(54)【発明の名称】非水系二次電池電極用バインダー組成物、非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物、非水系二次電池電極用スラリー組成物、非水系二次電池用電極および非水系二次電池
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
本発明は、粘度安定性に優れ、且つ、耐電解液性に優れる電極合材層を形成可能な非水系二次電池電極用バインダー組成物を提供することを目的とする。本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、カチオン性基と結合可能な官能基を有する重合体と、2つ以上のカチオン性基を有する有機化合物とを含む。
前記重合体のカチオン性基と結合可能な官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、およびヒドロキシル基からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物。
前記重合体が、カチオン性基と結合可能な官能基を含有する単量体単位を0.1質量%以上20質量%以下含む、請求項1又は2に記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、非水系二次電池電極用スラリー組成物を調製する際に用いることができる。また、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、導電材と混合し、非水系二次電池電極用バインダー組成物と導電材とを含有する非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物にしてから非水系二次電池電極用スラリー組成物の調製に用いることができる。そして、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物を用いて調製した非水系二次電池電極用スラリー組成物は、リチウムイオン二次電池等の非水系二次電池の電極を形成する際に用いることができる。更に、本発明の非水系二次電池は、本発明の非水系二次電池電極用スラリー組成物を用いて形成した非水系二次電池用電極を用いたことを特徴とする。
なお、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物、非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物および非水系二次電池電極用スラリー組成物は、非水系二次電池の正極を形成する際に特に好適に用いることができる。
【0021】
(非水系二次電池電極用バインダー組成物)
本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、カチオン性基と結合可能な官能基を有する重合体(以下、「重合体(A)」と称する場合がある。)と、2つ以上のカチオン性基を有する有機化合物(以下、「多価カチオン性有機化合物(B)」と称する場合がある。)とを含み、任意に、二次電池の電極に配合され得るその他の成分を更に含有する。また、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、通常、有機溶媒などの溶媒を更に含有する。
そして、本発明のバインダー組成物は、カチオン性基と結合可能な官能基を有する重合体と、2つ以上のカチオン性基を有する有機化合物とを含んでいるので、長期間保存した場合であっても粘度変化が小さく、且つ、電極合材層の耐電解液性を向上させることができる。
なお、本発明のバインダー組成物が粘度安定性に優れ、また電極合材層の耐電解液性を向上させることができる理由は明らかではないが、以下の通りであると推察される。即ち、本発明のバインダー組成物は、溶媒中で、重合体(A)中の官能基と多価カチオン性有機化合物(B)中のカチオン性基が良好に相互作用することができ、例えば重合体(A)と上記特許文献1に記載の所定の配位子を含む多価金属化合物を併用した場合に比して、経時による粘度変化が抑制される。また、本発明のバインダー組成物は、重合体(A)と、多価カチオン性有機化合物(B)とを含んでいるので、バインダー組成物を含むスラリー組成物を乾燥等させて電極合材層を形成すると、重合体(A)中の官能基と多価カチオン性有機化合物(B)中のカチオン性基が、架橋等により一層強固に相互作用する。この強固な相互作用により、剛直なネットワークが形成され、電極合材層に含有される成分が電解液中へ溶出するのを抑制することができる。従って、本発明によれば、バインダー組成物の粘度安定性を確保しつつ、電極合材層の耐電解液性を向上させて二次電池に優れた高温保存特性を発揮させることができる。
【0022】
<カチオン性基と結合可能な官能基を有する重合体>
カチオン性基と結合可能な官能基を有する重合体は、バインダー組成物を用いて調製した非水系二次電池電極用スラリー組成物を使用して集電体上に電極合材層を形成することにより製造した電極において、電極合材層に含まれる成分が電極合材層から脱離しないように保持する(即ち、結着材として機能する接着性重合体である)。
【0023】
[カチオン性基と結合可能な官能基]
重合体(A)が有するカチオン性基と結合可能な官能基(以下、「結合性官能基」と称する場合がある。)は、特に限定されないが、カチオン性基と良好に相互作用しうる、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、およびヒドロキシル基が挙げられる。これらの中でも、カルボン酸基、スルホン酸基、およびリン酸基が更に好ましく、カルボン酸基が特に好ましい。これらの官能基を有する重合体(A)を用いれば、バインダー組成物の粘度安定性を確保しつつ、電極合材層の耐電解液性および二次電池の高温保存特性を更に向上させることができる。なお、重合体(A)は、結合性官能基を1種類のみ有していてもよく、2種類以上有していてもよい。
【0024】
[重合体(A)の組成]
そして、重合体(A)としては、カチオン性基と結合可能な官能基を含有する単量体単位を含む任意の重合体を用いることができる(以下、「カチオン性基と結合可能な官能基を含有する単量体」を「結合性官能基含有単量体」と、「カチオン性基と結合可能な官能基を含有する単量体単位」を「結合性官能基含有単量体単位」と称する場合がある。)。具体的には、重合体としては、結合性官能基含有単量体単位と、任意に、結合性官能基含有単量体単位以外の繰り返し単位を含む重合体を用いることができる。
【0025】
[[結合性官能基含有単量体単位]]
ここで、結合性官能基含有単量体単位を形成し得る結合性官能基含有単量体としては、好適には、カルボン酸基を有する単量体、スルホン酸基を有する単量体、リン酸基を有する単量体、およびヒドロキシル基を有する単量体が挙げられる。
【0026】
カルボン酸基を有する単量体としては、モノカルボン酸およびその誘導体や、ジカルボン酸およびその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。
モノカルボン酸誘導体としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸や、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸モノエステルが挙げられる。
ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。
また、カルボン酸基を有する単量体としては、加水分解によりカルボキシル基を生成する酸無水物も使用できる。
【0027】
また、スルホン酸基を有する単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。
なお、本発明において、「(メタ)アリル」とは、アリルおよび/またはメタリルを意味する。
【0028】
更に、リン酸基を有する単量体としては、例えば、リン酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル−(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを意味する。
