【課題】二酸化炭素の水素化反応が均一系の液相で行われ、しかも、反応後は不均一系のように容易に分離・精製することができ、さらに、効率よく一酸化炭素を製造することができる触媒および方法を提供する。
【解決手段】多孔質固体粒子の外表面および内表面の少なくとも一部にルテニウム化合物および融点が250℃以下の塩類の担持物を有する触媒組成物。前記塩類の少なくとも一部は、アニオン成分がハロゲン化物イオンである塩類である。前記触媒は、前記塩類の融点以上の温度で実施される二酸化炭素と水素から一酸化炭素を生成する反応に用いる触媒である。前記組成物の存在下、250℃以下、かつ前記塩類の融点以上の温度において、二酸化炭素と水素とを反応させて一酸化炭素を生成させる、一酸化炭素の製造方法。
前記ハロゲン化物イオンが、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン及びヨウ化物イオンから成る群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
前記塩類のアニオン成分が、アセテートアニオン、トリフルオロアセテートアニオン、メタンスルホネートアニオン、トリフルオロメタンスルホネートアニオン、ビストリフルオロメタンスルホニルアミドアニオン、テトラフルオロボレートアニオン、ヘキサフルオロホスホネートアニオン、およびジシアノアミドアニオンから成る群から選ばれる少なくとも1種のアニオンをさらに含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
前記塩類のアニオン成分が、トリフルオロメタンスルホネートアニオンおよび/またはビストリフルオロメタンスルホニルアミドアニオンをさらに含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
前記塩類のカチオン成分がイミダゾリウムカチオン、アンモニウムカチオン、およびホスホニウムカチオンから成る群から選ばれる少なくとも1種のカチオンである請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
多孔質固体粒子の外表面および内表面の少なくとも一部にルテニウム化合物および融点が250℃以下の塩類(但し、前記塩類の少なくとも一部は、アニオン成分がハロゲン化物イオンである塩類である)の担持物を有する組成物の存在下、250℃以下、かつ前記塩類の融点以上の温度において、二酸化炭素と水素とを反応させて一酸化炭素を生成させる、一酸化炭素の製造方法。
【背景技術】
【0002】
化学産業において一酸化炭素は重要な原料に一つである。例えば、ヒドロホルミル化反応(オキソ反応)は原料の一つとして一酸化炭素を利用する。この反応により年間1000万トン以上もの化学品が製造されている。しかしながら、一酸化炭素は毒性が強いため、一酸化炭素を利用するプロセスを実施可能な企業は限られている。そこで、一酸化炭素に比べて毒性が極めて低く、炭素源として取り扱いが容易な二酸化炭素の水素化を利用して一酸化炭素原料をオンサイトで製造し、次の反応に供給することが研究されてきている。
【0003】
二酸化炭素の水素化による一酸化炭素の製造方法としては、各種の金属や金属酸化物、金属硫化物等を触媒として用いる方法が知られており、このような触媒を用いた方法による特許出願や報告が多数なされている。具体例として非特許文献1には銅/酸化亜鉛を触媒とした例、非特許文献2に酸化鉄を触媒とした例を挙げる。これらの触媒を用いる反応には、通常200〜500℃程度の高い温度が必要である。
【0004】
一方、析出沈殿法で作製した金/酸化チタン触媒は100℃程度の低温下において、銅/酸化亜鉛/酸化アルミニウム触媒と比較して反応を約4倍加速することが報告されている(非特許文献3)。
【0005】
これらの方法においては、触媒は反応条件下ではいずれも固体の状態であるので、水素化反応は気固不均一系で行われる。
【0006】
上記の気固不均一系での水素化反応は、金属や金属酸化物、金属硫化物等の触媒を担体上に担持させて実施するが、二酸化炭素の水素化による一酸化炭素の生成反応は吸熱反応であり、気固不均一系での吸熱反応は、反応器の温度管理が難しく、吸熱により触媒表面の温度が低下すると反応速度の減少を招くという問題点がある。
【0007】
