(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2015年5月7日
【発行日】2017年3月9日
(54)【発明の名称】ギ酸脱水素酵素とその利用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20170217BHJP
C12N 9/04 20060101ALI20170217BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20170217BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20170217BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20170217BHJP
C12P 19/38 20060101ALI20170217BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20170217BHJP
【FI】
C12N15/00 A
C12N9/04 ZZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12P19/38
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】19
【出願番号】特願2015-544976(P2015-544976)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2014年10月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-223317(P2013-223317)
(32)【優先日】2013年10月28日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】304019399
【氏名又は名称】国立大学法人岐阜大学
(71)【出願人】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(72)【発明者】
【氏名】中川 智行
(72)【発明者】
【氏名】水口 光裕
(72)【発明者】
【氏名】澤野 達也
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050DD04
4B050FF01
4B050FF05E
4B050FF11E
4B050FF20
4B050LL03
4B050LL05
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4B065AB01
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4B065BA01
4B065BD01
4B065BD14
4B065BD15
4B065BD17
4B065CA23
4B065CA27
4B065CA46
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、比活性が高いギ酸脱水素酵素を提供し、またメタノールを使わずに効率的にギ酸脱水素酵素を製造する方法を提供することを目的とする。本発明は、新規ギ酸脱水素酵素、該ギ酸脱水素酵素をコードする遺伝子、該ギ酸脱水素酵素の製造方法、および該ギ酸脱水素酵素を用いた補酵素再生方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)、(b)または(c)のタンパク質:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号1のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有し、ギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質、
(c)配列番号1のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列からなり、ギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質。
【請求項2】
請求項1記載のタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項3】
以下の(d)、(e)または(f)のDNAからなる遺伝子:
(d)配列番号2の塩基配列からなるDNA、
(e)配列番号2の塩基配列と70%以上の同一性を有し、ギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(f)配列番号2の塩基配列において、1または数個の塩基が欠失、置換、挿入または付加された塩基配列からなり、ギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項4】
請求項2または3記載の遺伝子を含む組換えベクター。
【請求項5】
請求項2または3記載の遺伝子を宿主に導入してなる形質転換体。
【請求項6】
宿主が大腸菌である、請求項5記載の形質転換体。
【請求項7】
請求項5または6記載の形質転換体を培養し、培養物からギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質を採取することを含む、ギ酸脱水素酵素の製造方法。
