特表-20137946IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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再表2020-137946金属・繊維強化プラスチック複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2020年7月2日
【発行日】2021年11月11日
(54)【発明の名称】金属・繊維強化プラスチック複合材料
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20211015BHJP
【FI】
   B32B15/08 105Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】22
【出願番号】特願2020-563240(P2020-563240)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2019年12月23日
(31)【優先権主張番号】特願2018-244681(P2018-244681)
(32)【優先日】2018年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 敬裕
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】安藤 秀樹
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA36B
4F100AB01A
4F100AB03A
4F100AB10A
4F100AD08B
4F100AD11B
4F100AG00B
4F100AK46B
4F100AK47B
4F100AK48B
4F100AK54B
4F100BA02
4F100DG00B
4F100DG12B
4F100DH02B
4F100GB07
4F100GB48
4F100GB51
4F100GB87
4F100YY00
4F100YY00B
(57)【要約】
強化繊維基材へのマトリックス樹脂の含浸と、金属部材との接着性が良好であり、耐熱性、耐衝撃性、機械特性に優れた金属・繊維強化プラスチック複合材料を提供する。
金属部材と繊維強化プラスチックの積層体であって、前記繊維強化プラスチックが、強化繊維基材(A)と熱可塑性樹脂組成物(B)から成り、熱可塑性樹脂組成物(B)はフェノキシ樹脂(B−1)とポリアミド樹脂(B−2)を質量比(B−1)/(B−2)が80/20〜20/80の割合で含み、強化繊維基材(A)のモノフィラメントに対する熱可塑性樹脂組成物(B)の接着強度が、マイクロドロップレット法における23℃における界面せん断強度で40MPa以上であり、金属部材と熱可塑性樹脂組成物(B)の接着強度が、23℃における引張せん断強度で7.0MPa以上、であることを特徴とする金属・繊維強化プラスチック複合材料である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と繊維強化プラスチックの積層体であって、
前記繊維強化プラスチックが、強化繊維基材(A)と熱可塑性樹脂組成物(B)から成り、
熱可塑性樹脂組成物(B)はフェノキシ樹脂(B−1)とポリアミド樹脂(B−2)を質量比(B−1)/(B−2)が80/20〜20/80の割合で含み、
強化繊維基材(A)のモノフィラメントに対する熱可塑性樹脂組成物(B)の接着強度が、マイクロドロップレット法における23℃における界面せん断強度で40MPa以上であり、
かつ、金属部材と熱可塑性樹脂組成物(B)の接着強度が、23℃における引張せん断強度で7.0MPa以上、
であることを特徴とする金属・繊維強化プラスチック複合材料。
【請求項2】
180℃、30分の熱履歴を加えた後の常温における強化繊維プラスチックの厚み変化率の絶対値が2.0%未満である請求項1に記載の金属・繊維強化プラスチック複合材料。
【請求項3】
ポリアミド樹脂(B−2)が、全脂肪族ポリアミドおよび/または半脂肪族ポリアミドであることを特徴とする請求項1または2に記載の金属・繊維強化プラスチック複合材料。
【請求項4】
金属部材の材質が鉄鋼材料、アルミニウムである請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属・繊維強化プラスチック複合材料。
【請求項5】
強化繊維基材が炭素繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイト繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維よりなる群の中から選ばれる1種または2種以上の繊維を含むものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属・繊維強化プラスチック複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材と繊維強化プラスチック成形用材料が積層されて一体化された金属・繊維強化複合材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック材料(FRP)は軽量で高強度な材料として釣竿やテニスラケット、スポーツサイクルや自動車、風力発電機のブレード、航空機にまで幅広く使用されている材料である。特に自動車産業においては、繊維強化プラスチック材料の採用により、車体の軽量化を図り、燃費や走行性能を向上させる積極的な検討が進められている。
【0003】
しかし、FRPは軽量かつ高強度であるものの、従来用いられてきた金属系材料よりもコストが高く、あらかじめ決まった形状でしか部材を作製することができなかったり、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂をマトリックス樹脂としているために部材の製造時間が長いといった課題を抱えている。
