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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2019年6月20日
【発行日】2020年12月17日
(54)【発明の名称】光偏波素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/126 20060101AFI20201120BHJP
   G02B 6/28 20060101ALI20201120BHJP
【FI】
   G02B6/126
   G02B6/28 P
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】17
【出願番号】特願2019-559239(P2019-559239)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2018年12月17日
(31)【優先権主張番号】特願2017-240322(P2017-240322)
(32)【優先日】2017年12月15日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 淳一
【テーマコード(参考)】
2H147
【Fターム(参考)】
2H147AB21
2H147BD15
2H147BE17
2H147BE22
2H147EA12A
2H147EA12B
2H147EA12C
2H147EA13C
2H147EA14A
2H147EA14B
2H147EA14C
2H147EA32A
2H147EA35A
2H147FA05
2H147FA09
2H147FA21
2H147FA26
2H147FC03
(57)【要約】
光偏波素子は、第1ポート導波路と、2つの第2ポート導波路と、前記第1ポート導波路及び前記2つ第2ポート導波路と光学的に接続された多モード干渉導波路と、を備え、前記多モード干渉導波路にはスリットが形成されており、該スリットは、前記第1ポート導波路から入力された互いに直交する偏波の光のそれぞれに対して、前記多モード干渉導波路が異なる実効屈折率を与え、かつ前記互いに直交する偏波の光が分離されて前記2つの第2ポート導波路のそれぞれから出力される形状に形成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ポート導波路と、
2つの第2ポート導波路と、
前記第1ポート導波路及び前記2つの第2ポート導波路と光学的に接続された多モード干渉導波路と、
を備え、前記多モード干渉導波路にはスリットが形成されており、該スリットは、前記第1ポート導波路から入力された互いに直交する偏波の光のそれぞれに対して、前記多モード干渉導波路が異なる実効屈折率を与え、これにより前記互いに直交する偏波の光が分離されて前記2つの第2ポート導波路のそれぞれから出力される形状に形成されていることを特徴とする光偏波素子。
【請求項2】
前記スリットは、前記第1ポート導波路から前記2つの第2ポート導波路へ向かう方向に延伸していることを特徴とする請求項1に記載の光偏波素子。
【請求項3】
前記スリットが複数形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光偏波素子。
【請求項4】
前記スリットは略直線状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の光偏波素子。
【請求項5】
前記スリットの幅が0.3μm以上、5.0μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の光偏波素子。
【請求項6】
前記第1ポート導波路、前記第2ポート導波路および前記多モード干渉導波路の各導波路の外周を取り囲むクラッドを備えており、
前記クラッドに対する前記各導波路の比屈折率差が0.7%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の光偏波素子。
【請求項7】
前記第1ポート導波路、前記第2ポート導波路および前記多モード干渉導波路はジルコニアを含む石英系ガラス材料からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の光偏波素子。
【請求項8】
第1ポート導波路と、
2つの第2ポート導波路と、
前記第1ポート導波路及び前記2つの第2ポート導波路と光学的に接続された矩形の多モード干渉導波路と、
