【課題】より長時間にわたって優れた触媒活性を維持することができ、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを効率良く製造することが可能な、合成ガス製造用触媒構造体を提供する。
【解決手段】合成ガス製造用触媒構造体1は、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを製造する際に用いられるものであり、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体10と、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびコバルト(Co)からなる群から選択される1種以上の鉄族元素を含有する第1触媒粒子20と、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)およびルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上の白金族元素を含有する第2触媒粒子30と、を備え、担体10の内部に、互いに連通する通路11を有し、第1触媒粒子20が、担体10の通路11に少なくとも存在し、第2触媒粒子30が、担体10の内部および外表面の少なくとも一方に存在する。
前記第1触媒粒子が、前記合成ガス製造用触媒構造体に対して、合計で0.5質量%以上3.5質量%以下含有されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
前記第1触媒粒子の平均粒径の、前記通路の平均内径に対する寸法割合が1超130以下の範囲であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
前記第2触媒粒子が、前記合成ガス製造用触媒構造体に対して、合計で0.02質量%以上6.00質量%以下含有されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
前記通路は、前記ゼオライト型化合物の骨格構造の一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部とを有し、かつ
前記第1触媒粒子および前記第2触媒粒子のうち、少なくとも前記第1触媒粒子が、前記拡径部に存在していることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
前記拡径部は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔同士を連通している、請求項11または12に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
前記担体の内部に存在している、前記第1触媒粒子および前記第2触媒粒子の平均粒径が、前記拡径部の内径以下であることを特徴とする、請求項11〜13のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
前記担体の内部に存在している前記第1触媒粒子および前記第2触媒粒子の合計含有量が、前記他の触媒粒子の含有量よりも多いことを特徴とする、請求項16に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
請求項1〜19のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触媒構造体の前駆体であって、前記第1触媒粒子および前記第2触媒粒子のうち少なくとも一方の触媒粒子の前駆体物質が、金属酸化物微粒子であることを特徴とする、合成ガス製造用触媒構造体の前駆体。
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための13.0nm以下の細孔を有する前駆体材料(A)に鉄族元素を含有する鉄族元素含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成する第一焼成工程と、
前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理する水熱処理工程と、
前記前駆体材料(C)を水熱処理して得られた前駆体材料(D)に、白金族元素を含有する白金族元素含有溶液を含浸させる工程と、
前記白金族元素含有溶液が含浸された前駆体材料(D)を焼成する第二焼成工程と、
を有し、
前記鉄族元素が、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびコバルト(Co)からなる群から選択される1種以上であり、
前記白金族元素が、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)およびルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする、合成ガス製造用触媒構造体の製造方法。
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための13.0nm以下の細孔を有する前駆体材料(A)に鉄族元素および白金族元素を含有する金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成する第一焼成工程と、
前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理する水熱処理工程と、
を有し、
前記鉄族元素が、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびコバルト(Co)からなる群から選択される1種以上であり、
前記白金族元素が、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)およびルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする、合成ガス製造用触媒構造体の製造方法。
前記第一焼成工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前記前駆体材料(A)に対して50質量%以上500質量%以下の範囲で添加することを特徴とする、請求項22〜24のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触媒構造体の製造方法。
前記第一焼成工程の前に、前記前駆体材料(A)に前記鉄族元素含有溶液または前記金属含有溶液を複数回に分けて添加することで、前記前駆体材料(A)に前記鉄族元素含有溶液または前記金属含有溶液を含浸させることを特徴とする、請求項22〜25のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触媒構造体の製造方法。
前記第一焼成工程の前に前記前駆体材料(A)に前記鉄族元素含有溶液または前記金属含有溶液を含浸させる際に、前記前駆体材料(A)に添加する前記鉄族元素含有溶液または前記金属含有溶液の添加量を、前記前駆体材料(A)に添加する前記鉄族元素含有溶液または前記金属含有溶液に含まれる前記鉄族元素(M1)に対する、前記前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M1)に換算して、10以上1000以下の範囲となるように調整することを特徴とする、請求項22〜26のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触媒構造体の製造方法。
前記水熱処理工程において、前記前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合することを特徴とする、請求項22〜28のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触媒構造体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
[触媒構造体の構成]
図1は、本発明の実施形態に係る合成ガス製造用触媒構造体(以下、単に「触媒構造体」という。)の構成を概略的に示す図であり、
図1(a)は斜視図(一部を横断面で示す。)であり、
図1(b)は部分拡大断面図である。なお、
図1における触媒構造体は、その一例を示すものであり、本発明に係る各構成の形状、寸法等は、
図1のものに限られないものとする。
【0017】
図1(a)に示されるように、触媒構造体1は、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを製造する際に用いられる合成ガス製造用触媒構造体であって、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体10と、後述する鉄族元素を含む第1触媒粒子20と、後述する白金族元素を含有する第2触媒粒子30とを備える。
【0018】
これに関し、本発明者らは、先に、ゼオライトなどの担体に金属触媒を内在させた触媒構造体を開発し、その触媒構造体をドライリフォーミング反応に用いることで、良好な耐コーキング性を示し、かつ長期間にわたり優れた触媒活性を維持することができることを見出した。しかし、この触媒構造体よりも、さらに長期にわたって優れた触媒活性を得るためには、コーキング以外の原因による、触媒活性の低下も抑える必要があった。今回、本発明者らは、副反応である逆シフト反応により副生成物として生成した水(H
2O)分子による、金属触媒の酸化が、コーキング以外に触媒活性を低下させている主な原因であることを見出した。
【0019】
この点、本発明の触媒構造体1は、第2触媒粒子30によって、ドライリフォーミング反応において生成する水素原子がスピルオーバー現象を起こし、そのスピルオーバーした水素原子が第1触媒粒子20に移動することで、第1触媒粒子20の酸化を抑制することができる。そのため、本発明の触媒構造体1によることで、第1触媒粒子20の触媒活性を、より長期にわたって持続することができる。
【0020】
触媒構造体1において、複数の第1触媒粒子20,20,・・・は、担体10が有している互いに連通する通路に少なくとも存在する。また、複数の第2触媒粒子30,30,・・・は、担体10の内部および外表面の少なくとも一方に存在する。第1触媒粒子20は、少なくとも触媒構造体1を触媒として使用する際に触媒能(触媒活性)を有する触媒物質であり、微粒子の形態を有する。第1触媒粒子20および第2触媒粒子30の作用については、詳しくは後述する。
【0021】
≪担体≫
担体10は、ゼオライト型化合物で構成され、多孔質構造を有している。
本発明における「ゼオライト型化合物」は、豊田中央研究所R&Dレビュー Vol.29、No2、(1994.6)にも示されるように、結晶性アルミニウムノケイ酸塩だけでなく、同様の構造を有するリン酸塩系多孔質結晶などを含むゼオライト類似物質を含むものである。
ゼオライト型化合物としては、例えば、ゼオライト(アルミノケイ酸塩)、陽イオン交換ゼオライト、シリカライトなどのケイ酸塩化合物、アルミノホウ酸塩、アルミノヒ酸塩、ゲルマニウム酸塩などのゼオライト類縁化合物、リン酸モリブデンなどのリン酸塩系ゼオライト類似物質などが挙げられる。その中でも、ゼオライト型化合物は、ケイ酸塩化合物であることが好ましい。
【0022】
ゼオライト型化合物の骨格構造は、特に限定されず、例えばStructure Commission of the International Zeolite Associationの定めるゼオライト化合物を挙げることができる。その中でも、MTW型、MFI型(ZSM−5)、FER型(フェリエライト)、LTA型(A型)、MOR型(モルデナイト)、LTL型(L型)の中から選択されることが好ましく、MFI型であることがより好ましく、MFI型ゼオライトの中でもアルミニウム(Al)元素を含まないSilicalite-1であることがさらに好ましい。ゼオライト型化合物には、各骨格構造に応じた孔径を有する孔が複数形成されており、例えばMFI型の最大孔径は0.636nm(6.36Å)、平均孔径0.560nm(5.60Å)である。
