特表-20137972IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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再表2020-137972高耐熱性熱可塑性樹脂組成物及び、その成形物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2020年7月2日
【発行日】2021年11月11日
(54)【発明の名称】高耐熱性熱可塑性樹脂組成物及び、その成形物
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/10 20060101AFI20211015BHJP
   C08L 77/02 20060101ALI20211015BHJP
【FI】
   C08L71/10
   C08L77/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】22
【出願番号】特願2020-563250(P2020-563250)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2019年12月23日
(31)【優先権主張番号】特願2018-247635(P2018-247635)
(32)【優先日】2018年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.トワロン
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】椋代 純
(72)【発明者】
【氏名】安藤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 浩之
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CH08W
4J002CL01X
4J002GN00
(57)【要約】
耐熱性、機械特性、異種材料である強化繊維基材との密着性に優れるものであり、特に高温における剛性に優れた成形物が得られる熱可塑性樹脂組成物を提供する。
高分子鎖末端にヒドロキシ基および/またはエポキシ基を有するフェノキシ樹脂(A)と、ポリアミド樹脂(B)とを含み、前記フェノキシ樹脂(A)と前記ポリアミド樹脂(B)との合計100質量%のうち、前記フェノキシ樹脂(A)の割合が50〜90質量%であると共に、前記ポリアミド樹脂(B)の割合が10〜50質量%であり、射出成形したダンベル試験片(JIS K 7139、タイプA1)についての23℃における引張弾性率(Mo)に対する80℃における引張弾性率(M)から計算される引張弾性率保持率〔下式(i)〕が50%以上となることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物及びその成形物である。
式(i):引張弾性率保持率(%)=M〔80℃での引張弾性率(MPa)〕/Mo〔23℃での引張弾性率(MPa)〕×100である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子鎖末端にヒドロキシ基および/またはエポキシ基を有するフェノキシ樹脂(A)と、ポリアミド樹脂(B)とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、
前記フェノキシ樹脂(A)と前記ポリアミド樹脂(B)との合計100質量%のうち、前記フェノキシ樹脂(A)の割合が50〜90質量%であると共に、前記ポリアミド樹脂(B)の割合が10〜50質量%であり、
当該熱可塑性樹脂組成物は、これを射出成形したダンベル試験片(JIS K 7139、タイプA1)についての23℃における引張弾性率(Mo)に対する80℃における引張弾性率(M)から計算される引張弾性率保持率〔下式(i)〕が50%以上となることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
式(i):引張弾性率保持率(%)=M〔80℃での引張弾性率(MPa)〕/Mo〔23℃での引張弾性率(MPa)〕×100
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂組成物は、前記ダンベル試験片(JIS K 7139、タイプA1)に静置下で120℃、2時間の熱履歴を与えた前後の全長から計算される寸法保持率〔下式(ii)〕が98%以上となることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
式(ii):寸法保持率(%)=L〔熱履歴後の全長(mm)〕/Lo〔熱履歴前の全長(mm)〕×100
【請求項3】
ポリアミド樹脂(B)が、全脂肪族ポリアミド及び/又は半脂肪族ポリアミドであることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
ポリアミド樹脂(B)が、ポリアミド6であることを特徴とする請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
フェノキシ樹脂(A)のガラス転移温度が、65〜200℃であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
強化充填材をさらに含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物のペレット。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の成形物。
【請求項9】
