【文献】
前場 良太,「未知なるリン脂質―プラスマローゲン―」,オレオサイエンス,社団法人日本油化学会,2005年 9月 1日,Vol. 5, No. 9,p. 405-415
【文献】
柘植 治人,「(1)コリン発見の歴史と生理作用」,ビタミン,日本ビタミン学会,2001年 8月25日,Vol. 75, No. 8,p. 421-425
【文献】
和久 敬蔵,「リン脂質代謝と細胞分裂又は細胞活性化との関連性について」,ファルマシア,社団法人日本薬学会,1979年10月 1日,Vol. 15, No. 10,p. 924-930
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、動脈硬化症、高脂血症、糖尿病、高血圧、及び中心性肥満などの生活習慣病が、共通の代謝異常を基盤として発症することが明らかとなり、これらの疾病の基盤となる代謝異常がメタボリックシンドロームと表現されるようになった。厚生労働省令第百五十七号「特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準(2007年12月28日)」において、40〜74歳の保険者に特定健康診査が義務付けられ、メタボリックシンドロームの診断基準である腹囲、血圧、血清トリグリセライド(中性脂肪)、高比重リポ蛋白コレステロール(HDL−C)量、血糖が検査されることとなり、2008年4月より実施されている。メタボリックシンドローム診断者には保健指導もなされるため、国民の健康に対する意識が高まり、生活習慣病予防への動きも積極的になっている。
【0003】
従来、動脈硬化症の発症リスクマーカーとしては、高密度リポ蛋白コレステロール(HDL−C)、低密度リポ蛋白コレステロール(LDL−C)量、小粒子LDL(sdLDL)、アポリポ蛋白質A、アディポネクチン、CRP(C−reactive Protein:C反応性蛋白質)、及びAIP(Atherogenic Index of Plasma:血清動脈硬化指標)などが知られている。
sdLDLは、中性脂肪を高含有するLDLであり、通常のLDLよりも粒子サイズが小さい。LDLよりも酸化されやすく、動脈硬化惹起性が高いとされている。アポリポ蛋白質Aは、HDLを構成する蛋白質であり、細胞内からコレステロールの排出を促進する。アディポネクチンは、脂肪細胞から分泌されるホルモンであり、インスリン感受性の亢進、動脈硬化抑制、及び抗炎症の作用があるとされる。また、血中濃度は内臓脂肪量に負の相関がある。CRPは、体内の炎症反応が生じる際に生成される蛋白質であり、慢性の血管炎症という側面を持つ動脈硬化のマーカーとして注目されている。AIPは、血清中性脂肪量とHDL−C量から計算される〔log(中性脂肪/HDL−C量)〕
血漿(Plasma)動脈硬化指標である。
また、動脈硬化の発症原因に最も寄与するのは、LDLの酸化であると言われている。コレステロールの代謝や輸送の異常により酸化されたLDLは、マクロファージの泡沫化を招き、また、好中球からのスーパーオキシド産生を誘起させることにより、血管内皮下での更なる脂質過酸化や脂質の蓄積などを引き起こし、疾病の進展を促す。従って、LDLの酸化の抑制が動脈硬化の発症の抑制に極めて有効である。
【0004】
一方、プラスマローゲンは、グリセロリン脂質の一種であり、グリセロール骨格のsn−1位にオレフィニル鎖(ビニルエーテル結合)、sn−2位にアシル鎖、sn−3位に塩基の結合したリン酸を持つものである。天然に存在するプラスマローゲンの主たるオレフィニル鎖の炭素数は16〜18であり、主たるアシル鎖は炭素数16〜22の脂肪酸である。また、そのリン酸に結合する主たる塩基は、コリンとエタノールアミンであり、それぞれ、コリン型プラスマローゲン(以下、CPと称することがある)、エタノールアミン型プラスマローゲン(以下、EPと称することがある)と呼ばれ、例えば、哺乳類の心臓や骨格筋ではCPの比が高く、その脳や腎臓ではEPの比が高いことが知られている。
【0005】
ヒト血漿中には2〜3mMのリン脂質が存在し、それらはリポタンパク質の構成成分である。その全リン脂質の60〜75%はコリングリセロリン脂質で、2〜5%はエタノールアミングリセロリン脂質であり、10〜20%はスフィンゴミエリンリン脂質である。
血漿中のプラスマローゲン濃度は0.1〜0.3mMで、その約40%がCP、約60%がEPである。つまり、コリングリセロリン脂質の約5%、エタノールアミングリセロリン脂質の約60%がプラスマローゲンである。その他の塩基を持つプラスマローゲンは血中にはほとんど存在しない。
【0006】
プラスマローゲンの生理的な役割として、細胞融合や分泌作用に関わる膜融合作用、情報伝達や生体高分子輸送への関与、酸化され易い多価不飽和脂肪酸の貯蔵体としての役割、及び内因性抗酸化物質としての役割などが報告されている。また、ヒトの遺伝的なプラスマローゲン欠損が、重篤な精神遅滞、副腎機能障害、白内障、聴覚障害、又は発育不全などの病状を呈すること、あるいはアルツハイマー症患者、及び高齢者では血清プラスマローゲン量が減少することが報告されており、プラスマローゲンが生体内できわめて重要な役割を担うことが示唆されている(非特許文献1)。また、プラスマローゲンは、血中リポタンパク質の生成時に優先的に導入されることが知られ、かつ、その内因性の抗酸化能から、LDLの酸化防御因子として作用することが考えられる。
【0007】
特許文献1では、高脂血症者を含む中高年者群(148名、平均年齢65.2歳)の血液のコリン型プラスマローゲン及びエタノールアミン型プラスマローゲン量を測定し、CP/EP比が、空腹時トリグリセライド(「中性脂肪」を意味する)及びLDLサイズ(「sdLDL」を意味する)と、それぞれ有意な相関性(相関係数−0.359及び0.402)を示し、CP/EP比を生活習慣病予防の検査法として用いることが開示されている。また、非特許文献1は、更に全CP量又は全EP量が、HDL−C、アポリポ蛋白質A−I、及びアポリポ蛋白質A−IIと、それぞれ相関(相関係数>0.28)することを開示している。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のCP/EP比と、空腹時トリグリセライド(中性脂肪)及びLDLサイズ(sdLDL)との相関、並びに非特許文献1に記載の全CP量又は全EP量と、HDL−C、アポリポ蛋白質A−I、及びアポリポ蛋白質A−IIとの相関は高いものではなく、生活習慣病の検出のマーカーとしては、十分なものではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1において、冠動脈狭窄の有無、耐糖能異常
、年齢、性、CAG、OGTT、高脂血症
、身長、体重、BMI、喫煙(本数/日、期間)、家族歴、高血圧症、痛風などの検査項目と、血漿プラスマローゲン濃度、尿酸値、TC、TG空腹時、HDL、LDL、FBS、HbA1c、TC_2、TG_2、HDL_2、LDL_2、アポ蛋白A−I、アポ蛋白A−II、アポ蛋白B、アポ蛋白C−II、アポ蛋白C−III、アポ蛋白E、LP(A)、LP−F_PGR、リポ蛋白α(HDL)、リポ蛋白β(LDL)、リポ蛋白preβ(VLDL)、RLP−C、S_0’、S_120’、IRI_0’、IRI_120’、IRI_0’、IRI_120’、HOMA_IR、LPL、アディポネクチン、MDA_LDL、LPL後、ApoB48前、ApoB48後、LDL_size、リン脂質濃度、コリン型プラスマローゲン(CP)、エタノールアミン型プラスマローゲン(EP)、CP/EPなどの検査項目を測定し、各項目間の相関性を調べたことが記載されている。そして、空腹時トリグリセリド(TG)、HDL
2、CP/EPの各値と、LDLサイズとの間で有意な相関性があること、及び前記のようにCP/EPと空腹時トリグリセリド(TG)との間で、有意な相関があることが記載されているが、その他の検査項目間において相関性があることは、記載されていない。
【0012】
