特表-19131053IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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再表2019-131053アルミニウム合金材並びにこれを用いたケーブル、電線及びばね部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2019年7月4日
【発行日】2019年12月26日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金材並びにこれを用いたケーブル、電線及びばね部材
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20191129BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20191129BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20191129BHJP
   H01B 7/04 20060101ALI20191129BHJP
   C22F 1/04 20060101ALN20191129BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20191129BHJP
【FI】
   C22C21/00 A
   H01B1/02 B
   H01B5/02 Z
   H01B7/04
   C22F1/04 H
   C22F1/00 604
   C22F1/00 606
   C22F1/00 623
   C22F1/00 625
   C22F1/00 630F
   C22F1/00 630G
   C22F1/00 630K
   C22F1/00 640A
   C22F1/00 661A
   C22F1/00 685Z
   C22F1/00 691B
   C22F1/00 691C
   C22F1/00 694A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】26
【出願番号】特願2019-516560(P2019-516560)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2018年12月7日
(11)【特許番号】特許第6615412号(P6615412)
(45)【特許公報発行日】2019年12月4日
(31)【優先権主張番号】特願2017-252087(P2017-252087)
(32)【優先日】2017年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】荒木 章好
(72)【発明者】
【氏名】金子 洋
(72)【発明者】
【氏名】荻原 吉章
【テーマコード(参考)】
5G301
5G307
5G311
【Fターム(参考)】
5G301AA01
5G301AA02
5G301AA03
5G301AA07
5G301AA08
5G301AA09
5G301AA12
5G301AA13
5G301AA14
5G301AA19
5G301AA20
5G301AA21
5G301AA23
5G301AA24
5G301AB05
5G301AD01
5G307CA03
5G307CB01
5G307CB02
5G311AB04
5G311AD01
5G311AD02
(57)【要約】
本発明のアルミニウム合金材は、高い耐屈曲疲労特性と所定の伸びを持ち、質量%で、Mg:0.20〜1.80%、Si:0.20〜2.00%およびFe:0.01〜1.50%を含有し、さらに、Cu、Ag、Zn、Ni、Ti、Co、Au、Mn、Cr、V、Zr、Snから選択される1種以上の元素:合計で0.00〜2.00%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、結晶粒が一方向に延在した繊維状金属組織を有し、前記結晶粒の長手方向に垂直なアルミニウム合金材の断面において、前記アルミニウム合金材の表面から前記アルミニウム合金材の厚さの1/20の厚さ位置Dに存在する結晶粒の平均結晶粒径R1が400nm以下であり、前記アルミニウム合金材の厚さ中心位置に存在する結晶粒の平均結晶粒径R2の前記平均結晶粒径R1に対する比(R2/R1)が1.8以上である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Mg:0.20〜1.80%、Si:0.20〜2.00%およびFe:0.01〜1.50%を含有し、さらに、Cu、Ag、Zn、Ni、Ti、Co、Au、Mn、Cr、V、ZrおよびSnの群から選択される1種以上の元素:合計で0.00〜2.00%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる合金組成を有するアルミニウム合金材であって、結晶粒が一方向に沿って延在した繊維状の金属組織を有し、前記結晶粒が延在する長手方向に垂直なアルミニウム合金材の断面において、前記アルミニウム合金材の表面から、前記アルミニウム合金材の厚さの1/20に相当する厚さ位置Dに存在する結晶粒における平均結晶粒径R1が400nm以下であり、かつ、前記アルミニウム合金材の厚さ中心位置Cに存在する結晶粒における平均結晶粒径R2の、前記厚さ位置Dにおける前記平均結晶粒径R1に対する比(R2/R1)が1.8以上であることを特徴とするアルミニウム合金材。
【請求項2】
前記結晶粒が延在する長手方向に平行なアルミニウム合金材の断面において、前記厚さ位置Dに存在する結晶粒は、前記長手方向に測定した長手方向寸法L1と前記長手方向に垂直な方向に測定した短手方向寸法L2との比(L1/L2)が10以上である請求項1に記載のアルミニウム合金材。
【請求項3】
前記アルミニウム合金材が線材である請求項1または2に記載のアルミニウム合金材。
【請求項4】
前記線材の線径が0.01〜1.50mmである請求項3に記載のアルミニウム合金材。
【請求項5】
前記アルミニウム合金材が板材である請求項1または2に記載のアルミニウム合金材。
【請求項6】
前記板材の板厚が0.02〜2.00mmである請求項5に記載のアルミニウム合金材。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材を用いたケーブル。
【請求項8】
請求項3〜6のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材を用いた電線。
【請求項9】
請求項3〜6のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材を用いたばね部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金材並びにこれを用いたケーブル、電線及びばね部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ロボットケーブル等のキャブタイヤケーブル、エレベータケーブルといった、電力あるいは信号を伝送するケーブルには、銅系の金属材料が広く用いられてきた。最近では、銅系の金属材料に比べて、比重が小さく、さらに熱膨張係数が大きい他、電気や熱の伝導性も比較的良好で、耐食性に優れるアルミニウム系材料への代替が検討されている。
【0003】
しかし、純アルミニウム材は、銅系の金属材料に比べて屈曲疲労破断回数(以下、耐屈曲疲労特性という。)が低いという問題があった。また、析出強化を利用し、比較的耐屈曲疲労特性が高いアルミニウム系合金材である、2000系(Al−Cu系)や7000系(Al−Zn−Mg系)のアルミニウム合金材は、耐食性や耐応力腐食割れ性が劣り、導電性が低い等の問題があった。電気や熱の伝導性および耐食性が比較的優れている6000系のアルミニウム合金材は、アルミニウム系合金材の中では耐屈曲疲労特性が高い方ではあるが、十分でなく、更なる耐屈曲疲労特性の向上が望まれている。