強化繊維基材と、請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物とを含む繊維強化プラスチック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノキシ樹脂およびポリアミド樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物に関するものであり、特に射出成形品の耐熱性、機械特性に優れた熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂はフェノキシ樹脂として知られており、耐衝撃性、密着性等が優れることから、電子分野では、絶縁フィルムや接着フィルム等の広範囲の用途で使用されている。また、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂の改質樹脂として、機械的特性、炭素繊維との密着性の改良に用いられてきた。これらの用途はエポキシ樹脂を始めとする熱硬化性樹脂の改質剤として主に用いられているが、熱硬化性樹脂はより短時間での加工性や使用後のリサイクル性などが課題として挙げられている。
【0003】
フェノキシ樹脂は熱可塑性を有する樹脂であり、温度によって溶融・固化するため、短時間加工が可能であり、様々な異種材料との密着性が良好である。また、優れた強度と剛性を有する材料であるが、エンジニアリングプラスチック等と比較した場合、耐熱性が劣るために、用途拡大に難がある材料であった。
【0004】
一方、ポリアミド樹脂は耐熱性と耐薬品性に優れている樹脂でありエンジニアリングプラスチックとして広く使用されている。しかしながら、衝撃強度が不十分であるという問題と、高温環境下では剛性が著しく低下する問題と、吸水性が高いときに剛性が低下するという問題を抱えていた。
【0005】
フェノキシ樹脂とポリアミド樹脂を溶融ブレンドして使用する方法として、ポリアミド樹脂の制振性を向上させることを目的にした樹脂組成物の提案(特許文献1参照)、ポリアミド樹脂の加工性の低下を抑制しつつ耐熱性および吸水性を改善する樹脂組成物の提案(特許文献2参照)、機械特性および耐水性などの物理化学的特性に優れた樹脂組成物の提案(特許文献3参照)およびポリアミド樹脂の特性を保持しつつ、その成形性を改良した樹脂組成物の提案(特許文献4参照)が挙げられるが、いずれもポリアミド樹脂に少量のフェノキシ樹脂を添加する場合の、ポリアミド樹脂の改良提案であり、フェノキシ樹脂の耐熱性の改良を目的に検討されたものではなかった。つまり、フェノキシ樹脂の特性(耐熱性、耐溶剤性など)や使用性などの観点からすると、成形材料としてフェノキシ樹脂を多く採用する系の検討が十分になされてこなかったという実情がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−11654号公報
【特許文献2】特許第4852262号公報
【特許文献3】特開平3−237160号公報
【特許文献4】特開昭63−202655号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】強化プラスチック、vol.59(2013)、pp.330
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、フェノキシ樹脂およびポリアミド樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物に関し、射出成形品の耐熱性および機械特性の向上、特に高温環境下での剛性に大きく優れたフェノキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)高分子鎖末端にヒドロキシ基および/またはエポキシ基を有するフェノキシ樹脂(A)と、ポリアミド樹脂(B)とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、
前記フェノキシ樹脂(A)と前記ポリアミド樹脂(B)との合計100質量%のうち、前記フェノキシ樹脂(A)の割合が50〜90質量%であると共に、前記ポリアミド樹脂(B)の割合が10〜50質量%であり、
当該熱可塑性樹脂組成物は、これを射出成形したダンベル試験片(JIS K 7139、タイプA1)についての23℃における引張弾性率(Mo)に対する80℃における引張弾性率(M)から計算される引張弾性率保持率〔下式(i)〕が50%以上となることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
式(i):引張弾性率保持率(%)=M〔80℃での引張弾性率(MPa)〕/Mo〔23℃での引張弾性率(MPa)〕×100
(2)前記熱可塑性樹脂組成物は、前記ダンベル試験片(JIS K 7139、タイプA1)に静置下で120℃、2時間の熱履歴を与えた前後の全長から計算される寸法保持率〔下式(ii)〕が98%以上となることを特徴とする(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
式(ii):寸法保持率(%)=L〔熱履歴後の全長(mm)〕/Lo〔熱履歴前の全長(mm)〕×100
(3)ポリアミド樹脂(B)が、全脂肪族ポリアミド及び/又は半脂肪族ポリアミドであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(4)ポリアミド樹脂(B)が、ポリアミド6であることを特徴とする(3)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(5)フェノキシ樹脂(A)のガラス転移温度が、65〜200℃であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(6)強化充填材をさらに含むことを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物のペレット。
(8) (1)〜(6)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の成形物。