前記のように、特許文献1では、CP/EP比及び空腹時トリグリセライド(中性脂肪)、並びにCP/EP比及びsdLDLに有意な相関が得られているが、相関係数はそれぞれ−0.359及び0.402とやや低かった。また、非特許文献1における、全CP量と、HDL−C、アポリポ蛋白質A−I、及びアポリポ蛋白質A−IIとの相関も、それぞれ0.308、0.435、及び0.241であり、高いものではない。
この理由は、特許文献1及び非特許文献1では、
血清(Serum)中プラスマローゲン濃度を測定する検査法として、抽出脂質に三ヨウ化物イオンを反応させて脂質成分中のプラスマローゲンに放射性ヨウ素を特異的に結合させ、それをクロマトグラフィーの手法によりCPとEPとに分別して定量する方法によっているため、放射性ヨウ素を用いた場合の減衰率の影響などの点で充分な精度ではなかったことが、1つの原因であると思われる。
更に、特許文献1及び非特許文献1のプラスマローゲン測定方法では、内部標準物質を用いていないために、測定間、測定日間、又は測定者間のバラツキがあり、十分な相関が得られなかった可能性が考えられる。
【0013】
従って、本発明の目的は、40〜74歳の特定検診対象者を含む広範囲の被験者において、メタボリックシンドローム又は生活習慣病の従来のマーカーとの高い相関を有するマーカーを提供すること、及びメタボリックシンドローム又は生活習慣病の有効な検出方法を提供することである。更に、メタボリックシンドローム又は生活習慣病のリスク又は重篤度を示すことのできるマーカーを提供し、更にメタボリックシンドローム又は生活習慣病のリスク又は重篤度の分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決するため、まず、プラスマローゲンの分析方法について、より精度の高い血液中プラスマローゲンを定量する方法を鋭意検討した結果、上記特許文献1に記載の検査法において、内部標準物質として、1−アルケニル環状ホスファチジン酸(1−alk−1’−enyl−sn−glycerol−2,3−cyclic phosphate(以下、cAPと称することがある))を用いることで、より精度を高めた分析法とすることができることを知見した。そして、更に、内部標準物質として、合成コリン型プラスマローゲンを使用し、プラスマローゲンを液体クロマトグラフィータンデム質量分析器(以下、LC−MS/MSと称する)によって分析することで、CPのsn−2位に結合した脂肪酸の分析(CPの分子種の分析)が精度の高いレベルで可能となることを知見した。
【0015】
前記の内部標準物質を用いた2つの分析方法により、重疾病患者を除く20〜60代の被験者451人を対象にした調査を行ったところ、全血清プラスマローゲン量と比較して、CP量、特にはsn−2位に結合した脂肪酸がオレイン酸であるCP(以下、C18:1CPと称する)含量、又はsn−2位に結合した脂肪酸がリノール酸であるCP(以下、C18:2CPと称する)含量が、HDL−C、中性脂肪、sdLDLの他、腹囲、アディポネクチン、AIPなどの動脈硬化症関連因子と強く相関することを確認した。
【0016】
また、全リン脂質量と全CP量との比(以下、「CP/PL」と称する)は、CP量のみよりも前記の動脈硬化症関連因子と高い相関を示すことを見出した。
更に、全CP量と体重(以下、「CP/体重」と称する)との比、又は全CP量と中性脂肪との比(以下、「CP/中性脂肪」と称する)も、全CP量のみよりも前記の動脈硬化症関連因子と高い相関を示すことを見出した。
前記の測定項目は、特許文献1に示されたマーカーであるCP/EPよりも各項目間の相関係数が高く、より多くの項目と相関すること、特に、肥満症の関連因子である腹囲、アディポネクチンとの相関もあることから、これらが脂質代謝異常全般を反映するマーカーとして有効性が高いことがわかった。
【0017】
すなわち、本発明は、
[1]被検試料中のコリン型プラスマローゲン濃度を測定する工程を含むことを特徴とする、メタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出方法、
[2]前記コリン型プラスマローゲン濃度が、sn−2位にオレイン酸を有するコリン型プラスマローゲン、又はsn−2位にリノール酸を有するコリン型プラスマローゲンの濃度である、[1]に記載のメタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出方法、
[3]被検試料中
のリン脂質濃度
、中性脂肪濃度、及び被検者の体重からなる群から選択される値を測定する工程、及び前記コリン型プラスマローゲン濃度の測定値と、前記被検試料中のリン脂質濃度の測定値、被検試料中の中性脂肪濃度の測定値、又は被検者の体重の測定値との比を計算する工程、を更に含む、[1]又は[
2]に記載のメタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出方法、
[4]前記生活習慣病が、脂質異常症、高血圧症及び動脈硬化症からなる群から選択される、[1]〜[3]のいずれかに記載のメタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出方法、
[5]メタボリックシンドローム又は生活習慣病の、発症予防用又は治療効果のモニタリング用である、[1]〜[3]のいずれかに記載のメタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出方法、
[6]プラスマローゲンの分析用内部標準物質として、
下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
3は、炭素数4〜26のアルキル基又はアルケニル基であり、Mは水素原子又は対カチオンである)で表される1−アルケニル環状ホスファチジン酸、及び
一般式(2)
【化2】
(式中、R
1は、炭素数7、9、11、13、15、17、19、又は21のアルキル基であり、R
2は、炭素数8〜21のアルキル基又はアルケニル基である)で表される化合物、からなる群から選択される化合物の少なくとも1つを用いる、請求項1〜5のいずれかに記載のメタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出方法、
[7]プラスマローゲンの分析用内部標準物質として、前記一般式(1)で表される1−アルケニル環状ホスファチジン酸、を含むことを特徴とする、メタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出キット、及び
[8]プラスマローゲンの分析用内部標準物質として、前記一般式(2)で表される化合物を含むことを特徴とする、メタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出キット、
に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のメタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出方法又は検出キットによれば、従来の検出方法と比較して、高率にメタボリックシンドローム又は生活習慣病を検出することが可能であり、特にメタボリックシンドロームを高率に検出することが可能である。また、本発明の検出方法又は検出キットにより得られる測定値は、生活習慣病のマーカーであるHDL−C、sdLDL、AIP、腹囲、体重、又はアディポネクチンの測定値との高い相関を示す。更に、本発明の検出方法又は検出キットにおいて、内部標準物質として、1−アルケニル環状ホスファチジン酸、又は合成コリン型プラスマローゲンを用いることにより、正確にコリン型プラスマローゲンの量を測定することが可能になり、更にコリン型プラスマローゲンの分子種の正確な分析も可能になった。
