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再表2018-124003胃内菌叢の占有率測定による機能性消化管障害の検出方法及び胃内菌叢改善剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2018年7月5日
【発行日】2019年11月21日
(54)【発明の名称】胃内菌叢の占有率測定による機能性消化管障害の検出方法及び胃内菌叢改善剤
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20191025BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20191025BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20191025BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20191025BHJP
   A23L 33/135 20160101ALN20191025BHJP
【FI】
   C12Q1/04
   C12Q1/6869 Z
   A61K35/747
   A61P1/00
   A23L33/135
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】18
【出願番号】特願2018-559480(P2018-559480)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2017年12月26日
(31)【優先権主張番号】特願2016-254357(P2016-254357)
(32)【優先日】2016年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(71)【出願人】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】中江 浩彦
(72)【発明者】
【氏名】大津 俊広
【テーマコード(参考)】
4B018
4B063
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB07
4B018LB08
4B018LE04
4B018LE05
4B018MD86
4B018ME11
4B018MF13
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QR08
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087CA09
4C087MA31
4C087MA52
4C087MA55
4C087MA60
4C087MA63
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA66
4C087ZA69
(57)【要約】
ヒト胃内の細菌の占有率を測定することにより、機能性消化管障害の有無を検出する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト胃内の細菌の占有率を測定することにより、機能性消化管障害の有無を検出する方法。
【請求項2】
前記ヒト胃内の細菌の占有率の測定を、ヒト胃内から採取した胃液について行う、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ヒト胃内においてバクテロイデス(Bacteroidetes)占有率がプロテオバクテリア(Proteobacteria)占有率よりも高いこと、及び/又は、ヒト胃内においてアシドバクテリア(Acidobacteria)が占有していないことを測定する、請求項1又は2に記載の方法
【請求項4】
前記機能性消化管障害が機能性ディスペプシアである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記細菌の占有率の測定を、次世代シーケンサーを用いて行う、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
乳酸菌を有効成分として含有する胃内菌叢改善剤であって、胃内のプロテオバクテリア(Proteobacteria)占有率に対するバクテロイデス(Bacteroidetes)占有率を低減させること、及び/又は、胃内のアシドバクテリア(Acidobacteria)の占有率を増加させることを特徴とする、前記胃内菌叢改善剤。
【請求項7】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス属乳酸菌である、請求項6に記載の胃内菌叢改善剤。
【請求項8】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)OLL2716(FERM BP−6999)である、請求項6又は7に記載の胃内菌叢改善剤。
【請求項9】
前記乳酸菌の菌数のヒトに対する1日当たりの投与量が、2×10〜5×1010個である、請求項6〜8のいずれかに記載の胃内菌叢改善剤。
【請求項10】
前記乳酸菌の培養物1g当たりに10個以上の乳酸菌を含める場合、前記乳酸菌の培養物のヒトに対する1日当たりの投与量が、5〜1000gである、請求項6〜9のいずれかに記載の胃内菌叢改善剤。
【請求項11】
摂取後4週間で胃内菌叢改善効果を奏する、請求項6〜10のいずれかに記載の胃内菌叢改善剤。
