(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2018年9月13日
【発行日】2020年3月26日
(54)【発明の名称】温度応答性ヒドロゲル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 71/02 20060101AFI20200303BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20200303BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20200303BHJP
C08K 3/32 20060101ALI20200303BHJP
C08J 3/075 20060101ALI20200303BHJP
【FI】
C08L71/02
C08K3/34
C08K5/098
C08K3/32
C08J3/075CEZ
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】18
【出願番号】特願2019-504546(P2019-504546)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2018年3月2日
(31)【優先権主張番号】特願2017-45190(P2017-45190)
(32)【優先日】2017年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】原口 和敏
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA52
4F070AC12
4F070AC20
4F070AC22
4F070AE28
4F070CA02
4F070CB14
4J002CH021
4J002DH057
4J002DJ006
4J002DJ056
4J002EG027
4J002EG107
4J002FD206
4J002FD207
4J002GQ00
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】
簡便な方法(混合)により、高温で高粘度、低温で低粘度となる特性を示す温度応答性ヒドロゲルを提供すること。
【解決手段】
重量平均分子量2万乃至1000万のポリアルキレングリコール(A)とケイ酸塩(B)をそれぞれ含む水溶液を混合する方法により、特定の成分組成範囲、具体的には、Aの質量濃度が0.01〜1.5質量%、より好ましくは0.1〜0.4質量%、Bの質量濃度が0.5〜10質量%、より好ましくは1〜5質量%からなり、且つ、AとBとの質量比R(R=[Aの質量]/[Bの質量])が0.01〜0.5の範囲で構成される組成範囲において、高温で高粘度、低温で低粘度であり、且つ、高温/低温の粘度比が大きい温度応答性ヒドロゲルが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレングリコール(A)及びケイ酸塩(B)を含む、温度応答性ヒドロゲルであって、前記ポリアルキレングリコール(A)のヒドロゲル中での質量濃度が0.01〜1.5質量%である、温度応答性ヒドロゲル。
【請求項2】
さらに、ケイ酸塩の分散剤(C)を含む、請求項1に記載の温度応答性ヒドロゲル。
【請求項3】
前記ポリアルキレングリコール(A)が重量平均分子量2万乃至1000万のポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールである、請求項1又は請求項2に記載の温度応答性ヒドロゲル。
【請求項4】
前記ケイ酸塩(B)のヒドロゲル中での質量濃度が0.5〜10質量%である、請求項1及至請求項3の何れか1項に記載の温度応答性ヒドロゲル。
【請求項5】
前記ケイ酸塩(B)が水膨潤性ケイ酸塩粒子である、請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の温度応答性ヒドロゲル。
【請求項6】
前記水膨潤性ケイ酸塩粒子がスメクタイト、ベントナイト、バーミキュライト、及び雲母からなる群より選ばれる水膨潤性ケイ酸塩粒子である、請求項5に記載の温度応答性ヒドロゲル。