(9)強化繊維基材と、(1)〜(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物とを含む繊維強化プラスチック。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成形物は、耐熱性、機械特性、異種材料である炭素繊維などの強化繊維基材との密着性に優れるものであり、特に高温における剛性が大きく向上しているため、自動車用途、鉄道車両および航空機等の用途で好適に使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施例1に係る熱可塑性樹脂組成物を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した説明図(写真)である。
図2図2は、比較例2に係る組成物を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した説明図(写真)である。
図3図3は、本発明の実施例4に係る熱可塑性樹脂組成物を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した説明図(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)を含む樹脂組成物である。
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、非晶性のフェノキシ樹脂(A)を使用しているため、射出成形時の成形条件幅が広い。また、エンジニアリングプラスチックであるポリアミド樹脂(B)を使用しているため、耐熱性に優れる。
【0014】
フェノキシ樹脂(A)は、2価フェノール化合物とエピハロヒドリンとの縮合反応、あるいは2価フェノール化合物と2官能エポキシ樹脂との重付加反応から得られる熱可塑性樹脂であり、溶液中あるいは無溶媒下に従来公知の方法で得ることができる。平均分子量は、重量平均分子量(Mw)として、通常10,000〜200,000であるが、好ましくは20,000〜100,000であり、より好ましくは30,000〜80,000である。Mwが低すぎると成形体の強度が劣り、高すぎると作業性や加工性に劣るものとなり易い。なお、Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値である。
【0015】
フェノキシ樹脂(A)の水酸基当量(g/eq)は、通常50〜1,000であるが、好ましくは100〜750であり、特に好ましくは200〜500である。水酸基当量は低すぎると水酸基が増えることで吸水率が上がるため、機械物性が低下する懸念がある。水酸基当量が高すぎると水酸基が少ないので、強化繊維基材、特に炭素繊維との濡れ性が低下するため、炭素繊維強化時に十分な補強効果が望めない。ここで、本明細書でいう水酸基当量は2級水酸基当量を意味する。なお、フェノキシ樹脂(A)の高分子鎖末端官能基については、エポキシ基もしくは水酸基のいずれか又はその両方を有していても構わない。
【0016】
フェノキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、65℃以上のものが適するが、好ましくは70〜200℃であり、より好ましくは80〜200℃である。ガラス転移温度が65℃よりも低いと成形性は良くなるが、引張弾性率保持率や寸歩変化率保持率が低下する恐れがある。また、200℃を超えるようであると成形加工の際の樹脂の流動性が低くなり、より高温での加工が必要となるためあまり好ましくない。
なお、フェノキシ樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置を用い、10℃/分の昇温条件で、20〜280℃の範囲で測定し、セカンドスキャンのピーク値より求められる数値である。
【0017】
フェノキシ樹脂(A)としては、上記の物性を満たしたものであれば特に限定されないが、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製フェノトートYP−50、YP−50S、YP−55U)、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製フェノトートFX−316)、ビスフェノールAとビスフェノールFの共重合型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製YP−70)、あるいは特殊フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製フェノトートYPB−43C、FX293)等が挙げられ、これらを単独または2種以上を混合して使用することができる。また、フェノキシ樹脂と類似した熱可塑性樹脂である熱可塑性エポキシ樹脂も使用することができるが、一般的にフェノキシ樹脂と呼称されるポリヒドロキシポリエーテル樹脂を使用することが本発明では最も好ましい。
【0018】
また、当該フェノキシ樹脂(A)は、常温において固形であり、かつ200℃以上の温度において3,000Pa・s以下の溶融粘度を示すものであることが好ましい。より好ましくは2,500Pa・s以下、さらに好ましくは1,000Pa・s以下である。
【0019】
また、当該フェノキシ樹脂(A)は、熱重量測定(TG)において、300℃まで加熱した時の加熱重量減少率が1%未満であることが好ましい。当該熱重量測定(TG)は、例えば、空気雰囲気中において10℃/minで昇温する方法を挙げることができる。この加熱重量減少率が1%以上であると、成形加工の際にフェノキシ樹脂が熱劣化することにより、成形体の変色や機械強度が低下する恐れがある。