【0023】
担体10は、多孔質構造であり、
図1(b)に示すように、好適には複数の孔11a,11a,・・・が形成されることにより、互いに連通する通路11を有する。ここで、第1触媒粒子20は、後述する鉄族元素を少なくとも含むとともに、担体10の少なくとも通路11に存在しており、好ましくは担体10の少なくとも通路11に保持されている。また、第2触媒粒子30は、後述する白金族元素を少なくとも含むとともに、担体10の内部および外表面の少なくとも一方に存在する。
【0024】
このような構成により、担体10内での第1触媒粒子20の移動が規制され、第1触媒粒子20、20の微粒子同士の凝集や、第1触媒粒子20および第2触媒粒子30の凝集が有効に防止されている。その結果、第1触媒粒子20としての有効表面積の減少が効果的に抑制されることで、第1触媒粒子20を、二酸化炭素とメタンから一酸化炭素と水素を生成させる、ドライリフォーミング反応の触媒として作用させることができる。また、第2触媒粒子30によって、ドライリフォーミングにおいて生成する水素原子がスピルオーバー現象を起こし、そのスピルオーバーした水素原子が第1触媒粒子20に移動することで、第1触媒粒子20の酸化が抑制される。したがって、本発明の触媒構造体1によることで、第1触媒粒子20の触媒活性を長期にわたって持続することができるため、第1触媒粒子20の微粒子の凝集や酸化による触媒活性の低下を抑制でき、その結果、触媒構造体1としての長寿命化を図ることができる。さらに、触媒構造体1の長寿命化により、触媒構造体1の交換頻度を低減でき、それにより使用済みの触媒構造体1の廃棄量を大幅に低減することができるため、省資源化を図ることができる。
【0025】
また、通路11は、ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、上記一次元孔、上記二次元孔及び上記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部12とを有していることが好ましく、このとき、第1触媒粒子20および第2触媒粒子30のうち、少なくとも第1触媒粒子20は、拡径部12に存在していることが好ましく、拡径部12に包接されていることがより好ましい。これにより、拡径部12に存在している第1触媒粒子20の担体10内での移動がさらに規制され、第1触媒粒子20の離脱や、第1触媒粒子20、20の微粒子同士の凝集、第1触媒粒子20および第2触媒粒子30の凝集を、さらに有効に防止することができる。
【0026】
ここで、本実施形態では、
図1(b)に示すように、第1触媒粒子20が担体10の拡径部12に包接されており、かつ、第2触媒粒子30が担体10の外表面に存在している。ここで、包接とは、第1触媒粒子20(または第2触媒粒子30)が、担体10に内包されている状態を指し、ゼオライトの合成によって形成された規則的な通路以外を介して、ゼオライトの外部と接触していないことを意味する。また、拡径部12に存在している触媒粒子(本実施形態における第1触媒粒子20)と担体10は、必ずしも直接的に互いが接触している必要はなく、触媒粒子と担体10との間に他の物質(例えば、界面活性剤等)が介在した状態で、触媒粒子が担体10に間接的に保持されていてもよい。
【0027】
ここでいう一次元孔とは、一次元チャンネルを形成しているトンネル型またはケージ型の孔、もしくは複数の一次元チャンネルを形成しているトンネル型またはケージ型の複数の孔(複数の一次元チャンネル)を指す。また、二次元孔とは、複数の一次元チャンネルが二次元的に連結された二次元チャンネルを指し、三次元孔とは、複数の一次元チャンネルが三次元的に連結された三次元チャンネルを指す。そのため、拡径部には、スーパーケージのように孔がゼオライトの規則的な構造として広がっているものは含まれない。
【0028】
図1(b)では、第1触媒粒子20が拡径部12に包接されている場合を示しているが、この構成だけには限定されず、第1触媒粒子20は、その一部が拡径部12の外側にはみ出した状態で通路11に保持されていてもよい。また、第1触媒粒子20は、拡径部12以外の通路11の部分(例えば通路11の内壁部分)に部分的に埋設され、または固着等によって保持されていてもよい。
【0029】
また、拡径部12は、上記一次元孔、上記二次元孔及び上記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔11a,11a同士を連通しているのが好ましい。これにより、担体10の内部に、一次元孔、二次元孔又は三次元孔とは異なる別途の通路が設けられるので、第1触媒粒子20や第2触媒粒子30の機能をより発揮させることができる。
【0030】
また、通路11は、担体10の内部に、分岐部または合流部を含んで三次元的に形成されており、拡径部12は、通路11の上記分岐部または合流部に設けられるのが好ましい。
【0031】
担体10に形成された通路11の平均内径D
Fは、上記一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかを構成する孔11aの短径及び長径の平均値から算出され、例えば0.1nm〜1.5nmであり、好ましくは0.5nm〜0.8nmである。また、拡径部12の内径D
Eは、例えば0.5nm〜50nmであり、好ましくは1.1nm〜40nm、より好ましくは1.1nm〜3.3nmである。拡径部12の内径D
Eは、例えば後述する前駆体材料(A)の細孔径や、拡径部12に包接される第1触媒粒子20の粒径に依存する。拡径部12の内径D
Eは、触媒粒子20を包接し得る大きさである。
【0032】
担体10の形状は、特に限定されるものではないが、例えば平板状とすることができる。ここで、担体10を構成する平板の長辺寸法は、1.00μm以上が好ましく、1.00μm以上50.00μm以下がより好ましく、1.00μm以上25.00μm以下がさらに好ましい。また、担体10を構成する平板の厚さ寸法は、0.05μm以上2.00μm以下が好ましい。なお、この長辺寸法および厚さ寸法の両方に対して垂直な方向に沿った短辺寸法は、平板の長辺寸法より小さく、かつ平板の厚さ寸法よりも大きい寸法である。
【0033】
≪第1触媒粒子≫
第1触媒粒子20は、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびコバルト(Co)からなる群から選択される1種以上の鉄族元素を含有しており、単独では微粒子の形態を有する。その中でも、第1触媒粒子20において必要とされる触媒特性を高める観点では、鉄族元素がニッケル(Ni)であることが好ましい。
【0034】
第1触媒粒子20としては、1種の金属元素からなる金属や、2種以上の金属元素の混合物、または、それらの少なくとも一部が合金化されたものを含む、金属微粒子であってもよい。ここで、金属微粒子は、酸化されていない金属で構成されることが好ましい。他方で、第1触媒粒子20は、使用前の状態では、1種以上の金属元素の酸化物や、これらの複合材料からなる金属酸化物微粒子であってもよい。金属酸化物微粒子は、触媒として使用する前に、後述する還元工程(ステップS7)によって酸化物を還元し、または還元雰囲気を含む使用環境に一定時間晒すことで、触媒として使用する際に金属微粒子の状態にすることができる。なお、本明細書において、触媒として使用する際の金属微粒子を構成する(材質としての)「金属」は、1種の金属元素からなる単体金属と、2種以上の金属元素を含む金属混合物や金属合金を含む意味であり、1種以上の金属元素を含む金属の総称である。金属微粒子や金属酸化物微粒子は、一次粒子の状態で通路11に保持されている場合と、一次粒子が凝集して形成された二次粒子の状態で通路11に保持されている場合とがある。
【0035】
第1触媒粒子20の平均粒径D
C1は、通路11の平均内径D
Fよりも大きいことが好ましい(D
C1>D
F)。また、第1触媒粒子20の平均粒径D
C1は、拡径部12の内径D
E以下であることが好ましい(D
C1≦D
E)。第1触媒粒子20の平均粒径D
Cを、この範囲にすることで、第1触媒粒子20の担体10内での第1触媒粒子20の移動が規制される。そのため、第1触媒粒子20が流体から外力を受けた場合であっても、担体10内での第1触媒粒子20の移動が抑制され、担体10に分散配置されている第1触媒粒子20が、第1触媒粒子20や第2触媒粒子30に接触して凝集するのを有効に防止することができる。
【0036】
また、第1触媒粒子20の平均粒径D
C1は、好ましくは1.0nm以上13.0nm以下の範囲であり、より好ましくは1.0nm以上9.0nm以下の範囲であり、さらに好ましくは1.0nm以上4.5nm以下の範囲である。第1触媒粒子20の平均粒径D
C1が当該範囲内であると、炭素が第1触媒粒子20上で重合し難くなることで、後述するコーキングがより起こり難くなるため、触媒活性をさらに向上させることができる。
【0037】
また、第1触媒粒子20の平均粒径D
Cの、通路11の平均内径D
Fに対する寸法割合(D
C1/D
F)は、好ましくは1超130以下の範囲であり、より好ましくは1.1以上90以下の範囲であり、さらに好ましくは1.1以上45以下の範囲であり、さらに好ましくは1.4以上6.3以下の範囲である。
【0038】
第1触媒粒子20の平均粒径D
C1の測定方法は、触媒構造体1の断面をSAXS(小角X線散乱)で測定し、得られたSAXSデータについてGuinier近似法により球形モデルでフィッティングを行う方法を挙げることができる。このとき、触媒構造体1における第1触媒粒子20の分散状態も得ることができる。なお、SAXSによる測定は、例えばSpring−8のビームラインBL19B2を用いることができる。
【0039】
触媒構造体1における第1触媒粒子20の含有量は、所望の触媒特性を得るとともに、コーキングをより起こり難くする観点から、触媒構造体1に対して0.5質量%以上3.5質量%以下の範囲で含有されているのが好ましく、触媒構造体1に対して0.5質量%以上2.5質量%以下の範囲で含有されているのがより好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下の範囲で含有されているのがさらに好ましい。ここで、第1触媒粒子20の含有量は、例えば{(鉄族元素の質量)/(触媒構造体1の全元素の質量)}×100で表される。
【0040】
また、第1触媒粒子20に含まれる鉄族元素(M
1)に対する、担体10を構成するケイ素(Si)の割合(原子数比Si/M
1)は、10〜1000であるのが好ましく、30〜300であることがより好ましく、50〜200であるのがさらに好ましい。上記割合が1000より大きいと、活性が低いなど、ドライリフォーミングの触媒としての作用が十分に得られない可能性がある。一方、上記割合が10よりも小さいと、第1触媒粒子20の割合が大きくなりすぎて、担体10の強度が低下する傾向がある。なお、原子数比Si/M
1における鉄族元素(M
1)は、担体10の内部に保持され、または担持された鉄族元素(M
1)をいい、担体10の外表面10aに付着した鉄族元素を含まない。
【0041】
第1触媒粒子20は、ドライリフォーミングにおいて、原料ガスに含まれる二酸化炭素とメタンから、一酸化炭素と水素とを含むガスに変換する反応を促進させる作用を有する。
【0042】