【請求項12】
ヘリコバクター・ピロリの陰性者及び陽性者用である、請求項6〜11のいずれかに記載の胃内菌叢改善剤。
【請求項13】
ヘリコバクター・ピロリの陰性者用である、請求項6〜12のいずれかに記載の胃内菌叢改善剤。
【請求項14】
前記胃内菌叢改善が、次世代シーケンサーにより測定される、請求項6〜13のいずれかに記載の胃内菌叢改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃内菌叢解析により、ヒト胃内の細菌の占有率を測定することで機能性消化管障害を検出する方法、及び、この検出方法により見出した胃内菌叢改善剤に関するものである。
【0002】
具体的には、ヒト胃内の細菌の占有率、特に、ヒト胃内においてバクテロイデス(Bacteroidetes)占有率がプロテオバクテリア(Proteobacteria)占有率よりも高いこと、及び/又は、ヒト胃内においてアシドバクテリア(Acidobacteria)が占有していないことが、機能性消化管障害、特に、機能性ディスペプシアの発症と関連していることを見出し、機能性消化管障害を検出する方法及び胃内菌叢改善剤を見出したことに基づく。
【背景技術】
【0003】
従来、内視鏡診断の進歩にも拘わらず、上腹部痛や不快感、食後の胃もたれ感、上腹部膨満感、悪心・嘔吐、心窩部痛、心窩部灼熱感等の上部消化器症状の訴えに対して、症状を説明できない所見の症例が多く見られる。このような消化器症状の訴えがありながら、内視鏡を含む一般検査により器質的疾患は見られず、症状を解明する所見が得られない状態をFD(機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia)、上腹部不定愁訴、食後愁訴、心窩部痛あるいは機能性胃腸症)と称している。
【0004】
日本では、2013年から保険診療名として機能性ディスペプシア(FD)が承認された。FDは、日本消化器病学会により編集された機能性消化管疾患診療ガイドライン2014(2014年4月、南江堂、非特許文献1)に従って、病名が判断される。
【0005】
また、これらFDの症状は、器質的疾患に現れないことから、その症状を見過ごされたり、誤診されたりする課題があった。即ち、このような不快感を伴いながらも明確な病名の診断がなされないまま、機能性消化管障害を持っている人のQOLが低下したり、治療が滞ったりする弊害があった。
【0006】
一方で、これらの症状を改善する方法として、セロトニンや一酸化窒素を遊離するための薬物投与を行うことが知られている。しかし、これらの薬物投与は副作用を伴うため、副作用の伴わない方法で機能性消化管障害の予防や改善を行うことが期待されていた。
副作用の伴わない方法で機能性消化管障害の予防や改善を行うために、これまで種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1及び特許文献2には、グルタミン酸、5’−ヌクレオチド等を投与することで機能性消化管障害が改善したことが記載されている(各請求項1)。
【0007】
特許文献3には、グルタミン酸とアルギニン等を有効成分として含有する機能性消化管障害予防・改善剤が記載されている。この予防・改善剤は、簡便に製造でき、低コストで安全性が高く、特に腹部痛、胃もたれ、胸やけ等の機能性胃腸症(FD)や、胃食道逆流症(GERD)などの上部消化管障害に有効であるとされている(要約)。
【0008】
また、乳酸菌を用いて機能性消化管障害の予防や改善を行う技術として、例えば、特許文献4には、ヘリコバクター・ピロリ(以下、ピロリ菌と称する場合がある。)の除菌作用を有し、発酵乳飲料中のような好気条件下でも高い生残性のあるビフィドバクテリウム・ビフィダム(以下、ビフィズス菌と称する場合がある。)についての記載があり、このビフィズス菌を含有する発酵乳飲料を摂取することで、胃不定愁訴症候群を改善したことが示されている(段落0011,0096)。
【0009】
特許文献5には、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株にピロリ菌の除菌作用があることが示され、この知見を応用した胃炎の予防又は治療に用いられる抗炎症剤、抗潰瘍剤、及び胃もたれに適した飲食品についての記載がある(段落0023,0052)
【0010】
特許文献6には、ラクトバチルス・アシドフィルス(ラクトバチルス・ガセリ)などのラクトバチルス属乳酸菌と、ストレプトコッカス・フェーカリスなどのストレプトコッカス属乳酸菌、及びアロエを含む胃腸機能亢進剤が記載されており(請求項1,2,段落0012)、胃腸機能亢進には胃もたれや腹部膨満感の改善も含まれていることが記載されている(段落0043)。
【0011】
すなわち、ビフィズス菌などの乳酸菌を含有する発酵乳飲料により、ピロリ菌を除菌して機能性消化管障害を改善する技術は、既に知られていた。また、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を用いてピロリ菌を除菌し、胃もたれを改善することも、既に提案されていた。さらに、ラクトバチルス属乳酸菌とストレプトコッカス属乳酸菌、及びアロエを含有する胃腸機能亢進剤により、胃もたれや腹部膨満感を改善することも、既に提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2006/030980号
【特許文献2】特許第5067145号公報
