(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-515966(P2021-515966A)
(43)【公表日】2021年6月24日
    (54)【発明の名称】充電式リチウムイオン電池用の正極材料
(51)【国際特許分類】
   H01M   4/525       20100101AFI20210528BHJP        
   H01M   4/505       20100101ALI20210528BHJP        
   H01M   4/36        20060101ALI20210528BHJP        
   H01M   4/1391      20100101ALI20210528BHJP        
   C01G  53/00        20060101ALI20210528BHJP        
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/36 E
   H01M4/36 B
   H01M4/36 C
   H01M4/1391
   C01G53/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】32
      (21)【出願番号】特願2020-545732(P2020-545732)
(86)(22)【出願日】2019年2月25日
    (85)【翻訳文提出日】2020年9月1日
      (86)【国際出願番号】EP2019054511
    
      (87)【国際公開番号】WO2019166350
(87)【国際公開日】20190906
    
      (31)【優先権主張番号】62/637,752
(32)【優先日】2018年3月2日
(33)【優先権主張国】US
      (31)【優先権主張番号】18175897.0
(32)【優先日】2018年6月5日
(33)【優先権主張国】EP
    (81)【指定国】
      AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
    
      
        
          (71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
          (71)【出願人】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
          (74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山  靖彦
          (74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広  信哉
          (74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部  達彦
        
      
      
        (72)【発明者】
          【氏名】テ−ヒョン・キム
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】ジェンス・ポールセン
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】熊倉  真一
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】ユリ・イ
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】リアン・ジュ
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】テヒョン・ヤン
              
            
        
      
    【テーマコード(参考)】
      4G048
      5H050
    【Fターム(参考)】
      4G048AA04
      4G048AB02
      4G048AC06
      4G048AD03
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      5H050BA16
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      5H050GA03
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      5H050HA07
      5H050HA08
      5H050HA15
    (57)【要約】
  充電式電池用の二峰性リチウム遷移金属酸化物系粉末混合物であって、元素Li、遷移金属系組成物M、及び酸素からなる層状結晶構造を有する材料Aの粒子を含む、第1のリチウム遷移金属酸化物系粉末であって、第1の粉末が、(D90−D10)/D50が1.0未満であることを特徴とする粒子径分布を有する、第1のリチウム遷移金属酸化物系粉末と、単結晶粒子を有する材料Bを含む、第2のリチウム遷移金属酸化物系粉末と、を含み、粒子が、一般式Li+bN’−bO2[式中、−0.03≦b≦0.10、及びN’=Ni
xM”
yCo
zE
dであり、0.30≦x≦0.92、0.05≦y≦0.40、0.05≦z≦0.40、及び0≦d≦0.10であり、M”はMn又はAlのうちの一方又は両方のいずれかであり、EはM”とは異なるドーパントであり、第1の粉末は、10〜40μmの平均粒子径D50を有し、第2の粉末は、2〜4μmの平均粒子径D50を有し、二峰性混合物中の第2の粉末の重量比は、15〜60重量%である]を有する、二峰性リチウム遷移金属酸化物系粉末混合物。
    
  【特許請求の範囲】
【請求項1】
  充電式電池用の二峰性リチウム遷移金属酸化物系粉末混合物であって、
  元素Li、遷移金属系組成物M、及び酸素からなる層状結晶構造を有する材料Aの粒子を含み、(D90−D10)/D50が1.0未満であることを特徴とする粒子径分布を有する、第1のリチウム遷移金属酸化物系粉末と、
  単結晶粒子を有する材料Bを含み、前記粒子が、一般式Li1+bN’1−bO2[式中、−0.03≦b≦0.10、及びN’=NixM”yCozEdであり、0.30≦x≦0.92、0.05≦y≦0.40、0.05≦z≦0.40、及び0≦d≦0.10であり、M”はMn又はAlのうちの一方又は両方のいずれかであり、EはM”とは異なるドーパントである]を有する、第2のリチウム遷移金属酸化物系粉末と、を含み、前記第1の粉末は、10〜40μmの平均粒子径D50を有し、前記第2の粉末は、2〜4μmの平均粒子径D50を有し、前記二峰性混合物中の前記第2の粉末の重量比は、15〜60重量%である、二峰性リチウム遷移金属酸化物系粉末混合物。
【請求項2】
  前記材料Aの粒子が、一般式Li1+aCo1−mM’mO2[式中、−0.05≦a≦0.05及び0≦m≦0.05であり、前記材料Aは、20μm以上のD50を有し、M’はAl、Ca、Si、Ga、B、Ti、Mg、W、Zr、Cr、及びVからなる群の金属のうちのいずれか1種以上である]を有し、前記二峰性混合物中の前記第2の粉末の重量比が、15〜25重量%である、請求項1に記載の二峰性粉末混合物。
【請求項3】
  前記材料Aが、多結晶であり、かつ一般式Li1+a’M1−a’O2[式中、−0.03≦a’≦0.10及びM=Nix’Mny’Coz’Ed’であり、0.30≦x’≦0.92、0≦y’≦0.40、0.05≦z’≦0.40、0≦d’≦0.05、及びx’+y’+z’+d’=1であり、E’はAl、Ca、Si、Ga、B、Ti、Mg、W、Zr、Cr、V、S、F、又はNからなる群の元素のうちのいずれか1つ以上である]を有する粒子を有し、前記二峰性混合物中の前記第2の粉末の重量比が、20〜60重量%である、請求項1又は2に記載の二峰性粉末混合物。
【請求項4】
  0.60≦x’≦0.92、0≦y’≦0.30、0.10≦z’≦0.3である、請求項3に記載の二峰性粉末混合物。
【請求項5】
  EがAl、Ca、Si、Ga、B、Ti、Mg、W、Zr、Cr、V、S、F、又はNからなる群の元素のうちのいずれか1つ以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の二峰性粉末混合物。
【請求項6】
  前記第1の粉末が、10〜25μmの平均粒子径D50及び0.8以下の(D90−D10)/D50を特徴とする粒子径分布を有する、請求項3〜5のいずれか一項に記載の二峰性粉末混合物。
【請求項7】
  前記第1の粉末及び前記第2の粉末の両方が、1に実質的に等しいアスペクト比を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の二峰性粉末混合物。
【請求項8】
  前記二峰性粉末が、3.2g/cm
3以上の第1の補正されたプレス密度を有し、前記第1の補正されたプレス密度が式PD/100×(100+ID10)で計算され、式中、PDは、200MPaの圧力下でのプレス密度であり、ID10は、以下のように計算された前記二峰性粉末の粒子径分布におけるD10値の増加であり、
【数1】
  式中、(PDM後のD10)及び(PDM前のD10)は、それぞれ、200MPaの圧力の適用後及び適用前の前記D10値である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の二峰性粉末混合物。
 
【請求項9】
  前記二峰性粉末が、3.0g/cm
3以上の第2の補正されたプレス密度を有し、前記第2の補正されたプレス密度が式PD/100×(100−IB)で計算され、式中、PDは、200MPaの圧力下でのプレス密度であり、IBは、以下のように計算された前記二峰性粉末の比表面積BETの増加であり、
【数2】
  式中、(PDM後のBET)及び(PDM前のBET)は、それぞれ、200MPaの圧力の適用後及び適用前のBET値である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の二峰性粉末混合物。
 
【請求項10】
  前記粉末混合物の前記粒子が、M、LiF、及びAl2O3の元素の均質混合物を含む表面層を有する、請求項3又は4に記載の二峰性粉末混合物。
【請求項11】
  充電式電池用の正極混合物であって、請求項1〜10のいずれか一項に記載の二峰性粉末混合物と、バインダーと、導電剤と、を含み、前記正極混合物中の前記二峰性粉末混合物の重量比は、少なくとも90重量%であり、前記正極混合物は、1765.2N下でプレスされたときに少なくとも3.65g/cm3の密度を有する、充電式電池用の正極混合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  本発明は、充電式リチウムイオン電池用の正極材料として適用することができるリチウム遷移金属酸化物化合物に関する。より具体的には、この材料は、大きな球状多結晶リチウム遷移金属酸化物化合物と、小さな単結晶リチウム遷移金属酸化物化合物との混合物を含む。当該正極材料は電池性能を強化し、例えば、高い体積密度によりエネルギー密度を、及び高い圧縮強度によりサイクル安定性を強化する。
 