を備え、前記多モード干渉導波路には1以上のスリットが形成されており、該スリットは、前記第1ポート導波路から前記2つの第2ポート導波路へ向かう方向に略平行に延伸していることを特徴とする光偏波素子。
【請求項9】
第1ポート導波路と、2つの第2ポート導波路と、前記第1ポート導波路及び前記2つの第2ポート導波路と光学的に接続された多モード干渉導波路との導波路形状を形成する工程と、
前記多モード干渉導波路にスリットを形成する工程と、
を含み、前記スリットを、前記第1ポート導波路から入力された互いに直交する偏波の光のそれぞれに対して、前記多モード干渉導波路が異なる実効屈折率を与え、これにより前記互いに直交する偏波の光が分離されて前記2つの第2ポート導波路のそれぞれから出力される形状に形成することを特徴とする光偏波素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の偏波合成や偏波分離を行うことができる光偏波素子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の偏波ダイバーシティやコヒーレントミキサ等を使用した高性能の光通信方式においては、光の偏波合成や偏波分離を行うことができる光偏波素子が使用される。従来、このような光偏波素子として、マッハツェンダー(Mach-Zehnder Interferometer:MZI)型干渉計の構成を採用した光導波路型の光偏波素子が知られている。この種の光偏波素子では、アーム導波路を横断するようにスリットを形成し、そのスリット内に1/4波長板を挿入する構成が採用される場合がある(特許文献1)。
【0003】
ここで、光偏波素子においてアーム導波路を伝搬する光は、スリット内を通過する間は導波路による光閉じ込めを受けないため、放射損失が生じる。この放射損失は、スリットの幅が広いほど大きくなり、また導波路の比屈折率差が大きい程大きくなる。このような放射損失は、偏波素子の過剰損失を増加させるものであるから、できるだけ低減することが好ましい。放射損失を低減する方法として、スリットにより横断されたアーム導波路の形状を、スリットに向かってテーパ状に幅が広がる形状とする方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6219887号
【特許文献2】特開2017−181963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
石英系ガラスからなる平面光波回路(Planar Lightwave Circuit:PLC)技術を用いた光導波路においては、近年は比屈折率差が大きい設計が提案されてきているため、放射損失をより一層低減することが望まれている。また、従来の光偏波素子では、スリット内に1/4波長板を挿入して実装するための作業が必要となる。この作業のためには、挿入箇所の周囲にある程度のスペースが必要となるため、例えば2つのアーム導波路の間隔を広げたり、スリットの長さをある程度の長さ以上としたりする必要があるため、素子が必要以上に大型化する場合がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、放射損失を抑制し、小型化が可能であり、かつ製造も容易な光偏波素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る光偏波素子は、第1ポート導波路と、2つの第2ポート導波路と、前記第1ポート導波路及び前記2つの第2ポート導波路と光学的に接続された多モード干渉導波路と、を備え、前記多モード干渉導波路にはスリットが形成されており、該スリットは、前記第1ポート導波路から入力された互いに直交する偏波の光のそれぞれに対して、前記多モード干渉導波路が異なる実効屈折率を与え、これにより前記互いに直交する偏波の光が分離されて前記2つの第2ポート導波路のそれぞれから出力される形状に形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係る光偏波素子は、前記スリットは、前記第1ポート導波路から前記2つの第2ポート導波路へ向かう方向に延伸していることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様に係る光偏波素子は、前記スリットが複数形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係る光偏波素子は、前記スリットは略直線状であることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る光偏波素子は、前記スリットの幅が0.3μm以上、5.0μm以