【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、経済産業省、国内石油天然ガスに係る地質調査・メタンハイドレートの研究開発等事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【解決手段】炭化水素回収方法は、生物膜を生成する第1種微生物と、炭酸カルシウムの析出を促進させるための二酸化炭素を生成する第2種微生物と、が存在する地盤に設けられた生産井から、炭化水素を含有する生産流体を回収する炭化水素回収方法であって、第1種微生物を増加させるための培地を生産井に圧入する第1圧入工程(S12)と、第2種微生物が二酸化炭素の生成に用いる組成物を生産井に圧入する第2圧入工程(S14)と、培地及び組成物を圧入した後に生産井内を減圧する減圧工程(S16)と、生産井内を減圧した状態で炭化水素を回収する回収工程(S17)と、を有する。
生物膜を生成する第1種微生物と、炭酸カルシウムの析出を促進させるための二酸化炭素を生成する第2種微生物と、が存在する地盤に設けられた生産井から、炭化水素を含有する生産流体を回収する炭化水素回収方法であって、
前記第1種微生物を増加させるための培地を前記生産井に圧入する第1圧入工程と、
前記第2種微生物が二酸化炭素の生成に用いる組成物を前記生産井に圧入する第2圧入工程と、
前記培地及び前記組成物を圧入した後に前記生産井内を減圧する減圧工程と、
前記生産井内を減圧した状態で炭化水素を回収する回収工程と、
を有することを特徴とする炭化水素回収方法。
生物膜を生成する第1種微生物と、炭酸カルシウムの析出を促進させるための二酸化炭素を生成する第2種微生物と、が存在する地盤に設けられた生産井から、炭化水素を含有する生産流体を回収する炭化水素回収システムであって、
前記第1種微生物を増加させるための培地を前記生産井に圧入する第1圧入部と、
前記第2種微生物が二酸化炭素の生成に用いる組成物を前記生産井に圧入する第2圧入部と、
前記組成物を圧入した後に前記生産井内を減圧する減圧部と、
前記生産井内を減圧した状態で炭化水素を回収する回収部と、
を有することを特徴とする炭化水素回収システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
海底地盤から炭化水素を含む組成物を回収すると、回収した組成物が存在していた領域に空洞が生じることで海底地盤が崩れてしまい、炭化水素の生産井に土砂が流れ込んでしまうという出砂問題が生じていた。生産井に土砂が流れ込んでしまうと、生産井が閉塞されてしまい、炭化水素を回収できなくなってしまう。
【0005】
特許文献1に記載された技術においては、土砂が生産井に流入することを防ぐ方策として、微生物が二酸化炭素又は硫酸イオンの生成に用いる組成物を生産井内に圧入することで、微生物による炭酸カルシウムの析出を促進させる。この技術を用いて炭酸カルシウムの析出量を増やすことにより、微生物が存在する付近の地盤を固化することができるが、微生物が炭酸カルシウムを析出するまでには長時間を要するので、炭化水素の回収を開始できるまでの時間を短縮することが求められていた。
【0006】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、土砂が炭化水素の生産井に流入することを抑制するための施工が完了するまでの期間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様の炭化水素回収方法は、生物膜を生成する第1種微生物と、炭酸カルシウムの析出を促進させるための二酸化炭素を生成する第2種微生物と、が存在する地盤に設けられた生産井から、炭化水素を含有する生産流体を回収する炭化水素回収方法であって、前記第1種微生物を増加させるための培地を前記生産井に圧入する第1圧入工程と、前記第2種微生物が二酸化炭素の生成に用いる組成物を前記生産井に圧入する第2圧入工程と、前記培地及び前記組成物を圧入した後に前記生産井内を減圧する減圧工程と、前記生産井内を減圧した状態で炭化水素を回収する回収工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
