特表-19097831IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石金属株式会社の特許一覧

<>
  • 再表WO2019097831-酸化第一錫及びその製造方法 図000004
  • 再表WO2019097831-酸化第一錫及びその製造方法 図000005
  • 再表WO2019097831-酸化第一錫及びその製造方法 図000006
  • 再表WO2019097831-酸化第一錫及びその製造方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2019年5月23日
【発行日】2020年11月19日
(54)【発明の名称】酸化第一錫及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 19/02 20060101AFI20201023BHJP
【FI】
   C01G19/02 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
【全頁数】20
【出願番号】特願2019-553713(P2019-553713)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2018年9月13日
(31)【優先権主張番号】特願2017-220474(P2017-220474)
(32)【優先日】2017年11月15日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】特許業務法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【弁理士】
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】竹本 幸一
(72)【発明者】
【氏名】伊森 徹
(57)【要約】
硫酸第一錫を、水溶液中で、炭酸アンモニウム又は重炭酸アンモニウムによって中和反応させて、酸化第一錫を析出させる工程、を含む、酸化第一錫の製造方法によって、塩素、硫黄、ナトリウム、及びカリウムを十分に低減しつつ、溶解性に優れた酸化第一錫を製造する新規な手段を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸第一錫を、水溶液中で、炭酸アンモニウム又は重炭酸アンモニウムによって中和反応させて、酸化第一錫を析出させる工程、
を含む、酸化第一錫の製造方法。
【請求項2】
中和反応が、pH6.0〜pH8.0の範囲のpHの水溶液中で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
重炭酸アンモニウム水溶液中へ、硫酸第一錫水溶液を添加することによって、中和反応が行われる、請求項1〜2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
重炭酸アンモニウム水溶液中の重炭酸アンモニウム濃度が、50〜150g/Lの範囲にある、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
硫酸第一錫水溶液中の錫濃度が、10〜130g/Lの範囲にある、請求項3〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
硫酸第一錫を中和反応させて、酸化第一錫を析出させる工程において、
硫酸第一錫を50〜80℃の範囲の温度で中和反応させた後に、
中和反応させた水溶液を60〜100℃の範囲の温度で保持して、酸化第一錫を析出させる、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
硫酸第一錫を中和反応させて、酸化第一錫を析出させる工程において、
硫酸第一錫を50〜80℃の範囲の温度で1〜10時間かけて中和反応させた後に、
中和反応させた水溶液を60〜100℃の範囲の温度で1〜10時間保持して、酸化第一錫を析出させる、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
酸化第一錫及び不可避不純物からなり、
酸化第一錫の含有量が99.99質量%以上であり、
次のいずれかを満たす、酸化第一錫:
塩素含有量が1ppm以下である; 又は
硫黄含有量が10ppm未満である。
【請求項9】
塩素含有量が1ppm以下であり、且つ硫黄含有量が10ppm未満である、請求項8に記載の酸化第一錫。