従って、本発明の検出方法又は検出キットは、メタボリックシンドローム又は生活習慣病の、リスク又は重篤度を、従来に比べ、より正確に診断することができ、本発明により見出されたマーカーは、メタボリックシンドローム又は生活習慣病の、リスク又は重篤度を、従来のマーカーに比べ、より正確に示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[1]メタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出方法
本発明のメタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出方法は、被検試料中のコリン型プラスマローゲン濃度を測定する工程を含む。
【0020】
本発明の検出方法においては、被検試料中の総量のコリン型プラスマローゲン濃度、又はコリン型プラスマローゲンの分子種の濃度を測定する。ここで、コリン型プラスマローゲン濃度、又はコリン型プラスマローゲンの分子種の濃度の測定において、内部標準物質を添加せずに分析・測定をした場合、分析において当然発生してくるサンプル間の抽出効率の差、また、例えば質量分析器に供した際のイオン化効率のインジェクション毎の差の補正を行うことができない。そのため、内部標準物質を添加することが行われる。さて、従来は内部標準物質としてコール酸などを用いていたが、その極性やイオン化効率などがプラスマローゲンと大きく異なるため、正確なプラスマローゲン含量の測定値であるとはいえないものであった。
本発明者らは、新規な内部標準物質として、1−アルケニル環状ホスファチジン酸〔1−alk−1’−enyl−sn−glycerol−2,3−cyclic phosphate(以下、cAPと称することがある)〕、又は合成コリン型プラスマローゲンを用いることで、コリン型プラスマローゲンの正確な含有量の測定が可能となることを見出した。以下に、本発明の検出方法において内部標準物質として用いることのできる1−アルケニル環状ホスファチジン酸、及び合成コリン型プラスマローゲンについて説明する。
【0021】
《内部標準物質》
(1−アルケニル環状ホスファチジン酸)
本発明の検出方法において、内部標準物質として用いることのできる1−アルケニル環状ホスファチジン酸(cAP)は、下記一般式(1)
【化3】
(式中、R
3は、炭素数4〜26のアルキル基又はアルケニル基であり、Mは水素原子又は対カチオンである)
で表される化合物である。
【0022】
前記1−アルケニル環状ホスファチジン酸において、R
3は、炭素数4〜26のアルキル基又はアルケニル基であり、好ましくは炭素数8〜22のアルキル基又はアルケニル基であり、より好ましくは炭素数12〜18のアルキル基又はアルケニル基であり、最も好ましくは炭素数14〜16のアルキル基又はアルケニル基である。なお、アルケニル基に比べアルキル基であることが好ましい。プラスマローゲンのsn−1位の側鎖は、そのほとんどが16:0、18:0、及び18:1のビニルエーテル結合を有する炭化水素基であり、R
3の炭素数が3以下、又は27以上のアルキル基を有する1−アルケニル環状ホスファチジン酸の場合、挙動が異なる可能性があるため好ましくない。
【0023】
前記cAPの調製は、化学合成あるいは酵素合成によって行うことができる。価格的に有利である酵素合成法については、特開2001−178489号公報に記載の方法に準じて行うことができ、1−リゾリプラスマローゲン(例えば1−リゾコリンプラスマローゲン)と、ホスホリパーゼD(例えばActinomadura sp.Strain No.362由来のホスホリパーゼD)との反応生成物として、1−リゾホスファチジン酸プラスマローゲンとともにcAPが得られる。更に、本発明者らは、エーテル/エタノール混合溶媒を用いる再抽出により、1−リゾホスファチジン酸プラスマローゲンを除去することができ、高純度のcAPが得られることを見出している。
前記cAPは、内部標準物質として、後述の総CP量の測定方法において使用することができる。
【0024】
(合成コリン型プラスマローゲン)
発明の検出方法において、内部標準物質として用いることのできる合成コリン型プラスマローゲンは、下記一般式(2)
【化4】
(式中、R
1は、炭素数7、9、11、13、15、17、19、又は21のアルキル基であり、R
2は、炭素数8〜21のアルキル基又はアルケニル基である)で表される化合物である。
【0025】
前記合成コリン型プラスマローゲンにおいて、R
1は、炭素数7、9、11、13、15、17、19、又は21の奇数のアルキル基であり、好ましくは炭素数7、9、11、19、又は21のアルキル基であり、より好ましくは炭素数7、9、19、又は21のアルキル基であり、最も好ましくは炭素数19、又は21のアルキル基である。プラスマローゲンのsn−1位の側鎖は、そのほとんどが16:0、18:0、及び18:1のビニルエーテル結合を有する炭化水素基であり、炭素数が奇数の炭化水素基は生体内にほとんど存在しない。従って、R
1が奇数のアルキル基である本発明の前記化合物を、内部標準化合物としてプラスマローゲンの分析に用いることによって、各種分析において溶出位置が異なり、生体内のプラスマローゲンと明確に区別することが可能である。
【0026】
前記一般式(2)で表される化合物は、本発明者が特願2009−296744号明細書に記載している。前記化合物は、ガスクロマトグラフィーを用いるプラスマローゲンの測定方法、高速液体クロマトグラフィーを用いるプラスマローゲンの測定方法、及び質量分析を用いるプラスマローゲンの測定方法において、内部標準物質として使用でき、特には液体クロマトグラフィータンデム質量分析器(LC−MS/MS)を用いたプラスマローゲンの測定方法において使用することにより、正確なプラスマローゲンの分子種の測定が可能である。
【0027】
前記合成コリン型プラスマローゲンの特に好ましい態様においては、式(3)
【化5】
で表される化合物を挙げることができる。
【0028】
前記式(3)で表される合成コリン型プラスマローゲンは、下記反応工程式(4)に従い、製造することができる。
【化6】
前記合成コリン型プラスマローゲンは、内部標準物質として、後述の総CP量の測定方法、及びCPの分子種の測定方法において使用することができる。また、コール酸を内部標準物質として用いた場合と比較すると、前記合成コリン型プラスマローゲンは、内部標準物質の極性、抽出効率、及び質量分析器でのイオン化効率のすべての面において、測定されるプラスマローゲンに類似していると考えられ、内部標準化合物として優れていた。すなわち、測定値のバラツキが少なく、精確な測定値を得ることが可能であった。
【0029】
《被検試料からのプラスマローゲンの抽出》
本発明の検出方法におけるプラスマローゲン濃度の測定では、まず被検試料からプラスマローゲンの抽出を行う。被検試料からのプラスマローゲンの抽出方法は、リン脂質を回収できる方法であれば特に限定されるものではなく、Bligh&Dyer法、Folch法、ヘキサン/エタノール混合溶媒を用いる方法、エーテル/エタノール混合溶媒を用いる方法、又は被検試料を凍結乾燥させてクロロホルム/メタノール混合溶媒などの溶媒で抽出する方法を挙げることができる。これらの抽出方法において、Bligh&Dyer法は操作が煩雑であること、ヘキサン/エタノール混合溶媒を用いる方法は回収率が低いことから、エーテル/エタノール混合溶媒を用いる方法、又は凍結乾燥させてクロロホルム/メタノール混合溶媒などの溶媒で抽出する方法が好ましい。また、特に、後述の放射性ヨウ素反応試薬を用い、HPLCで分析する方法においては、凍結乾燥試料を用いた方法は水溶性夾雑物が混入することがあり、エーテル/エタノール混合溶媒を用いる方法が好ましい。