前記第1圧入工程において、トリプチケースソイブロス培地又はマリンブロス2216培地の少なくともいずれかを前記生産井に圧入してもよい。
【0009】
前記第1圧入工程を実行してから、前記第1種微生物が増加するまでの所定期間が経過するまで待機した後に前記第2圧入工程を実行してもよい。
【0010】
前記第1圧入工程を実行してから、前記第1種微生物が生物膜を生成するまでの所定期間が経過するまで待機した後に前記第2圧入工程を実行してもよい。
【0011】
前記第1圧入工程を実行してから前記所定期間が経過するまでの間、前記生産井内の水流を抑制した状態で待機してもよい。
前記第2圧入工程において、前記組成物として尿素を圧入してもよい。
【0012】
本発明の第2の態様の炭化水素回収システムは、生物膜を生成する第1種微生物と、炭酸カルシウムの析出を促進させるための二酸化炭素を生成する第2種微生物と、が存在する地盤に設けられた生産井から、炭化水素を含有する生産流体を回収する炭化水素回収システムであって、前記第1種微生物を増加させるための培地を前記生産井に圧入する第1圧入部と、前記第2種微生物が二酸化炭素の生成に用いる組成物を前記生産井に圧入する第2圧入部と、前記組成物を圧入した後に前記生産井内を減圧する減圧部と、前記生産井内を減圧した状態で炭化水素を回収する回収部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、土砂が炭化水素の生産井に流入することを抑制するための施工が完了するまでの期間を短縮できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[炭化水素回収方法の概要]
図1及び
図2は、本実施形態の炭化水素回収方法の概要について説明するための図である。
図1及び
図2においては、炭化水素回収システム1及び生産井2が示されている。
【0016】
炭化水素回収システム1は、炭化水素を含有する生産流体を回収するためのシステムである。炭化水素回収システム1は、海底地盤に含まれている炭化水素として、例えばメタンハイドレート、天然ガス又は石油を回収するための装置である。炭化水素回収システム1は、例えば、メタンハイドレートを回収する船に搭載されている。以下においては、主に、炭化水素がメタンハイドレートである場合を例に説明する。
【0017】
炭化水素回収システム1は、圧入装置11、回収装置12、圧力調整装置13及び制御装置14を備える。制御装置14は、圧入装置11、回収装置12及び圧力調整装置13を制御するコンピュータである。制御装置14は、記憶媒体に記憶されたプログラムを実行することにより、又は作業員の操作に基づいて、炭化水素を回収するための処理を実行する。
【0018】
生産井2は、海底地盤内のメタンハイドレート層に埋蔵されたメタンハイドレートを回収するための井戸である。生産井2は、海底地盤に含まれる土砂が生産井2に流れ込むことを防ぐために用いられる各種の物質を圧入するための圧入管21、メタンハイドレートを回収するための回収管22、及び開口部23を有する。
【0019】
本実施形態の炭化水素回収方法においては、海底地盤に含まれる土砂が生産井2に流れ込むことを防ぐために、海底地盤に存在する微生物に生物膜(バイオフィルム)を生成させることを特徴としている。海底地盤には、生物膜を生成する微生物(以下、「第1種微生物」という。)と、炭酸カルシウムの析出を促進させるための二酸化炭素を生成する微生物(以下、「第2種微生物」という。)とが存在する。
【0020】
本実施形態の炭化水素回収方法においては、第1種微生物を増加するための培地を生産井2に圧入する第1圧入工程、及び第2種微生物が二酸化炭素の生成に用いる組成物を生産井2に圧入する第2圧入工程を実行することで、生物膜及び炭酸カルシウムの生成を促す。その結果、
図1及び
図2に示すメタンハイドレート層における開口部23の近傍の領域aの土砂を固化させることができる。
【0021】