【特許文献3】国際公開第2009/113594号
【特許文献4】特許第4881304号公報
【特許文献5】特許第5300772号公報
【特許文献6】特開2012−126700号公報
【特許文献7】特許第4509250号公報
【特許文献8】国際公開2015/129281号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】日本消化器学会編、機能性消化管疾患診療ガイドライン2014(南江堂、2014年4月)
【発明の概要】
【0014】
機能性消化管障害、特に、機能性ディスペプシアにおいて、これらの症状が、器質的疾患に現れないことから、その症状を見過ごされたり、誤診されたりする課題があった。
【0015】
一方、本出願人は、特許文献7に記載の通り、ピロリ菌の除菌能の高い乳酸菌であるラクトバチルス・ガセリOLL2716株を有効成分とするピロリ菌の除菌及び/又は感染防御医薬剤について特許権を有している。本文献には、当該医薬剤が、抗胃炎剤又は抗潰瘍剤として用いられることが記載されている(請求項1,3)。
【0016】
また、本出願人は、特許文献8に記載の通り、ラクトバチルス・ガセリOLL2716株が機能性消化管障害の予防及び/又は改善に有効であることを見出した。
しかしながら、ラクトバチルス・ガセリOLL2716株が、機能性消化管障害予防及び/又は改善剤として、具体的にどのような機構で有効であるか否かは明らかではなかった。
【0017】
そこで、本発明は、機能性消化管障害、特に、機能性ディスペプシアの有無を検出するための新規な方法を提供することを目的とする。
【0018】
本発明者らは、鋭意研究し、胃内菌叢解析により、ヒト胃内の細菌の占有率、特に、ヒト胃内においてバクテロイデス(Bacteroidetes)占有率がプロテオバクテリア(Proteobacteria)占有率よりも高いこと、及び/又は、ヒト胃内においてアシドバクテリア(Acidobacteria)が占有していないことが、機能性消化管障害、特に、機能性ディスペプシアの発症と関連していることを見出し、本発明を完成させた。
【0019】
本発明者らの研究により、ラクトバチルス・ガセリOLL2716株は、ピロリ菌陰性者に対して、胃内のプロテオバクテリア占有率に対するバクテロイデス占有率を低減させることと、胃内のアシドバクテリアの占有率を増加させることが見出された。
また、このとき、ラクトバチルス・ガセリOLL2716株による胃内のプロテオバクテリア占有率に対するバクテロイデス占有率を低減させる効果とアシドバクテリアの占有率を増加させる効果について研究した結果、驚くべきことに、ラクトバチルス・ガセリOLL2716株がピロリ菌を除菌する効果とは関係ないことが見出された。
【0020】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
1.ヒト胃内の細菌の占有率を測定することにより、機能性消化管障害の有無を検出する方法。
2.前記ヒト胃内の細菌の占有率の測定を、ヒト胃内から採取した胃液について行う、1記載の方法。
3.ヒト胃内においてバクテロイデス(Bacteroidetes)占有率がプロテオバクテリア(Proteobacteria)占有率よりも高いこと、及び/又は、ヒト胃内においてアシドバクテリア(Acidobacteria)が占有していないことを測定する、1又は2に記載の方法
4.前記機能性消化管障害が機能性ディスペプシアである、1〜3のいずれかに記載の方法。
5.前記細菌の占有率の測定を、次世代シーケンサーを用いて行う、1〜4のいずれかに記載の方法。
6.乳酸菌を有効成分として含有する胃内菌叢改善剤であって、胃内のプロテオバクテリア(Proteobacteria)占有率に対するバクテロイデス(Bacteroidetes)占有率を低減させること、及び/又は、胃内のアシドバクテリア(Acidobacteria)の占有率を増加させることを特徴とする、前記胃内菌叢改善剤。
7.前記乳酸菌が、ラクトバチルス属乳酸菌である、6に記載の胃内菌叢改善剤。
8.前記乳酸菌が、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)OLL2716(FERM BP−6999)である、6又は7に記載の胃内菌叢改善剤。
9.前記乳酸菌の菌数のヒトに対する1日当たりの投与量が、2×10〜5×1010個である、6〜8のいずれかに記載の胃内菌叢改善剤。
10.前記乳酸菌の培養物1g当たりに10個以上の乳酸菌を含める場合、前記乳酸菌の培養物のヒトに対する1日当たりの投与量が、5〜1000gである、6〜9のいずれかに記載の胃内菌叢改善剤。
11.摂取後4週間で胃内菌叢改善効果を奏する、6〜10のいずれかに記載の胃内菌叢改善剤。
12.ヘリコバクター・ピロリの陰性者及び陽性者用である、6〜11のいずれかに記載の胃内菌叢改善剤。
13.ヘリコバクター・ピロリの陰性者用である、6〜12のいずれかに記載の胃内菌叢改善剤。
14.前記胃内菌叢改善が、次世代シーケンサーにより測定される、6〜13のいずれかに記載の胃内菌叢改善剤。
【0021】
本発明によれば、機能性消化管障害、特に、機能性ディスペプシアの有無を検出するための新規な方法を提供することができる。
【0022】
本発明の実施形態に係る胃内菌叢解析によるヒト胃内の細菌の占有率測定方法は、次世代シークエンサーによることが好ましい。次世代シークエンサーによる胃内菌叢解析は、実施例に記載した方法により実施することができる。その他、PCR法、培養法など、胃内菌叢を同定及び定量できるいかなる方法であってもよい。
