特開2020-180967(P2020-180967A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-180967(P2020-180967A)
(43)【公開日】2020年11月5日
(54)【発明の名称】培養神経細胞の成熟度判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20201009BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20201009BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20201009BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20201009BHJP
【FI】
   G01N33/53 D
   G01N33/50 Z
   G01N33/15 Z
   C12Q1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2020-64545(P2020-64545)
(22)【出願日】2020年3月31日
(31)【優先権主張番号】特願2019-69896(P2019-69896)
(32)【優先日】2019年4月1日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、再生医療実用化研究事業、「創薬のためのインビトロ脳機能評価法の確立と標準化ヒト神経細胞の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【弁理士】
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】白尾 智明
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 祐見子
(72)【発明者】
【氏名】小林 勇喜
(72)【発明者】
【氏名】関野 祐子
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB01
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QR48
4B063QS33
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】培養神経細胞の成熟度を簡便に判定するための方法を確立すること。
【解決手段】(A)培養神経細胞を固定し、該固定した培養神経細胞に抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を接触させ、抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を細胞表面上の一次繊毛に結合させるステップ;(B)前記培養神経細胞の一次繊毛に結合した前記抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を検出して、一次繊毛を可視化するステップ;及び(C)可視化された前記一次繊毛の長さ及び/又は一次繊毛の発生率を測定することにより、前記培養神経細胞の成熟度を判定するステップを順次備えた方法により、培養神経細胞の成熟度を判定することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ(A)〜(C)を順次備えたことを特徴とする培養神経細胞の成熟度を判定する方法。
(A)培養神経細胞を固定し、該固定した培養神経細胞に抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を接触させ、抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を細胞表面上の一次繊毛に結合させるステップ;
(B)前記培養神経細胞の一次繊毛に結合した前記抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を検出して、一次繊毛を可視化するステップ;
(C)可視化された前記一次繊毛の長さ及び/又は一次繊毛の発生率を測定することにより、前記培養神経細胞の成熟度を判定するステップ;
【請求項2】
ステップ(A)において、抗Arl13b抗体及び抗MCHR1抗体を接触及び結合させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一次繊毛が、機能的一次繊毛であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
培養神経細胞が、ヒト由来であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
培養神経細胞が、人工多能性幹細胞由来であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ステップ(A)の培養神経細胞の固定が、室温でのメタノール固定であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
以下のステップ(A)〜(E)を順次備えたことを特徴とする神経細胞の成熟に影響を与える物質のスクリーニング方法。
(A)培養神経細胞を、被験物質で処理するステップ;
(B)前記被験物質で処理した培養神経細胞と、前記被験物質で処理していない培養神経細胞とを固定するステップ;
(C)固定した前記培養神経細胞に、抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を接触及び結合させるステップ;
(D)前記培養神経細胞に結合した前記抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を検出することにより、一次繊毛を可視化するステップ;
(E)前記一次繊毛の長さ及び/又は一次繊毛の発生率を、前記被験物質で処理した培養神経細胞と、前記被験物質で処理していない培養神経細胞との間で比較することにより、前記被験物質が神経細胞の成熟度に与える影響を評価するステップ;
【請求項8】
ステップ(C)において、抗Arl13b抗体及び抗MCHR1抗体を接触させることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
一次繊毛が、機能的一次繊毛であることを特徴とする請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
培養神経細胞が、ヒト由来であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
培養神経細胞が、人工多能性幹細胞由来であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
