【解決手段】配向した複数のナノコイルを含有し、前記ナノコイルが、下記式(1)で表されるテトラチアフルバレン化合物と前記テトラチアフルバレン化合物に配位したアクセプター分子とを含む電荷移動錯体から構成されている、電磁材料。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本実施形態に係る電磁材料は、配向した複数のナノコイルを含有している。また、本実施形態におけるナノコイルは、下記式(1)で表されるテトラチアフルバレン化合物と、当該テトラチアフルバレン化合物に配位したアクセプター分子と、を含む電荷移動錯体から構成されている。
【0018】
式(1)中、R
1は2価の炭化水素基を示し、L
1は−CONH−を含む2価の基を示し、R
2は不斉源を有する炭化水素基を示す。
【0019】
本実施形態に係る電磁材料は、電荷移動錯体から構成された複数のナノコイルを有するため、優れた導電性を有している。また、本実施形態に係る電磁材料では、複数のナノコイルが配向しているため、電磁誘導による発電が可能、磁気の遮蔽が可能、といった良好な電磁特性を有する。
【0020】
本実施形態のテトラチアフルバレン化合物は、式(1)で表される化合物である。式(1)で表されるテトラチアフルバレン化合物は、中心となるテトラチアフルバレン部位が導電性部位として機能し、側鎖のL
1が分子間水素結合を形成するための水素結合部位として機能し、側鎖のR
2が右旋又は左旋のらせん構造を形成するためのキラル部位として機能する。このため、本実施形態のテトラチアフルバレン化合物は、後述のアクセプター分子と共にナノコイルを形成できる。
【0021】
なお、式(1)中の複数のR
1はいずれも同じ基であり、複数のL
1はいずれも同じ基であり、複数のR
2はいずれも同じ基である。
【0022】
複数のR
2が同じ基であることで、テトラチアフルバレン化合物は、S体又はR体となる。電磁材料中のチアフルバレン化合物はキラル化されていればよく、S体及びR体のいずれかが過剰であってもよく、S体又はR体の一方のみであってもよい。
【0023】
式(1)中のR
1は、導電性部位(テトラチアフルバレン部位)と水素結合部位(L
1)とを連結する連結基ということができる。R
1は、2価の炭化水素基であり、導電性部位、水素結合部位及びキラル部位の働きを阻害しない基であれば特に限定されない。
【0024】
R
1の2価の炭化水素基としては、例えば、アルカンジイル基、アリーレン基、及び、これらを組み合わせた基等が挙げられ、これらのうちアルカンジイル基が特に好ましい。
【0025】
アルカンジイル基の炭素原子数は特に限定されず、例えば2〜20であってよく、好ましくは2〜12、より好ましくは2〜6である。
【0026】
式(1)中のL
1は、−CONH−を含む2価の基である。L
1が−CONH−で表される基を含むことで、当該基が分子間で水素結合を形成し、導電性部位同士のπスタックによる1次元カラム構造が固定化される。
【0027】
L
1は、−CONH−を含む基であれば特に限定されず、例えば、−CONH−、−OCONH−及び−NHCONH−からなる群より選択される基であってよく、好ましくは−CONH−及び−OCONH−からなる群より選択される基である。
【0028】
式(1)中のR
2は、不斉源を有する炭化水素基である。不斉源は、不斉中心又は不斉軸であってよく、好ましくは不斉中心である。
【0029】
R
2は、不斉源を有する炭化水素基であれば特に限定されず、例えば、コレステロール、メチルフェネチルアミン、ナフチルエチルアミン等の公知の不斉源を有する化合物に由来する基であってよい。
【0030】
R
2は、例えば、不斉炭素原子を有する炭化水素基であることが好ましく、当該不斉炭素原子がL
1と直接結合していることが好ましい。
【0031】
R
2における炭化水素基は、例えば、不斉炭素原子に結合するアリール基と、不斉炭素原子に結合するアルキル基と、不斉炭素原子に結合する水素原子と、を有する基であってよい。
【0032】
アリール基の炭素原子数は特に限定されず、例えば6〜12であってよく、好ましくは6〜10、より好ましくは6である。アリール基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。
【0033】
