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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2013年10月31日
【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】高熱伝導性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20151201BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20151201BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20151201BHJP
【FI】
   C08L81/02
   C08K5/5415
   C08K9/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
【出願番号】特願2014-512630(P2014-512630)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2013年4月24日
(31)【優先権主張番号】特願2012-102949(P2012-102949)
(32)【優先日】2012年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 紫野
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CN011
4J002DE076
4J002EX017
4J002EX067
4J002EX077
4J002EX087
4J002FB106
4J002FD016
4J002GP00
4J002GQ00
(57)【要約】
高熱伝導性を維持しつつ、薄肉流動性に優れた高熱伝導性樹脂組成物を提供する。
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部と、(B)ビニルアルコキシシラン化合物で予め表面処理された酸化マグネシウム80〜600質量部と、を配合してなる高熱伝導性樹脂組成物である。前記(B)表面処理酸化マグネシウムのレーザー回折・散乱法により測定した平均粒径は10μm超100μm以下であることが好ましい。前記(B)表面処理酸化マグネシウム表面において、酸化マグネシウムに対するビニルアルコキシシランの付着量は0.3〜1.5質量%であることが好ましい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部と、
(B)ビニルアルコキシシラン化合物で予め表面処理された酸化マグネシウム(以下、「表面処理酸化マグネシウム」と呼ぶ。)80〜600質量部と、
を配合してなる高熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)表面処理酸化マグネシウムのレーザー回折・散乱法により測定した平均粒径が10μm超100μm以下である請求項1に記載の高熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)表面処理酸化マグネシウム表面において、酸化マグネシウムに対するビニルアルコキシシランの付着量が0.3〜1.5質量%である請求項1又は2に記載の高熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
更に、(C)アルコキシシラン化合物0.1〜2質量部を配合してなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の高熱伝導性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンサルファイド樹脂を用いた高熱伝導性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下「PPS樹脂」と呼ぶ場合がある)に代表されるポリアリーレンサルファイド樹脂(以下「PAS樹脂」と呼ぶ場合がある)は、高い耐熱性、機械的物性、耐化学薬品性、寸法安定性、難燃性を有していることから、電気・電子機器部品材料、自動車機器部品材料、化学機器部品材料等に広く使用されている。このようなPAS樹脂の耐熱性と、熱伝導性フィラーの熱伝導性を活かし、PAS樹脂と熱伝導性フィラーとを配合した高熱伝導性樹脂組成物が知られている。熱伝導性フィラーとしては、例えば、銅、銀、鉄、アルミニウム等の金属又はこれらの合金からなる金属系フィラーや、カーボン、グラファイト等の炭素系フィラーや、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物からなるフィラー等が用いられる。