ステップ(B)の培養神経細胞の固定が、室温でのメタノール固定であることを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養神経細胞の一次繊毛を可視化し、該一次繊毛の長さ及び/又は一次繊毛の発生率を測定することにより、培養神経細胞の成熟度を判定する方法や、一次繊毛の長さ及び/又は一次繊毛の発生率を指標とした、神経細胞の成熟に影響を与える物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経疾患は、脳、脊髄、末梢神経等に障害を引き起こす病気の総称であり、脳卒中、認知症、パーキンソン病、脊髄小脳変性症などの神経変性疾患、重症筋無力症、多発性硬化症等の免疫性神経疾患、ギランバレー症候群等の末梢神経疾患、筋ジストロフィー等の筋疾患など多岐にわたる。神経疾患のメカニズムは解明が難しく、治療法が確立されていないものも多い。近年では、神経変性疾患に加え、ある種の精神疾患においても、脳の神経回路網の形成・修復の異常が疾患に関与していることが指摘されている(特許文献1等)。
【0003】
げっ歯類初代培養細胞は、疾患メカニズムを明らかにし、遺伝子機能についての知見を得るために不可欠である。また、医薬スクリーニングにおいてもげっ歯類初代培養細胞が用いられることがあるが、げっ歯類初代培養細胞を用いたスクリーニングで得られた化合物を、そのままヒト用の医薬品として用いることは不可能である。特に、ヒトの神経変性疾患の研究においては、ヒトニューロンはげっ歯類と比較して高次構造を有することから、ヒト由来の培養神経細胞の開発や、医薬品評価系の確立が待たれている(非特許文献1)。
【0004】
ヒトiPS細胞やES細胞由来の培養神経細胞は、医薬品評価系において、早期の副作用検出等のために期待されている技術である。培養神経細胞の初期分化に与える医薬品の影響は、遺伝子発現をマーカーとして評価することができる。一方で、成熟細胞に与える医薬品の影響は、評価方法としてはシナプス数の変化やドレブリン発現が考えられるものの、ヒト培養神経細胞は成熟速度が遅く、成熟細胞を得るまでに時間がかかることから成熟神経細胞の安定供給ができず、成熟細胞を用いた医薬品評価系の構築は未だなされていないのが現状である。また、成熟神経細胞への成熟途中の段階における成熟度を評価する指標としては、軸索の長さを挙げることができるが、軸索の長さは計測が困難である。
【0005】
一次繊毛は、成長が止まった脊椎動物細胞のほぼすべての表面上に1本ずつ存在する、単独の非運動性細胞小器官である(非特許文献2等)。一次繊毛は、母中心小体から伸長する微小管の骨格(軸糸)を有する構造体である。特定のシグナリング分子のみが一次繊毛の膜に入ることができることから、シナプスに加えてより高レベルのニューロンのシグナル伝達ノードであると考えられている。一次繊毛の構造や機能の欠陥は、肥満、多発性嚢胞腎疾患、網膜変性、神経学的欠陥を含む様々な疾患の病因を含む繊毛症に関連している。培養神経細胞においても、一次繊毛機能の欠損が、樹状突起伸長及びシナプス結合に悪影響を及ぼすことが知られている。さらに、多様なシグナルに反応し、多数の細胞プロセスに影響を及ぼすGタンパク質共役受容体(GPCR)が、一次繊毛機能に必須であると考えられている(非特許文献3)。げっ歯類の脳において、ソマトスタチンレセプターサブタイプ3(SSTR3)、セロトニンレセプターサブタイプ6(5−HT6)、D1タイプドーパミン作動性レセプター及びメラニン凝集ホルモンレセプター1(MCHR1)が繊毛特異的に発現していることがわかっており、一次繊毛は、神経精神医学的疾患であっても、治療介入の有望なポイントと考えられている(非特許文献4)。さらに、本発明者らは、うつに強いモデルマウスを作製し、その海馬で一次繊毛が野生型よりも伸長していることを検出した(非特許文献5)。これは、情動と一次繊毛長の関係を示した初の報告である。
【0006】
一次繊毛は、18日胚から新生子に至るいずれかの発生段階に由来する培養海馬、扁桃体、側坐核及び背側線条体ニューロンにおいて、培養数日以内に観察される(非特許文献3等)。それにもかかわらず、我々が知る限り、ヒトiPS細胞由来ニューロンにおいて、一次繊毛の存在は確認されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−137954号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日薬理誌(Folia Pharmacol.Jpn.)149, 104-109 (2017)
【非特許文献2】化学と生物, 51(8), 524-533 (2013)
【非特許文献3】医学のあゆみ−GPCR研究の最前線2016,256,608-615(2016)
【非特許文献4】PLoS One 7 (2012) e46647
【非特許文献5】Neuroscience 383 (2018) 160-169
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したとおり、ヒト培養神経細胞を用いた医薬品の早期評価系は、成熟細胞の安定供給が難しいことから未だ構築されていない。また、成熟神経細胞への成熟途中の段階における成熟度の簡便な判定方法も存在しない。本発明は、以上の事情に鑑みなされたものであり、培養神経細胞の成熟度を簡便に判定するための方法を確立すること、及び、培養神経細胞の成熟度に与える医薬品の影響を評価することにより、医薬品の早期評価系を構築することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、一次繊毛を指標として神経細胞の成熟度を判定することができるのではないかと考えた。従来、ヒトiPS細胞由来ニューロンに由来する一次繊毛の存在は確認されていなかったが、本発明者らは、培養神経細胞の培養方法、固定方法、染色方法を鋭意検討した結果、室温で10分間メタノールにより固定した培養神経細胞に、抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を反応させることで、一次繊毛を可視化できること、並びに、iPS細胞に由来する成熟途中の培養神経細胞に存在する一次繊毛が培養につれて伸長し、且つ、LiClやMCHといった情動に影響を与える因子により短縮、伸長することを、ヒトiPSニューロンで初めて発見し、一次繊毛の長さや発生率により、培養神経細胞の成熟度を判定できること、及び、神経細胞の成熟に影響を与える物質のスクリーニングを行えることを見いだした。また、本発明者らは、抗Arl13b抗体により染色される一次繊毛のうち一部のみが、抗MCHR1抗体によっても染色されることを見いだした。後述するとおり、Arl13bは繊毛の発生に必要とされるGタンパク質である。また、MCHR1は繊毛特異的に発現するレセプターであり、その機能に必須であると考えられる。したがって、抗Arl13b抗体では全ての一次繊毛を可視化されるのに対し、抗MCHR1抗体により可視化された一次繊毛は、成熟した機能的一次繊毛であることが推察された。さらに、発明者らは、従来一次繊毛の可視化に用いられていた抗アデニル酸シクラーゼ3抗体(AC3)は一次繊毛の根元が強く染まるものが多いのに対し、MCHR1はどの繊毛でもその全長に渡って局在しているため、抗MCHR1抗体で検出すると、一次繊毛の全体像がとらえやすいという利点があることを見いだした。本発明は、これらの知見により完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明は以下の事項により特定されるとおりのものである。
