【解決手段】本発明は、ヒト細胞にTGF-β1を曝露することにより引き起こされる遺伝子発現の変動プロファイルを指標とし、当該細胞と同一種類のヒト細胞に検査対象薬剤を曝露することにより引き起こされる遺伝子発現の変動プロファイルと前記指標とを比較解析して得られた結果に基づいて、当該検査対象薬剤の前記ヒト細胞に対する毒性を評価する方法である。
ヒト細胞にTGF-β1を曝露することにより引き起こされる遺伝子発現の変動プロファイルを指標とし、当該細胞と同一種類のヒト細胞に検査対象薬剤を曝露することにより引き起こされる遺伝子発現の変動プロファイルと前記指標とを比較解析して得られた結果に基づいて、当該検査対象薬剤の前記ヒト細胞に対する毒性を評価する方法。
DNAマイクロアレイに搭載されるプローブが、配列番号1〜162に示される塩基配列を有する核酸及びその相補鎖である核酸からなる群より選ばれるものである、請求項4記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0013】
本発明の薬剤毒性の評価方法(以下、「本発明の方法」ともいう)は、前述のとおり、ヒト細胞にTGF-β1を曝露することにより引き起こされる遺伝子発現の変動プロファイルを指標とし、当該細胞と同一種類のヒト細胞に検査対象薬剤を曝露することにより引き起こされる遺伝子発現の変動プロファイルと前記指標とを比較解析して得られた結果に基づいて、当該検査対象薬剤の前記ヒト細胞に対する毒性を評価する方法である。
【0014】
本発明の方法に用いるヒト細胞は、特に限定はされず、生体から取得した各種組織由来の細胞を使用することや、幹細胞から分化させた各種組織の細胞と実質的に同等な性質を有する細胞を用いてもよく、市販されている株化された細胞を用いてもよい。また、これらの細胞に、公知の遺伝子工学的な手法を用いて分子レベルでの改変が加えられたものを用いてもよい。
【0015】
同一種類のヒト細胞とは、評価を行うに際してのコントロールとして用いることができる程度の類似性があればよい。例えば、同一シャーレ上で培養した細胞を二分割したそれぞれの細胞を意味する。
例えば、薬剤毒性として、薬剤の一般的な肺毒性を評価するのであれば、再現性評価や他の時点で取得したデータを参照のしやすさから、肺由来の細胞を用いることが望ましい。その中でも、取扱い性、入手しやすさの観点から、H441細胞やA549細胞を用いることが望ましい。
【0016】
評価に用いるヒト細胞は、適宜培養を行って増殖させてもよい(すなわち培養細胞を使用してもよい)。当該培養方法は、比較解析に用いる生体分子(後述するmRNA等)を取得可能な量を培養できるのであれば、特に限定されない。例えば、A549細胞やH441細胞を用いる場合は、35mmのシャーレに100,000個播種した上で、24時間程度培養したものを用いることが望ましい。
【0017】
本発明の方法において、ヒト細胞のTGF-β1による曝露(薬剤処理)で使用するTGF-β1の濃度は、当該細胞が死滅しない程度であれば回数や方法では特に限定されない。具体的には、用いるヒト細胞を35mmのシャーレに100,000個播種し、一般的な手法で24時間程度培養した場合においては、TGF-β1は10 ng/mL程度の濃度で曝露に使用することが望ましい。
【0018】
TGF-β1による曝露時間は、細胞の成長具合にもよるため特に限定はされないが、曝露開始から生体分子を抽出・精製するまで(曝露終了まで)の時間を、24時間超とすることが好ましく、より好ましくは72時間以上、さらに好ましくは144時間以上である。なお、本発明の方法においては、検査対象薬剤による曝露時間は、上記TGF-β1による曝露時間と実質的に同じであることが好ましい。実質的に同じ時間とは、前後30分以内が好ましく、前後20分以内がより好ましい。
【0019】
遺伝子発現の実体は、mRNA量、マイクロRNA量、non-coding転写産物量、タンパク質量等のいずれであってもよい。本発明の方法においては、これらの量の増加、減少の傾向、もしくはそれに反映される定量的な値もしくは定性的な符号を、遺伝子発現の変動とすることができる。数値解釈を効率的に行う上では、例えば、薬剤に曝露していない細胞における遺伝子発現量に対する、TGF-β1曝露時の遺伝子発現量の割合を、遺伝子発現の変動とすることが可能である。
【0020】
本発明の方法において、遺伝子発現の変動プロファイルとは、遺伝子発現変動を解析する1つのサンプルにおける、解析対象遺伝子全体の発現の変動を指す。プロファイルを構成するための遺伝子数は特に限定はされないが、安定した結果を得るためには複数遺伝子の発現をプロファイル構成因子として、TGF-β1や検査対象薬剤の曝露による遺伝子発現の変動を包括的に取得することが望ましい。
