【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果最適展開支援プログラム(A−STEP)「微細藻類からのカロテノイド色素の生産技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【解決手段】上記課題を解決するための本発明は、藻類株を赤色強光条件で培養し、生育してくる細胞を取得する工程を含む、カロテノイド高蓄積株の選抜方法である。また、上記藻類株は、突然変異導入株であること、特に常温常圧プラズマ照射により突然変異を導入された株であることが好ましい。
カロテノイド高蓄積変異株である、受託番号FERM BP−22377のクラミドモナス・レインハーディKHR−001(Chlamydomonas reinhardtii KHR−001)株。
カロテノイド高蓄積変異株である、受託番号FERM BP−22378のクラミドモナス・レインハーディKHR−002(Chlamydomonas reinhardtii KHR−002)株。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のカロテノイド高蓄積株の選抜方法について詳細に説明する。なお、本明細書における分子生物学的実験は、特に明記しない限り、当業者に公知の一般的実験書に記載の方法又はそれに準じた方法により行うことができる。また、本明細書中で使用される用語は、特に言及しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味で解釈される。
【0011】
<カロテノイド高蓄積株の選抜方法>
本発明のカロテノイド高蓄積株の選抜方法は、藻株を赤色強光条件で培養し、生育してくる細胞を取得する工程を含むことを特徴とする。本発明者らは、赤色光が、微細藻類細胞が含むクロロフィルに吸収されやすく光酸化ストレスを強く誘発すること、微細藻類細胞に含まれるルテイン等のカロテノイド類は抗酸化作用を有しており、酸化ストレスの低減に寄与できること、に着目し、親株が正常に増殖できない程度の強い赤色光下でも正常に増殖できる細胞を選別してくることで、カロテノイドを高蓄積する藻株を得ることができる、という仮説の下、本研究を行った。その結果、ランダムに突然変異を導入した細胞集団(変異体ライブラリ)を、赤色強光条件で培養し、生育してくる細胞を取得する工程を含む方法により、ルテイン生産量の多い藻株を選抜して獲得することに成功し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明のカロテノイド高蓄積株の選抜方法は、藻株を赤色強光条件で培養し、生育してくる細胞を取得する工程を含む。本発明の方法においては、様々な藻類の混合液からカロテノイド含有率の高い細胞を選抜して取得してもよいし、或いは親株にランダムな突然変異を導入して得られた変異体ライブラリから、カロテノイド含有率の高い細胞を選抜して取得してもよい。なお、突然変異の導入方法は限定されないが、例えば、常温常圧プラズマ照射による方法、イオンビーム照射による方法、変異原となる薬剤処理を行う方法等が挙げられるが、変異導入効率の観点から、常温常圧プラズマ照射による方法、イオンビームによる方法が好ましく、特に利便性の観点から、常温常圧プラズマ照射による方法がより好ましい。いずれにしても、本発明の方法によると、赤色強光条件下でも生育可能な藻類細胞を選抜してくることにより、効率よく、カロテノイド含有率の高い藻株を取得することができる。
【0013】
本発明において「赤色強光条件」とは、微細藻類の培養の際に、特定波長域の赤色光を特定の強度で照射する条件をいう。ここで、特定波長域の赤色光とは、最大ピーク波長を600nm〜780nmの範囲に有する光をいい、最大ピーク波長を600nm〜750nmの範囲に有する光であることが好ましく、最大ピーク波長を620nm〜700nmの範囲に有する光であることがより好ましく、最大ピーク波長を640nm〜695nmの範囲に有する光であることがさらに好ましい。また、赤色光の特定の強度とは、藻類細胞の種類や、細胞密度により異なるが、目安として、上記赤色光照射下での細胞選抜において、生育可能な藻類細胞の増殖が目視で確認できるまでに7日以上を要する程度の光強度をいい、例えば、100〜10,000μmоl photons/m
2/secであり、200〜5,000μmоl photons/m
2/secであることが好ましく、300〜3,000μmоl photons/m
2/secであることがより好ましく、500〜2,000μmоl photons/m
2/secであることがさらに好ましく、800〜1,500μmоl photons/m
2/secであることが特に好ましい。なお、上記数値範囲の光量子密度の光の割合が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0014】
