特開2016-164907(P2016-164907A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-164907(P2016-164907A)
(43)【公開日】2016年9月8日
(54)【発明の名称】バンド間位相差ソリトンの発生方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 39/22 20060101AFI20160815BHJP
【FI】
   H01L39/22 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-44214(P2015-44214)
(22)【出願日】2015年3月6日
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100082669
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 賢三
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100095061
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 恭介
(72)【発明者】
【氏名】田中 康資
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 孝
(72)【発明者】
【氏名】長谷 泉
(72)【発明者】
【氏名】有沢 俊一
(72)【発明者】
【氏名】西尾 太一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 岳
【テーマコード(参考)】
4M113
【Fターム(参考)】
4M113AA44
4M113AC45
(57)【要約】
【課題】外部磁場や制御性の乏しい非平衡電流を用いることなく、また、電流を遮断しても安定して存在するバンド間位相差ソリトンの発生方法を提供する。
【解決手段】多バンド超伝導膜からなる線路13に、線路13の両端側に設けられた太幅部131と、太幅部131よりも線幅が細く、各電極11,12に接続した太幅部131間を接続する細幅部132と、細幅部132よりも線幅が細く、細幅部132の一部分に設けられた狭細部133とを備え、細幅部132に流れる電流により狭細部133の超伝導性を壊して常伝導状態にする第1過程と、狭細部133の超伝導性を壊した電流が流れる細幅部132にバンド間位相差を生じさせる第2過程と、細幅部132に流れる電流を減流し、狭細部133の超伝導性を回復させる第3過程と、狭細部133の超伝導性を回復させた後、電流を遮断して線路13にバンド間位相差ソリトン200を残留させる第4過程とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多バンド超伝導膜からなる線路に、
前記線路の両端側に設けられ、外部から電流を供給する各電極とそれぞれ接続する複数の太幅部と、
前記太幅部よりも線幅が細く、前記太幅部間を接続する細幅部と、
前記細幅部よりも線幅が細く、該細幅部の一部分に設けられた狭細部と、
を備え、
前記線路に前記外部から電流を供給し、前記細幅部に流れる電流により前記狭細部の超伝導性を壊して常伝導状態にする第1過程と、
前記狭細部の超伝導性を壊した電流が流れる前記細幅部にバンド間位相差を生じさせる第2過程と、
前記細幅部に流れる電流を減流し、前記狭細部の超伝導性を回復させる第3過程と、
前記狭細部の超伝導性を回復させた後、前記電流を遮断して前記線路にバンド間位相差ソリトンを残留させる第4過程と、
を有することを特徴とするバンド間位相差ソリトンの発生方法。
【請求項2】
前記第1過程は、
2π以上の回転を有するバンド間位相差が生じる電流密度を、前記細幅部に流す、
ことを特徴とする請求項1に記載のバンド間位相差ソリトンの発生方法。
【請求項3】
前記第2過程は、
前記細幅部に流したとき、前記2π以上の回転がバンド間位相差に生じる電流密度で前記狭細部の超伝導性が壊れる、
ことを特徴とする請求項2に記載のバンド間位相差ソリトンの発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導環境下で存在し得る成分間(バンド間)位相差ソリトンを発生する方法に関するもので、境界条件制御により各機能を実現する成分間(バンド間)位相差ソリトン回路装置を用いるものである。
【背景技術】
【0002】
多バンド超伝導体を用いて複数の超伝導成分の位相差を利用した超伝導エレクトロニクスは、例えば本件発明者等も関与した特許文献1及び特許文献2に開示されている。
これらの技術において演算の基本要素となるビットは、成分間位相差ソリトンを利用して構成されており、効率的なソリトン発生方法の開発は、これらエレクトロニクスの基本となる技術である。
なお、伝搬線路が多バンド超伝導体線路の場合、成分間位相差ソリトンは、特にその下位概念とてバンド間位相差ソリトンと称呼されることも多いが、以下、これらを総称して単に「ソリトン」と略して表記する。
【0003】