【0021】
その一方で、次世代シーケンサーや1万種類以上のプローブを搭載したDNAマイクロアレイにより、検出可能なすべての遺伝子をプロファイルとして利用することは、TGF-β1による曝露の影響以外の要因による遺伝子の発現変動を多くとらえてしまう恐れがあるため注意が必要である。ただし、これらの網羅的な解析手法を用いる場合においても、遺伝子発現の変動プロファイルに採用する注目すべき遺伝子をあらかじめ絞っておき、それらの遺伝子のみを用いて評価することが可能である。
【0022】
遺伝子発現の変動プロファイルを構成するための遺伝子数は、データの取り扱いやすさ、及びデータ安定性の観点から、10〜1000個程度が望ましく、より望ましくは100〜200個程度である。この程度の数の遺伝子発現の変動プロファイルを取得する手段としては、上述の次世代シーケンサー、一般的なDNAマイクロアレイの他、100〜1000個程度の限られた数の核酸プローブを搭載できるフォーカストアレイや定量PCRといった手法が使用される。データ取得効率や費用対効果の観点からは、定量PCRやフォーカストアレイを用いることが望ましい。フォーカストアレイを使用する場合においては、後述する表1に記載の核酸配列(配列番号1〜162)及びその相補配列のうちの一部又は全部を、それぞれプローブとして固定化(搭載)したアレイを使用することが好ましい。これらの核酸配列の中からいくつかのプローブ配列を選抜することで、より精度の高い比較解析することもできる。表1に記載の核酸配列に対して、比較解析することができ、70%以上の相同性(同一性)を有する塩基配列からなる核酸、さらに、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上又は最も好ましくは99.9%以上の相同性(同一性)を有する塩基配列からなる核酸であれば使用できる。
【0023】
なお、表1に記載の核酸配列に対して、70%以上の相同性(同一性)を有する塩基配列からなる核酸において、「比較解析することができる」とは、表1において列挙した各遺伝子の塩基配列やその相補鎖の塩基配列のいずれかをハイブリダイゼーションにより捕捉することができることであることを意味する。
【0024】
さらに、表1に記載の核酸配列において1から数個(例えば、1〜10個、1〜8個、1〜5個、又は1〜2個)の塩基が付加、欠失又は置換された塩基配列が使用できる。例えば、塩基配列の末端に、リンカーとなる塩基(ポリTなど)を修飾したものや、当該塩基配列の一部に別の塩基を挿入したり、当該塩基配列の一部の塩基を欠失させたり、当該塩基配列の一部の塩基を別の塩基に置換したもの等が挙げられる。
【0025】
このように、所望の塩基を付加、欠失又は置換した変異配列、特に変異置換型の核酸については、例えば、上記「Moleculer cloning, A Laboratory Manual 3rd ed.」や「Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)」等に記載の部位特異的変位誘発法に準じて調製することができる。具体的には、Kunkel法や Gapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キットを用いて調製することができ、当該キットとしては、例えば、QuickChange
TMSite-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailor
TM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Prime STAR(登録商標) Mutagenesis Basal kit、Mutan(登録商標)-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等が好ましく挙げられる。
【0026】
「DNAマイクロアレイ」とは、担体上に多数のプローブを高密度にそれぞれ独立に固定化したものである。DNAマイクロアレイは、支持体上に、プローブ(例えばオリゴヌクレオチドプローブ)が固定されたものであれば、限定はされない。
【0027】