そこで本発明者らは、二酸化炭素の水素化反応を液相で均一系の反応を行うことを考えた。具体的には、ルテニウムカルボニル錯体と塩素化合物との組み合わせからなる均一系液相反応触媒の存在下に二酸化炭素を水素化して、一酸化炭素を製造する二酸化炭素接触水素化法につき特許出願を行った(特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1に記載の二酸化炭素接触水素化法は、均一系の液相で行われるので、温度管理が容易である。さらに、ルテニウムカルボニル錯体と塩素化合物との組み合わせからなる均一系液相反応触媒を用いるため、160℃前後の比較的低い温度条件であっても円滑に二酸化炭素の水素化反応が進行し、しかも、副生成物の生成量が少ないという優れた効果を奏するものである。
【0011】
しかしながら、上記の二酸化炭素接触水素化法は、均一液相系であるため、従来の不均一系触媒の分離・精製のしやすさという利点が損なわれている。また、用いる有機溶媒による生成ガスへの汚染も問題である。
【0012】
上記のような背景下において、本発明は、二酸化炭素の水素化反応が均一系の液相で行われ、しかも、反応後は不均一系のように容易に分離・精製することができ、さらに、効率よく一酸化炭素を製造することができる触媒および方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下の通りである。
[1]
多孔質固体粒子の外表面および内表面の少なくとも一部にルテニウム化合物および融点が250℃以下の塩類の担持物を有する触媒組成物であって、
前記塩類の少なくとも一部は、アニオン成分がハロゲン化物イオンである塩類であり、かつ
前記触媒は、前記塩類の融点以上の温度で実施される二酸化炭素と水素から一酸化炭素を生成する反応に用いる触媒である、前記組成物。
[2]
前記ルテニウム化合物と塩類の質量比(ルテニウム化合物:塩類)は0.01:10〜1:0.1の範囲である[1]に記載の組成物。
[3]
前記多孔質固体粒子が、シリカ、アルミナ、チタニア、または炭素から成る群から選ばれる少なくとも1種の粒子である[1]または[2]に記載の組成物。
[4]
前記ハロゲン化物イオンが、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン及びヨウ化物イオンから成る群から選ばれる少なくとも1種である[1]〜[3]のいずれか1項に記載の組成物。
[5]
前記ハロゲン化物イオンが、塩化物イオンである[1]〜[3]のいずれか1項に記載の組成物。
[6]
前記塩類のアニオン成分が、アセテートアニオン、トリフルオロアセテートアニオン、メタンスルホネートアニオン、トリフルオロメタンスルホネートアニオン、ビストリフルオロメタンスルホニルアミドアニオン、テトラフルオロボレートアニオン、ヘキサフルオロホスホネートアニオン、およびジシアノアミドアニオンから成る群から選ばれる少なくとも1種のアニオンをさらに含む[1]〜[5]のいずれか1項に記載の組成物。
[7]
前記塩類のアニオン成分が、トリフルオロメタンスルホネートアニオンおよび/またはビストリフルオロメタンスルホニルアミドアニオンをさらに含む[1]〜[5]のいずれか1項に記載の組成物。
[8]
前記塩類のカチオン成分がイミダゾリウムカチオン、アンモニウムカチオン、およびホスホニウムカチオンから成る群から選ばれる少なくとも1種のカチオンである[1]〜[7]のいずれか1項に記載の組成物。
[9]
前記ルテニウム化合物が分子内にカルボニル配位子を有するルテニウム錯体である[1]〜[8]のいずれか1項に記載の組成物。
[10]
前記多孔質固体粒子は、比表面積が80m
2/g以上である[1]〜[9]のいずれか1項に記載の組成物。
[11]
前記多孔質固体粒子は、平均粒子径が、1〜1000μmの範囲である[1]〜[10]のいずれか1項に記載の組成物。
[12]
多孔質固体粒子の外表面および内表面の少なくとも一部にルテニウム化合物および融点が250℃以下の塩類(但し、前記塩類の少なくとも一部は、アニオン成分がハロゲン化物イオンである塩類である)の担持物を有する組成物の存在下、250℃以下、かつ前記塩類の融点以上の温度において、二酸化炭素と水素とを反応させて一酸化炭素を生成させる、一酸化炭素の製造方法。
[13]
前記反応は、溶媒の不存在下で行う、[12]に記載の製造方法。
[14]
前記反応が、80℃以上の温度で行われる、[12]又は[13]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の二酸化炭素の水素化による一酸化炭素の製造方法を用いれば、各種一酸化炭素利用反応において二酸化炭素を一酸化炭素の代替として利用することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<触媒組成物>