中でも、酸化マグネシウムは、熱伝導率が比較的高い上に、適度な硬度や絶縁性を有することから有用であり、本出願人は、表面処理された酸化マグネシウム、すなわちリン酸マグネシウム系化合物よりなる被覆層等を有する酸化マグネシウム、及びPAS樹脂等を含む高熱伝導性樹脂組成物を提案した(特許文献1)。この高熱伝導性樹脂組成物により、成形性や耐湿熱性を向上させるという課題を解決した。
【0003】
その他、PAS樹脂と、表面処理された酸化マグネシウムとを用いた樹脂組成物としては、特許文献2や特許文献3に記載された樹脂組成物が挙げられる。
特許文献2には、PAS樹脂、及びアルコキシシラン化合物で表面処理された酸化マグネシウム等を含む樹脂組成物が記載されている。この樹脂組成物において、表面処理された酸化マグネシウムを使用する目的は耐蝕性の付与である。また、当該酸化マグネシウムの配合量は少量であり、樹脂組成物が高熱伝導性を発揮し得る量ではない。つまり、当該樹脂組成物は、高熱伝導性を有する樹脂組成物ではない。
特許文献3には、PAS樹脂、及び800℃以上で焼成後表面処理してなる酸化マグネシウム等を含む樹脂組成物(電気絶縁・放熱部品用成形材料)が記載されている。この樹脂組成物において、表面処理した酸化マグネシウムを使用する目的は高熱伝導性及び耐湿熱性の付与である。そして、当該表面処理された酸化マグネシウムの特徴は、800℃以上で焼成後に表面処理を行うことにある。また、表面処理に用いる表面処理剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等が例示されている。
【0004】
近年、電気製品等の各種製品の部品において、小型化、薄肉化が進み、高熱伝導性や、優れた機械的特性を維持したまま、薄肉流動性(Thin-Walled Flowability)に優れる樹脂組成物が要求されている。
上記特許文献1に記載の高熱伝導性樹脂組成物は、高い流動性を示すものの、薄肉流動性に優れると言える程の流動性を有するものではない。その他の特許文献に記載の樹脂組成物も、薄肉流動性を有するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−282783号公報
【特許文献2】特開平8−12886号公報
【特許文献3】特開2002−38010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高熱伝導性を維持しつつ、薄肉流動性に優れた高熱伝導性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する本発明は以下の通りである。
(1)(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部と、
(B)ビニルアルコキシシラン化合物で予め表面処理された酸化マグネシウム80〜600質量部と、
を配合してなる高熱伝導性樹脂組成物。
【0008】
(2)前記(B)表面処理酸化マグネシウムのレーザー回折・散乱法により測定した平均粒径が10μm超100μm以下である前記(1)に記載の高熱伝導性樹脂組成物。
【0009】
(3)前記(B)表面処理酸化マグネシウム表面において、酸化マグネシウムに対するビニルアルコキシシランの付着量が0.3〜1.5質量%である前記(1)又は(2)に記載の高熱伝導性樹脂組成物。
【0010】
(4)更に、(C)アルコキシシラン化合物0.1〜2質量部を配合してなる前記(1)〜(3)のいずれかに記載の高熱伝導性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高熱伝導性を維持しつつ、薄肉流動性に優れた高熱伝導性樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】PPS樹脂100質量部に対する酸化マグネシウム(A〜C)の配合量と、0.5mmtBFとの関係を示すグラフである。
図2】PPS樹脂100質量部に対する酸化マグネシウム(F〜H)の配合量と、0.5mmtBFとの関係を示すグラフである。
図3】PPS樹脂100質量部に対する酸化マグネシウム(D及びE)の配合量と、0.5mmtBFとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の高熱伝導性樹脂組成物は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部と、(B)ビニルアルコキシシラン化合物で予め表面処理された酸化マグネシウム80〜600質量部と、を配合してなることを特徴としている。
以下、本発明の高熱伝導性樹脂組成物の各成分について詳述する。
【0014】
[(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂]
(A)成分としてのポリアリーレンスルフィド樹脂は、主として、繰返し単位として−(Ar−S)−(但しArはアリーレン基)で構成された高分子化合物であり、本発明では一般的に知られている分子構造のPAS樹脂を使用することができる。