【0004】
一方、導電用アルミニウム合金の耐屈曲疲労特性を向上させる方法として、ECAP法といった強加工法による微細結晶粒の形成方法(例えば特許文献1)などが提案されている。しかし、ECAP法は、製造されるアルミニウム合金線材の長さが短く、工業的な実用化が難しかった。また、特許文献1に記載されているECAP法を用いて作製したアルミニウム合金線材は、純アルミニウム線材の10倍以下の繰返し破断回数(破断繰返し数)であり、長期間の使用に耐えられる十分な耐屈曲疲労特性を持つとは言えない。また、強加工法によって作製されたアルミニウム合金線材は、伸びに劣るため、伸線加工や撚線加工をする際に断線が頻発する問題がある。
【0005】
また、特許文献2には、Al−Fe−Mg−Si系のアルミニウム合金の芯材に、銅を被覆して冷間加工を行って強度を高めた銅被覆アルミニウム合金線が記載されている。しかしながら、特許文献2に記載の銅被覆アルミニウム合金線では、弾性限が小さいために塑性変形しやすい銅系材料が、曲げひずみの大きくなる線材表層に存在するため、繰返し屈曲中に銅被覆層の表面に亀裂が発生しやすく、また、アルミニウム合金の芯材と銅被覆層に形成する化合物が亀裂発生点となるなど、耐屈曲疲労特性に劣るという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/146762号
【特許文献2】特開2010−280969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高い耐屈曲疲労特性を持つと共に所定の伸びを持つアルミニウム合金材並びにこれを用いたケーブル、電線及びばね部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1]質量%で、Mg:0.20〜1.80%、Si:0.20〜2.00%およびFe:0.01〜1.50%を含有し、さらに、Cu、Ag、Zn、Ni、Ti、Co、Au、Mn、Cr、V、ZrおよびSnの群から選択される1種以上の元素:合計で0.00〜2.00%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる合金組成を有するアルミニウム合金材であって、結晶粒が一方向に沿って延在した繊維状の金属組織を有し、前記結晶粒が延在する長手方向に垂直なアルミニウム合金材の断面において、前記アルミニウム合金材の表面から、前記アルミニウム合金材の厚さの1/20に相当する厚さ位置Dに存在する結晶粒における平均結晶粒径R1が400nm以下であり、かつ、前記アルミニウム合金材の厚さ中心位置Cに存在する結晶粒における平均結晶粒径R2の、前記厚さ位置Dにおける前記平均結晶粒径R1に対する比(R2/R1)が1.8以上であることを特徴とするアルミニウム合金材。
[2]前記結晶粒が延在する長手方向に平行なアルミニウム合金材の断面において、前記厚さ位置Dに存在する結晶粒は、前記長手方向に測定した長手方向寸法L1と前記長手方向に垂直な方向に測定した短手方向寸法L2との比(L1/L2)が10以上である上記[1]に記載のアルミニウム合金材。
[3]前記アルミニウム合金材が線材である上記[1]または[2]に記載のアルミニウム合金材。
[4]前記線材の線径が0.01〜1.50mmである上記[3]に記載のアルミニウム合金材。
[5]前記アルミニウム合金材が板材である上記[1]または[2]に記載のアルミニウム合金材。
[6]前記板材の板厚が0.02〜2.00mmである上記[5]に記載のアルミニウム合金材。
[7]上記[3]〜[6]のいずれか1つに記載のアルミニウム合金材を用いたケーブル。
[8]上記[3]〜[6]のいずれか1つに記載のアルミニウム合金材を用いた電線。
[9]上記[3]〜[6]のいずれか1つに記載のアルミニウム合金材を用いたばね部材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い耐屈曲疲労特性を持つと共に所定の伸びを持つアルミニウム合金材並びにこれを用いたケーブル、電線及びばね部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態のアルミニウム合金材の長手方向に垂直な概略断面図であり、(a)はアルミニウム合金材が線材である場合、(b)はアルミニウム合金材が板材である場合を示す。
図2】実施の形態のアルミニウム合金材における結晶粒の状態を示す概略図であり、(a)は厚さ位置Dに存在する結晶粒の状態、(b)は厚さ中心位置Cに存在する結晶粒の状態を示す。
図3】耐屈曲疲労特性を測定する装置の概略図である。
図4】実施例1のアルミニウム合金線材の長手方向に平行な断面を示すSIM画像である。
図5】実施例1のアルミニウム合金線材の長手方向に垂直な断面における、線材表面から線径の1/20に相当する厚さ位置の部分を示すSIM画像である。
図6】実施例1のアルミニウム合金線材の長手方向に垂直な断面における、線材の中心部を示すSIM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施の形態に基づき詳細に説明する。
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、所定の合金組成を有し、結晶粒が一方向に沿って延在した状態の金属組織を有し、平均結晶粒径が所定の状態であることにより、従来のアルミニウム合金材の耐屈曲疲労特性を大きく超えると共に、銅系の金属材料に匹敵する耐屈曲疲労特性を持ちながらも、伸びに優れるアルミニウム合金材が得られることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0013】
実施の形態のアルミニウム合金材は、質量%で、マグネシウム(Mg):0.20〜1.80%、ケイ素(Si):0.20〜2.00%および鉄(Fe):0.01〜1.50%を含有し、さらに、銅(Cu)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、金(Au)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)およびスズ(Sn)の群から選択される1種以上の元素:合計で0.00〜2.00%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる合金組成を有し、結晶粒が一方向に沿って延在した繊維状の金属組織を有する。また、アルミニウム合金材は、前記結晶粒が延在する長手方向に垂直なアルミニウム合金材の断面において、前記アルミニウム合金材の表面から、前記アルミニウム合金材の厚さの1/20に相当する厚さ位置Dに存在する結晶粒における平均結晶粒径R1が400nm以下であり、かつ、前記アルミニウム合金材の厚さ中心位置Cに存在する結晶粒における平均結晶粒径R2の、前記厚さ位置Dにおける前記平均結晶粒径R1に対する比(R2/R1)が1.8以上である。
【0014】
ここで、上記合金組成の元素成分のうち、含有範囲の下限値が「0.00%」と記載されている元素成分は、適宜、必要に応じて任意にアルミニウム合金材に添加される成分を意味する。すなわち、元素成分の下限値が「0.00%」である場合、その元素成分は、アルミニウム合金材中には含有していないか、あるいは検出限界値未満の量を含有していることを意味する。
【0015】
また、本明細書において、「結晶粒」とは、方位差境界で囲まれた部分を指す。ここで「方位差境界」とは、走査透過電子顕微鏡法(STEM)や、走査イオン顕微鏡法(SIM)等によって、金属組織を観察した際に、コントラスト(チャネリングコントラスト)が不連続に変化する境界を指す。また、結晶粒が延在する長手方向に垂直な寸法は、方位差境界の間隔に相当する。
【0016】
(1)アルミニウム合金材の結晶粒の状態
実施の形態のアルミニウム合金材の結晶粒の状態とその作用について図1および図2を用いて説明する。
【0017】
