(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-17697(P2021-17697A)
(43)【公開日】2021年2月15日
(54)【発明の名称】タイルの剥離検知方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20210118BHJP
【FI】
E04G23/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-132139(P2019-132139)
(22)【出願日】2019年7月17日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・平成31年4月30日、第73回セメント技術大会 講演要旨2019 第254〜255頁 ・令和1年5月8日〜令和1年5月10日、第73回セメント技術大会
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人防災科学技術研究所、首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト「非構造部材を含む構造物の崩壊余裕度に関するデータ収集・整備」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】大久保 孝昭
(72)【発明者】
【氏名】寺本 篤史
(72)【発明者】
【氏名】楠 浩一
(72)【発明者】
【氏名】早野 博幸
(72)【発明者】
【氏名】関根 麻里子
(72)【発明者】
【氏名】城出 真弥
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA05
2E176BB38
(57)【要約】
【課題】光ファイバセンサを用いてコンクリート構造物に施工されたタイルの剥離を検知する。
【解決手段】外装用タイルを備えるコンクリート構造物のタイルの剥離検知方法であって、コンクリート構造物の内部に光ファイバセンサ9を埋設し、又はコンクリート構造物の表面に光ファイバセンサ1を貼付若しくは接着し、前記光ファイバセンサ中を伝搬する光波の特性変化に基づいて、前記コンクリート構造物に生じたひずみを検出し、前記コンクリート構造物に加わった荷重の変化とその荷重により生じたひずみの変化との関係が一定の規則性を失ったときに前記外装用タイルの剥離を検知することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外装用タイルを備えるコンクリート構造物のタイルの剥離検知方法であって、
コンクリート構造物の内部に光ファイバセンサを埋設し、又はコンクリート構造物の表面に光ファイバセンサを貼付若しくは接着し、
前記光ファイバセンサ中を伝搬する光波の特性変化に基づいて、前記コンクリート構造物に生じたひずみを検出し、
前記コンクリート構造物に加わった荷重の変化とその荷重により生じたひずみの変化との関係が一定の規則性を失ったときに前記外装用タイルの剥離を検知することを特徴とするタイルの剥離検知方法。
【請求項2】
外装用タイルを備えるコンクリート構造物のタイルの剥離検知方法であって、
コンクリート構造物の内部に光ファイバセンサを埋設し、又は表面に光ファイバセンサを貼付若しくは接着し、
外装用タイルをコンクリート構造物に接着する接着剤に光ファイバセンサを埋設し、
前記各光ファイバセンサ中を伝搬する光波の特性変化に基づいて、前記コンクリート構造物の内部又は表面、および前記接着剤に生じたひずみを検出し、
前記コンクリート構造物の内部又は表面に生じたひずみの変化と前記接着剤に生じたひずみの変化とが相関性を失ったときに前記外装用タイルの剥離を検知することを特徴とするタイルの剥離検知方法。
【請求項3】
外装用タイルを備えるコンクリート構造物のタイルの剥離検知方法であって、
外装用タイルをコンクリート構造物に接着する接着剤に光ファイバセンサを埋設し、
外装用タイルの表面に光ファイバセンサを貼付又は接着し、
前記各光ファイバセンサ中を伝搬する光波の特性変化に基づいて、前記接着剤および前記外装用タイルに生じたひずみを検出し、
