【解決手段】本発明の方法は、尿を含む使用済み吸収性物品から尿由来の栄養塩を回収する方法であって、使用済み吸収性物品をカルシウム化合物含有水溶液に浸漬して高吸水性ポリマーを不活化する不活化工程、不活化工程を経た後の使用済み吸収性物品とカルシウム化合物含有水溶液の混合物を、吸収性物品の構成素材を含む固体とカルシウム化合物および栄養塩を含む液体とに分離する分離工程、およびカルシウム化合物および栄養塩を含む液体から栄養塩を回収する栄養塩回収工程を含む。
尿を含む使用済み吸収性物品から尿由来の栄養塩を回収する方法であって、使用済み吸収性物品をカルシウム化合物含有水溶液に浸漬して高吸水性ポリマーを不活化する不活化工程、不活化工程を経た後の使用済み吸収性物品とカルシウム化合物含有水溶液の混合物を、吸収性物品の構成素材を含む固体とカルシウム化合物および栄養塩を含む液体とに分離する分離工程、およびカルシウム化合物および栄養塩を含む液体から栄養塩を回収する栄養塩回収工程を含む方法。
分離工程において得られたカルシウム化合物および栄養塩を含む液体を、不活化工程におけるカルシウム化合物含有水溶液として繰り返し使用することにより、カルシウム化合物および栄養塩を含む液体に含まれる尿由来の栄養塩を濃縮する、請求項1に記載の方法。
カルシウム化合物含有水溶液のカルシウム化合物濃度を高吸水性ポリマーの不活化に必要なカルシウム化合物濃度以上に維持するために、繰り返し使用するカルシウム化合物および栄養塩を含む液体にカルシウム化合物を添加する、請求項2に記載の方法。
栄養塩回収工程において、カルシウム化合物および栄養塩を含む液体中のリンをヒドロキシアパタイトとして晶析することによりリンを含む栄養塩を回収する、または排液中のリンおよび/または窒素をリン酸マグネシウムアンモニウムとして晶析することによりリンおよび/または窒素を含む栄養塩を回収する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
分離工程で得られた吸収性物品の構成素材を含む固体から高吸水性ポリマーを分離し再利用可能に回収する高吸水性ポリマー回収工程を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
分離工程で得られた吸収性物品の構成素材を含む固体から、プラスチックをさらに分離し固形燃料化するプラスチック回収工程をさらに含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、尿を含む使用済み吸収性物品から尿由来の栄養塩を回収する方法に関する。
本発明において、吸収性物品とは、紙おむつ、尿取りパッドなど、尿を吸収するために用いることができる吸収性物品をいう。吸収性物品は、一般に、パルプと高吸水性ポリマーからなる吸収体を透液性シートで包んだ吸収パッドを含む。吸収性物品の構造は、特に限定されないが、尿取りパッドはたとえば前記吸収体を透液性シートと不透液性シートで挟んだものであり、紙おむつはたとえば前記吸収体を透液性シートとパンツタイプまたはオープンタイプの外装シートとで挟んだものである。
本発明において、処理対象物は、尿を含む使用済み吸収性物品である。
本発明において、栄養塩とは、肥料として利用可能な窒素、リンまたはカリウムを含む塩をいい、より具体的には、アンモニウム塩、リン酸塩等が挙げられる。
【0010】
本発明の方法は、少なくとも次の3つの工程を含む。
(1)使用済み吸収性物品をカルシウム化合物含有水溶液に浸漬して高吸水性ポリマーを不活化する不活化工程(以下、単に「不活化工程」ともいう。)
(2)不活化工程を経た後の使用済み吸収性物品とカルシウム化合物含有水溶液の混合物を、吸収性物品の構成素材を含む固体とカルシウム化合物および栄養塩を含む液体とに分離する分離工程(以下、単に「分離工程」ともいう。)
(3)カルシウム化合物および栄養塩を含む液体から栄養塩を回収する栄養塩回収工程(以下、単に「栄養塩回収工程」ともいう。)
【0011】
不活化工程は、使用済み吸収性物品をカルシウム化合物含有水溶液に浸漬して高吸水性ポリマーを不活化する工程である。
この工程では、使用済み吸収性物品中の尿を吸って膨潤した高吸水性ポリマーを、カルシウムイオンによって脱水し、高吸水性ポリマーから尿を放出させる。
高吸水性ポリマー(以下、「SAP」ともいう。)は、親水性基(たとえば−COO
