(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-531737(P2017-531737A)
(43)【公表日】2017年10月26日
(54)【発明の名称】布地と両性高分子電解質ハイドロゲルとを含む複合材料及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
D06M 14/18 20060101AFI20170929BHJP
D06M 15/233 20060101ALI20170929BHJP
D06M 15/267 20060101ALI20170929BHJP
A61L 15/40 20060101ALI20170929BHJP
A61L 15/22 20060101ALI20170929BHJP
A61L 27/14 20060101ALI20170929BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20170929BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20170929BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20170929BHJP
A61L 15/60 20060101ALI20170929BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20170929BHJP
A61F 2/08 20060101ALI20170929BHJP
【FI】
D06M14/18
D06M15/233
D06M15/267
A61L15/40 100
A61L15/22 100
A61L27/14
A61L27/36
A61L27/52
A61L27/16
A61L15/60
A61L27/44
A61F2/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-509793(P2017-509793)
(86)(22)【出願日】2014年8月19日
(85)【翻訳文提出日】2017年3月24日
(86)【国際出願番号】JP2014072080
(87)【国際公開番号】WO2016027383
(87)【国際公開日】20160225
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】507088266
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ マサチューセッツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】グン 剣萍
(72)【発明者】
【氏名】黒川 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】孫 桃林
(72)【発明者】
【氏名】キング ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】クロスビィ アルフレッド
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
4L033
【Fターム(参考)】
4C081AA02
4C081AA12
4C081AA14
4C081AB18
4C081CA081
4C081CA101
4C081CB041
4C081CC01
4C081CC04
4C081CD35
4C081DA05
4C081DC03
4C081EA05
4C097AA21
4C097BB01
4L033AA04
4L033AA09
4L033AB04
4L033AC15
4L033CA13
4L033CA19
(57)【要約】
布地と両性高分子電解質ハイドロゲルとを含む複合材料が提供される。複合材料において、両性高分子電解質ハイドロゲルはランダムに分散したカチオン性とアニオン性の繰り返し基を有するポリマーのハイドロゲルであり、布地の少なくとも一部は両性高分子電解質ハイドロゲルで被覆される。複合材料の作製方法は、工程(a)〜(c):(a)両性高分子電解質ハイドロゲル作製のためのモノマー混合物を準備すること;(b)モノマー混合物溶液中に布地を浸漬すること;及び(c)モノマー混合物溶液中のモノマーを重合して複合材料の前駆体を得ることを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
布地と両性高分子電解質ハイドロゲルとを含む複合材料であって、
前記両性高分子電解質ハイドロゲルがランダムに分散したカチオン性とアニオン性の繰り返し基を有するポリマーのハイドロゲルであり、
前記布地の少なくとも一部は前記両性高分子電解質ハイドロゲルで被覆される、
複合材料。
【請求項2】
前記両性高分子電解質ハイドロゲルが、少なくとも1種のカチオン性モノマーと少なくとも1種のアニオン性モノマーとのランダム重合によって得られるランダムポリマーからなる群から選択される、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記カチオン性モノマーが少なくとも1種の四級化アミン基を有するモノマーからなる群から選択される、請求項1に記載の複合材料。
【請求項4】
前記カチオン性モノマーがMTPC、DMAEA−Q、MTAC、及び4−VPCからなる群から選択される、請求項1に記載の複合材料。
【請求項5】