アルミニウム合金材は、結晶粒が一方向に揃って延在した繊維状の金属組織を有する。また、アルミニウム合金材は、その結晶粒が繊維状であり、結晶粒が延在する長手方向に垂直な断面において、厚さ位置Dに存在する結晶粒における平均結晶粒径R1が400nm以下であり、かつ、厚さ中心位置Cに比較的大きな結晶粒径R2を有する結晶粒を保った状態である。このような微細な結晶粒は一方向に揃って延在した繊維状であり、結晶粒が延在する長手方向に垂直なアルミニウム合金材の断面内で見て、表面側(厚さ位置D)に存在する結晶粒と厚さ中心位置Cに存在する結晶粒とが異なる結晶粒径を有するため、結晶粒径に勾配のある金属組織となり、この金属組織は、従来のアルミニウム合金材にはない新たな金属組織である。
【0018】
ここで、上記厚さ位置Dとは、結晶粒が延在する長手方向に垂直なアルミニウム合金材の断面において、アルミニウム合金材の表面から、アルミニウム合金材の厚さの1/20に相当する位置である。また、厚さとは、例えば図1(a)に示すようにアルミニウム合金材が線材である場合には、線材の線径φに相当し、図1(b)に示すようにアルミニウム合金材が板材である場合には、板材の厚さtに相当する。例えば、図1(a)に示すようにアルミニウム合金材が線材である場合には、厚さ位置Dは、上記断面におけるアルミニウム合金材の中心に対して同心円環状に区画された領域内の位置であり、厚さ中心位置Cは、上記断面において、アルミニウム合金材の厚さの中心を含み、直径が厚さの2/10(直径が2φ/10)の円で囲まれた領域内の位置である。また、図1(b)に示すようにアルミニウム合金材が板材である場合には、厚さ位置Dは、上記断面において、アルミニウム合金材の上面及び下面にそれぞれ平行な矩形状に区画された領域内の位置であり、厚さ中心位置Cは、上記断面において、アルミニウム合金材の上面と下面との中間を規定する中心線を含み、短辺が厚さの2/10(短辺が2t/10)の矩形状に区画された領域内である。また、平均結晶粒径R1、R2とは、結晶粒が延在する長手方向に垂直な断面において、各結晶粒の輪郭に囲まれた領域から、各結晶粒の面積を求め、相当円を算出し、この相当円の直径を意味する。
【0019】
上記のように、アルミニウム合金材は、その厚さ中心位置Cほど結晶粒径が大きく、厚さ中心位置Cからその表面に向かって結晶粒径が小さくなる結晶粒径の勾配を有する。このようなアルミニウム合金材は、結晶粒が一方向に沿って延在した繊維状の金属組織を有すると共に、上記一方向に垂直な断面において、厚さ位置Dにおける平均結晶粒径R1が400nm以下、厚さ中心位置Cにおける平均結晶粒径R2と厚さ位置Dにおける平均結晶粒径R1との比(R2/R1)が1.8以上となるように制御されている。そのため、アルミニウム合金材は、銅系の金属材料に匹敵する高い耐屈曲疲労特性と、一定の伸び(例えば、屈曲歪振幅±0.25%で屈曲を繰り返したときの繰返し破断回数が10万回以上、かつ、引張試験による伸びが3%以上)とを、同時に実現し得る。特に、繰返し屈曲変形に対して、優れた耐疲労特性を発揮する。
【0020】
また、表面および厚さ位置Dを含むアルミニウム合金材の表層の結晶粒径を微細にすることは、疲労特性を改善する作用に加えて、粒界腐食を改善する作用、塑性加工した後のアルミニウム合金材の表面の肌荒れを低減する作用、せん断加工した際のダレやバリを低減する作用などに有効であり、アルミニウム合金材の特性を全般的に高める効果がある。
【0021】
アルミニウム合金材の金属組織は、繊維状であり、細長形状の結晶粒が一方向に揃って繊維状に延在した状態になっている。ここで、「一方向」とは、アルミニウム合金材の加工方向に相当する。例えば、アルミニウム合金材が線材である場合には、一方向は伸線方向に相当し、アルミニウム合金材が板材や箔である場合には、一方向は圧延方向に相当する。
【0022】
上記一方向は、好ましくはアルミニウム合金材の長手方向に対応する。すなわち、通常アルミニウム合金材は、その加工方向に垂直な寸法よりも短い寸法に個片化されていない限り、その加工方向は、その長手方向に対応する。例えばアルミニウム合金材が線材である場合、一方向は線材の長手方向に相当する。
【0023】
さらに、結晶粒が延在する長手方向に垂直なアルミニウム合金材の断面において、厚さ位置Dにおける平均結晶粒径R1は、好ましくは400nm以下であり、より好ましくは230nm以下であり、さらに好ましくは210nm以下であり、特に好ましくは180nm以下であり、一層好ましくは150nm以下である。このようなアルミニウム合金材の繊維状金属組織では、一方向に延在した結晶粒の粒径(結晶粒が延在する長手方向に垂直な寸法)が小さいので、繰返し変形に伴う結晶すべりを効果的に抑制でき、従来よりも高い耐屈曲疲労特性を実現し得る。なお、厚さ位置Dにおける平均結晶粒径R1の下限値は、高耐屈曲疲労特性を実現する上で小さいほど好ましいが、製造上または物理上の限界として、例えば20nmである。
【0024】
また、結晶粒が延在する長手方向に垂直なアルミニウム合金材の断面において、厚さ中心位置Cにおける平均結晶粒径R2の、厚さ位置Dにおける平均結晶粒径R1に対する比(R2/R1)は、1.8以上であり、好ましくは2.0以上であり、より好ましくは2.2以上であり、さらに好ましくは2.4以上であり、特に好ましくは2.5以上である。このように、上記断面の表面付近に比べて、厚さ中心位置Cの結晶粒径が大きいので、引張変形時に転位の増加を許容できることにより、高い耐屈曲疲労特性を持ちながらも、一定の伸びを持つことができる。なお、上記比(R2/R1)の上限値は、高耐屈曲疲労特性と伸びとを両立する上で大きいほど好ましいが、製造上の限界として、例えば20.0である。
【0025】
さらに、結晶粒が延在する長手方向に平行なアルミニウム合金材の断面において、アルミニウム合金材に存在する結晶粒における長手方向に沿って測定した長手方向寸法は、特に特定されないが、好ましくは1200nm以上であり、より好ましくは1700nm以上であり、さらに好ましくは2200nm以上である。
【0026】
さらにまた、結晶粒が延在する長手方向に平行なアルミニウム合金材の断面において、厚さ位置Dに存在する結晶粒について、長手方向に沿って測定した長手方向寸法L1と長手方向に垂直な方向に沿って測定した短手方向寸法L2とのアスペクト比(L1/L2)は、好ましくは10以上であり、より好ましくは20以上である。前記アスペクト比(L1/L2)が上記範囲内であると、耐屈曲疲労特性が向上する。
【0027】
上記、結晶粒の状態が耐屈曲疲労特性を向上させるメカニズムとして、例えば、曲げ歪が最大となるアルミニウム合金材の表面において、結晶粒がアスペクト比の大きな繊維状であることで、亀裂の起点となる粒界が表面に少ないため、亀裂が発生しにくくなる機構、結晶粒の短手方向寸法L2が小さいため、転位が移動しにくいために、曲げ歪の全て、あるいは、大半を弾性歪として吸収できる機構、アルミニウム合金材の表面に亀裂発生点となるステップができにくくするとともに、亀裂が発生した際に粒界が亀裂伸展の障害となる機構、などが挙げられ、これらの機構が相乗的に作用していると考えられる。
【0028】
また、上記、結晶粒の状態が引張伸びを向上させるメカニズムとして、例えば、厚さ中心位置Cの平均結晶粒径が大きく、蓄積された格子歪が小さいため、大きな塑性変形能を有しており、引張変形時の塑性変形を十分に吸収できる機構、厚さ位置Dの平均結晶粒径が小さいことで、引張歪を弾性変形で吸収できる機構、などが挙げられる。
【0029】
(2)アルミニウム合金材の合金組成
次に、実施の形態のアルミニウム合金材の合金組成とその作用について説明する。
【0030】
(必須添加成分)
アルミニウム合金材は、質量%で、Mgを0.20〜1.80%、Siを0.20〜2.00%、Feを0.01〜1.50%含有している。以下では、質量%を単に%と記載する。
【0031】
<Mg:0.20〜1.80%>