−)を有する網目状のポリマー鎖であり、そのポリマー鎖の間隔が広がることにより水分子をその網目内に捕え、親水性基により水分子を安定化する。このことにより大量の水を吸収することができるものであるが、水を吸収した高吸水性ポリマーをカルシウム化合物含有水溶液で処理すると、親水性基(たとえば−COO
−)にカルシウムイオンが結合し(たとえば−COO−Ca−OCO−)、ポリマー鎖を架橋しその間隔を狭める。それにより水分子が放出され、高吸水性ポリマーが脱水されると考えられている。
【0012】
不活化工程において使用するカルシウム化合物含有水溶液は、水にカルシウム化合物を溶解してなる溶液であるが、本発明の効果を阻害しない限り、カルシウム化合物以外の化合物が溶解していてもよい。
カルシウム化合物は、水に溶けてカルシウムイオンを電離するものであれば、特に限定されず、塩化カルシウム、酸化カルシウム(生石灰)、水酸化カルシウム(消石灰)等を例示することができる。なかでも、塩化カルシウム、酸化カルシウムが好ましく、最も好ましくは塩化カルシウムである。
【0013】
カルシウム化合物含有水溶液のカルシウム化合物濃度は、高吸水性ポリマーを脱水することができる濃度である限りにおいて、限定されないが、好ましくは5ミリモル/リットル以上、より好ましくは6ミリモル/リットル以上、さらに好ましくは7ミリモル/リットル以上であり、濃度の上限は、飽和溶液濃度である。塩化カルシウムの場合は、好ましくは5〜1000モル/リットル、より好ましくは6〜300ミリモル/リットル、さらに好ましくは7〜150ミリモル/リットルである。酸化カルシウムの場合は、好ましくは5〜20モル/リットル、より好ましくは6〜15ミリモル/リットル、さらに好ましくは7〜10ミリモル/リットルである。濃度が低すぎると、高吸水性ポリマーの脱水が不十分となり、栄養塩の回収率が低下する。逆に濃度が高すぎると、脱水後の高吸水性ポリマーおよびパルプ等に付着して系外に持ち出される未反応カルシウムの量が多くなり、カルシウム化合物含有水溶液の利用効率が低下する。
【0014】
カルシウム化合物含有水溶液の量は、使用済み吸収性物品を充分に浸漬することができる量であれば、特に限定されないが、使用済み吸収性物品1kgに対し、好ましくは3〜50リットル、より好ましくは3〜10リットルである。水溶液の量が少なすぎると、使用済み吸収性物品を水溶液中で効果的に攪拌することができない。水溶液の量が多すぎると、カルシウム化合物の浪費につながり、処理費用を増加させる。
不活化工程において、攪拌は必須ではないが、攪拌することが好ましい。
【0015】
カルシウム化合物含有水溶液の温度は、カルシウムイオンが高吸水性ポリマーに取り込まれる温度であれば特に限定されないが、通常、0℃より高く、100℃より低い温度である。室温でも充分であるが、反応速度を速めるために加熱してもよい。加熱する場合は、室温〜60℃が好ましく、室温〜40℃がより好ましく、室温〜30℃がさらに好ましい。
【0016】
不活化工程の時間すなわちカルシウム化合物含有水溶液に浸漬する処理時間は、カルシウムイオンが高吸水性ポリマーに取り込まれるのに十分な時間であれば特に限定されない。処理時間は、好ましくは10分以上、より好ましくは20分〜2時間、さらに好ましくは40分〜90分である。処理時間が短すぎると、高吸水性ポリマーの脱水が不充分となり、栄養塩の回収率が低下する。処理時間がある値を超えると、高吸水性ポリマーに取り込まれるカルシウムイオンの量は飽和するので、その値を超える処理時間は無意味である。
【0017】
分離工程は、不活化工程を経た後の使用済み吸収性物品とカルシウム化合物含有水溶液の混合物を、吸収性物品の構成素材を含む固体とカルシウム化合物および栄養塩を含む液体とに分離する工程である。吸収性物品は、通常、パルプ、高吸水性ポリマー、不織布、プラスチック等の各材料から構成されている。すなわち、吸収性物品の構成素材とは、パルプ、高吸水性ポリマー、不織布、プラスチック等の各材料をいう。吸収性物品の構成素材を含む固体とカルシウム化合物および栄養塩を含む液体とに分離する時点において、吸収性物品の構成素材は各材料に分解されていてもよいし、分解されていなくてもよい。すなわち、吸収性物品の構成素材は、吸収性物品の構成素材を含む固体とカルシウム化合物および栄養塩を含む液体とに分離する時点において、吸収性物品の形態を保持したままの状態であってもよい。
【0018】