(1)以下のステップ(A)〜(C)を順次備えたことを特徴とする培養神経細胞の成熟度を判定する方法。
(A)培養神経細胞を固定し、該固定した培養神経細胞に抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を接触させ、抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を細胞表面上の一次繊毛に結合させるステップ;
(B)前記培養神経細胞の一次繊毛に結合した前記抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を検出して、一次繊毛を可視化するステップ;
(C)可視化された前記一次繊毛の長さ及び/又は一次繊毛の発生率を測定することにより、前記培養神経細胞の成熟度を判定するステップ;
(2)ステップ(A)において、抗Arl13b抗体及び抗MCHR1抗体を接触及び結合させることを特徴とする上記(1)に記載の方法。
(3)一次繊毛が、機能的一次繊毛であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)培養神経細胞が、ヒト由来であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)培養神経細胞が、人工多能性幹細胞由来であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)ステップ(A)の培養神経細胞の固定が、室温でのメタノール固定であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)以下のステップ(A)〜(E)を順次備えたことを特徴とする神経細胞の成熟に影響を与える物質のスクリーニング方法。
(A)培養神経細胞を、被験物質で処理するステップ;
(B)前記被験物質で処理した培養神経細胞と、前記被験物質で処理していない培養神経細胞とを固定するステップ;
(C)固定した前記培養神経細胞に、抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を接触及び結合させるステップ;
(D)前記培養神経細胞に結合した前記抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を検出することにより、一次繊毛を可視化するステップ;
(E)前記一次繊毛の長さ及び/又は一次繊毛の発生率を、前記被験物質で処理した培養神経細胞と、前記被験物質で処理していない培養神経細胞との間で比較することにより、前記被験物質が神経細胞の成熟度に与える影響を評価するステップ;
(8)ステップ(C)において、抗Arl13b抗体及び抗MCHR1抗体を接触及び結合させることを特徴とする上記(7)に記載の方法。
(9)一次繊毛が、機能的一次繊毛であることを特徴とする上記(7)又は(8)に記載の方法。
(10)培養神経細胞が、ヒト由来であることを特徴とする上記(7)〜(9)のいずれかに記載の方法。
(11)培養神経細胞が、人工多能性幹細胞由来であることを特徴とする上記(7)〜(10)のいずれかに記載の方法。
(12)ステップ(B)の培養神経細胞の固定が、室温でのメタノール固定であることを特徴とする上記(7)〜(11)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡便な方法により、培養神経細胞の成熟度の判定や、神経細胞の成熟に影響を与える物質のスクリーニングを行うことができる。従来は、安定した成熟培養神経細胞の供給が困難であったことにより、培養神経細胞を用いた薬剤のスクリーニングが困難であったが、本発明によれば、培養神経細胞の成熟度という新たな指標により薬剤のスクリーニングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ラット海馬から単離され凍結された凍結初代神経細胞をパラホルムデヒド(PFA)で固定し、抗アデニル酸シクラーゼ3抗体(A)、抗MCHR1抗体(B)を用いて一次繊毛を可視化した結果を示す図である。(C)は、(A)及び(B)のマージ画像である。(D)は、(C)と、中心体の染色に用いられる抗FGFR1OP(FOP)抗体を用いた染色像とのマージ画像である。
図2】実施例2の、iPS細胞に由来する、グルタミン酸作動性ヒト皮質ニューロン(iCellGlutaNeurons)を、ウサギ抗ヒトArl13B(Arl13B)及び神経細胞の染色に用いられるマウス抗ラットMAP2(MAP2)で染色し、BZ−9000蛍光顕微鏡で撮像した結果(A)、培養11日目のiCell GlutaNeuronsを、Arl13b、及び中心体の染色に用いられるマウス抗ヒトFGFR1OP(FGFR1OP)を用いて二重染色した結果(B)、及び培養日数毎の一次繊毛発生率(C)を示す図である。
図3】実施例2の、Arl13Bにより染色された一次繊毛長を経時的に測定した結果を示す図である。(A)培養日数毎の、一次繊毛長の平均値を示す図である。(B)培養日数毎の、一次繊毛長の分布を示す図である。
図4】実施例2の、LiCl存在下で11日間培養したiCell GlutaNeuronsを、Arl13B及びMAP2で染色し、BZ−9000蛍光顕微鏡で撮像した結果(A)、及びLiCl存在下で11日間培養したiCell GlutaNeuronsの一次繊毛長を測定した結果(B)を示す図である。(B)において、左は一次繊毛の平均長、右は一次繊毛の長さ分布を示す。
図5】実施例2の、MCH存在下で16日間培養したiCell GlutaNeuronsを、Arl13B及びヤギ抗ヒトMCHR1(MCHR1)で染色し、BZ−9000蛍光顕微鏡で撮像した結果(A)、及びMCH存在下で16日間培養したiCell GlutaNeuronsの一次繊毛長を測定した結果(B)を示す図である。(B)において、左は一次繊毛の平均長、右は一次繊毛の長さ分布を示す。
図6】実施例3の、SKY neuronにおけるMCHR1陽性一次繊毛長を測定した結果(A)及び全細胞(DAPI−核のマーカーの陽性細胞)中、MCHR1陽性一次繊毛を持つ細胞の存在比率を測定した結果(B)を示す図である。
図7】実施例3の、SKY neuron MCHR1陽性一次繊毛長に対するMCH添加の影響を示す図である。
