【実施例】
【0024】
以下に、実施例を示し、より詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0025】
[実施例1]
スフィンゴイド塩基(ジヒドロスフィンゴシン)(Avanti Polar Lipids)とポリフェノールであるカルノシン酸(富士フィルム和光純薬)、ヒドロキシチロソール(富士フィルム和光純薬)、ケルセチン(富士フィルム和光純薬)それぞれとの共存による酸化抑制作用を明らかにするために、酸化実験により評価を行った。比較対照として、上記先行技術文献の特許文献1に記載のトコフェロール類(α−トコフェロール、β−トコフェロール、δ−トコフェロール)(富士フィルム和光純薬)も同様にスフィンゴイド塩基と共存させた場合の酸化抑制作用を評価した。
【0026】
魚油は市販のものを用い、以下のようにして精製した。まず、トコフェロールを除去するために魚油を活性炭・セライト(1:1, w/w)カラムクロマトグラフィーに供した。トコフェロールを除去した魚油をさらにケイ酸カラムクロマトグラフィーで分別し、魚油トリアシルグリセロール(TAG)を得た。得られたTAGは、薄層クロマトグラフィー(TLC)分析によりTAG以外の成分を含まないことを確認した。また、蛍光検出器を装備した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、過酸化物とトコフェロールを含まないことも確認した。実験に使用した魚油TAGの脂肪酸組成はガスクロマトグラフィー(GC)を用いて分析した。以下に、魚油トリグリセリドの主要な多価不飽和脂肪酸を示す。22:6n−3(DHA, 27.80±0.80%)、20:5n−3(EPA, 15.70±0.19%)、16:0 (パルミチン酸, 11.40±0.48%)、18:1n−9(オレイン酸, 6.43±0.03%)。
【0027】
スフィンゴイド塩基(ジヒドロスフィンゴシン)(1mg)と各種ポリフェノール試料(0.05mg)を魚油TAG(99mg)と混合し、酸素残存量測定の分析試料とした。なお、コントロールとして、一般的な抗酸化剤であるα−トコフェロール(0.05mg)のみを混合した魚油TAG(100mg)を用いた。分析試料を分析用バイアル瓶(5mL)に精秤した後、ブチルセプタムゴムおよびアルミシールバイアルで栓をした。50℃、暗所にてインキュベートした後、一定時間ごとにバイアル瓶上部の空気20μLずつ熱伝導度検出器(TCD)を装着したGC(GC−14B, 島津製作所)に注入した。カラムはMolecular sieves−5A (60/80mesh;3m)、カラム温度は50℃、注入口温度は100℃、検出口温度は100℃、キャリアガスはヘリウムを用い、ヘリウム圧は50kPaに設定した。酸化に伴い空気中の酸素のピークが減少するので、酸素と窒素のピーク比の変化により油脂の酸化による酸素吸収量を算出した。酸素残存量測定は同じ試料を3本のバイアル瓶にとり、それぞれ別々に測定した。各測定値の平均値の推移を
図1Aに示す。グラフの縦軸は残存酸素量(%)を、横軸は酸化時間(時間)を示す。
なお、
図1A中の略称・記号は以下の内容を表す(
図1Bにおいても同様):
―▼―:α−トコフェロールのみ、
―□―:スフィンゴイド塩基とα−トコフェロール、
―〇―:スフィンゴイド塩基とβ−トコフェロール、
―◇―:スフィンゴイド塩基とδ−トコフェロール、
―●―:スフィンゴイド塩基とカルノシン酸、
―■―:スフィンゴイド塩基とケルセチン、
―▲―:スフィンゴイド塩基とヒドロキシチロソール。
【0028】