【0020】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、フェノキシ樹脂(A)と共に、ポリアミド樹脂(B)が配合される。ポリアミド樹脂(B)を配合することによって、マトリックス樹脂のモルフォロジーの最適化を通じた成形体の耐熱性向上や、樹脂組成物の溶融粘度の低減による強化繊維基材への含浸性の向上を図ることができる。フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)はいずれも極性基を有する樹脂なので、相容性が良くブレンドによる効果が発現すると推測している。特に、耐熱性の向上については、これらの樹脂をブレンドすることによってフェノキシ樹脂のTgを大きく超えることが可能であり、より高い耐熱性を要求される用途、例えば自動車、鉄道車両、航空機等の材料などへの展開も可能となる。
【0021】
ポリアミド樹脂(B)は、アミド結合の繰り返しにより主鎖が構成される熱可塑性樹脂であり、ラクタムの開環重合もしくはラクタム同士の共縮合重合、ジアミンとジカルボン酸との脱水縮合等により得られる。ラクタムとしては、ε‐カプロラクタム、ウンデカンラクタム、ラウリルラクタム等が挙げられる。また、前記ジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン、ノナンジアミン、メチルペンタジアミンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロジアミン、ノルボルナンジメチルアミン、トリシクロデカンジメチルジアミン等の脂環族ジアミン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンなどである。また、前記ジカルボン酸としては、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、4,4’−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸などである。
【0022】
ポリアミド樹脂(B)は、主鎖が脂肪族骨格からなるナイロンとも呼称される全脂肪族ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610など)、主鎖に芳香族が含まれる半脂肪族ポリアミド樹脂又は半芳香族ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン6I、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロンM5T、ナイロンMXD6など)、及び主鎖が芳香族骨格のみで構成されるアラミドとも呼称される全芳香族ポリアミド樹脂〔ケブラー、ノーメックス(東レ・デュポン株式会社製)、トワロン、コーネックス(帝人株式会社製)〕がある。
本発明においては、これら各種のポリアミド樹脂のうち、全脂肪族ポリアミド樹脂及び/又は半脂肪族(半芳香族)ポリアミド樹脂が好ましく使用される。ポリアミド樹脂は樹脂組成物の用途によって適宜選択してもよいが、得られる樹脂組成物の性能や加工性、コスト等のバランスから全脂肪族ポリアミド樹脂がより好ましく、ナイロン6(ポリアミド6)及びナイロン66(ポリアミド66)、と呼称される全脂肪族ポリアミド樹脂が最も好ましい。
【0023】
ポリアミド樹脂(B)は、融点が180℃以上で、200℃以上の温度における溶融粘度が4,000Pa・s以下であることが良い。好ましくは融点が200℃以上であり、200〜350℃における溶融粘度が4,000Pa・s以下であるものを用いることがよい。全脂肪族および半芳香族ポリアミド樹脂は、溶融粘度が比較的低く、マトリックス樹脂の溶融粘度を低く抑えることができるため好ましいものであり、ナイロン6やナイロン66、ナイロンMXD6は250〜350℃における溶融粘度が1,000Pa・s以下であるために最も好ましく用いられる。
【0024】
ポリアミド樹脂(B)は、その重量平均分子量(Mw)が10,000以上であることが望ましく、より望ましくは25,000以上である。Mwが10,000以上のポリアミド樹脂を使用することによって、成形体の良好な機械強度が担保される。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)とを合計100質量%とした場合において、フェノキシ樹脂(A)の割合を50〜90質量%、ポリアミド樹脂(B)の割合を10〜50質量%とする。すなわち、(A)/(B)で表される配合比(質量比)にて90/10〜50/50の割合で配合される。この配合比(A)/(B)は、好ましくは80/20〜50/50であり、より好ましくは80/20〜60/40である。配合比(A)/(B)が90/10を超えてさらにフェノキシ樹脂(A)の割合が高くなるとポリアミド樹脂を配合した効果である耐熱性の向上効果が見られなくなる。また、配合比(A)/(B)が50/50未満になってポリアミド樹脂(B)の割合が高くなるとフェノキシ樹脂の配合による剛性の向上が見られなくなるため、高温環境下での剛性が低下する。
【0026】
ここで、本発明においては、特に耐熱性に優れた熱可塑性樹脂組成物を与えるものであり、この樹脂組成物を射出成形して作製したダンベル試験片(JIS K 7139、タイプA1)の温度80℃における条件下で測定した引張弾性率が、温度23℃における条件下で測定した引張弾性率に対して50%以上もの保持率(引張弾性率保持率)を示す。射出成形条件については、例えば、後述する実施例での成形条件によって作製することがよく、引張弾性率については、JIS K 7161に従うことがよい。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物については、前記ダンベル試験片に静置下で120℃、2時間の熱履歴を与えた後の試験片全長が、熱履歴を与える前の試験片の全長に対して98%以上の保持率(寸法保持率)を示すものであることが好ましい。これら引張弾性保持率と寸法保持率は、いずれか一方の基準を満たしていても良好な耐熱性を示すが、本発明おいては少なくとも引張弾性率保持率が50%以上であることが必要であり、両方の保持率を満たしていることが最も好ましい。引張弾性率保持率が50%未満であると高温環境下にて加えられた外力によって樹脂組成物の成形物が容易に変形しやすくなり、成形物の機械強度が大きく低下するので適さない。一方、寸法保持率が98%未満であると高温環境下における成形物の自己収縮によって精度の低下や製品の不具合を引き起こす恐れがある。