【0029】
そして、ヒドロキシル基を有する単量体としては、(メタ)アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オールなどのエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、マレイン酸ジ−2−ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ−4−ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ−2−ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式:CH
2=CR
Z−COO−(C
nH
2nO)
m−H(式中、mは2〜9の整数、nは2〜4の整数、R
Zは水素またはメチル基を表す)で表されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシサクシネートなどのジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−4−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−6−ヒドロキシヘキシルエーテルなどのアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル類;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリル−2−クロロ−3−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルエーテルなどの、(ポリ)アルキレングリコールのハロゲンおよびヒドロキシ置換体のモノ(メタ)アリルエーテル;オイゲノール、イソオイゲノールなどの多価フェノールのモノ(メタ)アリルエーテルおよびそのハロゲン置換体;(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルチオエーテルなどのアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;などが挙げられる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0030】
これらの中でも、重合体(A)を多価カチオン性有機化合物(B)と良好に相互作用させ、バインダー組成物の粘度安定性を確保しつつ、電極合材層の耐電解液性および二次電池の高温保存特性を更に向上させる観点からは、結合性官能基含有単量体としては、カルボン酸基を有する単量体、スルホン酸基を有する単量体、およびリン酸基を有する単量体が好ましく、カルボン酸基を有する単量体がより好ましい。即ち、結合性官能基含有単量体単位は、カルボン酸基を有する単量体単位、スルホン酸基を有する単量体単位、およびリン酸基を有する単量体単位からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましく、カルボン酸基を有する単量体単位であることがより好ましい。
また、結合性官能基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0031】
そして、重合体(A)が含有する結合性官能基含有単量体単位の割合は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。重合体(A)が含有する結合性官能基含有単量体単位の割合が上記上限値以下であれば、重合体(A)が多価カチオン性有機化合物(B)と過度に相互作用することもなく、これらの成分の凝集を抑制してバインダー組成物の粘度安定性を確保することができる。また、重合体(A)が含有する結合性官能基含有単量体単位の割合が上記下限値以上であれば、バインダー組成物の粘度安定性の確保しつつ電極合材層の耐電解液性を更に向上させることができ、高温保存特性に優れた二次電池を得ることができる。
【0032】
[[結合性官能基含有単量体単位以外の繰り返し単位]]
また、重合体(A)が含み得る、結合性官能基含有単量体単位以外の繰り返し単位としては、特に限定されることなく、共役ジエン単量体単位、アルキレン構造単位、ニトリル基含有単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、芳香族ビニル単量体単位などが挙げられる。
【0033】
−共役ジエン単量体単位−
ここで、共役ジエン単量体単位を形成し得る共役ジエン単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどの炭素数4以上の共役ジエン化合物が挙げられる。中でも、1,3−ブタジエンが好ましい。
【0034】
−アルキレン構造単位−
また、アルキレン構造単位は、一般式:−C
nH
2n−[但し、nは2以上の整数]で表わされるアルキレン構造のみで構成される繰り返し単位である。
ここで、アルキレン構造単位は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、非水系二次電池電極用スラリー組成物の分散安定性を向上させる観点からは、アルキレン構造単位は直鎖状、すなわち直鎖アルキレン構造単位であることが好ましい。また、非水系二次電池電極用スラリー組成物の分散安定性を更に向上させる観点からは、アルキレン構造単位の炭素数は4以上である(即ち、上記一般式のnが4以上の整数である)ことが好ましい。
【0035】
そして、重合体(A)へのアルキレン構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、例えば以下の(1)または(2)の方法:
(1)共役ジエン単量体を含む単量体組成物から共重合体を調製し、当該共重合体に水素添加することで、共役ジエン単量体単位をアルキレン構造単位に変換する方法
(2)1−オレフィン単量体を含む単量体組成物から共重合体を調製する方法
が挙げられる。これらの中でも、(1)の方法が重合体(A)の製造が容易であり好ましい。
【0036】
なお、上記(1)の方法で用いる共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどの炭素数4以上の共役ジエン化合物が挙げられ、中でも、1,3−ブタジエンが好ましい。すなわち、アルキレン構造単位は、共役ジエン単量体単位を水素化して得られる構造単位(共役ジエン水素化物単位)であることが好ましく、1,3−ブタジエン単位を水素化して得られる構造単位(1,3−ブタジエン水素化物単位)であることがより好ましい。そして、共役ジエン単量体単位の選択的な水素化は、油層水素化法や水層水素化法などの公知の方法を用いて行なうことができる。
また、上記(2)の方法で用いる1−オレフィン単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセンなどが挙げられる。
これらの共役ジエン単量体や1−オレフィン単量体は、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
−ニトリル基含有単量体単位−
更に、ニトリル基含有単量体単位を形成し得るニトリル基含有単量体としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。具体的には、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらの中でも、ニトリル基含有単量体としては、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
これらは、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
−(メタ)アクリル酸エステル単量体単位−
