【解決手段】機能性構造体は、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の骨格体10と、前記骨格体に内在する少なくとも1つの金属錯体20とを備え、前記骨格体が互いに連通する通路11を有し、前記通路が前記ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部12とを有し、前記金属錯体が少なくとも前記拡径部に包接されている。
前記骨格体に内在する前記金属錯体の含有量が、前記骨格体の外表面に保持された前記機能性物質の含有量よりも大きいことを特徴とする、請求項4に記載の機能性構造体。
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の骨格体を得るための前駆体材料(A)に金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を水熱処理して前駆体材料(C)を得る水熱処理工程と、
前記水熱処理された前駆体材料(C)を焼成し、メタロシリケート骨格の前駆体材料(D)を合成する焼成工程と、
前記前駆体材料(D)のメタロシリケート骨格をなす金属の少なくとも1つを脱イオン化する脱イオン化工程と、
脱イオン化した金属イオンを内包する前駆体材料(E)の細孔内に配位子を導入し、金属錯体を形成する配位子導入工程と、
を有することを特徴とする機能性構造体の製造方法。
前記水熱処理工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前記前駆体材料(A)に対して50〜500質量%添加することを特徴とする、請求項9に記載の機能性構造体の製造方法。
前記水熱処理工程の前に、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を複数回に分けて添加することで、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させることを特徴とする、請求項9又は10に記載の機能性構造体の製造方法。
前記水熱処理工程の前に前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させる際に、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液の添加量を、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前記前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算して、10〜1000となるように調整することを特徴とする、請求項9〜11のいずれか1項に記載の機能性構造体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
[機能性構造体の構成]
図1は、本発明の実施形態に係る機能性構造体の構成を概略的に示す図であり、(a)は斜視図(一部を横断面で示す。)、(b)は部分拡大断面図である。なお、
図1における機能性構造体は、その一例を示すものであり、本発明に係る各構成の形状、寸法等は、
図1のものに限られないものとする。
【0030】
図1(a)に示すように、機能性構造体1は、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の骨格体10と、該骨格体10に内在する少なくとも1つの金属錯体20とを備える。金属錯体20は、単独又は骨格体10と協働することによって一又は複数の機能を有する物質であり、上記機能には、例えば触媒機能、発光(或いは蛍光)機能、吸光機能、識別機能等が含まれる。金属錯体20は、例えば、触媒機能を有する機能性物質である。この機能性構造体1において、複数の金属錯体20,20,・・・は、骨格体10の多孔質構造の内部に包接されている。金属錯体20の一例である触媒物質は、好ましくは1種以上の金属と、金属と配位結合する配位子(リガンド分子)から構成される。金属錯体の種類の詳細については後述する。各図において、骨格体、機能性物質(金属錯体)は模式的に球形で表す。
【0031】
骨格体10は、
図1(b)に示すように、互いに連通する通路11を有している。具体的には、骨格体10は、該骨格体10の内部に、上記多孔質構造の複数の孔11a,11a,・・・が互いに連通するように形成された通路11を有する。通路11は、ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、上記一次元孔、上記二次元孔及び上記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部12とを有している。また、拡径部12は、上記一次元孔、上記二次元孔及び上記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔11a,11a同士を連通しているのが好ましい。これにより、骨格体10の内部に、一次元孔、二次元孔又は三次元孔とは異なる別途の通路が設けられるので、金属錯体20の機能をより発揮させることができる。尚、ここでいう一次元孔とは、一次元チャンネルを形成しているトンネル型またはケージ型の孔、もしくは複数の一次元チャンネルを形成しているトンネル型またはケージ型の複数の孔(複数の一次元チャンネル)を指す。また、二次元孔とは、複数の一次元チャンネルが二次元的に連結された二次元チャンネルを指し、三次元孔とは、複数の一次元チャンネルが三次元的に連結された三次元チャンネルを指す。
【0032】
金属錯体20は、骨格体10の少なくとも拡径部12に存在しており、好ましくは骨格体10の少なくとも拡径部12に包接されている。なお、ここでいう「包接」とは、金属錯体20が骨格体10に内包されている状態を指す。このとき金属錯体20と骨格体10とは、必ずしも直接的に互いが接触している必要はなく、金属錯体20と骨格体10との間に他の物質(例えば、界面活性剤等)が介在した状態で、金属錯体20が骨格体10に間接的に保持されていてもよい。
【0033】
骨格体10は、好ましくは金属錯体20を担持する担体である。通路11は、骨格体10の内部に、分岐部或いは合流部を含んで三次元的に形成されており、拡径部12は、通路11の上記分岐部或いは合流部に設けられることが好ましい。
【0034】
骨格体10に形成された複数の孔11aの孔径は、上記一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかを構成する孔11aの短径及び長径の平均値から算出され、例えば0.1nm〜1.5nmであり、好ましくは0.5nm〜0.8nmである。また、通路11の平均内径D