【0015】
上記アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’−ジフェニレンスルフォン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンエーテル基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等が挙げられる。PAS樹脂は、上記繰返し単位のみからなるホモポリマーでもよいし、下記の異種繰返し単位を含んだコポリマーが加工性等の点から好ましい場合もある。
【0016】
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp−フェニレン基を用いた、p−フェニレンサルファイド基を繰返し単位とするPPSが好ましく用いられる。また、コポリマーとしては、前記のアリーレン基からなるアリーレンサルファイド基の中で、相異なる2種以上の組み合わせが使用できるが、中でもp−フェニレンサルファイド基とm−フェニレンサルファイド基を含む組み合わせが特に好ましく用いられる。この中で、p−フェニレンサルファイド基を70モル%以上、好ましくは80モル%以上含むものが、耐熱性、成形性、機械的特性等の物性上の点から適当である。また、これらのPAS樹脂の中で、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖状構造の高分子量ポリマーが、特に好ましく使用できる。尚、本発明に用いる(A)PAS樹脂は、異なる2種類以上の分子量のPAS樹脂を混合して用いてもよい。
【0017】
尚、直鎖状構造のPAS樹脂以外にも、縮重合させるときに、3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物等のモノマーを少量用いて、部分的に分岐構造または架橋構造を形成させたポリマーや、低分子量の直鎖状構造ポリマーを酸素等の存在下、高温で加熱して酸化架橋または熱架橋により溶融粘度を上昇させ、成形加工性を改良したポリマーも挙げられる。しかし、分岐構造や架橋構造を形成させたポリマーは、分岐構造や架橋構造の形成量が多くなるほど流動性が低下するため、使用するに当たり注意する必要がある。
【0018】
本発明に使用する基体樹脂としてのPAS樹脂の溶融粘度(310℃・せん断速度1216sec−1)は、上記混合系の場合も含め200Pa・s以下が好ましく、中でも8〜150Pa・sの範囲にあるものは、機械的物性と流動性のバランスが優れており、特に好ましい。溶融粘度が200Pa・sを超えると流動性を良好とすることが困難となり、不具合が生じることがある。
【0019】
[(B)ビニルアルコキシシラン化合物で予め表面処理された酸化マグネシウム]
本発明において、(B)ビニルアルコキシシラン化合物で予め表面処理された酸化マグネシウム(以下、「表面処理酸化マグネシウム」と呼ぶ場合がある。)は、高熱伝導性及び高薄肉流動性を付与するために配合される。このように、本発明においては、酸化マグネシウムの表面処理剤としてビニルアルコキシシラン化合物を用いるのであるが、アルコキシシラン化合物の中でも、ビニルアルコキシシラン化合物を用いた場合のみが顕著な薄肉流動性を示す。逆に言えば、ビニルアルコキシシラン化合物以外のアルコキシシラン化合物で予め表面処理した酸化マグネシウムを用いても顕著な薄肉流動性は示さず、顕著な薄肉流動性を発揮させるにはビニルアルコキシシラン化合物による表面処理が必要不可欠である。
【0020】
(B)表面処理酸化マグネシウムにおいて、表面処理に用いるビニルアルコキシシラン化合物としては、1分子中にビニル基を1個以上有し、アルコキシ基を2個あるいは3個有するシラン化合物が好ましく、例えばビニルトリメトキシシラン加水分解物、ビニルトリエトキシシラン加水分解物、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン加水分解物等が挙げられ、中でも、ビニルトリメトキシシラン加水分解物が好ましい。
【0021】
本発明において、(B)表面処理酸化マグネシウム表面における、酸化マグネシウムに対するビニルアルコキシシラン化合物の付着量は0.3〜1.5質量%であることが好ましく、0.5〜1質量%であることがより好ましい。当該ビニルアルコキシシラン化合物の付着量が0.3〜1.5質量%であることで、顕著な薄肉流動性を示す。
【0022】
(B)表面処理酸化マグネシウムのレーザー回折・散乱法により測定した平均粒径(以下、単に「平均粒径」と呼ぶ場合ある。)は、薄肉流動性をより向上させる観点から、10μm超100μm以下であることが好ましく、15μm以上60μm以下であることがより好ましく、25μm以上50μm以下であることがさらに好ましい。
