である。
【0061】
現像方法も従来知られている方法から任意に選択することができる。具体的には、現像液への浸漬(ディップ)、パドル、シャワー、スリット、キャップコート、スプレーなどの方法が挙げられる。この現像によって、パターンを得ることができる、現像液により現像が行われた後には、水洗がなされることが好ましい。
【0062】
(6)加熱工程
塗膜を加熱することにより硬化させる。加熱工程に使う加熱装置には、露光後加熱に用いたものと同じものを用いることができる。この加熱工程における加熱温度は、本実施形態に係る組成物がチオール含有モノマーを含むため、70~120℃である。より好ましくは75~100℃で塗膜を加熱硬化し、さらに好ましくは80~90℃で塗膜を加熱硬化する。一方で、硬化反応を促進し、十分な硬化膜を得るために、硬化温度は70℃以上であることが好ましく、80℃以上がより好ましい。また、加熱時間は特に限定されず、一般に10分~24時間、好ましくは20分~3時間とされる。なお、この加熱時間は、パターン膜の温度が所望の加熱温度に達してからの時間である。通常、加熱前の温度からパターン膜が所望の温度に達するまでには数分から数時間程度要する。
【0063】
[表示デバイス]
本実施形態に係る硬化膜を表示デバイスに配置する膜として用いることができる。硬化膜は、高い屈折率を有することから、有機エレクトロニックルミネッセンスディスプレイのような有機電界発光素子を用いた表示デバイスに好適に適用することができる。特に、発光層と表示デバイスの表面との間に配置される層に、本実施形態に係る硬化膜を好適に用いることができる。
【0064】
好ましい実施形態を以下に挙げる。
【0065】
[実施形態1]
(I)多環芳香族炭化水素含有ポリマーと、
(II)散乱剤と、
(III)チオール含有モノマーと、
を少なくとも含む組成物。
好ましくは、多環芳香族炭化水素含有ポリマーはアルカリ可溶性ポリマーである。
また、好ましくは、本実施形態の組成物は硬化膜作製用組成物である。
【0066】
[実施形態2]
(I)多環芳香族炭化水素含有ポリマーは、フルオレン構造を含む実施形態1に記載の組成物。
好ましくは、カルド構造を含む。
【0067】
[実施形態3]
(II)散乱剤が有機若しくは無機の微粒子であり、好ましくは有機微粒子が、ポリマー微粒子であり、無機の微粒子は酸化金属微粒子であり、より好ましくは散乱剤が無機の微粒子であり、さらに好ましくは散乱剤がSiO、SnO、CuO、CoO、Al、TiO、Fe、Y、ZnO、ZnS、MgO、中空シリカ粒子、及びそれらの1つ又は2つ以上の混合物からなる群から選ばれてなる無機の微粒子である、実施形態1又は2に記載の組成物。
また、好ましくは、散乱剤はミー散乱を生じるように構成されている。
【0068】
[実施形態4]
(II)散乱剤の含有量が、(I)多環芳香族炭化水素含有ポリマーの総質量を基準として、50質量%以上400質量%以下である実施形態1~3のいずれか一に記載の組成物。好ましくは100~300質量%であり、より好ましくは150~250質量%であり、より好ましくは200質量%である。
【0069】
[実施形態5]
(III)チオール含有モノマーの含有量が、(I)多環芳香族炭化水素含有ポリマーの総質量を基準として、0.1~20質量%である実施形態1~4のいずれか一に記載の組成物。好ましくは1~10質量%であり、より好ましくは3~7質量%である。チオール含有モノマーが第2級チオールであることが好ましい。
【0070】
[実施形態6]
(I)多環芳香族炭化水素含有ポリマーが2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する繰り返し単位を含む、実施形態1~5のいずれか一に記載の組成物。好ましくは(I)多環芳香族炭化水素含有ポリマーが1つ以上の酸基を有する繰り返し単位を含む。
また、好ましくは、多環芳香族炭化水素含有ポリマーは、多環芳香族炭化水素基、2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基、1つ以上の酸基を有する繰り返し単位を含む。
【0071】
[実施形態7]
(IV)組成物が(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上含む化合物をさらに含む、実施形態1~6のいずれか一に記載の組成物。好ましくは(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上含む化合物はモノマーである。
【0072】
[実施形態8]