【請求項8】
酵素的還元反応系に、請求項1記載のタンパク質、または請求項5もしくは6記載の形質転換体もしくはその処理物を共存させて補酵素を再生する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はギ酸脱水素酵素、該酵素をコードする遺伝子、ならびに該酵素の製造と利用に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品原薬中間体を製造する際、補酵素として還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)もしくは還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を必要とする。しかし、これらの補酵素は高価であるため、医薬品原薬中間体を効率的に製造するためには、これら補酵素の再生が不可欠である。
【0003】
従来、補酵素を還元するために、特許文献1に記載されるようなグルコース脱水素酵素を使用した例や特許文献2に記載されるようなギ酸脱水素酵素を使用した例が報告されている。しかしながら、グルコース脱水素酵素はグルコースからグルコン酸への変換を行うため、目的とする医薬品原薬中間体と等量のグルコン酸が生じてしまう問題があった。
【0004】
一方、ギ酸脱水素酵素(EC.1.2.1.2)は、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD
+)、ギ酸および水の存在下で、NAD
+を還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)に還元するとともにギ酸を二酸化炭素に酸化する。よって、副生成物を生じることなく医薬品原薬中間体を作ることができる。
【0005】
しかし、ギ酸脱水素酵素を使用することの欠点は、酵素の比活性が低いために、補酵素を再生する際の酵素の添加量が多くなることであった。例えば特許文献3に記載されるようなカンジダ・ボイジニイ(Candida boidinii)(ATCC32195)由来のギ酸脱水素酵素は、比活性が低いため、ギ酸脱水素酵素を用いた補酵素の再生には不十分である。
【0006】
また、ピキア・メタノリカのようなメタノール資化酵母でギ酸脱水素酵素を発現させる場合は、メタノールで誘導する必要があり、大量製造する場合には防爆設備等が必要であり、製造コストがかかるというデメリットがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−236883号公報
【特許文献2】特開2002−233395号公報
【特許文献3】特開2003−180383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、比活性が高いギ酸脱水素酵素を提供し、またメタノールを使わずに効率的にギ酸脱水素酵素を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み、広くギ酸脱水素酵素活性を有する微生物を探索した結果、優れた性質を有するギ酸脱水素酵素を高生産するピキア・メタノリカ株を見出した。そして、該ピキア・メタノリカ株からギ酸脱水素酵素を単離、精製し、ギ酸脱水素酵素遺伝子の単離、ならびに宿主微生物での発現に成功した。そして、該ギ酸脱水素酵素が高い比活性を有すること、該酵素を大腸菌にて発現させることにより、酵母発現系とは異なりメタノールを使わずに安価にかつ効率的にギ酸脱水素酵素を製造できることを見出した。さらに、このギ酸脱水素酵素が補酵素の再生に有用であることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は以下を包含する。
【0011】
(1)以下の(a)、(b)または(c)のタンパク質:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号1のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有し、ギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質、
(c)配列番号1のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列からなり、ギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質。
【0012】
(2)(1)記載のタンパク質をコードする遺伝子。
【0013】
(3)以下の(d)、(e)または(f)のDNAからなる遺伝子:
(d)配列番号2の塩基配列からなるDNA、
(e)配列番号2の塩基配列と70%以上の同一性を有し、ギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(f)配列番号2の塩基配列において、1または数個の塩基が欠失、置換、挿入または付加された塩基配列からなり、ギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0014】
(4)(2)または(3)記載の遺伝子を含む組換えベクター。
【0015】