また、スフィンゴイド塩基(ジヒドロスフィンゴシン)(3mg)と各種ポリフェノール試料(0.15mg)を魚油TAG(297mg)と混合し、揮発性成分測定の分析試料とした。なお、コントロールとして魚油TAG(300mg)を用いた。分析試料を分析用バイアル瓶(5mL)に精秤した後、ブチルセプタムゴムおよびアルミシールバイアルで栓をした。50℃、暗所にてインキュベートした後、一定時間ごとに各バイアル瓶上部空気を、ヘッドスペースサンプラ(HS−20L、島津製作所)を介して水素炎イオン化検出器(FID)を装着したGC(GC−2014、島津製作所)に注入することで分析した。GCのカラムにはHP−1(50m x 0.32mm 内径; 液相:1.05μm; Agilent Technologies)を用い、カラム温度は昇温させて分析した。揮発性成分の同定はGC/MSを用いて行った。注入口温度は150℃、検出口温度250℃で測定を行った。なお、キャリアガスはヘリウムガスを用い、ヘリウム圧は90kPaに設定した。揮発性成分測定は同じ試料を3本のバイアル瓶にとり、それぞれ別々に測定した。各測定値の平均値の推移を
図1Bに示す。グラフの縦軸は総揮発性成分ピーク面積を、横軸は酸化時間(時間)を示す。
【0029】
本実施例で用いた魚油TAGは高度不飽和脂肪酸であるEPAやDHAを多く含むため、極めて酸化されやすく、一般的な酸化抑制剤であるα−トコフェロールのみを添加した場合、測定開始50時間後には既にバイアル瓶上部の酸素は酸化により消費されていた(
図1Aの一点鎖線上の▼印)。
一方、スフィンゴイド塩基とトコフェロール類を共存させた場合は、α−トコフェロール、β−トコフェロール、δ−トコフェロールすべてで200〜250時間程度まで酸素消費が抑えられ、酸化が抑制された(
図1Aの実線上の□印、〇印、◇印)。
スフィンゴイド塩基とポリフェノール類を共存させた場合、カルノシン酸では、336時間後も酸素消費が抑えられており、酸化が抑制されていた(
図1Aの実線上の●印)。
ヒドロキシチロソールは250時間程度まで、ケルセチンは150時間程度まで酸素消費が抑えられており、酸化が抑制されていた(
図1Aの実線上の▲印、■印)。
一方、スフィンゴイド塩基のみ、又はポリフェノール類(ヒドロキシチロソール)のみを魚油に添加した場合、スフィンゴイド塩基のみでは全く酸化抑制作用はみられず、ヒドロキシチロソールのみでも酸化抑制作用は小さかった(表1)。
【0030】
【表1】
【0031】
揮発性成分分析に関しては、一般的な酸化抑制剤であるα−トコフェロールのみを添加した場合、測定開始50時間後には、既に酸化により多量の揮発性成分が生じていた(
図1B)。一方、スフィンゴイド塩基とトコフェロール類を共存させた場合は、α−トコフェロール、β−トコフェロール、δ−トコフェロールすべてで200〜250時間程度まで揮発性成分の生成が抑えられていた(
図1B)。スフィンゴイド塩基とポリフェノール類を共存させた場合、カルノシン酸では、336時間後も揮発性成分の生成が抑えられていた(
図1B)。ヒドロキシチロソールは250時間程度まで、ケルセチンは150時間程度まで揮発性成分の生成が抑えられていた(
図1B)。これらの結果は、酸素残存量の結果とよく一致していた。
【0032】
以上より、スフィンゴイド塩基とポリフェノール類を共存させた場合、相乗的に優れた酸化抑制作用を得られることが明らかになった。特に、カルノシン酸とヒドロキシチロソールは、スフィンゴイド塩基と組み合わせると各種トコフェロールよりも優れた酸化抑制作用を有していた。
なお、先行文献(例えば特許文献2)には、スフィンゴイド塩基とトコフェロールとの抗酸化相乗作用が報告されている。しかし、スフィンゴイド塩基とポリフェノールを組み合わせた場合、スフィンゴイド塩基とトコフェロールの組み合わせよりも強い酸化抑制作用を有する旨の報告は今までなかった。
【0033】
[実施例2]
乳リン脂質素材を出発原料として、酸加水分解により、スフィンゴイド塩基の高濃度画分を取得した。手順を下記に示す。
1)スフィンゴイド塩基含有抽出物の製造方法
