【実施例】
【0037】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
本実施例に用いたアクリル繊維、加熱処理装置、および本実施例における測定方法は以下の通りである。
【0038】
[単繊維の直径の測定]
任意に10本サンプリングした単繊維の断面を、光学顕微鏡(オリンパス株式会社製、システム偏光顕微鏡、製品名:BX50−33P)を用いて直径を測定し、平均値を求め、これを単繊維の直径とした。
【0039】
[粉体の平均粒径の測定]
レーザー回折散乱法を原理としたSKレーザーマイクロンサイザー(株式会社セイシン企業製、製品名:LMS−350)を用いて、粉体の粒度分布を屈折率1.330−0.01i、形状係数1.000にて測定し、体積平均から算出された50%正規分布の値を平均粒径とした。
【0040】
[アクリル繊維Aの作製]
アクリロニトリル重合体A(アクリロニトリル単位の含有量:100質量%、数平均分子量20万)を濃度24質量%となるようにジメチルホルムアミドに溶解して紡糸原液とし、温度を60℃に調整した。前記紡糸原液を用いて乾湿式紡糸法により、アクリル繊維を得た。具体的には、直径150μmの丸断面の吐出孔を100個有するノズルを用いて紡糸原液を空気中へ紡出した後に、第一凝固浴(濃度79.5質量%、温度15℃のジメチルホルムアミド水溶液)中で凝固させて凝固糸を得た。ついで、凝固糸を第二凝固浴(95℃の温水)中にて2.7倍に延伸し、さらに90〜100℃の水中で1倍に延伸した後、温度180℃、圧力220kPaのスチーム中で3倍に延伸し、トータルの延伸倍率を8倍とし、アクリル繊維A(繊維A)の束を得た。
アクリル繊維Aの束を構成する単繊維の直径は、光学顕微鏡で測定した結果、16.3μmであった。
【0041】
[アクリル繊維Bの作製]
アクリル繊維Aの束を得るのと同様の条件で、90〜100℃の水中で延伸まで行い、これをアクリル繊維B(繊維B)の束とした。
アクリル繊維Bの束を構成する単繊維の直径は、光学顕微鏡で測定した結果、25.4μmであった。
【0042】
[粉体の作製]
アクリロニトリル、アクリルアミドおよびメタクリル酸を、過硫酸アンモニウム−亜硫酸水素アンモニウムおよび硫酸鉄の存在下、水系懸濁重合により共重合し、アクリロニトリル単位/アクリルアミド単位/メタクリル酸単位=96/3/1(質量比)からなるアクリロニトリル重合体Bを得た。アクリロニトリル重合体Bの含水率は45質量%であった。
得られたアクリロニトリル重合体Bを、ペレタイザーでペレット状に成形し、乾燥機により乾燥して含水率1質量%の粉体を得た。粉体の平均粒径は、38.0μmであった。
【0043】
[アクリル繊維Cの作製]
粉体の作製と同様にしてアクリロニトリル重合体Bを得た。
得られたアクリロニトリル重合体Bをジメチルアセトアミドに溶解し、21質量%の紡糸原液を調製した。この紡糸原液を孔数3000、孔径75μmの紡糸口金を通して、濃度55質量%、温度30℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる第1凝固浴中に吐出させて凝固糸を得た。得られた凝固糸を第1凝固浴中から紡糸原液吐出線速度の0.8倍の引き取り速度で引き取った。引き続き、凝固糸を濃度60質量%、温度30℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる第2凝固浴に導き、浴中にて2.8倍に延伸し、繊維束を得た。
ついで、得られた繊維束に対して水洗と同時に3倍の延伸を行い、これに1.5質量%に調製したアミノシリコン系油剤を添油した。添油後の繊維束を熱ロールにて乾燥し、スチーム延伸機にて1.9倍に延伸した。その後、タッチロールにて繊維束の水分率を調整し、繊維束に繊維当たり5質量%の水分を含有させた。ついで、繊維束をエアー圧405kPaのエアーによって交絡処理し、ワインダーで巻き取ることにより、単繊維繊度1.2dtexのアクリル繊維Cの束を得た。
アクリル繊維Cの束を構成する単繊維の直径は、光学顕微鏡で測定した結果、11.0μmであった。
【0044】
[フィルムの作製]
先に得られた粉体を溶剤としてジメチルアセトアミドに溶解し、濃度21.2質量%のキャスト溶液を調製した。
