特許第5678345号(P5678345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5678345
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年3月4日
(54)【発明の名称】色素増感太陽電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20150212BHJP
【FI】
   H01G9/20 109
   H01G9/20 111E
   H01G9/20 115B
   H01G9/20 111D
   H01G9/20 303B
   H01G9/20 305
   H01G9/20 111C
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-552673(P2011-552673)
(86)(22)【出願日】2011年1月4日
(86)【国際出願番号】JP2011000001
(87)【国際公開番号】WO2011096154
(87)【国際公開日】20110811
【審査請求日】2013年12月17日
(31)【優先権主張番号】特願2010-22148(P2010-22148)
(32)【優先日】2010年2月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100112771
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 勝
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 修二
(72)【発明者】
【氏名】河野 充
(72)【発明者】
【氏名】山口 能弘
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−317453(JP,A)
【文献】 特開2005−158470(JP,A)
【文献】 特開2005−197169(JP,A)
【文献】 特開2007−073505(JP,A)
【文献】 特開2012−021212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
H01M 14/00
H01L 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブル透明基板と、カソード極となる、フレキシブル導電性基板と、該透明基板と該導電性基板の間に、該透明基板に近接してまたは接触して配置され色素を吸着した多孔質半導体層と、該多孔質半導体層の該透明基板とは反対側にアノード極となる多孔質導電性金属層の側を接触して配置される、該多孔質導電性金属層を積層した、ガラス繊維成形体よりなる多孔質絶縁層を備え、該多孔質絶縁層と該導電性基板の間に電解質が封入されてなる色素増感太陽電池であって、
該多孔質導電性金属層が該多孔質絶縁層に成膜されてなり、0.3μm〜100μmの厚みを有することを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項2】
前記多孔質導電性金属層が、Ti、W、Ni、PtおよびAuからなる群から選ばれる1種または2種以上の金属材料で形成されてなることを特徴とする請求項1記載の色素増感太陽電池。
【請求項3】
前記多孔質導電性金属層および前記多孔質絶縁層が、いずれも前記多孔質半導体層の焼成温度以上の耐熱性を有する材料からなることを特徴とする請求項1または2に記載の色素増感太陽電池。
【請求項4】
前記多孔質導電性金属層および前記多孔質絶縁層のそれぞれの材料がいずれも350℃以上の融点を有することを特徴とする請求項3記載の色素増感太陽電池。
【請求項5】
前記多孔質絶縁層が100μm以下の厚みを有することを特徴とする請求項3記載の色素増感太陽電池。
【請求項6】
ガラス繊維成形体よりなる多孔質絶縁層の上に、成膜法によりアノード極とされる0.3μm〜100μmの厚みの多孔質導電性金属層を設ける工程と、
多孔質導電性金属層に接して多孔質半導体層を設ける工程と、
多孔質半導体層の側を向けて多孔質絶縁層にフレキシブル透明基板を対向配置するとともに、多孔質絶縁層と離間してカソード極とされるフレキシブル導電性基板を対向配置し、フレキシブル透明基板、多孔質半導体層、多孔質導電性金属層およびフレキシブル導電性基板の外周を封止する工程と、
多孔質絶縁層と導電性基板の間に電解質を注入する工程と、
を有することを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項7】
多孔質半導体層の焼成温度以上の耐熱性を有する材料からなる多孔質絶縁層の上に、成膜法によりアノード極とされる、多孔質半導体層の焼成温度以上の耐熱性を有する材料からなる0.3μm〜100μmの厚みの多孔質導電性金属層を設ける工程と、
多孔質導電性金属層の上に多孔質半導体層の材料であるペーストを設ける工程と、
ペーストおよび多孔質導電性金属層の設けられた多孔質絶縁層を加熱して、ペーストを焼成することで多孔質半導体層を形成する工程と
多孔質半導体層の側を向けて多孔質絶縁層にフレキシブル透明基板を対向配置する工程と、
多孔質半導体層の側を外にして多孔質絶縁層にカソード極とされるフレキシブル導電性基板を対向配置する工程と、