乳リン脂質濃縮素材であるミルクセラミドMC−5(雪印メグミルク株式会社製)をエタノールに溶解し、エタノール可溶性画分を分取した。エタノール可溶性画分に塩酸を加えて、0.2M塩酸/エタノール溶液とした。この塩酸/エタノール溶液を75℃12時間加熱し、加水分解反応を行った。
反応液に水を40%となるように添加し、水相を分取した。得られた水相を陽イオン交換樹脂に吸着させ、100mMのNaClを加えた溶出液にて溶出させた。得られた溶出液を膜処理にて脱塩し、エタノールを揮発させることで、スフィンゴイド塩基抽出物が得られた。得られた抽出物の純度は80%であった。
【0034】
得られた抽出物50gを4950gの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(TKROBOMICS;特殊機化工業社)にて、6,000rpmで30分間攪拌混合してスフィンゴイド塩基抽出物含量1000mg/100gのスフィンゴイド塩基溶液を得た。このスフィンゴイド塩基溶液4.0kgに、カゼイン5.0kg、大豆タンパク質5.0kg、魚油1.0kg、シソ油3.0kg、デキストリン18.0kg、ミネラル混合物6.0kg、ビタミン混合物1.95kg、乳化剤2.0kg、安定剤4.0kg、香料0.05kg、カルノシン酸1.0gを配合し、本発明の多価不飽和脂肪酸含有食品50kg(実施例品1)を得た。得られた多価不飽和脂肪酸含有食品には、100gあたり、スフィンゴイド塩基が80mg、カルノシン酸が2mg含まれていた。
実施例品1と、スフィンゴイド塩基溶液の代わりに水を配合した比較例品1を調製し、酸化による風味劣化の度合いを官能検査にて評価した。その結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
表2より、保存1か月後には比較例品1は魚臭の異風味を感じたのに対し、実施例品1は保存4か月でも異風味を感じなかった。
また、上述した実施例品1のカルノシン酸の代わりにα−トコフェロールを配合した比較例品2、および、スフィンゴイド塩基の代わりに乳由来リン脂質(主としてホスファチジルコリン)を配合した比較例品3を作成した。これらを用いて、保存試験を実施し、酸化による風味劣化の度合いを官能検査にて評価した。その結果を表3に示す。
【0037】
【表3】
以上の結果から、本発明の酸化抑制剤を利用した多価不飽和脂肪酸含有食品は酸化安定性が向上し、酸化による保存中の異風味の生成が抑制されることが明らかとなった。
【0038】
[実施例3]
本発明におけるスフィンゴイド塩基とポリフェノールの有効量の評価を行うために、スフィンゴイド塩基量をそれぞれ0.000%、0.005%、0.010%とし、ポリフェノール量を0ppm、0.5ppm、1ppmとした試験試料を用いて、実施例1と同様の方法で酸化試験を実施した。結果を表4に示す。
【0039】
【表4】
【0040】
表4の結果から、スフィンゴイド塩基0.005%以下、ポリフェノール量0.5ppm以下の場合には100時間後の残存酸素量が低かった。このように、スフィンゴイド塩基とポリフェノールを共存させた場合の酸化抑制作用はスフィンゴイド塩基0.01%、ポリフェノール1ppm以上の添加により発揮されることが明らかになった。
【0041】
[実施例4]
多価不飽和脂肪酸配合食品の製造
実施例2で得られたスフィンゴイド塩基抽出物1gをマーガリン136gに混合して分散させた。これに小麦粉510g、砂糖200g、食塩5g、卵115g、水25g、ミネラル混合8g、カルノシン酸20mgを配合したミックスを作成し、成形した後、焙焼して多価不飽和脂肪酸配合ビスケットを製造した。このビスケットには、100gあたりスフィンゴイド塩基抽出物が100mg含まれており、スフィンゴイド塩基として、80mgを含有していた。また、100gあたりカルノシン酸が2mg含有していた。