(V)組成物が溶媒をさらに含む、実施形態1~7のいずれか一に記載の組成物。好ましくは溶媒の含有量が(I)多環芳香族炭化水素含有ポリマーの総質量を基準として、1000質量%以下である。より好ましくは10~1000質量%であり、より好ましくは300~900質量%であり、さらに好ましくは500~800質量%である。
【0073】
[実施形態9]
(VI)組成物が重合開始剤をさらに含む、実施形態1~8のいずれか一に記載の組成物。好ましくは、重合開始剤は光重合開始剤である。さらに好ましくは、重合開始剤はG線(436nm)、H線(405nm)に反応するように構成されている。
【0074】
[実施形態10]
実施形態1~9のいずれか一に記載の組成物を基板に塗布して塗膜を形成させる工程と、
塗膜を加熱する工程と
を含む硬化膜の製造方法。
好ましくは塗膜を加熱する工程は70~120℃で加熱硬化する。より好ましくは75~100℃で加熱硬化する、さらに好ましくは80~90℃で加熱硬化する。
【0075】
[実施形態11]
実施形態10の方法で製造された、又は製造され得る硬化膜。
【0076】
[実施形態12]
多環芳香族炭化水素含有ポリマーとチオール含有モノマーに由来するポリマー(A)と、
散乱剤と、
を含む硬化膜。
【0077】
[実施形態13]
平均膜厚が1~20μmである、実施形態11又は実施形態12に記載の硬化膜である。平均膜厚が、好ましくは、1.5~15μmであり、より好ましくは2~10μmである。
【0078】
[実施形態14]
波長550nmにおける屈折率が1.6以上である、実施形態11~13のいずれか一に記載の硬化膜。波長550nmにおける屈折率が、好ましくは1.6~2.3である。波長550nmにおける屈折率が、より好ましくは1.7~2.2であり、さらに好ましくは1.8~2.1である。
【0079】
[実施形態15]
波長550nmにおける透過率が60%以上である、実施形態11~14のいずれか一に記載の硬化膜。波長550nmにおける透過率が、好ましくは60~99%であり、より好ましくは70~98%であり、より好ましくは80~95%であり、さらに好ましくは85~95%である。
【0080】
[実施形態16]
実施形態12~15のいずれか一に記載の硬化膜を備える、表示デバイス。好ましくは、硬化膜は、表示デバイスの表面と発光層との間に配置される。
【実施例
【0081】
以下、本発明について、実施例を示して詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0082】
[実施例1]
多環芳香族炭化水素含有ポリマーAとして、フルオレン構造を有するアクリルオリゴマー(GA-5060P、大阪ガスケミカル株式会社)を100質量%に対して、散乱剤として、チタニア分散液Aを200質量%、チオール含有モノマーとして、ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)(Karenz MT PE-1、昭和電工株式会社)を3質量%、(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上含む化合物として、カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート(A-9300-1CL、新中村化学工業株式会社)を20質量%、光重合開始剤として、オキシム型エラストマー(アデカアークルズ NCI-831E、株式会社ADEKA)を3質量%、溶媒として、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(昭和電工株式会社)を加えて、固体分比率が35質量%の溶液を調製し、実施例1の組成物を得た。
【0083】
[実施例2]
散乱剤Aから変更して、散乱剤Bとして、チタニア分散液B(石原産業株式会社)を用い、表1に記載した割合で各材料をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに加えて、固体分比率が40質量%の溶液を調製し、実施例2の組成物を得た。
【0084】
[実施例3]
多環芳香族炭化水素含有ポリマーAとして、フルオレン構造を有するアクリルオリゴマー(オグソールCR-1030、大阪ガスケミカル株式会社)を100質量%に対して、散乱剤Aとして、チタニア分散液Aを200質量%、チオール含有モノマーとして、ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)(Karenz MT PE-1、昭和電工株式会社)を3質量%、(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上含む化合物として、カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート(A-9300-1CL、新中村化学工業株式会社)を20質量%、光重合開始剤として、オキシム型エラストマー(アデカアークルズ NCI-831E、株式会社ADEKA)を3質量%、溶媒として、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(昭和電工株式会社)に加えて、固体分比率が35質量%の溶液を調製し、実施例3の組成物を得た。