前記アニオン性モノマーが、少なくとも1つのスルホネート基を有するモノマーと、少なくとも1つのスルホン酸基を有するモノマーとからなる群から選択される、請求項1に記載の複合材料。
【請求項6】
前記アニオン性モノマーがNaSS及びAMPSからなる群から選択される、請求項1に記載の複合材料。
【請求項7】
前記ランダムポリマーが、カチオン性モノマーと、アニオン性モノマーと、前記カチオン性及びアニオン性のモノマー以外の少なくとも1種のモノマーと、のランダム重合によって得られる、請求項1に記載の複合材料。
【請求項8】
前記カチオン性及びアニオン性のモノマー以外の前記モノマーが、少なくとも重合可能な部位を含むモノマーである、請求項1に記載の複合材料。
【請求項9】
前記布地が織布又は不織布である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項10】
前記布地がシート、テープ、又は帯状片の形態である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項11】
前記布地が無機材料、有機ポリマー材料、及びこれらの混合物で作られる、請求項1に記載の複合材料。
【請求項12】
前記布地が0.001mm〜10mmの厚さで前記両性高分子電解質によって完全に被覆される、請求項1に記載の複合材料。
【請求項13】
布地と両性高分子電解質ハイドロゲルとを含む複合材料の作製方法であって、
(a)両性高分子電解質ハイドロゲル作製のためのモノマー混合物を準備すること;
(b)前記モノマー混合物溶液中に布地を浸漬すること;及び
(c)前記モノマー混合物溶液中のモノマーを重合して前記複合材料の前駆体を得ること
を含む、作製方法。
【請求項14】
前記モノマー混合物溶液が1mol/L以上のモノマー含量を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記モノマー混合物溶液が重合開始剤及び/又は架橋剤を更に含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記モノマー混合物溶液が塩を更に含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記方法が、前記複合材料の前記前駆体を脱塩して前記複合材料を得る工程(d)を更に含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記布地が疎水性表面を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記複合材料が治療のために用いられる、請求項1に記載の複合材料。
【請求項20】
前記複合材料が靭帯再建手術のために用いられる、請求項1に記載の複合材料。
【請求項21】
前記複合材料が前十字靭帯(ACL)再建手術のために用いられる、請求項1に記載の複合材料。
【請求項22】
前記複合材料が包帯、植皮片、柔軟性のある耐引き裂き性の衣類、又は防弾のために用いられる、請求項1に記載の複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布地(fabric)と両性高分子電解質ハイドロゲルとを含む複合材料及びその複合材料の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前十字靭帯(ACL)再建手術は、整形外科医が行う最も一般的な手術のうちの1つである。自筆文書(autographs)又は非自筆文書(allographs)の使用を回避するため、有力な代替材料として合成材料が研究されてきた。
【0003】
試験されてきたいくつかの材料は、Dacron、Marlex、Teflon、Nylon、及び炭素繊維である。[NP(非特許文献)−2]使用される材料は、これらの靭帯の上にかかる大きな荷重を支えられることが重要である。炭素繊維は、その非常に高い剛性から、代替材料として特に注目を集めてきた。炭素繊維置換材料そのものの最初の結果は有望であった。[NP−3、4]しかし、体内での炭素の破砕、擦り切れ、及び拡散、周辺領域の炎症及び治癒不良、並びに局所的なリンパ節における炭素の蓄積などの問題に直面した。[NP−1、2、5]
NP−1:K.Miller,J.E.Hsu,L.J.Soslowsky,in Comprehensive Biomaterials,2011,pp.257−279
NP−2:A.A.Amis,S.A.Kempson,J.R.Campbell,J.H.Miller,Journal of Bone and Joint Surgery 1988,70−B,628−634
NP−3:D.H.R.Jenkins,B.McKibbin,Journal of Bone and Joint Surgery 1980,62,497−499
NP−4:D.H.R.Jenkins,Journal of Bone and Joint Surgery 1978,60−B,520−522
NP−5:S.Ramakrishna,J.Mayer,Composites Science and … 2001,61,1189−1224
【0004】
複数の研究者が、靭帯の置換材料としてハイドロゲルを使用することも試みてきたが、これらは大きな荷重を支えるためには機械的特性に劣る。プロテーゼ(prosthetics)としてのハイドロゲル及び布地についての特許文献には、いくらかの記述が存在する。[P(特許文献)−1、2、3、4]
P−1:米国特許第6,629,997号明細書