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成し得る(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、イソペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−ペンチルメタクリレート、イソペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。中でも、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートが好ましく、n−ブチルアクリレート、エチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートがより好ましい。
これらは、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
−芳香族ビニル単量体単位−
更に、芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ブトキシスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられる。中でも、スチレンが好ましい。
これらは、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
なお、重合体(A)が含有する結合性官能基含有単量体単位以外の繰り返し単位の割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましく、99.9質量%以下であることが好ましく、99.8質量%以下であることがより好ましく、99.5質量%以下であることが更に好ましい。
【0041】
[[重合体(A)の調製方法]]
上述した重合体(A)の調製方法は特に限定されないが、重合体(A)は、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を重合して共重合体を得た後、必要に応じて得られた共重合体を水素化(水素添加)することで調製することができる。
【0042】
ここで、重合体(A)の調製に用いる単量体組成物中の各単量体の含有割合は、重合体(A)中の各繰り返し単位の含有割合に準じて定めることができる。
そして、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの反応も用いることができる。
更に、共重合体の水素化方法は、特に制限なく、触媒を用いる一般的な方法(例えば、国際公開第2012/165120号、国際公開第2013/080989号および特開2013−8485号公報参照)を使用することができる。
【0043】
<2つ以上のカチオン性基を有する有機化合物>
多価カチオン性有機化合物(B)は、一分子中に複数のカチオン性基を有する有機化合物であれば特に限定されない。カチオン性基としては、例えば、置換又は非置換のアミノ基(−NH
2、−NHR
1、−NR
1R
2、−N
+R
1R
2R
3。ここで、R
1〜R
3は任意の置換基を表す。)、イミノ基(=NH)、オキサゾリン基等の窒素含有官能基(アミド基を除く)が挙げられる。これらの中でも、多価カチオン性有機化合物(B)を重合体(A)と良好に相互作用させ、バインダー組成物の粘度安定性を確保しつつ電極合材層の耐電解液性および二次電池の高温保存特性を更に向上させる観点からは、第一級アミノ基(非置換のアミノ基、−NH
2)、第二級アミノ基(−NHR
1)、イミノ基が好ましく、第一級アミノ基がより好ましい。なお、多価カチオン性有機化合物(B)は、一種類のカチオン性基のみを有していてもよく、二種類以上のカチオン性基を有していてもよい。また多価カチオン性有機化合物(B)は、非重合体であってもよいし、重合体であってもよい。
なお、本発明において、2つ以上のカチオン性基を有する有機化合物である重合体が、カチオン性基と結合可能な官能基を有する場合、その重合体は、重合体(A)でなく多価カチオン性有機化合物(B)に該当するものとする。
【0044】
[多価カチオン性有機化合物(B)の例]
そして、多価カチオン性有機化合物(B)は、例えば、2つ以上の置換又は非置換のアミノ基を有する有機化合物(以下、単に「アミノ基含有化合物」と略記する場合がある。)であることが好ましい。
ここで、非重合体であるアミノ基含有化合物としては、エチレンジアミン、1,4−ジアミノブタン、トリエチレンテトラミン、フェニルジアミン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、N,N'-ビス(3-フェニル-2-プロペニリデン)-1,6-ヘキサンジアミン、ビスアニリン類等が挙げられる。
また、重合体であるアミノ基含有化合物としては、ポリエチレンイミン;ポリN−ヒドロキシルエチレンイミン、カルボキシメチル化ポリエチレンイミン・ナトリウム塩等のポリエチレンイミン誘導体;ポリプロピレンイミン;ポリN−2−ジヒドロシキルプロピレンイミン等のポリプロピレンイミン誘導体;ポリアリルアミン;ポリジメチルジアリルアンモニウムハライド等のポリアリルアミン誘導体;アクリル酸ポリマーをアミノエチル化して得られるアミノエチル化アクリルポリマー;置換又は非置換のアミノ基を有するカチオン化剤によりセルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)を修飾して得られるカチオン化セルロースが挙げられる。
これらの中でも、単位体積あたりのアミノ基が多いため架橋が強固に構築され、電極合材層の耐電解液性をより向上できる点で、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミン誘導体が好ましく、ポリエチレンイミンがより好ましい。
【0045】
[多価カチオン性有機化合物(B)の性状]
ここで、多価カチオン性有機化合物(B)の分子量(多価カチオン性有機化合物(B)が重合体である場合は「重量平均分子量」を指す。)は、300以上であることが好ましく、600以上であることがより好ましく、1000以上であることが更に好ましく、1200以上であることが特に好ましく、400000以下であることが好ましく、100000以下であることがより好ましく、70000以下であることが更に好ましく、10000以下であることが特に好ましい。多価カチオン性有機化合物(B)の分子量が上記上限値以下であれば、多価カチオン性有機化合物(B)が溶媒中で好適に分散するため、得られる電極合材層中において重合体(A)と一層剛直なネットワークを形成することができる。従って、電極合材層の耐電解液性および二次電池の高温保存特性を更に向上させることができる。また、多価カチオン性有機化合物(B)の分子量が上記下限値以上であれば、重合体(A)との反応性が確保され、溶媒中で重合体(A)と良好に相互作用することができる。そのため、バインダー組成物の粘度安定性を確保することができる。加えて、電極合材層中において重合体(A)と一層剛直なネットワークを形成することができ、電極合材層の耐電解液性および二次電池の高温保存特性を更に向上させることができる。
なお、本発明において、多価カチオン性有機化合物(B)が重合体である場合、その重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(展開溶媒:テトラヒドロフラン)によって測定されるポリスチレン換算重量平均分子量として求めることができる。
【0046】
また、多価カチオン性有機化合物(B)のアミン価は、1mmol/g以上であることが好ましく、2.5mmol/g以上であることがより好ましく、5mmol/g以上であることが更に好ましく、30mmol/g以下であることが好ましく、25mmol/g以下であることがより好ましい。多価カチオン性有機化合物(B)のアミン価が上記上限値以下であれば、重合体(A)との架橋反応速度が十分に確保され、電極合材層中で剛直なネットワークを効率良く形成することができる。また、多価カチオン性有機化合物(B)のアミン価が上記下限値以上であれば、重合体(A)との架橋が良好に進行し、電極合材層中で重合体(A)と一層剛直なネットワークを形成することができる。従って、電極合材層の耐電解液性および二次電池の高温保存特性を更に向上させることができる。