【請求項10】
ナトリウム含有量が5ppm未満であり、カリウム含有量が5ppm未満である、請求項8〜9のいずれかに記載の酸化第一錫。
【請求項11】
アンチモン含有量が、5ppm以下である、請求項8〜10のいずれかに記載の酸化第一錫。
【請求項12】
酸化第一錫が、粉末の形態である、請求項8〜11のいずれかに記載の酸化第一錫。
【請求項13】
粉末の含水率が、1〜10重量%の範囲にある、請求項12に記載の酸化第一錫。
【請求項14】
粉末の比表面積が、0.1〜1.0m2/gの範囲にある、請求項12〜13のいずれかに記載の酸化第一錫。
【請求項15】
粉末のTAP密度が、1.0〜4.0g/cm3の範囲にある、請求項12〜14のいずれかに記載の酸化第一錫。
【請求項16】
粉末の50%粒径(D50)が、20〜60μmの範囲にある、請求項12〜15のいずれかに記載の酸化第一錫。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化第一錫及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
錫めっきを行うにあたって、陽極を金属錫ではなく不溶性電極(白金、貴金属酸化物等)を使用する場合がある。その際、電解液から消耗する錫イオン補給として、しばしば酸化第一錫の添加が行われる。酸化第一錫(SnO)は、酸化第二錫(SnO2)に比べ溶解速度が速く、補給液の製造が容易である。
【0003】
溶解性のある酸化第一錫を作成するためには、従来から、塩化錫を出発材料とすることが望ましいとされている。そこで、例えば、特許文献1(特許第6095929号)は、塩化第一錫を原料として、酸化第一錫を製造する技術を開示している。しかし、この技術では、製造された酸化第一錫中に含まれる不純物である塩素を、十分に低減することが難しいという不利がある。その為、例えば、錫−銀めっきでは、塩素が存在すれば銀と反応して溶解度の低い塩化銀として析出して浴組成を変えてしまうために、錫一銀めっき向けの錫イオン補給源としては、塩素の十分な低減が求められる。
【0004】
特許文献2(特開2016−153361号)は、塩化第一錫や硫酸第一錫を原料として、酸化第一錫を製造する技術を開示している。しかし、この技術では、製造された酸化第一錫中には、原料となる錫溶液に由来する塩素イオン又は硫酸イオンを、十分に低減することが難しいという不利がある。半導体向けの錫材料においては、不純物となる塩素及び硫黄の十分な低減が求められる。
【0005】
特許文献3(特許第4975367号)は、有機スルホン酸が添加された硝酸アンモニウム水溶液を電解液として、錫をアノードとして電解し、酸化第一錫を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6095929号公報
【特許文献2】特開2016−153361号公報
【特許文献3】特許第4975367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者の検討によれば、特許文献3の製造方法によっても、得られる酸化第一錫中の不純物(塩素、硫黄、ナトリウム、カリウム)の低減は不十分なものであった。
【0008】
このように、塩素、硫黄、ナトリウム、及びカリウムを十分に低減しつつ、溶解性に優れた酸化第一錫を製造する技術が求められている。
【0009】
したがって、本発明の目的は、塩素、硫黄、ナトリウム、及びカリウムを十分に低減しつつ、溶解性に優れた酸化第一錫を製造する新規な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、後述する製造方法によって、塩素、硫黄、ナトリウム、及びカリウムを十分に低減しつつ、溶解性に優れた酸化第一錫を製造できることを見いだして、本発明に到達した。
【0011】
したがって、本発明は次の(1)以下を含む。
(1)
硫酸第一錫を、水溶液中で、炭酸アンモニウム又は重炭酸アンモニウムによって中和反応させて、酸化第一錫を析出させる工程、を含む、酸化第一錫の製造方法。
(2)
中和反応が、pH6.0〜pH8.0の範囲のpHの水溶液中で行われる、(1)に記載の製造方法。
(3)
重炭酸アンモニウム水溶液中へ、硫酸第一錫水溶液を添加することによって、中和反応が行われる、(1)〜(2)のいずれかに記載の製造方法。
(4)
重炭酸アンモニウム水溶液中の重炭酸アンモニウム濃度が、50〜150g/Lの範囲にある、(3)に記載の製造方法。