【0085】
[実施例4]
散乱剤Aから変更して、散乱剤Bとして、チタニア分散液B(石原産業株式会社)を用い、表1に記載した割合で各材料をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに加えて、固体分比率が40質量%の溶液を調製し、実施例4の組成物を得た。
【0086】
[実施例5]
実施例1に代えて、表1に記載した割合で各材料をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに加えて、固体分比率が40質量%の溶液を調製し、実施例5の組成物を得た。チタニア粉体(石原産業株式会社)を使用した。
[比較例1]
多環芳香族炭化水素含有ポリマーAから、多環芳香族炭化水素含有ポリマーBとして、フルオレン構造を有するアクリルモノマー(オグソールGA-5060P、大阪ガスケミカル株式会社)を100質量%に変更し、散乱剤を添加せずに、表1に記載した割合で各材料をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに加えて、固体分比率が25質量%の溶液を調製し、比較例1の組成物を得た。
【0087】
[比較例2]
多環芳香族炭化水素含有ポリマーを添加せずに、表1に記載した割合で各材料をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに加えて、固体分比率が25質量%の溶液を調製し、比較例2の組成物を得た。
【0088】
【表1】
【0089】
[硬化膜の作製]
実施例1~5及び比較例1~2の組成物を、スピンコート(MS-A100、MIKASA)にて無アルカリガラス基板上に塗布し、塗布後ホットプレート(HHP-411V、AS ONE)上で100℃、90秒間プリベークし、2μmの平均膜厚となるように調整した。i線露光機(PLA-501、キャノン)を用いて1000mJ/cmで露光した。露光後の基板を100℃のオーブン(DP-200、Yamato)に入れ、60分間加熱し、ポリマーの硬化を促進した。
【0090】
[屈折率の測定]
実施例1~5及び比較例1~2の硬化膜について、波長550nmにおける屈折率を測定した。屈折率の測定には、エリプソメーター(M-2000、ジェー・エー・ウーラム・ジャパン株式会社製)を用いた。測定結果を表1に示す。
【0091】
[透過率の測定]
実施例1~5及び比較例1~2の硬化膜について、波長550nmにおける透過率を測定した。透過率の測定には、紫外可視分光光度計(UV-2600、株式会社島津製作所製)を用いた。測定結果を表1に示す。
【0092】
[HAZEの測定]
実施例1~5及び比較例1~2の硬化膜について、HAZEを測定した。本発明において、HAZE値とは拡散透過光の全光線透過光に対する割合から求めた値をいい、HAZEの測定には、ヘーズメーター(NDH7000、日本電色工業株式会社製)を用いた。測定結果を表1に示す。
【0093】
[膜厚の評価]
実施例1~5及び比較例1~2の硬化膜について、膜厚を評価した。膜厚の評価には、DektakXT-A(DXT-12-0489、ブルカージャパン株式会社製)を用いた。評価結果を表1に示す。なお、表1中、膜厚が5μm以上10μm以下の硬化膜をA、膜厚が1μm以上1μm未満の硬化膜をB、膜厚が1μm未満の硬化膜をCと評価した。
【0094】
[密着性の評価]
実施例1~5及び比較例1~2の硬化膜について、密着性を評価した。密着性の評価は、JIS K5600-5-6に準じて行った。具体的にはクロスカット法を用いた。評価結果を表1に示す。なお、表1中、硬化膜の密着性は、分類0又は1の硬化膜をA、分類2又は3の硬化膜をB、分類4又は5の硬化膜をCと評価した。
【0095】
実施例1~5の硬化膜は、比較例1及び2の硬化膜に比して、高い屈折率を示し、同程度の透過率を示した。硬化膜の膜厚は、実施例1~5の硬化膜は、良好な膜厚であったが、比較例1及び2の硬化膜では不十分な膜厚であった。また、硬化膜の密着性については、実施例1~5並びに比較例1の硬化膜では十分な密着性が得られたが、比較例2では不十分な密着性であった。
【国際調査報告】