特表-20110980IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2020年6月4日
【発行日】2021年10月14日
(54)【発明の名称】電気加工方法及び電気加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23H 1/00 20060101AFI20210917BHJP
   B23H 7/30 20060101ALI20210917BHJP
   B23H 1/10 20060101ALI20210917BHJP
【FI】
   B23H1/00 A
   B23H7/30
   B23H1/10 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】28
【出願番号】特願2020-557697(P2020-557697)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2019年11月25日
(31)【優先権主張番号】62/771,680
(32)【優先日】2018年11月27日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】特願2019-28025(P2019-28025)
(32)【優先日】2019年2月20日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】国枝 正典
(72)【発明者】
【氏名】中村 倖
【テーマコード(参考)】
3C059
【Fターム(参考)】
3C059AA02
3C059AB01
3C059CG02
3C059CH19
3C059CJ04
3C059DC01
3C059EA02
(57)【要約】
本発明は、工作物と工具電極の間に生成される不要物を効果的に除去できる技術に関するものである。この発明は、工作物1と工具電極10との間に形成されたギャップに加工液41が存在する状態で、工作物1と工具電極10との間に電圧を印加することによって、工作物1を加工する加工ステップと、工作物1と工具電極10との間のギャップを工作物1の加工時よりも狭めることにより加工液41を流動させ、これによって、工作物1と工具電極10との間に存在する不要物を除去又は減少させる排出ステップとを備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物と工具電極との間に形成されたギャップに加工液が存在する状態で、前記工作物と前記工具電極との間に電圧を印加することによって、前記工作物を加工する加工ステップと、
前記工作物と前記工具電極との間のギャップを前記工作物の加工時よりも狭めることにより前記加工液を流動させ、これによって、前記工作物と前記工具電極との間に存在する不要物を除去又は減少させる排出ステップと
を備えることを特徴とする電気加工方法。
【請求項2】
前記加工ステップにおける前記電圧の印加による前記工作物の加工は周期的に行われており、
前記排出ステップは、前記工作物の加工が行われていないタイミングで行われるようになっている
請求項1に記載の電気加工方法。
【請求項3】
前記排出ステップにおいて、前記工作物と前記工具電極との間の前記ギャップの大きさは、実質的に0になるように減少させられるようになっている
請求項1又は2に記載の電気加工方法。
【請求項4】
前記排出ステップの前又は後には、前記工作物と前記工具電極との間のギャップを、前記工作物の加工時よりも広げることにより前記加工液を流動させるジャンプステップをさらに備えている
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気加工方法。
【請求項5】
前記工作物の荒加工時には、前記排出ステップに対する、前記ジャンプステップの回数の比率が、前記工作物の仕上げ加工時よりも低く設定されている
請求項4に記載の電気加工方法。
【請求項6】
前記排出ステップにおいては、前記工作物の加工面に対して傾斜した方向で、前記工作物と前記工具電極を相対移動させることにより、前記ギャップを狭めるようにされている
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気加工方法。
【請求項7】
前記加工とは、前記工作物に対する電解加工であり、
前記加工液とは、前記電解加工に用いられる電解液である
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気加工方法。
【請求項8】
前記加工とは、前記工作物に対する放電加工であり、
前記加工液の導電率は、前記放電加工が可能な程度に低いものとされている
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気加工方法。
【請求項9】
前記排出ステップにおける前記工具電極と前記工作物との衝突を検出する検出ステップと、
前記衝突を検出した時点での前記工具電極の位置に基づいて、前記加工ステップにおける前記工具電極による前記工作物への加工の回数、方向、電圧印加タイミングその他の条件を調整する調整ステップと
を備える請求項1〜8のいずれか1項に記載の電気加工方法。
【請求項10】
工作物に対向して配置される工具電極と、
前記工作物と前記工具電極との間に、前記工作物を加工するための電圧を印加する電源と、
前記工作物に対する前記工具電極の相対的位置関係を変化させる駆動部とを備えており、
前記駆動部は、前記工作物と前記工具電極との間のギャップを、前記工作物の加工時よりも狭めることにより、前記工作物と前記工具電極との間に存在する加工液を流動させて、前記工作物と前記工具電極との間に存在する不要物を除去又は減少させる構成となっている
電気加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解加工や放電加工などの電気加工を行うための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電解加工は、加工速度が速い、加工変質層を生じない、工具電極消耗がない、仕上げ面粗さが良好であるなどの特徴を持つ。
【0003】
しかしながら、電解加工では、工具電極と工作物との間に気泡やスラッジが生成され、これらが加工電流の流れを阻害することがある。このような状態になると、加工精度が劣化することが知られている。
【0004】
そこで、電解加工においては、極間(すなわち工作物と工具電極との間)に電解液を流し込み、この電解液によって、極間に発生する気泡やスラッジを除去する手段が採用されている。
【0005】
しかし、この手段においては、
1) 電解液の流れが気泡や熱の偏りを引き起こして精度を低下させる、
2) ギャップ内での均一な電解液流れ場をつくるための電極設計におけるトライアンドエラーが必要となる、