(5)
硫酸第一錫水溶液中の錫濃度が、10〜130g/Lの範囲にある、(3)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)
硫酸第一錫を中和反応させて、酸化第一錫を析出させる工程において、
硫酸第一錫を50〜80℃の範囲の温度で中和反応させた後に、
中和反応させた水溶液を60〜100℃の範囲の温度で保持して、酸化第一錫を析出させる、(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)
硫酸第一錫を中和反応させて、酸化第一錫を析出させる工程において、
硫酸第一錫を50〜80℃の範囲の温度で1〜10時間かけて中和反応させた後に、
中和反応させた水溶液を60〜100℃の範囲の温度で1〜10時間保持して、酸化第一錫を析出させる、(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
(8)
酸化第一錫及び不可避不純物からなり、
酸化第一錫の含有量が99.99質量%以上であり、
次のいずれかを満たす、酸化第一錫:
塩素含有量が1ppm以下である; 又は
硫黄含有量が10ppm未満である。
(9)
塩素含有量が1ppm以下であり、且つ硫黄含有量が10ppm未満である、(8)に記載の酸化第一錫。
(10)
ナトリウム含有量が5ppm未満であり、カリウム含有量が5ppm未満である、(8)〜(9)のいずれかに記載の酸化第一錫。
(11)
アンチモン含有量が、5ppm以下である、(8)〜(10)のいずれかに記載の酸化第一錫。
(12)
酸化第一錫が、粉末の形態である、(8)〜(11)のいずれかに記載の酸化第一錫。
(13)
粉末の含水率が、1〜10重量%の範囲にある、(12)に記載の酸化第一錫。
(14)
粉末の比表面積が、0.1〜1.0m2/gの範囲にある、(12)〜(13)のいずれかに記載の酸化第一錫。
(15)
粉末のTAP密度が、1.0〜4.0g/cm3の範囲にある、(12)〜(14)のいずれかに記載の酸化第一錫。
(16)
粉末の50%粒径(D50)が、20〜60μmの範囲にある、(12)〜(15)のいずれかに記載の酸化第一錫。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、塩素、硫黄、ナトリウム、及びカリウムを十分に低減しつつ、溶解性に優れた酸化第一錫を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1Aは、実施例4による酸化第一錫の溶解性試験の結果を示す写真である。
図1B図1Bは、実施例4による酸化第一錫の走査型電子顕微鏡(以下SEM)画像を示す写真である。
図2A図2Aは、比較例4による酸化第一錫の溶解性試験の結果を示す写真である。
図2B図2Bは、比較例4による酸化第一錫のSEM画像を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施の態様をあげて詳細に説明する。本発明は以下にあげる具体的な実施の態様に限定されるものではない。
【0015】
[酸化第一錫の製造]
本発明による酸化第一錫の製造は、硫酸第一錫を、水溶液中で、炭酸アンモニウム又は重炭酸アンモニウムによって中和反応させて、酸化第一錫を析出させる工程、を含む方法によって、行うことができる。
【0016】
[中和反応]
中和反応は、硫酸第一錫を、水溶液中で、炭酸アンモニウム又は重炭酸アンモニウムと反応させることによって行われる。好適な実施の態様において、炭酸アンモニウム又は重炭酸アンモニウム水溶液中へ、硫酸第一錫水溶液を添加することによって、中和反応が行われる。好適な実施の態様において、硫酸第一錫水溶液の添加は、公知の手段によって行うことができ、例えば滴下、噴出、噴霧等の手段を用いることができる。あるいは、好適な実施の態様において、水又は水溶液中へ、硫酸第一錫溶液、及び炭酸アンモニウム又は重炭酸アンモニウム水溶液を、同時に又は交互に添加することによって、中和反応を行うこともできる。これらの添加においても、滴下によって行うことができる。好適な実施の態様において、中和反応に際して、水溶液が適宜攪拌される。攪拌は、公知の手段によって行うことができる。
【0017】