前記接着剤に生じたひずみの変化と前記外装用タイルに生じたひずみの変化とが相関性を失ったときに前記外装用タイルの剥離を検知することを特徴とするタイルの剥離検知方法。
【請求項4】
外装用タイルを備えるコンクリート構造物のタイルの剥離検知方法であって、
コンクリート構造物の内部に光ファイバセンサを埋設し、又は表面に光ファイバセンサを貼付若しくは接着し、
外装用タイルの表面に光ファイバセンサを貼付又は接着し、
前記各光ファイバセンサ中を伝搬する光波の特性変化に基づいて、前記コンクリート構造物の内部又は表面および前記外装用タイルに生じたひずみを検出し、
前記コンクリート構造物の内部に埋設され、又は表面に貼付若しくは接着された光ファイバセンサが検出したひずみに対する前記外装用タイルの表面に貼付又は接着された光ファイバセンサが検出したひずみの割合が小さくなったときに前記外装用タイルの剥離を検知することを特徴とするタイルの剥離検知方法。
【請求項5】
外装用タイルを備えるコンクリート構造物のタイルの剥離検知方法であって、
コンクリート構造物の内部に光ファイバセンサを埋設し、又は表面に光ファイバセンサを貼付若しくは接着し、
外装用タイルの表面に光ファイバセンサを貼付又は接着し、
前記各光ファイバセンサ中を伝搬する光波の特性変化に基づいて、前記コンクリート構造物の内部又は表面および前記外装用タイルに生じたひずみを検出し、
前記コンクリート構造物の内部又は表面に生じたひずみの変化と前記外装用タイルの表面に生じたひずみの変化とが相関性を失ったときに前記外装用タイルの剥離を検知することを特徴とするタイルの剥離検知方法。
【請求項6】
外装用タイルを備えるコンクリート構造物のタイルの剥離検知方法であって、
コンクリート構造物の内部に光ファイバセンサを埋設し、又は表面に光ファイバセンサを貼付若しくは接着し、
前記外装用タイルを前記コンクリート構造物に接着する接着剤に光ファイバセンサを埋設し、
前記外装用タイルの表面に光ファイバセンサを貼付又は接着し、
前記各光ファイバセンサ中を伝搬する光波の特性変化に基づいて、前記コンクリート構造物の内部又は表面、前記接着剤および前記外装用タイルに生じたひずみを検出し、
前記各光ファイバセンサが検出したひずみのうち、いずれか二つのひずみの変化が相関性を失ったときに前記外装用タイルの剥離を検知することを特徴とするタイルの剥離検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外装用タイルを備えるコンクリート構造物のタイルの剥離検知方法に関する。
【0002】
近年、RC(Reinforced-Concrete)造やSRC(Steel Reinforce Concrete)造などのコンクリート構造物の外壁は、接着モルタル等を用いて外装タイル等の外壁で被覆されている。このように外装タイルが施工されたコンクリート構造物において、下地コンクリートと外装タイルとの間の接着強度が劣化することにより、外装タイルが剥離し、最終的には剥落する場合がある。
【0003】
そこで、従来から、下地コンクリートと外装タイルとの接着状態を把握するために、外装タイルの剥離評価方法として、外装タイルの剥離評価方法には、打診検査や赤外線カメラを用いた診断技術等が適用されてきた。
【0004】
また、タイルの剥離は、外装タイル、接着モルタルおよび下地コンクリートのひずみ差(ディファレンシャルムーブメント)によって評価できると考えられ、ひずみ追従性が検討されてきた(非特許文献1)。現状、ひずみの計測には、ひずみゲージが用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】名知博司、小野正:タイル直張り仕上げのひずみ追従性に及ぼすタイル要因の影響、日本建築学会構造系論文集、第563号、pp.15-22、(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のひずみ計測法では、ひずみゲージそのものが剥離の起点となり得る問題がある。例えば、ひずみゲージ、およびそのリード線は、その径を無視することができないため、タイルの表面に貼付した場合に、タイルに生ずるひずみに影響を与えてしまったり、ひずみゲージを接着モルタルに埋設した場合に、ひずみゲージそのものが剥離の原因となってしまったりすることがあり得る。このように、ひずみゲージの貼付面がタイルの接着に影響を及ぼす懸念があるため、より影響の少ない剥離検知方法が望まれる。