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る光偏波素子は、前記第1ポート導波路、前記第2ポート導波路および前記多モード干渉導波路の各導波路の外周を取り囲むクラッドを備えており、前記クラッドに対する前記各導波路の比屈折率差が0.7%以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係る光偏波素子は、前記第1ポート導波路、前記第2ポート導波路および前記多モード干渉導波路はジルコニアを含む石英系ガラス材料からなることを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係る光偏波素子は、第1ポート導波路と、2つの第2ポート導波路と、前記第1ポート導波路及び前記2つの第2ポート導波路と光学的に接続された矩形の多モード干渉導波路と、を備え、前記多モード干渉導波路には1以上のスリットが形成されており、該スリットは、前記第1ポート導波路から前記2つの第2ポート導波路へ向かう方向に略平行に延伸していることを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係る光偏波素子の製造方法は、第1ポート導波路と、2つの第2ポート導波路と、前記第1ポート導波路及び前記2つの第2ポート導波路と光学的に接続された多モード干渉導波路との導波路形状を形成する工程と、前記多モード干渉導波路にスリットを形成する工程と、を含み、前記スリットを、前記第1ポート導波路から入力された互いに直交する偏波の光のそれぞれに対して、前記多モード干渉導波路が異なる実効屈折率を与え、これにより前記互いに直交する偏波の光が分離されて前記2つの第2ポート導波路のそれぞれから出力される形状に形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、放射損失を抑制し、小型化が可能であり、かつ製造も容易な光偏波素子を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A図1Aは、実施形態1に係る光偏波素子の模式図である。
図1B図1Bは、実施形態1に係る光偏波素子の模式図である。
図2A図2Aは、実施形態2に係る光偏波素子の模式図である。
図2B図2Bは、実施形態2に係る光偏波素子の模式図である。
図3図3は、図2Aに示す光偏波素子の光学特性のシミュレーション結果を示す図である。
図4図4は、実施例の光偏波素子の光学特性の測定結果を示す図である。
図5図5は、実施形態3に係る光偏波素子の模式図である。
図6図6は、図5に示す光偏波素子の光学特性のシミュレーション結果を示す図である。
図7図7は、実施形態4に係る光偏波素子の模式図である。
図8図8は、図7に示す光偏波素子の光学特性のシミュレーション結果を示す図である。
図9図9は、従来の光偏波素子の一例の模式図である。
図10図10は、図9に示す光偏波素子の光学特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して実施形態について説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一又は対応する要素には適宜同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0019】
まず、従来の光偏波素子の一例について、図9を参照して説明する。図9に示す光偏波素子100は、石英系ガラスからなるMZI型の構成を有しており、入力ポート導波路101aと、1×2の光カプラ導波路101bと、2つのアーム導波路101c、101dと、2×2の光カプラ導波路101eと、2つの出力ポート導波路101f、101gと、これらの導波路の外周を取り囲むクラッド102と、1/4波長板103とを備えている。
【0020】
入力ポート導波路101aは、光カプラ導波路101bの1ポート側に接続されている。光カプラ導波路101bは多モード光干渉導波路である。2つのアーム導波路101c、101dは、それぞれ、一端が光カプラ導波路101bの2ポート側、他端が光カプラ導波路101eの一方の2ポート側に接続されている。光カプラ導波路101eも多モード光干渉導波路である。2つの出力ポート導波路101f、101gは、それぞれ、光カプラ導波路101eの他方の2ポート側に接続されている。
【0021】
クラッド102には、2つのアーム導波路101c、101dを横断するようにスリット102aが形成されており、スリット102a内に1/4波長板103が挿入されている。1/4波長板103は例えば接着剤で固定される。なお、図7では図示していないが、アーム導波路101c、101dは、スリット102aに向かってテーパ状に幅が広がる形状を有している。