Fは、孔11aの平均孔径と同様、0.1nm〜1.5nmであり、好ましくは0.5nm〜0.8nmである。上記金属錯体20を包接する拡径部12の内径D
Eは、金属錯体の分子の大きさD
Cに相当する大ききであるか或いはD
Cより大きい。具体的には、拡径部12の内径D
Eは、0.5nm〜50nmであり、好ましくは1.3nm〜40nm、より好ましくは1.3nm〜3.3nmである。拡径部12の内径D
Eは、例えば、後述するゼオライト型化合物の一次元細孔径及び金属錯体の分子サイズに依存する。
【0035】
骨格体10は、ゼオライト型化合物で構成される。ゼオライト型化合物としては、例えば、ゼオライト(アルミノケイ酸塩)、陽イオン置換ゼオライト(メタロシリケート等)、シリカライトなどのケイ酸塩化合物、アルミノホウ酸塩、アルミノヒ酸塩、ゲルマニウム酸塩などのゼオライト類縁化合物、又は、リン酸モリブデンなどのリン酸塩系ゼオライト類似物質が挙げられる。これらの中でも、ゼオライト型化合物はケイ酸塩化合物であるのが好ましい。
【0036】
ゼオライト型化合物の骨格構造は、FAU型(Y型或いはX型)、MTW型、MFI型(ZSM−5)、FER型(フェリエライト)、LTA型(A型)、MWW型(MCM−22)、MOR型(モルデナイト)、LTL型(L型)、BEA型(ベータ型)などから選択され、好ましくはMFI型であり、より好ましくはZSM−5である。ゼオライト型化合物には、各骨格構造に応じた孔径を有する孔が複数形成されており、例えばMFI型ゼオライトの最大孔径は0.636nm(6.36Å)、平均孔径0.560nm(5.60Å)である。
【0037】
上記金属錯体の分子の大きさD
Cは、好ましくは通路11の平均内径D
Fよりも大きく、且つ拡径部12の内径D
E以下である(D
F<D
C≦D
E)。これにより、金属錯体が拡径部12内に留まり、金属錯体の骨格体10内での移動が規制される。よって、金属錯体が流体から外力を受けた場合であっても金属錯体が骨格体10内で移動することを防止することができる。上記金属錯体の分子の大きさD
Cの範囲は、金属錯体が拡径部12内に包接されている状態であれば上記に限られず、D
C≦D
F≦D
Eであってもよい。
【0038】
上記金属錯体は、単核金属錯体、二核金属錯体または多核金属錯体のいずれであってもよい。また、金属錯体は、中心金属がSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Ga、In、Tl、Al、Ge、SnまたはPbであれば、特に限定されるものではないが、例えば、中心金属がFe、Ru、Pd、Re、Ni、CoまたはPtであり、好ましくは、中心金属がRu、Re、FeまたはPdである。金属錯体が二核金属錯体または多核金属錯体である場合、各中心金属は、互いに独立して、同じであっても異なっていてもよい。また、中心金属の酸化数も、特に限定されるものではなく、中心金属が有する酸化数と所望とする錯体を形成する配位子に応じて適宜決定される。
【0039】
金属錯体の配位子は、単座配位子、二座配位子または多座配位子のいずれであってもよい。代表的な配位子として、例えば、アクア配位子(OH
2);
ヒドロキソ(OH
−)、オキソ(O
2−)、チオラト(SR
−)、スルフィド(S
2−)、フルオロ(F
−)、クロロ(Cl
−)、ブロモ(Br
−)、ヨード(I
−)、ヒドリド(H
−)、シアナト(CN
−)、アジド(N
3−)、チオシアナト(SCN
−)、イソチオシアナト(NCS
−)、ニトロ(NO
2−)、ニトリト(ONO
−)、カルボキシラト(RCOO
−)、オキサラト(ox
2−:C
2O
42−)、アクアク(acac:アセチルアセトナト)、オキソアニオン(例えばNO
3−、CO
32−、ClO
4−、SO
42−、PO
43−)などのイオン系配位子;アンミン(NH
3)、ジアミン(例えばエチレンジアミン(en)、プロピレンジアミン(pn)、ブチレンジアミン(bn))、トリアミン(例えばジエン(dien)、1,4,7−トリアザシクロノナン(tacn))、テトラミン(例えばトリエチレンテトラミン(trien)、トリス(2−アミノエチル)アミン(tren)、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンまたは1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン(cyclam))などのアミン系配位子;
ピリジン(py)、ジイミン(例えば2,2−ビピリジン(bpy)、1,10−フェナントロリン(phen)、1,8−ナフチリジン(nap))、トリイミン(例えばテルピリジン(terpy)、ヒドロトリス(ピラゾリル)ボレート(Tp))、ポルフィリンなどのイミン系配位子;
単座ホスフィン(例えばPH
3、PPh
3、PMe
3、PEt
3、PCy
3、P
tBu
3)、二座ホスフィン(例えばビス(ジフェニルホスフィノ)メタン(dppm)、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(dppe)、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(dppp)、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(dppb)、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル(BINAP))、三座ホスフィン(例えば1,1?トリス(ジフェニルホスフィノメチル)エタン(triphos))、四座ホスフィン(メソ−ビス[(ジフェニルホスフィノメチル)フェニルホスフィノ]メタン(dpmppm))などのホスフィン系配位子;
カルボニル、アルケン、アルキン、シクロペンタジエニル、インデニル、アルキル、アリール、ビニル、アルキニル、カルベンなどの有機配位子等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、所望とする金属錯体に応じて任意に選択される。金属錯体には、配位子が1つ又は複数配位していてもよく、複数の配位子が配位される場合、各配位子は互いに独立して同じであっても異なっていてもよい。
【0040】
Fe、Pd、Ru、ReまたはNiの中心金属を含む、適度な安定性を有する金属錯体として、例えば以下の金属錯体が挙げられる。
【0041】
Fe錯体としては、例えば、フェナントロリン配位子から構成されるフェロイン、フタロシアニン鉄(II)錯体、メタロセン錯体としてのフェロセン([Fe(C