次に、キャスト溶液を平滑なガラス板の上に流延し、適切なクリアランスを設けたガラス棒にてキャスト溶液を展開し、均一な流延体を得た。この流延体をガラス板に展開したまま110℃の乾燥機中で24時間保持し、溶剤を除去した。引き続きガラス板から溶剤を除去した流延体を回収し、更に80℃の真空乾燥機中で減圧乾燥を行った。この操作にて厚さ約150μmのフィルムを得た。
【0045】
[加熱処理装置1]
加熱処理に使用した加熱処理装置1の概略構成図を
図1に示す。
図1に示す加熱処理装置1は、内容積240mL、最高使用圧力20MPaの高圧リアクター(耐圧硝子工業株式会社製)11に接続された一方のフローバルブ(二酸化炭素供給バルブ)12に、ガスポンプ(日本精密科学株式会社製、製品名: NP−KX−500J)13が接続され、さらに、前記ガスポンプ13と液化二酸化炭素ボンベ14とがシリンダー( 株式会社巴商会製)を介して接続されている。また、高圧リアクター11に接続された他方のフローバルブ(二酸化炭素リリースバルブ)15に、圧力調整弁(日本分光株式会社製、製品名:SCF−Bpg)16を接続し、常に圧力を一定に保てるようにした。なお、高圧リアクター11とフローバルブ15の間には、圧力計17と安全弁18が備わっている。
【0046】
[加熱処理装置2]
加熱処理に使用した加熱処理装置2の概略構成図を
図2に示す。
図2に示す加熱処理装置2は、内容積100mLの高圧リアクター(オーエムラボテック株式会社製、製品名:MMJ−100)21に接続されたフローバルブ(二酸化炭素供給バルブ)22に、ガスポンプ(日本精密科学株式会社製、製品名: NP−KX−500J)23が接続され、さらに、前記ガスポンプ23と液化二酸化炭素ボンベ24とがシリンダー( 株式会社巴商会製)を介して接続されている。さらに手動式のリークバルブ25と圧力計26、安全弁27が備わっている。また高圧リアクター21には熱電対28の挿入口があり、ここに熱電対28を据え付けて高圧リアクター21内の温度を測定した。また高圧リアクター21には攪拌軸29と攪拌翼が備わっているが、今回は攪拌を行わなかった為、攪拌翼を攪拌軸29から取り外して実験に供した。
【0047】
[固体
13C−NMR測定]
アクリル繊維Aの束を用い、加熱処理して得られた耐炎化繊維について、固体
13C−NMR測定を行った。
測定には、固体NMR測定装置(ブルカー・バイオスピン社、製品名:AVANCEII)、サンプル管が2.5mmのMASプローブを用いた。また、測定方法は、CP/MAS法を用い、H90゜パルス幅を3.0μs、コンタクトタイムを3ms、繰り返し時間を10s、積算回数を4096回とした。基準はTMSピークが0ppmになるようにグリシンで調整した。
【0048】
[IR測定1]
アクリル繊維A〜Cの束、粉体、またはフィルムを用い、加熱処理して得られた耐炎化繊維束、耐炎化粉体、または耐塩化フィルムについて、定法に従いKBr錠剤法にてIR測定を行った。IR用錠剤はKBr200mgに対して、サンプルを1mg加えて調製した。
IR測定には、FT−IR装置(Nicolet社製、製品名:AVATAR330)を用い、Transmissionモード測定、積算回数64回の条件にて、以下のようにして測定した。
まず、KBr単独の錠剤にてIRのバックグラウンドスペクトルを測定した。ついで、サンプルのIRスペクトルを測定した。各吸収スペクトル(1580,1610,2940cm
−1)のピーク高さを読み取り、2940cm
−1のピーク高さに対する残りのピーク高さの比率(ピーク強度比)をそれぞれ求め、「1610cm
−1のピーク高さ/2940cm
−1のピーク高さ」で示されるピーク強度比1を環化の指標、「1580cm
−1のピーク高さ/2940cm
−1のピーク高さ」で示されるピーク強度比2を脱水素化の指標とした。
なお、ピーク高さは赤外分光分析方法通則(JIS K−0117)に従い、ピーク前後に基準線を引き、ピークと基準線からの距離を求め、これをピーク高さと定義した。
【0049】
<環化・脱水素化の定性評価>
(ピーク強度比1:1610cm
−1のピーク高さ/2940cm
−1のピーク高さ)
ピーク強度比1を求め、以下の評価基準にて環化の定性評価を行った。なお、ピーク強度比1の値が大きくなるほど環化が進行していることを意味する。
◎:ピーク強度比1が1.5より大きい。
○:ピーク強度比1が1.0より大きく、1.5以下。
△:ピーク強度比1が0.5より大きく、1.0以下。
×:ピーク強度比1が0.5以下。
【0050】