【背景技術】
【0002】
  環境汚染は高度な工業化に起因する世界的な脅威であり、世界は、オゾン層の破壊及び温室効果などの危機的状況に直面している。世界的に環境規制が強化されていることから、輸送については、グリーンエネルギーを資源として利用する代替手段として、電気自動車(EV)が注目を集めている。化石燃料を利用する車両と置き換えることができる、充電式であり、かつエネルギー密度が高いエネルギー源を有する自動車が不可欠である。リチウムイオン電池(LIB)は、そのようなエネルギー源の中で最も有望な候補である。
【0003】
  LiCoO
2(LCO)は、例えば、ポータブル用途のものなどの、ほとんどのLIBで正極材料として使用されてきた。非常に高い電極密度を容易に達成することが主な理由である。この利点に加え、低膨張、高容量の他、特に充電電圧が増加した場合にも、許容可能な安全性及びサイクル寿命が得られる。ポータブル電池は非常に小さいため、Coの高費用を許容することができる。コバルト金属の価格が100$/kgであったとしても、4Ahのスマートフォン用電池のコバルト費用は約2.50$以下であり、これは、スマートフォンの価格と比較してわずかな費用である。この状況は、LiCoO
2を使用した場合には電池中の金属の費用が顕著に総費用に関わってくるであろう、自動車用途のものとは異なる。
【0004】
  したがって、コバルト資源には限りがあり、コバルト開発機構(Cobalt  Development  Institute)によると、現在、すでに世界のコバルト生産量の約30%が充電式電池に使用されていることから、LCOは大型の電池に関してはサステイナブルなものではない。したがって、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(以下、「NMC」と称呼する)は、おおよその化学量論がLiM’O2(式中、M’=N
ixMn
yCo
z)であり、資源状況がそれほど危うくないため、有望な正極材料となっている。NMCは、コバルトがニッケル及びマンガンに置き換えられることから、コバルトの含有量が少ない。ニッケル及びマンガンの方がコバルトよりも安価であり、かつ比較的豊富なことから、大型電池においては、NMCがLCOに取って代わる可能性がある。
【0005】
  EVに理想的な正極材料には、比較的低電圧で高重量エネルギー密度(Wh/g)を有し、かつ高電極密度を提供することが求められる。前者は、より高いNi含有量を有する正極材料がより望ましいことを意味するが、後者は、より高いプレス密度が必要であることを意味する。理論的には、NMC中のNiが多くなるほど、正極材料の容量が増加し、より高い重量エネルギー密度が得られる。しかしながら、正極材料のNi含有量が高いほど、より脆くなる。したがって、高Niカソード材料(すなわち、Ni含有量が遷移金属含有量の60mol%以上のもの)を用い高電極密度を達成する試みは、低Ni材料を用いた場合のものと比較して困難なものとなる。この試みには、材料設計に関し、現在電池で使用されているもの以外の新しい概念が必要とされる。
【0006】
  正極材料の体積エネルギー密度は、重量エネルギー密度(Wh/g)と電極密度(g/cm
3)とを乗算することによって算出することができる。電極密度が高いほど、より多くの粉末を所与の体積に充填することができ、したがって、利用可能なエネルギーを増加させることができる。電極密度は、正極材料のプレス粉末密度と良く相関することから、高いプレス粉末密度を有する材料が所望される。
【0007】
  正極の調製中に、正極材料を含む電極の構成要素を成形するために、ロールプレス工程(電極カレンダー加工工程と称呼する)が適用される。正極材料粒子は破壊される傾向を有し得るものの、より容易に成形することができる粉末、及び脆性がより低い粒子では、破壊の発生頻度が低くなる。粒子の破壊が発生すると、深刻な結果を招く場合がある。破壊された正極材料は、空隙(pores)が潰れるにつれて密度が高くなるだけでなく、表面積も増加する。この成形された電極領域では、電解質中のリチウムイオンの急速な拡散を制限する電解液が枯渇し、結果としてレート性能が不良となる。総面積が増加し、電解質と正極材料との間で望ましくない副反応が生じ得るため、表面積の増加は望ましくない。したがって、理想的な正極材料は、脆性ではない粒子を有する。
【0008】
  一般に、正極粉末は、基材フィルム及び集電体として働くアルミニウム箔の両面にコーティングされる。基本的に、カレンダー加工工程の間に適用される圧力が十分に高い場合、電極密度が十分に高くなるまで、任意の正極材料をプレスすることができる。しかしながら、圧力が高すぎると電極を損傷する。特に、アルミニウム箔は損傷し、延伸し、「波」打つことになる。同時に、正極材料粒子がアルミニウム箔に圧入される。これを我々は「電極食い込み」効果と呼ぶ。アルミニウム箔は、更なる処理中に、このような電極食い込み点において引き裂かれるか、又は破壊され得る。好適な正極材料には、電極食い込みが発生せず、低圧であっても高密度電極に成形できるものであることが求められる。
【0009】
  更に、正極材料の粒子径分布が重要である。大きい粒子は、より良好なプレス密度を有する傾向がある。しかしながら、これらはまた、より多くの電極食い込みを引き起こす。最悪のシナリオは、正極材料が大きい粒子をごくわずかに有する場合に生じる。大きい粒子がより小さい粒子の上に位置した場合、小さい粒子は、容易にアルミニウム箔内に深く侵入し、ナイフとして機能する。この効果は、粒子径分布の最大サイズ(D99又はD100)を制限することによって最小限に抑えることができる。
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
  本発明の目的は、電極製造プロセス中の粒子破壊及び電極食い込みの両方の問題、並びに電池におけるサイクル中の粒子破壊問題を引き起こすことなく、より高いプレス密度に基づいて高いエネルギー密度を有する新規の正極材料を提供することである。
 
【課題を解決するための手段】
【0011】
  本発明では、粒子径分布(体積%対サイズ)は、粒子のサイズによって当該粒子の相対体積の百分率を定量する、レーザー回折によって評価される。D10、D50、D90、D99、及びD100の値は、体積を基準とした累積粒子径分布の10%、50%、90%、99%、及び100%における粒子径として定義される。粒子径分布のスパンは、(D90−D10)/D50として定義され、粒子径の変動の幅の指標として使用される。
【0012】
  第1の態様から見ると、本発明は、充電式電池用の二峰性リチウム遷移金属酸化物系粉末混合物であって、
  元素Li、遷移金属系組成物M、及び酸素からなる層状結晶構造を有する材料Aを含み、1.0未満のスパンを有する粒子径分布を有する、第1のリチウム遷移金属酸化物系粉末と、
  モノリシックな形態及び一般式Li
1+bN’
1−bO
2[式中、−0.03≦b≦0.10及びN’=Ni
xM”
yCo
zE
dであり、0.30≦x≦0.92、0.05≦y≦0.40、0.05≦z≦0.40、及び0≦d≦0.10であり、M”はMn又はAlのうちの一方又は両方のいずれかであり、EはM”とは異なるドーパントである]を有する、第2のリチウム遷移金属酸化物系粉末と、を含み、第1の粉末は、10〜40μmの平均粒子径D50を有し、第2の粉末は、2〜4μmの平均粒子径D50を有し、二峰性混合物中の第2の粉末の重量比は、15〜60重量%である、二峰性リチウム遷移金属酸化物系粉末混合物を提供できる。第2の粉末の粒子は、第1の粉末の粒子間空隙にはまり込み得る。
【0013】
  異なる実施形態では、次の特徴を有する。
  材料Aが、一般式Li
1+aCo
1−mM’
mO
2[式中、−0.05≦a≦0.05及び0≦m≦0.05であり、M’はAl、Ca、Si、Ga、B、Ti、Mg、W、Zr、Cr、及びVからなる群の金属のうちのいずれか1種以上である]を有する粒子を有し、特定の実施形態では、二峰性混合物中の第2の粉末の重量比が15〜25重量%である、二峰性粉末混合物。
  材料Aが多結晶であり、かつ一般式Li
1+a’M
1−a’O
2[式中、−0.03≦a’≦0.10及びM=Ni
x’Mn
y’Co
z’E
d’であり、0.30≦x’≦0.92、0≦y’≦0.40、0.05≦z’≦0.40、0≦d’≦0.05、及びx’+y’+z’+d’=1であり、E’はAl、Ca、Si、Ga、B、Ti、Mg、W、Zr、Cr、V、S、F、又はNからなる群の元素のうちのいずれか1つ以上(one  of  more)である]を有する粒子を有し、特定の実施形態では、二峰性混合物中の第2の粉末の重量比が20〜60重量%である、二峰性粉末混合物。
  この直前に言及した粉末混合物は、M、LiF、及びAl
2O
3の元素の均質混合物(intimate  mixture)を含む表面層を有する粒子で構成され得る。
  この直前に言及した粉末混合物では、第1の粉末は、10〜25μmの平均粒子径D50、及び0.8以下又は更には0.7以下のスパンを有し得る。
  0.60≦x’≦0.92、0≦y’≦0.30、0.10≦z’≦0.30であり、特定の実施形態では、d’=0である、前出の実施形態の二峰性粉末混合物。
  EがAl、Ca、Si、Ga、B、Ti、Mg、W、Zr、Cr、V、S、F、又はNからなる群の元素のうちのいずれか1つ以上(one  of  more)である、二峰性粉末混合物。
  第1の粉末及び第2の粉末の両方が、1に実質的に等しい、好ましくは1.0±0.1に等しい、より好ましくは1.00±0.01に等しいアスペクト比を有する、二峰性粉末混合物。本発明のフレームワークでは、粒子のアスペクト比は、粒子周囲U、粒子表面A、及びそれぞれのサイズから導出される直径の、評価をもとに求められる。前述の直径は以下の式から得られる。
  d
U=U/π                            d
A=(4A/π)
1/2
【0014】
  粒子のアスペクト比(f)は、以下の等式に従って粒子周囲U及び粒子表面Aから導出される。
【0015】
【数1】
【0016】
  理想的な球状粒子の場合、d
A及びd
Uの大きさは等しく、得られるアスペクト比は1である。アスペクト比は、一般に、例えば、材料のSEM画像を使用して求めることができる。
  3.2g/cm
3以上又は更には3.3g/cm
3以上の第1の補正されたプレス密度を有し、第1の補正されたプレス密度が式PD/100x(100+ID10)で計算され、式中、PDは、200MPaの圧力下でのプレス密度であり、ID10は、以下のように計算された二峰性粉末の粒子径分布におけるD10値の増加であり、
【0017】
【数2】
【0018】
  式中、(PDM後のD10)及び(PDM前のD10)は、それぞれ、200MPaの圧力の適用後及び適用前のD10値である、二峰性粉末混合物。
  3.0g/cm
3以上又は更には3.2超及び場合によっては更には3.3g/cm
3以上の第2の補正されたプレス密度を有し、第2の補正されたプレス密度が式PD/100x(100−IB)で計算され、式中、PDは、200MPaの圧力下でのプレス密度であり、IBは、以下のように計算された二峰性粉末の比表面積BETの増加であり、
【0019】
【数3】
【0020】
  式中、(PDM後のBET)及び(PDM前のBET)は、それぞれ、200MPaの圧力の適用後及び適用前のBET値である、二峰性粉末混合物。
【0021】
  第2の態様から見ると、本発明は、前述の実施形態のいずれか1つに記載の二峰性粉末混合物と、バインダーと、導電剤と、を含み、正極混合物中の二峰性粉末混合物の重量比は、少なくとも90重量%であり、当該正極混合物は、1765.2N下でプレスされたときに少なくとも3.65g/cm
3の密度を有する、充電式電池用の正極混合物を提供できる。
 