図8】実施例3の、SKY neuron MCHR1陽性一次繊毛長のMCH応答性を評価した結果を示す図である。(A)は時間依存性、(B)は濃度依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、培養神経細胞の成熟度を判定する方法とは、(A)培養神経細胞を固定し、該固定した培養神経細胞に抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を接触させ、抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を細胞表面上の一次繊毛に結合させるステップ;(B)前記培養神経細胞の一次繊毛に結合した前記抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を検出して、一次繊毛を可視化するステップ;及び(C)可視化された前記一次繊毛の長さ及び/又は一次繊毛の発生率を測定することにより、前記培養神経細胞の成熟度を判定するステップを順次備えた方法(以下、「本発明の方法1」ということがある)であり、神経細胞の成熟に影響を与える物質のスクリーニング方法とは、(A)培養神経細胞を、被験物質で処理するステップ;(B)前記被験物質で処理した培養神経細胞と、前記被験物質で処理していない培養神経細胞とを固定するステップ;(C)固定した前記培養神経細胞に、抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を接触・結合させるステップ;(D)前記培養神経細胞に結合した前記抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を検出することにより、一次繊毛を可視化するステップ;及び(E)前記一次繊毛の長さ及び/又は一次繊毛の発生率を、前記被験物質で処理した培養神経細胞と、前記被験物質で処理していない培養神経細胞との間で比較することにより、前記被験物質が神経細胞の成熟度に与える影響を評価するステップを順次備えた方法(以下、「本発明の方法2」ということがある)である。
【0015】
本発明において、培養神経細胞とは、胚性幹細胞や人工多能性幹細胞等の多能性幹細胞に由来する神経前駆細胞を、神経細胞培養用培地にて培養して成熟させた培養神経細胞を意味し、中でも人工多能性幹細胞(iPS細胞)に由来する培養神経細胞を好適に例示することができる。また、培養神経細胞の起源は、ヒトの治療薬のスクリーニングに用いることができるものであることが好ましく、例えば哺乳類由来、より好ましくは霊長類由来、さらに好ましくはヒト由来を挙げることができる。本発明の培養神経細胞は、ヒトiPS細胞由来の培養神経細胞がより好ましく、ヒトiPS細胞由来のグルタミン酸作動性ヒト皮質ニューロンがさらに好ましい。また、本発明における神経細胞培養用培地は、培養神経細胞の培養に用いられる公知のいかなる培地であってもよく、血清が添加されていても、添加されていなくてもよいが、中でもBrainPhys NeuronalMedium(STEMCELL-Technologies社製)、神経細胞用培地(富士フイルム和光純薬株式会社製)、Neuron Growth Medium(サイヤジェン株式会社製)等の市販の神経細胞培養用無血清培地や、血清を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を好適に例示することができる。
【0016】
本発明は、培養神経細胞に抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体を接触させることにより、一次繊毛を可視化することを特徴とする。ここで、抗Arl13b抗体とは、Rasスーパーファミリーの低分子量繊毛Gタンパク質であるArl13bに対する抗体である。Arl13bは、繊毛に局在し、ソニックヘッジホッグシグナリングと同様に繊毛の発生に必要とされるため、繊毛の標識に使用できる抗体ターゲットである。また、MCHR1は、一次繊毛上に局在することが知られている摂食受容体である。しかしながら、発明者らの知る限りでは、これらの抗体がヒト由来培養神経細胞の一次繊毛の検出に使用されたとの報告はなされていない。その理由として、神経細胞一次繊毛の検出には、一般的に、神経細胞一次繊毛に特異的に局在するアデニル酸シクラーゼ3に対する抗体である、抗アデニル酸シクラーゼ3抗体(AC3)が使用されていたことが考えられるが、本発明者らのヒトiPS細胞由来のグルタミン酸作動性ヒト皮質ニューロンを用いた検討によれば、抗アデニル酸シクラーゼ3抗体では一次繊毛を検出することはできなかった。
【0017】
本発明において、前記培養神経細胞に結合した前記抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体は、いかなる公知の方法により検出してもよいが、簡便性、及び抗Arl13b抗体及び抗MCHR1抗体で二重染色した場合の識別性の観点から、蛍光標識を用いることが好ましい。ここで、蛍光標識としては、FITC、Cy3、Cy5、Rhodamine、Alexa fluor(登録商標、インビトロジェン社製)等の蛍光物質を挙げることができる。抗Arl13b抗体や抗MCHR1抗体は、直接標識してもよく、これらに対する二次抗体を用いて検出してもよい。本発明で用いる抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれであってもよく、市販のものを使用できる他、常法により作製することもできる。可視化された一次繊毛は、顕微鏡観察により長さを計測及び/又は発生率を算出してもよい。
【0018】
本発明における培養神経細胞の固定条件としては、培養神経細胞の一次繊毛や機能的一次繊毛の構造が安定化され、抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体による可視化が効率的に行える条件であればいかなる公知の方法を用いてもよく、固定化試薬としては、例えばメタノール、アセトン、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド(PFA)、エタノール、グルタルアルデヒド、スベルイミノ酸ジメチルを挙げることができ、固定化試薬は、冷凍庫(−20±2℃)又は冷蔵庫(4±2℃)で冷却したものや、室温のものを使用することができるが、ヒトiPS細胞由来の培養神経細胞を固定する場合の好適な固定条件としては、室温の100%メタノールに1〜20分間、好ましくは5〜15分間、より好ましくは8〜12分間(約10分間)浸漬固定する条件を例示することができる。また、HistoChoice Tissue Fixative(Sigma-Aldrich社製)等の市販の固定液に、必要に応じてエタノール及び/又は2−プロパノールを添加して用いてもよい。
【0019】
本発明の培養神経細胞の成熟度を判定する方法(本発明の方法1)の一態様において、培養神経細胞の成熟度は、抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体により可視化された一次繊毛の長さを測定することにより判定される。例えば、培養神経細胞の成熟度は、成熟度を0(培養0日の培養神経細胞)〜1(成熟培養神経細胞)で判定する場合、以下の数式(1)で算出してもよい。ここで、「判定対象培養神経細胞の一次繊毛長」とは、判定の対象となる培養神経細胞(集団)の一次繊毛の平均長をいい、「成熟培養神経細胞の一次繊毛長」とは、成熟培養神経細胞(集団)の一次繊毛の平均長をいう。なお、本発明において、「培養0日の培養神経細胞」とは、神経前駆細胞を神経細胞培養用培地に移植し、培養を開始した直後の培養神経細胞をいい、「成熟培養神経細胞」とは、神経細胞培養用培地での培養日数が例えば10日以上、11日以上、12日以上、13日以上、14日以上、15日以上、16日以上、17日以上、18日以上、19日以上、又は20日以上であって、分岐した神経突起のある典型的な神経細胞の形態を有する培養神経細胞をいう。なお、神経細胞培養用培地での培養日数は、好ましくは40日以下である。