しかるに、ソリトン発生に関しては、特許文献1、2及び非特許文献1に開示されているように、ソリトンが発生するための境界条件を磁場によって作り出す方法や、非特許文献2に開示されているように、超伝導体に非平衡な電流を流し込み、電流と一緒にソリトンを作り出す方法が提案されている。また、実験的にも非特許文献3、4に開示されているように、磁場によるソリトン発生が検証されている。
一方、ソリトンのように局所的に存在する成分間位相差の発生とは別に、超伝導線路全体に広がる成分間位相差が電流によって誘起できることが非特許文献5、6に開示されている。
【0004】
また、非特許文献7には、バンド間位相差がπであるような多バンド超伝導体に、通常の超伝導体を貼り付けて、この貼り付けた超伝導体が、超伝導近接効果によって貼り付けられた多バンド超伝導体のバンド間位相差を揃えようとする力と、多バンド超伝導体自身がバンド間位相差をπに保とうとするバンド間相互作用に拮抗を使ってソリトンを生み出す方法が開示されている。
特許文献1と特許文献2では、ソリトンを発生する方法として、ソリトンが生み出す位相差と整合する外部磁場を使って、リング状に構成した回路の中にソリトンを生成する方法と、ソリトンと共鳴する光を照射してソリトンを生成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−209301号公報
【特許文献2】特開2005−85971号公報
【特許文献3】特開2008−53597号公報
【特許文献4】特開2009−206410号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“Soliton in Two-Band Superconductor”,Y.Tanaka,Physical Reviw Letters, Vol.88, Number 1, 017002
【非特許文献2】“Interband Phase Modes and Nonequilibrium Soliton Structures in Two-Gap Superconductors”, A.Gurevich and V.M.Vinokur, Physical Review Letters, Vol.90, Number 4, 047004
【非特許文献3】“Interpretation of Abnormal AC Loss Peak Based on Vortex-Molecule Model for a Multicomponent Cuprate Superconductor”,Y.Tanaka, A.Crisan, D.D.Shivagan, A.Iyo, K.Tokiwa, and T.Watanabe, Japanese Jurnal of Applied Physics, Vol.46, No.1, 2007, pp.134-145
【非特許文献4】“Magnetic Response of Mesoscopic Superconducting Rings with Two Order Parameters”, H.Bluhm, N.C.Koshnick, M.E.Huber, and K.A.Moler, Physical Review Letters Vol.97, December 8, 237002
【非特許文献5】“Phase textures induced by dc-current pair breaking in weakly coupled multilayer structures two-gap superconductors”, A.Gurevich and V.M.Vinokur. Phys.Rev. Lett. Vol.97 (2006) 137003.
【非特許文献6】“Coherent current states in a two-band superconductors”, Y.S.Yerin and A.N.Omelyanchouk. Low Temp .Phys. Vol.33 (2007) 401-407.
【非特許文献7】“Topological defected-phase soliton and pairing symmetry of a two-band superconductor:Role if the proximity effect”, V.Vakaryuk, V.Stanev, W.C.Lee, and A.Levchenko. Phys. Rev. Lett. 109 (2012) 227003.
【非特許文献8】“Phase slip centers in a two-band superconducing filament:Application to MgB2” V.N.Fenchenko, Y.S.Yerin. Physica C 480 (2012) 120-136.
【非特許文献9】Tinkham, Introduction to Supercoductivity 第2版、P123-125.
【非特許文献10】“Specific heat study on CuxBa2Can-1CunOy”,Y.Tanaka, A.Iyo, N.Ariyama, M.Tokumot, S.I.Ikeda, H.Ihara, Physica C:Superconductivity. Volumes 357-360(2001) Pages 222-225.