Mgは、アルミニウム母材中に固溶して強化する作用、および、結晶の微細化作用を有すると共に、Siとの相乗効果によって引張強度や耐屈曲疲労特性を向上させる作用を持つ。また、Mgは、溶質原子クラスターとしてMg−Siクラスターを形成した場合、引張強度や伸びを向上させる作用を有する元素である。しかしながら、Mgの含有量が0.20%未満であると、上記効果が不十分である。また、Mgの含有量が1.80%を超えると、晶出物が形成され、加工性(伸線加工性や曲げ加工性など)が低下する。したがって、Mgの含有量は、0.20〜1.80%とし、好ましくは0.40〜1.00%である。
【0032】
<Si:0.20〜2.00%>
Siは、アルミニウム母材中に固溶して強化する作用、および、結晶の微細化作用を有すると共に、Mgとの相乗効果によって引張強度や耐屈曲疲労特性を向上させる作用を持つ。また、Siは、溶質原子クラスターとしてMg−Siクラスターや、Si−Siクラスターを形成した場合、引張強度や伸びを向上させる作用を有する元素である。しかしながら、Siの含有量が0.20%未満であると、上記効果が不十分である。また、Siの含有量が2.00%を超えると、晶出物が形成され、加工性が低下する。したがって、Siの含有量は、0.20〜2.00%とし、好ましくは0.40〜1.00%である。
【0033】
<Fe:0.01〜1.50%>
Feは、鋳造や均質化熱処理中に、Al−Fe系、Al−Fe−Si系、Al−Fe−Si−Mg系などアルミニウムや必須添加元素と金属間化合物として晶出または析出する。これらのようにFeとAlとで主に構成される金属間化合物を、本明細書ではFe系化合物と呼ぶ。Fe系化合物は、結晶粒の微細化に寄与すると共に、引張強度を向上させる。また、Feは、アルミニウム中に固溶したFeによっても引張強度を向上させる作用を有する。Feの含有量が0.01%未満であると、これらの効果が不十分である。また、Feの含有量が1.50%を超えると、Fe系化合物が多くなりすぎて、加工性が低下する。なお、鋳造時の冷却速度が遅い場合は、Fe系化合物の分散が疎となり、悪影響度が高まる。したがって、Feの含有量は、0.01〜1.50%とし、好ましくは0.02〜0.80%、より好ましくは0.03〜0.50%、さらに好ましくは0.04〜0.30、一層好ましくは0.05〜0.25%である。
【0034】
上記成分が結晶を微細化させるメカニズムとして、例えば、上記成分の原子半径とアルミニウムの原子半径との差が大きいために、結晶粒界のエネルギーを低下させる機構、上記成分の拡散係数が大きいために、上記成分が結晶粒界に入り込んだ場合に結晶粒界の移動度を低下させ、結晶微細化効果を向上するとともに、繰返し変形中の結晶組織粗大化を抑制する機構、空孔との相互作用が大きく空孔をトラップするために拡散現象を遅延させる機構、などが挙げられ、これらの機構が相乗的に作用しているものと考えられる。
【0035】
(任意添加成分)
アルミニウム合金材は、必須添加成分であるMg、Si、Feに加えて、さらに、任意添加成分として、Cu、Ag、Zn、Ni、Ti、Co、Au、Mn、Cr、V、ZrおよびSnの群から選択される1種以上の元素を合計で2.00%以下含有している。
【0036】
<Cu、Ag、Zn、Ni、Ti、Co、Au、Mn、Cr、V、ZrおよびSnの群から選択される1種以上の元素:合計で0.00〜2.00%>
Cu、Ag、Zn、Ni、Ti、Co、Au、Mn、Cr、V、Zr、Snはいずれも、特に耐熱性を向上させる元素である。このような効果を十分に発揮させる観点から、これらの任意添加成分の含有量の合計を0.06%以上とすることが好ましい。しかし、これらの任意添加成分の含有量の合計を2.00%超とすると、加工性が低下する。したがって、Cu、Ag、Zn、Ni、Ti、Co、Au、Mn、Cr、V、ZrおよびSnの群から選択される1種以上の元素の含有量の合計は、0.00〜2.00%とし、好ましくは0.06%〜2.00%、より好ましくは0.30〜1.20%である。なお、これらの元素の合計含有量は、0.00%としてもよい。また、これらの元素は、1種の元素のみの単独で添加されてもよいし、2種以上の元素の組み合わせで添加されてもよい。
【0037】
また、腐食環境で使用される場合の耐食性を配慮すると、アルミニウム合金材は、Zn、Ni、Ti、Co、Mn、Cr、V、ZrおよびSnの群から選択される1種以上の元素を含有することが好ましい。さらに、これらの元素の含有量の合計が0.06%未満であると、耐食性の効果が不十分である。また、これらの元素の含有量の合計が2.00%超であると、加工性が低下する。したがって、耐食性の観点からは、Zn、Ni、Ti、Co、Mn、Cr、V、ZrおよびSnの群から選択される1種以上の元素の含有量の合計は、好ましくは0.06〜2.00%であり、より好ましくは0.30〜1.20%である。
【0038】
<Cu:0.00〜2.00%>
Cuは、特に耐熱性を向上させる元素である。このような効果を十分に発揮させる観点から、Cuの含有量を0.06%以上とすることが好ましい。しかし、Cuの含有量を2.00%超とすると、加工性が低下するとともに、耐腐食性が低下する。したがって、Cuの含有量は、好ましくは0.00〜2.00%、より好ましくは0.06%〜2.00%、さらに好ましくは0.30〜1.20%である。なお、Cuの含有量は、0.00%としてもよい。
【0039】
<Ag:0.00〜2.00%>
Agは、特に耐熱性を向上させる元素である。このような効果を十分に発揮させる観点から、Agの含有量を0.06%以上とすることが好ましい。しかし、Agの含有量を2.00%超とすると、加工性が低下する。したがって、Agの含有量は、好ましくは0.00〜2.00%、より好ましくは0.06%〜2.00%、さらに好ましくは0.30〜1.20%である。なお、Agの含有量は、0.00%としてもよい。
【0040】
<Zn:0.00〜2.00%>
Znは、特に耐熱性を向上させる元素である。このような効果を十分に発揮させる観点から、Znの含有量を0.06%以上とすることが好ましい。しかし、Znの含有量を2.00%超とすると、加工性が低下する。したがって、Znの含有量は、好ましくは0.00〜2.00%、より好ましくは0.06%〜2.00%、さらに好ましくは0.30〜1.20%である。なお、Znの含有量は、0.00%としてもよい。また、腐食環境で使用される場合の耐食性を配慮すると、アルミニウム合金材は、Znを含有することが好ましい。さらに、Znの含有量が0.06%未満であると、耐食性の効果が不十分である。また、Znの含有量が2.00%超であると、加工性が低下する。したがって、耐食性の観点からは、Znの含有量は、好ましくは0.06〜2.00%であり、より好ましくは0.30〜1.20%である。
【0041】
<Ni:0.00〜2.00%>
Niは、特に耐熱性を向上させる元素である。このような効果を十分に発揮させる観点から、Niの含有量を0.06%以上とすることが好ましい。しかし、Niの含有量を2.00%超とすると、加工性が低下する。したがって、Niの含有量は、好ましくは0.00〜2.00%、より好ましくは0.06%〜2.00%、さらに好ましくは0.30〜1.20%である。なお、Niの含有量は、0.00%としてもよい。また、腐食環境で使用される場合の耐食性を配慮すると、アルミニウム合金材は、Niを含有することが好ましい。さらに、Niの含有量が0.06%未満であると、耐食性の効果が不十分である。また、Niの含有量が2.00%超であると、加工性が低下する。したがって、耐食性の観点からは、Niの含有量は、好ましくは0.06〜2.00%であり、より好ましくは0.30〜1.20%である。
【0042】
<Ti:0.00〜2.00%>
Tiは、鋳造時の結晶を微細化させ、また、耐熱性を向上させる元素である。このような効果を十分に発揮させる観点から、Tiの含有量を0.005%以上とすることが好ましい。しかし、Tiの含有量を2.00%超とすると、加工性が低下する。したがってTiの含有量は、好ましくは0.00〜2.00%、より好ましくは0.06%〜2.00%、さらに好ましくは0.30〜1.20%である。なお、Tiの含有量は、0.00%としてもよい。また、腐食環境で使用される場合の耐食性を配慮すると、アルミニウム合金材は、Tiを含有することが好ましい。さらに、Tiの含有量が0.06%未満であると、耐食性の効果が不十分である。また、Tiの含有量が2.00%超であると、加工性が低下する。したがって、耐食性の観点からは、Tiの含有量は、好ましくは0.06〜2.00%であり、より好ましくは0.30〜1.20%である。
