上記空隙の平均直径は50nm以上200nm以下であり、中空炭素粒子を形成する炭素壁の平均厚みは1nm以上200nm以下である、請求項1に記載の中空炭素粒子。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の中空炭素粒子は、内部に1つの空隙を有し、高含有量の窒素元素を含んでなる。
【0012】
<窒素元素の含有量>
本発明の中空炭素粒子に含有される窒素元素の量は、中空炭素粒子の質量に対して、30質量%より大きく40質量%以下である。中空炭素粒子において、前記窒素元素の量が30質量%未満であると、炭素に由来する物性が支配し、窒素を導入した効果を得ることができず、前記窒素元素の量が40質量%より大きいと、熱安定性が低く形状を維持することができない。前記窒素元素の量は、中空炭素粒子の質量に対して、好ましくは31質量%以上40質量%以下である。中空炭素粒子の出発材料としてメラミン樹脂を使用し、後に記載する熱処理温度および炭化温度を調整することにより、中空炭素粒子に含まれる窒素元素の量が上記範囲内になりやすくなる。中空炭素粒子に含まれる窒素元素の量が上記範囲内であると、窒素元素が存在することによりもたらされる効果(例えば炭酸ガスやホルムアルデヒドなどの酸性物質を選択的に吸着するなどの塩基的な効果)が好適に得られやすい。本発明において窒素元素の含有量は、酸素・窒素・水素分析装置(例えば、堀場製作所製EMGA-930)を用いて測定される。
【0013】
<空隙>
本発明の中空炭素粒子の空隙の平均直径は、後に記載する樹脂組成物からなるコアの平均直径、および中空炭素粒子を形成する炭素壁の平均厚みにより調整することができ、好ましくは50nm以上200nm以下、より好ましくは60nm以上180nm以下である。中空炭素粒子の空隙の平均直径が上記範囲内であると、中空炭素粒子内部の空隙(以下、中空域と記載することがある)が好適に利用されて良好な表面積増大がもたらされやすい。本発明において空隙の平均直径は、透過電子顕微鏡(例えば、日本電子株式会社製JEM3200-FS)により中空炭素粒子の観察図を得、中空炭素粒子10個の空隙の直径を計測し、その平均値を算出することにより求められる。
【0014】
本発明の中空炭素粒子の空隙率は、中空炭素粒子の体積に対して、好ましくは1%以上90%以下、より好ましくは5%以上90%以下、さらに好ましくは10%以上85%以下である。中空炭素粒子の空隙率が上記範囲内であると、中空域の好適な利用がもたらされやすく、良好な機械強度が得られやすい。
【0015】
空隙の形状は特に限定されない。空隙の形状が球形であると、機械強度が維持されやすく、中空域に第三成分を注入する際に偏在が起こりにくいなどの観点から好ましい。
【0016】
<炭素壁の平均厚み>
中空炭素粒子を形成する炭素壁の平均厚みは、コアに対するメラミン樹脂の量で制御することができ、好ましくは1nm以上200nm以下、より好ましくは10nm以上100nm以下である。炭素壁の平均厚みが上記範囲内であると、中空炭素粒子の好ましい機械強度が得られて中空を維持しやすく、メラミンを過剰に使用しないことから粒子同士の癒着が防止されやすい。本発明において炭素壁の平均厚みは、透過電子顕微鏡(例えば、日本電子株式会社製JEM3200-FS)により中空炭素粒子の観察図を得、中空炭素粒子10個の炭素壁の厚みを計測し、その平均値を算出することにより求められる。
【0017】
<平均粒子径>
本発明の中空炭素粒子の平均粒子径は、好ましくは52nm以上500nm以下であり、より好ましくは60nm以上400nm以下である。中空炭素粒子の平均粒子径が上記範囲内であると、中空炭素粒子が良好な機械強度を有しやすく、中空を維持しやすく、中空域が好適に利用されて良好な表面積増大がもたらされやすい。本発明において平均粒子径は、例えば、透過電子顕微鏡(例えば、日本電子株式会社製JEM3200-FS)により中空炭素粒子の観察図を得、中空炭素粒子10個の粒子径を計測し、その平均値を算出することにより求められる。
【0018】
<中空炭素粒子の製造方法>
本発明の中空炭素粒子は、例えば、
樹脂組成物からなるコアの表面をメラミン樹脂で被覆し、被覆コアを得る被覆工程、
被覆コアを加熱してメラミン樹脂を硬化し、硬化された被覆コアを得る硬化工程、
硬化された被覆コアを熱処理してコアを熱分解し、中空炭素粒子前駆体を得る熱処理工程、および
中空炭素粒子前駆体に炭化処理を施す炭化工程
を含む製造方法により、製造することができる。
【0019】
<コア>