なお、本発明において、多価カチオン性有機化合物(B)のアミン価とは、多価カチオン性有機化合物(B)1g中に含まれる全塩基性窒素を中和するのに要する過塩素酸と、当量の水酸化カリウムのmmol数で表した値である。そしてこのアミン価は、JIS K7237(1995)に記載されている電位差滴定法に準じて得られるmgKOH/gの値をmmol/gに換算して、多価カチオン性有機化合物(B)の固形分1g当たりの量として求めることができる。
【0047】
[多価カチオン性有機化合物(B)の配合量]
そして、多価カチオン性有機化合物(B)の配合量は、重合体(A)100質量部当たり0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることが更に好ましく、2質量部以上であることが特に好ましく、20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましく、8質量部以下であることが更に好ましい。多価カチオン性有機化合物(B)が過剰量となると、却ってバインダー組成物の粘度安定性が低下し、また未反応の残留物が可塑剤として働き電極のピール強度が損なわれる場合がある。しかし、多価カチオン性有機化合物(B)の配合量が上記上限値以下であれば、バインダー組成物の粘度安定性を確保しつつ、電極のピール強度の低下を抑制することができる。また、多価カチオン性有機化合物(B)の配合量が上記下限値以上であれば、電極合材層中で重合体(A)と多価カチオン性有機化合物(B)が一層剛直なネットワークを形成することができる。従って、電極合材層の耐電解液性および二次電池の高温保存特性を更に向上させることができる。
【0048】
<溶媒>
非水系二次電池電極用バインダー組成物の溶媒としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、特に限定されることなく、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン(NMP)などのアミド系極性有機溶媒;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
中でも、溶媒としては、極性有機溶媒が好ましく、NMPがより好ましい。
【0049】
<その他の成分>
なお、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物には、上記成分の他に、重合体(A)以外の結着材(ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート等)、補強材、レベリング剤、粘度調整剤、電解液添加剤等の成分をバインダー組成物に含有させてもよい。これらは、電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られず、公知のもの、例えば国際公開第2012/115096号に記載のものを使用することができる。また、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0050】
(非水系二次電池電極用スラリー組成物)
本発明の非水系二次電池電極用スラリー組成物は、電極活物質と、上述したバインダー組成物とを含み、任意に、導電材と、その他の成分を更に含有する。即ち、本発明のスラリー組成物は、電極活物質と、上述した重合体(A)と、上述した多価カチオン性有機化合物(B)と、溶媒とを含有し、任意に、導電材と、その他の成分を更に含有する。そして、本発明のスラリー組成物は、上述したバインダー組成物を含んでいるので、本発明のスラリー組成物を用いて形成した電極合材層は、耐電解液性に優れ、且つ、二次電池に優れた高温保存特性を発揮させることができる。
【0051】
<電極活物質>
ここで、電極活物質は、非水系二次電池の電極において電子の受け渡しをする物質である。そして、例えば非水系二次電池がリチウムイオン二次電池の場合には、電極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。
なお、以下では、一例として非水系二次電池電極用スラリー組成物がリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0052】
そして、リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定されることなく、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO
2)、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO
2)、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物(Li(Co Mn Ni)O
2)、Ni−Mn−Alのリチウム含有複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO
4)、Li
2MnO
3−LiNiO
2系固溶体、Li
1+xMn
2−xO
4(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni
0.17Li
0.2Co
0.07Mn
0.56]O
2、LiNi
0.5Mn
1.5O
4等の既知の正極活物質が挙げられる。
なお、正極活物質の配合量や粒子径は、特に限定されることなく、従来使用されている正極活物質と同様とすることができる。
【0053】
また、リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、例えば、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、およびこれらを組み合わせた負極活物質などが挙げられる。
【0054】
ここで、炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいい、炭素系負極活物質としては、例えば炭素質材料と黒鉛質材料とが挙げられる。
【0055】
そして、炭素質材料としては、例えば、易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素などが挙げられる。
ここで、易黒鉛性炭素としては、例えば、石油または石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。
また、難黒鉛性炭素としては、例えば、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボンなどが挙げられる。
【0056】
更に、黒鉛質材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。
ここで、人造黒鉛としては、例えば、易黒鉛性炭素を含んだ炭素を主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
【0057】
また、金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。金属系活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびその合金、並びに、それらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが用いられる。これらの中でも、金属系負極活物質としては、ケイ素を含む活物質(シリコン系負極活物質)が好ましい。シリコン系負極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池を高容量化することができるからである。
【0058】
シリコン系負極活物質としては、例えば、ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、SiO、SiO