エーテル/エタノール混合溶媒を用いる方法とは、被検試料に対してエーテル/エタノール混合溶媒を添加して抽出した後、更に水を添加してエーテル層を離層させ、エーテル層を脂質抽出液として回収する方法である。具体的には、被検試料(例えば、血清又は血漿)1.0mLに対し、エーテル0.2〜2.0mL、好ましくは0.5〜1.5mL、エタノール1.0〜4.0mL、好ましくは2.0〜3.0mLを加えて抽出する。このときエーテル/エタノール比が1:2〜1:4になることが好ましい。続いてエーテルを2.0〜10mL、及び水を4.0〜10mL加えてエーテル層と水層を分離させる。このとき加えるエーテル/水の比が1.0〜2.5であることが望ましい。上記操作により分離したエーテル層を脂質抽出液として回収する。更に回収率を高めるために、残った水層に更にエーテル2.0〜5.0mLを加えて抽出を行うことができる。
【0030】
また、被検試料を凍結乾燥後にクロロホルム及びメタノールを用いる方法は、例えば以下のように行うことができる。得られた被検試料(例えば、血漿)を凍結乾燥し、クロロホルム:メタノール=2:1の混液を0.5mL添加する。この溶液を遠心分離し、上層(1)を回収する。残った下層に、クロロホルム:メタノール=2:1の混液を1mL混合し、更に遠心分離を行い、上層(2)を回収する。前記上層(1)及び上層(2)を混合し、窒素を吹き付けることにより溶媒を除去し、固形物を1mLのメタノールに溶解することによって、プラスマローゲンを含む抽出試料を得ることができる。
【0031】
前記被検試料としては、ヒトを含む動物由来の試料であれば特に限定されるものではなく、例えば、ヒトを含む動物の液体試料(例えば、血液、血清、血漿、リンパ液、組織液、髄液、唾液、尿、涙、又は汗等)、臓器、細胞、及び組織などを挙げることができるが、血液、血清、又は血漿(以下、血液等と称することがある)がより好ましい。例えば、ヒトの血漿を被検試料として用いる場合は、血液を血液凝固剤(例えば、EDTA)の入った採血管で採血し、遠心分離により血球成分を除いて用いることができる。また、ヒトの血清を被検試料として用いる場合は、血液を採血後に室温に置き、分離した血清を用いることができる。更に、臓器、組織、又は細胞を用いる場合は、臓器、細胞、又は組織用の抽出液を用いて、プラスマローゲンの含まれた被検試料液を得ることができ、その被検試料液から、前記プラスマローゲンの抽出方法により、プラスマローゲンを抽出することができる。
抽出されたプラスマローゲンは、以下の総CP量の測定方法、及びCPの分子種の測定方法に用いることができる。
【0032】
《総CP量の測定方法》
総CP量の測定方法は、CPとEPを分別して測定することができる分析方法であれば、特に限定されるものではなく、ガスクロマトグラフィーを用いる方法、高速液体クロマトグラフィーを用いる方法、及び質量分析方法を挙げることができるが、特には高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いる方法、又は質量分析方法が好ましい。
被検試料(例えば、血清又は血漿)中のCP量の定量としては、これまでプラスマローゲンの測定法として、sn−1位由来のジメチルアセタールの分析によりプラスマローゲンの量を換算する方法や、TLCで分画し、リン脂質クラス分けをした後にガスクロマトグラフィーにて分子種分析する方法しかなかったが、近年では液体クロマトグラフィーを使用した分析が、多数の検体を迅速に高感度で分析可能な点で多く行われるようになっており、本発明でも、この液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用することができる。更に、質量分析器を用いてプラスマローゲンの分子種を分析する方法も行われるようになっており、本発明においては、質量分析器を用いることもできる。以下に、詳細に説明する。
【0033】
(HPLCによる総CP量の測定)
HPLCを用いた被検試料(例えば、血清又は血漿)中の総CP量の定量方法としては、内部標準としてcAPを被検試料に添加し抽出するか、又はcAPを抽出脂質に添加し、メタノール中で放射性ヨウ素試薬と反応させて、生成される放射性ヨウ素結合CPをHPLCで溶出して放射活性を測定する方法によることが好ましい。
【0034】
放射性ヨウ素反応試薬の調製においては、市販の放射性ヨウ素(Na
125I)を、メタノール中、pH5.5〜6.0の酸性条件下で、過酸化水素などの酸化剤により、一晩、室温で酸化することによって行うことができる。この試薬中には、プラスマローゲンに特異的に結合する放射性三ヨウ化物(I
3−)が70%以上含有される。
【0035】
被検試料からの抽出脂質と放射性ヨウ素反応試薬との反応においては、CPを含有するメタノール溶解試料(例えば、血清抽出試料0.001〜0.1mL、CP推定含量0.1〜400nmol)と放射性ヨウ素反応試薬(例えば、ヨウ素原子10mM試薬0.001〜0.1mL)とを混合し、一定温度(通常4℃〜30℃)、一定時間(通常、12〜24時間)静置することで行う。
HPLCの溶出条件においては、コリングリセロリン脂質、エタノールアミングリセロリン脂質、及び内部標準が分別できるカラム(例えば、Diolカラムなど)を用い、適当な溶出溶媒(例えば、アセトニトリル/水/酢酸/アンモニア)を用いて溶出することができる。
CP(正確には、CP由来のヨウ素結合コリングリセロリン脂質)の検出は、ガンマカウンター(好ましくはフロー型ガンマカウンター)で放射活性を測定することにより行う。
【0036】
前記放射性ヨウ素反応試薬の内部標準物質としては、化学量論的にヨウ素と結合し、かつ脂溶性の化合物を用いることができるものであれば限定されるものはなく、例えば、2−ヒドロキシエチルビニルエーテルやジエチレングリコールビニルエーテルなどのビニルエーテル化合物や血清中にほとんど存在しないリゾプラスマローゲン、セリンプラスマローゲン、前記生体内に存在しない合成コリン型プラスマローゲン(特には、R
3が炭素数4〜6又は22〜24のアルキル基を有する合成コリン型プラスマローゲン)及び1−アルケニル環状ホスファチジン酸を挙げることができるが、好ましくは、1−アルケニル環状ホスファチジン酸(cAP)を用いる。cAPはコリングリセロリン脂質と物理化学的性状が類似し、HPLCでの分離が容易であり、かつ保存安定性が高いからである。
【0037】
(質量分析による総CP量の測定)
質量分析器による総CP量の分析方法は、後述の質量分析器を用いたCPの分子種の測定方法に従って行うことができる。すなわち、被検試料からのプラスマローゲンの抽出、内部標準物質、及び質量分析器は、特に限定されるものではない。後述のCPの分子種の測定においては、生体内に存在する主要な30種のコリン型プラスマローゲンの濃度を測定することが可能であるが、それらの濃度を合計することによって、被検試料中の総CP量を求めることができる。
【0038】
《CPの分子種の測定方法》
CPの分子種の測定方法は、CPの分子種を分離して測定することができる方法であれば、特に限定されることはなく、例えばガスクロマトグラフィーを用いる方法、高速液体クロマトグラフィーを用いる方法、及び質量分析方法を挙げることができるが、特には質量分析方法が好ましい。質量分析方法も、特に限定されるものではないが、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いる質量分析法(以下、LC/MS法と称する)、ガスクロマトクラフィー(GC)を用いる質量分析法(以下、GC/MS法と称する)、及びキャピラリー電気泳動(CE)を用いる質量分析法(以下、CE−MS法と称する)を挙げることができ、特には、LC/MSの1つである液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(以下、LC−MS/MS法と称する)が好ましい。LC−MS/MS法は、感度が高く、更にはプラスマローゲンの多様な分子種を分析することが可能であるからである。
【0039】
被検試料からのプラスマローゲンの抽出方法は特に限定されるものではなく、前記の抽出方法を用いることができるが、好ましい抽出方法は、凍結乾燥後にクロロホルム及びメタノールを用いる方法である。内部標準物質は、CPの分子種ごとの検量線を作成できる限り限定されるものではないが、構造の類似性から、前記合成コリン型プラスマローゲンが好ましい。合成コリン型プラスマローゲンの調製は、前記の化学合成又は酵素合成によって行うことができ、特に制限されない。また、合成コリン型プラスマローゲンの種類も、生体内に存在しないものであれば、特に限定されるものではないが、前記式(3)で表されるsn−1位がトリコサン酸、sn−2位がオレイン酸のコリン型プラスマローゲン(以下、p23:0/18:1と称することがある)が好ましい。
