特開2021-80524(P2021-80524A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2021-80524耐腐食摩耗性及び耐摩耗性の合金皮膜及び伝熱管並びにこれらの製造方法及び伝熱管の修復方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-80524(P2021-80524A)
(43)【公開日】2021年5月27日
(54)【発明の名称】耐腐食摩耗性及び耐摩耗性の合金皮膜及び伝熱管並びにこれらの製造方法及び伝熱管の修復方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/06 20160101AFI20210430BHJP
   C23C 4/18 20060101ALI20210430BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20210430BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20210430BHJP
   C22C 27/06 20060101ALI20210430BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20210430BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20210430BHJP
   F22B 37/04 20060101ALI20210430BHJP
【FI】
   C23C4/06
   C23C4/18
   C22C30/00
   C22C19/05 B
   C22C27/06
   C22C38/00 302Z
   C22C38/54
   F22B37/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-209536(P2019-209536)
(22)【出願日】2019年11月20日
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(71)【出願人】
【識別番号】308024395
【氏名又は名称】荏原環境プラント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000208695
【氏名又は名称】第一高周波工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】310010575
【氏名又は名称】地方独立行政法人北海道立総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(72)【発明者】
【氏名】野口 学
(72)【発明者】
【氏名】石川 栄司
(72)【発明者】
【氏名】田中 瑛智
(72)【発明者】
【氏名】林 重成
(72)【発明者】
【氏名】古吟 孝
(72)【発明者】
【氏名】高崎 伸公
(72)【発明者】
【氏名】奥津 賢一郎
(72)【発明者】
【氏名】金澤 昌哉
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 康樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英徳
(72)【発明者】
【氏名】米田 鈴枝
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆之
【テーマコード(参考)】
4K031
【Fターム(参考)】
4K031AA01
4K031AB02
4K031AB07
4K031AB08
4K031AB09
4K031AB11
4K031CB22
4K031CB23
4K031CB28
4K031CB29
4K031DA01
4K031FA01
4K031FA03
(57)【要約】
【課題】腐食と摩耗が同時に作用する環境であっても、優れた耐環境性を有する合金皮膜、当該合金皮膜を有する伝熱管及びこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】耐腐食摩耗性及び耐摩耗性の合金皮膜であって、当該合金皮膜の表面には、最大径が0.1mm以上3mm以下で、最大高さが0.1mm以上2mm以下の複数の突部が、0.1mm以上5mm以下の最大離間距離で存在している、耐腐食摩耗性及び耐摩耗性の合金皮膜。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐腐食摩耗性及び耐摩耗性の合金皮膜であって、当該合金皮膜の表面には、最大径が0.1mm以上3mm以下で、最大高さが0.1mm以上2mm以下の複数の突部が、0.1mm以上5mm以下の最大離間距離で存在している、耐腐食摩耗性及び耐摩耗性の合金皮膜。
