(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-114727(P2017-114727A)
(43)【公開日】2017年6月29日
(54)【発明の名称】α窒化ケイ素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/068 20060101AFI20170602BHJP
【FI】
C01B21/068 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-252209(P2015-252209)
(22)【出願日】2015年12月24日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公表日:平成27年10月13日及び14日 公表した場所:大阪南港 ATC(0’s南館6階) 大阪市住之江区南港北2−1−10 紛体工学会による秋期研究発表会
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109841
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 健史
(72)【発明者】
【氏名】秋山 友宏
(72)【発明者】
【氏名】衣 雪梅
(72)【発明者】
【氏名】牛 晶
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔太
(72)【発明者】
【氏名】パク−チョリ
(72)【発明者】
【氏名】パク−チーサン
(72)【発明者】
【氏名】コウ−ジャンミン
(72)【発明者】
【氏名】木下 喜裕
(57)【要約】
【課題】β窒化ケイ素の生成を抑制し、α窒化ケイ素を高い収率で生成することである。
【解決手段】α窒化ケイ素の製造方法であって、金属ケイ素と、窒素系反応ガスを用意し、α窒化ケイ素からβ窒化ケイ素に転移するのを抑制するβ化抑制剤を添加し、前記金属ケイ素と、窒素系反応ガスとを直接窒化させ、β窒化ケイ素の生成を抑制しつつ、α窒化ケイ素を得ることを含んでなる、製造方法により達成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α窒化ケイ素の製造方法であって、
金属ケイ素と、窒素系反応ガスを用意し、
α窒化ケイ素からβ窒化ケイ素に転移するのを抑制するβ化抑制剤を添加し、
前記金属ケイ素と、窒素系反応ガスとを直接窒化させ、
β窒化ケイ素の生成を抑制しつつ、α窒化ケイ素を得ることを含んでなる、製造方法。
【請求項2】
前記β化抑制剤が、前記直接窒化反応温度を、前記金属ケイ素の融点以上α窒化ケイ素からβ窒化ケイ素に転移する温度以下とするものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
β化抑制剤の沸点又は分解温度が、1,380℃以上1,520℃以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記金属ケイ素に対する前記β化抑制剤の配合比率は、1:10〜10:1である、請求項1〜3の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記β化抑制剤が、アルカリ金属及びその化合物、アルカリ土類金属及びその化合物、アンモニア、アンモニウム及びアンモニウム化合物、並びに尿素及びその誘導体の群から選択されてなる一種又は二種以上の混合物である、請求項1〜4の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記金属ケイ素と、前記β化抑制剤とを一緒に供給することを含んでなる、請求項1〜5の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記金属ケイ素の全表面に対する前記β化抑制剤の被覆率が10%以上となる、請求項1〜6の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記金属ケイ素と、前記β化抑制剤とを粉砕混合することを含んでなる、請求項1〜7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記混合が、ボールミル方法によるものである、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
α窒化ケイ素の製造装置であって、
金属ケイ素供給機と、
窒素系反応ガス供給機と、