一般に、ドライリフォーミングは、メタンと水蒸気を反応させるスチームリフォーミング法に比べ、原料中の炭素含有比率が高いため、触媒表面に炭素を析出させやすい。そのため、ドライリフォーミングでは、炭素の析出によって触媒活性が低下する問題や、触媒構造体1が保持されている反応管を析出した炭素が閉塞させるといったコーキングの問題が起こりやすい。特に、鉄族元素であるニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびコバルト(Co)の中でも、活性が高い事で知られているニッケル(Ni)は反応量が多くなるため、必然的にコーキングが起こりやすい。また、鉄(Fe)およびコバルト(Co)は活性が低いためニッケル(Ni)と比べてコーキング量は少ないが、これら金属も活性が向上するとコーキング量が増加する。このように、鉄族元素を用いた触媒構造体1は、活性を高めることと引き換えに、コーキングを起こり難くすることが要求される。そこで、本発明の触媒構造体1では、鉄族元素を含有する第1触媒粒子20と、後述する白金族元素を含有する第2触媒粒子30とを併用することで、活性を高めることとともに、コーキングを起こり難くしている。
【0043】
≪第2触媒粒子≫
第2触媒粒子30は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)およびルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上の白金族元素を含有しており、単独では微粒子の形態を有する。第2触媒粒子30は、担体10の内部および外表面の少なくとも一方に存在することで、ドライリフォーミングにおいて生成する水素原子が、担体10を構成するゼオライトの内外に解離吸着するスピルオーバー現象を起こすことで、第1触媒粒子20の酸化を抑制することができ、それにより第1触媒粒子20の触媒活性をより長い時間にわたり維持することができる。
【0044】
第2触媒粒子30としては、1種の金属元素からなる金属や、2種以上の金属元素の混合物、または、それらの少なくとも一部が合金化されたものを含む、金属微粒子であってもよい。特に、第1触媒粒子20および第2触媒粒子は、いずれも金属微粒子であることが好ましい。第2触媒粒子30は、使用前の状態では、1種以上の金属元素の酸化物や、これらの複合材料からなる金属酸化物微粒子であってもよい。
【0045】
第2触媒粒子30が担体の内部に存在する場合、担体の内部に存在する第2触媒粒子30の平均粒径D
C2は、通路11の平均内径D
Fよりも大きいことが好ましい(D
C2>D
F)。また、担体の内部に存在する第2触媒粒子30の平均粒径D
C2は、拡径部12の内径D
E以下であることが好ましい(D
C2≦D
E)。第2触媒粒子30の平均粒径D
C2をこの範囲にすることで、第2触媒粒子30の担体10内での第2触媒粒子30の移動が規制される。そのため、第2触媒粒子30が流体から外力を受けた場合であっても、担体10内での第2触媒粒子30の移動が抑制され、担体10に分散配置されている第2触媒粒子30が、第2触媒粒子30や第1触媒粒子20に接触して凝集するのを有効に防止することができる。
【0046】
また、第2触媒粒子30が担体10の内部に存在する場合、担体10の内部に存在している第2触媒粒子30の平均粒径D
C2は、0.3nm以上13.0nm以下の範囲であることが好ましい。これにより、第2触媒粒子30の担体10の前駆体への含浸を行い易くすることができるため、第2触媒粒子30による第1触媒粒子20の酸化抑制の効果を、より安定して得ることができる。
【0047】
他方で、第2触媒粒子30が担体10の外表面10aに存在する場合、担体10の外表面10aに存在している第2触媒粒子30の平均粒径D
C2’は、1nm以上100nm以下の範囲であることが好ましく、15nm以上100nm以下の範囲であることがより好ましく、30nm以上100nm以下の範囲であることがさらに好ましく、40nm以上100nm以下の範囲であることが最も好ましい。ここで、担体10の外表面10aに第2触媒粒子30を存在させ、好ましくは、担体10の外表面10aに存在している第2触媒粒子30の平均粒径D
C2’を大きくすることで、ドライリフォーミング反応中における第2触媒粒子30のシンタリングを抑制することができ、水素原子のスピルオーバー現象による、第1触媒粒子20の酸化抑制の効果を高めることができる。また、担体10の外表面10aに存在している第2触媒粒子30の平均粒径D
C2’を大きくすることで、触媒構造体の耐コーキング性をより一層高めることができる。
【0048】
担体10の内部にある第2触媒粒子30の平均粒径D
C2の測定方法は、第1触媒粒子20の平均粒径D
C1と同様に、触媒構造体1の断面をSAXS(小角X線散乱)で測定し、得られたSAXSデータについてGuinier近似法により球形モデルでフィッティングを行うことで測定する方法を挙げることができる。他方で、担体10の外表面に存在している第2触媒粒子30の平均粒径D
C2’の測定は、SEM(走査電子顕微鏡)を用いて行うことができる。
【0049】
触媒構造体1における第2触媒粒子30の含有量は、第1触媒粒子20の酸化を適切に抑制する観点から、触媒構造体1に対して0.02質量%以上であることが好ましく、0.10質量%以上であることがより好ましく、0.40質量%以上であることがさらに好ましい。他方で、触媒構造体1における第2触媒粒子30の含有量の上限は、特に限定されないが、例えば6.00質量%であってもよい。ここで、第2触媒粒子30の含有量は、例えば{(白金族元素の質量)/(触媒構造体1の全元素の質量)}×100で表される。
【0050】
触媒構造体1に含まれる、第2触媒粒子30を構成する白金族元素の含有量は、第1触媒粒子20を構成する鉄族元素の含有量よりも少ないことが好ましい。より具体的には、第1触媒粒子20を構成する鉄族元素の含有量に対する、第2触媒粒子30を構成する白金族元素の含有量の比率は、質量比で、0.05以上3以下の範囲であることが好ましく、0.1以上2.5以下の範囲であることがより好ましい。本発明の触媒構造体1は、高価な白金族元素の含有量が相対的に少なくても、より長時間にわたって優れた触媒活性を維持することが可能である。
【0051】
なお、触媒構造体1は、鉄族元素および白金族元素のいずれとも異なる他の元素を含んでもよい。他の元素としては、周期表の第1族、第2族、第4族、第7族、第12族の金属からなる群から選択される1種以上の金属元素などが挙げられる。その中でも、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)および亜鉛(Zn)からなる群から選択される1種以上の金属元素を他の元素として含むことが好ましい。このような他の元素を含有させることで、鉄族元素のシリケートの生成が抑制されるため、触媒活性の低下をより抑えることができる。他方で、鉄族元素の相対的な減少による触媒活性の低下を抑制する観点から、他の元素の含有量は、触媒構造体1に対して、5質量%以下であることが好ましい。
【0052】
また、第2触媒粒子30としては、白金族元素の代わりに例えばジルコニア(ZrO
2)を含有してもよい。鉄族金属の酸化は、ドライリフォーミング反応における逆シフト反応の工程で副生した水(H
2O)分子によって引き起こされるため、水分解能を有するジルコニア(ZrO
2)は、鉄族金属の酸化を抑制する効果がある。さらに、ジルコニア(ZrO
2)は、ドライリフォーミング反応の基質である二酸化炭素(CO
2)の吸着能も高いため、触媒構造体1のコーキング耐性を向上させる効果も有する。
【0053】
[触媒構造体の機能]
触媒構造体1は、上記のとおり、多孔質構造の担体10と、担体10に内在し、かつ鉄族元素を含む第1触媒粒子20と、担体の内部および外表面の少なくとも一方に存在し、かつ白金族元素を含有する第2触媒粒子30とを備える。
【0054】
ここで、触媒構造体1は、担体に内在する第1触媒粒子20が、メタンや二酸化炭素を含む流体と接触することにより、第1触媒粒子20がドライリフォーミングの化学反応における触媒能を発揮する。具体的に、触媒構造体1の外表面10aに接触した流体は、外表面10aに形成された孔11aから担体10内部に流入して通路11内に誘導され、通路11内を通って移動し、他の孔11aを通じて触媒構造体1の外部へ出る。流体が通路11内を通って移動する経路において、通路11に存在している第1触媒粒子20と接触することによって、第1触媒粒子20による触媒反応が生じる。また、触媒構造体1は、担体が多孔質構造であることにより、分子篩能を有する。
【0055】
まず、触媒構造体1の分子篩能について、
図2(a)を用いて、流体がメタン含有ガスと二酸化炭素である場合を例として説明する。なお、メタン含有ガスとは、メタンと、メタン以外のガスとを含む混合ガスのことをいう。また、触媒構造体1に対して、メタン含有ガスと二酸化炭素を順に接触させてもよく、同時に接触させてもよい。
【0056】
図2(a)に示すように、孔11aの孔径以下、言い換えれば、通路11の内径以下の大きさを有する分子15aは、担体10内に浸入することができる。一方、孔11aの孔径を超える大きさを有する分子15bは、担体10内へ浸入することができない。このように、流体が複数種類の化合物を含んでいる場合に、担体10内に浸入することができない化合物の反応は規制され、担体10内に浸入することができる化合物を反応させることができる。
【0057】
反応によって担体10内で生成した化合物のうち、孔11aの孔径以下の大きさを有する分子で構成される化合物のみが孔11aを通じて担体10の外部へ出ることができ、反応生成物として得られる。一方、孔11aから担体10の外部へ出ることができない化合物は、担体10の外部へ出ることができる大きさの分子で構成される化合物に変換させれば、担体10の外部へ出すことができる。このように、触媒構造体1を用いることにより、特定の反応生成物を選択的に得ることができる。
【0058】
触媒構造体1では、
図2(b)に示すように、通路11の拡径部12に第1触媒粒子20が包接されている。ここで、第1触媒粒子20の平均粒径D
C1が、通路11の平均内径D
Fよりも大きく、拡径部12の内径D
Eよりも小さい場合には(D
F<D
C1<D
E)、第1触媒粒子20と拡径部12との間に小通路13が形成される。そこで、
図2(b)中の矢印に示すように、小通路13に浸入した流体が第1触媒粒子20と接触する。第1触媒粒子20は、拡径部12に包接されているため、担体10内での移動が制限されている。これにより、担体10内における第1触媒粒子20の微粒子同士の凝集が防止される。その結果、第1触媒粒子20と流体との大きな接触面積を安定して維持することができる。
【0059】
さらに、触媒構造体1は、担体の内部および外表面の少なくとも一方に存在し、かつ白金族元素を含有する第2触媒粒子30によって、ドライリフォーミングの化学反応によって生成する水素原子にスピルオーバーが生じ、それにより、金属状態のときに高い触媒活性を有する鉄族元素が酸化された場合であっても、金属状態への還元が促進されるため、鉄族元素を含む第1触媒粒子20の、酸化による触媒活性の低下を抑制することができると考えられる。
【0060】
本実施形態では、触媒構造体1を用いることにより、メタン含有ガスと二酸化炭素とを原料として、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを製造することができる。この触媒反応(ドライリフォーミング反応)は、例えば800℃以上の高温下で行われるが、第1触媒粒子20は担体10に内在しているため、加熱による影響を受けにくい。
【0061】
特に、本実施形態の触媒構造体1は、合成ガス製造用触媒構造体を常圧流通式反応装置に充填し、700℃でGHSV320h−1、CH4/CO2(体積比)=1.0の原料ガスを供給してドライリフォーミング反応を行なったときの、前記原料ガスの供給開始から100時間後におけるCH4転化率が60%以上であることが好ましい。これにより、合成ガス製造用触媒構造体をドライリフォーミング反応に用いたときに、100時間以上の長時間にわたり、所望の触媒活性を得ることができる。