P−2:米国特許第6,187,043号明細書
P−3:米国特許第6,027,744号明細書
P−4:米国特許第4,919,667号明細書
【0005】
しかしながら、従来のハイドロゲルの脆性が、これらの方法が市場に参入することの妨げになっていた可能性がある。
【0006】
ACL再建手術における用途に加えて、植皮片、柔軟性のある耐引き裂き性の衣類、包帯、防弾等の以下に列挙した用途は、高い靭性が望まれるものである。
【0007】
包帯に関し、布地/ハイドロゲル包帯については文献中にはほとんど存在しないが、特許文献にはいくらかの記述が存在する。これらの系においては、布地が支持体として使用され、また、ハイドロゲルは通常非毒性であり、水が大半を占めており、創傷治癒を促進できることから、ハイドロゲルが創口閉鎖のために使用される。[P−5〜P−8]
P−5:創傷治癒促進のための吸収性創傷被覆材−米国特許第5,695,777号明細書;
P−6:ハイドロゲルを主体とする被覆材料及びその製造方法−米国特許第4,552,138号明細書;
P−7:架橋ポリビニルアルコールハイドロゲル構造としての、強化され、積層され、含浸された複合体状材料−米国特許第6,855,743号明細書;
P−8:ハイドロゲル積層体、包帯、及び複合材料、並びにこれらの形成方法−米国特許第5,674,346号明細書
【0008】
しかしながら、これらの特許中には、これらの複合材料を、非常に頑丈又は耐引き裂き性である包帯を製造するために利用することの明確な記載は存在しなかった。
【0009】
布地複合材料は、高強度高靭性の材料として、これまでに検討され、また利用されてきた。これらのいくつかは防弾及び耐爆用である。
P−9:耐爆保護用の強化フィルム−米国特許第8,039,102号明細書;
P−10:耐衝撃性複合材料及びその製造方法−米国特許第7,608,322号明細書;
P−11:柔軟性のある複合材料から形成される、向上したナイフ付き刺し耐性を有する防弾チョッキ−米国特許第7,288,493号明細書;
P−12:耐弾用物品及びその製造方法−米国特許第6,268,301号明細書;
P−13:防弾性布地積層体−米国特許第6,846,758号明細書;
P−14:装甲パネル−米国特許第5,789,327号明細書;
P−15:耐衝撃事象時の高強度布地のエネルギー吸収の改善方法−米国特許第5,595,809号明細書;
P−16:軽量防護具及び耐衝撃性発射体防御装置−米国特許第8,375,839号明細書)。
【0010】
乗り物におけるエアバッグ技術に使用される材料も存在する。
P−17:繊維材料で作られるコーティング基材用のシリコーン組成物−米国特許第6,586,551号明細書;
P−18:シリコーンで被覆された織布−米国特許第6,354,620号明細書;等。
【0011】
最後に、複数の特許に高い引き裂き強度を示す布地が記載されている。
P−19:高い引き裂き強度を有する繊維強化複合材料−米国特許第7,549,303号明細書;
P−20:耐切断性及び耐摩耗性の積層体の製造方法−米国特許第6,280,546号明細書;
P−21:弾性複合構造体−米国特許第7,153,789号明細書;
P−22:複合弾性材料−米国特許第6,706,364号明細書;
P−23:耐切断性の糸、布地、及び手袋−米国特許第5,119,512号明細書;
P−24:靭性向上のための被覆繊維を有する、繊維強化熱硬化性樹脂組成物−米国特許第4,737,527号明細書;
P−25:シリコーンエラストマーで被覆した布の製造方法−米国特許第4,478,895号明細書。
【0012】
しかしながら、これらの例では、いずれの複合材料も、ハイドロゲル、又は水を含んでいる任意の種類の弾性材料を利用していない。多くの事例では、基質材料は熱硬化性であり、これは複合材料の柔軟性を不足させる原因になるであろう。
【0013】
最近、Sunらによって製造された新規な両性高分子電解質(PA)ハイドロゲルは、自己回復作用も特徴とする巨大分子構造によってこれらの特徴を維持する能力及びワンポット合成可能な能力を示した。[NP−6、7]
NP−6:T.L.Sun,T.Kurokawa,S.Kuroda,A.Bin Ihsan,T.Akasaki,K.Sato,M.A.Haque,T.Nakajima,J.P.Gong,Nature materials 2013,12,1−6
NP−7:A.Bin Ihsan,T.L.Sun,S.Kuroda,M.A.Haque,T.Kurokawa,T.Nakajimac,J.P.Gong,J.Mater.Chem.B,2013,1,4555−4562
【0014】
Crosby Research Groupの以前の研究によって、堅い布地を柔らかいエラストマーに埋め込むと、非常に興味深い複合材料が得られることが示された。[NP−8〜NP−10]Gong Research Groupによる二重網目構造のハイドロゲルは、中程度の引張強さ及び低い摩擦を有しつつも、非常に高い靭性を有する。[NP−11〜14]。
【0015】
NP−8:M.D.Bartlett,A.B.Croll,D.R.King,B.M.Paret,D.J.Irshick,A.J.Crosby,Advanced Materials 2012,24,1078−1083
NP−9:S.A.Pendergraph,M.D.Bartlett,K.R.Carter,A.J.Crosby,ACS Applied Materials & Interfaces 2012,4,6640−5