本発明において、コアは樹脂組成物からなる。樹脂組成物は、好ましくは、スチレンのような芳香族ビニルモノマー、酢酸ビニルのようなビニル系モノマー、メタクリル酸メチルのような(メタ)アクリル酸系モノマーの重合により生成することができる樹脂を含んでなる。熱的に容易に分解でき、分解時に水または炭酸ガスなどの賦活性ガスを発生しないなどの観点から、樹脂組成物が、スチレンを用いて生成された樹脂を含んでなること、すなわち、樹脂組成物がポリスチレンを含んでなることがより好ましい。ポリスチレンの含有量は、樹脂組成物に基づいて、好ましくは10質量%以上100質量%、より好ましくは40質量%以上98質量%以下、さらに好ましくは60質量%以上95質量%以下である。樹脂組成物はさらに、コアとしての性能を損なわない範囲でドデシルベンゼンスルホン酸などの乳化剤のような添加剤を含んでもよい。添加剤の含有量は、樹脂組成物に基づいて、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0020】
コアが正のゼータ電位を有することが好ましい。「ゼータ電位」とは、コア表面の電位とそこから十分に離れた溶液の電位との差のことであり、「コアが正のゼータ電位を有する」とは、コアが正に帯電しているということである。コアのゼータ電位は、正であれば特に限定されない。コアのゼータ電位は、好ましくは30mV以上70mV以下、より好ましくは40mV以上60mV以下である。
【0021】
コアの表面電位によって、コアの表面をメラミン樹脂で被覆した際に、メラミン樹脂のコアへの定着の様子が変わる。具体的には、定着が均質化したり、被覆コア同士が癒着してしまったりする。被覆コア同士が癒着すると、硬化工程後にメラミン樹脂被覆層が局所的に薄くなるため、後に記載する熱分解処理および炭化処理に耐えることが困難になり、中空炭素粒子が形成されにくい。
【0022】
本発明で使用するコアの平均直径は、所望する中空炭素粒子の空隙の平均直径に依存するため、特に限定されるものではない。コアの平均直径は、好ましくは50nm以上200nm以下、より好ましくは60nm以上180nm以下である。コアの平均直径が上記範囲内であると、好適な中空域が得られやすく、良好な表面積増大がもたらされやすく、後に記載する炭化処理によって中空域は閉塞されずに維持されやすくなる。
【0023】
本発明におけるコアの製造方法は、特に限定されない。コアは、例えば、溶媒としての蒸留水、精製水またはイオン交換水にモノマーを加えて十分に撹拌して懸濁させ、重合開始剤を加えて撹拌しながら加熱することによって、または前記溶媒に重合開始剤を加えて十分に撹拌し、モノマーを加えて撹拌しながら加熱することによって、製造することができる。
【0024】
モノマーは、コアを製造することができれば特に限定されない。スチレンのような芳香族ビニルモノマー、酢酸ビニルのようなビニル系モノマー、メタクリル酸メチルのような(メタ)アクリル酸系モノマーのようなモノマーの1種以上を使用することができる。熱的に容易に分解でき、分解時に水または炭酸ガスなどの賦活性ガスを発生しないなどの観点から、スチレン系モノマーを使用することが好ましい。スチレン、アルキル(メタ)アクリレートなどの疎水性モノマーに由来する構成単位を有するスチレン、およびその他の共重合可能なモノマー構成単位を有するスチレンを使用することがより好ましく、例えば、炭素数3〜22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートスチレン、および2−メチルスチレンを使用することができる。
【0025】
溶媒中のモノマーの濃度は、特に限定されない。溶媒1リットルあたり、0.01モル以上1モル以下であることが好ましく、0.02モル以上0.8モル以下であることがより好ましい。溶媒中のモノマーの濃度が上記範囲内であると、凝集によるコア粗大化が回避されやすく、エマルションの安定性が確保されやすい。
【0026】
コアのゼータ電位は、重合開始剤によって調整することができる。スチレン系モノマーを用いてコアを製造する場合、コアのゼータ電位を正にするために、重合開始剤として、アゾ化合物を使用することができる。アゾ化合物であれば特に限定されず、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(アゾビスイソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、および2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオアミド)などを使用することができる。価格および使用上の安定性などの観点から、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(アゾビスイソブチロニトリル)、および2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリルの使用が好ましい。