3) 電解液の噴流口を治具または電極に設ける必要があり、そのことによって、加工可能な形状が制限される
といった問題が存在する。
【0006】
そこで下記非特許文献1では、極間が気泡で満たされない程度の十分短いパルスの印加と、電極ジャンプ(工具電極を工作物から離間させる方向に移動させた後に、元の位置に戻すこと)による気泡除去を繰り返す手段を提案している。これによれば、静止液中での電解加工においても、ある程度の加工精度の向上が期待できる。
【0007】
しかしながら、この手法を形彫り加工に適用する場合、スラッジや気泡のフラッシングが十分でなくなり、精度が低下することが懸念される。
【0008】
また、下記非特許文献2では、電極をジャンプさせるとともに加工面へ電解液を吹きかけることで電解生成物を除去する技術を提案している。しかしこの手法ではフラッシングに長い時間がかかり、加工速度は非常に遅いものとなる。
【0009】
また、下記非特許文献3では、工具電極に超音波振動を付与することにより電解生成物を除去する技術を提案している。しかし、工具電極に超音波振動を付与する場合、振動の節をクランプしなければならないため、異なる工具電極に対しては異なる取付け方を探索する必要が出てくるという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】中村倖、国枝正典、「電極ジャンプによる静止液中精密電解加工の研究」、2018年、2018年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集、pp323-324
【非特許文献2】酒井茂紀、増沢隆久、伊藤伸、「対電極法による形彫り放電加工面の電解仕上げ」、1988年、電気加工学会誌、vol.22、pp 8-28
【非特許文献3】中山尚志、夏恒、「工具電極の超音波振動による電解加工特性の向上」、2012年、2011年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集、pp39-40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、前記した問題について研究を進めた結果、工作物と工具電極との間の加工時のギャップを狭めることにより、工作物と工具電極との間の不要物を効果的に除去することができるという知見を得た。
【0012】
本発明は、この知見に基づいてなされたものである。本発明の主な目的は、工作物と工具電極の間に生成される不要物を効果的に除去できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記した課題を解決する手段は、以下の項目のように記載できる。
【0014】
(項目1)
工作物と工具電極との間に形成されたギャップに加工液が存在する状態で、前記工作物と前記工具電極との間に電圧を印加することによって、前記工作物を加工する加工ステップと、
前記工作物と前記工具電極との間のギャップを前記工作物の加工時よりも狭めることにより前記加工液を流動させ、これによって、前記工作物と前記工具電極との間に存在する不要物を除去又は減少させる排出ステップと
を備えることを特徴とする電気加工方法。
【0015】
(項目2)
前記加工ステップにおける前記電圧の印加による前記工作物の加工は周期的に行われており、
前記排出ステップは、前記工作物の加工が行われていないタイミングで行われるようになっている
項目1に記載の電気加工方法。
【0016】
(項目3)
前記排出ステップにおいて、前記工作物と前記工具電極との間の前記ギャップの大きさは、実質的に0になるように減少させられるようになっている
項目1又は2に記載の電気加工方法。
【0017】
(項目4)
前記排出ステップの前又は後には、前記工作物と前記工具電極との間のギャップを、前記工作物の加工時よりも広げることにより前記加工液を流動させるジャンプステップをさらに備えている
項目1〜3のいずれか1項に記載の電気加工方法。
【0018】
(項目5)
前記工作物の荒加工時には、前記排出ステップに対する、前記ジャンプステップの回数の比率が、前記工作物の仕上げ加工時よりも低く設定されている
項目4に記載の電気加工方法。
【0019】
(項目6)
前記排出ステップにおいては、前記工作物の加工面に対して傾斜した方向で、前記工作物と前記工具電極を相対移動させることにより、前記ギャップを狭めるようにされている
項目1〜5のいずれか1項に記載の電気加工方法。
【0020】
(項目7)
前記加工とは、前記工作物に対する電解加工であり、
前記加工液とは、前記電解加工に用いられる電解液である
項目1〜6のいずれか1項に記載の電気加工方法。
【0021】
(項目8)
前記加工とは、前記工作物に対する放電加工であり、
前記加工液の導電率は、前記放電加工が可能な程度に低いものとされている
項目1〜6のいずれか1項に記載の電気加工方法。
【0022】
(項目9)
前記排出ステップにおける前記工具電極と前記工作物との衝突を検出する検出ステップと、
前記衝突を検出した時点での前記工具電極の位置に基づいて、前記加工ステップにおける前記工具電極による前記工作物への加工の回数、方向、電圧印加タイミングその他の条件を調整する調整ステップと
を備える項目1〜8のいずれか1項に記載の電気加工方法。
【0023】
(項目10)
工作物に対向して配置される工具電極と、
前記工作物と前記工具電極との間に、前記工作物を加工するための電圧を印加する電源と、
前記工作物に対する前記工具電極の相対的位置関係を変化させる駆動部とを備えており、
前記駆動部は、前記工作物と前記工具電極との間のギャップを、前記工作物の加工時よりも狭めることにより、前記工作物と前記工具電極との間に存在する加工液を流動させて、前記工作物と前記工具電極との間に存在する不要物を除去又は減少させる構成となっている
電気加工装置。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、工作物と工具電極の間に生成される不要物を効果的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1実施形態に係る電気加工装置の概略的な説明図である。
図2図1を上方から見た状態での概略的な説明図である。
図3】図(a)は図1の装置において工作物1を移動させるための指令値を示しており、横軸は時間、縦軸はギャップ幅である。図(b)は、図1の装置における電流パルスの波形を示しており、横軸は時間、縦軸は電流値である。
図4】ジャンプ動作を説明するための模式的な説明図である。
図5】スタンプ動作を説明するための模式的な説明図である。
図6】図(a)は実施例1における加工結果を説明するための説明図である。図(b)は実施例2における加工結果を説明するための説明図である。図(c)は比較例1における加工結果を説明するための説明図である。図(d)は比較例2における加工結果を説明するための説明図である。