本発明において、藻類とは、水中生活をする同化色素を有する単細胞植物の総称であり、ミドリムシ植物(ユーグレナ藻)、黄色植物(珪藻類を含む)、ハプト藻、黄褐色植物、藍藻植物、褐藻植物、緑藻植物(車軸藻類を含む)及び紅藻植物が含まれる。カロテノイドを高い効率で産生可能であるという観点から、本発明においては、緑藻植物に属するクラミドモナス(Chlamydomonas)属の藻類、クロレラ(Chlorella)属の藻類が好ましく、クラミドモナス(Chlamydomonas)属の藻類がより好ましい。
【0015】
クラミドモナスは、緑藻綱クラミドモナス目(若しくはオオヒゲマワリ目)に属する単細胞の鞭毛虫からなる属である。クラミドモナスの多くは淡水産であるが、海水中に生育するものもある。
【0016】
本発明において、カロテノイドとは、微細藻類が含むカロテノイドであれば特に限定されないが、例えばルテイン、β−カロテン、ビオラキサンチン、ネオキサンチン、プラシノキサンチン、ロロキサンチン、シフォナキサンチン、ゼアキサンチン、アンテラキサンチン、アロキサンチン、ジアジノキサンチン、α−カロテン、ペリジニン、フコキサンチン、γ−カロテン、δ−カロテン、カンタキサンチン、アスタキサンチン、リコペン等があげられる。これらのうち、緑藻類が含むカロテノイドであるルテイン、β−カロテン、ビオラキサンチン、ネオキサンチン、ロロキサンチン、シフォナキサンチン、アスタキサンチン、リコペンが好ましく、ルテイン、β−カロテンがより好ましく、ルテインがさらに好ましい。
【0017】
以下に、具体的に、本発明のカロテノイド高蓄積株の選抜法について説明する。即ち、本発明のカロテノイド高蓄積株の選抜方法は、微細藻類を赤色強光条件で培養し、生育してくる細胞を取得する工程を含む方法であるが、本発明の効果を優れたものとする観点から、その他の工程をさらに含んでもよい。
【0018】
本発明のカロテノイド高蓄積株の選抜方法は、(A)微細藻類にランダムな突然変異を導入する工程、(B)上記(A)工程により得られた変異体ライブラリを、赤色強光条件で選抜培養し、生育してくる細胞を取得する工程、(C)赤色強光条件下で生育可能な藻株をクローニングする工程、(D)上記(C)工程により得られた藻株の中から、カロテノイド産生量のより多い藻株を選定する工程を含むことができる。また、本発明においては、上記で得られた藻株に、さらに上記(A)〜(D)工程を繰り返し、変異株を分離・選抜してもよい。本発明の方法によると、カロテノイド産生量のより多い藻株を効率よく取得することができる。
【0019】
((A)微細藻類にランダムな突然変異を導入する工程)
本工程においては、微細藻類の細胞集団に対して、突然変異を導入するが、その導入方法は限定されず、当業者に公知の種々の方法を用いることができる。例えば、常温常圧プラズマ照射による方法、イオンビーム照射による方法、変異原となる薬剤処理を行う方法等を挙げることができるが、本発明の方法においては、変異導入効率の観点から、プラズマ照射による方法、イオンビーム照射による方法が好ましく、利便性の観点から、特に常温常圧プラズマ照射による方法がより好ましい。常温常圧プラズマ照射による方法においては、例えば、Wuxi TMAXTREE Biotechnology社製のプラズマ照射装置、ARTP Mutagenesis Breeding Machine (Model:ARTP−IIS)等を使用することができる。具体的には、培養液20μLを専用金属板に塗布し、120W、ヘリウム10.00 SLM(standard liter per minute)の設定にて30−40秒間常温常圧プラズマを照射する。突然変異導入後は、数日間の回復培養後、得られた細胞集団を変異体ライブラリとし、後述するスクリーニングを行うことができる。なお、上記回復培養は、例えば、適切な光強度の昼白色蛍光灯等の条件下で3日間以上静置することにより行われる。
【0020】
((B)上記(A)工程により得られた変異体ライブラリを、赤色強光条件で培養し、生育してくる細胞を選抜する工程;一次スクリーニング)
本工程においては、上記(A)工程において得られた変異体ライブラリを、上述した赤色強光条件にて培養する。培養は、1%〜5%CO
2条件、好ましくは1.5%〜2.5%CO
2条件、より好ましくは2%CO
2条件で、15℃〜40℃、好ましくは20℃〜35℃、より好ましくは25℃〜30℃の条件で、フラスコ等の培養器中、HSM培地等に懸濁し、上述の赤色強光条件下(波長600nm〜780nm、600nm〜750nm、630nm〜700nm、640nm〜695nmの赤色光を、100〜10,000μmоl photons/m
2/sec、200〜5,000μmоl photons/m
2/sec、300〜3,000μmоl photons/m
2/sec、500〜2,000μmоl photons/m
2/sec、800〜1,500μmоl photons/m
2/sec、又は1,200μmоl photons/m
2/secの強度で)、細胞の増殖が見られるまで培養を行う。通常、培養期間は最長14日間程度であり、通常5日〜14日間程度の培養を行う。この工程によると、細胞内に一重項酸素が多く発生する赤色強光条件でも生育できる細胞、即ち、抗酸化作用の強いカロテノイドの含有量が高い細胞を取得することができる。