【0023】
本発明において、胃内の細菌の占有率とは、胃内の総細菌数に占める特定の細菌の割合をいう。
【0024】
本発明の実施形態に係る胃内菌叢改善剤は、ヘリコバクター・ピロリの陽性者及び陰性者用であり、乳酸菌を有効成分として含有する構成となっている。
乳酸菌としては、ラクトバチルス属乳酸菌を用いることが好ましく、ラクトバチルス属乳酸菌として、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)OLL2716(FERM BP−6999)を用いることがより好ましい。
さらに、本発明の実施形態に係る胃内菌叢改善剤は、ピロリ菌の陰性者用とすることが好ましい。
【0025】
さらに、本発明の実施形態に係る胃内菌叢改善剤については、前記乳酸菌の菌数のヒトに対する1日当たりの投与量を、2×10〜5×1010個とすることが好ましく、前記乳酸菌の培養物1g当たりに10個以上の乳酸菌を含める場合、前記乳酸菌の培養物のヒトに対する1日当たりの投与量を、5〜1000gとすることが好ましい。
また、本発明の実施形態に係る胃内菌叢改善剤は速効性を有し、その速効性は、摂取後4週間で機能性消化管障害改善効果を奏するものとなっている。
【0026】
さらに、本発明の実施形態に係る胃内菌叢改善剤は、具体的には、胃内のプロテオバクテリア占有率に対するバクテロイデス占有率の低減剤、又は胃内のアシドバクテリア占有率の増加剤である。
また、これら本発明の実施形態に係る胃内菌叢改善剤を、飲食品、健康補助食品、保健機能食品、サプリメント等の機能性食品として供される構成とすることも好ましい。
【0027】
本発明によれば、胃内菌叢解析により、さらに、本発明によれば、ヒト胃内においてバクテロイデス占有率がプロテオバクテリア占有率よりも高いこと、及び/又は、ヒト胃内においてアシドバクテリアが占有していないことを測定することにより、機能性消化管障害、特に、機能性ディスペプシアの有無を検出できる。
【0028】
また、本発明の胃内菌叢改善剤によれば、ピロリ菌の陽性者及び陰性者用の両方に対して、ヒト胃内においてプロテオバクテリア占有率に対するバクテロイデス占有率を低減させる効果、及び/又は、ヒト胃内においてアシドバクテリアの占有率を増加させる効果を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る機能性消化管障害の有無を検出する方法は、ヒト胃内の細菌の占有率を測定することを特徴とし、具体的には、バクテロイデス占有率がプロテオバクテリア占有率よりも高いこと、及び/又は、アシドバクテリアが占有していないことを測定することを特徴とする。
【0030】
本発明の実施形態における機能性消化管障害とは、消化性潰瘍やガン症状のような器質的疾患が認められず、消化感、胃もたれ感、腹部膨満感、悪心・嘔吐、上腹部痛、食欲不振あるいは便通異常等の上腹部不定愁訴の続く病態を言い、消化管の器質的疾患が見られなくても、患者のQOLを低下させる再現性のある消化器症状が認められる症状をいう。このような機能性消化管障害は、これまで慢性胃炎や胃炎として診断されてきた疾患であり、腹部痛、胃もたれ、胸やけ等の症状を呈することを特徴とする。また、このような機能性消化管障害は、消化管の器質的疾患が見られないため、その原因として、ストレスなどによる神経系の異常伝達、内視鏡などでは検出できない程度の微小な炎症の存在、消化管の運動機能の低下などの諸説があるが、明確にはなっていない。
【0031】
なお、消化管とは、口腔から肛門までの一連の消化に携わる管腔臓器をいい、例えば、咽頭、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸が挙げられる。
【0032】
また、本発明の実施形態における、機能性消化管障害の有無を検出するとは、機能性消化管障害が有る状態か又は機能性消化管障害が無い状態かを検出することをいう。
【0033】
本発明の実施形態における機能性ディスペプシアとは、胃の痛みや胃もたれなどのさまざまな症状が慢性的に続いているにもかかわらず、内視鏡検査などを行っても、胃潰瘍・十二指腸潰瘍や胃がんなどのような器質的な異常がみつからない疾患で、主な症状として、「つらいと感じる食後のもたれ感」「食事開始後すぐに食べ物で胃が一杯になるように感じて、それ以上食べられなくなる感じ(早期飽満感)」「みぞおちの痛み(心窩部痛)」「みぞおちの焼ける感じ(心窩部灼熱感)」があげられる。
【0034】
本発明の実施形態における細菌とは、門(Phylum)、綱(Class)、目(Order)、科(Family)、属(Genus)、菌種(Species)に学術的に系統分類される。
【0035】
本発明の実施形態における細菌の門(Phylum)には、一例として、フィルミクテス門(Firmicutes)、バクテロイデス門(Bacteroidetes)、プロテオバクテリア門(Proteobacteria)、フソバクテリア門(Fusobacteria)、アシドバクテリア門(Acidobacteria)があげられる。
【0036】
