(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-502415(P2015-502415A)
(43)【公表日】2015年1月22日
(54)【発明の名称】グラフェンナノリボン前駆体およびその製造に適したモノマー
(51)【国際特許分類】
C08G 61/10 20060101AFI20141219BHJP
C01B 31/02 20060101ALI20141219BHJP
C07C 25/18 20060101ALI20141219BHJP
C07C 17/25 20060101ALI20141219BHJP
C07C 17/30 20060101ALI20141219BHJP
【FI】
C08G61/10
C01B31/02 101Z
C07C25/18CSP
C07C17/25
C07C17/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2014-537788(P2014-537788)
(86)(22)【出願日】2012年10月24日
(85)【翻訳文提出日】2014年6月27日
(86)【国際出願番号】IB2012055845
(87)【国際公開番号】WO2013061258
(87)【国際公開日】20130502
(31)【優先権主張番号】61/551,466
(32)【優先日】2011年10月26日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(71)【出願人】
【識別番号】506209857
【氏名又は名称】マクス−プランク−ゲゼルシャフト、ツール、フェルデルング、デァ、ヴィセンシャフテン、イー、ファウ
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】シュヴァブ,マティアス ゲオルグ
(72)【発明者】
【氏名】ミューレン,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】フェン,シンリヤン
(72)【発明者】
【氏名】デッセル,ルーカス
【テーマコード(参考)】
4G146
4H006
4J032
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC16B
4G146BA11
4G146BA20
4G146BC42
4G146BC44
4G146BC50
4H006AA01
4H006AB46
4H006AC28
4H006EA22
4J032CA14
4J032CB04
4J032CB05
4J032CC01
4J032CD02
4J032CD07
4J032CE03
4J032CE07
4J032CF01
4J032CG01
4J032CG02
(57)【要約】
本発明は、一般式(I)
【化1】
(式中、
R
1、R
2は、それぞれH、ハロゲン、−OH、−NH
2、−CN、−NO
2、または1〜40個の炭素原子を有し、直鎖または分岐鎖であってもよく、飽和または不飽和であってもよく、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、−OH、−NH
2、−CNおよび/または−NO
2によって一置換または多置換されていてもよいヒドロカルビル基であり、ここで1つまたは複数のCH
2基はまた、−O−、−S−、−C(O)O−、−O−C(O)−、−C(O)−、−NH−または−NR−で置き換えられていてもよく、ここでRは任意選択で置換されたC
1〜C
40−ヒドロカルビル基、または任意選択で置換されたアリール、アルキルアリールもしくはアルコキシアリール基である)
の繰り返し単位を含むグラフェンナノリボン前駆体に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】
(式中、
R
1、R
2は、それぞれH、ハロゲン、−OH、−NH
2、−CN、−NO
2、または1〜40個の炭素原子を有し、直鎖または分岐鎖であっても、飽和または不飽和であってもよく、そしてハロゲン(F、Cl、Br、I)、−OH、−NH
2、−CNおよび/または−NO
2によって一置換または多置換されていてもよいヒドロカルビル基であり、このヒドロカルビル基の1つまたは複数のCH
2基は、−O−、−S−、−C(O)O−、−O−C(O)−、−C(O)−、−NH−または−NR−で置き換えられていてもよく、このRは任意に置換されたC
1〜C
40−ヒドロカルビル基、または任意に置換されたアリール、アルキルアリールもしくはアルコキシアリール基である)
で表される繰り返し単位を含むグラフェンナノリボン前駆体。
【請求項2】
請求項1に記載のグラフェンナノリボン前駆体の溶液中または金属表面上での脱水素環化によって得られるグラフェンナノリボン。
【請求項3】
一般式(II)
【化2】
(式中、
R
1、R
2は、それぞれH、ハロゲン、−OH、−NH
2、−CN、−NO
2、または1〜40個の炭素原子を有し、直鎖または分岐鎖であっても、飽和または不飽和であってもよく、そしてハロゲン(F、Cl、Br、I)、−OH、−NH
2、−CNおよび/または−NO
2によって一置換または多置換されていてもよいヒドロカルビル基であり、ヒドロカルビル基の1つまたは複数のCH
2基は、−O−、−S−、−C(O)O−、−O−C(O)−、−C(O)−、−NH−または−NR−で置き換えられていてもよく、このRは任意に置換されたC
1〜C
40−ヒドロカルビル基、または任意に置換されたアリール、アルキルアリールもしくはアルコキシアリール基であり、
Xは、ハロゲン、トリフルオロメチルスルホネートまたはジアゾニウムである)
で表されるモノマーの山本カップリング反応を含む、グラフェンナノリボン前駆体の製造方法。
【請求項4】
一般式(II)のモノマーの製造方法であって、
(i)下記7の1,3−ジ(ビフェニル−3−イル)プロパン−7−オンを
【化3】
下記9の4,4’−ジハロベンジルと反応させて
【化4】
クネーフェナーゲル縮合によって下記8のトラアリールシクロペンタジエノンを得る工程と、
【化5】
(ii)テトラアリールシクロペンタジエノン8を下記10のトランと反応させて
【化6】
ディールス・アルダー反応によって一般式(II)
【化7】
(式中、
R
1、R
2は、それぞれH、ハロゲン、−OH、−NH
2、−CN、−NO
2、または1〜40個の炭素原子を有し、直鎖または分岐鎖であっても、飽和または不飽和であってもよく、そしてハロゲン(F、Cl、Br、I)、−OH、−NH
2、−CNおよび/または−NO