【0004】
そこで、プレス加工が可能なために高生産性である金属材料と熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂としたFRP材料を組み合わせることでこれらの課題を解決しようという試みが行われている。ポリアミドなどの熱可塑性樹脂を使用したFRP材料は、熱硬化性樹脂よりも生産性が高く、使用後のリサイクル性にも優れることからその適用検討が近年活発に検討されている。
【0005】
例えば特許文献1において、自動車用部材として金属と熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした炭素繊維強化プラスチック材料を積層して一体化した金属・CFRP複合材料が開示されている。
また、特許文献2では、アルミニウム合金とポリアミド樹脂を使用したCFRPが強固に一体化された金属・CFRP複合材料が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1では熱可塑性樹脂によるマトリックス樹脂としてポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドおよび/またはこれらの混合物を使用することが挙げられているものの、フェノキシ樹脂をマトリックス樹脂として使用することについては教えない。
また特許文献2は、金属の表面をマイクロエッチングなどの手法を用いて特定のパラメータを有するように微細加工を行い、そこを樹脂で埋めることによって金属とFRPが強固に一体化させることに特徴があるのであって、そのために高結晶性のポリアミド又はポリフェニレンサルフェイド系樹脂組成物を開示しているにすぎない。
【0007】
また、エポキシ化合物とポリアミド樹脂を配合した樹脂組成物は、特許文献3や特許文献4にて開示されている。しかし、特許文献3は、分子量10000以下のエポキシ化合物を0.1〜10重量部配合してなる炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物を開示するにすぎず、しかも射出成形用材料であって金属との複合化は想定されていない。一方、特許文献4は、ナイロン6樹脂とフェノキシ樹脂とからなるポリアミド樹脂組成物を開示するものの、自動車部品等に機械的に取り付ける制振性材料として検討されているにすぎず、金属との接着力については一切考慮されていない。また、樹脂材料単独の成形物をエンジン周りなどに機械的に取り付けることを前提としているため、構造材料としての金属・FRP複合体の検討はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2014−509971号公報
【特許文献2】特開2016−60051号公報
【特許文献3】特開2015−129271号公報
【特許文献4】特開平4−11654号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】強化プラスチック、vol.59(2013)、pp.330
【発明の概要】
【0010】
本発明は、強化繊維基材へのマトリックス樹脂の含浸と、金属部材との接着性が良好であり、耐熱性、耐衝撃性、機械特性に優れた金属・繊維強化プラスチック複合材料の提供を目的とする。
【0011】
(1)金属部材と繊維強化プラスチックの積層体であって、前記繊維強化プラスチックが、強化繊維基材(A)と熱可塑性樹脂組成物(B)から成り、熱可塑性樹脂組成物(B)はフェノキシ樹脂(B−1)とポリアミド樹脂(B−2)を質量比(B−1)/(B−2)が80/20〜20/80の割合で含み、強化繊維基材(A)のモノフィラメントに対する熱可塑性樹脂組成物(B)の接着強度が、マイクロドロップレット法における23℃における界面せん断強度(τ)で40MPa以上であり、金属部材と熱可塑性樹脂組成物(B)の接着強度が、23℃における引張せん断強度で7.0MPa以上、であることを特徴とする金属・繊維強化プラスチック複合材料。
(2)繊維強化プラスチックに対して180℃、30分の熱履歴を加えた後の厚み変化率の絶対値が2.0%未満である上記金属・繊維強化プラスチック複合材料。
(3)ポリアミド樹脂(B−2)が、全脂肪族ポリアミドおよび/または、半脂肪族ポリアミドである上記金属・繊維強化プラスチック複合材料。
(4)金属部材の材質が鉄鋼材料、ステンレス鋼、アルミニウムである上記金属・繊維強化プラスチック複合材料。
(5)強化繊維基材が炭素繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイト繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維よりなる群の中から選ばれる1種または2種以上の繊維を含むものである上記金属・繊維強化プラスチック複合材料。
【0012】
本発明によれば、繊維強化プラスチック材料と金属部材とが強固に接着し、機械特性が非常に優れ、低吸湿で高耐熱性の軽量な金属−繊維強化プラスチック複合材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の金属・繊維強化プラスチック複合材料(金属・FRP複合材料ともいう。)は、熱可塑性樹脂組成物(B)がマトリックス樹脂として強化繊維基材(A)に含浸された繊維強化プラスチック(FRP)材料と金属部材と積層一体化された複合材料である。
【0014】
本発明の金属・FRP複合材料における、金属部材と積層一体化するFRP材料のマトリックス樹脂は、熱可塑性樹脂であるフェノキシ樹脂(B−1)とポリアミド樹脂(B−2)を必須成分として含む熱可塑性樹脂組成物(B)である。本発明のFRP材料は、フェノキシ樹脂(B−1)をマトリックス樹脂に使用しているため、加熱プレスによる加圧成形が容易であり、生産性を大きく向上させることが可能となる。また、エンジニアリングプラスチックであるポリアミド樹脂(B−2)をマトリックス樹脂に使用しているため、耐熱性が高く、靭性に優れるなどの良好な機械特性を持つ。