本発明の実施形態における胃内の総細菌数及び胃内の細菌の占有率は、16SリボゾームRNA(16SrRNA)遺伝子のPCR増幅産物及び次世代シークエンシングにより測定する。16SリボゾームRNA(16SrRNA)遺伝子のPCR増幅は、菌叢の16SrRNA遺伝子の塩基配列のデータ群が、被験者の胃内の菌叢の菌叢構造を反映するようにするためには、被験者から採取した検体から細菌のゲノムDNAを効率的に抽出することも重要であるが、それは当業者に周知の手法により適宜実施し得る。具体的には、菌叢に含まれる細菌のゲノムDNAを、菌種によって抽出の効率にバラツキがないように抽出し、塩基配列決定のためのサンプルとする。そのような手法は、後述の実施例でも用いたように、従来周知の手法が種々知られているので、それらを利用し又はそれらに準じて行なうことができる。
【0037】
本発明の実施形態における胃内の総細菌数及び胃内の細菌の占有率は、16SリボゾームRNA(16SrRNA)遺伝子のPCR増幅産物及び次世代シークエンシングにより測定する。次世代シークエンシングは、次世代シークエンサーを用いて、後述の実施例でも用いたように、従来周知の手法が種々知られているので、それらを利用し又はそれらに準じて行なうことができる。次世代シークエンシングは、T−RFLP法が電気泳動でのピークが重なることにより細菌の正確な同定や定量が難しいのに比較して、細菌の正確な同定と定量が可能である。次世代シークエンシングは、次世代シークエンサーにより全ての16SrRNAをゲノム解析することで、胃内の細菌の総細菌数を測定できる。
【0038】
本発明の実施形態において、バクテロイデス占有率がプロテオバクテリア占有率よりも「高い」とは、「バクテロイデス占有率」を「プロテオバクテリア占有率」で割った商が、1を超えることを意味する。「バクテロイデス占有率」を「プロテオバクテリア占有率」で割った商は、例えば、1.01以上、好ましくは、1.1以上、より好ましくは1.3以上、さらに好ましくは1.6以上である。
【0039】
本発明の実施形態において、アシドバクテリアが「占有していない」とは、アシドバクテリアの占有率が0.1%未満又は検出限界以下であることを意味する。
【0040】
本発明の実施形態に係る胃内菌叢改善剤は、ピロリ菌の陽性者及び陰性者用であり、乳酸菌を有効成分として含有することを特徴とする。
【0041】
本発明の実施形態によって、一般的に食習慣があり、副作用の殆どない乳酸菌を有効成分とする胃内菌叢改善を提供することが可能となる。例えば、本発明の実施形態によれば、ピロリ菌の陰性者に対しても、胃内菌叢改善剤を提供することができる。
【0042】
乳酸菌は、ヨーグルト、チーズ、バター、漬物などの発酵食品に使用されているのが一般的であり、慣れ親しんだ風味を有しているものもあり、摂取しやすい。
本発明の実施形態における乳酸菌は、糖類を資化して乳酸を生成するものであれば、その属や種や由来などは任意である。中でも、ラクトバチルス属の乳酸菌、特にラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)が好ましく、ラクトバチルス・ガセリOLL 2716(FERM BP−6999)を好適に用いることができる。
【0043】
また、本発明の実施形態では、ヒトに対して1日あたり、その有効量(摂取量)として、胃内菌叢改善剤に有効成分の乳酸菌の菌数を、好ましくは2×10〜5×1010個、より好ましくは5×10〜5×1010個、さらに好ましくは1×10〜5×1010個、さらにより好ましくは5×10〜5×1010個、一層好ましくは5×10〜2×1010個で摂取されるように含有させることが望ましい。
【0044】
胃内菌叢改善剤に乳酸菌の菌数を2×10よりも少なく摂取されるように含有させると、ヒトの機能性消化管障害の予防及び/又は改善効果が得られ難くなり、胃内菌叢改善剤に乳酸菌の菌数を5×1010個よりも多く摂取されるように含有させても、その効果に大きな変化が見られないためである。
【0045】
また、本発明の実施形態では、ヒトに対して1日あたり、その有効量(摂取量)として、乳酸菌の培養物1g当たりに10個以上の乳酸菌を含める場合、胃内菌叢改善剤に乳酸菌の培養物を、好ましくは5〜1000g、より好ましくは10〜1000g、さらに好ましくは50〜500g、さらにより好ましくは70〜300g、一層好ましくは70〜250g、特に好ましくは80〜200gで摂取されるように含有させることが望ましい。ここで、本発明の実施形態において、ヒトに対して1日あたり、その有効量(摂取量)を1回で摂取してもよく、2回以上の複数回で摂取してもよい。
乳酸菌の培養物1g当たりに含める乳酸菌の菌数は10個以上であればよく、10や10個、10個等であってもよい。乳酸菌の培養物1g当たりに含める乳酸菌の菌数を増加させれば、胃管内菌叢改善剤に有効量の乳酸菌の菌数を含めつつ、乳酸菌の培養物の有効量を低減させることができ、乳酸菌の培養物をより少量摂取することで、同等のヒトの胃内菌叢改善効果を得ることが可能となる。
【0046】
本発明の実施形態における乳酸菌の培養物は、公知の培地成分で乳酸菌を培養(増殖)させて得ることができる。また、得られた乳酸菌の培養液を遠心分離することなどにより、培養液の単位重量あたりの乳酸菌の数を高めることができる。本発明の実施形態における乳酸菌は、培養(増殖)させたばかりの状態でもよく、凍結保護剤などと混合して凍結させた状態でもよく、凍結乾燥させた状態でもよい。また、本発明の実施形態における乳酸菌は、生菌でも死菌であってもよく、好ましくは生菌である。
【0047】