【請求項2】
Crを10質量%以上50質量%以下、Niを0質量%以上70質量%以下、Moを0質量%以上10質量%以下、Siを0質量%以上5質量%未満、Cを0.05質量%以上1質量%以下、Bを0質量%以上10質量%以下含み、残部がFe及び不可避不純物からなる、請求項1に記載の合金皮膜。
【請求項3】
基材に、合金の粉末を溶射して合金母材を形成した後、当該合金母材を再溶融処理して、最大径が0.1mm以上3mm以下で、最大高さが0.1mm以上2mm以下の突部を、0.1mm以上5mm以下の最大離間距離で、複数形成させ、合金母材表面に凹凸を形成させることを含む、耐腐食摩耗性及び耐摩耗性の合金皮膜の製造方法。
【請求項4】
前記合金母材は、Crを10質量%以上50質量%以下、Niを0質量%以上70質量%以下、Moを0質量%以上10質量%以下、Siを0質量%以上5質量%未満、Cを0.05質量%以上1質量%以下、Bを0質量%以上10質量%以下含み、残部がFe及び不可避不純物からなる、請求項3に記載の合金皮膜の製造方法。
【請求項5】
伝熱管表面に、合金の粉末を溶射して合金母材を形成した後、当該合金母材を再溶融処理して、最大径が0.1mm以上3mm以下で、最大高さが0.1mm以上2mm以下の突部を、0.1mm以上5mm以下の最大離間距離で、複数形成させ、合金母材表面に凹凸を形成させることを含む、耐腐食摩耗性及び耐摩耗性の合金皮膜を有する伝熱管の製造方法。
【請求項6】
使用済み伝熱管表面の合金皮膜を平滑化処理した後、再溶融処理して、最大径が0.1mm以上3mm以下で、最大高さが0.1mm以上2mm以下の突部を、0.1mm以上5mm以下の最大離間距離で、複数形成させ、合金母材表面に凹凸を形成させることを含む、耐腐食摩耗性及び耐摩耗性の合金皮膜を有する伝熱管の修復方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の合金皮膜を具備する伝熱管。
【請求項8】
請求項7に記載の伝熱管を具備する焼却炉。
【請求項9】
請求項7に記載の伝熱管を具備するボイラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩耗及び腐食摩耗が問題となる環境下で使用する伝熱管などの合金皮膜及びその製造方法に関し、特に耐腐食摩耗性及び耐摩耗性の合金皮膜及びその製造方法、当該合金皮膜を有する伝熱管及びその製造方法並びに伝熱管の修復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物やバイオマスなどを焼却する焼却炉内には、燃料中に含まれる塩素により厳しい高温腐食環境が形成される。特に、雰囲気温度よりも低温である熱交換器の表面には、雰囲気中に含まれていた塩化物が濃縮されて堆積するため、激しい腐食が生じる。さらに流動床式ボイラの場合、腐食に加え、流動媒体による摩耗が作用することにより激しい減肉が生じる場合がある。これらへの減肉対策として、プロテクターの装着が行われている。プロテクターの装着は有効であるが、熱交換器においては伝熱効率の低下を招く。そのため、減肉対策として、溶射や肉盛溶接などの表面処理が用いられることが多々ある。
【0003】
溶射皮膜の一般的な課題として、皮膜中に雰囲気から内部まで繋がる連続的な気孔が形成されること、及び基材との密着力が弱いことなどが挙げられる。溶射時の粒子速度を高速化したHVOF(High Velocity Oxygen Fuel)溶射などは、プラズマ溶射に比べて皮膜の気孔率を低減させることが可能である。しかし、完全に気孔を無くすことはできず、また基材とも物理的に接合しているのみであって接着力は弱い。そこで、溶射後に皮膜を再溶融することにより、基材との間に冶金学的な反応層を形成させ、かつ溶射皮膜中の気孔を無くすことができ、溶射皮膜の特性を格段に向上させる自溶合金溶射法が用いられている。自溶合金溶射は、再溶融処理により皮膜中の気孔が減少し、腐食性物質の侵入が抑制できるため、優れた耐食性を付与することが知られている。しかし、自溶合金溶射に用いることができる自溶合金粉末の組成は限定されている。自溶合金には、1,000℃以下に融点を有し、液相線と固相線の温度幅が広いことが求められる。融点が高過ぎると溶融が困難になるのみならず、溶融温度まで温度を上げることにより母材に対して熱影響を及ぼすことが懸念される。一方、温度幅が狭いと、再溶融処理時の温度制御が難しくなり、良質な皮膜が出来難くなる。