(ピーク強度比2:1580cm
−1のピーク高さ/2940cm
−1のピーク高さ)
ピーク強度比2を求め、以下の評価基準にて脱水素化の定性評価を行った。なお、ピーク強度比2の値が大きくなるほど脱水素化が進行していることを意味する。
◎:ピーク強度比2が1.5より大きい。
○:ピーク強度比2が1.0より大きく、1.5以下。
△:ピーク強度比2が0.5より大きく、1.0以下。
×:ピーク強度比2が0.5以下。
【0051】
[IR測定2]
アクリル繊維Bの束を用い、加熱処理して得られた耐炎化繊維について、IR測定を行った。
測定装置としては、FT-IR(日本分光株式会社製、製品名:FT/IR−4100)と二次元赤外顕微鏡(日本分光株式会社製、製品名:IRT−5000)を連結し、FT−IRから二次元赤外顕微鏡に赤外線レーザーを取り込んだものを使用した。
測定の際には、予め耐炎化繊維を一本取り出し、二次元赤外顕微鏡のステージ上にセロハンテープで貼り付け、顕微鏡のピントを合わせた後、繊維軸の垂直方向に4μmずつ位置を変えながら、6点測定した。測定方法は、透過法を用い、積算回数を10回、分解能を4cm
−1とした。
【0052】
[実施例1]
アクリル繊維Aの束を80cm切り出し、
図1に示す加熱処理装置1を用い、高圧リアクター11内に無張力の状態で入れて密封した。入れる際に繊維Aの束は約10cmで折り返し、アルミホイルで支持し、耐圧容器の長手方向に伸びた状態になるようにした。圧力調整弁16を10MPaに設定して、二酸化炭素で置換せずに高圧リアクター11内に空気が残っている状態から、液化二酸化炭素ボンベ14よりガスポンプ13を用いて増圧して、高圧リアクター11内に液化二酸化炭素を導入した、圧力が10MPaになったところで、フローバルブ12を閉じて温度を上昇させた。なお、
図1において、符号19はサンプル(アクリル繊維の束)である。
温度は45分かけて240℃まで昇温させた後、120分保持し、超臨界流体中でアクリル繊維Aの束を加熱処理した。保持時間が経過した後、ただちに圧力調整弁16の設定を大気圧にして圧力を開放し、耐炎化繊維の束を取り出した。
【0053】
得られた耐炎化繊維について、0.5mm以下の長さに切断してから、前述のIR測定1の方法で、各吸収スペクトル(1580,1610,2940cm
−1)のピーク高さを読み取り、ピーク強度比1、2を求め、環化・脱水素化の定性評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
また、得られた耐炎化繊維について、固体
13C−NMR測定を行った。固体
13C−NMRスペクトルを
図3に示す。
図3より、ニトリル基を示す122ppmのピークに対して、水素と結合した二重結合をもつカーボンを示す137ppmのピークが大きく、耐炎化反応が最も進行しているのがわかる。なお、137ppmのピークと122ppmのピークの強度比(137ppmのピーク強度/122ppmのピーク強度)は、0.36であった。
【0055】
[実施例2、3]
加熱処理で保持する時間(加熱処理時間)を表1に示す値に変更した以外は、実施例1と同様に圧力をかけ、超臨界流体中で加熱処理を行い、耐炎化繊維の束を得た。
得られた耐炎化繊維束について、0.5mm以下の長さに切断してからIR測定1を行い、環化・脱水素化の定性評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
[実施例4]
アクリル繊維Aの束を高圧リアクター11内に入れて密封した後、高圧リアクター11内を二酸化炭素で置換した以外は実施例1と同様に圧力をかけ、超臨界流体中で加熱処理を行い、耐炎化繊維の束を得た。
得られた耐炎化繊維束について、0.5mm以下の長さに切断してからIR測定1を行い、環化・脱水素化の定性評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
また、得られた耐炎化繊維について、固体
13C−NMR測定を行った。固体
13C−NMRスペクトルを
図3に示す。
図3より、122ppmのピークに対して137ppmのピークが実施例1の次に大きく、耐炎化反応が進行しているのがわかる。なお、137ppmのピークと122ppmのピークの強度比(137ppmのピーク強度/122ppmのピーク強度)は、0.33であった。
【0058】
[実施例5、6]