【0015】
本発明の金属・FRP複合材料に使用されるFRP材料の強化繊維基材(A)には、炭素繊維やガラス繊維、ボロンやアルミナ、シリコンカーバイドなどのセラミックス繊維、ステンレスなどの金属繊維、アラミドなどの有機繊維等、幅広く選択が可能である。これらのなかでも、炭素繊維、ガラス繊維が好ましく使用され、強度が高く、熱伝導性の良い炭素繊維を使用することが最も好ましい。炭素繊維はピッチ系、PAN系のいずれも使用可能であるが、ピッチ系の炭素繊維は、高強度であるだけでなく高熱伝導性でもあり、それ故に発生した熱を素早く拡散することができるので熱を逃がす必要のある用途ではPAN系よりも好ましい。強化繊維基材の形態は、特に制限されるものでは無く、例えば一方向材、平織りや綾織などのクロス、三次元クロス、チョップドストランドマット、数千本以上のフィラメントよりなるトウ、あるいは不織布等を使用することができる。これらの強化繊維基材は、1種類で用いることもできるし、2種類以上を併用することも可能である。
【0016】
強化繊維は、その表面にサイジング剤(集束剤)やカップリング剤等を付着させたものであるとマトリックス樹脂の強化繊維への濡れ性や、取り扱い性を向上させることができるので好ましい。サイジング剤としては、例えば、無水マレイン酸系化合物、ウレタン系化合物、アクリル系化合物、エポキシ系化合物、フェノール系化合物またはこれら化合物の誘導体などが挙げられる。カップリング剤としては、例えば、アミノ系、エポキシ系、クロル系、メルカプト系、カチオン系のシランカップリング剤などが挙げられる。
強化繊維100重量部に対し、サイジング剤及びカップリング剤の含有量は、0.1〜 10重量部、より好ましくは0.5〜6重量部である。サイジング剤及びカップリング剤の含有量が0.1〜10重量%であれば、マトリックス樹脂組成物との濡れ性、取り扱い性がより優れる。より好ましくは0.5〜6重量%である。
【0017】
強化繊維基材(A)のモノフィラメントはFRP材料のマトリックス樹脂組成物である熱可塑性樹脂組成物(B)と良好な接着性を有することが望ましい。接着性の評価方法としては、マイクロドロップレット法(MD法)によってモノフィラメントと熱可塑性樹脂組成物(B)の界面せん断強度(τ)を測定することによって評価できる(非特許文献1)。本法により測定した23℃における界面せん断強度が40MPa以上であれば、モノフィラメントとマトリックス樹脂組成物との間の接着性は良好で、強度に優れた繊維強化プラスチックが得られる。一方、界面せん断強度が40MPa未満であると、繊維強化プラスチックに荷重負荷がかかった場合、モノフィラメントとマトリックス樹脂組成物の間の界面より剥離が生じ、強化繊維の性能を充分に引き出すことができず、強度に劣る繊維強化プラスチックとなる。また、樹脂とフィラメント自身との馴染みも悪いため、FRP材料を成形することが困難な場合があり、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂組成物(B)と強化繊維との界面せん断強度が不足するとFRP材料として充分な機械物性を出せなくなるために、金属・FRP複合材料として所望の性能が得られなくなる。
なお、強化繊維との界面せん断強度については、42MPa以上が好ましく、45MPa以上がより好ましい。
【0018】
マトリックス樹脂の必須成分の一つであるフェノキシ樹脂(B−1)は、2価フェノール化合物とエピハロヒドリンとの縮合反応、あるいは2価フェノール化合物と2官能エポキシ樹脂との重付加反応から得られる熱可塑性樹脂であり、溶液中あるいは無溶媒下に従来公知の方法で得ることができる。平均分子量は、質量平均分子量(Mw)として、通常 10000〜200000であるが、好ましくは20000〜100000であり、より好ましくは30000〜80000である。Mwが低すぎると成形体の強度が劣り、高すぎると作業性や加工性に劣るものとなり易い。なお、Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値である。
【0019】
フェノキシ樹脂の水酸基当量(g/eq)は、通常50〜1000であるが、好ましくは50〜750であり、特に好ましくは50〜500である。水酸基当量は低すぎると水酸基が増えることで吸水率が上がるため、機械物性が低下する懸念がある。水酸基当量が高すぎると水酸基が少ないので、強化繊維基材、特に炭素繊維との濡れ性が低下する。
【0020】
フェノキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、65℃〜160℃のものが適するが、好ましくは70℃〜150℃である。ガラス転移温度が65℃よりも低いと成形性は良くなるが、ブロッキングによる粉体もしくはペレットの貯蔵安定性の悪化やプリフォーム時のべたつき(タック性が悪い)などの問題が生じる。160℃よりも高いと溶融粘度も高くなり成形性や繊維への充填性が劣り、結果として、より高温のプレス成形が必要とされる。なお、フェノキシ樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置を用い、10℃/分の昇温条件で、20〜280℃の範囲で測定し、セカンドスキャンのピーク値より求められる数値である。
【0021】
フェノキシ樹脂としては、上記の物性を満たしたものであれば特に限定されないが、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル製フェノトートYP−50、YP−50S、YP−55U)、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル製フェノトートFX−316)、ビスフェノールAとビスフェノールFの共重合型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル製YP−70)、あるいは特殊フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル製フェノトートYPB−43C、FX293)等が挙げられ、これらを単独または2種以上を混合して使用することができる。