【0004】
自溶合金粉末として最も一般的に用いられているのがJIS H8303:2010に規定されているSFNi4(2.14A NiCrCuMoBSi 69 15 3 3A)である。SFNi4はCr:12wt%〜17wt%、Mo:4wt%以下、Si:3.5wt%〜5.0wt%、Fe:5wt%以下、C:0.4wt%〜0.9wt%、B:2.5wt%〜4.0wt%、Co:1wt%以下、Cu:4wt%以下、残部はNiからなるNi−Cr合金であり、幅広い環境での耐食性を有すると共に、HRCで50〜60の高硬度を有するため、耐食性ならびに耐摩耗性に優れる合金である。SFNi4は、施工性(再溶融処理)にも優れるため、幅広い分野で使われている。また、特定の用途に対しては、SFNi4を改良した合金なども提案されている。
【0005】
例えば、Cr:10wt%〜16.5wt%、Mo:4.0wt%以下、Si:3.0wt%〜5.0wt%、Fe:15.0wt%以下、C:0.01wt%〜0.9wt%、B:2.0wt%〜4.0wt%、Cu:3.0wt%以下、O:50ppm〜500ppm、残部はNi及び不可避的不純物からなり、Si/B:1.2〜1.7を満たす、再溶融処理時の湯流れ性を抑えたNi基自溶性合金粉末、及びこのNi基自溶性合金粉末を溶射法により成膜した皮膜を有する耐食性および/または耐摩耗性に優れた部品が提案されている(特許文献1)。
【0006】
また、Cr:12wt%〜17wt%、Mo:3wt%〜8wt%、Si:3.5wt%〜5.0wt%、Fe:5.0wt%以下、C:0.4wt%〜0.9wt%、B:2.5wt%〜4.0wt%、Cu:4.0wt%以下、O:200ppm以下、残部はNi及び不可避不純物からなり、0ppm≧−20Mo%+100を満たすNi基自溶性合金粉末が提案されている(特許文献2)。
【0007】
さらに、Cr:30.0wt%〜42.0wt%、Mo:0.5wt%〜2.0wt%、Si:2.0wt%〜4.0wt%、Fe:5.0wt%以下、C:2.5wt%〜4.5wt%、B:1.5wt%〜4.0wt%、残部はNi及び不可避的不純物である溶射用Ni基自溶合金粉末が提案されている(特許文献3)。この溶射用Ni基自溶合金粉末は、アトマイズ法により作製され、粒子内部に粒径5μm以下のクロムカーバイドが均一に析出しており、高温エロージョン性が向上することが開示されている。
【0008】
さらに、Cr:12wt%〜17wt%、Mo:4wt%以下、Si:3.5wt%〜5.0wt%、Fe:5.0wt%以下、C:0.4wt%〜0.9wt%、B:2.5wt%〜4.5wt%、Cu:4.0wt%以下を含むNi基自溶性合金よりなる保護皮膜が鉄基金属管の外表面に形成されている熱交換用耐食・耐摩耗性伝熱管が提案されている(特許文献4)。
【0009】
しかし、従来のNi基自溶合金は、腐食と摩耗が同時に生じる耐食耐摩耗(エロージョン・コロージョン)に対して十分な耐環境性を有しているとは言えず、また高価なNiを大量に含むため材料が高コストになる、という欠点を有している。
【0010】
一方、安価なFeを主成分とした場合、合金の融点が上昇するため再溶融処理が難しくなることが知られており、JIS規格においてもFeをベースにした自溶合金は存在せず、Fe基合金は肉盛溶接として用いられることが一般的である。肉盛溶接は施工の際の入熱量が大きく基材に対する熱影響が大きく、変形などが生じる場合がある。
【0011】
Fe基肉盛用合金として、Cr:15〜31wt%、Mo:10wt%以下、Si:2.5〜4.5wt%、C:0.5〜2.0wt%、B:0.5〜3.5wt%、Mn:10wt%以下、Cu:7wt%以下、Ni:16wt%以下、Nb+V:8wt%以下、残部が鉄及び不可避不純物からなり、Crと(Si×B)との配合比率が特定の関係式を充足する低炭素−高シリコン−高クロム−ボロン−ニオブ系の鉄基耐食耐摩耗性合金が提案されている(特許文献5)。この合金は、炭化物を析出させることで硬度を上げて耐摩耗性を向上させると同時に、母材中のCrにより耐食性を発揮し、耐摩耗性と耐食性の双方に優れることが特徴である。そしてNi含有量が僅かなため、材料費がNi基合金に比べ安いことも特徴である。ただし、ごみ焼却炉のようなClを含む高温環境では、Niが耐食性向上に寄与することが確認されており、HR11N(28.5Cr−40Ni−1Mo−0.15N)が塩化物/硫酸塩を含む溶融性燃焼スラグが付着するような激しい高温腐食環境における耐食性能を発揮することが期待されると提案されている(非特許文献1)ことと照らし合わせると、Ni含有量が僅かな特許文献5の合金はClを含む高温環境での耐食性は不十分であると予想できる。実際に特許文献5で示される合金は、水溶液中での耐食性を評価しており、Clを含む高温環境では耐食性データは示されておらず、このような高温での耐食性は不十分と考えられる。