2によって一置換または多置換されていてもよいヒドロカルビル基であり、ヒドロカルビル基の1つまたは複数のCH
2基は、−O−、−S−、−C(O)O−、−O−C(O)−、−C(O)−、−NH−または−NR−で置き換えられていてもよく、このRは任意に置換されたC
1〜C
40−ヒドロカルビル基、または任意に置換されたアリール、アルキルアリールもしくはアルコキシアリール基であり、
Xは、ハロゲン、トリフルオロメチルスルホネートまたはジアゾニウムである)
で表されるモノマーを得る工程と
を含む方法。
【請求項5】
山本カップリング反応によってグラフェンナノリボン前駆体を製造するためのモノマーであって、一般式(II)
【化8】
(式中、
R
1、R
2は、それぞれH、ハロゲン、−OH、−NH
2、−CN、−NO
2、または1〜40個の炭素原子を有し、直鎖または分岐鎖であってもよく、飽和または不飽和であってもよく、そしてハロゲン(F、Cl、Br、I)、−OH、−NH
2、−CNおよび/または−NO
2によって一置換または多置換されていてもよいヒドロカルビル基であり、ヒドロカルビル基の1つまたは複数のCH
2基は、−O−、−S−、−C(O)O−、−O−C(O)−、−C(O)−、−NH−または−NR−で置き換えられていてもよく、このRは任意に置換されたC
1〜C
40−ヒドロカルビル基、または任意に置換されたアリール、アルキルアリールもしくはアルコキシアリール基であり、
Xは、ハロゲン、トリフルオロメチルスルホネートまたはジアゾニウムである)
で表されるモノマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェンナノリボン前駆体、酸化的脱水素環化(分子内ショール反応(intramolecular Scholl reaction))によってそこから得られるグラフェンナノリボン、グラフェンナノリボン前駆体の製造方法、グラフェンナノリボン前駆体の製造に適したモノマーおよびモノマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンナノリボン(GNR)は、グラフェンの構造体から画定されるセクションである。それらは、準1次元炭素多形となるように、ハニカム状に配置されたsp
2混成炭素原子の単層リボンからなり、幅に対する長さのサイドレシオが高い。リボンの幅がそれらの長さに対して短いために、グラフェンの電子特性に対するエッジ構造の影響はグラフェンナノリボンでは無視することはできない。エッジ構造を介して、制御された方法でグラフェンナノリボンの電子特性に影響を与えることが可能である。
【0003】
グラフェン自体は、既に有機エレクトロニクスにおいて、例えば透明電極材料として、または電界効果トランジスタにおける活性物質として使用されてきた。しかしながら、グラフェンは天然のバンドギャップを持たず、そのことが電子回路における半導体としての使用を妨げている。しかしながら、幅およびエッジ構造を制御することにより、グラフェンナノリボンは合成のバンドギャップを得ることが可能であることが理論モデルによって示されてきた。このような半導電性グラフェンナノリボンを得るために、「アームチェア」エッジ構造および10nm未満の幅で定義される構造の欠陥のないグラフェンリボンが必要とされている。これらは、今まで入手可能でない。
【0004】
「トップダウン」の方法、例えばグラフェン酸化物の還元(S.Stankovich、D.Dikin、R.Piner、K.Kohlhaas、A.Kleinhammes、Y.Jia、Y.Wu、S.Nguyen、R.Ruoff、Carbon、2007、45、1558)、リソグラフィー(M.Han、B.Oyilmaz、Y.Zhang、P.Kim、Phys.Rev.Lett.、2007、98、206805、Z.Chen、Y.Lin、M.Rooks、P.Avouris、Physica E、2007、40、228)、カーボンナノチューブのアンジッピング(unzipping)(a)L.Jiao、X.Wang、G.Diankov、H.Wang、H.Dai、Nat.Nanotechnol.2010、5、321;b)D.Kosynkin、A.Higginbotham、A.Sinitskii、J. Lomeda、A.Dimiev、B.Price、J.Tour、Nature 2009、458、872)またはグラフェンの機械的剥離(X.Li、X.Wang、L.Zhang、S.Lee、H.Dai、Science 2008、219、1229)によって得られるグラフェンナノリボンのサイズおよびエッジ構造を制御することは不可能である。対照的に、有機「ボトムアップ」合成は原子レベルでの構造制御を可能にし、したがって正確に定義された構造を有するGNRの製造に適している。
【0005】
X.Yang、X.Dou、A.Rouhanipour、L.Zhi、H.Rader、K.Mullen、J.Am.Chem.Soc.2008、130、4216は、以下のスキーム1による好適なポリマー前駆体の脱水素環化によるグラフェンナノリボンの製造を開示している。
【0006】
【化1】
【0007】
合成は、酸化的脱水素環化(分子内ショール反応)による最後の反応工程において2次元のグラフェン構造に変換される調整されたポリマー前駆体の開発に基づいている。しかしながら、完全な脱水素環化を達成することはできず、したがって電子特性の研究は欠陥の存在により不可能であった。
【0008】
スキーム2は、ポリマー前駆体を得るための重合を示す。
【0009】
【化2】
【0010】
ポリマーの約10nmの最大長は、モノマーからの鈴木重縮合中の強い立体障害によって引き起こされるが、これはモノマー3のヨウ素機能がオルト位において2つのフェニル基によって実質的に遮蔽され、それがカップリング反応をより困難にするためである。さらに、炭素−ヨウ素結合の熱的切断は容易に可能であり、連鎖停止を引き起こす。同時に、オーバーラップしているアルキル基の結果としてポリマーの空間的障害があり、それは後続の脱水素環化工程において、これらの基に隣接するアリール−アリール結合の形成を妨げ、不完全な脱水素環化をもたらす。別の欠点は、ポリマー鎖に沿った低レベルの可撓性のみを可能にするポリマー骨格のポリ(パラ−フェニレン)構造であることが見出されている。これは、比較的高い分子量が達成される前に、重合中であっても分子の凝集および沈殿を強化することがある。
【0011】
また、A
2+B