 
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】EX−A−01のFE−SEM画像(倍率x1000)である。
 
【
図2】EX−B−02のFE−SEM画像(倍率x10000)である。
 
【
図3】実施例1のID10(x軸(単位%))の関数としてのPD(y軸(単位g/cm
3))
 
【
図4】実施例2の化合物BのD50(x軸(単位μm))の関数としてのPD(y軸(単位g/cm
3))
 
【
図5】実施例2の化合物Bの割合(x軸(単位%))の関数としてのIB(y軸(単位%))
 
【
図6】実施例3のR.E.B.(x軸(単位%))の関数としてのED(y軸(単位g/cm
3))
 
【
図7】CEX3−02の断面FE−SEM画像(倍率x1000)である。
 
【
図8】EX3の断面FE−SEM画像(倍率x1000)である。
 
【
図9】フルセルのサイクル条件が45℃で4.35V−3.00Vである、実施例4のフルセルのサイクル数の関数としての相対容量(y軸(単位%))
 
【
図10】フルセルのサイクル条件が25℃で4.45V−3.00Vである、実施例5のフルセルのサイクル数の関数としての相対容量(y軸(単位%))
 
 
【発明を実施するための形態】
【0023】
  従来のNMC正極材料の粒子は、通常は球状であり、常に多結晶である。体積密度を増加させるために、本発明は、リチウムイオン電池の正極材料として使用することができ、大きな通常の球状多結晶化合物(更には化合物Aとも称呼する)と、小さくモノリシックな充填剤化合物(更には化合物Bとも称呼する)とを、当該化合物AとBとが特定の重量比を持つように含む、リチウム遷移金属酸化物「二峰性PSD」化合物(更には化合物Cとも称呼する)を提供する。化合物Aの粒子は球状であることから、粒子間には空隙がある。理論的には、等価の球状粒子の密充填(closed  packing)系では、当該球状粒子が占める空間の最大体積分率は、約74%である。残りの26%は、より小さい粒子によって充填され得る空隙である。したがって、より小さい粒子(化合物B)を適量で使用することにより、体積密度を増加させることができる。実際には、空隙体積は、化合物Aによって形成されるマトリックスの形態に依存する。化合物Bは、体積密度を最大化するために空隙内に十分に適合するものである必要がある。当該微粒子画分は、非常に高い比表面積を有し得ることから、電解質との間で生じ得る望ましくない副反応に過剰に関係し、電池サイクル寿命を短縮させる可能性がある。本発明の微粒子は、より小さい表面積を有することから、これらの副反応に対してより耐性がある。本発明の二峰性粒子径分布を有する正極材料はまた高プレス密度も提供し、並びに正極材料(化合物C)は高エネルギー密度を有しており、かつ粒子の破壊(又は割れ)及び電極食い込みなどの電極加工上の問題が少ない。
 
【0024】
  化合物Cの粒子径分布は、当該化合物の流動性及び成形特性に影響し、また電極調製において高電極密度を達成するには、粉末の流動性及び粉末の成形性の両方が重要である。より大きい粒子は、典型的には、より小さいものよりも容易に流れ、より球状の粒子は、高いアスペクト比を有するものよりも容易に流れる。共沈工程、スクリーニング工程、濾過工程、ミリング工程、及びサイクロン分離工程を含む、リチウム遷移金属複合酸化物を調製するための典型的な工業プロセスは、粒子形状がより球状かどうか(アスペクト比が1に近いかどうか)を判定する。しかしながら、通常、粉末粒子径はロットで変化する。このタイプの材料の天然の粒子径分布は、典型的には1.20〜1.50のスパンを有する。本文脈において、狭いスパンとは、1より小さいスパンを指す。実際には、EVに使用されるLIBは、最良の電気化学的性能を得るために、典型的には3μm〜25μmの特定のD50範囲の正極材料を必要とする。一般的なスパンを有する正極材料では、D50が大きいと、大きい粒子(D99又はD100に相当する体積を有する粒子など)は、正極の厚み(通常50μmより薄い)を超えるか、又は当該厚みに近くなり得、カレンダー加工時の圧力が、最も大きい粒子を介して小さい粒子へと伝わると、延性アルミニウム箔上で局所的に大きな力が生成されることから、粒子の破壊、電極食い込み、カレンダー加工後の電極分離などの危険性を有することを意味する。狭いスパンを有する正極材料(本発明では、化合物Aが該当する)を適用すると、特に、より高い電極密度に達するように電極カレンダー加工中の圧力を増加させる場合に、より大きいD50及び対応するより小さいD100、D99、又はD99/D50を有する粉末を使用することが可能になる。
 
【0025】
  狭いスパンを有する化合物Aを得るにあたり有望な調製経路がいくつか存在する。好ましい実施形態では、化合物Aは、混合遷移金属前駆体(以下、A1と称呼する)から調製される。実際には、化合物Aは、前駆体A1と同様の粒子径分布及び形態を有する。したがって、A1は、同様に狭い粒子径分布を有する。A1は、混合金属水酸化物、混合金属オキシ水酸化物、混合金属酸化物、混合金属炭酸塩、又はこれらの混合物であり得る。A1は、一般に、沈殿プロセスにより調製される。例えば、MSO
4(M=Ni、Co、Mn)などの溶解した金属塩と、NaOHなどの溶解した塩基とのフローを、撹拌しながら反応器に供給する。加えて、アンモニアなどの添加剤フローを反応器に添加することができる。混合遷移金属水酸化物(MTH)生成物が沈殿し、濾過され、乾燥される。例えば、米国特許第9,028,710号に開示されているように、好適なプロセス制御を適用することによって、沈殿プロセスにより、狭いスパンの前駆体A1が得られる。(a)バッチ沈殿、反復バッチ沈殿、若しくは元のスラリー液(mother  slurry)の連続除去中の沈殿、(b)反応器のカスケード、すなわち、ある反応器の生成物が次の反応器に供給されていく、直列に接続されたいくつかの反応器、(c)粒子の分級及び戻し供給(back−feeding)を伴う連続沈殿、又は(d)通常の連続沈殿を含む、いくつかの方法により狭いスパンを得ることができる。通常の連続的な沈殿の場合、一般に、混合水酸化物の形態は狭いスパンを有さない。しかしながら、所望の形態は、別個の分級工程によって得られる。分級は、湿式(例えば、ハイドロサイクロン、ドラフトチューブなどを使用するもの)プロセス、又は乾式(例えば、エア分級)プロセスであり得る。分級は、リチウム化工程前又はリチウム化工程後に行うことができ、リチウム化工程では、A1をリチウム源とブレンドし、続いて1回以上の焼成工程を行い、リチウム遷移金属酸化物(以下、A2と称呼する)を調製する。最後に、化合物Aは、ミリング、分級、又は篩分けなどのA2の好適な後処理によって調製される。
 
【0026】
  狭いスパンを有する化合物Aが、上記の理由から好ましいが、高電極密度を達成するためには、狭いスパンを有する化合物Aのみを使用することは有効ではない。粉末成形密度は、同様のサイズを有する複数の粒子間の空隙によって単純に制限される。過剰なカレンダー加工下での粒子の破壊は、電極密度をある程度向上させることができる。しかしながら、サイクル中のサイクル安定性及び副反応などの他の理由(上記)から、粒子の破壊は好ましくない。したがって、より小さい充填剤材料と一緒に化合物Aを使用することは、高い電極密度を達成するためにはやはり好ましい。
 