また、フェノキシ樹脂に類似した熱可塑性エポキシ樹脂と呼称される熱可塑性樹脂をフェノキシ樹脂の代替として使用することもできるが、フェノキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0022】
フェノキシ樹脂は、常温において固形であり、かつ180〜350℃の温度域のいずれかにおいて10〜3000Pa・sの溶融粘度を示すものであることが好ましい。
なお、溶融粘度が3000Pa・sを超えると金属部材との積層複合化の際に強化繊維基材への樹脂の含浸が不十分となり、溶融粘度が10Pa・s未満であると樹脂の流れ性が過剰となり、FRP成形体の繊維体積含有量の制御が困難になったり、成形時に樹脂不足によるかすれの発生や厚み精度が低下する。このため、FRP成形物の機械強度が低下し、結果として金属部材との複合体の機械物性も低下してしまう懸念がある。
また、熱重量測定(TG)において、350℃まで加熱した時の加熱重量減少率が1%未満であることが好ましい。加熱重量減少率が1%以上を超えると成形加工の際にフェノキシ樹脂が熱劣化することにより、成形体の変色や機械強度が低下する恐れがある。
【0023】
本発明の金属・FRP複合材料に用いられるFRP材料のマトリックス樹脂には、フェノキシ樹脂(B−1)と共に、ポリアミド樹脂(B−2)が配合される。ポリアミド樹脂を配合することによって、マトリックス樹脂の耐熱性や耐衝撃性、機械特性の向上を図ることができる。フェノキシ樹脂(B−1)とポリアミド樹脂(B−2)はお互いに相溶するようなことはないものの、いずれも極性を有する樹脂であるために相容性が良いため、加熱成形時に形成される構造が強固であり、それゆえにフェノキシ樹脂(B−1)の強度とポリアミド樹脂(B−2)の伸度や耐熱性が互いに阻害されることなく反映された樹脂組成物となると推測される。そして、このような性能の向上は、より高い耐熱性を要求される用途、例えば自動車材料や航空宇宙用の材料などへの展開も可能となる。
【0024】
ポリアミド樹脂(B−2)は、アミド結合の繰り返しにより主鎖が構成される熱可塑性樹脂であり、ラクタムの開環重合もしくはラクタム同士の共縮合重合、ジアミンとジカルボン酸との脱水縮合に等により得られる。
ラクタムとしては、ε‐カプロラクタム、ウンデカンラクタム、ラウリルラクタム等が挙げられ、前記ジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン、ノナンジアミン、メチルペンタジアミンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロジアミン、ノルボルナンジメチルアミン、トリシクロデカンジメチルジアミン等の脂環族ジアミン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンなどである。また、前記ジカルボン酸としては、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、4,4’−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸などである。
【0025】
ポリアミド樹脂(B−2)は、主鎖が脂肪族骨格からなるナイロンとも呼称される全脂肪族ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610など)、主鎖に芳香族が含まれる半脂肪族ポリアミド樹脂又は半芳香族ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン6I、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロンM5T、ナイロンMXD6など)、及び主鎖が芳香族骨格のみで構成されるアラミドとも呼称される全芳香族ポリアミド樹脂(ケブラー、ノーメックス(東レ・デュポン製)、トワロン、コーネックス(帝人製)がある。
本発明の金属・FRP複合材料のFRP材料のマトリックス樹脂には、これらのいずれも使用することができるが、全脂肪族ポリアミド樹脂又は半脂肪族(半芳香族)ポリアミド樹脂を使用することが好ましい。より好ましくは全脂肪族ポリアミド樹脂であり、最も好ましくは、ε‐カプロラクタムを開環重合して得られるナイロン6と呼称される全脂肪族ポリアミド樹脂である。
【0026】
ポリアミド樹脂(B−2)は、融点が180℃〜320℃で、180〜350℃における溶融粘度が10〜3000Pa・s以下であることが良い。好ましくは融点が200〜 310℃である。全脂肪族および半芳香族ポリアミド樹脂は、溶融粘度が比較的低く、マトリックス樹脂の溶融粘度を低く抑えることができる。
なお、ポリアミド樹脂(B−2)の溶融粘度が3000Pa・sを超えると、マトリックス樹脂の強化繊維基材への充填性が劣り、ボイドなどの欠陥が発生しやすくなるので、得られる繊維強化プラスチック成形物の均質性に劣る。一方、10Pa・s未満までポリアミド樹脂の溶融粘度が低いと流動性が過剰となり、FRP成形体の繊維体積含有量の制御が困難になったり、成形時に樹脂不足によるかすれの発生や厚み精度の低下を招き、金属・FRP複合材料の強度を低下させてしまう恐れがある。
【0027】
ポリアミド樹脂(B−2)は、そのMwが10000以上であることが望ましく、より望ましくは25000以上である。Mwが10000以上のポリアミド樹脂を使用することによって、成形体の良好な機械強度が担保されるとともに、過剰な流動性による樹脂不足や成形体の厚み精度の低下といったトラブルが発生するような事態を抑制することができる。
【0028】