(5)(2)または(3)記載の遺伝子を宿主に導入してなる形質転換体。
【0016】
(6)宿主が大腸菌である、(5)記載の形質転換体。
【0017】
(7)(5)または(6)記載の形質転換体を培養し、培養物からギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質を採取することを含む、ギ酸脱水素酵素の製造方法。
【0018】
(8)酵素的還元反応系に、(1)記載のタンパク質、または(5)もしくは(6)記載の形質転換体もしくはその処理物を共存させて補酵素を再生する方法。
【0019】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2013-223317号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のギ酸脱水素酵素は、比活性が高いという特徴を有している。本発明に係るギ酸脱水素酵素を利用することによって、高価な補酵素を少ない酵素量で再生することができる。また、本発明のギ酸脱水素酵素遺伝子を大腸菌にて発現させることで、メタノールを使わずに、安価にかつ効率的にギ酸脱水素酵素を製造することが可能になる。さらに、本発明のギ酸脱水素酵素は、アルコール、アミン、アルデヒド等の還元反応において、補酵素を効率よく再生させ、高価な補酵素の使用量を大幅に減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】プラスミドpTRP−pmfdhの構築図を示す。
【
図2】組換えPmFDHのpH安定性を測定した結果を示すグラフである。
【
図3】組換えPmFDHの至適pHを測定した結果を示すグラフである。
【
図4】組換えPmFDHの温度安定性を測定した結果を示すグラフである。
【
図5】組換えPmFDHの至適温度を測定した結果を示すグラフである。
【
図6】組換えPmFDHの50℃での温度安定性を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
ギ酸脱水素酵素(酵素番号EC1.2.1.2)は、ギ酸と酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD
+)より、二酸化炭素と還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)を生成する反応を触媒する酵素である。ギ酸脱水素酵素は、NADH依存型の酵素反応において補酵素再生に利用した場合、安価なギ酸を利用できること、副産物が二酸化炭素であり系内に蓄積しないこと等の利点をもつ有用な酵素である。
【0023】
一実施形態において本発明は、ギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質、すなわちギ酸脱水素酵素に関する。本発明のギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質として、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質、例えば、配列番号1のアミノ酸配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、ギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質も、本発明のタンパク質に包含される。さらに、配列番号1のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列からなり、ギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質も、本発明のタンパク質に包含される。数個とは、2〜5個、好ましくは2〜3個をさす。「1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列」は、部分特異的突然変異誘発法等、当業者に周知の方法により、アミノ酸を欠失、置換、挿入または付加することにより取得可能である。
【0024】
ギ酸脱水素酵素活性の測定は、20mM ギ酸ナトリウム、1mM NAD
+を含む0.1M リン酸バッファー(pH7.5)中で、25℃でのNADHの生成にともなう340nmの吸光度の増加を測定することにより実施できる。
【0025】
ギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質とは、上記のような活性測定条件において、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質を用いた場合の10%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上の活性を示すタンパク質のことをいう。
【0026】
本発明のタンパク質は、好ましくはピキア・メタノリカ、例えば、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica IAM 12901)株から取得できる。この株は、東京大学分子細胞生物学研究所 IAM カルチャーコレクションに保存され、現在は、理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室(JCM)に移管されている。