吸収性物品の構成素材を含む固体とカルシウム化合物および栄養塩を含む液体とに分離する方法は、限定するものではないが、たとえば、適度な網目を有するスクリーンを通して分離する方法、サイクロン式遠心分離機で分離する方法を例示することができる。
【0019】
栄養塩回収工程は、カルシウム化合物および栄養塩を含む液体から栄養塩を回収する工程である。
栄養塩を回収する方法は、限定するものではないが、カルシウム化合物および栄養塩を含む液体中のリンをヒドロキシアパタイトとして晶析することによりリンを含む栄養塩を回収する方法(以下、「HAP法」ともいう。)、排液中のリンおよび/または窒素をリン酸マグネシウムアンモニウムとして晶析することによりリンおよび/または窒素を含む栄養塩を回収する方法(以下、「MAP法」ともいう。)を例示することができる。
【0020】
HAP法は、液中のPO
43−とCa
2+およびOH
−の反応によって生成するヒドロキシアパタイト(Ca
10(OH)
2(PO
4)
6)の晶析現象を利用した方法である。反応式は次式のとおりである。
10Ca
2++2OH
-+6PO
43- → Ca
10(OH)
2(PO
4)
6 (1)
HAP法は、リンを含む水溶液にCa
2+およびOH
−を添加し、過飽和状態(準安定域)で種晶と接触させることで、種晶表面にヒドロキシアパタイトを晶析させ液中のリンを回収するものである。種晶には、リン鉱石、骨炭、珪酸カルシウム水和物などを用いることができる。
HAP法ではリンを含む水溶液にCa
2+およびOH
−を添加するが、本発明の方法においては、被処理液にCa
2+がすでに含まれているので、必ずしも新たにCa
2+を添加する必要はなく、好都合である。
この方法においてCa
2+濃度は5ミリモル/リットル以上、pHは8以上、より好ましくはCa
2+濃度は10ミリモル/リットル以上、pHは9以上が必要である。
【0021】
MAP法は、液中のPO
43−とNH
4+、Mg
2+の反応によって生成するリン酸マグネシウムアンモニウム(MgNH
4PO
4・6H
2O)の晶析現象を利用した方法である。反応式は次式のとおりである。
Mg
2++NH
4++PO
43-+6H
2O → MgNH
4PO
4・6H
2O (2)
この方法において、Mg
2+濃度は30〜60ミリモル/リットルが好ましく、pHは6.8〜7.7が好ましい。
【0022】
本発明の方法において、分離工程において得られたカルシウム化合物および栄養塩を含む液体を、不活化工程におけるカルシウム化合物含有水溶液として繰り返し使用することが好ましい。繰り返し使用することにより、カルシウム化合物および栄養塩を含む液体に含まれる尿由来の栄養塩を濃縮することができる。栄養塩を濃縮することにより、栄養塩回収効率が向上する。
ここで、繰り返し使用とは、少なくとも1回、分離工程において得られたカルシウム化合物および栄養塩を含む液体を、不活化工程におけるカルシウム化合物含有水溶液として使用することをいい、好ましくは複数回、繰り返し使用する。繰り返し使用する回数は、特に限定されないが、カルシウム化合物および栄養塩を含む液体に含まれる尿由来の栄養塩の濃度が、次工程の栄養塩回収工程での栄養塩の回収を可能または容易にする程度の濃度になるまで、繰り返し使用することが好ましい。繰り返し使用する回数は、濃縮という観点では回数が多い方がよい。
カルシウム化合物含有水溶液中のカルシウム量は繰り返し使用する回数にかかわらず不活化するSAP1gあたり4ミリモル以上含んでいる必要があり、その濃度は常に4ミリモル/リットル以上が好ましい。
【0023】
分離工程において得られたカルシウム化合物および栄養塩を含む液体を、不活化工程におけるカルシウム化合物含有水溶液として繰り返し使用すると、カルシウムイオンが高吸水性ポリマーに取り込まれて、カルシウム化合物含有水溶液中のカルシウム化合物が消費されるので、カルシウム化合物含有水溶液のカルシウム化合物濃度が漸次低下する。そこで、カルシウム化合物含有水溶液のカルシウム化合物濃度を不活化に必要なカルシウム化合物濃度以上に維持するために、繰り返し使用するカルシウム化合物および栄養塩を含む液体にカルシウム化合物を添加することが好ましい。
ここで、不活化に必要なカルシウム化合物濃度とは、高吸水性ポリマーを不活化することができる濃度である限りにおいて、限定されないが、好ましくは5ミリモル/リットル以上、より好ましくは6ミリモル/リットル以上、さらに好ましくは7ミリモル/リットル以上である。