2型の重合反応の場合、モノマーは正確な化学量論的量で使用される必要があり、そうでなければ低い重合度しか達成されない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】S.Stankovich、D.Dikin、R.Piner、K.Kohlhaas、A.Kleinhammes、Y.Jia、Y.Wu、S.Nguyen、R.Ruoff、Carbon、2007、45、1558
【非特許文献2】M.Han、B.Oyilmaz、Y.Zhang、P.Kim、Phys.Rev.Lett.、2007、98、206805、Z.Chen、Y.Lin、M.Rooks、P.Avouris、Physica E、2007、40、228
【非特許文献3】L.Jiao、X.Wang、G.Diankov、H.Wang、H.Dai、Nat.Nanotechnol.2010、5、321
【非特許文献4】D.Kosynkin、A.Higginbotham、A.Sinitskii、J. Lomeda、A.Dimiev、B.Price、J.Tour、Nature 2009、458、872
【非特許文献5】X.Li、X.Wang、L.Zhang、S.Lee、H.Dai、Science 2008、219、1229
【非特許文献6】X.Yang、X.Dou、A.Rouhanipour、L.Zhi、H.Rader、K.Mullen、J.Am.Chem.Soc.2008、130、4216
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、従来技術の欠点を持っていないグラフェンナノリボンおよび好適なグラフェンナノリボン前駆体の製造方法を提供することである。本発明の特定の目的は、「アームチェア」エッジ構造を有する、欠陥のないグラフェンナノリボンをもたらすグラフェンナノリボン前駆体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
目的は、一般式(I)
【0015】
【化3】
【0016】
(式中、
R
1、R
2は、それぞれH、ハロゲン、−OH、−NH
2、−CN、−NO
2、または1〜40個の炭素原子を有し、直鎖または分岐鎖であってもよく、飽和または不飽和であってもよく、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、−OH、−NH
2、−CNおよび/または−NO
2によって一置換または多置換されていてもよいヒドロカルビル基であり、ここで1つまたは複数のCH
2基はまた、−O−、−S−、−C(O)O−、−O−C(O)−、−C(O)−、−NH−または−NR−で置き換えられていてもよく、ここでRは任意選択で置換されたC
1〜C
40−ヒドロカルビル基、または任意選択で置換されたアリール、アルキルアリールもしくはアルコキシアリール基である)
の繰り返し単位を含むグラフェンナノリボン前駆体、および酸化的環化脱水素によってそこから得られるグラフェンナノリボンによって達成された。
【0017】
目的は、一般式(II)
【0018】
【化4】
【0019】
(式中、
R
1、R
2は、それぞれH、ハロゲン、−OH、−NH
2、−CN、−NO
2、または1〜40個の炭素原子を有し、直鎖または分岐鎖であってもよく、飽和または不飽和であってもよく、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、−OH、−NH
2、−CNおよび/または−NO
2によって一置換または多置換されていてもよいヒドロカルビル基であり、ここで1つまたは複数のCH
2基はまた、−O−、−S−、−C(O)O−、−O−C(O)−、−C(O)−、−NH−または−NR−で置き換えられていてもよく、ここでRは任意選択で置換されたC
1〜C
40−ヒドロカルビル基、または任意選択で置換されたアリール、アルキルアリールもしくはアルコキシアリール基であり、
Xは、ハロゲン、トリフルオロメチルスルホネートまたはジアゾニウムである)
のモノマー単位の山本カップリング反応を含む、グラフェンナノリボン前駆体の製造方法、および一般式(II)のモノマー単位自体によっても達成された。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】合成されたモノマー6a〜cの重ね合わせたMALDI−TOF質量スペクトルを示す図である。
【
図2】合成されたモノマー6a〜cの
1H NMRスペクトルの関連する芳香族領域を示す図である。
【
図3】ポリマー前駆体11a〜cのMALDI−TOF質量スペクトルを示す図である。
【
図4】GNR 12bのラマンスペクトルを示す図である。
【
図5】GNR 12a、bのIRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
一般に、R
1、R
2はそれぞれH、または指定された置換基によって一置換から五置換されていてもよい飽和もしくはモノからペンタエチレン系および/またはアセチレン系不飽和ヒドロカルビル基である。
【0022】
好ましくは、R
1、R
2はHまたは、指定された置換基によって一置換から五置換されていてもよい直鎖もしくは分岐鎖の飽和ヒドロカルビル基である。
【0023】
好ましくは、R
1、R
2は、それぞれ独立して、水素、C
1〜C
30−アルキル、C
1〜C
30−アルコキシ、C
1〜C
30−アルキルチオ、C
2〜C
30−アルケニル、C
2〜C
30−アルキニル、C
1〜C
30−ハロアルキル、C
2〜C
30−ハロアルケニルおよびハロアルキニル、例えばC
1〜C
30−ペルフルオロアルキルである。
【0024】
C
1〜C
30−アルキルは直鎖、または可能であれば、分岐鎖であってもよい。
【0025】
例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、2−ペンチル、3−ペンチル、2,2−ジメチルプロピル、1,1,3,3−テトラメチルペンチル、n−ヘキシル、1−メチルヘキシル、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルヘキシル、n−ヘプチル、イソヘプチル、1,1,3,3−テトラメチルブチル、1−メチルヘプチル、3−メチルヘプチル、n−オクチル、1,1,3,3−テトラメチルブチルおよび2−エチルヘキシル、n−ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、エイコシル、ヘンエイコシル、ドコシル、テトラコシルまたはペンタコシルが挙げられる。
【0026】
C
1〜C