【0027】
本発明のギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質は、上記のような微生物から取得される天然酵素であってもよいし、遺伝子組換え技術を利用して生産される組換え酵素であってもよい。
【0028】
本発明はまた、ギ酸脱水素酵素をコードする遺伝子(ギ酸脱水素酵素遺伝子)に関する。本発明のギ酸脱水素酵素をコードする遺伝子として、配列番号2の塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。遺伝子には、核酸、および1本鎖、2本鎖または3本鎖のDNAまたはRNAが包含される。配列番号2の塩基配列からなる遺伝子と機能的に同等の遺伝子、例えば、配列番号2の塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列からなり、ギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も、本発明の遺伝子に包含される。さらに、配列番号2の塩基配列において、1または数個の塩基が欠失、置換、挿入または付加された塩基配列からなり、ギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も、本発明の遺伝子に包含される。数個とは、2〜5個、好ましくは2〜3個をさす。
【0029】
配列番号2の塩基配列からなる遺伝子と機能的に同等の遺伝子には、配列番号2の塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が含まれる。ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、高ストリンジェントな条件が好ましい。高ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば65℃、0.1×SSCおよび0.1% SDSで洗浄する条件である。
【0030】
所望の遺伝子をクローニングにより取得する方法は、分子生物学の分野において周知である。例えば、制限エンドヌクレアーゼ消化により適したゲノムライブラリを作り、所望の遺伝子配列に相補的なプローブを用いてスクリーニングすることができる。配列が単離されたら、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のような標準的増幅法を用いてDNAを増幅し、形質転換(遺伝子導入)に適した量のDNAを得ることができる。
【0031】
遺伝子のクローニングに用いるゲノムDNAライブラリーの作製、ハイブリダイゼーション、PCR、プラスミドの調製、DNAの切断および連結、形質転換等の方法は、例えば、Sambrook,J et al.,Molecular Cloning 2nd ed.,9.47−9.58,Cold Spring Harbor Lab.press(1989)に記載されている。
【0032】
本発明のギ酸脱水素酵素の製造方法は、宿主に上記ギ酸脱水素酵素遺伝子を導入してなる形質転換体を培養し、培養物からギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質を採取することを特徴とする。宿主にギ酸脱水素酵素遺伝子を導入してなる形質転換体は、当技術分野で公知の方法で製造できる。本発明において、遺伝子の導入は、遺伝子の機能を有するポリヌクレオチドを組換え核酸として宿主に導入する全ての場合を含む。ポリヌクレオチドは、核酸、および1本鎖、2本鎖または3本鎖のDNAまたはRNAを包含する。遺伝子の導入には、組換えベクターによって導入する場合や、PCR等で合成した核酸を用いて相同組換えによって導入する場合が含まれる。
【0033】
遺伝子を導入する宿主の種類は限定されず、細菌、真菌、各種の酵母などの単細胞真核生物、または動物もしくは植物の生細胞を任意に選択できるが、本発明においては、微生物が好ましく、特に大腸菌が好ましい。宿主大腸菌は通常遺伝子工学に用いられる大腸菌K−12株の中から適切なものを選択する。代表的なものとしてJM105やJM109が挙げられるが、DH5あるいは誘導型の発現系に用いられるBL21、N99cI
+などを使用してもよい。
【0034】
遺伝子は、より好ましくは、遺伝子の発現を強化する発現ベクターによって導入される。発現ベクターは、導入しようとする遺伝子を、その発現を強化する種々のDNA断片またはRNA断片と融合させたものである。好ましくは、発現ベクターは、遺伝子を恒常的または誘導的に発現させるための転写プロモーター、転写ターミネーター、選択マーカーを含み得る。所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、オペレーター、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0035】
ベクターとしては、限定はされないが、大腸菌を宿主とする場合によく利用されるプラスミド、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119、pSC101、pBR322、pHSG298、pVC18、pVC19、pTrc99A、pMal−c2、pGEX2T、pTV118N、pTV119N、pTRP等を好ましく使用でき、その他にもS.cerevisiaeを宿主とする場合によく利用されるYEp13、YEp24、YCp50、pRS414、pRS415、pRS404、pAUR101、pKG1等も利用でき、枯草菌を宿主とする場合によく利用されるプラスミドpUB110、pC194等も利用できる。更に、pBI122、pBI1101その他の各種のものも限定なく使用できる。