本発明は、多孔質固体粒子の外表面および内表面の少なくとも一部にルテニウム化合物および融点が250℃以下の塩類の担持物を有する触媒組成物である。前記塩類の少なくとも一部は、アニオン成分がハロゲン化物イオンである塩類である。前記触媒は、前記塩類の融点以上の温度で実施される二酸化炭素と水素から一酸化炭素を生成する反応に用いる触媒である。
【0017】
本発明の触媒組成物は、多孔質固体粒子を担体とし、その外表面および内表面の少なくとも一部に、ルテニウム化合物および融点が250℃以下の塩類を有する。
【0018】
多孔質固体粒子は、前記担持物に対して実質的に不活性な物質からなる固体粒子であって、多孔質の物であれば、特に制限はない。多孔質固体粒子は、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、または炭素から成る群から選ばれる少なくとも1種の粒子であることができる。
【0019】
多孔質固体粒子の多孔質(多孔性)は、触媒の性能を考慮し、かつ担持物を担持する空間を確保するという観点から適宜決定される。例えば、比表面積が80m
2/g以上であることが、担持物を担持する空間を確保し、かつ担持物を担持した表面の面積を確保して、良好な性能の触媒を提供するという観点から好ましい。多孔質固体粒子の比表面積は、好ましくは100m
2/g以上、より好ましくは150m
2/g以上であり、さらに好ましくは200m
2/g以上である。一方、比表面積が大きくなり、細孔の内径が小さくなりすぎると、担持物を担持する空間を確保しにくくなる傾向がある。この点を考慮して、多孔質固体粒子の比表面積の上限は、例えば、好ましくは500m
2/g以下、好ましくは400m
2/g以下、より好ましくは300m
2/g以下である。但し、これらの数値範囲に限定される意図ではなく、また担持物の種類や担持量なども考慮して、適宜決定できる。
【0020】
多孔質固体粒子の粒子径は、使用する反応系や反応装置の構造等を考慮して適宜決定できる。多孔質固体粒子の粒子径は、例えば、平均粒子径が、1〜1000μmの範囲であることができる。但し、この範囲未満またはこの範囲を超える大きさであることを排除する意図ではない。また、多孔質固体粒子は、粒子状物であることもできるが、粒子状物以外に、成形体(例えば、ハニカム状等)であることもできる。
【0021】
多孔質固体粒子の外表面および内表面の少なくとも一部に、ルテニウム化合物および融点が250℃以下の塩類を担持する。多孔質固体粒子の内表面の少なくとも一部にルテニウム化合物および塩類が担持されていれば、外表面にはルテニウム化合物および塩類は担持されていなくてもよい。好ましくは、多孔質固体粒子の内表面の少なくとも一部および外表面の少なくとも一部にルテニウム化合物および塩類が担持されている。本発明の触媒組成物は、二酸化炭素と水素とを反応させて一酸化炭素を生成させる反応に用いられ、この反応は、前記塩類の融点以上の温度で実施され、好ましくは250℃以下の温度において行われる。この一酸化炭素の製造方法において、上記融点が250℃以下の塩類は、融点以上の温度となれば、液相を呈する、即ち、溶融塩となる。この塩類中に含まれるルテニウム化合物が、触媒として機能する。但し、塩類は、反応では、液相を呈するが、多孔質固体粒子に担持されているために、反応生成物等からの分離も容易である。塩類の融点は、用いるルテニウム化合物の種類、一酸化炭素生成反応の温度条件、多孔質固体粒子の種類等を考慮して適宜決定できる。
【0022】
塩類は、融点が250℃以下の塩類である。塩類の少なくとも一部は、アニオン成分がハロゲン化物イオンである塩類である。ハロゲン化物イオンは、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン及びヨウ化物イオンから成る群から選ばれる少なくとも1種である。フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン及びヨウ化物イオンは、それぞれフッ素イオン(F
-)、塩素イオン(Cl
-)、臭素イオン(Br
-)及びヨウ素イオン(I
-)と同義である。ハロゲン化物イオンは、好ましくは塩化物イオンである。塩類は、アニオン成分がハロゲン化物イオンである塩類に加えて、アニオン成分が、例えば、アセテートアニオン、トリフルオロアセテートアニオン、メタンスルホネートアニオン、トリフルオロメタンスルホネートアニオン、ビストリフルオロメタンスルホニルアミドアニオン、テトラフルオロボレートアニオン、ヘキサフルオロホスホネートアニオン、及びジシアノアミドアニオンなどから成る群から選ばれる少なくとも1種のアニオンである塩類を含むことができ、トリフルオロメタンスルホネートアニオンおよび/またはビストリフルオロメタンスルホニルアミドアニオンであることが好ましい。なお、アニオン成分がハロゲン化物イオン以外の塩類は、反応温度下で液体状態となる塩類であれば、上記の構造に限定するものではない。