図7】実施例3における加工結果を説明するための説明図である。
図8】実施例3における加工結果を説明するための説明図である。
図9】実施例3における加工結果を説明するための説明図である。
図10】実施例4における加工結果を説明するための説明図である。
図11】実施例5における加工結果を説明するための説明図である。
図12】実施例6における加工結果を説明するための説明図である。
図13】実施例7における加工結果を説明するための説明図である。
図14】実施例8における加工結果を説明するための説明図である。
図15】実施例9における加工方法を説明するための説明図である。
図16】実施例9における加工結果を説明するための説明図である。
図17】実施例10における加工方法を説明するための説明図である。
図18】実施例11における加工方法を説明するための説明図である。
図19】本発明の第2実施形態に係る加工装置を示す概略的な説明図である。
図20(a)-(c)】図20(a)〜(c)は、本発明の第2実施形態に係る加工方法においてファンクションジェネレータで生成されるパルス波形を示すグラフである。
図20(d)】図20(d)は、図20(c)の波形を入力した際のピエゾステージの実際の変位を示すグラフである。
図21】本発明の第2実施形態における加工条件を示す表である。
図22】第2実施形態の実施例12の結果を示すグラフであって、横軸は加工条件、縦軸は加工量(mg)を示す。
図23】第2実施形態の実施例13の結果としての、工作物の表面を示す写真であって、OFFはフラッシングなし、(a)〜(c)は図20(a)〜(c)の加工条件で加工したものを示す。
図24】第2実施形態の実施例13の結果としての、工作物の加工面の断面形状を示すグラフであって、Piezo offはフラッシングなし、Stampは図20(a)、Jumpは図20(b)、Stamp+Jumpは図20(c)の加工条件で加工したものを示す。これらのグラフにおける横軸は加工面の径方向での距離、縦軸は加工深さである。
図25】第2実施形態の実施例14の結果を示すグラフであって、横軸は、ピエゾステージの変位における片側方向での変位量(μm)、縦軸は加工量(mg)である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る電気加工装置(以下単に「加工装置」と略称することがある)について説明する。以下の説明においては、電解加工用の加工装置を例として説明する。本実施形態の加工装置は、本発明の加工方法の基本的特性を調べるための実験装置として構成された例である。
【0027】
(加工装置の構成)
この加工装置は、図1及び図2に示されるように、工作物1に対向して配置される工具電極10と、工作物1と工具電極10との間に、工作物1を加工するための電圧を印加する電源20と、工作物1に対する工具電極10の相対的位置関係を変化させる駆動部30とを基本的な要素として備えている。また、この加工装置は、内部に加工液の一例である電解液41を保持する電解液槽40を備えている。
【0028】
(工具電極)
工具電極10の材質としては、電解加工に使用可能な様々なもの、例えば炭素鋼やタングステンなどを用いることができる。また、本実施形態における工具電極10の形状は、円柱形状とされている。ただしこの形状に制約されるものではない。
【0029】
(電源)
電源20としては、工作物1と工具電極10との間に所定の電圧を印加できる各種のものを使用可能である。本実施形態の電源20としては、パルス状電源を印加できるものが用いられている。バルス波形については後述する。また、電源20としては、定電流源を用いることもできるし、定電圧源を用いることもできる。以下では、特に説明のない限り、定電流源を用いることを前提として説明する。
【0030】
(駆動部)
本実施形態の駆動部30は、X方向ステージ31と、Y方向ステージ32とを備えている。
【0031】
X方向ステージ31は、工作物1を支持しており、工作物1と工具電極10との間隔(ギャップ)を、制御部(図示せず)からの指令値に従って変化させるようになっている。なお、この明細書では、工作物1と工具電極10とが離間接近する方向をX方向、それに直交しかつ水平な方向をY方向とする。また、工作物1が工具電極10に近づく方向をX方向における正方向とする。
【0032】
Y方向ステージ32は、工具電極10を支持しており、制御部(図示せず)からの指令値に従って、工具電極10のY方向位置を調整できるようになっている。
【0033】
本実施形態の駆動部30は、X方向ステージ31によって、工作物1と工具電極10との間のギャップを工作物1の加工時よりも狭めることにより、電解液41を流動させて、工作物1と工具電極10との間に存在する不要物を除去又は減少させる構成となっている。駆動部30の詳しい動作については後述する。また、本実施形態における駆動部30のX方向ステージ31は、加工に伴って工作物1と工具電極10とを順次接近させる動作(いわゆる送り動作)も行うようになっている。ただし、送り動作を別の機構により行うことは可能である。
【0034】
(電解液槽)
電解液槽40は、電解液41を内部に収容することによって、電解液41を実質的に静止状態で保持できるものである。これにより、本実施形態の装置では、電解液41が、加工状態の工作物1と工具電極10との間に充填される。また、この電解液槽40は、図示しない電解液供給機構及び電解液回収機構を備えており、電解液41の液面高さを調整できるようになっている。
【0035】
電解液41としては、電解加工に使用可能な種々のものを用いることができる。例えば、電解液41としては、NaNO,NaCl,KCl,KNO,KNO,NaClO,NaCOのいずれかの水溶液またはエチレングリコールなどの有機系の溶媒を使用した電解液を用いることができる。
【0036】
(工作物)
本例の工作物1の材質としては、導電性があり、かつ電気分解可能な材質であればよい。本例では、工作物1として、工具電極10と同じ材質であることを想定して説明するが、異なる材料であってもよい。工作物1としては、一般には、導電性のある鋼などの金属が用いられる。工作物1として超硬合金、ステンレス、チタン、ニオブなどを用いることも可能である。また、工作物1としては合金であっても単体金属(純金属)であってもよい。
【0037】
(本実施形態の動作)
前記した加工装置を用いた、電気加工方法の一例である電解加工方法について、以下において説明する。
【0038】
まず、電源20により電極間に流れる電流波形と工具電極10の移動量との関係を図3に基づいて説明する。
【0039】