【0036】
大腸菌での発現用の転写プロモーターとして、例えばトリプトファン合成酵素(trp)、ラクトースオペロン(lac)、あるいはこれらを融合したtacおよびtrcプロモーター、λファージPLおよびPRプロモーター、T7ファージのプロモーター等が例として挙げられる。しかし、プロモーターが強力すぎると目的タンパク質の大腸菌内における発現が過多となり、その結果、目的タンパク質が封入体を形成しやすくなり、その後の分離および精製工程が困難となる。ゆえに可溶性画分への発現あるいは培養上清中へのタンパク質の分泌を可能にすべく最適なプロモーターを選択する必要があり、このような点を考慮するとトリプトファンプロモーター(trp)が望ましい。トリプトファンプロモーター(trp)を有する発現ベクターとしては、pTRP(Clinica Chimica Acta 237,43−58(1995))等が挙げられる。
【0037】
選択マーカーの例としては、ホルムアルデヒド耐性マーカー、カナマイシン、アンピシリン、テトラサイクリン、クロラムフェニコールなどの薬剤耐性マーカー、ロイシン、ヒスチジン、リジン、メチオニン、アルギニン、トリプトファン、ウラシルなどの栄養要求性マーカーが挙げられるがこれに限定されない。
【0038】
一般的な組換えベクターの構築方法としては、例えば、PCR法等で調製した遺伝子断片を、適当な制限酵素とリガーゼを用いて組換えベクターに組み込む方法が挙げられる。好ましくは市販のライゲーションキット、例えばLigation high(東洋紡社製)を用いて、規定の条件にてライゲーション反応を行うことにより組換えベクターを得ることができる。また、これらのベクターを、必要であればボイル法、アルカリSDS法、磁性ビーズ法およびそれらの原理を使用した市販されているキット等により精製し、さらにエタノール沈殿法、ポリエチレングリコール沈殿法などの濃縮手段により濃縮することができる。
【0039】
遺伝子の導入方法としては、特に制限されないが、例えば、電気パルス法、コンピテントセル法、塩化カルシウム法、プロトプラスト法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法等を挙げることができる。具体的には、大腸菌への遺伝子の導入には、ハナハンの方法等を利用でき、酵母への遺伝子の導入には、リチウムイオン法等を利用できる。
【0040】
相同組換えによってゲノム上の任意の位置に目的の遺伝子を挿入する方法は、ゲノム上の配列と相同な配列に目的遺伝子をプロモーターとともに挿入し、このDNA断片をエレクトロポレーションによって細胞内に導入して相同組換えを起こさせることにより実施できる。ゲノムへの導入の際には目的遺伝子と選択マーカー遺伝子を連結したDNA断片を用いると容易に相同組換えが起こった株を選抜することができる。また、薬剤耐性遺伝子と特定の条件下で致死的になる遺伝子を連結した遺伝子をゲノム上に上記の方法で相同組換えによって挿入し、その後、薬剤耐性遺伝子と特定の条件下で致死的になる遺伝子を置き換える形で目的遺伝子を相同組換えを利用して導入することもできる。
【0041】
一般的に形質転換体を利用する目的物の生産方法において認められることであるが、本発明のギ酸脱水素酵素の製造方法においても、導入遺伝子の選択、導入すべき宿主の選択、発現ベクターの導入手段とそれに適したDNAまたはRNAの構築方法の選択、培地もしくはこれに対する添加物の種類や濃度の選択、形質転換体の培養条件または生育条件の選択等の要因が、ギ酸脱水素酵素の生産量に影響する場合がある。
【0042】
上記形質転換体を培地で培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0043】
炭素源としては資化可能な炭素化合物であればよく、例えば、グリセリンなどのポリオール類、またはピルビン酸、コハク酸もしくはクエン酸等の有機酸類を使用することができる。また、窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、大豆粕アルカリ抽出物、またはアンモニアもしくはその塩などを使用することができる。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミン、消泡剤なども必要に応じて使用してもよい。また、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシドなどのタンパク質発現誘導剤を必要に応じて培地に添加してもよい。
【0044】
培養は、通常、振盪培養または通気攪拌培養などの好気的条件下、好ましくは0〜40℃、より好ましくは10〜37℃、特に好ましくは15〜37℃で培養を行う。培養期間中、培地のpHは宿主の発育が可能で、生産されたギ酸脱水素酵素の活性が損なわれない範囲で適宜変更することができるが、好ましくはpH4〜8程度の範囲である。pHの調整は、無機または有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0045】