【0012】
また耐食性と耐摩耗性について言及されている合金の殆どは、耐食性と耐摩耗性の一方が優れることを謳われており、これらが同時に作用する腐食摩耗環境での特性について述べられているものは殆ど存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2015−143372号公報
【特許文献2】特開2006−265591号公報
【特許文献3】特開2006−161132号公報
【特許文献4】特開2000−119781号公報
【特許文献5】特許第4310368号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】大塚、工藤、名取、「ごみ発電ボイラ用高耐食材料HR11N」、住友金属、Vol.46 No.2、P.99(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、腐食と摩耗が同時に作用する環境であっても、優れた耐環境性を有する合金皮膜、当該合金皮膜を有する伝熱管及びこれらの製造方法並びに伝熱管の修復方法を提供することを目的とする。特に、廃棄物やバイオマスを焼却する焼却炉やボイラなどのように塩化物が存在する高温の腐食環境及び腐食摩耗環境において用いる伝熱管の伝熱効率を著しく損なうことなく、延命化を可能にする合金皮膜を提供することを目的とする。また、熱交換効率の低下が抑制され、延命化された伝熱管を具備する焼却炉やボイラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、腐食と摩耗が同時に作用する環境であっても、優れた耐環境性を有する合金皮膜、当該合金皮膜を有する伝熱管及びこれらの製造方法、当該伝熱管を具備する焼却炉又はボイラを提供する。以下、本発明の具体的態様を説明する。
【0017】
本発明によれば下記の合金皮膜、合金皮膜の製造方法、伝熱管の製造方法、伝熱管の修復方法、伝熱管、焼却炉及びボイラが提供される。
[1]耐腐食摩耗性及び耐摩耗性の合金皮膜であって、当該合金皮膜の表面には、最大径が0.1mm以上3mm以下で、最大高さが0.1mm以上2mm以下の複数の突部が、0.1mm以上5mm以下の最大離間距離で存在している、耐腐食摩耗性及び耐摩耗性の合金皮膜。
[2]Crを10質量%以上50質量%以下、Niを0質量%以上70質量%以下、Moを0質量%以上10質量%以下、Siを0質量%以上5質量%未満、Cを0.05質量%以上1質量%以下、Bを0質量%以上10質量%以下含み、残部がFe及び不可避不純物からなる、上記[1]に記載の合金皮膜。
[3]基材に、合金の粉末を溶射して合金母材を形成した後、当該合金母材を再溶融処理して、最大径が0.1mm以上3mm以下で、最大高さが0.1mm以上2mm以下の突部を、0.1mm以上5mm以下の最大離間距離で、複数形成させ、合金母材表面に凹凸を形成させることを含む、耐腐食摩耗性及び耐摩耗性の合金皮膜の製造方法。
[4]前記合金母材は、Crを10質量%以上50質量%以下、Niを0質量%以上70質量%以下、Moを0質量%以上10質量%以下、Siを0質量%以上5質量%未満、Cを0.05質量%以上1質量%以下、Bを0質量%以上10質量%以下含み、残部がFe及び不可避不純物からなる、上記[3]に記載の合金皮膜の製造方法。
[5]伝熱管表面に、合金の粉末を溶射して合金母材を形成した後、当該合金母材を再溶融処理して、最大径が0.1mm以上3mm以下で、最大高さが0.1mm以上2mm以下の突部を、0.1mm以上5mm以下の最大離間距離で、複数形成させ、合金母材表面に凹凸を形成させることを含む、耐腐食摩耗性及び耐摩耗性の合金皮膜を有する伝熱管の製造方法。
[6]使用済み伝熱管表面の合金皮膜を平滑化処理した後、再溶融処理して、最大径が0.1mm以上3mm以下で、最大高さが0.1mm以上2mm以下の突部を、0.1mm以上5mm以下の最大離間距離で、複数形成させ、合金母材表面に凹凸を形成させることを含む、耐腐食摩耗性及び耐摩耗性の合金皮膜を有する伝熱管の修復方法。