中和反応は、炭酸アンモニウム又は重炭酸アンモニウムに加えて、水溶液中へ、アンモニア水の添加及び/又は炭酸ガスの吹き込みを行うことによって、進行させることができる。アンモニア水の添加は、アンモニウム水を添加された水溶液中のアンモニウムイオンの濃度が、重炭酸アンモニウムに由来するアンモニウムイオンとあわせて、後述する重炭酸アンモニウム濃度の範囲に基づくアンモニウムイオン濃度となるように、添加することができる。炭酸ガスの吹き込みは、炭酸ガスを吹き込まれた水溶液中の炭酸イオン及び炭酸水素イオンの濃度の総和が、重炭酸アンモニウムに由来する炭酸イオン及び炭酸水素イオンとあわせて、後述する重炭酸アンモニウム濃度の範囲に基づく炭酸イオン及び炭酸水素イオンの濃度の総和となるように、添加することができる。炭酸ガスの吹き込みは、公知の手段を用いて行うことができる。アンモニア水の添加及び/又は炭酸ガスの吹き込みは、後述するpH調整を兼ねて、行うことができる。
【0018】
[pH]
好適な実施の態様において、中和反応は例えばpH6.0〜pH8.0、好ましくはpH7.0〜pH8.0の範囲の水溶液中で行われる。pH調整は、例えば、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、又はアンモニア水の添加によって、行うことができる。あるいは、反応溶液中に炭酸ガスを吹き込んでpH調整してもよい。pHの値は、後述する二段階の温度調整を通じて、上記範囲に維持されることが好ましい。
【0019】
[反応温度、時間]
好適な実施の態様において、中和反応させる溶液の温度は、2段階にわけて調整する。すなわち、硫酸第一錫溶液、及び炭酸アンモニウム又は重炭酸アンモニウム水溶液の滴下によって中和反応を進行させる際の温度(一段目の反応温度)と、滴下の終了後に保持する際の温度(二段目の反応温度)の2段階にわけて温度調整する。滴下時の温度、すなわち、一段目の温度として、例えば50〜80℃、好ましくは50〜70℃、より好ましくは50〜60℃とすることができる。滴下の時間、すなわち、1段目の温度の保持時間は、例えば1〜10時間、好ましくは2〜5時間、より好ましくは2〜4時間とすることができる。滴下後の保持の温度、すなわち、2段目の温度として、例えば60〜100℃、好ましくは70〜90℃、より好ましくは70〜80℃とすることができる。滴下後の保持時間、すなわち、2段目の温度の保持時間は、例えば1〜10時間、好ましくは1〜4時間、より好ましくは1〜2時間とすることができる。
【0020】
[重炭酸アンモニウム濃度]
中和反応において重炭酸アンモニウム水溶液が使用される場合に、重炭酸アンモニウム濃度は、例えば50〜150g/L、好ましくは70〜120g/Lの範囲とすることができる。中和反応において炭酸アンモニウム水溶液が使用される場合にも、重炭酸アンモニウム濃度と同じ濃度範囲において、好適に使用できる。
【0021】
[錫濃度]
中和反応において硫酸第一錫水溶液が使用される場合に、硫酸第一錫水溶液中の錫濃度は、例えば10〜130g/L、好ましくは10〜100g/L、さらに好ましくは20〜90g/Lの範囲とすることができる。
【0022】
[酸化第一錫の析出]
中和反応によって、酸化第一錫が析出して、沈殿する。得られた沈殿を、固液分離して、酸化第一錫の粉末を得ることができる。固液分離は、公知の手段によって行うことができ、例えば吸引、圧搾ろ過、デカンテーション、遠心分離を使用することができる。酸化第一錫の粉末は、所望により、洗浄してもよく、例えば遠心分離機等の分離手段との組み合わせによって洗浄してもよい。
【0023】
[酸化第一錫]
本発明によって得られる酸化第一錫(SnO)は、酸化第一錫及び不可避不純物からなり、酸化第一錫の含有量が例えば99.99質量%以上、好ましくは99.995質量%以上とすることができ、例えば99.99〜99.995質量%、好ましくは99.99〜99.999質量%の範囲とすることができる。後述する不純物の含有量は、ICP質量分析装置(通称ICP−MS)、ICP発光分光分析装置(通称ICP−OES)、フレーム原子吸光装置(通称AAS)、塩素・硫黄分析装置/全有機ハロゲン分析装置(通称TOX)、Sは炭素・硫黄分析装置(通称LECO)分析によって求めることができる。
【0024】
[Cl含有量]
好適な実施の態様において、酸化第一錫のCl含有量(塩素含有量)は例えば5ppm未満、好ましくは1ppm以下、更に好ましくは1ppm未満とすることができる。本発明の酸化第一錫は、その製造において塩酸系の水溶液の使用が回避されているために、Cl含有量の著しい低減を可能としている。
【0025】
[S含有量]