なお、引張弾性率保持率および寸法保持率は、それぞれ、前記ダンベル試験片の引張試験および寸法測定の結果から下式(i)、下式(ii)にて算出される数値である。
[式(i)]:
引張弾性率保持率(%)=M〔80℃での引張弾性率(MPa)〕/Mo〔23℃での引張弾性率(MPa)〕×100
[式(ii)]:
寸法保持率(%)=L〔熱履歴後の全長(mm)〕/Lo〔熱履歴前の全長(mm)〕×100
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂組成物については、フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)とが、いわゆる海島構造を形成することを確認している。この海島構造は、透過型電子顕微鏡観察による観察が可能であり、海部に相当する連続相と島部に相当する分散相は、フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の配合比によって変化するが、ポリアミド樹脂(B)が島状になって、フェノキシ樹脂(A)中に分散していることが好ましい(例えば、後述の図1を参照)。なお、ポリアミド樹脂(B)の分散は、前記のようにフェノキシ樹脂(A)の連続相中にポリアミド樹脂(B)が分散する形でもよく、或いは、逆にポリアミド樹脂(B)の連続相中に島状にフェノキシ樹脂(A)が分散している場合において、この分散しているフェノキシ樹脂(A)中にさらにポリアミド樹脂(B)が島状に分散された相(これを、湖相と呼ぶ。例えば、後述の図3を参照。)を有する状態でもよい。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミド樹脂リッチの組成物よりも優れた耐衝撃性を示すが、その原因は樹脂組成物の前記のようなモルフォロジーにより発現されているものと推測される。また、フェノキシ樹脂とポリアミド樹脂とは、相溶はしないものの、両者の相容性(Compativility)が良いために、融点の高いポリアミドが、Tgが低く変形しやすいフェノキシ樹脂を固定するかたちとなり、その変形を抑制するために樹脂組成物としての寸法変化保持率や引張弾性率保持率、荷重たわみ温度などの耐熱性に係る機械物性がフェノキシ樹脂単独よりも向上すると考えられる。
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、その溶融特性として温度250〜310℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が1.0g/10分以上であり、溶融張力が5mN以上であることが好ましい。当該樹脂組成物のMFRおよび溶融張力が前記範囲内となるようにすることにより、射出成形によって成形体を得るだけでなく、樹脂組成物のブロー成形やインフレーション法によるフィルム化、溶融紡糸も可能となり、様々な用途に本発明の熱可塑性樹脂組成物を展開することができる。
なお、MFRは好ましくは1.0〜40g/10分、溶融張力については5〜50mN以上であることがより好ましい樹脂組成物の溶融特性である。
【0030】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、これを繊維強化プラスチック(FRP)材料のマトリックス樹脂と使用する場合には、強化繊維基材と良好な接着性を有することが望ましい。このような接着性の評価方法としては、マイクロドロップレット法(MD法)によってモノフィラメントと当該熱可塑性樹脂組成物との界面せん断強度を測定することによって評価できる(非特許文献1)。本法により測定した23℃における界面せん断強度が35MPa以上であれば、モノフィラメントとマトリックス樹脂組成物との間の接着性は良好で、強度に優れた繊維強化プラスチックが得られる。一方、界面せん断強度が35MPa未満であると、繊維強化プラスチックに荷重負荷がかかった場合、強化繊維とマトリックス樹脂組成物の間の界面より剥離が生じ負荷を強化繊維に担わせることができなくなるほか、マトリックス樹脂とフィラメント自身との馴染みも悪いため、成形時に強化繊維間への含浸不良が起きる。このように、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂組成物と強化繊維との界面せん断強度が不足するとFRP材料として充分な機械物性を出せなくなる。なお、このような強化繊維との界面せん断強度については、50MPa以上が好ましい。
【0031】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、機械特性や耐熱性を損なわない範囲において、フェノキシ樹脂(A)やポリアミド樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の粉末、例えば、ポリ塩化ビニリデン樹脂、天然ゴム、合成ゴム、エポキシ化合物等の粉末を配合することができる。
【0032】