5H
5)
2])、さらには、Takashi Kunisu, Takuya Oguma, and Tsutomu Katsuki, "Aerobic Oxidative Kinetic Resolution of Secondary Alcohols with Naphthoxide-Bound Iron(salan) Complex", Journal of the American Chemical Society, 2011, 133, p.12937-12939 に記載されるような鉄サラン錯体が挙げられる。当該鉄サラン錯体は、具体的には以下の構造を有する。このような鉄サラン錯体は、第2級アルコールの酸化的分割、2−ナフトール類の酸化的カップリング反応に有用な触媒として知られている。
【0043】
また、Fe錯体の他の具体例としては、例えば、福本晃造、笠実千穂、大家創、中沢浩、「遷移金属錯体を用いたチロールとヒドロシランの脱水素縮合反応」、神戸高専研究紀要平成24年、第50号、p.173-176に記載されるような鉄メチル錯体も挙げることができ、当該鉄メチル錯体は、具体的にはCp(Co)
2Fe(CH
3)の構造を有する。このような鉄メチル錯体は、チロールとヒドロシランの脱水素縮合反応に有用な触媒として知られている。
【0044】
Pd錯体としては、例えば、Yoshihiro Sugi, Kazuhiko Tekeuchi, Takaaki Hanaoka, Takehiko Matsuzaki, Satoru Takagi, and Yoshiaki Doi, "Ethoxycarbonylation of 4,4'-Dihalobiphenyl Derivatives Catalyzed by Palladium-phosphine Complexes" Sekiyu Gakkaishi, 1994, 37,(1), p.70-76に記載されるようなPd錯体が挙げられる、当該Pd錯体は、具体的には、キレート性ホスフィンであるα,ω−ビス(ジフェニルホスフィノ)アルカン(Ph
2P(CH
2)
nPPh
2(n=2〜5))を配位子として有する。このようなPd錯体は、4,4'−ジハロビフェニル誘導体のエトキシカルボニル化反応に有用な触媒として知られている。
【0045】
また、Pd錯体の他の具体例として、trans−ビス(アセタト)ビス[o−(ジ−o−トルイルホスフィノ)ベンジル]ジパラジウム(II)も挙げることができる。当該Pd錯体は、具体的には以下の構造を有する。このようなPd錯体は、ハロゲン化アリールまたはハロゲン化アルケニルを末端オレフィンとクロスカップリングさせ、置換オレフィンを合成するHeck反応に有用な触媒として知られている。
【0047】
Ru錯体としては、例えば、Ayano Kimoto, Kosei Yamauchi, Masaki Yoshida, Shigeyuki Masaoka, and Ken Sakai, "Kinetics and DFT Studies on the Water Oxidation by Ce
4+Catalyzed by [Ru(terpy)(bpy)(OH
2)]
2+ Chemical Communications, 2012, 48, 239-241に記載されるようなRu錯体が挙げられ、当該Ru錯体は、具体的には[Ru(terpy)(bpy)(OH
2)]
2+の構造を有する。このようなRu錯体は、水からの酸素発生に有効な触媒として知られている。
【0048】
また、Ru錯体の他の具体例としては、例えば、Hiroyuki Takeda, Youhei Yamamoto, Chiaki Nishiura, and Osamu Ishitani, "Analysis and isolation of cationic rhenium(I) and ruthenium(II) multinuclear complexes using size-exclusion chromatography", ANALITICAL SCIENCES 2006, 22, p.545-549.に記載されるようなRu錯体又はRu−Re超分子錯体も挙げることができ、これらのRu錯体又はRu−Re超分子錯体は、具体的には以下の構造を有する。このようなRu錯体又はRu−Re超分子錯体は、二酸化炭素還元用の光触媒として有用な触媒として知られている。
【0050】
Ni錯体としては、例えば、山田健太、今樫佑介、古賀伸明、「Ni錯体触媒を用いた、アセチレン環化三量化反応の理論的研究」、分子構造総合討論会講演要旨集、2006年,1P059に記載されるようなNi錯体が挙げられ、当該Ni錯体は、具体的にはNi(PH
3)
2、Ni(PH
3)の構造を有する。このようなニッケル錯体は、アセチレン環化三量化反応に有用な触媒として知られている。
【0051】
また、金属錯体は、有機配位子(有機リンカー)と金属イオンまたは金属(酸化物)クラスター(以下、単に「金属クラスター」という)とが三次元配位ネットワークを形成した多孔性配位高分子(金属−有機構造体)であってもよい。このような多孔性配位高分子は、例えば、様々な配位数を有する金属イオン(遷移金属イオン)または金属クラスターと、二座配位子または多座配位子の有機配位子(架橋配位子)とが自己集合的に組みあがり、配位子−金属(金属クラスター)−配位子の主骨格の繰り返しにより構成された三次元骨格を有している。金属イオンまたは金属クラスターを構成する金属は、特に限定されるものではないが、例えば、上記の中心金属から選択することができる。また、有機配位子も特に限定されるものではない。なお、金属クラスターとは、金属原子同士の結合によって一定の構造単位を有する金属原子を含む化合物の集合体を意味する。
【0052】
金属錯体の金属元素(M)は、機能性構造体1に対して0.5〜2.5質量%で含有されていることが好ましく、機能性構造体1に対して0.5〜1.5質量%で含有されていることがより好ましい。また、金属錯体を構成する金属元素(M)に対する、骨格体10を構成するケイ素(Si)の割合(原子数比Si/M)は、10〜1000であることが好ましく、50〜200であることがより好ましい。上記割合が1000より大きいと、触媒活性が低いなど、機能性物質としての作用が十分に得られない可能性がある。一方、上記割合が10よりも小さいと、金属錯体の割合が大きくなりすぎて、骨格体10の強度が低下する傾向がある。なお、ここでいう金属錯体は、骨格体10の内部に保持され、または担持された金属錯体をいい、骨格体10の外表面に保持または担持された金属錯体を含まない。