本炭化水素回収方法によれば、炭酸カルシウムだけでなく生物膜も利用して領域aの土砂を固化させることにより、炭酸カルシウムの析出量を所定範囲内に留めつつ、土砂が炭化水素の生産井に流入することを抑制できる。生物膜により土砂を固化させた場合、メタンハイドレートの回収が終了した後に、元の地盤の状態に戻りやすいので、炭酸カルシウムの生成量を増やす場合に比べて環境に与える影響を軽減することができる。さらに、炭酸カルシウムだけでなく生物膜も利用して領域aの土砂を固化させることにより、土砂が固化するまでの時間を短縮することができる。
以下、炭化水素回収方法を実施するために用いられる炭化水素回収システム1の構成及び動作を詳細に説明する。
【0022】
[炭化水素回収システム1の構成]
図3は、圧入装置11の構成を示す図である。以下、
図1から
図3を参照しながら、炭化水素回収システム1が炭化水素を回収する方法について説明する。
【0023】
圧入装置11は、
図1に示すように、メタンハイドレートを回収する前に、生産井2に土砂が流れ込むことを防ぐために必要な培地及び組成物を、圧入管21を介して生産井2の中に圧入するための装置である。圧入装置11は、第1種微生物を増加させるための培地を生産井2に圧入する第1圧入部、及び第2種微生物が二酸化炭素の生成に用いる組成物を生産井2に圧入する第2圧入部として機能する。
【0024】
図3に示すように、圧入装置11は、培地タンク111と、尿素タンク112と、カルシウム塩タンク113と、栄養塩タンク114と、バルブ115と、バルブ116と、バルブ117と、バルブ118と、ポンプ119とを有する。培地タンク111は、生産井2に圧入する培地を貯蔵するためのタンクである。尿素タンク112は、生産井2に圧入する尿素を貯蔵するためのタンクである。カルシウム塩タンク113は、生産井2に圧入するカルシウム塩を貯蔵するためのタンクである。栄養塩タンク114は、生産井2に圧入する栄養塩を貯蔵するためのタンクである。
【0025】
バルブ115は、制御装置14の制御に基づいて、培地タンク111に貯蔵された培地を生産井2に圧入する量を調整するためのバルブである。バルブ116は、制御装置14の制御に基づいて、尿素タンク112に貯蔵された尿素を生産井2に圧入する量を調整するためのバルブである。バルブ117は、制御装置14の制御に基づいて、カルシウム塩タンク113に貯蔵されたカルシウム塩を生産井2に圧入する量を調整するためのバルブである。バルブ118は、制御装置14の制御に基づいて、栄養塩タンク114に貯蔵された栄養塩を生産井2に圧入する量を調整するためのバルブである。ポンプ119は、培地、尿素、カルシウム塩及び栄養塩を生産井2に圧入するためのポンプである。
【0026】
圧入装置11は、例えばMH胚胎層に由来する第1種微生物に適した培地を生産井2に圧入して当該培地を地盤に添加することで、生物膜を生成する第1種微生物の活性値を高める。圧入装置11が生産井2に圧入する培地は、例えばマリンブロス2216e培地(Marine Broth 2216e培地)又はトリプチケースソイブロス培地(Trypticase Soy Broth培地)の少なくともいずれかを含む培地である。圧入装置11が生産井2に圧入する組成物は、炭酸カルシウムの析出を促進させるための二酸化炭素を生成し、尿素を加水分解するウレアーゼ活性を有する第2種微生物による二酸化炭素の生成に用いられる組成物であり、例えば尿素である。
【0027】
図4は、第1種微生物を活性化させるために使用される培地の例を示す表である。培地Aは、標準液体培地であり、活性値が451(U/L)であり、OD600(濁度)が1.790である。培地Bは、マリンブロス2216e培地であり、活性値が135(U/L)であり、OD600が1.970である。培地Cは、トリプチケースソイブロス培地であり、活性値が178(U/L)であり、OD600が5.050である。培地Dは、マリンブロス2216培地とトリプチケースソイブロス培地を同量ずつ混合した培地であり、活性値が185(U/L)であり、OD600が6.340である。培地C及び培地DのOD600の値からわかるように、培地C及び培地Dを用いることが好ましい。
【0028】
