【実施例】
【0018】
以下に実施例を示すが、本発明は実施例に記載された例に限られるものではない。
実施例1:オートタキシン測定試薬の調製
水不溶性担体(内部にフェライトを練り込んだ粒子径約1.5mmのエチレンビニルアルコール)に抗ヒトオートタキシンモノクローナル抗体(R10.23)を100ng/担体になるように37℃にて一昼夜物理的に吸着させ、その後1%BSAを含む100mMトリス緩衝液(pH8.0)にて40℃、4時間ブロッキングを行ない抗体固定化担体とした。抗ヒトオートタキシンモノクローナル抗体(R10.21)をペプシン処理によりF(ab)2化した後、SPDP(N-スクシニミジル3-[2-ピリジルジチオ]プロピオネート)を用いアルカリ性ホスファターゼと結合させ酵素標識抗体とした。磁力透過性の容器(容量1.2mL)に12個の抗体固定化担体を入れた後、1μg/mLの標識抗体を含む緩衝液(3%BSAを含むトリス緩衝液、pH8.0)50μLを容器に添加し凍結乾燥を施しオートタキシン測定試薬とした。オートタキシン測定試薬は窒素充填下密閉封印シールを施し測定まで4℃にて保管した。
【0019】
実施例2:ヒトオートタキシン標準品の調製
抗ヒトオートタキシンモノクローナル抗体(R10.23)を用い抗体固定化担体を作製し、抗原を精製し、ならびにヒト血清から抗原の除去を行なったヒトオートタキシンゼロ血清の調製を行った。これらを材料として用いヒトオートタキシン免疫測定に用いる標準品(ヒトオートタキシン既知濃度サンプル)の調製を行った。具体的にはR10.23をHiTrap NHS−活性化5mLカラム(GEヘルスサイエンス,Cat.No.17−0717−01)に対し25mgの抗体をマニュアルに従い結合させた。本R10.23結合カラムを用い、0.8μmのフィルターにより不純物を除去したヒト血清200mLを1mL/minの流速で送液しカラム素通り画分を回収した。本素通り画分中のヒトオートタキシンは実施例1記載の測定試薬にて反応性を示さないことを確認した。本品を標準品作製用のベース血清とし、さらに、ゼロ濃度標準品とした。精製抗原の調製は昆虫細胞・バキュロウイルス系で発現させた全長ヒトオートタキシンを材料として用いて行った。培養上清1LをR10.23結合カラムに流速1mL/minの流速にて送液し、続いてPBSにより未結合蛋白質の洗浄を行った。カラムを通過したPBSの280nmの吸光度が0.01以下になったことを確認し、続いて100mMグリシン緩衝液pH3.5を用い結合蛋白質を溶出させた。溶出液は1/10容量の1M−Tris pH8.0を添加することにより中性に戻した後、TBSにより速やかに透析処理を行なった。精製全長ヒトオートタキシンをBCA蛋白定量キット(Pierce Bioctechnology,Inc.,Cat.No.23225)により濃度測定した。本精製ヒトオートタキシン抗原を上記ヒトオートタキシン除去ヒト血清に添加し、既知濃度標準品を調製した。
【0020】
実施例3:オートタキシン測定試薬の評価
実施例1にて作製したオートタキシン測定試薬を用い、実施例2で作製した標準品を用い試薬性能評価を実施した。評価用装置として全自動エンザイムイムノアッセイ装置 AIA-1800(東ソー株式会社製:製造販売届出番号13B3X90002000002)を用いた。標準品濃度は0、0.313、0.625、1.25、2.5及び5.0μg/mLの6濃度標準品を使用した。全自動エンザイムイムノアッセイ装置 AIA-1800を用いた測定では、標準品あるいはヒト血清検体20μLと界面活性剤を含む希釈液130μLが、実施例1で作製したオートタキシン測定試薬容器に自動で分注される。37℃恒温下10分間の抗原抗体反応を経て、界面活性剤を含む緩衝液にて8回の洗浄を行った後、4−メチルウンベリフェリルリン酸塩を添加し、単位時間当たりの4−メチルウンベリフェロン生成濃度をもって測定値(nmol/L・sec)とする。標準品測定時の測定値を表1に、そしてそれを用いた検量線を