【0027】
重合開始剤の濃度は、重合が進行すれば特に限定されない。溶媒1リットルあたり、0.1×10
−4モル以上2×10
−4モル以下であることが好ましく、0.2×10
−4モル以上1×10
−4モル以下であることがより好ましい。重合開始剤の濃度が上記範囲内であると、好適なポリマーの分子量を得ることができるためコアの形状が維持されやすく、重合が十分に進行しやすい。
【0028】
モノマーの重合を実施する温度に関しても特に制限はない。重合が進行する温度であればよく、通常は40℃以上90℃以下、好ましくは50℃以上80℃以下である。モノマーの重合を実施する温度が上記範囲内であると、重合が十分に進行しやすいためにモノマーの残留が回避されやすく、重合速度が速すぎないためにコアの平均直径が制御されやすい。
【0029】
モノマーの重合の反応時間は、重合温度に依存するため、特に特定することはできない。通常は1時間以上100時間以下、好ましくは2時間以上80時間以下である。
【0030】
上記した製造方法により、所望の平均直径とゼータ電位を有するコアを製造することができる。
【0031】
<被覆工程>
被覆工程では、樹脂組成物からなるコアの表面にメラミン樹脂が被覆され、被覆コアが得られる。
【0032】
メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとの縮合(重合)反応によって生成される。
【0033】
メラミンとホルムアルデヒドとの混合比は、メラミン分を完全に反応消費するためにホルムアルデヒドを多く混合すれば特に限定されるものではない。メラミン1モルに対し、通常は1.0〜10モル倍、好ましくは1.0〜8モル倍の混合比でホルムアルデヒドを使用する。混合比が上記範囲内であると、反応によりメラミン分が完全に消費され、多すぎるホルムアルデヒドの自己縮合により不溶性のパラホルムアルデヒドが生成することが回避されやすい。
【0034】
本発明において、メラミンとコアとの組成比は特に限定されない。コア1gに対し、通常は0.01g以上50g以下、好ましくは0.05g以上20g以下の量でメラミンを使用する。メラミンとコアとの組成比が上記範囲内であると、コアが良好に被覆されやすく、被覆以前にメラミン樹脂のみからなる生成物が生じることが回避されやすい。
【0035】
メラミンとホルムアルデヒドとの重合反応を実施する温度は、特に限定されない。通常は40℃以上200℃以下、好ましくは60℃以上180℃以下の温度で実施される。メラミンとホルムアルデヒドとの重合反応を実施する温度が上記範囲内であると、適当な時間内に重合反応が進行するために経済的優位が確保されやすく、コア表面で重合反応が進行する前にメラミンとホルムアルデヒドとが重合することが回避されやすい。
【0036】
加熱の方法も特に限定されない。加圧および加熱するためにオートクレーブを使用することもできるし、重合反応を促進させるためにマイクロウェーブを照射して加熱することもできる。
【0037】
本発明の被覆工程では、メラミンおよびホルムアルデヒドに代えて、メラミンとホルムアルデヒドとを予め縮合して、メラミンをホルマール化させたもの(メチロール体)を使用してよい。ホルマール化とは、メラミンの芳香環に含まれないN原子をヒドロキシメチル化することである。ホルマール化の程度は、特に制限されるものではなく、通常は1〜6の範囲、好ましくは3〜6の範囲である。トリヒドロキシメチルメラミン、テトラヒドロキシメチルメラミン、ペンタヒドロキシメチルメラミン、ヘキサヒドロキシメチルメラミンを使用することができる。これらは単独で、または複数を混合して使用してよい。化合物の安定性の観点からは、ヘキサヒドロキシメチルメラミンの使用が好ましい。
【0038】
上記メチロール体と、アルコール、例えばメタノール、エタノール、またはメタノールおよび例えばブタノールの混合物とを反応させたものを、メチロール体に代えて使用してもよい。そのような反応生成物の例としては、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、およびヘキサブトキシメチルメラミンなどが挙げられる。これらは単独で、または複数を混合して使用してよい。化合物の安定性の観点からは、ヘキサメトキシメチルメラミンの使用が好ましい。
【0039】