【請求項7】
前記ポリアルキレングリコール(A)と前記ケイ酸塩(B)との質量比R(R=[Aの質量]/[Bの質量])が0.01〜0.5である、請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の温度応答性ヒドロゲル。
【請求項8】
前記分散剤(C)がピロリン酸ナトリウム、クエン酸及びポリリン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の分散剤である、請求項2乃至請求項7の何れか1項に記載の温度応答性ヒドロゲル。
【請求項9】
温度50〜100℃の範囲の粘度が、温度0〜25℃の範囲の粘度の2倍以上となる、請求項1乃至請求項8の何れか一項に記載の温度応答性ヒドロゲル。
【請求項10】
温度50〜100℃で粘度600〜10000mPa・sを示し、かつ、温度0〜25℃で粘度100〜580mPa・sを示す、請求項1及至請求項8の何れか1項に記載の温度応答性ヒドロゲル。
【請求項11】
温度50〜100℃で粘度3000〜10000mPa・sを示し、かつ、温度0〜25℃で粘度500〜2980mPa・sを示す、請求項1及至請求項8の何れか1項に記載の温度応答性ヒドロゲル。
【請求項12】
温度応答性ヒドロゲルの製造方法であって、質量濃度が0.02〜3.0質量%であるポリアルキレングリコール(A)の水溶液と、ケイ酸塩(B)を含む水分散液とを混合する工程を含む、該製造方法。
【請求項13】
混合前において前記水溶液及び前記水分散液の何れか一方又は両方に、1種又は2種以上の水溶性有機溶媒(D)が含まれていることを特徴とする請求項11に記載の温度応答性ヒドロゲルの製造方法。
【請求項14】
前記温度応答性ヒドロゲルにおける温度変化による粘度変化が、温度変化に対して少なくとも1回の繰り返し性を有する、請求項9乃至請求項11の何れか1項に記載の温度応答性ヒドロゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度応答性ヒドロゲル及びその製造方法に関し、より詳しくは、ポリアルキレングリコール及びケイ酸塩を含んでなる温度応答性ヒドロゲル、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温度応答性ヒドロゲルは、生体適合性を有する刺激応答性材料のひとつとして、ドラッグデリバリーシステム(DDS)、再生医療、マイクロアクチュエータといった医療分野等での用途開発が進められている。
ポリエチレングリコール(PEG)と水膨潤性ケイ酸塩粒子である層状粘土鉱物との水分散液の粘弾性の温度依存性(15〜40℃)が報告されている(非特許文献1)。それによると平均分子量10,000のPEG濃度を2質量%に固定し、粘土鉱物(ラポナイトRD)の濃度を1〜4質量%に変化させた各水分散液の粘度測定の結果、ラポナイトRD濃度が1〜3質量%のときは温度が高くなるほどゼロシェア粘度が低下するという通常の変化を示すが、ラポナイトRD濃度が4質量%のときは、室温より35℃の方がゼロシェア粘度が高くなる(40℃になると再び若干低下する)温度応答性を示すことが観測された。このようにPEG濃度が比較的高い2質量%で、且つ、粘土鉱物濃度が更に高い4質量%という限定された組成において通常とは異なる粘度の温度依存性(高温で高粘度)が観測されたが、実用化のためには、水分散液としてより少ない成分濃度で且つ大きく変化する温度応答性が必要である。また、これまで平均分子量数十万以上の高分子量PEGを用いた場合の温度依存性は検討されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】JOURNAL of Physical Chemistry B (2012),116(1),48−54