【0027】
  前述のように、小さい粒子は表面積が大きく、電極コーティングプロセス中にスラリーを作製する際に、及びサイクル中にも、電解質との副反応を増加させることにより問題を生じ得ることが、二峰性PSDの欠点である。二峰性PSDを適用する生成物における表面積の増加を最小限に抑えるためには、小さな粒子は、平滑な表面及び低い開気孔率を有する必要がある。生成物の表面積は、カレンダー加工プロセス中に更に増加し得るため、小さな粒子も可能な限り硬質である必要がある。加えて、高密度を達成するためには、小さな粒子は、内部多孔を有するべきでない。これは、上記の要件を満たす化合物Bの「モノリシック」材料の使用につながる。「モノリシック」な形態とは、二次粒子が1種の一次粒子のみを含有する形態を指す。文献では、それらは、単結晶粒子材料、モノ結晶粒子材料、及び一体粒子材料とも称呼される。一次粒子に好ましい形状は、1に実質的に等しいアスペクト比を有する円礫(pebble  stone)形状と説明できよう。例えば、米国特許第9,184,443号に開示されているように、モノリシックな形態は、高い焼結温度、より長い焼結時間、及びより大過剰のリチウムの使用によって達成することができる。モノリシックな材料は、平滑な表面を有し、かつ内部の気孔が少ないため、表面積が小さく、粒子強度は高い。しかしながら、工業技術が十分に成熟していないため、モノリシックな正極材料を、大きい正極材料(化合物A)として使用できる状況にはなっていない。「大きい」モノリシックな正極材料を得るためには、はるかに高くかつより長い焼結温度が必要であることから、モノリシックな材料の製造プロセスをより最適化する必要がある。
 
【0028】
  本発明において、小さくモノリシックな粒子(化合物B)は、2μm≦D50≦4μmの粒子径分布を有し得る。平均粒子径が4μmを超えると、電池性能が悪化し、充填剤としての効果が失われる可能性がある。逆に、粒子径が小さ過ぎる(すなわち、2μm未満)と、現行水準のプロセスを使用しても、当該粉末を調製することは難しい。例えば、粒子が凝集することから、粉末を容易に篩分けすることができない。更に、凝集を理由として、大きな正極材料に均質に混合された生成物を得ることが難しい。製造プロセスに関しては、例えば米国特許出願公開第2017/0288223号に開示されているように、約3μmのD50を有するモノリシックな正極材料を、現在知られている工業プロセスによって製造することができる。効果的に、モノリシックな化合物Bを製造するのに有望な多くのプロセスが存在する。基本的に、前駆体の選択がプロセスの詳細を決定する。典型的なプロセスは、遷移金属前駆体(B1と称呼する)をリチウム源とブレンドし、続いて焼成した後に、慎重に設計されたミリング工程を伴う。B1は、混合金属水酸化物、混合金属オキシ水酸化物、混合金属酸化物、混合金属炭酸塩、又はこれらの一部の混合物であり得る。このプロセスでは、PSD及び化合物Bの形態は、殆ど焼成及びミリング条件によって決定され、混合遷移金属前駆体(B1)のPSDによってはあまり左右されない。特に、特別に成形された粒子であるB1粉末を供給する必要性は低い。
 
【0029】
  驚くべきことに、モノリシックな化合物Bが充填剤として使用される場合、狭いスパンを有する化合物A粒子の破壊は、モノリシックな充填剤の緩衝効果によってより良好に抑制することができる。化合物Aは、一般に、多結晶であるため脆性であり、かつNi含有量が高いほど、より脆性になる。しかしながら、化合物Aが87モル%(対総遷移金属含有量)のような高Ni含有量を有する場合であっても、化合物Bと混合された化合物A粒子の破壊の発生は、非常に限定される。構成要素の相乗効果から、苛酷なカレンダー加工後であっても、電極の損傷が少ないことが予想される。特に、20%〜60%のモノリシックな化合物Bが、狭いスパンの化合物Aと一緒に使用されるときに、電極密度は最も高い。したがって、本発明で提案される生成物は、高エネルギー密度の電極に適用するのに好適である。小さな粒子が脆性のものであり、かつ「犠牲にされる(sacrificed)」、すなわちプレス中に当該小さな粒子が破壊され、大粒子間の空間が充填されることで、緩衝効果によって大粒子の破壊が防止されるという最新の技術と、本発明のアプローチとは異なる。驚くべきことに、モノリシックな小粒子は、硬質であるにもかかわらず、大きい粒子の破壊も防止する。著者らは、この特性は、平滑な表面及び特別な円礫型形状に由来する、容易な再位置合わせ及び滑りに関係すると推測している。
 
【0030】
  狭いスパンを有する化合物Aとモノリシックな化合物Bとを含む正極活物質(化合物C)は、様々な方法で調製することができる。第1の簡単な方法は、正しい分画比(化合物Bは20〜60重量%)での化合物Aと化合物Bとの物理的ブレンドである。物理的ブレンドは、Lodigeブレンダーなどの任意の工業ブレンド装置によって行うことができる。表面コーティングを可能にするか、又は流動性を向上させることが可能であることから、物理的ブレンド中に、任意のナノスケール添加剤を一緒にブレンドすることができる。ブレンド後の追加の熱処理工程は可能である。第2の方法は、A1(MTH)、モノリシックな化合物B、及びリチウム源をブレンドし、その後、焼成及び後処理を行うものである。リチウム欠乏化合物A’(例えば、Li/M=0.80のモル比を有する)を、A1の代わりに使用することができる。リチウム源の量は、最終的なLi/M比及びA’の比に応じて調整することができる。添加されたリチウムは、焼成中にA1又はリチウム欠乏化合物Aと反応し、化合物Aが形成される。この焼成温度はモノリシックな化合物Bの焼成温度ほど高くないため、この焼成工程はモノリシックな化合物Bの特性に影響を与えない。
 
【0031】
  NMCとは対照的に、LCOは、粒子が大きくかつ単結晶タイプであっても良好に機能する。単結晶LCOは良好な性能を示し、多結晶化合物を利用する必要はない。市販のLCO材料は、通常、「ジャガイモ」形状の球状の形態を有し、二次粒子は、1つ又はごくわずかな結晶子からなる。
 
【0032】
  著者らは、モノリシックなNMC充填剤の適用が、化合物AとしてのLCO系正極材料にも大きな効果を有し得ることを発見した。特に、LCO粒子が大きく(典型的には、約20μm、より好ましくは約25μm、又は更には30μm)、PSD分布が狭いサイズ分布を有する場合、モノリシックなNMCを混合することにより、電極密度を更に増加させることができる。モノリシックNMCの質量分率が約15〜25%である場合、最高のプレス密度に達する。LCO系正極材料中のモノリシックなNMCの質量分率が15〜25%に達することは、高密度に加えて、いくつかの追加の利点をもたらす。第1に、NMCはLCOよりも高い容量を有することから、比容量が増加する。第2に、NMCは、金属の基本費用がより低く(特に、Co含有量がより低い)、これにより、費用を下げることができる。第3に、特別な実装形態では、NMCはLCOから過剰なリチウムを吸着することができることから、最終加熱工程の前にNMCを添加することが望ましい場合がある。
 
【0033】
  現行水準のLCOは、高電圧に充電される。4.35Vが標準であり、4.4Vは利用可能であり、4.45Vが今後有望である。著者らは、モノリシックなNMC充填剤が、高充電電圧でもLCO系正極材料との混合物において非常に良好に機能することを発見した。特に、良好なサイクル安定性が達成され、かつ高温にてかかる充電された電池を保管する際に、更なる膨張が観察されない。
 
【0034】
  結論として、本発明は、以下の態様を組み合わせる:
  1)LIBが高エネルギー密度を必要とすることから、異なる粒子径を有する2つ以上の正極材料を使用することによって、体積エネルギー密度を増加させることが可能である。異なる正極材料のサイズ及びそれらの重量比の選択が、本発明の特徴である。
  2)正極の構成要素の中で、最も大きい粒子径を有する材料により、正極材料全体の最大粒子径が決定される。正極材料の平均粒子径を増加させる傾向があるため、概ね、正極全体の体積密度は増加する。しかしながら、最大粒子径は、電極処理目的のために可能な限り小さい必要はない。
  3)正極の構成要素の中で、最も小さい粒子径を有する材料により、正極材料全体の表面積が決定される。正極材料の表面積は、望ましくない副反応を避けるために制限される必要がある。
  4)正極材料の粒子は、電極処理、すなわちカレンダー加工プロセス中のみならず、サイクル中にも割れることがある。粒子の割れは、更なる表面を作り出し、結果として望ましくないものである表面積の増加が起こる。したがって、正極材料は、可能な限り硬質である必要がある。
 
【0035】
  実電極における粉末の評価には、多くの作業、すなわち、スラリー作製、コーティング、乾燥などが必要である。したがって、これらの粉末は、通常は、業界で広く適用されているプレス粉末密度法などによって調査される。当該方法では、粉末をモールドに充填し、規定の力、例えば200MPaでプレスし、得られたペレットの厚さを測定し、既知の質量を使用して、粉末密度を計算することができる。概ね、プレスされた粉末密度と、上記方法で用いたものに相当する力を適用しながらカレンダー加工された電極の密度との間には良好な相関が存在する。次いで、このプレス密度方法を使用して、電極密度を予測することができる。
 
【0036】
  カレンダー加工プロセス後の粒子の破壊の程度及び表面積の増加を判定するために、PSD分析及び表面積分析(BET理論を使用)の両方を、特定の圧力の適用前及び適用後に行う。本発明におけるプレス密度測定は、200MPaの圧力を適用する。この圧力は、中程度の圧力であり、正極材料が通常の脆性を有する場合、粒子の一部を破壊するのに十分に高い。この圧力はまた、過剰な成形を回避するのに十分に低い。例えば、この圧力下で十分に成形されない粉末は、高密度を達成することができない。したがって、200MPaの圧力を適用することにより、高密度を容易に達成する正極材料粉末と、成形するのにより高い圧力を必要とする正極材料粉末とを区別することができる。後者の粉末は、「食い込み」による電極損傷を引き起こす粉末である。したがって、得られる密度は、電極を過度に損傷させることなく達成することができる電極密度の尺度である。
 