を有することを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感太陽電池は、湿式太陽電池あるいはグレッツェル電池等と呼ばれ、シリコン半導体を用いることなくヨウ素溶液に代表される電気化学的なセル構造を持つ点に特徴がある。一般的には、透明な導電性ガラス板(透明導電膜を積層した透明基板)に二酸化チタン粉末等を例えば450℃以上の温度で焼付け、これに色素を吸着させて形成したチタニア層等の多孔質半導体層と導電性ガラス板(導電性基板)からなる対極の間に電解液としてヨウ素溶液等を配置した、簡易な構造を有する。
【0003】
色素増感太陽電池の発電メカニズムは、以下のとおりである。
受光面である透明な導電性ガラス板面から入射した光を、多孔質半導体層に吸着された色素が吸収し、電子励起を引き起こし、その励起した電子が半導体へと移動し、導電性ガラスへと導かれる。ついで、対極に戻った電子はヨウ素などの電解液を介して電子を失った色素へと導かれ、色素が再生される。
【0004】
色素増感太陽電池は、材料が安価であり、作製に大掛かりな設備を必要としないことから、低コストの太陽電池として注目されている。色素増感太陽電池のさらなる低コスト化のため、例えば高価な透明導電膜を省略することが検討されている。
【0005】
透明導電膜を省略する方法の一つとして、導電性金属からなる配線を光照射側となる透明基板の上に施すことが検討されている。しかし、この場合、入射光の一部は金属配線部分に遮られることとなり、光電変換効率の低下を伴う。
【0006】
この点を改善するものとして、例えば、孔を有する集電電極として線径が1μm〜10mmの金網を用い、この金網に多孔質半導体層の材料であるペーストを塗布し、ペーストを焼成して多孔質半導体層を形成した後に、透明導電膜を持たないガラス製透明基板に多孔質半導体層の側を向けて金網を配置する技術が開示されている(特許文献1参照)。この技術によれば、ガラス製透明基板に換えて樹脂製のフレキシブル透明基板を用いる場合においても、ペーストの焼成温度が樹脂の耐熱温度である例えば150℃以下の温度に制限されることがなく、ペーストを適切な温度で焼成して望ましい多孔質半導体層を得ることができる。
しかしながら、集電電極として予め加工形成された金網あるいはその他の有孔板等を用いると、金網等を配置して色素増感太陽電池を作製する作業が煩雑になるものと思われる。また、金網等の厚みを薄くすることには限界があるため、金網等の厚みが厚いことに起因し、電解質が金網等を介して多孔質半導体層に移動する際の拡散抵抗が大きくなり、これにより光電変換効率の低下を来たすおそれも考えられる。
【0007】
これに対して、ガラス等の透明基板上に形成された半導体層(多孔質半導体層)に、マスク等を用いてパターニングしながら厚み1〜100μm程度の集電体層(集電電極)を成膜する方法も検討されている(例えば特許文献2参照)。この方法によれば、集電体層として所望の薄膜を容易に形成することができる。
しかしながら、この技術では、ガラス製透明基板に換えて樹脂製のフレキシブル透明基板を用いる場合に、ペーストの焼成温度が樹脂の耐熱温度である例えば150℃以下の温度に制限されるおそれがあり、また、透明基板とともに対極もフレキシブル基板とすると、色素増感太陽電池を使用中に屈曲した集電体層と対極が短絡するおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−73505号公報
【特許文献2】特開2007−200559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決しようとする問題点は、上記した特許文献1のように透明導電膜に換えて集電電極として金網等を用いる技術において、色素増感太陽電池の作製作業が煩雑になる点および集電電極の厚みを望ましい薄さにすることに限界がある点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る色素増感太陽電池は、
フレキシブル透明基板と、カソード極となる、フレキシブル導電性基板と、該透明基板と該導電性基板の間に、該透明基板に近接してまたは接触して配置され色素を吸着した多孔質半導体層と、該多孔質半導体層の該透明基板とは反対側にアノード極となる多孔質導電性金属層の側を接触して配置される、該多孔質導電性金属層を積層した、ガラス繊維成形体よりなる多多孔質絶縁層を備え、該多孔質絶縁層と該導電性基板の間に電解質が封入されてなる色素増感太陽電池であって、
該多孔質導電性金属層が該多孔質絶縁層に成膜されてなり、0.3μm〜100μmの厚みを有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る色素増感太陽電池は、好ましくは、前記多孔質導電性金属層が、Ti、W、Ni、PtおよびAuからなる群から選ばれる1種または2種以上の金属材料で形成されてなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る色素増感太陽電池は、好ましくは、前記多孔質導電性金属層および前記多孔質絶縁層が、いずれも前記多孔質半導体層の焼成温度以上の耐熱性を有する材料からなることを特徴とする
【0013】
また、本発明に係る色素増感太陽電池は、好ましくは、前記多孔質導電性金属層および前記多孔質絶縁層のそれぞれの材料がいずれも350℃以上の融点を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る色素増感太陽電池は、好ましくは、前記多孔質絶縁層が100μm以下の厚みを有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る色素増感太陽電池の製造方法は、