x、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化してなるSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物などが挙げられる。なお、これらのシリコン系負極活物質は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類上を組み合わせて用いてもよい。
なお、負極活物質の配合量や粒子径は、特に限定されることなく、従来使用されている負極活物質と同様とすることができる。
【0059】
<非水系二次電池電極用バインダー組成物>
非水系二次電池電極用バインダー組成物としては、上述した重合体(A)および多価カチオン性有機化合物(B)とを含有する非水系二次電池電極用バインダー組成物を用いる。
【0060】
ここで、非水系二次電池電極用スラリー組成物中のバインダー組成物の含有割合は、電極活物質100質量部当たり、重合体(A)の量が0.1質量部以上となる量であることが好ましく、0.3質量部以上となる量であることがより好ましく、3質量部以下となる量であることが好ましく、1.5質量部以下となる量であることがより好ましい。スラリー組成物に、重合体(A)の量が上記範囲内となる量でバインダー組成物を含有させれば、電極合材層の耐電解液性および二次電池の高温保存特性を更に向上させることができる。
【0061】
<導電材>
導電材は、電極活物質同士の電気的接触を確保するためのものである。そして、導電材としては、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラックなど)、単層または多層のカーボンナノチューブ(多層カーボンナノチューブにはカップスタック型が含まれる)、カーボンナノホーン、気相成長炭素繊維、ポリマー繊維を焼成後に破砕して得られるミルドカーボン繊維、単層または多層グラフェン、ポリマー繊維からなる不織布を焼成して得られるカーボン不織布シートなどの導電性炭素材料;各種金属のファイバーまたは箔などを用いることができる。
これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
なお、非水系二次電池電極用スラリー組成物中の導電材の含有割合は、電極活物質100質量部当たり、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましい。導電材の量が上記範囲内であれば、電極活物質同士の電気的接触を十分に確保して、二次電池に優れた電池特性(出力特性など)を発揮させることができる。
【0063】
<その他の成分>
スラリー組成物に配合し得るその他の成分としては、特に限定することなく、上述したバインダー組成物に配合し得るその他の成分と同様のものが挙げられる。また、その他の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0064】
<スラリー組成物の調製>
上述したスラリー組成物は、上記各成分を有機溶媒などの溶媒中に溶解または分散させることにより調製することができる。具体的には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて上記各成分と溶媒とを混合することにより、スラリー組成物を調製することができる。なお、スラリー組成物の調製に用いる溶媒としては、バインダー組成物に含まれている溶媒を使用してもよい。
【0065】
ここで、上記各成分を溶媒中で混合する順序は、特に限定されることなく、任意の順序とすることができる。具体的には、スラリー組成物を調製する際には、上記各成分は、例えば、下記(1)〜(3)の何れかの順序で混合することができる。
(1)上記各成分を一括混合する。
(2)重合体(A)と多価カチオン性有機化合物(B)を含むバインダー組成物と、導電材とを混合して非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物を得た後、非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物に対して電極活物質を添加して混合する。
(3)導電材と電極活物質とを混合した後、得られた混合物に対して重合体(A)と多価カチオン性有機化合物(B)を含むバインダー組成物を添加して混合する。
【0066】
上述した中でも、上記各成分は上記(1)又は(2)の順序で混合することが好ましい。なお(2)の順序を採用した場合、即ち、バインダー組成物と導電材を予め混合し、導電材と、上述したバインダー組成物とを含む(つまり、導電材と、重合体(A)と、多価カチオン性有機化合物(B)と、溶媒とを含む)非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物とした場合、導電材の表面に重合体(A)を吸着させて、導電材を良好に分散させることができる。その結果、二次電池に優れた電池特性(出力特性など)を発揮させることができる。
【0067】
(非水系二次電池用電極)
本発明の二次電池用電極は、集電体と、集電体上に形成された電極合材層とを備え、電極合材層は上記非水系二次電池電極用スラリー組成物を用いて形成されている。即ち、電極合材層には、少なくとも、電極活物質と、重合体(A)と、多価カチオン性有機化合物(B)とが含有されている。ここで、重合体(A)と多価カチオン性有機化合物(B)は架橋構造を形成していてもよい。即ち、電極合材層には、重合体(A)と多価カチオン性有機化合物(B)との架橋物が含有されていてもよい。なお、電極合材層中に含まれている各成分は、上記非水系二次電池電極用スラリー組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、スラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
そして、本発明の非水系二次電池用電極では、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物を含むスラリー組成物を使用しているので、重合体(A)と多価カチオン性有機化合物(B)が強固に相互作用した、剛直な電極合材層を集電体上に良好に形成することができる。従って、当該電極を使用すれば、電極合材層の電解液中への溶出が抑制され、高温保存特性等の電池特性に優れる二次電池が得られる。
【0068】
<電極の製造方法>
なお、本発明の非水系二次電池用電極は、例えば、上述したスラリー組成物を集電体上に塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布されたスラリー組成物を乾燥して集電体上に電極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを経て製造される。
【0069】
[塗布工程]
上記スラリー組成物を集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、スラリー組成物を集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる電極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0070】
ここで、スラリー組成物を塗布する集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0071】
[乾燥工程]
集電体上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥法、真空乾燥法、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上のスラリー組成物を乾燥することで、集電体上に電極合材層を形成し、集電体と電極合材層とを備える二次電池用電極を得ることができる。乾燥温度は60℃以上200℃以下が好ましく、90℃以上150℃以下がより好ましい。
なお、例えば重合体(A)としてカルボン酸基、スルホン酸基、およびリン酸基の少なくとも何れかを有する重合体を用い、多価カチオン性有機化合物(B)としてアミノ基含有化合物を用いた場合には、重合体(A)と多価カチオン性有機化合物(B)とがアミド結合により架橋し、電極合材層の耐電解液性を一層向上させて、二次電池の高温保存特性を更に向上させることができる。