【0020】
【数1】
【0021】
本発明の方法1の一態様において、培養神経細胞の成熟度は、抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体により可視化された一次繊毛の発生率を測定することにより判定される。ここで、培養神経細胞の一次繊毛の発生とは、抗Arl13b抗体及び/又は抗MCHR1抗体により可視化された一次繊毛の長さが1.5μm以上となったことを意味し、培養神経細胞の一次繊毛の発生率とは、全培養神経細胞(総数)の内の、一次繊毛が発生した培養神経細胞の割合をいう。例えば、培養神経細胞の成熟度は、成熟度を0(培養0日の培養神経細胞)〜1(成熟培養神経細胞)で判定する場合、以下の数式(2)で算出してもよい。
【0022】
【数2】
【0023】
本発明者らの検討により、培養神経細胞の一次繊毛のうち、抗Arl13b抗体では可視化されるが、抗MCHR1抗体では可視化されないものがあることが明らかになった。MCHR1が一次繊毛の機能に必須であると考えられること、及び、抗Arl13b抗体及び抗MCHR1抗体の両方で染色された一次繊毛は、培養日数が増えるにつれ上昇した(下記表2参照)。MCHR1は摂食・情動・睡眠に深く関わることが知られている神経ペプチドMCHを受容する膜受容体であることから、MCHR1が存在するということは確かに生理的に意味のあるシグナルを受容するシステムが存在すると示唆される。つまり、MCHR1を持つということは、繊毛の神経としてのアンテナ機能を持つまで成熟した一次繊毛であると考えられるため、抗Arl13b抗体及び抗MCHR1抗体の両方で染色された一次繊毛は、機能的に成熟した一次繊毛であると推察された。そこで、本発明において「機能的一次繊毛」とは、抗MCHR1抗体、好ましくは抗Arl13b抗体及び抗MCHR1抗体の両方で染色される一次繊毛のことをいう。
【0024】
本発明の方法1の一態様において、培養神経細胞の成熟度は、抗MCHR1抗体、好ましくは抗Arl13b抗体及び抗MCHR1抗体により可視化された機能的一次繊毛の長さを測定することにより判定される。例えば、培養神経細胞の成熟度は、成熟度を0(培養0日の培養神経細胞)〜1(成熟培養神経細胞)で判定する場合、以下の数式(3)で算出してもよい。ここで、「判定対象培養神経細胞の機能的一次繊毛長」とは、判定の対象となる培養神経細胞(集団)の機能的一次繊毛の平均長をいい、「成熟培養神経細胞の機能的一次繊毛長」とは、成熟培養神経細胞(集団)の機能的一次繊毛の平均長をいう。
【0025】
【数3】
【0026】
本発明の方法1の一態様において、培養神経細胞の成熟度は、抗MCHR1抗体、好ましくは抗Arl13b抗体及び抗MCHR1抗体により可視化された機能的一次繊毛の発生率を測定することにより判定される。ここで、培養神経細胞の機能的一次繊毛の発生とは、抗MCHR1抗体、好ましくは抗Arl13b抗体及び抗MCHR1抗体により可視化された機能的一次繊毛の長さが1.5μm以上となったことを意味し、培養神経細胞の機能的一次繊毛の発生率とは、全培養神経細胞(総数)の内の、機能的一次繊毛が発生した培養神経細胞の割合をいう。機能的一次繊毛の発生率に基づく培養神経細胞の成熟度は、成熟度を0(培養0日の培養神経細胞)〜1(成熟培養神経細胞)で判定する場合、以下の数式(4)で算出してもよい。
【0027】
【数4】
【0028】
本発明の方法1において、培養神経細胞の成熟度は、一次繊毛の長さ、一次繊毛の発生率、機能的一次繊毛の長さ、及び機能的一次繊毛の発生率のうちのいずれか1つで判定しても、2つ以上の組み合わせで判定してもよい。
【0029】
本発明の神経細胞の成熟に影響を与える物質のスクリーニング方法(本発明の方法2)は、一次繊毛の長さ及び/又は一次繊毛の発生率、並びに/或いは、機能的一次繊毛の長さ及び/又は機能的一次繊毛の発生率が培養神経細胞の成熟度を判定する指標になるとの知見に基づくものである。本発明の一態様において、一次繊毛の長さを、被験物質が神経細胞の成熟度に与える影響を評価する指標として用いる場合、被験物質の存在下で培養した培養神経細胞の一次繊毛の長さが、被験物質の非存在下で培養した培養神経細胞の一次繊毛の長さを基準として5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、又は50%以上長い場合に培養神経細胞の成熟促進効果を有すると評価することができ、被験物質の存在下で培養した培養神経細胞の一次繊毛の長さが、被験物質の非存在下で培養した培養神経細胞の一次繊毛の長さを基準として5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、又は50%以上短い場合に培養神経細胞の成熟抑制効果を有すると評価することができる。
【0030】
本発明の方法2の一態様において、一次繊毛の発生率を、被験物質が神経細胞の成熟度に与える影響を評価する指標として用いる場合、被験物質の存在下で培養した培養神経細胞の一次繊毛の発生率が、被験物質の非存在下で培養した培養神経細胞の一次繊毛の発生率を基準として5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、又は50%以上高い場合に培養神経細胞の成熟促進効果を有すると評価することができ、被験物質の存在下で培養した培養神経細胞の一次繊毛の発生率が、被験物質の非存在下で培養した培養神経細胞の一次繊毛の発生率を基準として5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、又は50%以上低い場合に培養神経細胞の成熟抑制効果を有すると評価することができる。
【0031】
本発明の方法2の一態様において、機能的一次繊毛の長さを、被験物質が神経細胞の成熟度に与える影響を評価する指標として用いる場合、被験物質の存在下で培養した培養神経細胞の機能的一次繊毛の長さが、被験物質の非存在下で培養した培養神経細胞の機能的一次繊毛の長さを基準として5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、又は50%以上長い場合に培養神経細胞の成熟促進効果を有すると評価することができ、被験物質の存在下で培養した培養神経細胞の機能的一次繊毛の長さが、被験物質の非存在下で培養した培養神経細胞の機能的一次繊毛の長さを基準として5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、又は50%以上短い場合に培養神経細胞の成熟抑制効果を有すると評価することができる。
【0032】
本発明の方法2の一態様において、機能的一次繊毛の発生率を、被験物質が神経細胞の成熟度に与える影響を評価する指標として用いる場合、被験物質の存在下で培養した培養神経細胞の機能的一次繊毛の発生率が、被験物質の非存在下で培養した培養神経細胞の機能的一次繊毛の発生率を基準として5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、又は50%以上高い場合に培養神経細胞の成熟促進効果を有すると評価することができ、被験物質の存在下で培養した培養神経細胞の機能的一次繊毛の発生率が、被験物質の非存在下で培養した培養神経細胞の機能的一次繊毛の発生率を基準として5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、又は50%以上低い場合に培養神経細胞の成熟抑制効果を有すると評価することができる。
