特表-18155034IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2018年8月30日
【発行日】2019年12月19日
(54)【発明の名称】酸化物半導体及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C01G 33/00 20060101AFI20191122BHJP
   C01G 41/00 20060101ALI20191122BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20191122BHJP
【FI】
   C01G33/00 Z
   C01G41/00 A
   H01L29/78 618B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】16
【出願番号】特願2019-501124(P2019-501124)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2018年1月22日
(31)【優先権主張番号】特願2017-32113(P2017-32113)
(32)【優先日】2017年2月23日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 直人
(72)【発明者】
【氏名】相浦 義弘
(72)【発明者】
【氏名】三溝 朱音
(72)【発明者】
【氏名】池田 紳太郎
【テーマコード(参考)】
4G048
5F110
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC04
4G048AD03
4G048AD07
4G048AE05
5F110GG01
(57)【要約】
酸化物半導体においてp型半導体を実現可能にし、透明性、移動度、耐候性等の優れた酸化物半導体及び該酸化物半導体を備える半導体装置を提供する。フォーダイト構造を含む結晶構造を有し、Nb元素とSn元素を含む複合酸化物で構成され、前記複合酸化物中の全Sn量に対するSn4+の割合であるSn4+/(Sn2++Sn4+)が0.006≦Sn4+/(Sn2++Sn4+)≦0.013であることにより、正孔が荷電担体となる酸化物半導体を実現する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォーダイト構造を含む結晶構造を有し、Nb元素とSn元素を含む複合酸化物で構成され、前記複合酸化物中の全Sn量に対するSn4+の割合であるSn4+/(Sn2++Sn4+)が0.006≦Sn4+/(Sn2++Sn4+)≦0.013であり、正孔が荷電担体となることを特徴とする酸化物半導体。
【請求項2】
前記複合酸化物は、一般的な化学式でAB26(AはSn、BはNb)と表される酸化物であることを特徴とする請求項1記載の酸化物半導体。
【請求項3】
添加元素として、W、Zr、V、Mn、Ti、Ga、Hf及びMoからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素が添加されていることを特徴とする請求項1又は2記載の酸化物半導体。
【請求項4】
前記添加元素は、添加元素の合計で、0.001原子%以上かつ10原子%以下であることを特徴とする請求項3記載の酸化物半導体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載された酸化物半導体を備えることを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Snを含む複合酸化物により構成される酸化物半導体及び半導体装置に係り、特にp型半導体特性を実現可能とする酸化物半導体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化物複合体として、可視光領域で高い透明性をもち、かつ高い電気伝導性を示す透明半導体材料が知られ、透明電極等に広く用いられている。例えば、透明半導体には、In23、ZnO、SnO2、及びこれらの母体材料に不純物を添加したSn添加In23、Al添加ZnO、Ga添加ZnO、Sb添加SnO2、F添加SnO2などが知られているが、これらは全て電子が荷電担体となるn型半導体である。一方、半導体には正孔を荷電担体とするp型半導体がある。可視光領域で透明なn型とp型の半導体がそろえば、pn接合を形成することによって、可視光領域で透明なダイオードやトランジスタ、太陽電池などを作ることが可能となる。
