【実施例】
【0035】
<実施例1>
スフィンゴシンとプロパナールをリン酸緩衝液に溶解混合し、100℃にて1時間加熱処理を行った。LC/MSにてスフィンゴシンのアミノ基とプロパナールのカルボニル基が結合した化合物の生成を確認した。シリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、純度95%の本実施例の酸化抑制剤(実施例品1)を得た。
【0036】
<実施例2>
バターセーラム粉末にエタノールを加え一晩浸漬した後、吸引ろ過してろ液を回収した。残渣をエタノールに一晩浸漬し、抽出を繰り返した。ろ液を濃縮した後、クロロホルム/メタノール/水(10:5:3、v/v/v)に溶解し、一晩液液分配を行った。下層のクロロホルム層を回収し、濃縮した。更に溶媒を完全に除去してバターセーラム脂質を得た。
【0037】
次に、液液分配と溶媒抽出法を用いてバターセーラム脂質から中性脂質の除去及び極性脂質の分離を行った。極性脂質画分に、多量のジエチルエーテルを加え、−20℃で一晩静置した。その後、ろ過し、ろ液を回収した。ろ液は濃縮し、完全に溶媒を除去し、スフィンゴ脂質画分として回収した。
【0038】
スフィンゴ脂質画分に多量のピリジンを加え、−20℃で一晩静置した。その後、ろ過し、ろ液を回収した。ろ液は濃縮し、完全に溶媒を除去し、スフィンゴミエリン(SPM)画分として回収した。得られたSPMに対して、塩酸を用いた酸加水分解を行った。分解物をシリカゲルカラムクロマトグラフィを用いて精製し、99%の高純度のジヒドロスフィンゴシンを得た。
【0039】
ジヒドロスフィンゴシンと2−ペンテナールをリン酸緩衝液に溶解混合し、100℃にて1時間加熱処理を行った。LC/MSにてジヒドロスフィンゴシンのアミノ基と2−ペンテナールのカルボニル基が結合した化合物の生成を確認した。シリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、純度90%の本実施例の酸化抑制剤(実施例品2)を得た。
【0040】
<試験例1>
実施例1及び実施例2で得られた各酸化抑制剤の酸化抑制効果について、酸化実験により評価を行った。実施例品1、実施例品2及び酸化抑制剤のコントロールとしてのα−トコフェロールそれぞれ(1mg)を魚油トリグリセリド(魚油TG)(99mg)と混合し、分析試料とした。なお、酸化抑制剤を含まないコントロールとして魚油TG(100mg)を用いた。
【0041】
分析試料を分析用バイアル瓶(5mL)に精秤した後、ブチルセプタムゴム及びアルミシールバイアルで栓をした。40℃、暗所にてインキュベートした後、一定時間ごとにバイアル瓶上部の空気40μLを採取して熱伝導度検出器(TCD)装置のGCに注入した。酸化に伴い空気中の酸素のピークが減少するので、酸素と窒素のピーク比の変化により脂質の酸化による酸素吸収量を算出した。各測定値の平均値の推移を
図3に示す。グラフの縦軸は残存酸素量(%)を、横軸は酸化時間(時間)を示す。実験に使用した魚油TGの脂肪酸組成及び分析条件を下に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
[GCの分析条件]
装置:島津GC−14B型ガスクロマトグラフ[島津製作所(株)]
インテグレーター:島津 C−R8A 型クロマトデータ処理装置[島津製作所(株)]
電圧機:AMP−7B[島津製作所(株)]
検出器:TCD
カラム:Molecular sieves−5A(60/80mesh;3m)
カラム温度:50℃
注入口温度:100℃
検出口温度:100℃
キャリアガス:ヘリウムガス
ヘリウム圧:50kPa
【0044】