【0072】
なお、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、電極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、電極合材層と集電体との密着性を向上させることができる。また、電極合材層が硬化性の重合体を含む場合は、電極合材層の形成後に前記重合体を硬化させることが好ましい。
【0073】
(非水系二次電池)
本発明の非水系二次電池は、正極と、負極と、電解液と、セパレータとを備え、正極および負極の少なくとも一方として本発明の二次電池用電極を用いたものである。そして、本発明の非水系二次電池は、本発明の非水系二次電池用電極を備えているので、高温保存特性等の電池特性に優れている。
なお、以下では、一例として非水系二次電池がリチウムイオン二次電池である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0074】
<電極>
ここで、本発明の非水系二次電池に使用し得る、上述した非水系二次電池用電極以外の電極としては、特に限定されることなく、二次電池の製造に用いられている既知の電極を用いることができる。具体的には、上述した非水系二次電池用電極以外の電極としては、既知の製造方法を用いて集電体上に電極合材層を形成してなる電極を用いることができる。
【0075】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。リチウムイオン二次電池の支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liが好ましく、LiPF
6が特に好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0076】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いので、カーボネート類を用いることが好ましい。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができる。また、電解液には、既知の添加剤を添加することができる。
【0077】
<セパレータ>
セパレータとしては、特に限定されることなく、例えば特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0078】
<二次電池の製造方法>
本発明の二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0079】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」、「ppm」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、複数種類の単量体を共重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される単量体単位の前記重合体における割合は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致する。
実施例および比較例において、バインダー組成物の粘度安定性、電極合材層の耐電解液性、および二次電池の高温保存特性は、下記の方法で評価した。
【0080】
<粘度安定性>
バインダー組成物の調製直後の粘度M0と、60℃で7日間保存した後の粘度M1を測定した。なお、粘度の測定は、B型粘度計を使用し、温度:25℃、ローター:No.4、ローター回転数:60rpmの条件下で行った。
そして、粘度変化率ΔM(=M1/M0×100(%))を算出し、下記の基準で評価した。粘度変化率ΔMの値が小さいほど、バインダー組成物の粘度安定性が高いことを示す。
A:粘度変化率ΔMが110%未満
B:粘度変化率ΔMが110%以上120%未満
C:粘度変化率ΔMが120%以上130%未満
D:粘度変化率ΔMが130%以上
<耐電解液性>
テフロン(登録商標)シャーレ中のバインダー組成物を120℃で12時間乾燥させて、厚さ1mmのフィルムを得た。このフィルムを直径1.6mmの円状に打ち抜き測定用試料(擬似電極合材層)とし、この測定用試料の重量W0を測定した。
得られた測定用資料を60℃の電解液中で144時間保存後、測定用試料をメタノールで洗浄した。この洗浄後の測定用試料の重量W1を測定した。
なお、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)と、プロピレンカーボネート(PC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、プロピルプロピオネ-ト(PP)とをEC:PC:EMC:PP=2:1:1:6(質量比)で混合してなる混合溶媒に、LiPF
6を1モル/リットルの濃度で溶解させ、さらに添加剤としてビニレンカーボネート1.5体積%を添加したものを用いた。
そして、非溶出分の割合ΔW(=W1/W0×100(%))を算出し、下記の基準で評価した。非溶出分の割合ΔWの値が大きいほど、バインダー組成物を用いて得られる電極合材層の耐電解液性が高いことを示す。
A:非溶出分の割合ΔWが85%以上
B:非溶出分の割合ΔWが70%以上85%未満
C:非溶出分の割合ΔWが55%以上70%未満
D:非溶出分の割合ΔWが40%以上55%未満
E:非溶出分の割合ΔWが40%未満
<高温保存特性>
製造した二次電池を、25℃の雰囲気下で、0.2CmAで電池電圧が4.4Vになるまで定電流充電し、更に4.4Vで充電電流が0.02CmAになるまで定電圧充電を行った。続いて、0.2CmAで電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行った。定電流放電終了時の容量を初期容量とした。その後、25℃で、0.2CmAの定電流法にて、セル電圧3.82Vまで充電し、そのまま5時間放置して電圧Vini0を測定した。さらに、3Cの放電の操作を行い、放電開始20秒後の電圧Vini20を測定した。高温保存前の抵抗を、ΔVini=Vini0−Vini20とで示す電圧変化で定義した。
上記測定後、二次電池を0.2CmAで電池電圧が4.4Vになるまで定電流充電した。その後、60℃の恒温槽にて20日放置保存した後に、25℃の雰囲気下で、0.2CmAにて電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行った。
続いて、25℃で、0.1Cの定電流法にて、セル電圧3.82Vまで充電し、そのまま5時間放置して電圧Vfin0を測定した。さらに、3Cの放電の操作を行い、放電開始20秒後の電圧Vfin20を測定した。高温保存後の抵抗を、ΔVfin=Vfin0−Vfin20とで示す電圧変化で定義した。
そして、ΔVfin/ΔVini×100(%)から算出される値を高温保存後の抵抗上昇率とし、下記の基準で評価した。この抵抗上昇率の値が小さいほど、高温保存後の抵抗上昇の抑制に優れることを示す。
A:抵抗上昇率が120%未満
B:抵抗上昇率が120%以上130%未満
C:抵抗上昇率が130%以上140%未満
D:抵抗上昇率が140%以上
【0081】
(実施例1)
<重合体(A)の調製>