好適な実施の態様において、酸化第一錫のS含有量(硫黄含有量)は例えば20ppm未満、好ましくは10ppm未満とすることができる。本発明の酸化第一錫は、その製造において硫酸系の水溶液を使用されているにもかかわらず、S含有量の著しい低減を可能としている。
【0026】
[Na含有量、K含有量]
好適な実施の態様において、酸化第一錫のNa含有量(ナトリウム含有量)は例えば5ppm未満、好ましくは1ppm未満とすることができる。好適な実施の態様において、酸化第一錫のK含有量(カリウム含有量)は例えば5ppm未満、好ましくは1ppm未満とすることができる。本発明の酸化第一錫は、その製造においてナトリウム含有物質、カリウム含有物質の使用が回避されているために、Na含有量、K含有量の著しい低減を可能としている。
【0027】
[不純物含有量]
好適な実施の態様において、酸化第一錫の不純物含有量は、Ag、As、Bi、Cd、Cr、Cu、In、Mg、Mn、Pb、Sb、Th、Tl、U、ZnはICP-MS((株)日立ハイテクサイエンス製SPQ9700)、Ca、Co、Fe、Ni、PはICP-OES((株)日立ハイテクサイエンス製SPS3500DD)、K、NaはAAS(アジレント・テクノロジー(株)製AA240FS)、ClはTOX((株)三菱ケミカルアナリテック製TOX−2100H)、SはLECO(LECOジャパン合同会社製CSLS600)によって含有量として、以下の含有量とすることができる:
Agが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Asが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Biが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Caが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Cdが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Coが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Crが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Cuが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Feが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Inが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Kが5ppm未満、好ましくは1ppm以下、さらに好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Mgが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Mnが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Naが5ppm未満、好ましくは1ppm以下、さらに好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Pが10ppm以下、好ましくは10ppm未満(検出限界未満)、Niが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Pbが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Thが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Tlが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Uが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Znが1ppm以下、好ましくは1ppm未満(検出限界未満)、Sbが5ppm以下、好ましくは2ppm以下、さらに好ましくは1.6ppm以下、あるいは0.1ppm以上、好ましくは0.5ppm以上、さらに好ましくは1.0ppm以上。
【0028】
[酸化第一錫の形態]
好適な実施の態様において、酸化第一錫の形態は、粉末状とすることができる。この粉末(酸化第一錫粉)の2次粒子形状は、例えば球状、及び、それらが複数結合した形状となっている。
【0029】
[含水率]