【0043】
<Co:0.00〜2.00%>
Coは、特に耐熱性を向上させる元素である。このような効果を十分に発揮させる観点から、Coの含有量を0.06%以上とすることが好ましい。しかし、Coの含有量を2.00%超とすると、加工性が低下する。したがって、Coの含有量は、好ましくは0.00〜2.00%、より好ましくは0.06%〜2.00%、さらに好ましくは0.30〜1.20%である。なお、Coの含有量は、0.00%としてもよい。また、腐食環境で使用される場合の耐食性を配慮すると、アルミニウム合金材は、Coを含有することが好ましい。さらに、Coの含有量が0.06%未満であると、耐食性の効果が不十分である。また、Coの含有量が2.00%超であると、加工性が低下する。したがって、耐食性の観点からは、Coの含有量は、好ましくは0.06〜2.00%であり、より好ましくは0.30〜1.20%である。
【0044】
<Au:0.00〜2.00%>
Auは、特に耐熱性を向上させる元素である。このような効果を十分に発揮させる観点から、Auの含有量を0.06%以上とすることが好ましい。しかし、Auの含有量を2.00%超とすると、加工性が低下する。したがって、Auの含有量は、好ましくは0.00〜2.00%、より好ましくは0.06%〜2.00%、さらに好ましくは0.30〜1.20%である。なお、Auの含有量は、0.00%としてもよい。
【0045】
<Mn:0.00〜2.00%>
Mnは、特に耐熱性を向上させる元素である。このような効果を十分に発揮させる観点から、Mnの含有量を0.06%以上とすることが好ましい。しかし、Mnの含有量を2.00%超とすると、加工性が低下する。したがって、Mnの含有量は、好ましくは0.00〜2.00%、より好ましくは0.06%〜2.00%、さらに好ましくは0.30〜1.20%である。なお、Mnの含有量は、0.00%としてもよい。また、腐食環境で使用される場合の耐食性を配慮すると、アルミニウム合金材は、Mnを含有することが好ましい。さらに、Mnの含有量が0.06%未満であると、耐食性の効果が不十分である。また、Mnの含有量が2.00%超であると、加工性が低下する。したがって、耐食性の観点からは、Mnの含有量は、好ましくは0.06〜2.00%であり、より好ましくは0.30〜1.20%である。
【0046】
<Cr:0.00〜2.00%>
Crは、特に耐熱性を向上させる元素である。このような効果を十分に発揮させる観点から、Crの含有量を0.06%以上とすることが好ましい。しかし、Crの含有量を2.00%超とすると、加工性が低下する。したがって、Crの含有量は、好ましくは0.00〜2.00%、より好ましくは0.06%〜2.00%、さらに好ましくは0.30〜1.20%である。なお、Crの含有量は、0.00%としてもよい。また、腐食環境で使用される場合の耐食性を配慮すると、アルミニウム合金材は、Crを含有することが好ましい。さらに、Crの含有量が0.06%未満であると、耐食性の効果が不十分である。また、Crの含有量が2.00%超であると、加工性が低下する。したがって、耐食性の観点からは、Crの含有量は、好ましくは0.06〜2.00%であり、より好ましくは0.30〜1.20%である。
【0047】
<V:0.00〜2.00%>
Vは、特に耐熱性を向上させる元素である。このような効果を十分に発揮させる観点から、Vの含有量を0.06%以上とすることが好ましい。しかし、Vの含有量を2.00%超とすると、加工性が低下する。したがって、Vの含有量は、好ましくは0.00〜2.00%、より好ましくは0.06%〜2.00%、さらに好ましくは0.30〜1.20%である。なお、Vの含有量は、0.00%としてもよい。また、腐食環境で使用される場合の耐食性を配慮すると、アルミニウム合金材は、Vを含有することが好ましい。さらに、Vの含有量が0.06%未満であると、耐食性の効果が不十分である。また、Vの含有量が2.00%超であると、加工性が低下する。したがって、耐食性の観点からは、Vの含有量は、好ましくは0.06〜2.00%であり、より好ましくは0.30〜1.20%である。
【0048】
<Zr:0.00〜2.00%>
Zrは、特に耐熱性を向上させる元素である。このような効果を十分に発揮させる観点から、Zrの含有量を0.06%以上とすることが好ましい。しかし、Zrの含有量を2.00%超とすると、加工性が低下する。したがって、Zrの含有量は、好ましくは0.00〜2.00%、より好ましくは0.06%〜2.00%、さらに好ましくは0.30〜1.20%である。なお、Zrの含有量は、0.00%としてもよい。また、腐食環境で使用される場合の耐食性を配慮すると、アルミニウム合金材は、Zrを含有することが好ましい。さらに、Zrの含有量が0.06%未満であると、耐食性の効果が不十分である。また、Zrの含有量が2.00%超であると、加工性が低下する。したがって、耐食性の観点からは、Zrの含有量は、好ましくは0.06〜2.00%であり、より好ましくは0.30〜1.20%である。
【0049】
<Sn:0.00〜2.00%>
Snは、特に耐熱性を向上させる元素である。このような効果を十分に発揮させる観点から、Snの含有量を0.06%以上とすることが好ましい。しかし、Snの含有量を2.00%超とすると、加工性が低下する。したがって、Snの含有量は、好ましくは0.00〜2.00%、より好ましくは0.06%〜2.00%、さらに好ましくは0.30〜1.20%である。なお、Snの含有量は、0.00%としてもよい。また、腐食環境で使用される場合の耐食性を配慮すると、アルミニウム合金材は、Snを含有することが好ましい。さらに、Snの含有量が0.06%未満であると、耐食性の効果が不十分である。また、Snの含有量が2.00%超であると、加工性が低下する。したがって、耐食性の観点からは、Snの含有量は、好ましくは0.06〜2.00%であり、より好ましくは0.30〜1.20%である。
【0050】
<残部:Alおよび不可避不純物>
上述した成分以外の残部は、Alおよび不可避不純物である。不可避不純物は、製造工程上、不可避的に含まれうる含有レベルの不純物を意味する。不可避不純物は、含有量によっては加工性を低下させる要因にもなりうるため、加工性の低下を加味して不可避不純物の含有量をある程度抑制することが好ましい。不可避不純物として挙げられる成分としては、例えば、ホウ素(B)、ビスマス(Bi)、鉛(Pb)、ガリウム(Ga)、ストロンチウム(Sr)等の元素が挙げられる。なお、不可避不純物の含有量の上限値は、上記成分毎に0.05%以下、上記成分の合計で0.15%以下とすればよい。
【0051】
このようなアルミニウム合金材は、合金組成や製造プロセスを組み合わせて制御することにより実現できる。
【0052】
(3)アルミニウム合金材の特性
次に、実施の形態のアルミニウム合金材の特性について説明する。
【0053】
[耐屈曲疲労特性]
耐屈曲疲労特性の基準として、常温におけるひずみ振幅は±0.17%および±0.25%とした。耐屈曲疲労特性は、ひずみ振幅によって変化する。ひずみ振幅が大きい場合、疲労寿命は短くなり、ひずみ振幅が小さい場合、疲労寿命は長くなる。ひずみ振幅は、後述の図3に示す装置を用いて決定することができる。
【0054】
[伸び]
伸びは、JIS Z2241:2011に準拠して測定する。詳しい測定条件は、後述する実施例の欄にて説明する。
【0055】
アルミニウム合金材は、特に線材である場合に、伸びが好ましくは3.0%以上である。また、アルミニウム合金材の伸びは、より好ましくは3.5%以上、さらに好ましくは4.0%以上、特に好ましくは5.0%以上、より一層好ましくは6.0%以上である。このような一定の伸びを持つアルミニウム合金材は、加工時やケーブル製造時、使用時に断線することが少なくなるため、高い信頼性を得られる。なお、アルミニウム合金材の伸びの上限は、特に限定されないが、例えば20.0%である。