【0007】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、光ファイバセンサを用いてコンクリート構造物に施工されたタイルの剥離を検知するタイルの剥離検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明は、以下の手段を講じた。すなわち、本願発明のタイルの剥離検知方法は、外装用タイルを備えるコンクリート構造物のタイルの剥離検知方法であって、コンクリート構造物の内部に光ファイバセンサを埋設し、又はコンクリート構造物の表面に光ファイバセンサを貼付若しくは接着し、前記光ファイバセンサ中を伝搬する光波の特性変化に基づいて、前記コンクリート構造物に生じたひずみを検出し、前記コンクリート構造物に加わった荷重の変化とその荷重により生じたひずみの変化との関係が一定の規則性を失ったときに前記外装用タイルの剥離を検知することを特徴とする。
【0009】
このように、コンクリート構造物の内部に光ファイバセンサを埋設し、またはコンクリート構造物の表面に光ファイバセンサを貼付若しくは接着し、光ファイバセンサ中を伝搬する光波の特性変化に基づいて、コンクリート構造物に生じたひずみを検出し、コンクリート構造物に加わった荷重の変化とその荷重により生じたひずみの変化との関係が一定の規則性を失ったときに外装用タイルの剥離を検知するので、コンクリート構造物から外装タイルが剥離したことを検知することが可能となる。その結果、目視や打診検査では検出できないコンクリート構造物と外装用タイル間の剥離であっても、剥離を検知することが可能となる。
【0010】
(2)また、本発明のタイルの外装用タイルを備えるコンクリート構造物のタイルの剥離検知方法であって、コンクリート構造物の内部に光ファイバセンサを埋設し、又は表面に光ファイバセンサを貼付若しくは接着し、外装用タイルをコンクリート構造物に接着する接着剤に光ファイバセンサを埋設し、前記各光ファイバセンサ中を伝搬する光波の特性変化に基づいて、前記コンクリート構造物の内部又は表面、および前記接着剤に生じたひずみを検出し、前記コンクリート構造物の内部又は表面に生じたひずみの変化と前記接着剤に生じたひずみの変化とが相関性を失ったときに前記外装用タイルの剥離を検知することを特徴とする。
【0011】
このように、コンクリート構造物の内部に光ファイバセンサを埋設し、又は表面に光ファイバセンサを貼付若しくは接着し、外装用タイルをコンクリート構造物に接着する接着剤に光ファイバセンサを埋設し、各光ファイバセンサ中を伝搬する光波の特性変化に基づいて、コンクリート構造物の内部又は表面、および接着剤に生じたひずみを検出し、コンクリート構造物の内部又は表面に生じたひずみの変化と接着剤に生じたひずみの変化とが相関性を失ったときに外装用タイルの剥離を検知するので、コンクリート構造物から接着剤が剥離したことを検知することが可能となる。その結果、目視や打診検査では検出できないコンクリート構造物と接着剤間の剥離であっても、剥離を検知することが可能となる。
【0012】
(3)また、本発明のタイルの剥離検知方法は、外装用タイルを備えるコンクリート構造物のタイルの剥離検知方法であって、外装用タイルをコンクリート構造物に接着する接着剤に光ファイバセンサを埋設し、外装用タイルの表面に光ファイバセンサを貼付又は接着し、前記各光ファイバセンサ中を伝搬する光波の特性変化に基づいて、前記接着剤および前記外装用タイルに生じたひずみを検出し、前記接着剤に生じたひずみの変化と前記外装用タイルに生じたひずみの変化とが相関性を失ったときに前記外装用タイルの剥離を検知することを特徴とする。
【0013】
このように、外装用タイルをコンクリート構造物に接着する接着剤に光ファイバセンサを埋設し、外装用タイルの表面に光ファイバセンサを貼付又は接着し、各光ファイバセンサ中を伝搬する光波の特性変化に基づいて、接着剤および外装用タイルに生じたひずみを検出し、接着剤に生じたひずみの変化と外装用タイルに生じたひずみの変化とが相関性を失ったときに外装用タイルの剥離を検知するので、外装タイルが接着剤から剥離したことを検知することが可能となる。その結果、目視や打診検査では検出できないコンクリート構造物と外装用タイル間の剥離であっても、剥離を検知することが可能となる。