アレイについて、その支持体の形態は特には限定されず、平板、棒状、ビーズ等のいずれの形態も使用できる。支持体として、平板を使用する場合は、その平板上に、所定の間隔をもって、所定のプローブを種類毎に固定することができる(スポッティング法等;Science, 270, 467-470 (1995)等参照)。また、平板上の特定の位置で、所定のプローブを種類毎に逐次合成していくこともできる(フォトリソグラフィー法等;Science, 251, 767-773 (1991)等参照)。
【0028】
他の好ましい支持体の形態としては、中空繊維を使用するものが挙げられる。支持体として中空繊維を使用する場合は、オリゴヌクレオチドプローブを種類毎に各中空繊維に固定し、すべての中空繊維を集束させ固定した後、繊維の長手方向で切断を繰り返すことにより得られるDNAマイクロアレイが好ましく例示できる。このDNAマイクロアレイは、貫通孔基板にオリゴヌクレオチドプローブを固定化したタイプのものと説明することができる(特許第3510882号公報等を参照、
図1)。
【0029】
支持体へのプローブの固定化方法は特には限定されず、どのような結合様式でもよい。また、支持体に直接固定化することに限定はされず、例えば、予め支持体をポリリジン等のポリマーでコーティング処理し、処理後の支持体にプローブを固定することもできる。さらに、支持体として中空繊維等の管状体を使用する場合は、管状体にゲル状物を保持させ、そのゲル状物にプローブを固定化することもできる。
【0030】
本発明の方法においては、検査対象薬剤による曝露は、TGF-β1による曝露に用いたヒト細胞と同一種類のヒト細胞に対して、TGF-β1の曝露時間と実質的に同じ時間行って、遺伝子発現の変動プロファイルを取得することが望ましい。実質的に同じ時間とは、前後30分以内が好ましく、前後20分以内がより好ましい。
【0031】
検査対象薬剤による曝露は、基本的にはTGF-β1による曝露の場合と薬剤の違い以外の条件はすべて実質的に同一にして実施することが好ましい。操作由来のばらつきを抑えるためには、TGF-β1による曝露の場合と同じロットの細胞を、検査対象薬剤による曝露の場合にも使用し、同時進行で作業を進めることが望ましい。なお、薬剤の特性により水等、TGF-β1に用いる溶媒と同じものを使用できない場合、使用する溶媒に由来する遺伝子発現変動が引き起こされない限りにおいては、TGF-β1による曝露の場合に使用する溶媒と別の溶媒を使用することも可能である。このような溶媒としては、例えば0.1%濃度程度のジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0032】
使用する検査対象薬剤の薬剤濃度は、細胞の死滅が生じない濃度で使用することが望ましく、可能であれば事前に当該薬剤の細胞生存率等への濃度影響を把握しておくことが望ましい。また、薬剤は単一の物質を用いてもよく、混合物を用いてもよい。
【0033】
本発明の方法において、指標とするTGF-β1による曝露で得られた遺伝子発現の変動プロファイルと、検査対象薬剤による曝露で得られた遺伝子発現の変動プロファイルとを比較解析する方法としては、どのような方法を用いてもよいが、例えば、それぞれの場合の変量(遺伝子発現の変動)に基づいて算出した相関係数の値の大小により、変動プロファイル類似性を求めることで、比較解析することが可能である。具体的には、このような比較解析手法により、肺毒性等の薬剤毒性の有無を評価する場合は、例えば相関係数の二乗の値で0.1を閾値とし、それよりも値が大きければ薬剤毒性(肺毒性等)があり、小さければ薬剤毒性(肺毒性等)が無いと評価することができる。
【0034】
本発明の方法は、各種臓器の薬剤毒性の中でも、特に検査対象薬剤による肺毒性の有無の評価に好適に用いることができる。肺毒性の有無を評価することにより、例えば、当該検査対象薬剤が、副作用として、喘息、閉塞性細気管支炎、過敏性肺炎、間質性肺炎、肺線維症、非心原性肺水腫、肺実質出血、胸水、好酸球増加を伴う肺浸潤、肺血管疾患などを引き起こす可能性の有無について評価することが可能である。特に、間質性肺炎や肺線維症の副作用を引き起こす可能性の有無の評価に好適に使用可能であり、さらには、これら症状のきっかけとなる上皮間葉転換を引き起こす可能性の有無の評価に好適に使用可能である。
【0035】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
マイクロアレイの作製
肺毒性、もしくは上皮間葉転換等に関連する可能性のある転写産物群から、下記表1(表1−1〜1−3)に記載の塩基配列(配列番号1〜162)の5’末端をアミノ化したオリゴDNAを合成し、公知文献(特開2004-283136号公報)に記載の方法にてビニル基を付加した。その後、当該ビニル基を付加したオリゴDNAを搭載したDNAマイクロアレイを、公知文献(WO 01/098781号、WO 04/001411号、特開2001-133453号公報、特開2003-247995号公報)に記載の方法に基づいて作製した。