30−アルコキシ基は、直鎖または分岐鎖のアルコキシ基であり、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、アミルオキシ、イソアミルオキシまたはtert−アミルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、イソオクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ウンデシルオキシ、ドデシルオキシ、テトラデシルオキシ、ペンタデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ、ヘプタデシルオキシおよびオクタデシルオキシである。
【0027】
用語「アルキルチオ基」は、エーテル架橋の酸素原子が硫黄原子に置き換えられていることを除いて、アルコキシ基と同じであることを意味する。
【0028】
C
2〜C
30−アルケニル基は、直鎖または分岐鎖であり、例えば、ビニル、アリル、メタリル、イソプロペニル、2−ブテニル、3−ブテニル、イソブテニル、n−ペンタ−2,4−ジエニル、3−メチル−2−ブテニル、n−2−オクテニル、n−2−ドデセニル、イソドデセニル、n−2−ドデセニルまたはn−4−オクタデセニルである。
【0029】
C
2〜C
30−アルキニルは直鎖または分岐鎖であり、例えば、エチニル、1−プロピン−3−イル、1−ブチン−4−イル、1−ペンチン−5−イル、2−メチル−3−ブチン−2−イル、1,4−ペンタジイン−3−イル、1,3−ペンタジイン−5−イル、1−ヘキシン−6−イル、cis−3−メチル−2−ペンテン−4−イン−1−イル、trans−3−メチル−2−ペンテン−4−イン−1−イル、1,3−ヘキサジイン−5−イル、1−オクチン−8−イル、1−ノニン−9−イル、1−デシン−10−イル、または1−テトラコシン−24−イルである。
【0030】
C
1〜C
30−ペルフルオロアルキルは分岐鎖または非分岐鎖であり、例えば、−CF
3、−СF
2СF
3、−СF
2СF
2СF
3、−СF(СF
3)
2、−(СF
2)
3СF
3または−С(СF
3)
3である。
【0031】
用語「ハロアルキル、ハロアルケニルおよびハロアルキニル」は、部分的または完全にハロゲン置換されたアルキル、アルケニルおよびアルキニル基を意味する。
【0032】
アリールは、典型的にはC
6〜C
30−アリールであり、例えば、フェニル、4−メチルフェニル、4−メトキシフェニル、ナフチル、ビフェニリル、テルフェニリル、ピレニル、フルオレニル、フェナントリル、アントリル、テトラシル、ペンタシルおよびヘキサシルであり、任意選択で置換されていてもよい。
【0033】
好ましくは、X=ClまたはBrである。より好ましくは、R
1、R
2は、それぞれHまたはC
8〜C
30−アルキル、特にHまたはC
10〜C
26−アルキルである。
【0035】
本発明のモノマー単位(II)から出発する山本カップリング反応によって、一般に3〜100、好ましくは5〜50の繰り返し単位(I)を有するグラフェンナノリボンを製造することは可能である。さらに、山本重合反応は、A
2+B
2型の重合反応のように化学量論に敏感ではない。
【0036】
グラフェンナノリボン前駆体分子の傾斜した骨格は、重合工程中の立体障害を低減してグラフェンナノリボン前駆体を形成し、その後の前駆体の脱水素環化中にグラフェンナノリボンを提供する。これは立体的要求の厳しいアルキル基を導入することを可能にし、そのことがさらに溶解度の増加を誘導する。傾斜したポリマー骨格の比較的高いレベルのねじれは、比較的高い柔軟性を有するものであり、比較的高い分子量を達成することができ、その結果として重合中の分子の凝集を抑制する。
【0037】
一般式(II)のモノマーを製造するための合成スキームをスキーム3に示す。
【0039】
既に2つの可撓性メタビフェニル単位を含む1,3−ジ(ビフェニル−3−イル)プロパン−2−オン7から出発して、4,4’−ジハロベンジルとのクネーフェナーゲル縮合は、後の山本重合のための2つのハロゲン機能を導入して、テトラアリールシクロペンタジエノン8を得る。シクロペンタジエノン8は、モノマー6を得るために、任意選択で官能化されたトラン10とのディールス・アルダー付加環化によって変換される。この反応は、マイクロ波反応器内で行うことができる。
【0040】
グラフェンナノリボン前駆体は、スキーム4に対応するニッケル触媒の存在下で、山本重合によってモノマー6から合成される。好適な触媒系は、溶媒としてのトルエン/DMF混合物中にNi(COD)
2、1,5−シクロオクタジエンおよび2,2’−ビピリジンを含む。形成されるポリマーは、「エンドキャップ」できる、すなわち、クロロベンゼンまたはブロモベンゼンを添加することによって、末端ハロゲン機能をフェニルに交換することができる。
【0042】
グラフェンナノリボンを得るためのグラフェンナノリボン前駆体11の脱水素環化は、ルイス酸および酸化剤として例えば塩化鉄(III)を用いた分子内ショール反応によって行うことができる。
【0043】
一般に、得られるグラフェンナノリボンの分子量は、2000〜100000、好ましくは4000〜50000であり、これらの分子量はGPCを用いて測定可能である。
【0044】
グラフェンナノリボンはまた、金属表面上で製造することができる。これは、昇華により表面上にモノマーを堆積させることによって行われる。これは、温度上昇によって重合されるジラジカルを生じさせ、グラフェンナノリボン前駆体が生じる。最後の工程において、基板のさらなる熱処理は、脱水素環化を生じさせ、完成したグラフェンナノリボンが生じる(Cai,J.ら、Nature 466、470〜473(2010)を参照)。
【0045】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0046】
[実施例1〜3]
モノマー合成
一般式(II)6a〜6cのモノマーを製造するための合成スキームをスキーム5に示す。
【0047】
【化7】
【0048】