特に、エポキシ化合物は、フェノキシ樹脂(A)と併用することができ、本発明の熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度の調整や、フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との親和性の向上、強化繊維材料と使用する場合における接着性を向上させることができることから好ましく使用される。ここで、エポキシ化合物とは、1分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物を言い、常温で固形であって、その数平均分子量が10,000以下、好ましくは1,000〜10,000、より好ましくは5,000〜10,000であることが望ましく、フェノキシ樹脂(A)100質量部に対して0.1〜100質量部の割合で配合されることが望ましい。このようなエポキシ化合物として、ビスフェノール型エポキシ樹脂やフェノールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂などが例示されるが、なかでもビスフェノールA型またはビスフェノールF型の骨格であり、軟化点が50℃以上である固形エポキシ樹脂が好ましく使用される。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、200〜350℃における溶融粘度が3,000Pa・sを越えない範囲内であれば、種々の無機フィラーや、カーボンブラックやカーボンナノチューブなどのカーボンフィラー、顔料、着色剤、酸化防止剤、紫外線防止剤などを配合できる。
【0034】
上記樹脂組成物は、フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)とを含む混合物であるが、必要により上記のような他の樹脂や添加物を含むことができる。なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物にフェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)以外の成分を含む場合は、その割合は50質量%以下、好ましくは20質量%以下がよい。この場合の樹脂組成物は、全体として上記溶融粘度を満足することがよい。
【0035】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、強化充填材として無機フィラーや強化繊維を配合することが出来る。無機フィラーは炭酸カルシウムやタルク、クレー、シリカ、アルミナ、窒化ホウ素等の非球状もしくは球状のフィラーが例示される。強化繊維としては、チョップドファイバーであってもミルドファイバーであっても構わない。ガラス繊維や炭素繊維のほか、ボロン繊維やシリコンカーバイト繊維などのセラミックス系繊維、アラミド繊維を初めとする有機繊維よりなる群の中から選ばれる1種または2種以上の繊維を含むものが使用可能であるが、強度が高く、熱伝導性の良い炭素繊維を使用することが好ましい。炭素繊維はPAN系およびピッチ系の2種類の繊維があり、そのどちらも好適に使用することができるので、FRP成形体の使用用途に応じて両者から適宜選択して使用すればよい。
【0036】
なお、強化繊維を強化充填材として用いる場合、その表面にサイジング材(集束剤)やカップリング剤等を付着させたものであると、フェノキシ樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)の強化繊維への濡れ性や、取り扱い性を向上させることができるので好ましい。サイジング剤としては、例えば、無水マレイン酸系化合物、ウレタン系化合物、アクリル系化合物、エポキシ系化合物、フェノール系化合物またはこれら化合物の誘導体などが挙げられ、エポキシ系化合物を含有するサイジング剤が好適に使用可能である。カップリング剤としては、例えば、アミノ系、エポキシ系、クロル系、メルカプト系、カチオン系のシランカップリング剤などが挙げられる。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、連続繊維からなる強化繊維基材に、フィルムスタック法やパウダーコーティング法、コミングルドヤーン法などの公知の方法を用いて含浸することにより、当該組成物をマトリックス樹脂とした繊維強化プラスチック成形材料とすることもできる。
このとき、連続繊維は、炭素繊維やガラス繊維、ボロン繊維やシリコンカーバイト繊維などのセラミックス系繊維や、アラミド繊維を初めとする有機繊維よりなる群の中から選ばれる1種または2種以上の繊維を含むものが使用可能であるが、強度が高く、熱伝導性の良い炭素繊維を使用することが好ましい。炭素繊維はPAN系およびピッチ系の2種類の繊維があり、そのどちらも好適に使用することができるので、FRP成形体の使用用途に応じて両者から適宜選択して使用すればよい。また、強化繊維基材は平織りや綾織りなどのクロス材、一方向基材(UD材)などの任意の基材を使用することができる。
【0038】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、更に紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート)、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤および離型剤(ステアリン酸、モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料および顔料を含む着色剤、導電剤あるいは着色剤としてカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、難燃助剤、および帯電防止剤などの通常の添加剤、熱可塑性樹脂以外の重合体を配合して、所定の特性をさらに付与することができる。