【0056】
(4)アルミニウム合金材の用途
実施の形態のアルミニウム合金材は、銅系材料およびアルミニウム系材料が用いられている、特に繰返し運動するあらゆる用途が対象となり得る。アルミニウム合金材は、具体的には、電線やケーブル等の導電部材、集電体用のメッシュや網等の電池用部材、コネクタや端子等の電気接点用ばね部材、半導体用のボンディングワイヤー、発電機やモータに用いられる巻線等として好適に用いることができる。
【0057】
導電部材のより具体的な用途例としては、キャブタイヤケーブル、架空送電線、OPGW、地中電線、海底ケーブルなどの電力用電線、電話用ケーブルや同軸ケーブルなどの通信用電線、ロボットケーブル、有線ドローン用ケーブル、EV/HEV用充電ケーブル、洋上風力発電用捻回ケーブル、エレベータケーブル、アンビリカルケーブル、電車用架線、ジャンパ線などの車両用電線、トロリ線などの機器用電線、自動車用ワイヤーハーネス、船舶用電線、飛行機用電線などの輸送用電線、バスバー、リードフレーム、フレキシブルフラットケーブル、避雷針、アンテナ、コネクタ、端子、ケーブルの編粗などが挙げられる。
【0058】
ばね部材のより具体的な用途例としては、ばね電極、端子、コネクタ、半導体プローブ用ばねなどが挙げられる。
【0059】
上記に加えて、アルミニウム合金材は、樹脂系材料、プラスチック材料、布などに導電性を持たせたり、強度や弾性率を制御せたりするために添加する金属繊維としても好適である。
【0060】
(5)アルミニウム合金材の製造方法
アルミニウム合金材、例えばAl−Mg−Si系合金線材は、曲げ歪の大きくなる表層近傍に小さな結晶粒を集積させながら、曲げ歪の小さい厚さ中心位置Cに比較的大きな結晶粒を存在させることにより、高耐屈曲疲労特性と伸びの両立を図ることができる。したがって、従来のアルミニウム合金材の製造方法で一般的に行われてきた、Mg−Si化合物の析出硬化、あるいは、結晶を微細化させる方法とは、アプローチが大きく異なる。
【0061】
実施の形態のアルミニウム合金材の好ましい製造方法では、所定の合金組成を有するアルミニウム合金素材に対し、最終加工として加工度で5以上の冷間加工[1]を行う。また、必要に応じて、冷間加工[1]の前に、表層の結晶粒径を微細にする前処理工程[2]、および、冷間加工[1]の後に、調質焼鈍[3]を行ってもよい。以下、詳しく説明する。
【0062】
通常、金属材料に繰返し応力が加わると、金属結晶の変形の素過程として、弾性変形とともに結晶すべりが生じる。このような結晶すべりが生じ易い金属材ほど、その表面に亀裂発生点を作るため、耐屈曲疲労特性が低いといえる。そのため、金属材の高耐屈曲疲労特性化に当たっては、金属組織内で生じる結晶すべりを抑制することが重要となる。このような結晶すべりの阻害要因としては、金属組織内の結晶粒界の存在が挙げられる。このような結晶粒界は、金属材に応力が加わった際に、結晶すべりが金属組織内で伝播することを抑制でき、その結果、金属材の疲労特性は高められる。
【0063】
そのため、金属材の高疲労寿命化にあたっては、金属組織内に結晶粒界を高密度で導入する、すなわち小さな結晶粒を集積させることが望ましいと考えられる。ここで、結晶粒界の形成機構としては、例えば、次のような金属組織の変形に伴う、金属結晶の分裂が考えられる。
【0064】
通常、多結晶材料の内部では、隣接する結晶粒同士の方位の違いや、加工工具と接する表層近傍とバルク内部との間の歪みの空間分布に起因して、応力状態は、複雑な多軸状態となっている。これらの影響により、変形前に単一方位であった結晶粒が、変形に伴って複数の方位に分裂していき、分裂した結晶同士の間には方位差境界が形成される。
【0065】
しかし、形成された方位差境界は、通常の12配位の最密原子配列から乖離している構造で界面エネルギーを有する。そのため、通常の金属組織では、結晶粒界が一定密度以上になると、増加した内部エネルギーが駆動力となり、動的もしくは静的な回復や再結晶が起きると考えられる。そのため、通常は、変形量を増やしても、結晶粒界の増加と減少が同時に起きるため、粒界密度は飽和状態になると考えられる。
【0066】
このような現象は、従来の金属組織である純アルミニウムや純銅における加工度と引張強度の関係とも一致する。通常の金属組織である純アルミニウムや純銅は、比較的低い加工度では引張強度の向上(硬化)がみられるが、加工度が増すほど硬化量は飽和する傾向にある。ここで、加工度は、上述の金属組織に加わる変形量に対応し、硬化量の飽和は粒界密度の飽和に対応すると考えられる。
【0067】
また、単に加工を行うだけでは、耐屈曲疲労特性は上昇する一方で、延性が低下していき、加工時や使用時に、断線しやすくなるといった問題がある。これは、結晶内に転位が多量に導入されるため転位密度が飽和し、それ以上の塑性変形を許容できなくなるためと考えられる。
【0068】
これに対し、実施の形態のアルミニウム合金材では、加工度が増すとともに表層での結晶粒界密度の増加、すなわち小さな結晶粒の集積が継続し、耐屈曲疲労特性が向上し続けることがわかった。これは、アルミニウム合金材が、上記合金組成を有することにより、結晶粒界密度の増加を促進し、金属組織内で結晶粒界が一定密度以上になっても、内部エネルギーの増加を抑制できることによるものと考えられる。その結果、金属組織内での回復や再結晶を防止でき、効果的に金属組織内に結晶粒界を増加できると考えられる。
【0069】
このようなMgとSiの複合添加による結晶微細化のメカニズムは必ずしも明らかではないが、(i)転位といった格子欠陥と強い相互作用を持つMgが、結晶の微細化を促進することで、結晶分断を促進すること、(ii)Al原子に対して原子半径の大きいMg原子と小さいSi原子とが粒界での原子配列のミスマッチを緩和することで、加工に伴う内部エネルギーの増加を効果的に抑制できることによるものと考えられる。
【0070】
また、実施の形態のアルミニウム合金材では、特に、その表面に塑性ひずみが導入されるため、表層近傍では非常に微細な結晶である一方で、厚さ中心位置Cは比較的大きな結晶が残ったままである。このような結晶組織を持つことで、曲げ変形時には、表層の微細な結晶が有効に働き、伸びに対しては、厚さ中心位置Cの大きな結晶が有効に働く。
【0071】
実施の形態のアルミニウム合金材の製造方法では、冷間加工[1]における加工度を5以上とする。特に、大きな加工度による加工を行うことにより、金属組織の変形に伴う金属結晶の分裂を促すことができ、アルミニウム合金材の内部に結晶粒界を高密度で導入できる。その結果、アルミニウム合金材の表層では小さな結晶粒が集積し、耐屈曲疲労特性が大幅に向上する。このような加工度は、好ましくは6以上、より好ましくは7以上とする。また加工度の上限は特に規定されないが、通常は15以下である。
【0072】
なお、加工度ηは、加工前の断面積をs1、加工後の断面積をs2(s1>s2)とするとき、下記式(1)で表される。加工度(無次元):η=ln(s1/s2) ・・・(1)
【0073】
冷間加工[1]の方法は、目的とするアルミニウム合金材の形状(線棒材、板材、条、箔など)に応じて適宜選択すればよく、例えばカセットローラーダイス、溝ロール圧延、丸線圧延、ダイス等による引抜き加工、スエージング等が挙げられる。また、上記のような加工における諸条件(潤滑油の種類、加工速度、加工発熱等)は、公知の範囲で適宜調整すればよい。
【0074】
加えて、冷間加工[1]の前に前処理工程[2]を行ってもよい。前処理工程[2]については、ショットピーニング、押出し、スエージング、スキンパス、圧延、再結晶法等が挙げられる。これにより、冷間加工[1]の前段階で、アルミニウム合金材の表層と内部との間で結晶粒径に勾配を付けることができ、冷間加工[1]後の結晶組織を、より微細に、かつ、結晶粒径の勾配を大きくすることができる。上記工程における諸条件(加工速度、加工発熱、温度等)は、公知の範囲で適宜焼成すればよい。
【0075】
アルミニウム合金素材は、上記合金組成を有するものであれば特に限定はなく、例えば、押出材、鋳塊材、熱間圧延材、冷間圧延材等を、使用目的に応じて適宜選択して用いることができる。