【0014】
(4)また、本発明のタイルの剥離検知方法は、外装用タイルを備えるコンクリート構造物のタイルの剥離検知方法であって、コンクリート構造物の内部に光ファイバセンサを埋設し、又は表面に光ファイバセンサを貼付若しくは接着し、外装用タイルの表面に光ファイバセンサを貼付又は接着し、前記各光ファイバセンサ中を伝搬する光波の特性変化に基づいて、前記コンクリート構造物の内部又は表面および前記外装用タイルに生じたひずみを検出し、前記コンクリート構造物の内部に埋設され、又は表面に貼付若しくは接着された光ファイバセンサが検出したひずみに対する前記外装用タイルの表面に貼付又は接着された光ファイバセンサが検出したひずみの割合が小さくなったときに前記外装用タイルの剥離を検知することを特徴とする。
【0015】
このように、コンクリート構造物の内部に光ファイバセンサを埋設し、又は表面に光ファイバセンサを貼付若しくは接着し、外装用タイルの表面に光ファイバセンサを貼付又は接着し、外装用タイルの表面に光ファイバセンサを貼付又は接着し、各光ファイバセンサ中を伝搬する光波の特性変化に基づいて、コンクリート構造物の内部又は表面および外装用タイルに生じたひずみを検出し、コンクリート構造物の内部に埋設され、又は表面に貼付若しくは接着された光ファイバセンサが検出したひずみに対する外装用タイルの表面に貼付又は接着された光ファイバセンサが検出したひずみの割合が小さくなったときに外装用タイルの剥離を検知するので、外装タイルがコンクリート構造物から剥離したことを検知することが可能となる。その結果、目視や打診検査では検出できないコンクリート構造物と外装用タイル間の剥離であっても、剥離を検知することが可能となる。
【0016】
(5)また、本発明のタイルの剥離検知方法は、外装用タイルを備えるコンクリート構造物のタイルの剥離検知方法であって、コンクリート構造物の内部に光ファイバセンサを埋設し、又は表面に光ファイバセンサを貼付又は接着し、外装用タイルの表面に光ファイバセンサを貼付又は接着し、前記各光ファイバセンサ中を伝搬する光波の特性変化に基づいて、前記コンクリート構造物の内部又は表面および前記外装用タイルに生じたひずみを検出し、前記コンクリート構造物の内部又は表面に生じたひずみの変化と前記外装用タイルの表面に生じたひずみの変化とが相関性を失ったときに前記外装用タイルの剥離を検知することを特徴とする。
【0017】
このように、コンクリート構造物の内部に光ファイバセンサを埋設し、又は表面に光ファイバセンサを貼付若しくは接着し、外装用タイルの表面に光ファイバセンサを貼付又は接着し、各光ファイバセンサ中を伝搬する光波の特性変化に基づいて、コンクリート構造物の内部又は表面および外装用タイルに生じたひずみを検出し、コンクリート構造物の内部又は表面に生じたひずみの変化と、外装用タイルの表面に生じたひずみの変化とが相関性を失ったときに外装用タイルの剥離を検知するので、コンクリート構造物から外装用タイルが剥離したことを検知することが可能となる。その結果、目視や打診検査では検出できないコンクリート構造物と外装用タイル間の剥離であっても、剥離を検知することが可能となる。
【0018】
(6)また、本発明のタイルの剥離検知方法は、外装用タイルを備えるコンクリート構造物のタイルの剥離検知方法であって、コンクリート構造物の内部に光ファイバセンサを埋設し、又は表面に光ファイバセンサを貼付若しくは接着し、前記外装用タイルを前記コンクリート構造物に接着する接着剤に光ファイバセンサを埋設し、前記外装用タイルの表面に光ファイバセンサを貼付又は接着し、前記各光ファイバセンサ中に伝搬する光波の特性変化に基づいて、前記コンクリート構造物の内部又は表面、前記接着剤および前記外装用タイルに生じたひずみを検出し、前記各光ファイバセンサが検出したひずみのうち、いずれか二つのひずみの変化が相関性を失ったときに前記外装用タイルの剥離を検知することを特徴とする。
【0019】