圧入装置11は、まず、トリプチケースソイブロス培地又はマリンブロス2216培地の少なくともいずれかを生産井2に圧入する。圧入装置11は、トリプチケースソイブロス培地又はマリンブロス2216培地の少なくともいずれかを生産井2に圧入してから、第1種微生物が増加するまでの所定期間が経過するまで待機した後に、第2種微生物が二酸化炭素の生成に用いる組成物の一例である尿素を生産井2に圧入する。圧入装置11は、トリプチケースソイブロス培地又はマリンブロス2216培地の少なくともいずれかを生産井2に圧入してから、第1種微生物が生物膜を生成するまでの所定期間が経過するまで待機した後に、第2種微生物が二酸化炭素の生成に用いる組成物の一例である尿素を生産井2に圧入する。
【0029】
圧入装置11が培地タンク111に収容された培地を生産井2に圧入してから尿素タンク112に収容された尿素を生産井2に圧入するまでの所定期間は、例えば予め実験によって定められた期間である。圧入装置11は、生産井2の内部をモニタリングした結果に基づいて、第1種微生物が所定の量まで増加したと判定した場合、又は所定の量の生物膜が生成されたと判定した場合に、所定期間が経過したと判定してもよい。
【0030】
圧入装置11は、尿素とともに、炭酸カルシウムの生成に必要なカルシウム塩を含む組成物をさらに生産井2に圧入してもよい。カルシウム塩を含む組成物は、例えば塩化カルシウム、酢酸カルシウム、又は硝酸カルシウムである。また、圧入装置11は、第2種微生物が吸収することにより第2種微生物の栄養となり、第2種微生物を活性化させる栄養塩をさらに圧入してもよい。このように圧入装置11が栄養塩を圧入することで、第2種微生物の栄養が乏しい海底地盤においても第2種微生物が尿素を加水分解することが可能になる。
【0031】
回収装置12は、生産井2からメタンハイドレートを回収するための回収部として機能し、メタンハイドレートを吸引するためのポンプ(不図示)を有している。回収装置12は、制御装置14の制御に基づいて、圧入装置11が第1種微生物を活性化させるための培地と、第2種微生物が生成する二酸化炭素による炭酸カルシウムの析出を促進させるための尿素と、を圧入してから所定の時間が経過した後に、メタンハイドレートの回収を開始する。所定の時間は、例えば、海底地盤に存在するカルシウム塩とウレアーゼ活性を有する微生物が尿素を加水分解して生成される二酸化炭素とが反応することにより炭酸カルシウムが析出するために要する時間である。
【0032】
このようにすることで、回収装置12は、メタンハイドレート層における生産井2の近傍の領域aの土砂が固化した状態でメタンハイドレートを回収できる。その結果、回収装置12がメタンハイドレートを回収している間に土砂が生産井2に流れ込まないので、メタンハイドレートの回収効率を向上させることができる。
【0033】
圧力調整装置13は、制御装置14の制御に基づいて、生産井2の内部の圧力を調整するための装置である。圧力調整装置13は、例えば海底地盤に存在する微生物を生産井2の側に移動させるために生産井2の内部を減圧したり、メタンハイドレートを回収するために生産井2の内部を減圧したりする減圧部として機能する。
【0034】
開口部23は、生産井2の壁面における圧入管21の先端付近の位置に設けられたメッシュ状の領域である。圧入管21を介して圧入された尿素は、回収管22から海底地盤へと圧入され、海底地盤内の微生物に吸収される。開口部23は、生産井2の周辺の海底地盤において透水性が高い部位に設けられていることが好ましい。このようにすることで、土砂が生産井2に流入する確率が高い地盤に優先的に尿素を圧入することができるので、土砂が生産井2に流入する確率が高い地盤を効率良く固化させることができる。
【0035】
[海底地盤の固化を促進するための方法]
炭化水素回収方法においては、海底地盤の固化を促進するために、以下の工程を実行してもよい。
【0036】
(1)栄養塩の圧入
炭化水素回収方法は、微生物による尿素の加水分解を活性化させるために、微生物の栄養となる栄養塩を圧入する工程をさらに有してもよい。栄養塩は、例えば酵母エキスである。圧入装置11が、第1種微生物に適した栄養塩を圧入することで、生物膜を生成する能力が高い第1種微生物を優先的に活性化させることができる。また、圧入装置11が、第2種微生物に適した栄養素を圧入することで、尿素を加水分解する能力が高い微生物を優先的に活性化させることができる。
【0037】
(2)微生物の圧入