【0023】
塩類のカチオン成分は、例えば、イミダゾリウムカチオン、アンモニウムカチオン、およびホスホニウムカチオンから成る群から選ばれる少なくとも1種のカチオンであることができる。
【0024】
融点が250℃以下であり、前記のようなアニオンおよびカチオン成分からなる塩類は、イオン液体またはイオン性液体と呼ばれることもあり、市販品が多数存在する。
【0025】
カチオン成分がイミダゾリウムカチオンである塩類の具体例としては、以下の化合物を挙げることができる。但し、これらの化合物はあくまでも例示であり、これらの化合物に限定される意図ではない。
1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムクロリド([C
4mim]Cl)(融点68.8℃)、
1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート([C
4mim][TfO])(融点16.4℃)、
1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート([C
4mim]PF
6)(融点10.4℃)、
1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート([C
4mim]BF
4)(融点−17℃)、
1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムアセテート([C
4mim][AcO])(融点−20℃)、
1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニルアミド([C
4mim][TFSA])(融点−4.9℃)
【0026】
カチオン成分がイミダゾリウムカチオンである塩類としては、上記以外に、例えば、以下の物を挙げることできる。
1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムジシアノアミド([C
4mim][DCA])(融点−6℃)
1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムチオシアネート([C
4mim][SCN])(融点−28.6℃)
1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムメタンスルホネート([C
4mim][MSA])(融点72℃)
【0027】
カチオン成分がアンモニウムカチオン(ピロリジニウムカチオンを含む)である塩類の代表例としては、以下の化合物を挙げることかできる。
ジエチルメチル(2−メトキシエチル)メチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド ([Deme][TFSA])(融点−91℃)
1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド([P14][TFSA])(融点−15℃)
【0028】
カチオン成分がホスホニウムカチオンである塩類の代表例としては、以下の化合物を挙げることかできる。
トリエチルドデシルホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド([P
222(12)][TFSA])(融点=13℃)
【0029】
前記塩類のアニオン成分は、好ましくは、ハロゲン化物イオン、例えば、塩化物イオンとアセテートアニオン、トリフルオロアセテートアニオン、メタンスルホネートアニオン、トリフルオロメタンスルホネートアニオン、ビストリフルオロメタンスルホニルアミドアニオン、テトラフルオロボレートアニオン、ヘキサフルオロホスホネートアニオン、およびジシアノアミドアニオンから成る群から選ばれる少なくとも1種のアニオンの混合系であることが、下記の観点で好ましい。前記混合系であることで、混合系の塩類が融点以上の温度に置かれたとき(反応時)にイオン液体層の粘度が低下するという効果と、共存するルテニウムウ化合物の触媒活性を強化する効果とが得られる。塩化物イオン等のハロゲン化物イオンを含む塩類とその他のアニオン成分を含む塩類との比率(ハロゲン化物イオンを含む塩類:その他のアニオン成分を含む塩類)(質量比)は、その他のアニオン成分を含む塩類の種類にもよるが、例えば、100:1〜1000の範囲、好ましくは100:2〜500の範囲、より好ましくは100:10〜200の範囲である。