既に2つの可撓性メタビフェニル単位を含む1,3−ジ(ビフェニル−3−イル)プロパン−2−オン7から出発して、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドをベースとして使用した、4,4’−ジブロモベンジル9aまたは4,4’−ジクロロベンジル9bとのクネーフェナーゲル縮合は、後の山本重合のための2つのハロゲン機能を導入する。テトラアリールシクロペンタジエノン8aおよび8bは、カラムクロマトグラフィーによって反応物から除去することができなかったが、生成物の選択された沈殿物をメタノール中のDCMから除去することは可能であった。このように、8aを77%、8bを53%の収率で、紫色の固体として得た。最後の反応工程において、溶解性付与基を導入し、シクロペンタジエノンは、標的化合物を得るために、官能化されたトランとのディールス・アルダー付加環化によって変換した。高い立体要求のために、この反応は、マイクロ波反応器内で、220℃、300ワットで、24時間の反応時間にわたって行わなければならなかった。シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー精製および再沈殿を繰り返した後、すべてのモノマーをリサイクルGPCによって精製した。収率の低下を伴うにもかかわらず、この高純度は、重合中に高い分子量を達成するために必要であった。このようにして、アルキル基のないモノマー6aを収率40%で無色の固体として得た。4,4’−ジドデシルトラン10bとともに8bを添加して収率56%のモノマー6bを得て、4,4’−ビス(2−デシルテトラデシル)トラン10cとの反応で収率41%のモノマー6cを得た。両方のアルキル化生成物を無色の油として得た。
【0049】
[実施例1a]
2,5−ジ([1,1’−ビフェニル]−3−イル)−3,4−ビス(4−ブロモフェニル)シクロペンタ−2,4−ジエノン(8a)
2.84gの4,4’−ジブロモベンジル(7.73mmol)および2.80gの1,3−ジ(ビフェニル−3−イル)プロパン−2−オン(7、7.73mmol)のtert−ブタノール30ml中脱気溶液に、80℃で、メタノール性テトラブチルアンモニウムヒドロキシド溶液(1M、2.84ml、2.84mmol)を添加した。反応溶液を80℃で20分間撹拌し、次いで水を添加することによって停止させた。抽出をジクロロメタンで3回行い、回収した有機相を飽和塩化ナトリウム溶液で洗浄し、減圧下で溶媒を留去する前に硫酸マグネシウム上で乾燥させた。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離剤:20%DCMとヘキサン)で精製し、2.85gのテトラアリールシクロペンタジエノン8aを紫色のワックスとして得た(53%、4.10mmol)。測定された元素分析:C 70.5;H 3.3%(C
41H
26Br
2Oの計算値:C 70.9;H 3.8%);
1H NMR(700MHz,d
8〜THF)δ=7.51〜7.49(m,4H,CH)、7.49〜7.46(m,4H,CH)、7.41(dd,J=8.2,1.1Hz,4H,CH)、7.36(t,J=7.8Hz,4H,CH)、7.32(t,J=8.0Hz,2H,CH)、7.29〜7.25(m,2H,CH)、7.25〜7.22(m,2H,CH)、7.01〜6.99(m,4H,CH);
13C NMR(175MHz,d
8−THF)δ=154.28、141.92、141.83、133.58、132.72、132.34、132.30、132.12、129.99、129.89、129.71、129.53、128.26、127.80、127.21、126.74、123.92;MS(FD,8kV):m/z(%):693.8(100)[M
+](C
41H
26Br
2Oの計算値:694.0);Rf(6%酢酸エチルとヘキサン)=0.47
【0050】
[実施例1b]
1,2−ビス(4−ブロモフェニル)−3,6−ビス(ビフェニル−3−イル)−4,5−ジフェニルベンゼン(6a)
300mgの2,5−ジ([1,1’−ビフェニル]−3−イル)−3,4−ビス(4−ブロモフェニル)シクロペンタ−2,4−ジエノン(8a、0.432mmol)および77.0mgの4,4’−ジブロモトラン(0.432mmol)のジフェニルエーテル3ml中脱気溶液を電力300ワット、最大圧力7バールで、3×12時間マイクロ波反応器内で230℃に加熱した。室温に冷却後、反応溶液をヘキサンで希釈し、カラムクロマトグラフィー(シリカ、6%酢酸エチルとヘキサン)によって精製した。リサイクルGPCおよび高真空下での乾燥による精製の後、145mgのモノマー6aを無色の結晶の形態で得た(40%、0.172mmol)。測定された元素分析:C 76.7;H 3.1%(C
54H
36Br
2の計算値:C 76.8;H 4.3%);
1H NMR(700MHz,d
8−THF)δ=7.30〜7.25(m,4H,CH)、7.23〜7.17(m,6H,CH)、7.13(d,J=1.5Hz,1H,CH)、7.12〜7.11(m,1H,CH)、7.11〜7.09(m,4H,CH)、7.09〜7.06(m,2H,CH)、6.95(s,1H,CH)、6.94(br s,2H,CH)、6.93(s,1H,CH)、6.91(t,J=4,1Hz,2H,CH)、6.89(d,J=8.0Hz,2H,CH)、6.85(d,J=7.0Hz,4H,CH)、6.83(d,J=2.0Hz,2H,CH)、6.81(d,J=1.4Hz,1H,CH)、6.79(d,J=8.3Hz,2H,CH)、6.78(s,1H,CH);
13C NMR(125MHz,d
2−TCE)δ=141.05、140.74、140.20、140.00、139.44、139.03、138.52、133.03、132.92、131.30、131.15、130.26、129.92、129.85、128.42、127.17、126.87、126.62、126.52、125.20、124.15、120.18、119.51;MS(MALDI−TOF):m/z(%):845.1(100)[M
+](C
54H
36Br
2の計算値:844.1);Rf(6%酢酸エチルとヘキサン)=0.40;融点(℃):>400℃で分解
【0051】
[実施例2a]
2,5−ジ([1,1’−ビフェニル]−3−イル)−3,4−ビス(4−クロロフェニル)シクロペンタ−2,4−ジエノン(8b)
940mgの4,4’−ジクロロベンジル(3.37mmol)および1.22gの1,3−ジ(ビフェニル−3−イル)プロパン−2−オン(7、3.37mmol)のtert−ブタノール20ml中脱気溶液に、80℃で、メタノール性テトラブチルアンモニウムヒドロキシド溶液(1M、1.7ml、1.7mmol)を添加した。反応溶液を80℃で20分間撹拌し、次いで水を添加することによって反応を停止させた。混合物をジクロロメタンで3回抽出し、回収した有機相を飽和塩化ナトリウム溶液で洗浄し、減圧下で溶媒を留去する前に硫酸マグネシウム上で乾燥させた。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離剤:20%DCMとヘキサン)で精製し、1.56gのテトラアリールシクロペンタジエノン8bを淡紫色の固体として得た(77%、2.58mmol)。測定された元素分析:C 81.3;H 3.3%(C