【0053】
本発明の機能性構造体は、上記のような適度に安定な配位結合が形成された金属錯体を、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の骨格体の拡径部内で包接することができる。これにより、高い触媒活性を有する金属錯体が一定の空間内に保持されるため、金属錯体の配位結合の安定性も適切に維持できる。その結果、金属錯体の機能低下を抑制できるとともに、長寿命化を実現することができる。
【0054】
[機能性構造体の機能]
図2に示すように、機能性構造体1では、通路11の拡径部12に金属錯体20が包接されている。よって、孔11a、すなわち通路11に浸入した反応物質が金属錯体20と接触する。また、金属錯体20が触媒物質である場合、金属錯体の分子の大きさD
Cが、通路11の平均内径D
Fよりも大きく、拡径部12の内径D
Eよりも小さい場合には(D
F<D
C<D
E)、金属錯体20と拡径部12との間に小通路13が形成され(図中の矢印)、小通路13に浸入した反応物質が、金属錯体20と接触する。このとき、金属錯体20は、拡径部12で包接されることによって移動が制限され、通路11に侵入した反応物質等を含む流体との接触面積を維持することができる。
【0055】
そして、通路11に浸入した反応物質が金属錯体20に接触すると、化学反応が促進される。例えば、上記の構造を有するtrans−ビス(アセタト)ビス[o−(ジ−o−トルイルホスフィノ)ベンジル]ジパラジウム(II)(以下「パラダサイクル錯体」という)を触媒とする場合、ハロゲン化アリールまたはハロゲン化アルケニルを末端オレフィンとクロスカップリングさせ、置換オレフィンを合成する(Heck反応)。金属錯体20としてのパラダサイクル錯体は、配位子とPdとが一定の距離間を保ったまま拡径部12に包接されるため、高い触媒活性を維持したまま適度な安定性が確保される。そのため、パラダサイクル錯体による触媒反応により、置換オレフィンの合成を高い触媒活性を維持して実施することができる。
【0056】
[機能性構造体の製造方法]
図3は、
図1の機能性構造体1の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0057】
(ステップS1:準備工程)
図3に示すように、先ず、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の骨格体を得るための前駆体材料(A)を準備する。前駆体材料(A)は、好ましくは規則性メソ細孔物質であり、機能性構造体の骨格体を構成するゼオライト型化合物の種類(組成)に応じて適宜選択できる。
【0058】
例えば、骨格体を構成するゼオライト型化合物がケイ酸塩化合物である場合には、規則性メソ細孔物質は、細孔径1〜50nmの細孔が1次元、2次元または3次元に均一な大きさかつ規則的に発達したSi−O骨格からなる化合物であることが好ましい。このような規則性メソ細孔物質は、合成条件によって様々な合成物として得られるが、合成物の具体例としては、例えばSBA−1、SBA−15、SBA−16、KIT−6、FSM−16、MCM−41等が挙げられ、中でもMCM−41が好ましい。なお、SBA−1の一次元細孔径は10nm〜30nm、SBA−15の一次元細孔径は6nm〜10nm、SBA−16の一次元細孔径は6nm、KIT−6の一次元細孔径は9nm、FSM−16の一次元細孔径は3nm〜5nm、MCM−41の一次元細孔径は1nm〜10nmであることが好ましい。
【0059】
このような規則性メソ細孔物質は、例えば、メソポーラスシリカ、メソポーラスアルミノシリケート、メソポーラスメタロシリケートが挙げられる。また、規則性メソ細孔物質が、二種以上の金属を含むメソポーラスアルミノシリケート又はメソポーラスメタロシリケート等である場合、ゼオライト型化合物を構成する金属の一部を下記の脱イオン化工程により遊離させることができる。
【0060】
前駆体材料(A)は、市販品および合成品のいずれであってもよい。前駆体材料を合成する場合には、公知の規則性メソ細孔物質の合成方法により行うことができる。例えば、前駆体材料(A)の構成元素を含有する原料と、前駆体材料(A)の構造を規定するための鋳型剤とを含む混合溶液を調製し、必要に応じてpHを調整し、水熱処理(水熱合成)を行う。水熱処理により得られた沈殿物(生成物)を回収(例えば、ろ別)し、必要に応じて洗浄および乾燥、さらに焼成することで、粉末状の規則性メソ細孔物質である前駆体材料(A)が得られる。ここで、混合溶液の溶媒は、例えば水、アルコール等の有機溶媒等若しくはこれらの混合溶媒を用いることができる。また、原料としては、骨格体の種類に応じて選択されるが、例えばシリカゾル、金属アルコキシド等のシリカ剤、γ−アルミナ等の酸化金属などが挙げられる。また、鋳型剤としては、各種界面活性剤、ブロックコポリマー等を用いることができ、規則性メソ細孔物質の合成物の種類に応じて選択することが好ましく、例えばMCM−41を作製する場合にはヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド等の界面活性剤が好適である。水熱処理は、例えば、密閉容器内で、80〜800℃、5時間〜240時間、0〜2000kPaの処理条件で行うことができる。焼成処理は、例えば、空気中で、350〜850℃、2〜30時間の処理条件で行うことができる。
【0061】
(ステップS2:含浸工程)
次に、準備した前駆体材料(A)に、金属含有溶液を含浸させ、前駆体材料(B)を得る。
【0062】
金属含有溶液は、金属錯体の中心金属を構成し、下記焼成工程により、前駆体材料(C)の骨格の一部を置換し得る少なくとも1種の金属成分(M)(例えば、金属イオン)を含有する溶液であればよく、例えば、溶媒に、所定の金属成分を含有する金属塩、金属錯体を溶解させることにより調製できる。このような金属塩としては、例えば、塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、硝酸塩等の金属塩が挙げられ、中でも硝酸塩が好ましい。溶媒は、例えば水、アルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶媒等を用いることができる。
【0063】