【0062】
[触媒構造体の第一変形例]
図3は、本発明の実施形態の第一変形例に係る触媒構造体の内部構造が分かるように概略的に示したものであって、
図3(a)は斜視図(一部を横断面で示す。)、
図3(b)は部分拡大断面図である。なお、以下の説明において、
図1の触媒構造体1と同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略または簡略にし、主に相違点について説明する。
【0063】
図1の触媒構造体1は、第2触媒粒子30が担体10の外表面10aに存在する場合を示しているが、この構成だけには限定されず、例えば、
図3の触媒構造体1Aに示すように、第2触媒粒子30Aが、担体10の内部に存在しており、好ましくは担体10の少なくとも通路11に保持されている。すなわち、触媒構造体1Aには、第1触媒粒子20および第2触媒粒子30Aの両方が、担体10の通路11に存在していてもよい。
【0064】
特に、通路11が、ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、上記一次元孔、上記二次元孔及び上記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部12とを有している場合、第1触媒粒子20および第2触媒粒子30の両方が、拡径部12に存在していることが好ましく、拡径部12に包接されていることがより好ましい。
【0065】
このような構成により、担体10内での第1触媒粒子20および第2触媒粒子30Aの両方の移動が規制され、第1触媒粒子20および第2触媒粒子30Aの凝集や担体10からの離脱が有効に防止される。その結果、第1触媒粒子20および第2触媒粒子30Aの有効表面積の減少を効果的に抑制することができ、第1触媒粒子20および第2触媒粒子30Aの触媒活性が長期にわたって持続する。すなわち、触媒構造体1Aによれば、触媒粒子20の微粒子の凝集による触媒活性の低下をさらに抑制でき、触媒構造体1Aとしての長寿命化をより一層図ることができる。
【0066】
このとき、担体10の内部に存在している、第1触媒粒子20の平均粒径D
C1および第2触媒粒子30の平均粒径D
C2は、いずれも通路11の平均内径D
Fよりも大きいことが好ましい(D
C1>D
F、D
C2>D
F)。また、担体10の内部に存在している、第1触媒粒子20の平均粒径D
C1および第2触媒粒子30の平均粒径D
C2は、いずれも拡径部12の内径D
E以下であることが好ましい(D
C1≦D
E、D
C2≦D
E)。担体10の内部に存在する、第1触媒粒子20の平均粒径D
C1および第2触媒粒子30の平均粒径D
C2を、それぞれこの範囲にすることで、担体10の内部に存在する第1触媒粒子20および第2触媒粒子30の担体10内での移動が規制される。そのため、担体10に分散配置されている第1触媒粒子20および第2触媒粒子30の凝集を有効に防止することができ、その結果、触媒構造体1Aのさらなる長寿命化を図ることができる。
【0067】
ここで、第2触媒粒子30と担体10は、必ずしも直接的に互いが接触している必要はなく、第2触媒粒子30と担体10との間に他の物質(例えば、界面活性剤等)が介在した状態で、第2触媒粒子30が担体10に間接的に保持されていてもよい。
【0068】
[触媒構造体の第二変形例]
図4は、本発明の実施形態の第二変形例に係る触媒構造体の内部構造が分かるように概略的に示したものであって、
図4(a)は斜視図(一部を横断面で示す。)、
図4(b)は部分拡大断面図である。なお、以下の説明において、
図1の触媒構造体1と同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略または簡略にし、主に相違点について説明する。
【0069】
図1の触媒構造体1は、第1触媒粒子20および第2触媒粒子30を備える場合を示しているが、この構成だけには限定されず、例えば、
図4の触媒構造体1Bに示すように、上記の第1触媒粒子20および第2触媒粒子30の他に、担体10の外表面10aに保持された少なくとも1つの他の触媒粒子40を更に備えてもよい。他の触媒粒子40としては、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびコバルト(Co)からなる群から選択される1種以上の鉄族元素を含有し、かつ微粒子の形態を有するものが挙げられる。
【0070】
図4の触媒構造体1Bにおいて、他の触媒粒子40は、第1触媒粒子20とともにドライリフォーミングの化学反応における触媒能を発揮し、ドライリフォーミング反応をさらに促進することができる。
【0071】
ここで、担体10の内部に存在している第1触媒粒子20および第2触媒粒子30の合計含有量は、担体10の外表面10aに保持された他の触媒粒子40の含有量よりも多いことが好ましい。これにより、担体10の内部に保持された第1触媒粒子20と、担体10に存在する第2触媒粒子30による触媒能が支配的となるため、安定的に第1触媒粒子20および第2触媒粒子30による触媒能を発揮させることができる。
【0072】
また、触媒構造体1Bは、担体10の外表面10aに第2触媒粒子30が存在することが好ましい。すなわち、第2触媒粒子30および他の触媒粒子40が担体10の外表面10aに存在することが好ましい。これにより、担体10の外表面10aに他の触媒粒子40を備える場合であっても、ドライリフォーミングを行ったときに、担体10の外表面10aに保持された他の触媒粒子40に生じるコーク(炭素の重合体)を、担体10の外表面10aにある第2触媒粒子30で分解することができるため、コーキングを起こり難くすることができる。
【0073】
[触媒構造体の製造方法]
図5は、本発明の触媒構造体の製造方法の一例を示すフローチャートである。以下、触媒構造体の製造方法の一例について説明する。
【0074】
(ステップS1:準備工程)
図5に示すように、先ず、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための13.0nm以下の細孔を有する前駆体材料(A)を準備する。前駆体材料(A)は、好ましくは規則性メソ細孔物質であり、触媒構造体の担体を構成するゼオライト型化合物の種類(組成)に応じて適宜選択できる。
【0075】
ここで、触媒構造体の担体を構成するゼオライト型化合物がケイ酸塩化合物である場合には、規則性メソ細孔物質は、細孔径13.0nm以下、より好ましくは1.0nm以上13.0nm以下の細孔が、1次元、2次元または3次元に均一な大きさかつ規則的に発達したSi−O骨格からなる化合物であることが好ましい。このような規則性メソ細孔物質は、合成条件によって様々な合成物として得られるが、合成物の具体例としては、例えばSBA−1、SBA−15、SBA−16、KIT−6、FSM−16、MCM−41等が挙げられ、中でもMCM−41が好ましい。
【0076】
なお、SBA−1の細孔径は10〜30nm、SBA−15の細孔径は6〜10nm、SBA−16の細孔径は6nm、KIT−6の細孔径は9nm、FSM−16の細孔径は3〜5nm、MCM−41の細孔径は1〜10nmである。また、このような規則性メソ細孔物質としては、例えばメソポーラスシリカ、メソポーラスアルミノシリケート、メソポーラスメタロシリケートなどが挙げられる。
【0077】
前駆体材料(A)は、市販品および合成品のいずれであってもよい。前駆体材料(A)を合成する場合には、公知の規則性メソ細孔物質の合成方法により行うことができる。例えば、前駆体材料(A)の構成元素を含有する原料と、前駆体材料(A)の構造を規定するための鋳型剤とを含む混合溶液を調製し、必要に応じてpHを調整して、水熱処理(水熱合成)を行う。その後、水熱処理により得られた沈殿物(生成物)を回収(例えば、ろ別)し、必要に応じて洗浄および乾燥し、さらに焼成することで、粉末状の規則性メソ細孔物質である前駆体材料(A)が得られる。
【0078】
ここで、混合溶液の溶媒としては、例えば水、またはアルコールなどの有機溶媒、若しくはこれらの混合溶媒などを用いることができる。また、原料は、担体の種類に応じて選択されるが、例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)などのシリカ剤、フュームドシリカ、石英砂などが挙げられる。また、鋳型剤としては、各種界面活性剤、ブロックコポリマーなどを用いることができ、規則性メソ細孔物質の合成物の種類に応じて選択することが好ましく、例えば、MCM−41を作製する場合には、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドやテトラエチルアンモニウムヒドロキシドなどの界面活性剤が好適である。他方で、鋳型剤を用いなくてもよい。水熱処理は、例えば、密閉容器内で、80〜800℃、5時間〜240時間、0〜2000kPaの処理条件で行うことができる。焼成処理は、例えば、空気中で、350〜850℃、2〜30時間の処理条件で行うことができる。
【0079】
(ステップS2:第一含浸工程)
次に、準備した前駆体材料(A)に、鉄族元素を少なくとも含んだ鉄族元素含有溶液を含浸させ、前駆体材料(B)を得る。
【0080】
鉄族元素含有溶液は、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびコバルト(Co)からなる群から選択される1種以上である、鉄族元素を少なくとも含む。また、鉄族元素含有溶液は、触媒構造体の第1触媒粒子を構成する、鉄族元素(M
1)に対応する金属成分(例えば、金属イオン)を含有する溶液であればよく、例えば、鉄族元素(M
1)を含有する金属塩を溶媒に溶解させることにより調製できる。このような金属塩としては、例えば、塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、硝酸塩等の金属塩が挙げられ、中でも塩化物または硝酸塩が好ましい。溶媒としては、例えば水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶媒などを用いることができる。
【0081】
前駆体材料(A)に鉄族元素含有溶液を含浸させる方法は、特に限定されないが、例えば、後述する第一焼成工程(ステップS3)の前に、粉末状の前駆体材料(A)を撹拌しながら、前駆体材料(A)に鉄族元素含有溶液を複数回に分けて少量ずつ添加することが好ましい。また、前駆体材料(A)の細孔内部に鉄族元素含有溶液がより浸入し易くなる観点から、前駆体材料(A)に、鉄族元素含有溶液を添加する前に予め、添加剤として界面活性剤を添加しておくことが好ましい。このような添加剤は、前駆体材料(A)の外表面を被覆する働きがあり、その後に添加される鉄族元素含有溶液が前駆体材料(A)の外表面に付着することを抑制し、鉄族元素含有溶液が前駆体材料(A)の細孔内部により浸入し易くなると考えられる。
【0082】
このような添加剤としては、例えばポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどの非イオン性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、分子サイズが大きく前駆体材料(A)の細孔内部には浸入できないため、細孔の内部に付着することは無く、鉄族元素含有溶液が細孔内部に浸入することを妨げないと考えられる。非イオン性界面活性剤の添加方法としては、例えば、後述する第一焼成工程(ステップS3)の前に、非イオン性界面活性剤を、前駆体材料(A)に対して50〜500質量%添加するのが好ましい。非イオン性界面活性剤の前駆体材料(A)に対する添加量が50質量%未満であると上記の抑制作用が発現し難く、非イオン性界面活性剤を前駆体材料(A)に対して500質量%よりも多く添加すると粘度が上がりすぎるので好ましくない。よって、非イオン性界面活性剤の前駆体材料(A)に対する添加量を上記範囲内の値とする。