ガラス繊維成形体よりなる多孔質絶縁層の上に、成膜法によりアノード極とされる0.3μm〜100μmの厚みの多孔質導電性金属層を設ける工程と、
多孔質導電性金属層に接して多孔質半導体層を設ける工程と、
多孔質半導体層の側を向けて多孔質絶縁層にフレキシブル透明基板を対向配置するとともに、多孔質半導体層の側を外にして多孔質絶縁層にカソード極とされるフレキシブル導電性基板を対向配置し、フレキシブル透明基板、多孔質半導体層、多孔質導電性金属層、多孔質導電性金属層およびフレキシブル導電性基板の外周を封止する工程と、
多孔質絶縁層と導電性基板の間に電解質を注入する工程と、
を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る色素増感太陽電池の製造方法は、
ガラス繊維成形体よりなる多孔質絶縁層の上に、成膜法によりアノード極とされる0.3μm〜100μmの厚みの多孔質導電性金属層を設ける工程と、
多孔質導電性金属層に接して多孔質半導体層を設ける工程と、
多孔質半導体層の側を向けて多孔質絶縁層にフレキシブル透明基板を対向配置するとともに、多孔質絶縁層と離間してカソード極とされるフレキシブル導電性基板を対向配置し、フレキシブル透明基板、多孔質半導体層、多孔質導電性金属層およびフレキシブル導電性基板の外周を封止する工程と、
多孔質絶縁層と導電性基板の間に電解質を注入する工程と、
を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る色素増感太陽電池は、上記の色素増感太陽電池の製造方法により得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る色素増感太陽電池は、アノード極となる多孔質導電性金属層が多孔質絶縁層に成膜された0.3μm〜100μmの厚みの層であるので、集電電極として金網等を用いる技術に比べて、色素増感太陽電池の作製作業の煩雑さが少なく、また、電解質が金網等を介して多孔質半導体層に移動する際のように拡散抵抗が大きくなって光電変換効率の低下を来たすおそれがない。
また、本発明に係る色素増感太陽電池は、透明基板および導電性基板としてフレキシブル基板を用いる場合において、0.3μm〜100μmの厚みの多孔質導電性金属層および多孔質絶縁層を多孔質半導体層の焼成温度以上の耐熱性を有する材料で形成するので、色素増感太陽電池を屈曲させて使用する際に、多孔質絶縁層が介在することにより、多孔質導電性金属層が導電性基板と接触して短絡を生じるおそれがない。また、多孔質半導体層を多孔質導電性金属層の上に形成して焼成した後に透明基板と接合することにより、多孔質半導体層の焼成不足に起因する不都合を生じるおそれがない。
また、本発明に係る色素増感太陽電池の製造方法は、多孔質絶縁層の上に、成膜法によりアノード極とされる0.3μm〜100μmの厚みの多孔質導電性金属層を設けるので、集電電極の厚みが望ましい薄さである本発明に係る色素増感太陽電池を好適に得ることができる。
また、本発明に係る色素増感太陽電池の製造方法は、フレキシブル透明基板およびフレキシブル導電性基板を用いる場合において、0.3μm〜100μmの厚みの多孔質導電性金属層および多孔質絶縁層として多孔質半導体層の焼成温度以上の耐熱性を有する材料を用い、多孔質半導体層を多孔質導電性金属層上に形成して焼成した後にフレキシブル透明基板と接合するので、フレキシブル基板を用いた本発明に係る色素増感太陽電池を好適に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は本実施の形態に係る色素増感太陽電池を模式的に示す図である。
図2A図2Aは本実施の形態の第一の例に係る色素増感太陽電池の製造方法を説明するためのものであり、多孔質絶縁層を示す図である。
図2B図2Bは本実施の形態の第一の例に係る色素増感太陽電池の製造方法を説明するためのものであり、多孔質絶縁層に多孔質導電性金属層を形成した状態を示す図である。
図2C図2Cは本実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造方法を説明するためのものであり、多孔質絶縁層20に対向してカソード極とされる導電性基板を設ける多孔質絶縁層に多孔質導電性金属層等を形成した状態を説明するための完成した色素増感太陽電池を示す図である。
図3A図3Aは本実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造方法を説明するためのものであり、多孔質絶縁層を示す図である。
図3B図3Bは本実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造方法を説明するためのものであり、多孔質絶縁層に多孔質導電性金属層を形成した状態を示す図である。
図3C図3Cは本実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造方法を説明するためのものであり、多孔質導電性金属層に多孔質半導体層を形成した状態を示す図である。
図3D図3Dは本実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造方法を説明するためのものであり、完成した色素増感太陽電池を示す図である。
図4図4はTi粒子シート基板のSEM写真を示す図である(実施例1)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
【0021】