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高温で高粘度、低温で低粘度を示す、即ち高温での粘度の方が低温での粘度よりも高い粘度を示す温度応答性ヒドロゲルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、重量平均分子量2万乃至1000万のポリアルキレングリコールとケイ酸塩を含む水溶液(水分散液)の混合により、特定の成分組成範囲において、高温での粘度/低温での粘度比の大きい温度応答性ヒドロゲルが得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、第1観点として、ポリアルキレングリコール(A)及びケイ酸塩(B)を含む、温度応答性ヒドロゲルであって、前記ポリアルキレングリコール(A)のヒドロゲル中での質量濃度が0.01〜1.5質量%である、温度応答性ヒドロゲル、
第2観点として、さらに、ケイ酸塩の分散剤(C)を含む、第1観点に記載の温度応答性ヒドロゲル、
第3観点として、前記ポリアルキレングリコール(A)が重量平均分子量2万乃至1000万のポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールである、第1観点又は第2観点に記載の温度応答性ヒドロゲル、
第4観点として、前記ケイ酸塩(B)のヒドロゲル中での質量濃度が0.5〜10質量%である、第1観点及至第3観点の何れか1つに記載の温度応答性ヒドロゲル、
第5観点として、前記ケイ酸塩(B)が水膨潤性ケイ酸塩粒子である、第1観点乃至第4観点の何れか1つに記載の温度応答性ヒドロゲル、
第6観点として、前記水膨潤性ケイ酸塩粒子がスメクタイト、ベントナイト、バーミキュライト、及び雲母からなる群より選ばれる水膨潤性ケイ酸塩粒子である、第5観点に記載の温度応答性ヒドロゲル、
第7観点として、前記ポリアルキレングリコール(A)と前記ケイ酸塩(B)との質量比R(R=[Aの質量]/[Bの質量])が0.01〜0.5である、第1観点乃至第6観点の何れか1つに記載の温度応答性ヒドロゲル、
第8観点として、前記分散剤(C)がピロリン酸ナトリウム、クエン酸及びポリリン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の分散剤である、第2観点乃至第7観点の何れか1つに記載の温度応答性ヒドロゲル、
第9観点として、温度50〜100℃の範囲の粘度が、温度0〜25℃の範囲の粘度の2倍以上となる、第1観点乃至第8観点の何れか1つに記載の温度応答性ヒドロゲル、
第10観点として、温度50〜100℃で粘度600〜10000mPa・sを示し、かつ、温度0〜25℃で粘度100〜580mPa・sを示す、第1観点乃至第8観点の何れか1つに記載の温度応答性ヒドロゲル、
第11観点として、温度50〜100℃で粘度3000〜10000mPa・sを示し、かつ、温度0〜25℃で粘度500〜2980mPa・sを示す、第1観点及至第8観点の何れか1つに記載の温度応答性ヒドロゲル、
第12観点として、温度応答性ヒドロゲルの製造方法であって、質量濃度が0.02〜3.0質量%であるポリアルキレングリコール(A)の水溶液と、ケイ酸塩(B)を含む水分散液とを混合する工程を含む、該製造方法、
第13観点として、混合前において、前記水溶液及び前記水分散液の何れか一方又は両方に、1種又は2種以上の水溶性有機溶媒(D)が含まれていることを特徴とする第11観点に記載の温度応答性ヒドロゲルの製造方法、並びに
第14観点として、前記温度応答性ヒドロゲルにおける温度変化に対する粘度変化が、温度変化に対し少なくとも1回の繰り返し性を有する、第9観点乃至第11観点の何れか1つに記載の温度応答性ヒドロゲル、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
以上、説明したように、本発明によれば重量平均分子量2万乃至1000万のポリアルキレングリコールとケイ酸塩とを含む水溶液(水分散液)の混合により、特定の成分組成範囲において、高温で高粘度、低温で低粘度であり、即ち温度の上昇にともなって粘度が大きくなり、温度の下降にともなって粘度が小さくなり、且つ、高温の粘度/低温の粘度の比が大きい温度応答性ヒドロゲルが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、ゲル化に必要な成分である特定のポリアルキレングリコール(A)及びケイ酸塩(B)と水とからなる温度応答性ヒドロゲルゲルに関する。