魚油TGは20:5n−3(EPA)と22:6n−3(DHA)といった高度不飽和脂肪酸を多く含むため(表1)、極めて酸化されやすく、測定開始50時間経過後にはバイアル瓶の大半の酸素が酸化により消費された。一方、実施例品1又は実施例品2を魚油TGに添加した場合の酸素吸収速度は、無添加(魚油TGのみ)の場合のそれに比べて明らかに遅くなっており、測定開始後300時間後でも大部分の酸素が残存していた。これに対して、α−トコフェロールを魚油TGに添加した場合の酸素吸収速度は、無添加の場合のそれよりも遅いものの、実施例品1又は実施例品2を添加した場合のそれに比べて明らかに速かった。以上のことから、実施例品1又は実施例品2を魚油TGに添加した場合は優れた酸化抑制効果が得られることが明らかとなった。
【0045】
<実施例3>
ホエータンパク質濃縮物(WPC)の10%水溶液にプロテアーゼを作用させて得られた反応液をクロロホルム−メタノール(2:1)溶液で抽出した後、濃縮し、さらにアセトン抽出してリン脂質画分を得た。得られたリン脂質画分をシリカゲルクロマトグラフィーに供し、クロロホルム−メタノール溶液で段階抽出したものを凍結乾燥し、精製スフィンゴミエリンを得た。精製標品を薄層クロマトグラフィーにより分画し、ディットマー試薬で発色した後、デンシトメーターを用いて定量した。その結果、スフィンゴミエリン含有率は95.2%であった。
【0046】
スフィンゴミエリンに対して、塩酸を用いた酸加水分解を行った。分解物をシリカゲルカラムクロマトグラフィを用いて精製し、99%の高純度のジヒドロスフィンゴシンを得た。
【0047】
ジヒドロスフィンゴシンとプロペナールをリン酸緩衝液に溶解混合し、100℃にて1時間加熱処理を行った。LC/MSにてジヒドロスフィンゴシンのアミノ基とプロペナールのカルボニル基が結合した化合物の生成を確認した。シリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、純度92%の本実施例の酸化抑制剤(実施例品3)を得た。
【0048】
<実施例4>
スフィンゴミエリン5〜6mgに0.03MのCaCl
2を含む0.1M Tris緩衝液(pH7.4)1.5mlを加えた混合物を10秒間音波処理し、C.perfringens由来のホスホリパーゼC 3mgとジエチルエーテル1.5mlを加えた。混合物を激しく振り混ぜた後、室温で3時間、たびたび振り混ぜながら温置した。エーテル3mlを加え、混合物を振り混ぜ、遠心し、エーテル層を取り出した。混合物をエーテル3mlで再び抽出した。全エーテル抽出液を蒸留水で洗い、遠心し、微量の水を取り除くために窒素気流下にエーテル溶液を濃縮乾固させてセラミド混合物を得た。
【0049】
セラミド混合物4mgを1M KOH/メタノールの2mlと70℃で18時間還流し、加水分解した。次いでジエチルエーテル4mlと蒸留水2mlを加え、長鎖塩基をエーテル層に分配させ、これを回収し、濃縮乾固させた。この長鎖塩基をシリカゲルカラムクロマトグラフィを用いて精製し、99%の高純度のジヒドロスフィンゴシンを得た。
【0050】
ジヒドロスフィンゴシンとプロパナールをリン酸緩衝液に溶解混合し、100℃にて1時間加熱処理を行った。LC/MSにてスフィンゴシンのアミノ基とプロパナールのカルボニル基が結合した化合物(
図4の(A)(B)(C))の生成を確認した。シリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、純度92%の本実施例の酸化抑制剤(実施例品4)を得た。
【0051】
<実施例5>
フィトスフィンゴシンと2−ペンタノンをリン酸緩衝液に溶解混合し、100℃にて1時間加熱処理を行った。LC/MSにてフィトスフィンゴシンのアミノ基と2−ペンタノンのカルボニル基が結合した化合物の生成を確認した。シリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、純度89%の本実施例の酸化抑制剤(実施例品5)を得た。
【0052】
<実施例6>