図1に模式的に示すように、本実施の形態に係る色素増感太陽電池10は、透明基板12と、導電性基板14と、多孔質半導体層16と、多孔質導電性金属層18と、多孔質絶縁層20を備える。色素増感太陽電池10は、封止材(スペーサ)22で封止され、電解質24が封入される。
透明基板12は、太陽光の入射側に設けられる基板である。導電性基板14は、透明基板12と対向して設けられ、カソード極とされる。多孔質半導体層16は、透明基板12と導電性基板14の間に、透明基板12に近接してまたは接触して配置される。多孔質半導体層16は色素を吸着する。多孔質導電性金属層18は、多孔質絶縁層20に成膜される0.3μm〜100μmの厚みの層であり、多孔質半導体層16の透明基板12とは反対側に接触して配置され、アノード極とされる。多孔質絶縁層20は、多孔質導電性金属層18の多孔質半導体層16とは反対側に、導電性基板14と対向して配置される。
多孔質導電性金属層18と多孔質絶縁層20は、いずれも、多孔質半導体層16に吸着した色素と導電性基板14との間での電解質のイオン拡散によって電荷を良好に移動させるために、多孔質に形成される。ここで、多孔質導電性金属層18および多孔質絶縁層20に形成される孔は、凹部状のものではなく、層の両表面に連通するものをいう。
【0022】
透明基板12および導電性基板14の基台(以下に説明する導電膜等を形成するためのベースとなる基板)は、例えば、ガラス板であってもよく、あるいは屈曲性を有する樹脂板(フレキシブル透明基板およびフレキシブル導電性基板)であってもよい。
屈曲性を有する樹脂板の材料樹脂は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリイミド、硬化アクリル樹脂、硬化エポキシ樹脂、硬化シリコーン樹脂、各種エンジニアリングプラスチックス、メタセシス重合で得られる環状ポリマ等が挙げられる。
導電性基板14は、上記の基台に導電膜を設け、さらに、導電膜の電解質(電解液)に向けた面には、例えば白金膜等の触媒膜を設ける。導電膜は、例えば、ITO(スズをドープしたインジウム膜)であってもよく、またFTO(フッ素をドープした酸化スズ膜)であってもよく、あるいはまたSnO膜等であってもよい。また、導電性基板14は、導電膜を設けずに、基台に白金膜等の触媒膜のみを設けたものでもよい。この場合、触媒膜が導電膜として作用する。
透明基板12および導電性基板14の厚みは、いずれも特に限定するものではなく、それぞれ、例えば10μm〜1mm程度とすることができる。
【0023】
多孔質半導体層16は、半導体材料として、例えば、TiO、ZnOまたはSnO等の適宜の金属酸化物を用いることができるが、このうちTiOが好ましい。
多孔質半導体層16は、その厚みを特に限定するものではないが、好ましくは、通常よりも大きな14μm以上の厚みとする。なお、多孔質半導体層16が通常の厚みを有する場合にも本発明を好適に適用できることは勿論である。
太陽光の変換効率を向上させる方法のひとつとして、多孔質半導体層の厚みを厚くして太陽光の吸収効率を上げる方法が考えられる。しかしながら、電子拡散長が多孔質半導体層の厚み寸法を超えてしまうと、それ以上多孔質半導体層の厚みを厚くしても効果がなく、逆に開放電圧が低下し、変換効率が低下する問題がある。
これに対して、本実施の形態に係る色素増感太陽電池10によれば、電解質が集電層として作用する多孔質導電性金属膜18を介して多孔質半導体層16に移動し、多孔質半導体層16内を電子が容易に移動し、また、導電性金属膜18から電解質24への電荷移動抵抗が大きく、逆電子移動が起こりにくいため、多孔質半導体層16の厚みを例えば14μm以上に厚くした場合においても高い変換効率を得ることができる。
多孔質半導体層16の厚みの上限は得られる変換効率の値等に応じて適宜設定されるが、例えば、40μm程度である。
焼成されるTiOの微粒子の粒径は特に限定するものではないが、1nm〜100nm程度が好ましい。
また、多孔質半導体層16の多孔質導電性金属層18に接する部分は多孔質半導体層16の多孔質導電性金属層18に対するカバレッジ率を高めるために例えば粒径が50μm程度の微粒子を用いて比較的粗な層とし、一方、これに積層する多孔質半導体層16側の部分は、粒径が例えば10〜30nm程度の小さな微粒子を用いて多孔性の高い層とする積層構造とすることが好ましい。
【0024】
多孔質半導体層16は、上記の半導体材料が300℃以上、好ましくは350℃以上、さらに好ましくは400℃以上の温度で焼成されたものである。一方、焼成温度の上限は特にないが、多孔質半導体層14の材料の融点よりは十分に低い温度とし、好ましくは550℃以下の温度とする。また、多孔質半導体層16の材料としてチタン酸化物(チタニア)を用いる場合、ルチル結晶に移行しない程度の温度で、チタン酸化物の導電性が高いアナターゼ結晶の状態で焼成することが好ましい。
多孔質半導体層16は、薄層に設けた上記の半導体材料を焼成した後、さらに薄層を設けて焼成する操作を繰り返して所望の厚みとすると、好適である。
多孔質半導体層16は、フレキシブル透明基板12と接触していても、接触していなくてもどちらでもよいが、両者の間隔はなるべく短いほうがよい。
【0025】
多孔質半導体層16に吸着される色素は、400nm〜1000nmの波長に吸収を持つものであり、例えば、ルテニウム色素、フタロシアニン色素などの金属錯体、シアニン色素などの有機色素を挙げることができる。
【0026】