【0030】
前記ルテニウム化合物は、ルテニウムウ化合物であれば特に限定はなく、例えば、分子内にカルボニル配位子を有するルテニウム錯体であることができる。ルテニウム錯体は、例えば、COのみを配位子とするRu(CO)
3、Ru(CO)
12の他に、COと共にハロゲン、水素、ホスフィンなどを配位子とするもの、例えば、[RuX
2(CO)
3]
2、Ru
4X
4(CO)
12、Ru
4H
4(CO)
12、Ru(CO)
2(PPh
3)
3等であることができる。ここで、Xはハロゲン、PPh
3はホスフィンである。これらの中では、Ru
3(CO)
12が特に好ましい。これらのルテニウムウ化合物は、市販品を入手することが可能であり、公知の方法に従って、調製することも可能である。
【0031】
前記ルテニウム化合物と塩類の質量比(ルテニウム化合物:塩類)は、ルテニウム化合物と塩類の種類および担体の種類により適宜決定できるが、例えば、0.01:10〜1:0.1の範囲である。この比率は、好ましくは0.05:5〜1:0.5の範囲、より好ましくは0.1:1〜1:1の範囲である。
【0032】
上記塩類の担持量は多孔質固体粒子の細孔体積に対して、例えば、1〜50体積パーセントであることが好ましく、より好ましくは5〜20体積パーセントであることができる。但し、多孔質固体粒子の種類やルテニウム化合物の種類により適宜調整できる。
【0033】
上記ルテニウム化合物の使用量は、上記塩類の担持量や触媒組成物が有すべき性能等を考慮して適宜決定でき、多孔質固体粒子の質量に対して、例えば、0.01〜10質量%の範囲とすることができる。好ましくは0.05〜2質量%の範囲である。
【0034】
尚、多孔質固体粒子の内表面に担持されたルテニウム化合物および塩類の量が多すぎて、多孔質固体粒子の細孔に充填された状態では、ルテニウム化合物および塩類が担持された表面を確保できず、十分な表面積の反応の場を確保できない。
図2に示すように、多孔質固体粒子aの細孔b内は、細孔の表面にルテニウム化合物および塩類cが担持され、かつルテニウム化合物および塩類の担持量は、細孔の全てに充満する程の量ではなく、依然として細孔が存在する程度の量とすることが適当である。例えば、比表面積が、500m
2/gである多孔質固体粒子の場合、ルテニウム化合物および塩類を担持した後の比表面積は、例えば、100〜490m
2/gの範囲であり、好ましくは200〜470m
2/gの範囲、より好ましくは300〜450m
2/gの範囲であることができる。但し、この範囲はあくまでも例示であり、多孔質固体粒子の種類(材質および細孔の構造)やルテニウム化合物および塩類の種類により、得られる触媒活性も考慮して適宜決定できる。
【0035】
<触媒組成物の調製方法>
触媒組成物の調製は、多孔質固体粒子を、ルテニウム化合物および塩類を溶解した溶液に浸漬等して、多孔質固体粒子の多孔内に前記溶液を進入させ、次いで溶媒のみを除去することで、目的とするルテニウム化合物および塩類を内表面および外表面に担持することができる。ルテニウム化合物および塩類を溶解した溶液は、ルテニウム化合物および塩類を溶解し得る溶媒に溶解して調整することができる。溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム等を挙げることができる。
【0036】
ルテニウム化合物および塩類を溶解した溶液における、ルテニウム化合物および塩類の濃度は、ルテニウム化合物および塩類の所望の担持量や溶媒の種類(溶解度)等を考慮して適宜決定できる。
【0037】
<一酸化炭素の製造方法>
本発明は、上記本発明の触媒組成物の存在下、250℃以下、かつ前記触媒組成物に含まれる塩類の融点以上の温度において、二酸化炭素と水素とを反応させて一酸化炭素を生成させる、一酸化炭素の製造方法に関する。
【0038】
二酸化炭素と水素の容積比は、二酸化炭素に対する水素の比が0.1〜100の中から任意に選ぶことができる。好ましくは、0.5〜5である。反応時における二酸化炭素及び水素の全圧は0.1〜40MPa程度、好ましくは2〜20MPaである。圧力があまりに低いときには反応速度が遅く、一方あまりに高い時には反応容器などの装置の耐圧構造上不利となる。
【0039】