電源20から工作物1と工具電極10との間に、工作物1を陽極とするパルス状の電圧を印加することにより、これら工作物1と工具電極10との間に周期的に電流を流す(図3(b)参照)。このとき電流波形もパルス状となる。本実施形態の電流波形におけるパルス幅Tは600μsに設定されているが、これには制約されない。図3(b)に示すパルス状電流は、周期的に、つまり繰り返して印加される。本例ではパルス状電流の印加周期は一定としているが、条件に応じて可変とすることもできる。
【0040】
また、駆動部30のX方向ステージ31に対しては、図3(a)に示す波形の駆動信号(指令値)を制御部(図示せず)から送る。この波形の横軸は図3(b)と整合している。図3(a)における時間tより前の時点では、所定のギャップ幅(工作物と工具電極との距離)が維持されているものとする。
【0041】
時間tの直前に、工作物1と工具電極10との間に、工作物1を陽極とするパルス電流が印加され、工作物1への加工が行われる(図4(a)参照)。この加工により、電極間に気泡やスラッジが生成される。本実施形態では、パルス幅を狭い値に設定したので、電極間において生成される気泡やスラッジの量を抑制することができる。
【0042】
ついで、時間tにおいては、X方向ステージ31により、工作物1が工具電極10から離間する方向に素早く相対移動させられる(図4(b)参照)。この移動をこの明細書では「ジャンプ」と称することがある。つまり、ジャンプ動作とは、工作物1と工具電極10との間のギャップを、工作物1の加工時よりも広げる動作である。このジャンプ動作を素早く行うことにより、電極間に電解液41を巻き込むことができ、巻き込まれた電解液41の流れ(撹拌作用)により、生成された気泡やスラッジを除去し、又は減少させることができる。なお、本実施形態では、工作物1をX方向ステージ31により移動させているが、理解の容易のため、図4では、工具電極10が移動するものとして記載している。
【0043】
さらに、本実施形態では、ジャンプ動作により所定のギャップ幅Lに達した後、極間のギャップを、初期状態に素早く復帰させる(図4(c)参照)。ジャンプ動作開始から復帰動作終了までの時間幅T(すなわちt−t)は、本実施形態では180msに設定されているが、これには制約されない。本実施形態では、この復帰動作によっても、電極間の気泡やスラッジを除去し、又は減少させることができる。なお、本実施形態では、復帰動作の途中で工作物1の相対的移動速度(すなわち工具電極10の相対的移動速度)を減速させることにより、オーバーシュートの抑制を図っている。
【0044】
続いて、時間tにおいては、工作物1が工具電極10に接近する方向に素早く相対移動させられる(図5(a)及び(b))。初期位置(加工位置)からの接近方向の移動を、この明細書では「スタンプ」と称する。図5においても、図4と同様に、工具電極10が移動するものとして記載している。このときの移動速度v(つまりスタンプ速度)は、この例では33.3m/sに設定されているが、これには制約されない。なお、図5(a)では電極間に不要物(気泡やスラッジなど)が記載されているが、この図は図4(c)と実質的に同じものである。
【0045】
また、本実施形態では、前記したスタンプ動作における初期位置からの移動量L(指令値)を100μmとしているが、これには制約されない。また、本実施形態では、移動量L(指令値)が加工時のギャップ幅より大きいので、工作物1と工具電極10とが接触することが推定される。ただし、工作物1と工具電極10とが接触しない程度に両者を接近させるように指令値を設定する構成も可能である。
【0046】
本実施形態では、工作物1と工具電極10との間のギャップを工作物1の加工時よりも狭めることにより電解液41を流動させ、これによって、工作物1と工具電極10との間に存在するスラッジ等の不要物を除去又は減少させることができる。
【0047】
ここで、本実施形態では、ギャップを狭めることで、電解液41に「せん断流」(加工面に沿う方向の流れ)を生じさせることができる。このせん断流により、工作物1の表面に堆積したスラッジを効果的に除去できると考えられる。
【0048】
ついで、本実施形態では、時間tまでに工具電極10を所期位置に復帰させ、所定の休止時間(工具電極10の振動が停止するまでの見込み時間)が経過した後、パルス電流を電極間に印加する(図3(b)及び図5(c)参照)。休止時間を置くことで、電極間距離が安定したときにパルス電流を印加することができるという利点がある。なお、本実施形態におけるスタンプ動作は、本発明における不要物の排出ステップの一例である。
【0049】
(実施例1)
以下、前記した本実施形態の装置及び方法を用いて電解加工を行った例を実施例1として説明する。加工条件は以下の通りである。
【0050】
【表1】
【0051】
また、この実施例1では、図3に示す各パラメータを以下の通りとした:
:3mm
:180ms
:100μm
:33.3mm/s
【0052】
ここで工作物1と工具電極10の相対的な移動量についてはいずれも指令値である。
【0053】
工具電極10は、図3(b)に示すパルスを60発印加するごとに1μmずつステップ状に、駆動部30のX方向ステージ31により、工作物1に向けて相対的に送られるものとした。また、ジャンプ時の工具電極10の移動速度は90mm/sとした。なお、図1の装置では、工作物1が工具電極10に対して移動するが、説明の便宜上、以下では、工具電極10が工作物1に対して移動するものとして説明する。要するに、両者は、一方に対して他方が相対的に移動する関係であればよい。
【0054】
実施例1の結果を図6(a)に示す。この図では、加工完了後の工具電極10の位置及び加工面(工作物1の表面)を二点鎖線で示し、加工前のこれらの状態を実線で示した。また、工作物1の加工面に符号101を付した。
【0055】
実施例1によれば、ジャンプ動作とスタンプ動作(図3(a)参照)とを併用することにより、高いフラッシング性を発揮することができ、加工面の平面度5μm程度と優れた精度を得ることができた。また、SEM画像を評価したところ、その加工面は平坦かつ滑らかであった。なお、ここで平面度とは、直径5mmの加工面のうち中央近傍の直径3mmの領域について、最高点と最低点をとり、その差を平面度として定義したものである。また、最高点と最低点の中間点までの、加工前の面からの距離を加工量とした。
【0056】
(実施例2)
ジャンプ動作を省略した以外は実施例1と同じ条件で電解加工を行った。その結果を実施例2として図6(b)に示す。
【0057】
実施例2では、図3(a)に示す指令値においてジャンプ動作期間は通常のギャップを保っており、その後のスタンプ動作のみを行っている。実施例2では、加工精度が若干低下しているものの、加工自体は進行している。つまり、この実施例2によれば、連続加工が可能な程度のフラッシング性を発揮できている。
【0058】
(比較例1)
比較例1として、スタンプ動作を省略し、ジャンプ動作のみを行った結果を図6(c)に示す。つまり、比較例1では、図3(a)に示す指令値におけるスタンプ動作部分を省略した。比較例1では、加工量及び加工精度が急激に低下した。