α窒化ケイ素からβ窒化ケイ素に転移するのを抑制するβ化抑制剤供給機と、
反応器とを備えてなり、
前記反応器において、前記金属ケイ素と、窒素系反応ガスとを直接窒化させ、前記β化抑制剤がβ窒化ケイ素の生成を抑制しつつ、α窒化ケイ素を得ることを特徴とする、製造装置。
【請求項11】
前記β化抑制剤が、前記直接窒化反応温度を、金属ケイ素の融点以上α窒化ケイ素からβ窒化ケイ素に転移する温度以下とするものである、請求項10に記載の製造装置。
【請求項12】
β化抑制剤の沸点又は分解温度が、1,380℃以上1,520℃以下である、請求項10〜11に記載の製造装置。
【請求項13】
前記金属ケイ素に対する前記β化抑制剤の配合比率が、1:10〜10:1である、請求項10〜12の何れか一項に記載の製造装置。
【請求項14】
前記β化抑制剤が、アルカリ金属及びその化合物、アルカリ土類金属及びその化合物、アンモニア、アンモニウム及びアンモニウム化合物、並びに尿素及びその誘導体の群から選択されてなる一種又は二種以上の混合物である、請求項10〜13の何れか一項に記載の製造装置。
【請求項15】
前記金属ケイ素と、前記β化抑制剤とを一緒に供給することを含んでなる、請求項10〜14の何れか一項に記載の製造装置。
【請求項16】
前記金属ケイ素の全表面に対する前記β化抑制剤の被覆率が10%以上となる、請求項10〜15の何れか一項に記載の製造装置。
【請求項17】
前記金属ケイ素と、前記β化抑制剤とを粉砕混合することを含んでなる、請求項10〜16に記載の製造装置。
【請求項18】
前記混合が、ボールミル方法によるものである、請求項17に記載の製造装置。
【請求項19】
β化抑制剤であって、
金属ケイ素を直接窒化する際に、α窒化ケイ素からβ窒化ケイ素に転移するのを抑制するものであり、
前記直接窒化の反応温度を、金属ケイ素の融点以上α窒化ケイ素からβ窒化ケイ素に転移する温度以下とするものである、β化抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α窒化ケイ素の燃焼合成(自己燃焼反応)による製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化ケイ素(シリコンナイトライド:Si
3N
4)は、超硬質性、破壊高靱性、耐摩耗性、耐熱衝撃性、及び耐高温度性等の優れた機械的特性を有するものとして知られている。窒化ケイ素は、その優れた機械的特性から、エンジン及びガスタービン、ベアリングボール、グロープラグ、切削工具、機械工作装置等の原材料として着目され、利用されている。また、窒化ケイ素の焼結体は、その絶縁性、熱伝導性の高さから、IGBPやFET等、高電圧、高出力、又は高周波のパワーデバイス用途基板としての利用が考えられている。
【0003】
窒化ケイ素は、結晶構造が六方晶系である無機化合物であり、非酸化物セラミックスとしてよく知られている。また、窒化ケイ素の結晶相としては、低温度で安定するα窒化ケイ素と、高温度でα窒化ケイ素から転移するβ窒化ケイ素とが存在する。窒化ケイ素の焼結体としては、α窒化ケイ素の焼結体が好ましく、しかも、α窒化ケイ素を原材料として、高温下での焼結によりβ窒化ケイ素へ転移し、粒子成長が促進され、機械強度性、靱性及び熱伝導性が高くなることが知られている。
【0004】
窒化ケイ素材料の合成(製造)方法としては、主として、還元プロセスのイミド熱分解法、還元窒化法、直接窒化法、気相法等の合成方法が知られている(特許文献1:特開平6−48709)。
【0005】
イミド熱分解法及び還元窒化法は、複雑な還元処理を経るため、設備及びプロセスが複雑となる。また、一般的な直接窒化法では、3Si + 2N
2 = Si
3N
4の化学反応を実現させるために、1200℃〜1500℃の温度で数時間加熱する工程が必要とされ、その結果、大量の外部エネルギーと多くの反応時間が必要となり、製造装置及び製造工程が複雑化し、かつ、製造コストを増大させる。
【0006】
このため、外部エネルギーの低減、反応時間の短縮、製造装置の簡易化等を実現できる製造方法が検討され、例えば、燃焼合成製造方法が提案されている。この製造方法は、3Si + 2N
2 = Si
3N
4+ Q kJという、発熱反応を利用することから、外部エネルギーが必要ではなく、短時間に合成が可能であり、装置の簡易化、簡便化を実現するものとして着目されている(特許文献2:特開2015−81205)。
【0007】