上記フェノキシ樹脂(B−1)とポリアミド樹脂(B−2)を含む本発明の熱可塑性樹脂組成物は、加熱成形によりマトリックス樹脂となる前の状態では、常温で固形であり、その溶融粘度は180〜350℃の温度域のいずれかにおいて3000Pa・s以下である。この熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度は、好ましくは10〜2900Pa・sであり、より好ましくは30〜2800Pa・sである。180〜350℃の温度域のいずれにおいても溶融粘度が3000Pa・sを超えると成形加工時のマトリックス樹脂組成物の流動性が悪くなるため、表面に付着した固形の樹脂が繊維基材内に十分行き渡らずにボイドの原因となって成形物の機械物性が低下する。また、溶融粘度が10Pa・s未満であると樹脂の流れ性が過剰となり、FRP成形体の繊維体積含有量の制御が困難になったり、成形時に樹脂不足によるかすれの発生や厚み精度の低下を招いて成形物の機械強度が低下する。そして、これらの要因によって金属・FRP複合材料の機械物性が結果として低下する懸念がある。
【0029】
本発明の金属・FRP複合材料のマトリックス樹脂は、上記フェノキシ樹脂(B−1)とポリアミド樹脂(B−2)を、(B−1)/(B−2)で表される配合比にて80/2 0〜20/80の割合で配合された樹脂組成物である。質量比(B−1)/(B−2)は、好ましくは75/25〜25/75であり、より好ましくは70/30〜30/70、最も好ましくは70/30〜50/50である。質量比(B−1)/(B−2)が75/ 25を超えるとポリアミド樹脂を配合した効果である耐熱性や機械強度などの特性の向上効果が不十分な傾向となる。また、質量比(B−1)/(B−2)が25/75未満になるとフェノキシ樹脂の配合による強化繊維基材への含浸性の向上が見られなくなるため、強化繊維基材への含浸が困難になる。
【0030】
本発明の金属部材と熱可塑性樹脂組成物(B)の接着強度は、23℃における引張せん断強度が7.0MPa以上である。本発明における引張せん断強度とは、JIS K 6850により測定される破断応力のことを指し、前記引張せん断強度が7.0MPa以上であると金属部材と熱可塑性樹脂組成物の接着性が良好で、金属・繊維強化プラスチック複合材料とした際の金属と強化繊維プラスチック間が強固に接着されるため、複合材料は高い機械特性を発揮することができる。しかし、引張せん断強度が7.0MPa未満の場合、金属と繊維強化プラスチック間の接着が弱く、載荷時に界面剥離を起こし易く機械強度が低下してしまう。なお、引張せん断強度は7.5MPa以上であることが好ましい。また、本発明の金属・FRP複合体は、FRP材料のマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂組成物が、前述した強化繊維(モノフィラメント)との界面せん断強度が35MPa以上であることと、金属部材との引張せん断強度が7.0MPa以上であることのいずれをも満たすものであることを必須とする。
【0031】
本発明の繊維強化プラスチック成形材料のマトリックス樹脂となる熱可塑性樹脂組成物を構成する樹脂材料の一つであるフェノキシ樹脂(B−1)は、その側鎖の水酸基の存在により強化繊維(特にガラス繊維や炭素繊維)との馴染みが良好である。このため、強化繊維基材の表面に熱可塑性樹脂組成物が粉末状態もしくはフィルムなどの膜状に付着した状態で加圧しても非常に容易に強化繊維基材の繊維束の内部まで浸透させることができる。また、非晶質のポリマーであるために透明性があり、成形後に表面の意匠性が高い成形体が得られる。一方、マトリックス樹脂を構成するもう一つの樹脂材料であるポリアミド樹脂(B−2)は、結晶性ポリマーではあるものの融点や溶融粘度が高いため、強化繊維基材への含浸性は劣るが、微粉末として使用することによって基材への含浸性を大きく改善できる。加えて、ポリアミド樹脂は一般に耐熱性が高く、耐衝撃性などの機械強度が良好である。粉末として使用する場合、例えば平均粒子径(D50)10〜150μmの範囲が好ましい。
【0032】
本発明の繊維強化プラスチックは、180℃、30分の熱履歴を加えた後の厚み変化率の絶対値が2.0%未満であることが望ましい。本発明における厚み変化率(%)とは、熱履歴を加えた後の常温におけるFRP材料の厚みL(mm)を熱履歴を加える前の常温におけるFRP材料の厚みLo(mm)で割り、100を掛けたものである(L/Lo×100)。厚み変化率の絶対値が2.0%を未満であると、熱によるFRP材料の不可逆的な寸法変化が小さく、熱履歴による機械強度の低下が起こりにくくなるので好ましい。一方、厚み変化率の絶対値が2.0%以上となると熱によるFRP材料の不可逆的な寸法変化が大きくなるために、熱履歴により機械強度の大きな低下を招くことになり、特に構造部材への適用が難しくなるなど複合体としての用途が限られてしまうので適さない。
【0033】
フェノキシ樹脂(B−1)とポリアミド樹脂(B−2)は微粉砕して混合し、溶融しても相溶して混然一体となるようなことはない。しかし、フェノキシ樹脂は水酸基の存在により、またポリアミド樹脂はアミド結合により極性を持つため、ある程度の親和性を持った状態で海島構造もしくは共連続構造をとると推測される。これらのマトリックス樹脂の構造は、フェノキシ樹脂(B−1)とポリアミド樹脂(B−2)の配合割合により、任意に調整することができる。よって、FRP材料のフェノキシ樹脂に由来する良好な加工性や意匠性、及びポリアミド樹脂に由来する耐衝撃性や耐熱性を活用して、金属・FRP複合材料の物性を、求められる性能に応じて任意に調整することが可能である。
【0034】
本発明の金属・FRP複合材料のFRP材料には、難燃剤および難燃助剤が含まれていることが望ましい。難燃剤は、常温で固体であり、昇華性が無いものであれば特に限定されるものではない。これら難燃剤としては、例えば水酸化カルシウムといった無機系難燃剤や、リン酸アンモニウム類やリン酸エステル化合物といった有機系および無機系のリン系難燃剤、トリアジン化合物等の含窒素系難燃剤、臭素化フェノキシ樹脂等の含臭素系難燃剤などが挙げられる。なかでも臭素化フェノキシ樹脂やリン含有フェノキシ樹脂は、難燃剤兼マトリックス樹脂として使用することが可能である。難燃剤(および難燃助剤)の配合量については、難燃剤の種類や所望の難燃性の程度によって適宜選択されるが、マトリックス樹脂100重量部に対して概ね0.01〜50重量部の範囲内で、マトリックス樹脂の付着性や含浸性、成形物の物性を損なわない程度で配合されることが好ましい。