【0039】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法としては、溶融混練によることが好ましく、溶融混練には公知の方法を用いることができる。たとえば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを用い、熱可塑性樹脂の溶融温度以上で溶融混練して樹脂組成物とすることができる。中でも、二軸押出機が好ましい。混練方法としては、1)フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)を一括混練する方法、2)まずフェノキシ樹脂(A)をメインホッパーから供給し、次いで、その下流のサイドホッパーからポリアミド樹脂(B)を供給し混練する方法、3)ポリアミド樹脂(B)をメインホッパーから供給し、次いで、その下流のサイドホッパーからフェノキシ樹脂(A)を供給し混練する方法、などを例示することができ、どのような混練方法を用いてもかまわない。
【0040】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、公知の方法でペレット化することや、また、通常公知の射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの任意の方法で成形することができ、各種成形品に加工し利用することができる。成形品としては、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、フィルム、シート、繊維などとして利用でき、フィルムとしては、未延伸、一軸延伸、二軸延伸などの各種フィルムとして、繊維としては、未延伸糸、延伸糸、超延伸糸など各種繊維として利用することができる。特に、射出成型品とした場合において、前記した引張弾性率保持率、寸法保持率を満足することが好ましい。
【0041】
本発明の熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる成形物は、リサイクルすることが可能である。例えば、樹脂組成物およびそれからなる成形物を粉砕し、好ましくは粉末状とした後、必要に応じて添加剤を配合して得られる樹脂組成物は、本発明の樹脂組成物と同じように使用でき、再度、成形物とすることも可能である。
【0042】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、このような組成及び特性等を有するものであることから、特に、高温における剛性が大きく向上しているため、一般的な樹脂部品の材料としてだけでなく、発熱の大きい電気・電子機器のための筐体や部品、エンジンカバーなどの耐熱性を要する用途に向けた自動車や産業機器のための成形部品として、また、繊維強化プラスチック(FRP)材料のマトリックス樹脂等にも使用することができ、特に、自動車用途、鉄道車両および航空機等の用途で好適に使用することが可能である。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における各種物性の試験及び測定方法は以下のとおりである。
【0044】
・溶融粘度:レオメータ(Anton Paar社製)を用いて、4.3cmのサンプルをパラレルプレートに挟み、20℃/minで昇温しながら、周波数:1Hz、負荷ひずみ:5%の条件にて、250℃における溶融粘度を測定した。
【0045】
(1)メルトフローレート(MFR):メルトフローレート:JIS K 7210(温度250〜310℃、2.16kg荷重条件で測定)に準じて測定した。
(2)高温環境下の寸法保持率:23℃および120℃にて、掴み部を含めた全長215mm、幅10mm、厚み4mmの寸法のダンベル試験片の全長を、ノギスを用いて測定し、各温度で測定された前記試験片の全長から、前記式(ii)に従って、高温環境下における寸法保持率を算出した。
(3)引張弾性率:万能材料試験機(インストロン社製、5582型)を使用した。23℃および80℃にて、掴み部を含めた全長215mm、幅10mm、厚み4mmの寸法のダンベル試験片を、チャック間114mm、速度50mm/min.で引張試験し、得られた応力−歪線図から引張弾性率を求めた。そして、これらの各温度における引張弾性率の結果から、前記式(i)に従って、引張弾性率保持率(%)を算出した。
(4)ビカット軟化温度:HDTテスタ(株式会社東洋精機製作所製、6M−2)を使用した。JIS K 7206に準拠し、B 50法で求めた。
(5)荷重たわみ温度:荷重たわみ温度試験機(株式会社安田精機製作所製、No.148−HDPC−3)を使用した。長さ80mm、幅10mm、厚み4mmの多目的試験片に対し、スパン64mmで、0.45MPaの曲げ応力を与えた状態で油槽の温度を120℃/min.の速度で昇温し、規定のたわみ量(0.34mm)に達した時の温度を荷重たわみ温度とした。
【0046】
(6)シャルピー衝撃強さ:シャルピー衝撃試験機(株式会社安田精機製作所製、No.258PC−S)を使用した。室温にて、試験片長手方向をMD方向とし、板厚を貫通する深さ2mmのVノッチを有した、長さ80mm、幅10mm、厚み4mmの多目的試験片でシャルピー衝撃試験を行った。試験片の破壊前後でのハンマー位置エネルギーの差から吸収エネルギーを求め、シャルピー衝撃強さとした。
(7)飽和吸水率:ダンベル試験片を23℃の水に浸漬し、飽和吸水率を測定した。
(8)界面せん断強度:複合材料界面特性評価装置(東栄産業株式会社製、HM410)を使用し、マイクロドロップレット法により炭素繊維/樹脂間の界面密着性を評価した。具体的には、炭素繊維ストランドより、炭素繊維フィラメントを取り出し、試料ホルダーにセットする。加熱溶融した樹脂組成物のドロップを炭素繊維フィラメント上に形成させ、測定用の試料を得た。得られた試料を装置にセットし、ドロップを装置ブレードで挟み、炭素繊維フィラメントを装置上で2μm/sの速度で走行させ、炭素繊維フィラメントからドロップを引き抜く際の最大引き抜き荷重Fを測定した。測定は23℃で行った。次式により界面剪断強度τを算出した。なお、1試料につき10〜20個程度のドロップの界面せん断強度τを測定し、その平均値を求めた。
界面剪断強度τ(単位:MPa)=F/πdl