【非特許文献11】“Observation of quantum oscillations in a narrow channel with a hole fabricated on a film multiband supercoductors”、Y.Tanaka, G.Kato, T.Nishio and A.Arisawa. Solid State Commun. 201 (2015) 95-97.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるに、今までのソリトンの生成方法には、次の問題点があった。
特許文献1や非特許文献6に開示された方法では、整合磁場を作り出す外部回路を、ソリトン回路に併設する必要性がある。この併設する外部回路が、ソリトン回路の小型化・集積化の障害になり、実際のソリトン回路の設計に著しい制限が生じていた。
非特許文献4や非特許文献7に開示された方法は、外部磁場に加え、ソリトンは電流を遮断すると消えてしまい、無電流の状態でソリトンを保ち続けることができなかった。
非特許文献6に開示された方法は、バンド間位相差の発生を電流で行うため、外部磁場は必要ないが、電流を遮断するとバンド間位相差が消えてしまい、ソリトンも発生することができなかった。
非特許文献11でも、バンド間位相差の発生の可能性が指摘されているが、電流を遮断することによってバンド間位相差が消えてしまうという点は上記の方法と同様で、無電流におけるソリトンの安定化に関する技術は開示されていない。
【0008】
非特許文献5に開示された方法も、バンド間位相差の発生に磁場は必要ないが、バンド間位相差を発生させるには一次相転移を引き起こす必要があった。一次相転移を起こす方法として、一つの成分のみ超伝導を破壊する方法が開示されている。この方法は、超伝導膜2層構造で造った人工的な多バンド超伝導体では実現可能であるが、MgB2(2硼化マグネシウム)などの真性の多バンド超伝導体には適用できないという問題点があった。
また、数値実験の結果によると、非特許文献8に記載されているように、非特許文献5の方法では、バンド間位相差は生み出せなかったという技術的な問題点も明らかにされている。
【0009】
非特許文献2では、バンド毎に定常状態からずれる非平衡電流を注入し、アンバランスな状態を生み出すことによってソリトンを発生させる方法が開示されているが、ソリトンと電流を分離する方法が開示されていなかった。これを解決する方法として、ソリトンと電流を分離する技術が特許文献3に開示されている。
しかし、ソリトンを生み出すようなアンバランス状態の電流を生じさせること自体が容易ではなく、非特許文献2に開示されている方法の実施は困難であった。
【0010】
特許文献1に開示されている、ソリトンと共鳴するエネルギーを照射する方法では、照射する光などの外場とソリトンとの統合係数が制御できず、この方法においても困難である。
このように、電流を遮断した状態でも安定的に存在するソリトンを、整合磁場回路や非平衡電流(非定常電流)のアンバランス注入や共鳴エネルギー照射によって生成する方法は、実現が極めて難しい。これらの困難さを伴わず、容易にソリトンを発生する技術は見当らなかった。
また、非特許文献3の方法で生成されるソリトンは通常分数渦糸を伴うものであるが、この分数渦糸を取り除く有効な方法は知られていない。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、外部磁場を利用することなく、非平衡電流のアンバランス注入を行うこともせず、結合係数の制御ができない共鳴エネルギーを照射することもなく、新たな理念に従ってソリトンを発生させる方法、及びその方法を使用するための回路装置を提案せんとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記目的を達成するため、定常電流を流した状態でソリトンの発生を目論む回路の境界条件を動的に制御することによって、バンド間位相差を発生させ、また回路内に閉じ込めておき、電流を遮断することによって上記のバンド間位相差をソリトンとして回路内に残す方法を提案する。
新たなる発想として、通常の回路では境界条件によって禁止されている電流によって誘起される位相差を、境界条件を変えることによって変化させ、それによってバンド間位相差の発生を許容する原理を利用する。また、境界条件を変化させることによって発生させたバンド間位相差ソリトンの消失を禁止し、電流を遮断した後もソリトンとして回路内に閉じ込めておく原理も利用する。
【0013】
すなわち、超伝導環境下において存在し得るソリトンを生じる回路の、一部の超伝導性を電流注入下で破壊して常伝導状態に戻し、自然境界条件を実現することによってバンド間位相差を許容し得る環境とし、当該環境においてバンド間位相差を発生させる。また、電流注入下で、上記の破壊した部分の超伝導を復元し、固定端境界条件とすることによってバンド間位相差が解けることを禁止し、その後、電流を切ることによってバンド間位相差をソリトンとして回路内に残す。