確かに、燃焼合成による製造方法は、一度、窒化発熱反応による加熱が生じると、自己燃焼反応が生じ、生成物を得られることから、エネルギーコスト及び複雑な製造装置、反応制御等が不要であり、好ましい製造方法である。
【0008】
しかし、燃焼合成にあっては、反応温度が2,000℃以上となり、生成されたα窒化ケイ素の殆どが、β窒化ケイ素に転移し形成されることとなる。また、Si粒子の癒着により未反応Siの残留が発生し、その結果、α窒化ケイ素生成率を低下させる原因となる。
従って、現在、燃焼合成製造方法(装置)において、高収率のα窒化ケイ素を生成することが急務である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−48709号公報
【特許文献2】特開2015−81205号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明者等は、本発明時において、窒化発熱反応の反応制御を行うことにより、燃焼合成製造方法において、高い収率でα窒化ケイ素を製造することができるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づいてなされたものである。
【0011】
従って、本願発明は、α窒化ケイ素の(燃焼合成)製造方法であって、
金属ケイ素と、窒素系反応ガスを用意し、
α窒化ケイ素からβ窒化ケイ素に転移するのを抑制するβ化抑制剤を添加し、
前記金属ケイ素と、窒素系反応ガスとを直接窒化(燃焼)させ、
β窒化ケイ素の生成を抑制しつつ、α窒化ケイ素を得ることを含んでなるものである。
【0012】
また、本願発明の好ましい別の態様は、α窒化ケイ素の(燃焼合成)製造装置であって、
金属ケイ素供給機と、
窒素系反応ガス供給機と、
α窒化ケイ素からβ窒化ケイ素に転移するのを抑制するβ化抑制剤供給機と、
反応器とを備えてなり、
前記反応器において、前記金属ケイ素と、窒素系反応ガスとを直接窒化(燃焼)させ、前記β化抑制剤がβ窒化ケイ素の生成を抑制しつつ、α窒化ケイ素を得ることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の更なる好ましい態様によれば、β化抑制剤であって、
金属ケイ素を直接窒化する際に、α窒化ケイ素からβ窒化ケイ素に転移するのを抑制するものであり、
前記直接窒化の反応温度を、金属ケイ素の融点以上α窒化ケイ素からβ窒化ケイ素に転移する温度以下とするものである、β化抑制剤を提案することができる。
【0014】
本発明によれば、窒化ケイ素の(燃焼合成)製造方法(装置)において、燃焼合成中、β窒化ケイ素に転移することを高い次元において抑制し、かつ、所望のα窒化ケイ素を高い収率で得られることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明による燃焼合成製造方法を実施できる本発明による燃焼合成装置の概略図である。
【
図2】
図2は、実施例の生成物のXRD分析結果を表すものである。
【
図3】
図3は、実施例3の原材料を粉砕した後のSEM−EDS写真である。
【
図4】
図4は、実施例等の原材料粉砕時間と、β化抑制剤量と、α窒化ケイ素の含有率の相関関係を調べたグラフである。
【
図5】
図5は、実施例6の原材料粉砕時間と、β化抑制剤量と、α窒化ケイ素の含有率の相関関係を調べたグラフである。
【
図6】
図6は、比較例1の原材料粉砕時間と、β化抑制剤量と、α窒化ケイ素の含有率の相関関係を調べたグラフである。
【0016】
〔図面の中の符号の説明〕
1:反応容器
2:原材料
3:反応器の圧力計
4:金属又は炭素のフォイル又は棒
5:反応器
7:窒素系ガス供給機
9:真空装置
11:循環冷却器
13:ヒータ或いは電極(電熱器)
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔製造方法〕
(原料)
本発明は、α窒化ケイ素の(燃焼合成)製造方法であり、金属ケイ素と、窒素系反応ガスを原材料として用いる。窒素系ガスは、主として、窒素ガスである。
【0018】
(β化抑制剤)
β化抑制剤を使用する。β化抑制剤は、α窒化ケイ素からβ窒化ケイ素に転移するのを抑制するものである。本発明にあっては、β化抑制剤を添加し、α窒化ケイ素からβ窒化ケイ素に転移する温度以下に反応温度を制御することが好ましい。通常、常態において、α窒化ケイ素からβ窒化ケイ素へ相転移する温度は、約1,500℃程度である。従って、この温度以上とならないように、燃焼合成の反応温度を制御することが好ましい。
【0019】