前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させる方法は、特に限定されないが、例えば、後述する水熱処理工程の前に、粉末状の前駆体材料(A)を撹拌しながら、金属含有溶液を複数回に分けて少量ずつ添加することが好ましい。また、前駆体材料(A)の細孔内部に金属含有溶液がより浸入し易くなる観点から、前駆体材料(A)に、金属含有溶液を添加する前に予め、添加剤として界面活性剤を添加しておくことが好ましい。このような添加剤は、前駆体材料(A)の外表面を被覆する働きがあり、その後に添加される金属含有溶液が前駆体材料(A)の外表面に付着することを抑制し、金属含有溶液が前駆体材料(A)の細孔内部により浸入し易くなると考えられる。
【0064】
このような添加剤としては、例えばポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、分子サイズが大きく前駆体材料(A)の細孔内部には浸入できないため、細孔の内部に付着することはなく、金属含有溶液が細孔内部に浸入することを妨げないと考えられる。非イオン性界面活性剤の添加方法としては、例えば、後述する水熱処理工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前駆体材料(A)に対して50〜500質量%添加するのが好ましい。非イオン性界面活性剤の前駆体材料(A)に対する添加量が50質量%未満であると上記の抑制作用が発現し難く、非イオン性界面活性剤を前駆体材料(A)に対して500質量%よりも多く添加すると粘度が上がりすぎるので好ましくない。よって、非イオン性界面活性剤の前駆体材料(A)に対する添加量を上記範囲内の値とする。
【0065】
また、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量は、前駆体材料(A)に含浸させる金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)の量(すなわち、前駆体材料(B)に内在させる金属元素(M)の量)を考慮して、適宜調整することが好ましい。例えば、後述する水熱処理工程の前に、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算して、10〜1000となるように調整することが好ましく、50〜200となるように調整することがより好ましい。例えば、前駆体材料(A)に金属含有溶液を添加する前に、添加剤として界面活性剤を前駆体材料(A)に添加した場合、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を、原子数比Si/Mに換算して50〜200とすることで、金属錯体の金属元素(M)を、機能性構造体1に対して0.5〜2.5質量%で含有させることができる。前駆体材料(B)の状態で、その細孔内部に存在する金属元素(M)の量は、金属含有溶液の金属濃度や、上記添加剤の有無、その他温度や圧力等の諸条件が同じであれば、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量に概ね比例する。また、前駆体材料(B)に内在する金属元素(M)の量は、機能性構造体の骨格体に内在する金属錯体を構成する金属元素の量と比例関係にある。したがって、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を上記範囲に制御することにより、前駆体材料(A)の細孔内部に金属含有溶液を十分に含浸させることができ、ひいては、機能性構造体の骨格体に内在させる金属錯体の量を調整することができる。
【0066】
前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させた後は、必要に応じて、洗浄処理を行ってもよい。洗浄溶液として、水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶液を用いることができる。また、前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させ、必要に応じて洗浄処理を行った後、さらに乾燥処理を施すことが好ましい。乾燥処理としては、一晩程度の自然乾燥や、150℃以下の高温乾燥が挙げられる。
【0067】
(ステップS3:水熱処理工程)
次に、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の骨格体を得るための前駆体材料(A)に金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を水熱処理して、前駆体材料(C)を得る。その際、機能性構造体の骨格体の骨格構造に応じて、前駆体材料(B)と構造規定剤とを混合した混合溶液を作製し、この混合溶液を水熱処理して、前駆体材料(C)を得ることもできる。
【0068】
構造規定剤は、骨格体の構造を規定するための鋳型剤であり、例えば界面活性剤である。構造規定剤は、機能性構造体の骨格体の骨格構造に応じて選択することが好ましく、例えば、TMABr(テトラメチルアンモニウムブロミド)、TEABr(テトラエチルアンモニウムブロミド)、又はTPABr(テトラプロピルアンモニウムブロミド)等が挙げられる。
【0069】
前駆体材料(B)と構造規定剤との混合は、本水熱処理工程時に行ってもよいし、水熱処理工程の前に行ってもよい。また、上記混合溶液の調製は、特に限定されず、前駆体材料(B)と、構造規定剤とを、溶媒とを同時に混合してもよいし、溶媒に、前駆体材料(B)と、構造規定剤とをそれぞれ個別に分散させた状態にし、それぞれの分散溶液を混合してもよい。溶媒は、例えば水、アルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶媒等が挙げられる。また、混合溶液は、水熱合成を行う前に、酸又は塩基を用いてpHを調整しておくことが好ましい。
【0070】
水熱処理は、公知の方法で行うことができ、例えば、密閉容器内で、80〜800℃、5時間〜240時間、0〜2000kPaの処理条件で行うことが好ましい。また、水熱処理は、塩基性雰囲気下で行われることが好ましい。ここでの反応メカニズムは必ずしも明らかではないが、前駆体材料(B)を原料として水熱処理を行うことにより、前駆体材料(B)の規則性メソ細孔物質としての骨格構造は次第に崩れるが、構造規定剤の作用により、機能性構造体の骨格体としての新たな骨格構造(多孔質構造)が形成される。
【0071】
水熱処理後に得られる沈殿物(機能性構造体)は、回収(例えば、ろ別)後、必要に応じて洗浄、乾燥および焼成することが好ましい。洗浄溶液としては、水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶液を用いることができる。乾燥処理としては、一晩程度の自然乾燥や、150℃以下の高温乾燥が挙げられる。なお、沈殿物に水分が多く残った状態で、焼成処理を行うと、機能性構造体の骨格体としての骨格構造が壊れる恐れがあるので、十分に乾燥するのが好ましい。