NP−10:D.R.King,M.D.Bartlett,C.A.Gilman,D.J.Irschick,A.J.Crosby,in prep 2013
NP−11:J.P.Gong,Y.Katsuyama,T.Kurokawa,Y.Osada,Advanced Materials 2003,15,1155−1158.Revised 12/17/12 4
NP−12:J.P.Gong,T.Kurokawa,T.Narita,G.Kagata,Y.Osada,G.Nishimura,M.Kinjo,Journal of the American Chemical Society 2001,123,5582−5583
NP−13:T.Tominaga,N.Takedomi,H.Biederman,H.Furukawa,Y.Osada,J.P.Gong,Soft Matter 2008,4,1033
NP−14:K.Yasuda,J.P.Gong,Y.Katsuyama,A.Nakayama,Y.Tanabe,E.Kondo,M.Ueno,Y.Osada,Biomaterials 2005,26,4468−4475
【0016】
布地とPAハイドロゲルとの複合材料を利用することで、PAハイドロゲルによって、摩耗及び体からの拒絶反応が予防可能でありながらも、高い負荷が可能になる(繊維による)であろう。これらの新規なハイドロゲルを布地と合体させることで、文献及び特許で現在不足している特異な性能を有する新規な材料が実現するであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の特徴は、布地と両性高分子電解質(PA)ハイドロゲルとを含む複合材料を提供する。
【0018】
本発明の特徴は、複合材料の作製方法に関する。
【0019】
本発明のある実施形態によれば、非常に柔軟性があり、かつ安価な材料で作られる、耐引き裂き性の材料を製造することが可能になる。耐爆性かつ耐引き裂き性の材料についての数多くの先行の研究が存在するものの、非常に引き裂き耐性がありつつも水を含有するハイドロゲルで作られることを主張する先行発明は存在しなかった。
【0020】
本発明の他の例示的な実施形態及び利点は、本開示及び添付の図面を検討することによって確かめることができる。
【0021】
本発明は、図面に示されている例示的かつ非限定的な実施形態によって以降の文章に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の複合材料の1つの実施形態のコンピューター支援図面である。左:側面図;右:投影図。
【
図2】引き裂き試験のための試験設定のイメージである。
【
図3】本発明の複合材料の1つの実施形態に対する破断点引き裂き強度を示す引き裂き試験結果である。そのままのガラス繊維布地、PAハイドロゲル、布地とSNハイドロゲルの組み合わせ、SNハイドロゲルの比較。
【
図4】本発明の複合材料、そのままのガラス繊維布地、布地とSNハイドロゲルの組み合わせ、の20mm幅試料についての力対変形曲線を示す。
【
図5】ガラス繊維布地、及び本発明の複合材料の1つの実施形態の布地の繊維間のPAハイドロゲルの顕微鏡画像である。
【
図6】布地の引き裂き領域における変形を示す顕微鏡画像である(マクロスケール)。
【
図7】本発明の複合材料の1つの実施形態に対する引張応力−ひずみ測定の結果である。
【
図8】そのままのガラス織布に対する引張応力−ひずみ測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
かくして、以降の好ましい特定の実施形態は、例示にすぎないとして解釈すべきであり、どんな形であっても本開示の残りの部分を限定的であるとして解釈すべきではない。この点に関し、本発明の基本的な理解に必要なもの以上に詳細な本発明の構造細部を示そうとはしていないが、本発明の複数の形態の実施に際しての具体化可能な方法は、図面と併せて解釈される明細書によって当業者に理解される。
【0024】
本発明は、比較的柔らかく粘弾性である、布地とPAハイドロゲルとを含む複合材料に関する。布地は、織布であっても不織布であってもよく、また不織布は編地であってもよい。織布は、平織、綾織、又は朱子織等の織り方での縦繊維と横繊維との交絡を作り出すことによって得られる。織布の完全性は繊維の機械的なかみ合いによって維持されることから、並びにこれらのたるみ、表面の滑らかさ、及び安定性は設計要件に基づいた織り方によって制御することができるから、織布が好ましい。
【0025】
布地は、無機材料繊維、有機材料繊維、生体材料繊維、又はこれらの混合物から作製することができる。無機材料繊維は、天然元素を主体とする無機化学物質からなり、これは耐熱性かつ高い機械的強度を有する。無機材料繊維の例としては、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、及び金属繊維が挙げられる。これらの無機材料繊維は、建築材料、防護服、航空機の部品、宇宙船等の高性能材料が必要とされる分野で一般的に利用されている。有機材料繊維は、合成ポリマー又は長い直鎖へと重合される小分子から作製される。有機材料繊維の例としては、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリアルキレン繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等)などの合成ポリマー繊維が挙げられる。優れた機械的性能及び熱安定性を有するこれらの有機材料繊維はポリマーマトリックス中で強化され、これは自動車産業、鉄道、航空宇宙等の分野で利用される。生体材料繊維は植物及び動物から作成され、これらは低コスト、低密度、高靭性、再生可能、及び生分解性である。生体材料繊維の例としては、セルロ−ス繊維及び綿繊維が挙げられる。これらの生体材料繊維は、繊維産業及び自動車産業においてポリマーマトリックスで広く強化されている。布地は、好ましくは長繊維からなる。市販の織布及び不織布を使用することもできる。布地は、シート、テープ、帯状片、チューブ、棒などの形態であってもよい。好ましい複合材料は、ガラス繊維などの親水性表面を有する布地と、PAハイドロゲルとにより製造される。