本発明の温度応答性ヒドロゲルは、上記成分の他に、本発明の所期の効果を損なわないまたはより高い効果を示す範囲で、必要に応じて、ケイ酸塩の分散剤等の分散剤(C)または水と相溶性のある有機溶媒(D)を任意に配合してもよい。
【0008】
<成分(A):ポリアルキレングリコール>
本発明の成分(A)は、ポリアルキレングリコールである。ポリアルキレングリコールとしては、例えばポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールが挙げられる。ポリアルキレングリコール(A)の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算で測定することができ、例えば1万乃至1000万、例えば2万乃至1000万、好ましくは5万及至500万であり、より好ましくは10万及至200万であり、最も好ましくは30万及至100万である。
【0009】
<成分(B):ケイ酸塩>
本発明の成分(B)は、ケイ酸塩であって、好ましくは水膨潤性ケイ酸塩粒子である。
ケイ酸塩(B)としては、例えば、スメクタイト、ベントナイト、バーミキュライト、及び雲母等が挙げられ、水又は含水溶媒を分散媒としたコロイドを形成するものが好ましい。なお、スメクタイトとは、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティブンサイトなどのグループ名称である。
ケイ酸塩粒子の一次粒子の形状としては、円盤状、板状、球状、粒状、立方状、針状、棒状、無定形等が挙げられ、直径5nm乃至1000nmの円盤状又は板状のものが好ましい。
ケイ酸塩の好ましい具体例としては、層状ケイ酸塩が挙げられ、市販品として容易に入手可能な例として、BYKアディティブズ社製のラポナイトXLG(合成ヘクトライト)、同XLS(合成ヘクトライト、分散剤としてピロリン酸ナトリウム含有)、同XL21(ナトリウム・マグネシウム・フルオロシリケート)、同RD(合成ヘクトライト)、同RDS(合成ヘクトライト、分散剤として無機ポリリン酸塩含有)、同S482(合成ヘクトライト、分散剤含有)及び同EP(有機変性ヘクトライト);クニミネ工業株式会社製のクニピア(クニミネ工業株式会社登録商標、モンモリロナイト)、スメクトン(クニミネ工業株式会社登録商標)SA(合成サポナイト)、同ST(合成スティブンサイト)、同SWN(合成ヘクトライト)、同SWF(フルオロ合成ヘクトライト);株式会社ホージュン製のベンゲル(株式会社ホージュン登録商標、天然ベントナイト精製品)等が挙げられる。
【0010】
<成分(C):分散剤>
本発明の成分(C)は、ゲルの各成分を均一に分散したり、温度による粘度変化を大きくしたりするためのものであり、ピロリン酸ナトリウム、クエン酸、ポリリン酸等が挙げられる。その中でも、ピロリン酸ナトリウムが好ましい。
【0011】
<成分(D):水溶性有機溶媒>
本発明の成分(D)は、ゲルの各成分を均一に分散したり、乾燥後の柔軟性を保持したりするためのものであり、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、グリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール及び1,3−ブチレングリコール等が挙げられる。その中でも、グリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール及び1,3−ブチレングリコールが好ましい。
【0012】
本発明の温度応答性ヒドロゲルに含まれる各成分の濃度は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜調製でき、例えば、温度応答性ヒドロゲルの全質量に基づいて、ポリアルキレングリコール(A)は0.01〜1.5質量%濃度、好ましくは0.05〜0.5質量%濃度、より好ましくは0.1〜0.4質量%濃度、ケイ酸塩(B)は0.5〜10質量%濃度、好ましくは1〜5質量%濃度、分散剤(C)は0.1〜10質量%濃度、水溶性有機溶媒(D)は1〜50質量%濃度である。
ポリアルキレングリコール(A)の濃度が0.01質量%濃度よりも低い場合、ゲルが得られない可能性があり、また1.5質量%濃度よりも高い場合、高温で高い粘度、低温で低い粘度を示す温度応答性ヒドロゲルが得られない可能性がある。