【0040】
合成コリン型プラスマローゲンは、プラスマローゲン抽出前の被検試料に添加してもよく、またプラスマローゲン抽出後の試料に添加してもよいが、抽出効率の補正も可能であることから、プラスマローゲン抽出前の被検試料に添加する方が好ましい。
【0041】
プラスマローゲンの質量分析における、内部標準化合物を用いた補正の方法は、特に限定されるものではないが、既知の段階希釈した濃度のプラスマローゲンと、既知の濃度の内部標準化合物とから、作成した検量線を用いる方法が好ましい。すなわち、検量線はプラスマローゲンの濃度の異なる標準溶液に、内部標準化合物を添加した検体を用いて、作成することができる。
LC−MS/MS法による質量分析において、検量線を作成する場合には、内部標準化合物のピークフラグメントの面積と、プラスマローゲンのピークフラグメントの面積との比を求め、この比をグラフ上にプロットすることにより信頼性の高い検量線を作成することができる。実際の測定においては、生体試料に既知量の内部標準化合物を添加し、得られた検量線に、内部標準化合物のピークフラグメントと、検体中のプラスマローゲンのピークフラグメントの面積比を当てはめることにより、精確な測定値を得ることができる。
【0042】
プラスマローゲンを質量分析する場合には、イオン化によりいくつかのフラグメントが生成されることが知られており、検量線を作成するためのフラグメントは特に限定されるものではないが、前記合成コリン型プラスマローゲン、及び試料中のプラスマローゲンのピークフラグメントとしては、例えば下記一般式(5)
【化7】
で表されるコリンリン酸由来のフラグメント(以下、「コリンリン酸フラグメント」と称することがある)を用いることが好ましい。前記合成コリン型プラスマローゲンの前記コリンリン酸フラグメント、及び試料中のプラスマローゲンの前記コリンリン酸フラグメントの面積比をプロットすることにより、検量線を作成することができる。
【0043】
作成された検量線を用いて、プラスマローゲンの分子種ごとの濃度の測定が可能である。被検試料中の主要なコリン型プラスマローゲンの分子種は、sn−1位が16:0、18:0、又は18:1の3種類、sn−2位が16:0、18:0、18:1、18:2、18:3、20:4、20:5、22:4、22:5、又は22:6の10種類である。従って、生体内の主要なコリン型プラスマローゲンの分子種は30種類である。なおエタノールアミン型プラスマローゲンの分子種のsn−1位の側鎖、及びsn−2位の側鎖も同様であり、生体内の主要なエタノールアミン型プラスマローゲンの分子種も30種類である。また、すべてのコリン型プラスマローゲンの分子種の濃度を合計することによって、被検試料中の総CP量を求めることもできる。
また、本明細書において、sn−1位の側鎖は、「−CH=CH−R
1」を意味し、側鎖に含まれる炭素数と二重結合の表記については、例えば「16:1」と記載した場合は、側鎖に含まれる炭素数が16であり、ビニルエーテル結合を除いた二重結合が1であることを示す。また、sn−2位の側鎖は、「−CO−R
2」を意味し、側鎖に含まれる炭素数と二重結合の表記については、例えば「20:4」と記載した場合は、側鎖に含まれる炭素数が24であり、二重結合が4であることを示す。
【0044】
《総CP量によるメタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出》
前記総CP量の測定方法によって得られた総CP量の測定値は、後述の実施例に示すように、体重(相関係数:−0.334)、腹囲(相関係数:−0.375)、中性脂肪(相関係数:−0.327)、HDL−C(相関係数:0.714)、sdLDL(相関係数:−0.224)、AIP(相関係数:−0.576)、及びアディポネクチン(相関係数:0.314)と高い相関性を示す(表3及び表4)。
また、総CP量は、健常者群では65.9μMであるのに対して、メタボリックシンドローム群では56.5μMであり、メタボリックシンドローム群で有意に低いことがわかる(表5)。
【0045】
《CPの分子種の濃度によるメタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出》
本発明の検出方法においては、総CP量以外にCPのそれぞれの分子種の濃度を用いることができる。例えば、sn−1位及びsn−2位の側鎖の違いにより30種類のCPの分子種ごとの濃度を用いることもでき、sn−1位の側鎖の違いにより3種類の分子種ごとの濃度を用いることもでき、またsn−2位の側鎖の違いにより、10種類のCPの分子種ごとの濃度を用いることもできるが、sn−2位にオレイン酸を有するコリン型プラスマローゲン(以下、C18:1CPと称することがある)又はsn−2位にリノール酸を有するコリン型プラスマローゲン(以下、C18:2CPと称することがある)の濃度を用いることが好ましく、特に好ましくはC18:1CPの濃度を用いる。
【0046】
前記C18:1CPの濃度の測定値は、実施例に示すように、体重(相関係数:−0.438)、腹囲(相関係数:−0.461)、中性脂肪(相関係数:−0.415)、HDL−C(相関係数:0.757)、sdLDL(相関係数:−0.319)、AIP(相関係数:−0.641)、及びアディポネクチン(相関係数:0.446)と高い相関性を示す(表4)。またC18:1CPの濃度は、健常者群では6.3μMであるのに対して、メタボリックシンドローム群では4.8μMであり、メタボリックシンドローム群で有意に低いことがわかる(表5)。
【0047】
《CPの濃度及びリン脂質濃度の比による検出》
本発明の検出方法の別の態様においては、被検試料中のコリン型プラスマローゲン濃度の測定値と、被検試料中のリン脂質濃度の測定値との比によって、メタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出をすることができる。コリン型プラスマローゲン濃度は、総CP量、CPの分子種の濃度のいずれも用いることができるが、好ましくは、C18:1CP又はC18:2CPの濃度である。
また、コリン型プラスマローゲン濃度の測定値と、被検試料中のリン脂質濃度の測定値との比の計算方法は特に限定されるものではないが、例えば「CPの濃度/リン脂質濃度」によって計算することができる。この計算方法の場合、リン脂質中の総コリン型プラスマローゲン濃度、又はリン脂質中のCPの分子種の濃度を意味している。
【0048】
なお、被検試料中の全リン脂質を測定する方法については、定法に従うことができ、例えば、抽出脂質を灰化処理して生成するリン量についてリンモリブデン反応などを用いて定量する方法、又はHPLC法、あるいはコリンオキシダーゼ・DAOS法(リン脂質C−テストワコーなどのキット)で測定する方法などで行うことができる。
【0049】
《CPの濃度及び被検者の体重の比による検出》
本発明の検出方法の別の態様においては、被検試料中のコリン型プラスマローゲン濃度の測定値と、被検者の体重の測定値との比によって、メタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出をすることができる。コリン型プラスマローゲン濃度は、総CP量、CPの分子種の濃度のいずれも用いることができるが、好ましくは、C18:1CP又はC18:2CPの濃度である。
また、コリン型プラスマローゲン濃度の測定値と、被検者の体重の測定値との比の計算方法は特に限定されるものではないが、例えば「CPの濃度/被検者の体重(kg)」によって計算することができる。この計算方法の場合、体重1kgあたりのコリン型プラスマローゲン濃度の値を意味している。また、被験者の体重の測定方法については、定法に従うことができる。