【0026】
本発明の複合材料においては、布地の少なくとも一部の表面がPAハイドロゲルで被覆される。PAハイドロゲルは布地の一方の面又は布地の両方の面を、部分的に又は完全に被覆していてもよい。PAハイドロゲルは、ランダムに分散されたカチオン性とアニオン性の繰り返し基を有するポリマーのハイドロゲルである。
【0027】
PAハイドロゲルは、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーのランダム重合によって得られるランダムポリマーからなる群から選択される。カチオン性モノマーは、アミノ基を有するモノマーからなる群から選択され、好ましくは四級化アミン基である。カチオン性モノマーの例としては、3−(メタクリロイルアミノ)プロピルトリメチルアンモニウムクロリド(MPTC)、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド(DMAEA−Q)、メタクリラートエチルトリメチルアンモニウムクロリド(MTAC)、及び4−ビニルピリジンクロリド(4−VPC)からなる群から選択されるモノマーが挙げられる。
【0028】
アニオン性モノマーは、スルホネート基、スルホン酸基、カルボン酸塩基、カルボン酸基、リン酸塩基、及びリン酸基からなる群から選択される。アニオン性モノマーの例としては、p−スチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS)、アニオン性2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、4−スチレンカルボン酸ナトリウム(NaSA)、アクリル酸(AA)、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸(MAA)、及びエチレングリコール1−メタクリレート2−ホスフェートからなる群から選択されるモノマーが挙げられる。
【0029】
PAハイドロゲルの1つの例は、逆の電荷のモノマー(p−スチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS)及び3−(メタクリロイルアミノ)プロピルトリメチルアンモニウムクロリド(MPTC))の濃水溶液からランダムに共重合したP(NaSS−co−MPTC)ハイドロゲルである。P(NaSS−co−MPTC)ハイドロゲルの1つの例は、高い強度(引張破断応力σb.1.8MPa)、高い伸展性(引張破断ひずみεb=7.4)、及び高い靭性(引き裂きエネルギーT=4000Jm
-2)を示す。PAハイドロゲルは、非共有性のイオン結合のため、自己修復能を有している。これらの優れた機械的特性に加えて、これらのPAハイドロゲルは優れた生体適合性及び生体付着防止特性も有している。[NP−6]
【0030】
PAハイドロゲルのもう1つの例は、p−スチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS)とアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド(DMAEA−Q)とから合成されるPA P(NaSS−co−DMAEA−Q)ハイドロゲルである。DMAEA−Qは、カチオン性モノマーのMPTCと比べると比較的親水性である。
【0031】
モノマーの化学構造は下に示されている:
カチオン性モノマー:MPTC、DMAEA−Q;
アニオン性モノマー:NaSS、AMPS。
【化1】
【0032】
PAハイドロゲルの他の例は、カチオン性モノマーとしてメタクリラートエチルトリメチルアンモニウムクロリド(MTAC)又は4−ビニルピリジンクロリド(4−VPC)を用いて合成される、P(NaSS−co−MTAC4)及びP(NaSS−co−VPC)系である。PAハイドロゲル用のカチオン性モノマーの化学構造は下に示されている:
【化2】
【0033】
上述のPAは、動的に切断されて再形成する、可逆的な犠牲結合としてのイオン結合を用いることによって、直鎖PAから発展させたものである。[NP−6、7]。ランダムな分布のため、PA上の反対の電荷は幅広い強度分布の複数のイオン結合を形成する。強い結合は、ハイドロゲルに弾力性を付与する永続的な架橋剤として機能する。弱い結合は壊れやすく、これらは応力の下で切断されて可逆的な犠牲結合としての役割を果たす。弱い結合が断裂すると、球体のポリマー鎖がほどけ、潜在的な長さとして機能する。これらの2つのプロセスはエネルギーを散逸させ、ハイドロゲルに靭性を付与する。本発明で使用されるPAハイドロゲルは超分子ハイドロゲルであり、約50重量%の水を含むものの、非常に靭性があり、粘弾性である。異なる強度のイオン結合を有するPA網目構造の説明図が下に示されている。強い結合は永続的な架橋点として機能し、弱い結合は変形時に破断する可逆的な犠牲結合として作用する。