【0037】
  加えて、200MPaの圧力により、プレス中の粉末への損傷を定量することが可能である。粉末が非常に脆く、容易に成形されない場合、粒子は破壊される。カレンダー加工中の電極では、同様の破壊が生じる。アルミナ箔に対する損傷を回避する以外にも、破壊された粒子により表面積が増加して、結果として高速な副反応が生じさせることから、粉末の損傷を回避することは、良好なサイクル寿命を達成するのに重要である。更に、破壊された粒子は、不良な電気的接触を有する場合がある。最後に、破壊された粒子が小さい場合、それらはセパレータを通って電解質内に拡散し、アノードを損傷させる恐れがある。電極処理中の破壊は、粉末プレスの結果から推定することができる。粒子が破壊されると、より微細な粒子が生成される。したがって、PSDが変化し、かつ追加の新たな表面積が生成される。粉末プレス中の損傷は、(1)プレス前後のPSD曲線の分析、及び(2)プレス前後のBETの増加によって定量することができる。標準PSD曲線がより左に移動し(より小さい粒子が生成されることによって生じる)、かつBETがより増加すると、より多くの粉末損傷が発生した。PSDによる粒子の破壊を定量するための簡便なアプローチは、ID10の数値を使用することによる。この数値は、ID10=(PDM後のD10−PDM前のD10)/PDM前のD10(%で表される)として定義され、PDMは、以下に記載されるプレス密度測定値である。粒子が破壊され、より微細な粒子が生成される場合、ID10の値は負である。この数の絶対値が大きくなるほど、より微細な粒子が生成された。あるいはその反対に、粉末が破壊されることなく容易に成形される場合、緩衝効果が破壊を防ぎ、大規模な粒子損傷を生じることなく高密度が得られる。この場合、ID10の絶対値はゼロに近い。米国特許第8,685,289号は、粒子強度を評価するために同じ方法を記載している。
 
【0038】
  同様のアプローチは、BETの増加による損傷を、IB数により定量することによって可能である。この数値は、IB=(PDM後のBET−PDM前のBET)/PDM前のBET(単位%)と定義される。IBは通常、正であり、IBが小さくなるほど、粒子損傷の発生が少なくなる。
 
【0039】
  実施例では、以下の分析方法を使用する。
  A)プレス密度測定(PDM)
  プレス密度(PD)は、次のように測定される:3gの粉末を、直径「d」が1.3cmのペレットダイに充填する。200MPaの一軸圧力をペレットに30秒間加える。負荷を緩和した後、プレスしたペレットの厚さ「t」を測定する。次いで、プレス密度を、以下のように計算する。
 
【0041】
  プレス後、粉末を、「B)BET分析」及び「C)PSD測定」によって更に調べる。
 
【0042】
  B)BET分析
  A)PD測定前後の粉末の比表面積を、Micromeritics  Tristar  3000を使用して、Brunauer−Emmett−Teller(BET)法により分析する。吸着された化学種を除去するために、測定前に、粉末サンプルを窒素(N
2)ガス下で300℃において1時間加熱する。乾燥した粉末をサンプル管に入れる。次いで、サンプルを30℃で10分間脱気する。機器は、77Kで窒素吸着試験を行う。窒素等温吸/脱着曲線からm
2/gの単位でサンプルの総比表面積が得られる。
  200MPa下でのプレス前後のBET比表面積の変化を以下のように計算する:
 
【0044】
  PDM:200MPaの圧力下でのプレス密度測定
 
【0045】
  C)PSD測定
  A)PD測定前後に、粉末を水性媒体に分散させた後、Hydro  MV湿式分散アクセサリを装着させたMalvern  Mastersizer  3000を使用して、当該粒子の粒子径分布(PSD)を分析する。水性媒体中の粉末の分散を向上させるために、十分な超音波照射及び撹拌を施し、適切な界面活性剤を投入する。200MPa下でのプレス前後のD10の変化は、以下のように計算される:
 
【0047】
  D10の増加(又は減少)及びBETの増加の両方によるプレス密度への効果は、200MPaの圧力下での粉末の損傷を定量するのに良い基準として使用することができる。本発明の生成物について得られた「補正PD」は、「PD×(100+ID10)÷100」が3.2g/cm
3以上の値、「PD×(100−IB)÷100」が3.0g/cm
3以上の値を有する。
 
【0048】
  D)FE−SEM分析
  材料の形態は、走査型電子顕微鏡(SEM)法によって分析される。この測定は、25℃で9.6×10
−5Paの高真空環境下にて、JEOL  JSM  7100F走査型電子顕微鏡装置によって行われる。サンプルの画像は、材料のモノリシック構造を実証するために、いくつかの倍率(x1,000〜10,000)で記録される。モノリシック特性を定義するために、二次粒子中の一次粒子の数が、無作為に選択された10個の二次粒子のSEM画像(倍率5000倍)で測定される。SEM画像は、上面からの粉末の形態のみを示すことから、SEM画像の可視域内で一次粒子の計数が行われる。
 
【0049】
  E)電極密度分析
  正極を以下の手順により調製する:正極活物質、Super−P(Timcalから市販されているSuper−PTM  Li)、及び導電剤としてのグラファイト(Timcalから市販されているKS−6)、及びバインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(Kurehaから市販されているPVdF1710)を、分散媒としてのNMP(N−メチル−2−ピロリドン)に加える。正極材料、Super−P、グラファイト、及びバインダーの質量比は、95/3/1/2と設定されてもよい。その後、混合物を混練して正極の混合スラリーを調製し、20μm厚のアルミニウム箔である正極集電体の両面にスラリーをコーティングする。次いで、電極を乾燥させる。カレンダー加工前の電極の厚さは、約160μmである。カレンダー加工は、市販のロールプレッサー(Roh−tech製)によって行われる。ロールプレッサーは、25cmの直径を有する2つの金属ロールを有する。圧力を180Kgf(1765.2N)に設定し、2つのロール間のギャップを0に設定したロールプレッサーに、乾燥させた電極を通す。
  電極密度は、以下の等式によって計算することができる。
 
【0051】
  F)電極食い込みの定量
  ビーム源としてアルゴンガスを使用して、JEOL(IB−0920CP)であるイオンビーム断面ポリッシャ(CP)機器によって、分析方法E)で調製した電極の断面を処理する。正極をアルミニウム箔上に取り付ける。アルミニウム箔をサンプルホルダーに取り付け、機器内に配置する。電圧は、3.5時間の持続時間で6.5kVに設定する。正極の断面をFE−SEM分析により分析する。1000倍の倍率で各々4つの断面FE−SEM画像を得て、得られた画像中のAl箔の(断面)面積を、「ImageJ」と称呼されるソフトウェアによって分析する。アルミニウム箔の相対面積は、カレンダー加工後の電極食い込みの程度を定量するための基準として使用される。
 
【0052】
  H)コイン電池試験
  正極の作製に関しては、重量比90:5:5の配合で、電気化学的活性材料、コンダクタ(スーパーP、Timcal)、バインダー(KF#9305、Kureha)を溶媒(NMP、三菱)中に含有するスラリーを、高速ホモジェナイザーにより調製する。均質化したスラリーを、230μmのギャップを有するドクターブレードコータを使用してアルミニウム箔の片面上に塗り広げる。スラリーでコーティングした箔をオーブン内で120℃にて乾燥させて、次にカレンダー工具を使用してプレスする。次に、真空オーブン中で再び乾燥させて、電極フィルム内の残留溶媒を完全に取り除く。コイン電池は、アルゴンを充填させたグローブボックス中で組み立てられる。セパレータ(Celgard  2320)を、正極と、負極として使用するリチウム箔との間に配置する。EC/DMC(1:2)中の1M  LiPF
6を電解質として使用し、かつセパレータと電極との間に滴下する。次いで、コイン電池を完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
 
【0053】
  従来の「一定カットオフ電圧(constant  cut−off  voltage)」試験である本発明のコイン電池試験は、表1に示すスケジュールに従う。
 
【0055】
  各電池を、Toscat−3100コンピュータ制御ガルバノスタットサイクリングステーション(galvanostatic  cycling  station)(東洋製)を用いて、25℃でサイクルする。コイン電池試験手順は、160mA/gの1C電流定義を使用する。DQ1(mAh/g)は、第1のサイクルの放電容量である。コイン電池エネルギー密度は、以下の等式によって計算することができる。
  コイン電池エネルギー密度(mWh/cm
3)=エネルギー1(mWh/g)×PD(g/cm
3)
  ここで、エネルギー1は、第1のサイクルにおける容量−電圧プロットの積分面積であり、PDは、上記の「A)プレス密度測定(PDM)」で測定されたプレス粉末密度である。
 