【0072】
(ステップS4:焼成工程)
水熱処理された前駆体材料(C)を焼成し、メタロシリケート骨格の前駆体材料(D)を合成する。焼成処理は、例えば、空気中で、80〜850℃、2時間〜30時間の処理条件で行うことが好ましい。この焼成工程により、前駆体材料(C)の骨格の一部を、含浸工程において金属含有溶液に含まれる金属成分(M)に置換し、二種以上の金属を含むメタロシリケート骨格の前駆体材料(D)を合成することができる。
【0073】
(ステップS5:脱イオン化工程)
その後、メタロシリケート骨格の前駆体材料(D)を脱イオン化し、メタロシリケート骨格をなす金属の少なくとも1つ、例えば、上記焼成工程で置換された金属を還元し、当該金属を脱イオン化(遊離)させる。この工程で拡径部が形成される。脱イオン化は、例えば、硝酸アンモニウム水溶液等にメタロシリケートを分散させ、0.5〜10時間、80℃〜140℃の温度で保持し、その後、洗浄、乾燥させることにより行うことが好ましい。これにより、脱イオン化した金属イオンを細孔内に内包する前駆体材料(E)を合成することができる。
【0074】
また、上記の焼成処理により、規則性メソ細孔物質の孔内に含浸された金属成分が結晶成長して、金属酸化物粒子を内包する前駆体材料(D)を得た場合、任意に、水素ガス等の還元ガス雰囲気下で還元処理することで、骨格体に内在する金属酸化物微粒子の金属表面を還元し、金属酸化物微粒子を活性化し、金属クラスターを細孔内で合成することもできる。このとき、前駆体材料(A)が二種以上の金属を含むメソポーラスアルミノシリケートまたはメソポーラスメタロシリケート等であれば、上記の脱イオン化処理により、内包されている金属酸化物微粒子の金属とは異なる金属であって、ゼオライト型化合物の骨格をなす金属のうちの少なくとも1つを還元し、当該金属を脱イオン化(遊離)させることもできる。このような場合、この遊離した金属イオンは、上記還元処理工程により、当該金属酸化物微粒子の金属表面の還元により活性化した金属と共に、異種金属二核クラスター又は異種金属多核クラスターを作製することもでき、これにより、金属クラスターを包接する前駆体材料(F)を合成することができる。なお、前駆体材料(F)は、前駆体材料(D)のメタロシリケート骨格から脱イオン化した金属イオンを使用しても、同様に合成することができる。
【0075】
(ステップS6:配位子導入工程)
最後に、前駆体材料(E)の細孔内に所望とする配位子を導入する。これにより、配位子が、前駆体材料(E)の細孔内に多く存在する脱イオン化した金属イオン(又は金属クラスター)と反応し、金属錯体が包接された機能性構造体が生成される。なお、この配位子の導入は、前駆体材料(F)を使用しても同様に行うことができ、これにより、例えば、金属クラスターを用いて形成される多孔性配位高分子の金属錯体を包接する機能性構造体を生成することもできる。
【0076】
図4は、
図1の機能性構造体1の変形例を示す模式図である。
図1の機能性構造体1は、骨格体10に内在する少なくとも1つの金属錯体20を備えるが、これに限らず、
図4に示すように、機能性構造体2が、骨格体10の外表面10aに保持された少なくとも1つの機能性物質30を更に備えていてもよい。この機能性物質30は、一又は複数の機能を有する物質であり、単独又は骨格体10と協働することによって一又は複数の機能を有する物質であり、上記機能には、例えば触媒機能、発光(或いは蛍光)機能、吸光機能、識別機能等が含まれる。好ましくは、機能性物質30は触媒物質である。機能性物質30が有する機能は、金属錯体20が有する機能と同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、金属錯体20、機能性物質30の双方が触媒機能を有する場合、機能性物質30は、金属錯体20と同一であってもよいし、異なっていてもよい。本構成によれば、機能性構造体2の機能発揮を更に促進することができる。特に、金属錯体20、機能性物質30が触媒機能を有する場合、機能性構造体1と比較して、機能性構造体2に保持された金属錯体の含有量を増大することができ、金属錯体による触媒反応を更に促進することができる。
【0077】
この場合、骨格体10の内部に支持された金属錯体20の含有量は、骨格体10の外表面10aに保持された機能性物質30の含有量よりも多いことが好ましい。機能性物質30が金属錯体である場合、機能性構造体2に対する、機能性物質30としての金属錯体の含有量は、0.5質量%〜50質量%であり、好ましくは1.0質量%〜5.0質量%である。これにより、骨格体10の内部に包接された金属錯体による触媒反応が支配的となり、安定的な触媒反応を実現することができる。
【0078】
上述したように、本実施形態によれば、骨格体10が、互いに連通する通路11を有しており、通路11が、拡径部12を有し、金属錯体20が骨格体10の拡径部12に存在しているので、金属錯体20の骨格体10内での移動が規制され、金属錯体20の通路11からの流出を防止することができる。特に、通路11に複数の拡径部12が設けられ、複数の拡径部12の各々に金属錯体20が包接されている場合に、各拡径部に包接された各金属錯体の流出を防止することができる。また、通路11が骨格体10内で三次元的な立体構造を有することで、曲がりや分岐に因って流体が小さい孔径の通路11を流れる際に生じる流路抵抗が増大し、金属錯体20の流出を更に抑制することができる。特に、流体が高粘性の液体である場合、上記流路抵抗の影響が大きくなり、金属錯体20が通路11内の流体から受ける力をより減少させることができる。よって、金属錯体20の機能低下を抑制して、機能性構造体1の長寿命化を図ることができる。加えて、金属錯体20の長寿命化により金属錯体20の交換時期のスパンが長くなるので、機能性構造体1の交換作業が簡便となる。更に、使用済みの機能性構造体1の廃棄量を大幅に低減することができ、省資源化を図ることができる。
【0079】
また、骨格体10が上記金属錯体を担持する担体である場合、骨格体10内での金属錯体の移動をさらに規制でき、触媒としての有効表面積の減少を格段に抑制することができるので、金属錯体の触媒機能をより長期的に維持することができる。よって、触媒活性の低下を抑制して、機能性構造体1の長寿命化を図ることができる。また、触媒の長寿命化により機能性構造体1の交換作業が簡便となり、使用済みの機能性構造体1の廃棄量を大幅に低減することができ、省資源化を図ることができる。