このように、コンクリート構造物の内部に光ファイバセンサを埋設し、又は表面に光ファイバセンサを貼付若しくは接着し、外装用タイルをコンクリート構造物に接着する接着剤に光ファイバセンサを埋設し、外装用タイルの表面に光ファイバセンサを貼付又は接着し、各光ファイバセンサ中に伝搬する光波の特性変化に基づいて、前記コンクリート構造物の内部又は表面、接着剤および外装用タイルに生じたひずみを検出し、各光ファイバセンサが検出したひずみのうち、いずれか二つのひずみの変化が相関性を失ったときに外装用タイルの剥離を検知するので、コンクリート構造物、接着剤、または外装用タイルのどの部分で剥離が生じたかを検知することが可能となる。その結果、目視や打診検査では検出できないコンクリート構造物、接着剤、および外装用タイル間の剥離であっても、剥離を検知することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
このように、本発明によれば、目視や打診検査では検出できないコンクリート構造物と外装用タイル間の剥離であっても、剥離を検知することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】圧縮試験に用いる供試体の概要を示す正面図および側面図である。
【
図3】本圧縮試験における載荷サイクルを示すグラフである。
【
図5】330kNの載荷直後の打診検査結果を示す図である。
【
図6】圧縮試験時のタイルおよび下地コンクリートのひずみの関係を示す図である。
【
図7】圧縮試験における供試体中央部の圧力試験結果(ひずみと荷重)を示す図である。
【
図8】圧縮試験における供試体中央部の圧力試験結果(ひずみと時間)を示す図である。
【
図9】曲げ試験に用いる供試体の概要を示す正面図および側面図である。
【
図10】曲げ試験時のひずみの挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態に係るタイルの剥離検知方法について、図を用いながら説明する。本実施形態では、タイルの剥離検知に光ファイバセンサを用いた。光ファイバセンサは、外径が極細径であるため、コンクリート構造物にとって異物とならず、取り扱いが容易である。さらに、光ファイバセンサは、光信号を用いることから、長距離計測が可能であり、一本の光ファイバケーブルに複数のセンサ部を設けることができるため、配線がシンプルになる。
【0023】
本実施形態に係るタイルの剥離検知方法では、光ファイバセンサをコンクリート構造物、接着剤、および外装用タイル(以下、単にタイルともいう。)に設置する。光ファイバセンサは、光信号を伝搬する光ファイバケーブルにひずみを検知するセンサ部(FBG部)が設けられている。本実施形態では、光ファイバセンサとして、FBGセンサを用いる。なお、コンクリート構造物内部に設置する光ファイバセンサは、センサ部をモルタルで被覆した光ファイバセンサ(以下、コンクリート構造物内部に設置する光ファイバセンサを応力センサと称する)を用いる。このように、コンクリート構造物内部ならびに表面、接着剤およびタイルに設置した応力センサおよび光ファイバセンサからひずみを検出し、検出したひずみの変化から、タイルの剥離を検知する。
【0024】
[設置方法]
まず、コンクリート構造物内部に応力センサを埋設し、コンクリート構造物の表面に光ファイバセンサを貼付する。次に、タイルをコンクリート構造物に接着する接着剤を施工し、接着剤に光ファイバセンサを埋設する。接着剤は、セメントモルタル、セメントペースト、樹脂等が挙げられる。次に、タイルを張り付け、タイルの表面に光ファイバセンサを貼付する。
【0025】
[検証]
光ファイバセンサを下地コンクリート、接着剤、タイルの各表面に設置し、載荷試験および曲げ試験を行なうことで、ひずみを計測し、応力によるひずみを用いてタイルの剥離状態が適切に評価できることを、以下のように、検討した。また、これまでの各種劣化評価への適応性の検討においても、光ファイバセンサをモルタルで被覆した応力センサにより、応力によって生じるひずみを適切に計測できることが確認されている。この応力センサを、表面にタイルを施工したコンクリート躯体内に埋設し、タイルの剥離検知に適応できるかについても、検討した。
【0026】
[1.圧縮試験]
(1)供試体の概要