好適な実施の態様において、酸化第一錫の粉末は、例えば1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%の範囲の含水率とすることができる。本発明における含水率は、乾燥での重量減によって測定することができる。
【0030】
[比表面積]
好適な実施の態様において、酸化第一錫の粉末は、例えば0.1〜1.0m2/g、好ましくは0.1〜0.9m2/g、さらに好ましくは0.2〜0.5m2/gの範囲の比表面積とすることができる。本発明における比表面積は、QUANTA CHROME製Monosorb MS−21によって測定することができる。
【0031】
[TAP密度]
好適な実施の態様において、酸化第一錫の粉末は、例えば1.0〜4.0g/cm3、好ましくは2.0〜3.0g/cm3の範囲のTAP密度とすることができる。本発明におけるTAP密度は、株式会社セイシン企業製 TAPDENSER KYT−4000Kによって測定することができる。
【0032】
[50%粒径(D50)]
好適な実施の態様において、酸化第一錫の粉末は、例えば20〜60μm、好ましくは40〜60μm、あるいは30〜50μm、好ましくは40〜60μmの範囲の50%粒径(D50)とすることができる。本発明における50%粒径(D50)は、マイクロトラック・ベル(株)MT3300EX2によって測定することができる。
【0033】
[溶解性]
本発明による酸化第一錫の粉末は、溶解性に優れ、めっき液の補充のために、好適に使用することができる。本発明における溶解性とは、メタンスルホン酸溶液に対する溶解性をいう。この溶解性は、後述する実施例の条件下の溶解性として求めることができ、好適な実施の態様において、実施例の条件下における溶解時間が例えば20秒以下、好ましくは15秒以下、さらに好ましくは10秒以下である場合に、特に優れた溶解性ということができる。この溶解性は、メタンスルホン酸に酸化錫を溶かし、溶解させて5分間静置させた後での濁度を指標とすることができる。濁度は純水(無色透明)では「20度」になり、最大値は「500度」となる。後述する実施例で示されるように、好適な実施の態様において、本発明による酸化第一錫を溶解した溶液の濁度は「20度」とすることができる。濁度は、濁度計によって測定することができ、濁度計としては、例えば株式会社共立理化学研究所製デジタル濁度計500G(型式TB-500G)をあげることができる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例をあげて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
[実施例1]
[酸化第一錫の製造]
3Lビーカーに濃度100g/Lの重炭酸アンモニウム水溶液1Lを入れ、65〜70℃に加熱保持し、この重炭酸アンモニウム水溶液中へ、攪拌機で撹拌しながら錫濃度80g/Lの硫酸第一錫溶液1Lを2時間かけて滴下し、中和反応を行った(一段目)。反応後更に温度を75〜80℃まで上げて1時間保持した(二段目)。反応時の温度は、上述のように一段目と二段目の2段階にわけて所定時間保持した。中和反応時には、pH調整のために重炭酸アンモニウム溶解液を添加した。条件の詳細を、表1にまとめて示す。このようにして、粒子状の酸化第一錫を得た。この中和反応の反応式を以下に示す:

SnSO4+2(NH4)HCO3→SnO+(NH42SO4+H2O+2CO2
【0036】
[酸化第一錫の評価]
得られた粒子状の酸化第一錫を、次のように評価した。
不純物含有量を、ICP−MS、ICP−OES、AAS、TOX、LECO等を用いて分析した。
含水率を、乾燥機と電子天秤を用いて分析した。
比表面積を、QUANTA CHROME製Monosorb MS−21を用いて測定した。
TAP密度を、株式会社セイシン企業製TAPDENSER KYT−4000Kを用いて測定した。
粒度を、マイクロトラック・ベル株式会社製MT3300EX2によって測定した。
得られた結果を、表1にまとめて示す。
【0037】
[溶解性]
得られた粒子状の酸化第一錫の溶解性を、次のように溶解時間を求めることによって、評価した。