【0021】
本発明に用いる培養方法としては、振盪培養法、深部通気撹拌培養法、静置培養法等を用いることができる。なお、振盪培養は、往復振盪であっても回転振盪であってもよい。
【0022】
上記培養に用いられる培地としては、クラミドモナス属に属する藻類が生育する可能な培地であれば特に制限はないが、例えば、基礎培地としては、従来公知のTAP培地、HSM培地、BG−11培地、BBM培地等が挙げられ、本工程における培養には、HSM培地を用いることが好ましい。
【0023】
((C)赤色強光条件下で生育可能な藻株をクローニングする工程)
本工程では、上記(B)工程により取得された赤色強光条件でも生育可能な細胞を、当業者に従来公知の方法によりクローニングする。具体的な方法としては、例えば、上記(B)工程で取得された細胞を寒天プレートに播種してクローン化する方法が挙げられる。具体的には、例えば、光強度50〜100μmol photons/m
2/sec程度の昼白色蛍光灯下でコロニーを形成するまで静置培養する。寒天プレート上に形成されるコロニーを単一クローンとして複数ピックアップして、拡大培養を行い、必要に応じてそれぞれ一部を凍結保存してもよい。
【0024】
((D)上記(C)工程により得られた藻株の中から、カロテノイド産生量のより多い藻株を選定する工程;二次スクリーニング)
本工程においては、上記(C)工程により得られた藻株の中から、カロテノイド産生量のより多い藻株を選定する。上記(C)工程で得られる藻株は、赤色強光条件下で生育可能な藻株であるが、全てがカロテノイド産生量の多い藻株であるとは限らない。そこで、それらの中から、カロテノイド産生量のより多い藻株を選定するために、各藻株を培養し、得られた細胞中のカロテノイド含有量を測定して比較する。この時の培養方法は、上記(B)工程における培養方法と同様に行うことができるが、多くの藻株を同時に培養して比較することから、各培養のスケールはマイクロプレート等での培養とし、光照射の条件は、生育に適した白色光等50〜100μmоl photons/m
2/sec程度の強度とする等の点は(B)工程での培養とは異なる。なお、この培養は生育に適していれば良いため、光の種類は白色光に限定されず、各波長のLED等を組合せて使用してもよい。
【0025】
細胞のカロテノイド量の定量方法は特に限定されないが、例えば、以下のような当業者に公知の方法により行うことができる。即ち、得られた各藻株の細胞をマイクロチューブに必要量回収し、蒸留水等で洗浄してから凍結乾燥する。得られた乾燥細胞約5mgを破砕専用マイクロチューブに秤量し、ガラスビーズ300μLとアセトン:メタノール=1:1混合液500μLを添加する。細胞の破砕はマルチビーズショッカーを用いて、2,700rpm、4℃,60sec ON+60sec OFF条件で30回処理の条件で行う。破砕液を遠心分離(10,000×g,2min,4℃)し、上清を新しいマイクロチューブに回収する。破砕専用マイクロチューブに残った沈殿物にアセトン:メタノール=1:1混合溶液500μLを加え、もう一度遠心分離操作(10,000×g,2min,4℃)により上清を回収する。この抽出操作を計4回行い、破砕液上清を計2,000μL回収する。破砕液上清のうち330μLを新しいマイクロチューブに移し、遠心エバポレーターを用いて終夜乾固する。乾固物を50μLのクロロホルムに再溶解し、425μLのクロロホルム:アセトニトリル=2:8混合液及び25μLの20μMトランス−β−アポ−8’−カロテナール(内部標準)を添加する。これを専用ガラスバイアルに100μL移し、超高速高分離液体クロマトグラフィー/フォトダイオードアレイ検出器(ultra−performance liquid chromatography/photo−diode−array、UPLC/PDA)による定量分析に供する。分析条件としては、例えば下記の条件を採用することができる。濃度既知の標準品を同条件で分析し、保持時間、波長445nmにおける吸収スペクトル、ピークエリア値を指標として同定と定量を行なうことができる。
【0026】
分析条件(UPLC/PDA)
Mobile phase A:MeOH:H
2O=1:1(v/v)
B:AcCN
Gradient Time(min) %A %B
0 50 50
9 0 100
Column
BEH shield RP18(1.7μm,2.1mm×100mm)
Flow rate 0.6mL/min
Column temp. 30℃
Detector PDA(445nm)
【0027】
この工程において、カロテノイド含有量がより多いカロテノイド高蓄積株候補を複数選定することができる。さらに、これらの複数のカロテノイド高蓄積株候補を二段式フラスコ等で拡大培養し、同様に得られた細胞のカロテノイド含有量を測定、比較して、これらの中からカロテノイドを高蓄積する藻株をさらに選定することができる(三次スクリーニング)。
【0028】
<カロテノイド高蓄積株>