【0083】
また、前駆体材料(A)に添加する鉄族元素含有溶液の添加量は、前駆体材料(A)に含浸させる鉄族元素含有溶液中に含まれる鉄族元素(M
1)の量(すなわち、前駆体材料(B)に内在させる鉄族元素(M
1)の量)を考慮して、適宜調整することが好ましい。例えば、後述する第一焼成工程(ステップS3)の前に前駆体材料(A)に鉄族元素含有溶液を含浸させる際に、前駆体材料(A)に添加する鉄族元素含有溶液の添加量を、前駆体材料(A)に添加する鉄族元素含有溶液に含まれる鉄族元素(M
1)に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M
1)に換算して、好ましくは10〜1000、より好ましくは50〜200の範囲となるように調整することが好ましい。例えば、前駆体材料(A)に鉄族元素含有溶液を添加する前に、添加剤として界面活性剤を前駆体材料(A)に添加した場合、前駆体材料(A)に添加する鉄族元素含有溶液の添加量を、原子数比Si/M
1に換算して50〜200とすることで、第1触媒粒子として鉄族元素(M
1)を、触媒構造体に対して合計で0.5質量%以上2.5質量%以下の範囲で含有させることができる。
【0084】
前駆体材料(B)の状態で、その細孔内部に存在する鉄族元素(M
1)の量は、鉄族元素含有溶液の金属濃度、上記添加剤の有無、その他温度や圧力等の諸条件が同じであれば、前駆体材料(A)に添加する鉄族元素含有溶液の添加量に概ね比例する。また、前駆体材料(B)に内在する鉄族元素(M
1)の量は、触媒構造体の担体に内在する第1触媒粒子を構成する鉄族元素(M
1)の量と比例関係にある。したがって、前駆体材料(A)に添加する鉄族元素含有溶液の添加量を上記範囲に制御することにより、前駆体材料(A)の細孔内部に鉄族元素含有溶液を十分に含浸させることができ、ひいては、触媒構造体の担体に内在させる第1触媒粒子の量を調整することができる。
【0085】
前駆体材料(A)に鉄族元素含有溶液を含浸させた後は、必要に応じて、洗浄処理を行ってもよい。洗浄溶液として、水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶液を用いることができる。また、前駆体材料(A)に鉄族元素含有溶液を含浸させ、必要に応じて洗浄処理を行った後、さらに乾燥処理を施すことが好ましい。乾燥処理としては、一晩程度の自然乾燥や、150℃以下の高温乾燥が挙げられる。なお、鉄族元素含有溶液に含まれる水分や、洗浄溶液の水分が、前駆体材料(A)に多く残った状態で、後述の焼成処理を行うと、前駆体材料(A)の規則性メソ細孔物質としての骨格構造が壊れる恐れがあるので、十分に乾燥するのが好ましい。
【0086】
(ステップS3:第一焼成工程)
次に、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための前駆体材料(A)に鉄族元素含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成して、前駆体材料(C)を得る。
【0087】
第一焼成工程(ステップS3)における焼成処理は、例えば、空気中で、所定の温度範囲内で、2〜30時間の処理条件で行うことが好ましい。焼成処理における所定の温度範囲内は、好ましくは350〜850℃、より好ましくは500〜850℃である。このような焼成処理により、規則性メソ細孔物質の孔内に含浸された金属成分が結晶成長して、孔内で金属微粒子や金属酸化物微粒子が形成される。
【0088】
(ステップS4:水熱処理工程)
次いで、前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理して、前駆体材料(D)を得る。より具体的には、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合した混合溶液を調製し、前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理して、前駆体材料(D)を得ることが好ましい。
【0089】
構造規定剤は、触媒構造体の担体の骨格構造を規定するための鋳型剤であり、例えば界面活性剤を用いることができる。構造規定剤は、触媒構造体の担体の骨格構造に応じて選択することが好ましく、例えばテトラメチルアンモニウムブロミド(TMABr)、テトラエチルアンモニウムブロミド(TEABr)、テトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr)などの界面活性剤が好適である。
【0090】
前駆体材料(C)と構造規定剤との混合は、水熱処理工程(ステップS4)時に行ってもよいし、水熱処理工程(ステップS4)の前に行ってもよい。また、上記混合溶液の調製方法は、特に限定されず、前駆体材料(C)と、構造規定剤と、溶媒とを同時に混合してもよいし、溶媒に前駆体材料(C)と構造規定剤とをそれぞれ個々の溶液に分散させた状態にした後に、それぞれの分散溶液を混合してもよい。溶媒としては、例えば水、アルコール等の有機溶媒、これらの混合溶媒などを用いることができる。また、混合溶液は、水熱処理を行う前に、酸または塩基を用いてpHを調整しておくことが好ましい。
【0091】
水熱処理は、公知の方法で行うことができ、例えば、密閉容器内で、80℃〜200℃、5時間〜100時間、0〜2000kPaの処理条件で行うことが好ましい。また、水熱処理は、塩基性雰囲気下で行われることが好ましい。ここでの反応メカニズムは必ずしも明らかではないが、前駆体材料(C)を原料として水熱処理を行うことにより、前駆体材料(C)の規則性メソ細孔物質としての骨格構造は次第に崩れるが、前駆体材料(C)の細孔内部での第1触媒粒子の位置は概ね維持されたまま、構造規定剤の作用により、触媒構造体の担体としての新たな骨格構造(多孔質構造)が形成される。このようにして得られた前駆体材料(D)は、多孔質構造の担体と、担体に内在し、上記の鉄族元素を少なくとも含んだ第1触媒粒子を備え、さらに、担体はその多孔質構造により複数の孔が互いに連通した通路を有し、第1触媒粒子はその少なくとも一部分が担体の通路に存在している。
【0092】
また、本実施形態では、上記水熱処理工程(ステップS4)において、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合した混合溶液を調製して、前駆体材料(C)を水熱処理しているが、これに限らず、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合することなく、前駆体材料(C)を水熱処理してもよい。
【0093】
水熱処理後に得られる沈殿物(前駆体材料(D))は、回収(例えば、ろ別)後、必要に応じて洗浄、乾燥および焼成することが好ましい。洗浄溶液としては、水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶液を用いることができる。乾燥処理としては、一晩程度の自然乾燥や、150℃以下の高温乾燥が挙げられる。なお、沈殿物に水分が多く残った状態で、焼成処理を行うと、触媒構造体の担体としての骨格構造が壊れる恐れがあるので、十分に乾燥するのが好ましい。また、焼成処理は、例えば、空気中で、350〜850℃、2〜30時間の処理条件で行うことができる。このような焼成処理により、前駆体材料(D)に付着していた構造規定剤が焼失する。
【0094】
(ステップS5:第二含浸工程)
次に、前駆体材料(C)を水熱処理して得られた前駆体材料(D)に、白金族元素を少なくとも含んだ白金族元素含有溶液を含浸させる。
【0095】
白金族元素含有溶液は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)およびルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上である白金族元素を少なくとも含む。また、白金族元素含有溶液は、触媒構造体の第2触媒粒子を構成する、白金族元素(M
2)に対応する金属成分(例えば、金属イオン)を含有する溶液であればよく、例えば、白金族元素(M
2)を含有する金属塩を溶媒に溶解させることにより調製できる。このような金属塩としては、例えば、塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、硝酸塩等の金属塩が挙げられ、中でも塩化物または硝酸塩が好ましい。溶媒としては、例えば水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶媒等を用いることができる。
【0096】
前駆体材料(D)に白金族元素含有溶液を含浸させる方法は、特に限定されないが、例えば、後述する第二焼成工程(ステップS6)の前に、粉末状の前駆体材料(D)を撹拌しながら、前駆体材料(D)に白金族元素含有溶液を複数回に分けて少量ずつ添加することが好ましい。また、上述の第一含浸工程(ステップS2)と同様に、前駆体材料(D)の細孔内部に白金族元素含有溶液がより浸入し易くなる観点から、前駆体材料(D)に、白金族元素含有溶液を添加する前に予め、添加剤として界面活性剤を添加してもよい。
【0097】
また、前駆体材料(D)に添加する白金族元素含有溶液の添加量は、前駆体材料(D)に含浸させる白金族元素含有溶液中に含まれる白金族元素(M
2)の量を考慮して、適宜調整することが好ましい。例えば、後述する第二焼成工程(ステップS6)の前に前駆体材料(D)に白金族元素含有溶液を含浸させる際に、前駆体材料(D)に添加する白金族元素含有溶液の添加量を、前駆体材料(D)に添加する白金族元素含有溶液に含まれる白金族元素(M
2)に対する、前駆体材料(D)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M
2)に換算して、好ましくは10〜1000、より好ましくは50〜200となるように調整することが好ましい。例えば、前駆体材料(D)に白金族元素含有溶液を添加する前に、添加剤として界面活性剤を前駆体材料(D)に添加した場合、前駆体材料(D)に添加する白金族元素含有溶液の添加量を、原子数比Si/M
2に換算して50〜200とすることで、触媒粒子に含まれる白金族元素(M
2)を、触媒構造体に対して合計で0.1質量%以上2.0質量%以下の範囲で含有させることができる。
【0098】
また、鉄族元素含有溶液における鉄族元素(M
1)の含有量に対する、白金族元素含有溶液における白金族元素(M
2)の含有量の割合(質量比M
2/M
1)が、0.05以上3以下の範囲であることが好ましく、0.1以上2.5以下の範囲であることがより好ましい。
【0099】
前駆体材料(D)に白金族元素含有溶液を含浸させた後は、必要に応じて、洗浄処理を行ってもよい。また、前駆体材料(D)に白金族元素含有溶液を含浸させ、必要に応じて洗浄処理を行った後、さらに乾燥処理を施すことが好ましい。洗浄処理および乾燥処理の条件は、例えば、鉄族元素含有溶液を含浸させた後の洗浄処理および乾燥処理の条件と同様にすることができる。
【0100】
(ステップS6:第二焼成工程)
次に、白金族元素含有溶液が含浸された前駆体材料(D)を焼成して、触媒構造体を得る。
【0101】
前駆体材料(D)に対する焼成処理は、例えば、空気中で、所定の温度範囲内で、2時間〜30時間の処理条件で行うことが好ましい。この焼成処理における所定の温度範囲は、好ましくは350℃〜850℃、より好ましくは500℃〜850℃である。このような焼成処理により、規則性メソ細孔物質の内部に含浸され、または外表面に付着した白金族元素の成分が結晶成長して、第2触媒粒子が形成される。このようにして得られた触媒構造体は、多孔質構造の担体と、担体に内在する鉄族元素を少なくとも含んだ第1触媒粒子と、担体の内部および外表面の少なくとも一方に存在する白金族元素を少なくとも含んだ第2触媒粒子とを備え、さらに、担体はその多孔質構造により複数の孔が互いに連通した通路を有し、第1触媒粒子は、その少なくとも一部分が担体の通路に存在している。