続いて、形質転換体の培養により可溶化発現したギ酸脱水素酵素を、培養物から採取する。培養物には、培養液、培養上清、培養細胞、培養菌体、細胞または菌体の破砕物が包含される。採取方法は、通常行われる細胞または菌体の破砕物からの抽出だけでなく、場合によっては、適当な抽出溶媒を用いて培養液からも直接抽出できる。利用する宿主の種類によっては、ギ酸脱水素酵素の少なくとも一部が宿主細胞内または細胞表面に止まる場合があるが、細胞膜または細胞壁の破壊や、適宜な抽出溶媒による抽出等の公知の各種操作を経て、採取することができる。
【0046】
宿主の対数増殖期を過ぎたときに上記温度範囲に設定することでギ酸脱水素酵素遺伝子が発現し、宿主内に非常に高い比活性を示すギ酸脱水素酵素を製造することができる。培養後、目的のギ酸脱水素酵素が宿主内に生産されるため菌体または細胞を破砕し、粗酵素懸濁液を調製する。この粗酵素懸濁液には、非常に高い比活性を示すギ酸脱水素酵素が含まれる。したがって、得られた粗酵素懸濁液をそのまま利用してもよい。なお、得られた粗酵素懸濁液からギ酸脱水素酵素を単離精製することもできる。このとき、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独でまたは適宜組み合わせて用いることができる。単離精製されたギ酸脱水素酵素は、所定のpHの緩衝液等に懸濁された状態で利用することができる。
【0047】
酵素的還元反応系に、上記タンパク質、または該タンパク質を生産する形質転換体もしくはその処理物を共存させて補酵素を再生することができる。つまり、酵素的還元反応系に、本発明で得られたギ酸脱水素酵素を共存させて補酵素を効率良く再生することができる。形質転換体の処理物とは、例えば、粗抽出液、粗酵素懸濁液、培養菌体凍結乾燥生物体、アセトン乾燥生物体、またはそれらの菌体の磨砕物等を意味する。更にそれらは、酵素自体あるいは菌体のまま公知の手段で固定化して用いてもよい。固定化は当業者に周知の方法(例えば、架橋法、物理的吸着法、包括法等)で実施できる。反応は、10℃〜70℃、好ましくは20℃〜60℃、pH4〜10、好ましくはpH5.5〜9.5で行う。また、基質の仕込み濃度は0.1%〜90%(w/v)であるが、基質を連続的に添加することもできる。反応は、バッチ法または連続方式で行い得る。反応は、固定化酵素、膜リアクター等を利用して行うことも可能である。以上のように、本発明によれば、アルコール、アミン、アルデヒド等を酵素的に製造するための還元反応において、補酵素を効率よく再生させ、高価な補酵素の使用量を大幅に減少させることができる。
【0048】
次に本発明を、実施例を参照することにより説明する。本発明の技術的範囲は、以下の実施例によって限定されない。実施例では、本発明に係るタンパク質を「組換えPmFDH」と呼ぶ。
【実施例】
【0049】
〔実施例1:組換えPmFDH発現系の構築〕
ギ酸脱水素酵素(FDH)のアミノ酸配列がすでに報告されているメチロトローフ酵母カンジダ・ボイジニイ(Accesion No.AJ245934)と出芽酵母サッカロミセス・セレビシエ(Accesion No.Z75296.1)のFDH配列をアライメントし、相同性の高い配列としてTPFHPAYおよびDYPRQDIIの2ヶ所を見出した。両アミノ酸配列をもとに2種類のPCRプライマー、FDH−inf(5’−GGTAAGCACGCTGCTGATGAA−3’)(配列番号3)およびFDH−inr(5’―TAATATCTTGTGGTCTGTAATC−3’)(配列番号4)を作製した。鋳型となるピキア・メタノリカのゲノムDNAは、Genとるくん
TM(酵母用)High Recovery(タカラバイオ社製)を用いて調製した。作製した両プライマーを用いてPCRを行った結果、約1,000bpの増幅断片を得ることができた。
【0050】
PCR反応は、(50μLあたり)1U KOD plus polymerase(東洋紡社製)、10pg 鋳型DNA、0.3μM センスプライマー、0.3μM アンチセンスプライマー、0.2mM dNTP Mix、1mM MgSO
4、10×バッファーにて、94℃/15秒(変性)、50℃/30秒(アニーリング)、68℃/1分30秒(伸長)を30サイクル繰り返した。
【0051】
得られたFDHの内部配列から、DNA Walking SpeedUP
TM Premix Kit(Seegene社製)を用いることで、全長ピキア・メタノリカ由来FDH配列を獲得した。具体的には、N末端配列解析用としてPCRプライマー,pmfdh−wkf1(5’−GGAGAACCATGAGAACA−3’:1st PCR用)(配列番号5)およびpmfdh−wkf2(5’−ATGAGAAACAAATACGGTGCC−3’:2nd PCR用)(配列番号6)を、C末端解析用としてpmfdh−wkr(5’−CCTTTGAAATGTAACCTGGGTG−3’:1st PCR用)(配列番号7)およびpmfdh−wkr2(5’−TAATGTCGGCATCTGGGATT−3’:2nd PCR用)(配列番号8)を用いた。
【0052】
こうして得られたピキア・メタノリカ由来のFDH遺伝子の塩基配列を配列番号2に、アミノ酸配列を配列番号1に示す。
【0053】
ピキア・メタノリカ由来のFDH遺伝子を大腸菌で発現させるために、FDH遺伝子を挿入したプラスミドpTRP−pmfdhを、