図1に示す。また、本検量線およびゼロ濃度標準品の(平均値+2×標準偏差)より算出した最小検出感度は110ng/mLであった。
【0021】
【表1】
【0022】
実施例4:オートタキシン測定試薬の再現性試験
オートタキシン測定試薬で得られる結果の再現性を検証するため、実施例3で作成した検量線を用いてコントロール検体3例について再現性試験を実施した。同時再現性試験では、検体を10重測定し変動係数(%CV:coefficient variation = 標準偏差/平均値×100)を算出し、その結果を表2に示す。また、日差再現性試験では、数日おきに検体を測定し0日目測定値からの変動ならびに全測定値の変動係数を算出し、その結果を表3に示す。
【0023】
【表2】
【0024】
【表3】
【0025】
いずれの変動係数も10%以下を示しており、オートタキシン測定試薬にて得られる結果は信頼しうるものであることが証明された。
【0026】
実施例5:非妊娠健常者ならびに正常妊娠経過を経た妊婦検体の測定
全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA−600II(医療用具許可番号35BZ0019号)を使用し、非妊娠健常者46例、妊娠被験者検体40検体の測定を実施した。各妊娠被験者からは、妊娠9カ月を3分割した、第一期(first trimester、妊娠から第14週まで)、第二期(second trimester、第14週から第28週まで)、第三期(third or last trimester、第28週から出産まで)、出産後検体として最大1件を対象とした。非妊娠健常者オートタキシン濃度平均0.852μg/mL(標準偏差0.184μg/mL、最小値0.621μg/mL、最大値1.590μg/mL)に対し、第一期、第二期、第三期の妊娠被験者のオートタキシン濃度は、Mann−Whitney有意差検定試験において、各々P=0.0001、P<0.0001、P<0.0001と非常に強い有意差を示し、妊娠の判断が可能であることを示している(
図2)。また、出産後(after delivery)におけるオートタキシン濃度は、速やかに非妊娠健常者濃度に収束していることも示された。本試験の実施により得られた測定値と妊娠からの経過日の相関性を検証した結果、オートタキシン濃度は妊娠からの経過日数に比例し、相関係数0.829と良好な相関性を示した(
図3)。
【0027】
実施例6:妊娠高血圧症候群患者検体の測定
実施例5と同様の方法にて妊娠高血圧症候群患者検体23検体のオートタキシン濃度を測定した。実施例5同様、各妊娠被験者からは第一期、第二期、第三期、出産後検体として最大1件を対象とした。妊娠高血圧症候群患者検体は、非妊娠健常者に対し、第一期、第二期、第三期において、Mann−Whitney有意差検定試験において各々P=0.0009、P=0.0349、P<0.001と第二期を除き非常に強い有意差を示した(
図4)。また、出産後(after delivery)において速やかにオートタキシン濃度の低下が認められた(検体数が少ないため参考値)。本試験の実施により得られた測定値と妊娠からの経過日の相関性を検証した結果、オートタキシン濃度は妊娠からの経過日数に比例し、相関係数0.769と良好な相関性を示した(
図5)。正常妊娠被験者および妊娠高血圧症候群患者の相関性を比較すると、相関の傾きが各々0.01585、0.009315と、妊娠高血圧症候群では妊娠経過に伴うオートタキシン濃度の上昇が低いことが示された(
図6)。
【0028】
実施例7:オートタキシン濃度による妊娠高血圧症候群の判断