【0102】
(ステップS7:還元工程)
本実施形態の触媒構造体の製造方法では、第二焼成工程(ステップS6)で焼成された前駆体材料(D)に、還元処理を行う還元工程(ステップS7)を有することが好ましい。特に、鉄族元素(M
1)としてCo、Fe、Niのうち少なくとも1つの金属を含む本発明の触媒構造体では、鉄族元素含有溶液を含浸させる第一含浸工程(ステップS2)の後の工程(ステップS3〜S6)における熱処理、特に水熱処理工程(ステップS4)における熱処理により、鉄族元素が酸化されてしまう。そのため、第二焼成工程(ステップS6)を行った後の触媒構造体の担体には、触媒粒子として鉄族元素の酸化物によって主に構成される金属酸化物微粒子が内在することになる。そのため、鉄族元素を含有する第1触媒粒子が金属微粒子として内在する触媒構造体を得るためには、第二焼成工程(ステップS6)で焼成された前駆体材料(D)に、水素ガス等の還元ガス雰囲気下で、還元処理を行うことが好ましい。還元処理を行うことにより、担体に内在する金属酸化物微粒子が還元され、金属酸化物微粒子を構成する金属元素に対応する金属微粒子が形成される。その結果、金属微粒子が第1触媒粒子として担体に内在する触媒構造体を得ることができる。
【0103】
なお、還元工程(ステップS7)は、必要に応じて行えばよい。例えば、触媒構造体を用いる環境が、少なくとも一時的に還元雰囲気になりうる場合には、還元雰囲気を含む使用環境に一定時間晒すことで金属酸化物微粒子が還元されるため、還元処理した場合と同様の触媒構造体が得られる。そのため、この場合には、上述の触媒構造体の前駆体であって、第1触媒粒子および第2触媒粒子のうち少なくとも一方の触媒粒子の前駆体物質が、金属酸化物微粒子である前駆体を、そのまま用いることもできる。
【0104】
[触媒構造体の製造方法の変形例]
図6は、本発明の触媒構造体の製造方法の変形例を示すフローチャートである。なお、以下の説明において、
図5のフローチャートで示される触媒構造体の製造方法と同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略または簡略にし、主に相違点について説明する。
【0105】
図5の触媒構造体1の製造方法では、前駆体材料(A)に鉄族元素含有溶液を含浸させる第一含浸工程(ステップS2)と、鉄族元素含有溶液を含浸させた前駆体材料(B)を焼成する第一焼成工程(ステップS3)と、前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理する水熱処理工程(ステップS4)と、前駆体材料(C)を水熱処理して得られた前駆体材料(D)に白金族元素含有溶液を含浸させる第二含浸工程(ステップS5)と、白金族元素含有溶液が含浸された前駆体材料(D)を焼成する第二焼成工程(ステップS6)を行う場合を示しているが、この構成だけには限定されない。例えば、
図6に示すように、前駆体材料(A)に鉄族元素含有溶液および白金族元素含有溶液を含有する金属含有溶液を含浸させる第一含浸工程(ステップS2)と、金属含有溶液を含浸させた前駆体材料(B)を焼成する第一焼成工程(ステップS3)と、前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理する水熱処理工程(ステップS4)を行うことで、触媒構造体1を作製することも好ましい。これにより、鉄族元素を含有する第1触媒粒子と、白金族元素を含有する第2触媒粒子とを、担体10の内部に同時に形成することができるため、より効率的に触媒構造体1を作製することができる。
【0106】
(ステップS2:第一含浸工程)
本実施態様では、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための細孔を有する前駆体材料(A)に、鉄族元素および白金族元素を含有する金属含有溶液を含浸させ、前駆体材料(B)を得る。
【0107】
鉄族元素含有溶液は、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびコバルト(Co)からなる群から選択される1種以上である、鉄族元素を少なくとも含む。また、白金族元素含有溶液は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)およびルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上である白金族元素を少なくとも含む。金属含有溶液は、第1触媒粒子を構成する鉄族元素(M
1)に対応する金属成分と、第2触媒粒子を構成する白金族元素(M
2)に対応する金属成分とを含有する溶液であればよく、例えば、鉄族元素(M
1)を含有する金属塩と、白金族元素(M
2)を含有する金属塩とを溶媒に溶解させることにより調製できる。
【0108】
前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させる方法は、特に限定されないが、例えば、後述する第一焼成工程(ステップS3)の前に、粉末状の前駆体材料(A)を撹拌しながら、前駆体材料(A)に金属含有溶液を複数回に分けて少量ずつ添加することが好ましい。また、前駆体材料(A)の細孔内部に金属含有溶液がより浸入し易くなる観点から、前駆体材料(A)に、金属含有溶液を添加する前に予め、添加剤として界面活性剤を添加しておくことが好ましい。このような添加剤は、前駆体材料(A)の外表面を被覆する働きがあり、その後に添加される金属含有溶液が前駆体材料(A)の外表面に付着することを抑制し、金属含有溶液が前駆体材料(A)の細孔内部により浸入し易くなると考えられる。
【0109】
前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量は、前駆体材料(A)に含浸させる金属含有溶液に含まれる鉄族元素(M
1)および白金族元素(M
2)の量(すなわち、前駆体材料(B)に内在させる鉄族元素(M
1)および白金族元素(M
2)の量)を考慮して、適宜調整することが好ましい。例えば、後述する第一焼成工程(ステップS3)の前に前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させる際に、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液に含まれる鉄族元素(M
1)に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M
1)に換算して、好ましくは10〜1000、より好ましくは50〜200の範囲となるように調整することが好ましい。例えば、前駆体材料(A)に金属含有溶液を添加する前に、添加剤として界面活性剤を前駆体材料(A)に添加した場合、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を、原子数比Si/M
1に換算して50〜200とすることで、第1触媒粒子として鉄族元素(M
1)を、触媒構造体に対して合計で0.5質量%以上2.5質量%以下の範囲で含有させることができる。
【0110】
また、第一焼成工程(ステップS3)の前に前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させる際に、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液に含まれる白金族元素(M
2)に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M
2)に換算して、好ましくは10〜1000、より好ましくは50〜200となるように調整することが好ましい。例えば、前駆体材料(A)に金属含有溶液を添加する前に、添加剤として界面活性剤を前駆体材料(A)に添加した場合、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を、原子数比Si/M
2に換算して50〜200とすることで、触媒粒子に含まれる白金族元素(M
2)を、触媒構造体に対して合計で0.1質量%以上2.0質量%以下の範囲で含有させることができる。
【0111】
また、金属含有溶液における、鉄族元素(M
1)の含有量に対する白金族元素(M
2)の含有量の割合(質量比M
2/M
1)が、0.05以上3以下の範囲であることが好ましく、0.1以上2.5以下の範囲であることがより好ましい。
【0112】
前駆体材料(B)の状態で、その細孔内部に存在する鉄族元素(M
1)の量は、金属含有溶液の金属濃度、上記添加剤の有無、その他温度や圧力等の諸条件が同じであれば、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量に概ね比例する。また、前駆体材料(B)に内在する鉄族元素(M
1)の量は、触媒構造体の担体に内在する第1触媒粒子を構成する鉄族元素(M
1)の量と比例関係にある。したがって、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を上記範囲に制御することにより、前駆体材料(A)の細孔内部に金属含有溶液を十分に含浸させることができ、ひいては、触媒構造体の担体に内在させる第1触媒粒子や第2触媒粒子の量を調整することができる。
【0113】
前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させた後は、必要に応じて、洗浄処理を行ってもよい。また、前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させ、必要に応じて洗浄処理を行った後、さらに乾燥処理を施すことが好ましい。
【0114】
(ステップS3:第一焼成工程)
次に、前駆体材料(A)に鉄族元素および白金族元素を含有する金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成して、前駆体材料(C)を得る。
【0115】
第一焼成工程(ステップS3)における焼成処理は、例えば、空気中で、所定の温度範囲内で、2〜30時間の処理条件で行うことが好ましい。焼成処理における所定の温度範囲内は、好ましくは350〜850℃、より好ましくは500〜850℃である。このような焼成処理により、規則性メソ細孔物質の孔内に含浸された金属成分が結晶成長して、孔内で金属含有溶液から金属微粒子や金属酸化物微粒子が形成される。
【0116】
(ステップS4:水熱処理工程)
次いで、前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理して、触媒構造体を得る。より具体的には、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合した混合溶液を調製し、前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理して、触媒構造体を得ることが好ましい。
【0117】
水熱処理は、公知の方法で行うことができ、例えば、密閉容器内で、80℃〜200℃、5時間〜100時間、0〜2000kPaの処理条件で行うことが好ましい。また、水熱処理は、塩基性雰囲気下で行われることが好ましい。このようにして得られた触媒構造体は、多孔質構造の担体と、担体に内在する、上記の鉄族元素を少なくとも含んだ第1触媒粒子と、上記の白金族元素を少なくとも含んだ第2触媒粒子とを備え、さらに、担体はその多孔質構造により複数の孔が互いに連通した通路を有し、第1触媒粒子および第2触媒粒子はその少なくとも一部分が担体の通路に存在している。
【0118】
(ステップS7:還元工程)