図1に示す構築図にしたがって作製した。まず、ピキア・メタノリカの染色体DNAを鋳型にして、下記に示すプライマーを用いてPCRを行い、FDH遺伝子を増幅させ、アガロース電気泳動により約1.1kbのFDH遺伝子のDNA断片を確認した。
センスプライマー(SacI−pmfdh):
5’−GAGCTCATGAAGGTCGTTTTAGTTT−3’(配列番号9)
アンチセンスプライマー(pmfdh−SalI):
5’−GTCGACTTAGACCTTCTTGTCAGCA−3’(配列番号10)
【0054】
PCR反応は、(50μLあたり)1U KOD plus polymerase(東洋紡社製)、10pg 鋳型DNA、0.3μM センスプライマー、0.3μM アンチセンスプライマー、0.2mM dNTP Mix、1mM MgSO
4、10×バッファーにて、94℃/2分(変性)、55℃/30秒(アニーリング)、68℃/1分30秒(伸長)を30サイクル繰り返した。
【0055】
得られたFDH遺伝子のPCR産物をそれぞれ制限酵素SacIおよびSalI(タカラバイオ社製)で処理を行い、アガロース電気泳動後、GFX
TM PCR DNA and Gel Band Purification Kit(GEヘルスケア・ジャパン社製)により回収した。回収した断片は、LigaFast
TM Rapid DNA Ligation System(プロメガ社製)を用いて、予め制限酵素SacIおよびSalI(タカラバイオ社製)で処理した発現ベクターpTRP(2.9kb)に導入した。次いで、大腸菌HB101株を形質転換し、組換え体pTRP−pmfdh/HB101を得た。
【0056】
〔実施例2:組換えPmFDHのフラスコ培養〕
形質転換体のバッチ培養によるピキア・メタノリカ由来の組換えPmFDHの生産を以下の方法で実施した。
【0057】
プラスミドpTRP−pmfdhを形質転換した大腸菌HB101株について、50μg/mLのアンピシリンを含むLB培地2Lを用いて37℃、160rpmで9時間バッチ培養を行った。菌体の増殖は、培養液の600nmでの吸光度を測定して調べた。その結果、プラスミドpTRP−pmfdhで形質転換した大腸菌HB101株のバッチ培養菌体を得ることができた。
【0058】
発現量を確認するため、この培養液を遠心分離し(8,000rpm、15分、4℃、ベックマン・コールター社製 Model HP−26XP Centrifuge)、湿菌体を回収した。そして、得られた湿菌体5gを3mLの抽出バッファー(10mM リン酸バッファー、pH7.5)で懸濁し、超音波破砕後(MISONIX社製 astrason ULTRASONIC PROCESSOTR XL)、遠心分離し(18,000×g、15分、4℃、ベックマン・コールター社製 Model HP−26XP Centrifuge)、粗抽出液を調製した。
【0059】
組換えPmFDHの活性測定は次のような方法で行った。リン酸バッファー(0.1M、pH7.5)、NAD
+(1mM、オリエンタル酵母工業社製)、ギ酸ナトリウム(20mM、ナカライテスク社製)から構成される反応液に組換えPmFDHを添加したのち、25℃で340nmの吸光度変化を測定し、組換えPmFDHのギ酸脱水素酵素活性を算出した。この反応条件における1分間あたりの1μmolのNADHの生成量を1単位とし、ギ酸脱水素酵素活性とした。得られた酵素液のギ酸脱水素酵素活性を測定したところ、培地1mLあたり0.24U/mLの活性が確認できた。
【0060】
〔実施例3:組換えPmFDHの精製〕
大量精製を行うため、6Lの培養液から得られた湿菌体を10mM リン酸バッファー(pH7.5)に懸濁したのち、超音波破砕にて菌体破砕を行い、得られた破砕画分を遠心分離し(18,000×g、15分、4℃、ベックマン・コールター社製 Model HP−26XP Centrifuge)、粗抽出液を調製した。得られた粗抽出液を用いて以下の方法で精製を行った。
【0061】
バッファーA(10mM リン酸バッファー、pH7.5)で平衡化したDEAE−Cellulofine(チッソ社製)に通じ、バッファーAで洗浄後、0−0.5M NaClのリニア・グラジエントで目的タンパク質を溶出させた。得られた目的画分を、最終的に10mM リン酸バッファー(pH7.5)で透析し、比活性3.3U/mgタンパクである組換えPmFDHの精製標品を得た。
【0062】
〔実施例4:組換えPmFDHの酵素学的基礎性能評価〕
実施例3で得られた組換えPmFDHの酵素学的基礎性能を評価した。ギ酸脱水素酵素活性は、特に記載した条件以外は、実施例2と同様の方法で測定した。
【0063】
pH安定性:
以下のバッファーを用い、30℃、7日後の残存活性を測定した。
pH4.5〜6.0:0.1M クエン酸−NaOHバッファー
pH6.0〜7.5:0.1M リン酸(K−Pi)バッファー
pH6.0〜7.5:0.1M PIPES−NaOHバッファー
pH7.5〜9.0:0.1M Tris−HClバッファー
pH9.0〜9.5:0.1M グリシン−NaOHバッファー
【0064】
結果を
図2に示す。各バッファーにおける0日の活性を100とし、相対活性として表した。
【0065】
至適pH:
以下のバッファーを用い、ギ酸脱水素酵素活性を測定した。
pH4.5〜6.0:0.1M クエン酸−NaOHバッファー
pH6.0〜7.5:0.1M リン酸(K−Pi)バッファー