【0059】
(比較例2)
比較例2として、スタンプ動作及びジャンプ動作のいずれも省略した結果を図6(d)に示す。つまり、図3(a)に示す指令値におけるスタンプ動作部分及びジャンプ動作部分を省略し、通常の送り動作のみを行った。比較例2では、ほとんど加工が進行しなかった。
【0060】
なお、比較例1及び2では、加工後の工具電極10が工作物1の加工面と接触しているが、加工中に短絡は検出されなかった。加工直後の加工面には黒色のスラッジが厚く付着しており、これを挟んで接触していたために短絡が発生しなかったと推定される。また、図示した工具電極10の位置は指令値を基準にしているので、治具の弾性変形などにより、実際の位置とはずれていることがありうる。特に、図6(d)の状態では、工具電極10の実際の位置は指令値から大きくずれていると推定される。
【0061】
以上より、スタンプ動作を行うことが、フラッシング手法として高い効果を持つこと、及び、それはジャンプ動作との併用によって一層高まることがわかる。
【0062】
(実施例3)
つぎに、スタンプ動作の有無と加工特性との関係を調べた結果を実施例3として示す。実施例3の加工条件を以下に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
前記以外の条件は実施例1と同様とした。ここで、ツールは工具電極、ワークは工作物に対応する。
【0065】
加工結果の評価パラメータとしてここでは加工量、平面度、及び表面粗さRzのうちどれかを用いている。加工後の面は一般に平坦ではないため、直径5mmの加工面のうち中央の直径4mm領域について前加工面と加工面を測定し、加工量は加工面の最高点と最低点の中間点から前加工面までの距離とした。平面度は最高点と最低点の高さの差とした。
【0066】
送り量と、単位時間当たりの加工量(μm/s)、平面度、表面粗さとの結果をそれぞれ図7図9に示す。図中×は、短絡が検出されて加工を終了したものを示す。また、図中△は、短絡は検出されなかったが、初期ギャップ、加工量及び総送り量との関係から考えて、工作物1の表面(加工面)と加工電極10とが接触していたと推定されるものを示す。
【0067】
また、これらの図において「With stamp」とは、ジャンプ動作とスタンプ動作を行ったもの(図3(a)参照)、「Without stamp」とは、スタンプ動作を省略してジャンプ動作のみを行ったものを示す。
【0068】
図7及び図8からは、スタンプ動作を行うことにより、高い加工速度においても高い加工量及び平面度を確保できることが分かる。また、図9からは、スタンプ動作を行うことにより、低い送り速度であっても低い表面粗さを得られることもわかる。一般に、送り速度が低すぎると表面粗さは劣化する(図9の「Without stamp」を参照)ので、この特性もスタンプ動作の利点を示すといえる。
【0069】
(実施例4)
つぎに、スタンプ動作におけるスタンプ深さと加工特性との関係を調べた結果を実施例4として示す。後述する実施例4〜11に共通する基本的な加工条件を以下に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
ここで移動量や移動速度はいずれも指令値である。実施例4では、スタンプ深さを0, 30, 70, 100μmのように変化させた。ここでスタンプ深さが0とは、スタンプ動作を行わないことを示す。結果を図10に示す。
【0072】
スタンプ深さが30, 70, 100μmのときは、いずれも、スタンプ動作を行わない場合に比べて、高い加工量と良好な平面度を得ることができている。ここで、スタンプ深さが70, 100μmのときは、加工条件及び加工状態から推測して、工作物1の加工面と工具電極10とが接触していたと考えられる。このように接触する条件とすることによって、より高い加工量及び良好な平面度を得ることができる。これは、スラッジの排出効果が高いためであると推測される。スタンプ深さが30μmのときは、工作物1の加工面と工具電極10とが接触していないと推測されるが、この場合も、スタンプ動作を行わない場合に比較して、高い加工量と良好な平面度を得ることができる。したがって、工具電極10や工作物1がもろい材料であったり、低剛性である場合であっても、本発明の適用が可能である。
【0073】
(実施例5)
つぎに、ジャンプ動作におけるジャンプ高さと加工特性との関係を調べた結果を実施例5として示す。
【0074】
実施例5では、ジャンプ高さを0.3, 0.5, 1, 2, 3mmのように変化させた。前記以外の条件は表3と同様とした。ここでジャンプ高さが0とは、ジャンプ動作を行わないことを示す。結果を図11に示す。
【0075】
ジャンプ高さによる加工量の変化は小さいことが分かる。ジャンプを省略したときでも加工量を確保できている。ただし、平面度はジャンプ高さが低いときは劣化することもわかる。したがって、荒加工時にはジャンプ動作を省略して、加工全体に要する時間を短縮可能であると想定できる。
【0076】
(実施例6)
つぎに、ジャンプ頻度と加工特性との関係を調べた結果を実施例6として示す。実施例6の加工条件は前記した表3と基本的に同様であるが、ジャンプ回数当たりのパルス数をPulse/Jumpとし、この値を変化させた。つまり、この値が小さいほどジャンプの頻度が高いことを示す。なお、最小のPulse/Jumpは1としており、この場合、二つのパルスの間に1回のジャンプが行われる。つまり、パルス印加の1サイクルごとに1度のジャンプが行われる。
【0077】
結果を図12に示す。ジャンプ頻度をパルス印加10サイクル毎に1度にまで減らしても、1サイクル毎にジャンプする場合とほぼ同等の加工特性を得ることができた。よって、ジャンプの頻度を低下させることで、加工速度を増大させうることがわかる。Pulse/Jumpが100であっても、平面度は劣化するものの、加工深さは確保できることも分かる。
【0078】
したがって、工作物1の荒加工時には、スタンプ動作(排出ステップ)に対する、ジャンプステップの回数の比率を、工作物1の仕上げ加工時よりも低く設定することにより、加工効率を向上させることができるという利点がある。仕上げ加工時には、スタンプ動作(排出ステップ)に対する、ジャンプステップの回数の比率を荒加工時より高くすることにより高い平面度を実現することができる。
【0079】
(実施例7)
つぎに、スタンプ速度と加工特性との関係を調べた結果を実施例7として示す。実施例7の加工条件は前記した表3と基本的に同様であるが、スタンプ速度を5mm/s, 20mm/s, 26.3mm/s, 33.3mmsと変化させた。
【0080】