本実施形態の触媒構造体の製造方法では、水熱処理工程(ステップS4)で得られた触媒構造体に、還元処理を行う還元工程(ステップS7)を有することが好ましい。還元処理を行うことにより、担体に内在する金属酸化物微粒子が還元され、金属酸化物微粒子を構成する金属元素に対応する金属微粒子が形成される。その結果、金属微粒子が第1触媒粒子として担体に内在する触媒構造体を得ることができる。
【0119】
なお、還元工程(ステップS7)は、必要に応じて行えばよい。例えば、触媒構造体を用いる環境が、少なくとも一時的に還元雰囲気になりうる場合には、還元雰囲気を含む使用環境に一定時間晒すことで金属酸化物微粒子が還元されるため、還元処理した場合と同様の触媒構造体が得られる。
【0120】
[触媒構造体の用途]
本発明の触媒構造体は、特に、第1触媒粒子の酸化や、コークの生成(コーキング)によって、触媒活性が低下する化学反応に好適に用いることができる。
【0121】
その一例として、本発明の触媒構造体1を用いて、メタンと二酸化炭素からドライリフォーミングによって一酸化炭素と水素を合成する、合成ガスの製造方法が提供される。このような触媒としては、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体10と、担体10の通路11に少なくとも存在し、鉄族元素を含む第1触媒粒子20と、担体10の内部および外表面の少なくとも一方に存在し、白金族元素を含有する第2触媒粒子30とを備える触媒構造体1が用いられる。すなわち、本発明では、上述の触媒構造体1を用いて、メタンと二酸化炭素から一酸化炭素と水素を合成する合成ガスの製造方法が提供される。
【0122】
上述の触媒構造体をこの方法に用いることで、ドライリフォーミングの化学反応において、副反応として生成する水に起因する第1触媒粒子20の酸化が抑制されるとともに、第1触媒粒子20でのコークの生成による触媒活性の低下を抑制することができる。
【0123】
また、本発明において、上記触媒構造体や、触媒構造体の前駆体を備える、合成ガス製造装置が提供されていてもよい。このような合成ガス製造装置は、上記触媒構造体を利用してドライリフォーミング反応を進められるものであれば特に限定されるものではない。本発明に係る触媒構造体をこのような合成ガス製造装置に用いることにより、当該合成ガス製造装置も上記と同様の効果を奏することができる。
【0124】
以上、本発明の実施形態に係る合成ガス製造用触媒構造体、合成ガス製造装置および合成ガス製造用触媒構造体の製造方法について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【実施例】
【0125】
(実施例1〜4)
[前駆体材料(A)の合成]
シリカ剤(テトラエトキシシラン(TEOS)、和光純薬工業株式会社製)と、鋳型剤(構造規定剤)であるヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)(和光純薬工業株式会社製)とを混合した混合水溶液を作製し、適宜pH調整を行い、密閉容器内で、80〜350℃、100時間、水熱処理を行った。その後、生成した沈殿物をろ別し、水およびエタノールで洗浄し、さらに600℃、24時間、空気中で焼成して、表1に示される種類および孔径の前駆体材料(A)を得た(準備工程:ステップS1)。
【0126】
[前駆体材料(B)および(C)の作製]
次に、鉄族元素を含有する金属塩である硝酸ニッケル(II)六水和物(和光純薬工業株式会社製)を、水に溶解させて、鉄族元素含有溶液を調製した。
【0127】
この前駆体材料(A)に対して、添加剤(非イオン性界面活性剤)としてのポリオキシエチレン(15)オレイルエーテル(NIKKOL BO−15V、日光ケミカルズ株式会社製)の水溶液を添加する前処理を行った後、粉末状の前駆体材料(A)に、鉄族元素含有水溶液を複数回に分けて少量ずつ添加して含浸させ(第一含浸工程:ステップS2)、室温(20℃±10℃)で12時間以上乾燥させて、前駆体材料(B)を得た。
【0128】
ここで、前駆体材料(A)に添加する鉄族元素含有水溶液の添加量は、鉄族元素含有水溶液における鉄族元素(M
1)の含有量に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の含有量の比(原子数比Si/M
1)に換算したときの数値が100になるように調整した。
【0129】
次に、上記のようにして得られた金属含有水溶液を含浸させた前駆体材料(B)を、550℃で24時間にわたり空気中で焼成を行って(第一焼成工程:ステップS3)、前駆体材料(C)を得た。
【0130】
[前駆体材料(D)の作製]
上記のようにして得られた前駆体材料(C)と、構造規定剤であるテトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr)とを混合して混合水溶液を作製し、密閉容器内で、120〜150℃、72時間にわたり前駆体材料(C)の水熱処理を行った(水熱処理工程:ステップS4)。
【0131】
その後、生成した沈殿物をろ別し、水洗し、100℃で12時間以上乾燥させ、さらに550℃で24時間にわたり空気中で焼成し、前駆体材料(D)を得た。
【0132】
[前駆体材料(D)への白金族元素の担持]
次に、表1に示される種類の第2触媒粒子を構成する金属組成に応じて、白金族元素を含有する金属塩を、水に溶解させて、白金族元素含有水溶液を調製した。このとき、金属塩は、以下の何れかを使用した。
・Pt(NH
3)
4(NO
3)
2:硝酸テトラアンミン白金(II)(シグマアルドリッチ社製、型番:278726)
・H
2Cl
6Pt・6H
2O:ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(富士フィルム和光純薬社製、型番:089−05311)
【0133】
前駆体材料(D)に対して、白金族元素含有水溶液を複数回に分けて少量ずつ添加して含浸させることで(第二含浸工程:ステップS5)、白金族元素を担持させた。次いで、100℃の乾燥温度で2時間にわたり乾燥処理を施した。
【0134】
ここで、第二含浸工程で前駆体材料(D)に添加する白金族元素含有水溶液の添加量は、白金属元素(M
2)の担持量が、触媒構造体に対して0.1質量%以上2.0質量%以下の範囲になるように、白金族元素含有水溶液の濃度を調整した。
【0135】
次に、上記のように白金族元素含有水溶液を含浸させた前駆体材料(D)を、450℃で3時間にわたり、空気中で焼成を行って触媒構造体を得た(第二焼成工程:ステップS6)(実施例1〜4)。
【0136】
(実施例5)
実施例5では、鉄族元素を含有する金属塩である硝酸ニッケル(II)六水和物と、白金族元素を含有する金属塩である硝酸テトラアンミン白金(II)を、水に溶解させて、金属含有溶液を調製した。次いで、実施例1で用いたものと同様の、前処理を行った後の粉末状の前駆体材料(A)に、金属含有溶液を複数回に分けて少量ずつ添加して含浸させ(第一含浸工程:ステップS2)、室温(20℃±10℃)で12時間以上乾燥させて、前駆体材料(B)を得た。
【0137】
ここで、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量は、金属含有溶液における鉄族元素(M
1)の含有量に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の含有量の比(原子数比Si/M
1)に換算したときの数値が100になるように調整した。このとき、白金属元素(M
2)の担持量が、触媒構造体に対して0.1質量%以上2.0質量%以下の範囲になるようにした。
【0138】
次に、上記のようにして得られた金属含有水溶液を含浸させた前駆体材料(B)を、550℃で24時間にわたり空気中で焼成を行って(第一焼成工程:ステップS3)、前駆体材料(C)を得た。
【0139】
上記のようにして得られた前駆体材料(C)と、構造規定剤であるテトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr)とを混合して混合水溶液を作製し、密閉容器内で、120〜150℃、72時間にわたり前駆体材料(C)の水熱処理を行った(水熱処理工程:ステップS4)。
【0140】
その後、生成した沈殿物をろ別し、水洗し、100℃で12時間以上乾燥させ、さらに550℃で24時間にわたり空気中で焼成して触媒構造体を得た。
【0141】
(比較例1)
比較例1として、実施例1の前駆体材料(D)を用いた。すなわち、比較例1では、白金族元素含有水溶液を含浸させる前の前駆体材料(D)を、触媒構造体として用いた。
【0142】
(比較例2〜3)
比較例2〜3では、市販のMFI(ZSM−5)型ゼオライト(東ソー株式会社製、型番:890HOA)上に、白金族元素を含有する第2触媒粒子のみを担持させた。
【0143】
ここで、表1に示される種類の第2触媒粒子を構成する金属組成に応じて、白金族元素を含有する金属塩を、水に溶解させて、白金族元素含有水溶液を調製した。このとき、金属塩は、以下の何れかを使用した。
・Pt(NH
3)
4(NO
3)
2:硝酸テトラアンミン白金(II)(シグマアルドリッチ社製、型番:278726)
・H
2Cl
6Pt・6H
2O:ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(富士フィルム和光純薬社製、型番:089−05311)
【0144】
上述の市販のゼオライトに対して、白金族元素含有水溶液を複数回に分けて少量ずつ添加して含浸させることで、白金族元素をゼオライトに担持させた。次いで、100℃の乾燥温度で2時間にわたり乾燥処理を施した。
【0145】
ここで、ゼオライトに添加する白金族元素含有水溶液の添加量は、白金属元素(M
2)の担持量が、得られる触媒構造体に対して0.1質量%以上2.0質量%以下の範囲になるように、白金族元素含有水溶液の濃度を調整した。
【0146】
次に、上記のように白金族元素含有水溶液を含浸させゼオライトを、450℃で3時間にわたり、空気中で焼成を行って触媒構造体を得た。
【0147】
[評価]
上記実施例および比較例1の触媒構造体について、以下に示す[A]〜[G]の評価を行った。このうち、[A]〜[F]の評価の結果を、表1に示す。
【0148】
[A]担体(ゼオライト系化合物)の構造と、通路の平均内径
上記実施例および比較例の触媒構造体について、XRD(Bruker社製、D8 ADVANCE)を用いて構造を評価した。その結果、上記実施例および比較例の触媒構造体はすべて、The International Centre for Diffraction Data(ICDD)の粉末X線回折データベースPDF−2に登録されている、MFI型ゼオライトのピークパターンと一致した。
【0149】
[B]第1触媒粒子の存在位置と粒径
上記実施例1〜4で作製した前駆体材料(D)(水熱処理工程(ステップS4)までを行った試料)と、実施例5および比較例1で作製した触媒構造体と、比較例2〜3で用いたゼオライトについて、粉砕法にて観察試料を作製し、透過電子顕微鏡(TEM)(TITAN G2、FEI社製)を用いて、断面観察を行った。その結果、上記実施例1〜5および比較例1の触媒構造体では、ゼオライトからなる担体の内部に金属微粒子が内在し、保持されていることが確認された。
【0150】
上記実施例1〜4で作製した前駆体材料(D)(水熱処理工程(ステップS4までを行った試料)と、実施例5および比較例1で作製した触媒構造体と、比較例2〜3で用いたゼオライトについて、FIB(集束イオンビーム)加工により断面を切り出し、SEM(SU8020、日立ハイテクノロジーズ社製)およびEDX(X−Max、堀場製作所製)を用いて断面元素分析を行った。その結果、上記実施例1〜5および比較例1の触媒構造体について、担体内部から鉄族元素であるニッケル(Ni)元素が検出された。他方で、比較例2〜3の触媒構造体については、担体内部から鉄族元素は検出されなかった。上記TEMとSEM/EDXによる断面観察の結果から、上記実施例および比較例1の触媒構造体では、担体内部に、鉄族元素を含む第1触媒粒子として、ニッケル(Ni)微粒子が存在していることが確認された。