【0022】
光偏波素子100は、入力ポート導波路101aに任意偏波の光L101が入力されると、これを互いに直交する2つの直線偏波(TMモード、TEモード)の光L102、L103に分離し、それぞれ出力ポート導波路101f、101gから出力する偏波分離素子として機能する。なお、光の相反性から、光偏波素子100は偏波合成素子としても機能する。
【0023】
図10は、光偏波素子100の光学特性の一例を示す図である。具体的には、クラッド102に対する各導波路(入力ポート導波路101a、光カプラ導波路101b、アーム導波路101c、101d、光カプラ導波路101e、出力ポート導波路101f、101g)の比屈折率差Δと、スリット損失との関係の一例を示す図である。ここで、スリット損失とは、スリット102aによる放射損失を含めた、スリット102aの存在により発生する損失である。なお、スリット102aの幅(アーム導波路101c、101dの対向する端面間の距離に相当)は一定としている。
【0024】
図10に示すように、比屈折率差Δが大きくなるにつれて、スリット損失は急激に大きくなる。スリット損失の増大は、主に放射損失の増大によるものである。
【0025】
図10からわかるように、比屈折率差が大きい設計では、放射損失をより一層低減することが重要である。また、上述したように、光偏波素子100では、スリット102a内に1/4波長板103を挿入して実装するための作業が必要となるため、必要以上に大型化する場合がある。
【0026】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討したところ、多モード干渉導波路にスリットを形成することで、偏波分離機能や偏波合成機能を発現させることができることを初めて見出した。
【0027】
(実施形態1)
図1A、Bは、実施形態1に係る光偏波素子の模式図であり、図1Aは上面図、図1B図1AのX−X線断面図である。
【0028】
光偏波素子10は、第1ポート導波路11aと、多モード干渉導波路11bと、2つの第2ポート導波路11ca、11cbと、クラッド12とを備えている。
【0029】
多モード干渉導波路11bは、長手方向(光の伝播方向)に垂直な断面が略矩形であり、上面視で略矩形の導波路であり、長方形の対向する短辺のそれぞれに第1ポート導波路11a、第2ポート導波路11ca、11cbが光学的に接続されている。
【0030】
クラッド12は、第1ポート導波路11a、多モード干渉導波路11b、第2ポート導波路11ca、11cbを取り囲んでおり、下部クラッド12aと、上部クラッド12bとを備えている。クラッド12は、例えばシリコン基板やガラス基板上に形成されている。
【0031】
クラッド12は、石英系ガラス材料で構成されている。第1ポート導波路11a、多モード干渉導波路11b、第2ポート導波路11ca、11cbは、いずれもクラッド12の屈折率よりも高い屈折率を有する石英系ガラス材料で構成されている。このような屈折率が高い石英系ガラス材料として、例えば屈折率を高めるドーパントとしてのゲルマニア(GeO)やジルコニア(Zr0)を含む石英ガラスを用いることができる。特に、ジルコニアを含む石英ガラスであるいわゆるSiO−ZrO系材料であれば、比屈折率を高くできるので好ましい。
【0032】
第1ポート導波路11aと第2ポート導波路11ca、11cbは、クラッド12に対する比屈折率差に応じて、使用波長(例えば1.55μm帯)の光をシングルモードで伝搬するように、その断面のサイズが設定されている。多モード干渉導波路11bは、クラッド12に対する比屈折率差に応じて、使用波長(例えば1.55μm帯)の光をマルチモードで伝搬し、かつ以下に説明する偏波分離、偏波合成の機能を有するように、その断面のサイズが設定されている。
【0033】
多モード干渉導波路11bには、2本のスリット11ba、11bbが形成されている。スリット11ba、11bb内は、上部クラッド12bと同じ材料で埋め込まれている。
【0034】
スリット11ba、11bbは、第1ポート導波路11aから入力された互いに直交する偏波の光のそれぞれに対して、多モード干渉導波路11bが異なる実効屈折率を与え、実効屈折率差を大きくし、これにより、第1ポート導波路11aから入力された互いに直交する偏波の光が分離されて第2ポート導波路11ca、11cbのそれぞれから出力される形状に形成されている。すなわち、例えば図1(a)に示すように、互いに直交する偏波モードであるTMモードの成分とTEモードの成分とを含む光L1が、第1ポート導波路11aに入力されると、光偏波素子10は第2ポート導波路11caからTEモードの光L2を出力し、第2ポート導波路11cbからTMモードの光L3を出力する。このように、光偏波素子10は偏波分離素子として機能する。また、光の相反性から、光偏波素子10は偏波分離素子としても機能する。すなわち、光偏波素子10は、第2ポート導波路11ca、11cbにそれぞれ互いに直交する2つの直線偏波(TEモード、TMモード)の光が入力されると、これらの光を偏波合成して第1ポート導波路11aから出力する。