結果を図13に示す。スタンプ速度が遅くなるにつれ、加工面の平面度が劣化することが分かる。これは、スタンプ速度が遅くなると、加工面の中央付近における電解液の流速が低下し、フラッシング性が不足するためであると考えられる。実際、スタンプ速度を20mm/sとしたとき、加工面の中央付近に微小な突起が観察された。加工に最適なスタンプ速度は、用いる加工装置や加工条件によって変動すると想定されるが、例えば実験的に決定可能である。
【0081】
(実施例8)
つぎに、スタンプとジャンプの順番を入れ替えた例を実施例8として示す。実施例8の加工条件は前記した表3と基本的に同様であるが、スタンプ動作を先に行ってからジャンプ動作を行うこととした点で先の実施例とは異なる。また、ジャンプ高さを0, 0.3, 0.5, 1, 2, 3mmと変化させた。
【0082】
結果を図14に示す。スタンプとジャンプの順番以外はほぼ同じ条件である図11の結果と比較する。すると、ジャンプ高さが2mm以上の場合の加工特性はいずれも大差ない。よって、ジャンプ高さが十分高い場合には有意差はないと考えられる。一方でジャンプ高さが0.5mm, 1mmと低い場合、スタンプを先に行った場合の方が良好な平面度を得られた。よって、スタンプを先に行う方が高いフラッシング性を得られると考えられる。その理由としては、先行するスタンプ動作により加工面からはがされたスラッジをジャンプによって撹拌することができるためと推測される。
【0083】
(実施例9)
つぎに、スタンプ方向を加工面に対して傾斜させた例を実施例9として図15に基づいて説明する。この例では、工作物1の表面と工具電極10との初期のギャップLを50μm、スタンプ深さLを100μmとした。
【0084】
実施例9の動作としては、工具電極10を、工作物1の表面と平行に、初期位置から寸法yだけずらす(図15において矢印q)。ついで、初期位置における工具電極10の直下の位置に向けて、工具電極10を斜めに下降させる(図15において矢印q)。ここで、指令値としては実線の軌跡を描くが、実際は、工具電極10が工作物1に衝突すると想定されるため、破線の軌跡を描くと予想される。ついで、工具電極10を初期位置に復帰させる(図15において矢印q)。復帰の後に加工用のパルス電流を印加する。以降同様の動作を行う。ただし、初期位置は、工具電極10の送り量に応じて更新される。また、この例では、寸法yの値にかかわらず、スタンプ動作における法線方向速度(図15における上下方向での速度成分)は一定とした。なお、実施例9においてはジャンプ動作は省略した。それ以外の条件は表3と同様とした。ただし、工作物1としては、より大型のものを用いている。
【0085】
結果を図16に示す。yの値が大きい場合、加工面の平面度が大幅に改善し、優れた加工特性を発揮した。よって、ワークに対する接線方向の速度成分をもったスタンプがフラッシングに強力な効果を持つことがわかる。また、本例によれば、ジャンプなしのスタンプ動作によって高いフラッシング性を得ることができる。ジャンプ動作を省略することにより、加工時間の短縮が期待できるという利点がある。
【0086】
(実施例10)
前記した実施例9では、図15に示したように、まず工具電極10の位置をずらしてから斜めへのスタンプを行った。実施例10は、図17に示すように、実施例9における矢印qの動作を省略し、鋸刃状の移動軌跡を描くように(すなわちq→q→q→…)工具電極10を移動させるものである。工具電極10のずれ量(加工面に沿う方向での走査量)を図中yで示している。他の条件は実施例9と同様としている。
【0087】
実施例10によれば、工具電極10を走査させることによる大面積加工を実現させることができるという利点がある。
【0088】
(実施例11)
前記した実施例10では、図17に示したように、鋸刃状の軌跡を描くように工具電極10を移動させた。これに対して、この実施例11では、図18中二点鎖線で示すように、回転する軌跡を描くように工具電極10を移動させる。つまり、工具電極10はロータリー運動を行う。移動軌跡における、加工面(ここでは加工物の底面)に沿う方向への移動量は、工作物1に形成された加工穴の側面に工具電極10を十分接近させあるいは衝突させることができる値に設定される。また、移動軌跡における、加工面に垂直な方向への移動量は、加工面に工具電極10を十分接近させあるいは衝突させることができる値に設定される。これにより、スタンプ作用を、加工穴の側面と底面に対して発揮することができるので、深穴加工への適用が容易になるという利点がある。
【0089】
また、この実施例11によれば、回転軌跡を描くように工具電極10を移動させることにより、加工穴の内部におけるスラッジや電解液を撹拌してスラッジを外部に排出することができるという利点もある。
【0090】
なお、実施例11における回転軌跡は、矩形状のみならず、長円形状、楕円形状、円形状など、曲線で構成される軌跡であってもよい。また、回転軌跡を三角形状や台形状とすることも可能である。
【0091】
実施例11における他の条件は実施例10と同様とすることができる。
【0092】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る電気加工装置について説明する。なお、この第2実施形態の説明においては、前記した第1実施形態の加工装置と基本的に共通する要素については、同一符号を用いることにより、説明の重複を避ける。この第2実施形態の加工装置は、本発明を放電加工に適用した例である。
【0093】
(加工装置)
第2実施形態の加工装置の概略的構成を図19に示す。この加工装置の駆動部300は、主軸301と、その先端に取り付けられたピエゾステージ302と、ピエゾステージ駆動用の電圧波形を生成するファンクションジェネレータ303と、ピエゾステージ302に電圧を印加してピエゾステージ302を変形させるドライバ304とを有している。
【0094】
駆動部300は、図示しない駆動機構により、送り方向(X方向)における主軸301の位置決めを行うことができるようになっている。また、駆動部300は、加工の進行に応じて工具電極10の送り動作を行うようになっている。
【0095】
本実施形態の工具電極10は、ピエゾステージ302の下端側に、導電性の支持板305を介して取り付けられている。電源20の正極は支持板305を介して工具電極10に電気的に接続されている。電源20の負極は接地電位に電気的に接続されている。ただし、電源20の極性を加工条件に応じて変更することは可能であり、したがって、工具電極10を負極、工作物1を正極にすることもできる。電源20は、放電加工用のパルス電圧を、工具電極10と工作物1との間に印加するようになっている。また、本実施形態では、図示しない加工液が工具電極10と工作物1との間に充填されている。
【0096】
工作物1は、ねじ51からの押圧力によってホルダ50に保持されている。本実施形態における工作物1の材質としては、例えば鋼材とすることができるが、放電加工の対象となるものであれば特に制約されない。
【0097】
(加工方法)
前記した加工装置を用いた加工方法を、図20図24をさらに参照しながら説明する。