この方法は、非特許文献5に開示されている、線路全体において一つの成分だけの超伝導性を壊すものではない。ソリトンの発生を意図する線路の端部分の超伝導を、両成分(位相差を有する二つのバンド)同時に壊すものである。そのため、実施が著しく容易であり、非特許文献5に開示された技術とは本質的に異なる。
このようにソリトンの発生を意図する線路の境界条件を限定的に制御し、かつ、外部電流によってバンド間位相差を生み出すことを特徴とするソリトン発生方法を提案する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、外部磁場を必要とせずに、線路に流す電流と線路の境界条件を制御することのみにより、ソリトンを精密かつ簡便に発生させることができる。例えば、特許文献4に開示された技術と組み合わせることにより、環境ノイズに対して強靭な量子コンピュータ等に関する超伝導エレクトロニクス技術において、本発明は将来に向けて極めて実践的な基本制御手法や制御回路構造を提案することとなり、これらの技術分野に貢献するところ甚だ大なるものがある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例によるソリトン回路装置を示す説明図である。
図2】バンド間位相差の計算機実験の結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施の一形態を説明する。
(実施例)
図1は、本発明の実施例によるソリトン回路装置を示す説明図である。この図は、多バンド超伝導薄膜を使った典型的な超伝導回路を示したもので、電極11と電極12との間に多バンド超伝導薄膜からなる線路13を備えている。なお、多バンド超伝導薄膜の冷却装置等の図示を省略している。
【0017】
線路13は、図1(A)に示したように、太幅部131、細幅部132、および、狭細部133の3つのパートによって構成されている。
太幅部131は、電極11ならびに電極12と各々接続する部分であり、線路13に超伝導電流を流したとき、実質的にバンド間位相差が零と扱える(生じていないとみなせる)線幅を有し、例えば電極11,12と同じ線幅を有している。
細幅部132は、電極11側の太幅部131と電極12側の太幅部131との間を接続するように形成されている。
また、細幅部132は、当該細幅部132の一部分に狭細部133を有している。狭細部133は、線路13に電流が流れたとき細幅部132よりも先に超伝導性が壊れるように、当該細幅部132よりも狭い線幅に形成されている。
電極11と電極12には、線路13に電流を流すための外部電源14が接続されている。
【0018】
線路13等を所定温度まで冷却しておき、外部電源14から定常電流を供給させて電極11,12間に超伝導電流を導通する。
線路13に電流が流れ始めて狭細部133で超伝導性が壊れるまでの期間においては、太幅部131が細幅部132の境界条件を与える。すなわち、ここではバンド間位相差が零になるような固定端が境界条件となる。このような固定端の境界条件では、バンド間位相差は線路13(細幅部132)の中に発生することはできない。
図1(B)に示したように、線路13に電流が流れることによって狭細部133で超伝導性が壊れると、壊れた部分(狭細部133)が細幅部132に対して境界条件を与える。すなわち、ここではバンド間位相差は固定されず、電流だけが流れ込む条件、あるいは流れ出す条件となる。このような条件は「自然境界条件」と呼ばれている。
【0019】
前述の自然境界条件ではバンド間位相差は固定されず、太幅部131と細幅部132が接続されている線路端では依然固定端の境界条件を与え、超伝導性が壊れた狭細部133と細幅部132が接続されている線路端で当該自然境界条件となる。
従って、バンド間位相差が図1(B)に示したように細幅部132の中に生じる。この状態から供給電流を低減して行き、狭細部133の超伝導性を回復させると、図1(C)に示したようにバンド間位相差が細幅部132の中に捕獲された状態になる。このバンド間位相差は、細幅部132の中で線路幅が同じである限り、細幅部132を進むにつれて一定の割合で回転する。すなわち、バンド間位相差の回転は細幅部132全体に広がっている。線幅が細い部分では若干速く回転するが、この回転発生に関して原理的に影響を及ぼすものではない。
【0020】
前述のように細幅部132全体に広がった回転に対する境界条件は、図1(C)に示した状態においては固定端となる。すなわち、回転の回数は2πの整数倍となり、固定端部分ではバンド間位相差がない状態になる。