【0003】
すでにCu2OやNiOなどがp型半導体として知られているが、可視光領域に光吸収があり、強い着色を持っているため、透明ではない。1990年以降、透明p型半導体の研究開発がすすめられ、いくつかの新しい透明p型半導体が報告された。例えばデラフォサイト構造をもつABO2(A=CuまたはAgの少なくとも1種類、B=Al、Ga、In、Sc、Y、Cr、RhまたはLaの少なくとも1種類)の化学式で表される酸化物複合体、LnCuOCh(Ln=ランタノイド元素またはYの少なくとも1種類、Ch=S、Se、またはTeの少なくとも一種類)の化学式で表されるオキシカルコゲナイド化合物、ZnOの化学式で表される酸化亜鉛などである。しかし、デラフォサイト構造をもつ化合物は正孔の移動度が低い。また、オキシカルコゲナイド化合物は、移動度や正孔濃度はかなり高いが、大気雰囲気中で酸化してしまい、特性劣化が著しい。また、酸化亜鉛は、もともと電子を荷電担体とするn型半導体であるため、電子を生成する構造欠陥濃度を極限まで少なくし、かつ窒素などのp型半導体特性を発現する構造欠陥を導入する必要がある。そのため、p型の構造欠陥導入にともなうn型構造欠陥生成やn型構造欠陥濃度の低減の困難さなどから、p型半導体特性を有する酸化亜鉛の作製が難しく再現性に乏しい。よって、電子デバイスに適した透明p型半導体は実現が困難である。
【0004】
酸化物半導体は、酸素を含む大気中で酸化反応に強い半導体材料として期待されている。ところが、酸化物でp型伝導性を実現することは難しい。これは酸化物では価電子帯上端部の電子が酸素イオン上に局在するためである。デラフォサイト化合物では価電子帯上端部に金属のd軌道成分を導入し、オキシカルコゲナイド化合物では価電子帯上端部にカルコゲン元素のp軌道成分を導入して、価電子帯上端部の電子の局在性を低下させている。また、価電子帯の上端部にd軌道やp軌道よりも大きな電子軌道半径をもつ金属元素のs軌道を導入すれば、価電子帯上端部の電子の局在性を低下させ、高い移動度が期待できる。加えてs軌道の等方的な球状構造は結合角や結合距離のばらつきを引き起こす結晶構造の乱れに対する移動度の低下を抑制できることが期待される。この考え方に基づいて価電子帯上端部にスズのs軌道成分を導入した酸化スズ(SnO)においてp−チャンネルトランジスタの作製が報告されている(例えば特許文献1参照)。また、SnOのバンドギャップは0.7eVと可視光領域よりも小さいエネルギーのため可視光領域に強い着色があり、可視光領域での透明性は確保できないことが知られている。
【0005】
フォーダイト酸化物に関連して、次のような公知文献がある。
【0006】
フォーダイト(foordite)は一般式SnNb26で表され、格子定数a=1.7093nm、b=0.4877nm、c=0.5558nm、β=90.85°、空間群C2/cの単斜晶系に属する結晶構造を有する(非特許文献1参照)。なお、フォーダイトの名前はアメリカの鉱物学者Eugene E. Foordの名前から採られたものである。
【0007】
図4は、フォーダイト構造を示す酸化物複合体SnNb26の結晶構造を示す図である。図はc軸方向に単位格子が3つ連なった場合を表している。Nbは酸素で囲まれたNb26八面体を形成し、その八面体がSnを介してa軸方向に層状につながっている。
【0008】
組成式SnNb26で表されるフォーダイト構造を有する金属酸化物は、価電子帯上端部がSnの5s成分から構成されることが報告されている(非特許文献2参照)。
【0009】
天然鉱物のフォーダイト中には全Sn量(Sn2++Sn4+)に対して3%未満のSn4+が含まれているとの報告がある(非特許文献3参照)。しかしこの報告では、天然鉱物であるため一般的な化学式でAB26と表された場合、A=Sn+Pb、B=Nb+Taとなっている。また組成分析でFe、Mn、Ca、Naなどの不純物成分も含んでいることが報告されている(非特許文献3参照)。
【0010】
SnOとNb25の固相反応で合成したSnNb26はフォーダイト構造を示しており、119Snメスバウアー分光測定でSn4+量がゼロであると報告されている(非特許文献4参照)。この報告では天然鉱物ではないため非特許文献3に示された不純物は含まれていない。
【0011】
フォーダイト構造をもつSnNb26、またはSrでSnを一部置換したSn0.95Sr0.05Nb26について、Irを担持した化合物において、光の照射によって水が分解され酸素が生成する光触媒としての報告がある(特許文献2参照)。またPtを担持したSnNb26において光の照射によって水が分解され水素が生成する光触媒としての報告がある(非特許文献2参照)。