41H
26Cl
2Oの計算値:C 81.3;H 4.3%);
1H NMR(700MHz,d
8−THF)δ=7.52(s,2H,CH)、7.50(d,J=7.8Hz,2H,CH)、7.42(d,J=7.2Hz,4H,CH)、7.36(t,J=7.7Hz,4H,CH)、7.32(m,6H,CH)、7.27(t,J=7.3Hz,2H,CH)、7.23(d,J=7.8Hz,2H,CH)、7.06(d,J=8.5Hz,4H,CH);
13C NMR(175MHz,d
8−THF)δ=199.86、154.28、141.91、141.82、135.61、133.14、132.14、132.10、129.98、129.90、129.70、129.69、129.52、128.27、127.78、127.20、126.73;MS(MALDI−TOF):m/z(%):604.6(100)[M
+](C
41H
26Cl
2Oの計算値:604.1);Rf(10%酢酸エチルとヘキサン)=0.47
【0052】
[実施例2b]
1,2−ビス(4−クロロフェニル)−3,6−ビス(ビフェニル−3−イル)−4,5−ビス(4−ドデシルフェニル)ベンゼン(6b)
1.84gの2,5−ジ([1,1’−ビフェニル]−3−イル)−3,4−ビス(4−クロロフェニル)シクロペンタ−2,4−ジエノン(8b、3.03mmol)および1.72gの4,4’−ジドデシルトラン(3.34mmol)のジフェニルエーテル12mlおよびプロピレンカーボネート5ml中脱気溶液を電力300ワット、最大圧力7バールで、2×12時間マイクロ波反応器内で230℃に加熱した。室温に冷却後、反応溶液をヘキサンで希釈し、カラムクロマトグラフィー(シリカ、6%酢酸エチルとヘキサン)によって精製した。リサイクルGPCおよび高真空下での乾燥による精製の後、1.85gのモノマー6bを無色の油として得た(56%、1.69mmol)。測定された元素分析:C 85.6;H 7.9%(C
78H
84Cl
2の計算値:C 85.8;H 7.8%);
1H NMR(700MHz,d
8−THF)δ=7.27(dt,J=7.7,4.0Hz,4H,CH)、7.22〜7.16(m,6H,CH)、7.10(d,J=10.0Hz,4H,CH)、6.94(t,J=7.7Hz,4H,CH)、6.91(s,2Hv)、6.88(d,J=8.4Hz,2H,CH)、6.87〜6.81(m,2H,CH)、6.81〜6.77(m,2H,CH)、6.77〜6.70(br m,6H,CH)、6.66(d,J=7.5Hz,2H,CH)、2.41〜2.28(m,4H,α−CH
2)、1.44〜1.34(m,4H,β−CH
2)、1.34〜1.03(m,36H,−CH
2−)、0.89(t,J=6.9Hz,6H,−CH
3);
13C NMR(175MHz,d
8−THF)δ=142.44、142.42、142.27、141.88、141.74、140.76、140.74、140.68、140.59、140.56、140.14、140.10、139.09、139.05、134.18、134.14、134.06、134.01、132.56、132.50、132.47、132.30、132.26、131.69、131.41、129.37、128.20、128.07、127.90、127.88、127.84、127.81、127.80、127.74、125.14、125.12、36.36、36.33、33.06、32.37、32.34、30.85、30.81、30.77、30.75、30.61、30.60、30.51、30.00、29.98、25.94、25.82、23.74、14.62;MS(MALDI−TOF):m/z(%):1091.0(100)[M
+](C
78H
84Cl
2の計算値:1090.6);Rf(6%酢酸エチルとヘキサン)=0.65
【0053】
[実施例3]
1,2−ビス(4−クロロフェニル)−3,6−ビス(ビフェニル−3−イル)−4,5−ビス(4−(2−デシルテトラデシル)−ドデシルフェニル)ベンゼン(6c)
636mgの2,5−ジ([1,1’−ビフェニル]−3−イル)−3,4−ビス(4−クロロフェニル)シクロペンタ−2,4−ジエノン(8b、1.05mmol)および895mgの4,4’−ビス(2−デシルテトラデシル)トラン(1.05mmol)のジフェニルエーテル10ml中脱気溶液を電力300ワット、最大圧力7バールで、2×12時間マイクロ波反応器内で230℃に加熱した。室温に冷却後、反応溶液をヘキサンで希釈し、カラムクロマトグラフィー(シリカ、6%酢酸エチルとヘキサン)によって精製した。リサイクルGPCおよび高真空下での乾燥による精製の後、613mgのモノマー6cを無色の油として得た(41%、0.429mmol)。測定された元素分析:C 86.0;H 9.7%(C
102H
132Cl
2の計算値:C 85.8;H 9.3%);
1H NMR(700MHz,d
8−THF)δ=7.29〜7.25(m,4H,CH)、7.20(m,6H,CH)、7.14(s,1H,CH)、7.11(d,J=10.0Hz,3H,CH)、6.95〜6.88(m,9H,CH)、6.85(d,J=8.4Hz,1H,CH)、6.81(d,J=8.0Hz,1H,CH)、6.79(d,J=7.8Hz,2H,CH)、6.77(d,J=7.7Hz,1H,CH)、6.73(d,J=7.8Hz,2H,CH)、6.69(t,J=7.6Hz,2H,CH)、6.64(d,J=7.9Hz,2H,CH)、2.33〜2.24(m,4H,α−CH
2)、1.44〜1.37(m,2H,β−CH
2)、1.35〜0.95(br m,80H,−CH
2−)、0.89(m,12H,−CH
3);
13C NMR(175MHz,d
8−THF)δ=142.43、142.41、142.20、142.18、141.94、141.77、140.69、140.65、140.55、140.52、140.10、140.07、139.61、139.08、134.13、134.04、133.98、132.48、132.31、132.13、131.70、131.37、129.41、128.67、128.53、128.21、128.07、127.87、127.77、125.08、40.92、40.61、33.94、33.86、33.81、33.08、33.06、31.20、31.12、31.10、30.89、30.86、30.82、30.54、30.52、27.49、27.45、25.93、25.82、23.76、23.75、14.63;MS(MALDI−TOF):m/z(%):1427.8(100)[M