【0033】
本発明の方法2の一態様において、上記数式(1)〜(4)のいずれかにより算出した成熟度を、被験物質が神経細胞の成熟度に与える影響を評価する指標として用いる場合、被験物質の非存在下で培養した培養神経細胞の成熟度を基準として5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、又は50%以上高い場合に培養神経細胞の成熟促進効果を有すると評価することができ、被験物質の存在下で培養した培養神経細胞の成熟度が、被験物質の非存在下で培養した培養神経細胞の成熟度を基準として5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、又は50%以上低い場合に培養神経細胞の成熟抑制効果を有すると評価することができる。
【0034】
本発明の方法2において、培養神経細胞を、被験物質で処理するステップとしては、培養神経細胞を被験物質の存在下で培養しても、被験物質非存在下で培養した培養神経細胞の培地を、被験物質を含む緩衝液に交換してもよく、被験物質としては、神経疾患の治療薬の候補化合物を好適に例示することができる。
【0035】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
1.細胞固定条件の検討
本発明者らは、予備実験として、ラット海馬から単離され凍結された凍結初代神経細胞(SKY neuron、AMED再生医療実用化研究事業・群馬大学白尾より提供)を用い、一般的な細胞固定方法であるパラホルムデヒド(PFA)固定後の抗アデニル酸シクラーゼ3抗体又は抗MCHR1抗体での一次繊毛の可視化では、一次繊毛の構造が崩れ(長さが短縮、折れ曲がる)、正確な長さを測定できないことを確認している(図1)。そこで、細胞固定条件を検討するため、凍結初代神経細胞を、以下の表1に記載の固定化条件で処理した後に、マウス抗MCHR1抗体と接触させ、染色がなされたかどうかを確認した。
【0037】
結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
一般的な固定法である条件(1)〜(5)では、MCHR1が染まらなかったり、形が崩れたり、核内に非特異的な染色が起こったのに対し、条件(6)では繊毛膜に局在するMCHR1が特異的に染色された。また、SKY neuronの繊毛は、ウサギ抗ヒトArl13B抗体によっても染色されることを確認した(図示せず)。これらの結果に鑑み、実施例2の固定条件は条件(6)で行った。
【実施例2】
【0040】
2.iCell GlutaNeuronsを用いた機能的一次繊毛の可視化条件の検討
iPS細胞に由来する、グルタミン酸作動性ヒト皮質ニューロン(iCell GlutaNeurons)を用い、機能的一次繊毛の可視化条件の検討を行った。
【0041】
2−1 iCell GlutaNeuronsの培養
iCell GlutaNeurons(CellularDynamicsInternational社製)を、製造者のプロトコルに基づいて解凍した。計35×10個の細胞を、1M硝酸水溶液で洗浄し、0.01%ポリ−L−リジンでコーティングした12mmの円形カバーガラスに播種し、24ウェル培養プレート中に設置した。細胞培養は、神経生理学用無血清培地BrainPhys(STEMCELL-Technologies社製)に、2%iCell NeuralSupplement B (STEMCELL-Technologies社製)、2% SM1 NeuronalSupplement(STEMCELL-Technologies社製)、1% iCell Nervous System Supplement (STEMCELL-Technologies社製)、1mM laminin、ペニシリンG−ストレ
プトマイシンを添加した培地(完全BrainPhys培地)中で行った。1日培養後、50ng
/mLの脳由来神経栄養因子を添加した完全BrainPhys培地(iGlu−GM)に培地交
換した。培地を1日おきに交換しながら、37℃、5%CO環境下で1〜20日間培養した。
【0042】
2−2 LiCl処理
2−1で11日間培養したiCell GlutaNeuronsを、20mM LiCl(Sigma Aldrich社製)を含んだiGlu−GMに培地交換し、37℃、5%CO環境下で6〜8時間
培養した。
【0043】
2−3 MCH処理
2−1で16〜19日間培養したiCell GlutaNeuronsを、1nM MCH(株式会社ペプチド研究所製)を含んだiGlu−GMに培地交換し、37℃、5%CO環境下で3〜5時間培養した。
【0044】
2−4 抗体染色
2−1で培養したiCell GlutaNeurons、及び2−2、2−3でLiCl又はMCHで処理したiCell GlutaNeuronsを、室温の100%メタノールを用いて10分間固定した後、ダルベッコPBS(D−PBS)で洗浄し、5%ヤギ血清及び0.1%TritonX−100を添加したD−PBS(PBSGT)又は5%ロバ血清及び0.1%TritonX−100を添加したD−PBS(PBSDT)を用いて室温で45分間ブロッキング処理を行った。細胞をさらにD−PBSで洗浄した後、PBSGT又はPBSDTで希釈した一次抗体に置換し、4℃で一晩インキュベートした。用いた一次抗体及び希釈倍率は以下のとおりである。
1)ウサギ抗ラットアデニル酸シクラーゼIII(RPCA-ACIII;Encor Biotechnology社製; 5000倍希釈)
2)ウサギ抗ヒトArl13B(17711-1-AP;Proteintech社製; 700倍希釈)
3)マウス抗ラットMAP2(M4403; Sigma社製; 1000倍希釈)
4)マウス抗ヒトFGFR1OP(B-1; sc-374340; Santa CruzBiotechnology社製; 200倍希釈)
5)ヤギ抗ヒトMCHR1(C-17, sc-5534; Santa CruzBiotechnology社製; 300倍希釈)
【0045】
その後、細胞をD−PBSで洗浄し、PBSGT又はPBSDTで希釈した適切な蛍光標識二次抗体とともにインキュベートした。用いた蛍光標識二次抗体及び希釈倍率は以下のとおりである。
1)Alexa Fluor 488-conjugated goatanti-rabbit IgG(Thermo-Fisher社製; 300倍
希釈)
2)Alexa Fluor 546-conjugated goatanti-mouse IgG(Thermo-Fisher社製; 300倍希釈)
3)Alexa Fluor 488-conjugated donkeyanti-rabbit IgG(Thermo-Fisher社製; 300
倍希釈)
4)Alexa Fluor 546-conjugated donkeyanti-goat IgG(Thermo-Fisher社製; 300倍
希釈)
【0046】