カルシウム化合物を添加する方法は、限定されないが、たとえば、固体のカルシウム化合物をそのままカルシウム化合物および栄養塩を含む液体に投入して溶解させてもよいし、カルシウム化合物の濃縮水溶液をカルシウム化合物および栄養塩を含む液体に混合してもよい。
【0024】
カルシウム化合物および栄養塩を含む液体の繰り返し使用は、以上の説明では、回分式で行われる態様を前提としているが、回分式での繰り返し使用に代えて、連続式で行なってもよい。連続式で行なう場合は、分離工程において得られたカルシウム化合物および栄養塩を含む液体の一部を、カルシウム化合物含有水溶液として不活化工程に循環するとともに、高吸水性ポリマーの不活化で消費されたカルシウム化合物を補充するのに必要な量のカルシウム化合物含有水溶液を新たに不活化工程に供給すればよい。不活化工程におけるカルシウム化合物含有水溶液のカルシウム化合物濃度は、分離工程において得られたカルシウム化合物および栄養塩を含む液体の不活化工程への循環割合(不活化工程に循環する量と栄養塩回収工程に移す量の比率)および新たに不活化工程に供給するカルシウム化合物含有水溶液のカルシウム化合物濃度を変えることにより、制御することができる。
【0025】
本発明の方法は、さらに、使用済み吸収性物品に物理的な力を作用させることによって使用済み吸収性物品をその構成素材に分解する分解工程(以下、単に「分解工程」ともいう。)を含んでもよい。
吸収性物品は、通常、パルプ繊維、高吸水性ポリマー、不織布、プラスチック等の各材料から構成されている。この分解工程では、使用済み吸収性物品を上記各材料に分解する。分解の程度は、必ずしも完全でなくてもよく、部分的であってもよい。
ここで、使用済み吸収性物品に物理的な力を作用させる方法としては、限定するものではないが、攪拌、叩き、突き、振動、引き裂き、切断、破砕等を例示することができる。なかでも、水中での攪拌が好ましい。攪拌は、洗濯機のような攪拌機付きの容器内で行なうことができる。攪拌の条件も、吸収性物品が分解される限り、特に限定されないが、たとえば、攪拌時間は、好ましくは5〜60分であり、より好ましくは10〜50分であり、さらに好ましくは20〜40分である。
【0026】
分解工程は、不活化工程の前に行なってもよいし、不活化工程の後に行なってもよいし、不活化工程と同時に行なってもよい。たとえば、使用済み吸収性物品を引き裂いて吸収体とその他の材料に分解し、分解した吸収体または分解した吸収体とその他の材料を水溶性カルシウム化合物の水溶液で処理してもよい。ただし、不活化工程の前に分解工程を行なう場合は、その分解工程は水を使用しないで行なう。分解工程において水を用いる場合は、不活化工程の後に分解工程を行なう。
また、分解工程は、不活化工程と別個に行なってもよいし、不活化工程と分解工程を1つの工程として行なってもよい。すなわち、不活化工程と分解工程を別々に行なう代わりに、不活化と分解を同時に行なう1つの不活化・分解工程を設けてもよい。たとえば、洗濯機に、使用済み吸収性物品、カルシウム化合物および水を投入し、使用済み吸収性物品が分解する程度に攪拌することにより、高吸水性ポリマーの不活化と使用済み吸収性物品の分解を同時に行なうことができる。
【0027】
本発明の方法は、さらに、分離工程で得られた吸収性物品の構成素材を含む固体からパルプを分離し再利用可能に回収するパルプ回収工程(以下、単に「パルプ回収工程」ともいう。)を含むことができる。
パルプ回収工程では、分離工程で得られた吸収性物品の構成素材を含む固体の中に含まれるパルプを分離する。パルプを分離する方法は、限定するものではないが、たとえば、分解された構成素材(パルプと高吸水性ポリマーとプラスチックなど)の比重差を利用して水中で沈殿分離する方法、分解されたサイズの異なる構成素材を所定の網目を有するスクリーンを通して分離する方法、サイクロン式遠心分離機で分離する方法を例示することができる。
【0028】
分離されたパルプは、用途によっては、そのままでも再利用可能な場合もあるが、紙おむつ等の吸収性物品に再利用する場合は、必要に応じて、消毒やクエン酸処理を行なう。
【0029】