【0035】
このような偏波分離、偏波合成機能を実現するために、スリット11ba、11bbは、第1ポート導波路11aから第2ポート導波路11ca、11cbへ向かう方向に、略直線状に延伸しており、かつ互いに略平行である。ここで、第1ポート導波路11aから第2ポート導波路11ca、11cbへ向かう方向とは、光偏波素子10において、第1ポート導波路11aに入力される光L1の進行方向である。この方向は、多モード干渉導波路11bの長手方向(光の伝播方向)と実質的に同じである。
【0036】
光偏波素子10のサイズについて例示すると、例えば長さLaは1900μmであり、第2ポート導波路11ca、11cb間のピッチPaは10μmである。スリット11ba、11bbの幅はそれぞれ0.6μmである。第1ポート導波路11a、第2ポート導波路11ca、11cbのサイズは3μm×3μmである。また、各導波路のクラッド12に対する比屈折率差は5.5%である。その他のサイズについては、これらの例示した値に応じて、所望の偏波消光比が得られるように設計することが好ましい。
【0037】
光偏波素子10は、従来の光偏波素子100のように導波路を横断するスリットを形成したものではないので、放射損失を抑制でき、過剰損失が小さくなる。また、従来の光偏波素子100の上面視のサイズが例えば3mm×2mm程度であるのに対して、光偏波素子10は、上面視のサイズが例えば2mm×0.015mm程度と大幅に小型化が可能である。また、光偏波素子10は、製造時に1/4波長板の挿入や固定の作業を行わなくてよいので、このような小型であっても製造の困難さは生じず、製造が容易であり、かつ製造歩留まりも高い。さらには、光偏波素子10では、比較的高価な1/4波長板を使用しないので低コストであり、1/4波長板を固定する接着剤も使用しないので、信頼性が高くなる。
【0038】
光偏波素子10について、上記に例示したサイズに設定して、偏波分離素子としてシミュレーション計算を行ったところ、波長1550nmにおいて、過剰損失は0.1dB以下であり、偏波消光比は30dB以上であった。
【0039】
なお、光偏波素子10は、例えば以下のような方法で製造できる。まず、例えばプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて、シリコン基板上に石英系ガラスからなるクラッド層を所定の厚さだけ成膜し、下部クラッド12aの部分を形成する。つづいて、スパッタ法によって、導波路となる層(導波路形成層)を成膜する。つづいて、クラッド層と導波路形成層を加熱処理してアニールし、透明ガラス化する。
【0040】
つづいて、導波路形成層を、フォトリソグラフィ技術およびエッチングによって、第1ポート導波路11a、多モード干渉導波路11b、第2ポート導波路11ca、11cbの形状にパターニングし、導波路形状を形成する。このとき、スリット11ba、11bbも同時に形成する。すなわち、スリット11ba、11bbを形成するための別途の工程は不要である。なお、エッチングについては、例えば石英系ガラスの加工プロセスにおいて用いられるフッ素系ガス(例えばCF)を用いたドライエッチングによって行う。
【0041】
つづいて、下部クラッド12aおよび各導波路を覆うように上部クラッド12bを形成する。上部クラッド12bは、例えば公知の火炎堆積(Flame Hydrolysis Deposition:FHD)法により石英系ガラスからなる微粒子を堆積し、この微粒子を加熱溶融して透明ガラス化することによって形成できる。
【0042】
なお、スリットの幅が0.3μm以上であれば、フォトリソグラフィ技術およびエッチングによって製造し易いので好ましい。
【0043】
(実施形態2)
図2A、Bは、実施形態2に係る光偏波素子の模式図であり、図2Aは上面図、図2(b)は図2Bの領域Aの拡大図である。
【0044】