【0076】
また、残留応力の解放や伸びの向上を目的として、冷間加工[1]の後に調質焼鈍[3]を行ってもよい。調質焼鈍[3]の処理温度は50〜200℃とする。調質焼鈍[3]の処理温度が50℃未満の場合には、上記のような効果が得られにくく、200℃を超える場合には、回復や再結晶によって結晶粒の成長が起き、耐屈曲疲労特性が低下する。また、調質焼鈍[3]の保持時間は好ましくは1〜48時間である。なお、このような熱処理の諸条件は、不可避不純物の種類や量、およびアルミニウム合金素材の固溶・析出状態によって、適宜調節することができる。
【0077】
上述のように、アルミニウム合金素材に対し、ダイスによる引抜きや圧延等の方法により、高い加工度の加工が行われる。そのため、結果として、長尺のアルミニウム合金材が得られる。一方、粉末焼結、圧縮ねじり加工、High pressure torsion(HPT)、鍛造加工、Equal Channel Angular Pressing(ECAP)等のような従来のアルミニウム合金材の製造方法では、このような長尺のアルミニウム合金材を得ることは難しい。実施の形態のアルミニウム合金材は、好ましくは10m以上の長さで製造される。なお、製造時のアルミニウム合金材の長さの上限は、特に設けないが、作業性等を考慮し、50000mとすることが好ましい。
【0078】
また、実施の形態のアルミニウム合金材は、その表層の結晶粒の微細化のために加工度を大きくすることが有効である。そのため、線材を作製する場合には、細径にするほど、また、板材や箔を作製する場合には、薄厚にするほど、実施の形態のアルミニウム合金材の構成を実現し易い。
【0079】
特に、アルミニウム合金材が線材である場合、その線径は、好ましくは1.50mm以下、より好ましくは0.75mm以下、さらに好ましくは0.30mm以下、特に好ましくは0.10mm以下である。なお、線径の下限は、特に設けないが、作業性等を考慮し、0.01mmであることが好ましい。
【0080】
また、アルミニウム合金材が板材である場合、その板厚は、好ましくは2.00mm以下、より好ましくは1.50mm以下、さらに好ましくは1.00mm以下、特に好ましくは0.50mm以下である。なお、板厚の下限は、特に設けないが、作業性等を考慮し、0.02mmであることが好ましい。
【0081】
上述のようにアルミニウム合金材は、細くまたは薄く加工されるが、このようなアルミニウム合金材を複数用意し、これらを接合して太くまたは厚くして、目的の用途に使用することもできる。なお、接合の方法は、公知の方法を用いることができ、例えば圧接、溶接、接着剤による接合、摩擦攪拌接合等が挙げられる。また、アルミニウム合金材が線材である場合には、複数本束ねて撚り合わせ、アルミニウム合金撚線として、目的の用途に使用することもできる。なお、上記調質焼鈍[3]は、上記冷間加工[1]を行ったアルミニウム合金材を、接合あるいは撚り合わせによる加工を行った後に、行ってもよい。
【0082】
これまで説明した実施の形態によれば、上記の製造方法によって、所定の合金組成を有すると共に、細長形状の結晶粒が一方向に揃った延在状態の金属組織を有するアルミニウム合金材を製造することができる。このアルミニウム合金材は、厚さ位置Dにおける平均結晶粒径R1が400nm以下であり、かつ、比(R2/R1)が1.8以上である。そのため、アルミニウム合金材は、従来のアルミニウム合金材の耐屈曲疲労特性を大きく超え、銅系の金属材料に匹敵する耐屈曲疲労特性を持ちながらも、伸びに優れる。このようなアルミニウム合金材の線材は、銅系の導電部材の代替となり得る。
【0083】
以上、実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0084】
次に、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0085】
(実施例1〜4)
実施例1〜4は、表1に示す合金組成を有する直径10mmの棒材を用い、前処理工程[2]として直径1mmの鋼球を用いてショットピーニング加工を行った後、表1にそれぞれ示す製造条件A〜Dにて、いずれも線径0.5〜0.05mmのアルミニウム合金線材を作製した。
【0086】
(実施例5〜8)
実施例5〜8は、表1に示す合金組成を有する直径60mmの棒材を用い、前処理工程[2]としてスエージング加工により棒材を直径10mmとした後、表1にそれぞれ示す製造条件A〜Dにて、いずれも線径0.5〜0.05mmのアルミニウム合金線材を作製した。
【0087】
(実施例9〜15)
実施例9〜15は、表1に示す合金組成を有する直径10mmの棒材を用い、前処理工程[2]として線引きダイスを用い、1パス減面率<5%のスキンパス加工を行った後、表1にそれぞれ示す製造条件A〜D、C、D、Cにて、いずれも線径0.5〜0.05mmのアルミニウム合金線材を作製した。
【0088】
(実施例16〜18)
実施例16〜18は、表1に示す合金組成を有する直径60mmの棒材を用い、前処理工程[2]としてスエージング加工により棒材を直径30mmとした後、表1にそれぞれ示す製造条件A、A、Dにて、いずれも線径1.5〜0.2mmのアルミニウム合金線材を作製した。
【0089】
(比較例1〜4)
比較例1〜4は、表1に示す合金組成を有する直径10mmの棒材を用い、表1にそれぞれ示す製造条件C、C、F、Cにて、線径0.15mm、3.7mmのアルミニウム合金線材を作製した。
【0090】
(比較例5)
表1に示す合金組成を有し、表1に示す製造条件Eにて、線径0.08mmのアルミニウム合金線材を作製した。
【0091】
なお、表1に示す製造条件A〜Fは、具体的には以下のとおりである。
【0092】
<製造条件A>
準備した棒材に対し、加工度6.0の冷間加工[1]を行った。なお、調質焼鈍[3]は行わなかった。
【0093】
<製造条件B>
冷間加工[1]の加工度を8.5とした以外は、製造条件Aと同じ条件で行った。
【0094】
<製造条件C>
冷間加工[1]の加工度を11.0とした以外は、製造条件Aと同じ条件で行った。
【0095】
<製造条件D>
準備した棒材に対し、加工度8.5の冷間加工[1]を行い、その後、処理温度100℃、保持時間5時間の条件で調質焼鈍[3]を行った。
【0096】
<製造条件F>
冷間加工[1]の加工度を2.0とした以外は、製造条件Aと同じ条件で行った。
【0097】
(比較例5)
<製造条件E>
グラファイトルツボ内に、純度が99.95%のアルミニウム、純度が99.95%のマグネシウム、純度が99.99%のケイ素、純度が99.95%の鉄をそれぞれ所定量投入し、高周波誘導加熱により720℃で撹拌溶融して、Al−0.60質量%Mg−0.30質量%Si−0.05質量%Feの合金組成を有する溶湯を製造した。続いて、この溶湯をグラファイトダイスが設けられた容器に移し、水冷したグラファイトダイスを介して、約300mm/分の鋳造速度で10mmφ、長さが100mmのワイヤを連続鋳造した。そして、ECAP法によって4.0の累積相当ひずみを導入した。この段階の再結晶化温度は300℃と求められた。そして、不活性ガス雰囲気中で、250℃にて2時間の事前加熱を行った。次に、加工度0.34の第1の伸線処理を施した。この段階の再結晶化温度は300℃と求められた。そして、不活性ガス雰囲気中で、260℃にて2時間の1次熱処理を行った。その後、水冷した伸線ダイス内を500mm/分の引き抜き速度で通過させて、加工度9.3の第2の伸線処理を行った。この段階の再結晶化温度は280℃と求められた。そして、不活性ガス雰囲気中で、220℃にて1時間の2次熱処理を行って、線径0.08mmのアルミニウム合金線材を得た。
【0098】
[評価]
上記実施例および比較例で得られたアルミニウム合金線材を用いて、下記に示す特性評価を行った。各特性の評価条件は下記の通りである。結果を表1に示す。
【0099】
[1]合金組成
JIS H1305:2005に準じて、発光分光分析法によって行った。なお、測定は、発光分光分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて行った。