本発明におけるカロテノイド高蓄積株は、上述した本発明の選抜方法により得られた藻株であり、好ましくは、従来の藻類に対するランダムな突然変異誘発と、赤色強光照射による選抜を組合せた育種を実施して得られたカロテノイド高蓄積変異株である。このような選抜育種において、親株として使用できる従来の藻類としては、上述したとおり、緑藻植物に属するクラミドモナス(Chlamydomonas)属の藻類が好ましい。なお、クラミドモナス(Chlamydomonas)属の藻類は、Chlamydomonas Resource Center(https://www.chlamycollection.org)等から入手可能である。
【0029】
本発明のカロテノイド高蓄積変異株の形態的な特徴は以下のとおりである。
【0030】
形態的性質
(1)栄養型細胞は、楕円形であり、大きさは、約10μmである。栄養型細胞において、細胞長の約等倍の鞭毛を2本有する。栄養型細胞は、運動性を有する。
(2)栄養型細胞は外囲を細胞壁に囲まれ、内部に核、葉緑体が一個存在し、その他、ミトコンドリア、ゴルジ体、液胞、デンプン粒、油滴等が認められる。葉緑体内の基底部にピレノイドを有する。
(3)液体培地中および寒天培地上において、細胞が大きな凝集塊を形成しやすい傾向がある。
【0031】
生殖様式
(1)内生胞子は栄養細胞内に二〜八個形成され、細胞内に均等に分布する。内生胞子はその細胞内に核、葉緑体を一個有する。
(2)二分裂による増殖も行う。
【0032】
生理学・生化学性状
(1)培養液:淡水培地中で生育できる。
(2)光合成能:光合成による光独立栄養生育ができる。
(3)含有色素:クロロフィルa、クロロフィルb、及びカロテノイド類
(4)同化貯蔵物質:デンプン、油脂
(5)生育温度域:15℃〜35℃(至適温度25℃)
(6)生育pH域:pH6.0〜10.0(至適pHは7.0)
【0033】
バイオマス量
本発明において、バイオマス量は、細胞の乾燥重量を指標として算出することができる。バイオマス量の測定は、当業者に公知の方法により行うことができ、その方法は限定されないが、例えば以下のように行うことができる。即ち、本発明のカロテノイド高蓄積変異株の細胞を秤量済みマイクロチューブに必要量回収し、蒸留水で洗浄してから終夜凍結乾燥する。乾燥後、再度マイクロチューブの重量を測定し、空のマイクロチューブ重量を減算することで回収した藻体の乾燥重量(mg)を求める。さらにこれを測定に使用した培養液量で除算することで培養液中に含まれるバイオマス量(g/L)を算出することができる。秤量後、乾燥藻体は、カロテノイド等の測定に用いることができる。
【0034】
カロテノイド含有量
本発明のカロテノイド高蓄積変異株は、カロテノイド(ルテイン)の含有率、生産量、生産速度が、親株に比較して、大幅に向上している。このような本発明のカロテノイド高蓄積変異株は、赤色強光照射により生じる一重項酸素を、細胞内に高蓄積したルテイン等により野生株よりも多く消去することで、赤色強光条件下でも生育することができると考えられる。ルテインの含有量は、培養2日〜7日の細胞において、カロテノイド高蓄積変異株の乾燥重量当たり1.8mg/g−DCW〜10mg/g−DCWであり、2.0mg/g−DCW〜8mg/g−DCWであることが好ましく、2.5mg/g−DCW〜6mg/g−DCWであることがより好ましい。また、培養液当たりのルテイン生産量は、培養2日〜7日の細胞において、1.5mg/L〜20mg/Lであり、2.0mg/L〜15mg/Lであることが好ましく、2.5mg/L〜12mg/Lであることがより好ましい。さらに、ルテイン生産速度は、培養2日〜7日の細胞において、0.6mg/L/day〜5mg/Lであり、0.8mg/L〜4.0mg/Lであることが好ましく、1.0mg/L〜3.0mg/Lであることがより好ましい。なお、本発明において、カロテノイド(ルテイン)の定量は、カロテノイド高蓄積株の選抜方法の項に記載した方法により行うことができる。
【0035】
上述したようなカロテノイド高蓄積変異株としては、2019年7月18日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構にブタペスト条約の規定下で寄託申請を行い、受領番号FERM ABP−22377、FERM ABP−22378として受領され、受託番号FERM BP−22377、FERM BP−22378として受託されたKHR−001株、KHR−002株が好ましい細胞株として挙げられる。
【0036】
<カロテノイド高蓄積株を用いたカロテノイドの製造方法>
本発明は、上述の本発明のカロテノイド高蓄積藻類株を用いたカロテノイドの製造方法も含む。本発明のカロテノイドの製造方法は、本発明のカロテノイド高蓄積株を連続的に培養する工程、及び生産されたカロテノイドを回収する工程を含むことを特徴とする。この時の培養条件は、カロテノイド高蓄積藻類株の選抜方法の項の(D)工程での条件と同様の条件で行うことができるが、培養のスケールは、必要とするカロテノイドの量に応じて適宜選択することができる。
【0037】
(本発明のカロテノイド高蓄積株を連続的に培養する工程)