本発明の、メラミンとホルムアルデヒドとの重合反応、メラミンのメチロール体の重合反応、または前記メチロール体とアルコールとの反応生成物の重合反応において、ラジカル開始剤が使用される。ラジカル開始剤の添加により、重合体はコアに均質に被覆される。
【0040】
上記ラジカル開始剤は、特に限定されるものではないが、例えば、有機過酸化物、無機過酸化物およびアゾ化合物などが使用される。
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、過ギ酸、過酢酸および過安息香酸などが挙げられる。
無機過酸化物としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムおよび過硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
アゾ化合物(R-N=N-R)は、熱または光により2個の炭素ラジカルと窒素分子に分解する。アゾ化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(ABCN)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕2塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオナミジン)2塩酸塩(AIBA)、2,2’−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオナミジン〕および4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などが挙げられる。
ラジカル開始剤の開始効率および水への溶解性の観点から、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕2塩酸塩、または2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオナミジン)2塩酸塩(AIBA)を使用することが好ましい。
【0041】
本発明において、ラジカル開始剤の使用量は、重合が進行すれば特に限定されない。使用するメラミンに対して、通常は0.01〜50質量%、好ましくは0.02〜30質量%の範囲で、ラジカル開始剤を使用する。
【0042】
被覆の方法は、コアの表面にメラミン樹脂が被覆される限り、特に限定されない。
コアを、先に記載したように溶媒中で製造する場合、コアは溶媒に分散した状態で得られる。この場合、この分散液に、メラミンおよびホルムアルデヒド、メラミンのメチロール体、または前記メチロール体とアルコールとの反応生成物を加えて撹拌し、ラジカル開始剤を加えて撹拌しながら加熱することにより、或いはこの分散液に、ラジカル開始剤を加えて撹拌し、メラミンおよびホルムアルデヒド、メラミンのメチロール体、または前記メチロール体とアルコールとの反応生成物を加えて撹拌しながら加熱することにより、メラミン樹脂で被覆されたコア(被覆コア)を得ることができる。溶媒に分散した被覆コアは、例えばろ過または遠心分離によって、分離することができる。
【0043】
<硬化工程>
硬化工程では、被覆コアを加熱することによりメラミン樹脂が硬化され、硬化された被覆コアが得られる。
【0044】
硬化反応を実施する温度は、使用するメラミン、メラミンのメチロール体、および前記メチロール体とアルコールとの反応生成物の種類による。通常は40℃以上200℃以下、好ましくは60℃以上180℃以下、より好ましくは120℃以上180℃以下の温度で、硬化反応を実施することができる。
【0045】
被覆工程と硬化工程とを同時に実施することもできる。同時に実施することにより、被覆コア同士および硬化された被覆コア同士の癒着がさらに抑制されやすくなる。被覆工程と硬化工程とを同時に行う温度は、好ましくは100℃以上200℃以下、より好ましくは120℃以上180℃以下である。被覆工程と硬化工程とを同時に行う温度が上記範囲内であると、メラミンとホルムアルデヒド、メラミンのメチロール体、または前記メチロール体とアルコールとの反応生成物がコア表面で重合しやすく、メラミン樹脂の硬化が十分に進行しやすい。
【0046】
硬化工程における加熱の方法は特に限定されない。加圧・加熱の方法としてオートクレーブを用いることもできるし、反応を促進させるために、マイクロウェーブを照射して加熱することもできる。
【0047】
先に記載したように、コアを溶媒中で製造する場合、コアは溶媒に分散した状態で得られ、被覆コアも溶媒に分散した状態で得られる。このような場合、被覆工程に次いでまたは被覆工程と同時に行われる硬化工程は、液相(溶媒中)で行われ、これは、被覆コア同士および硬化された被覆コア同士の癒着を回避する観点から好ましい。硬化された被覆コアは、例えば濾過または遠心分離によって、分離することができる。