また、ケイ酸塩(B)の濃度を上記範囲とすることで、沈殿等が生じることなく、高温で高い粘度、低温で低い粘度を示す均一な温度応答性ヒドロゲルが得られやすくなる。
【0013】
また、本発明の温度応答性ヒドロゲルに含まれるポリアルキレングリコール(A)と、ケイ酸塩(B)との質量比R(R=[Aの質量]/[Bの質量])は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜調製でき、例えば0.01〜0.5、好ましくは0.02〜0.3、より好ましくは0.03〜0.2である。
ポリアルキレングリコール(A)と、ケイ酸塩(B)との質量比Rを上記範囲にすることで、高温の粘度/低温の粘度の比が大きい温度応答性ヒドロゲルが得られる。
【0014】
また、本発明の温度応答性ヒドロゲルは、高温で高粘度、低温で低粘度であり、即ち温度の上昇にともなって粘度が大きくなり(温度の下降にともなって粘度が小さくなり)、且つ、高温における粘度と低温における粘度との比が大きい温度応答性ヒドロゲルが得られる。
温度とは、大気下でのセ氏温度(℃)である。
粘度測定方法は、特に限定されないが、例えば回転式、音叉振動式粘度計で測定される粘度である。
【0015】
ここで、高温とは、2つの温度のうち相対的により高い温度を指し、一方低温とは、その2つの温度のうちより低い温度を示す。高温と低温との温度差は、温度応答性ヒドロゲルがゲルとしての性質を示す温度範囲内で、例えば10℃以上、20℃以上、25℃以上、30℃以上、40℃以上、50℃以上、70℃以上、80℃以上である。これらの温度はある特定の温度値に限定されるものではないが、例えば室温(例えば25℃)よりも高い温度と室温よりも低い温度に設定され、通常、高温としては、室温よりも高い温度、室温〜200℃、50〜100℃、50〜80℃、50〜70℃等に設定され、低温としては、室温よりも低い温度、−5℃〜室温、0℃〜室温、0℃〜10℃等に設定される。
【0016】
また、高粘度とは、上記設定された高温及び低温の温度(温度差)で測定した2つの粘度のうち相対的に高い粘度を指し、一方低粘度とは、上記2つの温度で測定した2つ粘度のうちより低い粘度を指す。本発明の温度応答性ヒドロゲルにおいて、高温における粘度と低温における粘度との比が大きいとは、例えば、上記の設定された高温における粘度と低温における粘度との比が1倍よりも大きければよく、例えば、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、10倍以上である。好ましくは、高温における粘度と低温における粘度との比が大きいとは2倍以上である。これら粘度はある特定の粘度値に限定されるものではないが、通常、高粘度と低粘度との組合せとして、300〜2000mPa・sと100〜280mPa・s、600〜10000mPa・sと100〜580mPa・s、600〜5000mPa・sと200〜580mPa・s、600〜5000mPa・sと100〜580mPa・s、1000〜7000mPa・sと300〜980mPa・s、1000〜2500mPa・sと100〜500mPa・s、1000〜5000mPa・sと100〜500mPa・s、2000〜10000mPa・sと500〜1980mPa・s、3000〜10000mPa・sと500〜2980mPa・s、3000〜10000mPa・sと1000〜2980mPa・s等が挙げられる。
【0017】
具体的な一例としては、温度応答性が、温度50〜80℃の範囲の粘度が、温度0〜25℃の範囲の粘度の2倍以上となる温度応答性である、温度応答性ヒドロゲルが好ましい。
例えば、温度応答性ヒドロゲルがゲルとしての性質を示す温度範囲、例えば、−20℃〜120℃、−5℃〜105℃、0℃〜100℃、0℃〜90℃の温度範囲内で、温度応答性ヒドロゲルの温度を10℃、20℃、25℃、30℃、40℃、50℃、70℃又は80℃上昇させたときに、温度上昇後の粘度が温度上昇前の粘度の2倍以上であることが好ましい。
具体的な一例としては、温度応答性ヒドロゲルは、高温(50〜100℃)で高粘度(600〜10000mPa・s)を示し、かつ、低温(0〜25℃)で低粘度(100〜580mPa・s)を示す。