図1(a)(b)は、圧縮試験に用いる供試体の概要を示す正面図および側面図である。下地コンクリート11は、水セメント比W/C=50%を使用し、100×100×400mmに成形した。下地コンクリート11の一面に接着剤13を用いて外装用タイル15を改良圧縮張りによって施工した。接着剤は、セメントモルタルを使用した。載荷試験を行なう際に、接着剤13およびタイル15に載荷板が直接触れることを防ぐため、接着剤13およびタイル15は、上70mm、下30mmを空けて下地コンクリート11に接着剤13およびタイル15を張り付けた。接着剤13の平均厚さは、13.6mm(実績)とした。
図1に示すように、供試体中央および上方10mmの位置(タイルの上端部)において、下地コンクリート11、接着剤13、タイル15の各表面に光ファイバセンサ1を設置した。また、供試体の中央には、圧縮軸方向に応力センサ9を埋め込んだ。光ファイバセンサ1は、光信号を伝搬する光ファイバケーブル3にひずみを検知するセンサ部(FBG部)5が設けられている。本実施形態では、光ファイバセンサとして、FBGセンサを用いる。
【0027】
図2は、応力センサの概要を示す図である。応力センサ9は、光ファイバケーブル3にセンサ部(FBG部)5が設けられており、打設時の衝撃等による損傷を防ぐため、センサ部5が中央となるように、予めセンサ部5をモルタルで被覆し(被覆部7)、φ20×50mmに成形した。
【0028】
表1は、応力センサ9に使用したモルタル(以下、被覆モルタルとも称する)の配合を示す表である。被覆部7のモルタルの配合は、下地コンクリート11に用いたモルタルの配合から粗骨材を除いた配合とした。このように作製された応力センサ9を、
図1に示すように、供試体100内部に設置することにより、コンクリート内部の局所的なひずみを計測することができる。
【表1】
【0029】
(2)圧縮試験の概要
万能試験機を用いて、圧縮試験を行なった。以下、詳細を説明する。圧縮試験では、供試体の下地コンクリート11のみに順次圧縮荷重を加え、下地コンクリート11、接着剤13、およびタイル15にひずみ差を発生させる。具体的には、25kNから225kNまで荷重を5段階に分け、各荷重を3回ずつ順次載荷した。
図3は、本圧縮試験における載荷サイクルを示すグラフである。その後、続けて330kN、345kNの載荷により圧縮破断させた。また、各荷重の3回目の載荷後および330kN載荷後に、タイルの打診検査および目視によるひび割れの確認を行なった。本試験では、圧縮ひずみを正として示す。
【0030】
(3)圧縮試験結果
図4は、ひずみ圧縮破壊直前の330kNの載荷における供試体100上方のひずみ挙動を示す図である。
図5は、330kNの載荷直後の打診検査結果を示す図である。
【0031】
図4に示すように、250kN付近から330kNにかけて徐々にタイルと接着剤のひずみが減少し、下地コンクリートとのひずみ差が大きくなったことから、接着剤と下地コンクリートとの間で剥離が生じたと考えられる。上記のひずみ差が生じた後も、目視による確認では、タイルは供試体に接着していたが、直後の打診検査より、
図5の斜線部に示す範囲で明らかな異音が生じており、タイルの剥離が生じていると判断できる。
図4および
図5の結果から、接着剤とタイルのひずみは同時に屈曲しており、タイルの剥離とひずみの挙動は整合しており、光ファイバセンサを用いたひずみ計測により、タイルの剥離検知が可能であることが示唆された。下地コンクリートのひずみと、接着剤又はタイルのひずみは、剥離により相関性がなくなった。
【0032】
また、
図6は、荷重180kNから330kNの1回目までの試験におけるタイルのひずみと下地コンクリートのひずみの関係を示す図である。それぞれの勾配は、荷重180kNで0.5、荷重225kN(1回目)で0.45、荷重330kNで0.37、と荷重が増加する度に小さくなった。下地コンクリートのひずみに対するタイルのひずみの割合が小さくなったのは、下地コンクリートからタイルへの応力伝達が低減していることを示すものであり、繰り返し荷重により、徐々に下地コンクリートとモルタルとの接着面積が小さくなっていると考えられる。
【0033】
図7は、同試験における供試体中央部の圧力試験結果(ひずみと荷重)を示す図である。