[7]上記[1]又は[2]に記載の合金皮膜を具備する伝熱管。
[8]上記[7]に記載の伝熱管を具備する焼却炉。
[9]上記[7]に記載の伝熱管を具備するボイラ。
【発明の効果】
【0018】
本発明の合金皮膜は、廃棄物やバイオマスなどの焼却炉やボイラなど、塩化物が関与する厳しい高温における腐食環境や腐食摩耗環境で、プロテクターのように伝熱効率を著しく損なうことなしに、延命化された伝熱管を提供することができる。その結果、伝熱管の熱交換効率を低下させることなく、かつ部材の延命化による装置稼動率を高めた焼却炉やボイラを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】摩耗環境における本発明の合金皮膜による減肉抑制機構の説明図。
図2】腐食摩耗環境における本発明の合金皮膜による減肉抑制機構の説明図。
図3】バイオマス流動床ボイラ伝熱管による実施例1の実証試験結果を示す写真。
図4】実施例1の合金皮膜の突部が存在する領域の(a)外観観察写真、(b)断面観察電子顕微鏡写真及び(c)突部が存在する領域の拡大断面観察電子顕微鏡写真。
図5】合金皮膜の突部が存在しない領域の(a)外観観察写真、及び(b)断面観察電子顕微鏡写真。
図6】実施例2の合金皮膜の外観観察写真(上段)、断面観察写真(中断)及び断面観察電子顕微鏡写真(下段)。
図7】再溶融処理した後の試料の各外観観察写真。(a)溶射後高周波加熱で製造した試料、(b)表面を平滑化処理した後の試料、(c)再度再溶融処理を実施し、表面の凹凸形状を回復させた試料、及び(d)高周波加熱による試験片の再溶融処理の状況。
図8】Ni−Fe−Cr合金の耐食性試験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明の合金皮膜は、合金母材の表面に、最大径が0.1mm以上3mm以下、好ましくは0.1mm以上2mm以下で、最大高さが0.1mm以上2mm以下、好ましくは0.2mm以上2mm以下の突部が、0.1mm以上5mm以下、好ましくは0.1mm以上2mm以下の最大離間距離で複数存在している。摩耗環境または腐食摩耗環境に存在する粒子のうち、衝突する際の衝撃力が強い大径の粒子が突部に衝突するが、隣接する突部の間の合金母材には衝突せず、衝撃力の弱い微細粒子のみが隣接する突部の間の合金母材に到達する寸法及び形状であれば、突部の形状は特に限定されない。本発明の合金皮膜は、伝熱管の耐摩耗性及び耐腐食摩耗性を向上させることができる。
【0022】
図1に、摩耗環境における本発明の合金皮膜による減肉抑制機構を示す。
図1(a)に示すように、摩耗環境においては、表面が平滑化されている合金の場合、粒子が直接衝突するため、合金の減肉が進行する。
一方、図1(b)に示すように、本発明の合金皮膜は、合金母材の表面に特定寸法の複数の突部が存在するため、粒子は突部に衝突するが、隣接する突部間の合金母材には直接衝突せず、合金母材の摩耗による減肉が抑制される。さらに、粒子と突部との衝突により、微細化された粒子及び突部から剥離された合金粒子が、隣接する突部間に堆積して保護層を形成するため、合金母材の摩耗が抑制されることになり、減肉が抑制される。
【0023】
図2に、腐食摩耗環境における本発明の合金皮膜による減肉抑制機構を示す。
図2(a)に示すように、表面が平滑化されている合金の場合、腐食性物質との接触により合金表面に酸化膜などの腐食生成物が形成され(不動態化)、合金と腐食性物質との接触を遮断することによって、さらなる腐食の進行が抑制される。しかし、腐食摩耗環境においては、合金表面に形成された腐食生成物に粒子が衝突することにより、腐食生成物の膜が連続的に破壊されるため、合金の腐食は非常に速い速度で進行し、減肉が進行する。
【0024】
一方、図2(b)に示すように、本発明の合金皮膜は、合金母材の表面に特定寸法の複数の突部が存在するため、粒子は突部に衝突するが、合金母材には直接衝突せず、合金母材の表面に形成されている腐食生成物の膜は破壊されずに成長する。さらに、粒子と突部との衝突により、微細化された粒子及び突部から剥離された腐食生成物の粒子が、隣接する突部間に堆積して保護層を形成するため、合金母材の表面に形成された腐食生成物による遮断効果が増強され、合金母材の腐食摩耗が抑制されることになり、減肉が抑制される。
【0025】
本発明の合金皮膜による合金母材の減肉抑制効果は、単純摩耗環境よりも腐食摩耗環境、特に環境遮断のために肉厚の腐食生成物層が必要となる高温腐食摩耗環境において顕著に発現される。