炭化水素回収方法は、炭酸カルシウムの析出に用いられる二酸化炭素の量を増やすために、生物膜を生成する能力を有する第1種微生物を圧入する工程、又はウレアーゼ活性を有する第2種微生物を圧入する工程をさらに有してもよい。これらの微生物を圧入するために、炭化水素回収方法は、微生物圧入工程の前に実行される、生産井2から回収される水が存在する嫌気環境下で、生産井2に圧入する微生物を培養する工程をさらに有してもよい。微生物を培養する工程においては、海底地盤における活性度が高い微生物と同じ遺伝子情報を有する微生物を優先的に培養する。このようにして培養した微生物を生産井2に圧入することで、優先化された微生物による生物膜の生成量、及び炭酸カルシウムの析出量が増加する。
【0038】
[炭化水素回収方法の処理の流れ]
図5は、炭化水素回収方法の処理の流れを示すフローチャートである。まず、制御装置14は、圧力調整装置13を制御することにより、海底地盤内の微生物を生産井2の側に移動させるために、生産井2の内部圧力を第1圧力P1に調整する工程を実行する(S11)。生産井2の近傍の領域aに存在する第1主微生物及び第2種微生物の量が増えれば増えるほど、領域aにおける生物膜の生成量及び炭酸カルシウムの析出量が増加する。したがって、生産井2の内部圧力を第1圧力P1にまで減圧することで、土砂が生産井2に流れ込むことをより効果的に防止することができる。
【0039】
続いて、制御装置14は、圧入装置11を制御することにより、第1種微生物を活性化させるための培地を生産井2に圧入する第1圧入工程を実行する(S12)。その後、制御装置14は、第1種微生物が十分な量の生物膜を生成するまでに要する第1時間が経過するまで待機する(S13)。
【0040】
制御装置14は、第1時間が経過すると(S13においてYES)、圧入装置11を制御することにより、尿素を生産井2に圧入する第2圧入工程を実行する(S14)。圧入装置11が尿素を圧入することにより、第2種微生物が尿素の加水分解を行って二酸化炭素が生成され、圧入されたカルシウム塩と二酸化炭素に基づく炭酸イオンとが反応することにより炭酸カルシウムが析出する。制御装置14は、圧入装置11が圧入した尿素の量に対応する炭酸カルシウムが析出するために必要な第2時間が経過するまで待機する(S15)。
【0041】
制御装置14は、第2時間が経過すると(S15においてYES)、圧力調整装置13を制御して、生産井2の内部圧力を第2圧力P2に調整する(S16)。第2圧力P2は、例えば第1圧力P1よりも低い圧力である。第2圧力P2が十分に低いことで、海底地盤内の高圧環境下に存在するメタンハイドレートが生産井2の側に移動する。制御装置14は、生産井2の側に移動したメタンハイドレートを回収装置12に回収させる(S17)。
【0042】
制御装置14は、生産井2の内部圧力を第2圧力P2にまで減圧してメタンハイドレートの回収を開始した後に、メタンハイドレートの回収を終了するか否かを判定する(S18)。作業員がメタンハイドレートの回収を終了する操作を行った場合(S18においてYES)、制御装置14は、メタンハイドレートの回収を終了する。
【0043】
制御装置14は、メタンハイドレートの回収を終了する操作が行われていないと判定すると(S18においてNO)、単位時間内に回収されるメタンハイドレートの量が閾値以上であるか否かを判定する(S19)。制御装置14は、単位時間内に回収されるメタンハイドレートの量が閾値以上である場合は(S19においてYES)、ステップS17に戻って、メタンハイドレートの回収を継続する。
【0044】
一方、制御装置14は、単位時間内に回収されるメタンハイドレートの量が閾値未満になった場合(S19においてNO)、ステップS11に処理を戻してS11からS17までの処理を繰り返す。すなわち、制御装置14は、培地及び尿素を生産井2に圧入してからメタンハイドレートをさらに回収する。このようにすることで、海底地盤からメタンハイドレートが回収されて海底地盤に空洞が生じた時点で、海底地盤の固化を促進することができる。その結果、メタンハイドレートの回収が進んだ後にも、土砂が生産井2に流入してしまうことを予防できる。
【0045】
なお、ステップS19において、単位時間内に回収されるメタンハイドレートの量が閾値未満になった場合に、制御装置14は、ステップS11ではなく、ステップS14に戻り、尿素を圧入してもよい。