メカニカルスターラーおよびコンデンサを装着した反応器Aに、窒素雰囲気下、イオン交換水210部と、乳化剤としての濃度30%のアルキルジフェニルオキシドジスルホネート(ダウ・ケミカル社製、ダウファックス(登録商標)2A1)0.5部(固形分換算)とを投入した。反応器A中の混合物を撹拌しながら70℃に加熱し、更に1.96%過硫酸カリウム水溶液25.5部を反応器Aに添加し、混合液Aを得た。次いで、メカニカルスターラーを装着した上記とは別の容器Bに、窒素雰囲気下、結合性官能基含有単量体としてのメタクリル酸1部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのn−ブチルアクリレート20部およびエチルメタクリレート79部、乳化剤としての濃度30%のアルキルジフェニルオキシドジスルホネート(ダウ・ケミカル社製、ダウファックス(登録商標)2A1)0.5部(固形分換算)、並びにイオン交換水22.7部を投入し、これを攪拌乳化させて単量体混合液Bを調製した。攪拌乳化させた状態の単量体混合液Bを反応器A中の混合液Aに添加し、重合を行った。なお、単量体混合液Bの添加は、2.5時間かけて一定の速度で行った。そして重合転化率が95%になるまで反応させて、重合体の水分散液を得た。この重合体の水分散液に、溶媒としてのNMPを重合体の固形分濃度が7%になるように添加した。そして、90℃にて減圧蒸留を実施して水および過剰なNMPを除去し、重合体(A)のNMP溶液(固形分濃度8%)を得た。
<多価カチオン性有機化合物(B)の準備>
多価カチオン性有機化合物(B)として、ポリチレンイミン(日本触媒社製、アミン価:21mmol/g、重量平均分子量:1200)を準備した。そしてこのポリエチレンイミンのNMP溶液(固形分濃度8%)を調製した。
<正極用バインダー組成物の調製>
上述した重合体(A)のNMP溶液およびポリエチレンイミンのNMP溶液を、固形分換算で混合比が100:5となるように混合し、正極用バインダー組成物を得た。この正極用バインダー組成物を用いて、粘度安定性および耐電解液性を評価した。結果を表1に示す。
<正極用スラリー組成物の調製>
正極活物質としてのコバルト酸リチウム(LiCoO
2、体積平均粒子径:12μm)100部と、導電材としてのケッチェンブラック(ライオン社製、特殊オイルファーネスカーボン粉状品:個数粒子径40nm、比表面積800m
2/g)1.5部と、重合体(A)が0.6部(固形分換算)となる量の正極用バインダー組成物と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)のNMP溶液0.6部(固形分換算)と、追加の溶媒としてのNMPをプラネタリーミキサーにて混合することにより、正極用スラリー組成物を調製した。なお追加のNMPの量は、得られる正極用スラリー組成物の粘度(B型粘度計を使用。温度:25℃、ローター:No.4、ローター回転数:60rpm)が5000±200mPa・sの範囲内となるように調整した。
<正極の作製>
得られた正極用スラリー組成物を、厚さ15μmのアルミニウム箔よりなる集電体の片面に、乾燥後の塗布量が20mg/cm
2になるように塗布した。そして、塗布したスラリー組成物を90℃で20分間、120℃で20分間乾燥し、その後、150℃で2時間加熱処理して、正極原反を得た。そして、得られた正極原反をロールプレスで圧延し、密度が3.7g/cm
3の正極合材層をアルミニウム箔(集電体)上に備える正極を得た。
<負極の作製>
負極活物質としての球状人造黒鉛(体積平均粒子径:12μm)100部と、結着材としてのスチレン−ブタジエン共重合体1部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース1部と、分散媒として適量の水をプラネタリーミキサーにて混合することにより、負極用スラリー組成物を調製した。
得られた負極用スラリー組成物を、厚さ15μmの銅箔よりなる集電体の片面に、乾燥後の塗布量が10mg/cm
2になるように塗布した。そして、塗布したスラリー組成物を60℃で20分間、120℃で20分間乾燥し、負極原反を得た。そして、得られた負極原反をロールプレスで圧延し、密度が1.5g/cm
3の負極合材層を銅箔(集電体)上に備える負極を得た。
<セパレータの準備>
単層のポリプロピレン製セパレータ(幅65mm、長さ500mm、厚さ25μm、乾式法により製造、気孔率55%)を、4.4cm×4.4cmの正方形に切り抜いた。
<二次電池の製造>
電池の外装として、アルミニウム包材外装を用意した。そして、上記で得られた正極を、4cm×4cmの正方形に切り出し、集電体側の表面がアルミニウム包材外装に接するように配置した。正極の正極合材層の上に、上記で得られた正方形のセパレータを配置した。さらに、上記で得られた負極を、4.2cm×4.2cmの正方形に切り出し、これをセパレータ上に、負極合材層側の表面がセパレータに向かい合うように配置した。更に、電解液を充填し、その後、アルミニウム包材外装の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミニウム包材外装を閉口し、リチウムイオン二次電池を得た。なお、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)と、プロピレンカーボネート(PC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、プロピルプロピオネ-ト(PP)とをEC:PC:EMC:PP=2:1:1:6(質量比)で混合してなる混合溶媒に、LiPF
6を1モル/リットルの濃度で溶解させ、さらに添加剤としてビニレンカーボネート1.5体積%を添加したものを用いた。
そして、得られたリチウムイオン二次電池を用いて高温保存特性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例2〜3)
重合体(A)の調製の際に、表1の単量体組成を採用した以外は実施例1と同様にして、重合体(A)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、および二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例4〜5)
正極用バインダー組成物の調製に、多価カチオン性有機化合物(B)の量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、重合体(A)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、および二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0084】
(実施例6)
重合体(A)の調製の際に、結合性官能基含有単量体として、アクリル酸に替えて2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を使用した以外は、実施例1と同様にして、重合体(A)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、および二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例7〜9)
正極用バインダー組成物の調製に、多価カチオン性有機化合物(B)として、ポリエチレンイミンに替えて、それぞれ以下のアミノエチル化アクリルポリマーXおよびY、並びにトリエチレンテトラミンを使用した以外は、実施例1と同様にして、重合体(A)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、および二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
アミノエチル化アクリルポリマーX(日本触媒社製、製品名「ポリメント(登録商標)NK−200PM」、アミン価:2.5mmol/g、重量平均分子量:20000)
アミノエチル化アクリルポリマーY(日本触媒社製、製品名「ポリメント(登録商標)NK−350」、アミン価:0.8mmol/g、重量平均分子量:100000)
トリエチレンテトラミン(アミン価:25mmol/g、分子量:146.23)
【0086】
(実施例10)
以下のようにして調製した重合体(A)を用いた以外は実施例1と同様にして、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、および二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
<重合体(A)の調製>