本発明の製造方法は、バッチ式および連続式の何れの方法でも実施できる。大型の装置で一酸化炭素を大量生産する場合、連続式であることが好ましく、その場合、本発明の触媒組成物の粉末、造粒物および/または成形体を充填した反応容器に、所定の反応温度において、原料である二酸化炭素および水素を供給する。反応生成物は、条件により、未反応の二酸化炭素および/または水素を含有する場合があり、その場合、アミンなどの塩基を用いた化学吸着法等により一酸化炭素から二酸化炭素を分離し、合成ガス(一酸化炭素/水素混合ガス)として利用することができる。
【0040】
反応温度は250℃以下、かつ触媒組成物に含まれる塩類の融点以上の温度であり、触媒組成物に含まれる塩類の種類および反応性等を考慮して適宜決定できる。反応温度は、例えば、80〜250℃、好ましくは120〜200℃である。反応温度があまりにも低いときには反応が進行しにくく、250℃を超えると触媒が分解してルテニウム金属が析出する場合があるので、250℃以下であることが好ましい。
【0041】
本発明の製造方法における反応は、溶媒の不存在下で行う。溶媒は無機溶媒、有機溶媒を問わず、本発明の一酸化炭素の製造方法においては、使用しない。
【0042】
本発明の製造方法における反応は、平衡反応であり、反応温度及び原料として用いる二酸化炭素と水素の分圧、さらには反応時間(平衡状態まで維持するか、平衡状態に達する前に反応を終了するか)等により、一酸化炭素への転換率は変化する。
【0043】
本発明の二酸化炭素の水素化による一酸化炭素の製造方法を用いれば、各種一酸化炭素利用反応において二酸化炭素を一酸化炭素の代替として利用することが可能となる。例えば、ヒドロホルミル化反応と組み合わせることにより、二酸化炭素を原料とした機能性アルコール製品などの合成が可能になる。ヒドロホルミル化反応との組合せにおいては、反応生成物に残存する二酸化炭素を一酸化炭素から分離せずにそのまま反応に使用することができる(例えば、Catalysis Today 115 (2006) 70-72参照)。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0045】
[実施例1]
10mLの塩化メチレンにRu
3(CO)
12を24.9mg溶解し、さらに、1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムクロリド([C
4mim]Cl)を348mg、1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート([C
4mim][TfO])を31.9mg加えて得られる溶液に、シリカゲル(WakosilC−200 比表面積:475m
2/g±25m
2/g)を5.02g加え撹拌し、塩化メチレンを減圧留去することにより、前記Ru
3(CO)
12、[C
4mim]Clおよび[C
4mim][TfO]の触媒を担持した触媒担持シリカゲル微粒子を得た。
【0046】
上記触媒担持シリカゲル微粒子1.0gを内容積20mLのオートクレーブに入れ、次いで二酸化炭素と水素をそれぞれ2MPa、及び、6MPa(全圧8MPa)となるように圧入した後、温度を140℃に保ちながら5時間反応させた。反応終了後、オートクレーブ内の触媒担持シリカゲル微粒子から、得られた生成物(気体)を分離し、ガスクロマトグラフィーにより、生成した一酸化炭素を定量分析した。生成した一酸化炭素COのモル数を、仕込んだ触媒のモル数で割ることでターンオーバー数を算出して、表1に示す。
【0047】
[実施例2]
塩類として1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムクロリド単独を用いる以外は実施例1と同様の条件で反応を行った。
【0048】
[実施例3]
1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネートの代わりに1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート([C
4mim]PF
6)を用いた他は実施例1と同様の条件で反応を行った。
【0049】
[実施例4]
1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネートの代わりに1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート([C
4mim]BF
4)を用いた他は実施例1と同様の条件で反応を行った。
【0050】
[実施例5]