【0012】
パイロクロア構造を有する、Sn2+とNb5+を含むSn2Nb27では、Sn2-p(B2-qSnq)O7-p-0.5qと表されるような構造欠陥をもつことが報告されている(非特許文献5)参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開2010/010802号
【特許文献2】特開2006−88019号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】T.S.Ercit, P. Cerny, The Canadian Mineralogist 26, 899-903 (1988)
【非特許文献2】Y.Hosogi, Y. Shimodaira, H. Kato, H. Kobayashi, A. Kudo, Chemistry of Materials20, 1299 (2008)
【非特許文献3】P. Cerny,A-M. Fransolet, T. S. Ercit, R. Chapman, The Canadian Mineralogist 26, 889(1988)
【非特許文献4】L.P.Cruz, J.-M. Savariult, J. Rocha, J.-C. Jumas, J. D. Pedrosa, Journal of SolidState Chemistry 156, 349 (2001)
【非特許文献5】M. A.Subramanian, G. Aravamudan, G. V. Subba Rao, Progress in Solid State Chemistry15, 55 (1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来、酸素を含む大気中で酸化反応に強い酸化物半導体において、電子デバイスに適した透明p型半導体は実現が困難であった。特に、可視光領域で透明なn型とp型の半導体が揃えばpn接合が作成でき、透明な半導体装置が期待されるが、実現が困難であった。
【0016】
本発明は、これらの問題を解決しようとするものであり、本発明は、可視光領域で光吸収が少なく、かつ高い荷電担体の移動度が実現できる新規な酸化物半導体及び該酸化物半導体を備えた半導体装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、p型の半導体特性を示す酸化物半導体及び該酸化物半導体を備えた半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、前記目的を達成するために、以下の特徴を有するものである。
【0018】
(1) フォーダイト構造を含む結晶構造を有し、Nb元素とSn元素を含む複合酸化物で構成され、前記複合酸化物中の全Sn量に対するSn4+の割合であるSn4+/(Sn2++Sn4+)が0.006≦Sn4+/(Sn2++Sn4+)≦0.013であり、正孔が荷電担体となることを特徴とする酸化物半導体。
(2) 前記複合酸化物は、一般的な化学式でAB26(AはSn、BはNb)と表される酸化物であることを特徴とする(1)記載の酸化物半導体。
(3) 添加元素として、W、Zr、V、Mn、Ti、Ga、Hf及びMoからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素が添加されていることを特徴とする(1)又は(2)記載の酸化物半導体。
(4) 前記添加元素は、添加元素の合計で、0.001原子%以上かつ10原子%以下であることを特徴とする(3)記載の酸化物半導体。
(5) (1)乃至(4)のいずれか1項に記載された酸化物半導体を備えることを特徴とする半導体装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、酸化物半導体において、ワイドギャップを有する透明でかつ高移動度の半導体を実現できた。また、本発明の酸化物半導体により、p型の酸化物半導体を実現できた。本発明によれば、物質中の全Sn量に対するSn4+の割合Sn4+/(Sn2++Sn4+)が0.006≦Sn4+/(Sn2++Sn4+)≦0.013のときに、Sn4+がフォーダイト構造を有する構造式SnNb26のNbサイトの一部を置換した構造欠陥Sn’Nbの生成により、p型を実現できる。
【0020】