また、本発明の実施形態における乳酸菌が含有されている市販商品を便宜的に使用してもよい。例えば、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)OLL 2716(FERM BP−6999)の場合、株式会社明治が販売している「明治プロビオヨーグルトLG21」を便宜的に用いることができる。当該市販品は、そのまま摂取してもよく、さらに加工してもよい。本発明の実施形態における乳酸菌と、その他の摂取可能な成分を一緒に摂取する場合、その他の摂取可能な成分に制限はないが、例えば乳性成分が好適に用いられる。乳性成分とは、乳そのもの又は乳を加工した乳成分を含む組成物を意味し、例えば、生乳(牛乳など)、還元乳(粉乳、クリーム、バター)、発酵乳(ヨーグルト、チーズ)、乳調製品(ホエイ、カゼイン、乳糖、乳清ミネラル、パーミエイト)などの乳成分を含んでいる全ての成分を含み、その由来や形態は特に限定されない。
【0048】
また、本発明の実施形態に係る胃内菌叢改善剤は、速効性を有し、特に4週間で胃内菌叢改善効果を奏することを特徴とする。もちろん、これは、本発明の実施形態に係る胃内菌叢改善剤を、4週間より長く継続して摂取することを制限しているわけではなく、4週間以上継続して摂取することが好ましく、8週間以上継続して摂取することがより好ましく、12週間以上継続して摂取することがさらに好ましく、16週間以上継続して摂取することがさらにより好ましく、20週間以上継続して摂取することが一層好ましい。
【0049】
さらに、本発明の実施形態に係る胃管内菌叢改善剤は、その摂取方法及び摂取頻度に特段の制限はない。後述する実施例では、一例として胃内菌叢改善剤を毎日摂取しており、また上記実施形態において1日あたりの乳酸菌の好ましい菌数を示しているが、必ず毎日摂取しなければ本発明の実施形態による胃内菌叢改善効果が認められないわけではない。その効果が認められる限り、摂取頻度を、例えば2日に1回、3日に1回、4日に1回、5日に1回、7日(1週間)に1回、10日に1回、1月に1回等、適宜調整することができる。
【0050】
本発明の実施形態に係る胃内菌叢改善剤は、1食当たりの単位包装形態からなるものとすることができ、該単位包装あたりに有効な乳酸菌の個数を含めた形態とすることもできる。
【0051】
例えば、該単位包装あたりに有効成分である乳酸菌を、2×10〜5×1010個で摂取されるように含有させることが好ましく、5×10〜5×1010個で摂取されるように含有させることがより好ましく、1×10〜5×1010個で摂取されるように含有させることがさらに好ましく、5×10〜5×1010個で摂取されるように含有させることがさらにより好ましく、5×10〜2×1010個で摂取されるように含有させることが一層好ましい。
【0052】
また、例えば、乳酸菌の培養物1g当たりに10個以上の乳酸菌を含める場合、単位包装あたりに有効成分である乳酸菌の培養物を5〜1000gで摂取されるように含有させることが好ましく、10〜1000gで摂取されるように含有させることがよりに好ましく、50〜500gで摂取されるように含有させることがさらに好ましく、70〜300gで摂取されるように含有させることがさらにより好ましく、70〜250gで摂取されるように含有させることが一層好ましく、80〜200gで摂取されるように含有させることが特に好ましい。
【0053】
本発明の実施形態に係る胃内菌叢改善剤は、単位包装あたりで包装する場合に、公知の包装を使用することができる。例えば、紙、プラスチック、ガラス、ナイロン、ステンレス、アルミニウム、鉄、銅、銀、竹、など特に制限はない。ただし、乳酸菌は通性嫌気性菌であることも鑑み、空気や酸素に触れない形態とすることが好ましい。例えば、本発明の実施形態に係る胃内菌叢改善剤の製造工程や包装工程において、酸素に触れる可能性を除去する工程を設けることが好ましく、また包装後の保存において包装内部に酸素が透過しない包装材を選択することが好ましい。
【0054】
本発明の実施形態では、胃内菌叢改善剤を摂取する方法は特に限定されず、経口、経管、経腸、血管注射、塗薬、座薬等の公知の摂取する形態の全部が適用でき、特に経口摂取を好適に用いることができる。
【0055】
本発明の実施形態において、胃内菌叢改善剤を摂取するときの胃内菌叢改善剤の温度を、−30〜50℃とすることが好ましく、−20〜45℃とすることがより好ましく、0〜45℃とすることがさらに好ましく、0〜30℃とすることがさらにより好ましく、0〜20℃とすることが一層好ましく、0〜10℃とすることが特に好ましい。
本発明の実施形態では、胃内菌叢改善剤に乳酸菌以外の成分として、その他の摂取可能な成分、各種の添加物、飲食品、医薬品の原材料等を含有させてもよい。
【0056】
また、本発明の実施形態に係る胃内菌叢改善剤を、飲食品、健康補助食品、保健機能食品、サプリメント等の機能性食品として供される構成とすることも好ましい。ここで、機能性食品とは、食品の機能のうちの第三次機能である体調調節機能を有する食品である。
そして、健康補助食品とは、財団法人 日本健康・栄養食品協会(JHFA)が認定した健康食品であり、保健機能食品とは、消費者庁の所管の特定保健用食品及び栄養機能食品である。そして、飲食品は、機能性食品に該当しない飲食品も含む。
さらに、本発明の実施形態に係る胃管内菌叢改善剤を、飽きることなく継続して摂取できるようにするために、飲料、ヨーグルト、チーズ、デザートなどにすると共に、その風味及び/又は物性をその形態に適したものに加工することなども可能である。
【0057】