【0050】
《CPの濃度及び中性脂肪の濃度の比による検出》
本発明の検出方法の別の態様においては、被検試料中のコリン型プラスマローゲン濃度の測定値と、中性脂肪の濃度の測定値との比によって、メタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出をすることができる。コリン型プラスマローゲン濃度は、総CP量、CPの分子種の濃度のいずれも用いることができるが、好ましくは、C18:1CP又はC18:2CPの濃度である。
また、コリン型プラスマローゲン濃度の測定値と、中性脂肪の濃度の測定値との比の計算方法は特に限定されるものではないが、例えば「CPの濃度/中性脂肪の濃度」によって計算することができる。被検試料の中性脂肪含量を測定する方法については、定法に従うことができる。
【0051】
前記CPの濃度及びリン脂質濃度の比による検出、CPの濃度及び被検者の体重の比による検出、及びCPの濃度及び中性脂肪の濃度の比による検出は、いずれも体重、腹囲、中性脂肪、HDL−C、sdLDL、AIP、及びアディポネクチンと高い相関性を示し(表3及び表4)、健常者群とメタボリックシンドローム群とで有意に異なるものであるが、特にはCPの濃度及び中性脂肪の濃度の比、CPの濃度及び被検者の体重の比、及びCPの濃度及びリン脂質濃度の比の順番で、有意である傾向が見られた。
【0052】
本発明の検出方法においては、被検試料中のコリン型プラスマローゲン濃度(又はコリン型プラスマローゲンの分子種の濃度)を測定し、その測定値を健常者の被検試料中のコリン型プラスマローゲン濃度の測定値から設定した基準値と比較することによって、メタボリックシンドローム又は生活習慣病を検出することが可能である。健常者の基準値、或いはメタボリックシンドローム又は生活習慣病のカットオフ値の設定は、管理された臨床治験によって決定される。
本発明の検出方法は、メタボリックシンドローム又は生活習慣病の発症予防用、又は治療効果のモニタリング用として用いることができる。また、メタボリックシンドローム又は生活習慣病リスク又は重篤度の指標として用いることが可能である。特に、中性脂肪、sdLDL、及びAIPが高値であることは、動脈硬化症の原因であり、HDL−C、アディポネクチンは低値であることが、動脈硬化症の発症の原因である。本発明の検出方法によって得られたコリン型プラスマローゲン濃度、コリン型プラスマローゲンの分子種の濃度、CPの濃度及びリン脂質濃度の比、CPの濃度及び被検者の体重の比、及びCPの濃度及び中性脂肪の濃度の比は、中性脂肪、HDL−C、sdLDL、アディポネクチン、及びAIPと相関性が高く、動脈硬化症の発症予防又は動脈硬化症のリスクのマーカーとして用いることが可能である。
【0053】
《生活習慣病》
本発明の方法により検出される生活習慣病は、食事、睡眠、又は嗜好品(例えば、タバコ、又はお酒)などの生活習慣を主な原因とする疾患であれば限定されるものではないが、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、高血圧症、肥満症、がん、脳卒中、動脈硬化症、心筋症、心筋梗塞、不整脈、脂肪肝、アルコール性肝障害、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胆石症、歯周病、通風、抗尿酸血症、及び骨粗しょう症を挙げることができる。本発明の検出方法によれば、特に脂質異常症、高血圧症及び動脈硬化症を、高率に検出することができる。
【0054】
《メタボリックシンドローム》
本発明の方法により検出されるメタボリックシンドロームは、ウエスト周囲径が男性で85cm、女性で90cm以上を「要注意」とし、その中で(1)血清脂質異常(トリグリセリド値150mg/dL以上、又はHDLコレステロール値40mg/dL未満)(2)血圧高値(最高血圧130mmHg以上、又は最低血圧85mmHg以上)(3)高血糖(空腹時血糖値110mg/dL)の3項目のうち2つ以上を有する被験者の症状を意味する。
【0055】
[2]メタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出キット
本発明のメタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出キットは、プラスマローゲンの分析用内部標準物質として、下記一般式(1)
【化8】
(式中、R
3は、炭素数4〜26のアルキル基又はアルケニル基であり、Mは水素原子又は対カチオンである)で表される1−アルケニル環状ホスファチジン酸、又は
下記一般式(2)
【化9】
(式中、R
1は、炭素数7、9、11、13、15、17、19、又は21のアルキル基であり、R
2は、炭素数8〜21のアルキル基又はアルケニル基である)で表される化合物を含む。
【0056】
本発明のメタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出キットは、本発明のメタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出方法に用いることができる。従って、前記キットには、被検試料からプラスマローゲンを抽出する抽出試薬を含むことができる。例えば、抽出試薬としては、Bligh&Dyer法に用いる抽出試薬、Folch法に用いる抽出試薬、ヘキサン/エタノール混合溶媒、エーテル/エタノール混合溶媒、又はクロロホルム/メタノール混合溶媒を挙げることができる。また、本発明のキットにはメタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出用であることを明記した取り扱い説明書を含むことができる。包装容器にメタボリックシンドローム又は生活習慣病の検出用であることを明記することもできる。また、本発明の検出キットは、メタボリックシンドローム又は生活習慣病の診断に用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0058】
《実施例1》
21〜66歳の被験者451人(男性382人、女性69人、平均年齢39.6歳、40歳以上216人)の血液から分画した血清を用意した。その一部から脂質を抽出してCPを定量した。また、その一部を用い、リン脂質C−テストワコーによりリン脂質濃度を測定した。
【0059】
まず、CP量の定量方法についてはHPLCを用いた定量法により、以下の方法で行った。
【0060】
血清(Serum)からの総脂質の抽出は、以下のようにして行った。血液を遠心分離して得た血清0.15mLに、エーテル0.12mL、及びエタノール0.36mLを添加し、10分間混合した。2M塩化ナトリウム水溶液0.9mL、エーテル0.48mLを添加し、5分間混合した。3000rpm、15分遠心後、上層を採取した。下層に更にエーテル0.3mLを添加し、5分間混合した。3000rpm、15分遠心後、上層を採取した。採取液を合わせ、窒素吹き付けにより溶媒を留去した後、内部標準物質(cAP)0.1mMを含むメタノール0.1mLに溶解した。
【0061】
内部標準物質であるcAPは、以下のようにして調製した。リゾコリンプラスマローゲン(
Doosan Serdary Reseach Laboratories、クロロホルム溶解)約5mgを50mLねじ口試験管に採取した。クロロホルムを窒素吹き付けで乾固し、直ちに、エーテル1.5mL、100mM酢酸ナトリウム−40mM塩化カルシウム緩衝液(pH5.6)1.5mL、ホスホリパーゼD(名糖産業)10Uを添加した後、攪拌しながら、40℃の温浴で反応させた。3時間程度反応後、TLCにより、ほとんどのリゾプラスマローゲンが消失したことを確認した。反応液に窒素を吹き付け、エーテルを一度留去した後、再度エーテル1.2mL、及びエタノール3.6mLを添加し、10分間混合した。2M塩化ナトリウム水溶液9.0mL、エーテル4.8mLを添加し、5分間混合する。3000rpm、15分遠心後、上層を採取した。下層に更にエーテル3.0mLを添加し、5分間混合する。3000rpm、15分遠心後、上層を採取した。採取液を合わせ、窒素吹き付けにより溶媒を留去した後、適量のメタノールに溶解して0.1mMとした。