本発明の酸化物半導体では、価電子帯上端部がSnの5s成分から構成される。このことにより、s軌道は軌道半径が大きく等方的な球状であるため、電子の局在性を低下させ、高い移動度が構造乱れに対しても実現できるという効果を奏する。
【0021】
本発明の半導体は、酸化物からなるので、耐候性を有するため、本発明のp型酸化物半導体とn型酸化物半導体によるpn接合を形成すれば、耐候性に優れた電子デバイスを実現できる。
【0022】
本発明の酸化物半導体は、フォーダイト構造を示すSnNb26ではバンドギャップ(Eg)が2.3eVを示すことから、ワイドギャップを実現でき、可視光領域で高い透明性を有する。
【0023】
また本発明の酸化物半導体は、W、Zr、V、Mn、Ti、Ga、Hf及びMoからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素が添加されてもよく、添加元素がない場合と同様の作用効果を奏する。添加元素を含む場合は、例えば添加元素の合計で0.001〜10原子%を含むことが好ましく、p型酸化物半導体を実現できる。
【0024】
本発明の半導体装置は、上述の効果を奏する酸化物半導体を備えるので、次のような作用効果が期待できる。本発明の酸化物半導体からのなるpn接合を形成することによって、トランジスタやダイオード、さらにその整流特性を利用した集積回路を実現することができる。また、pn接合を構成する半導体のバンドギャップに対応した発光ダイオードや太陽電池にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1の実施の形態における、酸化物複合体SnNb26(試料番号1乃至4及びICDDのデータ)の場合のX線回折パターンを示す図である。
図2】第1の実施の形態における、酸化物複合体SnNb26(試料番号1乃至3)の場合の300Kで測定した119Snメスバウアースペクトル(実線)を示す図で、細線はSn4+がほとんど存在しないSnNb26(試料番号4)の場合の300Kで測定した119Snメスバウアースペクトルを示す図である。
図3】第1の実施の形態における、酸化物複合体SnNb26(試料番号1)においての測定温度が300Kと78Kである場合の119Snメスバウアースペクトルを示す図である。
図4】フォーダイト構造を示す酸化物複合体SnNb26の結晶構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態について以下説明する。
【0027】
本発明者は、フォーダイト構造の酸化物複合体において、半導体特性が酸化物複合体中の全Sn量に対するSn4+の割合[Sn4+/(Sn2++Sn4+)]により影響をうけることに着目して研究開発を行い、優れた半導体特性を有し、また、p型の半導体特性を有する酸化物半導体を得るに到ったものである。
【0028】
本発明の実施の形態の酸化物半導体は、価電子帯の上端部がSnの5s軌道から構成されたバンドギャップの小さいSnOに対して、Nb25との複酸化物形成によって結合のイオン性を高め、バンドギャップのワイド化を実現した組成式SnNb26に関し、結晶構造が主としてフォーダイト(foordite)構造を有し、かつ全Sn量に対するSn4+の割合Sn4+/(Sn2++Sn4+)が0.006≦Sn4+/(Sn2++Sn4+)≦0.013である半導体である。
【0029】
また、本発明の実施の形態の酸化物半導体は、量論組成としてSnNb26という一般的な化学式(general formula)で簡略的に記載され、p型の荷電担体である正孔を形成するように、含まれるSn2+の一部がSn4+に酸化してNb5+サイトの一部を置換した、構造欠陥の表記法であるクレーガー=ビンク(Kroger−Vink)の表記法で「Sn’Nb」と表記される構造欠陥を有する半導体であると考えられる。
【0030】
Snは比較的容易に価数を変えやすく、Sn2+に加え、Sn0とSn4+を取りうる。例えば、SnNb26と同様にSn2+とNb5+を含む酸化物複合体であるSn2Nb27では、背景技術で記載した報告がある。すなわち、Sn2-p(B2-qSnq)O7-p-0.5qと表されるような構造欠陥をもつことが知られている(非特許文献5参照)。ここでは、pに相当するSn欠損であるV’’Snに加え、qに相当するSn4+がNb5+を置換した欠陥Sn’Nbが存在し、いずれも正孔の生成をもたらす構造欠陥である。したがって、これらの欠陥がSnNb26に生成した場合、いずれも正孔の生成をもたらす構造欠陥中心となると考えられる。
【0031】