【0057】
  I1)フルセル調製
  650mAh又は1600mAhのパウチ型セルを次のように作製する:正極材料、Super−P(Super−P,Timcal)、正極導電剤としてのグラファイト(KS−6,Timcal)、及び正極バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF  1710,Kureha)を、当該正極活物質粉末、正極導電剤(super  P及びグラファイト)、及び正極バインダーの質量比が92/3/1/4となるように、分散媒としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に加えた。その後、混合物を混練して正極混合スラリーを調製する。次いで、得られた正極混合スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布する。正極活物質の典型的な充填重量は、650mAhの電池では約11.5±0.2mg/cm
2であり、1600mAhの電池では14.0±0.2mg/cm
2である。次に電極を乾燥させて、120kgf(1176.8N)の圧力を使用してカレンダー加工する。また、正極の端部には、正極集電体タブとして働くアルミニウム板がアーク溶接されている。
 
【0058】
  市販の負極が用いられる。要するに、グラファイトとカルボキシ−メチル−セルロース−ナトリウム(CMC)とスチレンブタジエンゴム(SBR)との質量比96/2/2の混合物を、厚さ10μmの銅箔の両面に適用する。負極の端部には、負極集電体タブとして機能するニッケル板をアーク溶接する。負極活物質の典型的な充填重量は8±0.2mg/cm
2である。エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジエチルカーボネート(DEC)との体積比1:1:1の混合溶媒中に、1.0モル/Lの濃度にてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)塩を溶解させることにより、非水電解質を得る。
 
【0059】
  螺旋状に巻かれた電極アセンブリを得るために、正極、負極、及びそれらの間に差し込まれた、厚さ20μmの微多孔性ポリマーフィルム(Celgard(登録商標)2320,Celgard)から作製されたセパレータのシートを、巻線コアロッドで螺旋状に巻いた。アセンブリ及び電解質は、次に、乾燥室内で−50℃の露点にてアルミニウム積層パウチ内に入れられ、これにより、平坦なパウチ型のリチウム二次電池が作製される。
 
【0060】
  非水電解液を、室温で8時間含浸させる。電池はその期待容量の15%にて予備充電し、室温で1日充電する。次に電池を脱気させて、アルミニウムパウチを密閉する。使用する電池を、以下のように作製する:CCモード(定電流)にて0.2Cの電流を用いてターゲット電圧まで、次いでCVモード(定電圧)にてC/20のカットオフ電流に到達するまで、電池を充電した後で、CCモードにて0.5Cレートで放電してカットオフ電圧まで下げる。
 
【0061】
  I2)サイクル寿命試験
  下記条件下で25℃又は45℃にて、準備したフルセル電池を充電し、かつ数回放電して、その充放電サイクルの性能を測定する:
  CCモードにて1Cのレートでターゲット電圧まで、次にCVモードにてC/20に到達するまで、充電を実施する。
  次いで、電池を10分間休止するように設定する。
  CCモードにて1Cレートで、カットオフ電圧まで放電を行う。
  次いで、電池を10分間休止するように設定する。
  バッテリーの保持容量が約80%に達するまで充放電サイクルを続ける。
  100サイクルの全てにおいて、CCモードにて0.2Cレートで、カットオフ電圧までの放電を一度行う。
 
【0062】
  通常のサイクル数の終わりまでに80%の保持容量に達していない場合、80%の保持容量を得るまでの期待サイクル数は、線形傾向線によって計算される。
 
【0063】
  I3)フルセル膨張試験
  上記の調製方法によって調製された電池を、ターゲット電圧まで完全に充電し、90℃に加熱されたオーブン内に挿入し、そこで、4時間維持する。90℃では、充電された正極は電解質と反応してガスを生成し、これが電池のケーシングの膨張を生じさせる。厚さの増加((保管後の厚さ−保管前の厚さ)/保管前の厚さ)を、4時間後に測定し、「フルセル膨張」値として定義する。
 
【0064】
  本発明を以下の実施例において更に例示する。
  製造実施例1
  この実施例は、実施例において化合物Aとして使用され、非常に高いNi含有量、すなわち、総遷移金属含有量の80モル%以上のNi含有量を有する、大きい多結晶リチウム遷移金属酸化物を生成する製造プロセスを示す。EX−A−01、EX−A−02、及びCEX−A−01は、Li(Ni
0.87Mn
0.03Co
0.10)O
2と同じ組成を有し、以下の工程によって調製される。
  1)混合遷移金属水酸化物の沈殿:狭いスパンのPSDを有するMTH(EX−A−01及びEX−A−02のMTH)を、手動の戻し供給(back−feeding)を伴う連続撹拌タンク反応器(CSTR)沈殿法を使用して、調製する。CSTRの温度は60℃に固定する。2MのMSO
4溶液(M=Ni
0.87Mn
0.03Co
0.10)、10MのNaOH溶液、及び12MのNH
4OH溶液を、それぞれ2L/時、0.9L/時、及び0.4L/時の流量で連続的に10L反応器に滞留時間3時間で供給する。CSTRは、1000RPMのインペラで連続的に撹拌する。前駆体スラリーを、1時間毎にオーバーフローによって捕集する。捕集した前駆体スラリーを沈殿させ、2.8Lの明澄な液体部を廃棄する。残りの0.5Lの濃厚なスラリーを、1時間毎にCSTRに手動で戻し供給する。この手順の間に、CSTR内の前駆体のPSDを測定する。前駆体のD50粒子径が最初に15μm、その後20μmに達したら、毎回5Lの前駆体スラリーを捕集する。捕集した前駆体スラリーを濾過し、脱イオン水で洗浄し、次いで、N
2雰囲気下、150℃で20時間乾燥させて、EX−A−01及びEX−A−02のMTH(Ni
0.87Mn
0.03Co
0.10O
0.19(OH)
1.81)を得る。CEX−A−01のMTH(Ni
0.87Mn
0.03Co
0.10O
0.23(OH)
1.77)は、上記と同じ手順によって調製されるが、手動の戻し供給を行うことなく調製され、通常のスパンとなる。
  2)ブレンド:調製されたMTHを、ドライブレンド法により、目標Li/M’モル比1.00としてリチウム源としてのLiOHとブレンドする。
  3)焼成:300gの工程2)からの各混合物をアルミナトレイに載せ、750℃でO
2雰囲気下で12時間、チャンバ炉内で焼成して(直接焼結)、焼結生成物を得る。
  4)後処理:焼結生成物を、粉砕し、篩分けして、凝集体の形成を防止し、EX−A−01、EX−A−02、及びCEX−A−01とラベル表記する。
 
【0065】
  表2は、前駆体のPSD、並びに化合物AのPSD、PD、及びID10(プレス後のD10の増加)について記載している。
図1は、EX−A−01のFE−SEM画像を示す。
 
【0067】
  製造実施例2
  この実施例は、実施例において化合物Aとして使用され、高Ni、すなわち、遷移金属含有量の60〜80モル%のNi含有量を有する、大きい多結晶リチウム遷移金属酸化物を生成する製造プロセスを示す。EX−A−03のMTH(Ni
0.625Mn
0.175Co
0.20O
0.29(OH)
1.71)は、M=Ni
0.625Mn
0.175Co
0.200であるMSO
4溶液を使用し、ターゲットD50が11μmであることを除いて、製造実施例1に記載のプロセスで作製する。式Li
1.01(Ni
0.625Mn
0.175Co
0.200)
0.99O
2であるEX−A−03は、国際公開第2017−042654号に記載されているように、二重焼結プロセスによって得られる。そのプロセスは、2つの別個の焼結工程を含み、以下のように実施する:
  1)第1のブレンド:リチウム欠乏焼結前駆体を得るために、Li
2CO
3及びMTHを、0.85のLi/M比で、30分間、ヘンシェルミキサーで均一にブレンドする。
  2)第1の焼結:第1のブレンド工程からのブレンドを、チャンバ炉内で、890℃で12時間、酸素含有雰囲気において焼結する。第1の焼結後、第2のブレンド工程用に準備するために、当該焼結ケークを粉砕し、分級し、篩にかける。本工程から得られる生成物はリチウム欠乏焼結前駆体であり、すなわち、LiMO
2におけるLi/Mの化学量論比が1未満である。
  3)第2のブレンド:Liの化学量論量をLi/M=1.02に補正するため、リチウム欠乏焼結前駆体を、LiOH・H
2Oとブレンドする。ヘンシェルミキサーで30分間ブレンドする。
  4)第2の焼結:第2のブレンドからのブレンドを、チャンバ炉内で、840℃で10時間、酸素含有雰囲気において焼結する。
  5)後処理:第2の焼結生成物を、粉砕し、篩分けして、凝集体の形成を防止する。最終生成物は、高NiのNMC多結晶Li
1.01(Ni
0.625Mn
0.175Co
0.200)O
2であり、EX−A−03とラベル表記する。
 
【0068】
  CEX−A−02は、Umicoreによって製造された市販の製品「CellCore  HX12」である。典型的な工業CSTR沈殿及び上記の二重焼結プロセスによって調製されたMTH前駆体を用いて製造される。組成は、Li
1.01(Ni
0.60Mn
0.20Co
0.20)
0.99O
2である。EX−A−04は、エア分離プロセスにおいて、CEX−A−02から分離された大きい粒子の分画である。NPK  Corporationは、CEX−A−02のエア分離を進行させる。20%のより重い粒子が、エア分離によって捕集される。EX−A−04の組成は、Li
1.01(Ni
0.625Mn
0.175Co
0.200)
0.99O
2であり、これは、MTHの設計によりCEX−A−02とわずかに異なる。表3は、前駆体のPSD、並びに異なる化合物AのPSD、PD、ID10(プレス後のD10増加)、及びIB(プレス後のBET増加)について記載している。
 