【0037】
【表1-1】
【0038】
【表1-2】
【0039】
【表1-3】
【0040】
培養細胞の処理
内径35mmの培養皿に100,000個のA549細胞を播種し、播種後24時間時点において、表2に記載の濃度で薬剤処理を行った。使用した薬剤は、上皮間葉転換(Epithelial-Mesenchymal Transition(EMT))を引き起こす薬剤としてTGF-β1(以下、TGFとも記載する。)(HUMAZYME社)、試験薬剤として肺毒性を引き起こすことの知られているBleomycin(以下、BLM)(bioaustralis社)、Gefitinib(以下、GEF)(Selleck Chemicals社)、Methotrexate(以下、MTX)(和光純薬社)、及びPaclitaxel(以下、PTX)(和光純薬社)、並びに、肺毒性を示さず、他のの毒性を引き起こすことの知られているNeomycin(以下、NEO)(ナカライテスク社)、及びChlorpromazine(以下、CPZ)(ナカライテスク社)を用いた。
【0041】
【表2】
【0042】
Total RNAの精製
処理後144時間において、培養皿上の培地を吸引し、PBS(-)2 mLによる洗浄を二度行った。その後、RNeasy minKit(QIAGEN社)およびQIAshredder(QIAGEN社)を用い、キットに付属のプロトコールに従ってTotal RNAの抽出・精製を行った。
精製したTotal RNAはNanoDrop(Thermo Scientific)を用いて濃度を測定した。
【0043】
polyA RNAの増幅と断片化
得られたTotal RNAから、DNAマイクロアレイに供するサンプルを作製するために、MessageAmp II biotin enhanced kit(Life Technologies社)を用いてpolyA RNAの増幅および精製を行った。操作は以下の点を除き、キットに付属のプロトコールに従った。
・転写反応に供するcDNAの精製は、MinElute PCR kit(QIAGEN社)を用いた。
・aRNA(増幅したRNA)の精製は、RNeasy minelute kit(QIAGEN社)を用いた。
・DNAマイクロアレイに供するaRNAは5 μgとし、断片化反応は94℃の温度条件下にて7分30秒間実施した。なお、反応液量は20μlとした。
【0044】
断片化されたaRNA溶液20μlに対し、1M Tris-HCl(Life Technologies社)を48 μl、1M NaCl水溶液を48 μl、0.5% Tween20水溶液を20 μl、Nuclease-Free水を64 μl 加え、200 μlの反応溶液とした。
【0045】
DNAマイクロアレイへのハイブリダイゼーションとハイブリダイゼーション後の洗浄・染色・再洗浄
調製した反応溶液をウェルプレートに注入し、その後上記で作製したDNA
マイクロアレイをウェルプレートに差し込み、DNAマイクロアレイと反応溶液を接触させた。両者を接触させた状態のまま、反応液が蒸発しないように開口部を蓋で密封し、ウェルプレートを65℃で加熱、その状態のまま16時間一定温度で保温した。
16時間経過後、ウェルプレートから反応溶液を吸出し、65℃に温めた洗浄液A(0.24 M Tris-HCl, 0.24 M NaCl, 0.05% Tween20混合水溶液)1mLをウェルプレートに注入し、3分40秒保温後、再びウェルプレートから溶液を吸い出す操作を12回繰り返した。その後洗浄液Aを洗浄液B(0.24M Tris-HCl, 0.24M NaCl混合水溶液)に変更し、同じ操作を4回繰り返した。
【0046】
染色液(StreptAvidin-Cy5が2 μg/mlとなるようにし調製され、他は洗浄液Bと同一組成)600 μlをウェルプレートに入れ、室温中で放置し、その後染色液を吸い出す操作を4回繰り返した。なお、1回目から3回目は放置時間を3分40秒とし、4回目については放置時間を30分とした。
【0047】
37℃に温めた洗浄液A1mLをウェルプレートに注入し、3分40秒保温後、再びウェルプレートから溶液を吸い出す操作を8回繰り返すことで、染色液を除去した。その後洗浄液Aを洗浄液Bに変更し、同じ操作を3回繰り返した。
【0048】