光偏波素子20は、第1ポート導波路21aと、スリット21ba、21bbが形成された多モード干渉導波路21bと、2つの第2ポート導波路21ca、21cbと、クラッド22とを備えている。第1ポート導波路21a、多モード干渉導波路21b、第2ポート導波路21ca、21cbは、実施形態1の光偏波素子10の第1ポート導波路11a、多モード干渉導波路11b、第2ポート導波路11ca、11cbに対して構造最適化を行って、構造最適化形状としたものである。クラッド22は光偏波素子10のクラッド12と同様のものである。
【0045】
構造最適化形状とは、各導波路の外周面およびスリットの内周面の形状を微小に摂動させ、当該摂動させた形状における結合損失をコンピュータシミュレーションによって計算するというプロセスを繰り返すことにより、過剰損失が小さく抑えられる形状としてコンピュータシミュレーションによって特定された形状のことである。この最適化アルゴリズムは、例えば波面整合法やトポロジー最適化法という名で知られている手法を用いることができる。本実施形態2ではトポロジー最適化法を用いている。
【0046】
光偏波素子20は、光偏波素子10と同様に偏波分離素子、偏波合成素子として機能する。そして、光偏波素子20は、光偏波素子10と同様に、過剰損失の低減、小型化、製造容易性、高歩留り、低コスト、高信頼性を実現できる。特に、光偏波素子20では、光偏波素子10よりもさらに過剰損失を低減できる。
【0047】
光偏波素子20について、実施形態1において例示したサイズおよび比屈折率差に設定して、偏波分離素子としてシミュレーション計算を行ったところ、波長1550nmにおいて、過剰損失は0.05dB以下であり、偏波消光比は40dB以上であった。図3は、光偏波素子20の光学特性のシミュレーション結果を示す図である。図3は、TEモードの光を、第1ポート導波路から相対強度1で入力すると、図面上側の第2ポート導波路から強度0.990で出力され、下側の第2ポート導波路からはほとんど出力されないこと、および、TMモードの光を、第1ポート導波路から相対強度1で入力すると、下側の第2ポート導波路から強度0.987で出力され、上側の第2ポート導波路からはほとんど出力されないことを示している。
【0048】
さらに、実施例として、光偏波素子20について、実施形態1においてサイズおよび比屈折率差に設定し、実施形態1において例示した製造方法によって製造した。製造した光偏波素子を偏波分離素子として用い、過剰損失と偏波消光比(Polarization Extinction Ratio:PER)を、波長1530nmから1570nmまでの40nmの帯域で測定した。
【0049】
図4は、実施例の光偏波素子の光学特性の測定結果を示す図である。図4に示すように、40nmの広い帯域にわたって、過剰損失は0.2dB以下であり、PERは35dB以上であり、良好な偏波分離特性であることが確認された。
【0050】
(実施形態3)
図5は、実施形態3に係る光偏波素子の模式図である。光偏波素子30は、第1ポート導波路31aと、多モード干渉導波路31bと、2つの第2ポート導波路31ca、31cbと、クラッド32とを備えている。
【0051】
光偏波素子30は、多モード干渉導波路31bに形成されたスリット31baが一本である点が、実施形態1、2の光偏波素子10、20とは大きく異なる。また、各導波路やクラッド32の構成、材質、機能は光偏波素子10、20と同様である。また、各導波路は光偏波素子20と同様に構造最適化形状とされている。
【0052】
光偏波素子30のサイズについて例示すると、例えば長さLbは2500μmであり、第2ポート導波路31ca、31cb間のピッチPbは7.5μmである。スリット31baの幅は1.2μmである。第1ポート導波路31a、第2ポート導波路31ca、31cbのサイズは3μm×3μmである。また、各導波路のクラッド32に対する比屈折率差は5.5%である。その他のサイズについては、これらの例示した値に応じて、所望の偏波消光比が得られるように設計することが好ましい。
【0053】
光偏波素子30は、光偏波素子10、20と同様に偏波分離素子、偏波合成素子として機能し、過剰損失の低減、小型化、製造容易性、高歩留り、低コスト、高信頼性を実現できる。
【0054】
光偏波素子30について、例示したサイズおよび比屈折率差に設定して、偏波分離素子としてシミュレーション計算を行ったところ、波長1550nmにおいて、過剰損失は0.2dB以下であり、偏波消光比は39dB以上であった。図6は、光偏波素子30の光学特性のシミュレーション結果を示す図である。図6は、TEモードの光を、第1ポート導波路から相対強度1で入力すると、図面上側の第2ポート導波路から強度0.976で出力され、下側の第2ポート導波路からはほとんど出力されないこと、および、TMモードの光を、第1ポート導波路から相対強度1で入力すると、下側の第2ポート導波路から強度0.950で出力され、上側の第2ポート導波路からはほとんど出力されないことを示している。