【0070】
  EX−A−01〜04並びにCEX−A−01及び02のデータから、非常に負であるID10値及び非常に高いIB値を有することが明らかである。負のID10は、粒子の破壊により、プレス後に化合物のD10が減少することを意味する。生成された微粒子は表面積が大きくなっているため、プレス後の表面積は大きくなるはずである。表面積が大きくなることにより、サイクル中に過剰な副反応が起こり、これにより、正極材料としての使用が危うくなる。
 
【0071】
  製造実施例3
  この実施例は、実施例において化合物Bとして使用される、小さいリチウム遷移金属酸化物を生成するための製造プロセスを示す。目的とする式Li
1.01(Ni
0.625Mn
0.175Co
0.200)
0.99O
2を有し、モノリシックである高NiのNMC粉末(EX−B−01、EX−B−02、CEX−B−01、CEX−B−02)は、二重焼結プロセスによって得られる。当該プロセスは、リチウム源、通常、Li
2CO
3又はLiOHと、組成がNi
0.625Mn
0.175Co
0.200O
0.43(OH)
1.57である、韓国特許第101547972(B1)号に記載のプロセスによって調製されたMTHとの固相反応である。MTHは、約4μmのD50を有する。そのプロセスは、2つの別個の焼結工程を含み、以下のように実施する:
  1)第1のブレンド:リチウム欠乏焼結前駆体を得るために、LiOH・H
2O及びMTHを、0.90のLi/N’比で、30分間、ヘンシェルミキサーで均一にブレンドする。
  2)第1の焼結:第1のブレンド工程からのブレンドを、チャンバ炉内で、O
2雰囲気下、750℃で12時間焼結する。この工程から得られた生成物は、Li/N’=0.90を有する粉末状リチウム欠乏焼結前駆体である。
  3)第2のブレンド:Liの化学量論量を補正(Li/N’=1.02)するため、リチウム欠乏焼結前駆体を、LiOH・H
2Oとブレンドする。ヘンシェルミキサーで30分間ブレンドする。
  4)第2の焼結:第2のブレンドからのブレンドを、表4に記載の様々な温度で10時間、チャンバ炉内で、酸素含有雰囲気において焼結する。
  5)後処理:第2の焼結生成物を、ミリングプロセスにより激しく粉砕して、凝集体の形成を防止する。最終生成物は、式Li
1.01(Ni
0.625Mn
0.175Co
0.200)
0.99O
2を有する高NiのNMCモノリシック酸化物であり、EX−B−01、EX−B−02、CEX−B−01、及びCEX−B−02とラベル表記する。
 
【0072】
  CEX−B−03は、中間Ni含有量(60モル%未満)を有するUmicore製の市販の製品(CellCore  ZX3)であり、この組成は、Li
1.03(Ni
0.38Mn
0.29Co
0.33)
0.97O
2である。これは、典型的なCSTR沈殿プロセスによって生成されたMTHと、酸素含有雰囲気におけるLi
2CO
3とMTHとの間の標準的な直接固相反応とを用いて得られる。CEX−B−04は、非常に高いNi含有量を有するUmicore製の市販製品(CellCore  QX5)であり、この組成は、Li
1.01(Ni
0.80Co
0.15Al
0.05)
0.99O
2である。これは、典型的なCSTR沈殿プロセスによって生成されたMTHと、O
2雰囲気におけるLiOH・H
2OとMTHとの間の標準的な直接固相反応とを用いて得られる。表4は、様々な化合物Bの、形態、PSD、PD、ID10(プレス後のD10増加)、及びIB(プレス後のBET増加)について記載している。
図2は、EX−B−02のFE−SEM画像を示す。
 
【0074】
  この表は、第2の焼結工程の温度が上昇すると、最終生成物が粗くなり、実際に、CEX−B−02に使用した温度では、非常に粗いモノリシック生成物が生成される程に高いことを示す。多結晶生成物は、非常に負のID10及び非常に高いIB値を有する。
 
【0075】
  実施例1
  この実施例は、狭いスパンを有する大きいリチウム遷移金属酸化物とモノリシックな小さいリチウム遷移金属酸化物とを含む二峰性組成物の利点を示す。実施例1の全ての生成物(化合物C)は、製造実施例1及び3に記載されている化合物A及びBを使用する単純なブレンドプロセスによって得られる。表5a〜表5d中のBの分画に基づいて、化合物A及び化合物Bをバイアル瓶中で秤量し、バイアル瓶を管状ミキサーで振盪する。得られた化合物CサンプルをPD測定及びPSD測定により分析し、結果を表5a〜表5dに示す。表はまた、PD/100
*(100+ID10)(単位g/cm
3)の値を示し、プレス密度が粒子の脆性によりどのような影響を受けるのかを表す。
 
【0080】
  図3は、実施例1のサンプルの選択のPD(y軸)及びID10(x軸)を示す。図では、各混合物における、化合物Bのいくつかの異なる分画比の中で、最も高いPDを有するサンプルのみがプロットされる。実施例CEX1〜14でのCEX1(タイプ2)は、最も高いPDを有するが、広いスパンを有する大きい多結晶化合物Aの使用により、ID10値から導出されるその圧縮強度は、EX1の圧縮強度ほど良好ではなく、結果として「PD×(100+ID10)÷100」の値が低くなる。CEX1(タイプ3)サンプルは、概して、EX1サンプルと比較してPD強度及び圧縮強度が低い。表5b及び表5dのデータを表5cのデータと比較すると、化合物Bの小さい多結晶粒子を使用する影響が、「通常の」広いスパンの化合物Aを使用する場合よりも大きいことを示す。データから、以下のような制限を設定することによって、本発明による混合物と本発明の一部ではないものとを区別することが可能である:PD×(100+ID10)÷100>3.20g/cm
3、好ましくは≧3.30g/cm
3。
 
【0081】
  実施例2
  この実施例は、特定の粒子径を有し、モノリシックの小さいリチウム遷移金属酸化物を含む、二峰性混合物の利点を示す。実施例2の全ての生成物(化合物C)は、製造実施例1〜3の化合物A及びBを使用する単純なブレンドプロセスによって得られる。表6a〜表6e中のBの分画に基づいて、化合物A及び化合物Bをバイアル瓶中で秤量し、バイアル瓶を管状ミキサーで振盪する。得られた化合物CのサンプルをPD及びBET測定により分析し、結果を表6a〜表6eに示す。
 
【0087】
  図4は、化合物BのD50(x軸)の関数としてのPD(y軸)を示す。化合物A及び化合物Bのいくつかの異なる混合物の中で、最も高いPDを有するサンプルがプロットされる。EX2(タイプ1)サンプルは、D50が11μmの大きい多結晶化合物と、D50が2〜4μmの小さいモノリシック化合物Bとの混合物である。EX2(タイプ2)は、D50が20μmの大きい多結晶化合物と、小さいモノリシック化合物Bとの混合物である。より大きい多結晶化合物の使用により、EX2(タイプ2)サンプルのPDは高い。化合物BのD50が、CEX2(タイプ1)において4μmよりも高い場合、PDは減少する。したがって、化合物BのD50は、4μm未満であるべきである。CEX2(タイプ2)サンプルは、大きい多結晶化合物Aと、小さい多結晶化合物Bとの混合物である。CEX2(タイプ2)のPDは、化合物AのD50に明確に依存し、D50=11μm(EX−A−03)については、PDは、EX2(タイプ2)のPDほど高くない。D50=20μmを有する化合物A(EX−A−04)の効果は、あまり明らかではない。CEX2(タイプ2)のIBは、EX2(タイプ1及び2)のIBよりも高いことも明らかである。したがって、BETの増加の影響を考慮し、化合物Bの形態の影響を表す「PD×(100−IB)÷100」の値を計算して、BETの増加が最終生成物のサイクル安定性に悪影響を有することを考慮した。データから、本発明による混合物と本発明の一部ではないものとを、以下のような制限を設定することによって区別することが可能である:PD×(100−IB)÷100>3.00g/cm
3、好ましくは≧3.20g/cm
3。
 
【0088】
  図5は、化合物Bの分画比(単位重量%、x軸)の関数としてのプレス後のBETの増加(IB、単位%、y軸)を示す。CEX2−00については、化合物Bの量が少なすぎ、かつBETの増加が非常に重要である。CEX2(タイプ2)サンプルのBETは、化合物AのD50に依存し、化合物Bの比の関数としてプレス後に有意に増加し、化合物Bが多結晶化合物である場合に「緩衝」又は「バッファリング」効果を有さないことを示す。これは、EX2(タイプ1及び2)サンプルにはあてはまらない。
 
【0089】
  実施例3
  非混合CEX−A−02及びEX−A−03、並びに混合CEX2−07及びEX2−05のサンプルを使用して、電極密度を測定するため、並びに電極食い込みの程度を定量するための正極を調製する。電極は、それぞれ、CEX3−01、CEX3−02、CEX3−03、及びEX3とラベル表記する。相対電極食い込み(R.E.B)数(%)は、以下の等式によって得られる。
 