+](C
102H
132Cl
2の計算値:1428.0);Rf(6%酢酸エチルとヘキサン)=0.76
【0054】
図1は、合成されたモノマー6a〜cの重ね合わせたMALDI−TOF質量スペクトルを示す。3つすべての場合において、純粋な形で生成物を得て、後の重合中に鎖成長の停止を引き起こすかもしれない副生成物がもはや存在していないことを確実にすることは可能であった。モノマーの正確な構造は、
1H NMR分光法によって確認した。
【0055】
図2は、d
8−THF(700MHz、RT)で記録された、モノマー6a〜cの
1H NMRスペクトルの関連する芳香族領域を示す。すべての34〜36芳香族プロトンは非常に類似した化学シフトを示したので、モノマー6a〜cの
1H NMRスペクトルは、困難を伴ってのみ分析できる。シグナルは、6.6〜7.3ppmの狭い範囲内にあり、いくつかは重なり合っていた。DOSY(拡散配向分光法)によって、試料中の分子の拡散特性を決定することができ、COSY実験は、NMRにおける共役プロトンのシグナル間のカップリングを決定することができる。
【0056】
[実施例4〜6]
ポリマー合成
モノマー6a〜cの構造および純度を確認したら、対応するポリマーをスキーム6に記載の山本重合によって合成した。
【0057】
【化8】
【0058】
スキーム6は、トルエン/DMF混合物中のNi(COD)
2、1,5−シクロオクタジエンおよび2,2’−ビピリジンによる触媒を用いたジハロゲン化モノマー6a〜cの山本重合によるグラフェンナノリボン前駆体11a〜cの合成を示す。収率は、(i)84%、(ii)86%、(iii)67%であった。山本重縮合における触媒活性ニッケル(0)試薬は、水および酸素に非常に敏感であるため、すべてのモノマー単位6を重合に使用する前に高真空下で乾燥させた。59.4mgのNi(COD)
2、23.4mgの1,5−シクロオクタジエンおよび33.7mgの2,2’−ビピリジン(それぞれ0.216mmol)からなる触媒混合物をアルゴン雰囲気下グローブボックス中で秤量し、マイクロ波互換のガラス製反応容器中の溶媒とともに製造し、セプタム付き気密アルミニウム製ふたで密閉し、任意の入射光から保護した。反応を行うためのマイクロ波反応器の使用は、反応速度の明らかな増加および溶媒の沸点を超える反応温度という利点を付与する。触媒を60℃で20分間熱活性化した後、無水トルエン1ml中0.09mmolのモノマーの脱気溶液を、セプタムを通して反応容器に導入し、マイクロ波電力300ワット、80℃で10時間にわたって重合を行った。高分子量の達成を促進するために、約50mg/mlのモノマーの濃度を使用した。ポリマーをエンドキャップするために、トルエン中ブロモ/クロロベンゼンの脱気溶液(0.5ml、0.01モル濃度)を最後に添加し、混合物を20分間80℃に再加熱した。生成物を精製し、触媒残留物を除去するために、反応溶液をHCl/メタノール混合物に滴下し、一晩撹拌した。得られた沈殿物を遠心分離機で除去し、それを濾過し減圧下で乾燥させる前に、メタノール中のTHFを用いて繰り返し再沈殿させた。アルキル基のないポリマー11aおよびドデシル鎖を有するポリマー11bを84〜86%の収率で無色の固体として得た。分岐鎖2−デシルテトラデシル基を導入することによってのみ、融点はポリマー11cが室温で無色の油として存在する程度にまで低下した。対応するGNRを得るための後続の脱水素環化の前に、低分子量オリゴマーを手動分取GPC分画によって除去した。3つのポリマーすべてが一般的な有機溶媒、例えばTHF、DCMまたはトルエンに完全に溶解できるため、これが可能であった。
【0059】
[実施例4]
使用されたモノマーは76.0mgの1,2−ビス(4−ブロモフェニル)−3,6−ビス(ビフェニル−3−イル)−4,5−ジフェニルベンゼン(6a、0.09mmol)であった。反応が終了し、室温に冷却した後、無色の沈殿物が既に形成されていた。粗生成物を精製した後、43.7mgのポリマー11aを無色の固体として得た(84%)。GPC分析:Mn=0.11×10
4g/mol、Mw=0.15×10
4g/mol、多分散度D=1.35(UV検出器、PS標準)、DSC(℃):転移なし。
【0060】
[実施例5]
使用されたモノマーは98.3mgの1,2−ビス(4−ブロモフェニル)−3,6−ビス(ビフェニル−3−イル)−4,5−ビス(4−ドデシルフェニル)ベンゼン(6b、0.09mmol)であった。反応が終了し、室温に冷却した後、反応溶液は暗褐色に変化し、フラスコの壁に黒色の沈殿物があった。粗生成物を精製した後、79.0mgのポリマー11bを無色の固体として得た(86%)。GPC分析:Mn=0.93×10
4g/mol、Mw=1.25×10
4g/mol、多分散度D=1.34(UV検出器、PS標準)、DSC(℃):転移なし。
【0061】
[実施例6]
使用されたモノマーは128.6mgの1,2−ビス(4−ブロモフェニル)−3,6−ビス(ビフェニル−3−イル)−4,5−ビス(4−(2−デシルテトラデシル)ドデシルフェニル)ベンゼン(6c、0.09mmol)であった。反応が終了し、室温に冷却した後、反応溶液は暗褐色に変化し、フラスコの壁に黒色の沈殿物があった。粗生成物を精製した後、81.9mgのポリマー11cを無色の油として得た(67%)。GPC分析:Mn=0.35×10
4g/mol、Mw=0.48×10
4g/mol、多分散度D=1.37(UV検出器、PS標準)、DSC(℃):転移なし。
【0062】
ポリマー11a〜cにおいて得た分子量は、MALDI−TOF MSおよびGPC分析により決定した。GPC分析に利用可能な適切な標準がなかったため、ポリマーの傾斜した骨格によりポリスチレン標準を使用した。MALDI−TOF MSは、試料が多分散性であるために高分子量種の検出が不可能であるという制限を受ける。したがって、ここで得られたデータは、試料中の最小分子量についての結論のみ有効である。ポリマー前駆体11a〜cについて記録したMALDI−TOF質量スペクトルは
図3において再生される。
【0063】