ジヒドロスフィンゴシンとオクタン酸メチルをリン酸緩衝液に溶解混合し、100℃にて1時間加熱処理を行った。LC/MSにてジヒドロスフィンゴシンのアミノ基とオクタン酸メチルのカルボニル基が結合した化合物の生成を確認した。シリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、純度86%の本実施例の酸化抑制剤(実施例品6)を得た。
【0053】
<実施例7>
スフィンゴシンとヘキサン酸をリン酸緩衝液に溶解混合し、100℃にて1時間加熱処理を行った。LC/MSにてスフィンゴシンのアミノ基とヘキサン酸のカルボニル基が結合した化合物の生成を確認した。シリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、純度92%の本実施例の酸化抑制剤(実施例品7)を得た。
【0054】
<試験例2>
魚油に対する実施例品3〜7の酸化抑制効果について、過酸化物価(POV)の測定と官能評価により評価を行った。各実施例品(1mg)を魚油TG(99mg)と混合し、分析試料とした。なお、酸化抑制剤を含まないコントロールとして魚油TG(100mg)を用いた。分析試料を分析用バイアル瓶(5mL)に精秤した後、ブチルセプタムゴム及びアルミシールバイアルで栓をした。40℃、暗所にて2ヶ月インキュベートした。インキュベート後の試料を、POVの測定及び8名の風味パネルにより評価した。官能評価はコントロールとして用いた無添加の魚油の戻り臭を5点とし、点数を評価した。すなわち、点数が低いほうが戻り臭がなく、風味は良好であることを示す。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示されるように、保存2ヵ月後に無添加の魚油TGのPOVが1.5kg/meqであったのに対して、各実施例品を添加した魚油TGのPOVは0.4又は0.5kg/meqであった。また、無添加の魚油TGに比べて各実施例品を添加した魚油は戻り臭が抑えられていた。以上の結果から、魚油TGに各実施例品の酸化抑制剤を添加することで酸化安定性が向上し、魚油中の不飽和脂肪酸の酸化による戻り臭の生成を抑制し、風味劣化を防ぐ効果があることが明らかとなった。
【0057】
<試験例3>
酸化抑制剤の有効量を評価するために、各酸化抑制剤の量をそれぞれ0ppt(水準1)、0.1ppt%(水準2)、0.5ppt(水準3)、1ppt(水準4)とした4水準の試験試料を用いて、試験例1と同様の方法を用いて酸化安定性試験を行った。結果を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
表3に示されるように、魚油試料中の各実施例品の配合量が1ppt未満である水準1〜3では、100時間後の残存酸素量は無添加とほとんど差が認められなかった。このように、各実施例品の酸化抑制効果は1ppt以上の添加により発揮され、1ppt未満では十分な効果が得られない。
【0060】
<試験例4>
大豆油の光劣化に対する実施例品1〜4の酸化抑制効果について官能評価により評価を行った。実施例品1〜4(1mg)を大豆油TG(99mg)と混合し、分析試料とした。なお、酸化抑制剤を含まないコントロールとして大豆油TG(100mg)を用いた。分析試料を分析用バイアル瓶(5mL)に精秤した後、ブチルセプタムゴム及びアルミシールバイアルで栓をし、5℃のショーケース内(3500ルクス)にて7日間インキュベートした。インキュベート後の試料を8名の風味パネルにより評価した。官能評価はコントロールとして用いた無添加の大豆油の戻り臭を5点とし、点数を評価した。すなわち、点数が低いほうが戻り臭がなく、風味は良好であることを示す。結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4に示されるように、無添加の大豆油TGに比べて実施例品1〜4を添加した大豆油は戻り臭が抑えられていた。以上の結果から、大豆油TGに実施例品1〜4の酸化抑制剤を添加することで酸化安定性が向上し、大豆油中の不飽和脂肪酸の酸化による戻り臭の生成を抑制し、風味劣化を防ぐ効果があることが明らかとなった。