消毒は、消毒液で消毒対象物を処理することにより行なうことができる。たとえば、容器に、消毒対象物および消毒液を投入し攪拌することにより行なうことができる。消毒液は、限定するものではないが、次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素等の消毒薬を溶かした水溶液や、オゾン水、電解水(酸性電解水)等を例示することができ、なかでも経済性・汎用性の観点から次亜塩素酸ナトリウム水溶液が好ましい。
消毒は、パルプ回収工程において行なうことができるが、他の工程と同時に行なってもよい。たとえば、不活化工程において使用するカルシウム化合物含有水溶液の中に消毒薬を加えることによって、不活化と消毒を同時に行なってもよい。また、分解工程において分解と消毒を同時に行なってもよい。また、不活化工程において不活化と分解と消毒を同時に行なってもよい。消毒を他の工程と同時に行なった場合は、パルプ回収工程における消毒を省略することができる。
【0030】
パルプ回収工程においては、分離されたパルプを、pHが酸性の状態で、クエン酸水溶液で処理することが好ましい。クエン酸水溶液で処理することにより、パルプに残留するカルシウム化合物を除去することができる。不活化工程においてカルシウム化合物で処理したことにより、分離されたパルプの表面にはカルシウムイオンや種々のカルシウム化合物が付着している。パルプに付着しているカルシウム化合物は必ずしも水溶性のものとは限らず不溶性や難溶性のものも含まれており、水洗だけでは除去できない。クエン酸はカルシウムとキレートを形成し、水溶性のクエン酸カルシウムとなるので、パルプの表面に付着している不溶性または難溶性のカルシウム化合物を効果的に溶解除去することができる。クエン酸はカルシウム以外の金属ともキレートを形成することができるので、パルプの表面にカルシウム化合物以外の不溶性または難溶性の金属化合物が付着している場合には、カルシウム化合物のみならず、カルシウム化合物以外の不溶性または難溶性の金属化合物をも溶解除去することができる。その結果、得られるリサイクルパルプの灰分を低減することができ、パルプを再利用可能に回収することができる。
クエン酸処理において使用するクエン酸水溶液の濃度は、所定のpHに調整ができ、灰分を充分に低減することができる濃度であれば、特に限定されないが、好ましくは5〜250モル/m
3である。
クエン酸処理は、pHが酸性の状態で行なう。すなわち、pHが7未満の状態で酸処理を行なう。クエン酸処理におけるpHは、好ましくは2〜6であり、より好ましくは2〜4.5であり、さらに好ましくは2〜3.5であり、もっとも好ましくは2〜3である。pHが低すぎると、パルプの吸水倍率が低下する虞がある。灰分にのみ着目した場合は、pHが低くても、得られるリサイクルパルプを問題なく衛生用品として再利用することができるが、吸水倍率をも考慮すると、pHは2以上であることが好ましい。pHが高すぎると、パルプの灰分が増加し、吸水倍率が低下する傾向がある。
クエン酸処理は、吸収性物品の構成素材を含む固体からパルプを分離した後に行なう。不活化した高吸水性ポリマーが分離されていない段階でクエン酸処理を行なうと、高吸水性ポリマーの再吸水が起こり、処理効率が低下する。
【0031】
クエン酸処理されたパルプは、水洗工程において、水洗することが好ましい。
水洗したパルプは、必要に応じて、脱水してもよい。
分離されたパルプ繊維は、必要に応じて、乾燥される。
回収されたパルプは、好ましくは、シート状、ロール状、または塊状など、衛生用品の製造設備に適応し易い形態に加工され、再利用される。
【0032】
本発明の方法は、さらに、分離工程で得られた吸収性物品の構成素材を含む固体から高吸水性ポリマーを分離し再利用可能に回収する高吸水性ポリマー回収工程(以下、単に「高吸水性ポリマー回収工程」ともいう。)を含むことができる。
高吸水性ポリマー回収工程では、分離工程で得られた吸収性物品の構成素材を含む固体の中に含まれる高吸水性ポリマーを分離する。高吸水性ポリマーを分離する方法は、限定するものではないが、たとえば、分解された構成素材(パルプと高吸水性ポリマーとプラスチックなど)の比重差を利用して水中で沈殿分離する方法、分解されたサイズの異なる構成素材を所定の網目を有するスクリーンを通して分離する方法、サイクロン式遠心分離機で分離する方法を例示することができる。
【0033】