【0026】
本発明の合金皮膜は、Crを10質量%以上50質量%以下、Niを0質量%以上70質量%以下、Moを0質量%以上10質量%以下、Siを0質量%以上5質量%未満、Cを0.05質量%以上1質量%以下、Bを0質量%以上10質量%以下含み、残部がFe及び不可避不純物からなることが好ましい。以下に合金組成を元素別に説明する。
【0027】
[Cr:10質量%以上50質量%以下]
Crを10質量%以上50質量%以下、好ましくは10質量%以上35質量%以下、より好ましくは15質量%以上25質量%以下含む。Crは高温での耐食性を維持するために不可欠な元素であり、10質量%より少ないと十分な耐食性を発揮することができない。CrはBやCと析出物(Cr硼化物及びCr炭化物)を形成することで皮膜の硬度を上げて耐摩耗性を向上させる。一方、Crの含有量が多過ぎると融点上昇による皮膜施工性の悪化を招くため、50質量%を上限とすることが好ましい。
【0028】
[Ni:0質量%以上70質量%以下]
Niを0質量%以上70質量%以下、好ましくは50質量%以下含む。Niは、耐食性に優れ、特に高温塩化腐食特性に優れることが知られており、通常はNi含有量が多いほど材料特性が優れると考えられている。その反面、Niは高価なため、コストの観点から添加量を減らす事が望ましい。後述するNi−Fe−Cr合金の腐食試験結果より、含まれる塩素分圧が低い場合はNiを含む方が耐食性は向上し、Niを70質量%を超えて含む場合に耐腐食性が大幅に低下することを見出した。そこで、Niの含有量は70質量%を上限とする。
【0029】
[Mo:0質量%以上10質量%以下]
Moを0質量%以上10質量%以下、好ましくは0質量%以上3質量%以下または3質量%以上5質量%以下含む。ごみ焼却炉に代表される塩化腐食環境では、Moを9質量%含有するAlloy625が優れた耐食性を発揮することが知られている。しかし、Moの含有量が10質量%を超えると耐食性が逆に悪化することがわかった。さらにMo含有量が増えると施工性も悪化した。一方、耐食耐摩耗性についてはMoの含有量を減らすと若干ではあるが減肉量が抑えられる結果となった。施工性および耐食耐摩耗性を重視する
場合はMo含有量を抑えた0質量%以上3質量%以下とすることが好ましく、耐食性を重視する場合は3質量%以上5質量%以下とすることが好ましい。
【0030】
[C:0.05質量%以上1質量%以下]
Cを0.05質量%以上1質量%以下、好ましくは0.3質量%以上0.7質量%以下含む。Cは硬いCr炭化物などを形成するので、溶射皮膜の硬度を向上させるために用いられることが一般的である。Cr炭化物を中心にした析出相が突出し、Ni−Fe母材が受ける摩耗を緩和することにより耐食耐摩耗性の向上に寄与する。Cの含有量が0.05質量%未満ではCr炭化物相の析出が不十分であるが、1質量%を越えると母材中のCrが炭化物として消費され過ぎてしまい、耐食性が劣化するおそれがある。
【0031】
[B:0質量%以上10質量%以下]
Bを0質量%以上10質量%以下、好ましくは2質量%以上7質量%以下、より好ましくは5質量%以上6質量%以下含む。Bは施工性(再溶融性)に不可欠な元素であると共に、母材の合金中でCr硼化物を形成して合金の硬化に寄与する。Cr硼化物が形成された合金を腐食環境に曝すと、金属である母材上に腐食生成物が形成される。ここで摩耗が関与することにより、腐食生成物が損傷を受け、腐食速度が上昇し、結果として母材の減肉が促進される。その結果、硬く耐摩耗性に優れたCr硼化物が突出し、優先的に流動媒体の衝突を受け、結果として母材が受ける摩耗条件を緩和し、母材の減肉量を抑制すると考えられる。ただしBの含有量が多すぎると、硼化物として消費されるCrが増えるため、母材の耐食性が低下し、かつ母材が硬すぎて脆くなるため、10質量%を上限とすることが好ましい。Cr炭化物も同様の働きであるが、本発明において主体的な役割を果たすのはCr硼化物である。
【0032】
[Si:0質量%以上5質量%以下]
Siを0質量%以上5質量%以下、好ましくは0質量%超過2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上1.5質量%以下含む。Siは耐酸化性向上に寄与することが知られている。しかし、Siの含有量が多いと耐食耐摩耗性が低下し、微量塩素含有環境においては耐食性が低下することがわかった。以上のとおり耐食耐摩耗および耐食性の観点からSiを含まない方が望ましい。しかし再溶融処理を行い皮膜製造する場合、Siが少ないと十分に再溶融せず、十分に緻密な皮膜を形成できない。そのため5%を上限にSiを添加することが好ましい。