アクリル繊維Aの束を高圧リアクター11内に入れて密封した後、高圧リアクター11内を二酸化炭素で置換し、加熱処理時間を表1に示す値に変更した以外は実施例1と同様に圧力をかけ、超臨界流体中で加熱処理を行い、耐炎化繊維の束を得た。
得られた耐炎化繊維束について、0.5mm以下の長さに切断してからIR測定1を行い、環化・脱水素化の定性評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例7]
アクリル繊維Aの束の代わりに、アクリル繊維Bの束を用いた以外は、実施例1と同様に圧力をかけ、超臨界流体中で加熱処理を行い、耐炎化繊維の束を得た。
得られた耐炎化繊維について、IR測定2を行った。赤外吸収スペクトルを
図4に示す。なお、
図4において、横軸は繊維の測定位置、縦軸は炭素間の二重結合を示す1580cm
−1のピーク強度である。
図4より、繊維の中央部にピークをもつことがわかった。脱水素反応が繊維内部まで均一に起こっている場合、ピーク強度は繊維径に比例する傾向にある。従って、実施例7で得られた耐炎化繊維は、内部まで二重結合を有し、均一な構造であることがわかる。
【0060】
[実施例8、9]
アクリル繊維Aの束を高圧リアクター11内に入れて密封した後、高圧リアクター11内を二酸化炭素で置換し、高圧リアクター11内の温度(加熱処理温度)および加熱処理時間を表1に示す値に変更した以外は実施例1と同様に圧力をかけ、超臨界流体中で加熱処理を行い、耐炎化繊維の束を得た。
得られた耐炎化繊維束について、0.5mm以下の長さに切断してからIR測定1を行い、環化・脱水素化の定性評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
[実施例10]
図2に示す加熱処理装置2を用い、高圧リアクター21内にアクリロニトリル重合体Bの粉体2.8gを入れて密封した。ついで、高圧リアクター21内の空気を液化二酸化炭素ボンベ24から導入した二酸化炭素で置換してから、さらに液化二酸化炭素を導入した。なお、開始時の高圧リアクター21内温度は14℃、圧力は5.0MPaであった。
ヒーター(図示略)により高圧リアクター21を加熱したところ、加熱開始から15分で高圧リアクター21内の温度計が202℃を示し、圧力が9.0MPaを示した。高圧リアクター21内の温度が210℃を超えない様にヒーターを制御し、圧力は9.0MPaを維持するようにリークバルブ25を手動で制御した。
加熱処理温度約202℃、加熱処理圧力9.0MPaの超臨界流体中で加熱処理を15分実施し、その後ヒーターの電源を落とした。
自然冷却にて高圧リアクター21内の温度が50℃を下回るまでおよそ2時間放置した後、高圧リアクター21内の圧力を開放し、耐炎化粉体を取り出した。
得られた耐炎化粉体について、IR測定1を行い、環化・脱水素化の定性評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
[実施例11、12]
図2に示す加熱処理装置2を用い、アクリル繊維Cの束(長さ2.5m、重さ3.6g)を高圧リアクター21内の攪拌軸29に巻きつけて密封した。加熱処理温度、加熱処理圧力、および加熱処理時間を表1に示す値に変更した以外は実施例10と同様に圧力をかけ、超臨界流体中で加熱処理を行い、耐炎化繊維の束を得た。なお、
図2において、符号30はサンプル(アクリル繊維の束)である。
得られた耐炎化繊維束について、0.5mm以下の長さに切断してからIR測定1を行い、環化・脱水素化の定性評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
また、実施例12により得られた耐炎化繊維について、固体
13C−NMR測定を行った。固体
13C−NMRスペクトルを
図3に示す。
図3より、137ppmのピークと122ppmのピークの強度比(137ppmのピーク強度/122ppmのピーク強度)は、0.34であった。実施例12の場合は実施例4と同程度に反応していることがわかる。
このことから、原料にアクリルアミドおよびメタクリル酸を共重合したアクリロニトリル共重合体を用いると、アクリロニトリル単体の重合体を用いるよりも、より低温でかつ短時間で耐炎化反応が進行することがわかる。
【0064】
[実施例13]
アクリロニトリル重合体Bのフィルムを幅2cm、長さ5cm、重さ0.35g切り出し、