具体的な一例としては、温度応答性ヒドロゲルは、高温(50〜100℃)で高粘度(600〜5000mPa・s)を示し、かつ、低温(0〜25℃)で低粘度(100〜580mPa・s)を示す。
具体的な一例としては、温度応答性ヒドロゲルは、高温(50〜100℃)で高粘度(1000〜2500mPa・s)を示し、かつ、低温(0〜25℃)で低粘度(100〜500mPa・s)を示す。
具体的な一例としては、温度応答性ヒドロゲルは、高温(50〜100℃)で高粘度(1000〜5000mPa・s)を示し、かつ、低温(0〜25℃)で低粘度(100〜500mPa・s)を示す。
具体的な一例としては、温度応答性ヒドロゲルは、高温(50〜100℃)で高粘度(3000〜10000mPa・s)を示し、かつ、低温(0〜25℃)で低粘度(500〜2980mPa・s)を示す。
具体的な一例としては、温度応答性ヒドロゲルは、高温(50〜100℃)で高粘度(3000〜10000mPa・s)を示し、かつ、低温(0〜25℃)で低粘度(1000〜2980mPa・s)を示す。
また、高温で高粘度を示すとは、高温の範囲の任意の温度で高粘度の範囲内の粘度を示すことをいい、低温で低粘度を示すとは、低温の範囲の任意の温度で低粘度の範囲内の粘度を示すことをいう。高温の範囲の全ての温度で高粘度の範囲内の粘度を示し、かつ、低温の範囲の全ての温度で低粘度の範囲内の粘度を示す温度応答性ヒドロゲルが好ましい。
【0018】
さらに、本発明の温度応答性ヒドロゲルは、その温度に応じて、応答性(粘度変化)が可逆的な性質(繰り返し性、再現性)を有するという特徴がある。温度応答性ヒドロゲルの温度を低温→高温→低温→高温という温度変化を繰り返しても、本発明の温度応答性ヒドロゲルは、温度の上昇に応じて粘度が増加し、かつ、該上昇させた温度の降下に応じて粘度が低下するか、又は温度の降下に応じて粘度が低下し、かつ、該低下させた温度の上昇に応じて粘度が増加するという温度応答性を維持できる。
【0019】
例えば、本発明の温度応答性ヒドロゲルは、温度応答性ヒドロゲルがゲルとしての性質を示す温度範囲内で、低温から高温まで、上昇させたときに粘度が2倍以上に増加し、かつ、上昇させた温度を元の温度まで降下させたときに、温度変化前の温度での粘度と同温度でほぼ同粘度を示す温度応答性を有していることが好ましい。同温度で同粘度を示すとは、温度変化後の温度応答性ヒドロゲルの粘度と、温度変化前の温度応答性ヒドロゲルの粘度との粘度比が、例えば0.5〜1.5、例えば0.8〜1.2、例えば0.9〜1.1であることをいう。
具体的には実施例のように、本発明の温度応答性ヒドロゲルは、温度を4℃→25℃→70℃→4℃のように繰り返し変化させても、同温度ではほぼ同粘度を示す。この繰り返し性(再現性)は、少なくとも1回有し、例えば2回有し、例えば3回有し、例えば4回有し、例えば5回有し、例えば6回有し、例えば10回有し、例えば50回有し、例えば100回有し、例えば101回以上有する。
【0020】
[温度応答性ヒドロゲルの調製]
本発明の温度応答性ヒドロゲルの調製方法としては、ポリアルキレングリコール(A)、ケイ酸塩(B)、及び水の各成分を混合する方法であれば特に限定されないが、例えば、ポリアルキレングリコール(A)の水溶液と、ケイ酸塩(B)の水分散液をあらかじめ調製し、2液を混合する方法が挙げられる。必要に応じ、各段階、例えば上記水溶液と表記水分散液の混合前、混合中又は混合後において分散剤(C)及び/又は水溶性有機溶媒(D)を添加してもよい。特に、ポリアルキレングリコール(A)の水溶液又はケイ酸塩(B)の水分散液の混合前において、該水溶液又は該水分散液の何れか一方又は両方に分散剤(C)及び/又は水溶性有機溶媒(D)を添加することにより、各成分が均一に分散された温度応答性ゲルを得やすい。
【0021】
本発明において、温度応答性ヒドロゲルの成型加工時の流動性を高くするため、上記水溶液及び水分散液を混合した混合液に各成分が低含有率で含まれるように調製するのが好ましい。