より好ましい態様によれば、また、β化抑制剤は反応中分解或いは昇華により、反応熱を消費し、製品にも残さない又は除去しやすいものがよい。従って、β化抑制剤は沸点または分解温度が、Si金属の融点(約1,400℃前後、±20℃程)以上β化相転移温度(約1,500℃前後、±20℃程)以下の範囲のものがよい。より好ましくは、β化抑制剤は沸点または分解温度が、1,410℃以上1,500℃以下のものである。Si金属の融点以上のβ化抑制剤を使用することにより、燃焼合成反応を十分実行することができ、かつ、β化相転移温度以下の温度であることにより、β化相転移を抑制することが可能となる。ここで、「分解温度」とは、本発明においては、物質そのものの形態変化のみでなく、構造そのものが変化し、多くはより小さな元素集合体になる温度を意味するものとする。
【0020】
さらに好ましくは、β化抑制剤は、原料である金属ケイ素の量との関係でその配合量を定めてよい。例えば、金属ケイ素に対するβ化抑制剤の配合比率は、好ましくは1:10〜10:1であり、好ましくは1.2:1であり、より好ましくは1:2〜1:1である。
【0021】
β化抑制剤が、アルカリ金属及びその化合物、アルカリ土類金属及びその化合物、アンモニア、アンモニウム及びアンモニウム化合物、並びに尿素及びその誘導体の群から選択されてなる一種又は二種以上の混合物が好ましくは使用される。アルカリ金属及びその化合物の具体例としては、リチウム、ナトリウム又はカリウム及びこれらの塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等が好ましくは例示され、アルカリ土類金属及びその化合物の具体例としては、マグネシウム、カルシウム及びこれらの塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等が好ましくは例示される。アンモニウム及びアンモニウム化合物としては、アンモニウム塩及び第4級アンモニウム化合物が例示され、アンモニウムの塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等が好ましくは例示される。尿素誘導体としては、フェニル尿素、ベンジル尿素、N−エチル−N’−フェニル尿素、エトキシフェニル尿素、N,N’−ジフェニル尿素、テトラフェニル尿素、N−ベンゾイル尿素等が例示される。本発明にあっては、β化抑制剤は、塩化ナトリウム、塩化アンモニウムが好ましくは利用される。
【0022】
(混合)
本発明にあっては、金属ケイ素と、β化抑制剤とを別々に供給してもよく、好ましくは両者を一緒に反応器に供給することが好ましい。本発明の好ましい態様によれば、金属ケイ素と、β化抑制剤とを混合して、好ましくは粉砕混合して一緒に供給することが好ましい。その際に金属ケイ素表面にβ化抑制剤が広く分布していることが好ましい。より好ましくは金属ケイ素表面のうちβ化抑制剤が存在する部分の比率(被覆率)が10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上であることが好ましい。
【0023】
被覆率は以下の式によって計算することができる。式中、β化抑制剤については、反応等を考慮して表面に残存する元素に基づいて計算してもよい。例えば、NaClの場合には、Clの存在部分として測定してもよい。
被覆率=(β化抑制剤の存在部分)/〔(金属ケイ素の存在部分)+(β化抑制剤の存在部分)〕
【0024】
(粉砕・分散)
また、本発明のより好ましい態様によれば、金属ケイ素及びβ化抑制剤とを混合した後に粉砕ことが好ましい。金属ケイ素を粉砕することにより、表面積が増えるとともに、粉砕によるエネルギー、結晶欠陥、歪等が金属ケイ素に付与されて、窒素ガスとの反応性が向上する。また、β化抑制剤を粉砕することにより、粒径を微細化でき、より広範囲かつ均一に金属ケイ素表面に付着させることができ、α化が促進されるので好ましい。
【0025】
本発明のさらに好ましい態様によれば、粉砕した金属ケイ素のメディアン径(d50)が、0.0超過20.0μmであり、好ましくは1.0〜10.0μmであり、より好ましくは、2.0〜5.0μmである。メディアン径(d50)は、例えば、粒度分布測定装置(例えば、HORIBA社製、LA−950)によって求めることができる。
【0026】