図2に示す加熱処理装置2を用い、高圧リアクター21内に切り出したフィルムを入れて密封した。加熱処理温度、加熱処理圧力、および加熱処理時間を表1に示す値に変更した以外は実施例10と同様に圧力をかけ、超臨界流体中で加熱処理を行い、耐炎化フィルムを得た。
得られた耐炎化フィルムについて、乳鉢で粉砕してからIR測定1を行い、環化・脱水素化の定性評価を行った。結果を表1に示す。
【0065】
[比較例1]
アクリル繊維Aの束を高圧リアクター11内に入れて密封した後、高圧リアクター11内に二酸化炭素を入れずに大気圧下で加熱処理を行った以外は、実施例1と同様にして、耐炎化繊維の束を得た。
得られた耐炎化繊維について、固体
13C−NMR測定を行った。固体
13C−NMRスペクトルを
図3に示す。137ppmのピークと122ppmのピークの強度比(137ppmのピーク強度/122ppmのピーク強度)は、0.12であった。
比較例1の場合、実施例1、4、12に比べて137ppmのピークと122ppmのピークの強度比が小さく、耐炎化反応が充分に進行していないことがわかる。
【0066】
[比較例2]
アクリル繊維Aの束の代わりに、アクリル繊維Bの束を用い、前記アクリル繊維Bの束を高圧リアクター11内に入れて密封した後、高圧リアクター11内に二酸化炭素を入れずに大気圧下で加熱処理を行った以外は、実施例1と同様にして、耐炎化繊維の束を得た。
得られた耐炎化繊維について、IR測定2を行った。赤外吸収スペクトルを
図4に示す。
図4より、繊維の中央部が平坦であり、繊維の内部まで脱水素反応が充分に進行していないことがわかる。すなわち、比較例2で得られた耐炎化繊維は、内部まで均一な構造ではなかった。
【0067】
[比較例3、4]
アクリル繊維Aの束を高圧リアクター11内に入れて密封した後、高圧リアクター11内を二酸化炭素で置換し、加熱処理圧力および加熱処理時間を表1に示す値に変更した以外は実施例1と同様に圧力をかけて加熱処理を行い、耐炎化繊維の束を得た。なお、加熱処理中の二酸化炭素は超臨界流体の状態ではなく、気体の状態であった。
比較例4により得られた耐炎化繊維束について、0.5mm以下の長さに切断してからIR測定1を行い、環化・脱水素化の定性評価を行った。結果を表1に示す。
【0068】
また、比較例3により得られた耐炎化繊維について、固体
13C−NMR測定を行った。固体
13C−NMRスペクトルを
図3に示す。
図3より、137ppmのピークと122ppmのピークの強度比(137ppmのピーク強度/122ppmのピーク強度)は、0.12であった。比較例3の場合、実施例1、4、12に比べて137ppmのピークと122ppmのピークの強度比が小さく、耐炎化反応が充分に進行していないことがわかる。
【0069】
[比較例5]
アクリル繊維Aの束を高圧リアクター11内に入れて密封した後、高圧リアクター11内を窒素で置換した以外は、実施例1と同様に圧力をかけ、超臨界流体中で加熱処理を行い、耐炎化繊維の束を得た。
得られた耐炎化繊維束について、0.5mm以下の長さに切断してからIR測定1を行い、環化・脱水素化の定性評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
[比較例6]
図2に示す加熱処理装置2を用い、アクリル繊維Cの束(長さ2.5m、重さ3.6g)を高圧リアクター21内の攪拌軸29に巻きつけて密封した。加熱処理温度、加熱処理圧力、および加熱処理時間を表1に示す値に変更した以外は実施例10と同様に圧力をかけて加熱処理を行い、耐炎化繊維の束を得た。なお、加熱処理中の二酸化炭素は超臨界流体の状態ではなく、気体の状態であった。
得られた耐炎化繊維束について、0.5mm以下の長さに切断してからIR測定1を行い、環化・脱水素化の定性評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1から明らかなように、各実施例で得られた耐炎化繊維、耐炎化粉体、および耐炎化フィルムは、ピーク強度比1の値が大きかった。この結果より、ニトリル基の環化が進行しているのがわかる。また、ピーク強度比2の値も大きく、脱水素化が進行しているのがわかる。
一方、各比較例で得られた耐炎化繊維は、ピーク強度比1の値が小さかった。この結果よりニトリル基の環化が充分に進行していないのがわかる。また、ピーク強度比2の値も小さく、脱水素化が充分に進行していないことがわかる。