本発明の実施形態における、胃内のプロテオバクテリア占有率に対するバクテロイデス占有率を低減させるとは、「バクテロイデス占有率」を「プロテオバクテリア占有率」で割った商(バクテロイデス占有率/プロテオバクテリア占有率)を低減させることである。「バクテロイデス占有率」を「プロテオバクテリア占有率」で割った商が1以上の場合に、この商を好ましくは、0.1以上低減すること、より好ましくは0.5以上低減すること、さらに好ましくは1以上低減することが好ましく、最も好ましくは、「バクテロイデス占有率」を「プロテオバクテリア占有率」で割った商が1以下になるまで低減することが好ましい。
【0058】
本発明の実施形態において、アシドバクテリアの占有率を、好ましくは、0.1%以上、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1%以上増加することが好ましい。また、占有率を増やす上限に制限はないが、例えば、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下、さらに好ましくは40%以下で増加することが好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施形態の効果を確認するために実施した試験について詳細に説明するが、本発明は、以下の構成に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
機能性ディスペプシア患者と健常者の胃液を採取し、次世代シーケンサーにより菌叢を解析した。
具体的には、器質的疾患がなく、機能性消化管障害を有する、ピロリ菌陰性の患者24名(機能性ディスペプシア患者群、FD群)を対象とした。また、コントロールとして、器質的疾患がなく、ピロリ菌陰性の健常者21名(健康対象群、HC群)を対象とした。
次世代シーケンサーによる解析方法は、下記の通りである。
【0061】
16SrRNA遺伝子のPCR増幅産物及び次世代シークエンシング
各被験者の胃から胃液を採取し、胃液から細菌のDNAを、DNA抽出キット「Ultra Clean Soil DNA Isolation Kit」(Mo Bio Laboratories、Carlsbad,CA,USA)を用い、本キットの説明書に従って抽出した。16SrRNAの高度可変領域V3−V4を、341fプライマー及びR806プライマーを用いたPCRにより増幅させた。PCRは、Takahashiらにより報告された方法(Takahashi S,et al.,“Development of a prokaryotic universal primer for simultaneous analysis of Bacteria and Archaea using next-generation sequencing.”,PLoS ONE(9)8(2014):e105592.)に従って実施した。具体的には、DNA遺伝子10ngにMightyAmp for Real Time(SYBR Plus)(Takara,Kyoto,Japan)ならびに各プライマー0.25μMを加えた反応混合物25μLをPCRに供した。PCRは、最初の変性を98℃で2分間行ってから、65℃で開始し55℃で終了する15秒間のアニーリングを35サイクル行い、68℃で30秒間伸張反応を行った。アニーリング温度は、保持サイクルとして設定した55℃に達するまで1サイクル毎に1℃ずつ低下させた。MultiScreen PCR μ96 Filter Plate(Merck Millipoa,USA)によりPCR産物を精製した。
【0062】
シークエンシングは、Illumina Miseq sequencing system(Illumina,San Diego,CA,USA)及び Miseq Reagent Kit version3 chemistryを使用し、2×300塩基の運転サイクルでペアエンド(paired-end)により行った。シークエンシングの品質フィルタリングの方法は、シークエンスの99%以上が、quality value score 20以上を満たすリードのみを抽出して次の分析に用いた。
【0063】
16SrDNAに基づくOTU(操作的分類単位) 分析
品質フィルターをパスしたリードから、サンプルあたり約30,000の高品質リードを任意に選択し、それからMetagenome@KIN analysis software(World Fusion,Tokyo,Japan)及びTechnoSuruga Laboratory Microbial Identification Database DB-BA 9.0(TechnoSuruga Laboratory,Shizuoka-city,Japan)を使用して、Hisadaらの方法(Hisada T,et al.,“Inter- and intra-individual variations in seasonal and daily stabilities of the human gut microbiota in Japanese.”,Arch Microbiol,197,p.919-34(2015))に従ってsequence identity閾値を97%としてOTUに分類した。
菌組成の分析は、総胃液細菌の0.1%を超える属に絞ったが、本実施例ではおよそ85%に達した。階層クラスター解析は、GeneMaths software(Applied Maths,Brussels,Belgium)を用いて、非加重結合法(UPGMA)に基づいて実施し、サンプル毎の全体の菌叢構造及び属に同定される頻度を分析した。
【0064】
その結果、FD群及びHC群について、胃液中の主な細菌の占有率(細菌の構成割合、%)の平均は表1の通りであった。