【0080】
また、上記金属錯体の分子の大きさD
Cが、通路11の平均内径D
Fよりも大きく、且つ拡径部12の内径D
E以下であることにより、拡径部12の内部に金属錯体を確実に包接することができる。
【0081】
また、本実施形態によれば、機能性構造体の製造方法は、多孔質構造の骨格体を得るための前駆体材料(A)を準備する準備工程(ステップS1)と、前駆体材料(A)に、金属錯体の中心金属を構成する金属成分を含む金属含有溶液を含浸する含浸工程(ステップS2)と、金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)、特に、骨格体の構造を規定するための構造規定材が添加された前駆体材料(B)を水熱処理する水熱処理工程(ステップS3)と、水熱処理した前駆体材料(C)を焼成することにより、前駆体材料(C)の骨格の一部を、含浸工程における金属含有溶液に含まれる金属成分(M)に置換し、二種以上の金属を含むメタロシリケート骨格の前駆体材料(D)を合成する焼成工程(ステップS4)と、メタロシリケート骨格の前駆体材料(D)の脱イオン化処理により、拡径部の形成と共に、メタロシリケート骨格をなす金属の少なくとも1つ、例えば、上記焼成工程により置換された少なくとも1つの金属を還元し、当該金属を脱イオン化(遊離)させる脱イオン化工程(ステップS5)と、脱イオン化された金属イオンを内包する前駆体材料(E)の細孔内に所望とする配位子を導入する配位子導入工程(ステップS6)とを有する。これにより、骨格体10の内部に、互いに連通する通路11を形成すると共に、該流路に拡径部12を設け、且つ金属錯体20が骨格体10の拡径部12に存在することができ、上記と同様の効果を奏することができる。
【0082】
以上、本発明の実施形態に係る機能性構造体及びその製造方法について述べたが、本発明は記述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【実施例】
【0083】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0084】
(実施例1〜36)
<前駆体の合成>
[前駆体材料(A)の合成]
シリカ剤(テトラエトキシシラン(TEOS)、和光純薬工業株式会社製)と、鋳型剤としての界面活性剤とを混合した混合水溶液を作製し、適宜pH調整を行い、密閉容器内で、80〜350℃、100時間、水熱処理を行った。その後、生成した沈殿物をろ別し、水およびエタノールで洗浄し、さらに600℃、24時間、空気中で焼成して、表1に示される種類および孔径の前駆体材料(A)を得た。なお、界面活性剤は、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)(和光純薬工業株式会社製)を用いた。
【0085】
また、前駆体材料(A)に添加する金属含有水溶液の添加量は、該金属含有水溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算したときの数値が、200になるように調整した。
【0086】
[前駆体材料(B)の合成]
次に、表1に示される種類の金属錯体を構成する金属元素(M)に応じて、該金属元素(M)を含有する金属塩を、水に溶解させて、金属含有水溶液を調製し、添加剤としてのポリオキシエチレン(15)オレイルエーテル(NIKKOL BO−15V、日光ケミカルズ社製)の水溶液を添加する前処理を行い、粉末状の前駆体材料(A)に、金属含有水溶液を複数回に分けて少量ずつ添加し、前駆体材料(B)を得た。なお、金属塩は、以下のものを用いた。
・CuO
x:硝酸銅(II)三水和物)(和光純薬工業株式会社製)
・MoO
x:モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物)(和光純薬工業株式会社製)
・FeO
x:硝酸鉄(III)九水和物)(和光純薬工業株式会社製)
【0087】
[前駆体材料(D)の合成]
上記のようにして得られた前駆体材料(B)、または、前駆体材料(B)と、必要に応じて表1に示す構造規定剤とを混合して混合水溶液を作製し、密閉容器内で、80〜350℃、表1に示すpHおよび時間の条件で、水熱処理を行った。その後、生成した沈殿物(前駆体材料(C))をろ別し、水洗し、乾燥させ、さらに空気中で焼成した。これにより、表1に示す各金属塩を構成する金属を骨格内に含むメタロシリケート骨格の前駆体材料(D)を得た。
【0088】
[前駆体材料(D)の脱イオン化]
この前駆体材料(D)を、1M硝酸塩アンモニウム水溶液中に分散させ、80℃で2時間保持し、その後洗浄・乾燥し、各金属塩を構成する金属イオンが脱イオン化した前駆体材料(E)を得た。
【0089】
[金属錯体を包接する機能性構造体の作製]
配位子として、Cu
2(bpy)
3、Mo
2(bpy)
3、Fe
2(bpy)
3を、表1に示す各金属塩を構成する金属と対応する金属イオンが脱イオン化した各前駆体材料(E)と反応させ、ゼオライト構造内に金属錯体を包接させた。これにより、表1に示す骨格体に、機能性物質として金属錯体が包接された機能性構造体を得た(実施例1〜36)。
【0090】
(比較例1)
MFI型のシリカライトに、Tris(2,2’−bipyridine)iron)(III)(シグマ アルドリッチ社製)を混合し、骨格体としてのシリカライトの外表面に、機能性物質として金属錯体を付着させた機能性構造体を得た。このとき、[Fe(bpy)
3]
2+粉末の添加量は、付着させる[Fe(bpy)
3]
2+の金属元素(M:Fe)に対する、シリカライトを構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/Fe)に換算したときの数値が200となるように調整した。MFI型シリカライトは、金属を添加する工程以外は、実施例19〜27と同様の方法で合成した。
【0091】
(参考例1)
参考例1は、MFI型のシリカライトそのものである。
【0092】
上記実施例1〜36の機能性構造体、比較例1の機能性物質が外表面に付着したシリカライト、および参考例1のシリカライトそのものについて、以下に示す条件で、各種特性評価を行った。
【0093】
[A]拡径部と錯体の確認
上記実施例1〜36の機能性構造体および比較例1の機能性物質付着シリカライトにおける機能性物質の支持構造を小角X線散乱(SAXS)(株式会社リガク製、製品名「Nano−viewer IP」)で観察したところ、上記実施例1〜36の機能性構造体では、メタロシリケート骨格のゼオライト型化合物からなる骨格体の内部に拡径部が存在していることが確認された。一方、比較例1の機能性構造体では、機能性物質が骨格体の外表面に付着しているのみで、拡径部は確認されなかった。また、実施例7〜9の機能性構造体の拡散反射UV−Vis.スペクトル測定の結果、[Fe(bpy)