アルキル基の炭素原子数は特に限定されず、例えば1〜20であってよく、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜6である。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
【0034】
テトラチアフルバレン化合物の具体例としては、例えば、以下に示す化合物が挙げられる。
【0036】
アクセプター分子は、テトラチアフルバレン化合物に配位して電荷移動錯体を形成可能な化合物であれば特に限定されない。すなわち、アクセプター分子は、テトラチアフルバレン化合物と混合した際に電荷移動を生じる分子であれば特に限定されない。
【0037】
アクセプター分子としては、例えば、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン、2,3−ジヨード−5,6−ジシアノベンゾキノン、テトラニトロビフェノール、2,4,7−トリニトロフルオレン、テトラシアノキノジメタン、テトラシアノエチレン、2,5−ジフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、2−フルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン等が挙げられる。
【0038】
電荷移動錯体は、テトラチアフルバレン化合物とアクセプター分子とが1:1で配位した錯体であってよい。
【0039】
電荷移動錯体は、テトラチアフルバレン化合物の導電性部位におけるπスタック、及び、水素結合部位による分子間水素結合によってナノファイバー状に自己組織化するが、このときキラル部位の存在によって捩じれが生じ、らせん状の構造体(すなわち、ナノコイル)が形成される。
【0040】
ナノコイルの直径は特に限定されず、例えば10〜500nmであってよく、好ましくは10〜50nmである。ナノコイルの短径は特に限定されず、例えば5〜500nmであってよく、好ましくは5〜20nmである。
【0041】
ナノコイルの長さは特に限定されず、例えば1μm〜500μmであってよく、好ましくは100μm〜500μmである。
【0042】
ナノコイルは電荷移動錯体から構成されているため、電気導電性を示す。ナノコイルの電気伝導度は、例えば10
−4〜10
−2S/cmであってよく、好ましくは10
−3〜10
−2S/cmである。
【0043】
ナノコイルは、例えば、テトラチアフルバレン化合物とアクセプター分子とを溶媒中で混合して錯体溶液を調製し、当該錯体溶液を基板上に塗布し、乾燥させることで形成することができる。
【0044】
錯体溶液は、例えば、テトラチアフルバレン化合物を溶解した第一の溶液とアクセプター分子を溶解した第二の溶液とを混合することで調製することができる。
【0045】
第一の溶液における溶媒(第一の溶媒)は、テトラチアフルバレン化合物を溶解可能であり、且つ、第二の溶媒との混合溶媒が電荷移動錯体を溶解可能なものであればよい。第一の溶媒としては、例えば、クロロホルム、トルエン、THF(テトラヒドロフラン)、アセトン等を好適に用いることができる。
【0046】
第二の溶液における溶媒(第二の溶媒)は、アクセプター分子を溶解可能であり、且つ、第一の溶媒との混合溶媒が電荷移動錯体を溶解可能なものであればよい。第二の溶媒としては、例えば、アセトニトリル、DMSO(ジメチルスルホキシド)等を好適に用いることができる。
【0047】
ナノコイルを配向させる方法は特に限定されない。例えば、上述の錯体溶液を基板上に塗布し、密閉容器内で30分間静置し、その後、容器を開封して溶媒の揮発速度を速めることで、形成されるナノコイルを配向させることができる。この方法では、密閉容器内で徐々に溶媒を揮発させることで基板上の溝、クラック等に沿って分子配列が形成され、その後、揮発速度を速めることで、それまでに形成された分子配列に沿って残りの分子が配列することで、ナノコイルが配列すると考えられる。
【0048】
なお、例えば、密閉容器内で長時間(例えば24時間)静置した場合は、溶媒が残存している時間が長いため、より安定しやすい構造を取りやすくなり、配向性が消失すると考えられる。また、密閉せずに大気下で溶媒を揮発させた場合は、基板上の溝等の影響が発現する前に自己組織化が進み、配向性が得られないと考えられる。
【0049】