なお、本発明において、「レーザー回折・散乱法により測定した平均粒径」とは、レーザー回折・散乱法により測定した粒度分布における積算値50%の粒径を意味する。
【0023】
本発明において、(B)表面処理酸化マグネシウムは、(A)PAS樹脂100質量部に対して80〜600質量部配合する。当該配合量が80質量部未満では熱伝導率が低下し、600質量部を超えると流動性が低下して成形性が悪化する。(B)表面処理酸化マグネシウムの配合量は、好ましくは110〜450質量部であり、より好ましくは120〜450質量部である。
【0024】
[(C)アルコキシシラン化合物]
本発明において、機械的物性の向上のためには、(C)アルコキシシラン化合物を配合してもよい。ただし、(C)アルコキシシラン化合物を配合すると流動性が低下するため、機械的特性を得ようとすると流動性が犠牲となる。従って、後述するように、配合する場合におけるその量は少量である。
(C)アルコキシシラン化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば、エポキシアルコキシシラン、アミノアルコキシシラン、ビニルアルコキシシラン、メルカプトアルコキシシラン等のアルコキシシランが挙げられ、これらの1種または2種以上が用いられる。尚、アルコキシ基の炭素数は1〜10が好ましく、特に好ましくは1〜4である。
【0025】
エポキシアルコキシシランの例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0026】
アミノアルコキシシランの例としては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ジアリルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ジアリルアミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0027】
ビニルアルコキシシランの例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。
【0028】
メルカプトアルコキシシランの例としては、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0029】
これらの内、エポキシアルコキシシランとアミノアルコキシシランが好ましく、特に好ましいものはγ−アミノプロピルトリエトキシシランである。
【0030】
本発明において、(C)アルコキシシラン化合物は、(A)PAS樹脂100質量部に対して0.1〜2質量部配合することが好ましく、0.2〜0.8質量部配合することがより好ましい。
【0031】
本発明の高熱伝導性樹脂組成物の製造は、(1)全ての原料を混ぜて混練する方法、(2)アルコキシシラン化合物をPAS樹脂に配合し、溶融混練後、表面処理酸化マグネシウムを配合する方法、(3)PAS樹脂を溶融させた後、表面処理酸化マグネシウムにアルコキシシラン化合物を配合したフィラーとして添加する方法等、何れの方法でも本発明の効果は発揮されるが、PAS樹脂とアルコキシシラン化合物が反応することにより機械的強度が向上するため、より効率良くPAS樹脂とアルコキシシラン化合物が反応するように、(2)のアルコキシシラン化合物をPAS樹脂に配合し、溶融混練後、表面処理酸化マグネシウムを配合する方法にて製造することが好ましい。
【0032】
[充填材]
本発明の高熱伝導性樹脂組成物は、本発明の目的範囲内で、機械的強度、耐熱性、寸法安定性(耐変形、そり)、電気的性質等の性能の改良のため無機又は有機充填剤を配合したものでもよく、これには目的に応じて繊維状、粉粒状、板状の充填剤が用いられる。
【0033】
繊維状充填剤としては、ガラス繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維等の無機質繊維状物質が挙げられる。特に代表的な繊維状充填剤はガラス繊維である。尚、ポリアミド、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の高融点有機質繊維物質も使用することができる。
【0034】
粉粒状充填剤としては、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイトのごとき珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛のごとき金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムのごとき金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムのごとき金属の硫酸塩が挙げられる。
また、板状充填剤としてはマイカ、ガラスフレークが挙げられる。
以上の無機充填剤は1種又は2種以上併用することができる。
【0035】
[他の成分]