濃度96%のメタンスルホン酸を7.5mL採取し、純水で50mLに希釈する。酸化第一錫5.0gを、50mLビーカー中のメタンスルホン酸水溶液へ速やかに投入し、スターラーによって500rpmで攪拌しながら、投入から溶解するまでの時間を測定した。この時の溶液温度は23℃であった。目視によって黒い濁りが無色透明となったことを目安として、溶解の終了と判定して時間を測定した。得られた結果を、表1にまとめて示す。さらに、メタンスルホン酸に酸化錫を溶かし、溶解させて5分間静置させた後での濁度を、株式会社共立理化学研究所製デジタル濁度計500G(型式TB-500G)によって測定した。これらの結果をあわせて表1に示す。
【0038】
[実施例2〜6]
実施例1と同様の手順で、実施例2〜6を行った。条件の詳細は、表1にまとめて示す。実施例2、5、6においては、重炭酸アンモニウム水溶液の投入と同時に、炭酸ガスの吹き込みを行った。実施例2においては、さらに重炭酸アンモニウム水溶液の投入と同時に、アンモニア水の添加を行った。得られた粒子状の酸化第一錫を、実施例1と同様に評価した。溶解性の試験についても同様である。得られた結果を、表1にまとめて示す。実施例4について、溶解の終了と判定した時点での溶液の外観の写真を図1Aとして示す。
【0039】
[SEM画像]
得られた粒子状の酸化第一錫を、SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ、電子顕微鏡S−3000N)によって観察した。実施例4について、得られたSEM画像の写真を、図1Bとして示す。
【0040】
[比較例1]
硫酸第一錫溶液1Lに代えて、錫濃度100g/Lの塩酸酸性錫溶液1Lを滴下したことを除いて、実施例1と同様にして、中和反応を行った。条件の詳細を、表1にまとめて示す。得られた粒子状の酸化第一錫に対して、実施例1と同様に評価した。溶解性の試験についても同様である。得られた結果を、表1にまとめて示す。
【0041】
[比較例2〜4]
表1にそれぞれ記載した条件を除いて、実施例1と同様にして、中和反応を行った。条件の詳細を、表1にまとめて示す。得られた薄片状の酸化第一錫に対して、実施例1と同様に評価した。溶解性の試験についても同様である。得られた結果を、表1にまとめて示す。比較例4について溶解の終了と判定した時点での溶液の外観の写真を、図2Aとして示す。比較例4について得られた粒子状の酸化第一錫のSEM画像の写真を、図2Bとして示す。
【0042】
【表1】
【0043】
[結果]
実施例1〜6はメタンスルホン酸水溶液への溶解後完全に無色透明であり、又、不純物分析結果から非常に高純度であることが確認できた。比較例1〜3は溶解後が同様に無色透明であるが、それぞれ多量の不純物を含んでいた。比較例4では、酸化第一錫のメタンスルホン酸水溶液への溶解性は悪く、60秒後には白濁した状態のまま変化がなくなり、5分経過後もその状態が続き、参考のために測定した濁度は180度であった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、塩素、硫黄、ナトリウム、及びカリウムを十分に低減しつつ、溶解性に優れた酸化第一錫を製造することができる。本発明は産業上有用な発明である。
図1A
図1B
図2A
図2B

【手続補正書】
【提出日】2019年3月22日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸第一錫を、水溶液中で、炭酸アンモニウム又は重炭酸アンモニウムによって中和反応させて、酸化第一錫を析出させる工程、
を含む、酸化第一錫の製造方法であって、
中和反応が、pH6.0〜pH8.0の範囲のpHの水溶液中で行われ、
硫酸第一錫を中和反応させて、酸化第一錫を析出させる工程が、
硫酸第一錫を50〜80℃の範囲の温度で中和反応させた後に、
中和反応させた水溶液を60〜100℃の範囲の温度で保持して、酸化第一錫を析出させる工程である、製造方法。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
重炭酸アンモニウム水溶液中へ、硫酸第一錫水溶液を添加することによって、中和反応が行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
重炭酸アンモニウム水溶液中の重炭酸アンモニウム濃度が、50〜150g/Lの範囲にある、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
硫酸第一錫水溶液中の錫濃度が、10〜130g/Lの範囲にある、請求項3〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
硫酸第一錫を中和反応させて、酸化第一錫を析出させる工程において、