【0091】
  面積は、電極表面に対し垂直に切断されたAl箔断面の面積である。
 
【0092】
  表7及び
図6は、CEX3−01、CEX−02、CEX−03、及びEX3の電極密度(E.D.)及び相対電極食い込み(R.E.B)を示す。
 
【0094】
  R.E.B.が高くなっているのは、カレンダー加工後の電極におけるAl箔の面積がカレンダー加工前の面積よりも小さくなっていることを意味する。Al箔の切断面積は、Al箔がカレンダー加工プロセス中に圧縮応力を受けるときに、小さくなることが予想され得る。正極材料がEX2−05であるEX3は、最も低い相対電極食い込み及び最も高い電極密度を有する。
図7及び
図8は、Al箔が中心にある、CEX3−02及びEX3の断面FE−SEM画像を示す。EX3において、小さいモノリシック粒子による「緩衝」効果は、明確に視認可能である。
 
【0095】
  実施例4
  この実施例は、表面処理された化合物Cを使用するときの電気化学的特性という観点から、小さいモノリシック化合物を有する二峰性混合物の利点を更に示す。この表面処理された生成物は、以下の工程によって調製する。
  1)第1のブレンド:EX2−05を、0.2重量%のナノメートルアルミナ粉末と、30分間、ヘンシェルミキサーでブレンドする。
  2)第1の熱処理:第1のブレンド工程からのブレンドを、チャンバ炉内で、750℃で5時間、酸素含有雰囲気において加熱する。
  3)第2のブレンド:第1の表面処理された生成物を再度、0.2重量%のナノメートルアルミナ粉末及び0.3重量%のPVDF(ポリフッ化ビニリデン)粉末と、30分間、ヘンシェルミキサーでブレンドする。
  4)第2の熱処理:第2のブレンド工程からのブレンドを、チャンバ炉内で、375℃で5時間、酸素含有雰囲気において加熱する。
  5)後処理:表面処理された生成物を、篩分けして、凝集体の形成を防止し、EX4とラベル表記する。
 
【0096】
  Alの好ましい源は、ナノスケールのアルミナ粉末、例えばヒュームドアルミナである。アルミナは、沈殿、噴霧乾燥、ミリングなどによって得ることができる。一実施形態では、アルミナは、典型的には、少なくとも50m
2/gのBETを有し、D50が100nm未満である一次粒子からなり、この一次粒子は凝集しない。別の実施形態では、ヒュームドアルミナ又は表面処理されたヒュームドアルミナを使用する。ヒュームドアルミナナノ粒子は、高温の水素空気炎で作製され、日常使用の製品に関するいくつかの用途で使用される。
 
【0097】
  ポリマーPVDF粉末の典型的な例は、PVDFホモポリマー又はPVDFコポリマー(HYLAR(登録商標)又はSOLEF(登録商標)PVDFなど、共にSolvay  SA,Belgium製)である。別の既知の、PVDFベースのコポリマーは例えば、PVDF−HFP(ヘキサフルオロプロピレン)である。この例で使用される特定のPVDFグレードは、Arkema製のKynar  Flex  2801−00であり、PVDFコポリマー樹脂である。
 
【0098】
  第1の熱処理における焼結温度の選択により、リチウム金属酸化物コアに元素Alをドープする。第2の熱処理では焼結温度がより低いことから、アルミナの結晶構造は、コーティングプロセス中に維持され、リチウム金属酸化物コアを取り囲むコーティング層中に見られる。また、第2の焼結工程において、Li非含有のフッ素含有ポリマーは、コア材料と接触すると分解し始める。ポリマーが完全に分解すると、フッ化リチウムが形成され、これは粒子の表面層で見られる。LiFは、分解性ポリマーと、(国際公開第2012/107313号に説明されるように、LiOH及びLi
2CO
3から構成される)リチウム遷移金属酸化物の表面塩基を含有するリチウムとの反応に由来する。通常のフッ化物含有ポリマーは、加熱するとすぐに溶融するが、遷移金属酸化物の表面上のLi(可溶性)塩基との接触が、ポリマーの分解につながる化学反応を開始することが立証され得る。
 
【0099】
  CEX4−01及びCEX4−02は、それぞれEX−A−03及びCEX−A−02(すなわち、化合物Aのみ)が、EX2−05の代わりに第1のブレンドに使用されることを除いて、EX4と同じ手順によって調製される。表8は、表面処理前のコア材料、及び4.35Vでのフルセル膨張試験結果を示す。
 
【0101】
  表8のフルセル膨張は、狭いスパンを有する多結晶NMCとモノリシック充填剤との混合物がコートされたEX4では、CEX4−01及びCEX4−02よりも膨張試験中の厚みの増加が少ないことを示す。
図9は、650mAhのパウチ型電池、4.35V−3.00V(NMC化合物では比較的高い電圧範囲である)での、EX4、CEX4−01、及びCEX4−02のフルセルのサイクル寿命を示す。EX4は、CEX4−01及びCEX4−02よりも優れたサイクル安定性を有する。
 
【0102】
  製造実施例4
  この実施例は、実施例において化合物Aとして使用される、大きく、球状のモノリシックなLCOを生成するための製造プロセスを示す。EX−A−05は、Li(Co
0.979Al
0.015Mg
0.005Ti
0.001)O
2の組成を有し、以下の工程によって調製される。
  1)ドープされた炭酸コバルト(doped  cobalt  carbonate)の沈殿:狭いスパンのドープされた炭酸コバルトは、単一バッチ撹拌槽反応器(STR)沈殿法を使用して調製される。STRの温度は55℃に設定される。塩化コバルト、1.5モル%の硫酸アルミニウム、0.5モル%の硫酸マグネシウム、及び重硫酸アンモニウムを反応器内に同時にポンプ圧送して、STRにこれらの溶液混合物を充填する。前駆体のD50粒子径が約35μmに達したら、前駆体スラリーを捕集する。捕集された前駆体スラリーを濾過し、脱イオン水で洗浄し、次いで、乾燥させて、ドープされた炭酸コバルト((Co0.980Al0.015Mg0.005)CO3)を得る。
  2)ドープされた炭酸コバルトの焙焼:ドープされた炭酸コバルトを、600℃で8時間、ローラーハースキルン(RHK)内で焙焼して、ドープされた酸化コバルトを調製する。
  3)第1のブレンド:調製された、ドープされた酸化コバルトを、ドライブレンド法により、目標Li/(Co+Al)モル比1.03としてリチウム源のLi
2CO
3とブレンドする。
  4)第1の焼成及び後処理:工程3)からの混合物をムライトトレイに載せ、1020℃で乾燥空気雰囲気下で12時間、RHK内で焼成する。得られた第1の焼結ケークを粉砕して、リチウム過剰の中間生成物を得る。
  5)第2のブレンド:Liの化学量論量をLi/(Co+Al)=1.00に補正するため、リチウム過剰の中間生成物を、0.1モル%のTiO
2及びドープされた酸化コバルトとブレンドする。30分間ヘンシェルミキサーでブレンドする。
  4)第2の焼結:第2のブレンドからのブレンドを、チャンバ炉内で、980℃で12時間、酸素含有雰囲気において焼結する。
  5)後処理:第2の焼結生成物を、粉砕し、篩分けして、凝集体の形成を防止する。最終生成物は、モノリシックなLCOのLi(Co
0.979Al
0.015Mg
0.005Ti
0.001)O
2であり、EX−A−05とラベル表記する。
 
【0103】
  表9は、前駆体のPSD、並びにEX−A−05のPSD、PD、ID10(プレス後のD10増加)、コイン電池放電容量を示す。
 
【0105】
  実施例5
  この実施例は、狭いスパンを有する大きいモノリシックなLCOとモノリシックで小さいリチウム遷移金属酸化物とを含む二峰性組成物の利点を示す。実施例5の全ての生成物(化合物C)は、製造実施例4及び3に記載されている化合物A及びBを使用する単純なブレンドプロセスによって得られる。表10中のBの分画に基づいて、化合物A及び化合物Bをバイアル瓶中で秤量し、バイアル瓶を管状ミキサーで振盪する。得られた化合物CのサンプルをPD、PSD、コイン電池、及びフルセル測定により分析し、結果を表10に示す。1600mAhパウチ電池をフルセル試験に使用し、カットオフ電圧の上限/下限は4.45V/3.00Vとする。CEX5−03は、Umicore製のCellCore  XD20であり、これは、市販の現行のドープされた二峰性のLCO製品であり、国際公開第2012/171780号の実施例1に従って調製される。
 
【0107】
  大きく、モノリシックな、ドープされたLCO化合物AであるEX−A−05は、モノリシックなLCO化合物に固有の特性により、NMC化合物よりも相対的に高いプレス密度及びより低いDQ1を有する。プレス密度は、20%の最適分画を有する小さくモノリシックなNMC化合物を混合することによって更に改善することができる。モノリシックNMCの容量がより大きいことにより、EX5は、EX−A−05よりも容量が大きい。より高いPD及びより高いDQ1により、EX5のより高い体積エネルギー密度がもたらされる。
 
【0108】
  4.45Vなどの高電圧での電池のふくれは、高電圧用途における最も大きな問題の1つである。例えば、CEX5−03によって製造されたフルセルのパウチ(pounch)電池の厚さは、膨張試験後に300%増加する。EX5によって製造されたフルセルのパウチ電池の厚みの増加は、CEX5−03よりもはるかに小さい。フルセルでの試験を実施した。
図10には、フルセルのサイクル数の関数として相対容量を示す。EX5が、CEX5−03よりも優れたサイクル安定性を有することは明らかである。
 
 
【国際調査報告】