MALDI−TOF MSによるポリマー11a〜cの分析は、シグナルの間隔とそれぞれの繰り返し単位の計算分子量との間に高レベルの対応関係があったため、非常に規則的なシグナルパターンがすべての場合において観察されたことを示した。11aの場合、強い信号は完全に脱臭素された生成物に割り当てられた。弱い信号はイオン化中の銀イオンの吸着を通して起こり、リフレクターモードで観察されなかった。7繰り返し単位の最大値に対応する5000g/molまでの分子量を検出することが可能であった。ドデシル鎖を有するポリマー11bの場合、20000g/molまでの分子量(19繰り返し単位)を検出した。ポリマー11cの場合、10000g/molまでのモル質量を有する7繰り返し単位を検出した。
【0064】
3つのポリマー11a〜cはすべて(アルキル基は別として)同じ繰り返し単位を有していたので、容易に分子量を鎖長に変換することができた。この長さは、脱水素環化後のGNRの後の長手方向の寸法に対応していた。ドデシル鎖を有するグラフェンナノリボン前駆体11bについては、20000g/molのモル質量が2.1nmの幅と約12nm(〜1.2nm/繰り返し単位)の長さを有する後のグラフェンリボンに対応した。
【0065】
[実施例7〜9]
脱水素環化
スキーム7による対応するGNR 12a〜cを得るためのポリマー前駆体11a〜cの脱水素環化は、ルイス酸および酸化剤として塩化鉄(III)を用いた分子内ショール反応によって行った。
【0066】
【化9】
【0067】
典型的には、反応は、分子間アリール−アリールカップリングの発生を防止するために、不安定化したジクロロメタン中で1mg/mlの非常に低いポリマー濃度を用いて行った。生成された酸素およびHClを追い出すために、全反応時間にわたって反応溶液をアルゴン流で脱気した。反応開始時に、生成される結合当たり6当量の塩化鉄(III)(繰り返し単位当たり90当量)をニトロメタン中濃縮溶液として迅速に添加し、混合物を室温で3日間撹拌した。脱水素環化が終了した後、GNRをメタノールで沈殿させ、さらに精製した。
【0068】
アルキル基のないGNR 12aおよびドデシル基を有するGNR 12bを64%と98%の収率で黒色の固体として得たが、それらは標準的な有機溶媒、例えばトルエン、THF、テトラクロロエタンまたはクロロホルムに溶解できなかった。2.1nmのグラフェンリボンの幅で、12bの場合における繰り返し単位当たり2つのドデシル基が凝集を防止するのに不十分であるような強力なπ−π相互作用があった。したがって、後処理については、粗生成物は、すべての可溶性不純物をTHFおよびメタノールを用いてソックスレー抽出によって除去し、最終的に高真空下で乾燥させた。対照的に、2−デシルテトラデシル鎖を有するGNR 12cを81%の収率で黒色の固体として得て、それは標準的な有機溶媒、例えばTHFまたはトルエンに溶解可能であった。したがって、不純物、副生成物および無機残留物を除去するために、メタノール中でのTHFからの再沈殿の繰り返し、その後のアセトンを用いたソックスレー抽出によって精製を行った。
【0069】
[実施例7]
50mgのポリマー前駆体11aを1.12gのFeCl
3(6.87mmol、4mlのニトロメタン中に溶解)と反応させた。3日間の反応時間の後に、黒色の沈殿物が既に形成され、それを遠心分離機で除去した。精製については、粗生成物は、それぞれの場合において、THFおよびメタノールを用いた2日間のソックスレー抽出に供し、最終的に高真空下で乾燥させた。これにより、32.0mgのGNR 12aを黒色の不溶性の固体として得た(64%)。DSC(℃):転移なし。
【0070】
[実施例8]
76.6mgのポリマー前駆体11bを1.10gのFeCl
3(6.76mmol、3.5mlのニトロメタン中に溶解)と反応させた。3日間の反応時間の後に、黒色の沈殿物が既に形成され、それを遠心分離機で除去した。精製については、粗生成物は、それぞれの場合において、THFおよびメタノールを用いた2日間のソックスレー抽出に供し、最終的に高真空下で乾燥させた。これにより、72.9mgのGNR12bを黒色の不溶性の固体として得た(98%)。DSC(℃):転移なし。
【0071】
[実施例9]
38.11mgのポリマー前駆体11cを410mgのFeCl
3(2.53mmol、1.3mlのニトロメタン中に溶解)と反応させた。メタノールを添加した後、黒色の沈殿物が形成され、それを遠心分離機で除去し、メタノール中でのTHFからの再沈殿、その後のアセトンを用いた2日間のソックスレー抽出によってすべての不純物、副生成物および無機残留物を除去した。高真空下で乾燥させた後、30.2mgのGNR 12cを黒色の固体として得た(81%)。DSC(℃):転移なし。
【0072】
完全な脱水素環化およびGNR 12a〜cの欠陥のない構造をラマンおよびIR分光法によって実証した。
図4は、λ=488nmのレーザー励起で薄い粉末膜に記録された、GNR 12bのラマンスペクトルを示す。ラマン分光法は、得られるGNR内のπ系の程度、およびこれにより計算される共役長について関連性のある情報を可能にした。IR吸収測定により、フェニル環の自由回転の特徴であり、完全な脱水素環化の場合はもはや検出できない4050cm
−1でのバンドの存在をすべての試料について調べることが可能であった。
【0073】
GNR 12bは固体状態で蛍光を示さなかった唯一の試料であり、これにより、488nmのレーザー励起波長で薄い粉末膜上でのラマンスペクトルの記録を可能にした。得られたスペクトルを
図4に示す。1331cm
−1での特徴的なDバンドおよび1579cm
−1でのシャープなGバンドの両方について良好な解像度を得た。これらのバンドの位置はグラフェンリボンについての文献から知られている値に高度に対応し、それが試料のグラフェン特性の裏付けとなった。これらの波数の倍数で、二次および三次の信号を見つけることも可能であった。GNR 12bの寸法L
aの計算については、一次DおよびGバンドの積分比(I)を式I(D)/I(G)=C(λ)/L
aによって変換した。C(λ)は波長依存要因であり、λ=488nmについて値C(λ)=4.4nmであると想定した。このように、4.6〜4.7nmの寸法が計算され、それは約8繰り返し単位および約8000g/molの分子量を有するグラフェンリボンに対応した。
【0074】
GNR 12aおよび12bの脱水素環化の完全性をIR分光法によってさらに確認した。
図5は、GNR 12aおよび12bのIRスペクトルを示す。4050cm
−1でのバンドは、フェニル環の自由回転それぞれの場合において特徴的であり、それはポリマー前駆体11aおよび11b(上部の線)のスペクトルにおいてはっきりと観察された。脱水素環化の終了後、このバンド(下部の線)が全く存在しないことは、分子中の凝集していないフェニル環の存在を除外し、したがって完全な脱水素環化を証明した。
【国際調査報告】