【0098】
本実施形態では、主軸301により、工具電極10を、所定の位置(加工位置)に配置する。ついで、図20(a)〜(c)に示すいずれかのパルス波形をファンクションジェネレータ303で生成し、ドライバ304を介してピエゾステージ302に電圧を印加する。これにより、ピエゾステージ302を変形させて、工具電極10と工作物1との距離を、短時間の間に変化させることができる。変形の方向やタイミングは、印加電圧の極性、パルスのタイミング、パルス幅などにより制御できる。
【0099】
ここで、ピエゾステージ302を駆動するパルス電圧はすべて100ms周期とした。図20において(a)は、工具電極10と工作物1との間の距離(いわゆる極間)を10ms縮めるパルスであり、(b)は、極間を10ms広げるパルスであり、(c)は、極間を10ms縮め、40ms休止した後、極間を10ms広げるパルスである。また、(c)のパルス波形を入力した際のピエゾステージ302の変位を図20(d)に示す。一方、駆動部300は、予め設定された条件(例えば送り速度)に従い、工具電極10の送り動作を行う。
【0100】
ピエゾステージの正負方向の変位を揃えるため,ファンクションジェネレータ303の印加電圧値は+6.0V,−5.2Vとした。ピエゾステージ用のドライバ304は、印加された電圧を15倍に増幅してピエゾステージ302に印加する。
【0101】
今回用いた図20(a)〜(c)の波形は、いずれも、電圧を印加していない休止時間が加工時間中の80%〜90%と大きな割合を占めている。このため、本実施形態の駆動部300は、この休止時間の間に、標準的な極間距離をとるよう、主軸301の送り制御を行う。したがって、本実施形態において(a)の波形を入力した場合、ピエゾステージ302は、わずかな時間だけ伸びる動作をすることにより、スタンプ動作を実現していると考えられる。逆に、(b)の波形を入力した場合、ピエゾステージ302は、わずかな時間だけ縮む動作をすることでジャンプ動作を実現していると考えられる。また、(c)の波形を用いた場合、スタンプとジャンプを交互に行うフラッシングを実現すると考えられる。
【0102】
その他の条件は、図21に示す加工条件の通りに設定し、同じ径の工具電極10と工作物1を用いて突き合わせ加工を行った。具体的な実験内容とその結果を実施例12〜14として以下に示す。なお、図21において「揺動」とは、ここでは、工具電極10の角部の消耗によって工作物1の外周にバリが生成することを防ぐために、放電加工機(加工装置)のXY軸を用いて、工作物1の中心軸を中心として水平方向に半径0.5mm程度の円状の軌跡を常時描かせる動作を意味している。これはバリの発生によって不要物の排出のされ方が変化することを防ぐために行った動作であり、これがなくても本発明の効果がなくなるわけではない。
【0103】
(実施例12:スタンプ/ジャンプフラッシングが加工量に与える影響)
ジャンプ動作及びスタンプ動作、並びにその両方の印加による加工くずや気泡の排出効果を調べるため、まず加工量の比較を行った。すなわち、図20(a)〜(c)に示す各条件下で30秒間の慣らし加工を行い、工作物1の加工面101の全域に放電痕が生じていることを確認した後、27分間の連続加工を行った.加工前後における工作物1の質量の変化を加工量とした。図22に、条件ごとに加工量を比較した結果を示す。
【0104】
スタンプ動作を印加した場合(図20(a)の場合)は、フラッシングを行わない場合(すなわち「駆動なし」)よりも加工量が大きくなったことがわかる。これから、スタンプは放電加工においてもフラッシング機能を持つことが示された。
【0105】
一方で、スタンプ動作印加時には、ジャンプ動作印加時(図20(b)の場合)の加工量を上回ることはなかったが、スタンプ+ジャンプ動作印加時(図20(c)の場合)の加工量が特に大きい値をとっている。このことから、ジャンプ動作とスタンプ動作を組み合わせることによって効率的なフラッシングが行われていることが示された。
【0106】
(実施例13:スタンプ/ジャンプフラッシングが加工精度に与える影響)
各フラッシング動作が加工精度に与える影響を調べるため、実施例12において加工した四つの工作物1の加工面101の輪郭形状を表面性状測定機(ミツトヨ SV-C3200)を用いて計測した。
【0107】
加工面101を清掃した後の写真を図23に、またその輪郭形状の計測結果を図24に示す。四つの加工実験で用いた工具電極10は同一のものであり、加工を行う面を加工前に十分に清掃しているため、それらはすべて同じ形状である。
【0108】
図23及び図24より,フラッシングを行わない場合には工作物1の中心部に円状の突起と溝が生じている様子が観察される。またこれらの凹凸の径は、スタンプ動作印加時やジャンプ動作印加時に小さくなっていることがわかる。さらに、スタンプ+ジャンプ動作印加時にはこの凹凸が観察されず、また加工面の平面度が最も小さくなっていることがわかる。
【0109】
これらの結果から,スタンプ動作,ジャンプ動作,スタンプ+ジャンプ動作の印加によるフラッシングを行うことで加工形状の精度が向上し,スタンプ+ジャンプ動作印加時に特に良好な加工面が得られることが示された。
【0110】
(実施例14:電極変位量とフラッシング効果の関係)
次に、スタンプ+ジャンプ動作を印加した際のピエゾステージ302の変位の大きさと加工量の関係を図25に示す.これまで用いてきた図20(c)のパルス波形を印加した際の変位量を最大とし、ピエゾステージ302の変位を徐々に小さく変化させた際の10分間での加工量をプロットした。
【0111】
工具電極10の変位量が小さくなるにしたがって加工量が減少していることから、極間距離と同等程度の変位を持つスタンプ+ジャンプ動作のフラッシング効果が特に優れていると言える。この結果が示すように、本実施形態の対象とするフラッシング法は、超音波振動が放電加工の加工特性に与える影響の調査を目的とする研究(参照:D.Kremer, C.Lhiaubet, A.Moisan: "A Study of the Synchronizing Ultrasonic Vibrations with Pulses in EDM," CIRP Annals, Vol. 40, No. 1, pp. 211-214, 1991.)のような、振幅が極間距離の数分の一である場合のフラッシング法とは異なることがわかる。
【0112】
この第2実施形態では、ピエゾステージ302を加工装置の主軸301に取り付けることにより、スタンプフラッシング法を形彫り放電加工機に適用することができる。以上の実施例12〜14の結果から得られる知見をまとめると以下のようになる。
・スタンプ動作は放電加工においてもフラッシング機能を持つ。
・スタンプ動作やジャンプ動作を単独で印加する場合に比べて、スタンプ+ジャンプ動作によるフラッシング機能が最も優れている.