【0035】
イオン結合の形成により、中性のPAは水性媒体中で球状構造を形成し、これは相分離の原因となる。中性のPAを形成する前駆体溶液の最適な電荷比を決定するとよい。PAハイドロゲルが作製される際には、PAの挙動に対するモノマー濃度Cm及び化学架橋密度C(MBAAの場合CMBAAが化学架橋剤として使用される)の影響が考慮される。これらの2つのパラメーターは系の相分離を抑制するために極めて重要である。予めCm−CMBAA空間中の配合物の状態図が描かれ得ることが好ましく、それから均一なハイドロゲル相が決定される。PAハイドロゲルの機械的特性は、イオン性モノマー対の組み合わせに依存する。親水性モノマーが多いほど柔らかく伸縮自在なゲルが生成する傾向があり、逆もまた同様である。
【0036】
ポリマーは、カチオン性モノマーと、アニオン性モノマーと、中性モノマーとの、ランダム共重合によって得られる。中性のモノマーを添加すると、試料の剛性及び靭性を調整することができる。中性のモノマーの例としては、アクリルアミド(AAm)、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、ジメチルアクリルアミド(DMAAm)などのアクリルアミド系モノマー;酢酸ビニル、ビニルピリジン、スチレンなどのビニル系モノマー;メチルメタクリレートなどのアルキルアクリレート系モノマー;ヒドロキシエチルアクリレートなどのヒドロキシアルキルアクリレート系モノマー;及び、トリフルオロエチルアクリレートなどのフッ素含有不飽和モノマーが挙げられる。
【0037】
PAハイドロゲルの合成及び複合材料の作製
PAハイドロゲルは、アニオン性モノマーとカチオン性モノマーとの一段階ランダム共重合によって合成される。一段階ランダム共重合を用いることで、本発明の複合材料は一段階で製造することができる。
【0038】
本発明は、更に、布地と両性高分子電解質ハイドロゲルとを含む複合材料の作製方法にも関する。この方法は、次の工程(a)〜(c)を含む。
(a)両性高分子電解質ハイドロゲル作製のためのモノマー混合物を準備すること;
(b)モノマー混合物溶液中に布地を浸漬すること;及び
(c)モノマー混合物溶液中のモノマーを重合して複合材料の前駆体を得ること。
【0039】
(a)モノマー混合物の準備
モノマー混合物は、アニオン性モノマーとカチオン性モノマーの混合水溶液とすることができ、水溶液はモノマーを水と混合することによって調製される。モノマー濃度、Cmは、得られるPAの挙動及びPAハイドロゲルの作製に影響を与える。モノマー濃度、Cmは、アニオン性モノマーとカチオン性モノマーの総濃度を意味する。頑丈で堅いながらも柔軟性のある複合材料を得ることを可能にするPAハイドロゲルを作製するためには、モノマー濃度、Cmは、望ましくは1〜5mol/L、好ましくは1.5〜2.5mol/Lの範囲である。
【0040】
更に、アニオン性モノマーのモル分率Fも、得られるPAの挙動及びPAハイドロゲルの作製に影響を与える。アニオン性モノマーのモル分率Fは、アニオン性モノマーとカチオン性モノマーの合計に対するアニオン性モノマーのモル分率を意味する。頑丈で堅いながらも柔軟性のある複合材料を与えるPAハイドロゲルを作製するためには、アニオン性モノマーのモル分率Fは、望ましくは0.4〜0.6の範囲であり、好ましくは0.5〜0.54の範囲である。
【0041】
混合された水溶液は、重合開始剤及び/又は架橋剤及び/又は塩を更に含んでいてもよい。重合開始剤は、2−オキソグルタル酸、4−[2−(4−モルホリノ)ベンゾイル−2−ジメチルアミノ]ブチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びフェナシルピリジニウムオキサレートなどの紫外線反応開始剤であってもよい。重合開始剤の濃度は、モノマーの種類を考慮して設定することができ、好ましい開始剤の濃度は、これに限定するものではないが、総モノマー濃度に対して0.01mol%〜1mol%の範囲である。
【0042】
架橋剤は、好ましくは、N,N’−メチレンビス(アクリルアミド)(MBAA)及びエチレングリコールジメタクリレートなどの、分子中に2つ以上の(メタ)アクリレート基を有する化学架橋剤である。(メタ)アクリレート系モノマーが使用される場合には、N,N’−メチレンビス(アクリルアミド)(MBAA)が好ましい。NaSS及び4−VPCなどのビニルモノマーが使用される場合、エチレングリコールジメタクリレートが好ましい。架橋剤は、組み合わせて用いても単独で用いてもよい。架橋剤の濃度はモノマーを考慮して変更することができ、好ましい濃度は、これらに限定するものではないが、総モノマー濃度に対して0.1mol%〜10mol%の範囲である。
【0043】
塩は無機塩であってもよい。無機塩の例としては、LiCl、NaCl、KCl、CsCl、CaCl
2、MgSO
4、K
2SO
4、又はMgCl
2などのアルカリ金属塩が挙げられる。塩の濃度はモノマーの種類及びモノマー濃度Cmを考慮して変更することができ、具体的に限定されないが、例えば0.1M〜2Mの範囲である。塩を使用すると、混合水溶液の粘度を下げることができ、均一な試料を得ることができる。しかし、塩の濃度が高いほど、重合後に塩を除去する負担が大きくなる。
【0044】
(b)モノマー混合物溶液への布地の浸漬