【0055】
(実施形態4)
図7は、実施形態4に係る光偏波素子の模式図である。光偏波素子40は、第1ポート導波路41aと、多モード干渉導波路41bと、2つの第2ポート導波路41ca、41cbと、クラッド42とを備えている。
【0056】
光偏波素子40は、実施形態3の光偏波素子30と同様に、多モード干渉導波路41bに形成されたスリット41baが一本であるが、そのスリット幅はより幅広となっている。具体的には、スリット41baでは、スリット幅は、第1ポート導波路41aから第2ポート導波路41ca、41cbに向かって、まず徐々に広がり、その後等幅となり、第2ポート導波路41ca、41cb側では徐々に狭くなっている。また、各導波路やクラッド42の構成、材質、機能は光偏波素子10、20、30と同様である。また、各導波路は光偏波素子20、30と同様に構造最適化形状とされている。
【0057】
光偏波素子40のサイズについて例示すると、例えば長さLcは2500μmであり、スリット41baの等幅の部分の長さLdは2000μmである。スリット41baの幅は5μmである。また、各導波路のクラッド42に対する比屈折率差は5.5%である。その他のサイズについては、これらの例示した値に応じて、所望の偏波消光比が得られるように設計することが好ましい。
【0058】
光偏波素子40は、光偏波素子10、20、30と同様に偏波分離素子、偏波合成素子として機能し、過剰損失の低減、小型化、製造容易性、高歩留り、低コスト、高信頼性を実現できる。
【0059】
光偏波素子40について、例示したサイズおよび比屈折率差に設定して、偏波分離素子としてシミュレーション計算を行ったところ、波長1550nmにおいて、過剰損失は約0.78dB程度であり、偏波消光比は約19.5dBであった。図8は、光偏波素子40の光学特性のシミュレーション結果を示す図である。図8は、TEモードの光を、第1ポート導波路から相対強度1で入力すると、図面上側の第2ポート導波路から強度0.905で出力され、下側の第2ポート導波路からはほとんど出力されないこと、および、TMモードの光を、第1ポート導波路から相対強度1で入力すると、下側の第2ポート導波路から強度0.827で出力され、上側の第2ポート導波路からはほとんど出力されないことを示している。
【0060】
なお、上記実施形態および実施例では、各導波路のクラッドに対する比屈折率差は5.5%であるが、比屈折率差は5.5%には限定されない。比屈折率差が0.7%以上であれば、従来の構成に対して有利な効果を得ることができるので好ましい。
【0061】
また、上記実施形態および実施例では、スリットは、1本または2本であるが、3本以上であってもよい。スリットの本数が増加するほど、設計したスリットの形状に対して製造誤差が生じても、光偏波素子の光学特性に与える影響が少なくなる、すなわち、製造誤差に対するトレランスが高くなる。また、スリットの幅は、0.3μm以上、5.0μm以下であることが好ましい。スリットの幅が5.0μm以下であれば、光偏波素子の大型化を抑制できる。
【0062】
また、上記実施形態および実施例では、スリットは直線状であり、第1ポート導波路から前記2つの第2ポート導波路へ向かう方向に延伸しているが、スリットの形状はこれらに限定されない。すなわち、スリットが、第1ポート導波路から入力された互いに直交する偏波の光のそれぞれに対して、多モード干渉導波路が異なる実効屈折率を与え、これにより互いに直交する偏波の光が分離されて2つの第2ポート導波路のそれぞれから出力される形状であれば、本発明の効果を発揮することができる。
【0063】
また、上記実施形態および実施例では、光偏波素子は石英系ガラス材料からなるが、光学材料であれば特に限定されず、例えば半導体材料からなる光偏波素子にも適用できる。
【0064】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る光偏波素子は、光通信の分野において好適に利用できる。
【符号の説明】
【0066】
10、20、30、40 光偏波素子
11a、21a、31a、41a 第1ポート導波路
11b、21b、31b、41b 多モード干渉導波路
11ba、11bb、21ba、21bb、31ba、41ba スリット
11ca、11cb、21ca、21cb、31ca、31cb、41ca、41cb 第2ポート導波路
12、22、32、42 クラッド
12a 下部クラッド
12b 上部クラッド
A 領域
L1、L2、L3 光
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】