図7の破線部に示す330kNにおいて、下地コンクリート、接着剤およびタイルのひずみが急激に0μ付近まで減少した。一方、330kNで供試体からタイルの剥離が生じた際に、供試体の下地コンクリート中央部に埋設した応力センサのひずみは、一時的にひずみが減少した。したがって、下地コンクリートは圧縮破壊していないが、下地コンクリートと接着剤との界面で剥離が生じ、下地コンクリートに設置した光ファイバセンサも下地コンクリートから剥がれたことが考えられる。このことから、下地コンクリート、接着剤およびタイルの表面に貼り付けた光ファイバセンサだけでなく、内部に埋め込んだ応力センサでもタイルの剥離の検知が可能であることが示唆された。
【0034】
図8は、同試験における供試体中央部の圧力試験結果(ひずみと時間)を示す図である。
図7に示す下地コンクリート、接着剤、およびタイルに貼り付けた光ファイバセンサおよび下地コンクリート内部に埋設した応力センサから検出したひずみの変化は、
図8に示すように、同じタイミングで変化している。つまり、下地コンクリート、接着剤、およびタイルに貼り付けた光ファイバセンサおよび下地コンクリート内部に埋設した応力センサによって、タイルの剥離の検知が可能であることが示唆された。
【0035】
また、330kNの1回目の載荷直後の打診検査では、
図5に示す供試体中央部測定箇所に異音は確認されなかったが、同荷重2回目の載荷終了後に、中央部のタイルが左右共に剥落した。このことから、打診検査では判断できないタイルの剥離も光ファイバセンサを用いることにより、剥離の検知が可能であることが示唆された。
【0036】
[2.曲げ試験]
(1)供試体の概要
図9(a)(b)は、曲げ試験に用いる供試体の概要を示す正面図および側面図である。下地コンクリート11は、圧縮試験の供試体と同様、水セメント比W/C=50%を使用し、200×150×800mmに成形した。また、
図9に示すように、下地コンクリート11中のせん断ひび割れの発生が予想される右位置の断面中央に応力センサ9を設置し、下地コンクリート11、接着剤13およびタイル15の表面において、右、左、下の3箇所に光ファイバセンサのセンサ部5を設置した。接着剤は、セメントモルタルを使用した。右位置の外装タイル表面のみ、ひずみゲージ21を使用した。応力センサ9は、圧縮試験で使用したものと同様の応力センサを用いた。
【0037】
(2)曲げ試験の概要
万能試験機を用いて、曲げ試験を行なった。以下、詳細を説明する。曲げ試験では、5.5kNから130kNまで荷重を11段階に分け、各荷重を3回ずつ順次載荷し、続けて300kN、450kNの載荷を行なった。また、圧縮試験と同様に各荷重の載荷終了後にタイルの打診検査および目視によるひび割れの確認を行なった。
【0038】
(3)曲げ試験結果
図10は、最大荷重300kNの曲げ載荷サイクルを行なった際の、供試体の右側位置における供試体中央部に埋設した応力センサ、下地コンクリートおよびタイルのひずみ履歴である。
図10に示すように、タイルおよび下地コンクリートのひずみは、220kN付近までほぼ同じ挙動を示しており、下地コンクリートからタイルへ応力が伝達していることがわかる。その後、220kN付近からタイルと下地コンクリートのひずみが乖離していることから、タイルの剥離が生じていると推測される。また、タイルと下地コンクリートのひずみは、荷重が0になったときもひずみの値は元の位置に戻らなくなっており、この減少によってもタイルの剥離を検知することができる。
【0039】
一方、応力センサは、除荷後に残留ひずみが確認されないため、コンクリート躯体(下地コンクリート)そのものには大きな損傷はないと考えられる。また、サイクル直後の打診検査において光ファイバセンサ設置部近辺でタイルの剥離が生じていることを確認した。
【0040】
以上説明したように、本実施形態によれば、目視や打診検査では検出できないコンクリート構造物と外装用タイル間の剥離であっても、剥離を検知することが可能となる。
【符号の説明】
【0041】
100、200 供試体
1 光ファイバセンサ
3 光ファイバケーブル
5 センサ部(FBG部)
7 被覆部
9 光ファイバセンサ、応力センサ
11 下地コンクリート
13 接着剤
15 外装用タイル、タイル
21 ひずみゲージ