多孔質導電性金属層18は、前記したように成膜法により多孔質絶縁層20に形成される。成膜法は、塗布法やスパッタリング等の薄膜形成方法を用いることができる。塗布法の場合、マスクを用いた印刷法を用いることは、所望の孔をより確実に形成するために好ましい一態様である。
多孔質絶縁層20に薄膜に形成される多孔質導電性金属層18は、多孔質絶縁層20の孔に対応して多孔質である。形成される孔は、前記したように凹部状のものではなく、層の両表面に連通するものをいう。孔は、貫通孔であってもよく、また多孔質導電性金属層18の内部の連結孔であってもよく、さらにまたこれら貫通孔および連結孔が複合したものであってもよい。
多孔質導電性金属層18の材料は、適度の導電性を有するものである限り耐熱性の条件を特に限定するものではないが、透明基板12としてフレキシブル透明基板を用いおよび導電性基板14としてフレキシブル導電性基板を用いる場合は、多孔質導電性金属層18の材料として、多孔質半導体層16の焼成温度以上の耐熱性を有するものであって、好ましくは350℃以上の融点を有し、さらに好ましくは400℃以上の融点を有するものを用いる。
多孔質導電性金属層18の材料は、Ti、W、Ni、PtおよびAuからなる群から選ばれる1種または2種以上の金属材料またはこれらの化合物であると、電解質中の電荷輸送イオンとして用いられるヨウ素に対する耐食性の良好な導電性金属層を得ることができて好ましい。このとき、これらの金属材料の微粒子が凝集あるいは焼結して得られる多孔質導電性金属層18は、微粒子間に連結孔を有する。
導電性金属層18の厚みは、100μm以下、好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下であり、少なくとも0.3μm以上である。導電性金属層18の厚みが100μmを大きく超えると、導電性金属層の内部を通過する電解質の拡散抵抗が大きすぎて、電解質の移動が阻害されるおそれがある。一方、導電性金属層18の厚みが0.3μmよりもさらに小さいと、電気抵抗が増加して電極として適当でない。このように厚みの小さい多孔質導電性金属層18は、多孔質絶縁層20に成膜する方法で好適にかつ容易に実現することができ、また、このとき、多孔質絶縁層20が支持体としての役割を果たすことで、多孔質導電性金属層18は厚みを小さくしても剛性を確保することができる。
【0027】
多孔質絶縁層20の孔の形態は、多孔質絶縁層20を貫通する貫通孔および多孔質絶縁層20内部の連結孔のいずれであってもよく、また貫通孔および連結孔が複合したものであってもよい。貫通孔の場合、開口率は例えば30%以上程度あればよい。
また、多孔質絶縁層20は、多孔質導電性金属層18の場合と同様に、電解質の拡散抵抗の増加を軽減する観点から、上記のように適度の多孔質であるとともに薄膜に形成される多孔質導電性金属層18の支持体として一定程度の剛性を確保できる限度で厚みが薄いことが望ましい。
このような、多孔質性と薄い厚みで剛性を得ることができるものである限り、多孔質絶縁層20は、非晶質でも結晶質でも良く、例えばアルミ陽極酸化膜、アルミナ繊維成形体等の適宜の材料を用いることができるが、ガラス繊維成形体であるとより好ましい。
多孔質絶縁層20の材料は、多孔質導電性金属層18と同様に、耐熱性の条件を特に限定するものではないが、透明基板12としてフレキシブル透明基板を用いおよび導電性基板14としてフレキシブル導電性基板を用いる場合は、多孔質絶縁層20の材料として、多孔質半導体層16の焼成温度以上の耐熱性を有するものであって、好ましくは350℃以上の融点を有し、さらに好ましくは400℃以上の融点を有するものを用いる。また、多孔質絶縁層20の材料は、電解質の溶媒やヨウ素に対して耐薬品性があるものが好ましい。このような性質を有するものであって、かつ十分な開口を有するものとして、多孔質絶縁層20の材料として上記のガラス繊維成形体を用いることが好ましい。ガラス繊維成形体は、ガラス繊維を織ったガラスクロス、ガラス繊維を適宜の手段で結合させたシートであるガラス不織布、またはガラス繊維を漉いて紙状にしたガラスペーパー(不織布の一部の態様のものはガラスペーパーに含まれる。)等を用いることができる。なお、このとき、多孔質絶縁層20および多孔質導電性金属層18を貫通する貫通孔を機械加工等の適宜の方法で形成することも好ましい態様である。
これらのガラス繊維成形体は、交差する繊維間に例えば1μm〜1mm程度のいわば目開きがあり、ガラス繊維成形体の内部で連結孔を有する。そして、ガラス繊維成形体に成膜する多孔質導電性金属層18は、ガラス繊維上に薄膜に形成される(図4参照)。
多孔質絶縁層20の厚みは、電解質の拡散抵抗の増加を来たすものでない限り特に限定するものではない。ただし、電解質の拡散性および色素増感太陽電池のフレキシブル性を十分に確保するという観点で、好ましくは、厚みは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。また、材料に応じて剛性が確保できるものである限り、厚みの下限は特になく、例えば1μm程度とすることができる。
【0028】
電解質24は、ヨウ素、リチウムイオン、イオン液体、t-ブチルピリジン等を含むものであり、例えばヨウ素の場合、ヨウ化物イオンおよびヨウ素の組み合わせからなる酸化還元体を用いることができる。酸化還元体は、これを溶解可能な適宜の溶媒を含む。電解質の注入方法は特に限定されないが、封止材の一部をシールせずに開口部にしておき、その開口部から電解質を注入し、開口部をシールすることもできる。また、フレキシブル導電性基板14の一部に予め開口部を設けておき、そこから電解質を注入した後に開口部をシールすることもできる。