上記水溶液又は水分散液中の各成分を混合する方法としては、機械式又は手動による撹拌の他、超音波処理を用いることができるが、機械式撹拌が好ましい。機械式撹拌には、例えば、マグネチックスターラー、翼式撹拌機、自転・公転式ミキサー、ディスパー、ホモジナイザー、振とう機、ボルテックスミキサー、ボールミル、ニーダー、ラインミキサー、超音波発振器等を使用することができる。その中でも、好ましくはマグネチックスターラー、翼式撹拌機、自転・公転式ミキサー、ラインミキサーによる混合である。
前記調製液(水溶液及び水分散液)の混合する際の温度は、水溶液又は水分散液の凝固点乃至沸点、好ましくは−5℃乃至100℃であり、より好ましくは0℃乃至70℃である。
【0022】
[温度応答性ヒドロゲルの成型加工]
前記ポリアルキレングリコール(A)の水溶液とケイ酸塩(B)の水分散液を混合し、シャーレやバット、トレー等の容器に流し込むことによりシート状等、任意の形状に成型することができる。また、塗布又はスピンコートすることにより薄膜化することもできる。
上記ゲル化の際の温度は−5℃乃至200℃であり、好ましくは0℃乃至150℃、さらに好ましくは10℃乃至90℃である。
【実施例】
【0023】
次に実施例を挙げ本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
[実施例1]
ケイ酸塩として水膨潤性の層状粘土鉱物(ウィルバーエリス社製合成ヘクトライト:ラポナイトXLG)を4.0質量%含む透明な水分散液を調製し、一方、ポリアルキレングリコールとしてポリエチレングリコール500,000(PEG)(和光純薬工業製 分子量約50万)を0.2質量%含むPEG水溶液を調製した。次いで、ラポナイトXLG水分散液を撹拌しながら、ここに等量の各PEG水溶液を滴下し、滴下終了後、更に1時間撹拌した。ラポナイトXLGの濃度は、2.0質量%であり、PEG濃度は、0.1質量%であるラポナイトXLG/PEG水分散液を得た。
【0025】
[実施例2]
PEG水溶液として0.4質量%を含むPEG水溶液を調製し使用した以外は、実施例1と同様の手順で、ラポナイトXLG/PEG水分散液を調製し、ラポナイトXLGの濃度は、2.0質量%であり、PEG濃度は、0.2質量%であるラポナイトXLG/PEG水分散液を得た。
【0026】
[実施例3]
PEG水溶液としてポリエチレングリコールPEGを0.8質量%を含むPEG水溶液を調製し使用した以外は、実施例1と同様の手順で、ラポナイトXLG/PEG水分散液を調製し、ラポナイトXLGの濃度は、2.0質量%であり、PEG濃度は、0.4質量%であるラポナイトXLG/PEG水分散液を得た。
【0027】
[比較例1]
PEG水溶液としてポリエチレングリコールPEGを含まない水を使用した以外は、実施例1と同様の手順で、ラポナイトXLG/PEG水分散液を調製し、ラポナイトXLGの濃度は、2.0質量%であり、PEG濃度は、0質量%であるラポナイトXLG/PEG水分散液を得た。
【0028】
[参考例1]
PEG水溶液としてポリエチレングリコールPEGを2.0質量%を含むPEG水溶液を調製し使用した以外は、実施例1と同様の手順で、ラポナイトXLG/PEG水分散液を調製し、ラポナイトXLGの濃度は、2.0質量%であり、PEG濃度は、1.0質量%であるラポナイトXLG/PEG水分散液を得た。
【0029】
<粘度測定>
エー・アンド・デイ(株)製音叉振動式粘度計(SV−100)を用いて、25℃で、実施例1乃至3、比較例1及び参考例1で調製したラポナイトXLG/PEG水分散液の粘度測定を行った。粘度は測定開始から5分間の平均値を用いた。その結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1に示すように、PEG濃度が0.1、0.2、および0.4質量%の実施例1乃至3のラポナイトXLG/PEG水分散液においてはヒドロゲルとなり、特にPEG濃度が0.2質量%である実施例2のラポナイトXLG/PEG水分散液は、本実施例の測定値のなかで極大かつ最大の粘度を示した。一方、PEGを含まない比較例1およびPEG濃度が1質量%である参考例1では極めて低い粘度を示し、いずれもゾル(水溶液)であった。
【0032】
<粘度の温度による変化>