3]
2+では500nm付近にbpy由来のメタル―リガンド間の電子遷移のエネルギー(MLCT)に帰属可能な吸収が観察された。このことは[Fe(bpy)
3]
2+の存在を示唆する結果である。
【0094】
[B]骨格体の通路の平均内径
各実施例の機能性構造体および比較例1の[Fe(bpy)
3]
2+付着シリカライトについて、粉砕法にて観察試料を作製し、透過電子顕微鏡(TEM)(TITAN G2、FEI社製)を用いて、断面観察を行った。断面観察により撮影したTEM画像にて、骨格体の通路を、任意に500個選択し、それぞれの長径および短径を測定し、その平均値からそれぞれの内径を算出した(N=500)。さらに内径の平均値を求めて、骨格体の通路の平均内径D
Fとした。結果を表1に示す。
【0095】
[C]性能評価
骨格体と機能性物質とを備える上記実施例1〜36および比較例1の機能性構造体について、機能性物質(触媒物質)がもつ触媒能(性能)を評価した。結果を表1に示す。
【0096】
まず、機能性構造体を、常圧流通式反応装置に0.2g充填し、窒素ガス(N
2)をキャリアガス(5ml/分)とし、50℃で24時間、シクロヘキセンの酸化反応を行った。
【0097】
反応終了後に、回収した生成ガスおよび生成液を、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により成分分析した。なお、生成ガスの分析装置には、TRACE 1310GC(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、検出器:熱伝導度検出器)を用い、生成液の分析装置には、TRACE DSQ(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、検出器:質量検出器、イオン化方法:EI(イオン源温度250℃、MSトランスファーライン温度320℃、検出器:熱伝導度検出器))を用いた。
【0098】
さらに、上記成分分析の結果に基づき、シクロヘキサン酸化物(具体的には、シクロヘキセンオキシド、2−シクロヘキセン−1−オール、2−シクロヘキセン−1−オン)の収率(mol%)を求めた。上記シクロヘキサン酸化物の収率は、反応開始前のシクロヘキセンの物質量(mol)に対する、生成液中に含まれるシクロヘキサン酸化物の物質量の総量(mol)の百分率(mol%)として算出した。
【0099】
(1)[触媒活性の評価]
本実施例では、生成液中に含まれるシクロヘキサン酸化物の収率が、75%以上である場合を触媒活性(酸化能)が優れていると判定して「◎」、70%以上75%未満である場合を触媒活性が良好であると判定して「○」、65%以上70%未満である場合を触媒活性が良好ではないものの合格レベル(可)であると判定して「△」、そして65%未満である場合を触媒活性が劣る(不可)と判定して「×」とした。
【0100】
(2)[耐久性の評価]
まず、上記評価(1)で使用した機能性構造体を回収し、120℃で、10時間加熱して、加熱後の機能性構造体を作製した。次に、加熱した機能性構造体を室温まで冷却し、30分放置した。この操作を5回繰り返した後、上記シクロヘキセンの酸化反応を行い、さらに上記評価(1)と同様の方法で、生成ガスおよび生成液の成分分析を行った。また、TG−DTA測定をおこない、吸発熱の反応と重量減少を確認した。具体的には、実施例9、18、27、36のサンプルと、比較例1のサンプル試料をそれぞれ50mg分取してから、試料をTG−DTA装置の加熱炉に入れ、加熱炉内を20℃/minで昇温し、600℃まで試料を加熱し、吸発熱の反応と重量減少を確認した。
【0101】
本実施例では、加熱後の機能性構造体による上記化合物の収率(本評価(2)で求めた収率)が、加熱前の機能性構造体による上記化合物の収率(上記評価(1)で求めた収率)に比べて、80%以上維持されている場合を耐久性(耐熱性)が優れていると判定して「◎」、60%以上80%未満維持されている場合を耐久性(耐熱性)が良好であると判定して「○」、40%以上60%未満維持されている場合を耐久性(耐熱性)が良好ではないものの合格レベル(可)であると判定して「△」、そして40%未満に低下している場合を耐久性(耐熱性)が劣る(不可)と判定して「×」とした。
【0102】
なお、参考例1についても、上記評価(1)および(2)と同様の性能評価を行った。参考例1は、骨格体そのものであり、機能性物質は有していない。そのため、上記性能評価では、機能性構造体に替えて、参考例1の骨格体のみを充填した。結果を表8に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
表1から明らかなように、機能性構造体(実施例1〜36)は、単に機能性物質が骨格体の外表面に付着しているだけの機能性構造体(比較例1)と比較すると、機能性物質として[Fe(bpy)
3]
2+を使用することで、シクロヘキセンの酸化反応において優れた触媒活性を示すことがわかった。一方、比較例1の機能性構造体は、実施例1〜36の機能性構造体と比較して、触媒としての耐久性は劣っている。このことから、本発明に係る機能性構造体は、触媒としての耐久性が優れていることがわかった。また、機能性物質の種類にかかわらず、孔径が大きい前駆体材料(A)を使用することにより、より耐久性が優れた機能性構造体が得られることがわかった。
【0105】
また、機能性物質を何ら有していない参考例1の骨格体そのものは、シクロヘキセンの酸化反応において触媒活性は殆ど示さず、実施例1〜36の機能性構造体と比較して、触媒活性および耐久性の双方が劣っていた。
【0106】
また、骨格体の外表面にのみ機能性物質を付着させた比較例1の機能性構造体は、機能性物質を何ら有していない参考例1の骨格体そのものと比較して、シクロヘキセンの酸化反応における触媒活性は改善されるものの、上述のように、実施例1〜36の機能性構造体に比べて、触媒としての耐久性は劣っていた。
【0107】
また、TG−DTA測定の結果、実施例9、18、27、36のサンプルにおける重量減少は200℃を超えても継続するのに対し、比較例1のサンプルでは150℃程度で重量減少が完了した。このことは[Fe(bpy)
3]
2+錯体がゼオライト骨格に守られているため、実施例9、18、27、36のサンプルでは熱的安定性が向上していると考えられる。