【0035】
さらに、本発明のFRP材料には、マトリックス樹脂の強化繊維基材への良好な付着性や、その物性を損なわない範囲において、フェノキシ樹脂やポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、例えば、ポリ塩化ビニリデン樹脂、天然ゴム、合成ゴム、エポキシ化合物等を配合することができる。
【0036】
特に、エポキシ化合物は、フェノキシ樹脂(B−1)と併用することができ、FRP材料の成形性やマトリックス樹脂の強化繊維基材への含浸性の向上、フェノキシ樹脂とポリアミド樹脂の親和性の向上、金属部材や強化繊維基材との接着性を向上させることができることから好ましく使用される。
【0037】
エポキシ化合物とは、1分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物を言い、常温で固形であって、その数平均分子量が10000以下、好ましくは1000〜10000、より好ましくは5000〜10000であることが望ましく、フェノキシ樹脂100重量部に対して0.1〜100重量部の割合で配合されることが望ましい。
このようなエポキシ化合物として、ビスフェノール型エポキシ樹脂やフェノールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂などが例示されるが、なかでもビスフェノールA型またはビスフェノールF型の骨格であり、軟化点が80℃以上である固形エポキシ樹脂が好ましく使用される。
【0038】
本発明の金属・FRP複合材料のFRP材料は、マトリックス樹脂組成物の160〜250℃における溶融粘度が3000Pa・sを越えない範囲内であれば、種々の無機フィラーや、カーボンブラックやカーボンナノチューブなどのカーボンフィラー、体質顔料、着色剤、酸化防止剤、紫外線防止剤などを配合でき、エポキシ化合物を添加した場合はさらに硬化剤や硬化促進剤等、その他の添加物を配合することもできる。
【0039】
上記樹脂組成物は、フェノキシ樹脂とポリアミド樹脂を含む混合物であるが、必要により上記のような他の樹脂や添加物を含むことができる。しかし、無機フィラーのような樹脂組成物と共に溶融又は溶解しない固形分は、樹脂組成物を構成する成分としては扱わない。
樹脂組成物にフェノキシ樹脂とポリアミド樹脂以外の成分を含む場合は、その割合は50質量%以下、好ましくは20質量%以下がよい。この場合の樹脂組成物は、全体として上記溶融粘度を満足することがよい。
【0040】
本発明の金属・FRP複合材料に使用される金属部材は、プレス等による成形加工が可能であれば特に限定されるものではないが、形状は薄板状であることが好ましい。また、材質については、例えば、鉄、チタン、アルミニウム、マグネシウム、銅及びこれらの合金などが挙げられる。ここで、合金の例としては、例えば、ステンレス鋼を含む鉄系合金、Ti系合金、Al系合金、Mg合金、黄銅などの銅合金などが挙げられる。金属部材の材質は、好ましくは鉄鋼材料、鉄系合金、チタン及びアルミニウムであり、特に他の金属種に比べて弾性率が高い鉄鋼材料であることがより好ましい。そのような鉄鋼材料としては、例えば、日本工業規格(JIS)等で規格された鉄鋼材料があり、一般構造用や機械構造用として使用される炭素鋼、合金鋼、高張力鋼等を挙げることができる。このような鉄鋼材料の具体例としては、冷間圧延鋼材、熱間圧延鋼材、自動車構造用熱間圧延鋼板材、自動車加工用熱間圧延高張力鋼板材などを挙げることができる。
【0041】
鉄鋼材料には、任意の表面処理が施されていてもよい。ここで、表面処理とは、例えば、亜鉛めっき及びアルミニウムめっきなどの各種めっき処理、クロメート処理及びノンクロメート処理などの化成処理、並びに、サンドブラストのような物理的もしくはケミカルエッチングのような化学的な表面粗化処理が挙げられるが、これらに限られるものではない。また、複数種の表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、少なくとも防錆性の付与を目的とした処理が行われていることが好ましい。
【0042】
FRP材料との接着性を高めることを目的に、金属部材の表面をプライマーにより処理することも可能である。この処理で用いるプライマーとしては、例えば、シランカップリング剤やトリアジンチオール誘導体が好ましい。シランカップリング剤としては、エポキシ系シランカップリング剤やアミノ系シランカップリング剤、イミダゾールシラン化合物が例示される。トリアジンチオール誘導体としては、6−ジアリルアミノ−2,4−ジチオール−1,3,5−トリアジン、6−メトキシ−2,4−ジチオール−1,3,5−トリアジンモノナトリウム、6−プロピル−2,4−ジチオールアミノ−1,3,5−トリアジンモノナトリウム及び2,4,6−トリチオール−1,3,5−トリアジンなどが例示される。
【0043】
本発明の金属・FRP複合材料は、次の(1)〜(3)の工程を含む方法により得ることができる。
(1)熱可塑性樹脂組成物(B)を調整する工程;
(2)熱可塑性樹脂組成物(B)を強化繊維基材(A)に付着させ、プリプレグを製造する工程;
(3)金属部材とプリプレグを積層し、熱プレス機などにより一括して加熱成形することによって金属・繊維強化プラスチック複合材料を得る工程。
なお、金属・FRP複合体を得るための工程については、前記工程(1)〜(3)がこの順番で全て含まれていればよく、(1)〜(3)以外の工程が中間やその前後にあっても構わない。以下、その詳細を説明する。
【0044】
[工程(1)]
工程(1)はフェノキシ樹脂(B−1)とポリアミド樹脂(B−2)を、その質量比( B−1)/(B−2)が80/20〜20/80の範囲内の任意の割合で配合された熱可塑性樹脂組成物(B)を用意する工程である。