【0046】
また、制御装置14は、第1圧入工程を実行してから所定期間が経過するまでの間、生産井2の内部の水流を抑制した状態で待機してもよい。当該所定期間は、生成が必要な生物膜の量に基づいて決定される期間であり、例えば2週間である。制御装置14は、例えば圧力調整装置13により生産井2の内部の圧力を調整することにより、生産井2の内部の水流を小さくする。制御装置14が生産井2の内部の水流を小さくすることにより、第1種微生物が生物膜を生成しやすくなる。
【0047】
[検証実験1]
図6は、圧入装置11が生産井2に圧入した培地の種類と炭酸カルシウムの析出量との関係を示す図である。培地の種類は、
図4に示した培地A、培地B、培地C、培地Dに対応しており、培地Aは標準液体培地であり、培地Bはマリンブロス2216培地であり、培地Cはトリプチケースソイブロス培地であり、培地Dはマリンブロス2216培地とトリプチケースソイブロス培地を同量ずつ混合した培地である。
【0048】
図6における斜線の領域は、生物膜に基づく非晶質の炭酸カルシウムの析出量の割合を示す。
図6における縦線の領域は、結晶質の炭酸カルシウムの析出量の割合を示す。
図6における網点の領域は、溶液の割合を示す。
図6に示す結果によれば、結晶質の炭酸カルシウムの析出量の割合は、培地によらずほぼ一定である。一方、非晶質の炭酸カルシウムの析出量の割合は培地によって異なっており、培地C(トリプチケースソイブロス培地)を用いる場合に43%と最大となった。この場合、非晶質の炭酸カルシウムの割合と結晶質の炭酸カルシウムの割合の合計値は89%である。
【0049】
図6により確認できるように、生産井2に圧入される培地の組成によって、析出する炭酸カルシウムの非晶質と結晶質の比率が異なる。したがって、制御装置14は、圧入装置11に圧入させる培地の組成を制御することで、炭酸カルシウムによる固化強度及び透水性低下度等を調整してもよい。
【0050】
[検証実験2]
図7は、生産井2に培地を圧入することによる効果を示す実験結果を示す図である。
図7の横軸は、実験を開始してから、空隙内の水を入れ替える処理が行われた回数を示している。
図7の縦軸は透水性の大きさを示している。
【0051】
図7における■と一点鎖線は、培地及び尿素が生産井2に圧入されない場合における開口部23の付近の地盤の透水性の変化を示している。
図7における▲と破線は、培地が生産井2に圧入されず尿素が生産井2に圧入された場合における開口部23の付近の地盤の透水性の変化を示している。
図7における●と実線は、培地及び尿素が生産井2に圧入された場合における開口部23の付近の地盤の透水性の変化を示している。培地及び尿素が生産井2に圧入されることにより、地盤の透水性が低下していることを
図7から確認できる。
【0052】
[検証実験3]
図8は、培地を投入してから生産井2における水流を止めて静水状態を保った場合の透水性の変化を示す図である。
図8における○は、静水状態を所定の期間にわたって保持した後の透水性の大きさを示している。静水状態を保つことにより、透水性が、静水状態にする前の8.5E−06から1.3E−06まで低下したことがわかる。
【0053】
[炭化水素回収方法による効果]
以上説明したように、本実施形態に係る炭化水素回収方法においては、圧入装置11が、生物膜を生成する第1種微生物と、炭酸カルシウムの析出を促進させるための二酸化炭素を生成する第2種微生物と、が存在する地盤に、第1種微生物を増加させるための培地、及び第2種微生物が二酸化炭素の生成に用いる組成物を生産井2に圧入する。圧入装置11が第1種微生物を増加させるための培地を生産井2に圧入することで、第1種微生物が生成した生物膜が地盤の固化に寄与するので、生産井2の付近の地盤の固化に要する時間を短縮することができる。その結果、土砂が炭化水素の生産井2に流入することを抑制するするための施工が完了するまでの期間を短縮することができる。また、生物膜によって地盤が固化されるので、炭化水素の回収後に、地盤が元の状態に戻りやすい。
【0054】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。