分離された高吸水性ポリマーは不活化されているので、そのままでは再利用できない。高吸水性ポリマーの水分吸収能力を回復させる必要がある。不活化した高吸水性ポリマーの水分吸収能力を回復させる方法としては、限定するものではないが、不活化した高吸水性ポリマーを酸で処理することにより高吸水性ポリマーに結合していたカルシウムイオンを高吸水性ポリマーから離脱させ、次いで酸処理後の高吸水性ポリマーをアルカリで処理する方法、不活化した高吸水性ポリマーをアルカリ金属塩水溶液で処理する方法を例示することができる。なかでも、アルカリ金属塩水溶液で処理する方法が、酸やアルカリを使用しないので、好ましい。
【0034】
分離された高吸水性ポリマーをアルカリ金属塩水溶液で処理する方法に使用されるアルカリ金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムの水溶性の塩が使用できる。好ましいアルカリ金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等が挙げられ、なかでも塩化ナトリウムおよび塩化カリウムが好ましい。アルカリ金属塩の量は、高吸水性ポリマー1g(乾燥質量)あたり、好ましくは20ミリモル以上、より好ましくは30〜150ミリモル、さらに好ましくは40〜120ミリモルである。アルカリ金属塩水溶液中のアルカリ金属塩の濃度は、高吸水性ポリマーから多価金属イオンを脱離させうる濃度であれば特に限定されないが、好ましくは20ミリモル/リットル以上、より好ましくは30〜150ミリモル/リットル、さらに好ましくは40〜120ミリモル/リットルである。アルカリ金属塩水溶液で処理した高吸水性ポリマーは、必要に応じて、水で洗浄される。アルカリ金属塩水溶液で処理され、必要に応じて水で洗浄された高吸水性ポリマーを乾燥することによって、再利用可能な高吸水性ポリマーを回収することができる。
【0035】
本発明の方法は、さらに、分離工程で得られた吸収性物品の構成素材を含む固体から、プラスチックをさらに分離し固形燃料化するプラスチック回収工程(以下、単に「プラスチック回収工程」ともいう。)を含むことができる。
プラスチック回収工程では、分離工程で得られた吸収性物品の構成素材を含む固体の中に含まれるプラスチックを分離する。プラスチックを分離する方法は、限定するものではないが、たとえば、分解された構成素材(パルプと高吸水性ポリマーとプラスチックなど)の比重差を利用して水中で沈殿分離する方法、分解されたサイズの異なる構成素材を所定の網目を有するスクリーンを通して分離する方法、サイクロン式遠心分離機で分離する方法を例示することができる。
分離されたプラスチックは固形燃料化することによって再資源化することができる。固体燃料化は、いわゆるRPF化手法によって行なうことができる。
【実施例】
【0036】
実施例1
人工尿吸収SAPからの栄養塩回収(リン、窒素回収)
人工尿を吸収させたSAP(住友精化株式会社製「アクアキープ」)を、塩化カルシウム、酸化カルシウムを用いて不活化し、栄養塩の回収効率を調べた。
なお、実施例で用いた人口尿の組成と調製方法は表1のとおりである。
【0037】
【表1】
【0038】
塩化カルシウムを用いた系
SAP1gをメッシュケースに入れ、35mLの人工尿を吸収させた。メッシュケースを7mmol/Lの塩化カルシウム溶液に浸し、2時間撹拌してSAPを不活化させた。不活化後の溶液を1000倍希釈し、液相のTN(トータル窒素、全窒素)とTP(トータルリン、全燐)を測定した。TNは島津社TOC−Vに付属のTNM−1を用いた熱分解法により、TPはモリブデン青法によりそれぞれ測定した。
【0039】
酸化カルシウムを用いた系
SAP2gをメッシュケースに入れ、70mLの人工尿を吸収させた。メッシュケースを16mmol/Lの酸化カルシウム溶液に浸し、2時間撹拌してSAPを不活化させた。コントロールとして、1Lの蒸留水に16mmolの酸化カルシウムを溶解させたのち、人工尿70mLを添加し2時間撹拌したものを用意した。不活化後の溶液のTNとTPを塩化カルシウムの系と同様の方法で測定した。また、酸化カルシウムを用いた場合、不活化後に白い沈殿を確認したため、次の方法で沈殿物(固相)のTPとTNも定量を行った。まず不活化後の溶液全量を50mLのコニカルチューブに分注し、5000Gで10分間遠心分離した。上澄み液を捨て固液分離した後、各チューブに塩酸を3mL加え固形物を溶解させた。溶解液全量を100mLメスフラスコに移して標線まで純水で定容した。その後1000倍希釈し、液相と同様の方法でTNとTPを定量した。
【0040】
なお、実施例で用いたメッシュケースは、次のようにして作製した。