pH6.0〜7.5:0.1M PIPES−NaOHバッファー
pH7.5〜9.0:0.1M Tris−HClバッファー
pH9.0〜9.5:0.1M グリシン−NaOHバッファー
【0066】
結果を
図3に示す。0.1M PIPES−NaOHバッファー(pH7.5)での活性を100とし、相対活性として表した。
【0067】
温度安定性:
4、25、30、37、40、45、50、60、70℃の温度で20分間インキュベートしたのち、ギ酸脱水素酵素活性を測定した。結果を
図4に示す。4℃での活性を100とし、相対活性として表した。
【0068】
至適温度:
25、30、37、40、45、50、55、60、70℃の温度でギ酸脱水素酵素活性を測定した。結果を
図5に示す。50℃での活性を100とし、相対活性として表した。
【0069】
50℃での温度安定性:
50℃にて24時間反応させた際の残存活性を測定した。結果を
図6に示す。0時間の活性を100として、相対活性として表した。
【0070】
上記結果から得られた組換えPmFDHの酵素学的基礎性能を以下の表1にまとめる。
【表1】
【0071】
〔実施例5:組換えPmFDHによるエタノール生産〕
実施例3で得られた組換えPmFDHを用いて、NAD
+を補酵素とした場合にアセトアルデヒドからエタノールが生産できるかを確認した。具体的には、アセトアルデヒド(2%、メルク社製)及びアルコール脱水素酵素(10U/mL、オリエンタル酵母工業社製)、NAD
+(0.3mM、オリエンタル酵母工業社製)、ギ酸ナトリウム(100 mM、ナカライテスク社製)、リン酸バッファー(250mM、pH7.0)から構成される反応溶液に組換えPmFDHを添加して、30℃で24時間反応させた。生成したエタノールは99.5%エタノール(和光純薬工業社製)を標準品として、アルコールオキシダーゼ(0.2U/mL、シグマ社製)及び西洋わさび由来ペルオキシダーゼ(5U/mL、オリエンタル酵母工業社製)、4−アミノアンチピリン(0.04%、和光純薬工業社製)、フェノール(0.24%、和光純薬工業社製)で構成される反応液を用いて30℃で500nmの吸光度変化から算出した。
【0072】
結果として、組換えPmFDHを添加しない反応液ではエタノールは生成されなかったが、組換えPmFDHを添加した系では0.72%のエタノール(変換率:35%)を生成させることができた。また、NAD
+及びギ酸ナトリウム、組換えPmFDHの代わりにNADH(0.3mM、オリエンタル酵母工業社製)を添加した場合では0.02%のエタノール生成であった。
【0073】
これらの結果により、本発明の組換えPmFDHが、アセトアルデヒドからエタノールへの酵素的還元反応において、補酵素NAD
+を効率よく再生させることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明により効率良くギ酸脱水素酵素を生産することが可能になる。また、本発明により作製されたギ酸脱水素酵素は補酵素再生系酵素として極めて有用である。
【0075】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]
【手続補正書】
【提出日】2016年4月27日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)、(b)または(c)のタンパク質:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号1のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、ギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質、
(c)配列番号1のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列からなり、ギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質。
【請求項2】
請求項1記載のタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項3】
以下の(d)、(e)または(f)のDNAからなる遺伝子:
(d)配列番号2の塩基配列からなるDNA、
(e)配列番号2の塩基配列と90%以上の同一性を有し、ギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(f)配列番号2の塩基配列において、1または数個の塩基が欠失、置換、挿入または付加された塩基配列からなり、ギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項4】
請求項2または3記載の遺伝子を含む組換えベクター。
【請求項5】
請求項2または3記載の遺伝子を宿主に導入してなる形質転換体。
【請求項6】
宿主が大腸菌である、請求項5記載の形質転換体。
【請求項7】
請求項5または6記載の形質転換体を培養し、培養物からギ酸脱水素酵素活性を有するタンパク質を採取することを含む、ギ酸脱水素酵素の製造方法。
【請求項8】
酵素的還元反応系に、請求項1記載のタンパク質、または請求項5もしくは6記載の形質転換体もしくはその処理物を共存させて補酵素を再生する方法。
【国際調査報告】