標識した細胞を、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI;1μg/mL)で10分間室温にて洗浄及び対比染色した後、再度洗浄してVECTASHIELD(Vector-Laboratories社製)で退色防止処理を施したスライドグラスにマウントした。
【0047】
2−5 顕微鏡観察及び一次繊毛長測定
高倍率画像は、60倍の油浸対物レンズを装着したFV1000共焦点顕微鏡(オリンパス株式会社製)を用いて取得した。一次繊毛長は、BZ−9000蛍光顕微鏡(株式会社キーエンス製)で撮影した画像に基づいて、http://www.inocybe.info/よりダウンロードしたPhotoRulerVer. 1.1を用いて測定した。50本の一次繊毛の平均長さを1測定あ
たりの一次繊毛長とした。各条件で、最低3回の独立の実験を行い、それぞれの平均値及びSEMを計算した。
【0048】
2−6 結果
2−6−1 一次繊毛の可視化
まず、一般的に一次繊毛の染色に用いられるウサギ抗ラットアデニル酸シクラーゼIII
で一次繊毛の可視化を試みたが、線状構造を可視化することができなかった。そこで、発明者らは、繊毛の染色に使用されるウサギ抗ヒトArl13Bを一次繊毛の可視化に用いることができないかと考え、2、4、6、8、11、18日間培養したiCell GlutaNeuronsの抗体染色を行った。
【0049】
結果を図2に示す。図2Aは、iCell GlutaNeuronsを、ウサギ抗ヒトArl13B(Arl13B)及び神経細胞の染色に用いられるマウス抗ラットMAP2(MAP2)で染色し、BZ−9000蛍光顕微鏡で撮像した結果を示す図である。Arl13bでの染色結果より、線状構造体が培養につれて伸長することがわかる。
【0050】
図2Aで可視化された線状構造体が一次繊毛であることを確認するため、培養11日目のiCellGlutaNeuronsを、Arl13b、及び中心体の染色に用いられるマウス抗ヒトFGFR1OP(FGFR1OP)を用いて二重染色した。結果を図2Bに示す。ここでの結果より、Arl13bにより染色された線状構造体が、中心体を起点として伸長していることがわかり、この構造体が一次繊毛であることが確認できた。図2Cに、培養日数毎の一次繊毛発生率を示す。一次繊毛発生率は、培養日数が増えるにつれ上昇した。
【0051】
2−6−2 一次繊毛長の測定
上記2−6−1により、Arl13bにより染色された線状構造体が一次繊毛であることが確認できたため、かかる線状構造体の長さをPhotoRuler Ver.1.1を用いて測定した。結果を図3に示す。ここでの結果より、一次繊毛が、培養日数が増えるにつれ長くなることが示された。
【0052】
2−6−3 LiClによる一次繊毛伸長効果
上記2−2で、LiClにより処理し、Arl13B及びMAP2で染色したiCell GlutaNeuronsを、BZ−9000蛍光顕微鏡で撮像し、一次繊毛長を測定した。結果を図4に示す。ここでの結果より、LiClが、iCell GlutaNeuronsの一次繊毛を伸長させる作用を有することが示された。
【0053】
2−6−4 MCHによる一次繊毛短縮効果
上記2−3で、MCHにより処理し、Arl13B、及び一次繊毛に局在することが分かっているヤギ抗ヒトMCHR1(MCHR1)で染色したiCell GlutaNeuronsを、BZ−9000蛍光顕微鏡で撮像し、一次繊毛長を測定した。結果を図5に示す。ここでの結果より、MCHが、iCell GlutaNeuronsの一次繊毛を短縮させる作用を有することが示された。
【0054】
2−6−5 機能的一次繊毛の染色
上記2−6−4の染色結果より、Arl13Bでは染色されるが、MCHR1では染色されない一次繊毛が存在することがわかった(図示せず)。そこで、Arl13Bで染色された一次繊毛のうち、MCHR1陽性の一次繊毛の割合を算出した。結果を以下の表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
16日間培養したiCell GlutaNeuronsでは、11日間培養したiCell GlutaNeuronsと比較しMCHR1陽性一次繊毛の割合が増加していた。MCHR1は、脳室上皮細胞が持つ繊毛膜に発現するGタンパク質共役型受容体であり、視床下部外側野(摂食中枢)由来のMCHと結合することで繊毛の動きと脳室の大きさを制御することが報告されている(Conductier, G. etal. Nat Neurosci., 16:845-847, 2013)。このことから、MCHR1は一次繊毛機能に必須であり、Arl13B及びMCHR1で二重染色される一次繊毛は成熟した機能的一次繊毛であり、その割合は、培養につれて増加すると考えられた。
【実施例3】
【0057】
3.ラット海馬由来の初代培養細胞(SKY neuron)を用いた一次繊毛の解析
ラット海馬由来の初代培養細胞(SKY neuron)を用い、抗体として抗アデニル酸シクラーゼ3抗体(AC3)及び抗MCHR1抗体(MCHR1)を用いて一次繊毛の解析を行った。
【0058】
3−1 材料と方法
3−1−1 基質の調製−カバーガラスの洗浄とポリ−L−リジンコート
カバーガラス(松浪硝子工業株式会社製、丸型12mm)100枚を50mlチューブに入れ、これに1M HNOを25ml加え、15分間の超音波洗浄を行った。MilliQ水(MQ)で3−4回洗浄後、MQを25ml入れ、再度超音波洗浄を行った。新たなMQでリンスしたカバーガラスを、MQを満たした10cmのガラスシャーレに移し、オートクレーブ(120度・20分)で滅菌処理を行った。MQを除去し、エタノール(99.5%)を入れ、1枚ずつ新たなシャーレの内壁に立てかけてクリーンベンチ内で乾燥させた。
【0059】
洗浄したカバーガラスを培養用24wellプレートに1枚ずつ入れた。次に、基質への細胞接着性を高めるために、ポリ−L−リジン(PLL)コーティングを行った。1mg/ml PLL/0.1Mホウ酸バッファー(pH8.5)(組成は以下の表3に記す)をウェルに300μl入れ、室温で半日インキュベートした。その後、滅菌水で3回洗浄し、1mlのNeural−Plating MEM(各培地の組成は以下の表3に記す)を入れ、37℃、5%COで細胞播種時までインキュベートした。
【0060】
3−1−2 細胞培養
本実験には、初代培養細胞(E18ラット海馬由来SKY neuron)を使用した。細胞培養操作はクリーンベンチ内で行った。液体窒素から凍結神経細胞(1ml)の入ったセラムチューブを取り出し、恒温槽(37℃)にて3分間解凍した後、70%エタノールでセラムチューブの外側を消毒した。神経細胞懸濁液1mlを50mlチューブへゆっくりと移した。空になったセラムチューブに1mlのNeural−Plating MEMを入れ、1000μlのピペットで吸引後、神経細胞懸濁液を入れた50mlのチューブに1秒ごとに1滴ずつ落とすように移した。さらに、新たな8mlのNeural−Plating MEMを50mlチューブに1秒に1〜2滴ずつ落とすように加えた。50mlチューブ内の細胞懸濁液の濃度が均一になるようにゆっくりと揺らした後、PLLでコーティングしたスライドガラス入りの24wellプレートへ3〜12×10cells/cmになるように播種した。これを37℃、5%COで1時間インキュベート後、培地をNeural−Plating MEMから1mlのCulture mediumに交換し、再び培養した。