(F:最大引き抜き荷重、d:炭素繊維フィラメント直径、l:引抜方向のドロップ径)
【0047】
[フェノキシ樹脂(A)]
A−1:フェノトートYP−50S(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製ビスフェノールA型、Mw=40,000、水酸基当量=284g/eq、250℃における溶融粘度=90Pa・s、1%加熱重量減少率=315℃)
[ポリアミド樹脂(B)]
B−1:CM1017(東レ株式会社製ナイロン6(ポリアミド6)、融点=225℃、250℃における溶融粘度=125Pa・s)
B−2:1300S(旭化成株式会社製ナイロン66(ポリアミド66)、融点=268℃、280℃における溶融粘度=550Pa・s)
B−3:6002(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ナイロンMXD6(ポリアミドMXD6)、融点=243℃、250℃における溶融粘度=300Pa・s)
B−4:N1000A(株式会社クラレ製ナイロン9T(ポリアミド9T)、融点=300℃、320℃における溶融粘度=3,500Pa・s)
【0048】
以下、実施例と比較例について説明する。
【0049】
フェノキシ樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B−1)を、表1に示した比で配合した後に、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(設定温度:230℃)で溶融混練を行い、ペレットを得た。得られたペレットを各物性評価に適するように、成形機(成形温度設定範囲:210℃〜260℃、金型温度設定範囲:40〜85℃)にてダンベル試験片および、長さ80mm、幅10mm、厚み4mmの多目的試験片を作成し、前者を用いて前記(2)、(3)及び(7)の評価を行い、また、後者を用いて前記(4)〜(6)の評価を行った。なお、前記(1)及び(8)の評価については、フェノキシ樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B−1)を表1に示した比で配合した後に、それぞれ(1)については溶融混練して作製したペレットを使用して測定を行い、また、(8)については、前記ペレットを溶融する温度まで加熱し、炭素繊維フィラメントに樹脂玉を付着させて評価をおこなった。表1に結果を示す。
【0050】
【表1】
【0051】
フェノキシ樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B−2)、(B−3)および(B−4)を、表2に示した比で配合した後に、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(設定温度:250〜320℃)で溶融混練を行い、ペレットを得た。得られたペレットを各物性評価に適するように、成形機(成形温度設定範囲:260℃〜320℃、金型温度設定範囲:50〜95℃)にてダンベル試験片および、長さ80mm、幅10mm、厚み4mmの多目的試験片を作成し、前者を用いて前記(2)、(3)及び(7)の評価を行い、また、後者を用いて前記(4)〜(6)の評価を行った。なお、前記(1)及び(8)の評価については、フェノキシ樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)を表2に示した比で配合した後に、それぞれ(1)については溶融混練して作製したペレットを使用して、表2の(1−2)、(1−3)及び(1−4)に記載の条件で測定を行い、また、(8)については、前記ペレットを溶融する温度まで加熱し、炭素繊維フィラメントに樹脂玉を付着させ評価をおこなった。
【0052】
【表2】
【0053】
表1、2の実施例にて確認できるように、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、比較例に比べて強化繊維との密着性、耐衝撃性に優れる成形体を得ることができる。特に、実施例1〜4、6〜11については、高温環境下における高い寸法保持率、引張弾性率保持率を両立した優れた耐熱特性を発現するものであり、電子・電気機器から自動車や産業機器などの熱的に過酷な環境下まで幅広く使用することができる。
【0054】
[透過型電子顕微鏡観察]
前記実施例1、比較例2及び実施例4に係る組成物を、それぞれ透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察した。観察方法は以下の通りである。先ず、各組成物を超薄切片法により厚さ100nmの試料とし、これをリンタングステン酸染色したものを透過型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製H−8100)により観察した。その結果をそれぞれ図1〜3に示す。
図1〜3において、白色に見える部分がフェノキシ樹脂(A)の相であり、黒色に見える部分はポリアミド樹脂(B)の相である。実施例1に係る組成物においては、フェノキシ樹脂(A)の配合割合が多く、フェノキシ樹脂(A)相の海部に対して島状にポリアミド樹脂(B)の相が分散していることが分かる。一方で、比較例2に係る組成物においては、反対にポリアミド樹脂(B)の配合割合が多く、ポリアミド樹脂(B)相の海部に対して島状にフェノキシ樹脂(A)の相が分散していることが分かる。さらに、実施例4の組成物においては、フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との配合割合が同じものであるが、ポリアミド樹脂(B)相の海部に対して島状にフェノキシ樹脂(A)の相が分散していることが分かり、この分散しているフェノキシ樹脂(A)の相の内側にさらにポリアミド樹脂(B)の相が島状に分散して湖相を形成していることが分かる。
図1
図2
図3
【国際調査報告】