複合材料作製のためのセルは、これに限定するものではないが、向かい合わせのガラスプレートなどの一対のプレートから構成され、プレート間の厚さはスペーサーの厚さによって制御される。この空間は、これに限定するものではないが、望ましくは0.001〜10mmの範囲であり、好ましくは0.01mm〜5.0mmの範囲であり、より好ましくは0.1〜1.0mmの範囲である。プレートとスペーサーは、混合水溶液に不活性な材料から選択され、スペーサーは例えば所定の厚さを有するシリコーンスペーサーであってもよい。スペーサーの厚さは複合材料の厚さを決定する。布地はプレートによって形成される空間に配置される。この布地は織地又は編地又は不織布であってもよく、0.001mm〜1mmの厚さの範囲の厚さであってもよく、平織、綾織、又は朱子織からなっていてもよい。混合水溶液は、布地が配置されている溝の中に添加される。布地は、通常は空間の中央に配置することができ、又は、60/40、70/30、80/20等の布地各面でのPA分布などの、端部又は表面の方に偏って配置されていてもよい。あるいは、複合材料は、布地表面の片面上又は両面上を、混合水溶液でコーティングされることによって作製されてもよい。コーティングは、スプレー、浸漬、ロール式ナイフ、又は他の従来の布地被覆方法によって塗布されてもよい。
【0045】
(c)複合材料前駆体を得るためのモノマーの重合
混合水溶液は、例えば紫外線反応開始剤が使用される場合には紫外光の照射によって硬化される。紫外光の波長は、紫外線反応開始剤を考慮して決定することができる。照射は、アルゴン雰囲気などの不活性雰囲気中で、周囲温度又は高温で、1分〜24時間、好ましくは1時間〜12時間、より好ましくは8時間〜12時間行うことができ、これは紫外光の強さによって調整される。この反応は、アルゴン雰囲気又は窒素雰囲気などの不活性雰囲気中で、周囲温度又は高温で生じさせることができる。布地とPAとからなる複合材料は、スペーサーの大きさによって制御される0.001mm〜10mmの厚さで作製することができる。
【0046】
この方法では、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーは、PAハイドロゲル中で本質的にランダムに共重合する。コポリマーのランダム構造は、例えば
1H−NMRの反応速度論研究を用いて確認することができる。
【0047】
重合の後、作成されたままのゲルは、平衡に到達させるため及び例えば1週間後に残留化学物質を洗い流すために水中に浸漬される。水の量は特には限定されず、平衡状態と、ゲル中の残留化学物質の消失が確認されることが好ましい。この工程の間、イオン性コポリマーの可動性のカウンターイオン及び使用される塩はゲルから除去され、コポリマー上の逆の電荷のイオンは、鎖内又は鎖間の相互作用によって安定なイオン性複合体を形成する。
【0048】
様々なPAハイドロゲルの重合条件並びに構造的特徴及び機械的特性は、下の表に示されている。
【0050】
本発明の複合材料の1つの実施形態のコンピューター支援図面が
図1に示されている。左側が複合材料の側面図であり、右側が投影図である。本発明の複合材料の1つの実施形態は、従来のハイドロゲル(SNゲル)よりも2桁大きい靭性を示す(Gc4800J/m
2対10J/m
2)。更に、本発明の複合材料の1つの実施形態は、靭性について劇的な増加を示す。織ガラス繊維とPAゲルとからなる複合材料の20mm幅の帯状片の場合、そのままのPAゲルよりも更に2桁大きく、従来のSNゲルよりも4桁大きいGc値(105,000J/m
2)を得ることができる(
図3参照)。
【0051】
興味深いことに、2つの材料を組み合わせるとそれらの機械的特性が平均化される結果となるほとんどの複合材料とは異なり、この場合においては、別々に試験した際のいずれの材料よりも引き裂き強度がはるかに優れていた。対照のSNゲル及び布地を試験した場合も、引き裂き強度の著しい減少が観察され、これはPAゲルと布地という特別な組み合わせが引き裂き強度の大幅な向上のために必要であるということを裏付ける(後述の実施例参照)。
【0052】
本発明の複合材料は、例えば前十字靭帯(ACL)再建手術などの靭帯再建手術のための治療に使用することができる。本発明の複合材料は、包帯、植皮片、柔軟性のある耐引き裂き性の衣類、又は防弾のためにも用いることができる。
【0053】
本発明が先行技術を改善する数多くの点が存在する。体内プロテーゼとして使用される場合、布地は裂け、劣化、及び分解の点で多くの問題を有している。これを回避するために、大抵はこれらの堅い基材はエラストマーで被覆されるであろう。しかし、エラストマーはしばしば生体反応を生じさせ、これは感染症又は拒絶反応の原因となり得る。本発明で使用される被覆材料のPAハイドロゲルは、水を主成分としており、これは無毒かつ細胞粘着耐性である。
【0054】
本発明の複合材料は様々な用途を有している。PAハイドロゲルは非常に弾力性のある耐引き裂き性に優れた包帯を形成できることから、創傷の処置は本発明の恩恵を受けるであろう。本発明の複合材料においては、これらが通常毒性を有しておらず、水を主成分とし、そして創傷の治癒を促進できることから、布地は支持体として使用され、PAハイドロゲルは創傷の閉鎖のために使用される。
【実施例】
【0055】
本発明を実施例に基づいて以下詳細に説明する。しかし、本発明は実施例には限定されない。
【0056】
1.材料