本工程については、上述の本発明のカロテノイド高蓄積株の選抜方法の項の(D)工程での培養の説明も参照されたい。具体的には、例えば、寒天培地から、カロテノイド高蓄積変異株であるKHR−001株、KHR−002株等を適量取り、下記の条件で、2〜3日間の前培養を実施する。OD
750が0.04程度となるように継代し、さらに2日間程度の本培養を実施し、培養後に藻体を収穫する。
【0038】
(培養条件)
培養装置:2段式フラスコ
培地:TAP培地
CO
2:2%CO
2
光:100μmol photons/m
2/sec昼白色蛍光灯
温度:30℃
震盪:100rpm
【0039】
(生産されたカロテノイドを回収する工程)
上記培養工程で得られたカロテノイド高蓄積株からカロテノイド成分を抽出する方法としては、通常のカロテノイドの抽出方法を用いることができる。具体的には、例えば、培養した細胞を必要量回収し、蒸留水で1回洗浄してから終夜凍結乾燥する。得られた乾燥藻体に、ガラスビーズとアセトン:メタノール=1:1混合液を添加し、マルチビーズショッカーを用いて細胞の破砕を行う。細胞破砕の条件には、例えば、2,700rpm,4℃,60sec ON+60sec OFF条件で30回処理等が挙げられる。破砕液を遠心分離(10,000×g,2min,4℃)し、上清を回収する。チューブに残った沈殿物にアセトン:メタノール=1:1混合溶液を加え、もう一度遠心分離操作(10,000×g,2min,4℃)により上清を回収する。この抽出操作を計4回程度行い、破砕液上清を回収し、遠心エバポレーターを用いて終夜乾固することで、カロテノイドを回収することができる。
【実施例】
【0040】
以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0041】
1.赤色強光による光酸化ストレスの誘導
(1)藻類株による赤色光の吸収
微細緑藻Chlamydomonas reinhardtii CC−125株によって効率的に吸収される光の波長を調べたところ、赤色波長域の吸収が顕著であった。これは、藻類が細胞内に有するクロロフィルによるものと考えられた。CC−125株による吸収スペクトルと、赤色LEDの発光スペクトルとを
図1に示す。
【0042】
図1に示すとおり、CC−125株が効率的に吸収するのは、赤色光の波長領域であることから、赤色LEDをCC−125株に照射することで、効率的にクロロフィルを励起できることが予想された。
【0043】
(2)赤色強光下における一重項酸素量の測定
CC−125株を、TAP培地にて1日間培養した。暗所に30分間置いた後、一重項酸素検出用蛍光プローブ(SOSG;Singlet Oxygen Sensor Green(登録商標)、Molecular Probes社製)を終濃度50μMで添加し、ガラス試験管に1mLずつ分注した。一重項酸素発生条件(40℃での培養、又は10μMのRose Bengal+50μmol photons/m
2/sec 昼白色蛍光灯光照射)及び赤色強光下(660nm LED 1,000μmol photons/m
2/sec照射)にて、30分間インキュベートを行った。細胞をTAP培地で洗浄し、フローサイトメトリーによる解析を行った。細胞内に発生する一重項酸素の量が多い程、蛍光強度が強く検出される。結果を
図2に示す。
【0044】
図2に示すとおり、一重項酸素発生条件として知られている条件である40℃での培養、又は10μMのRose Bengal+50μmol photons/m
2/sec 昼白色蛍光灯光照射の条件での処理をした細胞(ポジティブコントロール)では、暗所に30分間置いた細胞(ネガティブコントロール)に比べて一重項酸素量が2倍〜2.5倍に増加していた。一方、赤色強光下(660nm LED 1,000μmol photons/m
2/sec照射)でも、上記ポジティブコントロールと同様に、細胞中の一重項酸素量が、ネガティブコントロールの細胞に比べて一重項酸素量が約2倍となっていた。すなわち、赤色強光を照射することにより、細胞内で一重項酸素が多量に発生されることがわかった。
【0045】
2.カロテノイド高蓄積変異株の選抜方法
(1)突然変異の導入
微細緑藻Chlamydomonas reinhardtii CC−125株を親株として、カロテノイド高蓄積株の選抜育種を行った。即ち、CC−125株に対して常温常圧プラズマ照射し、ランダムな突然変異を有する細胞集団を準備した。
【0046】
具体的には、寒天培地から藻体を適量取り、下記条件にて3日間の前培養を実施した。波長750nmにおける光学密度(OD
750)が0.04となるように継代し、下記条件にてさらに2日間の本培養を実施した。培養後、専用金属板に培養液20μLを塗布し、常温常圧プラズマ照射装置にて常温常圧プラズマを金属板上の藻細胞に照射した。照射後、藻細胞を1mLのTAP培地に懸濁し、光強度50μmol photons/m
2/sの昼白色蛍光灯下で3日間以上静置することで回復培養を実施した。これをCC−125株の変異体ライブラリとして以下の実験に使用した。
【0047】
(培養条件)
2段式フラスコを使用
培地:70mL TAP
CO
2:2%CO
2
光:100μmol photons/m