ここで、全Sn量(Sn2++Sn4+)に対するSn4+の割合Sn4+/(Sn2++Sn4+)は、SnO2の析出が認められない限り、Nb5+サイトをSn4+で置換した欠陥「Sn’Nb」を反映していることを示していることになる。
【0032】
ところで、天然鉱物のフォーダイトでは、3%未満であるがSn4+が含まれていることが報告されている(非特許文献3参照)。一方、試薬から合成されたフォーダイトではSn4+が含まれていない(非特許文献4参照)。これらの違いは、天然鉱物には一般的な化学式AB26のA2+とB5+以外の価数を持つ不純物成分が含まれており、これらの不純物との電荷をバランスさせるために、価数の変わりやすいSnの一部が4価を示したものと考えられる。Snを含むフォーダイト構造の酸化物複合体において、非特許文献3や非特許文献4をはじめ、従来、p型半導体特性が発現したものはなかった。それは、適切な量のSn4+とBサイトの置換した欠陥Sn’NbやSn2+が不足した欠陥V’’Snが生成する条件が見出せなかったことに加え、生成した−1価の欠陥Sn’Bや−2価の欠陥V’’Snの生成は、同時に+2価の酸素欠損V・・Oを生成し、電荷補償してしまうため正孔の生成によるp型伝導の発現が得られなかった、と考えられる。ここで考えられる構造欠陥「Sn’Nb」「V’’Sn」「V・・O」の生成量は、酸化物複合体を作製するときの温度や雰囲気ガス条件に依存すると考えられる。本発明では、試料調製時の温度や雰囲気ガス条件を適切に制御することにより、「Sn’Nb」が生成し「V・・O」が生成しくにい最適な条件を見出したことによって、p型半導体特性の発現につながったと考えられる。p型半導体特性はバルク状でも薄膜状でも発現する。
【0033】
本発明の、フォーダイト構造を含む結晶構造を有する酸化物は、主としてフォーダイト構造の結晶構造を含むものであればよい。なお、主としてとは、例えば、全体の50重量%を超えるものをいう。もっとも、全てがフォーダイト構造で構成される結晶構造であることが好ましいが、若干他の結晶構造を含む場合も許容でき、実質的にフォーダイト構造からなるものが好ましい。実質的にとは、例えば、80重量%以上である。
【0034】
本発明の半導体装置については、例えば、本実施の形態のp型半導体とn型半導体とでpn接合を形成したpn接合素子が挙げられる。適するn型半導体として、In23、ZnO、SnO2、及びこれらの母体材料に不純物を添加したSn添加In23、Al添加ZnO、Ga添加ZnO、Sb添加SnO2、F添加SnO2等が挙げられる。特にZnOが、キャリア濃度の制御の容易性による絶縁体から半導体まで作製できる特徴に加え、パターニングの際のエッチングやしやすさや原料の希少性の問題がないこと等の点から好ましい。
【0035】
(第1の実施の形態)
本実施の形態では、SnとNbを含み、フォーダイト構造を含む結晶構造を有する酸化物複合体を含む酸化物半導体について説明する。Sn、Nb及び酸素からなるフォーダイト構造を有する酸化物複合体において、(Sn2++Sn4+)量に対するSn4+の割合Sn4+/(Sn2++Sn4+)に対応する特性を調べた。以下に示すように、Sn4+/(Sn2++Sn4+)が0.006≦Sn4+/(Sn2++Sn4+)≦0.013において正孔を荷電担体とするp型半導体特性を発現する。
【0036】
[SnとNbを含みフォーダイト構造を含む結晶構造を有する酸化物複合体の製造]
SnO粉末(株式会社高純度化学研究所 純度99.5%)2.030g、Nb25粉末(株式会社高純度化学研究所、純度99.9%)3.992gを秤量したものを、メノウ製乳鉢に入れ、エタノール(和光純薬株式会社、特級)を加えながら約1時間湿式混合した。このとき、SnO、Nb25は、SnとNbの比(Sn/Nb)が原子数比で0.50となるように混合した。
【0037】
その後、室温で一晩放置してエタノールを乾燥させ、およそ6等分した粉末を一軸加圧(直径15ミリ、170MPa)し、6個の円板状の圧粉体を作製した。アルミナボート上に圧粉体をのせ、直径50ミリ、長さ800ミリのアルミナ炉心管をもつ電気炉中に入れ、窒素ガスを流量150ml/分 流しながら1173Kで4時間仮焼成した。仮焼成した圧粉体はメノウ製乳鉢内で解砕し、バインダーとしてポリビニルアルコール水溶液を試料に対して2wt.%となるように添加してエタノールとともに混合し、室温で一晩放置して乾燥させた。その後、ふるいで粒径を212μm以下にそろえ、一軸加圧(直径15ミリ、170MPa)した後に静水圧成形(285MPa)を行い、直径約15mm、厚さ約1.2mmの成形体を作製した。得られた成形体はアルミナボートに乗せ、窒素ガス(流量:50ml/分)を流しながら1053K〜1473Kで4時間本焼成した。各試料の本焼成温度は後述する表1に示した。