本実施形態に係る電磁材料は、優れた導電性を有しており、また、電磁誘導による発電が可能、磁気の遮蔽が可能といった良好な電磁気特性を有している。このため、本実施形態に係る電磁材料は、導電性及び/又は電磁気特性が要求される種々の用途に好適に用いることができる。
【0050】
例えば、本実施形態に係る電磁材料は、磁気を遮断するためのシールド材として好適に用いることができる。すなわち、本発明の一形態は、上記電磁材料を含むシールド材である。
【0051】
シールド材の形状は特に限定されず、例えば、フィルム状、ディスク状、ブロック状、ゲル状、ドット状等であってよい。
【0052】
シールド材は、電磁材料以外の他の成分を更に含有していてよい。他の成分としては、例えば、電磁材料を保持するための母材(例えば、マトリックス樹脂(ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等)、パラフィン等が挙げられる。
【0053】
また、本実施形態に係る電磁材料は、導電シートとして好適に用いることができる。すなわち、本発明の一形態は、上記電磁材料を含む導電シートである。
【0054】
導電シートは、電磁材料が全面に配置されたものであってよく、一部の面のみに配置されたものであってもよい。
【0055】
導電シートは、電磁材料以外の他の成分を更に含有していてよい。他の成分としては、例えば、電磁材料を保持するための母材(例えば、マトリックス樹脂(ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等)、パラフィン等が挙げられる。
【0056】
また、本実施形態に係る電磁材料は、電磁誘導による発電が可能な給電部材として好適に用いることができる。すなわち、本発明の一形態は、上記電磁材料を含む給電部材である。
【0057】
給電部材の形状は特に限定されず、例えば、フィルム状、ディスク状、ブロック状、ドット状等であってよい。
【0058】
給電部材は、電磁材料が部材全体に配置されたものであってよく、部材の一部のみに配置されたものであってもよい。
【0059】
給電部材は、電磁材料以外の他の成分を更に含有していてよい。他の成分としては、例えば、電磁材料を保持するための母材(例えば、マトリックス樹脂(ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等)、パラフィン等が挙げられる。
【0060】
また、本実施形態に係る電磁材料の用途は上記のものに限定されず、例えば、インダクタ、アンテナ等の用途にも好適に用いることができる。
【0061】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
<化合物(1−1)の合成>
以下の方法で、R体の化合物(1−1)を合成した。
【0064】
【化4】
【0065】
【化5】
【0066】
具体的には、まず、窒素置換した300ml三口フラスコに、2−ブロモエタノール1.28g(10.24mmol)、R体の化合物(a1)0.944g(6.41mmol)、THF25mlを入れ、ジブチル錫ジラウレート(dibutyltin dilaurate)を加えた後、50℃で一晩撹拌した。その後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル/クロロホルム)により精製を行い、白色の固体の化合物(a2)を0.856g(3.14mmol)得た。
【0067】
次に、撹拌子を備えた500ml三口フラスコに化合物(a3)を8.88g(12.6mmol)加え、窒素置換した後、3−ブロモプロピオニトリルを7.66g(61.3mmol)、アセトニトリルを100ml加えた。90℃で4時間還流した後、溶液を減圧濃縮した。析出した結晶をジクロロメタンに溶解させ、純水で洗浄した。有機相に無水MgSO
4を加え乾燥させた後、ろ過した。その後、有機相を減圧濃縮し、再結晶(ジクロロメタン/メタノール)して、黄色の結晶の化合物(a4)を5.55g(18.2mmol)得た。
【0068】
次に、化合物(a4)1.55g(5.06mmol)とクロロホルム60mlの入った300ml三口フラスコに酢酸20ml、酢酸水銀(II)4.90g(14.6mmol)を加え、窒素置換した。室温で一晩攪拌した後、反応溶液をセライトでろ過した。ろ液を純水と飽和炭酸水素ナトリウム水溶液とで洗浄した。有機相に無水MgSO