本発明の高熱伝導性樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、一般に熱可塑性樹脂に添加される公知の物質、すなわち難燃剤、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、潤滑剤、結晶化促進剤、結晶核剤、その他の樹脂等の高分子や、添加剤等も要求性能に応じ適宜添加することができる。
【0036】
以上のようにして得られる本発明の高熱伝導性樹脂組成物は、薄肉流動性に優れるため、小型で複雑な形状の部品や、薄肉化されたものであっても、高い熱伝導性を維持しつつ容易に成形することができる。また、本発明の高熱伝導性樹脂組成物を用い、射出成形や押出成形、ブロー成形等で得られた成形品は、高い耐湿熱性、耐化学薬品性、寸法安定性、難燃性、優れた放熱性を示す。この利点を活かして熱交換器、放熱板、光ピックアップ等といった内部で発生した熱を外部に放熱する部品に好適に用いることができる。
【0037】
また、その他の用途として、例えばLED、センサー、コネクター、ソケット、端子台、プリント基板、モーター部品、ECUケース等の電気・電子部品、照明部品、テレビ部品、炊飯器部品、電子レンジ部品、アイロン部品、複写機関連部品、プリンター関連部品、ファクシミリ関連部品、ヒーター、エアコン用部品等の家庭・事務電気製品部品に用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
表1〜4に示す各原料成分をドライブレンドした後、シリンダー温度320℃の二軸押出機に投入し(酸化マグネシウムは押出機のサイドフィード部より別添加)、溶融混練し、ペレット化した。
このペレットから射出成形機により各種試験片(評価項目により異なる。)を作製し、評価を行った。結果を表1〜4に示す。
なお、表1〜2に示す実施例1〜10及び比較例1〜8は、(B)成分として平均粒径が50μmのものを使用した例であり、表3に示す実施例11〜16及び比較例9〜11は、(B)成分として平均粒径が10μmのものを使用した例であり、表4に示す実施例17〜19及び比較例12〜14は、(B)成分として平均粒径が30μmのものを使用した例である。
また、使用した各原料成分の詳細を以下に示す。
【0040】
(A)成分(PAS樹脂)
PPS樹脂1:(株)クレハ製、フォートロンKPS W202A (溶融粘度:20Pa・s(せん断速度:1216sec−1、310℃))
PPS樹脂2:(株)クレハ製、フォートロンKPS W214A (溶融粘度:130Pa・s(せん断速度:1216sec−1、310℃))
PPS樹脂3:(株)クレハ製、フォートロンKPS W220A(溶融粘度:220Pa・s(せん断速度:1216sec−1、310℃))
【0041】
(B)成分(表面処理酸化マグネシウム)
酸化マグネシウムA:宇部マテリアルズ(株)製 RF−50−SC(表面処理:ビニルアルコキシシラン0.5質量%) (平均粒径50μm)
酸化マグネシウムB:宇部マテリアルズ(株)製 RF−50−AC(表面処理:アミノアルコキシシラン0.5質量%)(平均粒径50μm)
酸化マグネシウムC:宇部マテリアルズ(株)製 RF−98(未表面処理)(平均粒径50μm)
酸化マグネシウムD:宇部マテリアルズ(株)製 RF−50−SC改良品(表面処理:ビニルアルコキシシラン0.5質量%)(平均粒径30μm)
酸化マグネシウムE:タテホ化学工業(株)製 CF2−100B(リン含有被覆酸化マグネシウム)(平均粒径27μm)
酸化マグネシウムF:宇部マテリアルズ(株)製 RF−10C−SC(表面処理:ビニルアルコキシシラン0.5質量%)(平均粒径10μm)
酸化マグネシウムG:宇部マテリアルズ(株)製 RF−10C−SC(表面処理:ビニルアルコキシシラン1.5質量%)(平均粒径10μm)
酸化マグネシウムH:宇部マテリアルズ(株)製 RF−10C−EC(表面処理:エポキシ0.5質量%)(平均粒径10μm)
【0042】
(C)成分(アルコキシシラン化合物)
アルコキシシラン化合物:γ-アミノプロピルトリエトキシシラン:信越化学工業(株)製、KBE−903P
【0043】
各実施例・比較例において、以下に示す試験片を作製し各評価を行った。
(1)熱伝導率
射出成形にてシリンダー温度320℃、金型温度150℃で直径30mm、厚さ2mmの円板状成形品を作製した。試験片を4枚重ねたサンプルを用い、ホットディスク法熱物性測定装置(京都電子工業(株)製 TPA-501)で熱伝導率を測定した。
(2)曲げ試験
射出成形にて、シリンダー温度320℃、金型温度150℃でISO3167に準じた試験片(幅10mm、厚み4mmt)を作製し、ISO178に準じて曲げ強度(FS)及び曲げ弾性率(FM)を測定した。
(3)溶融粘度
(A)成分(PPS樹脂)については、東洋精機(株)製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1216sec-1での溶融粘度を測定した。