p−スチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレートメチルクロリド4級塩(DMAEA−Q)、アクリルアミド(AAm)、2−オキソグルタル酸、及びN,N’−メチレンビス(アクリルアミド)(MBAA)は、Wako company(日本)から購入した。布地(S−ガラス 4−ハーネス 朱子織)(4HS)は、ACP composite companyから購入した。4HSでは、横糸は3本の縦糸の上を通り、それから1本の下を通る。全ての化学物質は、更に精製することなしに購入した状態のままで使用した。
【0057】
2.方法
2−1.材料の合成
両性高分子電解質ハイドロゲル(PA)は、アニオン性モノマーNaSSとカチオン性モノマーDMAEA−Qとの一段階ランダム共重合を用いて合成した。所定のモノマー濃度(Cm=2.0mol/L)、アニオン性モノマーモル分率(F=0.52)、0.1mol%の紫外線反応開始剤である2−オキソグルタル酸、0.1mol%の化学架橋剤MBAA(モノマー総濃度に対する濃度)、及び0.5MのNaClを有する混合水溶液を、反応セルの中に入れた。セルは、10mm(長さ)×10mm(幅)×1mm(奥行)の一対のガラスプレートで構成され、この厚さはシリコーンスペーサーの厚さによって制御された。反応系には、アルゴン雰囲気で8時間365nmの紫外光を照射した。
【0058】
ポリアクリルアミドハイドロゲル(PAAm)は、UV光を用いて、2mol/Lのアクリルアミドモノマーと、0.1mol%の2−オキソグルタル酸と、1.0mol%の化学架橋剤MBAA(モノマー総濃度に対する)との重合によって製造した。
【0059】
PAゲル/布地複合材料は、記載されている重合方法と同様の方法によって製造した。反応溶液を注入する前に、約0.3mmの厚さの布地4HSを、反応セルの中央に固定した。PAゲル/布地複合材料を製造するために、反応セルに同じ組成を有するPA溶液を満たした後、重合を行った。
【0060】
PAゲル/布地複合材料の製造と同様に、AAm溶液と布地4HSとによってPAAm/布地複合材料を合成した。
【0061】
重合後、作製したままのゲルを、平衡に到達させるため及び残留化学物質及びカウンターイオンを洗い流すために、大量の水に1週間浸漬した。
【0062】
2−2.特性評価
引き裂き試験:
引き裂き試験は、市販の試験装置(Instron Cat.No 2752−005)を用いて空気中での靭性を評価するために行われた。引き裂き試験のための試験設定のイメージが
図2に示されている。試験試料は、40mm(長さ)×20〜100mm(幅)×0.5〜1.3mm(高さ)の長方形に切断した。試料の幅方向中央部で長手方向に20mmの切込みを入れて2つのアームを形成した。試験片の2つのアームをクランプで固定し、その後、一定の速度50mm/分で上側のアームを上へ引っ張り、引き裂き力Fを記録した。引き裂きエネルギーTは、関係式T=2F/w(wは試料の厚さである)を用いて、一定の引き裂き力Fで計算した。結果は
図3及び
図4に示されている。
図3は破断点引き裂き強度を示しており、
図4は、本発明の複合材料、そのままのガラス繊維布地、布地とSNハイドロゲルとの組み合わせ、の20mm幅試料についての力対変形曲線を示している。
図5は、ガラス繊維布地と、試料の布地の繊維間のPAハイドロゲルの顕微鏡画像を示し、Aはマトリックスゲル中のフィブリル化の画像であり、Bはフィブリル断裂の画像であり、これはエネルギーを散逸させると考えられる。
図6は、布地の引き裂き領域における変形を示す顕微鏡画像である(マクロスケール)。
【0063】
引張試験:
引張応力−ひずみ測定は、大気中、引張−圧縮試験機(Tensilon RTC−1310A、Orientec Co.)を用いて変形速度10mm/分で行った。試験はサイズ(25mm(長さ)×20mm(幅)×0.85mm(奥行)の長方形の試料に対して行った。引張試験中にクランプ端部で試料が滑るのを防止するために、瞬間強力接着剤のシアノアクリレートによって試料の端部に接着した2mm(長さ)×2mm(幅)×3mm(奥行)のポリエチレンテレフタレート(PET)プレートを使用した。引張試験中、PETプレートはクランプによって把持された。結果は
図7(複合材料)及び
図8(そのままのガラス織布)に示されている。材料の強度は取付けグリップの強度を上回っており、これらの材料の終局特性は、示されている結果を上回る。
【0064】
本発明を、その特定のバージョンに関してかなり詳細に述べてきたが、他のバージョンも可能であり、明細書の読み込みと図面の検討を行うことで、示されているバージョンの変形、置換、均等物が当業者に明らかになるであろう。また、本明細書に記載のバージョンの様々な特徴は、本発明の追加的なバージョンを得るために、様々な方法で組み合わせることができる。更に、特定の専門用語が記述の明確性のために使用されており、これは本発明を限定しない。したがって、いずれの添付の請求項も、本明細書に含まれる好ましいバージョンの記述に限定されるべきではなく、本発明の真の趣旨及び範囲に含まれるすべてのそのような変形、置換、及び均等物も含まれるべきである。
【0065】
本発明を完全に記載したが、本発明の方法は、本発明又はその任意の実施形態の範囲から逸脱することなしに、幅広いかつ均等な範囲の条件、処方、及び他のパラメーターを用いて行えることが当業者に理解されるであろう。
【0066】
本明細書で引用されている全ての特許及び刊行物は、それらの全体が参照により本明細書に完全に包含される。いずれの刊行物の引用も、出願日前の刊行物を開示するためであり、このような刊行物が先行技術であること、又は本発明が先行発明を理由としてそのような刊行物に先行する権利を有さないこと、の承諾として解釈すべきではない。
【国際調査報告】