混合は、ミキサー、混合機、混錬機等により、或いは、乳鉢、ボールミル、遊星ミル、ジェットミルなどを用いて十分に行ってよく、本発明にあっては、ボールミル等によって粉砕/混合(好ましくは分散)されてなることが好ましい。特に、金属ケイ素と、β化抑制剤との混合は、均一に分散するように混合されることが好ましい。β化抑制剤が、金属ケイ素に均一に分散されるように混合(配合)されることにより、β化抑制剤が、金属ケイ素に均一に存在し、一種の被膜材のようになり、金属ケイ素から、α窒化ケイ素を高収率で生成し、かつ、生成されたα窒化ケイ素のβ化を極めて高い次元において抑制しているものと思われる。
【0027】
(開始剤・融着防止剤)
本発明にあっては、開始剤(着火剤)として、アルミニウム、マグネシウムを使用することが可能であり、或いは開始剤使用なしで、原料全体加熱するのもできる。また、本発明にあっては、融着防止剤として、原材料とは別に、α窒化ケイ素も用いることができる。融着防止剤を添加することにより、Si粒子の癒着により未反応Siの残留物が発生することを有意に防止することが可能となる。
【0028】
〔製造装置〕
本発明にあっては、α窒化ケイ素の(燃焼合成)製造装置を提案することができる。
本発明にあっては、反応容器、好ましくは、真空特性、耐圧力耐高温特性を有した反応容器を用いてよい。燃焼合成を行うのは、反応器であってよくその形状は問わず、板状のものであっても、球状、カプセル状、凹凸状であってもよく、その内部に原料を供給し、封印して加圧加熱するタイプのものであってもよい。好ましくは、坩堝を用いる。金属ケイ素供給機及びβ化抑制剤供給機は、それぞれ、別々であってもよいが、好ましくは、金属ケイ素とβ化抑制剤とを混合して供給する場合には同一の供給機であることが好ましい。供給機の供給手段は、例えば、反応器に直接導入する手段、反応容器内に、外部供給機器(パイプ等)を導入し、供給する等のいずれの方法であってよい。
また、窒素系反応ガス供給機は、反応容器内に、外部供給機器(パイプ等)であってよい。供給に際しては、不活性ガス等のキャリアガス等を併用してもよい。さらに、反応器を加熱するヒータ(電子対等)を備えてよく、また、反応容器には、冷却水を循環させてもよい。
【0029】
〔好ましい実施態様〕
本発明の製造方法及び製造装置は、
図1を用いて説明することができる。
(1) 反応容器1には、原材料2である金属ケイ素及びβ化抑制剤混合物が、燃焼合成される反応器5に供給される。反応器5は、一体構成のものであってもよく、上下2部等の多部構成であってよい。上下2部構成のものとすることにより、原材料2を密封し加圧加熱することができる。反応器5は、坩堝、好ましくはグラファイト製坩堝を使用することができる。
【0030】
(2) 反応器5に原材料2(反応後は生成物2)を供給した後、反応容器1には、外部の窒素系ガス供給機7及びキャリアガス供給機(図示しない)から、窒素系ガスを供給し、反応容器1内を、窒素系ガスを包含する非酸化性の雰囲気とする。この際、反応容器1内では加圧を行ってよく、加圧は、反応促進及び加熱温度等を考慮して適宜定めることができる。加圧する場合には、1気圧以上、10気圧以下程度に調整することが可能である。反応容器1の圧力は、圧力系3によってモニターできる。
また、本発明の好ましい態様によれば、窒素系ガスを供給する際には、反応容器1内において、真空装置9を用いて、真空状態として、酸素不存在を確実に実行しておくことが好ましい。
【0031】
(3) 窒素系ガスを供給した後、反応器5において、燃焼合成(自己燃焼反応)を開始することができる。燃焼合成は、自己燃焼を実現することができるものであれば、何れによっても行うことができる。原材料2に直接又は周辺に、開始剤(着火剤:アルミニウム、マグネシウム)を添加してカーボンフォイル4に数十秒通電加熱し、燃焼反応を生じさせる方法(
図1に示した態様)、原材料2全体的に加熱する方法、カーボンヒータ、タングステンヒータ、電熱等のヒータ13等により、原材料2の一部を局所的に加熱する方法、電離放射線、レーザー光等のエネルギー源により原材料2の一部を局所的に加熱する方法等が挙げられる。反応器5の上面等に、着火を促進するために、金属又は炭素フォイルまたは棒等2を備えてもよい。反応器5では、燃焼合成が促進されて、α窒化ケイ素からβ窒化ケイ素へ(相)転移しないように、β化抑制剤が原材料2として混合(及び分散)されてなる。本発明の好ましい態様によれば、反応温度をモニターするための機器(図示しない)を設定してもよく、また、反応容器1の反応温度を調整するために、循環冷却器11を使用してもよい。
【0032】
(4) 燃焼合成終了後、前記反応器5おいて、β窒化ケイ素の生成を抑制しつつ、高い収率でα窒化ケイ素を生成物として得ることができる。
【0033】
〔実施態様〕
(原材料)