【0029】
以上説明した構造を有する本実施の形態に係る色素増感太陽電池10は、アノード極となる多孔質導電性金属層18が多孔質絶縁層20に成膜されたものであるので、集電電極として金網等を用いる技術に比べて、色素増感太陽電池の作製作業の煩雑さが少なく、集電電極の厚みを望ましい薄さに形成することができる。また、導電性金属層18の厚みが0.3μm〜100μmと小さいので、電解質が金網等を介して多孔質半導体層に移動する際のように拡散抵抗が大きくなって光電変換効率の低下を来たすおそれがない。
また、本実施の形態に係る色素増感太陽電池10は、透明基板12としてフレキシブル透明基板を用いおよび導電性基板14としてフレキシブル導電性基板を用いる場合において、多孔質導電性金属層18および多孔質絶縁層20を多孔質半導体層16の焼成温度以上の耐熱性を有する材料で形成するので、色素増感太陽電池10を屈曲させて使用する際に、多孔質絶縁層20が介在することにより、多孔質導電性金属層18が導電性基板14と接触して短絡を生じるおそれがない。また、多孔質半導体層16を多孔質導電性金属層18の上に形成して焼成した後に透明基板12と接合することにより、多孔質半導体層16の焼成不足に起因する不都合を生じるおそれがない。
【0030】
つぎに、上記本実施の形態に係る色素増感太陽電池10の製造方法として好適な本実施の形態に係る色素増感太陽電池の製造方法について説明する。なお、各図において、各構成要素については図1で対応するものと同一の参照符号を付す。
【0031】
まず、本実施の形態の第一の例に係る色素増感太陽電池の製造方法について、図2A図2Cを参照して説明する。
【0032】
本実施の形態の第一の例に係る色素増感太陽電池の製造方法は、多孔質絶縁層20の上にアノード極となる厚みが0.3μm〜100μmの多孔質導電性金属層18を設ける工程(工程2A 図2Aおよび図2B参照)と、多孔質絶縁層20に対向してカソード極とされる導電性基板14を設ける工程(工程2B 図2C参照)と、多孔質導電性金属層18に接して多孔質半導体層16を設ける工程(工程2C 図2C参照)を有する。
【0033】
工程2Aでは、多孔質絶縁層20は例えば予め調製したガラスクロス等の所望の開口率を有するものを用いる。このとき、ガラスクロス等に必要に応じて機械加工等の適宜の方法で貫通孔を合わせて形成してもよい。
多孔質絶縁層20の上に設ける多孔質導電性金属層18は、塗布法や薄膜形成法によって厚みが0.3μm〜100μmの薄膜に形成する(図2B参照)。前者の塗布法の場合、多孔質絶縁層20の上に多孔質導電性金属層18の材料である金属粒子のペーストを印刷し、加熱、乾燥し、さらに焼成する。このとき、マスクを用いて開口を形成してもよい。一方、後者の薄膜形成法の場合、例えばスパッタリングにより多孔質絶縁層18を形成する。また、このとき、多孔質絶縁層20および多孔質導電性金属層18に必要に応じて機械加工等の適宜の方法で貫通孔を合わせて形成してもよい。
工程2Bは、工程2Aに引き続いて行ってもよく、また、例えば工程2Cの後や、さらには透明基板12を形成した後に最終工程として行ってもよい。
工程2Cにおいて、多孔質半導体層16は、透明基板12の上に設けてもよく、また、多孔質導電性金属層18の上に設けてもよい。多孔質半導体層16は、TiO等の微粒子のペーストで薄膜を形成した後に焼成する操作を繰り返して所望の厚みの膜にすると好ましい。また、多孔質半導体層16は、多孔質導電性金属層18に接する部分は相対的に大きな粒径の微粒子を用いて比較的粗な層とし、一方、これに積層する透明基板12側の部分は、相対的に小さな粒径の微粒子を用いて多孔性の高い層とする積層構造とすることが好ましい。
焼成して得られる多孔質半導体層16を構成する微粒子の表面に、色素を吸着する。吸着の方法は、例えば、多孔質半導体層16を形成し、多孔質導電性金属層18の設けられた多孔質絶縁層20を色素溶液に浸し微粒子表面に色素を化学吸着させるいわゆる含浸法によって行うことができる。
【0034】
工程2Cにおいて、透明基板12の上に多孔質半導体層16を設ける場合、透明基板12の上に塗布法等により設ける多孔質半導体層16の材料であるペーストを焼成することで多孔質半導体層16を形成し、その後、多孔質半導体層16の側を多孔質導電性金属層18の側に向けて透明基板12と多孔質絶縁層20を接合する。一方、多孔質導電性金属層18の上に多孔質半導体層16を設ける場合、多孔質導電性金属層18の上に多孔質半導体層16の材料であるペーストを設け(図3C参照)、ペーストおよび多孔質導電性金属層18の設けられた多孔質絶縁層20を加熱して、ペーストを焼成することで多孔質半導体層16を形成し、多孔質半導体層16の側を向けて多孔質絶縁層20に透明基板12を対向配置する。
【0035】
これらの各層(各部材)が、スペーサ22で封止され、電解質24が注入されることで色素増感太陽電池が完成する。
【0036】
本実施の形態の第一の例に係る色素増感太陽電池の製造方法により、集電電極の厚みが望ましい薄さである本実施の形態に係る色素増感太陽電池を好適に得ることができる。すなわち、集電電極として金網等を用いる技術に比べて、作製作業の煩雑さが少なく、集電電極の厚みを望ましい薄さに形成した色素増感太陽電池を得ることができる。また、導電性金属層18の厚みが0.3μm〜100μmと小さいので、電解質が金網等を介して多孔質半導体層に移動する際のように拡散抵抗が大きくなって光電変換効率の低下を来たすおそれがない色素増感太陽電池を得ることができる。
【0037】