【0033】
次に、本発明の合金皮膜の製造方法を説明する。
本発明の合金皮膜の製造方法は、基材に、合金の粉末を溶射して合金母材を形成した後、当該合金母材を再溶融処理して、最大径が0.1mm以上3mm以下、好ましくは0.1mm以上2mm以下で、最大高さが0.1mm以上2mm以下、好ましくは0.2mm以上2mm以下の突部を、0.1mm以上5mm以下の最大離間距離で、好ましくは0.1mm以上2mm以下の最大離間距離で、複数形成させ、合金母材表面に凹凸を形成させることを特徴とする。
【0034】
合金母材表面の凹凸は、合金母材を再溶融処理することにより形成することができる。突部の寸法及び数は、再溶融処理時の温度により制御することができる。再溶融処理の温度は、合金母材の表面を再溶融させるが、合金母材全体を溶融させない温度範囲とする。再溶融処理温度は、(固相線温度+10℃)以上(液相線温度−10℃)以下、より好ましくは(固相線温度+20℃)以上(液相線温度−20℃)以下とすることが好ましい。ここでの固相線温度は、固相から液相へ変化し始める温度、液相線温度は固相が完全に溶融する温度であり、合金組成によって変動する。Crを10質量%以上50質量%以下、Niを0質量%以上70質量%以下、Moを0質量%以上10質量%以下、Siを0質量%以上5質量%未満、Cを0.05質量%以上1質量%以下、Bを0質量%以上10質量
%以下含み、残部がFe及び不可避不純物からなる合金母材を用いる場合には、たとえば、合金母材が42.5Ni−30Fe−20Cr−1Si−6B−0.5Cである場合には、TG−DTA測定の結果、固相線温度が1040℃、液相線温度が1125℃であるから、再溶融処理温度は1050℃以上1115℃以下、好ましくは1060℃以上1100℃以下とすることができる。再溶融処理としては、緻密な温度制御ができる高周波誘導加熱が好ましいが、バーナーや電気炉を使った熱処理、又はレーザー加工でもよい。たとえば、電気炉を用いて、1100℃で10分間の加熱を行うことにより、合金母材表面に凹凸を形成することができる。
【0035】
再溶融処理は、皮膜側からの加熱ではなく、基材側から加熱することが好ましい。皮膜表面側から加熱すると、溶射時に巻き込まれた酸化物などの不純物が溶射皮膜内部に残存することがある。基材側から加熱すると、不純物が表面側に浮き上がり、皮膜内部から除去することができるため、良質な合金皮膜を形成することが可能になる。
【0036】
合金母材は、基材表面に、合金を溶射、圧延、鋳造、肉盛溶接するか、又は合金の粉末を溶射することにより形成することができる。「基材」とは、表面に合金母材の皮膜を形成する部材であり、「母材」とは、基材の表面に合金皮膜を形成する合金のマトリックスを意味する。
【0037】
基材を伝熱管として、伝熱管表面に合金の粉末を溶射して合金母材を形成した後、合金母材を再溶融処理して、最大径が0.1mm以上3mm以下、好ましくは0.2mm以上2mm以下で、最大高さが0.1mm以上2mm以下、好ましくは0.2mm以上2mm以下の突部を、0.1mm以上5mm以下、好ましくは0.2mm以上2mm以下の最大離間距離で、複数形成させ、合金母材表面に凹凸を形成させることにより、耐摩耗性及び耐腐食摩耗性の合金皮膜を有する伝熱管を製造することができる。合金母材表面の凹凸の形成は、上述した方法により行うことができる。
【0038】
表面に凹凸が形成されている合金皮膜を有する伝熱管を長時間使用すると、合金皮膜の表面の凹凸が消失する。凹凸消失後は、従前の平滑化された表面を有する合金と同様に摩耗及び腐食を受けるため、従前の合金と同等の速度で減肉が進行する。表面の凹凸が消失した伝熱管を再溶融処理することにより、表面の凹凸を再現した合金皮膜を形成することができ、伝熱管の修復を行うことができる。
【0039】
なお、本発明の合金皮膜は、本発明の合金皮膜の製造方法によって製造されたものであることが好ましいが、これに限定されず、表面に所定寸法の突部を有するものであればよく、再溶融処理に代えてあるいは再溶融処理に加えて、積層造形、転写、レーザーによる溝加工、微細加工によって形成された凹凸を有するものでもよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
高温腐食摩耗環境において用いられるバイオマス流動床ボイラ伝熱管を用いて、本発明の合金皮膜の減肉抑制効果を確認した。
【0042】