2/sec昼白色蛍光灯
温度:30℃
撹拌:100rpm
【0048】
(2)一次スクリーニング
この変異体ライブラリをフォトバイオリアクター内において強度1,000μmol photons/m
2/sec以上の赤色LED(ピーク波長660nm)光を照射して以下の条件で培養した。
【0049】
培養装置:200mL ボトル型フォトバイオリアクターを使用
培地:HSM培地
CO
2:0.1mL/mL/min 2% CO
2含有空気
光:1,000μmol photons/m
2/sec赤色LED(ピーク波長660nm)
温度:室温
撹拌:300rpm
初期OD
750:0.04
【0050】
(3)クローニング
赤色強光条件で生育した細胞を、寒天プレートに播種してクローン化した。
【0051】
(4)二次スクリーニング(評価1)
クローン化した細胞をマイクロウェルプレートにて、下記条件にて培養した。強度100μmol photons/m
2/secの白色LED光条件で培養した後、後述する方法に従って、細胞から色素類を抽出して超高速高分離液体クロマトグラフィー/フォトダイオードアレイ検出器(ultra−performance liquid chromatography/photo−diode−array、UPLC/PDA)によりルテインを定量し、細胞のルテイン含有率を算出した。ルテイン含有率の高い細胞株を三次スクリーニングに進めた。
【0052】
培養装置:6ウェルプレート
培地:TAP培地
CO
2:2%CO
2
光:100μmol photons/m
2/sec白色LED
温度:30℃
撹拌:100rpm
初期OD
750:0.04
【0053】
(ルテイン含有量の測定)
培養した細胞をマイクロチューブに必要量回収し、蒸留水で1回洗浄してから終夜凍結乾燥した。得られた乾燥藻体約5mgを破砕専用マイクロチューブに秤量し、ガラスビーズ300μL分とアセトン:メタノール=1:1混合液500μLを添加した。細胞の破砕はマルチビーズショッカーを用いて次の条件にて実施した(2,700rpm,4℃,60sec ON+60sec OFF条件で30回処理)。破砕液を遠心分離(10,000×g,2min,4℃)し、上清を新しいマイクロチューブに回収した。破砕専用マイクロチューブに残った沈殿物にアセトン:メタノール=1:1混合溶液500μLを加え、もう一度遠心分離操作(10,000×g,2min,4℃)により上清を回収した。この抽出操作を計4回行い、計2mLの破砕液上清を回収した。破砕液上清のうち330μLを新しいマイクロチューブに移し、遠心エバポレーターを用いて終夜乾固した。乾固物を50μLのクロロホルムに再溶解し、425μLのクロロホルム:アセトニトリル=2:8混合液及び25μLの20μMトランス−β−アポ−8’−カロテナール(内部標準)を添加した。これを専用ガラスバイアルに100μL移し、超高速高分離液体クロマトグラフィー/フォトダイオードアレイ検出器(ultra−performance liquid chromatography/photo−diode−array、UPLC/PDA)による定量分析に供した。分析条件は下記の通りである。濃度既知の標準品を同条件で分析し、保持時間、波長445nmにおける吸収スペクトル、ピークエリア値を指標として同定と定量を行なった。なお、後述するクロロフィルの定量においては、同じ分析条件で、濃度既知のクロロフィル標準品を分析し、ピークエリア値を指標として上記と同様の方法にて同定と定量を行ない、同様の方法により定量した。
【0054】
○分析条件(UPLC/PDA)
Mobile phase A:MeOH:H
2O=1:1(v/v)
B:AcCN
Gradient Time(min) %A %B
0 50 50
9 0 100
Column
BEH shield RP18(1.7μm,2.1mm×100mm)
Flow rate 0.6mL/min
Column temp. 30℃
Detector PDA(445nm)
【0055】
(5)三次スクリーニング(評価2)
上記二次スクリーニングで得られた細胞を、2段式フラスコを用いて、下記の条件で培養し、上述の方法に従って、細胞から色素類を抽出して超高速高分離液体クロマトグラフィー/フォトダイオードアレイ検出器(ultra−performance liquid chromatography/photo−diode−array、UPLC/PDA)によりルテインを定量し、細胞のルテイン含有量を算出した。最終的に、CC−125株と比較してルテインの含有量、生産量、生産速度が2倍以上に向上したカロテノイド高蓄積変異株(KHR−001及びKHR−002)の創出に成功した。
【0056】
培養装置:2段式フラスコ
培地:TAP培地
CO
2:2%CO
2
光:100μmol photons/m
2/sec昼白色蛍光灯
温度:30℃
震盪:100rpm
【0057】
3.赤色強光で選抜育種したカロテノイド高蓄積変異株(KHR−001及びKHR−002)の評価
(1)カロテノイド高蓄積変異株の評価に向けた培養