調製した樹脂組成物(上記ペレット)については、東洋精機(株)製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1000sec-1での溶融粘度を測定した。
(4)薄肉流動性(厚み0.5mmtバーフロー:0.5mmtBF)
射出成形にて、シリンダー温度320℃、射出圧力100MPa、金型温度150℃での条件で、幅5mm、厚さ0.5mmの棒状成形品を成形し、流動距離を測定した。5回の試験における平均値を流動距離とした。図1〜3に、PPS樹脂100質量部に対する酸化マグネシウム(A〜H)の配合量と、0.5mmtBFとの関係をグラフ示す。なお、図1〜3のグラフ中の酸化マグネシウムA〜Hにおける各プロットは、以下の実施例・比較例のデータに基づく。
i)図1のグラフ
酸化マグネシウムA:実施例4、7、5、9、6
酸化マグネシウムB:比較例1、2、3
酸化マグネシウムC:比較例4、5、6、7
ii)図2のグラフ
酸化マグネシウムF:実施例11、12、15
酸化マグネシウムG:実施例13、14、16
酸化マグネシウムH:比較例9、10、11
iii)図3のグラフ
酸化マグネシウムD:実施例17、18、19
酸化マグネシウムE:比較例12、13、14
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
表1及び表2は、上述の通り、いずれも(B)成分として平均粒径が50μmのものを使用した例である。表1及び表2より以下のことが分かる。すなわち、実施例5、比較例3、及び比較例6はいずれも(B)成分を236質量部用いた例であるが、当該(B)成分として、本発明に係る表面処理酸化マグネシウムを使用した実施例5においては、いずれの評価結果も良好であったのに対し、アミノアルコキシシランで表面処理した酸化マグネシウムを用いた比較例3、及び未表面処理の酸化マグネシウムを用いた比較例6は、0.5mmtBFにおいて劣っていた。つまり、優れた薄肉流動性を示さなかったことが分かる。そして、(B)成分として同じ表面処理酸化マグネシウムを用い、それぞれ溶融粘度の異なるPPS樹脂を配合した実施例1〜3の比較により、機械的物性と薄肉流動性のバランスの点から、溶融粘度が200Pa・s以下のPPS樹脂を配合することがより好ましいことが分かる。
また、(B)成分として同じ表面処理酸化マグネシウムを用い、配合量を異ならせた、実施例6と比較例8との比較により、(B)成分が本発明に規定する範囲の下限未満の比較例8では熱伝導率が低下しているのに対し、実施例6では熱伝導率も0.5mmtBFも良好な結果が得られた。これより、(B)成分の配合量が本発明の範囲内であると、高熱伝導率と、優れた薄肉流動性とを両立できることが分かる。
さらに、(C)成分の配合の有無において異なる実施例7及び8、並びに実施例9及び10の比較から、(C)成分を配合すると、流動性はやや低下するが、機械的強度(曲げ強度、曲げ弾性率)が向上することが分かる。
また、図1より、本発明に係る表面処理酸化マグネシウム(酸化マグネシウムA)を使用した場合は、いずれの配合量においても、優れた薄肉流動性を示すことが分かる。
【0047】
【表3】
【0048】
表3は、上述の通り、いずれも(B)成分として平均粒径が10μmのものを使用した例である。表3より以下のことが分かる。すなわち、実施例11及び13と、比較例9とは(B)成分の配合量を101質量部とした例であるが、実施例11及び13は(B)成分たる表面処理酸化マグネシウムのビニルアルコキシシランの付着量を異ならせた例であり、いずれの評価結果も良好であったのに対し、(B)成分として、エポキシにより表面処理した酸化マグネシウムを用いた比較例9は0.5mmtBFが劣り、薄肉流動性が低下したことが分かる。
また、図2より、(B)成分たる表面処理酸化マグネシウムのビニルアルコキシシランの付着量を0.5質量%とした例は、1.5質量%とした例よりも0.5mmtBFが有意に長く、薄肉流動性においてより優れた結果が得られたことが分かる。
【0049】
【表4】
【0050】
表4は、上述の通り、いずれも(B)成分として平均粒径が30μmのものを使用した例である。表4及び図3より以下のことが分かる。すなわち、実施例18及び比較例13は(B)成分を236質量部配合した例であり、(B)成分として、実施例18は、本発明に係る表面処理酸化マグネシウムを使用し、比較例13はリン含有被覆酸化マグネシウムを使用した例である。実施例18は比較例13と比較して、0.5mmtBFが格段に長く、薄肉流動性に優れているのが分かる。
また、実施例19及び比較例14は、(B)成分の配合量を305質量部とした点において、それぞれ実施例18及び比較例13と異なる。これらの例においても、実施例19は、比較例14よりも0.5mmtBFが格段に長く、薄肉流動性に優れているのが分かる。
図1
図2
図3
【国際調査報告】