つぎに、本実施の形態の第二の例に係る色素増感太陽電池の製造方法について、図3A図3Dを参照して説明する。
【0038】
本実施の形態の第二の例に係る色素増感太陽電池の製造方法は、多孔質絶縁層20の上にアノード極となる厚みが0.3μm〜100μmの多孔質導電性金属層18を設ける工程(工程3A 図3Aおよび図3B参照)と、多孔質導電性金属層18の上に多孔質半導体層の材料であるペーストを設ける工程(工程3B 図3C参照)と、ペーストおよび多孔質導電性金属層18の設けられた多孔質絶縁層20を加熱して、ペーストを焼成することで多孔質半導体層16を形成する工程(工程3C 図3C参照)と、多孔質半導体層16の側を向けて多孔質絶縁層20にフレキシブル透明基板12を対向配置する工程(工程3D 図3D参照)と、多孔質半導体層16の側を外にして多孔質絶縁層20にカソード極となるフレキシブル導電性基板14を対向配置する工程(工程3E 図3D参照)と、を有する。ここで、工程3Dおよび工程3Eは、工程3Cの後に順次行われてもよいが、工程3Cの後に工程3Eを行い、その後に工程3Dを行ってもよい。
【0039】
工程3Aでは、第一の例の工程2Aの場合と同様にして、多孔質絶縁層20および多孔質導電性金属層18を形成する。
工程3Bでは、第一の例の工程3Bの場合と同様にして、塗布法等の適宜の方法により、多孔質導電性金属層18の上に多孔質半導体層16の材料であるペーストを設ける。
工程3Cでは、ペーストおよび多孔質導電性金属層18の設けられた多孔質絶縁層20を加熱して、ペーストを300℃以上の温度で焼成する。この段階では、フレキシブル透明基板12およびフレキシブル導電性基板14のいずれも形成されていないため、多孔質導電性金属層18の設けられた多孔質絶縁層20の融点を下回るものである限り、加熱、焼成温度には制限がない。焼成して得られる多孔質半導体層16を構成する微粒子の表面に、色素を吸着する。
これにより、十分に焼成された多孔質半導体層16を得ることができる(以上、図3C参照)。
工程3Dでは、多孔質半導体層16の側を樹脂シート等からなるフレキシブル透明基板12に向けて多孔質絶縁層20にフレキシブル透明基板12を対向配置する。すなわち、多孔質半導体層16がフレキシブル透明基板12に接し、あるいは近接するように、多孔質半導体層16および多孔質導電性金属層18の設けられた多孔質絶縁層20とフレキシブル透明基板12を配置する(図3D参照)。
工程3Eでは、多孔質半導体層16の側を外にして多孔質絶縁層20に樹脂シート等からなるフレキシブル導電性基板14を対向配置する。多孔質絶縁層20とフレキシブル導電性基板14は、両者の間に適量の電解質24を注入できる限り、適宜近接して設けてもよい。
これらの各層(各部材)が、スペーサ22で封止され、電解質24が注入されることで色素増感太陽電池が完成する。
【0040】
本実施の形態の第二の例に係る色素増感太陽電池の製造方法により、フレキシブル基板を用いた本実施の形態に係る色素増感太陽電池を好適に得ることができる。すなわち、屈曲させて使用する際に、多孔質絶縁層が介在することにより、多孔質導電性金属層が導電性基板と接触して短絡を生じるおそれがない色素増感太陽電池を得ることができる。また、多孔質半導体層の焼成不足に起因する不都合を生じるおそれがない色素増感太陽電池を得ることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例について説明する。本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
Ti粒子(大阪チタニウム社製)とターピネオールとエチルセルロースを主成分とするECビヒクル(日新化成株式会社製EC-200FTD)を混合し、Ti粒子のペーストを作製した。厚み15μm、直径約8μmのガラス繊維からなるガラスクロス(旭化成イーマテリアルズ株式会社製 空隙率45%)の20mm×25mmの範囲に上記作製したTi粒子ペーストをスクリーン印刷し、乾燥後、400℃で1時間Ar雰囲気下で焼成し、ガラスクロスの片面に約20μmの厚みのTi粒子層を形成し、Ti粒子シート基板を得た。Ti粒子層を形成し、Ti粒子シート基板のSEM写真を図4に示す。
Ti粒子シート基板の焼成後のTi粒子層の上の5mm×20mmの範囲にチタニアペースト(商品名NanoxideD、ソーラロニクス社製)を印刷し、乾燥後、400℃で30分空気中で焼成した。焼成後のチタニア上に、さらにチタニアペーストを印刷、焼成する操作を合計4回繰り返し、Ti粒子層の片面に12μmの厚みのチタニア層を形成した。
N719色素(ソーラロニクス社製)のアセトニトリルとt-ブチルアルコールの混合溶媒溶液に、作製したチタニア層付きTi粒子シート基板を70時間含浸させ、チタニア表面に色素を吸着した。吸着後の基板(チタニア層付きTi粒子シート基板)はアセトニトリルとt-ブチルアルコールの混合溶媒で洗浄した。
厚み125μmのポリエチレンナフタレート(PEN)からなる透明樹脂シートと色素吸着した基板の色素吸着チタニア層側が向き合うように、厚み60μmの半硬化樹脂シート(SX1170-60、ソーラロニクス社製)を挟んで、115℃で接着して積層し、積層板を得た。その際、半硬化樹脂シートはチタニア層に接触しないよう、チタニア層を囲むように配置し、また、後に電解液が注入できるように約1mm程度の隙間を2ヶ所設けた。
厚み125μmのPENからなる透明樹脂シートの片面に透明導電膜であるITOが積層してある透明導電膜付き透明樹脂シートのITO側に、約40nmの厚みのPtをスパッタの手法で積層したシートのPt側が上記の積層板のガラスクロス側と向き合うように、上記半硬化樹脂シートを挟んで積層板に透明樹脂シートを積層し、115℃で接着した。