【0048】
分離された硬化被覆コアは乾燥してもよく、その方法は特に限定されない。大気圧下または減圧下で乾燥することができる。乾燥の際に加熱することもでき、通常は40℃以上200℃以下、好ましくは60℃以上180℃以下で加熱することができる。硬化された被覆コアを乾燥する際の加熱温度が上記範囲内であると、コアの溶融を伴わずに適当な時間内に硬化された被覆コアを乾燥させやすい。
【0049】
<熱処理工程>
熱処理工程では、硬化された被覆コアを熱処理することによりコアが熱分解され、中空炭素粒子前駆体が得られる。
【0050】
熱処理温度は、メラミン樹脂の熱分解を抑制しつつ、コアが分解揮発する温度であれば特に限定されない。通常は300℃以上1000℃以下、好ましくは350℃以上900℃以下、より好ましくは400℃以上800℃以下である。熱処理温度が上記範囲内であると、残留を伴わずにコアが分解揮発されやすく、中空域がもたらされやすい。
【0051】
熱処理時間は特に限定されない。通常は1分以上300分以下、好ましくは5分以上270分以下、より好ましくは10分以上240分以下である。熱処理時間が上記範囲内であると、コアが良好に分解揮発されやすく、中空域がもたらされやすい。
【0052】
硬化された被覆コアを熱処理する際の昇温速度は特に限定されない。通常は毎分0.1℃以上200℃以下、好ましくは毎分0.5℃以上180℃以下である。硬化された被覆コアを熱処理する際の昇温速度が上記範囲内であると、コアの熱分解速度が速すぎないために中空炭素粒子前駆体の構造が維持されやすく、コアの溶融および炭化が起こり難いことから炭素純度の低下が回避されやすい。
【0053】
熱処理工程の条件、並びに使用するメラミン、メラミンのメチロール体、および前記メチロール体とアルコールとの反応生成物の種類によっては、後に記載する炭化工程の一部が熱処理工程において進行する場合もある。
【0054】
<炭化工程>
炭化工程では、熱処理工程で得られた中空炭素粒子前駆体に炭化処理が施され、中空炭素粒子が得られる。
【0055】
炭化温度は、メラミン樹脂の熱分解を抑制しつつ、中空炭素粒子前駆体に炭化処理を施すことができる温度であれば特に限定されない。通常は300℃以上1000℃以下、好ましくは350℃以上900℃以下、より好ましくは400℃以上800℃以下である。炭化温度が上記範囲内であると、炭化処理が十分に施されやすく、メラミン樹脂由来窒素分の低下が回避されやすい。
【0056】
炭化時間は特に限定されない。通常は1分以上300分以下、好ましくは5分以上270分以下、より好ましくは10分以上240分以下である。炭化時間が上記範囲内であると、炭化処理が十分に施されやすく、メラミン樹脂由来窒素分の過度な低下が回避されやすい。
【0057】
炭化処理する際の昇温速度は特に限定されない。通常は毎分0.1℃以上200℃以下、好ましくは毎分0.5℃以上180℃以下である。炭化処理する際の昇温速度が上記範囲内であると、速すぎない炭化速度の故に中空炭素粒子の構造が維持されやすいことから炭化収率の低下が回避されやすい。
【0058】
炭化処理は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとして、窒素およびアルゴンなどを使用することができる。経済性および入手性を考慮すると、窒素下で実施することが好ましい。不活性ガス雰囲気下で中空炭素粒子前駆体に炭化処理を施すことにより、メラミン樹脂の燃焼、酸化および熱分解促進に起因する収率の低下が抑制されやすい。
【0059】
工程短縮および熱エネルギーの省力化の観点から、熱処理工程と炭化工程とを同時に行うことが好ましい。熱処理工程と炭化工程とを同時に行う温度は、好ましくは300℃以上1000℃以下、より好ましくは350℃以上900℃以下である。熱処理工程と炭化工程とを同時に行う温度が上記範囲内であると、窒素分の熱分解脱離が抑制されて所望の中空炭素粒子が得られやすい。また、先に記載した理由から、熱処理工程と炭化工程とを同時に行う場合は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0060】
中空炭素粒子前駆体に炭化処理を施すことにより得られた中空炭素粒子は、冷却後に回収することができる。回収された中空炭素粒子は、必要に応じて窒素下で保存することにより、炭素分の酸化を抑制することができ、炭化処理直後の物性を維持することができる。
【0061】