4を加え乾燥させた後、ろ過し、ろ液を減圧濃縮後、再結晶(クロロホルム/ヘキサン)した。結晶を吸引ろ過し、真空乾燥し、化合物(a5)を1.20g(4.17mmol)得た。
【0069】
次に、200ml三口フラスコに化合物(a5)を0.412g(1.43mmol)、DMFを15.0ml加えた。次に0.513g(3.05mmol)のCsOH・H
2Oを6.0mlのメタノールに溶解させ、滴下ロートを用いてゆっくり滴下した後、30分撹拌した。その後、化合物(a2)0.786g(2.89mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、クロロホルムと純水で洗浄・抽出し、有機相をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル/クロロホルム:酢酸エチル=7:3)で精製した。その後、再結晶(アセトン/ヘキサン)し、白橙色の結晶の化合物(a6)を0.320g(0.567mmol)を得た。
【0070】
次に、100ml三口フラスコに化合物(a6)0.54g(0.96mmol)とDMF10mlを加え、30分加熱還流した。その後、亜リン酸トリエチル2ml加え、一晩加熱還流した。溶液を濃縮後、クロロホルムと純水で洗浄・抽出した。その後、有機層を再結晶(アセトン/ヘキサン)し、橙色の結晶として化合物(1−1)を0.304g(0.28mmol)得た。
【0071】
<電磁材料の作製>
R体の化合物(1−1)の5mMクロロホルム溶液と、フッ素化テトラシアノキノジメタン(F
4TCNQ)の5mMアセトニトリル溶液とを、化合物(1−1)とF
4TCNQとのモル比が1:1となるように混合して、錯体溶液を得た。錯体溶液をマイカ基板(電極キャップ50μmの金電極を蒸着したマイカ基板、サイズ:1cm×1cm)上にキャストした。マイカ基板をシャーレ内に置き、蓋をかぶせて30分間静置し、次いで蓋を外して乾燥させることで、複数のナノコイルが配向した電磁材料として、導電膜を得た。得られた電磁材料のAFM像を
図1に示す。
【0072】
<評価>
(1)周波数依存性についての評価
上記の方法で得た導電膜付きマイカ基板を、強力マグネチックスターラー(マグネットの強さ:0.42T)上に置き、マグネットを回転させることで磁場を印加し、金電極間に生じた起電力をオシロスコープで確認した。マグネットの回転数で周波数を0〜23.3Hzまで変化させ、マグネット(磁極)からの距離で磁場の大きさを変化させた。結果を
図2に示す。
図2は、磁極からの距離を0cm、1cm、2cm及び5cmとしたときの周波数と起電力との関係を示す図である。
図2に示すとおり、周波数23.3Hz、距離0cmの場合に最大起電力11mVが観測された。また、
図2に示すとおり、概ね、周波数に比例して起電力が大きくなっており、理論的に予測される挙動と一致することが確認された。
【0073】
(2)磁場依存性についての評価
上記の方法で得た導電膜付きマイカ基板を、強力マグネチックスターラー(マグネットの強さ:0.42T)上に置き、マグネットを回転させることで磁場を印加し、金電極間に生じた起電力をオシロスコープで確認した。マグネットの回転数で周波数を調整し、マグネット(磁極)からの距離で磁場の大きさを変化させた。結果を
図3に示す。
図3は、周波数を23.3Hz、21.7Hz、20.0Hz及び13.3Hzとしたときの磁極の距離と起電力との関係を示す図である。
図3に示すとおり、周波数23.3Hz、距離0cmの場合に最大起電力11mVが観測された。また、
図3に示すとおり、概ね、磁極からの距離の2乗に反比例して起電力が小さくなったことから、理論的に予測される挙動と一致されることが確認された。
【0074】
(3)電気伝導度についての評価
ギャップ50マイクロメートルの金電極を蒸着したマイカ基板上に、ナノコイル構造をキャストした。測定は二端子法を用いて行い、室温(23℃)における電気伝導度を求めた。その結果、導電膜の電気伝導度は、10
−3S/cmであることが確認された。
【0075】
(比較例1)
<ナノコイルの作製>
化合物(1−1)のR体とS体との比を1:1にしたこと以外は、実施例1と同様にして導電膜を得た。
<評価>
得られた導電膜付きマイカ基板について、実施例1と同様にして強力マグネチックスターラーを用いた磁場の印加を行ったところ、周波数23.3Hz、磁極との距離0cmで、観測された起電力は0.73mVであった。