【0061】
培養4日目にグリア細胞除去のため、Culture mediumで希釈した1.5 μMシトシンアラビノシド(AraC)を添加した。培地交換は1週間ごとに行い、培養期間中の蒸発を考慮し、約1/3量の新たなCulture−mediumに置き換えた(例:250μl除去し300μlの新たな培地を添加)。
【0062】
【表3】
【0063】
3−1−3 蛍光免疫化学染色
リン酸緩衝食塩水:PBS(−)は室温に戻したものを使用した。固定液は、以下のオリジナルレシピにそって使用時に調製した。
4% PFA in PBS (-) : H104-750ML HistoChoiceTissue Fixative, 20X, Component A (VWR):H105-250MLHistoChoice Tissue Fixative, 20X, Component B (VWR):2-propanol: MQ = 50 : 4 : 1 : 10 : 35
【0064】
培地を除去後、固定液を用いて室温・10分でSKY neuronを固定した。固定液を除去後PBS(−)で洗浄した(10分×1回)。次に、ブロッキング溶液 [5% Donkey serum、0.1% Triton-100 in PBS (-)] を添加して、室温で45分間反応させた。PBS(−)により洗浄後(10分×2回)、ブロッキング溶液で希釈した1次抗体溶液 (AC3; RPCA-ACIII, EnCor 1:500、MCHR1; C-17,sc-5534, Santa Cruz 1:300) を用いて4℃で半日反応させた。PBS(−)により洗浄後(5分×3回)、ブロッキング溶液で希釈した蛍光標識2次抗体溶液 (A21206とA11056, Thermo Fisher 1:400) を用いて、室温・1時間で反応させた。PBS(−)により洗浄後(5分×3回)、核を検出するために1mg/ml DAPIをPBS(−)により1000倍希釈し、10分間染色した。PBS(−)により洗浄後(5分×3回)、蛍光退色抑制封入剤(ベクターシールド)を一滴たらしたスライドガラス上に、カバーガラスを細胞が張り付いている面を下にしてのせ、周囲をクリアマニキュアにより補強した。
【0065】
蛍光イメージは、HSオールインワン顕微鏡BZ−9000、FLUOVIEW FV1000共焦点レーザー走査型顕微鏡またはFLUOVIEW FV3000共焦点レーザー走査型顕微鏡を使用して取得した。繊毛長の測定にはディスプレイ上の対象物の長さを計測可能なPhotoRuler(http://hyougo.inocybe.info)を用いた。
【0066】
3−1−4 MCH添加による一次繊毛の評価
培養したSKY neuronに対し、0.1%BSAを含むCulture−mediumにより希釈したMCH(ペプチド研)を添加した。上記の蛍光免疫化学染色法を用いて、一次繊毛がMCHの添加時間および濃度依存的に縮退するかを解析した。16日間培養(Days in vitro)SKY neuron(16DIV)に対し、10nMのMCHを添加し、処理時間を0−6hrの間でふることで、MCHR1陽性一次繊毛に対する作用を評価した。MCH濃度依存性については、18DIVのSKY neuronに対し、0−10nMの間でMCH濃度をふり、2hr後及び4hr後に、蛍光免疫化学染色を行い、一次繊毛長を測定した。
【0067】
蛍光イメージは、FLUOVIEW FV1000共焦点レーザー走査型顕微鏡またはFLUOVIEW FV3000共焦点レーザー走査型顕微鏡を使用して取得した。繊毛長の測定には、PhotoRulerソフトウエア (http://hyougo.inocybe.info) を用いた。
【0068】
3−2 結果
3−2−1 一次繊毛の長さ及び発生率
MCHR1陽性一次繊毛長を測定した結果を図6Aに示す。培養日数を重ねるごとに繊毛長が伸長していくことがわかった。次に、MCHR1陽性一次繊毛の発生率を解析した。全細胞(DAPI−核のマーカーの陽性細胞)中、MCHR1陽性一次繊毛を持つ細胞の存在比率を測定した結果を図6Bに、神経細胞(MAP2−神経細胞のマーカーの陽性細胞)中でMCHR1陽性一次繊毛を持つ細胞の存在比率を測定した結果を図6Cに示す。ここでの結果より、5DIV以降、繊毛を保持する細胞が急増することがわかった。なお、MAP2陰性細胞(非神経細胞)にはMCHR1陽性一次繊毛は検出できなかった。
【0069】
3−2−2 SKY neuron MCHR1陽性一次繊毛長に対するMCH添加の影響評価
16DIVのSKY neuronに対し、10nMのMCHを添加し、時間を追って免疫化学染色を行った。結果を図7に示す。添加時間に伴い(0,2,4,6時間)、AC3/MCHR1陽性一次繊毛長が縮退していくことがわかった。なお、AC3は従来一次繊毛の可視化に用いられていた抗体であるが、AC3では一次繊毛の根元が強く染まるものが多かったのに対し、MCHR1での一次繊毛の全体像がとらえることができた(図7は、AC3でも全長が染色されているものを選別している)。これは、MCHR1はどの繊毛でもその全長に渡って局在しているためであると考えられる。また、SKY neuron(16−18日培養)において、全てのMCHR1陽性繊毛にはAC3が発現し(100%近い)、逆に、AC3陽性繊毛の96%にはMCHR1が発現する。さらに、上述のとおり、MCHR1は繊毛特異的に発現するレセプターであり、その機能に必須であると考えられることから、MCHR1は非常に優秀な神経細胞繊毛のマーカーとなることが示唆された。
【0070】
3−2−3 SKY neuron MCHR1陽性一次繊毛長のMCH応答性評価
SKY neuron MCHR1陽性一次繊毛長のMCH応答性を評価した結果を図8に示す。時間依存性の評価は、18DIVのSKY neuronに対して10nMのMCHを添加して、経時的に一次繊毛長を測定することで行った(図8A)。その結果、MCH添加後2時間から有意な縮退が起こり、4−6時間で頭打ちとなることがわかった。濃度依存性の評価は、18DIVのSKY neuronに対して0−10nMの間でMCH濃度をふり、2hr後及び4hr後に一次繊毛長を測定することで行った(図8B)。結果より、MCHを2時間添加した場合、3nMから縮退について有意な差が検出できることがわかった。また、添加4時間ではより縮退するが、3nMから効果が見られる点は同じであった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、簡便な方法により、培養神経細胞の成熟度の判定や、神経細胞の成熟に影響を与える物質のスクリーニングを行うことができる。従来は、安定した成熟培養神経細胞の供給が困難であったことにより、培養神経細胞を用いた薬剤のスクリーニングが困難であったが、本発明によれば、培養神経細胞の成熟度という新たな指標により薬剤のスクリーニングを行うことができるため、医療分野における産業上の有用性は高い。
図1
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図8