約1mmの隙間からヨウ素、LiIからなるアセトニトリル溶媒の電解液を注入して、有効平面寸法(電池として機能する領域の平面寸法)が5mm×20mmで厚みが約0.4mmの色素増感太陽電池を作製した。
得られた色素増感太陽電池の光電変換性能を、100mW/cm2の強度の疑似太陽光(山下電装社製擬似太陽光装置使用)を透明樹脂シート側から照射したときのIV曲線を測定して調べた。光電変換効率は4.4%であった。
なお、上記色素増感太陽電池を長手方向中央でR(曲率半径)=15mmに折り曲げた状態とし、上記条件でIV曲線を測定したところ、色素増感太陽電池の光電変換効率は4.4%であった。
【0043】
(実施例2)
ガラスクロスの代わりに、直径1〜5μmのガラス繊維からなる厚み50μmの不織布であるガラスペーパー(空隙率90%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で色素増感太陽電池を作製した。
得られた色素増感太陽電池の光電変換効率は4.1%であった。
なお、上記色素増感太陽電池を長手方向中央でR(曲率半径)=15mmに折り曲げた状態とし、上記条件でIV曲線を測定したところ、色素増感太陽電池の光電変換効率は4.1%であった。
【0044】
(実施例3)
厚み15μmのガラスクロスの20mm×25mmの範囲にマスクを用いてスパッタリングする手法で厚み400nmのTi膜を形成した。
形成したTi膜の上の5mm×20mmの範囲にチタニアペースト(商品名NanoxideD、ソーラロニクス社製)を印刷し、乾燥後、400℃で30分空気中で焼成した。以降、実施例1と同様の方法で色素増感太陽電池を作製した。
約1mmの隙間からヨウ素、LiIからなるアセトニトリル溶媒の電解液を注入して色素増感太陽電池を作製した。
得られた色素増感太陽電池の光電変換効率は3.8%であった。
なお、上記色素増感太陽電池を長手方向中央でR(曲率半径)=15mmに折り曲げた状態とし、上記条件でIV曲線を測定したところ、色素増感太陽電池の光電変換効率は3.8%であった。
【0045】
(比較例1)
厚み125μmのPENからなる透明樹脂シートの片面に透明導電膜であるITOが積層してある透明導電膜付き透明樹脂シートのITO側の5mm×20mmの範囲に、チタニアペースト(商品名NanoxideD、ソーラロニクス社製)を印刷し、乾燥後、150℃で30分空気中で焼成した。焼成後のチタニア上に、さらにチタニアペーストを印刷、焼成する操作を合計4回繰り返し、透明導電膜付き透明樹脂シートの片面に12μmの厚みのチタニア層を形成した。
N719色素(ソーラロニクス社製)のアセトニトリルとt-ブチルアルコールの混合溶媒溶液に、作製したチタニア層付きシート基板を70時間含浸させ、チタニア表面に色素を吸着した。吸着後の基板はアセトニトリルとt-ブチルアルコールの混合溶媒で洗浄した。
チタニア層付きシート基板のチタニア側と、厚み125μmのPENからなる透明樹脂シートの片面に透明導電膜であるITOが積層してある透明導電膜付き透明樹脂シートのITO側に、約40nmの厚みのPtをスパッタの手法で積層したシートのPt側が向き合うように、厚み60μmの半硬化樹脂シート(SX1170-60、ソーラロニクス社製)を挟んで積層し、115℃で接着した。その際、半硬化樹脂シートはチタニア層に接触しないよう、チタニア層を囲むように配置し、また、後に電解液が注入できるように約1mm程度の隙間を2ヶ所設けた。
得られた色素増感太陽電池の光電変換効率は0.1%であった。
【0046】
(参考例1)
約20μmの厚みのTi粒子層に換えてガラスクロスの片面に約150μmの厚みのTi粒子層を形成したほかは、実施例1と同様に色素増感太陽電池を作製した。
得られた色素増感太陽電池の光電変換効率は2.1%であった。
【0047】
(参考例2)
厚み400nmのTi膜に換えて厚み200nmの厚みのTi膜を作製したほかは、実施例3と同様に色素増感太陽電池を作製した。
得られた色素増感太陽電池の光電変換効率は0.1%であった。
【0048】
(参考例3)
厚み15μmのガラスクロスに換えて厚み200μmのガラスクロスを使用したほかは、実施例1と同様に色素増感太陽電池を作製した。
得られた色素増感太陽電池の光電変換効率は3.3%であった。
なお、上記色素増感太陽電池をR(曲率半径)=15mmに折り曲げた状態とし、上記条件でIV曲線を測定したところ、色素増感太陽電池の光電変換効率は1.7%であった。また、色素増感太陽電池の外観を確認したところ、電解液の漏れが確認された。
【0049】
(参考例4)
厚み15μmのガラスクロスに換えて厚み500μmのガラスクロスを使用したほかは、実施例1と同様に色素増感太陽電池を作製した。
得られた色素増感太陽電池の光電変換効率は2.8%であった。
なお、上記色素増感太陽電池を長手方向中央でR(曲率半径)=15mmに折り曲げた状態とし、上記条件でIV曲線を測定したところ、色素増感太陽電池の光電変換効率は1.5%であった。また、色素増感太陽電池の外観を確認したところ、電解液の漏れが確認された。
【符号の説明】
【0050】
10 色素増感太陽電池
12 透明基板
14 導電性基板
16 多孔質半導体層
18 多孔質導電性金属層
20 多孔質絶縁層
22 封止材
24 電解質
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図4