【0038】
[Sn価数の割合と電気特性]
得られた試料の結晶構造の同定は、X線回折装置(パナリティカル X’Pert Pro MRD)により行った。焼成後の(Sn/Nb)の組成比の見積もりは波長分散型蛍光X線分析装置(リガクZSX)を用いた。試料の電気特性の評価は、円形試料の四隅に金電極を蒸着した試料を準備し、ファンデルパウ配置によりホール効果測定装置(東陽テクニカ Resitest 8310)を用いて行った。試料のゼーベック係数評価は熱電特性評価装置(アドバンス理工 ZEM-3)を用いて行った。X線回折、蛍光X線およびホール測定は300Kで、またゼーベック測定は323Kで行った。試料中のSn4+とSn2+のSn量の見積もりは透過法によるメスバウアー分光により行った。測定は室温(300K)と液体窒素温度(78K)の二点とし、得られた119Snメスバウアースペクトルに対し、ローレンツ曲線による最小自乗フィッティングを行い、吸収ピークの積分強度、つまり積分吸収強度を求めた。ここで、4価のSnサイトと2価のSnサイトの無反跳分率fの温度依存性が異なる(デバイ温度が異なる)ため、比較的高温(室温)のデータのピーク積分吸収強度の比の値をそのまま用いると、2価のSnの量を過小評価し、4価のSnの量を過大評価する傾向にある。そこで、サイト毎の絶対積分吸収強度の温度依存性をデバイモデルの高温近似でフィッティングし、サイト毎のデバイ温度を求め、fの補正を行なった。具体的には規格化した積分吸収強度の温度依存性にデバイモデルの高温近似式(1)を適用し、試料毎・サイト毎にデバイ温度を求めた。
【0039】
ln f =−(6ER/kBθD2)T (1)
R = Eγ2/2Mc2 (2)
A = const. ×f (3)
f: 無反跳分率
T: 測定温度
θD: デバイ温度
B: ボルツマン定数
R: 反跳エネルギー
γ: メスバウアーガンマ線エネルギー(23.87 keV)
M: 反跳核質量(118.90331u)
c: 光速度
A: 積分吸収強度
【0040】
得られたデバイ温度を用いて式(1)より各温度におけるサイト毎の無反跳分率を求め、積分吸収強度を補正したのち、4価と2価のSnサイトの積分吸収強度比を求めた。この値を温度に依存しない定量値とした。
【0041】
図1に、SnNb26の各試料について、各本焼成温度におけるX線回折パターンの変化をそれぞれ示す。図1の横軸は、CuKα線を使った入射角度Θに対する回折角度2Θである。図には、X線データベースであるICDD(International Centre for Diffraction Data)よりSnNb26フォーダイト(98-020-2827)のX線回折パターンも示した。いずれの場合のX線回折パターンも、単斜晶系に属するフォーダイト構造をもつSnNb26に帰属するピークのみが表れている。このことから、SnNb26において試料番号1乃至4は、本焼成温度の違いに関わらず、単斜晶系に属するフォーダイト構造をもつ結晶構造を有することがわかる。
【0042】
図2に、SnNb26の試料番号1乃至3について、各本焼成温度における119Snメスバウアースペクトルの変化を実線で示す。図には、Sn4+がほとんど存在しないSnNb26(試料番号4)のスペクトルを細線で示した。なお、スペクトルの測定温度は300Kである。図2の横軸は、ドップラー速度である。すべてのスペクトルにおいて3本の吸収ピークがみられる。0mm/s付近の1本の弱いピークはSn4+に起因するピークであり、2−6mm/sの2本のピークはSn2+に起因するピークである。したがって、試料番号1乃至3はすべてSn4+とSn2+が共存することがわかる。
【0043】
ここで119Snメスバウアースペクトルから全Sn量(Sn2++Sn4+)に対するSn4+の割合Sn4+/(Sn2++Sn4+)を求める。上述のように、単にこれらのピークの積分吸収強度比から求めると、2価のSnの量を過小評価し、4価のSnの量を過大評価する傾向にある。そこで積分吸収強度の補正を行う。試料番号1を例にとり具体的に説明する。
【0044】