硫酸第一錫を50〜80℃の範囲の温度で1〜10時間かけて中和反応させた後に、
中和反応させた水溶液を60〜100℃の範囲の温度で1〜10時間保持して、酸化第一錫を析出させる、請求項1、3〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
酸化第一錫及び不可避不純物からなり、
酸化第一錫の含有量が99.99質量%以上であり、
次のいずれかを満たす、酸化第一錫:
塩素含有量が1ppm以下である; 又は
硫黄含有量が10ppm未満である。
【請求項9】
塩素含有量が1ppm以下であり、且つ硫黄含有量が10ppm未満である、請求項8に記載の酸化第一錫。
【請求項10】
ナトリウム含有量が5ppm未満であり、カリウム含有量が5ppm未満である、請求項8〜9のいずれかに記載の酸化第一錫。
【請求項11】
アンチモン含有量が、5ppm以下である、請求項8〜10のいずれかに記載の酸化第一錫。
【請求項12】
酸化第一錫が、粉末の形態である、請求項8〜11のいずれかに記載の酸化第一錫。
【請求項13】
粉末の含水率が、1〜10重量%の範囲にある、請求項12に記載の酸化第一錫。
【請求項14】
粉末の比表面積が、0.1〜1.0m/gの範囲にある、請求項12〜13のいずれかに記載の酸化第一錫。
【請求項15】
粉末のTAP密度が、1.0〜4.0g/cmの範囲にある、請求項12〜14のいずれかに記載の酸化第一錫。
【請求項16】
粉末の50%粒径(D50)が、20〜60μmの範囲にある、請求項12〜15のいずれかに記載の酸化第一錫。

【手続補正書】
【提出日】2020年1月6日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸第一錫を、水溶液中で、炭酸アンモニウム又は重炭酸アンモニウムによって中和反応させて、酸化第一錫を析出させる工程、
を含む、酸化第一錫の製造方法であって、
中和反応が、pH6.0〜pH8.0の範囲のpHの水溶液中で行われ、
硫酸第一錫を中和反応させて、酸化第一錫を析出させる工程が、
硫酸第一錫を50〜80℃の範囲の温度で中和反応させた後に、
中和反応させた水溶液を60〜100℃の範囲の温度で保持して、酸化第一錫を析出させる工程である、製造方法。
【請求項2】
重炭酸アンモニウム水溶液中へ、硫酸第一錫水溶液を添加することによって、中和反応が行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
重炭酸アンモニウム水溶液中の重炭酸アンモニウム濃度が、50〜150g/Lの範囲にある、請求項に記載の製造方法。
【請求項4】
硫酸第一錫水溶液中の錫濃度が、10〜130g/Lの範囲にある、請求項2〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
硫酸第一錫を中和反応させて、酸化第一錫を析出させる工程において、
硫酸第一錫を50〜80℃の範囲の温度で1〜10時間かけて中和反応させた後に、
中和反応させた水溶液を60〜100℃の範囲の温度で1〜10時間保持して、酸化第一錫を析出させる、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
酸化第一錫及び不可避不純物からなり、
酸化第一錫の含有量が99.99質量%以上であり、
次のいずれかを満たす、酸化第一錫:
塩素含有量が1ppm以下である; 又は
硫黄含有量が10ppm未満である。
【請求項7】
塩素含有量が1ppm以下であり、且つ硫黄含有量が10ppm未満である、請求項に記載の酸化第一錫。
【請求項8】
ナトリウム含有量が5ppm未満であり、カリウム含有量が5ppm未満である、請求項6〜7のいずれかに記載の酸化第一錫。
【請求項9】
アンチモン含有量が、5ppm以下である、請求項6〜8のいずれかに記載の酸化第一錫。
【請求項10】
酸化第一錫が、粉末の形態である、請求項6〜9のいずれかに記載の酸化第一錫。
【請求項11】
粉末の含水率が、1〜10重量%の範囲にある、請求項10に記載の酸化第一錫。
【請求項12】
粉末の比表面積が、0.1〜1.0m2/gの範囲にある、請求項10〜11のいずれかに記載の酸化第一錫。
【請求項13】
粉末のTAP密度が、1.0〜4.0g/cm3の範囲にある、請求項10〜12のいずれかに記載の酸化第一錫。
【請求項14】
粉末の50%粒径(D50)が、20〜60μmの範囲にある、請求項10〜13のいずれかに記載の酸化第一錫。
【国際調査報告】