ナイロンメッシュ(株式会社三商製、品番:N−No.255HD)を縦40cm、横20cmに裁断し、中央から折り返した。織り目を底にして左右両端から1cm以内の2か所をシーラー(株式会社石崎電気製作所製、品番:NL−201J)でとめた。その後、底の両端部分をシーラーで斜めにとめ、補強をした。
【0041】
図1に、塩化カルシウムでの栄養塩回収実験結果を示す。
図2に、酸化カルシウムでの栄養塩回収実験結果(SAP有り,メッシュケース有り)を示す。
図3に、酸化カルシウムでの栄養塩回収実験結果(SAP無し,メッシュケース無し)を示す。
塩化カルシウムで不活化を行った系では、TPの投与量35mgに対して34.2mgのTPが液相から得られ、回収率は99%であった。TNでも、投与量572mgに対し569mgのTNが液相から得られ、回収率は99%であった。酸化カルシウムで不活化を行った系では、TNは主に液相から回収することができた。TNの投入量837mgに対し、液相からは808mg、固相からは0.3mgのTNがそれぞれ得られ、全体の回収率は97%であった。一方、TPは投入量58mgに対して液相からはTPを検出することができず、固相からは29mgのTPが得られたが、これは投入量の50%であった。メッシュケースを用いずに実験を行った、コントロール(SAP無し、メッシュケース無し)の系では95%のTPが固相から回収できていることから、酸化カルシウムの系でTPの物質収支が合わない部分は、リンを含んだ固体がメッシュや吸水性ポリマーに付着し、沈殿物そのものの回収率が低かったためと考えられる。
【0042】
実施例2
人工尿吸収尿取りパッドからの栄養塩回収
実施例1では、SAPのみを用いて栄養塩の回収効率を確認したが、実際の尿パッドは、SAPとパルプで構成されている。そこで、この実施例では、より実際の尿パッドに近い条件を想定し、SAP−パルプ混合物を用いた系で、パルプが不活化に与える影響と、栄養塩回収に与える影響を調べた。
【0043】
パルプが栄養塩回収に与える影響の検証実験
1Lビーカーに人口尿35mLを分注した。メッシュケースに1gのSAPと2.7gのパルプを測り取った後、メッシュケースを人口尿の入ったビーカーに入れ均等に人口尿を吸収させた。続いて7mmol/Lの塩化カルシウム水溶液1Lにメッシュケースを浸し、2時間撹拌してSAPの不活化を行った。メッシュケースを引き上げた後、塩化カルシウム溶液を50倍希釈して液相のTNとTPを測定した。測定方法は、実施例1と同様である。実施例2ではメッシュケースを引き上げた時にパルプが水分を保持しているため、パルプに吸収された水分中に含まれるTN、TPも測定した。メッシュケースを引き上げた後、10分間吊るし水切りを行った。水切り後のメッシュケースを、メンブレンフィルター(ADVANTEC 5A)を敷いたビフネル漏斗に入れ吸引ろ過した。その後、ビフネル漏斗に蒸留水を注ぎ込み、吸引ろ過するサイクルを2回行った。ろ液全量を回収し、500mLメスフラスコに移し標線までメスアップした。この溶液を50倍希釈してTNとTPを測定した。測定方法は、実施例1と同様である。
図4に、実施例2のイメージ図を示す。
【0044】
パルプが栄養塩回収に与える影響の検証結果
図5にSAP−パルプ系における栄養塩回収実験の結果を示す。左図はTP、右図はTNの結果で、縦軸は回収量(mg)を表す。TPは投与量33mgに対して液相からは30mgが得られた。これは投与量の91%に相当する。また、パルプに吸収された水分中には、1.7mgのTPが含まれており、投与量全体の5%のTPがパルプに保持されたままとなっていたことがわかる。TNは投与量429mgに対し、液相からは411mg(投与量の96%)、パルプに吸収された水分中からは17mg(投与量の4%)がそれぞれ得られた。以上より、パルプが含まれる系では、SAPの不活化後もパルプが水分を保持することで、投入量の4〜5%相当のTP、TNが固体側に持ち出され、液相でのTP、TN回収率はそれぞれ91%、96%に低下することが推測された。ただし、全体としてのTP、TNの回収率はそれぞれ96%、100%であり、パルプが保持する水分は絞るという前提で考えれば、TN、TPともに極めて高い回収率が期待できることが分かった。
【0045】
実施例3
栄養塩回収繰り返し実験