【0151】
また、上記実施例1〜4で作製した前駆体材料(D)(水熱処理工程(ステップS4)までを行った試料)と、比較例1で作製した触媒構造体と、比較例2〜3で用いたゼオライトについて、担体の内部に存在している第1触媒粒子の平均粒径及び分散状態を確認するため、SAXS(小角X線散乱)を用いて分析した。SAXSによる測定は、Spring−8のビームラインBL19B2を用いて行った。得られたSAXSデータは、Guinier近似法により球形モデルでフィッティングを行い、第1触媒粒子の平均粒径D
C1を算出した。その結果、上記実施例1〜4および比較例1の触媒構造体では、担体内部にある第1触媒粒子の粒径が2〜5nmと揃っており、かつ非常に高い分散状態で存在していることが分かった。
【0152】
なお、実施例5については、後述するように、第1触媒粒子に加えて第2触媒粒子が担体の内部に存在しており、これらの粒子を区別して粒径を測定することが困難であったため、第1触媒粒子の平均粒径D
C1の測定は行っていない。
【0153】
[C]第2触媒粒子の存在位置と粒径
上記実施例1〜5および比較例2〜3の触媒構造体について、担体の外表面に存在している第2触媒粒子の平均粒径D
C2’を確認するため、SEM(SU8020、日立ハイテクノロジーズ社製)で評価した。その結果、上記実施例1〜4および比較例2〜3の触媒構造体については、担体の外表面に粒子の存在が認められた。また、担体の外表面に存在する粒子について、EDX(X−Max、堀場製作所製)により元素分析を行ったところ、白金族元素である白金(Pt)元素が検出された。したがって、上記実施例1〜4および比較例2〜3の触媒構造体については、担体の外表面に第2触媒粒子が存在していることを確認した。他方で、実施例5の触媒構造体については、担体の外表面での第2触媒粒子の存在は確認できなかった。
【0154】
このうち、上記実施例1〜4および比較例2〜3の触媒構造体については、SEM観察で確認された、担体の外表面にある第2金属粒子を任意に100〜300個選択し、それぞれの長径および短径を測定し、その平均値からそれぞれの粒径を算出し(N=100〜300)、さらに粒径の数平均値を求めて、担体の外表面にある第2触媒粒子の平均粒径D
C2’を算出した。その結果、上記実施例1〜4および比較例2〜3の触媒構造体では、担体の外表面にある第2触媒粒子の平均粒径D
C2’が、10nm以上50nm以下の範囲内にあることが分かった。
【0155】
また、上記実施例5の触媒構造体については、上述のSEM/EDXによる断面観察の結果において、担体の内部から白金族元素である白金(Pt)元素が検出された。そのため、上記実施例5の触媒構造体については、担体の内部に第2触媒粒子が存在していることが確認された。
【0156】
なお、実施例5については、担体の内部にある第2触媒粒子と、第1触媒粒子とを区別して粒径を測定することが困難であったため、第2触媒粒子の平均粒径の測定は行っていない。
【0157】
[D]触媒構造体における第1触媒粒子と第2触媒粒子の含有量
上記実施例および比較例の触媒構造体について、鉄族元素および白金族元素の含有量(質量%)を測定した。ここで、鉄族元素および白金族元素の含有量の定量は、ICP(高周波誘導結合プラズマ)単体か、或いはICPとXRF(蛍光X線分析)を組み合わせて行った。XRF(エネルギー分散型蛍光X線分析装置「SEA1200VX」、エスエスアイ・ナノテクノロジー社製)は、真空雰囲気、加速電圧15kV(Crフィルター使用)或いは加速電圧50kV(Pbフィルター使用)の条件で行った。XRFは、金属の存在量を蛍光強度で算出する方法であり、XRF単体では定量値(質量%換算)を算出できない。そこで、上記実施例および比較例の触媒構造体における鉄族元素および白金族元素の含有量は、ICP分析と組み合わせることで定量した。
【0158】
[E]触媒寿命の評価
長時間にわたって優れた触媒活性を維持することに関する評価の一例として、ドライリフォーミングにおける触媒寿命を、以下の条件で評価した。
【0159】
上記実施例および比較例の触媒構造体を、それぞれ常圧流通式反応装置に140mg充填して触媒層を形成し、水素ガスを供給しながら、700℃で90分間にわたり、還元処理を施した。
【0160】
その後、700℃の温度を維持したまま、原料ガスとして、二酸化炭素(5ml/分)とメタン(5ml/分)の混合ガス(CH
4/CO
2比=1.0)を、GHSV2200h
−1で供給し、表1に記載される反応時間にわたり、触媒構造体を用いた触媒反応(ドライリフォーミング反応)を進めた。このとき、触媒反応を開始してから1時間後に、反応装置の出口における合成ガスの流速を計測するとともに、回収した合成ガスについて、FID(水素炎イオン化検出器、株式会社島津製作所製、製品名:GC−14B)およびTCD(熱伝導度型検出器、株式会社島津製作所製、製品名:GC−8A)を用いて、含まれる成分を分析した。そして、計測された合成ガスの流速と、FIDおよびTCDによる分析結果から、合成ガスに含まれるメタン(CH
4)の含有量を求め、以下の式(I)からCH
4転化率を算出した。
CH
4転化率[%]=出口ガス中のCH
4量[cm
3/h]/入口ガス中のCH
4量[cm
3/h]×100 ・・式(I)
【0161】
上記実施例および比較例のうち、ドライリフォーミング反応が進行した実施例1〜5および比較例1の触媒構造体については、CH
4転化率の算出を、上記と同じ手順で、触媒反応を開始してから1時間が経過した後も行い、触媒反応を開始してからの時間(反応時間(h))と、CH
4転化率(メタン転化率)[%]の関係について評価した。
【0162】
[F]コーキングによる触媒反応への影響
上記実施例および比較例の触媒構造体を用いて、表1に記載される時間にわたり、触媒構造体を用いた触媒反応(ドライリフォーミング反応)を進めた際の、コーキングによる触媒反応への支障の有無について評価した。
【0163】
このとき、反応ガスを供給する反応管が、コーキングによって閉塞せず試験が続行した場合を、コーキング(炭素生成)が少ないとして「〇」判定とし、コーキングによって反応管が閉塞し、原料ガスの供給が不可能になった場合を、コーキングが多いとして「×」判定とした。
【0164】
[G]触媒寿命に関する加速試験
一般に、ドライリフォーミング反応は、原料ガスにおける二酸化炭素の流量に対するメタンの流量の比(CH
4/CO
2比)が増大するほど、コーキングが発生しやすくなるといわれている。そこで、触媒反応を進めている途中でCH
4/CO
2比を増加させることで、触媒構造体の耐久性(寿命)について、加速試験を行った。
【0165】
上記実施例2の触媒構造体を、常圧流通式反応装置に1g充填し、水素ガスを供給しながら、700℃で90分間にわたり、還元処理を施した。
【0166】
その後、700℃の温度を維持したまま、二酸化炭素とメタンの混合ガスを、上記[E]よりも小さい空間速度であるGHSV320h
−1で供給し、触媒構造体を用いた触媒反応(ドライリフォーミング反応)を進めた。ここで、触媒反応を開始してから60日間は、二酸化炭素の供給量を5ml/分、メタンの供給量を5ml/分とし(CH
4/CO
2比=1.0)、反応開始から60日間を経過した後は、二酸化炭素の供給量を4ml/分、メタンの供給量を6ml/分とし(CH
4/CO
2比=1.5)として、CH
4/CO
2比を増加させた。
【0167】
触媒反応を開始してから半日〜数日ごとに、反応装置の出口における合成ガスの流速を計測するとともに、回収した合成ガスについて、FID(水素炎イオン化検出器、株式会社島津製作所製、製品名:GC−14B)およびTCD(熱伝導度型検出器、株式会社島津製作所製、製品名:GC−8A)を用いて、含まれる成分を分析した。そして、計測された合成ガスの流速と、FIDおよびTCDによる分析結果から、合成ガスに含まれるメタン(CH
4)の含有量を求め、以下の式(I)からCH
4転化率を算出した。
CH
4転化率[%]
=出口ガス中のCH
4量[cm
3/h]/入口ガス中のCH
4量[cm
3/h]×100 ・・式(I)
【0168】
また、得られたCH
4転化率の値と、理論的に求められるCH4平衡転化率の値(CH
4/CO
2比=1.0のときのCH
4平衡転化率は約73%、CH
4/CO
2比=1.5のときのCH
4平衡転化率は約59%)から、以下の式(II)によりCH
4平衡到達率を算出した。
CH
4平衡到達率[%]
=CH
4転化率[%]/CH
4平衡転化率[%]×100 ・・式(II)
【0169】
そして、触媒反応を開始してからの日数(反応日数(day))を横軸に、CH
4平衡到達率[%]を縦軸にして、それらの関係を示すグラフを得た。得られたグラフを、
図7に示す。
【0170】
【表1】
【0171】
表1から明らかなように、断面観察により、担体の内部に鉄族元素を含む第1触媒粒子が保持され、かつ担体の内部または外表面に白金族元素を含む第2触媒粒子が保持されていることが確認された触媒構造体(実施例1〜5)は、担体の内部に第1触媒粒子を保持していない触媒構造体(比較例2〜3)と比較して、ドライリフォーミング反応において、初期の段階で優れた触媒活性を示した。また、実施例1〜5において作製された触媒構造体は、担体の内部または外表面に第2触媒粒子を保持していない触媒構造体(比較例1)と比べて、触媒反応を開始してから約1日が経過した後の触媒活性においても優れており、触媒活性の維持においても優れていることが分かった。
【0172】
また、実施例1〜5の触媒構造体は、ドライリフォーミング反応を行った後におけるコーキングの発生も少ないため、このことからも触媒としての耐久性に優れていることが分かった。他方で、比較例1の触媒構造体は、コーキングの発生が抑制されていたにも関わらず、実施例1〜5の触媒構造体よりも短時間でメタン転化率が低下した。そのため、実施例1〜5の触媒構造体では、コーキング以外の原因による触媒活性の低下を抑制することで、比較例1の触媒構造体と比べて、より長時間にわたって優れた触媒活性を維持することができることが分かった。
【0173】
さらに、実施例2において作製された触媒構造体は、原料ガスにおけるCH
4/CO
2比を増加させて加速試験を行った場合であっても、触媒反応を開始してから65日が経過した後でも高いCH
4平衡到達率を有しており、触媒としての耐久性が特に優れていることが分かった。
【0174】
上記結果より、実施例1〜4の触媒構造体は、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを効率良く製造することができるとともに、より長時間にわたって優れた触媒活性を維持することができると推察される。
【0175】
さらに、上述の「[F]コーキングによる触媒反応への影響」では、表1に記載に時間にわたって反応試験が継続できるか否かの観点で「〇」評価をしているため、コーキングが微量ながら発生している可能性もある。コーキングが発生している場合は、より長時間にわたる触媒活性の維持に影響する可能性がある。そこで、長時間にわたる触媒活性の維持を予測するため、より詳細に、各実施例におけるコークの発生量を分析した。その結果を表2に示す。実施例2と実施例4の触媒構造体では、コークの発生量に顕著な差があった。また、実施例2の触媒構造体は、第2触媒粒子の平均粒径が47nmであり、実施例4の触媒構造体は、第2触媒粒子の平均粒径が13nmであることから、第2金属粒子径が小さくなると、コーキングが誘発されることが推察される。また、長時間にわたって触媒活性を維持するには、第2金属粒子径が40nm以上であることが好ましいと考えられる。
【0176】
【表2】