2πの整数倍の回転が、固定端により細幅部132に捕獲されると、電流を遮断した場合でも、境界条件を変えることはできないので、回転が解けることはない。
非特許文献1に開示されているように、2πの回転を有するバンド間位相差は、有限の長さを持つソリトンとして安定状態になる。その結果、図1(D)に示したように、ソリトン200(バンド間位相差ソリトン)が細幅部132ならびに狭細部133内に生じる。
【0021】
次に計算機実験の結果を示す。
図2は、バンド間位相差の計算機実験の結果を示す説明図である。この図は、コヒーレント長の100倍の長さを持つ線路に電流を流したときの、バンド間位相差の計算機実験の結果を表している。なお、この計算機実験は、片方の端を固定端、他方の端を自然境界条件を与えた端として計算したものである。図2において、縦軸は自然境界条件を与えた端における位相差であり、横軸は電流密度である。
上記の計算機実験は、線路内での各バンドの超伝導電子対密度の電子密度は変わらないものとして計算した。この条件は、単バンド超伝導で用いられる計算の条件と同じである。
【0022】
上記の計算では、非特許文献9に開示されている式を多バンド超伝導に拡張した次の式を用いた。
【0023】
【数1】
【0024】
【数2】
【0025】
【数3】
【0026】
上記の(1)式において、fはヘルムホルツの自由エネルギー、f1、f2は各バンドのバンド内相互作用によるエネルギーであり、その内容は(2)式に示されている。
上記の(2)式において、αi、βiはギンツブルグ方程式の定数、2miは各バンドの電子対の有効質量、niは各バンドの電子対密度である。
上記の(3)式において、finterはバンド間相互作用を与え、γはバンド間相互作用の大きさであり、4γ/α1=0.005になる、としている。これは、典型的な多バンド型多成分超伝導である多層型高温超伝導体におけるパラメータと同じ程度になっている。
【0027】
また、上記の計算機実験においては、α1/α2は0.5、バンド間相互作用はなく、電流が流れていないときの電子対密度についてはバンド1とバンド2で同じ、としている。
(2)式のviは、各バンドにおける超伝導電子対の速度である。このとき超伝導電子対の力学的運動量は次の(4)式で与えられる。
【0028】
【数4】
【0029】
また、前述のように(1)式の最終項は磁場エネルギーである。このとき、線路13の細幅部132を流れる電流密度Jは各バンドを流れる電流密度Jiの和となる。
【0030】
【数5】
【0031】
【数6】
【0032】
線路13等を流れる電流密度は、バンド間相互作用がないときの臨界電流密度Jc(γ=0)で規格化されている。図2から、次の(7)式で示した関係で2π以上の回転が線路内(細幅部132内)に入っていることがわかる。
【0033】
【数7】
【0034】
全電流は、線路の幅に比例する。すなわち、臨界電流密度は、一定の電流を線路に流すときには、線路幅に反比例する。よって、線路の細い部分(図1の細幅部132)の幅を、例えば太い部分(図1の太幅部131)の0.8倍にすれば、次の(8)式で示された電流密度を流すことで、2π以上のバンド間位相差の回転を線路13の細幅部132に与えることができる。なお、この電流密度が狭細部133に流れると、当該狭細部133のみが臨界電流密度を超えた状態になり、図1(B)に「黒色」で着色表示した常伝導状態となる。
【0035】
【数8】
【0036】
狭細部133に流れていた電流、すなわち(8)式で示された電流密度を減流し、次の(9)式で示された電流密度に低減すると、常伝導状態となっていた狭細部133の超伝導性が復活する。
【0037】
【数9】
【0038】
狭細部133の超伝導性を復活させることにより、細幅部132ならびに狭細部133において2π以上の回転を捕獲する。このようにバンド間位相差の回転を捕獲した後、外部電源14から供給されている電流を遮断すると、ソリトン200(バンド間位相差ソリトン)を線路13(詳しくは細幅部132および狭細部133)に残すことができる。この計算機実験の結果から、バンド間位相差ソリトンを線路内に残すことが可能であることがわかった。
【0039】
以上、本発明に係るバンド間位相差ソリトンの発生方法の実施例について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、特許請求の範囲に記載の技術的事項の範囲内で様々な改変が可能であることは言うまでもない。
簡便な構成で、バンド間位相差ソリトンの発生が可能なことを実証したが、本発明は特許文献1〜4に示されたような、他の方法と組み合せることにより、量子コンピュータや通常のコンピュータなどの実現を容易にするものであり、本発明の意義は極めて大きいものがある。
【符号の説明】
【0040】
11,12電極
13線路
14外部電源
131太幅部
132細幅部
133狭細部
200ソリトン
図1
図2