エー・アンド・デイ(株)製音叉振動式粘度計(SV−100)を用いて、測定温度を4℃→25℃→70℃→4℃のように繰り返し変化させて、実施例2で調製したラポナイトXLG/PEG水分散液の粘度測定を行った。粘度は測定開始から5分間の平均値を用い、測定温度変化を6回繰り返した。
6回繰り返した各温度での測定粘度の平均値を表2に示す。6回の繰り返しにおいて、いずれも高温ほど粘度が高く、低温ほど粘度が低い結果が得られた。表2に示すように、4℃での粘度に対する70℃の粘度の比は約6倍であるという温度応答性が観測された。
【0033】
【表2】
【0034】
[実施例4]
水分散液としてラポナイトXLGを6.0質量%含む透明な水分散液を調製し使用した以外は、実施例1と同様の手順で、ラポナイトXLG/PEG水分散液を調製し、ラポナイトXLGの濃度は3.0質量%であり、PEG濃度は、0.1質量%であるラポナイトXLG/PEG水分散液を得た。
【0035】
[実施例5]
水分散液としてラポナイトXLGを6.0質量%含む透明な水分散液を使用し、及びPEG水溶液としてPEGを0.4質量%を含むPEG水溶液を調製し使用した以外は、実施例1と同様の手順で、ラポナイトXLG/PEG水分散液を調製し、ラポナイトXLGの濃度は3.0質量%であり、PEG濃度は、0.2質量%であるラポナイトXLG/PEG水分散液を得た。
【0036】
[実施例6]
ラポナイトXLGを6.0質量%含む透明な水分散液、及びポリエチレングリコールPEGを1.2質量%を含むPEG水溶液を調製し使用した以外は、実施例1と同様の手順で、ラポナイトXLG/PEG水分散液を調製し、ラポナイトXLGの濃度は3.0質量%であり、PEG濃度は、0.6質量%であるラポナイトXLG/PEG水分散液を得た。
【0037】
[比較例3]
ラポナイトXLGを6.0質量%含む透明な水分散液、及びポリエチレングリコールPEGを4.0質量%を含むPEG水溶液を調製し使用した以外は、実施例1と同様の手順で、ラポナイトXLG/PEG水分散液を調製し、ラポナイトXLGの濃度は3.0質量%であり、PEG濃度は、2.0質量%であるラポナイトXLG/PEG水分散液を得た。
【0038】
<粘度測定>
エー・アンド・デイ(株)製音叉振動式粘度計(SV−100)を用いて、25℃で、実施例4乃至6及び比較例3で調製したラポナイトXLG/PEG水分散液の粘度測定を行った。粘度は測定開始から5分間の平均値を用いた。その結果を表3に示す。
【表3】
【0039】
実施例4ないし6で調製したラポナイトXLG/PEG水分散液ではヒドロゲルが得られ、約2000−3000mPa・sの高い粘度が観測された。一方、比較例3で調製したラポナイトXLG/PEG水分散液はPEG濃度が高いにも拘わらず、167mPa・sの低い粘度であった。
また、実施例6で調製したラポナイトXLG/PEG水分散液を、実施例2と同様に粘度の温度による変化を測定した結果、高温(70℃)での粘度が5500mPa・sであり、低温(25℃)での粘度が1890mPa・sであった。つまり、実施例6で調製したラポナイトXLG/PEG水分散液も、高温での粘度が低温での粘度より高くなるという、温度応答性が観測された。
【0040】
[比較例4]
ポリエチレングリコール500,000(PEG)(分子量約50万)のみを0.2質量%含む水溶液を調製した。
【0041】
[比較例5]
Laponaite XLGのみを2質量%含む水分散液を調製した。
【0042】
<粘度の温度依存性試験>
比較例4で調製した水溶液及び比較例5で調製した水分散液を、4℃→25℃→70℃→4℃のように繰り返し変化させて粘度測定を行った。その結果、いずれも高温(70℃)で低粘度(12.9mPa・s(比較例4)、3.5mPa・s(比較例5))であり、低温(4℃)で高粘度(15.7mPa・s(比較例4)、4.6mPa・s(比較例5))となる通常の温度依存性を示す結果が得られた。
【0043】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のヒドロゲルは、安価な原料を用いることができ、ラジカル重合等の化学反応を用いず、混合するだけで調製することができる。その特性を生かして、温度応答性ヒドロゲルとして使用することができる。
【国際調査報告】