原料:Si粉末(純度99.9%、平均粒径約5μm)
β化抑制剤:NaCl粉末(純度99.9%)
β化抑制剤:NH
4Cl粉末(純度99.9%)
融着防止剤:αSi
3N
4粉末(純度99.9%、平均粒径約5μm):20質量%(固定量)
【0034】
〔実施例1〕
図1に示す製造装置を用いた。先ず、Si粉末70質量%、NaCl粉末10質量%、αSi
3N
4粉末20質量%を、遊星ボールミルを使用して、ψ10mmのアルミナボールでボールと原材料との質量比で10:1として3分〜120分混合した。混合した原材料をグラファイト製坩堝に入れて、N
2(純度99.99%、1MPa)雰囲気下で、燃焼合成を行った。燃焼合成中、燃焼中心反応温度は、W−Reタイプ熱電対を用いて測定し、モニタリングした。反応終了後、生成物を得た。
【0035】
〔実施例2〕
NaCl粉末を20質量%とした以外は、実施例1と同様にして、生成物を得た。
【0036】
〔実施例3〕
NaCl粉末を30質量%とした以外は、実施例1と同様にして、生成物を得た。
【0037】
〔実施例4〕
NaCl粉末を33質量%とした以外は、実施例1と同様にして、生成物を得た。
【0038】
〔実施例5〕
NaCl粉末を36質量%とした以外は、実施例1と同様にして、生成物を得た。
【0039】
〔実施例6〕
NaCl粉末の代わりに、NH
4Cl粉末を5質量%とした以外は、実施例1と同様にして、生成物を得た。
【0040】
(比較例1)
NaCl粉末を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、生成物を得た。
【0041】
〔評価試験〕
(1)評価1:定量分析
実施例等の原料粉砕15分後の生成物の構成相は、XRDで同定し定量分析した。その結果は、
図2に示した通りであった。
図2は、異なるNaCl添加のXRD結果を示すものであり、N
10,
20, ...は原料にNaClを20,30, ... mass%で添加したことを示す。
図2に示されている通り、NaCl量の増加とともにα量は増加し、NaCl36mass%で、α量は80.6mass%と極めて高い収率であった。β化抑制剤を添加することにより、β窒化ケイ素の発生を十分抑制し、α窒化ケイ素を高い次元において製造できることが理解された。
【0042】
(2)評価2:β化抑制剤の分散効果
実施例3の原材料を異なる時間を粉砕し、その形状をSEMにより観察し、SEM−EDS(JEOL社製JSM−7000F)により元素分析した。実施例3の結果は、
図3に示した通りであった。
図3は、実施例3の原材料を粉砕した後のSEM−EDS写真である。写真中、青がSiであり、緑がClである(別途、提出物件により、カラー写真を提出する)。
このSEM−EDS写真の結果から、粉砕時間の増加に伴い、粒径が減少し、 NaClは全体に分散したことが理解された。
【0043】
(3)評価3:被覆率
上記評価2に基づいて、
図3の結果を基づいて、被覆率を算出した。上記SEM−EDS写真を画像処理し、Si及びClの存在部分の面積を算出し、Si及びClの存在部分の面積に対するClの存在部分の面積を被覆率として算出した。算出は、画像処理ソフトWinRoof(二次元画像解析ソフトウェア:三谷商事株式会社製)によって求めた。その結果は下記表1に示した通りであった。
【0045】
(4)評価3:β化抑制剤と、α窒化ケイ素の含有率の相関関係
実施例等の原材料粉砕時間と、β化抑制剤量と、α窒化ケイ素の含有率の相関関係を調べ、その結果は、
図4に示した通りであった。縦軸がα窒化ケイ素の含有率であり、横軸が原材料粉砕時間であり、グラフ中は、実施例1乃至実施例3のβ化抑制剤量を示す。
図4の結果から、NaCl添加量と、原料粉砕時間とは、α窒化ケイ素生成量に依存することが明らかに理解された。
【0046】
(5)評価4:NH
4Cl添加の効果
実施例6と比較例1の結果は、
図5及び
図6に示した通りであった。
図5及び
図6の結果から、NH
4Cl添加を5重量%添加したものは、α窒化ケイ素が約21%を得られたが、比較例1はβ窒化ケイ素が殆ど生成された。
【0047】
〔評価結果〕
β窒化ケイ素抑制剤を添加することにより、燃焼合成段階において、α窒化ケイ素がβ窒化ケイ素に相転移することを有効に抑制することができ、その結果、α窒化ケイ素が高い収率で得られた。また、β窒化ケイ素抑制剤と、ケイ素とを十分に混合し、粉砕時間を十分に行い、或いは、混合・(均一)分散させることにより、α窒化ケイ素からβ窒化ケイ素に相転移することを抑制することができた。