<窒素元素の含有量>
本発明の製造方法により得られる中空炭素粒子が含有する窒素元素の量は、中空炭素粒子の質量に対して、30質量%より大きく40質量%以下である。中空炭素粒子において、前記窒素元素の量が30質量%未満であると、炭素に由来する物性が支配し、窒素を導入した効果を得ることができず、前記窒素元素の量が40質量%より大きいと、熱安定性が低く形状を維持することができない。前記窒素元素の量は、中空炭素粒子の質量に対して、好ましくは31質量%以上40質量%以下である。中空炭素粒子の出発材料としてメラミン樹脂を使用し、熱処理温度および炭化温度を調整することにより、中空炭素粒子に含まれる窒素元素の量が上記範囲内になりやすくなる。窒素元素の含有量は、使用するメラミン、メラミンのメチロール体、および前記メチロール体とアルコールとの反応生成物の種類、並びに熱処理温度および炭化温度に依存する。中空炭素粒子に含有される窒素元素の量が上記範囲内であると、窒素元素が存在することによりもたらされる効果(例えば炭酸ガスやホルムアルデヒドなどの酸性物質を選択的に吸着するなどの塩基的な効果)が好適に得られやすい。窒素元素の含有量は、先に記載した手順で測定される。
【0062】
<空隙>
本発明の製造方法により得られる中空炭素粒子は、内部に1つの空隙を有する。
本発明の製造方法により得られる中空炭素粒子の空隙の平均直径は、コアの平均直径、および中空炭素粒子を形成する炭素壁の平均厚みにより調整することができ、好ましくは50nm以上200nm以下、より好ましくは60nm以上180nm以下である。中空炭素粒子の空隙の平均直径が上記範囲内であると、中空炭素粒子内部の空隙が好適に利用されて良好な表面積増大がもたらされやすい。空隙の平均直径は、先に記載した手順で測定される。
【0063】
本発明の製造方法により得られる中空炭素粒子の空隙率は、中空炭素粒子の体積に対して、好ましくは1%以上90%以下、より好ましくは5%以上90%以下、さらに好ましくは10%以上85%以下である。中空炭素粒子の空隙率が上記範囲内であると、中空域の好適な利用がもたらされやすく、良好な機械強度が得られやすい。
【0064】
本発明の製造方法により得られる中空炭素粒子の空隙の形状は特に限定されない。空隙の形状が球形であると、機械強度が維持されやすく、中空域に第三成分を注入する際に偏在が起こりにくいなどの観点から好ましい。
【0065】
<炭素壁の平均厚み>
本発明の製造方法により得られる中空炭素粒子を形成する炭素壁の平均厚みは、コアに対するメラミン樹脂の量で制御することができ、好ましくは1nm以上200nm以下、より好ましくは10nm以上100nm以下である。炭素壁の平均厚みが上記範囲内であると、中空炭素粒子の好ましい機械強度が得られて中空を維持しやすく、メラミンを過剰に使用しないことから粒子同士の癒着が防止されやすい。炭素壁の平均厚みは、先に記載した手順で測定される。
【0066】
<平均粒子径>
本発明の製造方法により得られる中空炭素粒子の平均粒子径は、好ましくは52nm以上500nm以下であり、より好ましくは60nm以上400nm以下である。中空炭素粒子の平均粒子径が上記範囲内であると、中空炭素粒子が良好な機械強度を有しやすく、中空を維持しやすく、中空域が好適に利用されて良好な表面積増大がもたらされやすい。平均粒子径は、例えば、先に記載した手順で測定される。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。なお、それぞれの実施例および比較例で得られた中空炭素粒子の特性は、以下のようにして評価した。
【0068】
コアの平均直径:
電子顕微鏡(キーエンス社製)により得たコアの観察図を用いて、コア10個の直径を計測し、その平均値を、コアの平均直径とした。
【0069】
窒素元素の含有量:
酸素・窒素・水素分析装置(堀場製作所製EMGA-930)を用いて測定した。
【0070】
空隙の平均直径:
透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM3200-FS)により中空炭素粒子の観察図を得、中空炭素粒子10個の空隙の直径を計測し、その平均値を算出することにより求めた。
【0071】
炭素壁の平均厚み:
透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM3200-FS)により中空炭素粒子の観察図を得、中空炭素粒子10個の炭素壁の厚みを計測し、その平均値を算出することにより求めた。
【0072】
中空炭素粒子の平均粒子径:
透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM3200-FS)により得た中空炭素粒子の観察図を用いて、中空炭素粒子10個の粒子径を計測し、その平均値を中空炭素粒子の平均粒子径とした。
【0073】
空隙率:
空隙率は、下記式:
【数1】
から算出した。
【0074】
実施例1
1L容の3ツ口フラスコに、撹拌機、還流管および温度計を接続し、イオン交換水600mLを導入した。イオン交換水にスチレン2gおよびアゾビスイソブチロニトリル0.01gを添加し、窒素を流通しながら、得られた系を70℃に加熱した。400rpmの回転数を維持しながら、70℃で24時間、系を撹拌した。反応液を室温に冷却し、得られた分散液をカバーガラスに滴下し、乾燥した後、電子顕微鏡を用いて観察した。電子顕微鏡観察図を
図1に示す。この観察図において、10個のコアの直径を計測し、その平均値を求めたところ81.6nmであった。得られたコア分散液のゼータ電位を、ゼータサイザーナノZSP(Malvern社製)を用いて測定したところ、46.0mVであった。
このコア分散液に、ヘキサメトキシメチルメラミン1.0gを添加し、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオナミジン)2塩酸塩0.225gを添加した。得られた混合液を撹拌しつつ、マイクロウェーブを照射しながら、60℃で30分間反応を行った。
反応液を冷却した後、遠心分離機を用いて、硬化された被覆コアを分取した。この硬化された被覆コアを、100℃および13Paで4時間乾燥した後、高速炉(モトヤマ製)において窒素下550℃で2時間、熱処理および炭化処理した。室温まで冷却し、0.46gの中空炭素粒子を得た。得られた中空炭素粒子の電子顕微鏡観察図を
図2に、透過顕微鏡観察図を
図3に示す。また、元素分析の結果を表1に示す。
【0075】
実施例2
実施例1で得られたコア分散液に、ヘキサメトキシメチルメラミン2.0gを添加し、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオナミジン)2塩酸塩0.225gを添加した。得られた混合液を撹拌しつつ、マイクロウェーブを照射しながら、60℃で30分間反応を行った。
反応液を冷却した後、遠心分離機を用いて、硬化された被覆コアを分取した。この硬化された被覆コアを、100℃および13Paで4時間乾燥した後、高速炉(モトヤマ製)において窒素下550℃で2時間、熱処理および炭化処理した。室温まで冷却し、0.90gの中空炭素粒子を得た。また、元素分析の結果を表1に示す。
【0076】
比較例1
実施例1で得られたコア分散液に、ヘキサメトキシメチルメラミン1.0gを添加し、マイクロウェーブを照射しながら、60℃で30分間反応を行った。
反応液を冷却した後、遠心分離機を用いて、生成物を分取した。この生成物を、100℃および13Paで4時間乾燥した後、高速炉(モトヤマ製)において窒素下550℃で2時間、熱処理および炭化処理し、室温まで冷却した。生成物の電子顕微鏡観察図を
図4に示す。粒子同士が癒着し、単独粒子として存在していないことがわかる。また、明確な中空域を観察することもできなかった。
【0077】
比較例2
1L容の3ツ口フラスコに、撹拌機、還流管および温度計を接続し、イオン交換水600mLを導入した。イオン交換水にスチレン2gおよび過硫酸カリウム0.03gを添加し、窒素を流通しながら、得られた系を70℃に加熱した。400rpmの回転数を維持しながら、70℃で24時間、系を撹拌した。反応液を室温に冷却し、得られた分散液をカバーガラスに滴下し、乾燥した後、電子顕微鏡を用いて観察した。得られた観察図において、10個のコアの直径を計測し、その平均値を求めたところ81.6nmであった。得られたコア分散液のゼータ電位を、ゼータサイザーナノZSP(Malvern社製)を用いて測定したところ、−50.4mVであった。
このコア分散液に、3−アミノフェノール2gを添加し、17%アンモニア水溶液2mLおよびエタノール100gを添加した。得られた混合液を撹拌しながらホルムアルデヒド30%溶液1.88g(3−アミノフェノール等モル量)を添加し、マイクロウェーブを照射しながら、150℃で30分間反応を行った。
反応液を冷却した後、遠心分離機を用いて、硬化された被覆コアを分取した。この硬化された被覆コアを、100℃および13Paで4時間乾燥した後、高速炉(モトヤマ製)において窒素下550℃で2時間、熱処理および炭化処理した。室温まで冷却し、1.22gの中空炭素粒子を得た。得られた中空炭素粒子の窒素元素の含有量は、15.97質量%であった。
【0078】
【表1】