バイオマス流動床ボイラ伝熱管の表面に、合金母材(42.5Ni−30Fe−20Cr−1Si−6B−0.5C)の粉末をフレーム溶射して合金皮膜を形成し、次いで形成された合金皮膜を1100℃に設定した高周波誘導加熱により再溶融処理して合金皮膜表面に突部を形成させた(図3(b))。当該伝熱管を切断後、凹凸の寸法を断面の光学顕
微鏡観察写真により測定した。突部の最大径は2.8mm、最大高さは2.0mm、隣接する突部の最大離間距離は4.8mmであった。
凹凸の効果を評価するため、伝熱管の表面の一部を研磨して平滑化した(図3(d))。
【0043】
伝熱管表面温度が約300℃、雰囲気温度が約700℃、平均粒径0.6mmの流動媒体(JIS 5901 4号〜5号相当の川砂)の循環による摩耗、及びバイオマス燃料中に含まれる塩化物による腐食が生じる環境に、1年間、バイオマス流動床ボイラ伝熱管を暴露した後、伝熱管表面の形状及び伝熱管表面の断面を観察し、減肉を測定した。減肉の測定は、表面を研磨し凹凸を無くした部分はノギスを使用し、凹凸部は伝熱管を切断し、断面観察より減肉量を測定した。
【0044】
本発明の突部が形成されている合金皮膜を有する伝熱管は、伝熱管全体が変色しており、1年間の使用後にも表面に突部が残存し、突部の間に付着物が確認できた(図4(a))。突部が存在する領域の断面を電子顕微鏡で観察したところ、表面に腐食生成物の層と、微粒子などの保護層が観察された(図4(b)及び(c))。減肉測定を行うために研磨した表面(図5(a)及び(b))には、付着物は確認できなかった。突部が存在する部分では減肉が確認されず、表面研磨した部分では最大0.69mm、平均0.09mmの減肉量であった。
【0045】
以上、同じ組成の合金皮膜であっても突部が存在しない表面研磨領域では最大約0.7mmの減肉が生じたが、本発明の突部を有する合金皮膜では減肉は生じなかった。
【0046】
[実施例2]
パイプ(基材:炭素鋼S45C)に、合金粉末(42.5Ni−30Fe−20Cr−1Si−6B−0.5C)をフレーム溶射して合金母材試料片を製造した後、高周波誘導加熱処理を行い、皮膜の再溶融処理を行った。図6に、再溶融処理温度を(a)1080℃、(b)1100℃、(c)1120℃と変化させた場合の合金皮膜の外観観察写真(図6上段)、パイプの断面観察写真(図6中段)、合金皮膜の断面観察電子顕微鏡写真(図6下段)をそれぞれ示す。再溶融処理温度が高くなる程、突部の形成が粗になる傾向が見られ、再溶融処理温度を調整することにより突部の密度を変化させることができることがわかる。
【0047】
[実施例3]
基材(炭素鋼S45C)に、合金粉末(42.5Ni−30Fe−20Cr−1Si−6B−0.5C)をフレーム溶射して合金母材試料片を製造した後、図7(d)に示すように合金母材試料片の片面を1100℃で高周波誘導加熱処理して、合金母材試料片の表面に凹凸を形成させ、合金皮膜を形成させた(図7(a))。次いで、合金皮膜の表面を研磨して平滑化処理した(図7(b))。その後、再び、図7(d)に示すように、1100℃に設定した高周波誘導加熱処理により、平滑化処理された表面に凹凸を再形成させた(図7(c))。突部の最大径は2.5mm、最大高さは1.5mm、隣接する突部の最大離間距離は2.5mmであった。
本実験結果より再加熱するだけで表面の凹凸形状を再現させることが可能であることを見出した。溶射皮膜は補修をしながら使用することが一般的で、通常は再度溶射施工を行う必要がある。しかし、本手法では加熱をするだけで補修ができ、極めて低コストで補修ができることが判明した。
【0048】
[実施例4]
NiとFeの含有量を変えた3種類のNi−Cr合金(Ni−19.6Cr−0.7Si−0.08C(図中、80Ni−0Fe−20Crと表示)、Ni−10.5Fe−1
9.8Cr−0.7Si−0.1C(図中、70Ni−10Fe−20Crと表示)、Ni−30.4Fe−20.1Cr−0.6Si−0.06C(図中、50Ni−30Fe−20Crと表示))を、560℃で100時間の電気炉中で加熱し腐食試験を行った。同じ電気炉中に、NaCl−KCl−CaClを1:1:1の重量で混合した塩を入れたるつぼを設置したため、腐食中の雰囲気は大気中に揮発した微量の塩化物が含まれる環境である。試験前後の試験片の重量を測定し、重量増加量を求めた結果を図8に示す。Ni含有量が増えるほど耐食性が低下し、微量な塩化物が存在する環境ではNi含有量を制限する方が望ましいことが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8