図3に、300Kおよび78Kで測定した試料番号1の119Snメスバウアースペクトルを実線で示す。なお、図中、細線で、Sn4+がほとんど存在しないSnNb26(試料番号4)のスペクトルを参考のために示した。まず、各温度におけるピーク面積(積分吸収強度Aに相当)を求める。その積分吸収強度Aと無反跳分率fには式(3)の関係があるので、式(1)右辺のカッコ内は、積分吸収強度の自然対数(lnA)と温度Tの関係(lnA vs. T)を示す傾きに相当する。この傾きからデバイ温度θDを求めた。次に、求めたデバイ温度θDから式(1)を使い、300Kおよび78Kにおける無反跳分率fを求めた。得られた各温度の無反跳分率fとその時の積分吸収強度Aの関係から、無反跳分率f=1と仮定したときの補正積分吸収強度Acorrを測定温度に依存しない定量値として算出した。
【0045】
測定温度78Kにおける積分吸収強度Aは、Sn4+に起因するピークからは、0.004504で、Sn2+に起因するピークからは、0.301744であった。測定温度300Kにおける積分吸収強度Aは、Sn4+に起因するピークからは、0.003433で、Sn2+に起因するピークからは、0.148438であった。これらの積分吸収強度から、傾き(ΔlnA/ΔT)(Sn4+が−0.00122で、Sn2+が−0.00320)が得られ、これらの傾きから、デバイ温度θD(Sn4+が387Kで、Sn2+が237K)が得られた。これらのデバイ温度θDから式(1)を使い、78Kにおける無反跳分率f(Sn4+が0.9092で、Sn2+が0.7791)が得られ、300Kにおける無反跳分率f(Sn4+が0.6935で、Sn2+が0.3829)が得られた。次に、無反跳分率f=1と仮定したときの補正積分吸収強度Acorrは、測定温度78Kと300Kともに、Sn4+が0.0050で、Sn2+が0.3877と求まり、補正積分吸収強度Acorrを測定温度に依存しない定量値として算出した。これを強度比(和を1)として表すと、Sn4+が0.013で、Sn2+が0.987であり、Sn4+/(Sn2++Sn4+)が0.013であると算出した。
【0046】
表1に、SnNb26における本焼成温度の異なる試料について、119Snメスバウアースペクトルから求めたSn4+/(Sn2++Sn4+)、及び電気測定結果(比抵抗、荷電担体の濃度、移動度、ゼーベック係数)を、まとめて示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1において、試料番号1乃至4は、SnNb26の作製条件において本焼成温度のみが異なるので、本焼成温度によって、p型伝導を示す試料(試料番号1乃至2)、絶縁性を示す試料(試料番号3)、n型伝導を示す試料(試料番号4)のように電気特性が異なることがわかる。これらの試料のSn4+/(Sn2++Sn4+)は、絶縁性を示す試料(試料番号3)よりp型伝導を示す試料(試料番号1乃至2)の方が高い値を示していることがわかる。さらにp型伝導を示す試料(試料番号1乃至2)において、荷電担体の濃度が高い試料(試料番号1)の方が、濃度が低い試料(試料番号2)よりもSn4+/(Sn2++Sn4+)が高い値を示していることがわかる。つまり、p型を示す荷電担体である正孔濃度は、Sn4+の割合に依存し、Sn4+の割合が高い場合に高い正孔濃度を示している。これはすなわち正孔を作り出す構造欠陥Sn’Bの量と関係していることを示している。また試料番号1と2から、少なくとも0.006≦Sn4+/(Sn2++Sn4+)≦0.013となる場合にp型伝導を示すことが分かる。
【0049】
(第2の実施の形態)
本実施の形態では、第1の実施の形態の酸化物複合体が、Sn、Nb以外の元素が微量添加されたものである場合について説明する。元素を微量添加しても、結晶構造がフォーダイト構造である場合に、第1の実施の形態と同様に、p型半導体特性を発現する。
【0050】
[SnとNbを含み、その他の元素を添加元素として有するフォーダイト構造を含む結晶構造を有する酸化物複合体の製造]
第1の実施の形態における酸化物複合体の製造と同様に、SnO粉末(株式会社高純度化学研究所 純度99.5%)とNb25粉末(株式会社高純度化学研究所 純度99.9%)を秤量したものに、1.5〜5.0原子%のWO2粉末(和光純薬工業株式会社 純度99.9%)を加えたものを、メノウ製乳鉢に入れ、エタノール(和光純薬株式会社 特級)を加えながら約1時間湿式混合した。
【0051】
その後、室温で一晩放置してエタノールを乾燥させ、およそ6等分した粉末を一軸加圧(直径15ミリ、170MPa)し、6個の円板状の圧粉体を作製した。アルミナボート上に圧粉体をのせ、直径50ミリ、長さ800ミリのアルミナ炉心管をもつ電気炉中に入れ、窒素ガスを流量150ml/分 流しながら1173Kで4時間仮焼成した。仮焼成した圧粉体はメノウ製乳鉢内で解砕し、バインダーとしてポリビニルアルコール水溶液を試料に対して2wt.%となるように添加してエタノールとともに混合し、室温で一晩放置して乾燥させた。その後、ふるいで粒径を212μm以下にそろえ、一軸加圧(直径15ミリ、170MPa)した後に静水圧成形(285MPa)を行い、直径約15mm、厚さ約1.2mmの成形体を作製した。得られた成形体はアルミナボートに乗せ、窒素ガス(流量:50ml/分)を流しながら1053Kで4時間本焼成した。