洗浄操作の完了したDNAマイクロアレイは、洗浄液Bに浸漬した状態でカバーガラスをかぶせ、蛍光検出器(三菱レイヨン社)を用いて蛍光画像を撮像、得られた画像をから各プローブスポットのシグナル強度を数値化した。
【0049】
データの解析
プローブとなる核酸を搭載していないスポットの蛍光シグナル強度の平均値を求め、これをバックグラウンド値とした。また、これらのスポットの蛍光シグナル強度の標準偏差を最低シグナル値とした。
各プローブスポットの蛍光シグナル強度から、バックグラウンド値を減算し、減算後の値が最低シグナル値を下回るものについては、その値を最低シグナル値に合わせたものを実シグナル値とし、各プローブスポットの実シグナル値を算出した。
【0050】
DNAマイクロアレイに搭載されているプローブスポットのうち、DNAマイクロアレイ間におけるハイブリダイゼーション操作由来の誤差を補正するために、各DNAマイクロアレイにおけるコントロールプローブの実シグナル値から補正値を算出した。具体的には配列番号154から配列番号162に記載の核酸配列をコントロールプローブ候補とし、各サンプルにおける実シグナル値の平均値と標準偏差を求め、平均値に対する標準偏差の値の割合(CV(%))を算出した。CVが30%を超えるコントロールプローブ候補については、除外し、残ったコントロールプローブの個々について、各DNAマイクロアレイにおける実シグナル値を当該コントロールプローブの実シグナル値の平均値で割りかえして補正材料値とした。各DNAマイクロアレイにおいて得られた補正材料値の中央値を補正値として、その値を用いて全搭載プローブの実シグナル値を除算し、補正シグナル値を得た。
【0051】
無処理を除く、全てのサンプルについて、全遺伝子の補正シグナル値を、無処理サンプルにおける同一遺伝子の補正シグナル値にて除算し、その値を、底を2としたlog値にて求めることにより発現変動値を算出した。
【0052】
TGF-β1処理で得られた全プローブによる発現変動値のセットと、その他の薬剤にて得られた全プローブによる発現変動値のセットを用い、これらのセット間における相関係数を算出することで、遺伝子発現変動プロファイルの類似性を求めた。TGF-β1と各試験薬剤間における類似性について、相関係数を二乗した値の結果を表3に示す。
【0053】
肺毒性を誘発することが知られている薬剤(BLM、GEF、MTX、PTX、(AMD)、については、TGF-β1の発現変動値と高い相関を示したが、肺毒性以外の毒性を誘発するNEO、CPZについては、相関係数の二乗が0.1以下と、発現変動値との相関は認められず、本評価系を用いることで薬剤の肺毒性を引き起こす性質が評価できた。
【0054】
【表3】
【実施例2】
【0055】
Total RNAの抽出、精製を、各薬剤処理後72時間の時点で実施した以外は、実施例1と同じ方法にて、TGF-β1処理における遺伝子発現プロファイルの変動を、その他の薬剤における遺伝子発現プロファイルと比較した。結果を表4に示す。
【0056】
【表4】
【実施例3】
【0057】
Total RNAの抽出、精製を、各薬剤処理後24時間の時点で実施した以外は、実施例1と同じ方法にて、TGF-β1処理における遺伝子発現プロファイルの変動を、その他の薬剤における遺伝子発現プロファイルと比較した。その結果を表5に示す。
【0058】
【表5】
【実施例4】
【0059】
使用する細胞をA549細胞からH441細胞に変更し、試験対象薬剤の内、PTXの濃度を3 nMから5 nMに変更し、CPZの濃度を0.1 μg/mlから1 μg/mlに変更した以外は、実施例1と同じ方法にて、TGF-β1処理における遺伝子発現プロファイルの変動を、その他の薬剤における遺伝子発現プロファイルと比較した。その結果を表6に示す。
【0060】
【表6】
【実施例5】
【0061】
使用する細胞をA549細胞からH441細胞に変更し、試験対象薬剤の内、PTXの濃度を3 nMから5 nMに変更し、CPZの濃度を0.1 μg/mlから1 μg/mlに変更した以外は、実施例2と同じ方法にて、TGF-β1処理における遺伝子発現プロファイルの変動を、その他の薬剤における遺伝子発現プロファイルと比較した。その結果を表7に示す。
【0062】
【表7】
【実施例6】
【0063】
使用する細胞をA549細胞からH441細胞に変更し、試験対象薬剤の内、PTXの濃度を3 nMから5 nMに変更し、CPZの濃度を0.1 μg/mlから1 μg/mlに変更した以外は、実施例3と同じ方法にて、TGF-β1処理における遺伝子発現プロファイルの変動を、その他の薬剤における遺伝子発現プロファイルと比較した。その結果を表8に示す。
【0064】
【表8】