金属製ボトルに、イオン交換水180部、濃度10質量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、結合性官能基含有単量体としてのメタクリル酸1部、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル35部、および、分子量調整剤としてのt−ドデシルメルカプタン0.5部を順次仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、共役ジエン単量体としての1,3−ブタジエン64部を添加した。金属製ボトルを5℃に保ち、重合開始剤としてのクメンハイドロパーオキサイド0.1部を添加し、金属製ボトルを回転させながら16時間重合させた。次いで、重合停止剤として濃度10質量%のハイドロキノン水溶液0.1部を加えて重合反応を停止した後、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去し、重合体の水分散液(固形分濃度約30質量%)を得た。
次いで、上記にて得られた水分散液に含有される重合体の乾燥重量に対するパラジウム含有量が750ppmになるように、オートクレーブ中に、上記にて製造した水分散液およびパラジウム触媒(1質量%酢酸パラジウムアセトン溶液とイオン交換水とを1:1(質量比)で混合した溶液)を添加した。そして、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、水添重合体を得た。
続いて、得られた水添重合体の水分散液に溶媒としてのNMPを水添重合体の固形分濃度が7%になるよう添加した。そして、90℃にて減圧蒸留を実施して水および過剰なNMPを除去し、重合体(A)(水添重合体)のNMP溶液(固形分濃度8%)を得た。
【0087】
(実施例11)
以下のようにして調製した重合体(A)を用いた以外は実施例1と同様にして、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、および二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
<重合体(A)の調製>
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水164部、結合性官能基含有単量体としてのメタクリル酸1部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としての2−エチルヘキシルアクリレート56部、芳香族ビニル単量体としてのスチレン38部、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル5部、重合開始剤として過硫酸カリウム0.3部、乳化剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム1.2部を入れ、十分に撹拝した後、80℃で3時間、80℃で2時間加温して重合を行い、重合体の水分散液を得た。なお、固形分濃度から求めた重合転化率は96%であった。続いて、得られた重合体の水分散液に溶媒としてのNMPを重合体の固形分濃度が7%になるよう添加した。そして、90℃にて減圧蒸留を実施して水および過剰なNMPを除去し、重合体(A)のNMP溶液(固形分濃度8%)を得た。
【0088】
(比較例1)
重合体(A)の調製の際に、表1の単量体組成(結合性官能基単量体を使用しない)を採用した以外は実施例1と同様にして重合体を調製した。この重合体を重合体(A)に替えて使用した以外は実施例1と同様にして、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、および二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0089】
(比較例2)
正極用バインダー組成物の調製に、多価カチオン性有機化合物(B)を使用しない以外は、実施例1と同様にして、重合体(A)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、および二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0090】
(比較例3)
正極用バインダー組成物の調製に、多価カチオン性有機化合物(B)に替えてジエチルアミン(アミン価:13.6mmol/g、分子量:44)を使用した以外は、実施例1と同様にして、重合体(A)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、および二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0091】
正極用バインダー組成物の調製に、多価カチオン性有機化合物(B)に替えてアルミニウムキレート(川研ファインケミカル社製、製品名「アルミキレートA(W)」、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート))を使用した以外は、実施例1と同様にして、重合体(A)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、および二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0092】
なお、以下に示す表1中、
「COOH」は、カルボン酸基を示し、
「SO
3H」は、スルホン酸基を示し、
「MA」は、メタクリル酸単位を示し、
「AMPS」は、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸単位を示し、
「EMA」は、エチルメタクリレート単位を示し、
「BA」は、n−ブチルアクリレート単位を示し、
「2−EHA」は、2−エチルヘキシルアクリレート単位を示し、
「AN」は、アクリロニトリル単位を示し、
「BD」は、1,3−ブタジエン単位又は1,3−ブタジエン水素化物単位を示し、
「ST」は、スチレン単位を示し、
「PEI」は、ポリエチレンイミンを示し、
「NK−200PM」は、アミノエチル化アクリルポリマーXを示し、
「NK−350」は、アミノエチル化アクリルポリマーYを示し、
「TET」は、トリエチレンテトラミンを示し、
「DEA」は、ジエチルアミンを示し、
「AL」は、アルミニウムキレートを示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表1より、重合体(A)と、多価カチオン性有機化合物(B)とを含むバインダー組成物を用いた実施例1〜11では、バインダー組成物が粘度安定性に優れており、且つ、耐電解液性に優れる電極合材層を形成可能なスラリー組成物を得て、優れた高温保存特性を有する二次電池を製造できることが分かる。
また、表1より、カチオン性基と結合可能な官能基を有さない重合体と、多価カチオン性有機化合物(B)とを含むバインダー組成物を用いた比較例1では、電極合材層の耐電解液性が低下し、二次電池の高温保存特性が低下してしまうことが分かる。更に、表1より、重合体(A)を含み、多価カチオン性有機化合物(B)を含まないバインダー組成物を用いた比較例2では、電極合材層の耐電解液性が低下し、二次電池の高温保存特性が低下してしまうことが分かる。また、表1より、重合体(A)と、カチオン性基を1つしか有さないジエチルアミンを含むバインダー組成物を用いた比較例3では、電極合材層の耐電解液性が低下し、二次電池の高温保存特性が低下してしまうことが分かる。そして、表1より、重合体(A)と、アルミニウムキレートを含むバインダー組成物を用いた比較例4では、バインダー組成物の粘度安定性が低下し、また二次電池の高温保存特性が低下してしまうことが分かる。これらの性能の低下は、アルミニウムキレート由来のアルミニウムイオンに因るものと推察される。具体的に、粘度安定性の低下は、アルミニウムイオンの溶媒中での運動性が高いため、重合体(A)と架橋反応を起こして重合体(A)を増粘させてしまうためと推察される。また、高温保存特性の低下は、スラリー組成物調製時のせん断による温度上昇のため、アルミニウムイオンが重合体(A)と架橋反応を起こし、その結果重合体(A)が導電材を被覆しにくくなって導電材の分散性が損なわれるためと推察される。