【0065】
【表1】
【0066】
FD群で、プロテオバクテリア占有率よりもバクテロイデス占有率が高い人数は19名、プロテオバクテリア占有率よりもバクテロイデス占有率が低い人数は5名であった。また、HC群で、プロテオバクテリア占有率よりもバクテロイデス占有率が高い人数は2名、プロテオバクテリア占有率よりもバクテロイデス占有率が低い人数は19名であった。FD群とHC群を比較したところ統計的な有意差が認められた。この際のp値は、pが0.01より小さかった(p<0.01)。
【0067】
さらに、被験者の胃液中細菌の占有率(%)について、プロテオバクテリア占有率よりもバクテロイデス占有率が高いこととFDの関連を検討したところ、感度は79.2%、特異度は90.4%であった。つまり、プロテオバクテリア占有率よりもバクテロイデス占有率が高いこととFDの関連が示された。
【0068】
また、HC群と比較してFD群の胃液中のアシドバクテリアの占有率が極めて低い(占有していない)という結果が得られた。FD群で、アシドバクテリアが検出された人数は1名、アシドバクテリアが検出限界以下だった人数は23名であった。HC群で、アシドバクテリアが検出された人数は16名、アシドバクテリアが検出限界以下だった人数は5名であった。FD群とHC群を比較したところ統計的な有意差が認められた。この際のp値は、pが0.01よりも小さかった(p<0.01)。
【0069】
被験者の胃液中にアシドバクテリアが検出されないことと、FDの関連を検討したところ、感度は95.8%、特異度は76.2%であった。つまり、アシドバクテリアが検出されないこととFDの関連が示された。
【0070】
(実施例2)
ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)OLL2716(FERM BP−6999)を有効成分として含有する固形状の胃内菌叢改善剤を、以下の方法で調製した。原料乳、脱脂粉乳、及び水を用いて、乳脂肪分3.0重量%、無脂乳固形分9.2重量%となるように適宜調製し、得られた混合物を通常の方法により均質化して、殺菌、冷却処理を行った。その後、株式会社明治「明治プロビオヨーグルトLG21」から分離したラクトバチルス・ブルガリカスとストレプトコッカス・サーモフィラスとラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)OLL2716(FERM BP−6999)を接種して、通常の方法で培養し、得られた培養物を胃内菌叢改善剤として試験に用いた。なお、この胃内菌叢改善剤は、便宜的に有効成分を含む乳酸菌をそのまま摂取するものとしてある。
この胃内菌叢改善剤において、1g当たりのラクトバチルス・ガセリOLL2716(FERM BP−6999)乳酸菌の菌数は、およそ10個であった。
【0071】
(試験方法)
胃内菌叢改善剤(以下、これを試験試料と称する場合がある。)を使用し、介入試験を実施した。
具体的には、器質的疾患がないピロリ菌陰性の機能性消化管障害を有する患者24名(機能性ディスペプシア患者群、FD群)を対象とした。また、コントロールとして、器質的疾患がなく、ピロリ菌陰性の健常者21名(健康対象群、HC群)を対象とした。
そして、FD群の24名には胃内菌叢改善剤をそれぞれ1日118gずつ12週間連続で摂取させた。
さらに、FD群の24名の胃液を、胃内菌叢改善剤の摂取前、および12週間連続で摂取させた後に、ナソ−ガストリックチューブ(naso-gastric tube)を通じて、一晩経過した状態で胃から直接に摂取した。同様に、HC群の21名の胃液も、ナソ−ガストリックチューブ(naso-gastric tube)を通じて、一晩経過した状態で胃から直接に摂取した。
【0072】
胃液内菌叢の特定は、次世代シーケンサーにより解析した。次世代シーケンサーによる解析方法は、実施例1と同様である。
【0073】
その結果、FD群における胃液中のプロテオバクテリア占有率に対するバクテロイデス占有率(バクテロイデス占有率/プロテオバクテリア占有率)は、試験試料(ラクトバチルス・ガセリOLL 2716(FERM BP−6999)乳酸菌入りのヨーグルト)を12週間投与後において、24名中18名が低減した。また、FD群における胃液中のバクテロイデス占有率をプロテオバクテリア占有率で割った商(バクテロイデス占有率/プロテオバクテリア)が1を超えた患者は、試験試料を12週間投与前において18名であったが、試験試料を12週間投与後には9名に減少した。
【0074】
以上より、機能性消化管障害を有する患者に対し、試験試料を12週間継続的に摂取することで、プロテオバクテリア占有率に対する胃内のバクテロイデス占有率が低減し、すなわち、バクテロイデス占有率をプロテオバクテリア占有率で割った商(バクテロイデス占有率/プロテオバクテリア)が低減し、機能性消化管障害を改善できることが明らかとなった。
【0075】
また、FD群で、試験試料を12週間投与前において、アシドバクテリアが検出された人数は1名、アシドバクテリアが検出限界以下だった人数は23名であった。FD群で、試験試料を12週間投与後において、FD群の全員である24名からアシドバクテリアが占有率0.1%以上で検出された。
【0076】
以上より、機能性消化管障害を有する患者に対し、試験試料を12週間継続的に摂取することで、胃内のアシドバクテリアの占有率が上昇し、機能性消化管障害を改善できることが明らかとなった。
【国際調査報告】