【0062】
三ヨウ化物イオン(I
3−)を含む反応試薬は以下のようにして調製した。市販の放射性ヨウ素(Na
125I、37MBq/0.01mL)、50mM水酸化ナトリウム−20mMヨウ化カリウム−メタノール溶液1.0mL、2.0M酢酸−メタノール溶液0.3mL、1.0M過酸化水素−メタノール溶液0.6mL、メタノール0.1mLを混合し、室温で一晩静置した。これを10mMヨウ素反応試薬とし、室温で保存して用いた。
【0063】
各血清抽出脂質試料0.04mLと10mMヨウ素反応試薬0.01mLとを混合し、4℃で16時間反応させた。反応試料(サンプル)0.02mL(内部標準物質としてcAPを1.74nmoL含む)を以下の条件でHPLCに供した。溶出液はアセトニトリル/水/酢酸/アンモニア(93:6.895:0.07:0.035)を用い、流速1.0mL/分、イソクラチックで溶出した。カラムはLichrospher100 Diol 250−4(Merck)を用いた。測定時間は15分以上で行った。検出器はフロー型γカウンタ(BIOSCAN)を用いた。
【0064】
データ解析にはSMARTCHROM(KYAテクノロジーズ)を用い、CPとcAPのピーク面積値を予め作成した検量線により換算定量した。検量線は、メタノール溶液中でヨウ素分子がプラスマローゲンのビニルエーテル結合に特異的に結合することを利用して、その吸光度変化から定量する方法により定量した値と上記測定に供して得たピーク面積値とから作成した。
【0065】
なお、まず定量試験を4回行い、内部標準を使用した効果の検証を行った。
血清0.015mLを0.020mLに変更した以外は上述の総脂質の抽出方法にしたがい血清抽出試料を得た後、同様にヨウ素反応試薬との反応を行い、得られた反応試料(サンプル)をHPLCに供した。ここで、反応試料(サンプル)0.02mL中に含まれるcAP含量(A)と、測定されたcAP含量(B)から、補正係数=(A)/(B)の値を求め、測定されたCP含量にこの補正係数を乗じた値とを算出し、4回測定分の標準偏差と変動係数について、表1に記載した。なお、CP含量に内部標準物質を使用しない場合、すなわち、補正係数を乗じない場合についても4回測定分の標準偏差と変動係数を算出し、同様に表1に記載した。
また、EP含量についても同様に測定し、結果を表1に記載した。
【0066】
【表1】
【0067】
表1の結果からわかるように、内部標準物質としてcAPを使用して測定した測定値は、使用しない測定値に比べて標準偏差及び変動係数が顕著に小さく、血清中のプラスマローゲンの測定方法として優れていることがわかる。
このため、CP量の測定については、このcAPを内部標準として使用することとした。
【0068】
《実施例2》
本実施例では、実施例1の21〜66歳の被験者451人(男性382人、女性69人、平均年齢39.6歳、40歳以上216人)の血清を用いコリン型プラスマローゲンの分子種の測定を、LC−MS/MSを用いて行った。
血清(Serum)からの総脂質の抽出は、以下のようにして行った。血液を遠心分離して得た血清0.15mLを凍結乾燥し、内部標準物質として、sn−1位がトリコサン酸、sn−2位がオレイン酸の合成コリン型プラスマローゲン(p23:0/18:1)50pmoLを含むクロロホルム:メタノール=2:1の混液0.5mLを加え、10分間混合後、30分間室温で放置した。3000rpm、15分間遠心分離後、上層を採取した。下層に更にクロロホルム:メタノール=2:1の混液を1mL加え、混合・放置後、遠心分離を行い、上層を採取し、先の採取液と合わせ、窒素の吹きつけにより、溶媒を除去後、1mLのメタノールに溶解し、フィルターを通したあと、適宜メタノールで希釈したのち、LC−MS/MSを用いて解析した。
【0069】
LC−MS/MSの測定条件は以下のとおりである。
<LC(高速液体クロマトグラフィー)の条件>
LC システム:Accela UHPLC System
溶離液A:5mMギ酸アンモニウム水溶液
溶離液B:アセトニトリル
カラム:Waters ACQUITY UPLC BEH C8(2.1×100mm,1.7μm)
カラム温度:60℃
流速:0.6mL/min
UHPLCの溶離液の条件を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
<MS/MS(タンデム質量分析)の条件>
MSシステム:TSQ Quantum system
イオン化モード:HeatedESI,positive
キャピラリー電圧:3.2kV
コーン電圧:35V
Desolvation温度:400℃
Source温度:80℃
衝突エネルギー:32eV(コリン型プラスマローゲン)
【0072】
なお、被検試料中のコリン型プラスマローゲンの定量を行うための検量線の作成は、以下のように行った。合成したp16:0/20:4の合成コリン型プラスマローゲンを、メタノールに溶解し、標準原液(1.7μmol/mL)を調製した。前記標準原液をメタノールで希釈し、0.085pmol、0.17pmol、0.34pmol、及び0.51pmolの4種類の濃度の標準溶液を調製した。次に、それぞれの標準溶液に、合成したp23:0/18:1を100pmol添加した。それぞれの標準溶液を、前記のLC−MS/MSの測定条件に従って解析した。得られたそれぞれの標準溶液中のp16:0/20:4と、p23:0/18:1とのコリンリン酸由来フラグメント(一般式(5)のコリンリン酸フラグメント)の面積比(peak area ratio)を計算し、検量線を作成した。この検量線を用いてヒトの血漿試料中のコリン型プラスマローゲンの定量を行った。
【0073】
また、内部標準物質として、前記sn−1位がトリコサン酸、sn−2位がオレイン酸の合成コリン型プラスマローゲン(p23:0/18:1)を用いた場合、内部標準物質としてコール酸を用いた場合、及び外部標準法を用いた場合において、血清試料中のコリン型プラスマローゲンの平均値及び標準偏差を比較した。その結果、内部標準として合成コリン型プラスマローゲン(p23:0/18:1)を用いた場合は、外部標準を用いたもの及びコール酸を内部標準として用いたものと比較すると、数値が高く、ばらつき(標準偏差)も小さく、内部標準物質としてプラスマローゲンを使用し、補正した数値の精度が高かった。
【0074】
コリン型プラスマローゲンの分子種は、sn−1位が16:0、18:0、又は18:1の3種類、sn−2位が16:0、18:0、18:1、18:2、18:3、20:4、20:5、22:4、22:5、又は22:6の10種類であり、従って、測定したコリン型プラスマローゲンの分子種は30種類である。これらの分子種のうち、sn−2位が18:1(オレイン酸)のもの及び18:2(リノール酸)について、表4にデータを示した。
【0075】
《実施例3》
一方、上記被験者451人について、年齢、性、身長、体重、BMI、腹囲、血圧、GOT、GPT、γ−GTP、尿酸、中性脂肪、HDL−C、LDL−C、血糖値、アディポネクチン、sdLDL、hsCRP、AIPなどの検査項目の測定・計算を行い、血清プラスマローゲン量、CP量、EP量、CP/PL(リン脂質)、CP/体重、CP/中性脂肪、CP/EPと各項目間での相関性が調べられた。
【0076】
上記のうち、体重、腹囲、中性脂肪、HDL−C、sdLDL、アディポネクチン、AIPの検査項目と、CP量、CP/PL、CP/体重、CP/中性脂肪、CP/EPの各値との相関性について表3に記載した。
【0077】
【表3】
【0078】
また、体重、腹囲、中性脂肪、HDL−C、sdLDL、アディポネクチン、及びAIPの検査項目と、CP量、C18:1CP、C18:1CP/PL、C18:1CP/中性脂肪、C18:1CP/体重、C18:2CP、C18:2CP/PL、C18:2CP/中性脂肪、C18:2CP/体重、及びCP/EPの各値との相関性について表4に記載した。