【0052】
[添加元素と電気特性]
表2に、添加化合物としてWO2を1.5〜5.0原子%添加した試料の電気測定結果(比抵抗、荷電担体の濃度、移動度、ゼーベック係数)をまとめて示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2において、WO2を1.5〜5.0原子%添加したSnNb26は、いずれもゼーベック係数が正の値をとることから、p型半導体であることがわかった。また試料番号5乃至8の試料では、いずれもX線回折測定でSnNb26に起因するピークが見られた。試料番号8の試料では、SnNb26に起因するピークに加えてわずかにWO3など添加化合物に起因する異相が見られた。このことから、添加元素が3.5原子%以下であれば最も好ましいことが分かるが、5原子%以下でも、ゼーベック係数が正の値をとることが確認できているので、好ましい。10原子%以下であれば、不純物は増えるが、SnNb26が主要な結晶相であるので、添加元素に起因する異相が若干見られたとしても、p型半導体が実現できる。
【0055】
添加元素として、Wの具体例を示したが、Wのイオン半径は0.066nm(W4+)であり、Nb5+のイオン半径(0.064nm)との差異がそれぞれ3.1%(W4+)と小さい。一般的に置換型固溶体を形成するのは、置換されるイオンと添加元素のイオンとの大きさの差異が15%以内といわれている。したがって、Zr、V、Mn、Ti、Ga、Hf、Moも、イオン半径がそれぞれ0.072nm(差異12.5%)、0.064nm(同0.0%)、0.065nm(同1.5%)、0.061nm(同4.7%)、0.062nm(同3.1%)、0.071nm(同10.9%)、0.065nm(同1.5%)であり、Wと同様に、差異が15%以内であるので、フォーダイト構造に対して置換固溶体を形成できる。つまり、上述したSn4+がNb5+を置換した欠陥に加えて、これらの添加元素がいずれのNbと置換した欠陥も正孔を生成する欠陥と考えられるので、同様の量の添加元素が添加されている場合も、p型を実現できる。
【0056】
以上、X線回折による結晶相の同定、ホール効果測定および熱電特性測定による電気特性評価、メスバウアースペクトル測定によるSn4+/(Sn2++Sn4+)の結果から、一般的な化学式でSnNb26表される化合物では、物質中の全Sn量に対するSn4+の割合Sn4+/(Sn2++Sn4+)が0.006≦Sn4+/(Sn2++Sn4+)≦0.013となる場合において、フォーダイト構造を含む結晶構造を有し、かつ正孔を荷電担体とするp型半導体特性を発現することが明らかである。また、本発明の酸化物半導体は、W、Zr、V、Mn、Ti、Ga、Hf、Moからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を添加元素として有している場合も、p型酸化物半導体を実現できることが明らかである。添加元素の量は、それぞれ0.001原子%以上10原子%以下を含んでも、p型酸化物半導体を実現できる。また、添加元素の量は、合計で0.001原子%以上5原子%以下が望ましく、合計で0.001原子%以上3.5原子%以下であることがより望ましい。
【0057】
上述の酸化物複合体の製造方法によりバルク状の複合体の場合を例示したが、薄膜状でも同様のp型特性が得られる。薄膜状の酸化物半導体は、スパッタリング法、加熱や電子ビームによる蒸着法、イオンプレーティング法などの真空成膜技術に加え、溶液を出発原料としたスピンコーティング法やスプレーコーティング等の酸化物薄膜製造技術により製造できる。
【0058】
なお、上記実施の形態等で示した例は、発明を理解しやすくするために記載したものであり、この形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の酸化物半導体は、p型半導体を実現可能であるので、可視光領域で透明なn型とp型の半導体によりpn接合を実現でき、透過型ディスプレイや透明トランジスタ等の装置に広く利用でき、産業上有用である。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】