【0045】
フェノキシ樹脂(B−1)とポリアミド樹脂(B−2)の配合方法は、特に制限はなく一般公知の方法を用いることできる。例えば、両者をそれぞれ微粉砕して粉状とし、それをヘンシェルミキサーやロッキングミキサーなどのブレンダーを用いて混合して樹脂組成物粉末としてしてもよいし、ニーダーなどを使用して両者を溶融混練したものでもよい。
【0046】
また、本工程は、フェノキシ樹脂(B−1)、ポリアミド樹脂(B−2)以外の成分、上記の難燃剤や無機フィラーなどを同時に混合してもよい。
【0047】
[工程(2)]
工程(2)は、前工程で用意したFRP材料のマトリックス樹脂となる熱可塑性樹脂組成物(B)を強化繊維基材(A)に付着させ、プリプレグを製造する工程である。なお、プリプレグとは、FRP材料を成形するための成形材料(FRP成形材料)を指す。
【0048】
熱可塑性樹脂組成物(B)を強化繊維基材(A)に付着させる方法は、特に制限はなく、一般公知の方法を用いることができる。例えば、工程(1)で得られた熱可塑性樹脂組成物(B)をフィルム化し、強化繊維基材(A)に加熱しながら貼り合せて加圧含浸させる方法でも良いし、熱可塑性樹脂組成物(B)を微粉末化し、強化繊維基材(A)に吹き付けもしくは堆積させたのち、加熱することで溶着する方法でもよい。
【0049】
強化繊維基材(A)への熱可塑性樹脂組成物(B)の付着量(樹脂割合:RC)は、20〜50%となるように塗工されるが、好ましくは25〜45%であり、より好ましくは25〜40%である。RCが50%を超えるとFRPの引張・曲げ弾性率等の機械物性が低下してしまい、10%を下回ると樹脂の付着量が極端に少ないことから基材内部へのマトリックス樹脂の含浸が不十分になり、熱物性、機械物性ともに低くなる懸念がある。
【0050】
なお、使用する強化繊維基材(A)は開繊処理されていることが好ましい。開繊処理により、本工程(熱可視性樹脂組成物(B)の付着工程)およびその後の成形加工時において、熱可塑性樹脂組成物の強化繊維基材の内部への含浸がより行われやすくなるため、より高い成形物物性を期待することができる。
【0051】
[工程(3)]
工程(3)は、金属部材とプリプレグを積層し、熱プレス機などにより一括して加熱成形することによって金属・繊維強化プラスチック複合材料を得る工程である。
【0052】
金属部材とFRP成形材料の積層方法については特に制限はない。金属部材の少なくとも一つの面に単独もしくは複数枚のFRP成形材料が積層されていても良いし、単独もしくは複数枚で積層されたFRP成形材料の少なくとも一つの面に金属部材が積層されていても良い。また、多数積層されたFRP成形材料に複数枚の金属部材がインサートされていても良い。
【0053】
複合・成形手段は、加熱加圧成形である限り、目的とするFRP成形物の大きさや形状に合わせて、オートクレーブ成型や金型を使用した熱プレス成型等の各種成形法を適宜選択して実施することができる。
また、このときに金型を使用することによって、任意の3次元形状に賦形された金属・FRP複合材料を得ることも可能である。
成形温度は、例えば180〜350℃、好ましくは200℃〜340℃、より好ましくは220℃〜340℃である。成形温度が上限温度を超えると、昇温に時間がかかり、成形時間(タクトタイム)が長くなり生産性が悪くなるほか、必要以上の過剰な熱を加えることによって樹脂が熱劣化する恐れがある。一方、成形温度が下限温度を下回るとマトリックス樹脂の溶融粘度が高くなるほか、特にポリアミド樹脂の溶融が不十分となるため、強化繊維基材へのマトリックス樹脂の含浸性が悪くなる。成形時間については、通常30〜60分で行うことができる。
【0054】
なお、本発明の金属・繊維強化プラスチック複合材料においては、繊維強化プラスチックおよび金属部材の厚みは、複合材料が使用される用途によって要求される特性を満たすのであれば特に限定されるものではない。しかし、生産性やコストなどを考慮すると繊維強化プラスチックについてはおよそ50〜5000μm、好ましくは100〜2000μmの範囲内とすることが適当である。同様に、金属部材の厚みも、例えば、100〜5000μm、好ましくは200〜2000μmの範囲で使用されることが適当である。
【0055】
金属・FRP複合材料は、複合・成形後に後工程として、塗装や他の部材とのボルトやリベット留めなどによる機械的な接合のための穴あけ加工を行うことができる。
【0056】
このように本発明の金属部材は、フェノキシ樹脂とポリアミド樹脂が適切な質量比でブレンドされた熱可塑性樹脂組成物(B)をマトリックス樹脂としたFRP材料が金属部材と強固に接合された軽量で高強度かつ高耐熱性の複合体であり、簡易な方法でかつ低コストで製造することから電気・電子機器などの筐体のみならず、自動車部材、航空機部材などの用途における構造部材としても好適に使用することができるものである。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における各種物性の試験及び測定方法は以下のとおりである。
【0058】
[FRP成形材料(プリプレグ)の製造]
フェノキシ樹脂(B−1)としてYP50S(日鉄ケミカル&マテリアル製)、およびポリアミド樹脂(B−2)としてCM1017(東レ製、ポリアミド6(PA6))、1300S(旭化成製、ポリアミド66(PA66))、6002(三菱エンジニアリングプラスチック製、ポリアミドMXD6(PAMXD6))、N1000A(クラレ製、ポリアミド9T(PA9T))を凍結粉砕、分級して平均粒子径D50が60μmである粉体を準備した。これを、各種の質量比に量り取り、ヘンシェルミキサーを用いてドライブレンドすることで熱可塑性樹脂組成物(B)を調整した。
強化繊維基材(A)として、T700(東レ製炭素繊維)を開繊して作成した平織りの炭素繊維織物を使用し、炭素繊維織物に対して、前記熱可塑性樹脂組成物(B)を静電塗装装置(日本パーカライジング製)を用いて、粉体塗装を行った。その後、オーブンで240℃、1分間加熱溶着させることでプリプレグを作成した。なお、RCは30%となるように調整した。