【0079】
【表4】
【0080】
上記の結果、まずCP量について、動脈硬化症の危険因子とされる各検査項目と高い相関性がみられた。例えば、体重に対する相関係数について−0.334、腹囲に対する相関係数について−0.375、中性脂肪に対する相関係数について−0.327、HDL−Cに対する相関係数について0.714、sdLDLに対する相関係数について−0.224、AIPに対する相関係数について−0.576、アディポネクチンに対する相関係数について0.314であった。
【0081】
また、全リン脂質量と全CP量との比(以下CP/PL)は、全CP量のみよりもそれらの因子と高い相関を示すことを見出した。例えば、体重に対する相関係数について−0.374、腹囲に対する相関係数について−0.408、中性脂肪に対する相関係数について−0.542、sdLDLに対する相関係数について−0.458、AIPに対する相関係数について−0.674、アディポネクチンに対する相関係数について0.319であった。
【0082】
更に、一般検診の項目に必ずある体重、中性脂肪と全CP量との比も全CP量のみよりもそれらの因子と高い相関を示すことを見出した。例えば、CP/体重は、腹囲に対する相関係数について−0.672、中性脂肪に対する相関係数について−0.398、HDL−Cに対する相関係数について0.732、sdLDLに対する相関係数について−0.347、AIPに対する相関係数について−0.631、アディポネクチンに対する相関係数について0.413であった。CP/中性脂肪は、体重に対する相関係数について−0.406腹囲に対する相関係数について−0.452、sdLDLに対する相関係数について−0.544、アディポネクチンに対する相関係数について0.358であった。
【0083】
次に、CP分子種の分析の結果、2位の脂肪酸がオレイン酸(C18:1CP)、又はリノール酸(C18:2CP)である場合、CP量のみよりも上記の検査項目中の動脈硬化症及びメタボリックシンドローム関連因子と高い相関を示すことを見出した。例えば、C18:1CPは、体重に対する相関係数について−0.438、腹囲に対する相関係数について−0.461、HDL−Cに対する相関係数について0.757、中性脂肪に対する相関係数について−0.415、sdLDLに対する相関係数について−0.319、アディポネクチン対する相関係数について0.446、AIPに対する相関係数について−0.641であった。
【0084】
更にCP18:1/PLは、CP量のみよりもそれらの因子と高い相関を示すことを見出した。例えば、体重に対する相関係数について−0.463、腹囲に対する相関係数について−0.479、中性脂肪に対する相関係数について−0.572、sdLDLに対する相関係数について−0.500、アディポネクチン対する相関係数について、0.453、AIPに対する相関係数について、−0.715であった。
【0085】
また、一般検診の項目に必ずある体重、中性脂肪と全CP18:1量との比は、総CP量のみとの比よりも上記の検査項目中の動脈硬化症及びメタボリックシンドローム関連因子と高い相関を示すことを見出した。例えば、CP18:1/中性脂肪と、腹囲に対する相関係数は−0.477、sdLDLに対する相関係数は−0.544、体重に対する相関係数は−0.443、アディポネクチンに対する相関係数は0.408であった。CP18:1/体重は、HDL−Cに対する相関係数は0.731、腹囲に対する相関係数は−0.666、AIPに対する相関係数は−0.641、アディポネクチンに対する相関係数は0.474であり、いずれも総CP量を用いた相関よりはるかに高い相関係数を得た。
【0086】
また、C18:2CPも、C18:1CPに匹敵する相関係数を示す。例えば、体重に対する相関係数について−0.334、腹囲に対する相関係数について−0.407、HDL−Cに対する相関係数について0.651、中性脂肪に対する相関係数について−0.339、sdLDLに対する相関係数について−0.265、アディポネクチン対する相関係数について0.371、AIPに対する相関係数について−0.562であった。
【0087】
更にCP18:2/PLは、CP18:2量のみよりもそれらの因子と高い相関を示すことを見出した。例えば、体重に対する相関係数について−0.361、腹囲に対する相関係数について−0.423、中性脂肪に対する相関係数について−0.508、sdLDLに対する相関係数について−0.444、AIPに対する相関係数について、−0.634であった。
【0088】
また、一般検診の項目に必ずある体重、中性脂肪と全CP18:1量との比は、総CP量のみとの比よりも上記の検査項目中の動脈硬化症及びメタボリックシンドローム関連因子と高い相関を示すことを見出した。例えば、CP18:2/中性脂肪と、腹囲に対する相関係数は−0.496、sdLDLに対する相関係数は−0.492、体重に対する相関係数は−0.454、アディポネクチンに対する相関係数は0.391であった。CP18:2/体重は、腹囲に対する相関係数は−0.611、アディポネクチンに対する相関係数は0.435であり、いずれも総CP量を用いた相関よりはるかに高い相関係数を得た。
【0089】
《実施例4》
実施例1の被験者451人のうち、メタボリックシンドローム診査対象者である40歳以上の被験者156人を、メタボリックシンドロームの判定基準に従い、ウエスト周囲径が男性で85cm、女性で90cm以上を「要注意」とし、その中で(1)血清脂質異常(トリグリセリド値150mg/dL以上、又はHDLコレステロール値40mg/dL未満)(2)血圧高値(最高血圧130mmHg以上、又は最低血圧85mmHg以上)(3)高血糖(空腹時血糖値110mg/dL)の3項目のうち2つ以上を有する被験者を「メタボ群」、3項目のうち1項目を有する被験者は「準メタボ群」とし、残余を「健常者群」とした。
この3群の、血清プラスマローゲン量、CP量、EP量、CP/PL(リン脂質)、CP/体重、CP/中性脂肪、CP/EP、C18:1CP量、C18:1CP/PL(リン脂質)、C18:1CP/中性脂肪、C18:1CP/体重、C18:2CP量、C18:2CP/PL(リン脂質)、C18:2CP/中性脂肪、C18:2CP/体重について、それぞれの平均値を表5に記載した。
なお、血清プラスマローゲンのsn−2位の主要脂肪酸はC20:4(アラキドン酸)であったことから、C20:4CP量、C20:4CP/PL(リン脂質)、C20:4CP/中性脂肪、C20:4CP/体重についても測定・算出し、更に、健常者群を1とした場合の上記指標の相対値を表6に記載した。
なお、血清プラスマローゲン中のsn−2位のC20:4は33.8%、C18:2は20.8%、C18:1は6.4%であった。
【0090】
【表5】
【0091】
【表6】
【0092】
上記の結果、血清プラスマローゲン量、EP量は、3群ともほとんど差が見られなかったのに対し、その他のマーカーでは、3群の間で有意な差異が見られた。更に、CP量に関連した値に比べ、C18:1CP量又はC18:2CP量に関連した値のほうが、特にC18:1CP量に関連した値が、より大きな差が見られた。また、リン脂質含量との比、体重との比、中性脂肪との比の順により明確な差が見られた。なお、CP/EPについては、メタボ群の値では他のマーカーと同様の健常者群との差がみられるが、準メタボ群の値は健常者群との差が小さく、メタボリックシンドロームの兆候を予見するには、他のマーカーに比べて劣っていることがわかる。
また2位の脂肪酸として、血清プラスマローゲンの主要構成脂肪酸であるC20:4を含むC20:4CPに関連した値に比べ、C18:1CP又はC18:2CPに関連した値のほうが、特にC18:1CPに関連した値が、(B)/(A)の値が顕著に小さく、すなわち、健常者群とメタボ群との差異が大きいことがわかる。