栄養塩の回収・再利用を考える際、栄養塩はできるだけ高濃度で回収されることが望ましい。紙おむつリサイクルシステムにおいては、栄養塩の回収はSAPの不活化に伴って放出される尿から行われる。この際、SAPの不活化は塩化カルシウム水溶液の中で行われるため、栄養塩回収の側から見ると塩化カルシウム水溶液による尿の希釈が起きてしまう。よって、希釈を最小限に抑えるためには、できるだけ高濃度の塩化カルシウム水溶液を用意して、繰り返し使用することが望ましい。そこでこの実施例では、高濃度塩化カルシウム水溶液の繰り返し利用を想定した時の、リンや窒素、カルシウム等の挙動を調べた。
【0046】
理論上1gのSAPを30回不活化できる塩化カルシウム水溶液として、15g/Lの塩化カルシウム水溶液を1L用意した。乾燥重量1gのSAPと2.7gのパルプが入ったナイロンメッシュケースに、35mLの人口尿を均等に吸収させたものを用意し、塩化カルシウム水溶液に浸漬させ、2時間撹拌し不活化し、水分と栄養塩類を液相に放出させた。そののち、ナイロンメッシュケースを取り出した。一つの塩化カルシウム水溶液を用いて、一連の操作を繰り返し、SAPの不活化が起こらなくなった時点で実験を止めた。なお、コントロールとして、ナイロンメッシュケースとSAPのみで同様の操作を行った。
図6に、実施例3の栄養塩回収繰り返し実験のイメージ図を示す。
【0047】
各バッチについて、(1)塩化カルシウム水溶液、(2)パルプが保持していた水分、(3)パルプ、SAP、ナイロンメッシュケースについて、TN、TPおよびカルシウムを以下の方法で測定した。
(1)塩化カルシウム水溶液
各バッチの不活化を行った後の塩化カルシウム水溶液を2mL採取し、適宜希釈しTN、TPおよびカルシウムを計測した。TNは島津製TOC−Vをもちいた熱分解法、TPはモリブデン青法、カルシウムはICP−AES(ICPE−9000、SHIMAZU)を用いて測定した。
(2)パルプが保持していた水分
不活化後のナイロンメッシュケースを引き上げた後、10分間吊るし水切りを行った。水切り後のナイロンメッシュケースを、メンブレンフィルター(ADVANTEC 5A)を敷いたビフネル漏斗に入れ吸引ろ過した。その後、ビフネル漏斗に蒸留水を注ぎ込み、吸引ろ過するサイクルを2回行った。ろ液全量を回収し、500mLメスフラスコに移し標線までメスアップした。この溶液を適宜希釈してTN、TPおよびカルシウムを測定した。測定方法は塩化カルシウム水溶液と同様であった。
(3)パルプ、SAP、ナイロンメッシュケース
吸引ろ過後のナイロンメッシュケースを110℃で一晩乾燥させた後、600℃で3時間熱分解した。灰分の測定をした後に硝酸10mLで溶解させ、溶解液を50mLメスフラスコに全量移し、標線まで定容しサンプル液とした。サンプル液を1000倍希釈してカルシウムを塩化カルシウム水溶液の分析と同様の手法で測定した。
【0048】
コントロールにおけるTNおよびTPの回収量を、
図7および
図8に示す。コントロールにおいて、SAPの不活化は、理論上可能な回数である30回行うことができ、TN、TPを100%近く回収することができた。
SAP−パルプ系における繰り返し数とTNの挙動を
図9に、繰り返し数とTPの挙動を
図10に、繰り返し数とカルシウムの挙動を
図11に示す。
SAPとパルプを用いた系では、21バッチ目で不活化ができなくなった。まず、水分の収支を見ると、1バッチ当たり平均で17mLの水分が、主にパルプに保持されてビーカーから持ち出されていた。21バッチ目の時点で、その総量は初期液量の40%に相当した。これにより、液中のカルシウムが持ち出されたために、理論値よりも低い回数で不活化ができなくなったと考えられる。実際、カルシウムの収支(
図10)を見ると、21バッチ目の時点で液相のカルシウム量はおよそ4mmolまで低下している。1バッチ当たりに液相から失われたカルシウム量は、コントロールで平均3.7mmolであったのに対しSAP−パルプの系では平均6.3mmolであった。この系では、不活化を繰り返しても液量は増加せず、むしろパルプの持ち出しによって液量は減少した。そのため、TN、TPの濃度は、不活化の回数が増えるにつれて上昇していったが、系全体の存在量として見ると、繰り返し数が増加するに従って液相での回収量が減少し、最終的にはパルプによる持ち出し量が増加して、液中の存在量が全体としては減少する傾向が見られた(
図9、
図10)。最終的にTN、TPともに約65%が液相に残存し、35%がパルプと共に系外へ持ち出された。