各妊娠周期(第一期、第二期、第三期)における正常妊娠被験者、妊娠高血圧症候群患者のオートタキシン濃度、オートタキシン濃度/週数、オートタキシン濃度/日数を各々比較し、Mann−Whitneyによる有意差検定を実施した。その結果、正常妊娠被験者、妊娠高血圧症候群患者間において、妊娠第一期では、オートタキシン濃度、オートタキシン濃度/週数、オートタキシン濃度/日数での有意差は各々p=0.1812、p=0.0426、p=0.0426と、オートタキシン濃度では有意差が認められなかったものの、オートタキシン濃度/週数、オートタキシン濃度/日数において有意差が認められ、妊娠早期での妊娠高血圧症候群の判断の可能性を示した(
図7)。妊娠第二期においての有意差は各々p=0.8084、p=0.7160、p=0.7160と、いずれにおいても有意差が認めらなかった(
図8)。妊娠第三期においての有意差は各々p=0.0147、p=0.0229、p=0.0284と、いずれにおいても有意差が認められた(
図9)。妊娠第一期における正常妊娠被験者、妊娠高血圧症候群患者のオートタキシン濃度、オートタキシン濃度/日数を用いたROC曲線(受信者動作特性曲線)分析の結果、AUC(Area Under Curve)は各々0.729、0.833、感度は各々37.5%、100%、特異性は各々100%、66.7%であり、オートタキシン濃度/日数による妊娠高血圧症候群の判断が可能な結果を得た(
図10)。
【0029】
実施例8:妊娠週令に伴うオートタキシン濃度変動と妊娠高血圧症候群の判断
妊娠第一期および第三期の正常妊娠を経た妊婦5検体、妊娠高血圧症候群の妊婦5検体、ならびに妊娠第二期および第三期の正常妊娠を経た妊婦2検体、妊娠高血圧症候群の妊婦2検体のオートタキシン濃度の変動を検討した。正常妊娠、妊娠高血圧症候群での第一期から第三期でのオートタキシン濃度変動は、正常妊娠での濃度上昇に比較し妊娠高血圧症候群で濃度上昇が低いことが示された(
図11)。同様に正常妊娠、妊娠高血圧症候群での第二期から第三期でのオートタキシン濃度変動においても、正常妊娠での濃度上昇に比較し妊娠高血圧症候群で濃度上昇が低いことが示された(
図12)。オートタキシン濃度変動を妊娠週令で除した値[(第三期オートタキシン濃度−第一期もしくは第二期オートタキシン濃度)/(第三期妊娠週令日数−第一期もしくは第二期週令日数)]を正常妊娠、妊娠高血圧症候群で比較した結果、第一期から第三期での変動比(Slope)は、各々0.0278mg/L/day、0.0076mg/L/dayであり、Mann−Whitneyによる検定でp=0.0159と強い有意差を示した。第二期から第三期においては、正常妊娠、妊娠高血圧症候群間で例数2であり、統計上の有意差検定はできないものの変動比の差は大きいことが示された(
図13)。
【0030】
実施例9:早産におけるオートタキシン濃度の検証
実施例5と同様の方法にて早産被験者14検体のオートタキシン濃度を測定した。各妊娠周期(第二期、第三期)における正常妊娠被験者、早産被験者のオートタキシン濃度、オートタキシン濃度/週数、オートタキシン濃度/日数を各々比較し、Mann−Whitneyによる有意差検定を実施した。その結果、いずれの統計解析においても有意差を認めず、早産においては正常妊娠とオートタキシン濃度変動は差がないことが明らかとなった(
図14及び15)。
【0031】
実施例10:胎盤組織におけるオートタキシン発現解析
妊娠高血圧症候群における胎盤発育不良とオートタキシン濃度の正常妊娠に対する低値の因果関係解析のため、胎盤病理組織を用い免疫組織染色によるオートタキシンの発現確認を行った。病理組織は正常妊娠より得られた胎盤組織であり、本組織のパラフィン切片を作製し、キシレン、エタノール、過酸化水素−メタノール−煮沸による脱パラフィン処理を常法に従い実施し、アビジン、ビオチン、ウサギ血清ブロッキングによる処理後、抗オートタキシン抗体による免疫組織染色を実施した。その結果、胎盤組織において絨毛外栄養膜細胞(EVT)細胞質ならびに絨毛性栄養膜細胞細胞質特異的にオートタキシンの特異的発現を確認した(
図16)。本結果は妊娠高血圧症候群における胎盤発育不良と血清オートタキシン濃度の低値化を結びつける一つの証拠である。