・スタンプ+ジャンプ動作によるフラッシングにおいては、極間距離と同等程度の大きな振幅で工具電極を振動させることが望ましい。
【0113】
第2実施形態における前記以外の構成及び利点は、第1実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0114】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る電気加工装置及び電気加工方法について説明する。なお、この第3実施形態の説明においては、前記した第1及び第2実施形態の加工装置及び加工方法と基本的に共通する要素については、同一符号を用いることにより、説明の重複を避ける。また、第3実施形態の加工方法は、放電加工にも電解加工にも適用できるものである。
【0115】
前記した第1及び第2実施形態では、スタンプ動作により工具電極10の先端を工作物1の加工面101に接近又は衝突させていた。
【0116】
第3実施形態においては、工具電極10と工作物1との衝突を検出する検出ステップを有する。この検出は、工具電極10の実際の移動量を検出できる適宜な検出手段により行うことができる。例えば、駆動部30・300より工具電極10が移動すべき移動量(指示値)よりも、工具電極10の実際の移動量が少ないときは、工具電極10と工作物1とが衝突したと判定できる。あるいは、極間の抵抗がゼロになることを利用して、電気的な接触感知により衝突を検出することも可能である。この判定は、図示しないコントローラ(例えばパーソナルコンピュータやマイクロコンピュータ)により行うことができる。この衝突検知により、ユーザ(あるいはシステム)は、工作物1の加工面101の実際の形状を、加工途中において逐次知ることができる。すなわち、一般に、工具電極10の位置(例えば装置を基準にした三次元座標上の位置)は、駆動部30・300においてわかっているので、工具電極10の停止位置、あるいは電気的な接触(ショート)が検出された瞬間の座標値などの情報に基づいて、加工面101の形状を知ることができる。
【0117】
ついで、第3実施形態においては、衝突を検出した時点での工具電極10の位置(つまり停止位置情報)に基づいて、工具電極10による工作物1への加工の回数、方向、電圧印加タイミングその他の条件を調整する調整ステップを行う。
【0118】
従来の電気加工(すなわち放電加工や電解加工)においては、加工途中での加工面101の形状をリアルタイムで正確に把握することが困難であり、通常は、過去の経験則に基づいた加工条件で加工を行っている。例えば放電加工では、放電電圧に基づいて極間距離を推定して、加工送り量などを調整している。ところが、電気加工、特に放電加工においては、加工に伴って生じる加工屑や、加工液中の気泡などの影響により、電極間の実際の導電率が局所的に変動することがあり、所望の精度での加工が難しい場合があった。
【0119】
これに対して、第3実施形態の加工方法によれば、電気加工を行いながら、例えば図20に示すような加工用のパルスの合間に、工具電極10を工作物1の加工面101に意図的に衝突させることができる。これにより、工作物1の加工面101の実際の形状を、リアルタイムで検出することができる。得られた実際の形状に基づいて加工の回数、方向などの条件を変更することにより、より精密な加工面101を得ることができる。本実施形態では、駆動部30・300の設定により、工具電極10の衝突方向をX方向、Y方向のように変更することも可能である。このようにすると、特定の方向での加工面101の形状を知ることができるので、得られた形状に応じて、例えば加工方向を設定する(例えば指示値に対して加工量が少ない方向に加工する)ことができる。ここで、本実施形態においては、スタンプ動作を行いながら工具電極10を工作物1の加工面10に衝突させているので、工具電極10と工作物1との間に加工屑等が介在する可能性を低く抑えることができる。このため、加工面101の形状を正確に知ることができるという利点がある。
【0120】
第3実施形態における前記以外の構成及び利点は、第1又は第2実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0121】
なお、本発明の内容は、前記実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲に記載された範囲内において、具体的な構成に対して種々の変更を加えうるものである。
【0122】
例えば、前記した第1実施形態の説明では、電気加工として電解加工を例示したが、これに代えて、第2実施形態に示すように、放電加工とすることもできる。この場合、加工液や電源としては、放電加工に適したものが用いられる。例えば加工液としては、低導電率のものを用いることが好ましい。また、放電加工の場合は、工作物と工具電極との間に生じる不要物は、工作物が金属の場合、微小な金属屑となる。
【0123】
また、前記の説明では、工具電極10の形状を円柱形状としたが、それに限らず、適宜な形状とすることができる。また、ワイヤ状の工具電極を用いることも可能である。例えば、長さ方向に走行するワイヤ状の工具電極を用いて電気加工を行うことにより、電極寿命を延ばすことができる。
【0124】
前記の説明では、加工液(例えば電解液)が静止していることを前提としたが、加工液を極間に吹付ける構成とすることもできる。この場合も、スタンプ動作により、極間の不要物の排出を効率化することが可能である。
【0125】
また、前記した第1実施形態の説明では、駆動部30のX方向ステージ31により、加工に伴う送り動作と、スタンプ動作及びジャンプ動作との両者を行う構成としたが、これに限るものではなく、例えば、第2実施形態に示すように、送り動作と、スタンプ及びジャンプ動作とを異なる機構により実行することも可能である。
【符号の説明】
【0126】
1 工作物
10 工具電極
20 電源
30・300 駆動部
301 主軸
302 ピエゾステージ
303 ファンクションジェネレータ
304 ドライバ
305 支持板
31 X方向ステージ
32 Y方向ステージ
40 電解液槽
41 電解液(加工液)
50 ホルダ
51 ねじ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20(a)-(c)】
図20(d)】
図21
図22
図23
図24
図25
【国際調査報告】