変異育種により獲得した各カロテノイド高蓄積変異株は、上記三次スクリーニングと同じ培養条件にて培養し、下記の方法により評価した。
【0058】
(2)バイオマスの測定
バイオマス量は細胞の乾燥重量を指標とした。上記三次スクリーニングと同様に培養した細胞を秤量済みマイクロチューブに必要量回収し、蒸留水で1回洗浄してから終夜凍結乾燥した。乾燥後、再度マイクロチューブの重量を測定し、空のマイクロチューブ重量を減算することで回収した細胞の乾燥重量(mg)を求めた。さらにこれを測定に使用した培養液量で除算することで培養液中に含まれるバイオマス量(g/L)を求めた。結果を
図3に示す。
【0059】
図3に示すとおり、バイオマス量は、得られたカロテノイド高蓄積変異株のひとつであるKHR−002が、親株であるCC−125及びもうひとつのカロテノイド高蓄積変異株であるKHR−001よりもやや多い状態で推移した。
【0060】
(3)クロロフィルの測定
クロロフィルの測定には上記バイオマスの測定実験で準備した乾燥藻体を用いた。約3mgの乾燥藻体を破砕専用マイクロチューブに秤量して測定に供した。クロロフィルの測定方法は、上述の二次スクリーニングの項における「ルテイン含有量の測定」に記載の方法と同様の方法で行った。即ち、抽出した色素類(ルテイン、クロロフィル等を含む)をUPLCで解析する際、クロロフィルa及びクロロフィルbはルテインとは別のシグナルとして検出されるので、それぞれのシグナルのピークエリア値と標準品のピークエリア値から含有量を算出した。クロロフィルa及びクロロフィルbの含有率の合計をクロロフィル含有率とし、Day2〜day4までの、各株の乾燥藻体当たりのクロロフィル含有率の結果を
図4に示す。
【0061】
図4に示すとおり、乾燥藻体におけるクロロフィル含有率は、親株であるCC−125がday2で特に高い値となっており、それと比較してKHR−001、KHR−002のクロロフィル含有率はやや低かった。
【0062】
(4)ルテイン含有量の測定
上述の二次スクリーニングの項における「ルテイン含有量の測定」に記載の方法に従って、ルテイン含有量を測定した。乾燥藻体の重量あたりのルテインの量を算出し、
図5に示す。また、培養液量あたりのルテイン量に換算した結果を
図6に示す。
【0063】
図5に示すとおり、乾燥藻体の重量あたり、親株であるCC−125に比べて、KHR−001、KHR−002では2倍以上のルテインを含んでいることがわかった。また、培養液の単位量(L)あたりのルテインの産生量を比較すると、KHR−001が親株であるCC−125の約2.1倍、KHR−002が親株であるCC−125の約3.4倍であった。
【0064】
上記の結果を下記表1にまとめた。
【0065】
【表1】
【0066】
(5)カロテノイド高蓄積変異株の赤色強光耐性評価
CC−125、KHR−001、KHR−002のそれぞれを、下記の条件にて培養し、培養液の吸光度(OD
750)を経時的に測定し、増殖曲線を作成した(
図7)。
【0067】
培養装置:200mL ボトル型フォトバイオリアクター
培地:HSM培地
CO
2:0.1 mL/mL/min 2%CO
2含有空気
光:1,000μmol photons/m
2/sec赤色LED(ピーク波長660nm)
温度:30℃
撹拌:300rpm
初期OD
750:0.04
【0068】
図7に示すとおり、CC−125は、赤色強光条件下では、培養3日目までは、ほとんど増殖できなかったのに対して、KHR−001、KHR−002は、順調に増殖し、4〜5日目で増殖曲線がプラトーに達した。得られたカロテノイド高蓄積変異株KHR−001、KHR−002は、赤色強光耐性であると言え、本研究においては、赤色強光耐性により選抜された可能性が高いことが示唆された。即ち、赤色強光に耐性のない親株においては、赤色強光の照射を受けると細胞毒性のある一重項酸素が増加し、細胞が正常に増殖できなくなるのに対して、本研究により得られたカロテノイド高蓄積変異株においては、抗酸化作用のあるルテイン含有量が高いことにより、赤色強光の照射により増加する一重項酸素の消去能が高いため、赤色強光条件下でも正常に増殖ができると考えられる。
【0069】
4.赤色強光で選抜育種したカロテノイド高蓄積変異株(KHR−001)の評価
(1)カロテノイド・クロロフィル含有率とバイオマス生産
変異育種により獲得したカロテノイド高蓄積変異株
(KHR−001)及び親株(CC−125)を、上記三次スクリーニングと同じ培養条件にて2日間培養し、バイオマスの測定、並びにクロロフィルa、クロロフィルb、ルテイン、ビオラキサンチン及びβ−カロテン含有量の測定を、上記項目3と同様の方法を用いて行った。なお、ビオラキサンチン及びβ−カロテン含有量の測定は、上述の二次スクリーニングの項における「ルテイン含有量の測定」に記載の方法と同様の方法で行った。即ち、抽出した色素類(ビオラキサンチン及びβ−カロテン等を含む)をUPLCで解析する際、それぞれのシグナルのピークエリア値と標準品のピークエリア値から含有量を算出した。それぞれの結果を
図8−1〜
図8−6に示す。
【0070】
(2)トランスクリプトーム解析(RNA−seq)