1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネートの代わりに1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムアセテート([C
4mim][AcO])を用いた他は実施例1と同様の条件で反応を行った。
【0051】
[実施例6]
1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネートの代わりに1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニルアミド([C
4mim][TFSA])を用いた他は実施例1と同様の条件で反応を行った。[C
4mim][TFSA]の触媒担持シリカゲル微粒子への担持量は、19Vol%であった。尚、シリカゲル微粒子の比表面積の実測値は、担持前で555m
2/g、担持後は431m
2/gであった。
【0052】
反応終了後、オートクレーブ内に残った触媒担持シリカゲル微粒子を減圧乾燥し、再び実施例1と同様に二酸化炭素及び水素を圧入し反応を行い、ガスクロマトグラフィーにより、生成した一酸化炭素の定量分析を行い、ターンオーバー数を算出した。この操作を10回繰り返した。
【0053】
[参考例1]
内容積20mLのオートクレーブに、Ru
3(CO)
12を18.7mg、1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムクロリドを79.1mg、1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニルアミドを2mL入れ、次いで二酸化炭素と水素をそれぞれ2MPa、及び、6MPa(全圧8MPa)となるように圧入した後、温度を140℃に保ちながら5時間反応させた。反応終了後、得られた生成物をガスクロマトグラフィーにより定量分析した。
【0054】
[参考例2]
1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニルアミドの代わりに1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムアセテートを用いる他は比較例1と同様に反応を行った。
【0055】
[参考例3]
10mLの塩化メチレンにRu
3(CO)
12を51.0mg溶解して得られる溶液に、シリカゲル(WakosilC−200 比表面積:475m
2/g±25m
2/g)を5.01g加え撹拌し、塩化メチレンを減圧留去することにより、触媒担持シリカゲル微粒子を得た。
【0056】
上記触媒担持シリカゲル微粒子1.0gを内容積20mLのオートクレーブに入れ、次いで二酸化炭素と水素をそれぞれ2MPa、及び、6MPa(全圧8MPa)となるように圧入した後、温度を140℃に保ちながら5時間反応させた。反応終了後、得られた生成物をガスクロマトグラフィーにより定量分析した。
【0057】
実施例1〜6及び参考例1〜3で得られた結果を表1にまとめて示す。
【0058】
【表1】
【0059】
また、実施例6について、サイクル試験を行った結果を
図1に示す。
【0060】
試薬に関する注記:
(1)WakosilC−200 (和光純薬工業株式会社)
(2)塩化メチレン (関東化学株式会社)
(3)Ru
3(CO)
12 (STREM CHEMICALS社)
(4)[C
4mim]Cl (関東化学株式会社)
(5)[C
4mim][TfO] (東京化成工業株式会社)
(6)[C
4mim]PF
6 (東京化成工業株式会社)
(7)[C
4mim]BF
4 (東京化成工業株式会社)
(8)[C
4mim][AcO] (東京化成工業株式会社)
(9)[C
4mim][TFSA] (Aldrich社)
【0061】
実験例1〜6及び参考例1〜2より明らかなように、本発明の触媒組成物を用いると、反応終了後の触媒組成物の回収は容易であり、固体担体を用いない均一液相系の反応と同程度かより高いターンオーバー数を与えた。特に[C
4mim][TFSA]を添加した場合(実施例6)、同じ塩類を用いた均一液相系の反応である参考例1よりも2倍以上のターンオーバー数が得られ、最も高い値となった。
【0062】
また、参考例3より、塩類(イオン液体)を用いない場合は全く一酸化炭素の生成は起こらず、塩類(イオン液体)の共存無しには、一酸化炭素を製造することはできなかった。
【0063】
また、
図1より実施例6の条件では、2サイクル以降10サイクルまでの間、反応特性の低下は見られないことが分かった。