【0059】
[接着性1:強化繊維との界面せん断強度]
マイクロドロップレット法により測定した界面せん断強度(MPa)を用いて、強化繊維基材(A)のモノフィラメントに対する熱可塑性樹脂組成物(B)の接着性を評価した。
本試験で使用する熱可塑性樹脂組成物(B)は、予めミキサー内を240℃に予備加熱しておいた混錬押出成形機(東洋精機製、ラボプラストミル4C150)に、例の質量比に量り取ったフェノキシ樹脂(B−1)およびポリアミド樹脂(B−2)を投入した後、1分間の予熱、3分間の溶融混練を行い、放冷したものを用いた。
界面せん断強度(MPa)の測定方法を具体的に記載する。測定には、複合材料界面特性評価装置(東栄産業製、HM410)を使用した。まず、強化繊維基材(A)よりモノフィラメントを取り出し、試料ホルダーにセットする。この試料ホルダーと、熱可塑性樹脂組成物(B)をセットし、装置内で溶融させ、フィラメント上に樹脂を付着させることでフィラメント上にドロップを形成させ、測定用の試料を得た。得られた試料を装置にセットし、ドロップを装置ブレードで挟み、フィラメントを装置上で2μm/sの速度で走行させ、フィラメントからドロップを引き抜く際の最大引き抜き荷重Fを測定した。次式により界面せん断強度τを算出した。なお、1試料につき10〜20個程度のドロップの界面せん断強度τを測定し、その平均値を求めた。
界面せん断強度τ(MPa)=F/πdl
(F:最大引き抜き荷重、d:フィラメント直径、l:引抜方向のドロップ径)
【0060】
[耐熱性]
プリプレグを所定の枚数積層し、250℃、3MPaで5分間熱プレスし、加圧状態を維持したまま50℃まで冷却することで、試験片を得た。プリプレグの積層枚数は試験片の厚みが1.0mmとなるように調整した。また、試験片は25mm×25mmにカットした。
本試験片の初期厚みLo(mm)をデジタルノギスで測定後、120℃のオーブンで30分間熱履歴を加えた。冷却後の試験片厚みL(mm)をデジタルノギスで測定した。次式により、厚み変化率(%)を算出し、その絶対値が2.0%未満の場合は「耐熱性○」、2.0〜2.5%の場合は「耐熱性△」、3.0%以上の場合を「耐熱性×」と判断した。
厚み変化率(%)=L/Lo×100
【0061】
[接着性2:金属部材との引張せん断強度]
金属部材と熱可塑性樹脂組成物(B)の引張せん断強度(MPa)を用いて、金属部材と熱可塑性樹脂組成物(B)の接着性を評価した。
引張せん断強度は、JIS K 6850に準拠した試験片を作成し測定した。金属片(25mm×100mm×厚み1.6mm)の先端、25mm×12.5mmの範囲に、予めドライブレンドすることで作成した熱可塑性樹脂組成物(B)を乗せ、その上から前記金属片と同サイズの金属片を重ね、240℃、3MPaで10分間加熱プレスすることで試験片を作成した。荷重載荷は、島津製作所製AGS−Xを使用した。
【0062】
[曲げ試験]
JIS K 7074を参考に、得られた金属・FRP複合材料の機械物性(曲げ強度及び曲げ弾性率)を測定した。
まず、成形後の厚みが約0.4mmとなるのに必要な枚数のプリプレグを2セット準備した。次に、準備したプリプレグの1セット分をまず積層し、その上に厚みが0.4mmの金属板を1枚積層し、前記金属板の上にプリプレグの残りの1セット分を更に積層し、これを250℃、3MPaで5分間熱プレスし、加圧状態を維持したまま50℃まで冷却することで複合材料を成形した(全体の厚み1.2mm)。これを10mm×80mmにカットすることで曲げ試験片を作成した。荷重載荷は、島津製作所製AGS−Xを使用した。
また、載荷試験終了後の試験片について、金属板とFRP材料が界面剥離したものを×、剥離しなかったものを○と判断した。
【0063】
実施例1〜13、比較例1〜6
表1、表2に記載の樹脂比率にて、各種試験を行った。接着性2及び曲げ試験に使用した金属部材は、鉄鋼SGCC(スタンダードテストピースより購入)である。曲げ試験に使用した金属部材の厚みは 0.4mmである。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
上記実施例及び比較例により、本発明に記載の金属・繊維強化プラスチック複合材料は、鉄鋼材料との接着性が良好で、複合材料としての機械特性が良好であることがわかる。
【0067】
比較例7〜12
表3に記載の樹脂比率にて、各種試験を行った。使用した強化繊維基材(A)はサカイオーベックス社製の開繊炭素繊維織物SA−3203であり、接着性2及び曲げ試験に使用した金属部材はSGCC(スタンダードテストピースより購入)である。曲げ試験に使用した金属部材の厚みは0.4mmである。
【0068】
【表3】
【0069】
熱可塑性樹脂組成物(B)と強化繊維基材(A)のモノフィラメントとの接着強度τが低いため、物性が劣るか、プリプレグを加熱プレスする際に樹脂が基材から流出し、試験片を作成することができなかった(ND)。
【0070】
実施例14〜25、比較例13〜17
表4、表5に記載の樹脂比率にて、各種試験を行った。接着性2及び曲げ試験に使用した金属部材は、アルミニウムA1050(スタンダードテストピースより購入)である。曲げ試験に使用した金属部材の厚みは0.5mmである。
【0071】
【表4】
【0072】
【表5】
【0073】
上記実施例及び比較例により、本発明の金属・繊維強化プラスチック複合材料は、非鉄系金属との接着性も良好で、複合材料としての機械特性も良好であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の金属・繊維強化プラスチック複合材料は、繊維強化プラスチック(FRP)材料として、ノートPCやタブレットといった電子機器類の筐体から、産業用ロボット等のアーム、建築構造物の補強材料、またスポーツレジャー分野など、幅広い分野で利用できる。

【国際調査報告】