カロテノイド高蓄積変異株
(KHR−001)及び親株(CC−125)を上記三次スクリーニングと同じ培養条件にて2日間培養した。細胞を遠心分離操作によって回収し、QIAGEN社のRNeasy Plus Universal Kitと安井器械社のマルチビーズショッカーを用いて細胞からトータルRNAを抽出した。RNA−seq解析はタカラバイオ社に依頼した。
【0071】
各遺伝子の発現量をFragments Per Kilobase of exon per Million mapped reads(FPKM)として
図9に示した。KHR−001とCC−125を比較したところ、プロットした11,982遺伝子のうち95遺伝子(5.80%)は2倍以上に発現量が増加し、4,800遺伝子(40.06%)は発現量が半分以下に低下していた。なお、
図9中、直線aより上に位置する遺伝子は、発現量が2倍以上に増加したものであり、直線bより下に位置する遺伝子は、発現量が半分以下に低下していたものである。KHR−001において特に顕著な発現増加を示す遺伝子として、強光に対する応答で機能するlight−harvesting complex stress−related proteins (LHCSR1、LHCSR3.1、LHCSR3.2)や活性酸素種の消去を行うMn−superoxide dismutase (MSD3)やglutathione peroxidase (GPX3,GPX5)が見出された。
【0072】
(3)遺伝子発現解析(リアルタイムPCR)
カロテノイド高蓄積変異株
(KHR−001)及び親株(CC−125)を上記三次スクリーニングと同じ培養条件にて2日間培養した。細胞を遠心分離操作によって回収し、QIAGEN社のRNeasy Plus Universal Kitと安井器械社のマルチビーズショッカーを用いて細胞からトータルRNAを抽出した。
【0073】
上述のRNA−seq解析で発現量が顕著に増加することが見出された遺伝子について、リアルタイムPCRで遺伝子発現の結果をさらに検証した。各遺伝子発現の結果を
図10に示した。その結果、KHR−001におけるLHCSR1、LHCSR3.1、LHCSR3.2の発現量はCC−125と比較してそれぞれ3,337.76倍、37.21倍、102.03倍に増加していた。同様に、MSD3、GPX3、GPX5の発現量もそれぞれ12.75倍、3.06倍、2.49倍に増加していた。
【0074】
(4)活性酸素種耐性評価
カロテノイド高蓄積変異株
(KHR−001)及び親株(CC−125)を上記三次スクリーニングと同じ培養条件にて2日間培養した。細胞を遠心分離操作によって回収し、OD
750が1.0となるようにTAP培地に懸濁した。12ウェルマイクロプレートに細胞懸濁液を1mLずつ分注し、酸化剤(メチルビオロゲン、過酸化水素、ローズベンガル)を10μL添加した。12ウェルマイクロプレートを100μmol photons/m
2/s white LED、30℃、2%CO
2、100rpmの条件で24時間インキュベートした。細胞を遠心分離操作で回収し、TAP培地で2回洗浄したのち、TAP寒天培地に播種した。50μmol photons/m
2/sの昼白色蛍光灯照射条件で1−2週間培養し、形成されたコロニーを計数した。
【0075】
各種活性酸素種(スーパーオキシド、過酸化水素、一重項酸素)に対する耐性を、薬剤処理後のコロニー形成能によって評価した。結果を
図11に示した。メチルビオロゲンは細胞内でスーパーオキシドを発生させる試薬である。640nMのメチルビオロゲン処理によってCC−125のコロニー形成能は大きく低下したが、KHR−001は800nMにおいても高いコロニー形成能を維持していた。KHR−001は過酸化水素に対しても耐性を示し、4mM以上の濃度においてCC−125よりも高いコロニー形成能を示した。ローズベンガルは光照射によって一重項酸素を発生させる試薬である。KHR−001は一重項酸素に対しても耐性を示し、12μM以上のローズベンガル処理によってもCC−125と比較して高いコロニー形成能を示した。各種活性酸素種に対する耐性の向上は、
図9及び
図10に示した活性酸素種消去酵素遺伝子MSD3、GPX3、GPX5の増加によるものと考えられる。カロテノイドは抗酸化作用を有するため、
図8に示したビオラキサンチンやルテインの増加が寄与していることも考えられる。
【0076】
強光条件では光化学系から活性酸素種が発生して細胞に酸化ダメージを与える(光酸化ストレス)。KHR−001の解析から、光酸化ストレス防御において強光応答・活性酸素種消去・カロテノイド合成が協調して機能していることが示唆された。KHR−001はこの協調的な光酸化ストレス防御が温和な光条件においても恒常的に活性化している変異株であると考えられる。協調的な光酸化ストレス防御が強化・活性化された変異株を選抜する上で、赤色強光育種が有効であることが考えられる。したがって、本発明のカロテノイド高蓄積株の選抜方法によると、カロテノイド含有率が高いことに加えて、協調的な光酸化ストレス防御が強化・活性化された有用株を取得することが可能である。