【0100】
[2]組織観察
金属組織の観察は、走査イオン顕微鏡(SMI3050TB、セイコーインスツル株式会社製)を用い、SIM(Scanning Ion Microscope)観察により行った。加速電圧30kVにて観察を行った。
【0101】
観察用試料は、上記アルミニウム合金線材の長手方向(加工方向)に平行な断面、および、垂直な断面について、FIB(Focused Ion Beam)により厚さ100nm±20nmで切断し、イオンミリングで仕上げたものを用いた。
【0102】
SIM観察では、グレーコントラストを用い、コントラストの違いを結晶の方位として、コントラストが不連続に異なる境界を結晶粒界として認識した。なお、電子線の回折条件によっては、結晶方位が異なっていてもグレーコントラストに差がない場合がある。その場合には、電子顕微鏡の試料ステージ内における直交する2本の試料回転軸によって±3°ずつ傾けて電子線と試料の角度を変えて、複数の回折条件で観察面を撮影し、粒界を認識した。なお観察視野は、(15〜40)μm×(15〜40)μmとし、上記加工方向に平行および垂直な断面において、中心部、および、線材表面から線径の1/20に相当する厚さ位置の部分を観察した。観察倍率は、結晶粒の大きさに応じて、適宜調整した。
【0103】
そして、SIM観察を行った際に撮影した画像から、アルミニウム合金線材の長手方向(加工方向)に平行な断面において、繊維状の金属組織の有無を判断した。繊維状の金属組織が観察された場合に、繊維状の金属組織が「有」と評価した。
【0104】
さらに、それぞれの観察視野において、結晶粒のうち任意の100個を選択し、平均結晶粒径R1、平均結晶粒径R2、長手方向寸法L1、短手方向寸法L2を測定した。そして、得られた測定値について結晶粒100個の平均値を算出し、平均結晶粒径R1、比(R2/R1)、アスペクト比(L1/L2)を求めた。なお、一部の比較例については、平均結晶粒径R1が400nmよりも明らかに大きかったので、400nmよりも大きい結晶粒を選択せずに、選択する結晶粒を100個から減らして、それぞれの平均値を算出した。また、明らかにアスペクト比(L1/L2)が10以上のものについては、アスペクト比(L1/L2)を一律に10以上(表1では、「≧10」と表示。)とした。
【0105】
[3]耐屈曲疲労特性
藤井精機株式会社(現株式会社フジイ)製の両振屈曲疲労試験機を用い、±0.17%および±0.25%の歪み振幅の曲げ歪みが与えられる治具を使用して、繰返し曲げを実施することにより、繰返し破断回数を測定した。この試験は、各実施例ににつき、4本の線材を用意し、線材4本を1本ずつ測定し、その平均値(N=4)を求めた。図3に示すように、アルミニウム合金線材1を、曲げ治具2及び3の間を約1mm空けて挿入し、曲げ治具2及び3に沿わせるように繰返し運動をさせた。巻癖のついた線材は、引張歪を付与することで真直とし、試験中に一定の場所に繰返し曲げ歪が付与されるようにした。アルミニウム合金線材1の一端は、繰返し曲げが実施できるよう押さえ治具5に固定し、もう一端には、アルミニウム合金線材1の0.2%耐力の1〜5%の負荷応力となるような重り4をぶら下げた。試験中は押さえ治具5が動くため、それに固定されているアルミニウム合金線材1も動き、繰返し曲げが実施できる。繰返しは1分間に100回の条件で行い、アルミニウム合金線材1が破断すると、重り4が落下し、カウントを停止する仕組みになっている。また、アルミニウム合金線材1は、従来のアルミニウム合金線材よりも強度が高く、重り4の重量が通常の繰返し曲げ試験よりも重くなる傾向があるため、曲げ治具2及び3での摩耗を抑制することを目的として、曲げ治具2及び3にPTFE製テープを貼付した。
【0106】
繰返し破断回数は、ひずみ振幅±0.17%では100万回(10)回以上を良好とし、ひずみ振幅±0.25%では10万回(10)回以上を良好とした。
【0107】
[4]伸び
JIS Z2241:2001に準じて、精密万能試験機(株式会社島津製作所製)を用いて、引張試験を行い、伸びを測定した。なお、この試験は、評点間距離を10cm、変形速度を10mm/分の条件で実施した。また、各実施例ににつき、3本の線材を用意し、線材3本を1本ずつ測定し、その平均値(N=3)を各線材の伸びとした。伸びは大きいほど好ましく、3.0%以上を合格レベルとした。
【0108】
【表1】
【0109】
実施例1のアルミニウム合金線材の金属組織の様子を示すSIM画像を図4〜6に示す。図4は、アルミニウム合金線材の長手方向に平行な断面を示すSIM画像である。図5は、アルミニウム合金線材の長手方向に垂直な断面における、線材表面から線径の1/20に相当する厚さ位置の部分を示すSIM画像である。図6は、アルミニウム合金線材の長手方向に垂直な断面の中心部を示すSIM画像である。
【0110】
図4に示されるように、アルミニウム合金線材において、繊維状の金属組織が観察された。また、図5に示すように、線材表面から線径の1/20に相当する厚さ位置の部分では、平均結晶粒径R1が400nm以下であり、図6に示すように、中心部では、比較的大きな結晶粒径を保った状態であった。
【符号の説明】
【0111】
1 アルミニウム合金線材
2、3 曲げ治具
4 重り
5 押さえ治具

図1
図2
図3
図4
図5
図6

【手続補正書】
【提出日】2019年8月19日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
g:0.20〜1.80質量%、Si:0.20〜2.00質量%およびFe:0.01〜1.50質量%を含有し残部がAlおよび不可避不純物からなる合金組成を有するアルミニウム合金材であって、結晶粒が一方向に沿って延在した繊維状の金属組織を有し、前記結晶粒が延在する長手方向に垂直なアルミニウム合金材の断面において、前記アルミニウム合金材の表面から、前記アルミニウム合金材の厚さの1/20に相当する厚さ位置Dに存在する結晶粒における平均結晶粒径R1が400nm以下であり、かつ、前記アルミニウム合金材の厚さ中心位置Cに存在する結晶粒における平均結晶粒径R2の、前記厚さ位置Dにおける前記平均結晶粒径R1に対する比(R2/R1)が1.8以上であることを特徴とするアルミニウム合金材。
【請求項2】
前記合金組成は、さらにCu:0.06〜0.31質量%、Ni:0.05〜0.10質量%、Ti:0.005〜0.020質量%、Mn:0.02〜0.12質量%およびCr:0.06〜0.17質量%の群から選択される1種以上の元素を、合計で0.06〜0.46質量%含有する請求項1に記載のアルミニウム合金材。
【請求項3】
前記結晶粒が延在する長手方向に平行なアルミニウム合金材の断面において、前記厚さ位置Dに存在する結晶粒は、前記長手方向に測定した長手方向寸法L1と前記長手方向に垂直な方向に測定した短手方向寸法L2との比(L1/L2)が10以上である請求項1または2に記載のアルミニウム合金材。
【請求項4】
前記アルミニウム合金材が線材である請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材。
【請求項5】
前記線材の線径が0.01〜1.50mmである請求項に記載のアルミニウム合金材。
【請求項6】
前記アルミニウム合金材が板材である請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材。
【請求項7】
前記板材の板厚が0.02〜2.00mmである請求項に記載のアルミニウム合金材。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材を用いたケーブル。
【請求項9】
請求項4〜7のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材を用いた電線。
【請求項10】
請求項4〜7のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材を用いたばね部材。
【国際調査報告】